説明

血小板を用いるミクロ及びナノ粒子の送達

医学的状態の治療で使用するための活性薬剤を含むミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含む血小板が開示される。医薬として許容し得る担体及び粒子担持血小板を含有する医薬組成物、並びに活性薬剤を含むミクロン又はナノメートルサイズの粒子を患者の注目部位へ送達する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性医薬用及び造影用ナノ粒子を、それを必要とする対象に送達するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管組織に対する傷害及び感染の治療及び診断は、問題を含むことが多く、このような傷害又は感染の部位へ適切な治療を施す上での困難をもたらす。これらの困難は、これら特定の疾患及び状態のための効果的な治療の開発を妨げてきた。特定の疾患及び状態の例としては次のものが挙げられる。例えば、出血熱ウイルスへの感染は、中でもその伝染の重症でしばしば致命的な結果ゆえに、医学にたいして重大な課題を提起する(Borioら、JAMA 287,1〜51(2002))。出血熱は、極めて多様な病理学的効果を発揮する種々のウイルス群によって引き起こされる。しかし、これらのウイルスの病理発生機構には、2つの共通のステップ(1つは早期、1つは後期)が存在する。先ず、多くの証拠は、自然免疫系の要素としてのマクロファージ(単球)の感染が、出血熱ウイルスの伝播において重要な初期の役割を演じることを示唆している。次に、出血性ウイルスによる感染は、出血をもたらし、多くの場合、創傷部位は、血管細胞に対するウイルス性損傷の結果である。
【0003】
出血熱ウイルスは、フィロウイルス科(Filoviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)及びフラビウイルス科(Flaviviridae)の構成員であり、RNAの一本鎖からなるゲノムを有する。一般に、ウイルスは、次の機構を介して作用する:すなわち(1)血小板減少症−血小板濃度の低下は出血熱ウイルス感染のほぼ普遍的な結果である;(2)血小板無力症−出血熱における血小板減少性状態は、血小板機能異常によって悪化する場合がある;(3)体液凝固因子濃度の低下−体液凝固因子の循環濃度の減少は、消耗(創傷部位の血小板又はDICに加えて)及び/又は低下した因子を合成する肝組織への損傷に由来することがある;及び(4)血管の完全性の喪失−血漿漏出及び微小血管創傷部位の形成につながる内皮の完全性の喪失は、出血熱疾患の共通の特徴である。結果として、これらのウイルスを治療するための医薬の選択肢は限られている。
【0004】
リバビリンは、広いスペクトルの抗ウイルス活性を有することが1972年に初めて報告されたヌクレオシド類似体である。リバビリン(一リン酸塩)は、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼを阻害して細胞内GTPを低減することが示されているが、より最近の研究は、このヌクレオシド類似体が、「致死的突然変異」に向けてのウイルスの内因性突然変異率を高めることによって機能することを指摘している。組織培養において、リバビリンは、フラビウイルス、アレナウイルス、及びブニヤウイルスを含む広範な各種のウイルスに対して抗ウイルス活性を有する。より重要なことに、リバビリンは、フラビウイルス科の構成員であるC型肝炎ウイルスの治療についてFDAによって承認されており、且つ限られた数のアレナウイルス感染患者の治療で効力を示している。
【0005】
一方、抗ウイルス薬としてのリバビリンに対する熱狂は、3つの観察によって鎮静される。第1に、インビボでのリバビリンの性能に基づく有望性は、臨床において十分には実現されていない。例えば、リバビリンは、フィロウイルス科及びフラビウイルス科の構成員への感染を治療するのに有効でないと報告されている(Borioら、同上)。第2に、このヌクレオシド類似体は、C型肝炎ウイルスに感染した患者における肝組織の損傷を制限するが、ウイルス排除のためのインターフェロンを用いる二重療法を必要とすることが報告されている。最後に、リバビリン化学療法の副作用は、赤血球侵入及び溶血の結果としての貧血の誘発である。したがって、リバビリン及びその他のこのような活性薬剤を投与するための新たな手段が必要とされている。
【0006】
別の例が、外傷性傷害の診断である。組織損傷の正確な評価は、外傷性傷害の管理において最高に重要である。この評価の鍵となる要素は、特に、不安定な、又はかろうじて安定な血行動態を有する患者において、内出血部位の位置を判定することである。理学検査、造影剤の伝統的なX線血管造影、及び血管外造影剤のCT位置測定を使用して、活動性出血の部位を突きとめることができる。標識化赤血球に基づいた放射線学的方法は、有用であるが、出血部位を検出できないこともしばしばである。これらの技術は、特に一緒に使用すると有効であることがある。しかし、血管痙攣及び血管閉塞、並びにいくつかの出血部位の同時位置測定は、出血部位を割り出すことの失敗をもたらすことがある。また、濃密な造影剤は、より小さい出血部位を閉塞することがある。この後者の問題点は、X線にたいしてより低密度のCO2造影剤を使用することによって部分的に改善されている。出血性変化における血管欠損を検出するために開発されたMRI法の応用は、脳外傷及び脊髄傷害を含むいくつかの部類の傷害において、創傷部位を突きとめるための手段として有望である。しかし、上記方法の根本的問題は、造影が、循環系からの血管内容物の動きを基にしており、血管裂傷の実際の血管障害部位を直接的に造影していないことである。
【0007】
別の例が、前立腺癌などの癌の治療である。前立腺癌は、相変わらず、中年及び老年の米国男性における罹患及び死亡の主要原因である。生検により前立腺癌のいくつかの組織学的類型を見出すことができるが、大多数の前立腺癌は、腺起源の腺癌である。診断の進歩は、前立腺癌全体のほぼ90%が前立腺内又はその近傍のいずれかで見出されることを示している。比較的早期に発見された症例の90%で、5年生存率は100%に近い。対照的に、播種性疾患を代表する10%は、わずかに34%の5年生存率を示す。この集団中では、皮膚癌のみ、及び4種の一般的な組織学的類型の肺癌を合わせた死亡率が、より一般的である。2007年に、米国癌協会は、臨床的に218,890件の新規症例が現れ、約27,050名の主要死亡原因であると予想している。米国男性6名中の注目すべき1名が、いずれは前立腺癌を発症し、34名中の1名が悪性腫瘍で死亡する。
【0008】
現在の標準的ケア療法に付随する潜在的で深刻な有害事象に関する概略的調査は、侵襲性がより少なく、より慎重に目標を定めた、腫瘍に特異的な診断及び治療方法が望ましいことを例証している。現在の標準的ケアの手術又は放射線と比較して、腫瘍致死効果を保持又は強化しながら、健康な前立腺、神経、及びその他の前立腺外組織に対する損傷を最小化することが望ましい。前立腺癌の手術(直視下恥骨後式前立腺全摘除術、直視下会陰式前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術、又は経尿道的前立腺摘除術)に付随することのある深刻な有害事象には、インポテンス、失禁、及び術後感染症が含まれる。照射後のインポテンス率は、手術のそれと同じであり、10人中7人を超える男性が、外部ビーム放射線療法を受けて5年以内にインポテンスになる。失禁は、手術に比べて、それほど一般的ではないが、失禁のリスクは、照射後に年毎に、治療後6年まで増加し、率は、手術に付随するものとほとんど同じ高さである。アンドロゲン除去は、相変わらず、進行性前立腺癌の標準療法であり、ほとんどの男性で疾患の寛解をもたらす。しかし、癌は、結局、再発し、その後の患者の生存期間中央値は1年未満である。誘導エネルギー伝達のためのナノ粒子担持血小板を開発するために提案された計画の成果は、多くのこれらの困難を改善する有望性を保持している。前立腺癌における現在の標準的ケアを改善する緊要な必要性が存在し、本発明は、その必要性に対する解決策である。
【0009】
別の例が、心血管疾患及びそれに関連する血管性病態の治療である。心血管疾患の治療のために必要なものが満たされていない現実は、心血管系の障害と診断された米国の6000万人を超える患者での1年に3000億ドルを超える出費によって証明される。ほとんどの心血管疾患は、血管傷害部位での血栓形成、炎症及び増殖過程の協奏的機能不全によって引き起こされる。例えば、急性心筋梗塞は、冠循環の血栓性閉塞の結果であり、該閉塞は、炎症及び増殖過程がアテローム硬化性プラークの破裂をもたらす場合に発生する。同様に、血管形成術及び心バイパスの後の再狭窄は、処置の元々の血管傷害部位での最初の血栓形成、次いで炎症及び増殖過程の結果である。心血管疾患における血栓形成、炎症及びアテローム形成過程の基礎をなす分子モデルの理解が増加することは、細胞内シグナル伝達及び細胞周期制御を妨害すること、抗血栓性細胞内シグナル伝達を増幅すること、アテローム形成促進性脂質代謝を阻害することを含む、遺伝子治療介入のための多くの戦略をもたらしている。カテーテルを介する遺伝子移入及び外膜への直接的ニードル注入を用いる物理的標的化を含む、いくつかの方法が、心血管遺伝子療法のための部位特異的遺伝子送達を達成するために現在採用されている。さらなるレベルの特異性が、組織特異的プロモーター(例えば、平滑筋細胞送達用SM22)を採用することによって達成される。しかし、血管傷害を含む傷害部位への治療用化合物の特異的送達のためのさらなる手段が望まれている。
【0010】
血小板は、体中の循環及び血液系の成分であり、当技術分野で周知である。米国特許出願公開第2005/0025748号及び2005/0272161号は、活性薬剤を運搬し、且つ活性薬剤を注目部位に送達するのに有用な、固定化乾燥血球及び固定化乾燥血小板を開示している。これらの出願中に記載の血球及び血小板は、細胞を構造的に安定化し、且つ/又は細胞の貯蔵寿命を延長するために細胞の少なくとも一部に組み込まれる少なくとも1種の化学化合物を用いて化学的に処理することによって「固定化」される。開示された固定化薬剤には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、及びグルタルアルデヒド、並びに過マンガン酸塩溶液が含まれる。しかし、所望の薬剤を運搬する血小板をより迅速且つ清浄に処理するために、固定化段階を排除することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ナノ粒子を担持している血小板(ナノ粒子担持血小板)、並びに血小板にナノ粒子を担持させる方法である。生じるナノ粒子担持血小板は、ヒト及び獣医学において血管障害部位及びマクロファージに治療用物質及び造影用モダリティーを送達するのに使用される。ナノ粒子担持血小板を、全身循環中に注入すること、又は傷害の表面に局所的に塗布することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様において、本発明は、ミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含む血小板であって、ミクロン又はナノメートルサイズに作製された該粒子が活性薬剤を含む、血小板を対象とする。
【0013】
別の態様において、本発明は、医薬として許容し得る担体、及びミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含む血小板を含有する医薬組成物であって、ミクロン又はナノメートルサイズに作製された該粒子が活性薬剤及び医薬として許容し得る単体を含む、医薬組成物を対象とする。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、患者の注目部位に血小板を送達する方法であって、該血小板が活性薬剤を含むミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含み;上記血小板を準備する段階、及び前記血小板を患者に投与するステップを含む、方法を対象とする。
【0015】
これらの及びその他の態様は、以下の図面及び本発明の詳細な説明からより完全に理解されるであろう。
【0016】
本発明は、次の詳細な説明を、付属の図面と結合して解釈してより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ナノ粒子を得るためのPEIとプラスミドDNAとの凝集を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】血小板中の、PEIをベースにしたナノ粒子を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】血小板中の超常磁性酸化鉄ナノ粒子を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】血小板中でのSPIOナノ粒子の自己組織化を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】磁場による変調後のSPIO担持粒子を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】臍帯静脈中のSPIO担持粒子のB−モード造影を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】SPIO担持粒子の磁気共鳴及びエコー発生応答を示す図である。
【図8】アンドロゲン除去後に前立腺腫瘍に局在化された粒子を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】前立腺異種移植片組織中の粒子を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】ポリエチレンイミン/ポリアニオンをベースにしたナノ粒子の調製を示す図である。
【図11】標識されたナノ粒子と血小板との会合を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図12】バイオ操作血小板の蛍光顕微鏡画像及びフローサイトメトリープロフィールを示す図である。
【図13】いくつかの血小板の顕微鏡蛍光を示す図である。
【図14】リバビリン担持血小板を示す図である。
【図15】標識された血小板を貪食する単球の結末を示す図である。
【図16】小さな単層小胞をベースにしたナノ粒子の解剖学的形態を示す図である。
【図17】血小板に結合したSUVナノ粒子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、各種の治療薬又は造影剤を運搬するためのビヒクルとしての血小板の使用に関する。血小板は、論理にかなったビヒクルであり、いくつかの理由により2つの部類の血管部位に治療用物質を送達するのに都合がよい。
【0019】
第1に、血小板が、血管裂傷部位に結合して止血を提供することが広く認識されており、治療用物質担持血小板を血管傷害部位へ集中させることが好都合である。例えば、抗癌薬が、血管構造が傷つけられている腫瘍へ送達されるなら好都合である。また、抗ウイルス剤が、出血熱における血管裂傷部位に送達されるなら好都合である。さらに、出血部位を造影する必要性は、診断及び外傷性傷害における手術ガイダンスの双方のために重要である。
【0020】
第2に、血管傷害部位に結合する血小板の最終的運命は、創傷治癒の過程中にマクロファージによって貪食されることである。代わりに、注入された細胞は、細網内皮系(RES)のマクロファージによって自由循環から除去される。マクロファージは、出血熱ウイルスを含む多くの部類のウイルスによる感染の重要な部位であり、病理学的炎症応答の発生と密接に関連している。したがって、マクロファージを、造影用物質及び抗炎症性治療物質の送達に関する標的とすべきである多くの医学的状況が存在する。マクロファージで推進される炎症は、例えば、出血熱、炎症性腸疾患、及び脳卒中での出血性変化における血管裂傷の基礎をなす原因であることがしばしばである。逆もまた真であり、血管裂傷は、マクロファージで推進される炎症状態の基礎をなす原因であり得る。例えば、外傷での極端な失血に関連する重症出血性ショックにおいて、炎症メディエーターの大規模な全身性放出は、止血系を不活性化し、かくして、失血を激化させることがある。同様に、マクロファージの活性化は、極端な失血に続く多臓器不全の重要な推進因子である。炎症及び血液学的過程は、かくして、相乗的原因及び効果挙動において密接に関連している。したがって、治療用及び造影用ナノ粒子を担持している血小板に関する多くの潜在的な医学的応用が存在する。
【0021】
本発明の方法及び組成物を用いて治療される予定の対象には、ヒト対象、並びに獣医学及び薬物開発の目的での動物対象が含まれる。動物対象は、一般に、限定はされないが、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、ネコ、イヌ、マウス及びラット対象を含む哺乳動物対象である。
【0022】
用語「血栓形成性表面」は、本明細書中で使用する場合、限定はされないが、創傷組織;アテローム硬化性プラークなどの血管プラーク;局所若しくは全身性炎症により活性化された内皮;抗癌薬、抗悪性腫瘍薬若しくは抗増殖薬の投与による毒性副作用として対象中で血栓形成性となる血管、表面又は組織;ステント、カテーテル、医用インプラント(ペースメーカー及びリードなど)、整形外科用インプラント(人工関節など)の中に見出されるような金属、ポリマーなどを含む、対象中の外来若しくは埋込み品の表面を含む、任意の天然又は人工の血栓形成性表面を指す。化合物を、血栓形成性表面に、治療目的又は診断目的(例えば、放射性イメージング、組織生検、インプラント除去、及び送達された化合物がインプラント表面に見出されるか否かの判定などの任意の適切な手段による血栓形成性表面の造影又は検出)などの任意目的のために血栓形成性表面に投与できる。
【0023】
用語「血小板」は、本明細書中で定義する場合、一般に、動物、特に哺乳動物起源(例えば、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ヒトなど)である。血小板は、血小板を導入する種と同一の種から、又は血小板を導入する種とは異なる種から由来するものでよい。一実施形態において、血小板は、ある対象から採取され、本明細書に記載の活性薬剤を調製するのに使用され、そのように調製された後、該血小板を採取した対象と同一対象に後で投与されて戻される。血小板は、新鮮なもの、自家性、同種性、又は再水和凍結乾燥品(「RL」)でもよい。
【0024】
本明細書中での「固定化された」は、構造的に安定化し、及び/又は細胞の貯蔵寿命を延長するために、細胞の少なくとも一部に組み込まれる少なくとも1種の化合物で化学的に処理されている血小板を指す。好ましくは、本発明の血小板は、固定化されていない。
【0025】
本明細書中での「固定化乾燥」は、固定化されており、並びに加えて、さらに構造的に安定化し、及び/又は貯蔵寿命を延長するために、乾燥、脱水、凍結乾燥、フリーズドライなどの任意の適切な技術によってそこから水が除去されている血小板を指す。
【0026】
「再水和」は、細胞内空間に水を取り込むように、水性溶液と接触している又は水性溶液と混合されている、固定化乾燥血小板を指す。
【0027】
本明細書中で使用する場合、「凝血タンパク質」には、限定はされないが、第VII因子、第IX因子、第X因子、並びに第XII因子若しくは第XIIa因子又は第X因子若しくは第Xa因子などの第VII若しくはFVIIaを生成する凝固タンパク質、プロテインC、プロテインS、及びプロトロンビンを含む任意の適切な血液凝固タンパク質が含まれる。このようなタンパク質は、天然又は合成でよく、天然に存在するタンパク質の軽度な改変を含むタンパク質(すなわち、類似体)を包含する。天然に存在する場合、該タンパク質は、起源が任意の種、好ましくは本明細書に記載のような哺乳動物又はヒトでよく、一実施形態において、起源は、それを投与する対象と同一の種である。
【0028】
本明細書中で使用する場合、「抗凝血タンパク質」には、限定はされないが、活性型プロテインC、プロテインS、ヘパリン及びヘパリノイドなどを含む任意の適切な抗凝血タンパク質が含まれる。このようなタンパク質は、天然又は合成でよく、天然に存在するタンパク質の軽度な改変を含むタンパク質(すなわち、類似体)を包含する。天然に存在する場合、該タンパク質は、起源が任意の種、好ましくは本明細書に記載のような哺乳動物又はヒトでよく、一実施形態において、起源は、それを投与する対象と同一の種である。
【0029】
「AAV」は、本明細書中で使用する場合、「アデノ随伴ウイルス」を指す。
【0030】
用語「治療する」は、本明細書中で使用する場合、ある疾患に苦しむ患者に、患者の状態の改善(例えば、1種又は複数の症状における)、該疾患の進行遅延などを含む利益を付与する任意の部類の治療を指す。
【0031】
用語「医薬として許容し得る」は、本明細書中で使用する場合、該化合物又は組成物が、疾患の重症度及び治療の必要性に照らして過度に有害な副作用なしに本明細書に記載の治療を達成するために患者に投与するのに適切であることを意味する。「担体」は、本明細書中で使用する場合、医薬組成物を製造するために活性成分と組み合わせて使用される、製薬技術の分野で周知の担体を意味する。医薬担体の例には、固体、液体、又は水性の担体、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(ヒト血清アルブミンなど)、緩衝性物質(リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなど)、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩及び電解質(硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム(生理食塩水)、亜鉛塩など)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースをベースにした物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂、並びにこれらの組合せが含まれる。
【0032】
用語「ミクロ」及び「ナノ」は、粒子に関して使用する場合、該粒子の直径サイズを指す。接頭辞「ミクロ」は、300ナノメートルを超える直径を有する粒子を指す。接頭辞「ナノ」は、300nm以下の直径を有する粒子を指す。
【0033】
本発明のミクロ及び/又はナノ粒子は、限定はされないが、天然又は合成のポリマー、樹状ネットワーク、小分子の凝集体、強磁性材料、リン脂質小胞、ミセル、リポソーム、及びこれらの組合せを含む、各種材料から調製できる。本発明のミクロ及び/又はナノ粒子は、カチオン性ナノ粒子の場合のような凝集(例えば、Lu W,Wan J,She Z,Jiang X.J Control Release.(2007)118:38〜53;Feng M,Lee D,Li P.Int.J.Pharm.(2006)311:209〜214;Gupta K,Ganguli M,Pasha S,Maiti S.Biophys.Chem.(2006)119:303〜306;Dawson M,Krauland E,Wirtz D,Hanes J.Biotechnol.Prog.(2004)20:851〜857;Sennerfors T,Solberg D,Tiberg F.J.Colloid Interface Sci.(2002)254:222〜226を参照されたい)、及び酸化鉄超常磁性ナノ粒子の場合のような飽和点沈殿(例えば、Corot C,Robert P,Idee JM,Port M.Adv.Drug Deliv.Rev.(2006)58:1471〜1504;Ma HL,Qi XR,Maitani Y,Nagai T.Int.J.Pharm.(2007)333:177〜186;Thorek DL,Chen AK,Czupryna J,Tsourkas A.Ann.Biomed.Eng.(2006)34:23〜38;Babes L,Denizot B,Tanguy G,Le Jeune JJ,Jallet P.J.Colloid Interface Sci.(1999)212:474〜482を参照されたい)を含む、当技術分野で周知の技術を使用して調製できる。
【0034】
本発明のミクロ及び/又はナノ粒子は、いくつかの形態をとることができる。一実施形態において、該粒子は、活性薬剤から調製される固体の均一粒子である。別の実施形態において、これらの固体粒子は、ポリエチレンイミド(PEI)又はデキストランなどの不活性材料で被覆される。本発明の組成物及び方法で使用される活性薬剤には、限定はされないが、タンパク質、RNA、DNA、キレート化用官能剤、放射性化合物、強磁性化合物、超常磁性錯体、小型分子、及びこれらの組合せを含む、治療及び造影用薬剤が含まれる。活性薬剤のさらなる例には、照射されるとフリーラジカルになる酸素で満たされた分子が含まれる。悪性腫瘍は、しばしば、対応するそれらの正常組織に比べてより低い酸素濃度を有し、放射線による腫瘍細胞死滅の主な機構は、細胞障害性フリーラジカル、すなわち高度に反応性のある自由電子を含む化学種の形成である。
【0035】
活性薬剤のさらなる追加例には、限定はされないが、RNA、DNAなどの核酸、タンパク質又はペプチド(酵素、抗体など)、ウイルス、細菌、小型有機化合物(例えば、モノマー)、合成及び半合成のポリマー、ナノ粒子、キレート化された金属及びイオンなどが含まれる。このような化合物は、治療又は方法の個々の対象に応じて、限定はされないが、抗微生物、抗細菌又は抗ウイルス活性;凝血又は抗凝血活性;レポーター又は検出活性などを含む、任意の適切な機能又は活性を有することができる。本発明の活性薬剤を作り出すために血小板に連結できる化合物のさらなる追加例には、限定はされないが、血管作用性、抗酸化性、抗血栓性、抗癌性、抗アテローム形成性、抗有糸分裂性、抗血管新生性、及び抗増殖性化合物が含まれる。
【0036】
本発明の一実施形態において、活性薬剤は、抗ウイルス性化合物である。限定はされないが、シアル酸類似体、アマンタジン、リマンタジン、ジドブジン、ビダラビン、イドクスウリジン、トリフルリジン、フォスカルネットなどを含む任意の適切な抗ウイルス性化合物を使用できる。一実施形態において、抗ウイルス性化合物は、その例には、限定はされないが、アシクロビル、ジダノシン、リバビリン、ガンシクロビル、及びビダラビンが含まれるプリンヌクレオシド類似体;並びにアンチセンスヌクレオシド、RNA及びDNAである。本発明の一実施形態において、抗ウイルス性化合物を担持している粒子を運搬する血小板は、ウイルス感染に苦しむ患者に、該ウイルス感染を治療するのに十分な量で投与される。一実施形態において、患者は、フィロウイルス科、アレナウイルス科、ブニヤウイルス科又はフラビウイルス科のウイルスなどの、出血熱ウイルスに感染している。
【0037】
粒子中の活性薬剤は、また、第VII因子、第IX因子、第X因子、第XII因子、プロテインC、プロテインS、プロトロンビンなどの薬物凝固タンパク質;活性型のプロテインC、プロテインS、ヘパリン及びヘパリノイドなどの抗凝固タンパク質;並びに爬虫類又は昆虫起源の、又はその他の凝固促進又は抗凝固タンパク質でよい。このような化合物は周知である。例えば、本発明を実施するのに利用できる第VII因子又は第VIIa因子(この用語は、改変された第VII因子若しくは第VIIa因子、又は第VII因子の凝血活性を保持している第VII因子類似体を包含する)は、中でも、米国特許第6461610号、6132730号、6329176号、6183743号、6186789号、5997864号、5861374号、5824639号、5817788号、5788965号、5700914号、5344918号、及び5190919号に記載されている。一実施形態において、組換えヒト第VIIa因子が好ましい。本発明の別の実施形態において、凝血タンパク質を担持している粒子を運搬する血小板は、創傷に苦しむ対象に、創傷部位での凝血及び/又は創傷の治癒を促進するのに有効な量で投与される。
【0038】
本発明の粒子中に担持すべき核酸は、Lac−Z、β−グルクロニダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質など)などの検出可能なタンパク質又はペプチドをコードすることができる。本発明の一実施形態において、検出可能なタンパク質をコードする核酸を担持する粒子は、血管中のアテローム硬化性組織又はプラーク中で検出可能なタンパク質を発現し、それによってアテローム性動脈硬化症の改善された動物モデルを作り出すのに有効な量で対象に投与される。このような動物(好ましくは、食餌及び/又は育種によってアテローム性動脈硬化症に敏感である動物である)は、一般的に抗アテローム形成性化合物、及び/又は抗アテローム形成性食餌を投与され、次いで、一般に抗アテローム形成性化合物及び/又は抗アテローム形成性食餌を投与されていない対照動物と比較され、実験動物におけるアテローム形成性プラークの形成度合いを、検出可能なタンパク質の発現を介してプラークを視覚化することによって、対照動物と比較した。本発明の他の実施形態において、核酸は、治療用タンパク質又はペプチドをコードすることができる。例には、限定はされないが、rasエフェクタータンパク質RGL(例えば、増殖を阻害するための)のras結合ドメイン(RBD)をコードするDNA、内皮の一酸化窒素合成変異体(例えば、血小板機能を阻害するための)をコードするDNA、NF−KB超抑制因子(例えば、炎症過程を阻害するための)をコードするDNAなどの、抗アテローム形成性のタンパク質又はペプチドをコードする核酸が含まれる。
【0039】
本発明のミクロ及びナノ粒子は、エコー発生検出などの各種用途のために金属性でよい。別法として、ミクロ又はナノ粒子は、強磁性、常磁性、又は超常磁性(超常磁性酸化鉄ナノ粒子など)でよい。超常磁性酸化鉄ナノ粒子の一例が、Bayerが市販しているFERIDEX(フェルモキシデスの注射可能な溶液)である。このような強磁性粒子は、熱シグナル(低温療法)又は音響シグナルを発生させるために、外部から印加される電磁界で(限定はされないが、ローレンツ力、磁気歪み、強磁性共鳴、及びこれらの組合せを含む機構を介して)操作できる。また、外部から印加される電磁界又は磁気共鳴を利用して、酸化鉄などの強磁性粒子、ガドリニウム粒子、磁性粒子、又はその他の既知磁性材料を操作して、熱又は音響シグナルを発生させることができる。誘導されるこのような物理力は、それらの力が、血小板−粒子系の力学的運動及び破壊の細胞摂動、並びに局所化された組織床中での凝固の誘導を可能にする上で有用である。例えば、SPIO(超常磁性酸化鉄)ナノ粒子を、強磁性体の共鳴周波数での振幅変調マイクロ波の電磁界にさらして、音響及び/又は熱応答を発生させることができる。本発明のこの態様は、特にFDA承認の磁気共鳴造影剤と一緒にして使用されるなら、ヒト及び動物における医学的診断の目的でのインビボ造影で特に有用である。本発明中では、米国特許第5262176号中に開示されているような、多糖で覆われた超常磁性酸化物コロイドも使用できる。
【0040】
活性成分の粒子を化学化合物で被覆することなどの、当技術分野で周知の通常の技術を使用して、ミクロ又はナノ粒子中に活性薬剤を組み込むことができる。別法として、粒子それ自体が、活性薬剤の固体球でよい。血小板は、好ましくは、新鮮であり、個体などの任意の供給源から、又は貯蔵された在庫品からのものでよい。血小板の1つの有用な部類は、凍結乾燥血小板、又は再水和凍結乾燥(RL)血小板である。これらの血小板を、ホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドなどの固定化用薬剤で固定化することができる。再水和凍結乾燥固定化血小板の供給源の一例が、STASIX(ノースカロライナ州、リサーチトライアングルパーク、Entegrion,Incから入手可能)である。血小板と粒子とを組み合わせること、及びこの2つを血漿又は選択された媒体中で規定の時間インキュベートすること、かくして血小板が、血小板の自然免疫機能に関連する貪食作用及び/又は収蔵の本来的機構を介してミクロ及び/又はナノ粒子を取り込むことを可能にすることによって、血小板に本発明のミクロ又はナノ粒子を担持させる。代わりの実施形態において、ミクロ及び/又はナノ粒子は、たとえナノ粒子が存在しなくても本来的に取り込まれるリンカーを介して表面膜に共有的に又は非共有的に結合される。次いで、血小板を、限定はされないが、分画遠心、密度勾配遠心、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、水簸、電気泳動、及びこれらの組合せを含む方法を用いて、細胞外(非組み込み)のミクロ及び/又はナノ粒子から分離できる。
【0041】
本発明の代わりの実施形態によれば、血小板は、対象から単離され、ミクロ及び/又はナノ粒子を担持させられ、次いで、治療及び/又は造影での応用のために該対象中に逆注入される。別の実施形態において、担持用血小板は、対象から単離され、ミクロ及び/又はナノ粒子を担持させられ、次いで、治療及び/又は造影での応用のために別の対象中に逆注入される。別の実施形態において、血小板は、通常、単一ドナー又はドナープールからの液状貯蔵血小板であり、ミクロ及び/又はナノ粒子を担持させられ、次いで、治療及び/又は造影での応用のために一人又は複数の対象(単数又は複数)中に逆注入される。さらに別の実施形態において、血小板は、単一ドナーから採取されるか、或いは通常、単一ドナー又はドナープールからの液状貯蔵血小板であり、ミクロ及び/又はナノ粒子を担持させられ、次いで、治療及び/又は造影での応用のために一人又は複数の対象(単数又は複数)中に逆注入するために低温保存される。さらに別の実施形態において、血小板は、単一ドナーから採取されるか、或いは通常、単一ドナー又はドナープールからの液状貯蔵血小板であり、ミクロ及び/又はナノ粒子を担持させられ、次いで、担持させられた血小板を、米国特許第4287087号、5651966号、5902608号、5891393号、及び5993084号中に記載されているような周知の技術により固定化でき、凍結並びに凍結乾燥できる。一般に、このような方法は、前記ヒト血小板を固定液(例えば、アルデヒド)に前記血小板を固定化するのに十分な時間接触させること;該血小板から前記固定液を除去すること;次いで該血小板を乾燥して、ミクロ及び/又はナノ粒子を担持した固定化乾燥血小板を作り出すことを含む。生じた凍結乾燥治療物質を、再水和し、次いで、治療及び/又は造影での応用のために一人又は複数の対象(単数又は複数)中に逆注入することができる。血小板は、好ましくは、所望の注目部位、例えば血栓形成性表面(例えば、創傷組織、血管プラーク、炎症部位など)へ移動する。好ましくは、各血小板は、約1〜約10,000個の粒子、より好ましくは約100〜約1,000個の粒子を含む。
【0042】
最近の研究は、血小板が、異なる部類のミクロン及びナノメートルサイズの粒子を容易に内部へ取り込むことを立証している。これらの取込み現象は、全身循環から小型粒子を取り除く上での血小板の役割に関連している可能性がある。血小板をモデルウイルスとインキュベートすると、ナノメートルサイズの病原体の血球中への内部取込みが生じる。同様に、血小板に富む血漿に細菌を添加すると、細菌の明らかな内部取込みを生じる1,2。血小板がミクロン及びナノメートルサイズの粒子を内部へ取り込む機構は、明確にはされておらず、粒子が移行する血小板中の最終部位は、十分には解明されていない。細菌と相互作用した後の血小板の透過型電子顕微鏡(TEM)分析は、病原体が、表面連通開放小管系中に収蔵されることを示している。これらのことは、血小板を「被蓋細胞」と称することにつながる。状況に応じて、ナノ粒子が、リソソーム、α顆粒、密顆粒などの血小板内オルガネラ中に輸送される可能性が存在する。これらの結果は、血小板が、血液から病原体を取り除く上で自然免疫の役割を演じること、及びこれらの機能を利用してナノ粒子をこの血球中に向けることができることを示唆している。
【0043】
血小板のナノ粒子取込みに関する機構に対する手掛かりは、これらの細胞が外来表面とどのように相互作用するかについての知識から収集できる。血小板の外来表面に対する応答は、3段階、すなわち、最初の急速な血漿タンパク質の吸着、吸着された血漿タンパク質の配座歪み、及びその後の、吸着されたタンパク質の配座変化の結果である血小板表面受容体による機能的反応で起こると仮定される(総説としてFischerらの著作を参照されたい)。これらの事象は、多分、血小板のための「バイオセンサー」のように行動するフィブリノーゲンについて最もよく理解されている。ガラス及び炭化水素ポリマーをベースにした材料5〜7での実験は、フィブリノーゲンが歪んだ配座で結合し、次いで血小板インテグリンと相互作用することを示す。インテグリンのアウトサイド−イン(outside−in)シグナル伝達過程についての最近の理解は、インテグリンが、フィブリンに似た被吸着フィブリノーゲン分子上のドメイン(単数又は複数)に結合し、次いで血小板膜上に密集してアウトサイド−インシグナル伝達の活性化のための細胞骨格関連シグナル伝達組織を組織することを示唆している。IgG、フィブリノーゲン及びこれらのタンパク質で標識された小さな金ナノ粒子が、α顆粒に輸送されるという観察をベースにして、IgG及び/又はフィブリノーゲンを拘束するいくつかの部類のナノ粒子を、α顆粒に移すことができると仮定することができる。いくつかの病原体での事例1,2で明らかであるように、内部取込みなしに、表面連通開放小管系へのナノ粒子の方向性を生じさせる因子は、解明されていない。しかし、ナノ粒子が最適化されると、Fc及び補体の受容体系が関与する可能性があると推測することは論理にかなっている。これらの機構に関するより精巧な理解は、内部へ取り込まれる造影及び治療用ナノ粒子を用いて血小板を工学的に操作する我々の能力を高めると予想される。
【0044】
本発明のナノ粒子担持血小板は、重要な医学的用途を有する。全身注入により、血小板は、創傷部位に集中し、そこで血小板は、止血を起こし、創傷治癒の過程で最終的にはマクロファージによって貪食される。別法として、注入された細胞は、細網内皮系(RES)のマクロファージによって自由循環から除去される。したがって、本発明の血小板は、治療及び造影用薬剤を血管傷害部位へ及びマクロファージ中に集中させることのできる担体(トロイの木馬)として機能することができる。本発明の他の用途及び応用には、医学的又は獣医学的診断、超音波、核又は赤外による造影、創傷又は腫瘍の位置推定、放射線腫瘍学、並びに治療上の使用(例えば、前立腺、乳房の腫瘍切除)及び凝固療法が含まれる。
【0045】
本発明は、従来技術に伴ういくつかの実際的問題を克服している。血小板は、誘導エネルギー伝達剤を前立腺腫瘍中の不安定化脈管構造に送達するための論理にかなったビヒクルであるが、血小板の採取及び貯蔵に関する業務上の問題が、血小板の応用を困難にする。入手可能性及び無菌性の問題に加え、血液銀行のシステムによって提供される現在の血小板製品は、貯蔵変化のため機能的に信頼できない。患者自身の血小板は、自己の「腕から腕への」療法のために有用である可能性があるが、患者の分集団における血小板減少症及び血小板無力症に関連する二次性の健康問題が、この取り組みを制約すると予想される。本発明の進展は、血小板をベースにした凍結乾燥製品として、これらの制約を取り去る。
【実施例】
【0046】
本発明を、さらに以下の実施例により詳細に説明する。明確にそうでないことを特記しない限り、部及びパーセンテージは、すべて重量基準であり、温度はすべて摂氏である。
【0047】
(例1):粒子の取込み
血小板が本来の機構を介してサブミクロンサイズの粒子を取り込む能力は、ここで、ポリエチレンイミド(PEI)ナノ粒子及びデキストランで被覆された超常磁性酸化鉄(SPIO)ナノ粒子を用いる実験で立証される。PEIを緑色蛍光タンパク質(GFP)プラスミドDNAと共にインキュベートすることによって、PEIをベースにしたナノ粒子を調製して、ほぼ球形の200〜400nmのナノ粒子(図1)集団を得た。
【0048】
生じたナノ粒子を、新たに調製したヒト血小板に富む血漿に、他の文献10,11に記載されているようなクエン酸塩抗凝血薬と共に添加し、揺り動かしながら室温で2時間インキュベートした。次いで、細胞を2000×gで10分間遠心分離すること、次いで血小板をクエン酸加生理食塩水(3.75mMクエン酸塩、146mM NaCl、pH=7.4)中で追加の遠心洗浄にかけることによって、過剰なナノ粒子から血小板を取り出した。次いで、血小板を、標準的方法10,11を用いる透過型電子顕微鏡検査にかけた。この分析(図2)は、ほとんどの血小板が、1つ又は複数のPEI/DNAナノ粒子を含むこと(パネルA参照)、及び該ナノ粒子が、包囲する二層膜を有する内部構造中に収容されていること(パネルB及びC参照)を示した。
【0049】
(例2):SPIOナノ粒子の内部取込み
血小板がSPIOナノ粒子を内部へ取り込む能力についても調べた。血小板を、PEIナノ粒子を用いる研究で説明したように単離し、次いで、米国食品医薬品庁によって磁気共鳴造影剤用に承認されている注入級製品である、デキストランで被覆された〜10nmの強磁性酸化鉄芯からなるSPIOナノ粒子(FERIDEX、Bayer Healthcareから市販)と共にインキュベートした。SPIO製品を、血小板に富む血漿で1/10に希釈し、揺り動かしながら12時間インキュベートした。次いで、混合物を、密度勾配によって層化し、室温で10分間、2,000×gで遠心した。SPIOナノ粒子を担持した血小板を、界面から集め、クエン酸加生理食塩水で希釈し、室温で10分間、2,000×gで遠心した。最終SPIO血小板を、PEIの場合に説明したように透過型電子顕微鏡法で調べた。PEIの場合と同様に、SPIOナノ粒子は、表面連通開放小管系と似た二層膜を有する内部空間内に集められていた(図3)。ナノ粒子は、磁気引力により凝集体に自己組織化された。この実施例は、ヒト及び動物の医学的診断の目的でのインビボ造影における本発明の有用性を例証している。
【0050】
(例3):創傷部位を造影するための超常磁性血小板粒子
これらの実験の目的は、誘導エネルギー吸収のための超常磁性酸化鉄(SPIO)ナノ粒子を運搬する血小板をベースにした粒子を使用して、内出血部位造影し、止血する能力を送達することである。2つの進歩が、本発明のための基礎を提供する。第1に、血小板は、磁性SPIOナノ粒子を容易に内部へ取り込むことが見出されている(前に示したように)。第2に、血小板を止血用注入薬として加工処理するのに使用されているのと同じ凍結乾燥法を利用して、SPIOで標識された血小板を凍結乾燥し、SPIOを担持した粒子を得ることができる。得られるものは、血小板をベースにした製品であり、原理的には、該製品を、外部磁場を用いて体内創傷部位で操作して音響及び熱エネルギーを発生させることができる。本発明者らの考えでは、外部磁場を適用し、広範に利用可能な超音波及び熱造影法で、SPIOを担持した粒子を内出血部位で造影し、該粒子を操作して止血することができる。
【0051】
本発明者らは、血小板が、特定部類の超常磁性酸化鉄ナノ粒子を強固な方式で内部へ取り込むことを発見した。デキストラン被覆を有する〜10nmの超常磁性酸化鉄芯からなるFERIDEX(Bayer Healthcare Pharmaceuticalsから市販)を、新たに単離されたヒト血小板に富む血漿と共に12時間インキュベートした。混合物を密度勾配で層化すること、遠心すること、及び血小板を媒体−血漿の界面から取り出すことによって、血小板を過剰な造影剤から分離した。次いで、Feridexを担持した血小板を、アルデヒドでの安定化及び凍結乾燥にかけて、ここでSPIO−STASIX粒子と呼ぶ凍結乾燥製品を得た。図4は、透過型電子顕微鏡法を用いて、FERIDEXナノ粒子(矢印参照)が、内部へ取り込まれて表面連通開放小管系中でクラスターを形成していることを示している。STASIX粒子中のSPIOナノ粒子は、自己組織化して、長方形の断面をもつ構造を形成した。多分、最近傍磁気双極子相互作用によって安定化されるこの部類の構造は、FERIDEXの自由懸濁液中又は血小板間の空間中では観察されない。
【0052】
磁場に曝露すると、SPIO−STASIX粒子は、凝集物の形成に向けた強い活性化応答を受けることが見出された。この結果は、血漿中の酸化鉄を担持した粒子を0.6テスラの磁場に30秒間さらした、図5に示す透過型電子顕微鏡写真で立証される。生じたSPIO−STASIX粒子は、高度に凝集され、活性化された組織形態を示した。60Hzの振動磁場でも発生するこの部類の観察は(データは示さない)、SPIO−STASIX粒子を創傷部位で変調して止血できるという証拠を提供する。
【0053】
いずれか特定の理論によって拘束されることを望むものではないが、血小板が酸化鉄ナノ粒子を取り込むことができるという観察は、先例がない。血小板は、炭素、ラテックス、及びカチオン性フェリチン、フィブリノーゲン及びIgGで誘導体化されたコロイド状金を含む、いくつかの部類の微粒子材料を取り込むことが注目されており、モデルとしてのウイルス及び細菌も、広く発表されている。細菌は、表面連通開放小管系中に閉じ込められる。これらの観察は、血小板が、広く認識されているよりもより重要な自然免疫(宿主防御)の役割を演じること、及びSPIOナノ粒子が、免疫機構のこの設定を介して蓄積されることを示唆している。
【0054】
酸化鉄ナノ粒子は、動物及びヒトでの使用における注入治療物質として安全であることが判明している。毒性成分の存在ゆえに潜在的に危険である多くの部類のナノ粒子と対照的に、鉄をベースにしたナノ粒子は、人体が大量の鉄を貯蔵及び輸送する能力のために、良好な安全性プロフィールを有する。Feridex(商標)は、米国食品医薬品庁によって、細網内皮系と関連している肝臓病変の造影のためのT2強調用MRI造影剤として承認されている。ヒトに注入されると、Feridex(商標)ナノ粒子は、細網内皮系によって血液から測定可能なほど取り除かれ、次いで2日目には、血清中鉄に徐々に転換され始めた。血清中鉄濃度は、投与後7日目までに正常に戻った。これらの結果は、通常的な鉄代謝サイクルの回転と一致している。
【0055】
SPIOの物理的特性は、印加された電磁場を用いて固有の音響、熱、及び止血応答を誘導する可能性につながる。酸化鉄芯中における音の速度差のため、SPIOナノ粒子は、エコーを発生することが見出されており、かくして超音波で検出可能である。同様に、各々の超常磁性芯に付随する磁気双極子のため、SPIO粒子を電磁場で操作することができる。この特性は、MR造影用緩和造影剤としてSPIO粒子の有用性を広範に使用することの基礎をなしている。また、SPIOナノ粒子を、ラジオ周波数の電磁場(ラジオ波又はマイクロ波の形態で)を用いて操作して、音響音又はインビボでの低温療法のための熱を発生させることがきる。酸化鉄は、不対Fe電子のスピンが整列する傾向を有するので、強磁性材料である。ナノメートルの数十倍を超える酸化鉄粒子では、スピンがミクロドメイン(Weissドメイン)中で整列され;近隣のミクロドメインは、多分、逆平行の整列を有し、ドメインの界面(Bloch壁)は、熱力学的観点から損失が多い。Feridex(商標)芯のようなより小さい酸化鉄ナノ粒子は、より小さな酸化鉄ナノ粒子中では、小さな粒子中でBloch壁界面を形成する上での高い熱力学的損失のため、整列された不対Fe電子からなる単一ドメインが好まれるので、「超常磁性」である。これらの独特な特性の結果、原理的には、印加された電磁場を用いて音響シグナルを発生させるための振動性力学的運動をするように、SPIOナノ粒子を誘導できる。本発明は、より高感度の造影用モダリティーを開発するために、STASIX粒子中でのSPIOの音響及び電磁場変調間相互作用を使用する。
【0056】
SPIOナノ粒子を、前立腺の悪性腫瘍中において熱(RF又はマイクロ波の近接電磁界で誘導される)、超音波(固有又は誘導共鳴)、又はMRI造影用モダリティーで造影できる。一実施形態では、ラジオ波又はマイクロ波などの電磁界を使用して、SPIO粒子を、音響シグナル又は熱を生み出すように変調することができる。SPIOナノ粒子が電磁場で変調されることにより、音響シグナルを生じる機構は、3つ考えられる。第1の機構は、ローレンツ力である。この場合、印加された電磁界の磁気成分は、ナノ粒子を整列し且つ引き寄せる力(ローレンツ力)のためにSPIOナノ粒子の磁気双極子モーメントに直接的に連結できる。印加される電磁界が、電磁放射線であるなら、SPIO粒子を、放射線の振動数で振動させ、ナノ粒子は、スピーカーが作動する方法と類似のいくつかの方式である機構を介して放射線の振動数で音響シグナルを発生する。第2の方法は、磁気歪みである。この場合、電磁放射線界は、酸化鉄ナノ粒子の材料構造を振動方式で歪ませ(磁気歪み)、かくして、音響サインを発生する。超音波を発生させるための装置において巨視的スケールで使用される磁気歪み効果は、また、SPIOナノ粒子での微視的スケールでのオペラントである。第3の機構は、強磁性共鳴である。この場合、マイクロ波(GHz)電磁放射線は、強磁性共鳴のための不対Fe電子のスピン−スピン状態遷移を推進することができる。古典的な材料力学的用語で説明できるナノ粒子に対するローレンツ力及び磁気歪み効果と対照的に、強磁性共鳴は、本質的に量子過程である。磁性ナノ粒子の強磁性共鳴は、該放射線が、MASORによって発生されるように干渉性なら、電磁放射線界を熱及び超音波を発生させるための力学的運動に強く結びつけるための機構になる。また、強磁性共鳴振動数でマイクロ波電磁界が振幅変調されるなら、SPIOナノ粒子は、変調された振動数の音を発生する。ローレンツ力、磁気歪み及び強磁性共鳴がいかにしてSPIOナノ粒子から熱及び音の発生をもたらすことができるかについての理論的側面は十分に確立されている。
【0057】
血小板と会合したSPIOナノ粒子のインビボ条件下でのエコー発生特性をよりよく理解することを始めるための「全器官」臍帯モデルにおいて、SPIO−STASIX粒子を用いて実験を実施した。簡潔には、待機的帝王切開を受ける健康なドナーから得られた臍帯静脈を循環回路中につなぎ留めた。濃縮赤血球及び凍結血漿から組み立てた偽血液を、Bモード超音波で造影しながら回路を通して循環させた。540,00SPIO STASIX/μLの1.0mLボーラスを、造影しながら臍帯の上流に直接的に注入した。図6は、非傷害静脈を通るSPIOで標識された細胞の自由運動を示す。パネルA、B及びCは、それぞれ、生理食塩水単独、生理食塩水+空気泡、及び生理食塩水+ボーラス注入のSPIO−STASIX粒子(赤矢印)を含む臍帯静脈を示す。パネルC中の緑色矢印は空気泡である。
【0058】
SPIO−STASIX粒子を超音波を用いてフィブリン血餅の成分として検出できるか否かを判定するために、さらなる実験を実施した。SPIO−STASIXを、血漿と種々の希釈で混合し、次いで、1.0単位/mLのトロンビンを添加して血餅を形成した。次いで、前以て形成された血餅を、アガロース板上に配置し、磁気共鳴及びBモード超音波を用いて造影した。図7は、酸化鉄を担持した粒子を、生理学的に妥当な濃度範囲にわたって、MR及びBモード超音波を用いて検出できることを示す。
【0059】
(例4):超常磁性酸化鉄を担持した粒子を用いる抗癌療法
これらの実験の目標は、前立腺腫瘍を治療するために、組織切除及び治療物質の放出を造影するための改善された方向性のある誘導エネルギー伝達方法を開発することである。
【0060】
ヒト前立腺腫瘍の切除組織を、超生理学的濃度のアンドロゲンを供給された免疫欠陥マウスの側腹部に埋め込んだ。これらの条件下で、異種移植組織は増殖し、生じた腫瘍は、90%を超えてヒト類似性である内皮を有する脈管構造を発現する。さらに、ヒト前立腺組織中で観察される内皮細胞の混乱した星状構造は、保存される。ヒトアンドロゲン除去療法の場合のように、ホルモン中止は、腫瘍脈管構造の大規模な不安定化に向けた内皮細胞の大量アポトーシスをもたらす。固定化乾燥血小板を、新鮮なヒト血小板からパラホルムアルデヒドで安定化して調製し(Read,M.Sら、「再水和凍結乾燥血小板の止血及び構造特性の保持:輸注用乾燥血小板の長期保存の可能性(Preservation of hemostatic and structural properties of rehydrated lyophilized platelets:potential for long−term storage of dried platelets for transfusion)」Proc Natl Acad Sci USA 92,397〜401(1995))、緑色蛍光CMFDA染料で標識した。これらの固定化乾燥血小板も、Stasixの商標名でEntegrion社(リサーチトライアングルパーク、ノースカロライナ州)から市販されている。ヒト前立腺組織を有するマウスを準備し、次いで、アンドロゲンを中止した。2.0×10緑色蛍光Stasix(商標)粒子/マウスのボーラス投与量を、アンドロゲン除去の前又は2日後に注入した。動物を屠殺し、次いで組織学的分析のために、前立腺腫瘍及びその他の組織を除去し、準備した。
【0061】
図8は、不安定化後の腫瘍脈管構造中の緑色蛍光血小板治療物質を示す(左パネルの矢印を参照)。Stasix(商標)粒子は、アンドロゲン除去前の腫瘍組織中(右パネル)、又は肺、肝臓又は心臓組織中(データは示さない)に認められなかった。図9は、アンドロゲン中止及び緑色蛍光STASIX注入後の前立腺腫瘍からの3D再構成共焦点画像である。STASIX粒子が、腫瘍脈管構造を本質的に共追跡して、ヒト内皮細胞に対する橙色蛍光マーカーに密に近接して観察された。
【0062】
(例5):内部へ取り込まれたナノ粒子を含む血小板の調製
ポリカチオンとしてのポリエチレンイミン(PEI)は、細胞培養及びインビボでの遺伝子移入の目的でcDNAを凝集するのに広範に利用されている。本発明者らは、大きさがリバビリン三リン酸などの小型分子からcDNAなどの巨大分子までの範囲の広範な種類のポリアニオンを用いて高度に濃縮されたナノ粒子性構造を形成するPEIの能力を利用した。リバビリンリボオリゴヌクレオチド及びDNAプラスミドとPEIとの凝集、血小板内部への取込み、次いで組織培養物中のマクロファージへの送達を含む、この方法の2つの例を、次の項で提供する。
【0063】
(A)PEI−リバビリンリボオリゴヌクレオチドナノ粒子の内部取込み
図10に示すように、PEIを、8残基のリバビリンリボオリゴヌクレオチドと濃縮した。PEIの第1級アミンを、温和な条件下に画像形成部分(例えば、フルオロフォア又はMRI剤)及び/又は結合用官能剤(例えば、ビオチン、his6)で標識できる。図10は、PEIを2つのリバビリン残基及び3’末端FITCフルオロフォアを含む8残基リボオリゴヌクレオチドと凝集させる場合に形成される100nm〜300nmの球状粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【0064】
血小板は、PEIをベースにしたナノ粒子を容易に内部へ取り込むことが見出された。図11に示す透過型電子顕微鏡写真は、表面連通開放小管系中のPEI/リバビリンリボオリゴマーのナノ粒子を示す。低出力での多数の血小板の観察は(データは示さない)、実質的にすべての血小板が、1つ又は複数のPEIナノ粒子を含むことを立証した。表面連通開放小管系におけるPEI/アニオンのナノ粒子の局在化は、SPIOナノ粒子で観察されたものと類似し、血小板の自然免疫機能が、ナノ粒子を閉じ込める事象に関連していることを示している。
【0065】
(B)マクロファージへの遺伝子移入
次の研究は、cDNA−ナノ粒子でバイオ操作された血小板が、組織培養物中のマクロファージに遺伝子を移入することができることを立証する。実験の遺伝子移入部分の調製では、緑色蛍光タンパク質のcDNAを、転写を妨害しない結合を介してCy3で標識した。次いで、赤色蛍光のcDNAを、PEIと共に前記方法により濃縮して、PEI/cDNAのナノ粒子を得た。図12は、細胞がナノ粒子を内部へ取り込んだ後の、バイオ操作血小板の蛍光顕微鏡画像及びフローサイトメトリーのプロフィールを示す。
【0066】
遺伝子発現実験は、密度勾配法を用いてヒト抹消血から単離された単球を利用した。単球を、ドナーに特異的な培地を用いてマクロファージに分化させ、次いで、自然免疫細胞をGFP−ナノ粒子血小板と共に12時間インキュベートした。さらなる24時間後に、Cy3で標識されたcDNAがマクロファージ中に存在するか否か(赤色蛍光)、及びGFPを発現しているか否か(緑色蛍光)を判定するために、培養物を微視的蛍光について調べた。マクロファージ及び/又は血小板に固有の蛍光が、実験の分析を妨害しないことを立証するために、適切なネガティブ対照実験を実施した。結果を図13に示す。この分析の重要な結果は、ほとんどすべてのマクロファージが、血小板を内部へ取り込み、半分以上がGFP遺伝子を発現することであった。
【0067】
(例6):表面に結合したリバビリンを含む血小板の調製
リバビリンでバイオ操作されたStasix(商標)粒子を、ほかで概略を述べるStasix(商標)粒子の通常の製造方法に類似の方式で調製した。細胞を、過剰な血漿タンパク質から分離し、次いでアルデヒドでの安定化にかけた。次いで、表面膜を、膜不浸透性NHSビオチン類似体でビオチン化した。ビオチン化血小板を、過剰のアビジン([アビジン]>>「ビオチン」)と共にインキュベートし、凍結乾燥した。SDS−PAG電気泳動(アビジン標準と一緒に、データは示さない)は、各血小板が、670万のアビジン分子を拘束することを立証した。アビジン化Stasix(商標)粒子を、再水和し、2つのリバビリン塩基、追跡用緑色フルオロフォア、及び結合用ビオチンを含むリバビリンリボオリゴヌクレオチド(5’−ビオチン’UUU−リバビリン−リバビリン−UUU−FITC−3’)と一緒にインキュベートした。リボオリゴヌクレオチドは、アビジン化血小板と数秒以内に反応して、該血小板と緊密な複合体を形成することが見出された。蛍光顕微鏡検査(図14参照)は、リバビリンプローブが血小板に結合されていることを確認した。この図の右パネル中に示すフローサイトメトリー滴定は、表面につなぎ留められたアビジンが、リボオリゴヌクレオチドを1つの血小板につき1350万のリバビリン部分に関してほぼ単一の分子比率で拘束することを明らかにした。
【0068】
単球がリバビリンと複合したStasix(商標)粒子を内部へ取り込む能力を、前記のcDNAナノ粒子のマクロファージ貪食実験に類似の方式で試験した。単球を、リバビリンと複合したStasix(商標)粒子と共に12時間インキュベートし、次いで共焦点顕微鏡法で調べた。この分析(図15参照)は、単球が、血小板を内部へ取り込むことを示す。この図で、矢印は、内部へ取り込まれなかったいくつかの血小板を示す。選択された細胞の3次元共焦点再構成(データは示さない)は、ほとんどの単球が、5つ〜20の積載されたSTASIX粒子を内部へ取り込むことを明らかにした。各単球の内部容積及び各血小板上のリボオリゴヌクレオチド数に基づけば、単一単球による1つの血小板の内部取込みは、21μMの局所細胞内リバビリン濃度をもたらす。したがって、いくつかの血小板が貪食されると、組織培養系中のリバビリンを用いて測定されているIC−50を十分に超える内部リバビリン濃度が得られる。
【0069】
(例7):小型単層小胞の血小板への表面つなぎ留め
治療用ナノ粒子内容物が、アルデヒド固定化に対して敏感であるなら、次の部類の表面膜結合戦略を使用して、ナノ粒子をアルデヒド固定化及び凍結乾燥後の血小板へ会合させることができる。この方法の実用性は、小型単層小胞(SUV)ナノ粒子を用いる以下の実験によって立証される。リン脂質SUVは、リン脂質と界面活性剤オクチルグルコシドとの混合ミセル(図16)を、他の論文で詳細に述べられているような臨界ミセル濃度(オクチルグルコシドの場合25mM)未満の最終界面活性剤濃度に急速に希釈することによって形成された(Fischer,T.Molecular Crystal Liquid Crystal 102,141〜145(1984))。この実験の場合、二層には、追跡のための赤色蛍光PKH染料を含め、ホスファチジルエタノールアミンの第1級アミンを共有結合によりビオチンで修飾した。
【0070】
アルデヒド固定化の段階後に、表面膜の外側を共有結合によりNHS−ビオチン類似体で修飾することを1つの例外として、STASIX粒子を、標準的な製造方法によって調製した。次いで、ビオチン化STASIX粒子をモルとして過剰のアビジンと反応させて、アビジン化膜を得た。粒子を、SDS−PAG電気泳動及び濃度走査にかけ(既知量のアビジンを含むレーンと一緒に)、血小板あたりのアビジン数を計算した。各凍結乾燥細胞は、〜700万のアビジンを含んでいた。このビオチン化SUVを、続いてアビジン化Stasix(商標)粒子と混合して、小胞を表面膜に結合させた。図17は、表面膜と会合した赤色蛍光SUVを示す。透過型電子顕微鏡写真は、外部表面膜上のSUV(矢印で示す)を示す。TEM断面の厚さ及び細胞の円盤状形状を考慮すると、この実験で、各Stasix(商標)粒子は、30〜60のSUVと会合した。この実験は、ビオチン−アビジンのブリッジ法を用いて、ナノ粒子をバイオ操作血小板の表面に容易に連結できたことを立証する。
【0071】
(例8):アテローム硬化性プラークへの治療薬の送達
本発明は、血管傷害部位へ治療用遺伝子を送達するのに使用できる。この能力は、図18に示される。この研究では、アテローム硬化性プラークの形成を誘導するため、高コレステロール血症のブタを高コレステロール食に3ヶ月間配置した。大腿動脈の1cm部分を結紮し、次いで、Lac Z遺伝子を含むAAVコンストラクトを生理食塩水で注入した。1時間後、AAV媒体を除去し、動脈を、循環のために再び開放した。1ヶ月後、血管を切り離し、Lac Z遺伝子産生活性について組織学的に分析した。AAV移入産生物が、アテローム硬化性プラーク中で選択的に発現された。
【0072】
(例9):誘導エネルギー伝達を用いる前立腺腫瘍の造影及び止血
(A)ヒト前立腺組織の一次異種移植片の調製
外科的に切除された前立腺組織の新鮮な断片からなる一次異種移植片の樹立は定型的なプロトコールである。簡潔には、8週齢の免疫不全マウス(SCID又はNu/Nu)を去勢し、ヒト組織を移植する3〜7日前に徐放性テストステロンのペレットを埋め込む。手術中に器官への血液供給を中断して2時間以内に、前立腺全摘除術(前立腺癌)又は膀胱前立腺摘除術(良性前立腺)からの新鮮なヒト組織を組織学的に確認し、受け入れる。該前立腺組織を、直ちに氷冷臓器保存液(例えば、ViaSpan(商標))中に入れ、準備された免疫不全宿主への移植に向けて輸送した。8つの個々の組織片を、各マウスに皮下的に移植し(各側腹部に4つ)、該動物が、異種移植片を樹立するために4週間を見込んだ。歴史的には、新たに移植されたすべての異種移植片のほぼ80%は、異種移植片であるヒト血管網とマウス宿主脈管構造との異種移植片の周縁上での吻合によって特徴付けられて、成功裡に樹立している。移植後の最初の14日中に、異種移植片内のヒト脈管構造の微小血管密度は、移植前の組織に比較して、5倍を超えるまで増加する。4週後の任意の時点で、マウス宿主を去勢(テストステロンペレットを除去する)して、去勢後2日目に最高点に達し、去勢後5〜7日目までにベースライン濃度に戻った、ヒト内皮細胞中でのアポトーシスの波を選択的に誘導する。移植に対する前立腺異種移植片の血管新生応答、及び去勢によるヒト脈管構造の血管退縮は、分析したすべての種において一貫して発生し、患者に特異的な応答ではないと判定された。明確に損傷された内皮層への粒子の結合を、0日目(粒子の局在がない)に存在する安定な脈管構造と2日目(最大の粒子局在)との間で比較する。
【0073】
(B)局在化の直接造影
マウス宿主に、低、中間及び高濃度のSPIO−STASIX粒子を注入し、Bモードの超音波及びMRIでモニターした。動物は、次のような群に分けられる。
3,000 SPIO−STASIX/血液容積□L 0日目にマウス3匹。2日目にマウス6匹
10,000 SPIO−STASIX/血液容積□L 0日目にマウス3匹。2日目にマウス6匹
30,000 SPIO−STASIX/血液容積□L 0日目にマウス3匹。2日目にマウス6匹
【0074】
各治療群につき3匹のマウスに、去勢前の0日目に各濃度のSPIO−STASIX粒子を注入し、6匹のマウスに、去勢後2日目に各濃度のSPIO−STASIX粒子を注入する。動物に該粒子を注入し、血小板を45分間循環させ、動物を造影する。造影に続き、動物を安楽死させ、組織学的分析、及び異種移植片内の鉄量/湿り組織重量の定量化のために異種移植片を採取し、準備する。
【0075】
動物を、Bモードの超音波及び音響放射力衝撃(ARFI)パルス配列を用いてモニターする。次いで、マウスを、登録された解剖標識、及び鉄ナノ粒子の存在に対する改善された感度の双方を提供するように設計された2つの登録された造影配列を用いるMR造影にかけた。512×512×64の異方性画像配列を用いて、3D拡散強調投影コード化画像を取得する。局所的な場の不均一性(T2感受性)に対する改善された感度を提供するように設計された同一配列の変化を利用して、ナノ粒子を検出することができる。インビボ研究の結論として、異種移植片のMR組織診断を実施して、腫瘍外形サイズ及びナノ粒子の局在化のより完全な定量化に関するより高い空間分解能の3D画像集合を提供できる。灌流固定化標本(その場で固定化)に対する作用は、前に説明し、当技術分野で周知の前記の3Dコード化法を使用して9.4Tで実施することができる。MR組織診断の後、宿主動物を屠殺し、異種移植片を、採取、固定化、包埋し、薄片に切断し、蛍光及び透過型電子顕微鏡検査を実施する。
【0076】
(C)誘導エネルギー伝達
超音波トランスジューサーを動物の皮膚と直接接触させて、動物を赤外カメラと近傍電磁界供給源との間に置いた。SPIO−STASIX粒子を注入する前、及び注入の45分後に、ローレンツ力が介在する機構によって熱及び/又は音響応答を発生させるために、ラジオ周波数を印加する。この実験は、また、強磁性共鳴を誘導するためのマイクロ波電磁界を印加して実施できる。動物を、熱及び音響の誘導シグナルについてモニターする。6匹の動物からなる群を、次のような低、中間及び高SPIO−STASIX粒子濃度で評価する。
【表1】

【0077】
音響及び熱シグナルをモニターした後、動物を、屠殺し、SPIO−STASIX粒子の分布及び局在化を確認するため、最終項で詳述したような組織学的評価にかけた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含む血小板であって、前記ミクロン又はナノメートルサイズの粒子が活性薬剤を含む、血小板。
【請求項2】
前記血小板が、哺乳動物の血小板を含む、請求項1に記載の血小板。
【請求項3】
前記血小板が、ヒトの血小板を含む、請求項1に記載の血小板。
【請求項4】
前記ミクロン又はナノメートルサイズの粒子が、天然又は合成のポリマー、樹状ネットワーク、小型分子の凝集物、強磁性材料、リン脂質小胞、ミセル、及びこれらの組合せからなる群から選択される材料で作製される、請求項1に記載の血小板。
【請求項5】
前記活性薬剤が、タンパク質、RNA、DNA、キレート化剤、放射性化合物、強磁性化合物、超常磁性錯体、及びこれらの組合せからなる群から選択される薬剤である、請求項1に記載の血小板。
【請求項6】
前記活性薬剤が、抗ウイルス薬を含む、請求項1に記載の血小板。
【請求項7】
前記活性薬剤が、凝血タンパク質を含む、請求項1に記載の血小板。
【請求項8】
前記活性薬剤が、抗凝血タンパク質を含む、請求項1に記載の血小板。
【請求項9】
前記活性薬剤が、核酸を含む、請求項1に記載の血小板。
【請求項10】
前記活性薬剤が、超常磁性酸化鉄ナノ粒子である、請求項1に記載の血小板。
【請求項11】
医薬として許容し得る担体及びミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含有する血小板を含む医薬組成物であって、前記ミクロン又はナノメートルサイズの粒子が活性薬剤及び医薬として許容し得る担体を含む、医薬組成物。
【請求項12】
前記血小板が、哺乳動物の血小板を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記血小板が、ヒトの血小板を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ミクロン又はナノメートルサイズの粒子が、天然又は合成のポリマー、樹状ネットワーク、小型分子の凝集物、強磁性材料、リン脂質小胞、ミセル、及びこれらの組合せからなる群から選択される材料で作製される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記活性薬剤が、タンパク質、RNA、DNA、キレート化剤、放射性化合物、強磁性化合物、超常磁性錯体、及びこれらの組合せからなる群から選択される薬剤である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記活性薬剤が、抗ウイルス薬を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記活性薬剤が、凝血タンパク質を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記活性薬剤が、抗凝血タンパク質を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記活性薬剤が、核酸を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記活性薬剤が、超常磁性酸化鉄ナノ粒子である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記担体が、無菌の担体である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記担体が、固体の担体である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記担体が、液体の担体である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記担体が、水性の担体である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項25】
血小板を患者の注目部位へ送達する方法であって、前記血小板が、活性薬剤を含むミクロン又はナノメートルサイズの粒子を含み、
請求項1に記載の血小板を準備するステップ、及び
前記血小板を患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項26】
前記血小板が、哺乳動物の血小板を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記血小板が、ヒトの血小板を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記ミクロン又はナノメートルサイズの粒子が、天然又は合成のポリマー、樹状ネットワーク、小型分子の凝集物、強磁性材料、リン脂質小胞、ミセル、及びこれらの組合せからなる群から選択される材料で作製される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記活性薬剤が、タンパク質、RNA、DNA、キレート化剤、放射性化合物、強磁性化合物、超常磁性錯体、及びこれらの組合せからなる群から選択される薬剤である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記活性薬剤が、抗ウイルス薬を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記活性薬剤が、凝血タンパク質を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記活性薬剤が、抗凝血タンパク質を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記活性薬剤が、核酸を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記活性薬剤が、超常磁性酸化鉄ナノ粒子である、請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−534193(P2010−534193A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508365(P2010−508365)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/005638
【国際公開番号】WO2008/143769
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(508208409)エンテグリオン、インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】