説明

血液浄化装置及び血液浄化装置の作動方法

【課題】安価に返血時に血液回路内の血栓が患者の体内に入ることを防止する。
【解決手段】血液透析装置1は、血液浄化器10と、動脈穿刺針11から血液浄化器10に血液を供給するための血液供給流路12と、血液浄化器10から静脈穿刺針13に血液を返送するための血液返送流路14と、血液供給流路12上に設けられ、血液を血液浄化器10に送出する血液ポンプ15と、血液供給流路12における血液ポンプ15よりも上流側に、電解質液を供給するための電解質液流路16と、電解質液流路16上にヘパリン溶液を供給するヘパリン溶液供給装置17と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置及び血液浄化装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば血液透析処理は、血液透析装置により行われている。血液透析装置は、図6に示すように通常、動脈穿刺針100から血液浄化器101に血液を供給するための血液供給流路102と、血液浄化器101から静脈穿刺針103に血液を返送するための血液返送流路104からなる血液回路を有し、血液供給流路102には、血液を送出する血液ポンプ105が設けられている。また、血液供給流路102や血液返送流路104には、ドリップチャンバ106、107が設けられている。血液透析時には、血液ポンプ105を稼働させ、動脈穿刺針100から採取された患者の血液を血液浄化器101に送り、浄化した後、静脈穿刺針103から患者に戻している。
【0003】
また、血液透析終了時には、血液回路内に残存している血液を患者に戻す(返血する)必要がある。このため、血液供給流路102の血液ポンプ105より上流側には、例えば電解質液バック108に連通する電解質液流路109が接続されており、返血時には、電解質液流路109から血液供給流路102に電解質液が供給され、血液回路が電解質液で置換され、血液回路の血液が患者に戻される。
【0004】
血液透析中には、血液供給流路102内の圧力変動に伴って、電解質液流路109に少量の血液が繰り返し、流入・流出して、一部が滞留する。そのため、電解質液流路109における血液供給流路102との接続部分Aでは、この滞留した血液が凝固し、いわゆる血栓が形成される。そこで、返血時には、この血栓が患者の体内に入らないようにする必要がある。
【0005】
そこで、現状の返血では、例えば先ず、血液ポンプ105の正回転により、電解質液が電解質液流路109から血液供給流路102の下流側(血液ポンプ105側)に流され、血液供給流路102の下流側内、血液浄化器101内、血液返送流路104内が電解質液に置換され、血液が静脈穿刺針103側から患者に戻される。このとき、電解質液流路109における血液供給流路102との接続部分Aで形成された血栓は、血液供給流路102の下流側に押し流される。この血栓は、血液浄化器101やドリップチャンバ106、107などで捕らえられる。血栓が下流側に流された後、電解質液流路109の電解質液が血液供給流路102の上流側(動脈穿刺針100側)に流され、当該上流側が電解質液に置換されて、当該上流側にある血液が動脈穿刺針100側から患者に戻されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平澤由平ら、透析会誌. 34(9):1277-1286,2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記返血方法では、電解質液流路109の血液供給流路102との接続部分に形成されていた血栓が、血液供給流路102の下流側に流れずに残っている可能性がある。この場合、電解質液流路109の電解質液が血液供給流路102の上流側(動脈穿刺針100側)に流される時に、血栓が動脈穿刺針100側から患者の体内に入る可能性がある。このため、万が一に備えて、血液供給流路102の上流側には、血栓を検出する装置が取り付けられている。この血栓を検出する装置は高価である。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、安価に血栓が患者の体内に入ることを防止できる血液浄化装置、及び血液浄化装置の作動方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、血液を浄化する血液浄化器と、動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に送出する血液送出装置と、前記血液供給流路に血液を置換する電解質液を供給するための電解質液流路と、を有する血液浄化装置において、前記電解質液流路上に血液の抗凝固液を供給するための抗凝固液供給装置をさらに有するものである。
【0010】
本発明によれば、電解質液流路における血液供給流路との接続部分に血液の抗凝固液を供給できるので、当該接続部分に血栓が形成されるのを防止できる。これにより、血栓を検出するような高価な装置がなくてもよいので、返血時に血栓が患者の体内に入ることを安価に防止できる。また、血液や電解質液の流れの複雑な操作が不要になるため、返血時に血栓が患者の体内に入ることを簡単に防止できる。
【0011】
前記抗凝固液供給装置が、抗凝固液貯留器と、一端が該抗凝固液貯留器に接続され、他端が前記電解質液流路に接続されている抗凝固液供給流路と、前記抗凝固液貯留器から前記電解質液流路に抗凝固液を送出するため抗凝固液ポンプとを有するものであってもよい。
【0012】
上記血液浄化装置は、前記電解質液流路に設けられた第1の開閉弁と、前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分よりも上流側に設けられた第2の開閉弁と、前記第2の開閉弁を閉鎖し、且つ、前記血液送出装置を正方向に稼働させた状態で、前記第1の開閉弁を一定時間閉鎖することにより、前記血液供給流路における前記第2の開閉弁より下流側を減圧し、その後、前記第1の開閉弁を開放することにより、前記電解質液を前記血液供給流路に流入させる制御装置と、をさらに有し、前記電解質液流路は、前記血液供給流路の前記血液送出装置よりも上流側に接続されていてもよい。
【0013】
前記制御装置は、前記第1の開閉弁を開放し、前記第2の開閉弁を閉じ、前記血液送出装置を正方向に稼働して、前記電解質液流路から、前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分よりも下流側に前記電解質液を供給し、前記第1の開閉弁を閉じ、前記第2の開閉弁を開放し、前記血液送出装置を逆方向に稼働して、前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分より下流側の前記電解質液を前記接続部分より上流側に供給してもよい。
【0014】
上記血液浄化装置は、前記抗凝固液ポンプによる抗凝固液の実際送出量と予定送出量を一定間隔で比較し、該実際送出量が該予定送出量よりも多い場合に、該実際送出量が該予定送出量に一致するまで、前記抗凝固液ポンプを停止させる制御装置をさらに有するものであってもよい。
【0015】
別の観点による本発明は、血液浄化装置の作動方法であって、前記血液浄化装置は、血液を浄化する血液浄化器と、動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、
前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に送出する血液送出装置と、前記血液供給流路における前記血液送出装置よりも上流側に、血液を置換する電解質液を供給するための電解質液流路と、前記電解質液流路上に血液の抗凝固液を供給するための抗凝固液供給装置と、前記電解質液流路に設けられた第1の開閉弁と、前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分よりも上流側に設けられた第2の開閉弁と、を有するものであり、前記第2の開閉弁を閉鎖し、且つ、前記血液送出装置を正方向に稼働させた状態で、前記第1の開閉弁を一定時間閉鎖することにより、前記血液供給流路における前記第2の開閉弁より下流側を減圧し、その後、前記第1の開閉弁を開放することにより、前記電解質液を前記血液供給流路に流入させるように制御装置が作動するものである。
【0016】
前記血液浄化装置の作動方法において、前記制御装置は、前記電解質液を前記血液供給流路に流入させた後、前記第1の開閉弁を閉鎖し、前記第2の開閉弁を開放し、前記血液送出装置を逆方向に稼働させ、前記血液供給流路における前記接続部分よりも下流側に供給されている前記電解質液を、前記血液供給流路における前記接続部分よりも上流側に供給するようにしてもよい。
【0017】
前記血液浄化装置の作動方法において、前記抗凝固液供給装置は、抗凝固液貯留器から前記血液供給流路に抗凝固液供給流路を通じて抗凝固液を送出するための抗凝固液ポンプを有し、前記制御装置は、前記抗凝固液ポンプによる抗凝固液の実際送出量と予定送出量を一定間隔で比較し、該実際送出量が該予定送出量よりも多い場合に、該実際送出量が該予定送出量に一致するまで、前記抗凝固液ポンプを停止させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安価に血栓が患者の体内に入ることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】血液透析装置の構成の概略を示す説明図である。
【図2】第1の開閉弁を開放し、第2の開閉弁を閉鎖した状態の血液透析装置の説明図である。
【図3】第1の開閉弁を閉鎖し、第2の開閉弁を開放した状態の血液透析装置の説明図である。
【図4】第1の開閉弁と第2の開閉弁を閉鎖した状態の血液透析装置の説明図である。
【図5】ヘパリン溶液供給流路のチューブに電解質液流路のメインチューブが接続されている場合の血液透析装置の説明図である。
【図6】改良前の血液透析装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態にかかる血液浄化装置としての血液透析装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0021】
血液透析装置1は、血液を浄化する血液浄化器10と、動脈穿刺針11から血液浄化器10に血液を供給するための血液供給流路12と、血液浄化器10から静脈穿刺針13に血液を返送するための血液返送流路14と、血液供給流路12上に設けられ、血液を血液浄化器10に送出する血液送出装置としての血液ポンプ15と、血液供給流路12における血流ポンプ15よりも上流側(動脈穿刺針11側)に、血液の電解質液を供給するための電解質液流路16と、血液供給流路12に血液の抗凝固液としてのヘパリン溶液を供給するヘパリン溶液供給装置17、及び制御装置18等を有している。
【0022】
血液浄化器10は、例えば中空糸の膜19を内蔵した中空糸モジュールであり、膜19の一次側10aに血液を通し、二次側10bに透析液を通し、一次側10aの血液中の不要物質を膜19を通じて二次側10bの透析液に取り込んで血液を透析することができる。
【0023】
血液供給流路12及び血液返送流路14には、例えば軟質のチューブが用いられている。血液ポンプ15は、例えばチューブポンプであり、血液供給流路12のチューブを扱いて血液を血液浄化器10側に圧送できる。血液ポンプ15は、正逆回転可能である。
【0024】
血液供給流路12における血液ポンプ15と血液浄化器10との間には、ドリップチャンバ30が設けられている。また、血液返送流路14には、ドリップチャンバ31が設けられている。
【0025】
電解質液流路16は、例えば一端が電解質液バック40に接続され、他端が血液供給流路12に接続されている。電解質液バック40は、電解質液を自由落下させるため高い位置に設置されている。
【0026】
ヘパリン溶液供給装置17は、例えば抗凝固液貯留器としてのヘパリンシリンジ50と、ヘパリン溶液を流通させる抗凝固液供給流路としてのヘパリン溶液ライン51と、ヘパリン溶液を送出するためヘパリン溶液ポンプ52から構成されており、ヘパリン溶液ライン51は、一端がヘパリンシリンジ50に接続され、他端が電解質液流路16に接続されている。
【0027】
ヘパリン溶液ライン51における電解質液流路16との接続部分よりも電解質液バック40側の電解質液流路16上には、電磁弁などの第1の開閉弁60が設けられている。また、血液供給流路12の電解質液流路16との接続部分よりも上流側には、電磁弁などの第2の開閉弁61が設けられている。
【0028】
制御装置18は、血液透析装置1の全体の動作を制御している。制御装置18は、例えば汎用のコンピュータであり、記憶部、演算部、表示部等を有している。制御装置18は、血液ポンプ15、ヘパリン溶液ポンプ52、第1の開閉弁60、第2の開閉弁61等の動作を制御し、血液透析及び当該血液透析後の返血を実行することができる。
【0029】
次に、以上のように構成された血液透析装置1の作動方法を、血液透析処理のプロセスと共に説明する。
【0030】
血液透析時には、例えば図1に示すように第1の開閉弁60が閉鎖され、第2の開閉弁61が開放された状態で、血液ポンプ15が正回転され、患者の血液が動脈穿刺針11から血液供給流路12を通って血液浄化器10に送られる。血液浄化器10において血液中の不要物質が除去される。血液浄化器10を通過して浄化された血液は、血液返送流路14を通って静脈穿刺針13から患者に戻される。
【0031】
血液透析時には、ヘパリン溶液は、ヘパリンシリンジ50からヘパリン溶液ライン51を流通して、電解質液流路16の血液供給流路12との接続部分Aに供給される。このヘパリン溶液は、さらに血液供給流路12を経て、血液浄化器10を通過し、血液返送流路14を通って静脈穿刺針13から患者に入る。これにより、患者体内の血液の凝固能が抑制されている。また、このヘパリン溶液の供給により、電解質液流路16の血液供給流路12との接続部分Aにおいてヘパリン濃度が著しく高くなり、血液透析中、この部分において血液が凝固して血栓が生成されることが防止されている。
【0032】
所定時間の血液透析が行われた後は、血液ポンプ15が停止され、血液透析が終了する。血液透析が終了すると、血液回路内の残存血液を患者に戻す返血が行われるのである。返血時には、図2に示すように第1の開閉弁60が開放され、第2の開閉弁61が閉鎖され、血液ポンプ15が正回転されて、電解質液バック40の電解質液が電解質液流路16を通じて血液供給流路12内に流入する。このとき、電解質液は、血液供給流路12における電解質液流路16との接続部分Aよりも下流側に流れる。これにより、血液供給流路12の接続部分Aの下流側にある血液が電解質液により押され、静脈穿刺針13側から患者の体内に戻される。
【0033】
次に、図3に示すように第1の開閉弁60が閉鎖され、第2の開閉弁61が開放され、血液ポンプ15が逆回転される。これにより、血液供給流路12の接続部Aより下流側に流入していた電解質液が接続部Aよりも上流側に流され、当該上流側にある血液が動脈穿刺針11から患者の体内に戻される。
【0034】
このような図2に示した血液供給流路12の接続部Aよりも下流側への電解質液の供給と、図3に示した上流側への電解質液の供給が繰り返し行われ、血液供給流路12、血液浄化器10及び血液返送流路14内の血液がすべて患者の体内に戻され、その後、血液ポンプ15が停止され、返血が終了する。なお、一度の、血液供給流路12の接続部Aよりも下流側への電解質液の供給により、血液供給流路12の接続部Aよりも下流側の総ての血液を患者の体内に戻し、その後上述の血液供給流路12の接続部Aよりも上流側への電解質液の供給と、血液供給流路12の接続部Aよりも下流側への電解質液の供給を繰り返し行ってもよい。
【0035】
本実施の形態によれば、電解質液流路16における血液供給流路12との接続部分Aに抗凝固液であるヘパリン溶液を供給できるので、当該接続部分Aにおいて、ヘパリン濃度が著しく高くなり、その部分において血液が凝固して血栓が形成されるのを防止できる。これにより、血栓を検出するような高価な装置がなくてもよいので、返血時に血栓が患者の体内に入ることを安価に防止できる。また、血液や電解質液の流れの複雑な操作が不要になるため、返血時に血栓が患者の体内に入ることを簡単に防止できる。
【0036】
また、本実施の形態では、血液透析中に血液供給流路12に供給され患者体内の血液の凝固能を抑制する既存のヘパリン溶液供給装置17を用いるので、血液透析装置1が安価に抑えられる。なお、本発明において、必ずしも既存のヘパリン溶液供給装置17を用いる必要はなく、別途設けてもよい。
【0037】
また、上記実施の形態において、電解質液を血液供給流路12における接続部分Aよりも下流側に流入させる際に、制御装置18により、図4に示すように、第2の開閉弁61を閉鎖すると共に血液ポンプ15を正回転させた状態で、第1の開閉弁60一定時間閉鎖して、血液ポンプ15の上流側を減圧し、その後第1の開閉弁60を開放して、電解質液を血液供給流路12に流入させるようにしてもよい。かかる場合、一時的に血液ポンプ15の上流側が陰圧になり、第1の開閉弁60の開放により、電解質液が高流速で血液供給流路12内に流入するので、仮に接続部分Aに血栓があっても、確実に血液供給流路12の接続部分Aよりも下流側に押し流され、その後、例えばドリップチャンバ30等により捕らえられる。これにより、仮に血栓が生成されている場合であっても、患者の体内に入り込むことがなく、より安心して返血を行うことができる。特に、電解質液流路16と血液供給流路12との接続部分Aでは、ヘパリン濃度が高いので、万一、血栓が形成されていたとしても、接続部分A付近の流路壁に対する血栓の接着程度が弱く、血栓は、高流速の電解質液により容易に流路壁から剥離し、血液ポンプ15の方向に流される。なお、この例において、第1の開閉弁60の開閉を複数回、間欠的に繰り返すとより好ましい。
【0038】
以上の実施の形態において、ヘパリン溶液ポンプ52によるヘパリン溶液の実際送出量と予定送出量を一定間隔で比較し、該実際送出量が該予定送出量よりも多い場合に、該実際送出量が該予定送出量に一致するまでヘパリン溶液ポンプ52を停止させるようにしてもよい。実際送出量の測定は、例えば、ヘパリンシリンジ50内のヘパリン溶液の減少量を30分おきに測定することによって行ってもよい。かかる場合、例えば血液ポンプ15より陰圧になった血液供給流路12内に予定以上にヘパリン溶液が送出されていた場合に、血液供給流路12への単位時間あたりのヘパリン溶液供給量が適正な量に調整される。
【0039】
血液透析中、血液供給流路12の血液ポンプ15よりも上流側の部分は、その内圧が大気圧よりも低く陰圧となっており、ヘパリン溶液供給流路51から血液供給流路12内に流入するヘパリン溶液の実際送出量は予定送出量よりも多くなる場合がある。上記例では、仮にそのような場合であっても、最終的に血液供給流路12内に供給される量を適切な量に調整できる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0041】
例えば、本明細書において、「電解質液供給流路16」には、電解質液バック40に接続された同じチューブが直接血液供給流路12に接続されているもののみならず、他のチューブ、例えばヘパリン溶液供給流路51のチューブを介して血液供給流路12に接続されているものも含まれる。つまり、図5に示すようにヘパリン溶液供給流路51のチューブが血液供給流路12に直接接続され、そのヘパリン溶液供給流路51のチューブに電解質液供給流路16のメインチューブが接続されていてもよい。かかる場合、電解質液供給流路16のメインチューブと、ヘパリン溶液供給流路51のチューブにより、電解質液供給流路が構成される。
【0042】
以上の実施の形態において、電解質液供給流路16は、一端が電解質液バック40に接続され、当該電解質液バック40から血液供給流路12に電解質液を供給するものであったが、本発明は、電解質液の供給源が他のものであっても適用できる。例えば電解質供給流路16は、血液浄化器10の二次側に接続された透析液供給流路に接続され、透析時に血液浄化器10に供給される透析液を電解質液として血液供給流路12に供給するものであってもよい。また、以上の実施の形態において、電解質液は、血液ポンプ15によって血液供給流路12に送液されていたが、本発明は、他の方法によって送液されてもよい。例えば電解質液供給流路16にポンプが設けられ、当該ポンプによって電解質液が血液供給流路12に供給されるものであってもよい。また、以上の実施の形態では、電解質液供給流路16が、血液供給流路12の血液ポンプ15より上流側に接続されていたが、血液供給流路12の他の部分に接続されていてもよい。さらに、電解質液供給流路16のヘパリン溶液供給流路51の接続部分より上流側には、クランプが設けられていてもよい。かかる場合、クランプにより電解質液供給流路16の上流側を閉鎖した状態で、ヘパリン溶液供給流路51と電解質液供給流路16との接続部にへパリン溶液を供給して、当該接続部におけるヘパリンの濃度を上げることができる。
【0043】
また、本実施の形態では、抗凝固液としてヘパリン溶液を用いていたが、血液の凝固を抑える性質を有するものであれば、低分子ヘパリン、メシル酸ナファモスタットなど、他の液体であってもよい。さらに、本発明は、血液透析装置以外の血液浄化装置にも適用できる。
【実施例】
【0044】
(実験)
血液供給流路と電解質液流路との接続部分における血栓形成の有無を、本発明の血液浄化装置については12名の透析患者の延べ44回の血液浄化治療において、従来の血液浄化装置については48名の透析患者の延べ268回の血液浄化治療において、血液回収操作の直前に目視により評価した。その結果、本発明の血液浄化装置においては、すべての血液浄化治療において血栓は認められず、従来の血液浄化装置においては、すべての血液浄化治療で血栓の形成が認められた。
【符号の説明】
【0045】
1 血液透析装置
10 血液浄化器
11 動脈穿刺針
12 血液供給流路
13 静脈穿刺針
14 血液返送流路
15 血液ポンプ
16 電解質液流路
17 ヘパリン溶液供給装置
18 制御装置
60 第1の開閉弁
61 第2の開閉弁
A 電解質液流路における血液供給流路との接続部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を浄化する血液浄化器と、
動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、
前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、
前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に送出する血液送出装置と、
前記血液供給流路に血液を置換する電解質液を供給するための電解質液流路と、を有する血液浄化装置において、
前記電解質液流路上に血液の抗凝固液を供給するための抗凝固液供給装置を、さらに有する、血液浄化装置。
【請求項2】
前記抗凝固液供給装置が、抗凝固液貯留器と、一端が該抗凝固液貯留器に接続され、他端が前記電解質液流路に接続されている抗凝固液供給流路と、前記抗凝固液貯留器から前記電解質液流路に抗凝固液を送出するため抗凝固液ポンプとを有する、請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記電解質液流路に設けられた第1の開閉弁と、
前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分よりも上流側に設けられた第2の開閉弁と、
前記第2の開閉弁を閉鎖し、且つ、前記血液送出装置を正方向に稼働させた状態で、前記第1の開閉弁を一定時間閉鎖することにより、前記血液供給流路における前記第2の開閉弁より下流側を減圧し、その後、前記第1の開閉弁を開放することにより、前記電解質液を前記血液供給流路に流入させる制御装置と、をさらに有し、
前記電解質液流路は、前記血液供給流路の前記血液送出装置よりも上流側に接続されている、請求項2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1の開閉弁を開放し、前記第2の開閉弁を閉じ、前記血液送出装置を正方向に稼働して、前記電解質液流路から、前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分よりも下流側に前記電解質液を供給し、前記第1の開閉弁を閉じ、前記第2の開閉弁を開放し、前記血液送出装置を逆方向に稼働して、前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分より下流側の前記電解質液を前記接続部分より上流側に供給する、請求項3に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記抗凝固液ポンプによる抗凝固液の実際送出量と予定送出量を一定間隔で比較し、該実際送出量が該予定送出量よりも多い場合に、該実際送出量が該予定送出量に一致するまで、前記抗凝固液ポンプを停止させる制御装置をさらに有する、請求項2〜4のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
血液浄化装置の作動方法であって、
前記血液浄化装置は、
血液を浄化する血液浄化器と、
動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、
前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、
前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に送出する血液送出装置と、
前記血液供給流路における前記血液送出装置よりも上流側に、血液を置換する電解質液を供給するための電解質液流路と、
前記電解質液流路上に血液の抗凝固液を供給するための抗凝固液供給装置と、
前記電解質液流路に設けられた第1の開閉弁と、
前記血液供給流路の前記電解質液流路との接続部分よりも上流側に設けられた第2の開閉弁と、を有するものであり、
前記第2の開閉弁を閉鎖し、且つ、前記血液送出装置を正方向に稼働させた状態で、前記第1の開閉弁を一定時間閉鎖することにより、前記血液供給流路における前記第2の開閉弁より下流側を減圧し、その後、前記第1の開閉弁を開放することにより、前記電解質液を前記血液供給流路に流入させるように制御装置が作動する、血液浄化装置の作動方法。
【請求項7】
前記制御装置は、前記電解質液を前記血液供給流路に流入させた後、前記第1の開閉弁を閉鎖し、前記第2の開閉弁を開放し、前記血液送出装置を逆方向に稼働させ、前記血液供給流路における前記接続部分よりも下流側に供給されている前記電解質液を、前記血液供給流路における前記接続部分よりも上流側に供給する、請求項6に記載の血液浄化装置の作動方法。
【請求項8】
前記抗凝固液供給装置は、抗凝固液貯留器から前記血液供給流路に抗凝固液供給流路を通じて抗凝固液を送出するための抗凝固液ポンプを有し、
前記制御装置は、前記抗凝固液ポンプによる抗凝固液の実際送出量と予定送出量を一定間隔で比較し、該実際送出量が該予定送出量よりも多い場合に、該実際送出量が該予定送出量に一致するまで、前記抗凝固液ポンプを停止させる、請求項6又は7に記載の血液浄化装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152285(P2012−152285A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12134(P2011−12134)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【出願人】(500277803)有限会社ネクスティア (17)
【Fターム(参考)】