蛍光X線分析用試料保持具ならびにそれを用いる蛍光X線分析方法および装置
【課題】 試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具において、試料保持作業の効率化と簡易化を図るとともに、試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることにより分析精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】 試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる試料保持具5であって、枠体2と、その枠体に付着された付着部1a、枠体2の外周よりも外側の外周部1cおよび前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部1bを有する厚さ10μm未満のフィルム1とを備え、試料9を保持する。
【解決手段】 試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる試料保持具5であって、枠体2と、その枠体に付着された付着部1a、枠体2の外周よりも外側の外周部1cおよび前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部1bを有する厚さ10μm未満のフィルム1とを備え、試料9を保持する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具ならびにそれを用いる蛍光X線分析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分析試料の含有成分を蛍光X線分析するための技術として、液体試料を保持するためのフィルムを用いる蛍光X線分析用試料容器を利用する分析方法がある(特許文献1参照)。このような蛍光X線分析方法では、フィルムを用いる液体試料容器90(図8)が用いられている。図9に示すように、この容器は内外二重の筒状セルのうち内側セル91の一端面にフィルム93の中央部を宛がい、その周囲を内側セル91の周囲に沿わせたうえ、フィルム93で包まれた内側セル91の先端を外側セル92の一端から挿入し、内側セル91の先端が外側セル92の突条(クランプ部)88に達すると、この突条88が内側セル91を包むようになっているフィルム93を内側セル91の外周面との間に挟みつけ、フィルム93は内側セル91の一端側に所定の張力で張られた状態となる。フィルム93が張られた端面を底にして、上方より液体試料94がホルダ90に注がれ保持される。この状態で下側から1次X線が照射され蛍光X線分析がなされる。
【0003】
このような試料保持方法では液体試料94を直接、ホルダ90に入れるため容器の内面に液体試料94が付着し、他の試料を分析する場合には、必ずホルダ90を洗浄しなければならず手間がかかる。フィルムをホルダに張る際にフィルムに皺が寄ったり、不均一な張力になったりすることにより、液体試料が漏れ、測定装置、ホルダ、測定装置の周辺、測定者の手などを汚染させる不具合が生じる。測定面が皺になったり、不均一な張力による弛みになったりすると試料毎の測定面の高さ位置が異なり分析精度が悪なる。特に、この作業に慣れていない測定者の場合には、このような不具合が起こり易い。
【0004】
上記の試料保持方法を改良したものとして、液体試料を保持するための2枚のフィルムを用いる蛍光X線分析用液体試料容器(図10)を利用する分析方法がある。図11(A)に示すように、この試料容器80は以下のような手順で組み立てられる。内側セル81の一端を上向きに立てその上方に1枚目のフィルム83を被せ、1枚目のフィルム83を内側セル81の開口部82の内部へ押し込み窪み部84を形成する。次に図11(B)のように、窪み部84に液体試料85を注入する。図11(C)のように液体試料85が入った窪み部84の開口を覆うように、上から2枚目のフィルム86を被せ、さらにその上から一端側を下にした外側セル87を被せるようにして、1枚目のフィルム83で包まれた内側セル81を外側セル87に挿入する。図11(D)に示すように、挿入に伴って内側セル81の先端が外側セル87の突条(クランプ部)88に達すると、この突条88が内側セル81を包むようになっている二重のフィルムを内側セル81の外周面との間に挟みつけ、外側のフィルム86は内側セル81の一端側に所定の張力で張られた状態となる。これにより、窪み部84が密閉され、ホルダ80が組み立てられる。
【0005】
このようにしてホルダが組み立てられたら、このホルダを上下ひっくり返し、フィルムが張られた側を下向きにし、下側からX線を照射し蛍光X線分析を行う。
【特許文献1】特開平7−134082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記のような1枚または2枚のフィルムを用いて液体試料容器に測定者自らがフィルムを張る試料保持具では、X線が照射される測定面のフィルムを皺なく均一に引っ張られた状態に組み上げるには熟練を要する。図11(B)に示されているように、液体試料85を最初に保持する1枚目のフィルム83は内側セルの開口部の内部へ押し込み窪み部84を作るときに、内側セル81の全周にわたって皺が形成される。そのため、2枚目のフィルム86を内側セル81に被せて外側セル87を挿入すると内側セル81の全周にわたって形成された皺により、2枚目のフィルム86に皺が寄ったり、不均一な張力になったりすることがある(図11(D))。特に、この作業に慣れていない非熟練者の場合には、このような不具合が起こり易い。2枚目のフィルム86に皺が寄っていると液体試料が漏れるなどの不具合が生じる。
【0007】
従来の試料保持具では、測定者自らが試料容器に1枚または2枚のフィルムを液体試料85、94が漏れないように張らなければならない。また、試料容器80,90に液体試料85、94を注ぎ込んだ後、図8、10に示した状態で装置にセットされる。そうすると、1次X線が照射される測定面89には、液体試料85、94の液面高さに応じた圧力が加わる。その結果、フィルム83,86,93に皺ができることによってフィルム93と内側セル91との間や1枚目のフィルム83と2枚目のフィルム86との間に僅かな間隙がクランプ位置にでき、液体試料の液面高さがフィルムのクランプ位置よりも高くなっていると、液体試料圧力とクランプ位置にできた僅かな間隙の圧力との差圧作用により、クランプ位置にできた僅かな間隙から液体試料85,94が漏れ出す。
【0008】
そのため、測定装置、試料容器、測定装置の周辺、測定者の手などを汚染させる不具合が生じる。測定面が皺になったり、不均一な張力による弛みになったりすると試料毎の測定面の高さが異なり分析精度が悪化する。
【0009】
測定後、試料を回収し試料容器を再度利用するためにフィルムを試料容器から取り除く作業を行う必要がある。しかし、従来の試料容器では突条(クランプ部)を有しているため、フィルムを試料容器から取り除く時に、試料容器に傷を付けたり、2枚のフィルムを使用する場合でも、試料容器を試料で汚染させるなどして、再度、試料容器を使用できなくなる場合がある。
【0010】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具ならびにそれを用いる蛍光X線分析方法および装置において、液体だけでなく粉体や固体試料の分析作業の効率化と簡易化を図るとともに、試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることにより分析精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成にかかる蛍光X線分析用試料保持具は、試料に下方から1次X線を照射して蛍光X線分析するために用いられるものであって、枠体と、その枠体に付着された付着部、前記枠体の外周よりも外側の外周部および前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部を有するフィルムとを備え試料を保持する。
【0012】
本発明の第1構成によれば、試料測定面を構成するフィルムが枠体に皺のない状態で均一な張力で張られているので、測定者自らがフィルムを張ることなく試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることにより分析精度を向上させることができる。したがって、測定試料の準備に熟練度を必要としない。また、本発明の第1構成によれば、試料は1枚のフィルム、または1枚のフィルムとフィルムに付着された枠体のみに接触するので、従来技術のようにフィルムとホルダとの間や2枚のフィルムの間に間隙が形成されることはなく、クランプ部に液体試料の圧力がかからず、液体試料圧力とクランプ位置にできた僅かな間隙の圧力との差圧作用により、クランプ位置にできた僅かな間隙から液体試料が漏れ出すことはない。
【0013】
本発明の第1構成においては、枠体は1mm程度の厚みを有するポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いるのが好ましく、枠体が付着されるフィルムには、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンまたはポリイミドを用いるのが好ましい。枠体とフィルムの付着部との付着にはプラスチックフィルムを接着できる接着剤を用いる方法や熱溶着や超音波溶着などの付着方法であればよく、特に方法を問わない。
【0014】
本発明の第2構成にかかる蛍光X線分析方法は、前記第1構成の蛍光X線分析用試料保持具と下部にX線を通過させるための開口を有する筒状のホルダとを用いるものであって、前記透過部が前記ホルダの開口を覆い、前記外周部が前記ホルダの側部の内面を覆うように、前記蛍光X線分析用試料保持具を前記ホルダに装着し、上方から液体または粉体試料を注いで、前記透過部を介して前記試料に下方から1次X線を照射して、発生する2次X線の強度を測定する。
【0015】
本発明の第3構成にかかる蛍光X線分析装置は、前記第1構成の蛍光X線分析用試料保持具を用いるものであって、試料を保持した前記蛍光X線分析用試料保持具の透過部を介して、前記試料に下方から1次X線を照射するX線源と、前記試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段とを備える。
【0016】
本発明の第2、第3構成によれば、前記第1構成の蛍光X線分析用試料保持具を用いるので、第1構成と同様の作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態である蛍光X線分析用試料保持具について説明する。この試料保持具は、試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられるものであって、図1に示すように、試料を保持するX線透過性フィルムを安定に保持するための例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材料からなる輪状の枠体2と、その枠体にプラスチック用接着剤で付着された付着部1a、その枠体2の外周よりも外側の外周部1cおよび前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部1bを有する厚さ10μm未満の例えばポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンまたはポリイミドなどの樹脂材料からなるフィルム1を備え、下部にX線を通過させるための開口7を有する円筒状のホルダ6に、透過部1bがホルダ6の開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着されることにより、上方から注がれた液体試料9を保持する。
【0018】
本実施形態の試料保持具5は、輪状の枠体2の内外周と円筒状のホルダ6の側部の内径とが同心状に装着して使用されるものであるので、輪状の枠体2の外周の直径は使用される円筒状のホルダ6の側部の内径より少し小さいことが望ましく、輪状の枠体2の内周の直径は試料を測定するのに充分なX線が透過できる径であることが望ましいので、枠体2の外内周の直径は所定のホルダ6の側部の内径と開口7の直径に適合した所定の寸法のものであればよい。試料9を保持するX線透過性フィルム1を安定に保持するため枠体2は、耐薬品性および使用後の廃棄処理を考慮すると、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材料がよい。また、フィルムを安定に保持するための厚みは0.5mm以上、2mm以下の厚みを有することが望ましく、1mm程度がより望ましい。
【0019】
図2に試料保持具5の上面図を示すように、枠体2は外周の直径d2が40mm、内周の直径d1が30mm、厚みが1mmであるポリプロピレンであり、枠体2の内周の中心位置が厚さ6μm、直径(図2のd3)90mmの円形のポリエチレンテレフタレートフィルム1の中心部に位置するようにプラスチック用付着剤でフィルム1の付着部1aに付着され枠体2の外周よりも外側の外周部1cおよび枠体2の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部1bが構成されている。
【0020】
フィルム1と枠体2の付着には、例えば、スプレーのり(成分はアクリルゴム(10%)、有機溶剤(54%)およびイソヘキサンガス(36%)で、噴射用高圧ガスはジメチルエーテル)を枠体の裏に吹き付けて、フィルム1の中央部に貼付されている。貼付に用いる接着剤は、このスプレーのりに限らず、分析の障害とならないものであればよい。図3に示すように、枠体2の下部全面がフィルム1に付着され付着部1aを構成している。なお、図示と理解の容易のため、図で表した各部の厚さは実際の寸法とは異なる。
【0021】
図1に示すように、この試料保持具5は下部にX線を通過させるための開口7を有する円筒状のホルダ6、例えば、従来から蛍光X線分析に使用されている底部6aを有する下面照射用液体ホルダ6に、枠体2がフィルム1の下方に位置して、透過部1bが枠体2の内周部とともにホルダの開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着されることにより、上方から注がれた液体試料9を保持する。
【0022】
上記例では試料保持具の枠体2を輪状のものについて説明したが、輪状のものに限らず試料を安定に保持でき、試料を測定するのに充分なX線が透過できる透過部1bを有する構造であれば多角形や楕円形などの枠体でもよく、枠体の内外周の大きさや厚みなどについても輪状のものと同程度のものであればよい。
【0023】
上記例では試料保持具の外周部1cを円形のものを図示したが、試料保持具の外周部1cの外縁部をホルダの上部の開放部8に固定できればよいものであるので、円形である必要はなく、例えば楕円や多角形などのものであってもよい。また、試料保持具の円形の直径を90mmとしたが、試料保持具の外周部1cは試料の保持作業が容易にできる大きさのものであればよい。
【0024】
上記例ではホルダ6に底部6aを有するものを図示したが、試料保持具5の透過部1aが底部を有さない筒状のホルダの開口を覆い、試料保持具5の外周部1cが底部を有さない筒状のホルダの側部の内面を覆うように、試料保持具5の底部を有さない筒状のホルダに装着し試料を保持してもよい。本実施形態では、円筒状のホルダ6について説明したが、楕円筒や角筒などの筒状のものでもよく、試料保持具5の枠体2の形状に適合した形状のホルダを用いるのが望ましい。
【0025】
上記では、円筒状のホルダ6に、枠体2がフィルム1の下方に位置して、透過部1bが枠体2の内周部とともにホルダの開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着した例を示したが、図4に示すように、ホルダ6に、枠体2がフィルム1の上方に位置して、透過部1bがホルダの開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着した例について以下に説明する。
【0026】
枠体2がフィルム1の上方に位置するように装着すると、枠体2がフィルム1の下方に位置するように装着した場合に比べ、試料9の測定面である透過部1bと1次X線21との距離が枠体2の厚みの距離だけ近づき試料9から発生する2次X線22の強度が増大し、分析感度が向上する。より高感度の分析を望む場合に適した例である。
【0027】
その反面、枠体2をフィルム1の上方に位置するように装着した場合は、枠体2が液体試料9と接触する。また、付着部1aを接着剤で付着した場合には、測定する液体試料の種類によっては液体試料9が付着部1aと枠体2の間に浸透し接着剤中の成分を溶出させ、その成分が測定対象元素に影響を与えることが考えられる。したがって、この場合には分析開始前に測定する試料の内容や測定対象元素を検討する必要がある。特に、測定対象元素に影響を与える可能性の低い水溶液性の試料の分析に用いるのが好ましい。枠体を接着剤を用いず熱溶着や超音波溶着で付着させた場合には、上記のような配慮は不要となる。
【0028】
試料9が気化し易い試料であったり、試料の気化ガスによって測定装置が汚染されたり、腐食されたりする場合や液体試料を注ぎ込んだホルダ6の搬送時に液体試料を溢すなどの心配がある場合には、試料の気化ガスや液体試料がこぼれないようにホルダ上部の開放部8に図5に示すように、ガス抜きキャップや多孔質膜14などの通気性のある材料などを保持した蓋16でホルダ上部の開放部8を覆うことが望ましい。より確実に試料保持具の外周部1cをホルダ6の側部上面で固定する必要がある場合には、第2実施形態で説明する膜押さえ37(図7参照)を蓋16と共に用いてもよい。蓋16が不要な場合には、膜押さえ37のみを用いてより確実に外周部1cを固定してもよい。
【0029】
上記では、試料保持具5では筒状のホルダを用いて試料を保持することについて説明したが、筒状のホルダを用いず試料保持具のみで試料を保持してもよい。試料保持具5の透過部1bに微量の液体や少量のゲル状物や粉体の試料などを載せ、試料を包み込むように試料の上方で試料保持具5の外周部1cをクリップ等で止め試料を保持する。また、蛍光X線分析装置の試料ターレットや試料測定部の試料を載置する凹状の窪みの底部に試料保持具5の枠体2を上方より合わせ、試料保持具5の外周部1cが試料を載置する凹状の窪みの側部の内面を覆うように、試料保持具5を装着し、上方より液体や粉体の試料を注ぎ込み試料の上方で試料保持具5の外周部1cをクリップ等で止め試料を保持してもよい。上記したように本発明の試料保持具は液体試料だけではなく、ゲル状体、粉体、固体などの試料を保持するものである。
【0030】
本発明の試料保持具5の透過部1bでは試料測定面を構成するフィルム1が枠体2に皺のない状態で、均一な張力で張られているので、従来技術のように試料容器の透過部としてフィルムを測定者自らが皺のない状態で張ったり、均一な張力で張るという作業をすることなく、試料保持具5を円筒状のホルダ6に装着し、ホルダ6の上方から試料9を注ぎ込みホルダ6の上下をひっくり返すことなく、そのまま蛍光X線分析装置にセットすれば測定を行うことができ、分析作業の簡易化が図れる。試料測定面を構成する透過部1bのフィルム1が枠体2に皺のない状態で、均一な張力で張られており、試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることができ、測定者は熟練を要さずに高精度の分析を行うことができる。
【0031】
また、従来技術のように液体試料を保持する場合に起こる液体試料の漏れについても、本発明の試料保持具5は、液体試料と1枚のフィルム、または1枚のフィルムとフィルムに付着された枠体のみに接触するので、従来技術のようにフィルムとホルダとの間や2枚のフィルムの間に間隙が形成されることはなく、クランプ部に液体試料の圧力がかからず、液体試料圧力とクランプ位置にできた僅かな間隙の圧力との圧力差により、クランプ位置にできた僅かな間隙から液体試料が漏れることはない。上記したように筒状のホルダを用いず試料保持具のみで試料を保持できるので、分析作業の簡易化が図れる。また、本発明の試料保持具は液体試料だけではなく、ゲル状体、粉体、固体などの試料も保持することができる。
【0032】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析方法について説明する。この分析方法に使用される蛍光X線分析装置40は、本発明の第3実施形態であり、図6に示すように、第1実施形態の蛍光X線分析用試料保持具5を用いる装置であって、試料保持具5が直接またはホルダ6を介して載置される試料台である試料ステージ25と、下部にX線を通過させるための開口7を有し、試料保持具の透過部1bが開口7を覆い、試料保持具の外周部1cが円筒状の側部の内面を覆うように装着された円筒状のホルダ6と、円筒状のホルダ6の内部に装着され、上方から注がれた液体試料を保持した試料保持具の透過部1bの部位に1次X線14を照射するX線管などのX線源23と、試料保持具の透過部1bの部位の試料から発生する蛍光X線などの2次X線15の強度を測定するX線検出器などの検出手段24と、を備えている。
【0033】
この装置40を使用する第2実施形態の蛍光X線分析方法は、第1実施形態の蛍光X線分析用試料保持具5を用いる方法であって、試料保持具5を散乱X線の発生が少ない樹脂製やアルミニウムまたはチタン等の金属製の円筒状のホルダの開口7を試料保持具5の透過部1bが覆い、試料保持具の外周部1cが円筒状のホルダ6の側部の内面を覆うように装着し、液体や粉体試料を注ぐ作業を容易にするために試料保持具の外周部1cの外縁部をホルダ6の開放部8を構成する側部の上端部で外側に折り曲げ、液体または粉体試料9をホルダ6の上方より注ぎ込み試料保持具5に液体または粉体試料9を保持させ、そのホルダ6を試料ステージ25に載置し、試料保持具の透過部1bを介して試料に下方から1次X線14を照射し、試料から発生する2次X線15の強度を測定する。
【0034】
本実施形態では、試料保持具の枠体2を輪状のものについて説明したが、第1実施形態と同様に試料を安定に保持でき、試料を測定するのに充分なX線が透過できる透過部1bを有する構造であれば多角形や楕円形などの枠体でもよく、枠体の内外周の大きさや厚みなどについては輪状のものと同程度のものであればよい。
【0035】
本実施形態では、試料保持具の外周部1cを円形のものについて説明したが、第1実施形態と同様に円形である必要はなく、例えば楕円や四角形、多角形などのものであってもよいし、試料保持具の外周部1cは試料の保持作業が容易にできる大きさのものであればよい。
【0036】
第1実施形態と同様に、試料が気化し易い試料であったり、試料の気化ガスによって測定装置が汚染されたり、腐食されたりする場合や液体試料を注ぎ込んだホルダの搬送時に液体試料を溢すなどの心配がある場合には、ホルダ上部の開放部8に図5に示すように、ガス抜きキャップや多孔質膜14などの通気性のある材料などを保持した蓋16でホルダ上部の開放部8を覆うことが望ましい。より確実に試料保持具の外周部1cをホルダ6の側部上面で固定する必要がある場合には、下記する膜押さえ37(図7参照)を蓋16と共に用いてもよい。蓋16が不要な場合には、膜押さえ37のみを用いてより確実に外周部1cを固定してもよい。
【0037】
上記例ではホルダ6に底部6aを有するものを図示したが、試料保持具5の透過部1aが底部を有さない筒状のホルダ36(図7参照)の開口を覆い、試料保持具の外周部1cが底部を有さない筒状のホルダ36の側部の内面を覆うように、底部を有さない筒状のホルダ36に試料保持具5を装着し試料9を保持してもよい。底部を有さない筒状のホルダ36に試料保持具5を装着し試料9を保持する方法の一例について以下に説明する。
【0038】
図7(A)に示すように、試料保持具5の輪状の枠体2が下方に位置するように台上(図示していない)に置き、外周部1cを透過部1b方向に折り込み、折り込まれた外周部1cであって付着部1aに隣接する周辺部を輪状の枠体2と試料保持具5の輪状の枠体2の内外周径とほぼ同径の内外周径を有する円筒状のホルダ36の側部下面36aとでサンドイッチ状に挟み込む。挟み込まれていない外周部の部分を円筒状のホルダ36の側部の内面を覆うように試料保持具5を円筒状のホルダ36に装着し、図7(B)に示すように、外周部1cの外縁部をリング状のフィルム押さえ37と円筒状のホルダ36の側部上面36bとで固定し、図7(C)に示すように、液体または粉体試料9をホルダ36の上方より注ぎ込む。その後、空気孔を有するキャップ38でフィルム押さえ37を上方より固定することにより試料保持具5に液体または粉体試料9が保持される。そのホルダ36を試料ステージ25に載置し、試料保持具の透過部1bを介して試料9に下方から1次X線14を照射し、試料9から発生する2次X線15の強度を測定する(図6参照)。
【0039】
本実施形態では、リング状のフィルム押さえ37や空気孔を有するキャップ38の両方を用いたが、キャップ38を用いずにフィルム押さえ37のみを用いてもよいし、キャップ38のみを用いてもよい。
【0040】
本実施形態では、円筒状のホルダ6、36について説明したが、第1実施形態と同様に楕円筒や角筒などの筒状のものでもよく、試料保持具5の枠体2の形状に適合した筒状のホルダを用いるのが望ましい。
【0041】
第1実施形態と同様に、試料保持具5の枠体2がフィルム1の下方に位置するようにホルダ6、36に装着してもよいし、試料保持具5の枠体2がフィルム1の上方に位置するようにホルダ6、36に装着してもよい。
【0042】
以上のように試料ステージ25に載置した試料保持具5またはホルダ6、36に装着されている試料保持具5の透過部1bの部位に1次X線14を照射して、試料9から発生する2次X線15の強度を測定し蛍光X線分析を行う。蛍光X線分析装置40はエネルギー分散型でも波長分散型のどちらの装置であってもよい。第2、第3実施形態の方法、装置によれば、第1実施形態の蛍光X線分析用試料保持具5を用いるので、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態である蛍光X線分析用試料保持具とホルダの断面図である。
【図2】同試料保持具の上面図である。
【図3】同試料保持具の断面図である。
【図4】同試料保持具をホルダに装着する変形例を示す断面図である。
【図5】同試料保持具、ホルダおよび蓋の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析方法に使用される、本発明の第3実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図7】(A),(B),(C)は、第2実施形態の試料を保持する方法の各手順を示す断面図である。
【図8】第1の従来例の断面図である。
【図9】前記図8の従来例の分解斜視図である。
【図10】第2の従来例の断面図である。
【図11】(A),(B),(C)は、前記図10の従来例の試料を保持する方法の各手順を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 フィルム
1a 付着部
1b 透過部
1c 外周部
2 枠体
5 試料保持具
6、36 筒状のホルダ
7 筒状のホルダの開口
9 試料
14 1次X線
15 2次X線
23 X線源
24 検出手段
40 蛍光X線分析装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具ならびにそれを用いる蛍光X線分析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分析試料の含有成分を蛍光X線分析するための技術として、液体試料を保持するためのフィルムを用いる蛍光X線分析用試料容器を利用する分析方法がある(特許文献1参照)。このような蛍光X線分析方法では、フィルムを用いる液体試料容器90(図8)が用いられている。図9に示すように、この容器は内外二重の筒状セルのうち内側セル91の一端面にフィルム93の中央部を宛がい、その周囲を内側セル91の周囲に沿わせたうえ、フィルム93で包まれた内側セル91の先端を外側セル92の一端から挿入し、内側セル91の先端が外側セル92の突条(クランプ部)88に達すると、この突条88が内側セル91を包むようになっているフィルム93を内側セル91の外周面との間に挟みつけ、フィルム93は内側セル91の一端側に所定の張力で張られた状態となる。フィルム93が張られた端面を底にして、上方より液体試料94がホルダ90に注がれ保持される。この状態で下側から1次X線が照射され蛍光X線分析がなされる。
【0003】
このような試料保持方法では液体試料94を直接、ホルダ90に入れるため容器の内面に液体試料94が付着し、他の試料を分析する場合には、必ずホルダ90を洗浄しなければならず手間がかかる。フィルムをホルダに張る際にフィルムに皺が寄ったり、不均一な張力になったりすることにより、液体試料が漏れ、測定装置、ホルダ、測定装置の周辺、測定者の手などを汚染させる不具合が生じる。測定面が皺になったり、不均一な張力による弛みになったりすると試料毎の測定面の高さ位置が異なり分析精度が悪なる。特に、この作業に慣れていない測定者の場合には、このような不具合が起こり易い。
【0004】
上記の試料保持方法を改良したものとして、液体試料を保持するための2枚のフィルムを用いる蛍光X線分析用液体試料容器(図10)を利用する分析方法がある。図11(A)に示すように、この試料容器80は以下のような手順で組み立てられる。内側セル81の一端を上向きに立てその上方に1枚目のフィルム83を被せ、1枚目のフィルム83を内側セル81の開口部82の内部へ押し込み窪み部84を形成する。次に図11(B)のように、窪み部84に液体試料85を注入する。図11(C)のように液体試料85が入った窪み部84の開口を覆うように、上から2枚目のフィルム86を被せ、さらにその上から一端側を下にした外側セル87を被せるようにして、1枚目のフィルム83で包まれた内側セル81を外側セル87に挿入する。図11(D)に示すように、挿入に伴って内側セル81の先端が外側セル87の突条(クランプ部)88に達すると、この突条88が内側セル81を包むようになっている二重のフィルムを内側セル81の外周面との間に挟みつけ、外側のフィルム86は内側セル81の一端側に所定の張力で張られた状態となる。これにより、窪み部84が密閉され、ホルダ80が組み立てられる。
【0005】
このようにしてホルダが組み立てられたら、このホルダを上下ひっくり返し、フィルムが張られた側を下向きにし、下側からX線を照射し蛍光X線分析を行う。
【特許文献1】特開平7−134082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記のような1枚または2枚のフィルムを用いて液体試料容器に測定者自らがフィルムを張る試料保持具では、X線が照射される測定面のフィルムを皺なく均一に引っ張られた状態に組み上げるには熟練を要する。図11(B)に示されているように、液体試料85を最初に保持する1枚目のフィルム83は内側セルの開口部の内部へ押し込み窪み部84を作るときに、内側セル81の全周にわたって皺が形成される。そのため、2枚目のフィルム86を内側セル81に被せて外側セル87を挿入すると内側セル81の全周にわたって形成された皺により、2枚目のフィルム86に皺が寄ったり、不均一な張力になったりすることがある(図11(D))。特に、この作業に慣れていない非熟練者の場合には、このような不具合が起こり易い。2枚目のフィルム86に皺が寄っていると液体試料が漏れるなどの不具合が生じる。
【0007】
従来の試料保持具では、測定者自らが試料容器に1枚または2枚のフィルムを液体試料85、94が漏れないように張らなければならない。また、試料容器80,90に液体試料85、94を注ぎ込んだ後、図8、10に示した状態で装置にセットされる。そうすると、1次X線が照射される測定面89には、液体試料85、94の液面高さに応じた圧力が加わる。その結果、フィルム83,86,93に皺ができることによってフィルム93と内側セル91との間や1枚目のフィルム83と2枚目のフィルム86との間に僅かな間隙がクランプ位置にでき、液体試料の液面高さがフィルムのクランプ位置よりも高くなっていると、液体試料圧力とクランプ位置にできた僅かな間隙の圧力との差圧作用により、クランプ位置にできた僅かな間隙から液体試料85,94が漏れ出す。
【0008】
そのため、測定装置、試料容器、測定装置の周辺、測定者の手などを汚染させる不具合が生じる。測定面が皺になったり、不均一な張力による弛みになったりすると試料毎の測定面の高さが異なり分析精度が悪化する。
【0009】
測定後、試料を回収し試料容器を再度利用するためにフィルムを試料容器から取り除く作業を行う必要がある。しかし、従来の試料容器では突条(クランプ部)を有しているため、フィルムを試料容器から取り除く時に、試料容器に傷を付けたり、2枚のフィルムを使用する場合でも、試料容器を試料で汚染させるなどして、再度、試料容器を使用できなくなる場合がある。
【0010】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具ならびにそれを用いる蛍光X線分析方法および装置において、液体だけでなく粉体や固体試料の分析作業の効率化と簡易化を図るとともに、試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることにより分析精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成にかかる蛍光X線分析用試料保持具は、試料に下方から1次X線を照射して蛍光X線分析するために用いられるものであって、枠体と、その枠体に付着された付着部、前記枠体の外周よりも外側の外周部および前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部を有するフィルムとを備え試料を保持する。
【0012】
本発明の第1構成によれば、試料測定面を構成するフィルムが枠体に皺のない状態で均一な張力で張られているので、測定者自らがフィルムを張ることなく試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることにより分析精度を向上させることができる。したがって、測定試料の準備に熟練度を必要としない。また、本発明の第1構成によれば、試料は1枚のフィルム、または1枚のフィルムとフィルムに付着された枠体のみに接触するので、従来技術のようにフィルムとホルダとの間や2枚のフィルムの間に間隙が形成されることはなく、クランプ部に液体試料の圧力がかからず、液体試料圧力とクランプ位置にできた僅かな間隙の圧力との差圧作用により、クランプ位置にできた僅かな間隙から液体試料が漏れ出すことはない。
【0013】
本発明の第1構成においては、枠体は1mm程度の厚みを有するポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いるのが好ましく、枠体が付着されるフィルムには、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンまたはポリイミドを用いるのが好ましい。枠体とフィルムの付着部との付着にはプラスチックフィルムを接着できる接着剤を用いる方法や熱溶着や超音波溶着などの付着方法であればよく、特に方法を問わない。
【0014】
本発明の第2構成にかかる蛍光X線分析方法は、前記第1構成の蛍光X線分析用試料保持具と下部にX線を通過させるための開口を有する筒状のホルダとを用いるものであって、前記透過部が前記ホルダの開口を覆い、前記外周部が前記ホルダの側部の内面を覆うように、前記蛍光X線分析用試料保持具を前記ホルダに装着し、上方から液体または粉体試料を注いで、前記透過部を介して前記試料に下方から1次X線を照射して、発生する2次X線の強度を測定する。
【0015】
本発明の第3構成にかかる蛍光X線分析装置は、前記第1構成の蛍光X線分析用試料保持具を用いるものであって、試料を保持した前記蛍光X線分析用試料保持具の透過部を介して、前記試料に下方から1次X線を照射するX線源と、前記試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段とを備える。
【0016】
本発明の第2、第3構成によれば、前記第1構成の蛍光X線分析用試料保持具を用いるので、第1構成と同様の作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態である蛍光X線分析用試料保持具について説明する。この試料保持具は、試料の含有成分を蛍光X線分析するために用いられるものであって、図1に示すように、試料を保持するX線透過性フィルムを安定に保持するための例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材料からなる輪状の枠体2と、その枠体にプラスチック用接着剤で付着された付着部1a、その枠体2の外周よりも外側の外周部1cおよび前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部1bを有する厚さ10μm未満の例えばポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレンまたはポリイミドなどの樹脂材料からなるフィルム1を備え、下部にX線を通過させるための開口7を有する円筒状のホルダ6に、透過部1bがホルダ6の開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着されることにより、上方から注がれた液体試料9を保持する。
【0018】
本実施形態の試料保持具5は、輪状の枠体2の内外周と円筒状のホルダ6の側部の内径とが同心状に装着して使用されるものであるので、輪状の枠体2の外周の直径は使用される円筒状のホルダ6の側部の内径より少し小さいことが望ましく、輪状の枠体2の内周の直径は試料を測定するのに充分なX線が透過できる径であることが望ましいので、枠体2の外内周の直径は所定のホルダ6の側部の内径と開口7の直径に適合した所定の寸法のものであればよい。試料9を保持するX線透過性フィルム1を安定に保持するため枠体2は、耐薬品性および使用後の廃棄処理を考慮すると、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材料がよい。また、フィルムを安定に保持するための厚みは0.5mm以上、2mm以下の厚みを有することが望ましく、1mm程度がより望ましい。
【0019】
図2に試料保持具5の上面図を示すように、枠体2は外周の直径d2が40mm、内周の直径d1が30mm、厚みが1mmであるポリプロピレンであり、枠体2の内周の中心位置が厚さ6μm、直径(図2のd3)90mmの円形のポリエチレンテレフタレートフィルム1の中心部に位置するようにプラスチック用付着剤でフィルム1の付着部1aに付着され枠体2の外周よりも外側の外周部1cおよび枠体2の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部1bが構成されている。
【0020】
フィルム1と枠体2の付着には、例えば、スプレーのり(成分はアクリルゴム(10%)、有機溶剤(54%)およびイソヘキサンガス(36%)で、噴射用高圧ガスはジメチルエーテル)を枠体の裏に吹き付けて、フィルム1の中央部に貼付されている。貼付に用いる接着剤は、このスプレーのりに限らず、分析の障害とならないものであればよい。図3に示すように、枠体2の下部全面がフィルム1に付着され付着部1aを構成している。なお、図示と理解の容易のため、図で表した各部の厚さは実際の寸法とは異なる。
【0021】
図1に示すように、この試料保持具5は下部にX線を通過させるための開口7を有する円筒状のホルダ6、例えば、従来から蛍光X線分析に使用されている底部6aを有する下面照射用液体ホルダ6に、枠体2がフィルム1の下方に位置して、透過部1bが枠体2の内周部とともにホルダの開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着されることにより、上方から注がれた液体試料9を保持する。
【0022】
上記例では試料保持具の枠体2を輪状のものについて説明したが、輪状のものに限らず試料を安定に保持でき、試料を測定するのに充分なX線が透過できる透過部1bを有する構造であれば多角形や楕円形などの枠体でもよく、枠体の内外周の大きさや厚みなどについても輪状のものと同程度のものであればよい。
【0023】
上記例では試料保持具の外周部1cを円形のものを図示したが、試料保持具の外周部1cの外縁部をホルダの上部の開放部8に固定できればよいものであるので、円形である必要はなく、例えば楕円や多角形などのものであってもよい。また、試料保持具の円形の直径を90mmとしたが、試料保持具の外周部1cは試料の保持作業が容易にできる大きさのものであればよい。
【0024】
上記例ではホルダ6に底部6aを有するものを図示したが、試料保持具5の透過部1aが底部を有さない筒状のホルダの開口を覆い、試料保持具5の外周部1cが底部を有さない筒状のホルダの側部の内面を覆うように、試料保持具5の底部を有さない筒状のホルダに装着し試料を保持してもよい。本実施形態では、円筒状のホルダ6について説明したが、楕円筒や角筒などの筒状のものでもよく、試料保持具5の枠体2の形状に適合した形状のホルダを用いるのが望ましい。
【0025】
上記では、円筒状のホルダ6に、枠体2がフィルム1の下方に位置して、透過部1bが枠体2の内周部とともにホルダの開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着した例を示したが、図4に示すように、ホルダ6に、枠体2がフィルム1の上方に位置して、透過部1bがホルダの開口7を覆い、外周部1cがホルダ6の側部の内面を覆うように装着した例について以下に説明する。
【0026】
枠体2がフィルム1の上方に位置するように装着すると、枠体2がフィルム1の下方に位置するように装着した場合に比べ、試料9の測定面である透過部1bと1次X線21との距離が枠体2の厚みの距離だけ近づき試料9から発生する2次X線22の強度が増大し、分析感度が向上する。より高感度の分析を望む場合に適した例である。
【0027】
その反面、枠体2をフィルム1の上方に位置するように装着した場合は、枠体2が液体試料9と接触する。また、付着部1aを接着剤で付着した場合には、測定する液体試料の種類によっては液体試料9が付着部1aと枠体2の間に浸透し接着剤中の成分を溶出させ、その成分が測定対象元素に影響を与えることが考えられる。したがって、この場合には分析開始前に測定する試料の内容や測定対象元素を検討する必要がある。特に、測定対象元素に影響を与える可能性の低い水溶液性の試料の分析に用いるのが好ましい。枠体を接着剤を用いず熱溶着や超音波溶着で付着させた場合には、上記のような配慮は不要となる。
【0028】
試料9が気化し易い試料であったり、試料の気化ガスによって測定装置が汚染されたり、腐食されたりする場合や液体試料を注ぎ込んだホルダ6の搬送時に液体試料を溢すなどの心配がある場合には、試料の気化ガスや液体試料がこぼれないようにホルダ上部の開放部8に図5に示すように、ガス抜きキャップや多孔質膜14などの通気性のある材料などを保持した蓋16でホルダ上部の開放部8を覆うことが望ましい。より確実に試料保持具の外周部1cをホルダ6の側部上面で固定する必要がある場合には、第2実施形態で説明する膜押さえ37(図7参照)を蓋16と共に用いてもよい。蓋16が不要な場合には、膜押さえ37のみを用いてより確実に外周部1cを固定してもよい。
【0029】
上記では、試料保持具5では筒状のホルダを用いて試料を保持することについて説明したが、筒状のホルダを用いず試料保持具のみで試料を保持してもよい。試料保持具5の透過部1bに微量の液体や少量のゲル状物や粉体の試料などを載せ、試料を包み込むように試料の上方で試料保持具5の外周部1cをクリップ等で止め試料を保持する。また、蛍光X線分析装置の試料ターレットや試料測定部の試料を載置する凹状の窪みの底部に試料保持具5の枠体2を上方より合わせ、試料保持具5の外周部1cが試料を載置する凹状の窪みの側部の内面を覆うように、試料保持具5を装着し、上方より液体や粉体の試料を注ぎ込み試料の上方で試料保持具5の外周部1cをクリップ等で止め試料を保持してもよい。上記したように本発明の試料保持具は液体試料だけではなく、ゲル状体、粉体、固体などの試料を保持するものである。
【0030】
本発明の試料保持具5の透過部1bでは試料測定面を構成するフィルム1が枠体2に皺のない状態で、均一な張力で張られているので、従来技術のように試料容器の透過部としてフィルムを測定者自らが皺のない状態で張ったり、均一な張力で張るという作業をすることなく、試料保持具5を円筒状のホルダ6に装着し、ホルダ6の上方から試料9を注ぎ込みホルダ6の上下をひっくり返すことなく、そのまま蛍光X線分析装置にセットすれば測定を行うことができ、分析作業の簡易化が図れる。試料測定面を構成する透過部1bのフィルム1が枠体2に皺のない状態で、均一な張力で張られており、試料毎の測定面の高さ位置を測定面全面にわたって同一にすることができ、測定者は熟練を要さずに高精度の分析を行うことができる。
【0031】
また、従来技術のように液体試料を保持する場合に起こる液体試料の漏れについても、本発明の試料保持具5は、液体試料と1枚のフィルム、または1枚のフィルムとフィルムに付着された枠体のみに接触するので、従来技術のようにフィルムとホルダとの間や2枚のフィルムの間に間隙が形成されることはなく、クランプ部に液体試料の圧力がかからず、液体試料圧力とクランプ位置にできた僅かな間隙の圧力との圧力差により、クランプ位置にできた僅かな間隙から液体試料が漏れることはない。上記したように筒状のホルダを用いず試料保持具のみで試料を保持できるので、分析作業の簡易化が図れる。また、本発明の試料保持具は液体試料だけではなく、ゲル状体、粉体、固体などの試料も保持することができる。
【0032】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析方法について説明する。この分析方法に使用される蛍光X線分析装置40は、本発明の第3実施形態であり、図6に示すように、第1実施形態の蛍光X線分析用試料保持具5を用いる装置であって、試料保持具5が直接またはホルダ6を介して載置される試料台である試料ステージ25と、下部にX線を通過させるための開口7を有し、試料保持具の透過部1bが開口7を覆い、試料保持具の外周部1cが円筒状の側部の内面を覆うように装着された円筒状のホルダ6と、円筒状のホルダ6の内部に装着され、上方から注がれた液体試料を保持した試料保持具の透過部1bの部位に1次X線14を照射するX線管などのX線源23と、試料保持具の透過部1bの部位の試料から発生する蛍光X線などの2次X線15の強度を測定するX線検出器などの検出手段24と、を備えている。
【0033】
この装置40を使用する第2実施形態の蛍光X線分析方法は、第1実施形態の蛍光X線分析用試料保持具5を用いる方法であって、試料保持具5を散乱X線の発生が少ない樹脂製やアルミニウムまたはチタン等の金属製の円筒状のホルダの開口7を試料保持具5の透過部1bが覆い、試料保持具の外周部1cが円筒状のホルダ6の側部の内面を覆うように装着し、液体や粉体試料を注ぐ作業を容易にするために試料保持具の外周部1cの外縁部をホルダ6の開放部8を構成する側部の上端部で外側に折り曲げ、液体または粉体試料9をホルダ6の上方より注ぎ込み試料保持具5に液体または粉体試料9を保持させ、そのホルダ6を試料ステージ25に載置し、試料保持具の透過部1bを介して試料に下方から1次X線14を照射し、試料から発生する2次X線15の強度を測定する。
【0034】
本実施形態では、試料保持具の枠体2を輪状のものについて説明したが、第1実施形態と同様に試料を安定に保持でき、試料を測定するのに充分なX線が透過できる透過部1bを有する構造であれば多角形や楕円形などの枠体でもよく、枠体の内外周の大きさや厚みなどについては輪状のものと同程度のものであればよい。
【0035】
本実施形態では、試料保持具の外周部1cを円形のものについて説明したが、第1実施形態と同様に円形である必要はなく、例えば楕円や四角形、多角形などのものであってもよいし、試料保持具の外周部1cは試料の保持作業が容易にできる大きさのものであればよい。
【0036】
第1実施形態と同様に、試料が気化し易い試料であったり、試料の気化ガスによって測定装置が汚染されたり、腐食されたりする場合や液体試料を注ぎ込んだホルダの搬送時に液体試料を溢すなどの心配がある場合には、ホルダ上部の開放部8に図5に示すように、ガス抜きキャップや多孔質膜14などの通気性のある材料などを保持した蓋16でホルダ上部の開放部8を覆うことが望ましい。より確実に試料保持具の外周部1cをホルダ6の側部上面で固定する必要がある場合には、下記する膜押さえ37(図7参照)を蓋16と共に用いてもよい。蓋16が不要な場合には、膜押さえ37のみを用いてより確実に外周部1cを固定してもよい。
【0037】
上記例ではホルダ6に底部6aを有するものを図示したが、試料保持具5の透過部1aが底部を有さない筒状のホルダ36(図7参照)の開口を覆い、試料保持具の外周部1cが底部を有さない筒状のホルダ36の側部の内面を覆うように、底部を有さない筒状のホルダ36に試料保持具5を装着し試料9を保持してもよい。底部を有さない筒状のホルダ36に試料保持具5を装着し試料9を保持する方法の一例について以下に説明する。
【0038】
図7(A)に示すように、試料保持具5の輪状の枠体2が下方に位置するように台上(図示していない)に置き、外周部1cを透過部1b方向に折り込み、折り込まれた外周部1cであって付着部1aに隣接する周辺部を輪状の枠体2と試料保持具5の輪状の枠体2の内外周径とほぼ同径の内外周径を有する円筒状のホルダ36の側部下面36aとでサンドイッチ状に挟み込む。挟み込まれていない外周部の部分を円筒状のホルダ36の側部の内面を覆うように試料保持具5を円筒状のホルダ36に装着し、図7(B)に示すように、外周部1cの外縁部をリング状のフィルム押さえ37と円筒状のホルダ36の側部上面36bとで固定し、図7(C)に示すように、液体または粉体試料9をホルダ36の上方より注ぎ込む。その後、空気孔を有するキャップ38でフィルム押さえ37を上方より固定することにより試料保持具5に液体または粉体試料9が保持される。そのホルダ36を試料ステージ25に載置し、試料保持具の透過部1bを介して試料9に下方から1次X線14を照射し、試料9から発生する2次X線15の強度を測定する(図6参照)。
【0039】
本実施形態では、リング状のフィルム押さえ37や空気孔を有するキャップ38の両方を用いたが、キャップ38を用いずにフィルム押さえ37のみを用いてもよいし、キャップ38のみを用いてもよい。
【0040】
本実施形態では、円筒状のホルダ6、36について説明したが、第1実施形態と同様に楕円筒や角筒などの筒状のものでもよく、試料保持具5の枠体2の形状に適合した筒状のホルダを用いるのが望ましい。
【0041】
第1実施形態と同様に、試料保持具5の枠体2がフィルム1の下方に位置するようにホルダ6、36に装着してもよいし、試料保持具5の枠体2がフィルム1の上方に位置するようにホルダ6、36に装着してもよい。
【0042】
以上のように試料ステージ25に載置した試料保持具5またはホルダ6、36に装着されている試料保持具5の透過部1bの部位に1次X線14を照射して、試料9から発生する2次X線15の強度を測定し蛍光X線分析を行う。蛍光X線分析装置40はエネルギー分散型でも波長分散型のどちらの装置であってもよい。第2、第3実施形態の方法、装置によれば、第1実施形態の蛍光X線分析用試料保持具5を用いるので、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態である蛍光X線分析用試料保持具とホルダの断面図である。
【図2】同試料保持具の上面図である。
【図3】同試料保持具の断面図である。
【図4】同試料保持具をホルダに装着する変形例を示す断面図である。
【図5】同試料保持具、ホルダおよび蓋の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析方法に使用される、本発明の第3実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図7】(A),(B),(C)は、第2実施形態の試料を保持する方法の各手順を示す断面図である。
【図8】第1の従来例の断面図である。
【図9】前記図8の従来例の分解斜視図である。
【図10】第2の従来例の断面図である。
【図11】(A),(B),(C)は、前記図10の従来例の試料を保持する方法の各手順を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 フィルム
1a 付着部
1b 透過部
1c 外周部
2 枠体
5 試料保持具
6、36 筒状のホルダ
7 筒状のホルダの開口
9 試料
14 1次X線
15 2次X線
23 X線源
24 検出手段
40 蛍光X線分析装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に下方から1次X線を照射して蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具であって、
枠体と、
その枠体に付着された付着部、前記枠体の外周よりも外側の外周部および前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部を有するフィルムとを備えた蛍光X線分析用試料保持具。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析用試料保持具と下部にX線を通過させるための開口を有する筒状のホルダとを用いる蛍光X線分析方法であって、
前記透過部が前記ホルダの開口を覆い、前記外周部が前記ホルダの側部の内面を覆うように、前記蛍光X線分析用試料保持具を前記ホルダに装着し、上方から液体または粉体試料を注いで、
前記透過部を介して前記試料に下方から1次X線を照射して、発生する2次X線の強度を測定する蛍光X線分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光X線分析用試料保持具を用いる蛍光X線分析装置であって、
試料を保持した前記蛍光X線分析用試料保持具の透過部を介して、前記試料に下方から1次X線を照射するX線源と、
前記試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【請求項1】
試料に下方から1次X線を照射して蛍光X線分析するために用いられる蛍光X線分析用試料保持具であって、
枠体と、
その枠体に付着された付着部、前記枠体の外周よりも外側の外周部および前記枠体の内周よりも内側でX線を透過させるための透過部を有するフィルムとを備えた蛍光X線分析用試料保持具。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析用試料保持具と下部にX線を通過させるための開口を有する筒状のホルダとを用いる蛍光X線分析方法であって、
前記透過部が前記ホルダの開口を覆い、前記外周部が前記ホルダの側部の内面を覆うように、前記蛍光X線分析用試料保持具を前記ホルダに装着し、上方から液体または粉体試料を注いで、
前記透過部を介して前記試料に下方から1次X線を照射して、発生する2次X線の強度を測定する蛍光X線分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光X線分析用試料保持具を用いる蛍光X線分析装置であって、
試料を保持した前記蛍光X線分析用試料保持具の透過部を介して、前記試料に下方から1次X線を照射するX線源と、
前記試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−317153(P2006−317153A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136884(P2005−136884)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]