説明

血液回路

【課題】血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる機能を備える血液回路を提供する。
【解決手段】人体に接続された状態で血液を浄化する血液回路1であって、血液回路1内の気泡を捕集するエアチャンバ30と、エアチャンバ30の下流側に配置され、異物をろ過するフィルタ103を備える異物除去フィルタ100とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を浄化するための血液回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば腎機能不全の患者に対して、その患者の血液を浄化するために、持続緩徐式血液ろ過法(CHF:Continuous Hemofiltration)や、持続的血液ろ過透析法(CHDF:Continuous Hemodiafiltration)を用いた治療が行なわれている。
【0003】
CHFは、ろ過を行なうための半透膜(以下、「ろ過膜」という。)が設けられた血液浄化器に患者から取り出した血液を注入してろ過膜を用いてろ過し、浄化された血液を患者に戻し、ろ過によって得られた血液の中の老廃物(例えば、尿素や塩化ナトリウム等の電解質物質)と溶媒(水分)とを廃棄する。それとともに、患者の血液の中の溶媒の減少を補うために、所定の補充液(以下、「補液」という。)を患者の血液に補充することを、持続的に緩徐に行なう方法である。なお、CHFでは、廃棄する血液の中の老廃物と溶媒とをろ過液(以下、「ろ液」という。)という。
【0004】
他方、CHDFは、CHFにおける小分子除去能力を改善するための方法であって、CHFに加えて透析処理を行なう方法である。すなわち、CHDFは、ろ過膜とともに透析膜が設けられた血液浄化器を用い、血液浄化器に透析液をも供給し、ろ過によって浄化された血液になお含まれている老廃物を透析膜を介して透析液の中に移動させることにより、血液の中から老廃物を除去する。そして、ろ過及び透析によって浄化された血液を患者に戻すとともに補液を患者の血液に補充することを、持続的に緩徐に行なう方法である。なお、CHDFでは、ろ過によって得られた血液の中の老廃物及び溶媒と、使用済みの透析液とをろ液という。
【0005】
ところで、浄化された血液を患者に戻すとともに補液を患者の血液に補充する際に、当該血液中及び補液中の気泡と血栓などの異物とが患者の体内に流入しないように、血液及び補液から気泡と異物とを除去する必要がある。このため、従来、CHDFにおいて、血液と補液とを混合するとともに、混合された混合液から気泡と異物とを捕捉するドリップチャンバが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このドリップチャンバを、図11を用いて説明する。同図は、従来のドリップチャンバの構成を示す図である。ドリップチャンバ90は、内部に流入する液体中に含まれる気泡や異物を取り除き、気泡や異物を取り除いた液体を流出させる気液分離器である。同図に示すように、ドリップチャンバ90は、入口部91、本体92、フィルタ93及び出口部94を備えている。
【0007】
入口部91は、浄化された血液が流入する入口と、補充される補液が流入する入口の2つの入口を備えている。つまり、入口部91から、当該血液と補液とが流入し、混合される。
【0008】
本体92は、気泡が液体中を上昇する性質を利用して、混合された混合液中の気泡を本体92の入口部91側に集めることで、当該混合液中の気泡を捕集する。そして、網目状のフィルタ93で、混合液中の異物がろ過される。そして、気泡と異物とが除去された混合液は、出口部94から流出される。
【0009】
このようにして、血液回路内の気泡と異物とが患者の体内に流入しないように、血液回路内から気泡と異物とが除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002―159571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、従来のドリップチャンバを備えた血液回路では、大量の血栓が生じ、当該血栓がドリップチャンバのフィルタに詰まることにより、通液不能となってしまうという問題がある。
【0012】
ここで、血栓は、血液が滞留することにより生じる。そして、ドリップチャンバの内容積が大きいと、内部の流体に滞留が起こり易い。つまり、ドリップチャンバの長さが長く、内径が大きいと滞留が起こり易い。しかし、従来のドリップチャンバは、気泡を捕集するために、長さを長くしておかなければならない。又、従来のドリップチャンバは、異物をろ過するために、内径を大きくしておかなければならない。
【0013】
このため、従来のドリップチャンバでは、内部の流体に滞留が起こり易く、血栓が生じ易い環境下にあった。また、従来のドリップチャンバでは、異物除去のため、メッシュ状のフィルタが装着されるが、チャンバ内で生成した血栓が、このフィルタに付着すると、その付着箇所を根として、血栓が成長し易くなる。そのため、一旦血栓が生成すると、大量の血栓が生じ、当該血栓がドリップチャンバのフィルタに詰まることにより、通液不能となってしまう恐れがあった。ドリップチャンバが通液不能となれば、血液回路や血液浄化器など、回路に組込まれた構成部材毎、取り替えることが必要となり、そのために、血液透析による治療が長時間中断してしまう。
【0014】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる機能を備える血液回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る血液回路は、人体に接続された状態で血液を浄化する血液回路であって、前記血液回路内の気泡を捕集するエアチャンバと、前記エアチャンバの下流側に配置され、異物をろ過するフィルタを備える異物除去フィルタとを備える。
【0016】
これによれば、エアチャンバと異物除去フィルタとを分離して、別々に備える。このように、気泡の捕集と異物のろ過という2つの機能を分離することで、エアチャンバ及び異物除去フィルタの長さと内径を、必要最小限の長さと内径にすることができる。つまり、エアチャンバ内及び異物除去フィルタ内の流体には滞留が起こりにくいため、血栓は生じにくい。このため、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【0017】
また、好ましくは、前記異物除去フィルタの流体の流れ方向の長さは、前記エアチャンバの流体の流れ方向の長さよりも短い。また、前記異物除去フィルタの流体の流れ方向の長さは、45〜65ミリメートルである。さらに、前記フィルタは、網目状のフィルタであり、前記フィルタの外表面の面積は、1000〜1300平方ミリメートルである。
【0018】
これによれば、異物除去フィルタの長さは、エアチャンバの長さよりも短く、45〜65mmが好ましい。つまり、異物除去フィルタの長さを、従来のドリップチャンバの長さである100〜160mmと比べて短くすることができる。したがって、異物除去フィルタ内の流体には滞留が起こりにくいため、血栓は生じにくい。このため、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【0019】
また、好ましくは、前記エアチャンバと前記異物除去フィルタとを接続するチューブを備え、前記エアチャンバの内径は、前記チューブの内径の1.5〜2.5倍である。また、さらに好ましくは、前記エアチャンバの内径は、8〜12ミリメートルである。
【0020】
これによれば、エアチャンバの内径は、チューブの内径(例えば5mm)の1.5〜2.5倍(8〜12mm)であるのが好ましい。つまり、エアチャンバの内径を、従来のドリップチャンバの内径であるチューブの内径の3〜4倍(16〜20mm)と比べて小さくすることができる。したがって、エアチャンバ内の流体には滞留が起こりにくいため、血栓は生じにくい。このため、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【0021】
また、好ましくは、前記異物除去フィルタは複数個備えられており、前記血液回路は、さらに、複数の前記異物除去フィルタのうちのいずれかの異物除去フィルタに流体が流れるように、流体の流れを切り替える切替部を備える。
【0022】
これによれば、異物除去フィルタは並列的に複数個備えられており、異物除去フィルタを切り替えることができる。したがって、異物除去フィルタが血栓などで詰まった場合でも、別の異物除去フィルタに切り替えることができる。このため、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【0023】
また、好ましくは、さらに、前記異物除去フィルタの前後の差圧を検出する圧力検出部と、前記圧力検出部が検出した差圧が、所定の値以上になった場合に、前記切替部に切替指示を出力する制御部とを備え、前記切替部は、前記切替指示に従って、流体が流れている異物除去フィルタから他の異物除去フィルタに流体が流れるように、流体の流れを切り替える。
【0024】
これによれば、異物除去フィルタの前後の差圧が高くなると、異物除去フィルタが切り替わる。したがって、異物除去フィルタが血栓などで詰まった場合でも、別の異物除去フィルタに切り替わる。このため、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【0025】
また、好ましくは、さらに、前記異物除去フィルタの下流側に、人体と接続するための接続部を備え、前記異物除去フィルタは、前記接続部の近傍に配置される。
【0026】
これによれば、異物除去フィルタが、患者と接続するための接続部の近傍に配置される。したがって、異物除去フィルタが、交換可能かつ交換容易な場所に設置されるため、異物除去フィルタを交換する際に血液回路全体を交換する必要はなく、血液透析の治療を続けることができる。また、血液が患者に返血される直前で異物がろ過されるので、患者への異物の流入を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、血液を浄化する血液回路において、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態における血液回路の構成を示す図である。
【図2】異物除去部の構成を示す図である。
【図3】エアチャンバの構成を示す図である。
【図4】異物除去フィルタの構成を示す図である。
【図5A】異物除去フィルタが備えるフィルタの構造を示す図である。
【図5B】異物除去フィルタが備えるフィルタの構造を示す図である。
【図6】切替部が異物除去フィルタを切り替える動作の一例を示すフローチャートである。
【図7】血栓の生じ易さを評価するための評価装置を示す図である。
【図8A】評価装置による評価結果を示す図である。
【図8B】評価装置による評価結果を示す図である。
【図9】評価装置による評価結果を示す図である。
【図10】異物除去部の他の構成を示す図である。
【図11】従来のドリップチャンバの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態における血液回路1の構成を示す図である。
【0031】
血液回路1は、人体(患者)に接続された状態で血液を浄化する回路である。同図に示すように、血液回路1は、給液パック10、血液浄化器20、エアチャンバ30、異物除去部40、第一接続部50、第二接続部60、ろ液パック70及びチューブ80を備えている。
【0032】
給液パック10は、給液が蓄えられている容器である。ここで、「給液」とは、「補液」と、「透析液」との総称である。「補液」とは、血液回路1に注液することにより、失われた血液中の水分や電解質を補給する薬液のことをいう。「透析液」とは、血液浄化器20内で血液と物質交換をする薬液のことをいう。つまり、ここでは、「補液」と「透析液」とは同じ液体であるとする。なお、「給液」には、一般に体液と浸透圧や電解質が等しくなるよう調整された等張液などが用いられる。
【0033】
血液浄化器20は、血液を浄化する器具である。具体的には、血液浄化器20は円筒形状をしており、当該円筒の上部に設けられている血液流入口から血液が流入し、円筒の下部に設けられている血液返血口から血液が返血される。また、円筒横の下部に設けられている透析液流入口から透析液が流入し、円筒横の上部に設けられている透析液排出口から血液を浄化した後の透析液、すなわち、ろ液が排出される。
【0034】
エアチャンバ30は、血液回路1内の気泡が患者の体内に流入しないように、血液回路1内の気泡を捕集する。具体的には、エアチャンバ30は、血液浄化器20から返血される血液と、給液パック10から補充される補液とを混合する。そして、エアチャンバ30は、気泡が液体中を上昇する性質を利用して、混合液中に含まれる気泡を捕集する。
【0035】
異物除去部40は、エアチャンバ30の下流側に配置される、血液回路1内の異物を除去する部位である。具体的には、異物除去部40は、エアチャンバ30から排出される流体中の異物をフィルタでろ過することで、当該異物を除去する。この異物除去部40の詳細については、後述する。
【0036】
第一接続部50は、異物除去部40の下流側に配置される、人体と接続するための部位である。具体的には、第一接続部50は、異物除去部40の流体出口の近傍に備えられ、患者の体内に血液を戻すための器具である。第一接続部50は、例えば、患者の血管に挿入されるカテーテルである。浄化された血液は、このカテーテルを通して、患者の体内に戻される。この第一接続部50は、特許請求の範囲に記載の「接続部」に相当する。
【0037】
第二接続部60は、血液浄化器20の上流側に配置される、人体と接続するための部位である。具体的には、第二接続部60は、患者から血液を取り出すための器具である。第二接続部60は、例えば、患者の血管に挿入されるカテーテルである。患者の血液は、このカテーテルを通して、血液回路1に取り込まれ、血液浄化器20に送られる。
【0038】
ろ液パック70は、血液浄化器20での血液浄化後の透析液であるろ液が蓄えられる容器である。ここで、ろ液とは、血液から濾し取った老廃物及び余剰水分を含む、血液を浄化した後の透析液のことをいう。
【0039】
チューブ80は、血液回路1内の各部位を接続し、血液回路1内を流れる血液や補液などの流体を運ぶ管である。例えば、チューブ80は、エアチャンバ30と異物除去部40とを接続し、エアチャンバ30出口の流体を異物除去部40まで運ぶ。具体的には、チューブ80は、内径が5mmの管である。
【0040】
次に、異物除去部40の構成について、詳細に説明する。
【0041】
図2は、異物除去部40の構成を示す図である。
【0042】
同図に示すように、異物除去部40は、異物除去フィルタ100、切替部200、圧力検出部300及び制御部400を備えている。なお、同図では、説明の便宜上、エアチャンバ30と異物除去部40とを接続するチューブ80を短く図示している。
【0043】
異物除去フィルタ100は、エアチャンバ30の下流側の第一接続部50の近傍に配置される、異物を除去するための部位である。また、異物除去フィルタ100は複数個備えられている。ここでは、3個の異物除去フィルタ100が備えられている。この異物除去フィルタ100の詳細については、後述する。
【0044】
切替部200は、複数の異物除去フィルタ100のうちのいずれかの異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替える部位である。具体的には、切替部200は、異物除去フィルタ100の上流側に備えられ、切替部200出口の流路を切り替えることで、いずれか1つの異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替える弁である。
【0045】
例えば、3個の異物除去フィルタ100のそれぞれを、異物除去フィルタA、異物除去フィルタB及び異物除去フィルタCとした場合、切替部200は、異物除去フィルタAから、異物除去フィルタB又は異物除去フィルタCに流体が流れるように、流体の流れを切り替える。また、同様に、切替部200は、異物除去フィルタBから異物除去フィルタA又は異物除去フィルタCに、又は、異物除去フィルタCから異物除去フィルタA又は異物除去フィルタBに、流体が流れるように、流体の流れを切り替える。
【0046】
圧力検出部300は、異物除去フィルタ100の前後の差圧を検出する装置である。具体的に説明すると、この実施形態では、圧力検出部300は、切替部200の入口の圧力と、異物除去フィルタ100の出口の圧力との差を検出する。本実施形態で、一方の圧検出部位が異物除去フィルタ100の上流近傍としたものを例示しているが、異物除去フィルタ100の上流側に設けるのであれば、特に限定されない。但し、他部位に一方の圧検出部位を設けるよりも、異物除去フィルタ100の上流近傍に(前記一方の圧検出部位を)設ける本形態のものの方が、異物除去フィルタにおける(血栓形成等による)閉塞をいち早く検知し、差圧を検出することができ、対処することが可能となる。
【0047】
制御部400は、異物除去フィルタ100を切り替えるための制御を行う。具体的には、制御部400は、圧力検出部300が検出した差圧が、所定の値以上になった場合に、切替部200に切替指示を出力する。つまり、制御部400は、異物除去フィルタ100が異物で目詰まりを起こすなどにより、異物除去フィルタ100の前後の差圧が所定の値以上になった場合に、異物除去フィルタ100を切り替えるように制御を行う。
【0048】
そして、制御部400が出力した切替指示に従って、切替部200は、流体が流れている異物除去フィルタ100から他の異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替える。
【0049】
次に、エアチャンバ30の構成について、詳細に説明する。
【0050】
図3は、エアチャンバ30の構成を示す図である。
【0051】
同図に示すように、エアチャンバ30は、チャンバ入口部31、チャンバ本体32及びチャンバ出口部33を備えている。
【0052】
チャンバ入口部31は、血液浄化器20によって浄化された血液が流入する入口と、給液パック10から補充される補液が流入する入口の2つの入口を備えている。つまり、チャンバ入口部31から、当該血液と補液とが流入し、混合される。
【0053】
チャンバ本体32は、気泡が液体中を上昇する性質を利用して、混合された混合液中の気泡をチャンバ本体32のチャンバ入口部31側に集めることで、当該混合液中の気泡を捕集する。
【0054】
ここで、チャンバ本体32の流体の流れ方向の長さ(同図に示す長さa1)は、従来のドリップチャンバの本体の長さと同等である。具体的には、チャンバ本体32の長さa1は、100〜160mmである。
【0055】
また、チャンバ本体32の内径(同図に示す内径b1)は、従来のドリップチャンバの本体の内径よりも小さい。具体的には、チャンバ本体32の内径b1は、異物除去フィルタ100の内径よりも小さく、好ましくは、チャンバ本体32の内径b1は、チューブ80の内径(同図に示す内径c)の1.5〜2.5倍である。具体的には、チャンバ本体32の内径b1は、8〜12mmである。なお、従来のドリップチャンバの本体の内径は、16〜20mm(チューブ80の内径cの3〜4倍)である。
【0056】
エアチャンバ30は、長さa1及び内径b1がこのような寸法であれば、混合液中の気泡を効果的に捕集することができる。具体的には、エアチャンバ30は、従来のドリップチャンバと同等の6.4cc以上の気泡を捕集することができる。
【0057】
そして、チャンバ本体32によって気泡が除去された混合液は、チャンバ出口部33から流出される。このようにして、血液回路1内の気泡が患者の体内に流入しないように、血液回路1内から気泡が除去される。
【0058】
次に、異物除去フィルタ100の構成について、詳細に説明する。
【0059】
図4は、異物除去フィルタ100の構成を示す図である。
【0060】
同図に示すように、異物除去フィルタ100は、除去フィルタ入口部101、除去フィルタ本体102、フィルタ103及び除去フィルタ出口部104を備えている。
【0061】
除去フィルタ入口部101は、エアチャンバ30からの流体が流入する入口である。
【0062】
除去フィルタ本体102は、流体内の異物をろ過することで、血液回路1内の異物を除去する部位である。除去フィルタ本体102は、血液回路1内の異物をろ過するフィルタ103を備えている。このフィルタ103の詳細については、後述する。
【0063】
ここで、除去フィルタ本体102の流体の流れ方向の長さ(同図に示す長さa2)は、従来のドリップチャンバの本体の長さよりも短い。具体的には、除去フィルタ本体102の長さa2は、エアチャンバ30の流体の流れ方向の長さよりも短く、好ましくは、除去フィルタ本体102の長さa2は、45〜65mmである。なお、従来のドリップチャンバの本体の長さは、100〜160mmである。
【0064】
また、除去フィルタ本体102の内径(同図に示す内径b2)は、従来のドリップチャンバの本体の内径と同等である。具体的には、除去フィルタ本体102の内径b2は、15〜25mm(チューブ80の内径cの3〜5倍)である。
【0065】
異物除去フィルタ100は、長さa2及び内径b2がこのような寸法であれば、流体中の異物を効果的にろ過することができる。具体的には、異物除去フィルタ100は、従来のドリップチャンバと同等の異物をろ過することができる。
【0066】
そして、異物除去フィルタ100によって異物が除去された流体は、除去フィルタ出口部104から流出される。このようにして、血液回路1内の異物が患者の体内に流入しないように、血液回路1内から異物が除去される。
【0067】
次に、フィルタ103の構造について、詳細に説明する。
【0068】
図5A及び図5Bは、異物除去フィルタ100が備えるフィルタ103の構造を示す図である。具体的には、図5Aは、フィルタ103の外観を示す平面図であり、図5Bは、フィルタ103の断面を示す断面図である。
【0069】
これらの図に示すように、フィルタ103は、網目状(メッシュ状)のフィルタである。
【0070】
そして、フィルタ103の外表面の面積は、好ましくは、500〜2000平方ミリメートルであり、より好ましくは、1000〜1300平方ミリメートルである。これは、従来のドリップチャンバのフィルタの面積と同等である。
【0071】
また、フィルタ103のメッシュサイズは、好ましくは、0.2〜0.3mmである。これは、従来のドリップチャンバのフィルタのメッシュサイズと同等である。
【0072】
次に、制御部400の制御により、切替部200が異物除去フィルタ100を切り替える動作の一例について、説明する。
【0073】
図6は、切替部200が異物除去フィルタ100を切り替える動作の一例を示すフローチャートである。
【0074】
同図に示すように、まず、人工透析が行われることで、異物除去フィルタ100が、血液回路1内の流体に含まれる異物の除去を行う(S102)。
【0075】
そして、圧力検出部300は、異物除去フィルタ100の前後の差圧を検出する(S104)。異物除去フィルタ100には、異物が蓄積されていくので、圧力検出部300が検出する差圧は、徐々に大きくなっていく。
【0076】
そして、制御部400は、圧力検出部300が検出した差圧が、所定の値以上か否かを判断する(S106)。
【0077】
制御部400は、当該差圧が所定の値以上であると判断した場合(S106でYES)、切替部200に切替指示を出力する(S108)。
【0078】
そして、切替部200は、制御部400が出力した切替指示に従って、流体が流れている異物除去フィルタ100から他の異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替える(S110)。
【0079】
また、制御部400は、当該差圧が所定の値以上でないと判断した場合(S106でNO)、切替部200に切替指示を出力することなく、処理を終了する。
【0080】
次に、このような構成を備える血液回路1の効果について、詳細に説明する。
【0081】
まず、血栓の生じ易さの評価について、説明する。
【0082】
図7は、血栓の生じ易さを評価するための評価装置500を示す図である。
【0083】
同図に示すように、評価装置500は、血液容器501、生食容器502、三方活栓503、試験用フィルタ504、透過率測定器505、廃液容器506及びポンプP1、P2を備えている。
【0084】
血液容器501には、牛血が蓄えられている。また、生食容器502には、生理食塩水が蓄えられている。つまり、牛血と生理食塩水とは、試験用の試験液である。そして、ポンプP1、P2によりこの試験液を試験用フィルタ504に送液する。なお、三方活栓503は、試験液の切り替えに使用される。
【0085】
試験用フィルタ504は、メッシュ状のフィルタを備えている。そして、試験液は、試験用フィルタ504の2/3まで充填され、試験用フィルタ504下部の出口から廃液容器506に排出される。この試験用フィルタ504から試験液が排出される際に、透過率測定器505により、排出された試験液の透過率が測定される。
【0086】
以上の評価装置500において、透過率測定器505が測定する透過率から、生理食塩水が牛血に置換される置換状況をデータ化することで、当該置換が行われる置換時間を算出することができる。
【0087】
そして、置換時間が長いと、試験用フィルタ504内で長い時間の滞留が起こっていたものと判断できる。逆に、置換時間が短いと、試験用フィルタ504内での滞留時間は短いものと判断できる。そして、滞留時間が長いと血栓が生じ易く、滞留時間が短いと血栓が生じにくい。つまり、置換時間が短い試験用フィルタ504では、血栓が生じにくい。
【0088】
図8A、図8B、及び図9は、評価装置500による評価結果を示す図である。具体的には、図8Aは、試験用フィルタ504内のフィルタの面積と置換時間との関係を示すグラフである。また、図8Bは、試験用フィルタ504内のフィルタのメッシュサイズと置換時間との関係を示すグラフである。さらに、図9は試験用フィルタ504の長さである筒長と置換時間との関係を示すグラフである。
【0089】
図8Aに示すように、試験用フィルタ504内のフィルタの面積が増減しても、置換時間の増減は僅かである。つまり、同図に示すグラフの傾斜が緩やかである。このため、試験用フィルタ504内のフィルタの面積は、置換時間に大きくは影響を及ぼさない。
【0090】
また、図8Bに示すように、試験用フィルタ504内のフィルタのメッシュサイズが増減しても、置換時間の増減は僅かである。つまり、同図に示すグラフの傾斜が緩やかである。このため、試験用フィルタ504内のフィルタのメッシュサイズは、置換時間に大きくは影響を及ぼさない。
【0091】
ここで、図9に示すように、試験用フィルタ504の筒長が増減すると、置換時間も大きく増減している。つまり、同図に示すグラフの傾斜が急である。このため、試験用フィルタ504の筒長と置換時間とには相関が認められ、試験用フィルタ504の筒長は、置換時間に大きく影響を及ぼす。具体的には、試験用フィルタ504の筒長が長いほど、置換時間が長くなる。
【0092】
以上の結果により、試験用フィルタ504の筒長が長いと、置換時間が長くなる。つまり、試験用フィルタ504の筒長が長いと、滞留時間が長くなり、血栓が生じ易くなる。したがって、長さの短い異物除去フィルタ100を使用することで、血栓が生じにくくなる。
【0093】
ここで、本発明に係る血液回路1は、エアチャンバ30と異物除去フィルタ100とを分離して、別々に備える。このように、気泡の捕集と異物のろ過という2つの機能を分離することで、エアチャンバ30及び異物除去フィルタ100の長さと内径を、必要最小限の長さと内径にすることができる。
【0094】
そして、異物除去フィルタ100の長さは、エアチャンバ30の長さよりも短く、45〜65mmが好ましい。つまり、異物除去フィルタ100の長さを、従来のドリップチャンバの長さである100〜160mmと比べて短くすることができる。したがって、異物除去フィルタ100内の流体には滞留が起こりにくいため、血栓は生じにくい。このため、血栓の発生によるフィルタ103の通液不能を防ぎつつ、血液回路1内から異物を除去することができる。
【0095】
また、既述したように、血栓はフィルタ103に付着することで、大きく成長していく。このため、血栓の付着し易いフィルタを備えていないエアチャンバ30では、血栓は生じにくい。しかし、エアチャンバ30内でも滞留が起こると、血栓が生じる恐れはある。
【0096】
ここで、エアチャンバ30の内径は、異物除去フィルタ100の内径よりも小さく、チューブの内径の1.5〜2.5倍であるのが好ましい。つまり、エアチャンバ30の内径を、従来のドリップチャンバの内径であるチューブの内径の3〜4倍と比べて小さくすることができる。したがって、エアチャンバ30内の流体には滞留が起こりにくいため、血栓は生じにくい。このため、血栓の発生によるフィルタ103の通液不能を防ぎつつ、血液回路1内から気泡を除去することができる。
【0097】
また、異物除去フィルタ100は複数個備えられており、異物除去フィルタ100を切り替えることができる。したがって、異物除去フィルタ100が血栓などで詰まった場合でも、別の異物除去フィルタ100に切り替えることができる。
【0098】
また、異物除去フィルタ100の前後の差圧が高くなると、異物除去フィルタ100が切り替わる。したがって、異物除去フィルタ100が血栓などで詰まった場合でも、別の異物除去フィルタ100に切り替わる。
【0099】
また、異物除去フィルタ100が、患者と接続するための第一接続部50の近傍に配置される。したがって、異物除去フィルタ100が、交換可能かつ交換容易な場所に設置されるため、異物除去フィルタ100を交換する際に血液回路1全体を交換する必要はなく、血液透析の治療を続けることができる。また、血液が患者に返血される直前で異物がろ過されるので、患者への異物の流入を防ぐことができる。
【0100】
以上により、本発明に係る血液回路1によれば、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる。
【0101】
以上、本発明に係る血液回路について、上記実施の形態を用いて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0102】
つまり、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0103】
例えば、上記実施の形態では、異物除去部40は、3個の異物除去フィルタ100を備えており、切替部200は3個の異物除去フィルタ100を切り替えることとした。しかし、異物除去フィルタ100は3個に限定されず、1個であってもよく、4個以上備えられていてもよい。この場合、切替部200は、全ての異物除去フィルタ100の中から、1つの異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替える。
【0104】
また、上記実施の形態では、切替部200は、複数の異物除去フィルタ100のうちのいずれか1つの異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替えることとした。しかし、切替部200は、複数の異物除去フィルタ100のうちのいずれか2つ以上の異物除去フィルタ100に流体が流れるように、流体の流れを切り替えることにしてもよい。
【0105】
また、上記実施の形態では、切替部200は、異物除去フィルタ100の上流側に備えられ、切替部200出口の流路を切り替えることで、流体が流れる異物除去フィルタ100を切り替えることとした。しかし、図10に示すように、切替部200は、異物除去フィルタ100の下流側に備えられ、切替部200入口の流路を切り替えることで、流体が流れる異物除去フィルタ100を切り替えることにしてもよい。ここで、同図は、異物除去部40の他の構成を示す図である。また、切替部200は、異物除去フィルタ100の上流側及び下流側の両方に備えられており、流体が流れる異物除去フィルタ100を切り替えることにしてもよい。
【0106】
また、上記実施の形態では、圧力検出部300は、切替部200の入口の圧力と、異物除去フィルタ100の出口の圧力との差を検出することとした。しかし、圧力検出部300は、異物除去フィルタ100の前後の差圧を検出できるのであれば、どの位置の圧力を検出しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明にかかる血液回路は、例えば腎機能不全の患者に対して、その患者の血液を浄化するために、血栓の発生によるフィルタの通液不能を防ぎつつ、血液回路内から気泡と異物とを除去することができる機能を備える血液回路等として有用である。
【符号の説明】
【0108】
1 血液回路
10 給液パック
20 血液浄化器
30 エアチャンバ
31 チャンバ入口部
32 チャンバ本体
33 チャンバ出口部
40 異物除去部
50 第一接続部
60 第二接続部
70 ろ液パック
80 チューブ
90 ドリップチャンバ
100 異物除去フィルタ
101 除去フィルタ入口部
102 除去フィルタ本体
103 フィルタ
104 除去フィルタ出口部
200 切替部
300 圧力検出部
400 制御部
500 評価装置
501 血液容器
502 生食容器
503 三方活栓
504 試験用フィルタ
505 透過率測定器
506 廃液容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に接続された状態で血液を浄化する血液回路であって、
前記血液回路内の気泡を捕集するエアチャンバと、
前記エアチャンバの下流側に配置され、異物をろ過するフィルタを備える異物除去フィルタと
を備える血液回路。
【請求項2】
前記異物除去フィルタの流体の流れ方向の長さは、前記エアチャンバの流体の流れ方向の長さよりも短い
請求項1に記載の血液回路。
【請求項3】
前記異物除去フィルタの流体の流れ方向の長さは、45〜65ミリメートルである
請求項2に記載の血液回路。
【請求項4】
前記フィルタは、網目状のフィルタであり、前記フィルタの外表面の面積は、1000〜1300平方ミリメートルである
請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液回路。
【請求項5】
さらに、
前記エアチャンバと前記異物除去フィルタとを接続するチューブを備え、
前記エアチャンバの内径は、前記チューブの内径の1.5〜2.5倍である
請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液回路。
【請求項6】
前記エアチャンバの内径は、8〜12ミリメートルである
請求項5に記載の血液回路。
【請求項7】
前記異物除去フィルタは複数個備えられており、
前記血液回路は、さらに、
複数の前記異物除去フィルタのうちのいずれかの異物除去フィルタに流体が流れるように、流体の流れを切り替える切替部を備える
請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液回路。
【請求項8】
さらに、
前記異物除去フィルタの前後の差圧を検出する圧力検出部と、
前記圧力検出部が検出した差圧が、所定の値以上になった場合に、前記切替部に切替指示を出力する制御部とを備え、
前記切替部は、前記切替指示に従って、流体が流れている異物除去フィルタから他の異物除去フィルタに流体が流れるように、流体の流れを切り替える
請求項7に記載の血液回路。
【請求項9】
さらに、
前記異物除去フィルタの下流側に、人体と接続するための接続部を備え、
前記異物除去フィルタは、前記接続部の近傍に配置される
請求項1〜8のいずれか1項に記載の血液回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−213941(P2010−213941A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65238(P2009−65238)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】