蝶番
【課題】一方の蝶番要素を取り付けたドアを閉成位置から開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる蝶番を提供する。
【解決手段】蝶番100は、カム溝129として、傾斜切替領域を頂点とした略逆V字形状(山折り型)のものを適用し、カムピン127がカム溝129の第1傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合、及びカムピン127がカム溝129の第2傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合に、第2軸筒115内において第1軸筒107から離反する方向に移動する筒状カム部材123によって圧縮バネ125を圧縮方向に押圧するように構成した。
【解決手段】蝶番100は、カム溝129として、傾斜切替領域を頂点とした略逆V字形状(山折り型)のものを適用し、カムピン127がカム溝129の第1傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合、及びカムピン127がカム溝129の第2傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合に、第2軸筒115内において第1軸筒107から離反する方向に移動する筒状カム部材123によって圧縮バネ125を圧縮方向に押圧するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアを回転動作可能に支持する蝶番に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドアに取付可能な蝶番要素と、ドアによって開閉される開口部の開口縁部(例えばドア枠)に取付可能な蝶番要素とを備え、ドアに取り付けた一方の蝶番要素を他方の蝶番要素に対して回転させることによりドアを開閉動作可能に支持する蝶番が知られている。特に、開成位置にあるドアを閉成方向へ回転させた場合に、適宜のカム構造やバネの作用さらにはドア自体の自重によりドアを自動的に閉止位置へ移動させることが可能な蝶番も開発され、実用化されている(例えば特許文献1,2,3)。
【0003】
これら各特許文献には、カム構造として、カムピンが係合可能なカム溝を一方向にのみ傾斜させた形状に設定したカム溝にカムピンを係合させる態様が開示されている。このようなカム構造を採用することによって、カム溝のうち最も高い位置にカムピンを係合させた開成位置から閉成方向へドアを回転させて、カムピンをカム溝に係合させながらカム溝のうち最も低い位置に向かって移動させることにより、ドアを自動的に閉成位置に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3485383号公報
【特許文献2】実開平7−19554号公報
【特許文献3】実開昭59−179978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、カム溝として一方向にのみ傾斜させた形状のものを適用しているため、ドアを閉成位置から開成位置へ移動させる場合には、カム溝のうち最も低い位置に係合させたカムピンがカム溝のうち最も高い位置に到達する地点までドアを回転させる操作力を付与し続けなければならず、ドアを自動的に開成位置に移動させることはできない。なお、上述したような形状をカム溝のうち最も高い位置にカムピンを係合させた状態で閉成位置となるように設定した場合には、カムピンをカム溝のうち最も低い位置に向かって移動させることによってドアを自動的に開成位置に移動させることができるが、ドアを開成位置から閉成位置へ自動的に移動させることはできない。
【0006】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、カム溝及びカムピンを用いたカム構造を利用して、一方の蝶番要素を取り付けたドアを閉成位置から開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる蝶番を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、開口部を回転しながら開閉し得るドアと開口部の縁部との間に介在し、ドアを回転可能に支持する蝶番に関するものである。なお、「開口部の縁部」(開口縁部)とは、開口部内の空間を他の空間と仕切り得る部分であり、建物の壁の一部に開口部を形成(確保)した態様では、壁自体が「開口縁部」に相当する場合もあれば、壁に取り付けたドア枠が「開口縁部」に相当する場合もある。
【0008】
本発明に係る蝶番は、第1軸筒を有する第1蝶番要素と、第2軸筒を有する第2蝶番要素と、一端部側領域を第1軸筒内に回転不能に挿入するとともに他端部側領域を第2軸筒内に回転可能に挿入してこれら軸筒同士を同軸上に配置するシャフトと、第2軸筒内に回転不能な状態で軸方向に昇降移動可能に収容され、且つシャフトの他端部側領域に設けたカムピンが係合可能なカム溝を有する筒状カム部材と、第2軸筒内に収容される圧縮バネとを備えたものである。
【0009】
ここで、第1蝶番要素または第2蝶番要素の何れか一方がドアに取り付けられるものであり、他方が開口縁部に取り付けられるものである。また、シャフトを介して第1軸筒と第2軸筒とを同軸上に配置した状態で何れの軸筒が相対的に上側に配置されてもよい。つまり、シャフトの一端部側領域が上端部側領域又は下端部側領域の何れであっても構わない。
【0010】
そして、本発明に係る蝶番は、カム溝として、カム溝のうち最も第1軸筒に近接した領域である傾斜切替領域と、傾斜切替領域の一端から延伸し、第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第1傾斜領域と、傾斜切替領域の他端から第1傾斜領域とは異なる方向に延伸し、第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第2傾斜領域とを有するものを適用して、カムピンがカム溝の第1傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合、及びカムピンがカム溝の第2傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合に、第2軸筒内において第1軸筒から離反する方向に移動する筒状カム部材によって圧縮バネを圧縮方向に押圧するように構成していることを特徴としている。
【0011】
ここで、「傾斜切替領域」は、カムピンが当該領域で停止可能な形状に設定した領域であってもよいし、カムピンが当該領域で停止不能な形状、すなわち第1傾斜領域又は第2傾斜領域の一方から傾斜切替領域へ到達したカムピンが直ちに他方の傾斜領域へ移動し得るような形状に設定した領域でも構わない。
【0012】
そして、本発明の蝶番であれば、第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して所定方向(この方向を順方向とする)に回転させた場合、第1蝶番要素と共にシャフトが第2軸筒に対して回転することにより、第2軸筒内においてカムピンがカム溝の第1傾斜領域又は第2傾斜領域の何れか一方(例えば第1傾斜領域)にガイドされながら傾斜切替領域に向かって移動する。この際、シャフトは第1軸筒側への移動が規制されているため、筒状カム部材は、第2軸筒内において第1軸筒から離反する方向に移動する。すると、この筒状カム部材によって圧縮バネが圧縮方向に押圧される。そして、カムピンが傾斜切替領域に到達し、そのまま傾斜切替領域を越えて他方の傾斜領域(例えば第2傾斜領域)に進入すると、押される力に対して戻ろうとする圧縮バネの作用(復元力)によって、カムピンは当該傾斜領域(例えば第2傾斜領域)を傾斜切替領域から離反する方向へ自動的に移動する。
【0013】
ここで、第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して正方向に回転させる前の状態を第1状態とし、この第1状態において第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して正方向に回転させ、カムピンが第1傾斜領域から傾斜切替領域を越えて第2傾斜領域を自動的に移動した後の状態を第2状態とすると、本発明に係る蝶番は、第1状態において第1蝶番要素を正方向に所定角度回転させる操作力を与えることによって自動的に第2状態へと移行することができる。
【0014】
また、第2状態において第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して逆方向に回転させた場合、第1蝶番要素と共にシャフトが第2軸筒に対して回転することにより、第2軸筒内においてカムピンがカム溝の第2傾斜領域にガイドされながら傾斜切替領域に向かって移動する。この際、シャフトは第1軸筒側への移動が規制されているため、筒状カム部材は、第2軸筒内において第1軸筒から離反する方向に移動する。すると、この筒状カム部材によって圧縮バネが圧縮方向に押圧される。そして、カムピンが傾斜切替領域に到達し、そのまま傾斜切替領域を越えて第1傾斜領域に進入すると、圧縮バネの復元力によって、カムピンは当該傾斜領域を傾斜切替領域から離反する方向へ自動的に移動する。その結果、蝶番は、第2状態において第1蝶番要素を逆方向に所定角度回転させる操作力を与えることによって自動的に第1状態へと移動する。
【0015】
このように、本発明に係る蝶番は、カム溝として、傾斜領域を境に相互に異なる方向へ傾斜させた2つの傾斜領域を形成したものを適用しているため、ドアに取り付けられる一方の蝶番要素にドアを取り付け、他方の蝶番要素を開口縁部に取り付ければ、閉成位置にあるドアを開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる。
【0016】
しかも、本発明の蝶番であれば、各傾斜領域の傾斜角度や、カムピンが各傾斜領域をトレースする際に生じるカム溝とカムピンとの摩擦力が適宜の値となるようにカム溝やカムピンの形状を調整することにより、自動開成動作及び自動閉成動作を行う際に良好なダンパ機能を奏し、蝶番の適宜箇所にカセット式ダンパを取り付ける態様と比較して、構造の複雑化及び高コスト化を回避することができ、実用性に優れたものとなる。
【0017】
また、本発明の蝶番では、筒状カム部材として単一のカム溝を有するものを適用してもよいが、筒状カム部材にカム溝を複数形成したものを適用するとともに、シャフトとしてカム溝と同数のカムピンを備えたものを適用することもできる。このような構造であれば、各カムピンに作用する負荷を分散することができ、カムピンに過大な負荷が集中的に作用してカム溝に不用意に噛み込んでしまう事態を防止・抑制することができる。
【0018】
さらに、本発明の蝶番において、筒状カム部材に複数のカム溝を形成する場合、複数のカム溝を筒状カム部材の周方向に位相を異ならせた位置に形成すれば、同一位相に複数のカム溝を形成した場合と比較して、筒状カム部材がカム溝から受ける荷重をより一層効果的に分散することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、カム溝として、傾斜切替領域と、この傾斜切替領域との接続点を起点とする傾斜方向が相互に異なる2つの傾斜領域とを連続して有する略山折り形状のものを適用することによって、一方の蝶番要素を取り付けたドアを閉成位置から開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる蝶番を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る蝶番を適用したドアシステムの全体概略図。
【図2】同実施形態に係るドアシステムの平面模式図。
【図3】同ドアシステムにおいてドアが開成位置にある状態の図2対応図。
【図4】本実施形態に係る蝶番の分解概略図。
【図5】同蝶番の第1蝶番要素の平面図。
【図6】同第1蝶番要素の正面図。
【図7】同蝶番の第2蝶番要素の平面図。
【図8】同第2蝶番要素の正面図。
【図9】同蝶番のシャフトの正面図。
【図10】図9のY方向矢視図。
【図11】図9とは異なる角度から見たシャフトの部分断面図。
【図12】同蝶番の軸受の正面図。
【図13】図12のY方向矢視図。
【図14】同蝶番の一部を断面にして示す作用説明図。
【図15】同蝶番の筒状カム部材の展開した状態を一部簡略して示す図。
【図16】同蝶番の作用説明図。
【図17】同蝶番の作用説明図。
【図18】同蝶番の作用説明図。
【図19】同実施形態に係る蝶番の一変形例を適用したドアシステムの図3対応図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る蝶番100は、例えば室内空間と室外空間とに連通する開口部Sを回転しながら開閉し得るドアD(回転扉)に適用可能なものである。本実施形態では、図1に示すように、開口部Sの周囲にドア枠Wを設けており、このドア枠Wが開口部S内の空間を他の空間と仕切り得る本発明の「開口部の縁部」(開口縁部)に相当する。
【0023】
ドアDは、図2及び図3に示すように、一方の側縁部を吊元側として、開口部Sに嵌って当該開口部Sを閉成し得る閉成位置(C)と、開口部Sを開放した開成位置(O)との間で回転しながら移動するものである。本実施形態では、開口部Sに対するドアDの開き角度が略180度となる位置を開成位置(O)に設定している。
【0024】
そして、本実施形態に係る蝶番100は、ドアDを回転動作可能に支持し、且つ開成位置(O)と閉成位置(C)との間の中途位置にあるドアDを開口部Sに対する所定の開き角度を境に開成方向又は閉成方向の何れかに付勢するものである。図1乃至3には蝶番100に加えて、ドアDを開成位置(O)に保持するドアキャッチャ200、ドアDを閉じる際の衝撃(衝撃音)を吸収し得るドアダンパ300、及びドアDを閉成位置(C)に保持するラッチ機構400を備えたドアシステムXを示している。
【0025】
本実施形態では、ドアキャッチャ200、ドアダンパ300、及びラッチ機構400は、それぞれ既知のものを適用しており、以下に簡単に説明する。
【0026】
ドアキャッチャ200は、図1乃至3に示すように、床面に固定されるドアキャッチャ本体201と、ドアDに固定されるロックピン203とを備え、ドアDが開成位置(O)に到達した際に、ロックピン203をドアキャッチャ本体201で拘束することによってドアDを開成位置(O)に自動的に保持するものである。
【0027】
ドアダンパ300は、図2及び図3に示すように、ドアDに取り付けられて閉成位置(C)に到達する前の所定時点から閉成位置(C)に到達する時点までダンパ機能を発揮するダンパ本体301と、ドア枠Wに取り付けられる受座303とを備えたものである。本実施形態では、ダンパ本体301を、油圧式ダンパを内蔵した本体部305と、本体部305に対して所定の抵抗力を受けた状態で回動可能な引込アーム307とを備えたものを適用している。引込アーム307には、受座303の軸状突起部309にガイドされるガイド溝311を形成している。そして、ドアDを開成位置(O)から閉成位置(C)に向かって移動させてドアDの開口部Sに対する開き角度が所定値(本実施形態では10度)となった時点で、ガイド溝305内に受座303の軸状突起部309が入り込み、さらにドアDの閉成方向への移動に伴って、引込アーム307全体が、ガイド溝305に対する軸突起部309の進入度合いを大きくしながら、ダンパ本体301の本体部305に対して所定の抵抗力を受けた状態で回転する。これにより、ドアダンパ300は、ドアDの閉成動作時に適切なダンパ機能を発揮し、閉成方向に向かうドアDを減速させて閉成位置(C)に到達する際のドアDの衝撃(衝撃音)を抑制することができるとともに、ガイド溝305に軸状突起部309をガイドさせることによってドアD全体を閉成位置(C)にまで適切に引き込むことができる。
【0028】
ラッチ機構400は、反吊元側の側縁部の所定の高さ位置においてドアDの幅方向に突没動作可能なラッチ爪401と、開口部Sのうち反吊元側の側縁部(ドア枠Wの側縁部W1)に形成したラッチ孔403とを備え、ラッチ爪401を、ドアDの側縁部よりもドアDの幅方向に突出させた突出状態と、ドアDの側縁部よりもドアDの幅方向中央側に退避させた退避状態との間で変化させ、突出状態にあるラッチ爪401がラッチ孔403に係合することによってドアDを閉成位置(C)に保持するものである(図2参照)。本実施形態では、バネ等の適宜の付勢手段(図示省略)によりラッチ爪401が常時突出状態となるように設定している(図1乃至図3参照)。
【0029】
このラッチ機構400は、閉成位置(C)にないドアDが閉成方向に移動した場合に、閉成位置(C)に到達する直前で、それまで突出状態にあるラッチ爪401がドア枠Wの反吊元側の側縁部に当たることで一時的にドアDの幅方向に没入して退避状態となり、ドアDが閉成位置(C)に到達した時点でドア枠Wの側縁部W1との干渉が解消されたラッチ爪401が突出状態となってラッチ孔403に係合することによって、ドアDを閉成位置(C)に保持することができる。また、ラッチ爪101の突出状態と退避状態との切替は、ドアDに設けたノブNに対する操作で行うことができる。
【0030】
そして、本実施形態に係る蝶番100は、図1に示すように、ドアDに取り付けられる第1蝶番要素101と、ドアDによって開閉可能な開口部Sを有するドア枠Wに取り付けられる第2蝶番要素103とを備えたものである。本実施形態では、第1蝶番要素101を第2蝶番要素103よりも相対的に上側に配置する上側蝶番要素とするとともに、第2蝶番要素103を相対的に下側に配置する下側蝶番要素としている。
【0031】
第1蝶番要素101は、図4乃至図6(図5、図6はそれぞれ第1蝶番要素101の平面図、正面図である)に示すように、第1羽根板105と、第1羽根板105の一方の側縁部に形成した第1軸筒107とを備え、第1羽根板105の所定箇所(図示例では4隅近傍箇所)に形成したビス取付用孔109に挿入したビスをドアDに形成したネジ孔に螺合させることによって、ドアDに固定可能なものである。第1軸筒107の上端部には上側キャップ111を装脱可能に取り付けている。
【0032】
第2蝶番要素103は、図4、図7及び図8(図7、図8はそれぞれ第2蝶番要素103の平面図、正面図である)に示すように、第2羽根板113と、第2羽根板113の一方の側縁部に形成した第2軸筒115とを備え、第2羽根板113の所定箇所(図示例では4隅近傍箇所と中央部)に形成したビス取付用孔117に挿入したビスをドア枠Wに形成したネジ孔に螺合させることによってドア枠Wに固定可能なものである。第2軸筒115の下端部には下側キャップ119を装脱可能に取り付けている。
【0033】
本実施形態に係る蝶番100は、これら蝶番要素(第1蝶番要素101、第2蝶番要素103)に加えて、上端部側領域を第1軸筒107内に回転不能に挿入するとともに下端部側領域を第2軸筒115内に回転可能に挿入して、これら軸筒(第1軸筒107、第2軸筒115)同士を同軸上に配置するシャフト121と、第2軸筒115内に回転不能な状態で軸方向Aに昇降移動可能に収容した筒状カム部材123と、第2軸筒115内に収容される圧縮バネ125とを備えている。
【0034】
シャフト121は、図4に示すように、第2軸筒115内に挿入する概略円柱状の下端部側領域にカムピン127を一体又は一体的に設けている。カムピン127の数や形成箇所は、後述するカム溝129の数や形成箇所に対応させている。本実施形態では、一対のカムピン127をシャフト121のうち、周方向に所定角度(図示例では略180度)位相を異ならせた箇所に設け、これらカムピン127をシャフト121の軸方向A(高さ方向)に段違いに設けている。また、図9及び図10(図9はシャフト121の正面図であり、図10は図9のY方向矢視図である)に示すように、シャフト121の高さ方向中央部近傍には、後述するボールベアリング131を回転可能に保持するボールベアリング保持部133を設けている。シャフト121のうち上端部側領域の外周面の一部には軸方向Aに沿って延びる平坦部135を形成している。なお、図11に示すように、シャフト121として、上端部の端面に開口するネジ孔122と、ネジ孔122の先端部に連通し且つシャフト121の外周面に開口するボール保持用孔124とを有するものを適用することができる。この場合、ボール保持用孔124にボール126を収容した状態でネジ孔122に対する六角穴付き止めねじ128(ホーローセット)の螺合程度(進入距離)を変更することによって、シャフト121の外周面に対するボール126の突出具合を調整することができる。本実施形態では、このようなシャフト121の上端部側領域を、第1軸筒107内に回転不能に設けた軸受137に挿入している。シャフト121の上端部側領域を軸受137に挿入する際には、シャフト121の外周面に対するボール126の突出量をゼロまたはほぼゼロ以下に設定しておき、シャフト121の上端部側領域を軸受137に挿入した後で、例えば六角レンチ等の工具を用いてネジ孔122に対する六角穴付き止めねじ128(ホーローセット)の螺合程度(進入距離)を調整し、シャフト121の外周面に対するボール126の突出量を増やしてボール126を軸受137の内周面に押し付ける(図示省略)。その結果、このシャフト121を介して第1軸筒107と第2軸筒115を同軸上に強固に連結することができる。また、ボール126を第1軸筒107の内周面に直接又は間接的に(本実施形態では軸受137の内周面を介して間接的に)に接触させておくことにより、ドアDの開閉に伴う第1軸筒107と第2軸筒115との相対回転時に、バネ125やカム機構(カムピン127、カム溝129)の作動に起因して軸筒107,115内で響き得る音の発生を防止・抑制することができる。
【0035】
軸受137は、図4、図12及び図13(図12は軸受137の正面図であり、図13は図12のY方向矢視図である)に示すように、概略円筒状をなし、外周面の一部に、第1軸筒107の内周面に形成した軸方向Aに延伸するスライド溝139に係合可能な係合突条部111を形成し、内周面の一部に、シャフト121の上端部側領域の断面形状に対応させた平坦部113を形成したものである。そして、係合突条部111を第1軸筒107のスライド溝139に係合させることによって、軸受137は第1軸筒107に対して回転不能となる。また、シャフト121の平坦部135が軸受137の平坦部113と対面し得るようにシャフト121の上端部側領域を軸受137内に挿入することによって、軸受137はシャフト121を回転不能に保持することができる。
【0036】
なお、シャフト121の上端部側領域を軸受137内に挿入する前の時点で、シャフト121とは別体であるボールベアリング保持体145(図4参照)と、シャフト121のボールベアリング保持部133との間に多数のボールベアリング131を回転可能な状態で保持させおく。そして、第2軸筒115内の上端開口部にワッシャ116を固定した状態で、下側キャップ119が装着されていない第2軸筒115の下端開口部からシャフト121を挿入し、その上端部側領域をワッシャ116の内孔に通すことにより、シャフト121は、下端部側領域を第2軸筒115内に収容し、上端部側領域を第2軸筒115外に露出した状態となる。この状態で、各軸筒(第1軸筒107、第2軸筒115)と外法径が同一のリング状ブッシュ147をシャフト121の上端から下方に落として込んで第2軸筒115の上端開口部またはワッシャ116に当接または近接する位置に配置しておく。そして、この状態でシャフト121の上端部側領域を軸受137内に挿入すると、図14に示すように、リング状ブッシュ147が第1軸筒107の下端開口部または軸受137の下端開口部に接触または近接する。このワッシャ116により、シャフト121を中心とした第1蝶番要素101と第2蝶番要素103との相対回転運動の際に生じる摩擦抵抗の軽減化を図ることができる。なお、図14は、第1蝶番要素101の第1羽根板105と第2蝶番要素103の第2羽根板113とが平面視においてほぼ重なり合う状態を一部断面にして模式的に示す図である。
【0037】
筒状カム部材123は、図4に示すように、概略円筒状をなし、外周面に、第2軸筒115の内周面に形成した軸方向Aに延伸するスライド溝147に係合可能な係合突条部149を有するものである。また、筒状カム部材123は、所定形状のカム溝129を有する。カム溝129は、筒状カム部材123の展開した状態を一部簡略して示す図15に示すように、カム溝129のうち第1軸筒107側に最も寄った位置(本実施形態ではカム溝129のうち最も高い位置)に形成した傾斜切替領域151と、傾斜切替領域151から筒状カム部材123の周方向に沿った一方向(順方向)に延伸し、第1軸筒107から漸次離反する方向(本実施形態では下方向)に傾斜させた第1傾斜領域153と、傾斜切替領域151から筒状カム部材123の周方向に沿った他方向(逆方向)に延伸し、第1軸筒107から漸次離反する方向に傾斜させた第2傾斜領域155とを有する略下向きV字状のものである。なお、本実施形態では、傾斜切替領域151として、第1傾斜領域153又は第2傾斜領域155の何れか一方から傾斜切替領域151へ到達したカムピン127が直ちに他方の傾斜領域へ移動し得るような形状に設定したものを適用している。したがって、傾斜切替領域151は、カム溝129において、カムピン127が自動的に第1傾斜領域153を通過するか、カムピン127が自動的に第2傾斜領域155を通過するかを決定する思案点(分岐点)として機能する。また、本実施形態では、傾斜切替領域151を境に第1傾斜領域153と第2傾斜領域155の形状が対象となるように設定している。
【0038】
また、本実施形態では、カム溝129として、第1傾斜領域153のうち最も第1軸筒107から離反した位置から第1傾斜領域153よりもさらに急勾配で第1軸筒107から離反する方向に傾斜させた第1急勾配領域157を形成するとともに、第2傾斜領域155のうち最も第1軸筒107から離反した位置から第2傾斜領域155よりもさらに急勾配で第2軸筒115から離反する方向に傾斜させた第2急勾配領域159を形成したものを適用している。本実施形態に係る蝶番100は、このようなカム溝129を筒状カム部材123のうち、周方向に所定角度(図示例では略180度)位相を異ならせた箇所に形成している。特に、本実施形態では、一対のカム溝129を軸方向Aに沿って段違いに形成している。なお、筒状カム部材123の外周面において高さ方向に延伸する係合突条部149はカム溝129によって一部切断されている(図4参照)。また、本実施形態では、一対の係合突条部149を、筒状カム部材123の外周面において180度位相を異ならせた位置に形成し、各係合突条部149におけるカム溝129による切断箇所は1箇所となるようにカム溝129の形成箇所を設定している。
【0039】
このようなカム溝129にカムピン127を係合させて筒状カム部材123とシャフト121とを相互に組み付ける態様としては、筒状カム部材123に形成したカムピン取付用ネジ孔161にカムピン127を螺合する前の状態でシャフト121の下端部側領域を筒状カム部材123内に挿入し、カム溝129とカムピン取付用ネジ孔161とが連通する位置でカムピン取付用ネジ孔161にカムピン127を螺合して取り付けたり、或いはシャフト121の一端部側領域を筒状カム部材123に挿入した後、筒状カム部材123の所定箇所にカムピン127を溶接等により固定するものを挙げることができる。
【0040】
圧縮バネ125は、図4及び図14に示すように、下端部側領域を第2軸筒115内に挿入したシャフト121を下端から押圧し得るように第2軸筒115内に収容されるものである。そして、第2軸筒115の下端開口部近傍領域に螺合した圧縮量調整用ネジ163の螺合程度(進入距離)を変更することによって、第2軸筒115内に収容している圧縮バネ125全体の圧縮量を調整できる。なお、本実施形態では、圧縮バネ125と圧縮量調整用ネジ163との間にワッシャ165を介在させている。
【0041】
次に、このような構成をなす蝶番100の動作及び作用について説明する。
【0042】
本実施形態では、ドアDが閉成位置(C)にある場合にシャフト121のカムピン127がカム溝129の第1急勾配領域157に位置付けられるとともに、ドアDが開成位置(O)にある場合にシャフト121のカムピン127がカム溝129の第2急勾配領域159に位置付けられるように設定している(図14及び図15参照、なお、図15ではカムピン127自体及びその移動軌跡を二点鎖線で示す)。
【0043】
先ず、閉成位置(C)にあるドアDを開成方向へ回転させる操作力を付与した場合、ドアDに固定した第1蝶番要素101が、ドア枠Wに固定した第2蝶番要素103に対して回転し、この回転動作に伴って、第1軸筒107と一体回転するシャフト121が第2軸筒115に対して回転する。ここで、シャフト121は、第1軸筒107内に回転不能に設けた軸受137に上端部側部分を回転不能に保持されているため、第1軸筒107と一体に第2軸筒115に対して回転する。第1軸筒107と共にシャフト121が第2軸筒115に対して回転すると、シャフト121の下端部側領域に設けたカムピン127がカム溝129のうち第1急勾配領域157及び第1傾斜領域153を順に辿りながら傾斜切替領域151に向かって移動する。シャフト121自体は第2軸筒115内においてリング状ブッシュ147により上昇移動(第1軸筒107側への移動)が規制されているため、シャフト121のカムピン127が傾斜切替領域151に向かって第1傾斜領域153を移動することにより、筒状カム部材123が圧縮バネ125のバネ力に抗して下降する。したがって、圧縮バネ125は、傾斜切替領域151に向かって第1傾斜領域153を移動するカムピン127が傾斜切替領域151に近付くにつれて圧縮量が大きくなる。そして、図16に示すように、カムピン127が第1傾斜領域153から傾斜切替領域151に到達した時点で圧縮バネ125の圧縮量は最大となる。次いで、カムピン127が傾斜切替領域151を通過した(越えた)時点で、カムピン127が第2傾斜領域155を辿りながら傾斜切替領域151から離反する方向に移動する。この際、圧縮バネ125の弾性復帰力(復元力)により筒状カム部材123は押し上げられるため、ユーザがドアDを開成方向へ回転させる操作力を停止したり、あるいは弱めてもカムピン127は第2傾斜領域155をスムーズ且つ自動的に移動する。そして、カムピン127が、圧縮バネ125の復元力及びドアDの自重により第2傾斜領域155を第2急勾配領域159に向かって移動し、第2急勾配領域159に到達すると、ドアDは自動的に開成位置(O)となる(図17及び図18参照)。なお、図17は、カムピン127が第2急勾配領域159に到達した時点を図16に対応して示す図であり、図18は、同時点を反対側(図17の紙面奥方側)から見た図である。
【0044】
一方、開成位置(O)にあるドアDを閉成方向へ回転させる操作力を付与した場合、第1蝶番要素101が第2蝶番要素103に対して回転し、この回転に伴ってシャフト121が第2軸筒115に対して回転する。この際、シャフト121のカムピン127が第2急勾配部159及び第2傾斜領域155を順に辿りながら傾斜切替領域151に向かって移動する。第2軸筒115内において上昇移動(第1軸筒107側への移動)が規制されているシャフト121のカムピン127が傾斜切替領域151に向かって第2傾斜領域155を移動することにより、筒状カム部材123が圧縮バネ125のバネ力に抗して下降する。そして、カムピン127が第2傾斜領域155から傾斜切替領域151に到達した時点で圧縮バネ125の圧縮量は最大となり(図16参照)、カムピン127が傾斜切替領域151を通過した(越えた)時点で、カムピン127が第1傾斜領域153を辿りながら傾斜切替領域151から離反する方向に移動する。この際、圧縮バネ125の弾性復帰力(復元力)により筒状カム部材123は押し上げられるため、ユーザがドアDを閉成方向へ回転させる操作力を停止したり、あるいは弱めてもカムピン127は第1傾斜領域153をスムーズ且つ自動的に移動する。そして、カムピン127が、圧縮バネ125の復元力及びドアDの自重により第1傾斜領域153を第1急勾配領域157に向かって移動し、第1急勾配領域157に到達すると、ドアDは自動的に閉成位置(C)となる(図14参照)。
【0045】
なお、本実施形態の蝶番100は、ドアDを略180度回転できるように、カム溝129の形状を設定している。具体的には、以下の条件、すなわち、図15に示すように、閉成位置(C)にあるドアDが開成方向に15度回転するとカムピン127が第1急勾配領域157から第1傾斜領域153に到達するという条件、閉成位置(C)にあるドアDが開成方向に100度回転するとカムピン127が傾斜切替領域151に到達するという条件、閉成位置(C)にあるドアDが開成方向に185度回転すると第2急勾配領域159に到達するという条件、また、開成位置(O)にあるドアDが閉成方向に15度回転するとカムピン127が第2急勾配領域159から第2傾斜領域155に到達するという条件、開成位置(O)にあるドアDが閉成方向に100度回転するとカムピン127が傾斜切替領域151に到達するという条件、開成位置(O)にあるドアDが閉成方向に185度回転すると第1急勾配領域157に到達するという条件、これらの条件を満たすようにカム溝129の形状を設定している。さらに、本実施形態では、自動閉成動作及び自動開成動作を行う際に適宜のダンパ機能を奏するように各傾斜領域(第1傾斜領域153、第2傾斜領域155)の傾斜角度や距離、或いはカム溝129の開口寸法に対するカムピンの直径等を適宜の値に設定している。
【0046】
以上に述べた蝶番100によってドアDを回転動作可能に支持することにより、ユーザがドアDを閉成位置(C)と開成位置(O)との間の中途位置の状態で、ドアDを閉成方向又は開成方向の何れかへ移動させる操作力を停止したり、あるいは操作力を弱めた場合に、ドア枠Wの開口部Sに対するドアDの開き角度に応じてドアDを閉成方向又は開成方向の何れか一方へ付勢する力を付与することができる。
【0047】
具体的には、図3に示すように、ドアDを閉成方向又は開成方向の何れかへ移動させる操作力を停止したり、あるいは操作力を弱めた時点で、開口部Sに対するドアDの開き角度θが100度未満であれば、すなわち、蝶番100のカムピン127が第1傾斜領域153をトレース中であれば、圧縮バネ125の復元力によりカムピン127は第1傾斜領域153から第1急勾配領域157に向かって移動して、ドアDを閉成方向に付勢することができる。本実施形態では、ドアDの開口部Sに対する開き角度θが所定角度(例えば10度)になった時点で、ドアダンパ300が作用し始める。具体的には、ドアDの開口部Sに対する開き角度θが所定角度(例えば10度)になった時点で、引込アーム307のガイド溝305が受座303の軸状突起部309に当たり(図3の想像線で示す)、そのままドアDの閉成方向への移動に伴って軸状突起部309をガイド溝305の奥方(引込アーム307の回転中心側)に誘導させ引込アーム307全体が本体部305に内蔵した油圧式ダンパ機構による所定の抵抗力を受けながら本体部305に対して回転する。これにより、本実施形態に係るドアシステムXは、ドアダンパ300のダンパ機能によってドアDを閉成位置(C)に近付いた所定の時点からゆっくり回転させて衝撃音の発生を防止・抑制することができるとともに、ドアDを閉成位置(C)にまで確実に引き込むことができる。そして、ドアDが閉成位置(C)に到達すると、上述したラッチ機構400のラッチ爪401とラッチ孔403とが係合することによって、ドアDを閉成位置(C)に自動的に保持することができる(図2参照)。
【0048】
一方、ドアDを閉成方向又は開成方向の何れかへ移動させる操作力を停止したり、あるいは操作力を弱めた時点で、開口部Sに対するドアDの開き角度θが100度を越えた値であれば、すなわち、蝶番100のカムピン127が第2傾斜領域155をトレース中であれば、圧縮バネ125の復元力によりカムピン127は第2傾斜領域155から第2急勾配領域159に向かって移動して、ドアDを開成方向に付勢することができる。そして、ドアDが開成位置(O)に到達すると、上述したドアキャッチャ200のロックピン203とドアキャッチャ本体201とが係合することによって、ドアDを閉成位置(C)に自動的に保持することができる。
【0049】
このように、本実施形態に係る蝶番100は、カム溝129として、傾斜切替領域151を頂点とした略逆V字形状(山折り型)のものを適用し、カムピン127がカム溝129の第1傾斜領域153を傾斜切替領域151に向かって移動する場合、及びカムピン127がカム溝129の第2傾斜領域155を傾斜切替領域151に向かって移動する場合に、第2軸筒115内において第1軸筒107から離反する方向に移動する筒状カム部材123によって圧縮バネ125を圧縮方向に押圧するように構成しているため、圧縮バネ125の復元力を利用して自動閉成動作や自動閉成動作を実現することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る蝶番100は、各傾斜領域(第1傾斜領域153、第2傾斜領域155)の傾斜角度や、傾斜領域(第1傾斜領域153、第2傾斜領域155)をトレースする際に生じるカム溝129とカムピン127との摩擦力を適宜の値となるように調整することにより、自動開成動作及び自動閉成動作を行う際に良好なダンパ機能を奏し、蝶番100の適宜箇所にカセット式ダンパを取り付ける態様と比較して、構造の複雑化及び高コスト化を回避することができ、実用性に優れる。
【0051】
特に、本実施形態では、筒状カム部材123に同一形状のカム溝129を複数(図示例では2つ)形成し、各カム溝129にカムピン127をガイドさせるようにしているため、各カムピン127に作用する負荷を分散することができ、開成動作中または閉成動作中に過大な負荷が作用しているカムピン127がカム溝129に不用意に噛み込んでしまう事態を防止・抑制することができる。さらに、複数のカム溝129を筒状カム部材123の周方向に位相を異ならせた位置に形成しているため、同一位相に複数のカム溝129を形成した場合と比較して、筒状カム部材123がカム溝129から受ける荷重を効果的に分散することができる。
【0052】
しかも、本実施形態の蝶番100を付帯したドアDにドアキャッチャ200、ドアダンパ300及びラッチ機構400を付帯させることにより、閉成位置(C)に到達したドアDはラッチ機構400によってその位置を保持することができるとともに、閉成位置(C)に到達したドアDはドアキャッチャ200によってその位置を保持することが可能なドアシステムXを実現できる。このようなドアシステムXであれば、ドアDが中途位置に放置された状態で、ドアDで仕切られるべき2つの空間に風等によって気圧差が生じた場合に生じ得る不具合、つまり、ドアDが不意に閉成方向又は開成方向に回転して大きな衝撃音が発生したり、ドアD付近の人に危害が及ぶという不具合を防止・抑制することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、カム溝は、傾斜切替領域、この傾斜領域を境に異なる方向に延伸する第1傾斜領域及び第2傾斜領域を有するものであればよく、上述した急勾配領域を有しないものであってもよい。
【0054】
また、第1傾斜領域及び第2傾斜領域は、傾斜切替領域を境に対象形状をなすものに限らず、傾斜切替領域を境に非対称形状であっても構わない。すなわち、各傾斜領域(第1傾斜領域、第2傾斜領域)の傾斜角度や距離を相互に異ならせてもよい。特に、各傾斜領域の距離を変更した場合には、当然のことながら各傾斜領域を通過するカムピンの移動距離も相互に異なるため、このことを利用して、自動閉成動作と自動開成動作との切替点(思案点)を開口部に対するドアの任意の開き角度(図3における「θ」に相当する角度)に応じて設定することができる。
【0055】
また、上述した本実施形態では、開口部Sに対する開き角度が略180度となる位置を開成位置(O)に設定したドアDに適用できる蝶番100を示したが、建物の構造やユーザの要望等に応じて、図19に示すように開口部Sに対するドアDの開き角度が例えば90度(ドアDに設けたノブNが壁に当たることを回避するために90度よりも低い値、例えば85度等)となる位置を開成位置(O)に設定したドアDにも好適に適用可能な蝶番とすることも可能である。この場合、例えばカム溝の全体形状を、図15に示す形状と略同一形状としつつ、筒状カム部材の周方向に占めるカム溝の形成領域を、図15に示すカム溝の形成領域の略半分に設定すればよい。
【0056】
上述した実施形態では、壁に設けたドア枠が開口部の縁部(開口縁部)である態様を示したが、壁にドア枠を設けず、壁のうち開口部との境界部分自体が開口部の縁部である態様であってもよい。
【0057】
また、上述した実施形態では、第1蝶番要素をドアに取り付けるとともに、第2蝶番要素を開口縁部(ドア枠)に取り付けた態様を例示したが、第1蝶番要素を開口縁部に取り付けるとともに、第2蝶番要素を開口縁部に取り付けて使用することもできる。さらに、第1蝶番要素を第2蝶番要素よりも下側に配置した下側蝶番要素として機能させるとともに、第2蝶番要素を第1蝶番要素よりも上側に配置した上側蝶番要素として機能させることも可能である。
【0058】
上述した実施形態では、傾斜切替領域として、傾斜切替領域の一端と他端とを同一地点に設定し、第1傾斜領域又は第2傾斜領域の一方から傾斜切替領域へ到達したカムピンが直ちに他方の傾斜領域へ移動し得るような形状に設定したものを例示したが、傾斜切替領域として、傾斜切替領域の一端と他端とが筒状カム部材の周方向に離間している形状、例えば直線形状に設定したものを適用することも可能である。さらに、カムピンが当該傾斜切替領域で一旦停止し得るように、直線部分又は凹部の何れか一方、或いは両者を組み合わせた形状に設定した傾斜切替領域を適用してもよい。
【0059】
また、カム溝の数や形成箇所は、カムピンの数や形成箇所に対応させて変更することができる。
【0060】
また、上述した実施形態では、カム溝129全体を利用してドアDを閉成位置(C)と開成位置(O)との間で略180度回転させる態様を例示したが、傾斜切替領域を頂点とした略逆V字形状(山折り型)のカム溝の一部分だけを利用してドアを閉成位置と開成位置との間で所定角度(例えば、90度や120度など)回転させることも可能である。一例としては、ドアが開成位置にある場合にシャフトのカムピンがカム溝の傾斜切替領域に位置付けられるとともに、ドアが閉成位置にある場合に、シャフトのカムピンが、カム溝の第1傾斜領域の下端乃至下端近傍、または第2傾斜領域の下端乃至下端近傍の何れか一方に位置付けられるように設定した態様が挙げられる。このような態様で用いられる蝶番は、開成位置にあるドアを閉成方向に移動させる操作力を付与するだけで、圧縮状態にある圧縮バネの復元力及び何れか一方の傾斜領域に沿って下降するカムピンの移動により、ドアを自動的に閉成位置に向かわせることが可能なオートクローズ仕様の蝶番となる。また、ドアが閉成位置にある場合にシャフトのカムピンがカム溝の傾斜切替領域に位置付けられるとともに、ドアが開成位置にある場合に、シャフトのカムピンが、カム溝の第1傾斜領域の下端乃至下端近傍、または第2傾斜領域の下端乃至下端近傍の何れか一方に位置付けられるように設定した態様が挙げられる。このような態様で用いられる蝶番は、閉成位置にあるドアを開成方向に移動させる操作力を付与するだけで、圧縮状態にある圧縮バネの復元力及び何れか一方の傾斜領域に沿って下降するカムピンの移動により、ドアを自動的に開成位置に向かわせることが可能なオートオープン仕様の蝶番となる。なお、上述したような180度以外の角度でドアを開閉動作可能に支持する蝶番を実現するには、平面視における第1蝶番要素と第2蝶番要素との相対組付角度を複数パターンから選択できるようにすればよい。具体的には、シャフトの平面視外形状を四角形などの多角形状としたり、外周面に3以上の平坦部を周方向に形成する一方で、蝶番要素の軸筒の内面形状(軸筒内に回転不能に収容される軸受の内面形状)をシャフトの外形状に対応させた形状に設定する態様や、一方の軸筒内に回転不能に収容するシャフトの取付角度を複数パターンから選択可能に構成する態様を挙げることができる。
【0061】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0062】
100…蝶番
101…第1蝶番要素
103…第2蝶番要素
107…第1軸筒
115…第2軸筒
121…シャフト
123…筒状カム部材
125…圧縮バネ
127…カムピン
129…カム溝
151…傾斜切替領域
153…第1傾斜領域
155…第2傾斜領域
D…ドア
S…開口部
X…ドアシステム
W…開口縁部(ドア枠)
(C)…閉成位置
(O)…開成位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアを回転動作可能に支持する蝶番に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドアに取付可能な蝶番要素と、ドアによって開閉される開口部の開口縁部(例えばドア枠)に取付可能な蝶番要素とを備え、ドアに取り付けた一方の蝶番要素を他方の蝶番要素に対して回転させることによりドアを開閉動作可能に支持する蝶番が知られている。特に、開成位置にあるドアを閉成方向へ回転させた場合に、適宜のカム構造やバネの作用さらにはドア自体の自重によりドアを自動的に閉止位置へ移動させることが可能な蝶番も開発され、実用化されている(例えば特許文献1,2,3)。
【0003】
これら各特許文献には、カム構造として、カムピンが係合可能なカム溝を一方向にのみ傾斜させた形状に設定したカム溝にカムピンを係合させる態様が開示されている。このようなカム構造を採用することによって、カム溝のうち最も高い位置にカムピンを係合させた開成位置から閉成方向へドアを回転させて、カムピンをカム溝に係合させながらカム溝のうち最も低い位置に向かって移動させることにより、ドアを自動的に閉成位置に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3485383号公報
【特許文献2】実開平7−19554号公報
【特許文献3】実開昭59−179978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、カム溝として一方向にのみ傾斜させた形状のものを適用しているため、ドアを閉成位置から開成位置へ移動させる場合には、カム溝のうち最も低い位置に係合させたカムピンがカム溝のうち最も高い位置に到達する地点までドアを回転させる操作力を付与し続けなければならず、ドアを自動的に開成位置に移動させることはできない。なお、上述したような形状をカム溝のうち最も高い位置にカムピンを係合させた状態で閉成位置となるように設定した場合には、カムピンをカム溝のうち最も低い位置に向かって移動させることによってドアを自動的に開成位置に移動させることができるが、ドアを開成位置から閉成位置へ自動的に移動させることはできない。
【0006】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、カム溝及びカムピンを用いたカム構造を利用して、一方の蝶番要素を取り付けたドアを閉成位置から開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる蝶番を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、開口部を回転しながら開閉し得るドアと開口部の縁部との間に介在し、ドアを回転可能に支持する蝶番に関するものである。なお、「開口部の縁部」(開口縁部)とは、開口部内の空間を他の空間と仕切り得る部分であり、建物の壁の一部に開口部を形成(確保)した態様では、壁自体が「開口縁部」に相当する場合もあれば、壁に取り付けたドア枠が「開口縁部」に相当する場合もある。
【0008】
本発明に係る蝶番は、第1軸筒を有する第1蝶番要素と、第2軸筒を有する第2蝶番要素と、一端部側領域を第1軸筒内に回転不能に挿入するとともに他端部側領域を第2軸筒内に回転可能に挿入してこれら軸筒同士を同軸上に配置するシャフトと、第2軸筒内に回転不能な状態で軸方向に昇降移動可能に収容され、且つシャフトの他端部側領域に設けたカムピンが係合可能なカム溝を有する筒状カム部材と、第2軸筒内に収容される圧縮バネとを備えたものである。
【0009】
ここで、第1蝶番要素または第2蝶番要素の何れか一方がドアに取り付けられるものであり、他方が開口縁部に取り付けられるものである。また、シャフトを介して第1軸筒と第2軸筒とを同軸上に配置した状態で何れの軸筒が相対的に上側に配置されてもよい。つまり、シャフトの一端部側領域が上端部側領域又は下端部側領域の何れであっても構わない。
【0010】
そして、本発明に係る蝶番は、カム溝として、カム溝のうち最も第1軸筒に近接した領域である傾斜切替領域と、傾斜切替領域の一端から延伸し、第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第1傾斜領域と、傾斜切替領域の他端から第1傾斜領域とは異なる方向に延伸し、第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第2傾斜領域とを有するものを適用して、カムピンがカム溝の第1傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合、及びカムピンがカム溝の第2傾斜領域を傾斜切替領域に向かって移動する場合に、第2軸筒内において第1軸筒から離反する方向に移動する筒状カム部材によって圧縮バネを圧縮方向に押圧するように構成していることを特徴としている。
【0011】
ここで、「傾斜切替領域」は、カムピンが当該領域で停止可能な形状に設定した領域であってもよいし、カムピンが当該領域で停止不能な形状、すなわち第1傾斜領域又は第2傾斜領域の一方から傾斜切替領域へ到達したカムピンが直ちに他方の傾斜領域へ移動し得るような形状に設定した領域でも構わない。
【0012】
そして、本発明の蝶番であれば、第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して所定方向(この方向を順方向とする)に回転させた場合、第1蝶番要素と共にシャフトが第2軸筒に対して回転することにより、第2軸筒内においてカムピンがカム溝の第1傾斜領域又は第2傾斜領域の何れか一方(例えば第1傾斜領域)にガイドされながら傾斜切替領域に向かって移動する。この際、シャフトは第1軸筒側への移動が規制されているため、筒状カム部材は、第2軸筒内において第1軸筒から離反する方向に移動する。すると、この筒状カム部材によって圧縮バネが圧縮方向に押圧される。そして、カムピンが傾斜切替領域に到達し、そのまま傾斜切替領域を越えて他方の傾斜領域(例えば第2傾斜領域)に進入すると、押される力に対して戻ろうとする圧縮バネの作用(復元力)によって、カムピンは当該傾斜領域(例えば第2傾斜領域)を傾斜切替領域から離反する方向へ自動的に移動する。
【0013】
ここで、第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して正方向に回転させる前の状態を第1状態とし、この第1状態において第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して正方向に回転させ、カムピンが第1傾斜領域から傾斜切替領域を越えて第2傾斜領域を自動的に移動した後の状態を第2状態とすると、本発明に係る蝶番は、第1状態において第1蝶番要素を正方向に所定角度回転させる操作力を与えることによって自動的に第2状態へと移行することができる。
【0014】
また、第2状態において第1蝶番要素を第2蝶番要素に対して逆方向に回転させた場合、第1蝶番要素と共にシャフトが第2軸筒に対して回転することにより、第2軸筒内においてカムピンがカム溝の第2傾斜領域にガイドされながら傾斜切替領域に向かって移動する。この際、シャフトは第1軸筒側への移動が規制されているため、筒状カム部材は、第2軸筒内において第1軸筒から離反する方向に移動する。すると、この筒状カム部材によって圧縮バネが圧縮方向に押圧される。そして、カムピンが傾斜切替領域に到達し、そのまま傾斜切替領域を越えて第1傾斜領域に進入すると、圧縮バネの復元力によって、カムピンは当該傾斜領域を傾斜切替領域から離反する方向へ自動的に移動する。その結果、蝶番は、第2状態において第1蝶番要素を逆方向に所定角度回転させる操作力を与えることによって自動的に第1状態へと移動する。
【0015】
このように、本発明に係る蝶番は、カム溝として、傾斜領域を境に相互に異なる方向へ傾斜させた2つの傾斜領域を形成したものを適用しているため、ドアに取り付けられる一方の蝶番要素にドアを取り付け、他方の蝶番要素を開口縁部に取り付ければ、閉成位置にあるドアを開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる。
【0016】
しかも、本発明の蝶番であれば、各傾斜領域の傾斜角度や、カムピンが各傾斜領域をトレースする際に生じるカム溝とカムピンとの摩擦力が適宜の値となるようにカム溝やカムピンの形状を調整することにより、自動開成動作及び自動閉成動作を行う際に良好なダンパ機能を奏し、蝶番の適宜箇所にカセット式ダンパを取り付ける態様と比較して、構造の複雑化及び高コスト化を回避することができ、実用性に優れたものとなる。
【0017】
また、本発明の蝶番では、筒状カム部材として単一のカム溝を有するものを適用してもよいが、筒状カム部材にカム溝を複数形成したものを適用するとともに、シャフトとしてカム溝と同数のカムピンを備えたものを適用することもできる。このような構造であれば、各カムピンに作用する負荷を分散することができ、カムピンに過大な負荷が集中的に作用してカム溝に不用意に噛み込んでしまう事態を防止・抑制することができる。
【0018】
さらに、本発明の蝶番において、筒状カム部材に複数のカム溝を形成する場合、複数のカム溝を筒状カム部材の周方向に位相を異ならせた位置に形成すれば、同一位相に複数のカム溝を形成した場合と比較して、筒状カム部材がカム溝から受ける荷重をより一層効果的に分散することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、カム溝として、傾斜切替領域と、この傾斜切替領域との接続点を起点とする傾斜方向が相互に異なる2つの傾斜領域とを連続して有する略山折り形状のものを適用することによって、一方の蝶番要素を取り付けたドアを閉成位置から開成方向に所定角度回転されば自動的に開成位置に移動させることができるとともに、開成位置にあるドアを閉成方向に所定角度回転させれば自動的に閉成位置に移動させることができる蝶番を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る蝶番を適用したドアシステムの全体概略図。
【図2】同実施形態に係るドアシステムの平面模式図。
【図3】同ドアシステムにおいてドアが開成位置にある状態の図2対応図。
【図4】本実施形態に係る蝶番の分解概略図。
【図5】同蝶番の第1蝶番要素の平面図。
【図6】同第1蝶番要素の正面図。
【図7】同蝶番の第2蝶番要素の平面図。
【図8】同第2蝶番要素の正面図。
【図9】同蝶番のシャフトの正面図。
【図10】図9のY方向矢視図。
【図11】図9とは異なる角度から見たシャフトの部分断面図。
【図12】同蝶番の軸受の正面図。
【図13】図12のY方向矢視図。
【図14】同蝶番の一部を断面にして示す作用説明図。
【図15】同蝶番の筒状カム部材の展開した状態を一部簡略して示す図。
【図16】同蝶番の作用説明図。
【図17】同蝶番の作用説明図。
【図18】同蝶番の作用説明図。
【図19】同実施形態に係る蝶番の一変形例を適用したドアシステムの図3対応図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る蝶番100は、例えば室内空間と室外空間とに連通する開口部Sを回転しながら開閉し得るドアD(回転扉)に適用可能なものである。本実施形態では、図1に示すように、開口部Sの周囲にドア枠Wを設けており、このドア枠Wが開口部S内の空間を他の空間と仕切り得る本発明の「開口部の縁部」(開口縁部)に相当する。
【0023】
ドアDは、図2及び図3に示すように、一方の側縁部を吊元側として、開口部Sに嵌って当該開口部Sを閉成し得る閉成位置(C)と、開口部Sを開放した開成位置(O)との間で回転しながら移動するものである。本実施形態では、開口部Sに対するドアDの開き角度が略180度となる位置を開成位置(O)に設定している。
【0024】
そして、本実施形態に係る蝶番100は、ドアDを回転動作可能に支持し、且つ開成位置(O)と閉成位置(C)との間の中途位置にあるドアDを開口部Sに対する所定の開き角度を境に開成方向又は閉成方向の何れかに付勢するものである。図1乃至3には蝶番100に加えて、ドアDを開成位置(O)に保持するドアキャッチャ200、ドアDを閉じる際の衝撃(衝撃音)を吸収し得るドアダンパ300、及びドアDを閉成位置(C)に保持するラッチ機構400を備えたドアシステムXを示している。
【0025】
本実施形態では、ドアキャッチャ200、ドアダンパ300、及びラッチ機構400は、それぞれ既知のものを適用しており、以下に簡単に説明する。
【0026】
ドアキャッチャ200は、図1乃至3に示すように、床面に固定されるドアキャッチャ本体201と、ドアDに固定されるロックピン203とを備え、ドアDが開成位置(O)に到達した際に、ロックピン203をドアキャッチャ本体201で拘束することによってドアDを開成位置(O)に自動的に保持するものである。
【0027】
ドアダンパ300は、図2及び図3に示すように、ドアDに取り付けられて閉成位置(C)に到達する前の所定時点から閉成位置(C)に到達する時点までダンパ機能を発揮するダンパ本体301と、ドア枠Wに取り付けられる受座303とを備えたものである。本実施形態では、ダンパ本体301を、油圧式ダンパを内蔵した本体部305と、本体部305に対して所定の抵抗力を受けた状態で回動可能な引込アーム307とを備えたものを適用している。引込アーム307には、受座303の軸状突起部309にガイドされるガイド溝311を形成している。そして、ドアDを開成位置(O)から閉成位置(C)に向かって移動させてドアDの開口部Sに対する開き角度が所定値(本実施形態では10度)となった時点で、ガイド溝305内に受座303の軸状突起部309が入り込み、さらにドアDの閉成方向への移動に伴って、引込アーム307全体が、ガイド溝305に対する軸突起部309の進入度合いを大きくしながら、ダンパ本体301の本体部305に対して所定の抵抗力を受けた状態で回転する。これにより、ドアダンパ300は、ドアDの閉成動作時に適切なダンパ機能を発揮し、閉成方向に向かうドアDを減速させて閉成位置(C)に到達する際のドアDの衝撃(衝撃音)を抑制することができるとともに、ガイド溝305に軸状突起部309をガイドさせることによってドアD全体を閉成位置(C)にまで適切に引き込むことができる。
【0028】
ラッチ機構400は、反吊元側の側縁部の所定の高さ位置においてドアDの幅方向に突没動作可能なラッチ爪401と、開口部Sのうち反吊元側の側縁部(ドア枠Wの側縁部W1)に形成したラッチ孔403とを備え、ラッチ爪401を、ドアDの側縁部よりもドアDの幅方向に突出させた突出状態と、ドアDの側縁部よりもドアDの幅方向中央側に退避させた退避状態との間で変化させ、突出状態にあるラッチ爪401がラッチ孔403に係合することによってドアDを閉成位置(C)に保持するものである(図2参照)。本実施形態では、バネ等の適宜の付勢手段(図示省略)によりラッチ爪401が常時突出状態となるように設定している(図1乃至図3参照)。
【0029】
このラッチ機構400は、閉成位置(C)にないドアDが閉成方向に移動した場合に、閉成位置(C)に到達する直前で、それまで突出状態にあるラッチ爪401がドア枠Wの反吊元側の側縁部に当たることで一時的にドアDの幅方向に没入して退避状態となり、ドアDが閉成位置(C)に到達した時点でドア枠Wの側縁部W1との干渉が解消されたラッチ爪401が突出状態となってラッチ孔403に係合することによって、ドアDを閉成位置(C)に保持することができる。また、ラッチ爪101の突出状態と退避状態との切替は、ドアDに設けたノブNに対する操作で行うことができる。
【0030】
そして、本実施形態に係る蝶番100は、図1に示すように、ドアDに取り付けられる第1蝶番要素101と、ドアDによって開閉可能な開口部Sを有するドア枠Wに取り付けられる第2蝶番要素103とを備えたものである。本実施形態では、第1蝶番要素101を第2蝶番要素103よりも相対的に上側に配置する上側蝶番要素とするとともに、第2蝶番要素103を相対的に下側に配置する下側蝶番要素としている。
【0031】
第1蝶番要素101は、図4乃至図6(図5、図6はそれぞれ第1蝶番要素101の平面図、正面図である)に示すように、第1羽根板105と、第1羽根板105の一方の側縁部に形成した第1軸筒107とを備え、第1羽根板105の所定箇所(図示例では4隅近傍箇所)に形成したビス取付用孔109に挿入したビスをドアDに形成したネジ孔に螺合させることによって、ドアDに固定可能なものである。第1軸筒107の上端部には上側キャップ111を装脱可能に取り付けている。
【0032】
第2蝶番要素103は、図4、図7及び図8(図7、図8はそれぞれ第2蝶番要素103の平面図、正面図である)に示すように、第2羽根板113と、第2羽根板113の一方の側縁部に形成した第2軸筒115とを備え、第2羽根板113の所定箇所(図示例では4隅近傍箇所と中央部)に形成したビス取付用孔117に挿入したビスをドア枠Wに形成したネジ孔に螺合させることによってドア枠Wに固定可能なものである。第2軸筒115の下端部には下側キャップ119を装脱可能に取り付けている。
【0033】
本実施形態に係る蝶番100は、これら蝶番要素(第1蝶番要素101、第2蝶番要素103)に加えて、上端部側領域を第1軸筒107内に回転不能に挿入するとともに下端部側領域を第2軸筒115内に回転可能に挿入して、これら軸筒(第1軸筒107、第2軸筒115)同士を同軸上に配置するシャフト121と、第2軸筒115内に回転不能な状態で軸方向Aに昇降移動可能に収容した筒状カム部材123と、第2軸筒115内に収容される圧縮バネ125とを備えている。
【0034】
シャフト121は、図4に示すように、第2軸筒115内に挿入する概略円柱状の下端部側領域にカムピン127を一体又は一体的に設けている。カムピン127の数や形成箇所は、後述するカム溝129の数や形成箇所に対応させている。本実施形態では、一対のカムピン127をシャフト121のうち、周方向に所定角度(図示例では略180度)位相を異ならせた箇所に設け、これらカムピン127をシャフト121の軸方向A(高さ方向)に段違いに設けている。また、図9及び図10(図9はシャフト121の正面図であり、図10は図9のY方向矢視図である)に示すように、シャフト121の高さ方向中央部近傍には、後述するボールベアリング131を回転可能に保持するボールベアリング保持部133を設けている。シャフト121のうち上端部側領域の外周面の一部には軸方向Aに沿って延びる平坦部135を形成している。なお、図11に示すように、シャフト121として、上端部の端面に開口するネジ孔122と、ネジ孔122の先端部に連通し且つシャフト121の外周面に開口するボール保持用孔124とを有するものを適用することができる。この場合、ボール保持用孔124にボール126を収容した状態でネジ孔122に対する六角穴付き止めねじ128(ホーローセット)の螺合程度(進入距離)を変更することによって、シャフト121の外周面に対するボール126の突出具合を調整することができる。本実施形態では、このようなシャフト121の上端部側領域を、第1軸筒107内に回転不能に設けた軸受137に挿入している。シャフト121の上端部側領域を軸受137に挿入する際には、シャフト121の外周面に対するボール126の突出量をゼロまたはほぼゼロ以下に設定しておき、シャフト121の上端部側領域を軸受137に挿入した後で、例えば六角レンチ等の工具を用いてネジ孔122に対する六角穴付き止めねじ128(ホーローセット)の螺合程度(進入距離)を調整し、シャフト121の外周面に対するボール126の突出量を増やしてボール126を軸受137の内周面に押し付ける(図示省略)。その結果、このシャフト121を介して第1軸筒107と第2軸筒115を同軸上に強固に連結することができる。また、ボール126を第1軸筒107の内周面に直接又は間接的に(本実施形態では軸受137の内周面を介して間接的に)に接触させておくことにより、ドアDの開閉に伴う第1軸筒107と第2軸筒115との相対回転時に、バネ125やカム機構(カムピン127、カム溝129)の作動に起因して軸筒107,115内で響き得る音の発生を防止・抑制することができる。
【0035】
軸受137は、図4、図12及び図13(図12は軸受137の正面図であり、図13は図12のY方向矢視図である)に示すように、概略円筒状をなし、外周面の一部に、第1軸筒107の内周面に形成した軸方向Aに延伸するスライド溝139に係合可能な係合突条部111を形成し、内周面の一部に、シャフト121の上端部側領域の断面形状に対応させた平坦部113を形成したものである。そして、係合突条部111を第1軸筒107のスライド溝139に係合させることによって、軸受137は第1軸筒107に対して回転不能となる。また、シャフト121の平坦部135が軸受137の平坦部113と対面し得るようにシャフト121の上端部側領域を軸受137内に挿入することによって、軸受137はシャフト121を回転不能に保持することができる。
【0036】
なお、シャフト121の上端部側領域を軸受137内に挿入する前の時点で、シャフト121とは別体であるボールベアリング保持体145(図4参照)と、シャフト121のボールベアリング保持部133との間に多数のボールベアリング131を回転可能な状態で保持させおく。そして、第2軸筒115内の上端開口部にワッシャ116を固定した状態で、下側キャップ119が装着されていない第2軸筒115の下端開口部からシャフト121を挿入し、その上端部側領域をワッシャ116の内孔に通すことにより、シャフト121は、下端部側領域を第2軸筒115内に収容し、上端部側領域を第2軸筒115外に露出した状態となる。この状態で、各軸筒(第1軸筒107、第2軸筒115)と外法径が同一のリング状ブッシュ147をシャフト121の上端から下方に落として込んで第2軸筒115の上端開口部またはワッシャ116に当接または近接する位置に配置しておく。そして、この状態でシャフト121の上端部側領域を軸受137内に挿入すると、図14に示すように、リング状ブッシュ147が第1軸筒107の下端開口部または軸受137の下端開口部に接触または近接する。このワッシャ116により、シャフト121を中心とした第1蝶番要素101と第2蝶番要素103との相対回転運動の際に生じる摩擦抵抗の軽減化を図ることができる。なお、図14は、第1蝶番要素101の第1羽根板105と第2蝶番要素103の第2羽根板113とが平面視においてほぼ重なり合う状態を一部断面にして模式的に示す図である。
【0037】
筒状カム部材123は、図4に示すように、概略円筒状をなし、外周面に、第2軸筒115の内周面に形成した軸方向Aに延伸するスライド溝147に係合可能な係合突条部149を有するものである。また、筒状カム部材123は、所定形状のカム溝129を有する。カム溝129は、筒状カム部材123の展開した状態を一部簡略して示す図15に示すように、カム溝129のうち第1軸筒107側に最も寄った位置(本実施形態ではカム溝129のうち最も高い位置)に形成した傾斜切替領域151と、傾斜切替領域151から筒状カム部材123の周方向に沿った一方向(順方向)に延伸し、第1軸筒107から漸次離反する方向(本実施形態では下方向)に傾斜させた第1傾斜領域153と、傾斜切替領域151から筒状カム部材123の周方向に沿った他方向(逆方向)に延伸し、第1軸筒107から漸次離反する方向に傾斜させた第2傾斜領域155とを有する略下向きV字状のものである。なお、本実施形態では、傾斜切替領域151として、第1傾斜領域153又は第2傾斜領域155の何れか一方から傾斜切替領域151へ到達したカムピン127が直ちに他方の傾斜領域へ移動し得るような形状に設定したものを適用している。したがって、傾斜切替領域151は、カム溝129において、カムピン127が自動的に第1傾斜領域153を通過するか、カムピン127が自動的に第2傾斜領域155を通過するかを決定する思案点(分岐点)として機能する。また、本実施形態では、傾斜切替領域151を境に第1傾斜領域153と第2傾斜領域155の形状が対象となるように設定している。
【0038】
また、本実施形態では、カム溝129として、第1傾斜領域153のうち最も第1軸筒107から離反した位置から第1傾斜領域153よりもさらに急勾配で第1軸筒107から離反する方向に傾斜させた第1急勾配領域157を形成するとともに、第2傾斜領域155のうち最も第1軸筒107から離反した位置から第2傾斜領域155よりもさらに急勾配で第2軸筒115から離反する方向に傾斜させた第2急勾配領域159を形成したものを適用している。本実施形態に係る蝶番100は、このようなカム溝129を筒状カム部材123のうち、周方向に所定角度(図示例では略180度)位相を異ならせた箇所に形成している。特に、本実施形態では、一対のカム溝129を軸方向Aに沿って段違いに形成している。なお、筒状カム部材123の外周面において高さ方向に延伸する係合突条部149はカム溝129によって一部切断されている(図4参照)。また、本実施形態では、一対の係合突条部149を、筒状カム部材123の外周面において180度位相を異ならせた位置に形成し、各係合突条部149におけるカム溝129による切断箇所は1箇所となるようにカム溝129の形成箇所を設定している。
【0039】
このようなカム溝129にカムピン127を係合させて筒状カム部材123とシャフト121とを相互に組み付ける態様としては、筒状カム部材123に形成したカムピン取付用ネジ孔161にカムピン127を螺合する前の状態でシャフト121の下端部側領域を筒状カム部材123内に挿入し、カム溝129とカムピン取付用ネジ孔161とが連通する位置でカムピン取付用ネジ孔161にカムピン127を螺合して取り付けたり、或いはシャフト121の一端部側領域を筒状カム部材123に挿入した後、筒状カム部材123の所定箇所にカムピン127を溶接等により固定するものを挙げることができる。
【0040】
圧縮バネ125は、図4及び図14に示すように、下端部側領域を第2軸筒115内に挿入したシャフト121を下端から押圧し得るように第2軸筒115内に収容されるものである。そして、第2軸筒115の下端開口部近傍領域に螺合した圧縮量調整用ネジ163の螺合程度(進入距離)を変更することによって、第2軸筒115内に収容している圧縮バネ125全体の圧縮量を調整できる。なお、本実施形態では、圧縮バネ125と圧縮量調整用ネジ163との間にワッシャ165を介在させている。
【0041】
次に、このような構成をなす蝶番100の動作及び作用について説明する。
【0042】
本実施形態では、ドアDが閉成位置(C)にある場合にシャフト121のカムピン127がカム溝129の第1急勾配領域157に位置付けられるとともに、ドアDが開成位置(O)にある場合にシャフト121のカムピン127がカム溝129の第2急勾配領域159に位置付けられるように設定している(図14及び図15参照、なお、図15ではカムピン127自体及びその移動軌跡を二点鎖線で示す)。
【0043】
先ず、閉成位置(C)にあるドアDを開成方向へ回転させる操作力を付与した場合、ドアDに固定した第1蝶番要素101が、ドア枠Wに固定した第2蝶番要素103に対して回転し、この回転動作に伴って、第1軸筒107と一体回転するシャフト121が第2軸筒115に対して回転する。ここで、シャフト121は、第1軸筒107内に回転不能に設けた軸受137に上端部側部分を回転不能に保持されているため、第1軸筒107と一体に第2軸筒115に対して回転する。第1軸筒107と共にシャフト121が第2軸筒115に対して回転すると、シャフト121の下端部側領域に設けたカムピン127がカム溝129のうち第1急勾配領域157及び第1傾斜領域153を順に辿りながら傾斜切替領域151に向かって移動する。シャフト121自体は第2軸筒115内においてリング状ブッシュ147により上昇移動(第1軸筒107側への移動)が規制されているため、シャフト121のカムピン127が傾斜切替領域151に向かって第1傾斜領域153を移動することにより、筒状カム部材123が圧縮バネ125のバネ力に抗して下降する。したがって、圧縮バネ125は、傾斜切替領域151に向かって第1傾斜領域153を移動するカムピン127が傾斜切替領域151に近付くにつれて圧縮量が大きくなる。そして、図16に示すように、カムピン127が第1傾斜領域153から傾斜切替領域151に到達した時点で圧縮バネ125の圧縮量は最大となる。次いで、カムピン127が傾斜切替領域151を通過した(越えた)時点で、カムピン127が第2傾斜領域155を辿りながら傾斜切替領域151から離反する方向に移動する。この際、圧縮バネ125の弾性復帰力(復元力)により筒状カム部材123は押し上げられるため、ユーザがドアDを開成方向へ回転させる操作力を停止したり、あるいは弱めてもカムピン127は第2傾斜領域155をスムーズ且つ自動的に移動する。そして、カムピン127が、圧縮バネ125の復元力及びドアDの自重により第2傾斜領域155を第2急勾配領域159に向かって移動し、第2急勾配領域159に到達すると、ドアDは自動的に開成位置(O)となる(図17及び図18参照)。なお、図17は、カムピン127が第2急勾配領域159に到達した時点を図16に対応して示す図であり、図18は、同時点を反対側(図17の紙面奥方側)から見た図である。
【0044】
一方、開成位置(O)にあるドアDを閉成方向へ回転させる操作力を付与した場合、第1蝶番要素101が第2蝶番要素103に対して回転し、この回転に伴ってシャフト121が第2軸筒115に対して回転する。この際、シャフト121のカムピン127が第2急勾配部159及び第2傾斜領域155を順に辿りながら傾斜切替領域151に向かって移動する。第2軸筒115内において上昇移動(第1軸筒107側への移動)が規制されているシャフト121のカムピン127が傾斜切替領域151に向かって第2傾斜領域155を移動することにより、筒状カム部材123が圧縮バネ125のバネ力に抗して下降する。そして、カムピン127が第2傾斜領域155から傾斜切替領域151に到達した時点で圧縮バネ125の圧縮量は最大となり(図16参照)、カムピン127が傾斜切替領域151を通過した(越えた)時点で、カムピン127が第1傾斜領域153を辿りながら傾斜切替領域151から離反する方向に移動する。この際、圧縮バネ125の弾性復帰力(復元力)により筒状カム部材123は押し上げられるため、ユーザがドアDを閉成方向へ回転させる操作力を停止したり、あるいは弱めてもカムピン127は第1傾斜領域153をスムーズ且つ自動的に移動する。そして、カムピン127が、圧縮バネ125の復元力及びドアDの自重により第1傾斜領域153を第1急勾配領域157に向かって移動し、第1急勾配領域157に到達すると、ドアDは自動的に閉成位置(C)となる(図14参照)。
【0045】
なお、本実施形態の蝶番100は、ドアDを略180度回転できるように、カム溝129の形状を設定している。具体的には、以下の条件、すなわち、図15に示すように、閉成位置(C)にあるドアDが開成方向に15度回転するとカムピン127が第1急勾配領域157から第1傾斜領域153に到達するという条件、閉成位置(C)にあるドアDが開成方向に100度回転するとカムピン127が傾斜切替領域151に到達するという条件、閉成位置(C)にあるドアDが開成方向に185度回転すると第2急勾配領域159に到達するという条件、また、開成位置(O)にあるドアDが閉成方向に15度回転するとカムピン127が第2急勾配領域159から第2傾斜領域155に到達するという条件、開成位置(O)にあるドアDが閉成方向に100度回転するとカムピン127が傾斜切替領域151に到達するという条件、開成位置(O)にあるドアDが閉成方向に185度回転すると第1急勾配領域157に到達するという条件、これらの条件を満たすようにカム溝129の形状を設定している。さらに、本実施形態では、自動閉成動作及び自動開成動作を行う際に適宜のダンパ機能を奏するように各傾斜領域(第1傾斜領域153、第2傾斜領域155)の傾斜角度や距離、或いはカム溝129の開口寸法に対するカムピンの直径等を適宜の値に設定している。
【0046】
以上に述べた蝶番100によってドアDを回転動作可能に支持することにより、ユーザがドアDを閉成位置(C)と開成位置(O)との間の中途位置の状態で、ドアDを閉成方向又は開成方向の何れかへ移動させる操作力を停止したり、あるいは操作力を弱めた場合に、ドア枠Wの開口部Sに対するドアDの開き角度に応じてドアDを閉成方向又は開成方向の何れか一方へ付勢する力を付与することができる。
【0047】
具体的には、図3に示すように、ドアDを閉成方向又は開成方向の何れかへ移動させる操作力を停止したり、あるいは操作力を弱めた時点で、開口部Sに対するドアDの開き角度θが100度未満であれば、すなわち、蝶番100のカムピン127が第1傾斜領域153をトレース中であれば、圧縮バネ125の復元力によりカムピン127は第1傾斜領域153から第1急勾配領域157に向かって移動して、ドアDを閉成方向に付勢することができる。本実施形態では、ドアDの開口部Sに対する開き角度θが所定角度(例えば10度)になった時点で、ドアダンパ300が作用し始める。具体的には、ドアDの開口部Sに対する開き角度θが所定角度(例えば10度)になった時点で、引込アーム307のガイド溝305が受座303の軸状突起部309に当たり(図3の想像線で示す)、そのままドアDの閉成方向への移動に伴って軸状突起部309をガイド溝305の奥方(引込アーム307の回転中心側)に誘導させ引込アーム307全体が本体部305に内蔵した油圧式ダンパ機構による所定の抵抗力を受けながら本体部305に対して回転する。これにより、本実施形態に係るドアシステムXは、ドアダンパ300のダンパ機能によってドアDを閉成位置(C)に近付いた所定の時点からゆっくり回転させて衝撃音の発生を防止・抑制することができるとともに、ドアDを閉成位置(C)にまで確実に引き込むことができる。そして、ドアDが閉成位置(C)に到達すると、上述したラッチ機構400のラッチ爪401とラッチ孔403とが係合することによって、ドアDを閉成位置(C)に自動的に保持することができる(図2参照)。
【0048】
一方、ドアDを閉成方向又は開成方向の何れかへ移動させる操作力を停止したり、あるいは操作力を弱めた時点で、開口部Sに対するドアDの開き角度θが100度を越えた値であれば、すなわち、蝶番100のカムピン127が第2傾斜領域155をトレース中であれば、圧縮バネ125の復元力によりカムピン127は第2傾斜領域155から第2急勾配領域159に向かって移動して、ドアDを開成方向に付勢することができる。そして、ドアDが開成位置(O)に到達すると、上述したドアキャッチャ200のロックピン203とドアキャッチャ本体201とが係合することによって、ドアDを閉成位置(C)に自動的に保持することができる。
【0049】
このように、本実施形態に係る蝶番100は、カム溝129として、傾斜切替領域151を頂点とした略逆V字形状(山折り型)のものを適用し、カムピン127がカム溝129の第1傾斜領域153を傾斜切替領域151に向かって移動する場合、及びカムピン127がカム溝129の第2傾斜領域155を傾斜切替領域151に向かって移動する場合に、第2軸筒115内において第1軸筒107から離反する方向に移動する筒状カム部材123によって圧縮バネ125を圧縮方向に押圧するように構成しているため、圧縮バネ125の復元力を利用して自動閉成動作や自動閉成動作を実現することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る蝶番100は、各傾斜領域(第1傾斜領域153、第2傾斜領域155)の傾斜角度や、傾斜領域(第1傾斜領域153、第2傾斜領域155)をトレースする際に生じるカム溝129とカムピン127との摩擦力を適宜の値となるように調整することにより、自動開成動作及び自動閉成動作を行う際に良好なダンパ機能を奏し、蝶番100の適宜箇所にカセット式ダンパを取り付ける態様と比較して、構造の複雑化及び高コスト化を回避することができ、実用性に優れる。
【0051】
特に、本実施形態では、筒状カム部材123に同一形状のカム溝129を複数(図示例では2つ)形成し、各カム溝129にカムピン127をガイドさせるようにしているため、各カムピン127に作用する負荷を分散することができ、開成動作中または閉成動作中に過大な負荷が作用しているカムピン127がカム溝129に不用意に噛み込んでしまう事態を防止・抑制することができる。さらに、複数のカム溝129を筒状カム部材123の周方向に位相を異ならせた位置に形成しているため、同一位相に複数のカム溝129を形成した場合と比較して、筒状カム部材123がカム溝129から受ける荷重を効果的に分散することができる。
【0052】
しかも、本実施形態の蝶番100を付帯したドアDにドアキャッチャ200、ドアダンパ300及びラッチ機構400を付帯させることにより、閉成位置(C)に到達したドアDはラッチ機構400によってその位置を保持することができるとともに、閉成位置(C)に到達したドアDはドアキャッチャ200によってその位置を保持することが可能なドアシステムXを実現できる。このようなドアシステムXであれば、ドアDが中途位置に放置された状態で、ドアDで仕切られるべき2つの空間に風等によって気圧差が生じた場合に生じ得る不具合、つまり、ドアDが不意に閉成方向又は開成方向に回転して大きな衝撃音が発生したり、ドアD付近の人に危害が及ぶという不具合を防止・抑制することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、カム溝は、傾斜切替領域、この傾斜領域を境に異なる方向に延伸する第1傾斜領域及び第2傾斜領域を有するものであればよく、上述した急勾配領域を有しないものであってもよい。
【0054】
また、第1傾斜領域及び第2傾斜領域は、傾斜切替領域を境に対象形状をなすものに限らず、傾斜切替領域を境に非対称形状であっても構わない。すなわち、各傾斜領域(第1傾斜領域、第2傾斜領域)の傾斜角度や距離を相互に異ならせてもよい。特に、各傾斜領域の距離を変更した場合には、当然のことながら各傾斜領域を通過するカムピンの移動距離も相互に異なるため、このことを利用して、自動閉成動作と自動開成動作との切替点(思案点)を開口部に対するドアの任意の開き角度(図3における「θ」に相当する角度)に応じて設定することができる。
【0055】
また、上述した本実施形態では、開口部Sに対する開き角度が略180度となる位置を開成位置(O)に設定したドアDに適用できる蝶番100を示したが、建物の構造やユーザの要望等に応じて、図19に示すように開口部Sに対するドアDの開き角度が例えば90度(ドアDに設けたノブNが壁に当たることを回避するために90度よりも低い値、例えば85度等)となる位置を開成位置(O)に設定したドアDにも好適に適用可能な蝶番とすることも可能である。この場合、例えばカム溝の全体形状を、図15に示す形状と略同一形状としつつ、筒状カム部材の周方向に占めるカム溝の形成領域を、図15に示すカム溝の形成領域の略半分に設定すればよい。
【0056】
上述した実施形態では、壁に設けたドア枠が開口部の縁部(開口縁部)である態様を示したが、壁にドア枠を設けず、壁のうち開口部との境界部分自体が開口部の縁部である態様であってもよい。
【0057】
また、上述した実施形態では、第1蝶番要素をドアに取り付けるとともに、第2蝶番要素を開口縁部(ドア枠)に取り付けた態様を例示したが、第1蝶番要素を開口縁部に取り付けるとともに、第2蝶番要素を開口縁部に取り付けて使用することもできる。さらに、第1蝶番要素を第2蝶番要素よりも下側に配置した下側蝶番要素として機能させるとともに、第2蝶番要素を第1蝶番要素よりも上側に配置した上側蝶番要素として機能させることも可能である。
【0058】
上述した実施形態では、傾斜切替領域として、傾斜切替領域の一端と他端とを同一地点に設定し、第1傾斜領域又は第2傾斜領域の一方から傾斜切替領域へ到達したカムピンが直ちに他方の傾斜領域へ移動し得るような形状に設定したものを例示したが、傾斜切替領域として、傾斜切替領域の一端と他端とが筒状カム部材の周方向に離間している形状、例えば直線形状に設定したものを適用することも可能である。さらに、カムピンが当該傾斜切替領域で一旦停止し得るように、直線部分又は凹部の何れか一方、或いは両者を組み合わせた形状に設定した傾斜切替領域を適用してもよい。
【0059】
また、カム溝の数や形成箇所は、カムピンの数や形成箇所に対応させて変更することができる。
【0060】
また、上述した実施形態では、カム溝129全体を利用してドアDを閉成位置(C)と開成位置(O)との間で略180度回転させる態様を例示したが、傾斜切替領域を頂点とした略逆V字形状(山折り型)のカム溝の一部分だけを利用してドアを閉成位置と開成位置との間で所定角度(例えば、90度や120度など)回転させることも可能である。一例としては、ドアが開成位置にある場合にシャフトのカムピンがカム溝の傾斜切替領域に位置付けられるとともに、ドアが閉成位置にある場合に、シャフトのカムピンが、カム溝の第1傾斜領域の下端乃至下端近傍、または第2傾斜領域の下端乃至下端近傍の何れか一方に位置付けられるように設定した態様が挙げられる。このような態様で用いられる蝶番は、開成位置にあるドアを閉成方向に移動させる操作力を付与するだけで、圧縮状態にある圧縮バネの復元力及び何れか一方の傾斜領域に沿って下降するカムピンの移動により、ドアを自動的に閉成位置に向かわせることが可能なオートクローズ仕様の蝶番となる。また、ドアが閉成位置にある場合にシャフトのカムピンがカム溝の傾斜切替領域に位置付けられるとともに、ドアが開成位置にある場合に、シャフトのカムピンが、カム溝の第1傾斜領域の下端乃至下端近傍、または第2傾斜領域の下端乃至下端近傍の何れか一方に位置付けられるように設定した態様が挙げられる。このような態様で用いられる蝶番は、閉成位置にあるドアを開成方向に移動させる操作力を付与するだけで、圧縮状態にある圧縮バネの復元力及び何れか一方の傾斜領域に沿って下降するカムピンの移動により、ドアを自動的に開成位置に向かわせることが可能なオートオープン仕様の蝶番となる。なお、上述したような180度以外の角度でドアを開閉動作可能に支持する蝶番を実現するには、平面視における第1蝶番要素と第2蝶番要素との相対組付角度を複数パターンから選択できるようにすればよい。具体的には、シャフトの平面視外形状を四角形などの多角形状としたり、外周面に3以上の平坦部を周方向に形成する一方で、蝶番要素の軸筒の内面形状(軸筒内に回転不能に収容される軸受の内面形状)をシャフトの外形状に対応させた形状に設定する態様や、一方の軸筒内に回転不能に収容するシャフトの取付角度を複数パターンから選択可能に構成する態様を挙げることができる。
【0061】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0062】
100…蝶番
101…第1蝶番要素
103…第2蝶番要素
107…第1軸筒
115…第2軸筒
121…シャフト
123…筒状カム部材
125…圧縮バネ
127…カムピン
129…カム溝
151…傾斜切替領域
153…第1傾斜領域
155…第2傾斜領域
D…ドア
S…開口部
X…ドアシステム
W…開口縁部(ドア枠)
(C)…閉成位置
(O)…開成位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を回転しながら開閉し得るドアと前記開口部の縁部との間に介在し、前記ドアを回転可能に支持する蝶番であって、
第1軸筒を有する第1蝶番要素と、
第2軸筒を有する第2蝶番要素と、
一端部側領域を前記第1軸筒内に回転不能に挿入するとともに他端部側領域を前記第2軸筒内に回転可能に挿入してこれら軸筒同士を同軸上に配置し、且つ少なくとも前記第1軸筒側への移動が規制されたシャフトと、
前記第2軸筒内に回転不能な状態で軸方向に昇降移動可能に収容され、且つ前記シャフトの他端部側領域に設けたカムピンが係合可能なカム溝を有する筒状カム部材と、
前記第2軸筒内に収容される圧縮バネとを備え、
前記カム溝が、当該カム溝のうち最も前記第1軸筒に近接した領域である傾斜切替領域と、当該傾斜切替領域の一端から延伸し、前記第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第1傾斜領域と、前記傾斜切替領域の他端から前記第1傾斜領域とは異なる方向に延伸し、前記第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第2傾斜領域とを有するものであり、
前記カムピンが前記カム溝の第1傾斜領域を前記傾斜切替領域に向かって移動する場合、及び前記カムピンが前記カム溝の第2傾斜領域を前記傾斜切替領域に向かって移動する場合に、前記第2軸筒内において前記第1軸筒から離反する方向に移動する前記筒状カム部材によって圧縮バネを圧縮方向に押圧するように構成していることを特徴とする蝶番。
【請求項2】
前記筒状カム部材に前記カム溝を複数形成するとともに、前記シャフトに前記カム溝と同数のカムピンを設けている請求項1に記載の蝶番。
【請求項3】
前記複数のカム溝を前記筒状カム部材の周方向に位相を異ならせて形成している請求項2に記載の蝶番。
【請求項1】
開口部を回転しながら開閉し得るドアと前記開口部の縁部との間に介在し、前記ドアを回転可能に支持する蝶番であって、
第1軸筒を有する第1蝶番要素と、
第2軸筒を有する第2蝶番要素と、
一端部側領域を前記第1軸筒内に回転不能に挿入するとともに他端部側領域を前記第2軸筒内に回転可能に挿入してこれら軸筒同士を同軸上に配置し、且つ少なくとも前記第1軸筒側への移動が規制されたシャフトと、
前記第2軸筒内に回転不能な状態で軸方向に昇降移動可能に収容され、且つ前記シャフトの他端部側領域に設けたカムピンが係合可能なカム溝を有する筒状カム部材と、
前記第2軸筒内に収容される圧縮バネとを備え、
前記カム溝が、当該カム溝のうち最も前記第1軸筒に近接した領域である傾斜切替領域と、当該傾斜切替領域の一端から延伸し、前記第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第1傾斜領域と、前記傾斜切替領域の他端から前記第1傾斜領域とは異なる方向に延伸し、前記第1軸筒から漸次離反する方向に傾斜させた第2傾斜領域とを有するものであり、
前記カムピンが前記カム溝の第1傾斜領域を前記傾斜切替領域に向かって移動する場合、及び前記カムピンが前記カム溝の第2傾斜領域を前記傾斜切替領域に向かって移動する場合に、前記第2軸筒内において前記第1軸筒から離反する方向に移動する前記筒状カム部材によって圧縮バネを圧縮方向に押圧するように構成していることを特徴とする蝶番。
【請求項2】
前記筒状カム部材に前記カム溝を複数形成するとともに、前記シャフトに前記カム溝と同数のカムピンを設けている請求項1に記載の蝶番。
【請求項3】
前記複数のカム溝を前記筒状カム部材の周方向に位相を異ならせて形成している請求項2に記載の蝶番。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−172451(P2012−172451A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36972(P2011−36972)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(512081823)株式会社陽洋 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(512081823)株式会社陽洋 (1)
【Fターム(参考)】
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