説明

血液中のミッドカインの定量方法

【課題】血液中のミッドカインを正確に測定する方法を提供する。
【解決手段】血液(全血)を真空採血管に採ったのち、採った血液を凝固させて得られる上清(血清)と、ミッドカインに特異的に反応する試薬とを反応させて、その反応物の強さを指標として血中ミッドカイン値とする場合は、前記真空採血管としてシリカ粉末を含まないプラスチック製真空採血管を用いて行う。血液を抗凝固剤含有真空採血管に採ったのち、血球成分を分離・除去して得られる血漿と、ミッドカインに特異的に反応する試薬とを反応させて、その反応物の強さを指標として血中ミッドカイン値とする場合には、前記真空採血管として、ヘパリン以外の抗凝固剤を含むプラスチック製採血管を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中のミッドカイン(MKとも略す)の定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MKは、レチノイン酸によって発現が誘導される遺伝子産物として、門松らによって発見された分子量13,000の、塩基性アミノ酸に富むタンパク質性・ヘパリン結合性成長因子である(非特許文献1参照)。その後、この成長因子は神経細胞の生存維持や神経突起の伸長に関与し、個体発生、組織修復、癌の進展等の過程にも関与する因子であることも示唆されている。
【0003】
また、村松らは、さまざまな癌患者の血液中(血清中)あるいは尿中に、早いステージでMKが出現することから、血液中(血清中)あるいは尿中のMKを測定することによって早期癌を検出(スクリーニング)する方法を提案している(特許文献1参照)。
このような背景からヒト血液中(血清中)あるいは尿中のMKを測定することは、早期癌を初めとする各種の疾病の診断や治療に有効な手がかりを与えると考えられる。
【0004】
ヒト(健常者や患者)からの採血方法については、現在、真空採血(使用される採血管は真空採血管)が主流である。血液(全血)から血清(赤血球、白血球及び血小板のほかに、繊維素を取り除いたあとの淡黄色成分)を得たい場合には、採取した全血の凝固を促進させ、血清取得時間を短縮するために、真空採血管の中には、通常、凝固促進作用のあるシリカ(SiO;二酸化ケイ素)粉末を加える。また、血液(全血)から血漿(赤血球、白血球及び血小板を取り除いたあとの無形の成分)を得たい場合には、真空採血管の中に、抗凝固作用のあるヘパリンやEDTA,クエン酸等を加える。
【0005】
【非特許文献1】Kadomatsu,K.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,151:1312−1318,1990
【特許文献1】 国際公開第01/020333号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
検体が血液の場合は、上記特許文献1に記載されているように、採取した血液(全血)を前処理して得た淡黄色の「血清」を検体とし、免疫化学的方法によって測定している。しかし、本発明者らはこの特許文献1に記載の方法を追試する過程で、免疫化学的方法によって求めた測定値が大きくバラツイたり、添加回収試験において回収率が良くないことをたびたび経験した。そこで、このバラツキ又は添加回収率不良の問題を解決するべく種々検討した結果、意外にも、検体である「血清」の調製方法に原因があること、すなわち、血清取得時間を短縮するため予め採血管に加えている凝固促進剤(シリカ粉末)が測定値に悪い影響(負の影響)を及ぼすこと、そして、その理由は、MKがシリカ粉末に吸着されやすいこと、更にはMKが試験管のようなガラス壁に吸着されやすいことにあることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の課題は、血液中のミッドカインを正確に測定する方法(あるいは、血液中のミッドカインを正確に測定するための血液の前処理方法)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるミッドカインの定量方法は、血清を検体とする場合と、血漿を検体とする場合で異なる。すなわち、血清を検体とする第1の発明では、本発明は、血液(全血)を真空採血管に採ったのち、採った血液を凝固させて得られる上清(血清)と、ミッドカインに特異的に反応する試薬とを反応させて、その反応物の強さを指標として測定する血中ミッドカインの定量方法において、
前記真空採血管としてシリカ粉末を含まないプラスチック製真空採血管を用いることを特徴とする血中ミッドカインの定量方法、である。
【0008】
また、血漿を検体とする第2の発明では、本発明は、血液を抗凝固剤含有真空採血管に採ったのち、血球成分を分離・除去して得られる血漿と、ミッドカインに特異的に反応する試薬とを反応させて、その反応物の強さを指標として測定する血中ミッドカインの定量方法において、
前記真空採血管に、ヘパリン以外の抗凝固剤(EDTA,クエン酸、フッ化ナトリウム等)を含むプラスチック製採血管を用いることを特徴とする血中ミッドカインの定量方法、である。
【0009】
ここで、上記ミッドカインに特異的に反応する試薬は、特に限定しないが、好ましくは、抗ミッドカイン抗体を含む試薬を用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の定量方法では、全血から検体(血清又は血漿)を調製する前処理の操作において、ミッドカインを吸着しやすいシリカ粉末及びガラス壁、あるいはヘパリンが存在しないので、負の影響を受けにくい。そのため、血清中のミッドカインばかりでなく、血漿中のミッドカインについても、正確かつ再現性よく、測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、試験例及び実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
<試験例1>MKの添加回収試験
採血は同一人から真空採血を用いて行うとともに、ディスポーザブルシリンジを用いても行った。ここで、真空採血は凝固促進剤(シリカ粉末)入りの真空採血管(プラスチック製)を用い、採血後20分間室温放置し、その後2500rpmで10分間、遠心分離し、血清を取得した。また、 ディスポーザブルシリンジ(プラスチック製)を用いて採った血液は、ポリプロピレンチューブに移し、2時間、室温放置後、3000rpmで10分間遠心分離し、更に血餅を取り除いた後、再度、3000rpmで10分間遠心分離し、血清を取得した。
各々の方法で得られた血清と、(2倍希釈したときのMK濃度が各々)0、250、500、1000pg/mLとなるMK標準液とを等量混和し、これを検体として、ヒトMKを免疫化学的方法で測定し、添加回収試験を行った。
【0012】
マウス抗ヒトMKモノクローナル抗体感作プレートに検体20μLを加え、その後、ビオチン化ウサギ抗ヒトMKポリクローナル抗体100μLを加え、20〜25℃で撹拌しながら反応させた。次に、PBS−Tween20洗浄液で5回洗浄した後、増幅試液としてストレプトアビジンペルオキシダーゼを100μL加え、撹拌しながら10分間、反応させた。PBS−Tween20洗浄液で5回洗浄した後、酵素発色試薬としてテトラメチルベンジジン(以下TMB溶液)を100μLずつ分注し、10分間、20〜25℃で反応させ、その後、2規定硫酸(又は塩酸)50μLを加え反応を停止し、450nmにおける吸光度を測定した。得られた検量線から血清中のMK濃度を換算し、各々、回収率を求めた。凝固促進剤入りの真空採血管(プラスチック製)を用い得られた結果を表1に、また、ディスポーザブルシリンジ(プラスチック製)採血からポリプロピレンチューブへ移したものを用いて得られた結果を表2に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
同一人からの採血にかかわらず、凝固促進剤入りの真空採血管を用いた場合のMK測定値はゼロであり、ディスポーザブルシリンジ(プラスチック製)採血からポリプロピレンチューブへ移したものを用いて得られたMK測定値は228pg/mLと両者で大きな差が見られた。また、凝固促進剤入りの真空採血管を用いた血清はポリプロピレンチューブを用いた血清に比し、回収率は低かった。この結果は、凝固促進剤入りの真空採血管を用いた前処理では、検体中のMKが凝固促進剤(シリカ粉末)に吸着されるからと考えられる。
【0016】
実施例1
ヒト血清中のMK測定値が、用いる採血管によりどのように影響されるかを調べるために、ポリプロピレンチューブ(テルモ・プレイン)と、凝固促進剤入り真空採血管(市販2社のもの)とを用いて比較した。なお、血清取得の方法およびMK濃度の測定方法は前記試験例1に記載の方法と同じである。結果を表3に示した。ポリプロピレンチューブを用いた場合に比べて、凝固促進剤入りの真空採血管を用いて行ったMK測定値は低かった。
凝固促進剤の主成分のシリカはガラスの成分であり、そのため、このような凝固促進剤入りの採血管で採血した場合、MKがシリカに吸着しやすい。そのため、凝固促進剤入りの採血管を用いた血清中のMK測定値は、本来の血清中MKよりも低値を示した、と考えられる。
【0017】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を真空採血管に採ったのち、それを凝固させて得られる血清と、ミッドカインに特異的に反応する試薬とを反応させて、その反応物の強さを指標として測定する血中ミッドカインの定量方法において、
前記真空採血管としてシリカ粉末を含まないプラスチック製真空採血管を用いることを特徴とする血中ミッドカインの定量方法。
【請求項2】
血液を抗凝固剤含有真空採血管に採ったのち、血球成分を分離・除去して得られる血漿と、ミッドカインに特異的に反応する試薬とを反応させて、その反応物の強さを指標として測定する血中ミッドカインの定量方法において、
前記真空採血管に、ヘパリン以外の抗凝固剤を含むプラスチック製採血管を用いることを特徴とする血中ミッドカインの定量方法。
【請求項3】
ミッドカインに特異的に反応する試薬は、抗ミッドカイン抗体を含む試薬である、請求項1又は2の定量方法。

【公開番号】特開2007−139736(P2007−139736A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363967(P2005−363967)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(503139762)株式会社セルシグナルズ (5)
【Fターム(参考)】