説明

血液分離器具

【課題】血液分離器具の内部に収容される血液および遠心分離される血液成分の温度上昇を、長期間抑制することができる血液分離器具を提供する。
【解決手段】血液を収容して複数の血液成分に分離する空間部を有する回転ボウルと、回転ボウルの中心部に配置され、回転ボウルを支持する支持部材30とを備え、支持部材30は、互いに接触する接触面31A、32Aを有する上部支持部材31と下部支持部材32とを有し、回転ボウルが支持部材30を回転軸として回転することによって、下部支持部材32が上部支持部材31に液密に接触しながら回転する血液分離器具であって、上部支持部材31および下部支持部材32の少なくとも一方の接触面31A、32Aに、水素フリーダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層33を有することを特徴とする血液分離器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分離器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
採血を行う場合、血液の有効利用、供血者の負担軽減、製剤業務の効率化などの理由から、採血した血液を遠心分離などにより各血液成分に分離し、輸血に必要な成分だけを採取し、その他の成分は供血者に返還する成分採血や血液成分毎に別々の容器に採取する自動分離採血が行われている。
【0003】
このような成分採血や自動分離採血においては、供血者から採血した血液を血液分離器具に導入し、血液分離器具を回転することによって血漿、バフィーコートおよび赤血球のような複数の血液成分に分離することが行われる。
【0004】
従来、このような血液分離器具として、特許文献1には以下のような構成を備えた血液分離器具が提案されている。すなわち、血液分離器具は、血液を収納して複数の血液成分に分離する空間部を有する回転ボウルと、回転ボウルの中心部に配置され、回転ボウルを支持する支持部材を備え、支持部材は、互いに接触する接触面を有する上部支持部材と下部支持部材とを有し、前記回転ボウルが前記支持部材を回転軸として回転することによって、下部支持部材が上部支持部材に接触しながら回転するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−535575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した血液分離器具では、回転ボウルの空間部に導入された血液を複数の血液成分に遠心分離する際、回転ボウルによって、支持部材の下部支持部材は、上部支持部材に約3kgの高荷重で押さえつけられながら約5000回/分という高回転で回転する。そして、上部支持部材および下部支持部材は共に、通常、セラミックスで構成されているため、前記した高荷重、高回転の使用環境下では、上部支持部材と下部支持部材との接触面で大きな擦過現象が起き、その摩擦熱によって血液および血液成分が暖められ、血液および血液成分の温度が短時間で上昇するという問題がある。なお、血液および血液成分の温度が上昇すると、例えば、赤血球成分では赤血球の酸素運搬機能が低下する危険性があり、血漿成分では血漿中のアルブミン、グロブリン等の血漿タンパク質に変性が生じる危険性がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は、血液分離器具の内部に収容される血液および遠心分離される血液成分の温度上昇を長期間抑制することができる血液分離器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係る血液分離器具は、血液を収容して複数の血液成分に分離する空間部を有する回転ボウルと、前記回転ボウルの中心部に配置され、前記回転ボウルを支持する支持部材とを備え、前記支持部材は、互いに接触する接触面を有する上部支持部材と下部支持部材とを有し、前記回転ボウルが前記支持部材を回転軸として回転することによって、前記下部支持部材が前記上部支持部材に液密に接触しながら回転する血液分離器具であって、前記上部支持部材および下部支持部材の少なくとも一方の接触面に、水素フリーダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層を有することを特徴とする。
【0009】
前記構成によれば、上部支持部材および下部支持部材の少なくとも一方の接触面に、水素フリーダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層を有することによって、回転ボウルの空間部に収容された血液を複数の血液成分に分離する際に、上部支持部材と下部支持部材との接触面での擦過現象による摩擦熱の発生を抑制できる。また、被覆層を構成するダイヤモンドライクカーボンが水素フリー形態であることによって、被覆層の剥離を抑制できる。
【0010】
本発明に係る血液分離器具は、前記被覆層が、その硬度が7000HV以上、かつ、その表面粗さが最大高さ粗さRyで3.0μm以下であることを特徴とする。
【0011】
前記構成によれば、被覆層が所定の硬度で、かつ、所定の最大高さ粗さRyであることによって、上部支持部材と下部支持部材との接触面での摩擦熱の発生をさらに抑制できる。
【0012】
本発明に係る血液分離器具は、前記被覆層を、グラファイトパルスアークスパッタリング法によって形成することを特徴とする。
【0013】
前記構成によれば、被覆層をグラファイトパルスアークスパッタリング法によって形成することによって、ダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層の形成が容易となると共に、ダイヤモンドライクカーボンが水素フリー形態となる。また、被覆層の硬さおよび表面粗さを所定範囲に制御し易くなる。
【0014】
本発明に係る血液分離器具は、前記上部支持部材および下部支持部材の少なくとも一方の接触面に、同心円状に形成された複数の溝部を有することを特徴とする。
【0015】
前記構成によれば、接触面に同心円状に形成された複数の溝部を有することによって、上部支持部材と下部支持部材との接触面での摩擦熱の発生をさらに抑制できる。また、回転ボウルの空間部への血液等の流入、および、空間部からの血液成分の流出が容易となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る血液分離器具によれば、被覆層によって摩擦熱の発生を抑制でき、被覆層の剥離も抑制できるため、血液分離器具の内部に収容される血液および遠心分離される血液成分の温度上昇を長期間抑制することができる。また、本発明に係る血液分離器具によれば、回転ボウルへの血液等の流入および回転ボウルからの血液成分の流出が容易であるため、血液の遠心分離作業の効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る血液分離器具の斜視図である。
【図2】(a)は本発明に係る血液分離器具の断面図、(b)は空間部における血液の分離状態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る血液分離器具の背面図である。
【図4】(a)は支持部材の斜視図、(b)は上部支持部材の接触面を示す平面図、(c)は下部支持部材の接触面を示す平面図、(d)は支持部材の断面図である。
【図5】被覆層を形成する装置の構成を示す模式図である。
【図6】遠心分離作業時の支持部材の温度推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る血液分離器具の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図4に示すように、血液分離器具1は、血液を収容して複数の血液成分に分離する空間部3を有する回転ボウル2と、回転ボウル2の中心部に配置され、回転ボウル2を回転自在に支持する支持部材30とを備え、支持部材30は上部支持部材31と下部支持部材32とを有し、回転ボウル2が支持部材30を回転軸Yとして回転することによって、下部支持部材32が上部支持部材31に液密に接触しながら回転する。
【0019】
(回転ボウル)
図2(a)、(b)に示すように、回転ボウル2は、外側ディスク10と、内側ディスク20とを備える。外側ディスク10は、外側底面11と、外側底面11の周端から立設する外側壁面12とを有する。内側ディスク20は、外側ディスク10の内側に配置され、内側底面21と、外側ディスク10の外側壁面12との間に空間部3が形成されるように内側底面21の周端から立設する内側壁面22とを有する。そして、外側ディスク10の外側壁面12と内側ディスク20の内側壁面22とは、各々の周端側で嵌合している。
【0020】
回転ボウル2は、外側ディスク10の外側壁面12、および、内側ディスク20の内側壁面22が、回転ボウル2の回転軸Yに対して所定角度で傾斜していること、すなわち、外側ディスク10および内側ディスク20の外径が底面から頂面に向って増大していることが好ましい。そして、回転ボウル2は、遠心カップ(図示しない)の内部に装着されて、遠心カップと共に、遠心分離機(図示しない)の駆動によって回転する。
【0021】
空間部3においては、回転ボウル2が回転することによって、空間部3に流入された全血が濃厚赤血球(CRC)、バフィーコート、乏血小板血漿(PPP)に分離される。そして、CRCは外側ディスク10(外側壁面12)側、PPPは内側ディスク20(内側壁面22)側に分離され、CRCとPPPの間にバフィーコートが分離される。そして、CRCは赤血球出口ポート23から流出され、PPPは血漿出口ポート29から流出される。なお、本発明において、全血は、血液分離器具1と接続される血液バッグシステムの採血ライン(図示せず)で採血されたもので、その際、抗凝固液が添加される。
【0022】
図3に示すように、外側ディスク10の外側底面11には、全血が搬送される第1通路13と、空間部3で分離されたCRCに保存液が添加されたCRCが搬送される第2通路14と、保存液が搬送される第3通路15と、空間部3で分離されたPPPを収集するために漏斗形状に形成された血漿棚16と、血漿棚16の終端と接続してPPPを搬送する第4通路17とが形成されている。
【0023】
図1、図2(a)、(b)に示すように、内側ディスク20の内側壁面22は、空間部3で分離されたCRCが流出される赤血球出口ポート23と、空間部3に全血を流入する全血入口ポート24とを有し、内側底面21にはPPPを流出する血漿出口ポート29を有する。そして、赤血球出口ポート23には赤血球出口チューブ25が接続され、赤血球出口チューブ25はコネクター26を介して保存液チューブ27と連結して内側底面21に接続される。また、全血入口ポート24には全血入口チューブ28が接続されている。
【0024】
(支持部材)
図2(a)、図4(a)〜(d)に示すように、支持部材30は、互いに接触する接触面31A、32Aを有する上部支持部材31と下部支持部材32とを有する。そして、上部支持部材31および下部支持部材32は、セラミックス好ましくはアルミナ系セラミックスからなり、外径:15〜50mm、高さ:2〜20mmの円筒状の基材31B、32Bからなる。また、支持部材30は、内側ディスク20の内側底面21と接続され、内部に上部支持部材31および下部支持部材32を収納するハウジング34をさらに有することが好ましい。
【0025】
支持部材30において、下部支持部材32は、上部支持部材31に液密に接触している。具体的には、上部支持部材31をスプリング等の付勢手段(図示せず)を用いて所定圧力(例えば、約3kg)で押圧することによって、下部支持部材32が上部支持部材31に液密に接触する。そして、前記した回転ボウル2が支持部材30を回転軸Yとして回転することによって、下部支持部材32が上部支持部材31と液密に接触しながら回転する。したがって、上部支持部材31は、血液分離の際に回転せずに下部支持部材32に液密に固定されているため、固定シール部材として機能する。また、下部支持部材32は、血液分離の際に上部支持部材31と液密に接触しながら回転するため、回転シール部材として機能する。
【0026】
支持部材30には、回転ボウル2に全血と保存液を流入、および、回転ボウル2からCRC(保存液が添加)とPPPを流出させるために、上部支持部材31および下部支持部材32を貫通する貫通孔(流路)が形成される。具体的には、上部支持部材31および下部支持部材32には、全血を流入する第1流路35、CRC(保存液が添加)を流出する第2流路36、保存液を流入する第3流路37、PPPを流出する第4流路38が形成される。そして、第1流路35は血液バッグシステムの全血ライン41と、第2流路36は血液バッグシステムのCRCライン42と、第3流路37は血液バッグシステムの保存液ライン43と、第4流路38は血液バッグシステムのPPPライン44と接続される。
【0027】
支持部材30は、上部支持部材31および下部支持部材32の接触面31A、32Aの少なくとも一方に、水素フリーダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層33を有する。なお、図4では、下部支持部材32の接触面32Aに被覆層33を有する。また、支持部材30は、基材32Bの上に被覆層33を形成する前に、基材32Bの上に下地層(図示せず)を形成し、下地層の上に被覆層33を形成したものであってもよい。そして、下地層を構成する材料としては、Ti、W、Cr、Si等のIII〜V族に属する金属であって、コスト面からTiが好ましい。
【0028】
支持部材30は、被覆層33がダイヤモンドライクカーボンからなることによって、上部支持部材31と下部支持部材32との接触面での擦過現象による摩擦熱の発生を抑制でき、血液分離器具1の空間部3に収容される血液および分離される血液成分の温度上昇を長時間抑制することができる。また、被覆層33を構成するダイヤモンドライクカーボンが水素フリー形態であることによって、被覆層33の剥離を長時間抑制できるため、血液および血液成分の温度上昇をさらに長時間抑制できる。そして、ダイヤモンドライクカーボンが水素あり形態である場合には、下部支持部材32の回転後、短時間で被覆層33の剥離が発生する。なお、下地層が形成されている場合には、被覆層33の剥離がさらに抑制されるため、温度上昇をより一層抑制できる。
【0029】
被覆層33は、その厚さが、0.5〜1.0μmであることが好ましい。厚さが0.5μm未満であると、前記した温度上昇を抑制する効果が小さくなり易い。厚さが1.0μmを超えると、被覆層33に割れ等が発生しやすく、温度上昇を抑制し難くなると共に、製造コストも高くなり易い。また、被覆層33は、その硬度が7000HV以上、好ましくは7000〜9000HV、かつ、その表面粗さが最大高さ粗さRyで3.0μm以下、好ましくは0.1〜3.0μmであることが好ましい。硬度が7000HV未満または最大高さ粗さRyが3.0μmを超えると、前記した温度上昇を抑制する効果が小さくなり易い。
【0030】
被覆層33は、PVD(物理的蒸着法)の1つであるグラファイトパルスアークスパッタリング法によって形成することが好ましい。グラファイトパルスアークスパッタリング法を用いることによって、被覆層33の形成が容易となると共に、ダイヤモンドライクカーボンが水素フリー形態となる。また、被覆層33の硬度および表面粗さ(最大高さ粗さRy)を前記範囲に制御し易くなる。
【0031】
グラファイトパルスアークスパッタリング法では、図5に示すような装置100を用いることができる。装置100は、真空室101、炭素パルスアーク源(複数の場合もあり)102、ガスイオン源(複数の場合もあり)103、金属アーク源(複数の場合もあり)104、ガス供給システム105、基材ホルダ(複数の場合もあり)106ならびに圧力制御部、油拡散ポンプおよびメカニカルポンプ(図示されない)を含むポンプシステム107を備えている。ガスイオン源103、炭素パルスアーク源102および金属アーク源104には、それぞれ、ガスイオンビーム、炭素イオンビーム、および金属イオンビームを制御する磁気偏心コイル(図示されない)を供給する。
【0032】
装置100の作動中は、約1〜約30ヘルツに規制されたパルス周波数でグラファイトターゲットの電気パルスアークスパッタリングを行い、炭素パルスアーク源102によって炭素プラズマを製造し、基材ホルダ106上の基材(上部支持部材31および下部支持部材32の基材31B、32Bの少なくとも一方)に蒸着して、基材上に硬質のダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層33を形成する。
【0033】
ガスイオン源103のガスイオンビームを、基材の表面の事前洗浄および/またはエッチング、および/または、被覆層33の中間および/または最終のコーティングのエッチングに採用してもよい。その際、好ましくは、約1keV〜約6keVのガスイオンエネルギーを採用する。そして、好適なガスとしては、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトンおよびこれらの混合物等を用いる。また、被覆層33の硬度を調製するために、金属アーク源104を使用してもよい。さらに、前記した装置100(金属アーク源104)を用いて、下地層を形成してもよい。
【0034】
被覆層33の特性、つまり硬度、表面粗さは、基材温度によって制御し、基材温度は温度コントロールユニット(図示されない)によって約+20℃〜約+300℃の範囲に維持される。また、必要に応じて、約+100℃〜約+400℃の範囲に維持してもよい。さらに、被覆層33の表面粗さは、ガスイオンエネルギーによって制御してもよい。
【0035】
支持部材30は、上部支持部材31および下部支持部材32の接触面31A、32Aの少なくとも一方に、同心円状に形成された複数の溝部39を有してもよい。
【0036】
このような溝部39を有することによって、上部支持部材31と下部支持部材32との接触面31A、32Aでの摩擦熱の発生をさらに抑制できる。また、回転ボウル2の空間部3への血液の流入、および、空間部3からの血液成分の流出が容易となる。したがって、溝部39は、溝部39を流れる血液および血液成分、具体的には全血、CRC、PPPおよび保存液の総量が70ml/min以上となるように形成することが好ましい。
【0037】
次に、血液分離の際の血液および血液成分の流れについて、図1〜図4を参照して説明する。
まず、血液バッグシステムの採血ライン(図示せず)によって採血された全血(抗凝固剤添加)は、全血ライン41から支持部材30に形成された第1流路35を介して血液分離器具1の内部に流入される。流入された全血は、外側ディスク10の第1通路13を通って、内側ディスク20の全血入口チューブ28に流入し、全血入口ポート24から空間部3に流入する。空間部3に流入した全血は、回転ボウル2の回転によって、CRC、バフィコートおよびPPPに分離される。
【0038】
分離されたCRCは、内側ディスク20の赤血球出口ポート23から赤血球出口チューブ25に流出され、コネクター26にて保存液が添加されて、外側ディスク10の第2通路14に流出される。また、保存液は、血液バッグシステムから保存液ライン43から支持部材30の第3流路37に流入され、外側ディスク10の第3通路15を通って、内側ディスク20の保存液チューブ27に流出され、コネクター26にて前記赤血球出口チューブ25と連通して、CRCに保存液が添加される。そして、第2通路14に流出されたCRC(保存液添加)は、下部支持部材32および上部支持部材31の第2流路36から流出され、CRCライン42を介して血液バッグシステムに流出される。
【0039】
分離されたPPPは、外側ディスク10の血漿棚16によって収集され、第4通路17を通って、血漿出口ポート29から流出される。流出された血漿は、下部支持部材32および上部支持部材31の第4流路38から流出され、PPPライン44を介して血液バッグシステムに流出される。
【実施例】
【0040】
次に、本発明に実施例について説明する。
本発明に係る血液分離器具を用いて、血液を分離した際の血液および血液成分の温度推移について評価した。
評価に際しては、血液分離器具の支持部材のみを使用した。なお、以下では、支持部材における上部支持部材を固定シール部材、下部支持部材を回転シール部材と称す。
【0041】
まず、表1に示すような固定シール部材および回転シール部材を作製し、両者を接触させて(組み合わせて)、外径:30mm、高さ:10mmの円筒状の支持部材A〜Fとした。なお、固定シール部材は溝部あり、回転シール部材は溝部なしとした。そして、溝部は、溝部に流れる血液および血液成分の総量が70ml/minになるように形成した。
【0042】
ここで、被膜層の硬度(HV硬度)は、参考文献(J.J.Pouch,S.A.Alterovitz(Eds.),Properties and Characterization of Amorphous Carbon Films,Mater.Sci. Forum 52−53(1990))に基づくマイクロビッカース荷重低減法で測定した。また、被覆層の表面粗さ(最大高さ粗さRy)は、レーザ顕微鏡(キーエンス社製VK−8510)を使用して、測定スパン:149.00μmで測定した
【0043】
【表1】

【0044】
次に、支持部材A〜Fの第1〜4流路に血液を流した状態で、血液分離器具における固定シール部材の押圧にかえて回転シール部材に垂直荷重3kgを負荷して、回転シール部材が固定シール部材と接触した状態で、回転シール部材を5000回/分で回転させた。そして、血液分離器具における血液および血液成分の温度にかえて、固定シール部材の温度を熱電対で測定した。回転開始から120分経過後までの温度推移を測定した。その結果を図6に示す。
【0045】
図6に示すように、本発明の要件を満足する、すなわち、被覆層を有する支持部材A〜Eは、本発明の要件を満足しない、すなわち、被覆層を有しない支持部材Fに比べて、温度上昇が少ない状態が長期に維持されていることが確認された。
【符号の説明】
【0046】
1 血液分離器具
2 回転ボウル
3 空間部
30 支持部材
31 上部支持部材
32 下部支持部材
31A、32A 接触面
33 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を収容して複数の血液成分に分離する空間部を有する回転ボウルと、前記回転ボウルの中心部に配置され、前記回転ボウルを支持する支持部材とを備え、前記支持部材は、互いに接触する接触面を有する上部支持部材と下部支持部材とを有し、前記回転ボウルが前記支持部材を回転軸として回転することによって、前記下部支持部材が前記上部支持部材に液密に接触しながら回転する血液分離器具であって、
前記上部支持部材および下部支持部材の少なくとも一方の接触面に、水素フリーダイヤモンドライクカーボンからなる被覆層を有することを特徴とする血液分離器具。
【請求項2】
前記被覆層は、その硬度が7000HV以上、かつ、その表面粗さが最大高さ粗さRyで3.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の血液分離器具。
【請求項3】
前記被覆層を、グラファイトパルスアークスパッタリング法によって形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の血液分離器具。
【請求項4】
前記上部支持部材および下部支持部材の少なくとも一方の接触面に、同心円状に形成された複数の溝部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の血液分離器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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