説明

血液回路及びそれを具備した血液浄化装置

【課題】体外循環する患者の血液の液圧を検知することができるとともに、当該血液を確実且つスムーズに体外循環させることができる血液回路及びそれを具備した血液浄化装置を提供する。
【解決手段】患者の血液を体外循環するために可撓性チューブで構成された主ライン1を有するとともに、当該主ライン1から分岐して延設された分岐ラインL3を有した血液回路であって、分岐ラインL3に接続されるとともに、当該分岐ラインL3を流れる液体を収容可能なチャンバ部材10を有し、当該チャンバ部材10内の液圧を検知することにより主ライン1内の液圧を検知可能な液圧検知手段9を具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を体外循環するために可撓性チューブで構成された主ラインを有するとともに、当該主ラインから分岐して延設された分岐ラインを有した血液回路及びそれを具備した血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液浄化治療としての透析治療時に用いられ患者の血液を体外循環させる血液回路は、通常、一端に動脈側穿刺針が取り付けられる動脈側血液回路と、一端に静脈側穿刺針が取り付けられる静脈側血液回路とから主に構成されており、これら動脈側血液回路及び静脈側血液回路の各他端に血液浄化器としてのダイアライザを接続し得るよう構成されている。動脈側血液回路には、しごき型の血液ポンプが配設されており、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者に穿刺した状態で当該血液ポンプを駆動させることにより、動脈側穿刺針から血液を採取するとともに、その血液を動脈側血液回路内で流動させてダイアライザまで導き、該ダイアライザによる浄化後の血液を静脈側血液回路内で流動させ、静脈側穿刺針を介して患者の体内に戻して透析治療が行われる。
【0003】
体外循環を行う血液回路、特に動脈側穿刺針から血液ポンプの配設部の間においては、患者からの採血不良(脱血不良)によって血液回路内が陰圧になる場合がある。そのため、動脈側血液回路における血液ポンプよりも上流側(先端側)には、陰圧を検出するための所謂ピローと称されるチャンバ部材が接続されている。かかるチャンバ部材は、例えば特許文献1にて開示されているように、血液回路に接続されるとともに、その血液回路内の圧力に応じて変形し得る可撓性中空状部材から成る。このチャンバ部材は、動脈側血液回路内を流れる血液が陰圧となると表面部と裏面部とが近接する方向に撓むよう構成されるとともに、その撓みの度合いを目視によって観察し、血液回路内の陰圧状態を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−267198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の血液回路においては、血液を体外循環させるための血液回路(動脈側血液回路)の途中に液圧を検知するためのチャンバ部材が接続されるため、当該チャンバ部材の内部空間で血液が滞留したり或いは当該チャンバ部材と動脈側血液回路との接続部位に生じた段差部で血液が滞留してしまう可能性があり、患者の血液を確実且つスムーズに体外循環させることができない虞があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、体外循環する患者の血液の液圧を検知することができるとともに、当該血液を確実且つスムーズに体外循環させることができる血液回路及びそれを具備した血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、患者の血液を体外循環するために可撓性チューブで構成された主ラインを有するとともに、当該主ラインから分岐して延設された分岐ラインを有した血液回路であって、前記分岐ラインに接続されるとともに、当該分岐ラインを流れる液体を収容可能なチャンバ部材を有し、当該チャンバ部材内の液圧を検知することにより前記主ライン内の液圧を検知可能な液圧検知手段を具備したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液回路において、前記分岐ラインの延設端には、補液を収容して前記主ラインに供給可能な補液供給源が接続されたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の血液回路において、前記分岐ラインにおける前記液圧検知手段と前記補液供給源との間に位置する所定部位をクランプ可能とされ、当該所定部位の流路を閉塞可能なクランプ手段を有することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の血液回路において、前記液圧検知手段は、液圧変化に伴う前記チャンバ部材の変形時の力を検知し、その検知した力を電気信号に変換し得るフォースセンサを有することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1つに記載の血液回路において、前記分岐ラインは、その内直径が2.0〜4.0(mm)の可撓性チューブから成るとともに、前記主ラインとの接続部位から1.0(m)以内に前記液圧検知手段が配設されたことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5の何れか1つに記載の血液回路において、前記主ラインは、先端に動脈側穿刺針が取り付けられるとともに途中において血液ポンプが設置される動脈側血液回路と、先端に静脈側穿刺針が取り付けられる静脈側血液回路とから成り、前記分岐ラインは、当該動脈側血液回路における先端から前記血液ポンプが設置される部位までの間から分岐して延設されるとともに、前記液圧検知手段は、当該分岐ラインに接続されて患者から血液を脱血する際の脱血圧を検知し得ることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6の何れか1つの血液回路を具備したことを特徴とする血液浄化装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、分岐ラインに接続されるとともに、当該分岐ラインを流れる液体を収容可能なチャンバ部材を有し、当該チャンバ部材内の液圧を検知することにより主ライン内の液圧を検知可能な液圧検知手段を具備したので、体外循環する患者の血液の液圧を検知することができるとともに、当該血液を確実且つスムーズに体外循環させることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、分岐ラインの延設端には、補液を収容して主ラインに供給可能な補液供給源が接続されたので、従来より主ラインに接続されて生理食塩液(補液)を供給し得る生理食塩液ラインを分岐ラインとして利用することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、分岐ラインにおける液圧検知手段と補液供給源との間に位置する所定部位をクランプ可能とされ、当該所定部位の流路を閉塞可能なクランプ手段を有するので、体外循環する患者の血液の液圧を液圧検知手段にて検知する際、クランプ手段でクランプすることにより、精度よく主ライン内の液圧を検知することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、液圧検知手段は、液圧変化に伴うチャンバ部材の変形時の力を検知し、その検知した力を電気信号に変換し得るフォースセンサを有するので、より精度よく主ライン内の液圧を検知することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、分岐ラインは、その内直径が2.0〜4.0(mm)の可撓性チューブから成るとともに、主ラインとの接続部位から1.0(m)以内にチャンバ部材が配設されたので、主ラインを流れる血液が分岐ラインに至るのを抑制することができるとともにより精度よく主ライン内の液圧を検知することができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、主ラインは、先端に動脈側穿刺針が取り付けられるとともに途中において血液ポンプが設置される動脈側血液回路と、先端に静脈側穿刺針が取り付けられる静脈側血液回路とから成り、分岐ラインは、当該動脈側血液回路における先端から血液ポンプが設置される部位までの間から分岐して延設されるとともに、液圧検知手段は、当該分岐ラインに接続されて患者から血液を脱血する際の脱血圧を検知し得るので、血液を確実且つスムーズに体外循環させつつ脱血圧を検知することができる。
【0020】
請求項7の発明によれば、請求項1〜6の血液回路の効果を奏した血液浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る血液回路を示す全体模式図
【図2】同血液回路におけるプライミング方法を示す模式図
【図3】同血液回路におけるプライミング方法を示す模式図
【図4】同血液回路におけるプライミング方法を示す模式図
【図5】同血液回路(血液の体外循環時)を示す全体模式図
【図6】同血液回路で適用される液圧検知手段を示す3面図(正面図、平面図及び側面図)
【図7】同液圧検知手段におけるチャンバ部材を示す平面図
【図8】同液圧検知手段におけるチャンバ部材を示す正面図
【図9】図7におけるIX−IX線断面図
【図10】同液圧検知手段におけるチャンバ部材及び第1アームを示す模式図
【図11】同液圧検知手段における第2アーム及び固定係止部を示す斜視図
【図12】本実施例における実験形態を示す模式図
【図13】本実施例における実験結果を示す模式図
【図14】本実施例における実験結果を示す模式図
【図15】本実施例における他の実験形態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、血液透析治療のための血液透析装置に適用されるもので、図1に示すように、患者の血液を体外循環するために可撓性チューブで構成された主ライン1(動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1b)を有するとともに、当該主ライン1から分岐して延設された分岐ラインL3を有した血液回路を有したものである。
【0023】
より具体的には、適用される血液透析装置は、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bから成る血液回路(主ライン)と、動脈側血液回路1aの途中に配設されたしごき型の血液ポンプ2と、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bの間に介装されて血液回路を流れる血液を浄化するダイアライザ3(血液浄化手段)と、動脈側血液回路1aに接続された動脈側エアトラップチャンバ4と、静脈側血液回路1bに接続された静脈側エアトラップチャンバ5と、補液(電解質補液)としての生理食塩液を収容した収容手段7(補液供給源)と、該収容手段7と動脈側血液回路1aとを連結した分岐ラインL3と、該分岐ラインL3の途中に接続されたエアトラップチャンバ8とから主に構成されている。
【0024】
動脈側血液回路1aには、その先端にコネクタcを介して動脈側穿刺針aが接続されるとともに、途中にしごき型の血液ポンプ2が配設され、動脈側エアトラップチャンバ4が接続される一方、静脈側血液回路1bには、その先端にコネクタdを介して静脈側穿刺針bが接続されるとともに、途中に静脈側エアトラップチャンバ5が接続されている。そして、図5に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ2を駆動させると、患者の血液は、動脈側エアトラップチャンバ4で除泡がなされつつ動脈側血液回路1aを通ってダイアライザ3に至った後、該ダイアライザ3によって血液浄化が施され、静脈側エアトラップチャンバ5で除泡がなされつつ静脈側血液回路1bを通って患者の体内に戻る。即ち、患者の血液を血液回路の動脈側血液回路1aの先端から静脈側血液回路1bの先端まで体外循環させつつダイアライザ3にて浄化するのである。
【0025】
尚、動脈側エアトラップチャンバ4及び静脈側エアトラップチャンバ5には、上部(空気層側)から延びて先端が大気解放とされたオーバーフローライン4a、5aがそれぞれ延設されており、当該動脈側エアトラップチャンバ4及び静脈側エアトラップチャンバ5をオーバーフローした液体(生理食塩液等のプライミング液)を外部に排出させ得るよう構成されている。このオーバーフローライン4a、5aには、それぞれ電磁弁V4、V5が配設されており、当該オーバーフローライン4a、5aを任意に閉塞又は開放可能とされている。
【0026】
ダイアライザ3は、その筐体部に、血液導入口3a(血液導入ポート)、血液導出口3b(血液導出ポート)、透析液導入口3c(透析液流路入口:透析液導入ポート)及び透析液導出口3d(透析液流路出口:透析液導出ポート)が形成されており、このうち血液導入口3aには動脈側血液回路1aが、血液導出口3bには静脈側血液回路1bがそれぞれ接続されている。また、透析液導入口3c及び透析液導出口3dは、透析装置本体6から延設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2とそれぞれ接続されている。
【0027】
ダイアライザ3内には、複数の中空糸(不図示)が収容されており、この中空糸が血液を浄化するための血液浄化膜を構成している。而して、ダイアライザ3内には、血液浄化膜を介して患者の血液が流れる血液流路(血液導入口3aと血液導出口3bとの間の流路)及び透析液が流れる透析液流路(透析液導入口3cと透析液導出口3dとの間の流路)が形成されている。そして、血液浄化膜を構成する中空糸には、その外周面と内周面とを貫通した微小な孔(ポア)が多数形成されて中空糸膜を形成しており、該膜を介して血液中の不純物等が透析液内に透過し得るよう構成されている。
【0028】
収容手段7(所謂「生理食塩液バッグ」と称されるもの)は、可撓性の透明な容器から成り、補液としての生理食塩液(プライミング液)を所定容量収容し得るもので、例えば透析装置本体に突設されたポール(不図示)の先端に取り付けられている。分岐ラインL3は、動脈側血液回路1aにおける動脈側穿刺針aと動脈側エアトラップチャンバ4との間の部位(連結部H)に接続され、収容手段7内の生理食塩液(プライミング液)を主ライン1内に供給し得るものである。尚、連結部Hは、汎用のT字管、Y字管等の接続部品が用いられている。
【0029】
また、分岐ラインL3の途中には、エアトラップチャンバ8が接続されており、生理食塩液(プライミング液)の供給(滴下)を目視し得るよう構成されるとともに、クランプ手段V3が配設されている。かかるクランプ手段V3は、分岐ラインL3における液圧検知手段9と収容手段7(補液供給源)との間(より具体的には、液圧検知手段9とエアトラップチャンバ8との間)に位置する所定部位をクランプ可能とされ、当該所定部位の流路を任意タイミングにて閉塞可能な電磁弁から成るものである。尚、動脈側血液回路1aの先端(コネクタc近傍)及び静脈側血液回路1bの先端(コネクタd近傍)には、同様の電磁弁が配設されており、その配設部位における流路を任意タイミングにて閉塞可能とされている。
【0030】
液圧検知手段9は、分岐ラインL3に接続されるとともに、当該分岐ラインL3を流れる液体(補液としての生理食塩液)を収容可能なチャンバ部材10を有し、当該チャンバ部材10内の液圧を検知することにより主ライン1(動脈側血液回路1a)内の液圧を検知可能なものである。より具体的には、液圧検知手段9は、図6に示すように、チャンバ部材10と、第1アーム11及び第2アーム12とを有して構成されている。尚、チャンバ部材10には、一対のポートP1、P2が形成されており、これらポートP1、P2に分岐ラインL3が接続されるようになっている。
【0031】
チャンバ部材10は、ポートP1、P2を介して分岐ラインL3と接続されるとともに、当該分岐ラインL3内の圧力変化に伴い変形し得る可撓性中空状部材から成るものであり、略円盤状(平面視で略円形)に形成されている。このチャンバ部材10は、図7〜9に示すように、その内部に分岐ラインL3と連通する連通空間Sが形成されるとともに、当該連通空間Sが分岐ラインL3を流れる液体(補液としての生理食塩液)で満たされるようになっている。
【0032】
また、本実施形態に係るチャンバ部材10は、軟質樹脂10a(軟質塩化ビニル等)にて形成されるとともに、当該軟質樹脂10aより硬質とされた硬質樹脂(硬質塩化ビニル等)から成る硬質樹脂部10bを有して成る。即ち、全体形状が軟質樹脂10aで構成され、連通空間S及びポートP1、P2が形成されるとともに、その表裏面に対して硬質樹脂部10bが突出形成されているのである。軟質樹脂10a及び硬質樹脂部10bは、相対的に軟質及び硬質とされていれば足り、硬質樹脂部10bの方が軟質樹脂10aよりも硬質とは硬質樹脂10bの方が剛性が高く可撓性に乏しいことをいう。
【0033】
硬質樹脂部10bは、例えば軟質樹脂10aに対してインサート成形されることにより当該軟質樹脂10aの表裏面それぞれに形成され、図8において上方及び下方にそれぞれ突出形成されて成るものであり、第2アーム12又は固定係止部13(図1参照)と係止可能な係止部10baが一体的に形成されている。この係止部10baは、硬質樹脂部10bの突出部における細径部から成り、図11に示すように、第2アーム12に形成された切欠き部12a及び固定係止部13に形成された切欠き部13aに挿通されて係止可能な形状及び寸法とされている。尚、固定係止部13は、フレームFに固定されたものであり、この係止部13と第2アーム12との間にチャンバ部材10が保持されるようになっている。
【0034】
第2アーム12は、連結部材14を介して第1アーム11と連結されており、当該第1アーム11は、フレームFの突起部Faに対して片持ちで連結されて成るものである。即ち、第1アーム11は、その基端がネジなどの支持部材15にて突起部Faに連結され、先端が連結部材14を介して第2アーム12と連結されており、チャンバ部材10の変形に伴う変位にて圧力を受け得るようになっている。
【0035】
第1アーム11には、フォースセンサとしての歪みゲージが形成されており、チャンバ部材10の変形に伴う力を第2アーム12を介して受けると、その圧力の大きさに応じた電圧(電気信号)を発生させ得るよう構成されている。即ち、フォースセンサは、液圧変化に伴うチャンバ部材10の変形時の力を検知し、その検知した力を電気信号に変換し得るものとされている。このとき発生する電圧は、第2アーム12に付与される力(即ち、硬質樹脂部10bの変位量)と略比例したものとされる。これにより、チャンバ部材10の変形による力を検知し得るようになっており、当該チャンバ部材10の表面の変位による力の検知により分岐ラインL3内の圧力を検知し得るよう構成されている。
【0036】
具体的には、歪みゲージは金属抵抗体が伸縮するとその抵抗値が変化する原理を利用しており、第2アーム12の切欠き部12a及び固定係止部13に形成された切欠き部13aに対し、一対の係止部10baをそれぞれ挿通して当接させ、係止させることにより、図10に示すように、チャンバ部材10をセットするよう構成されており、主ライン1内の圧力変化に伴い分岐ラインL3内の液圧が変化してチャンバ部材10が変形(動脈側血液回路1a内の圧力上昇により膨張し、圧力低下により収縮する如き変形)するのに伴って硬質樹脂部10bが変位し、第1アーム11及び第2アーム12が図10中α方向(チャンバ部材10が膨張した場合)又はβ方向(チャンバ部材10が収縮した場合)に歪むので、歪みゲージ(フォースセンサ)にてその歪みによる抵抗値の変化を検知すれば硬質樹脂部10bの変位量を検知することができ、従って血液回路内(動脈側血液回路1a内)の圧力を検知することができるのである。
【0037】
本実施形態の液圧検知手段9によれば、第2アーム12が硬質樹脂部10bと当接してその力を検知することにより分岐ラインL3内(即ち、血液回路内)の圧力を検知し得るよう構成されているので、当該硬質樹脂部10bに対する第2アーム12の受圧面積の変化を抑制して血液回路内の圧力を精度よく検知することができる。即ち、可撓性に富んだ軟質樹脂のみでチャンバ部材を構成し、その表裏面の変位を検知しようとした場合、当該チャンバ部材の変形に伴って第2アーム12との当接面積(受圧面積)が変化してしまい、変位量の検知に誤差が生じてしまうのに対し、本実施形態によれば、撓むのが比較的困難な硬質樹脂部10bに第2アーム12が当接しているので、当該不具合を抑制することができるのである。
【0038】
また、チャンバ部材10は、その内部に血液回路と連通する連通空間Sが形成されるとともに、当該連通空間Sが分岐ラインL3を流れる液体(補液としての生理食塩液)で満たされるので、内部に空気層が形成されるものに比べ、より精度よく血液回路内の圧力を検知することができる。即ち、血液回路に接続されるエアトラップチャンバの如く上部に空気層が形成されるもので圧力検知装置を構成した場合、当該空気層の体積が変動するため、チャンバ部材の変形と血液回路内の圧力との関係が一定とならず、精度よく血液回路内の圧力を検知することができないのに対し、本実施形態によれば連通空間S内が液体(補液としての生理食塩液)で満たされるため、当該不具合を抑制することができるのである。
【0039】
更に、硬質樹脂部10bは、第2アーム12と係止可能な係止部10baが一体的に形成されたので、チャンバ部材10の変形による力に第2アーム12及び第1アーム11を確実に追従させることができ、更に精度よく分岐ラインL3内(即ち、血液回路内)の圧力を検知することができる。また、係止部10bが固定係止部13及び第2アーム12に係止されてセットされるので、チャンバ部材10の膨張による変形は勿論、収縮による変形に対しても確実に第1アーム3及び第2アーム4を追従させることができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る血液回路におけるプライミング方法について説明する。
まず、図2に示すように、動脈側血液回路1a先端のコネクタcと静脈側血液回路1b先端のコネクタdとを接続しておく。そして、電磁弁V1を開状態(流路を開放した状態:以下同じ)及び電磁弁V2を閉状態(流路を閉塞した状態:以下同じ)としつつクランプ手段V3を閉状態とするとともに、血液ポンプ2を正転方向(図中矢印方向)に駆動させる。これにより、主ライン1における電磁弁V2から血液ポンプ2までの間と、分岐ラインL3における連結部Hからクランプ手段V3までの間とを負圧(陰圧)とする。
【0041】
次に、図3に示すように、血液ポンプ2を停止させるとともに、クランプ手段V3を開状態とすることにより、主ライン1における電磁弁V2から血液ポンプ2までの間、及び分岐ラインL3における連結部Hからクランプ手段V3までの間(即ち、負圧とされた部位)に対して、収容手段7内の補液(生理食塩液)を吸引させて当該補液で満たす。これにより、チャンバ部材10の連通空間S内に補液(生理食塩液)が満たされることとなるが、当該連通空間S内に空気が存在する場合には、以下の工程を行う。
【0042】
即ち、図4で示すように、クランプ手段V3の開状態を維持しつつ電磁弁V1及びV2を閉状態とするとともに、血液ポンプ2を正転側に駆動させる。これにより、動脈側血液回路1a(主ライン1)における動脈側エアトラップチャンバ4の近傍まで補液(生理食塩液)を満たすことができる。その後、血液ポンプ2を逆転側(正転側と反対方向)に駆動させることにより、動脈側エアトラップチャンバ4近傍まで導いた補液(生理食塩液)を分岐ラインL3に送る。而して、チャンバ部材10内の空気をエアトラップチャンバ8及び収容手段7に排出させることができ、当該チャンバ部材10内に残存した空気を除去することができる。
【0043】
然るに、電磁弁V4、V5を開状態としつつ血液ポンプ2を正転側又は逆転側に駆動させ、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1b(ダイアライザ3の血液側流路含む)を補液(生理食塩液)で満たすとともに、オーバーフローライン4a、5aから補液(生理食塩液)を排出させることによりプライミングが終了する。尚、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1b(ダイアライザ3の血液側流路含む)を補液(生理食塩液)で満たす工程は、チャンバ部材10内に補液(生理食塩液)を満たす工程の前に行ってもよい。
【0044】
かかるプライミングが終了した後、図5に示すように、コネクタc、dに患者に穿刺した状態の動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを接続し、血液ポンプ2を正転側に駆動させることにより、患者の血液を主ライン1において体外循環させつつダイアライザ3にて血液浄化治療(透析治療)が施されることとなる。このとき、主ライン1(動脈側血液回路1a)と分岐ラインL3とは、連結部Hを介して連結されている(但し、クランプ手段V3は閉状態とされる)ため、液圧検知手段9によりチャンバ部材10内の液圧を検知することにより主ライン1内(動脈側血液回路1aにおける血液ポンプ2より上流側の部位)の液圧(即ち、脱血圧)を検知可能とされている。
【0045】
次に、本発明の技術的優位性を示す実験について実施例に基づき説明する。
まず、図12に示すように、分岐ラインL3における動脈側血液回路1aとの連結部Hから寸法tの位置にチャンバ部材10を接続したものであって、寸法tを0(m)(即ち、動脈側血液回路上に接続)、0.1(m)、0.2(m)、0.25(m)、0.3(m)、0.4(m)、0.5(m)、1.0(m)に変更したもののそれぞれを実施例1〜8とした。また、動脈側血液回路1aにおける血液ポンプ2と連結部Hとの間には、基準液圧を測定するためのセンサ(基準マノメータ)を接続し、当該部位での液圧を併せて測定するとともに、液圧検知手段9は、上記実施形態と同様のものとした。
【0046】
上記実施例1〜8について、それぞれ縦軸に液圧検知手段9にて検知された出力(V)、横軸に基準マノメータにて検知された液圧(mmHg)をプロットした結果、図13に示すように、それぞれの実施例について良好な相関が認められた。具体的には、実施例1の近似式:y=0.0013x+2.4618、相関係数(R)=0.9962、実施例2の近似式:y=0.0013x+2.4901、相関係数(R)=0.9925、実施例3の近似式:y=0.0013x+2.489、相関係数(R)=0.9953、実施例4の近似式:y=0.0013x+2.4833、相関係数(R)=0.9818、実施例5の近似式:y=0.0012x+2.4825、相関係数(R)=0.9800、実施例6の近似式:y=0.0013x+2.4834、相関係数(R)=0.9785、実施例7の近似式:y=0.0013x+2.4853、相関係数(R)=0.9898、実施例8の近似式:y=0.0013x+2.4981、相関係数(R)=0.9888なる結果となっており、全ての実施例について相関係数(R)が0.98以上と良好な結果となった。
【0047】
更に、実施例2、3、5〜8(実施例1、4を除く実施例)について、液圧検知手段9にて検知された出力(V)を上記近似式にあてはめて圧力換算した結果を図14のグラフに示す。尚、かかるグラフは、横軸を時間(1/10(sec))及び縦軸を圧力換算値(mmHg)であり、分岐ラインL3における寸法t以外は同じ条件でデータを取った。このグラフにより、実施例2と実施例8とを比較した場合であっても、圧力応答曲線はほとんど差がないことが分かる。
【0048】
次に、図15に示すように、動脈側血液回路に相当する流路Laと、静脈側血液回路に相当する流路Lbとを用意し(流路La、Lbの何れも内直径は、4.0(mm))、それら流路La、Lbの先端を牛血が収容された収容手段A内に投入した。流路Laには、血液ポンプ2が配設されるとともに、当該流路LaとLbとの基端は、エアトラップチャンバCに接続されている。尚、符号Bは、流路Laに設けられた絞りを示している。
【0049】
そして、流路Laにおける絞りBと血液ポンプ2との間からは、分岐ラインLa1〜La6をそれぞれ延設させ、各分岐ラインLa1〜La5にチャンバ部材10a〜10eを接続するとともに、分岐ラインLa6にピローを接続した。分岐ラインLa1の内直径は3.4(mm)、分岐ラインLa2の内直径は2.0(mm)、分岐ラインLa3の内直径は1.7(mm)、分岐ラインLa4の内直径は2.7(mm)、分岐ラインLa5の内直径は2.0(mm)、分岐ラインLa6の内直径は3.4(mm)とされている。尚、分岐ラインLa1〜La6における流路Laとの連結部からチャンバ部材10a〜10fまでの寸法Dは、250(mm)とした。
【0050】
然るに、血液ポンプ2を駆動して−172〜−220(mmHg)にて牛血を循環させた。尚、牛血の循環開始時においては、分岐ラインLa1〜La6には逆流はなかった。血液ポンプ2の駆動開始から1時間後、観察してみると、分岐ラインLa3(内直径:1.7(mm))にのみ牛血が逆流していた。このことから、分岐ラインへの逆流を防止すべく、当該分岐ラインの内直径は、2.0(mm)以上が好ましいことが分かる。但し、分岐ラインの内直径を4.0(mm)以上とすると、血液回路を構成する主ラインの内直径と略同等となり、プライミング時のプライミング量が増加してしまうことから好ましくない。
【0051】
上記実験結果から、分岐ラインは、その内直径が2.0〜4.0(mm)の可撓性チューブから成るとともに、主ラインとの接続部位(連結部H)から1.0(m)以内にチャンバ部材を配設するのが好ましく、その場合、主ラインを流れる血液が分岐ラインに至るのを抑制することができるとともにより精度よく主ライン内の液圧を検知することができる。
【0052】
上記実施形態によれば、分岐ラインL3に接続されるとともに、当該分岐ラインL3を流れる液体を収容可能なチャンバ部材10を有し、当該チャンバ部材10内の液圧を検知することにより主ライン1内の液圧を検知可能な液圧検知手段9を具備したので、体外循環する患者の血液の液圧を検知することができるとともに、従来の如く動脈側血液回路1a等にピロー等を接続したものに比べ、当該血液を確実且つスムーズに体外循環させることができる。
【0053】
また、分岐ラインL3の延設端には、補液を収容して主ライン1に供給可能な収容手段7(補液供給源)が接続されたので、従来より主ライン1に接続されて生理食塩液(補液)を供給し得る生理食塩液ラインを分岐ライン1として利用することができる。更に、分岐ライン1における液圧検知手段9と収容手段7(補液供給源)との間に位置する所定部位をクランプ可能とされ、当該所定部位の流路を閉塞可能なクランプ手段V3を有するので、体外循環する患者の血液の液圧を液圧検知手段9にて検知する際、クランプ手段V3でクランプすることにより、精度よく主ライン1内の液圧を検知することができる。
【0054】
また更に、液圧検知手段9は、液圧変化に伴うチャンバ部材10の変形時の力を検知し、その検知した力を電気信号に変換し得るフォースセンサを有するので、より精度よく主ライン1内の液圧を検知することができる。また、主ライン1は、先端に動脈側穿刺針aが取り付けられるとともに途中において血液ポンプ2が設置される動脈側血液回路1aと、先端に静脈側穿刺針bが取り付けられる静脈側血液回路1bとから成り、分岐ラインL3は、当該動脈側血液回路1aにおける先端から血液ポンプ2が設置される部位までの間から分岐して延設されるとともに、液圧検知手段9は、当該分岐ラインL3に接続されて患者から血液を脱血する際の脱血圧を検知し得るので、血液を確実且つスムーズに体外循環させつつ脱血圧を検知することができる。
【0055】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、分岐ラインが主ライン1における他の部位から分岐したものであってもよい。また、分岐ラインは、その延設端に生理食塩液等の補液を収容する補液供給源が接続されたものに限らず、血液回路に透析液を導入して補液するための補液ラインや血液回路に薬剤を注入するための薬液注入ライン等であってもよい。
【0056】
更に、本実施形態においては、動脈側エアトラップチャンバ4及び静脈側エアトラップチャンバ5にそれぞれオーバーフローライン4a、5aを延設し、さらに電磁弁V4、V5を設置しているが、オーバーフローラインを4aまたは5aの何れか一方とし、電磁弁に代えて鉗子やワンタッチクランプなどを用いて手動操作で当該オーバーフローラインの開閉を行う構成としてもよい。
【0057】
また更に、本実施形態においては、液圧検知手段は、液圧変化に伴うチャンバ部材10の変形時の力を検知し、その検知した力を電気信号に変換し得るフォースセンサを有するものとされているが、従来より動脈側血液回路の先端側に設けられたピローの如き液圧検知手段を分岐ラインに接続させ、当該ピローの変位を検知することにより、液圧を検知し得るものとしてもよい。分岐ラインL3にエアトラップチャンバ8が接続されないものとしてもよい。尚、本実施形態においては、透析治療時に用いられる透析装置に適用しているが、患者の血液を体外循環させつつ浄化し得る他の装置(例えば血液濾過透析法、血液濾過法、AFBFで使用される血液浄化装置、血漿吸着装置など)に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
分岐ラインに接続されるとともに、当該分岐ラインを流れる液体を収容可能なチャンバ部材を有し、当該チャンバ部材内の液圧を検知することにより主ライン内の液圧を検知可能な液圧検知手段を具備した血液回路及びそれを具備した血液浄化装置であれば、他の形態及び用途のものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 主ライン
2 血液ポンプ
3 ダイアライザ
4 動脈側エアトラップチャンバ
5 静脈側エアトラップチャンバ
6 透析装置本体
7 収容手段(補液供給源)
8 エアトラップチャンバ
9 液圧検知手段
10 チャンバ部材
11 第1アーム
12 第2アーム
13 固定係止部
14 連結部材
15 支持部材
L3 分岐ライン
V3 クランプ手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血液を体外循環するために可撓性チューブで構成された主ラインを有するとともに、当該主ラインから分岐して延設された分岐ラインを有した血液回路であって、
前記分岐ラインに接続されるとともに、当該分岐ラインを流れる液体を収容可能なチャンバ部材を有し、当該チャンバ部材内の液圧を検知することにより前記主ライン内の液圧を検知可能な液圧検知手段を具備したことを特徴とする血液回路。
【請求項2】
前記分岐ラインの延設端には、補液を収容して前記主ラインに供給可能な補液供給源が接続されたことを特徴とする請求項1記載の血液回路。
【請求項3】
前記分岐ラインにおける前記液圧検知手段と前記補液供給源との間に位置する所定部位をクランプ可能とされ、当該所定部位の流路を閉塞可能なクランプ手段を有することを特徴とする請求項2記載の血液回路。
【請求項4】
前記液圧検知手段は、液圧変化に伴う前記チャンバ部材の変形時の力を検知し、その検知した力を電気信号に変換し得るフォースセンサを有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の血液回路。
【請求項5】
前記分岐ラインは、その内直径が2.0〜4.0(mm)の可撓性チューブから成るとともに、前記主ラインとの接続部位から1.0(m)以内に前記チャンバ部材が配設されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の血液回路。
【請求項6】
前記主ラインは、先端に動脈側穿刺針が取り付けられるとともに途中において血液ポンプが設置される動脈側血液回路と、先端に静脈側穿刺針が取り付けられる静脈側血液回路とから成り、前記分岐ラインは、当該動脈側血液回路における先端から前記血液ポンプが設置される部位までの間から分岐して延設されるとともに、前記液圧検知手段は、当該分岐ラインに接続されて患者から血液を脱血する際の脱血圧を検知し得ることを特徴とする請求項1〜5の何れか1つに記載の血液回路。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つの血液回路を具備したことを特徴とする血液浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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