説明

血圧上昇抑制組成物

【課題】血圧上昇抑制組成物を提供する。
【解決手段】野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を有効成分とする血圧上昇抑制組成物。該野菜搾汁物原料野菜は、例えばトマト、ニンジン、ホウレンソウ等が好適に使用できる。野菜搾汁物としては、野菜ピューレ、野菜ペースト、野菜ジュース、野菜ジュース濃縮物、野菜乾燥粉末等が使用可能である。該組成物は、単独で、又は他の成分を添加し、医薬品、飲食品又は化粧品として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧上昇抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高血圧性の病気で治療を受けている人が急増している。アメリカでは、高血圧者に対する食事摂取の指針として、Dietary Approaches to Stop Hypertension eating plan(DASHプロジェクト)が提案されている。果物、野菜の摂取を増やすこととともに、食塩の摂取量を減らした食事により高血圧者の血圧が低下することは公知である(例えば、非特許文献1参照)。他にも疫学的研究が多数行われており、主に野菜に含まれるポリフェノール類やカリウムなどが血圧を降下させる成分と考えられる(例えば、非特許文献2,3参照)。「2005年度版日本人の食事摂取基準(厚生労働省)」では、高血圧の予防を目的としたカリウム摂取基準として、「生活習慣病予防の観点からみた望ましい摂取量」として1日3,500mgとしている。日本人の平均カリウム摂取量は1日あたり約2,400mgなので、その差1,100mgを野菜の摂取で補うことにより、高血圧予防が期待できる。通常の食事に加えて更に大量の野菜を摂食することは容易ではないが、野菜の搾汁物(野菜ピューレ、野菜ペースト、野菜ジュース)は、野菜を効率的に摂取するために好適な食品である。
【0003】
穀物であるソバ(蕎麦)は、ルチンなどのポリフェノール類を豊富に含む食品である。ソバの中でも、近年特に優れた機能性を有するものとして知られているのがダッタンソバ(韃靼ソバ)である。ダッタンソバは、主に、中国、ネパール、ブータンなどの高山地帯で古くから主食として利用され、日本で通常使用されるソバの「普通種」が他家受精であるのに対して、自家受精種である。また、ダッタンソバはルチン含量が「普通種」の蕎麦よりも約100倍高く、さらに発芽し若芽になることによりルチン含量は倍以上に増加する。発芽ソバや発芽ソバ発酵物が血圧降下作用を有することは既に知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
ルチンは、古くから毛細血管の強化作用などの機能性を有することが知られている。ルチンのアグリコンであるケルセチンは、強い血圧降下作用を有する(例えば、非特許文献4,5参照)。ルチンは、体内で消化・吸収され、ケルセチンあるいはケルセチンの代謝物となって血圧降下作用を示すことが期待される。
【0005】
【非特許文献1】J. Am. Diet Assoc. (1999) 99(8 Suppl): 35-39
【非特許文献2】Am. J. Epidemiol. (2004), 159: 572
【非特許文献3】Br. J. Nutr. (2004) 92: 311
【非特許文献4】J. Cardiovasc. Pharmacol. (2005) 46: p36-40
【非特許文献5】British J. Pharmacology (2001) 133: p117-124
【特許文献1】特開平6−154549号公報
【特許文献2】特開2005−304355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、血圧上昇抑制組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物の混合物が、摂取後速やかに作用し、強い血圧上昇抑制効果を示すことを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下に関する。
(1)野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を有効成分とする、血圧上昇抑制組成物。
(2)野菜搾汁物が、トマト、ニンジン又はホウレンソウから選ばれる1種以上の野菜の搾汁物である、上記(1)記載の血圧上昇抑制組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を有効成分とする血圧上昇抑制組成物が提供された。該組成物は、単独で、又は他の成分を添加し、医薬品、飲食品又は化粧品として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の血圧上昇抑制組成物は、野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を有効成分とする。
【0010】
発芽ソバ搾汁物との混合物が血圧上昇抑制効果を発揮する限り、野菜搾汁物の原料野菜は特に限定されないが、例えば、トマト、ニンジン、ホウレンソウ等が好適に使用できる。野菜搾汁物としては、野菜ピューレ、野菜ペースト、野菜ジュース、野菜ジュース濃縮物、野菜乾燥粉末等が使用可能である。野菜ピューレは、原料野菜をミキサー等により破砕することにより得られる。野菜ペーストは野菜ピューレを濃縮することにより得られる。また、野菜ジュースは、原料野菜の植物体をミキサー等により破砕、圧搾して搾汁液を得た後、濾過等により搾汁液から未破砕の植物体等の残渣を取り除くことにより得られる。野菜ジュース濃縮物は、野菜ジュースを膜濃縮法、凍結濃縮法又は加熱濃縮法によって濃縮することにより得られる。野菜乾燥粉末は、野菜ピューレ、野菜ペースト、野菜ジュース等を凍結乾燥することにより得られる。本発明の野菜搾汁物は、2種以上の野菜を原料とするものであってもよい。
本発明の発芽ソバ搾汁物は、発芽ソバを搾汁することにより得られる。野菜搾汁物との混合物が血圧上昇抑制効果を発揮する限り、ソバの品種は限定されず、例えば、ダッタンソバ、信濃1号、栃木在来等の品種が使用できる。
発芽ソバ搾汁物としては、発芽ソバのピューレ、ペースト、ジュース、ジュース濃縮物、乾燥粉末等が使用可能である。発芽ソバとしては、例えばソバの種子を水に浸漬して発芽させ、茎が10〜15cm程度に伸長した段階で収穫し、該収穫物の根を取り除いたものが使用できる。発芽ソバのピューレ、ペースト、ジュース、ジュース濃縮物、乾燥粉末は、野菜搾汁物の調製法と同様の操作により得ることができる。
血圧上昇抑制効果を発揮する限り、本発明の血圧上昇抑制組成物は、野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を混合することにより得られる。野菜搾汁物と発芽ソバ搾汁物の混合比は、特に限定されないが、例えば1:0.01〜1である。
【0011】
本発明の血圧上昇抑制組成物は、単独で又は他の成分を添加して、医薬品、飲食品又は化粧品として使用することができる。医薬品、飲食品又は化粧品の種類、形態、及びその他の含有成分等には特に制約はなく、任意の加工方法を採用することができる。血圧上昇抑制組成物を経口摂取する場合、有効成分の摂取量は、摂取者の年令、体重、適応症状などによって異なる。例えば、体重60kgの成人による経口摂取の場合、一日1回又は数回摂取し、その摂取量は、一日当たり約50g〜500g、体重換算では1〜10g/kg体重程度とすればよい。
【0012】
本発明の血圧上昇抑制組成物は、機能性飲食品として特に好適に使用できる。血圧上昇抑制効果を有する限り、該組成物をそのまま機能性飲食品として使用してもよいし、該組成物を他の食品、例えば、肉製品、水産加工品、加工野菜、加工果実、惣菜類、大豆加工品、食用粉類、食用蛋白質、飲料、酒類、調味料、乳製品、菓子に添加して使用してもよい。飲食品としての形状は、特に限定されず、例えば固形状、乳状、ペースト状、半固形状、液状とすればよい。なお、本発明の機能性飲食品は、ヒト用のみならずペットフードや家畜用飼料等の動物用として使用することもできる。
【実施例1】
【0013】
実施例では、有効成分として発芽ソバ乾燥粉末及び野菜乾燥粉末を併用することによる血圧上昇抑制効果を確認した。
1.発芽ソバ搾汁物の調製
本発明の発芽ソバ搾汁物として、発芽ソバ乾燥粉末を調製した。まず、ダッタンソバの種子を水に浸漬して発芽させ、栽培8日目の茎が10〜15cm程度に伸長した段階で収穫した。得られた発芽ダッタンソバ10kgを21分間スチームブランチングし、磨砕装置(商品名「スーパーマスコロイダー」:増幸産業株式会社製)を用いて、上下の砥石の間隙を2.0mmに設定して磨砕した。次いで、スクリーンサイズ0.5mmのパドル式パルパーフィニッシャーで裏ごしして、該ダッタンソバスプラウト磨砕物から殻を取り除いて、発芽ダッタンソバのピューレ6.92kgを得た。ダッタンソバスプラウトピューレは凍結乾燥し、乾燥粉末360.7gを得た。乾燥粉末は1gあたり20mgのルチンを含有していた。
2.野菜搾汁物の調製
本発明の野菜搾汁物として、野菜乾燥粉末を調製した。まず、トマトジュース5.2kg、人参ジュース1.25kg、ほうれん草汁1.2kg、セロリ汁25g、明日葉汁25g、かぼちゃピューレ25gを配合し撹拌混合して、野菜ジュース7.725kgを調合した。次いで野菜ジュースを凍結乾燥し、乾燥粉末602.5gを得た。乾燥粉末は、1gあたり30mgのカリウムを含有していた
3.自然発症高血圧ラット(SHR)に対する血圧上昇抑制試験
(1)使用動物
5週令の雄性SHRを7日間通常の餌(MF粉末、オリエンタルバイオ社製)で予備飼育し、その間、非観式血圧測定計(室町機械社製)で血圧を測定することにより血圧測定操作に十分慣らさせたものを試験に使用した。SHRは加齢により高血圧症状を示す動物であり、被検物質の血圧上昇抑制効果を確認するために一般的に使用されている。
(2)飼料投与法
表1のように、飼料であるMF粉末(オリエンタルバイオ社製)、上記の方法で調製した野菜乾燥粉末又は発芽ソバ乾燥粉末を混合し、ラットが試験中自由に摂取できるように与えた。
【0014】
【表1】

【0015】

(3)血圧測定法
1群につき6匹のSHRを使用した。血圧測定は週に1回午前中に行い、尾動脈の収縮期血圧を測定した。得られた結果はSPSS ver.11(SPSS社製)を用いて分散分析などで統計解析し、有意水準5%で検定を行った。
(4)血圧測定結果
図1に収縮期血圧の測定結果を示した。投与後5週目と6週目では、野菜粉末(2群:比較例)のみと発芽ソバ乾燥粉末のみ(3群:比較例)でも血圧上昇を抑制する傾向を示した。また、発芽ソバ乾燥粉末を高濃度に混合した飼料を投与した場合は対照群に対して有意な血圧上昇抑制効果を示した(4群:比較例)。野菜粉末と発芽ソバ乾燥粉末とを併用することで、対照群に対して有意な血圧上昇抑制効果を示した(5群、6群:本発明)。野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物の混合物が血圧上昇抑制組成物として有用であることが示された。
4.食塩感受性高血圧ラット(Dahl−Sラット)に対する血圧上昇抑制試験
(1)使用動物
5週令の雄性Dahl−Sラットを7日間通常の餌(MF粉末、オリエンタルバイオ社製)で予備飼育し、その間、非観式血圧測定計(室町機械社製)で血圧を測定することにより血圧測定操作に十分慣らさせたものを試験に使用した。
(2)飼料投与法
表2のように飼料であるMF粉末(オリエンタルバイオ(株)社製)、乾燥野菜粉末及び発芽ソバ乾燥粉末を混合し、試験中自由に摂取できるように与えた。
【0016】
【表2】

【0017】
(3)血圧測定法
1群につき6匹のDahl−Sラットを使用した。血圧測定は週に1回午前中に行い、尾動脈の収縮期血圧を測定した。得られた結果は分散分析などで統計解析し、有意水準5%で検定を行った。
(4)測定結果
図2に収縮期血圧の測定結果を示した。投与2週目で、野菜粉末と発芽ソバ乾燥粉末は単独でも有意な血圧上昇抑制効果を示した(2群、3群、4群:比較例)が、野菜乾燥粉末と発芽ソバ乾燥粉末とを併用することで、さらに強力な血圧上昇抑制効果が認められた(5群、6群:本発明)。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明により、野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を有効成分とする血圧上昇抑制組成物が提供された。該組成物を単独で使用し、又は他の成分を添加することにより、血圧上昇抑制効果を有する医薬品、飲食品又は化粧品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】自然発症高血圧ラット(SHR)に対する血圧上昇抑制試験の結果を示す図である。
【図2】食塩感受性高血圧ラット(Dahl−Sラット)に対する血圧上昇抑制試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜搾汁物及び発芽ソバ搾汁物を有効成分とする、血圧上昇抑制組成物。
【請求項2】
野菜搾汁物が、トマト、ニンジン又はホウレンソウから選ばれる1種以上の野菜の搾汁物である、請求項1記載の血圧上昇抑制組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214221(P2008−214221A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51638(P2007−51638)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(000104559)日本デルモンテ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】