説明

蛍光粒子、及び蛍光粒子を用いて生物エンティティを検出する方法

本発明は、蛍光粒子、及び蛍光粒子を用いて生物エンティティを検出する方法を与える。その蛍光粒子は、コア領域とシェル領域とを有する。コア領域はシェル領域により覆われる。コア領域は、少なくとも1つの励起波長に対して、及び少なくとも1つの放出波長に対して、ナノ結晶物質を用いて、蛍光粒子に関する蛍光的挙動を授与する。シェル領域は、コア領域の反射防止コーティングを実現するよう提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光粒子、及び蛍光粒子を用いて生物エンティティを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、蛍光粒子を開示する。蛍光分子といった有機色素が、生物物質をラベル付けするのに使用されてきた。しかしながら、こうした蛍光色素又は蛍光色素分子は、いくつかの欠点を持つ。例えば、蛍光色素は一般に、吸収する波長帯域が狭く(例えば、約30〜50 nm)、放出の波長帯域が広く(例えば、約100 nm)、スペクトルの赤色側で放出のすそ(tail)が広い(例えば、別の100 nm)。こうした蛍光色素の波長特性により、異なる色の蛍光分子を複数用いることができる機能はかなり損なわれる。更に、蛍光は、フォトブリーチングの影響を極度に受けやすい。ナノメータサイズの半導体粒子(ナノ粒子)は、その蛍光特性において、量子閉じ込め効果を表す粒子である。こうした半導体ナノ粒子は、「量子ドット」としても知られる。量子ドットを含むコロイド状粒子は、単一の励起源によって励起されることができ、非常に堅牢で、かなり調整可能なナノエミッタを与える。更に、そのナノ粒子は、有機色素の特性より優れた光学特性を示す。その際立った蛍光特性は、生物的研究における蛍光マーカの使用を劇的に改善させる可能性を量子ドットに与える。量子ドットは、例えば、米国特許出願第2004/0033345 A1号より一般的に知られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、医療用途における光学イメージングに対する関心が高まりつつある。なぜなら、光学イメージングは、かなり安価な装置を用いての高分解能な非侵襲イメージングを期待させるからである。これは、特にガン治療の病期診断(staging)には非常に有益な手法であるように思われる。また、量子ドットを有する蛍光粒子が、非常に関連性(relevance)があるという利点もある。例えば、知られた有機色素に対する利点として、ナノ粒子の量子はフォトブリーチしない、即ち、照射下においても劣化しないことがあげられる。このことは、一部が長時間照射されるような3Dイメージングにおいては非常に重要である。更に、それらは、大きな吸収断面を持ち、そのことが、量子ドットを色素より明るくする。更に、それらは長い蛍光持続時間を持ち、それは、時間ゲート・イメージングによる量子ドット放出に関する類似する蛍光を分離することを可能にする。しかしながら、こうした研究の大部分は、CdSe(カドミウムセレン)といった、Cd(カドミウム)ベースの量子ドットに集中している。これらは有害な物質であり、人間への適用が認められる見込みはない。既知の蛍光量子ドット粒子の更なる欠点は、量子ドットの励起放射線及び/又は放出放射線の反射が、蛍光特性におけるかなりの損失をもたらすことである。これは、例えば生物医学用途における造影剤といった量子ドット蛍光粒子を用いる可能性を非常に制限する。
【0004】
従って、本発明の目的は、蛍光粒子、造影剤、蛍光粒子を用いて生物エンティティを検出する方法、及び蛍光粒子の蛍光特性が強調されるような態様での蛍光粒子の造影剤としての使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、コア領域とシェル領域とを有する蛍光粒子であって、上記コア領域が、上記シェル領域により覆われ、上記コア領域は、少なくとも1つの励起波長に対して、及び少なくとも1つの放出波長に対して、ナノ結晶物質を用いて上記蛍光粒子に関する蛍光的挙動を授与し、上記シェル領域が、上記コア領域の反射防止コーティングを実現するよう与えられる、蛍光粒子により達成される。
【0006】
これは、励起放射線エネルギーのより高い割合が、放出放射線として利用可能になる可能性が高いという利点を持つ。これは、放出を非常に改善し、反射損失を減らす。
【0007】
本発明によれば、上記コア領域が、非カドミウムベースのナノ結晶物質を用いて実現される量子ドット構造として与えられること、及び/又は上記コア領域が、無害なナノ結晶物質を用いて実現される量子ドット構造として与えられることが非常に好ましい。これは、例えば造影剤として体内で使用されることができる量子ドット物質としてある物質を与えることを可能にする。
【0008】
更に、本発明によれば、上記コア領域が、インジウムリンベースの物質を用いて実現される量子ドット構造として与えられることが好ましい。コア領域に対する物質としてのインジウムリンは、非常に性能の良い量子ドット蛍光粒子を与えることになる。例えば、コア領域の大きさ、即ち量子ドットの大きさを直径で約7 nm等と賢く選択することができる。それにより、蛍光粒子の励起及び放出周波数、又は励起及び放出波長を調整することもできる。
【0009】
本発明によれば、上記励起波長及び上記放出波長が、電磁スペクトルの近赤外線部分で与えられることが非常に好ましい。励起光を与えるコスト効率の良い放射線源、及び例えば体内での医療用途のためのコスト効率の良い放射線検出器を使用することも可能である。
【0010】
本発明によれば、上記励起波長及び上記放出波長が、人間組織の主成分、特に、人間組織の液体及び/又は脂質における最小近赤外吸収のスペクトルウィンドウで与えられることが更に好ましい。非常に好ましくは、上記励起波長及び前記放出波長が、700 nmと800 nmとの間で与えられる。これは、例えば医療用途における造影剤として、又は少なくとも造影剤の一部として、上記蛍光粒子を使用することを可能にする。
【0011】
本発明によれば、上記励起波長が、約720 nmで与えられ、及び/又は上記放出波長は、約780 nmで与えられることが好ましい。これは、人間組織の主成分における最小近赤外線吸収のスペクトルウィンドウ内部でより一層明白な吸収最小を使用することを可能にする。
【0012】
本発明によれば、上記励起波長及び前記放出波長が、およそ60 nm分離れていることが非常に好ましい。これは、簡単な低域フィルタを通して、放出と励起とを容易に区別することを可能にする。このストロークシフトが大きくなればなるほど、放出放射線から励起を区別することが容易になるであろう。更に、励起及び放出波長が非常に離れているため自己吸収が存在しないので、放出及び散乱だけが考慮され、吸収及び再放出が考慮されないこととなり、光学画像の再構成は簡略化される。更に、(従来の染料と比べて)自己吸収がないことが、染料で可能であるよりも高濃度で動作することを可能にする。こうした高濃度は順に、放出放射線品質の改善へとつながる。改善された放出は、造影剤として、又は造影剤の一部として蛍光粒子を使用する場合に特に重要である。なぜなら、これは、体内のより深くに位置する対象物を画像化することを可能にするからである。
【0013】
本発明によれば、上記シェル領域の厚みが、前記コア領域の周りでほぼ一様に与えられることが非常に好ましい。これは、より好適な励起及び放出挙動を与える。なぜなら、励起及び/又は放出放射線の反射率が好適に制御可能だからである。
【0014】
更に、本発明によれば、上記シェル領域の厚みが、上記コア領域の内側と上記蛍光粒子の外側との間での励起波長の放射線の反射率及び/又は放出波長の放射線の反射率が比較的低くなるよう与えられることが好ましい。蛍光粒子のコア領域への放射線入射及び/又は出射の反射による好ましくない効果はそれによって最小化されることができる。その結果、放出放射線の品質が強調される。
【0015】
本発明によれば、上記シェル領域の厚みが、少なくとも部分的に、上記コア領域の内側と上記蛍光粒子の外側との間での励起波長の放射線の反射率及び/又は放出波長の放射線の反射率が比較的低くなるよう与えられることが好ましい。蛍光粒子のコア領域への入射及び/又は出射放射線の反射による好ましくない効果はそれによって少なくとも部分的に最小化されることができる。その結果、放出放射線の全体の品質が強調される。
【0016】
本発明によれば、上記シェル領域の厚みが、上記コア領域の内側と上記蛍光粒子の外側との間での励起波長の放射線の透過率及び/又は放出波長の放射線の透過率が、上記ナノ結晶物質の所与の第1の屈折率、上記反射防止コーティングの所与の第2の屈折率、及び上記蛍光粒子の環境の所与の第3の屈折率に対する最大透過率を50%小さくしたものより高く、好ましくは25%小さくしたものより高く、もっとも好ましくは10%小さくしたものより高いよう選択されることが更に好ましい。
【0017】
本発明によれば、上記シェル領域が、誘電物質を有すること、及び/又は上記誘電物質が、酸化チタン、及び/又はガリウムリン、及び/又はインジウムガリウムリン、及び/又は他の三元化合物として与えられることが非常に好ましい。これは、コア領域の蛍光的挙動の観点での良い性能が、良好な反射性能、低有害度、水溶性、ラベリング基板を蛍光粒子に容易にバインドさせる可能性を含むシェル領域のすばらしい特性と組み合わせられることができるような、蛍光粒子を与えることを可能にする。
【0018】
本発明は、上述した実施形態による蛍光粒子とラベリング基板とを有する複合体にも関する。本発明は、上述した蛍光粒子を有する造影剤、又は本発明の蛍光粒子とラベリング基板とを有する本発明の複合体を有する造影剤、又は本発明の蛍光粒子と複合体との混合物を有する造影剤にも関する。更に、本発明は、上述の本発明の蛍光粒子の造影剤としての、又は造影剤の一部としての使用にも関する。斯かる造影剤は、放出放射線が高い信号対ノイズ比を持つことができ、イメージング技術における高い光学分解能の可能性を与えるという利点を持つ。
【0019】
本発明は、蛍光粒子を用いて生物エンティティを検出する方法において、上記蛍光粒子が、コア領域とシェル領域とを有し、上記コア領域は、上記シェル領域により覆われ、上記コア領域が、少なくとも1つの励起波長に対して、及び少なくとも1つの放出波長に対して、ナノ結晶物質を用いて、上記蛍光粒子に関する蛍光的挙動を授与し、上記シェル領域は、上記コア領域の反射防止コーティングを実現するよう与えられており、上記方法が、
物理、及び/又は化学、及び/又は生物バインディングを用いて、上記蛍光粒子とラベリング基板との間で複合体を形成するステップと、
上記生物エンティティへの特有のバインディングのため上記ラベリング基板を用いるステップと、
少なくとも上記蛍光粒子と上記ラベリング基板との複合体に上記励起波長の放射線を照射するステップと、
上記蛍光粒子により放出される放射線を用いて、上記生物エンティティを検出するステップとを有する、方法にも関する。これは、本発明による蛍光粒子を用いて、複数の異なる生物アッセイを改善された態様で実行することを可能にする。
【0020】
本発明は、生物医学アッセイ及び/又は体外用途における上記実施形態による蛍光粒子の使用にも関する。本発明の蛍光粒子は、可能性として、いずれの生物医学アッセイ形式又はいずれの体外用途と共に使用されることができることを理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のこれら及び他の特性、特徴及び利点は、例示により本発明の原理を説明する対応図面を併用して、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。説明は、例示のためだけに与えられ、本発明の範囲を限定するものではない。以下に説明される参照図面は、添付された図面を参照するものである。
【0022】
本発明は、特定の実施形態及び図面を参照して説明されることになる。しかし、本発明はそれに限定されるものではない。記載される図面は、概略的なものにすぎず、非限定的なものである。図面において、いくつかの要素の寸法は、誇張される場合があり、明確さのため実際の大きさ通りに描かれてはいない。
【0023】
単一の名詞と共に「a」「an」「the」といった不定及び定冠詞が使用される場合、これは、そうでないことが明示的に述べられる場合を除き、その名詞が複数あることを含む。
【0024】
更に、明細書及び請求項における第1、第2及び第3といった用語は、同様な要素間を区別するのに用いられ、必ずしもシーケンシャルな又は実際の順番を表すものではない。そのように使用される用語は、適切な環境下では入れ替え可能であり、本書に述べられる実施形態は、本書で説明又は図示されるシーケンス以外のシーケンスでも動作可能であることを理解されたい。
【0025】
更に、明細書及び請求項におけるトップ(表面)、ボトム(底面)、オーバー(上)、アンダー(下)等の用語は、説明目的で使用されるものであり、必ずしも相対的な位置を表すものではない。そのように使用されるこれらの用語は、適切な環境下において互いに交換可能であり、本書に述べられる本発明の実施形態は、本書に説明又は図示される方向以外の他の方向で動作可能であることを理解されたい。
【0026】
明細書及び請求項における「comprising(有する)」という用語は、その後に記載される手段に限定されるものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。即ち、その用語は、他の要素又はステップを除外するものではない。従って、「手段A及び手段Bを有するデバイス」という表現の範囲は、要素A及び要素Bのみからなるデバイスに限定されるべきではない。それは、本発明に関して、デバイスの関連要素がAとBとであることを意味するにすぎない。
【0027】
図1は、本発明による蛍光粒子の断面を表す。粒子10は、コア領域20とシェル領域30とを有する。コア領域20は、ナノ結晶物質21を有し、シェル領域30は、誘電物質31を有する。シェル領域30は好ましくは、コア領域20の周りで厚みDを持つ。厚みDは好ましくは、コア領域20の周りでおよそ一定である。
【0028】
図2において、本発明による蛍光粒子10が、励起放射線41と放出放射線51と共に示される。好ましくは、励起放射線41及び放出放射線51の両方に対して、蛍光粒子10は赤外放射線と共に使用される。本発明の蛍光粒子10の本発明によるシェル領域30は特に、蛍光的挙動を持つことができる。
【0029】
図6は、電磁スペクトルの一部に対する人間組織の主成分の吸収特性の例を示す。図6は、電磁スペクトルの赤外線部分を示す。およそ600 nmから900 nmの波長の間で全体の吸収率の最小点が存在することが分かる。特に、励起放射線41と放出放射線51との両方に対して、700 nmから約800 nmの波長の間の吸収ウィンドウを用いることが好ましい。
【0030】
好ましくは、蛍光粒子10のコア領域20は、InP(インジウムリン)を有するナノ結晶物質21で実現される。本発明の好ましい実施形態によれば、ナノ結晶物質21の構造は、放出波長50が約780 nmであるような放出放射線51に適した大きさを持つように選択される。その場合、赤外線スペクトルは、人間の組織の主成分、即ち、水及び/又は脂質に対する最小吸収率を持つ。本発明のこの好ましい実施形態又は本発明の別の実施形態において、コア領域20における蛍光的挙動の励起は有利なことに、約720 nmの励起波長40で作り出されることができる。その場合、図6の吸収ウィンドウの他の吸収最小の位置が突き止められる。本発明によれば、蛍光粒子10のコア領域20に対するナノ結晶物質21としてのインジウムリンの使用は、非常に好ましい。なぜなら、(励起波長40及び/又は放出波長50にとって)人間組織の主成分に対する赤外線スペクトルにおける吸収最小に最適にマッチする可能性があるため、インジウムリンは人間への適用に極めて適しているからである。更に、コア領域20の斯かる選択が、蛍光粒子10のコア領域20のナノ結晶物質21に対して無害な物質を用いることを可能にする。特に、非Cdベースのナノ結晶物質21を用いることができる。これは、例えば、造影剤又は造影剤の一部として、斯かる蛍光粒子10の人間への適用が、国の医薬品局によって一層容易に承認されることになるという利点を持つ。
【0031】
蛍光粒子10のシェル領域30は、誘電物質31を有する。その誘電物質は、コア領域20の反射防止コーティング31を蛍光粒子10に与える。これは、例えばTiO2、GaPといった誘電物質31、又はInGaP2といった他の三元化合物の層を用いて、本発明による蛍光粒子10の光学特性が更に改善されることができることを意味する。これは、反射損失をかなり減らし、反射防止コーティング31がコア領域20の周りに与えられない場合と比べて4倍にまで放出確率を増大させる。シェル領域30の誘電物質31は、コア領域20のナノ結晶物質21の電子バンドギャップエネルギーより高い電子バンドギャップエネルギーを持つ。これは、コア領域20の蛍光的挙動をより有効なものとする。
【0032】
シェル領域30の反射防止コーティング31は、反射を避け、放出を促進するのにも役立つ。第1の近似において、異なる屈折率の物質間のインタフェースでの反射率Rは、以下の式
R = (n - n'/n + n')2
で与えられる。
【0033】
この式で、n及びn'は、インタフェースの一方の側にある2つの物質の個別の屈折率を示す。
【0034】
InPの相対的な屈折率が約3.3であるとすると、空気中での通常の反射率が約30%であることが計算されることができる。例えば、(蛍光粒子10の外側からコア領域20の内側に)励起放射線41が蛍光粒子10に入るとき、及びコア領域20の内部から蛍光粒子10の外部に向かって放出放射線51が出るとき、この効果が2度生じることを考慮すると、反射による損失が、例えば、以下の式

で与えられる。
【0035】
従って、蛍光粒子10のコア領域20の適切に選択された反射防止コーティング31は、コア領域20のナノ結晶物質21の蛍光及び/又は蛍光特性を大幅に改善することになる。
【0036】
図3は、異なる波長に対するInPナノ結晶物質21の例に対する反射率Rの例を与える。光子エネルギー(単位:エレクトロンボルト)が、横座標にプロットされ、反射率が相対的な単位で縦座標Rにプロットされる。
【0037】
実際には、反射防止コーティングの厚みは以下の関係

で与えられ、ここで、

である。
【0038】
ここで、λは波長であり、n1n3は、コア領域20のナノ結晶物質21における第1の屈折率n1と、蛍光粒子10の外部での第3の屈折率n3との積である。例えば、人体における蛍光粒子10の使用は、蛍光粒子10の外部が例えば血液であり、それは、(およそ)第3の屈折率が水のものとして、約n3 = 1.33となることを意味する。これは、観測波長750 nm(励起波長40の例(例えば720 nm)と放出波長50の例(例えば780 nm)との平均)に関して、血液における約600 nm近辺の波長が考慮されるべきであることを意味する。この4分の1は、150 nmである。高誘電物質31(即ち、第2の屈折率n2が比較的高いもの)に対して、例えば、

に対して、これは、コーティングの厚みDが約31 nmであることを意味する。(屈折率n2 = 3.3を持つ)ガリウムリンといった誘電物質31又は(屈折率n2 = 2.5を持つ)TiO2といった誘電物質31を用いることにより、シェル領域30の厚みDは、より大きくなり、例えば、それぞれ95又は110 nmとなる。更に、これらの粒子はなお、医療用途における造影剤としての使用に十分であるほど小さい。もちろん、より高い屈折率又はより高い誘電定数を持つ物質は、より小さいコーティング厚Dを生じさせる。蛍光粒子10のシェル領域30の誘電物質31の厚さDは、(理想的には)ただ1つの波長(励起波長40又は放出波長50)に対してのみ最大まで反射率を減らすよう適合されることができるだけであるので、本発明によれば、励起波長40と放出波長50との間のおよそ中央に位置する平均波長に厚さDを適合させることが好ましい。最適には、シェル領域30の誘電物質31は、第2の屈折率n2がおよそ、第1及び第3の屈折率n1、n3の積の平方根として与えられるよう選択される。シェル領域30は、実現可能な他の機能も持つので(例えば、機械的レジスタンス、その蛍光粒子に接続されることになる他の分子に対するバインディング場所を与えること等)、反射率Rの最適な削減(即ち、シェル領域30を通る透過率の最適な度合い)が、常に完全に達成されることができるわけではないことは明らかである。にも関わらず、本発明によれば、コア領域20の内側と蛍光粒子10の外側との間での励起放射線41の透過率及び/又は放出放射線51の透過率は、所与の厚みDと所与の第1、第2及び第3の屈折率n1、n2、n3の下での理論的な最大透過率を50%小さくしたものより上である(higher than 50% below)。好ましくは、コア領域20の内側と蛍光粒子10の外側との間での励起放射線41の透過率及び/又は放出放射線51の透過率は、所与の厚みDと所与の第1、第2及び第3の屈折率n1、n2、n3の下での理論的な最大透過率を25%小さくしたものより上である(higher than 25% below)。最も好ましくは、コア領域20の内側と蛍光粒子10の外側との間での励起放射線41の透過率及び/又は放出放射線51の透過率は、所与の厚みDと所与の第1、第2及び第3の屈折率n1、n2、n3の下での理論的な最大透過率を10%小さくしたものより上である(higher than 10% below)。
【0039】
図4は、蛍光粒子10の造影剤としての使用例を概略的に示す。患者の皮膚部分220の外皮の下に血管210が与えられる。蛍光粒子10は、血管210の内部に位置し、好ましくは皮膚部分220の外部から励起放射線41により照射される。蛍光粒子10により生成される放出放射線51は、同様に好ましくは皮膚部分220の外側に配置される放射線検出手段(図示省略)により検出される。
【0040】
図5は、蛍光粒子10を生物アッセイに使用する例を概略的に示す。生物エンティティ120は、メンブレーン等の固定構造体130に配置される。蛍光粒子10は、物理及び/又は化学及び/又は生物バインディング111により、検出される生物エンティティ120に特有なラベリング基板110へとバインドされる。蛍光粒子10及びラベリング基板110は共に複合体を形成する。生物アッセイの間、(ラベリング基板110にバインドされる)蛍光粒子10(複合体)が、生物エンティティ120にさらされる。生物エンティティ120とラベリング基板110との間の特有なバインディング121を介して、蛍光粒子10は、生物エンティティ120に(従って、構造体130にも)固定され、放射線検出手段(図示省略)により(図5に図示されていない)励起及び放出放射線から検出されることができる。
【0041】
生物エンティティ120を検出する他の方法又はアッセイが、例えばメンブレーンといった固定構造体130の使用なしに、明らかに考えられる。
【0042】
本発明の文脈における生物エンティティ120は、以下のエンティティのいずれかとすることができる。それは、1つ又は複数のたんぱく質、1つ又は複数の核酸、1つ又は複数のセルのフラグメント又は異なるセル、又は他のいずれかの生物物質である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による蛍光粒子の断面を概略的に示す図である。
【図2】励起及び放出放射線を用いる本発明による蛍光粒子を概略的に示す図である。
【図3】反射防止シェル領域がない通常の量子ドット構造の反射を概略的に示す図である。
【図4】蛍光粒子を造影剤として適用する例を概略的に示す図である。
【図5】蛍光粒子を生物アッセイに適用する例を概略的に示す図である。
【図6】人間組織における主成分の赤外線吸収スペクトルの一部を適用する例を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア領域とシェル領域とを有する蛍光粒子であって、前記コア領域が、前記シェル領域により覆われ、前記コア領域は、少なくとも1つの励起波長に対して、及び少なくとも1つの放出波長に対して、ナノ結晶物質を用いて前記蛍光粒子に関する蛍光的挙動を授与し、前記シェル領域が、前記コア領域の反射防止コーティングを実現するよう与えられる、蛍光粒子。
【請求項2】
前記コア領域が、非カドミウムベースのナノ結晶物質を用いて実現される量子ドット構造として与えられる、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項3】
前記コア領域が、無害なナノ結晶物質を用いて実現される量子ドット構造として与えられる、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項4】
前記シェル領域が、非カドミウムベースの物質及び/又は無害な物質として与えられる、請求項1、2又は3に記載の蛍光粒子。
【請求項5】
前記コア領域が、インジウムリンベースの物質を用いて実現される量子ドット構造として与えられる、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項6】
前記励起波長及び前記放出波長が、電磁スペクトルの近赤外線部分で与えられる、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項7】
前記励起波長及び前記放出波長が、人間組織の主成分、特に、人間組織の液体及び/又は脂質における最小近赤外吸収のスペクトルウィンドウで与えられる、請求項6に記載の蛍光粒子。
【請求項8】
前記励起波長及び前記放出波長が、700 nmと800 nmとの間で与えられる、請求項7に記載の蛍光粒子。
【請求項9】
前記励起波長が、約720 nmで与えられ、前記放出波長は、約780 nmで与えられる、請求項6又は7に記載の蛍光粒子。
【請求項10】
前記励起波長及び前記放出波長が、およそ60 nm分離れている、請求項6又は7に記載の蛍光粒子。
【請求項11】
前記シェル領域の厚みが、前記コア領域の周りでほぼ一様に与えられる、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項12】
前記シェル領域の厚みが、前記コア領域の内側と前記蛍光粒子の外側との間での励起放射線の反射率及び/又は放出放射線の反射率が比較的低くなるよう与えられる、請求項11に記載の蛍光粒子。
【請求項13】
前記シェル領域の厚みが、少なくとも部分的に、前記コア領域の内側と前記蛍光粒子の外側との間での励起放射線の反射率及び/又は放出放射線の反射率が比較的低くなるよう与えられる、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項14】
前記シェル領域の厚みが、前記コア領域の内側と前記蛍光粒子の外側との間での励起放射線の透過率及び/又は放出放射線の透過率が、前記ナノ結晶物質の所与の第1の屈折率、前記反射防止コーティングの所与の第2の屈折率、及び前記蛍光粒子の環境の所与の第3の屈折率に対する最大透過率を50%小さくしたものより高く、好ましくは25%小さくしたものより高く、もっとも好ましくは10%小さくしたものより高いよう与えられる、請求項12又は13に記載の蛍光粒子。
【請求項15】
前記シェル領域が、誘電物質を有する、請求項1に記載の蛍光粒子。
【請求項16】
前記誘電物質が、酸化チタン、及び/又はガリウムリン、及び/又はインジウムガリウムリン、及び/又は他の三元化合物として与えられる、請求項15に記載の蛍光粒子。
【請求項17】
請求項1に記載の蛍光粒子とラベリング基板とを有する複合体。
【請求項18】
請求項1に記載の蛍光粒子、又は請求項17に記載の複合体、又は前記蛍光粒子及び前記複合体の混合物を有する造影剤。
【請求項19】
蛍光粒子を用いて生物エンティティを検出する方法において、前記蛍光粒子が、コア領域とシェル領域とを有し、前記コア領域は、前記シェル領域により覆われ、前記コア領域が、少なくとも1つの励起波長に対して、及び少なくとも1つの放出波長に対して、ナノ結晶物質を用いて前記蛍光粒子に関する蛍光的挙動を授与し、前記シェル領域は、前記コア領域の反射防止コーティングを実現するよう与えられており、前記方法が、
物理、及び/又は化学、及び/又は生物バインディングを用いて、前記蛍光粒子とラベリング基板との間で複合体を形成するステップと、
前記生物エンティティへの特有のバインディングを実現するため前記ラベリング基板を用いるステップと、
少なくとも前記蛍光粒子と前記ラベリング基板との複合体に前記励起波長の放射線を照射するステップと、
前記蛍光粒子により放出される放射線を用いて、前記生物エンティティを検出するステップとを有する、方法。
【請求項20】
前記蛍光粒子と前記ラベリング基板との複合体が体内で使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記蛍光粒子と前記ラベリング基板との複合体が体外で使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
生物医学アッセイ及び/又は体外用途における請求項1に記載の蛍光粒子の使用。
【請求項23】
生物医学アッセイ及び/又は体外アッセイに用いる請求項17に記載の複合体又は請求項18に記載の造影剤を生み出すための請求項1に記載の蛍光粒子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−516763(P2009−516763A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540772(P2008−540772)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【国際出願番号】PCT/IB2006/054330
【国際公開番号】WO2007/060591
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】