説明

血液凝固系解析装置、血液凝固系解析方法及びプログラム

【課題】高精度で血液凝固系を解析し得る血液凝固系解析装置、血液凝固系解析方法及びプログラムを提案する。
【解決手段】血液凝固系は、誘電率の時間変化として、粘弾性開花時期(血液が粘弾性という観点で固まり始める時期(より詳細にはフィブリンモノマーの活発な重合が開始する時期))よりも前から観測される。一対の電極間に配される血液の誘電率を、該血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から所定の時間間隔で測定し、その測定結果から血液凝固系の働きの程度を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の誘電率から血液凝固に関する情報を取得する技術に関する分野である。
【背景技術】
【0002】
従来、血液凝固系の試験として、プロトロンビン時間や活性化部分トロンボプラスチンが広く知られている。また、これら試験は、血液凝固因子欠乏症等の検査や、抗凝血薬を投与した血液のモニタリングに重要であり、該試験の標準化方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−349684公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記試験は、血液の固まり易さの程度を(定量的に)みるものではなく、過剰の凝固開始剤を加えて凝固反応を加速させる条件のもとで、正常とされる時間内に凝固が完了するか否かを断片的(定性的)にみるものである。言い換えると、上記試験は、血液が固まり難いことによるリスク(出血傾向)を評価するための手法であり、血液が固まり易いことによるリスク(血栓傾向)を評価することはできない。血液の固まり易さの程度を(定量的に)みることは、断片的にみることに比べて情報量が多い等の利点を有するため重要であり、近年、断片的にみることに比べて高精度で血液凝固系を解析可能となるものが求められている。
【0005】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、高精度で血液凝固系を解析し得る血液凝固系解析装置、血液凝固系解析方法及びプログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明は、血液凝固系解析装置であって、一対の電極と、一対の電極に対して交番電圧を所定の時間間隔で印加する印加手段と、一対の電極間に配される血液の誘電率を測定する測定手段と、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から時間間隔で測定される血液の誘電率を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析する解析手段とを設ける。
【0007】
また本発明は、血液凝固系解析方法であって、一対の電極に対して交番電圧を所定の時間間隔で印加する印加ステップと、一対の電極間に配される血液の誘電率を測定する測定ステップと、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から時間間隔で測定される血液の誘電率を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析する解析ステップを経る。
【0008】
また本発明は、プログラムであって、交番電圧を印加する印加部に対して、一対の電極に所定の時間間隔で交番電圧を印加させること、誘電率を測定する測定部に対して、一対の電極間に配される血液の誘電率を測定させること、血液凝固系を解析する解析部に対して、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から時間間隔で測定される血液の誘電率を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析させることを実行させる。
【発明の効果】
【0009】
血液凝固系は、血液が粘弾性という力学的観点で固まり始める時期(フィブリンモノマーの活発な重合が開始する時期)よりも前から、誘電率の時間変化として現れる。
【0010】
この点、本発明は、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から測定される誘電率を用いているため、当該血液が粘弾性という力学的観点で固まり始める時期よりも前の過程をはっきりと観測できる。
【0011】
したがって本発明は、血液が粘弾性という力学的観点で固まり始める時期よりも前の誘電率の時間変化によって、早期の血液凝固系の働きを解析することができ、この結果、当該早期の血液凝固系の動向を誘電率の時間変化で捉える分だけ、従来に比して解析精度を高めることができる。また従来に比して、血液凝固系の働きの程度を早期に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】細胞のイオンと電場との関係を概略的に示す図である。
【図2】模擬的な複素誘電率スペクトルを示すグラフである。
【図3】試料導入部の構造を概略的に示す図である。
【図4】実験により得られた血液凝固系の誘電スペクトル(トロンビンを与えた場合)を示すグラフである。
【図5】実験により得られた血液凝固系の誘電スペクトル(トロンビンを与えない場合)を示すグラフである。
【図6】特定の周波数における誘電率の時間変化(モデル血液の場合)を示すグラフである。
【図7】減衰振動型のレオメータを用いた力学的な粘弾性の測定結果を示すグラフである。
【図8】特定の周波数における誘電率の時間変化(ヒト血液の場合)を示すグラフである。
【図9】誘電血液凝固測定装置の構成を概略的に示す図である。
【図10】血液凝固系解析処理手順を示すフローチャートである。
【図11】連銭を形成した赤血球を示す写真である。
【図12】攪拌停止後の誘電率の時間変化を示すグラフである。
【図13】特定の2つの周波数に対応する誘電率を、基準時刻の誘電率との比として表したときの時間変化を示すグラフである。
【図14】各周波数に対応する誘電率における変化率の差をとったときの時間変化を示すグラフである。
【図15】レオロジー測定で得られた凝固開始時期と、2つの周波数に対応する誘電率の変化率差の時間変化における傾きを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
<1.細胞の電気的特性>
<2.血液凝固系の誘電スペクトルの考察>
[2−1.実験方法]
[2−2.実験結果]
<3.実施の形態>
[3−1.誘電血液凝固測定装置の構成]
[3−2.血液凝固系解析処理手順]
[3−3.効果等]
<4.他の実施の形態>
【0014】
<1.細胞の電気的特性>
細胞には正のイオンと負のイオンが含まれる(図1(A))。これらのイオンは、交番電場に細胞がある場合、該交番電場における正負の方向変化に応じて移動する(追随する)。この場合、細胞膜は高い絶縁性をもつので、陽イオンと陰イオンとが細胞膜と細胞質との界面に偏在し、イオン性の界面分極が生じる(図1(B))。
【0015】
ここで、文献等で引用される模擬的な細胞懸濁液における誘電スペクトルを図2に示す。この図2からも分かるように、交番電場の周波数が十分に低い場合、細胞は細胞膜と細胞質との界面で界面分極が生じているので、複素誘電率の実部は大きい値として得られる。以下、複素誘電率の実部は誘電率と呼ぶ。
【0016】
一方、交番電場の周波数が数十[MHz]程度となると、陽イオンと陰イオンとが細胞膜と細胞質との界面に移動する前に、該交番電場における正負の切り替わりが起こる。すなわち界面分極が交番電場の変化に追随できないことになる。
【0017】
したがって、交番電場の周波数が高くなるほど、誘電率は小さい値を呈する。誘電率が減少する現象は“誘電緩和”と呼ばれ、該誘電緩和が生じている部分では、複素誘電率の虚部は上昇する。ちなみに、複素誘電率の虚部は一般には誘電損失と呼ばれる。
【0018】
この誘電緩和は、細胞のサイズや構造等に依存して特定の周波数帯を境に生じ、また誘電緩和の数は細胞に含まれる主要な界面の数に依存する。例えば、細胞核をもたない赤血球等の細胞では誘電緩和の数は1つであり、1又は2以上の核をもつ有核細胞では誘電緩和の数は2以上となる。
【0019】
このように細胞の複素誘電率は、実部及び虚部ともに、電界の周波数に依存する関係にある。これは“誘電分散”と呼ばれる。
【0020】
<2.血液凝固系の誘電スペクトルの考察>
[2−1.実験方法]
モデル血液に対してトロンビンを加えることにより反応を開始させ、該トロンビンを加えた直後のモデル血液を試料導入部に導入して血液凝固系における誘電率(複素誘電率の実部)を測定した。
【0021】
モデル血液は、コージンバイオ社のウサギ保存血液をPBSで洗浄した赤血球懸濁液と、シグマ社のウシ由来フィブリノゲンとを混合して、ヘマトクリット25[%]、フィブリノゲン濃度0.22[%]に調整したものを用いた。
【0022】
トロンビンは、シグマ社のウシ由来トロンビンを、0.01[%](10[units/ml])に調整し、モデル血液1[ml]あたり10[μl](即ち100ミリ[units/ml])又は5[μl](即ち50ミリ[units/ml])の量を加えた。
【0023】
誘電率は、アジレント社製のインピーダンスアナライザー(4294A)を用いて測定した。また、測定すべき周波数帯域(以下、これを測定周波数域とも呼ぶ)は40[Hz]〜110[MHz]とし、測定すべき時間間隔(以下、これを測定間隔とも呼ぶ)は1[分]とし、被測定対象の温度は37[℃]とした。
【0024】
試料導入部は、図3に示す構造とした。すなわち、ポリプロピレン製の円筒体CLの両端に対して、金メッキを施した一対の円柱状でなる電極E1,E2を挿入することにより密封され、該電極E1,E2間に血液を与えるための注射針HNを円筒体CLの外壁に貫通させた構造とした。なお、注射針HNの貫通部分はグリスで塞ぐことで、円筒体CLと電極E1,E2とで囲まれる空間の密閉状態が維持されている。
【0025】
[2−2.実験結果]
以上の実験方法のもとで得られた誘電スペクトルを図4に示し、モデル血液に対してトロンビンを加えない状態のもとで上述の実験手法と同じ条件で観測した誘電スペクトルを図5に示す。なお図4は、モデル血液1[ml]あたり10[μl]の量を加えた場合の誘電スペクトルである。
【0026】
図4と、図5とを比較してみると、モデル血液凝固系では、一般的な細胞懸濁液と同様に誘電緩和が観測でき、しかもその誘電応答が凝固の進行と共に(時間と共に)増加していることが観測された。
【0027】
ここで、特定の周波数(ここでは758[kHz])に対応する誘電率の時間変化を図6に示す。この図6における曲線W1は、モデル血液にトロンビンを加えない場合(図5の758[kHz]部分を切り出した二次元グラフ)である。
【0028】
曲線W2は、モデル血液1[ml]あたり10[μl]のトロンビンを加えた場合(図4の758[kHz]部分を切り出した二次元グラフ)である。曲線W3は、モデル血液1[ml]あたり5[μl]のトロンビンを加えた場合(図示はしていないが、図4と同様に758[kHz]部分を切り出した二次元グラフ)である。
【0029】
曲線W2から明らかなように、トロンビンを加えた時点からおよそ8[分]後に誘電率のピークが観測された。また曲線W3から明らかなように、トロンビン量を半分にすると、誘電率のピークを示す時間がシフトし、該ピークはトロンビンを加えた時点からおよそ18[分]後に観測された。
【0030】
一方、モデル血液1[ml]あたり10[μl]のトロンビンを加えた場合と、該モデル血液1[ml]あたり5[μl]のトロンビンを加えた場合とについては、自由減衰振動型のレオメータを用いて力学的な粘弾性測定(レオロジー測定)も行った。この測定結果を図7に示す。
【0031】
この図7における(A)はモデル血液1[ml]あたり10[μl]のトロンビンを加えた場合、(B)はモデル血液1[ml]あたり5[μl]のトロンビンを加えた場合を示している。これら図7(A),(B)におけるピークは一定の粘弾性特性が現れる時期である。つまり、血液が粘弾性(力学)という観点で固まり始める時期(以下、これを粘弾性開花時期とも呼ぶ)である。
【0032】
ところで、実際の血液凝固系は多数の凝固因子が関連しあった複雑な生体反応を経るが、最終的には血中フィブリノゲンがトロンビンの関与によってフィブリンに転換する。フィブリノゲンがフィブリンに変化する部分は、血液を固まらせるという実質的な役割を担う過程と捉えることができる。
【0033】
具体的にこの過程は、フィブリノゲンがトロンビンの関与によってフィブリン・モノマーに変化し、これが互いに重合してフィブリン・ポリマーとなる。そしてフィブリン・ポリマーは第XIII因子の関与によって架橋結合されて安定化フィブリンとなり、実質的な血液凝固が引き起こされる。
【0034】
このことから、自由減衰振動型のレオメータの測定でピークとして得られる粘弾性開花時期(ピークが得られない場合もあるがその場合には対数減数率の減少開始時点)は、フィブリン・モノマーが互いに重合してフィブリン・ポリマーとなる過程、あるいは、このフィブリン・ポリマーが架橋結合して安定化フィブリンとなる過程に相当すると考えられる。少なくとも、フィブリノゲンに対してトロンビンが関与を開始する時点よりも遅い時期である。
【0035】
図7から明らかなように、図6に示す誘電スペクトルの場合と同様に、トロンビンを加えた時点からおよそ8[分]後(図7(A))、該トロンビンの半分量のトロンビンを加えた時点からおよそ18[分]後(図7(B))の時点で、粘弾性率の急激な増加(粘弾性開花時期)が観測された。
【0036】
このことから、誘電率の時間変化は血液凝固系を反映していることが分かる。特に着目すべき点は、誘電率を測定する場合、図6と図7との比較から明らかなように、自由減衰振動型のレオメータでは観測不可能である粘弾性開花時期よりも前の過程をはっきりと観測できることである。この過程は、図8に示すように、ヒトから採血した血液であっても同様に観測することができた。
【0037】
ちなみに図8は、抗凝固剤(クエン酸)を含む試験管にヒトの末端の血液を採血し、当該血液に対して凝固開始剤(塩化カルシウム)を加えた直後から、特定の周波数(ここでは758[kHz])に対応する誘電率の時間変化を示したものである。
【0038】
これら実験から明らかなように、粘弾性開花時期よりも前の過程が誘電率の上昇変化として反映するということは、当該上昇変化が粘弾性開花時期以前の凝固系の働きの程度(いいかえれば凝固亢進又は凝固能力の程度)を定量的に示す指標ということができる。
【0039】
具体的には測定開始直後からピークに至るまでの初期段階の誘電率の勾配は、粘弾性開花時期が早い場合には大きく(図6:曲線W2)、該粘弾性開花時期が遅い場合には小さくなる(図6:曲線W3)。したがって、ピークに至るまでの初期段階にあたる誘電率の推移から、血液凝固系の働き度(凝固亢進度又は凝固能力度)を、短時間かつ細かく解析することが可能となる。
【0040】
<3.実施の形態>
次に、一実施の形態として誘電血液凝固測定装置を説明する。
【0041】
[3−1.誘電血液凝固測定装置の構成]
図9において、誘電血液凝固測定装置1の概略的な構成を示す。この誘電血液凝固測定装置1は、試料導入部2及び信号処理部3を有する。この誘電血液凝固測定装置1では、試料導入部2又は信号処理部3に温度センサー(図示せず)及び熱電素子(図示せず)が設けられる。誘電血液凝固測定装置1は、温度センサーを用いて測定すべき血液の温度を計測し、この計測結果に応じた信号量を熱電素子に与えることにより、該血液に対する温度を調整し得るようになされている。
【0042】
試料導入部2は一対の電極を有し、当該電極間にヒト血液が導入される。このヒト血液には抗凝固作用が働いており、該抗凝固作用は、ヒト血液を電極間に導入する直前又は導入した後に解かれる。
【0043】
この試料導入部2は、例えば図3に示したものを採用できる。ただし、試料導入部2の構造、あるいは各材料の形状や材質は、図3において示したものに限定されるものではない。例えば、断面が多角(三角、四角又はそれ以上)となる筒体の両端を密封し、該筒体における1つの内面上に一対の電極と、それに繋がる配線をプリントした構造の試料導入部を採用することができる。要は、血液を電極間に導入する直前又は導入した後に、血液に働いている抗凝固作用を解くことができ、当該電極間に所定の期間だけ血液を停滞可能であればよい。
【0044】
信号処理部3は、電圧印加部11、誘電率測定部12及び血液凝固系解析部13を含む構成とされる。
【0045】
電圧印加部11は、測定を開始すべき命令を受けた時点又は電源が投入された時点を開始時点として交番電圧を印加する。
【0046】
具体的に電圧印加部11は、設定される測定間隔ごとに、試料導入部2に配される一対の電極に対して、着目すべきとして設定される周波数(以下、これを着目周波数とも呼ぶ)の交番電圧を印加する。
【0047】
測定間隔,着目周波数は、具体的には上述の実験で用いた1[分] ,758[kHz]を採用することができる。ただし、これら数値は一例であり、該数値に限定されるものではない。また測定間隔,着目周波数は、マウスやキーボード等の入力手段を介して種々の値に設定することができる。
【0048】
誘電率測定部12は、測定を開始すべき命令を受けた時点又は電源が投入された時点を開始時点として誘電率を測定する。
【0049】
具体的に誘電率測定部12は、試料導入部2に配される一対の電極間における電流又はインピーダンスを所定周期で測定し、当該測定値から誘電率を導出する。この誘電率の導出には、電流又はインピーダンスと誘電率との関係を示す既知の関数や関係式が用いられる。
【0050】
血液凝固系解析部13には、誘電率測定部12から、着目周波数に対応する誘電率を示すデータ(以下、これを誘電率データとも呼ぶ)が測定間隔ごとに与えられる。
【0051】
血液凝固系解析部13は、誘電率測定部12から与えられる誘電率データのうち、ヒト血液の抗凝固作用が解かれた時点以降の誘電率データを受けた場合に、血液凝固系解析処理を開始する。
【0052】
ヒト血液の抗凝固作用が解かれた時点の判断は、例えば、該抗凝固作用が解かれる前に呈する誘電率よりも所定量だけ大きい値を閾値とし、該閾値以上の誘電率を示す誘電率データを受けた時点を、ヒト血液の抗凝固作用が解かれた時点とするといった手法が採用される。
【0053】
この手法を採用した場合、概略的には、試料導入部2における電極間に導入された後にヒト血液の抗凝固作用が解かれるケースでは、その解かれた時点から1番目となる誘電率データを受けた時点が、解析処理の開始時点とされる。一方、試料導入部2における電極間に導入される直前にヒト血液の抗凝固作用が解かれるケースでは、誘電率測定部12から1番目に与えられる誘電率データを受けた時点が、解析処理の開始時点とされる。
【0054】
血液凝固系解析部13では、血液凝固系解析処理を開始した時点から、設定される期間を経過するまでの間が解析期間として設定される。血液凝固系解析部13は、この解析期間内に受け取った(測定された)複数の誘電率データがそれぞれ示す誘電率に最も近似する直線を検出する。そして血液凝固系解析部13は、検出した直線の勾配を、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータとして求め、該勾配から、粘弾性開花時期を予測する。
【0055】
この予測は、直線の勾配が大きいほど粘弾性開花時期が速いものとされ、例えば、直線の勾配と、粘弾性開花時期とを対応付けたデータベースあるいは直線の勾配と、粘弾性開花時期との関係性(規則性)を示す関数に基づいて行われる。
【0056】
血液凝固系解析部13は、粘弾性開花時期を予測した場合、その予測結果と、該予測に用いた誘電率との一方又は双方を通知する。
【0057】
この通知は、例えば、グラフ化してモニタに表示あるいは所定の媒体に印刷することにより行われる。
【0058】
[3−2.血液凝固系解析処理手順]
次に、血液凝固系解析処理手順について、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0059】
すなわち誘電血液凝固測定装置1は、例えば測定を開始すべき命令を受けた場合又は電源が投入された場合をトリガーとしてROMに格納されたプログラムをRAMに展開し、ステップSP1に進んで血液凝固系解析処理を開始する。
【0060】
誘電血液凝固測定装置1は、ステップSP1では電圧印加部11に対して、設定される測定間隔ごとに、試料導入部2に配される一対の電極に対して着目周波数の交番電圧の印加を開始させ、次のステップSP2に進む。
【0061】
誘電血液凝固測定装置1は、ステップSP2では誘電率測定部12に対して誘電率の測定を開始させ、続くサブルーチン(以下、これを血液凝固系解析ルーチンとも呼ぶ)SRTに進んで血液凝固系解析部13に対して血液凝固系の解析を開始させる。
【0062】
すなわち血液凝固系解析部13は、血液凝固系解析ルーチンのステップSP11では所定の閾値以上となる誘電率を示す誘電率データを待ち受ける。このステップSP11において所定の閾値以上の誘電率データを受けた場合、血液凝固系解析部13は、ヒト血液の抗凝固作用が解かれた時点であるとして、次のステップSP12に進む。
【0063】
血液凝固系解析部13はステップSP12では、設定される解析期間の計時を開始するとともに、該解析期間が経過するまでに誘電率測定部12から与えられる誘電率データを蓄積する。
【0064】
次に血液凝固系解析部13は、ステップSP13では解析期間内に蓄積した誘電率データが示す誘電率に最も近似する直線を検出し、その直線の勾配を、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータとして求める。
【0065】
そして血液凝固系解析部13は、ステップSP14ではステップSP13で求めたパラメータ(誘電スペクトルの初期波形の勾配)から粘弾性開花時期を予測した後、血液凝固系解析処理を終了する。
【0066】
このようにして誘電血液凝固測定装置1は、RAMに展開したプログラムにしたがって血液凝固系解析処理を実行するようになされている。
【0067】
[3−3.効果等]
以上の構成において、この血液凝固系解析装置1は、血液が配されるべき位置を挟むよう対向される一対の電極に対して、着目すべき周波数の交番電圧を所定の時間間隔で印加する(図9参照)。
【0068】
また血液凝固系解析装置1は、一対の電極間に配される血液の誘電率を、該血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から所定の時間間隔で測定し、その測定結果から血液凝固系の働きの程度を解析する。
【0069】
血液凝固系は、誘電率の時間変化として、粘弾性開花時期(血液が粘弾性という観点で固まり始める時期(より詳細には少なくともフィブリンモノマーの活発な重合が開始する時期))よりも前から観測される(図6及び図7参照)。
【0070】
この点、血液凝固系解析装置1は、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から測定される誘電率を用いているため、自由減衰振動型のレオメータでは観測不可能である粘弾性開花時期よりも前の過程をはっきりと観測できる。
【0071】
すなわち、この血液凝固系解析装置1は、粘弾性開花時期よりも前の誘電率の時間変化によって、粘弾性開花時期よりも前に早期に働く血液凝固因子を定量的に捉えることができる。
【0072】
ところで、静脈血栓を引起す一連の凝固反応が、赤血球膜上における血液凝固第IX因子のゆっくりとした活性化によって開始する可能性をもつことが知られている(貝原真 実験医学Vol.22,No.13, 2004, pp. 1869-1874)。
【0073】
また、血液凝固系に関する従来の測定手法として、上述したように活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:Activated Partial Thromboplastin Time)が広く知られている。
【0074】
しかしこのAPTTは、血液の固まり易さの程度をみるものではなく、過剰の凝固開始剤を加えて凝固反応を加速させる条件のもとで、正常とされる時間内に凝固が完了するか否かを断片的(定性的)にみることで、血液が固まり難さ(出血傾向)を評価するものである。したがってAPTTは、静脈での血流停滞によって比較的ゆっくりと進行する静脈血栓症など、血液の固まり易さ(血栓傾向)が問題となる場合には無駄となり、ましてや、当該疾患のリスクを評価することはできない。
【0075】
これに対しこの血液凝固系解析装置1は、粘弾性開花時期よりも前の誘電率の時間変化によって、早期に働く血液凝固因子を定量的に捉えることができる。このため、この血液凝固系解析装置1は、正常とされる時間内での凝固が完了するか否かを断片的(定性的)に捉える従来の手法に比して、高い精度で、血液凝固に関与する疾患のモニタリング又はリスクを評価することが可能となる。疾患のリスクを評価できるということは、予防医学の観点からも非常に有用となる。
【0076】
例えば、手術は静脈血栓塞栓発症の危険因子となるため、手術後のリスク判定とそれに基づいた投薬の判断が容易にできるようになる。高齢・肥満・喫煙・妊娠なども静脈血栓塞栓発症の危険因子となるため、これらのリスク判定とそれに基づいた投薬の判断が容易にできるようになる。また、糖尿病患者はしばしば血液凝固亢進がみられるため、その程度を判定することで投薬の判断が容易にできるようになる。
【0077】
この実施の形態における血液凝固系解析装置1の解析では、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータから、該粘弾性開花時期が予測される。したがって、この血液凝固系解析装置1は、粘弾性開花時期前における血液凝固系の動向を、誘電率の変化として表示部に提示することができるのみならず、該誘電率の変化から予測される粘弾性開花時期を迅速に提示することが可能となる。
【0078】
一般に、粘弾性開花時期は凝固系開始時から数十[分]を要するが、該粘弾性開花時期を、数[分]で提示できるということは、疾患のモニタリングやリスクを評価する観点では特に有用となる。
【0079】
以上の構成によれば、血液凝固系解析装置1を用いて、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後からの誘電率の時間変化によって、早期の血液凝固系の働きが解析された。これにより従来の血液凝固系に関する測定手法では不可能であった疾患のモニタリングのみならず、該疾患のリスクを評価することが可能となり、この結果、解析精度を従来に比して高め得る血液凝固系解析装置1が実現できる。
【0080】
<4.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、測定すべき試料としてヒトの末血(静脈血)が用いられた。しかしながら試料はヒト血液に限定されるものではなく、ヒト以外の動物であってもよい。また動脈血であってもよい。
【0081】
上述の実施の形態では、試料導入部2に配される一対の電極に対して、着目周波数の交番電圧が印加された。しかしながら印加すべき交番電圧の周波数は、着目周波数を含む一定の帯域における全部又は所定幅ごとの周波数としてもよい。
【0082】
この場合、血液凝固系解析部13には、誘電率測定部12から、複数の周波数に対応する誘電率を示すデータが測定間隔ごとに与えられることになる。したがって、血液凝固系解析部13は、複数の周波数に対応する誘電率を用いて、当該誘電率を補正することが可能となる。
【0083】
ところで赤血球は図11に示すように、連銭状又は不規則に連なって凝集する(塊を形成する)ことがしばしばある。また赤血球が凝集すると、図12に示すように、その赤血球における誘電率が増加することが知られている。
【0084】
なお、この図12は、全血,血漿成分を50%とした血液,0%とした血液の攪拌を停止した以後における誘電率の変化の測定結果を、A.lrimajiri et al, elsevier science , Biochim.Biophys, vol.1290, p.207-209から引用したものである。
【0085】
誘電率の変化率を基準時刻での誘電率との比としてみた場合、この赤血球の凝集に起因する誘電率の時間変化は、血液凝固に起因する誘電率の時間変化に比べて、周波数依存性(周波数の違いによる誘電率の時間変化の違い)が小さいという知見が得られた。
【0086】
したがって、特定の周波数に対応する誘電率の変化率と、該周波数とは異なる周波数に対応する誘電率の変化率との差をとることで、血液凝固による誘電率変化を残しつつも、赤血球の凝集に起因する誘電率の影響度を低減することができる。
【0087】
ここで、実験結果を図13及び図14に示す。図13は、抗凝固剤(クエン酸)を含む試験管にヒトの静脈血液を採血し、当該血液に対して凝固開始剤(塩化カルシウム)を加えた直後から、特定の2つの周波数に対応する誘電率を、基準時刻の誘電率との比として表したときの時間変化である。
【0088】
なお、特定の周波数は150[kHz]の場合(図13において実線で示す波形W10)と260[kHz] の場合(図13において破線で示す波形W11)とし、基準時刻の誘電率は最初に測定される誘電率(ε´t=0)としている。
【0089】
一方、図14は、図13に示される各周波数に対応する誘電率における変化率の差をとったときの時間変化(すなわち図13に示す波形W10と波形W11との差)である。
【0090】
ちなみにこの実験は、上述の実験結果(図4,図5,図8)における実験と同様の条件としている。すなわち測定周波数域は40[Hz]〜110[MHz]とし、測定間隔は1[分]とし、被測定対象の温度は37[℃]とし、誘電率はアジレント社製のインピーダンスアナライザー(4294A)を用いて測定した。
【0091】
この図13から分かるように、特定の周波数に対応する誘電率と、該周波数とは異なる周波数に対応する誘電率とは、基準時刻の誘電率との比としてみた場合、測定時間が短いほどオーバーラップする。これは、短時間側では、赤血球の凝集に起因する誘電率変化の影響が比較的大きくあり、この影響には周波数依存性が比較的小さいことによるものである。一方、長時間側では、血液凝固に起因する誘電率変化の影響が比較的大きく、周波数依存性も比較的大きい。
【0092】
これに対し図14から分かるように、各周波数に対応する誘電率の変化率の差は、血液凝固に起因する誘電率変化の影響度は残されつつ、赤血球の凝集に起因する誘電率の影響度が低減され、直線的に増加する傾向となる。
【0093】
また別の実験結果を図15に示す。この図15は、レオロジー測定で得られた凝固開始時期と、2つの周波数に対応する誘電率における変化率の差を用いた解析との関係を示したものである。
【0094】
図15におけるプロットは、5人の健常者について、2つの周波数(150[kHz] と260[kHz])に対応する測定開始から10分後における誘電率の変化率の差を示すものである。図15における波形は、これらプロットに基づく最適近似曲線である。
【0095】
図15から分かるように、レオロジー測定で得られる凝固開始時期が短いほど、2つの周波数に対応する誘電率における変化率の差の傾きが小さいという傾向が得られた。ただし、この傾向は、測定対象とすべき周波数や、試料導入部2で採用される電極の構造や材質の違いなどに応じて異なる場合がある。
【0096】
このように血液凝固系解析部13が、所定間隔ごとに誘電率測定部12から与えられる測定値(特定の2つの周波数に対応する誘電率)を、基準時刻の誘電率との比として表して除算することで、血液凝固反応の初期過程を反映した誘電率の時間変化を正確に着目することができる。この結果、血液凝固に起因する誘電率の解析精度をより一段と向上することができる。
【0097】
また別例として、着目周波数に対応する誘電率以外の誘電率を用いて、該着目周波数に対応する誘電率を補正するようにしてもよい。例えば、着目周波数に近似する周波数に対応する誘電率の勾配の偏り度が大きいほど、該勾配の偏りが大きい側に重み付けされるよう、着目周波数に対応する誘電率の勾配を補正する補正手法が適用可能である。上述した補正手法は一例であり、この他種々の補正手法を採用することができる。
【0098】
なお、複数の周波数の交番電圧における印加手法は、いわゆる周波数域法、周波数重畳法又は時間域法のいずれかを採用することができ、これら手法の組み合わせ手法を採用することもできる。
【0099】
周波数域法は、測定すべき周波数帯における全部又は所定幅ごとの周波数を高速に切り替えながら交番電圧を印加する手法である。周波数重畳法は、測定すべき周波数帯における全部又は一部の周波数成分の混ざった交番電圧を印加する手法である。時間域法は、ステップ電圧を印加する手法である。この時間域法では、複数の周波数成分の混ざった交番電圧に応答される電流を時間の関数としてフーリエ変換し、周波数依存性を検出する処理が必要とされる。
【0100】
複数の周波数成分の混ざった波としては、例えば、微分ガウス波、表面横波(STW)、レイリー波(Surface Acoustic Wave)、BGS(Bleustein-Gulyaev-Shimizu) 波、ラム波、表面スキミングバルク波又はSH(Shear horizontal)波等を適用することができる。
【0101】
また上述の実施の形態では、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータとして、解析期間内に測定される誘電率に最も近似する直線の勾配が適用された。しかしながらこのパラメータは、直線の勾配に限定されるものではない。例えば、解析期間内において測定される誘電率の変化率の平均とすることができる。
【0102】
具体的に血液凝固系解析部13は、解析期間内に誘電率測定部12から誘電率データを受けるたびに、該誘電率データと、その受けた時点の直前に受けた誘電率データとが示す誘電率の差をとる。この差は、観測間隔当たりの誘電率の増加量となる。
【0103】
血液凝固系解析部13は、解析期間が経過するまで観測間隔当たりの誘電率の増加量を取得し、該解析時間を経過したとき、取得した誘電率の増加量の平均を、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータとして求める。
【0104】
このように粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータとして、解析期間内において測定される誘電率の変化率の平均が適用可能である。もちろん、この誘電率の変化率の平均や直線の勾配以外にも、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータとすることができる。
【0105】
また上述の実施の形態では、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータから、粘弾性開花時期が予測された。しかしながら解析事項は粘弾性開花時期の予測に限定されるものではない。例えば、血栓のリスクを評価することができる。
【0106】
この評価は、粘弾性開花時期前の誘電率の増加量を示すパラメータ(解析期間内に測定される誘電率に最も近似する直線の勾配の傾きあるいは誘電率の変化率の平均)が大きいほど血栓のリスクが高いものとされる。具体的には例えば、パラメータと、血栓のリスクとを対応付けたデータベースあるいはパラメータと、血栓のリスクとの関係性(規則性)を示す関数に基づいて行われる。なお、血栓のリスクは段階的とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、生物実験、モニタリング若しくは診断又は医薬の創製などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1……誘電血液凝固測定装置、2……試料導入部、3……信号処理部、11……電圧印加部、12……誘電率測定部、13……血液凝固系解析部、CL……円筒体、E1,E2……電極、HN……注射針。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、
上記一対の電極に対して交番電圧を所定の時間間隔で印加する印加手段と、
上記一対の電極間に配される血液の誘電率を測定する測定手段と、
血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から上記時間間隔で測定される血液の誘電率を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析する解析手段と
を有する血液凝固系解析装置。
【請求項2】
上記解析手段は、
上記血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から所定期間における着目すべき周波数の誘電率の増加量を示すパラメータから、一定の粘弾性特性が現れる時期を推定する
請求項1に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項3】
上記解析手段は、
上記血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から所定期間における着目すべき周波数の誘電率の増加量を示すパラメータから血栓のリスクを評価する
請求項1に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項4】
上記一対の電極は、血液が配されるべき位置を挟むよう対向される
請求項2又は請求項3に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項5】
上記解析手段は、
上記血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から所定期間における特定の周波数の誘電率と、該周波数とは異なる周波数の誘電率とを、基準時刻の誘電率との比として表して除算し、その除算結果を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析する
請求項1に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項6】
一対の電極に対して交番電圧を所定の時間間隔で印加する印加ステップと、
上記一対の電極間に配される血液の誘電率を測定する測定ステップと、
血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から上記時間間隔で測定される血液の誘電率を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析する解析ステップと
を有する血液凝固系解析方法。
【請求項7】
交番電圧を印加する印加部に対して、一対の電極に所定の時間間隔で交番電圧を印加させること、
誘電率を測定する測定部に対して、上記一対の電極間に配される血液の誘電率を測定させること、
血液凝固系を解析する解析部に対して、血液に働いている抗凝固剤作用が解かれた以後から上記時間間隔で測定される血液の誘電率を用いて、血液凝固系の働きの程度を解析させること
を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−181400(P2010−181400A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293156(P2009−293156)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】