説明

血液分離フィルタ装置

【課題】血液から血球成分と血漿もしくは血清とを速やかに分離することができ、血漿もしくは血清中への溶血により生じた溶血成分の混入が生じ難く、しかも十分な量の血漿もしくは血清を得ることができ、従って臨床検査等における血漿もしくは血清の検査を高精度に行うことを可能とする血液分離フィルタ装置を提供する。
【解決手段】流路形成部材2,4内に血液を血球と血漿もしくは血清とに分離する血液分離フィルタ5が配置されており、血液分離フィルタ5よりも下流に赤血球の通過を防止する血球停止フィルタ6が配置されており、血球停止フィルタよりも下流に、溶血により生じた成分の通過を防止する溶血成分通過防止フィルタ7が配置されており、該溶血成分通過防止フィルタ7が、厚み0.05〜1.5mm及び平均孔径1.0〜100μmの連続気孔を有するフィルタ材料からなる、血液分離フィルタ装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から血球と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタ装置に関し、より詳細には、濾過により血球と血漿もしくは血清とを分離する血液分離フィルタの下流側に、赤血球の通過を防止する血球停止フィルタ部材が配置されている血液分離フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血流から血球を除去し、臨床検査に必要な血漿または血清を得るために遠心分離法が広く用いられてきている。しかしながら、遠心分離法では、大型で高価な遠心分離装置を必要としていた。また、遠心分離操作に時間を要していた。さらに、血液を凝固させたり、分離後に上澄みの血漿もしくは血清を移し替えたりする作業が煩雑であった。
【0003】
そこで、遠心分離操作を用いることなく、血液から血球を除去し、血漿または血清を得ることを可能とする様々な分離方法が提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、平均繊維径0.2〜5μm及び密度0.1〜0.5g/cmのガラス繊維層を血液分離フィルタ材料として用い、全血から血漿または血清を分離する方法が開示されている。
【0005】
また、下記の特許文献2には、高分子極細繊維集合体または多孔質ポリマーからなる血液分離フィルタ材料を容器内に収納してなる血漿または血清分離フィルタ装置が開示されている。この高分子極細繊維集合体または多孔質ポリマーでは、親水性ポリマーが固定され、親水化処理が施されている。フィルタ材料中で血液が移動し、血漿または血清が分離される間に上記親水性ポリマーが膨潤する。親水性ポリマーが膨潤することにより、上記フィルタ材料内の流路が閉塞され、濾過が自動的に停止する。従って、所定量の血漿または血清を得た後に、血球がフィルタ材料の下流端までに到達するまでに濾過が自動的に停止する。それによって、血漿または血清への血球の混入を自動的に防止することができるとされている。
【0006】
下記の特許文献3には、血液が流れる流路を有する流路形成部材と、上記流路に配置されており、血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタと、血流分離フィルタの下流側に配置されており、血球成分の混入を防止する血球停止フィルタと、血液分離フィルタの下流に配置されており、血漿または血清に接触されることにより膨潤し、流路を閉塞する水膨潤性ポリマーとを備える血液分離フィルタ装置が開示されている。ここでは、血液分離フィルタにおいて、血液から血漿または血清が分離され、下流側に配置された血球停止フィルタにおいて、血球成分の下流側への移動が停止される。さらに、上記水膨潤性ポリマーが血漿または血清に接触することにより膨潤し流路を閉塞するので、濾過停止後には、流路が閉塞される。従って、濾過後に、血球停止フィルタや血液分離フィルタに捕捉されている赤血球が破壊し、溶血が生じたとしても、赤血球内の成分が水膨潤性ポリマーにより閉塞されている部分よりも下流側に移動しない。よって、血漿または血清への赤血球内の成分の混入を防止することができるとされている。
【特許文献1】特公平6−64054号公報
【特許文献2】特開平11−285607号公報
【特許文献3】特許 第3809457号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の血漿または血清分離方法では、分離後に赤血球がガラス繊維層からなるフィルタ材料に捕捉される。しかしながら、分離後に長時間放置されると、捕捉された赤血球が破壊し、溶血が生じることがあった。すなわち、赤血球内の成分が血漿または血清に混入するおそれがあった。
【0008】
これに対して、特許文献2に記載の血漿または血清分離フィルタ装置では、親水性ポリマーが膨潤することにより、フィルタ材料中の流路が閉塞され、濾過が自動的に停止される。従って、分離後に長時間放置され、溶血が生じたとしても、溶血により生じた赤血球内成分が血漿または血清に混入するおそれがない。
【0009】
しかしながら、フィルタ材料としてのガラス繊維層内において血液が移動する際の移動速度差により、血球と血漿または血清とが分離されている。ところが、検体としての血液のヘマトクリット値や粘度は様々である。従って、ヘマトクリット値や粘度が異なる血液においては、上記移動速度差が異なるので、場合によっては、分離途中にフィルタが閉塞するおそれがあった。分離途中でフィルタ材料の流路が閉塞すると、回収できる血漿または血清の量が大幅に少なくなる。よって、臨床検査等に必要な量の血漿もしくは血清を得ることができなくなる。
【0010】
これに対して、特許文献3に記載の血液分離フィルタ装置では、血液分離フィルタの下流に配置された水膨潤性ポリマーにより流路が閉塞される。そのため、ヘマトクリット値や粘度が異なる様々な血液を用いた場合でも、十分な量の血漿もしくは血清を分離することができる。そして、分離完了後に長時間放置されたとしても、溶血により生じた赤血球内成分の血漿または血清への混入を確実に防止することができる。しかしながら、水膨潤性ポリマーに含まれている低分子量成分が血漿または血清に微量に溶解するおそれがあった。そのため、検査項目によっては、正確な測定値を得ることができないことがあった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、比較的単時間で血液を血球と血漿または血清とに分離することができ、分離後に放置されて溶血が生じたとしても、赤血球内成分の血漿または血清への混入を防止することができるとともに、ヘマトクリット値や粘度が異なる様々な血液を用いた場合においても、十分量の血漿もしくは血清を確実に得ることができ、しかも血漿もしくは血清の汚染が生じ難い血液分離フィルタ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、血液が流れる流路を有する流路形成部材と、前記流路内に配置されており、血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタと、前記流路内において前記血液分離フィルタの下流に配置されており、かつ血球成分の通過を防止する血球停止フィルタと、前記流路内において前記血球停止フィルタの下流に配置されており、厚み0.05〜1.5mm及び平均孔径1.0〜100μmの連続気孔を有するフィルタ材料からなる、溶血により生じた成分の通過を防止する溶血成分通過防止フィルタとを備えることを特徴とする血液分離フィルタ装置が提供される。
【0013】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、前記溶血成分通過防止フィルタ部材の直径Dと、厚みLとの比であるである比L/Dが0.005〜0.3の範囲にある。この場合には、血液分離フィルタ装置の大きさと、赤血球内成分を捕捉する能力とのバランスが良好となり、血漿または血清の回収率が低下し難く、十分な量の血漿または血清をより一層確実に得ることが可能となる。
【0014】
上記溶血成分通過防止フィルタは、様々な材料で構成され得るが、好ましくは、繊維集合体または発泡体からなる。その場合には、溶血により生じた赤血球内成分すなわち溶血成分を繊維集合体または発泡体において確実に捕捉することができる。
【0015】
好ましくは、前記溶血成分通過防止フィルタが熱可塑性樹脂からなる。この場合には、様々形状の溶血成分通過防止フィルタを容易にかつ安価に提供することができる。
【0016】
また、本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、前記流路形成部材を気密封止している栓体がさらに備えられており、内部が減圧されており、それによって真空採血容器を兼ねている。この場合には、真空採血針を用いた真空採血法により、真空採血容器に血液を導く操作から、血液を血球と、血漿または血清とに分離する工程までを圧力差を利用して速やかにかつ安全に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、流路形成部材の流路内に血液分離フィルタが配置されており、それによって血液が血球成分と血漿または血清とに分離され、該血液分離フィルタの下流側に配置された血球停止フィルタにおいて、血球成分の通過が防止れる。従って、血液から、血球成分と血漿または血清とを分離した後、血漿または血清のみを血球停止フィルタの下流側に速やかに導くことができる。
【0018】
しかも、上記血球停止フィルタの下流側に配置されており、厚み0.05〜1.5mm及び平均孔径1.0〜100μmの連続気孔を有するフィルタ材料からなる溶血成分通過防止フィルタが備えられているので、分離操作後に長時間放置された後に、血液分離フィルタや血球停止フィルタにおいて捕捉されていた赤血球が破壊し、溶血が生じたとしても、溶血により生じた血球内成分すなわち溶血成分の通過が確実に防止される。よって、分離された血漿もしくは血清への溶血成分の混入を確実に防止することができる。加えて、特許文献3に記載の血液分離フィルタ装置では、水膨潤性ポリマーを用いていたため、前述した低分子量試料成分の混入のおそれがあったのに対し、本発明では、水膨潤性ポリマーを用いることなく上記溶血成分通過防止フィルタにより血球内の成分の通過を防止することができる。よって、低分子量試料成分の混入による血漿や血清の汚染も生じ難い。しかも、十分な量の血漿もしくは血清を確実に得ることができる。
【0019】
従って、ヘマトクリット値や粘度が異なる様々な血液や、赤血球が凝集し易い血液から、血漿または血清を分離する際にも、血球や赤血球内成分の混入のない血漿または血清を確実に得ることができる。よって、血漿または血清の臨床検査に際して、信頼性に優れた、検査結果を得ることができる。
【0020】
また、上記血液分離フィルタ装置に血液を導き、内部で上記分離装置を完了することができるので、採血と血液分離を同一の血液分離フィルタ装置内で行うことができる。よって、血液試料の移しかえと言った煩雑な作業を必要としないので、血液や血液成分の付着による感染のおそれも極めて小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつその発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る血液分離フィルタ装置を示す正面断面図であり、図2〜図4は、本実施形態の血液分離フィルタ装置の製造方法を説明するための各正面断面図である。
【0023】
図1に示すように、血液分離フィルタ装置1は、流路形成部材としての有底の管状容器2を有する。管状容器2は、上方に開口2aを有する。開口2aに、栓体3が圧入されている。栓体3は、上方から順に、大径部3a、大径部よりも径の小さな中径部3bと、中径部3bよりも径の小さな小径部3cとを有する。管状容器2に中径部3bが圧入され開口2aが気密封止されている。
【0024】
また、管状容器2内に、管状容器2の内径よりも小さな外径を有する筒状部材4が挿入されている。筒状部材4は、管状容器2と共に、流路形成部材の一部を構成しているものである。筒状部材4の上方開口4aに栓体3の小径部3cが圧入されて、筒状部材4の上端の開口4aにおいて気密封止されている。
【0025】
他方、管状容器2内は、減圧されており、上記管状容器2及び筒状部材4からなる流路形成部材と、栓体3とにより真空採血容器が構成されている。
【0026】
上記筒状部材4は、複数の貫通孔4bを有する底板4cを有する。
【0027】
筒状部材4内には、血液分離フィルタ5が収納されている。血液分離フィルタ5は、筒状部材4の横断面の全領域に至るように充填されている。また、血液分離フィルタ5は、底板4c上に配置されている。
【0028】
上記血液分離フィルタ5は、管状容器2と筒状部材4とで構成される流路形成部材において血流が流れる流路A内に配置されている。そして、血液分離フィルタ5は、血流を血球成分と血漿または血清とに分離するフィルタ材料からなる。この血液分離フィルタ5を構成するフィルタ材料については後ほど詳述する。
【0029】
他方、底板4cの下面には、血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7が積層されている。血球停止フィルタ6は、流路A内において、血液分離フィルタ5の下流に配置されており、かつ血球成分の通過を防止する。このような血球停止フィルタ6を構成するフィルタ材料についても後ほど詳述する。
【0030】
本実施形態の特徴は、上記流路A内において血球停止フィルタ6の下流に溶血成分通過防止フィルタ7が配置されていることにある。この溶血成分通過防止フィルタ7は、厚み0.05〜1.5mm及び平均孔径1.0〜100μmの連続気孔を有するフィルタ材料からなり、溶血より生じた成分の通過を防止するように作用する。
【0031】
なお、本明細書において、溶血成分とは、血球の破壊すなわち溶血により生じた成分を言うものとする。このような成分のうち、検査値に影響する成分としては、例えば、乳酸脱水素酵素(LDH)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、カリウム、ヘモグロビンなどが挙げられる。
【0032】
上記溶血成分通過防止フィルタ7は、上記のような厚み範囲のシート状の形状を有するが、この溶血成分通過防止フィルタ部材7の直径Dと厚みLとの比である比L/Dは、好ましくは、0.005〜0.3の範囲内とされる。
【0033】
上記溶血成分通過防止フィルタ7は、上記のような連続気孔を有する適宜の材料からなるが、好ましくは、繊維集合体または発泡体により構成される。上記溶血成分通過防止フィルタ7の厚みが0.05mmより薄い場合には、溶血により生じた赤血球内の成分を十分に捕捉できず、分離された血漿または血清に溶血成分が混入するおそれがある。1.5mmよりも厚い場合には、分離の際に血漿または血清が捕捉され、得られる血漿または血清の量が少なくなる。また、平均孔径が1.0μmより小さい場合には、血漿または血清中の蛋白質や脂質などの成分により目詰まりを生じることがあり、100μmより大きいと、溶血成分を十分に捕捉できず、分離された血漿または血清に溶血成分が混入するおそれがある。
【0034】
上記比L/Dが0.005〜0.3の場合には、血液分離フィルタ装置1全体の大きさと、溶血成分を捕捉する能力との能力とのバランスが高められて、分離される血漿または血清の回収率が低下し難い。
【0035】
上記溶血成分通過防止フィルタ7を構成する繊維集合体または発泡体の材質についても特に限定されない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、アクリル系樹脂などの合成高分子、あるいはレーヨンまたはガラスなどを挙げることができる。
【0036】
上記繊維集合体の形態についても特に限定されず、上記のような材料からなる繊維を不織布状に集積したもの、あるいは上記材料からなる繊維を織ることにより形成された布状部材などを挙げることができる。また、上記発泡体についても、連続気孔が形成された連続気泡発泡体などの形成発泡体を挙げることができる。
【0037】
図1に示すように、本実施形態の血液分離フィルタ1では、上記筒状部材4の底板4cの下面に上記血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7が積層されているが、これらの固定は、図2〜図4に示すようにして行われる。図2に示すように、上記筒状部材4の下端には、底板4cの下面外周縁から下方に突出するように環状側壁4dが設けられている。この環状側壁4d内において、上記血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7が積層される。図2に筒状部材4の下方に分離して示されているようにフィルタ固定部材8が別途用意される。このフィルタ固定部材8は、平板状のフィルタ固定部8aと、フィルタ固定部8aの中央から下方に突出した下方突出部8bとを有する。下方突出部8bには、中空流路8cが形成されている。中空流路8cは、濾過により分離された血漿もしくは血清が流下する流路である。上記中空流路8cは、フィルタ固定部8aに開口している。フィルタ固定部8aの外周縁近傍には、上方に向かって突出した環状突出部8dが形成されている。環状突出部8dの外径は、前記筒状部材4の環状側壁4dの内径に嵌合され、かつ固定される大きさとされている。
【0038】
フィルタ固定部材8の環状突出部8dが筒状部材4の環状側壁4d内に圧入され、嵌合・固定されるが、その際に、環状突出部8dにより、上記溶血成分通過防止フィルタ7が圧縮され、溶血成分通過防止フィルタ7の下面がフィルタ固定部8aに密着される。
【0039】
なお、さらに接着剤を用いて、フィルタ固定部8を筒状部材4に接着固定してもよい。
【0040】
このようにして、図3に示すように、血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7が筒状部材4に底板4cの下面に積層され、かつ固定される。
【0041】
しかる後、図4に示すように、筒状部材4内に、血球分離フィルタ5を充填する。次に、図1に示した管状容器2内に、上記筒状部材4を挿入し、減圧下において、栓体3において気密封止する。上記のようにして、上記血液分離フィルタ装置1が得られる。
【0042】
なお、上記実施形態の血液分離フィルタ装置1では、管状容器2と、筒状部材4とにより流路形成部材が構成されていたが、本発明は、このような構成に限定されるものではない。
【0043】
すなわち、血液分離フィルタ5と血液分離フィルタ5の下流側に血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7が配置され得る限り、流路形成部材の構造は限定されるものではない。
【0044】
例えば、管状容器2のような有底の管状容器内の所定の高さ位置に血液分離フィルタ5を充填し、その下流側に血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7を直接配置した構成であってもよい。また、管状容器以外の形状の流路形成部材を用いてもよい。図5に、本発明の他の実施形態として流路形成部材等の構造が異なる血液分離フィルタ装置を示す。
【0045】
図5に示す血液分離フィルタ装置11では、筒状の容器により流路形成部材12が形成されている。この流路形成部材12は、第1の端部及び第2の端部の双方に開口12a,12bを有する。第1の端部の開口12aが、第1の栓体13により閉栓されており、第1の端部の開口12bが第2の栓体14により閉栓されている。栓体14には、合成樹脂等の保形性材料からなるカバーキャップ15が取り付けられている。流路形成部材12の中間高さ位置に、血液分離フィルタ5、血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7がこの順序で第1の栓体13側から第2の栓体14側へ向けて積層されている。ここでは、第1の栓体13が血液を導くための中空針16により貫通され、血液17が血液分離フィルタ5の上流側に導かれる。しかる後、図6(b)に示すように、前述した図1に示した実施形態の血液分離フィルタの場合と同様に、血液分離フィルタ5による濾過が行われ、赤血球等の血球成分が血球停止フィルタ6で通過を妨げられる。そして、血清または血漿が溶血成分通過防止フィルタ7の下方の血清または血漿18が採取される。なお、分離後長時間放置され、血球停止フィルタ6で捕捉された血球が破壊し、溶血が生じたとしても溶血成分は、溶血成分通過防止フィルタ7を通過しないため、得られた血清または血漿18の汚染は生じ難い。
【0046】
血清または血漿18を取り出すに際しては、図6(c)に示すように、上下逆転し、第2の栓体14を除去し、内部の血清または血漿18を採取すればよい。
【0047】
さらに、上記流路形成部材を構成する材料は特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の熱可塑性樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−アクリレート樹脂等の熱硬化性樹脂、また、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、エチルキチン等の変性天然樹脂、さらにソーダ石灰ガラス、リンケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のケイ酸塩ガラス、石英ガラスなどのガラス及びこれらを主成分とするもの、あるいはこれらを組み合わせたもの等、従来公知の採血管用材料が挙げられる。
【0048】
また、栓体3を構成する材料についても、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマーなどの適宜の弾性体を用いることができる、特に限定されるものではない。さらに、これらの弾性体材料にアルミニウム箔やアルミ蒸着シートなどが積層あるいはラミネートされていてもよい。また、栓体3として、空気非透過性の栓体を用いることにより、上記実施形態のように、内部を減圧して、真空採血容器として用いることができる。もっとも、上記実施形態では、内部は減圧されていたが、本発明に係る血液分離フィルタ装置では、内部は減圧されておらずともよい。
【0049】
上記血液分離フィルタ5を構成するフィルタ材料については、血球成分よりも血漿もしくは血清を速く移動させ得る孔径と、実用可能な濾過時間を確保し得る空隙すなわち空隙率と、濾過の過程で血漿もしくは血清の移動を物理的または化学的に阻害しない形状であれば特に限定されるものではない。
【0050】
このような要求を満たす材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ウレタン、アクリル、レーヨン、ガラス等が挙げられる。
【0051】
血液分離フィルタ5としては、例えば、上記素材を成形した繊維を不織布状に集積させたもの、上記素材を用いて連続孔が形成された連続気泡発泡体などの成形体、上記素材を成形した略球形の微粒子を細密充填構造となるように集積したもの、あるいは、この集積したものを焼結することにより一体成形したもの、上記素材を成形したフィルタに貫通孔を形成させたもの、あるいはフィルムの片面ないし両面にコロナ放電やプレス加工により親水加工したシートを多数枚積層したもの等が挙げられる。
【0052】
血液分離フィルタ5の平均孔径としては、移動速度差により血球成分と血漿若しくは血清との分離を可能とし、血球成分への阻害すなわち赤血球の破壊を防止するためには、2〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは3〜8μmの範囲である。平均孔径が2μmよりも小さいと、血液分離フィルタ5に血球が目詰まりして濾過が阻害されたり、濾過時に血球成分への抵抗が大きくなり赤血球が破壊され易くなる。平均孔径が10μmを超えると、血球成分と、血漿若しくは血清との移動速度差が小さくなり、血球成分が短時間で流路閉塞部材に至り易くなる。平均孔径は、バブルポイント試験法(JIS K 3832)や電子顕微鏡による拡大画像を用いた実測法などにより計測される。
【0053】
血液分離フィルタ5の空隙率としては、実用可能な濾過時間を確保し得るためには、20〜97%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜95%の範囲である。空隙率が20%よりも低いと、濾過に長時間を要し、赤血球の破壊が生じ易くなる。空隙率が97%よりも高いと、血液分離フィルタ5の保形性が低下し、濾過時の圧力で血液分離フィルタが変形して孔径が変化することがあり、血液の分離が安定に行われないことがある。
【0054】
上記血球停止フィルタ6は赤血球の通過を防止できる性質を有していればよく、その材質は特に限定されない。このような性質を有する材質としては、例えば、ポリビニリデンジフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラスファイバー、ボロシリケート、塩化ビニルまたは銀等を挙げることができる。
【0055】
血球停止フィルタ6が多孔質物質を用いて構成されていると、血漿または血清の通過が可能である。血球停止フィルタ6を構成する多孔質物質としては、赤血球の通過を防止できる範囲の孔径を有するものであれば、特に限定されるものではない。赤血球の通過を防止するためには、孔径は2μm以下であることが好ましい。孔径が小さいと、血液中のタンパク成分などにより目詰まりを起こす可能性があるため、孔径は0.05μm以上であることが好ましい。赤血球の通過を効果的に防止するためには、孔径は0.1〜1.5μmの範囲にあることがより好ましい。
【0056】
濾過の流速を高めるために、血球停止フィルタ6の表面は親水処理されていてもよい。親水処理の方法としては、プラズマ処理、親水性高分子によるコーティング等が挙げられるが、これらの方法に限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0057】
次に、具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。
【0058】
(実施例1)
図1に示した血液分離フィルタ装置1を以下の要領で作成した。
【0059】
図2(a)に示したように、筒状部材4の底板4cの下面に、直径8mmに打ち抜かれた血球停止フィルタ6(ミリポア社製、商品名:アイソポアHTTP、複数の貫通孔の孔径0.4μm)を配置し、その下面に直径8mmに打ち抜かれた溶血成分通過防止フィルタ7を配置し、フィルタ固定部材8を嵌合させることにより、血球停止フィルタ6及び溶血成分通過防止フィルタ7を固定した。
【0060】
なお、溶血成分通過防止フィルタ7としては、平均孔径が6.25μm、厚みが0.274mm、比L/Dが0.034のポリエチレンテレフタレートからなる繊維集合体を用いた。
【0061】
次に、血液分離フィルタ5のフィルタ材料として、平均孔径が1.9μm、目付が39g/m、大きさが縦9mm×横240mm×厚み0.39mmである長尺状シートを6枚用意した。この長尺状シートを2枚重ね合せ渦巻き状に巻回し、直径12mmの略円柱状の形状を有し、内周側のシートと、外周側のシートとが積層されている3個の血液分離フィルタ部材を用意した。しかる後、この3個の血液分離フィルタ部材をシート面が血流が流れる方向と略平行となるように筒状部材4内に流路の方向に直列に配置されるように挿入し、圧縮充填した。次に、筒状部材4を管状容器2内に挿入し、しかる後、管状容器2の開口を減圧下で栓体3により密栓し、内部の圧力が40kPaとされている真空検体採血容器としての血液分離フィルタ装置1を得た。
【0062】
(実施例2)
溶血成分通過防止フィルタとして、平均孔径3.19μm、厚み1.29mm、L/D=0.161のポリエチレンテレフタレート製の繊維集合体を使用したこと以外は実施例1と同様にして血液分離フィルタ装置を作成した。
【0063】
(実施例3)
溶血成分通過防止フィルタとして、平均孔径26.61μm、厚み0.715mm、L/D=0.089のポリエチレン製の連続気泡発泡体を使用したこと以外は実施例1と同様にして血液分離フィルタ装置を作成した。
【0064】
(実施例4)
溶血成分通過防止フィルタとして、平均孔径94.01μm、厚み0.200mm、L/D=0.025のポリエチレン製の繊維集合体を使用したこと以外は実施例1と同様にして血液分離フィルタ装置を作成した。
【0065】
(実施例5)
溶血成分通過防止フィルタとして、平均孔径12.98μm、厚み0.050mm、L/D=0.0063のポリエチレンテレフタレート製の繊維集合体を使用したこと以外は実施例1と同様にして血液分離フィルタ装置を作成した。
【0066】
(実施例6)
図5に示した血液分離フィルタ装置11を作成した。血球停止フィルタ6を直径10mm、溶血成分通過防止フィルタ7としては、平均孔径が6.25μm、厚みが0.274mm、比L/Dが0.027のポリエチレンテレフタレートからなる繊維集合体を用いたこと以外の他の材料については、実施例1と同様にして、血液分離フィルタ装置11を作成した。
【0067】
(比較例1)
溶血成分通過防止フィルタを設置しなかったこと以外は実施例1と同様にして血液分離フィルタ装置を作成した。
【0068】
(比較例2)
溶血成分通過防止フィルタとして、平均孔径213.85μm、厚み0.163mm、L/D=0.0204のポリエチレン製の繊維集合体を使用したこと以外は実施例1と同様にして血液分離フィルタ装置を作成した。
【0069】
(比較例3)
溶血成分通過防止フィルタとして、平均孔径19.25μm、厚み0.02mm、L/D=0.0025のポリエチレンテレフタレート製の繊維集合体を使用したこと以外は実施例1と同様してに血液分離フィルタ装置を作成した。
【0070】
(評価)
実施例1〜5及び比較例1〜3の血液分離フィルタ装置について、それぞれ、ボランティア1名から採血したヘマトクリット値が46.0%である血液約2mLをそれぞれ、注入し、血液から血清を分離した。検体からの血清が分離された後、下記の表1に示す時間だけ放置し、得られた血清中の溶血成分の混入を目視により観察した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、実施例1〜5の血液分離フィルタ装置では、いずれも溶血は生じず、溶血により赤血球から漏洩してきた溶血成分が血清に混入することはなかった。これに対して、比較例1〜3では、分離完了後30分放置した以降には、分離された血清中に、溶血成分の混入が認められた。
【0073】
なお、比較例1〜3において、検体量380〜390μLと大きくなっているのは、溶血成分が混入したため、全体の検体量が多くなっているものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係る血液分離フィルタ装置の縦断面図。
【図2】図1に示した実施形態の血液分離フィルタ装置の製造工程を示す正面断面図。
【図3】図1に示した実施形態の血液分離フィルタ装置の製造工程を示す正面断面図。
【図4】図1に示した実施形態の血液分離フィルタ装置の製造工程を示す正面断面図。
【図5】本発明の他の実施形態に係る血液分離フィルタ装置の縦断面図。
【図6】(a)〜(c)は、図5に示した実施形態の血液分離フィルタ装置を用いた場合の血液から血清または血漿を得る工程を示す各縦断面図。
【符号の説明】
【0075】
1…血液分離フィルタ装置
2…管状容器
3…栓体
3a…大径部
3b…中径部
3c…小径部
4…筒状部材
4a…開口
4b…貫通孔
4c…底板
4d…環状側壁
5…血液分離フィルタ
6…血球停止フィルタ
7…溶血成分通過防止フィルタ
8…フィルタ固定部材
8a…フィルタ固定部
8b…下方突出部
8c…中空流路
8d…環状突出部
11…血液分離フィルタ装置
12…流路形成部材
12a,12b…開口
13…第1の栓体
14…第2の栓体
15…カバーキャップ
16…中空針
17…血液
18…血清または血漿
A…流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液が流れる流路を有する流路形成部材と、
前記流路内に配置されており、血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタと、
前記流路内において前記血液分離フィルタの下流に配置されており、かつ血球成分の通過を防止する血球停止フィルタと、
前記流路内において前記血球停止フィルタの下流に配置されており、厚み0.05〜1.5mm及び平均孔径1.0〜100μmの連続気孔を有するフィルタ材料からなる、溶血により生じた成分の通過を防止する溶血成分通過防止フィルタとを備えることを特徴とする血液分離フィルタ装置。
【請求項2】
前記溶血成分通過防止フィルタの直径Dと、厚みLとの比であるである比L/Dが0.005〜0.3の範囲にある、請求項1に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項3】
前記溶血成分通過防止フィルタが、繊維集合体または発泡体からなる、請求項1または2に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項4】
前記溶血成分通過防止フィルタが熱可塑性樹脂からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項5】
前記流路形成部材を気密封止している栓体をさらに備え、内部が減圧されており、それによって真空採血容器を兼ねている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液分離フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−256551(P2008−256551A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99488(P2007−99488)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】