説明

血液浄化システム

【課題】輸液ラインにおけるフリーフローを簡単かつ適正に防止する血液浄化システムを提供する。
【解決手段】血液浄化システム1は、血液浄化器10と、血液回路13と、血液を送液する血液ポンプ14と、液体貯留容器15と、輸液ライン16と、輸液ポンプ18と、液体貯留容器15から血液回路13への送液流量の異常を検知する流量異常検知装置19と、流量異常検知装置19が送液流量の異常を検知したときに、血液ポンプ14と輸液ポンプ18の送液を停止させる制御装置20とを有している。液体貯留容器15は、薬液の落差圧が患者血圧よりも低くなるような位置に設けられ、輸液ライン16上には、液体貯留容器15側への液体の流れを防止する逆止弁17が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、血液浄化療法で用いられる血液浄化システムは、血液浄化器と、一端が患者に接続され他端が血液浄化器の入口に接続される動脈ラインと、一端が血液浄化器の出口に接続され他端が患者に接続される静脈ラインと、動脈ライン上にあり血液を血液浄化器に送液する血液ポンプを主に備えている。また、血液浄化システムは、上記構成に加えて、例えば液体貯留容器と、液体貯留容器から動脈ライン上の血液ポンプの上流側に抗凝固液などの薬液を供給する輸液ラインと、輸液ラインのチューブを押圧しながら扱いて送液する輸液ポンプを備えることがある。この場合、血液浄化処理中に、液体貯留容器の薬液が輸液ラインを通じて動脈ラインに注入され、患者に薬液が投与される。
【0003】
しかしながら、上記輸液を行う血液浄化システムには、次のようないわゆるフリーフローの問題がある。
【0004】
フリーフローは、輸液ポンプから輸液ラインのチューブが離脱し、チューブが輸液ポンプの押圧力から開放されて、チューブ内が開放状態となり、液体貯留容器内の薬液がチューブを通じて動脈ラインに流れ込むこと、または、何らかの原因で輸液ポンプのチューブへの押圧力が低下して、チューブ内を閉鎖できなくなり、液体貯留容器の薬液がチューブを通じて動脈ラインに流れ込むことによって生じる。かかるフリーフローが生じると、薬液の流量が制御できないので、不適正な量の薬液が患者に投与されてしまう。
【0005】
そこで、上述のフリーフローを防止するためのいくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1には、チューブの液に輸液ポンプの駆動力が作用した場合にのみ開放状態となる弁を輸液ライン上に配置することが開示されている。特許文献2には、輸液ポンプから輸液ラインが離脱した場合に閉塞するクランプを有する輸液ラインと専用輸液ポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−296142号公報
【特許文献2】特開2009−119161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された、チューブの液に輸液ポンプの駆動力が作用した場合にのみ開放状態となる弁は、特殊な構造を有し高価になるため一般的な使用には向かない。更には、動脈ラインの血液ポンプ等により弁の下流側が陰圧になる場合に、弁が開放状態となる可能性があるためフリーフローを防止できない。特許文献2に記載された発明では、余分なクランプと専用輸液ポンプが必要となり、高価になる。また、輸液ポンプから輸液ラインのチューブが離脱した場合のフリーフローは防止できるが、チューブが輸液ポンプから離脱せず、チューブへの押圧力が低下した場合のフリーフローは防止できない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、上記輸液ラインにおけるフリーフローを簡単かつ適正に防止する血液浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、血液浄化器と、採血部から前記血液浄化器に患者の血液を供給し、当該血液浄化器から返血部に血液を戻すための血液回路と、前記血液回路上に設けられ、血液を送液する血液ポンプと、輸液用の液体を貯留する液体貯留容器と、一端が前記液体貯留容器に接続され、他端が前記血液回路に接続された輸液ラインと、前記輸液ライン上に設けられ、前記液体貯留容器内の液体を前記血液回路に送液する輸液ポンプと、前記液体貯留容器から前記血液回路への送液流量の異常を検知する流量異常検知装置と、前記流量異常検知装置が送液流量の異常を検知したときに、前記血液ポンプと前記輸液ポンプの送液を停止させる制御装置と、を有し、前記液体貯留容器は、前記液体の落差圧が患者血圧よりも低くなるような位置に設けられ、前記輸液ライン上には、前記液体貯留容器側への液体の流れを防止する逆止弁が設けられている。
【0010】
本発明によれば、流量異常検知装置により液体貯留容器から血液回路への送液流量の異常を検知したときに、血液ポンプと輸液ポンプによる送液が停止される。そして、液体貯留容器は、液体の落差圧が患者血圧よりも低くなるような位置に設けられているので、送液が停止されても液体貯留容器の液体が輸液ラインを通じて血液回路内に流入しさらに患者に流入することを防止できる。さらに、輸液ライン上に逆止弁が設けられているので、液体貯留容器の液体の落差圧が低くても、血液回路の血液が輸液ライン側に逆流することを防止できる。よって、輸液ラインにおけるフリーフローを簡単かつ適正に防止できる。
【0011】
前記流量異常検知装置は、前記液体貯留容器の重量を測定し、その重量変化から送液流量の異常を検知するようにしてもよい。
【0012】
前記血液回路は、一端が前記採血部に接続され、他端が前記血液浄化器に接続された動脈ラインを有し、前記血液ポンプは、前記動脈ライン上に設けられ、前記輸液ラインは、前記動脈ラインの前記血液ポンプよりも上流に接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、輸液ラインにおけるフリーフローの発生を簡単かつ適正に防止し、更には、輸液ラインへの血液の逆流を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】血液浄化システムの構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る血液浄化システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0016】
図1に示すように血液浄化システム1は、血液を浄化する血液浄化器10と、採血穿刺部11から血液浄化器10に血液を供給し、当該血液浄化器10から返血穿刺部12に血液を戻すための血液回路13と、血液回路13上に設けられた血液ポンプ14と、輸液用の薬液を貯留する液体貯留容器15と、輸液ライン16と、輸液ライン16上に設けられた逆止弁17と、輸液ライン16上に設けられた輸液ポンプ18と、液体貯留容器15から血液回路13への送液流量の異常を検知する流量異常検知装置19と、制御装置20等を有している。
【0017】
血液浄化器10は、例えば中空糸膜により血液を浄化できる。血液回路13は、一端が採血穿刺部11に接続され、他端が血液浄化器10の入口に接続された動脈ライン30と、一端が血液浄化器10の出口に接続され、他端が返血穿刺部12に接続された静脈ライン31を有している。血液回路13は、軟質のチューブにより構成されている。
【0018】
血液ポンプ14は、例えば動脈ライン30に設けられている。血液ポンプ14は、例えばチューブポンプであり、血液回路13のチューブを押圧しながら扱くことによりチューブ内の血液を圧送できる。
【0019】
輸液ライン16は、一端が動脈ライン30の血液ポンプ14よりも上流に接続され、他端が液体貯留容器15に接続されている。輸液ライン16は、軟質のチューブにより構成されている。
【0020】
液体貯留容器15には、抗凝固液などの輸液用の薬液が貯留されている。液体貯留容器15は、薬液の落差圧が患者血圧よりも低くなるような位置に設置されている。例えば一般的に健常人の最低血圧変動範囲は、75〜89mmHgであり、液体貯留容器15は、この一般的な血圧変動範囲よりも十分に低い落差圧になる位置に設置される。なお、患者毎に血圧を測定し、その測定結果に基づいて液体貯留容器15の設置位置を選択してもよい。
また、薬液の落差圧が患者血圧よりも低くなる位置に液体貯留容器15を設置するために、液体貯留容器15を採血穿刺部11よりも低い位置に設置してもよい。これは、採血穿刺部11では、血液の圧力が陽圧であるため、液体貯留容器15が採血穿刺部11より低くければ、液体貯留容器15側が必ず陰圧になることによる。なお、輸液ライン16が血液回路13の血液ポンプ14よりも下流側に接続されている場合には、薬液の落差圧が患者血圧よりも低くなる位置に液体貯留容器15を設置するために、液体貯留容器15を返血穿刺部12よりも低い位置に設置してもよい。さらに、薬液の落差圧が患者血圧よりも低くなる位置に液体貯留容器15を設置するために、液体貯留容器15を採血穿刺部11と返血穿刺部12の両方よりも低い位置に設置しておいてもよい。
【0021】
逆止弁17は、輸液ライン16上において血液回路13から液体貯留容器15側への液体の流れを防止できる。
【0022】
輸液ポンプ18は、例えばチューブポンプであり、輸液ライン16のチューブを押圧しながら扱くことによりチューブ内の薬液を血液回路13に圧送できる。
【0023】
流量異常検知装置19は、例えば液体貯留容器15の重量を測定する重量計を有している。流量異常検知装置19は、例えば重量計の測定重量から送液流量を算出し、当該測定送液流量と、予め設定されている輸液ポンプ18に対する設定送液流量とを比較し、その差が閾値を超えた場合に異常と判定する。
【0024】
流量異常検知装置19により検知された送液流量の異常情報は、制御装置20に出力される。制御装置20は、当該異常情報に基づいて、血液ポンプ14と輸液ポンプ18の送液を停止させる。制御装置20は、例えば汎用のコンピュータであり、記憶部、演算部、表示部等を有し、記憶部に記憶されているプログラムを演算部で実行することにより上記動作を行うことができる。
【0025】
次に、上記血液浄化システム1の動作について説明する。先ず、血液浄化処理が行われる際には、血液ポンプ14が作動し、患者100の血液が動脈ライン30を通じて血液浄化器10に送られ、当該血液浄化器10で浄化された血液が静脈ライン31を通じて患者100に戻される。また血液浄化処理中、輸液ポンプ18が作動し、液体貯留容器15の薬液が所定の設定流量で輸液ライン16を通じて動脈ライン30に送られる。
【0026】
この際、流量異常検知装置19により液体貯留容器15における薬液の送液流量が監視されている。仮に輸液ライン16のチューブが輸液ポンプ18から外れ、又は輸液ポンプ18のチューブへの押圧力が低下して、液体貯留容器15における薬液の測定送液流量と輸液ポンプ18の設定送液流量に閾値を超える差が生じた場合には、送液流量の異常が検出され、制御装置20により、血液ポンプ14と輸液ポンプ18の送液が停止される。これにより、血液回路13内の血液の流れと、輸液ライン16の薬液の流れが停止する。
【0027】
本実施の形態によれば、流量異常検知装置19により液体貯留容器15から血液回路13への送液流量の異常を検知したときに、血液ポンプ14と輸液ポンプ18による送液が停止される。そして、液体貯留容器15は、薬液の落差圧が、患者血圧(本実施の形態では、採血穿刺部11の圧力)よりも低くなるような位置に配置されているので、送液が停止されても液体貯留容器15の薬液が血液回路13内に流入しさらに患者100に流入することを防止できる。さらに、輸液ライン16上に逆止弁17が設けられているので、液体貯留容器15の薬液の落差圧が低くても、血液回路13の血液が輸液ライン16側に逆流することを防止できる。よって、輸液ライン16におけるフリーフローを簡単かつ適正に防止できる。
【0028】
また、本実施の形態では、流量異常検知装置19が、液体貯留容器15の重量を測定し、その重量変化から送液流量の異常を検知するものであるので、フリーフローの原因となる輸液ライン16のチューブの輸液ポンプ18からの離脱や、輸液ポンプ18のチューブへの押圧力の低下が発生したときに生じる送液流量の異常を簡単かつ確実に検知できる。
【0029】
本実施の形態では、輸液ライン16が動脈ライン30の血液ポンプ14よりも上流に接続されている。この場合、一般的には、血液ポンプ14により輸液ライン16の接続部Aにおける動脈ライン30が陰圧になりやすく、輸液ライン16のチューブの輸液ポンプ18からの離脱や、輸液ポンプ18のチューブへの押圧力の低下が生じた場合に、液体貯留容器15の薬液が動脈ライン30に流れ込みやすくなる。したがって、本実施の形態のように、液体貯留容器15から血液回路13への送液流量の異常を検知したときに血液ポンプ14による送液を停止したり、また薬液の落差圧が輸液ライン16との接続部Aにおける血液回路13の血液の圧力よりも低くなる位置に液体貯留容器15を配置するメリットは大きい。
【0030】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0031】
例えば以上の実施の形態で記載した液体貯留容器15に貯留される輸液用の液体は、抗凝固液や補充液、透析液などが例として挙げられるが、特に限定されるものではない。また、液体の種類等によって血液回路13に対する輸液ライン16の接続位置も適宜変更できる。流量異常検出装置19は、液体貯留容器15の重量を測定するものに限られず、他の方法で送液流量の異常を検知するものであってもよい。送液流量の異常を検知する他の方法として、例えば容積計量式流量計を用いて、規定量の計量容器が一杯になるまでの時間から送液流量の異常を検知する方法、滴下センサを用いて、滴の容量が規定量となるように設計された点滴筒の滴下の数と滴下間隔から送液流量の異常を検知する方法、超音波流量計により送液流量の異常を検知する方法などがある。本発明は、血液透析に限られず、血液濾過処理、血漿交換処理等のあらゆる血液浄化処理を行う血液浄化システムに適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 血液浄化システム
10 血液浄化器
11 採血穿刺部
12 返血穿刺部
13 血液回路
14 血液ポンプ
15 液体貯留容器
16 輸液ライン
17 逆止弁
18 輸液ポンプ
19 流量異常検知装置
20 制御装置
30 動脈ライン
31 静脈ライン
100 患者
A 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器と、
採血部から前記血液浄化器に患者の血液を供給し、当該血液浄化器から返血部に血液を戻すための血液回路と、
前記血液回路上に設けられ、血液を送液する血液ポンプと、
輸液用の液体を貯留する液体貯留容器と、
一端が前記液体貯留容器に接続され、他端が前記血液回路に接続された輸液ラインと、
前記輸液ライン上に設けられ、前記液体貯留容器内の液体を前記血液回路に送液する輸液ポンプと、
前記液体貯留容器から前記血液回路への送液流量の異常を検知する流量異常検知装置と、
前記流量異常検知装置が送液流量の異常を検知したときに、前記血液ポンプと前記輸液ポンプの送液を停止させる制御装置と、を有し、
前記液体貯留容器は、前記液体の落差圧が患者血圧よりも低くなるような位置に設けられ、
前記輸液ライン上には、前記液体貯留容器側への液体の流れを防止する逆止弁が設けられている、血液浄化システム。
【請求項2】
前記流量異常検知装置は、前記液体貯留容器の重量を測定し、その重量変化から送液流量の異常を検知する、請求項1に記載の血液浄化システム。
【請求項3】
前記血液回路は、一端が前記採血部に接続され、他端が前記血液浄化器に接続された動脈ラインを有し、
前記血液ポンプは、前記動脈ライン上に設けられ、
前記輸液ラインは、前記動脈ラインの前記血液ポンプよりも上流に接続されている、請求項1又は2に記載の血液浄化システム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−135499(P2012−135499A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290812(P2010−290812)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】