説明

血液検査用マイクロチップおよびその使用方法

【課題】全血サンプルにおける脂肪等の不溶成分の存在および/または血球成分過多を、マイクロチップを用いた検査・分析の一連の操作の中で検知することができ、もって、該検査・分析で得られた測定データの正確性、信頼性を保証することができるマイクロチップを提供する。
【解決手段】マイクロチップ内に導入される全血を含むサンプルから血漿成分を分離するための血漿分離部102を備え、該血漿分離部102は、分離後の血漿成分を主に収容する血漿収容部110と、該血漿収容部底部に接続された、分離後の血球成分を主に収容する血球収容部120とから構成されており、血漿分離部に照射される照射光の光路を、血漿収容部内に収容される分離後の血漿成分の液面と、血漿収容部底部とを通るように調整するための光路調整手段130を有する、血液検査用マイクロチップおよびその使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば、検査・分析の対象となるサンプル(血液等)を処理するための、あるいは該サンプルと反応させるための液体試薬を保持する液体試薬保持部、サンプル(あるいはサンプル中の特定成分)や液体試薬を計量する計量部、サンプル(あるいはサンプル中の特定成分)と液体試薬とを混合する混合部、混合液について分析および/または検査するための検出部などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(たとえば、数百μm程度の幅)とから主に構成される。
【0004】
このような流体回路を有するマイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm程度のチップ内で行なえることから、サンプルおよび試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、サンプルを採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有し、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0005】
血液検査用マイクロチップにおいては、全血中の血漿成分を用いて各種検査が行なわれることが多いことから、通常、マイクロチップの流体回路は、流体回路内に導入された全血から血球を取り除き、血漿成分を抽出、分離する血漿分離部を備えている。しかしながら、たとえば高脂血症を患っているまたはその徴候を有する者から採取した血液を検査する場合、分離された血漿成分は脂肪等の血漿成分に対して不溶である成分を含んでおり、該不溶成分は、血漿成分についての精密な検査・分析を妨げる恐れがある。また、被験者が高ヘマトクリット血症等であるために、全血サンプル中の血球量が通常に比べて多い場合には、分離された血漿成分中に、血球成分が混入している場合があり、この場合にも、血漿成分についての精密な検査・分析が妨げられる恐れがある。すなわち、検出部に導入される混合液が脂肪等の不溶成分や血球成分を含んでいると、光学測定により混合物中の特性成分の検出等を行なう場合において、該不溶成分および/または血球成分の存在により検出部に照射された光が阻害されて、正確な測定データが得られないという問題があった。また、溶血によって血球中の成分が血漿中に混合されて、正確な測定データが得られないという問題もあった。そして、分離された血漿成分中に不溶成分や血球成分が含まれているかどうかがわからない限り、仮に得られた測定データが正しいものであったとしても、該測定データを「正しい」と保証することはできないし、また、不溶成分や血球成分の影響により誤った測定データが得られていたとしても、該測定データが「誤った」ものであるかどうかを判断することはできない。
【0006】
したがって、全血サンプル中の脂肪等不溶成分の存在や全血サンプルが血球過多であるかどうかの成分異常を知ることができれば、上記混合液についての検査・分析データの信頼性を高めることができる。そして、このような不溶成分の存在や血球過多の有無を判断する機能をマイクロチップ自体が有していると、1回の操作で成分異常の判断と血漿成分についての検査・分析とを行なうことができるため、極めて好ましい。
【0007】
特許文献1には、血液分析装置の所定の位置に導入されたサンプル(全血)に光を照射し、その透過光を検出することにより、高脂血症等であるかどうかを判断することが記載されている(請求項23および図11等参照)。しかし、この方法は、成分分離が行なわれていない全血に対して測定を行なうものであるため、検出感度は低く、高脂血症かどうかの判断の妥当性は極めて低いと考えられる。
【特許文献1】米国特許第5590052号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、全血サンプルにおける脂肪等の不溶成分の存在および/または血球成分過多を、マイクロチップを用いた検査・分析の一連の操作の中で検知することができ、もって、該検査・分析で得られた測定データの正確性、信頼性を保証することができるマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、マイクロチップ内に導入される全血を含むサンプルから血漿成分を分離するための血漿分離部を備え、該血漿分離部は、分離後の血漿成分を主に収容する血漿収容部と、該血漿収容部底部に接続された、分離後の血球成分を主に収容する血球収容部とから構成されており、血漿分離部に照射される照射光の光路を、血漿収容部内に収容される分離後の血漿成分の液面と、血漿収容部底部とを通るように調整するための光路調整手段を有する、血液検査用マイクロチップである。
【0010】
本発明の血液検査用マイクロチップにおいて血漿分離部は、光路調整手段として、第1のミラーを備え、該第1のミラーは、血漿収容部内に収容される分離後の血漿成分の液面近傍または血漿収容部底部近傍のいずれか一方に配置されることが好ましく、血漿収容部内に収容される分離後の血漿成分の液面近傍に配置されることがより好ましい。
【0011】
また、血漿分離部は、血漿収容部内に収容される分離後の血漿成分内を通過した光の光路を変えるための第2のミラーをさらに備えることが好ましい。該第2のミラーは、分離後の血漿成分の液面近傍または血漿収容部底部近傍のいずれか一方であって、第1のミラーが配置されていない側に配置される。
【0012】
好ましくは、血漿分離部に照射される照射光は、第1のミラーおよび第2のミラーを介して、当該照射光の光源位置またはその近傍に誘導される。
【0013】
光路調整手段によって光路を調整された光の光路は、マイクロチップ表面に対して略平行であることが好ましい。また、血漿分離部に照射される照射光の光路は、マイクロチップ表面に対して略垂直であることが好ましい。
【0014】
本発明の血液検査用マイクロチップにおいて、血漿収容部は、その側面に、少なくとも分離後の血漿成分の液面位置から血漿収容部底部にわたって形成された突出部を有していてもよい。この場合、血漿分離部に照射される照射光の光路は、光路調整手段により、該突出部内に収容される分離後の血漿成分の液面と、該突出部底部とを通るように調整されることが好ましい。
【0015】
また、本発明の血液検査用マイクロチップは、血漿収容部は、その側面に、分離後の血漿成分の液面位置に形成された第1の突出部および血漿収容部底部に形成された第2の突出部またはこれらのうちいずれか一方の突出部と、血漿分離部に照射される照射光の光路を、第1の突出部および/または第2の突出部を通るように調整するための光路調整手段とを有する構成としてもよい。好ましくは、血漿分離部に照射される照射光の光路は、光路調整手段により、該第1の突出部内に収容される分離後の血漿成分の液面および/または該第2の突出部底部を通るように調整される。
【0016】
また本発明は、以下の工程を含む、上記した血液検査用マイクロチップの使用方法を提供する。
(1)マイクロチップに遠心力を印加することにより、サンプルを血漿分離部に導入する工程、
(2)マイクロチップに遠心力を印加することにより、サンプル中の血漿成分と血球成分とを分離する工程、
(3)光路調整手段に対して光を照射して、分離後の血漿成分が収容された血漿収容部内を通過させる工程、および、
(4)血漿収容部から出射した光を検出する工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、全血サンプル中の脂肪等不溶成分の存在や全血サンプルが血球過多であるかどうかの成分異常を検知できるため、当該マイクロチップを用いた検査・分析で得られた測定データの正確性、信頼性を保証することができる。特に、本発明においては、当該マイクロチップを用いた検査・分析のための一連の操作の中で、成分異常を検知できるため、別途の分析装置を併用する場合と比較して極めて効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、全血サンプル中の脂肪等不溶成分の存在や全血サンプルが血球過多であるかどうかの成分異常を検知するための部位をその流体回路内に備える血液検査用マイクロチップに関するものである。本発明のマイクロチップの大きさは、特に限定されないが、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm程度とすることができる。本発明の血液検査用マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置に載置して使用される。すなわち、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより、全血サンプルから血漿成分を取り出した後、該血漿成分および液体試薬の計量、混合等が行なわれ、検出部において混合液中の特定成分の検出などがなされる。
【0019】
本発明に係る血液検査用マイクロチップ内部に形成される流体回路は、特に限定されるものではないが、典型的には、全血サンプルから血球等を除去して血漿成分を得る血漿分離部、液体試薬を保持するための液体試薬保持部、当該液体試薬および取り出された血漿成分を計量するための各計量部、計量された液体試薬と血漿成分とを混合する混合部、ならびに得られた混合液について検査・分析を行なうための検出部を備える。必要に応じてその他の部位が設けられる。各部は、1つのマイクロチップにおいて2以上あってもよい。本発明において、血漿分離部は、上記した全血サンプルの成分異常を検知可能な構成とされている。
【0020】
流体回路を構成する上記各部は、外部からの遠心力の印加により、血漿成分や液体試薬の計量、血漿成分と液体試薬との混合、混合液の検出部への導入などを順次行なうことができるように、適切な位置に配置され、かつ微細な流路(以下、単に流路と称することがある。)を介して接続されている。なお、検出部における上記混合液の検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)は、通常、たとえば検出部に光を照射して、出射される光の強度などを検出する、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する等の光学的測定により行なわれるが、これに限定されるものではない。以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の血液検査用マイクロチップの流体回路構造の一例を示す概略上面図である。図1に示されるマイクロチップは、被験者から採取された全血を含むキャピラリー等のサンプル管を組み込むためのサンプル管載置部101、サンプル管より導出された全血から血球などを除去して血漿成分を得る血漿分離部102、分離された血漿成分を計量する第1の計量部103、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部104a、104b、液体試薬を計量する第2の計量部105aおよび第3の計量部105b、血漿成分と液体試薬とを混合する混合部106a〜106d、ならびに、得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部107から主に構成される。なお、液体試薬保持部および混合部の数等は、図1に示される数に限定されるものではない。
【0022】
図2は、図1のマイクロチップにおける血漿分離部102を拡大して示す概略上面図である。図2に示されるように、血漿分離部102は、血漿収容部110と血球収容部120とから構成される。血漿収容部110は、血漿分離部102において全血サンプルの成分分離が行なわれた後の、主に血漿成分からなる層を収容する部位であり、血球収容部120は、成分分離後の、主に血球からなる層を収容する部位である。血球収容部120の一端は、血漿収容部110の底部110aに接続されている。また、血球収容部120の他端は、流路121を介して、図2において示されていない廃液溜め部(図1における廃液溜め部108)に接続されている。さらに、血漿収容部110の上部領域、より具体的には成分分離後の血漿成分の液面上部近傍には、光路調整手段としての第1のミラー130が設置されており、また、血漿収容部110の外側であって、血漿収容部の底部110a近傍には、第1のミラー130に対向するように第2のミラー140が設置されている。
【0023】
かかる構造を有する本実施形態のマイクロチップによれば、たとえば次のようにして、全血サンプル中の脂肪等不溶成分の存在や全血サンプルが血球過多であるかどうかの成分異常を検知することができる。図3を参照して説明する。図3は、図2に示される血漿分離部102に全血サンプルが導入され、遠心分離(成分分離)した後の状態を示す概略上面図である。まず、マイクロチップに遠心力を印加することにより、全血サンプルを血漿分離部102内に導入する。ついで、さらに遠心力を印加して、全血サンプルの遠心分離を行ない、血漿成分210と血球成分220とに分離する。このとき、全血サンプルが高脂血症患者由来である等、脂肪等の血漿成分に不溶である不溶成分が全血サンプル中に存在する場合には、血漿収容部110に収容された血漿成分210の液面に該不溶成分からなる浮遊物230の層(薄膜)が形成される。また、全血サンプルが高ヘマトクリット血症患者由来である等、血球成分を多く含む場合には、血球成分220は、血球収容部120に収容し切れず、血漿収容部110にまで溢れることとなる。
【0024】
上記全血サンプルの遠心分離後、たとえばマイクロチップ表面に対して略垂直な角度から、第1のミラー130へ光を照射する(図3の矢印は、照射光の光路を示している)。第1のミラー130は、入射された光を全反射するように構成されており(たとえば、マイクロチップ表面に対して45°程度の傾斜をもつ鏡面を有している)、第1のミラー130に入射された光は、血漿収容部110内に収容された血漿成分210の液面(すなわち、該液面上に形成された浮遊物230の層)および血漿収容部の底部110aを通る光路で、血漿収容部110内に収容された血漿成分210内を通過する。
【0025】
ここで、図4は、図2に示される血漿分離部の概略断面図であり、図4(a)は、I−I線における断面図、図2(b)は、II−II線における断面図である。図4に示されるように、第1のミラー130は、特に限定されないが、たとえばマイクロチップを構成する一方の基板の内側天井面に、三角柱状の突起を設けた構成とすることができる。該突起(第1のミラー)には、たとえばマイクロチップ表面に対して45°程度の傾斜をもつ全反射ミラーを有している。かかる構成により、当該第1のミラー130に照射された光の光路を、血漿収容部110内に収容された血漿成分210の液面および血漿収容部の底部110aを通る光路へ調整することを可能にするとともに、血漿収容部110内の血漿成分210の液面から出射された光の光路を、光源位置またはその近傍の方向へ調整することを可能としている(図3の矢印参照)。
【0026】
血漿収容部の底部110aから出射した光は、第2のミラー140によって光路を変えられ、再度、血漿収容部110内に収容された血漿成分210内を通過した後、第1のミラー130によって照射光の光源位置またはその近傍に誘導される(光源については図示せず)。第2のミラー140としては、図2および図3に示されるように、血漿収容部110から出射した光の光路を、180°程度変化させることができるように、およそ90°の角度をなすV字状の溝を有し、該溝表面が鏡面となっている全反射ミラーを用いることができる。ただし、全反射ミラーの形状は、90°のV字に限定されるものではない。
【0027】
光源位置またはその近傍に誘導された光は、同位置に備えられた検出器または光源と検出器とが一体化された機器を用いて、たとえば、その光の透過率(すなわち、当該検出器に誘導された光の強度と照射光強度との比)が測定される。図3に示される状態においては、照射光は、血漿成分210の液面に形成された浮遊物230の層および血漿収容部110にまで溢れた血球成分220の層を通過するため、当該浮遊物230の層および血球成分220の層が存在しない場合と比較して、光の透過率が減少する。すなわち、血漿収容部110内を通過させた光を検出し、その透過率を測定することにより、全血サンプルが、脂肪等の浮遊物の存在または血球成分過多の少なくともいずれかの成分異常を有していることを知ることができる。一方、透過率の低下が認められない(すなわち、透過率の低下が、血漿成分のみを通過させた場合と同程度である)場合には、上記成分異常はないと判断できる。このように、本実施形態のマイクロチップによれば、全血サンプルの成分異常の有無を検知することができるため、マイクロチップを用いた血漿成分についての検査・分析結果の正確性を保証することができるとともに、成分異常ありと検知された場合には、その旨および検査結果の信頼性に疑義があり得ることを被験者に喚起することができる。
【0028】
また、本実施形態のマイクロチップにおいては、第1のミラー130のような光路調整手段を有しているため、照射光は、血漿収容部110内に収容された遠心分離後の血漿成分210の液面(すなわち、該液面上に形成された浮遊物230の層)および血漿収容部の底部110aを通る。これにより、脂肪等の浮遊物の存在および血球成分過多の両方の成分異常を同時に、一回の光照射で検知することが可能となる。また、高脂血症等に由来する脂肪等の浮遊物は、概して非常に薄い薄膜として血漿成分液面に浮遊するが、このような場合であっても、上記した方向で光を通過させることにより、その検出が容易となる。なお、上記した特許文献1においては、血液分析装置の表面に対して垂直に光を照射するものであり、この場合には、薄膜状に形成された浮遊物に対して正確に光を照射して薄膜の存在を検知することは極めて困難である。
【0029】
さらに、本実施形態のマイクロチップにおいては、全血サンプルの成分分離後に成分異常の検知を行なうことができるような構成としており、成分異常の検知は、分離された各成分について光を照射することにより行なわれるため、精度の高い検知が可能となる。一方、上記した特許文献1においては、成分分離されていない全血に対して高脂血症かどうかの測定を行なうものであり、その測定感度は極めて低いと考えられる。また、血球過多であるかどうかは、成分分離して初めて検知し得るものである。
【0030】
ここで、第1の実施形態のマイクロチップについては、本発明の効果を逸しない範囲で種々の変形を加えることができる。たとえば、第2のミラー140は省略されてもよい。この場合、血漿収容部110から出射した光の光路の延長線上に検出器が設置されることとなる。ただし、図2に示されるような、光の光路を、180°程度変化させることが可能な第2のミラーは、光源と検出器とが一体化された機器を用いる場合に好適であり、また、血漿収容部110内を2回通過させることができるので、透過率の変化を感度よく検出することができるため好ましい。
【0031】
第2のミラー140は、第1のミラー130と同様の構成としてもよい。このようなミラーを第2のミラーとして用いると、血漿収容部110から出射した光は、再度血漿収容部110内に戻ることなく、マイクロチップ表面に対して略垂直方向に進むこととなる。
【0032】
また、第1のミラーは、血漿収容部110の上部領域(血漿成分の液面近傍)ではなく、図2において第2のミラー140が設置されている場所に設置してもよい。この場合、第2のミラーは、図2において第1のミラー130が設置されている場所に設置してもよいし、あるいは、上記と同様に省略されてもよい。
【0033】
第1のミラー130によって光路を調整された光(すなわち、血漿収容部110内に収容された遠心分離後の血漿成分内を通過する光)の光路は、典型的には、マイクロチップ表面に対して略平行(完全に平行である場合も含む)とすることができるが、これに限定されるものではなく、少なくとも血漿収容部110内に収容された遠心分離後の血漿成分の液面と、血漿収容部の底部110aとを通る光路であればよい。また、第1のミラー130に照射される照射光の入射角度は、典型的には、マイクロチップ表面に対して略垂直(完全に垂直である場合も含む)とすることができるが、これに限定されるものではなく、第1のミラー130によって反射された光が、遠心分離後の血漿成分の液面と、血漿収容部の底部110aとを通るように、第1のミラー130の鏡面の傾斜角度等を考慮して適宜選択される。
【0034】
血漿収容部および血球収容部の容積は、特に限定されるものではなく、マイクロチップ内に導入される全血サンプルの量や、どの程度の血球過多であれば成分異常と判断するかの判断基準に応じて適宜決定される。
【0035】
次に、図1に示される本実施形態のマイクロチップの動作方法の一例について説明する。なお、以下に説明する動作方法は一例を示したものであり、この方法に限定されるものではない。まず、全血サンプルを採取したサンプル管をサンプル管載置部101に挿入する。次に、マイクロチップに対して、図1における左向き方向(以下、単に左向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管内の全血サンプルを取り出した後、下向きの遠心力により、全血サンプルを血漿分離部102に導入して遠心分離を行ない、血漿成分と血球成分とに分離する。この際、全血サンプルに脂肪等の浮遊物が含まれている場合には、当該浮遊物も分離され、血漿成分の液面に膜を形成する。また、この下向き遠心力により、液体試薬保持部104a内の液体試薬Xは、第2の計量部105aにて計量される。次に、血漿分離部102に設置された第1のミラーに光を照射し、上記した方法により、成分異常を確認する。
【0036】
ついで、分離された血漿成分を、右向き遠心力により第1の計量部103に導入する。この際、分離された血球成分は、廃液溜め部108に移動する。また、計量された液体試薬Xは、混合部106bに移動するとともに、液体試薬保持部104b内の液体試薬Yは、液体試薬保持部104bから排出される。
【0037】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分と液体試薬Xとが混合部106aにて混合されるとともに、液体試薬Yは、第3の計量部105bにて計量される。ついで、右向き、下向き、右向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部106aおよび106b間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。次に、上向き遠心力により、液体試薬Xおよび血漿成分からなる混合液と計量された液体試薬Yとを混合部106cにて混合させる。ついで、左向き、上向き、左向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部106cおよび106d間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。最後に、右向き遠心力により、混合部106c内の混合液を検出部107に導入して、たとえば上記した光学的手法を用いて混合液の検査・分析を行なう。
【0038】
(第2の実施形態)
図5は、本発明における第2の実施形態の血液検査用マイクロチップの血漿分離部を拡大して示す概略上面図である。また、図6は、図5のV−V線における断面図である。以下、本実施形態の特徴部について述べるが、それ以外については第1の実施形態と同様である。図5に示されるマイクロチップは、血漿収容部510の側面に突出部511を有している。この突出部511は、第1のミラー530によって光路を調整された光を通過させるための部位である。すなわち、第1のミラー530と第2のミラー540とは、突出部511をその間に介在させて対向するように設置される。このような突出部を血漿収容部510に設けることにより、第1のミラーおよび第2のミラーを血漿収容部の外側に配置することができる。
【0039】
本実施形態においては、図6に示されるように、第1のミラー530および第2のミラー540として、たとえば、マイクロチップ表面に対して45°程度の傾斜をもつ鏡面を有するミラーを用いることができる。これにより、マイクロチップ表面に対して、たとえば略垂直な角度で第1のミラー530に入射された照射光は、突出部511内に収容された血漿成分610の液面(すなわち、該液面上に形成された浮遊物630の層)および突出部の底部511aを通過した後、再度マイクロチップ表面に対して略垂直な方向に光路が調整され、該出射光が検出器により検出される。
【0040】
ここで、突出部511は、少なくとも遠心分離後の血漿成分の突出部における液面位置から、血漿収容部510の底部にわたって形成されていればよい。マイクロチップに導入されたサンプルは、血漿分離部への導入時に一定量のサンプルが計量され、過剰量のサンプルは廃液溜め部へ流出する。したがって、突出部における血漿成分の液面位置は、血漿分離部におけるサンプル計量量によって必然的に定まる。突出部511の幅(図5におけるA)は、たとえば3〜15mm程度とすることができる。また、突出部511の突出高さ(図5におけるB)は、特に制限されるものではなく、たとえば第1のミラーの幅と同程度かあるいはそれ以上とすることができる。
【0041】
以上のような本実施形態のマイクロチップによれば、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
本実施形態のマイクロチップは、上記第1の実施形態と同様の変形を施すことができる。たとえば、第2のミラー540は、必ずしも有していなくてもよい。その他の変形については上記したとおりである。
【0043】
(第3の実施形態)
図7は、本発明における第3の実施形態の血液検査用マイクロチップの血漿分離部を拡大して示す概略上面図である。以下、本実施形態の特徴部について述べるが、それ以外については第1あるいは第2の実施形態と同様である。図7に示されるマイクロチップは、血漿収容部710の側面に第1の突出部711と第2の突出部712とを有している。これらの突出部は、第1のミラー730によって光路を調整された光を通過させるための部位である。すなわち、第1のミラー730と第2のミラー740とは、第1の突出部711および第2の突出部712をその間に介在させて対向するように設置される。第1のミラー730および第2のミラー740としては、第2の実施形態と同様のものを用いることができる。本実施形態の特徴は、血漿収容部710に収容された血漿成分の液面位置および血漿収容部710の底部にのみ突出部を設けた点である。
【0044】
本実施形態において、マイクロチップ表面に対して、たとえば略垂直な角度で第1のミラー730に入射された照射光は、第1の突出部711内に収容された血漿成分610の液面(すなわち、該液面上に形成された浮遊物830の層)および第2の突出部712の底部712aを通過した後、再度マイクロチップ表面に対して略垂直な方向に光路が調整され、該出射光が検出器により検出される。
【0045】
ここで、第1の突出部711および第2の突出部712の幅(図7におけるC1およびC2)は、たとえば0.3〜5mm程度とすることができる。C1およびC2は同じ値であっても、異なる値であってもよい。また、第1の突出部711および第2の突出部712の突出高さ(図7におけるD1およびD2)は、特に制限されるものではなく、たとえば第1のミラーの幅と同程度かあるいはそれ以上とすることができる。D1およびD2は同じ値であっても、異なる値であってもよい。また、第1の突出部および第2の突出部の両方を有している必要は必ずしもなく、いずれか一方の突出部のみを有していてもよい。
【0046】
以上のような本実施形態のマイクロチップによれば、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第1の突出部711、第2の突出部712のいずれか一方のみを有している場合には、脂肪等不溶成分の存在または血球過多であるかどうかを検知することができる。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における第1の実施形態の血液検査用マイクロチップの流体回路構造の一例を示す概略上面図である。
【図2】図1のマイクロチップにおける血漿分離部を拡大して示す概略上面図である。
【図3】図2に示される血漿分離部に全血サンプルが導入され、遠心分離した後の状態を示す概略上面図である。矢印は、照射光の光路を示している。
【図4】図2に示される血漿分離部の概略断面図である。
【図5】本発明における第2の実施形態の血液検査用マイクロチップの血漿分離部を拡大して示す概略上面図である。
【図6】図5のV−V線における断面図である。
【図7】本発明における第3の実施形態の血液検査用マイクロチップの血漿分離部を拡大して示す概略上面図である。
【符号の説明】
【0049】
101 サンプル管載置部、102 血漿分離部、103 第1の計量部、104a,104b 液体試薬保持部、105a 第2の計量部、105b 第3の計量部、106a,106b,106c,106d 混合部、107 検出部、108 廃液溜め部、110,510,710 血漿収容部、110a 血漿収容部の底部、120,520,720 血球収容部、121,521,721 流路、130,530,730 第1のミラー、140,540,740 第2のミラー、210,610,810 血漿成分、220,620,820 血球成分、230,630,830 浮遊物、511 突出部、511a 突出部の底部、711 第1の突出部、712 第2の突出部、712a 第2の突出部の底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチップ内に導入される全血を含むサンプルから血漿成分を分離するための血漿分離部を備え、
前記血漿分離部は、
分離後の血漿成分を主に収容する血漿収容部と、前記血漿収容部底部に接続された、分離後の血球成分を主に収容する血球収容部とから構成されており、
前記血漿分離部に照射される照射光の光路を、前記血漿収容部内に収容される前記分離後の血漿成分の液面と、前記血漿収容部底部とを通るように調整するための光路調整手段を有する、血液検査用マイクロチップ。
【請求項2】
前記血漿分離部は、前記光路調整手段として、第1のミラーを備え、
前記第1のミラーは、前記血漿収容部内に収容される前記分離後の血漿成分の液面近傍または前記血漿収容部底部近傍のいずれか一方に配置される、請求項1に記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項3】
前記第1のミラーは、前記血漿収容部内に収容される前記分離後の血漿成分の液面近傍に配置される、請求項2に記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項4】
前記血漿分離部は、前記血漿収容部内に収容される前記分離後の血漿成分内を通過した光の光路を変えるための第2のミラーをさらに備え、
前記第2のミラーは、前記分離後の血漿成分の液面近傍または前記血漿収容部底部近傍のいずれか一方であって、前記第1のミラーが配置されていない側に配置される、請求項2または3に記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項5】
前記血漿分離部に照射される照射光は、前記第1のミラーおよび前記第2のミラーを介して、前記照射光の光源位置またはその近傍に誘導される、請求項4に記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項6】
前記光路調整手段によって光路を調整された光の光路は、マイクロチップ表面に対して略平行である、請求項1〜5のいずれかに記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項7】
前記血漿分離部に照射される照射光の光路は、マイクロチップ表面に対して略垂直である、請求項1〜6のいずれかに記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項8】
前記血漿収容部は、その側面に、少なくとも前記分離後の血漿成分の液面位置から前記血漿収容部底部にわたって形成された突出部を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項9】
前記血漿分離部に照射される照射光の光路は、前記光路調整手段により、前記突出部内に収容される分離後の血漿成分の液面と、前記突出部底部とを通るように調整される、請求項8に記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項10】
前記血漿収容部は、その側面に、前記分離後の血漿成分の液面位置に形成された第1の突出部および/または前記血漿収容部底部に形成された第2の突出部とを有し、
前記血漿分離部に照射される照射光の光路を、前記第1の突出部および/または第2の突出部を通るように調整するための光路調整手段を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項11】
前記血漿分離部に照射される照射光の光路は、前記光路調整手段により、前記第1の突出部内に収容される分離後の血漿成分の液面および/または前記第2の突出部底部を通るように調整される、請求項10に記載の血液検査用マイクロチップ。
【請求項12】
請求項1に記載の血液検査用マイクロチップの使用方法であって、
(1)前記マイクロチップに遠心力を印加することにより、前記サンプルを前記血漿分離部に導入する工程と、
(2)前記マイクロチップに遠心力を印加することにより、前記サンプル中の血漿成分と血球成分とを分離する工程と、
(3)前記光路調整手段に対して光を照射して、前記分離後の血漿成分が収容された前記血漿収容部内を通過させる工程と、
(4)前記血漿収容部から出射した光を検出する工程と、
を含む血液検査用マイクロチップの使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate