説明

血中濃度−時間曲線下面積を用いた血液中の測定対象成分の濃度変動の推定方法及び装置

【課題】血液中の測定対象成分、特にグルコースの血中濃度−時間曲線下面積を取得し、且つ血液中の測定対象成分の濃度変動を、血中濃度−時間曲線下面積の値を用いて推定する方法及び装置を提供する。
【解決手段】被験者の測定対象成分の量に関する初期値を取得し、第1抽出期間に抽出された、被験者の皮膚に形成された微細孔からの組織液に含まれる測定対象成分の量から、測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第1測定値として取得し、第2抽出期間に抽出された、被験者の皮膚に形成された微細孔からの組織液に含まれる測定対象成分の量から、測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第2測定値として取得し、初期値、第1測定値及び第2測定値から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液中の測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積を取得し、且つ血中濃度−時間曲線下面積を用いて、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の病態把握において、食事開始から最高血糖値に達した時間(最高血糖値到達時刻)が一つの判断基準として採用されている。そのため、最高血糖値到達時刻を得るために、血糖変動を調べることは重要である。例えば、血糖値を下げるためにインスリンを投与する場合、インスリンが生体に作用するピークと、最高血糖値到達時刻とを揃えるのが治療上効果的である。そのため、最高血糖値到達時刻がある程度分かっていると、それに合わせてインスリンを投与することができる。また、最高血糖値が分ると、それに合わせてインスリンの投与量を調整することもできる。このようにインスリンの投与量や投与のタイミングを調整することで、患者(被験者)の特性に応じたきめの細かい治療が可能となる。
【0003】
ここで、血糖変動は、複数回の採血を所定時間ごとに行い、血糖値を測定することで確認することができる。また、特許文献1には、目標物質又は構成要素の血液濃度を非侵襲的にモニタするための、一体センサーを有するイオン導入サンプリング装置が開示されている。この特許文献1に記載の装置を用いて、血糖変動を調べることもできる。しかし、特許文献1には、血中濃度−時間曲線下面積を測定する装置について記載が無い。当然ながら、特許文献1に記載の装置は、血中濃度−時間曲線下面積を用いて血糖変動を調べることについて、全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−506293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、本発明は、血液中の測定対象成分、特にグルコースの血中濃度−時間曲線下面積を取得し、且つ血液中の測定対象成分の濃度変動を、血中濃度−時間曲線下面積の値を用いて推定する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、
(1)血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する方法(以下、単に「推定方法」ともいう)であって、以下の工程を含む:
被験者の測定対象成分の量に関する初期値を取得する;
第1抽出期間に抽出された、被験者の皮膚に形成された微細孔からの組織液に含まれる測定対象成分の量から、測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第1測定値として取得する;
第2抽出期間に抽出された、被験者の皮膚に形成された微細孔からの組織液に含まれる測定対象成分の量から、測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第2測定値として取得する;
初期値、第1測定値及び第2測定値から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する;
(2)第2抽出期間は、第1抽出期間の終了後の期間である、(1)に記載の方法;
(3)推定工程は、
第1測定値から、第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値から、第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、(2)に記載の方法;
(4)第1抽出期間及び第2抽出期間は同時に開始され、第2抽出期間は第1抽出期間よりも長い、(1)に記載の方法;
(5)推定工程は、
第1測定値から第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値と第1測定値の差から、第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、(4)に記載の方法;
(6)測定対象成分はグルコースであり、測定対象成分の濃度変動は血糖値の変動である、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法;
(7)血糖値の変動が、最大血糖値の推定、最大血糖値の到達時刻の推定、及び血糖値変動速度の各パラメータにより表現される、(6)に記載の方法;
(8)第1測定値が、第1抽出期間に抽出された組織液に含まれる、ナトリウムイオンの濃度によって補正された値であり、
第2測定値が、第2抽出期間に抽出された組織液に含まれる、ナトリウムイオンの濃度によって補正された値である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法;
(9)第1抽出期間及び第2抽出期間の少なくとも1つが、60分以上である、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法;
(10)第1抽出期間及び第2抽出期間の合計が、120分以上である、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法;
(11)第2抽出期間が、120分以上である、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法;
(12)初期値が、被験者からの採血により取得された測定対象成分の血中濃度の値である、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法;
(13)血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する装置であって、以下を含む:
被験者の測定対象成分の量に関する初期値を入力するための入力部;
被験者の皮膚に形成された微細孔から第1抽出期間に抽出された組織液を保持するための第1収集部材;
被験者の皮膚に形成された微細孔から第2抽出期間に抽出された組織液を保持するための第2収集部材;
第1収集部材に含まれる測定対象成分の量と、第2収集部材に含まれる測定対象成分の量を測定するための測定部;及び
第1収集部材に含まれる測定対象成分の量から、第1抽出期間における測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第1測定値として取得し、
第2収集部材に含まれる測定対象成分の量から、第2抽出期間における測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第2測定値として取得し、
初期値、第1測定値及び第2測定値から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する解析部;
(14)第2抽出期間は、第1抽出期間の終了後の期間である、(13)に記載の装置;
(15)解析部は、
第1測定値から第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値から第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、(14)に記載の装置;
(16)第1抽出期間及び第2抽出期間は同時に開始され、第2抽出期間は第1抽出期間よりも長い、(13)に記載の装置;
(17)解析部は、
第1測定値から第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値から第1測定値を引いた値から、第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、(16)に記載の装置;
(18)測定対象成分はグルコースであり、測定対象成分の濃度変動は血糖値の変動である、(13)〜(17)のいずれかに記載の装置;
を提供する。
【0007】
上記の(1)の方法及び(13)の装置を用いれば、血液中の測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積を取得し、且つ血液中の測定対象成分の濃度変動を、血中濃度−時間曲線下面積の値を用いて推定することができる。
【0008】
上記の(6)の方法及び(18)の装置を用いれば、血糖AUCを取得し、且つ血糖値の変動を推定することができる。これにより、血糖変動パターン(最高血糖値、最高血糖値到達時刻、血糖変動速度等)を予測することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血液中の測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積を取得し、且つ血中濃度−時間曲線下面積を用いて、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の推定方法に用いられる穿刺具の一例の斜視説明図である。
【図2】図1に示される穿刺具に装着される微細針チップの斜視図である。
【図3】穿刺具によって微細孔が形成された皮膚の断面説明図である。
【図4】本発明の推定方法に用いられる収集部材の一例の断面説明図である。
【図5】グルコース透過率とナトリウムイオン抽出速度の相関性を示す図である。
【図6】AUCBGとpredicted AUCBGの相関性を示す図である。
【図7】BG30minとpredicted AUCBG(0−60)の相関性を示す図である。
【図8】BG90minとpredicted AUCBG(60−120)の相関性を示す図である。
【図9】BG60min及びBG120minの推定方法を示す概念図である。
【図10】血糖変動パターンAを示す図である。
【図11】血糖変動パターンBを示す図である。
【図12】血糖変動パターンCを示す図である。
【図13】ケース1のフローチャートである。
【図14】図13に示される収集部材の使用時の説明図である。
【図15】回収用チューブを用いた、ゲル内の分析物の回収方法を説明する図である。
【図16】血糖変動パターンを取得に用いられる、コンピュータシステムの構成を示す図である。
【図17】血糖変動パターンを取得に用いられる装置Aを説明する図である。
【図18】血糖変動パターンを取得に用いられる装置Bの回収カートリッジに、抽出リザーバーをセットした状態を説明する図である。
【図19】血糖変動パターンを取得に用いられる装置Bにおける、ゲル内分析物の回収方法を説明する図である。
【図20】血糖変動パターンを取得に用いられる装置Bにおける、ゲル内分析物の回収方法を説明する図である。
【図21】血糖変動パターンを取得に用いられる装置C、センサチップ及び収集部材の斜視説明図である。
【図22】図21に示される装置Cの平面説明図である。
【図23】図21に示される装置Cの側面説明図である。
【図24】図21に示されるセンサチップの平面説明図である。
【図25】図21に示されるセンサチップの側面説明図である。
【図26】装置Cの測定手順の説明図である。
【図27】装置Cの測定手順の説明図である。
【図28】ケース2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
所定期間内に生体内を循環した成分の総量を反映した値として、血中濃度−時間曲線下面積(Area Under the blood concentration time Curve:AUC)が知られている。具体的には、AUCは、生体内の所定の成分の血中濃度の時間経過を表したグラフで描かれる曲線(生体内成分血中濃度−時間曲線)と、横軸(時間軸)とによって囲まれた面積をいう。
【0012】
血糖AUCとは、血糖値の時間経過を表したグラフで描かれる曲線と横軸とによって囲まれた部分の面積(単位:mg・h/dl)である。血糖AUCは、糖尿病治療において、インスリンや経口剤の効果判定を行う上で用いられる指標となり得る。例えば、糖負荷後(食後)所定期間内に血中を循環したグルコース(血糖)の総量を反映した値を血糖AUCによって測定することにより、糖負荷後に被験者の体内を循環したグルコースの総量を推定することができる。糖負荷後に被験者の体内を循環したグルコースの総量は、糖負荷による高血糖状態がどの程度持続したかを知るための極めて有用な情報である。例えば、糖負荷後のインスリンの分泌応答速度を知る手掛かりとなる。また、糖尿病経口薬やインスリンが投与された場合には、それらの効果を知る手掛かりとなる。
【0013】
しかしながら、血糖AUCの値は、これまで糖尿病治療の上で、十分に用いられていない。従って、血糖AUCの値のみでは、医師も患者も理解しにくい。そのため、血糖AUCと血糖変動を同時に取得し提示できれば、血糖AUCと血糖変動の対応付けが容易となる。すなわち、医師は、血糖AUCを、従来用いられてきたOGTT時の血糖変動と対応付けすることができる。また、患者も、血糖AUCを、血糖自己測定で得られる血糖値と対応付けすることができる。結果として、医師及び患者が、血糖AUCと血糖変動の結果を理解しやすくなる。
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の推定方法及び装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態に係る推定方法では、被験者の血糖値の変動パターンを取得するため、被験者の皮膚に微細孔を形成する手段、当該被験者の皮膚から抽出する組織液を蓄積するための抽出リザーバー、及び、グルコース濃度と補正用のナトリウムイオン濃度とを測定可能な装置を用いている。まず、本発明において用いられる微細孔形成手段である穿刺具の一例、及び、抽出リザーバーの一例についてそれぞれ説明する。
【0016】
〔穿刺具〕
図1〜3に示されるように、穿刺具400は、減菌処理された微細針チップ500を装着して、当該微細針チップ500の微細針501を生体の表皮(被験者の皮膚600)に接触させることによって、被験者の皮膚600に組織液の抽出孔(微細孔601)を形成する装置である。微細針チップ500の微細針501は、穿刺具400により微細孔601を形成した場合に、当該微細孔601が皮膚600の表皮内にとどまり真皮までは到達しないような大きさを有する。図1に示されるように、穿刺具400は、筐体401と、この筐体401の表面に設けられたリリースボタン402と、筐体401の内部に設けられたアレイチャック403及びバネ部材404とを備えている。筐体401の下部401aには開口(図示せず)が形成されている。バネ部材404はアレイチャック403を穿刺方向に押し付ける機能を有する。アレイチャック403は下端に微細針チップ500を装着することができる。微細針チップ500の下面には、複数の微細針501が形成されている。また、穿刺具400は、アレイチャック403をバネ部材404の力に逆らって上方(反穿刺方向)に押し上げた状態で固定する固定機構(図示せず)を有しており、使用者(被験者)がリリースボタン402を押下することにより、当該固定機構によるアレイチャック403の固定が解除され、バネ部材404の力によって当該アレイチャック403が穿刺方向に移動するように構成されている。
【0017】
〔抽出リザーバー〕
抽出リザーバー300は、図4に示されるように、被験者の皮膚から抽出した組織液を保持可能な保水性(成分中に実質的にナトリウムイオンを含んでいない)を有するゲル301が支持部材302によって支持された構造を有する。本例におけるゲル301は、ポリビニルアルコールからなる。このゲル301は、抽出媒体としての純水を含有している。
【0018】
支持部材302は、凹部を有する支持部本体302aと、この支持部本体302aの外周側に形成された鍔部302bとを有し、支持部本体302aの凹部内にゲル301が保持されている。鍔部302bの表面には粘着層303が設けられており、測定前の状態では、凹部内に保持されたゲル301をシールする剥離紙304が粘着層303に貼付されている。測定を行う際には、剥離紙304が粘着層303から剥離されてゲル301及び粘着層303が露出され、当該ゲル301が被験者の皮膚に接触した状態で、抽出リザーバー300を粘着層303によって当該被験者の皮膚に貼り付けて固定することができる。
【0019】
〔本発明の測定原理〕
次に本発明の測定原理について説明する。以下のステップ1〜3に従い本発明の測定原理を説明し、ステップ4において、具体的に得られた測定値(推定値)に基づいて血糖値の変動パターンについて説明する。
[ステップ1:血糖時間曲線下面積測定の手順]
<実験条件>
抽出溶媒: 塩化カリウム水溶液 80μL
抽出媒体: ポリビニルアルコールゲル
抽出形態: ゲルチャンバー
抽出部位数: 2部位
抽出面積: 5mm・10mm
抽出時間: 1時間及び2時間
検体数: 10人
グルコース測定方法: GOD蛍光吸光法
補正パラメータ測定方法: イオンクロマトグラフ
微細針アレイ形状: 微細針長さ=300μm、
微細針数=305本
穿刺速度: 6m/s
血糖測定方法: 前腕SMBG値を30分間隔で測定
血糖AUC測定方法: 前腕SMBG値より台形近似法で算出
【0020】
<実験手順>
1) 測定部位(2部位)に対して微細孔形成前処理を行う。
2) 抽出用リザーバーを各測定部位に配置し、組織液抽出を開始する。
3) 一定量の糖を経口負荷する。
4) 抽出開始から1時間経過後、一つ目の抽出用リザーバーを取り外し、分析物を測定
する。
5) 抽出開始から2時間経過後、二つ目の抽出用リザーバーを取り外し、分析物を測定する。
【0021】
ここで、AUCとは、血中濃度−時間曲線下面積(Area Under the blood concentration time Curve:AUC)を示す。
前述した条件により得られた、穿刺部位におけるグルコース透過率(PGlc)とナトリウムイオン抽出速度(JNa)との相関性を図5に示す。
ここでグルコース透過率(PGlc)は抽出部位におけるグルコースの透過性を表す指標であり、次の式(1)から算出される。
Glc=MGlc/AUCBG・・・・・・(1)
AUCBGは前腕SMBG値を用いて台形近似法で算出した血糖時間曲線下面積を表す。また、MGlcは抽出されたグルコースの総量(質量)である。
【0022】
また、ナトリウムイオン抽出速度(JNa)は測定時間内において測定部位から抽出されたナトリウムイオンの単位時間あたりの移動量であり、次の式(2)で表される。
Na=MNa/T・・・・・・(2)
ここでMNaは抽出されたナトリウムイオンの総量(モル数)であり、Tは抽出時間である。皮下のナトリウムイオン濃度はほぼ一定であることから、ナトリウムイオン抽出速度は抽出部位の透過性のみを反映する指標となる。
【0023】
したがってグルコース透過率とナトリウムイオン抽出速度は図1に示されるようによい相関性を示す。この相関性を利用すると、抽出部位のグルコース透過率はナトリウムイオン抽出速度で精度よく推定することが可能である。すなわち、図5中の近似式を用い、PGlc(calc)をナトリウムイオン抽出速度から得られる推定グルコース透過率とすると、
Glc(calc)=αJNa+β・・・・・・(3)
(抽出時間1時間:α =29.003 β = −1.4862)
(抽出時間2時間:α = 30.270 β = −1.2667)
が成立する。
【0024】
ついで、式(1)を変形し、PGlcにPGlc(calc)を代入することで次の式(4)が得られる。
predictedAUCBG=MGlc/PGlc(calc)
=MGlc/(αJNa+β)・・・・・・(4)
式(4)を用いて得られた推定血糖時間曲線下面積(predictedAUCBG)と、血糖値から得られたAUCBGの相関性を図6に示す。
【0025】
[ステップ2:血糖時間曲線下面積を用いた血糖30分値、90分値の推定]
血糖時間曲線下面積1時間値(AUCBG(0−60))とは、抽出時間1時間における血糖値の時間積分値である。したがって、血糖時間曲線下面積1時間値(AUCBG(0−60))を抽出時間(本実施形態では「1(h)」)で割った値は、その時間における平均血糖値(BGaverage (0〜1h))に対応する。よって、この値は測定開始後30分の血糖値(BG30min)と相関関係にあることが推察される。
AUCBG(0−60)/1=BGaverage (0〜1h)
≒BG30min・・・・・・(5)
【0026】
同様に、血糖時間曲線下面積2時間値から血糖時間曲線下面積1時間値を引いた、測定開始後1時間から2時間までの血糖時間曲線下面積(AUCBG(60−120))を抽出時間で割った値は、測定開始後90分の血糖値(BG90min)と相関関係にある。
AUCBG(60−120)/1=BGaverage (1〜2h) ≒BG90min・・・・・・(6)
【0027】
式(4)から得られた推定血糖時間曲線下面積1時間値(predictedAUCBG(0−60))と血糖30分値(BG30min)の相関性を図7に示す。また、predicted AUCBG(0−60)と推定血糖時間曲線下面積2時間値(predictedAUCBG(0−120))から得られる、測定開始後1時間から2時間までの推定血糖時間曲線下面積(predictedAUCBG(60−120))と、血糖90分値(BG90min)の相関性を図8に示す。
【0028】
これらの結果より、血糖時間曲線下面積の測定値を用いて、式(5)及び式(6)より血糖30分値、90分値を求めることができる。
【0029】
[ステップ3:血糖0分値、血糖30分値、90分値を用いた血糖60分値、120分値の推定]
このステップ3が本発明の推定方法を特徴付けるステップである。
血糖値の推移が、測定開始後0分から60分にわたって直線的であったと仮定すると、時刻tにおける血糖値BGは定数A、Bを用いて式(7.1)のように表される。ここで、採血測定により得られた血糖0分値BGS0minと、推定血糖時間曲線下面積1時間値(predicted AUCBG(0−60))から得られた血糖30分値BG30min値と、式(7.1)とから、式(7.2)及び式(7.3)を得る。この2式から得られる定数A、B及びt=60分を、(7.1)式に代入した式(7.4)から血糖60分値BG60minを得ることができる。
【0030】
BG=A・t+B ・・・・・・(7.1)
BGS0min=A・0+B ・・・・・・(7.2)
BG30min=A・30+B ・・・・・・(7.3)
BG60min=(BG30min−BGS0min)/30・60+BGS0min ・・・・・・(7.4)
【0031】
同様に、血糖値が測定開始後60分から120分にわたって直線的であったと仮定すると、時刻tにおける血糖値BGは定数C、Dを用いて式(8.1)のように表される。前述の血糖60分値と、推定血糖時間曲線下面積2時間値(predicted AUCBG(60−120))から得られた血糖90分値BG90min値と、式(8.1)とから、式(8.2)及び(8.3)を得る。式(8.2)及び(8.3)から、C=(BG90min−BG60min)/(90−60)を得ることができる。また、D=BG60min−(BG90min−BG60min)/(90−60)・60を得ることができる。これらの値と、t=120minを式(8.1)に代入して、式(8.4)を得る。これにより、血糖120分値を推定することができる。
BG=C・t+D ・・・・・・ (8.1)
BG60min=C・60+D ・・・・・・ (8.2)
BG90min=C・90+D ・・・・・・ (8.3)
BG120min=〔(BG90min−BG60min)/(90−60)・120〕+BG60min−〔(BG90min−BG60min)/(90−60)・60〕・・・・・・(8.4)
【0032】
かかる推定方法の概念図を図9に示す。
【0033】
BGS0minを採血により測定する。別途組織液からリザーバーに抽出した液からBG30minを算出する。BGS0minと、BG30minとから、BG60minを算出する。この過程は、式(7.1)〜(7.4)で説明している。
【0034】
またBG60minを推定算出した後、別途組織液からリザーバーに抽出した液からBG90minを算出する。BG60minと、BG90minとから、BG120minを算出する。この過程は、式(8.1)〜(8.4)で説明している。
【0035】
[ステップ4:血糖変動パターンの推定]
上述の方法により、測定開始後30分間隔で推定した推定血糖値を用いて、血糖変動パターンを推定する。この結果を、図10〜12に示す。図10において、実線は本発明法による推定血糖値であり、破線は30分間各で採血した血糖値である。血糖変動パターンの違いが顕著な3例を、図10〜12に示す。
【0036】
これらの結果より、本発明法によれば、以下A〜Cの血糖変動パターン(最大血糖値、最大血糖値到達時刻、血糖変動速度等)を見分けることが可能であることが確認された。
【0037】
図10・・・パターンA:測定開始60分後に血糖値は最大値に到達する。最大血糖値は200mg/dl程度である。その後、血糖値は1時間に100mg/dl程度の速度で下降し、測定開始120分後には100mg/dl程度になる。
【0038】
図11・・・パターンB:測定開始120分後に血糖値は最大値(測定時間内における)に到達する。最大血糖値は200mg/dl程度である。血糖値の上昇速度は最初の60分が1時間に80mg/dl程度であり、次の60分は1時間に20mg/dl程度である。パターンAに対し、インスリン分泌の応答速度が遅いタイプである等の推察が可能である。
【0039】
図12・・・パターンC:測定開始120分後に血糖値は最大値(測定時間内における)に到達するが、最大値は120mg/dl程度であり、測定時間内における血糖変動の起伏は軽微である。パターンA、Bに対し、インスリン作用が良好なタイプである等の推察が可能である。
【0040】
各タイプの推定血糖値から得られた上述の見解は、採血測定から得られた血糖変動をもとにした分析結果とよく一致することが分かる。
【0041】
〔測定手順〕
ついで、穿刺から抽出リザーバーの貼付、抽出リザーバーの測定対象物の測定、具体的な計算について、2つのケース(ケース1及びケース2)にしたがって説明する。
【0042】
[ケース1]
図13はケース1のフローチャートである。このケース1は、抽出リザーバーを途中で張り替えて測定する場合である。
【0043】
まず通常の方法に従い、採血により測定対象成分の量に関する初期値、すなわち血中グルコース濃度を得る(ステップS0)。
【0044】
この初期値を得る工程と並行して、穿刺により組織液の亢進処理がなされた皮膚から組織液を、抽出リザーバー中へ60分間抽出する。より詳細には、被験者の皮膚600をアルコール等を用いて洗浄し、測定結果の攪乱要因となる物質(汗、塵等)を除去する(ステップS1)。
【0045】
洗浄を行った後に、微細針チップ500を装着した穿刺具400(図1参照)により皮膚600に微細孔601を形成する(ステップS2)。具体的には、皮膚600の微細孔601を形成する部位に穿刺具400の下部401aの開口(図示せず)を配置した状態で、リリースボタン402を押下する。これにより、固定機構(図示せず)によるアレイチャック403の固定が解除されるとともに、アレイチャック403がバネ部材404の力により皮膚600側に移動する。そして、アレイチャック403の下端に装着された微細針チップ500(図2参照)の微細針501が所定の速度で被験者の皮膚600に当接する。これにより、図3に示されるように、被験者の皮膚600の表皮部分に微細孔601が形成される。
【0046】
次に、図14に示されるように、被験者は、収集部材(第1抽出リザーバー)300の剥離紙304(図4参照)を取り除き、この収集部材300を微細孔601を形成した部位に貼り付ける(ステップS3)。これにより、微細孔601を形成した部位とゲル301とが接触するとともに、微細孔601を介してグルコース及び電解質(NaCl)を含む組織液がゲル301に移動し始めて、抽出が開始される。
【0047】
なお、被験者の耐糖能等を評価する糖負荷試験を実施する際の、糖を経口負荷するタイミングは、血中グルコース濃度の初期値を得るステップ0の直前、あるいは、第一抽出リザーバーを貼り付けるステップS3直後が望ましい。
【0048】
所定の時間が経過した時点で被験者は収集部材300を皮膚600から取り外す(ステップS4)。ここでは、所定の時間は60分に設定されているので、60分間の時間をかけて、継続して皮膚からの組織液の抽出が行われる。
【0049】
ついで、前記第1抽出リザーバーとは異なる第2抽出リザーバー中に組織液を抽出させるために、前記ステップS1〜ステップS4と同様にして、ステップS5(抽出部前処理)、ステップS6(微細孔形成)、ステップS7(第2リザーバーの貼り付け)及びステップS8(第2リザーバーの取り外し)が順に実行される。
【0050】
なお、この実施例ではステップS1及びS2の穿刺及びアルコール洗浄を行った後に、S5及びS6の各ステップを行っているが、抽出リザーバーを取り替える(張替え)場合には、同一部位を使用する場合には、このS5及びS6の各ステップは省略することが可能である。
【0051】
ついで、組織液が抽出された第1抽出リザーバー及び第2抽出リザーバーを用いて、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度が測定される(ステップS9)。
【0052】
グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度は、例えば、皮膚からの分析物の抽出が終了した抽出リザーバーを、図15に示される回収用チューブ30内で回収液(純水)31中に浸漬し、ゲル301中の分析物を回収する。回収液に含まれるナトリウムイオン濃度、及びグルコース濃度は、公知の手法により測定することができる。例えば、ダイオネクス社製イオンクロマトグラフを用いることで、回収液中のナトリウム濃度C(NaCl)を測定することができる。また、高速液体クロマトグラフィーにより、回収液中のグルコース濃度C(Glc)(ng/ml)を測定することができる。
【0053】
ついで、式(4)を用いて、測定開始0分から60分に亘る推定血糖時間曲線下面積1時間値、及び、測定開始後60分から120分に亘る推定血糖時間曲線下面積2時間値を算出する(ステップS10)。
【0054】
より具体的には、上記のステップS9で測定した、ナトリウム濃度C(NaCl)を用いて、抽出部位におけるナトリウムイオン抽出速度JNa(mmol/h)を次式より得ることができる。
Na=C(NaCl)・V(μL)・10-6/T
Vはゲル及び回収液の液量の総和、Tは図14の状態における抽出時間である。
【0055】
次に、上記のステップS9で測定した、グルコース濃度C(Glc)(ng/ml)を用い、抽出グルコース量MGlcを次式によって算出する。
Glc=C(Glc)・V(μL)・10-3
以上の測定から得られたJNaとMGlcを用いて、式(4)により、predictedAUCBGを算出することができる。
【0056】
ついで、式(5)〜(8.4)を用いて、血糖30分値、血糖60分値、血糖90分値及び血糖120分値を算出する(ステップS11)。そして、算出された値、及びステップ0で得られた初期値を線分で結ぶことで被験者の血糖変動パターン(図10〜12参照)を得る(ステップS12)。これにより、血糖変動パターン及び血糖AUCの両方を取得し、表示部に表示する。
【0057】
なお、上記のステップS9及びステップS10は、コンピュータシステムによって行うことができる。このコンピュータシステムは、プロセッサ及びメモリを含んでいる。メモリは、プロセッサの制御下にあり、コンピュータシステムがステップS9及びステップS10の動作(オペレーション)を実行できるように適用される、ソフトウェア命令(コンピュータプログラム)を含んでいる。
【0058】
より具体的なコンピュータシステムの構成を、図16に示す。コンピュータシステム900は、パーソナルコンピュータからなっており、本体901と、入力部910と、表示部920から構成されている。本体900は、CPU901と、ROM902と、RAM903と、ハードディスク904と、読み出し装置905と、入出力インターフェース906と、画像出力インターフェース907と、通信インターフェース908を有する。
【0059】
CPU901は、ROM902に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM903にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM903は、ROM902及びハードディスク904に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM903は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU901の作業領域としても利用される。
【0060】
ハードディスク904には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU901に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。すなわち、ハードディスク904には、上記のステップ0で得られる、初期値すなわち血中グルコース濃度と、上記のステップ9で得られる、第1抽出リザーバー及び第2抽出リザーバーからの回収液における、ナトリウム濃度C(NaCl)及びグルコース濃度C(Glc)とに基づいて、血糖変動パターンを取得するプログラムがインストールされている。このプログラムがインストールされることで、上記のステップS10、11及び12の処理が行われる。また、ハードディスク904には、取得された血糖変動パターンを表示部920に表示するプログラムも含まれている。
【0061】
読出装置905は、CDドライブ又はDVDドライブ等によって構成されており、記録媒体等の外部記憶に記録されたコンピュータプログラム及びデータを読み出すことができる。これにより、コンピュータシステム900で実行されるプログラムは、記録媒体等の外部記憶を介して更新可能となっている。
【0062】
入出力インターフェース906には、マウスやキーボードからなる入力部910が接続されている。ユーザが入力部910を使用することにより、コンピュータシステム900に初期値、ナトリウム濃度C(NaCl)及びグルコース濃度C(Glc)を入力することができる。また、初期値、ナトリウム濃度C(NaCl)及びグルコース濃度C(Glc)を、各種測定装置で測定した場合、これらの測定装置を通信インターフェース908に接続することもできる。この場合、測定装置から通信インターフェース908を介して、コンピュータシステム900に初期値、ナトリウム濃度C(NaCl)及びグルコース濃度C(Glc)を入力することができる。
【0063】
画像出力インターフェース907は、ディスプレイ等で構成された表示部920に接続されており、血糖変動パターンやpredictedAUCBG等を、表示部920に出力する。
【0064】
また、本実施の形態に係る推定方法は、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する装置により、実施することもできる。例えば、血糖変動パターンは、以下の装置A〜Cを用いて、取得することができる。
【0065】
<装置A>
装置Aの模式図を、図17に示す。この装置Aは、導入部48、測定部41、グルコース濃度測定用電極42、ナトリウムイオン濃度測定用電極43、解析部44、記憶部45、入力部47及び表示部46を有している。
【0066】
まず、採血により得られた血中グルコース濃度である初期値が、入力部47から入力される。入力された初期値は、解析部44により、記憶部45に記憶される。
【0067】
次に、図15に示される回収用チューブ30によって第1抽出リザーバーから回収した回収液は、シリンジ32によって吸引され、保持される。シリンジ32に保持された回収液は、装置Aの導入部48に出される。回収液は導入部48から、測定部41に移動する。測定部41には、グルコース濃度測定用電極42及びナトリウムイオン濃度測定用電極43が配置されている。このグルコース濃度測定用電極42及びナトリウムイオン濃度測定用電極43により、回収液中のグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度が測定される。測定されたグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度は、解析部44により、記憶部45に記憶される。なお、解析部44は、測定部41で測定された、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度から、上記ステップのS10処理を行うことで、推定血糖時間曲線下面積を取得することもできる。この場合、記憶部には、グルコース濃度、ナトリウムイオン濃度及び推定血糖時間曲線下面積が記憶される。
【0068】
同様に、第2抽出リザーバーから回収した回収液のグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度が測定され、解析部44により、記憶部45に記憶される。なお、解析部が、上記ステップのS10処理を行う場合は、記憶部には、グルコース濃度、ナトリウムイオン濃度及び推定血糖時間曲線下面積が記憶される。
【0069】
解析部44は、記憶部45に記憶された初期値と、第1抽出リザーバー及び第2抽出リザーバーからの回収液における、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度とを呼び出す。解析部44は、初期値、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度を用いて、上記のステップS10、11及び12の処理を行うことで、血糖変動パターンや推定血糖時間曲線下面積等を取得する。解析部44は、取得された結果を、表示部46に出力する。ここで、予め記憶部に、グルコース濃度、ナトリウムイオン濃度及び推定血糖時間曲線下面積が記憶されている場合、解析部は上記のステップS11及び12の処理を行うことで、血糖変動パターン及び推定血糖時間曲線下面積の両方を取得する。
【0070】
なお、図15において、21は抽出リザーバー(収集部材)300のゲル301を支持する支持部材である。
【0071】
<装置B>
この装置Bでは、図18に示されるように、皮膚からの分析物の抽出を終了したゲル301を備えた抽出リザーバー(収集部材)300を専用の回収カートリッジ50にセットする。この回収カートリッジ50は、箱形状のカートリッジ本体51からなっており、カートリッジ本体51の対向する壁面の一方に回収液の流入口52が形成されており、他方には回収液の流出口53が形成されている。収集部材300は、カートリッジ本体51の一面に形成された開口54からゲル301が当該カートリッジ本体51内部に突出するように、回収カートリッジ50にセットされる。
【0072】
ついで、図19に示されるように、回収カートリッジ50を装置Bの所定箇所にセットする。この装置Bは、タンク部61及びポンプ部62を備えており、タンク部61、ポンプ部62、カートリッジ本体51及び測定部63に至る回収液の流路が形成されている。また、測定部63にはグルコース濃度測定用電極64及びナトリウムイオン濃度測定用電極65が配置されている。回収カートリッジ50にセットした後、ポンプ部62を駆動させてタンク部61に収容されている、ゲル内分析物回収用の回収液69をカートリッジ本体51内に移送する(図19参照)。なお、図示は省略しているが、カートリッジ本体51の流出口53の下流側にはバルブが配置されており、回収液69をカートリッジ本体51内に移送するに先立って、当該バルブが止められる。
【0073】
カートリッジ本体51内に回収液69を充填させた状態で一定時間放置し、ゲル301内の分析物を回収液69中に回収する。その後、前記バルブを開けて、図20に示されるように、ポンプ部62を駆動させて回収液69を測定部63に移送する。そして、移送された回収液69のグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度が、測定部63で測定される。
【0074】
なお、初期値は入力部69から入力される。また、装置Bの解析部66及び記憶部67は、装置Aの解析部44及び記憶部45と同様に機能する。これにより、初期値、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度を用いて、血糖変動パターン及び推定血糖時間曲線下面積の解析が行われる。得られた結果は、表示部68にて出力される。
【0075】
<装置C>
この装置Cで用いられる測定器100は、図22〜23に示されるように表示部1と、記憶部2と、解析部3と、電源4と、センサチップ200及び収集部材300を設置するためのセット部である設置部5と、この設置部5に設置されたセンサチップ200に接続される電気回路6と、ユーザ(被験者)が装置Cを操作するための操作ボタン7と、タイマー部8と、入力部(図示せず)を備えている。
【0076】
設置部5は、凹形状を有しており、センサチップ200及び収集部材300を設置することが可能に構成されている。電気回路6は、グルコース濃度測定用回路6aと、ナトリウムイオン濃度測定用回路6bとを含んでいる。グルコース濃度測定用回路6aは、設置部5内に露出した端子6c及び6dを含んでおり、ナトリウムイオン濃度測定用回路6bは、設置部5内に露出した端子6e及び6fを含んでいる。また、電気回路6は、グルコース濃度測定用回路6aと、ナトリウムイオン濃度測定用回路6bとを切り替えるためのスイッチ6gを含んでいる。ユーザは、操作ボタン7を操作することによりスイッチ6gを操作して、グルコース濃度測定用回路6aと、ナトリウムイオン濃度測定用回路6bとを切り替えることが可能である。操作ボタン7は、スイッチ6gの切換、表示部1の表示の切換及びタイマー部8の設定等の操作をするために設けられている。タイマー部8は、グルコースの抽出を開始してから所定の時間で抽出を終了するために、ユーザに抽出の終了時間を通知する機能(時間通知手段としての機能)を有しており、そのためのアラーム装置(図示せず)を内蔵している。
【0077】
センサチップ200は、図24〜25に示されるように、合成樹脂製の基板201と、この基板201の上面に設けられた一対のグルコース濃度測定用電極202と、基板201の上面に設けられた一対のナトリウムイオン濃度測定用電極203とを備えている。グルコース濃度測定用電極202は、白金電極にGOD酵素膜(GOD:グルコースオキシダーゼ)が形成された作用電極202aと白金電極からなる対電極202bとからなり、一方、ナトリウムイオン濃度測定用電極203は、ナトリウムイオン選択膜を備えた銀/塩化銀からなるナトリウムイオン選択性電極203aと、対電極である銀/塩化銀電極203bとからなる。センサチップ200が装置Cの設置部5に設置された状態で、グルコース濃度測定用電極202の作用電極202a及び対電極202bは、それぞれ、グルコース濃度測定用回路6aの端子6c及び6dと接触するように構成されている。同様に、センサチップ200が装置Cの設置部5に設置された状態で、ナトリウムイオン濃度測定用電極203のナトリウムイオン選択性電極203a及び銀/塩化銀電極203bは、それぞれ、ナトリウムイオン濃度測定用回路6bの端子6e及び6fと接触するように構成されている。
【0078】
測定時には、定電圧制御回路を通して、グルコース濃度測定用電極である作用電極と対電極の間に一定電圧を加えて、得られた電流値IGlcを得る(図24〜24参照)。この電流値IGlcを、式(C(Glc)=A・IGlc+B)に代入することで、グルコース濃度を得る。次に、操作ボタンによって回路を切替えて、定電流制御回路を通して、ナトリウムイオン濃度測定用電極間に一定電流を印加して、得られた電圧値VNaから、式(C(NaCl)A´・VNa+B´)を用いてナトリウムイオン濃度を得る。
【0079】
初期値は、入力部で入力される。また、装置Cの解析部3及び記憶部2は、装置Aの解析部44及び記憶部45と同様に機能する。これにより、初期値、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度を用いて、血糖変動パターン及び推定血糖時間曲線下面積の解析が行われる。得られた結果は、表示部1に出力される。
【0080】
[ケース2]
図28はケース2のフローチャートである。このケース2は、最初に2つの抽出リザーバーを皮膚に貼り付けておき、途中、所定時間経過後に一方の抽出リザーバーを取り外す場合である。
ケース2においても、まず通常の方法に従い、採血により測定対象成分の量に関する初期値、すなわち血中グルコース濃度を得る(ステップS20)。
【0081】
この初期値を得る工程と並行して、穿刺により組織液の亢進処理がなされた皮膚から組織液を、抽出リザーバー中へ60分間又は120分間抽出する。より詳細には、被験者の皮膚600をアルコール等で洗浄し、測定結果の攪乱要因となる物質(汗、塵等)を除去する(ステップS21)。
【0082】
洗浄を行った後に、ケース1のステップS2と同様にして微細針チップ500を装着した穿刺具400(図1参照)により皮膚600に微細孔601を2箇所形成する(ステップS22)。
【0083】
次に、図14に示されるように、被験者は、2つの収集部材300の剥離紙304(図4参照)をそれぞれ取り除き、各収集部材300を微細孔601を形成した2箇所の部位に貼り付ける(ステップS23)。これにより、微細孔601を形成した部位とゲル301とが接触するとともに、微細孔601を介してグルコース及び電解質(NaCl)を含む組織液がゲル301に移動し始めて、抽出が開始される。
【0084】
所定の時間が経過した時点で被験者は一方の収集部材300を皮膚600から取り外す(ステップS24)。ここでは、所定の時間は60分に設定されているので、60分間の時間をかけて、継続して皮膚からの組織液の抽出が行われる。
【0085】
ついで、さらなる所定時間が経過した時点で被験者は残っている他方の収集部材300を皮膚600から取り外す(ステップS25)。ここでは、さらなる所定の時間は60分に設定されているので、他方の収集部材300では120分間の時間をかけて、継続して皮膚からの組織液の抽出が行われる。
【0086】
ついで、組織液が抽出された2つの抽出リザーバーを用いて、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度が測定される(ステップS26)。
【0087】
ついで、式(4)を用いて、測定開始0分から60分に亘る推定血糖時間曲線下面積1時間値、及び、測定開始後60分から120分に亘る推定血糖時間曲線下面積2時間値を算出する(ステップS27)。このケース2では、他方の収集部材300から得られる推定血糖AUCから、一方の収集部材300から得られる推定血糖AUCを減じることで、測定開始後60分から120分に亘る推定血糖時間曲線下面積2時間値を算出することができる。
【0088】
ついで、式(5)〜(8.4)を用いて、血糖30分値、血糖60分値、血糖90分値及び血糖120分値を算出し(ステップS28)、さらに算出された値を線分で結ぶことで被験者の血糖変動パターン(図10〜12参照)を得る(ステップS29)。これにより、血糖変動パターン及び血糖AUCの両方を取得し、表示部に表示する。
【0089】
なお、上述のコンピュータシステムや上述の血糖変動パターンを取得する装置を、ケース2に適宜適応することが可能である。より具体的には、他方の収集部材300から得られる推定血糖AUCから、一方の収集部材300から得られる推定血糖AUCを減じることで、測定開始後60分から120分に亘る推定血糖時間曲線下面積2時間値を算出するよう、コンピュータシステムや装置を設定すればよい。
【0090】
また、前述した実施の形態では、組織液中のグルコース量を測定した例を示したが、本発明はこれに限らず、組織液中に含まれるグルコース以外の物質の量を測定し、何らかの指標として用いてもよい。本発明により測定される物質としては、例えば、生化学成分や被験者に投与された薬剤等が挙げられる。生化学成分としては、生化学成分の一種であるたんぱく質の、アルブミン、グロブリン及び酵素等が挙げられる。また、たんぱく質以外の生化学成分として、クレアチニン、クレアチン、尿酸、アミノ酸、フルクトース、ガラクトース、ペントース、グリコーゲン、乳酸、ピルビン酸及びケトン体等が挙げられる。また、薬剤としては、ジギタリス製剤、テオフィリン、不整脈用剤、抗てんかん剤、アミノ配糖体抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、抗血栓剤及び免疫抑制剤等が挙げられる。
【0091】
また、前述した実施の形態では、算出した推定血糖AUCの値と濃度変動をそのまま表示部に表示した例を示したが、本発明はこれに限らず、算出した推定血糖AUCの値を抽出時間で除した値を表示部に表示してもよい。これにより、単位時間当たりの推定血糖AUCを得ることができるので、抽出時間が異なる場合にも、それらの値を容易に比較することができる。
【0092】
また、前述した実施の形態では、第1抽出期間及び第2抽出期間(ケース1では両方とも60分。ケース2では、第1抽出期間が60分で、第2抽出期間が120分)の間、組織液を抽出して血糖値の変動パターンの解析を行っているが、更なる期間(例えば、第3期間)の間、組織液の抽出を行うことも可能である。この場合、期間毎に抽出リザーバーを貼りかえるようにしてもよいし、また、最初に期間の数だけの抽出リザーバーを貼り付けて、所定時間経過時に順次剥がすようにしてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 表示部
2 記録部
3 解析部
4 電源
5 設置部
6 電気回路
6a グルコース濃度測定用回路
6b ナトリウムイオン濃度測定用回路
7 操作ボタン
8 タイマー部
100 測定装置(生体内成分測定装置)
200 センサチップ
201 基板
202 グルコース濃度測定用電極
203 ナトリウムイオン濃度測定用電極
300 収集部材(抽出リザーバー)
301 ゲル
302 支持部材
303 粘着層
304 剥離紙
400 穿刺具
500 微細針チップ
501 微細針
600 皮膚
601 微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する方法であって、以下の工程を含む:
被験者の測定対象成分の量に関する初期値を取得する;
第1抽出期間に抽出された、被験者の皮膚に形成された微細孔からの組織液に含まれる測定対象成分の量から、測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第1測定値として取得する;
第2抽出期間に抽出された、被験者の皮膚に形成された微細孔からの組織液に含まれる測定対象成分の量から、測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第2測定値として取得する;
初期値、第1測定値及び第2測定値から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する。
【請求項2】
第2抽出期間は、第1抽出期間の終了後の期間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
推定工程は、
第1測定値から、第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値から、第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1抽出期間及び第2抽出期間は同時に開始され、第2抽出期間は第1抽出期間よりも長い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
推定工程は、
第1測定値から第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値と第1測定値の差から、第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
測定対象成分はグルコースであり、測定対象成分の濃度変動は血糖値の変動である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
血糖値の変動が、最大血糖値の推定、最大血糖値の到達時刻の推定、及び血糖値変動速度の各パラメータにより表現される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第1測定値が、第1抽出期間に抽出された組織液に含まれる、ナトリウムイオンの濃度によって補正された値であり、
第2測定値が、第2抽出期間に抽出された組織液に含まれる、ナトリウムイオンの濃度によって補正された値である、
請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第1抽出期間及び第2抽出期間の少なくとも1つが、60分以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第1抽出期間及び第2抽出期間の合計が、120分以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第2抽出期間が、120分以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
初期値が、被験者からの採血により取得された測定対象成分の血中濃度の値である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する装置であって、以下を含む:
被験者の測定対象成分の量に関する初期値を入力するための入力部;
被験者の皮膚に形成された微細孔から第1抽出期間に抽出された組織液を保持するための第1収集部材;
被験者の皮膚に形成された微細孔から第2抽出期間に抽出された組織液を保持するための第2収集部材;
第1収集部材に含まれる測定対象成分の量と、第2収集部材に含まれる測定対象成分の量を測定するための測定部;及び
第1収集部材に含まれる測定対象成分の量から、第1抽出期間における測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第1測定値として取得し、
第2収集部材に含まれる測定対象成分の量から、第2抽出期間における測定対象成分の血中濃度−時間曲線下面積の値を第2測定値として取得し、
初期値、第1測定値及び第2測定値から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する解析部。
【請求項14】
第2抽出期間は、第1抽出期間の終了後の期間である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
解析部は、
第1測定値から第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値から第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
第1抽出期間及び第2抽出期間は同時に開始され、第2抽出期間は第1抽出期間よりも長い、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
解析部は、
第1測定値から第1時点における測定対象成分の第1血中濃度を取得し、
第2測定値から第1測定値を引いた値から、第2時点における測定対象成分の第2血中濃度を取得し、
初期値、第1血中濃度及び第2血中濃度から、血液中の測定対象成分の濃度変動を推定する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
測定対象成分はグルコースであり、測定対象成分の濃度変動は血糖値の変動である、請求項13〜17のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−256330(P2010−256330A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9941(P2010−9941)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】