説明

蛍光表示管とその製造方法

【課題】一般に蛍光表示管のアノード基板には、アルミニウムのアノード配線を形成してあるが、アルミニウムのアノード配線は、製造工程で加熱されるとヒロックが発生することがある。本願発明は、そのアノード配線のヒロックの発生防止を目的とする。
【解決手段】ガラスのアノード基板21にニオブのアノード配線23を形成し、その上にSiO2の絶縁膜22を形成し、その上にアルミニウムのアノード電極24を形成し、その上に蛍光体25を被着してある。アノード配線23とアノード電極24は、スルーホール221のアルミニウムを介して電気的に接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、蛍光表示管とその製造方法に関し、特に蛍光表示管のアノード基板の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3により、従来の蛍光表示管の概要を説明する。
図3は、蛍光表示管の斜視図で、真空容器の一部を切除してある
蛍光表示管は、アノード基板111、アノード基板に対向する平面基板112、側面部材113からなる真空容器(気密容器)内に、電子源のフィラメントF、フィラメントFから放出される電子を制御するグリッドG、蛍光体を被着した多数のアノード電極14を備えている。アノード電極14の蛍光体は、フィラメントFから放出される電子によって発光する。
アノード基板111には、各アノード14に表示データ(パルス状の電圧)を供給するアノード配線(図示せず)を形成し、その上にアノード配線を覆うようにSiO2の絶縁膜(図示せず)を形成し、その上にアノード電極14を形成してある。そしてアノード電極14の夫々は、対応するアノード配線と絶縁膜のスルーホール(図示せず)を介して電気的に接続されている。
図2は、従来のアノード基板の構造を示す(例えば特許文献1参照)。
図2は、図3のアノード基板111のアノード電極の一部を拡大した図である。
図2(a)は、平面図、図2(b)は、図2(a)においてアノード電極上の蛍光体を省略した図、図2(c)は、図2(a)のX1部分の矢印方向の断面図、図2(d)は、アノード配線のヒロック(火ぶくれ)を説明する図である。
ガラスのアノード基板111には、アルミニウムのアノード配線13を形成し、その上にアノード配線13を覆うようにSiO2の絶縁膜12を形成し、その上にアルミニウムのアノード電極14を形成してある。アノード電極14には、開口部141を形成してある。アノード配線13とアノード電極14は、絶縁膜12のスルーホール121内のアルミニウムを介して電気的に接続されている。アノード電極14には蛍光体15を被着してある。
アノード配線13、絶縁層12及びアノード電極は、薄膜からなり、それらの膜厚は、通常μmオーダである。またアノード配線13やアノード電極14は、通常アルミニウムで形成されている。
アノード基板111は、アノード基板形成後の製造工程、例えば真空容器の組立工程(封着工程)、封止工程を経て蛍光表示管に組立てられ、蛍光表示管が完成する。アノード基板111は、アノード基板形成後の製造工程において加熱されるため、アノード基板111上のアノード配線13は、図2(d)のように、ガラスの基板111から膨れ上がり、いわゆるヒロック(火ぶくれ)131のできることがある。ヒロック131は、アノード配線13の断線の原因になり、またヒロック131により絶縁層12にひび割れが生じて、絶縁不良の原因になる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−68189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、ヒロックの発生原因について、種々の実験を重ねた結果、アノード基板111は、アノード基板形成後の工程で400〜500℃に加熱されるため、アルミニウムのアノード配線13が膨張し、常温に戻ったときにもヒロック131が残ってしまうことを突き止めた。即ちアノード配線13のヒロックの原因は、アルミニウムの加熱時の熱膨張によることが分かった。
本願発明は、前記実験結果を活かしてアノード配線にヒロックが生じないアノード基板を備えた蛍光表示管とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載の蛍光表示管は、真空容器内に電子源、グリッド及びアノード電極を備えた蛍光表示管において、ガラスのアノード基板に高融点金属のアノード配線を形成し、そのアノード配線の上にアノード配線を覆うようにSiOxの絶縁膜を形成し、その絶縁膜の上にアルミニウムのアノード電極を形成し、アノード配線とアノード電極は絶縁膜のスルーホールのアルミニウムを介して電気的に接続されていることを特徴とする。
請求項2に記載の蛍光表示管は、請求項1に記載の蛍光表示管において、前記高融点金属は、ニオブであることを特徴とする。
請求項3に記載の蛍光表示管は、請求項2に記載の蛍光表示管において、前記アノード電極は開口部を有し前記アノード配線はその開口部に対向する位置に配置してあることを特徴とする。
請求項4に記載の蛍光表示管は、請求項3に記載の蛍光表示管において、アノード配線の膜厚は0.1μm〜1μm、絶縁膜の膜厚は0.2μm〜2μm、アノード電極の膜厚は0.1μm〜2μmであることを特徴とする。
請求項5に記載の蛍光表示管の製造方法は、真空容器内に電子源、グリッド及びアノード電極を備えた蛍光表示管の製造方法において、ガラスのアノード基板にスパッタ法により高融点金属の膜を形成し、その高融点金属の膜をフォトエッチングしてアノード配線を形成し、アノード配線23の上にアノード配線を覆うようにプラズマCVD法によりSiOxの絶縁膜を形成し、その絶縁膜をドライエッチングしてテーパーを有するスルーホールを形成し、その絶縁膜の上にスパッタ法によりアルミニウムの膜を形成し、そのアルミニウムの膜をフォトリソ法によりパターニングしてアノード電極を形成することを特徴とする。
請求項6に記載の蛍光表示管の製造方法は、請求項5に記載の蛍光表示管の製造方法において、前記高融点金属は、ニオブであることを特徴とする。
請求項7に記載の蛍光表示管の製造方法は、請求項6に記載の蛍光表示管の製造方法において、前記アノード電極は開口部を有し前記アノード配線はその開口部に対向する位置に配置することを特徴とする。
請求項8に記載の蛍光表示管の製造方法は、請求項7に記載の蛍光表示管の製造方法において、アノード配線の膜厚は0.1μm〜1μm、絶縁膜の膜厚は0.2μm〜2μm、アノード電極の膜厚は0.1μm〜2μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本願発明は、蛍光表示管のガラスのアノード基板に高融点金属のアノード配線を形成してあるから、蛍光表示管の製造工程において、そのアノード基板が加熱されてもアノード配線にヒロックが生じない。したがってアノード配線は、ヒロックにより断線することがなく、また絶縁膜は、アノード配線のヒロックによりひび割れて絶縁不良になることがない。
高融点金属は、アノード基板のガラスに含まれるNa2Oによって腐食され難いから、ガラスの基板上にアノード配線を形成しても、そのアノード配線が腐食により断線することは少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1により本願発明の実施例に係る蛍光表示管のアノード基板を説明する。
【実施例】
【0008】
図1(a)は、平面図、図1(b)は、図1(a)においてアノード電極上の蛍光体を省略した図、図1(c)は、図1(a)のX2部分の矢印方向の断面図である。
蛍光表示管の構造は、図3の蛍光表示管と同じであり、アノード配線、絶縁層、アノード電極の配置は、図1と同じである。
低アルカリガラスのアノード基板21にニオブ(Nb)のアノード配線13を形成し、その上にアノード配線13を覆うようにSiO2の絶縁膜22を形成し、その上にアルミニウムのアノード電極24を形成してある。アノード24には、開口部241を形成してある。アノード配線23とアノード電極24は、絶縁膜22のスルーホール221のアルミニウムを介して電気的に接続されている。アノード電極24には蛍光体25を被着してある。
アノード基板21のガラスには、Na2Oの含有量が3〜5wt%の低アルカリガラスを用いたが、一般のソーダライムガラス(Na2Oの含有量13wt%)も使用できる。また絶縁膜22は、SiO2に限らずSiOXでよい。
【0009】
アノード基板21上のアノード配線23にニオブを用いた結果、アノード配線23は、アノード基板形成後の製造工程において加熱されてもヒロックの生じないことが確認できた。ニオブは、アルミニウムに比べて線膨張係数が小さいから、そのためにアノード配線23にヒロックが生じないものと考えられる。
アノード配線23は、ニオブを用いて形成すればアノード基板形成後の製造工程においてヒロックが生じないから、アノード配線が断線したり、絶縁不良になったりする恐れがない。
【0010】
ここでアルミニウムとニオブの線膨張係数等についてみると、アルミニウムは、融点660(℃)、線膨張係数23.5(10-6/K)であるのに対して、ニオブは、融点2467(℃)、線膨張係数7.2(10-6/K)であるから、この線膨張係数の違いにより、アルミニウムのアノード配線にはヒロックが生じるが、ニオブのアノード配線にはヒロックが生じないものと考えられる。一般に融点の高い金属は、線膨張係数が小さいと言われていから、ニオブ以外の高融点金属と呼ばれている、モリブデン(融点2620(℃)、線膨張率5.1(10-6/K))、タングステン(融点3400(℃)、線膨張率4.5(10-6/K))、ジルコニウム(融点4400(℃)、線膨張率5.9(10-6/K))、タンタル(融点3015(℃)、線膨張率6.5(10-6/K))等も、アノード配線に用いることができる。
【0011】
アルミニウムは、ガラスに含まれるNa2Oに腐食され易いため、アノード基板には、無アルカリガラスを用いるか、或いはソーダライムガラスや低アルカリガラスを用いる場合には、ガラスの表面にNaイオンの拡散防止膜を形成しなければならないが、ニオブ等の高融点金属は、Na2Oに腐食され難いため駆動電圧が低い(12V以下)場合には、ソーダライムガラスに直接アノード配線を形成することができし、低アルカリガラスの場合には、駆動電圧が高い場合にもガラスに直接アノード配線を形成することができる。即ちアノード配線がニオブの場合には、アノード基板に無アルカリガラスを用いなくても、アノード配線が腐食されることがない。
また図1のアノード配線23は、アノード電極24の開口部241と対向する位置に配置してあるから、アノード配線23とアノード電極24の間の静電容量が小さくなり、充放電電流が小さくなるため無効電力を低減できる。
【0012】
次に図1のアノード配線23等の膜厚等について説明する。
アノード配線23は、線幅15μm、線間隔15μm、膜厚0.4μm、絶縁膜22は、膜厚1μm、アノード電極24は、膜厚1μmである。スルーホール221は、直径15μmの円形又は幅6μm・長さ30μmの楕円形である。アノード配線23は、膜厚が0.1μm以下になると抵抗が大きくなり、1μm以上になると絶縁膜22の上面が不均一になる(平らにならない)。絶縁膜22は、膜厚が0.2μm以下になるとアノード配線23の被覆が不十分になり、2μm以上になるとひび割れが生じ易くなる。アノード電極24は、膜厚が0.1μm以下になると抵抗が大きくなり、2μm以上になると絶縁膜22のひび割れや剥離の原因になる。またアノード配線23の線幅は、10〜50μmに設定するのが望ましい。
【0013】
次にアノード配線23、絶縁膜22、アノード電極24の形成方法について説明する。
まずガラスのアノード基板21にスパッタ法によりニオブの膜を形成し、フォトエッチング法によりアノード配線23を形成する。次にアノード配線23の上にアノード配線23を覆うようにプラズマCVD法によりSiO2の絶縁膜22を形成する。絶縁膜22にドライエッチング法によりテーパーを有するスルーホール221を形成する。その絶縁膜22の上にスパッタ法によりアルミニウムの膜を形成し、フォトリソ法によりパターニングしてアノード電極24を形成する。スルーホール221は、アルミニウムの膜を形成するときアルミニウムによって埋められるから、アノード配線23とアノード電極24はそのアルミニウムによって電気的に接続される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明の実施例に係る蛍光表示管のアノード基板の構造を示す。
【図2】従来の蛍光表示管のアノード基板の構造を示す。
【図3】従来の蛍光表示管の構成を示す。
【符号の説明】
【0015】
21 アノード基板
22 絶縁膜
23 アノード配線
24 アノード電極
25 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に電子源、グリッド及びアノード電極を備えた蛍光表示管において、ガラスのアノード基板に高融点金属のアノード配線を形成し、そのアノード配線の上にアノード配線を覆うようにSiOxの絶縁膜を形成し、その絶縁膜の上にアルミニウムのアノード電極を形成し、アノード配線とアノード電極は絶縁膜のスルーホールのアルミニウムを介して電気的に接続されていることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光表示管において、前記高融点金属は、ニオブであることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項3】
請求項2に記載の蛍光表示管において、前記アノード電極は開口部を有し前記アノード配線はその開口部に対向する位置に配置してあることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項4】
請求項3に記載の蛍光表示管において、アノード配線の膜厚は0.1μm〜1μm、絶縁膜の膜厚は0.2μm〜2μm、アノード電極の膜厚は0.1μm〜2μmであることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項5】
真空容器内に電子源、グリッド及びアノード電極を備えた蛍光表示管の製造方法において、ガラスのアノード基板にスパッタ法により高融点金属の膜を形成し、その高融点金属の膜をフォトエッチングしてアノード配線を形成し、アノード配線23の上にアノード配線を覆うようにプラズマCVD法によりSiOxの絶縁膜を形成し、その絶縁膜をドライエッチングしてテーパーを有するスルーホールを形成し、その絶縁膜の上にスパッタ法によりアルミニウムの膜を形成し、そのアルミニウムの膜をフォトリソ法によりパターニングしてアノード電極を形成することを特徴とする蛍光表示管の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光表示管の製造方法において、前記高融点金属は、ニオブであることを特徴とする蛍光表示管の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蛍光表示管の製造方法において、前記アノード電極は開口部を有し前記アノード配線はその開口部に対向する位置に配置することを特徴とする蛍光表示管の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の蛍光表示管の製造方法において、アノード配線の膜厚は0.1μm〜1μm、絶縁膜の膜厚は0.2μm〜2μm、アノード電極の膜厚は0.1μm〜2μmであることを特徴とする蛍光表示管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−272260(P2009−272260A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124081(P2008−124081)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】