説明

血液製剤中の汚染物質を不活性化する方法

【課題】簡単、迅速、低コスト、高再現性で、血液製剤中に存在する汚染物質を不活性化する方法を提供する。
【解決手段】血液製剤にCタイプ紫外線を1回又は2回以上照射して、前記血液製剤中に存在するウイルス、特にパルボウィルスを不活性化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血液製剤、特に全血、血漿、血液細胞成分から成る液体、生物工学によって得られる非天然製品をも含めて、例えば凝固因子(因子VIII、因子IX、フォン・ウィルブラント因子など)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、免疫グロブリン、アルブミンなどのような血液製剤、に含まれる汚染物質を不活性化する方法に関わり、前記方法を実施する装置についても言及する。
この発明は、本発明の方法によって処理された血液製剤及び前記血液製剤を含む医薬用及び/または化粧品用組成物にも係わる。
【背景技術】
【0002】
治療または治療以外の目的で血液製剤を利用できるようにするためには、高純度の、好ましくは、汚染物質、特にウィルス性汚染物質を含まない製剤の実現を可能にする精製技術が必要である。
【0003】
血液製剤中のウィルス性汚染物質としては、エンベロープのあるウィルス(HIV,B,C,D,E及びG型肝炎ウィルスなど)やエンベロープのないウィルス(A型肝炎ウィルス、パルボウィルスなど)が挙げられる。
【0004】
永年にわたって、種々の国際または国内機関が、ウィルス性汚染物質を含んだままで治療または治療以外の目的に使用されるのを防止するため、血液製剤の製造に関して年々きびしい基準を導入している(条令65/65EEC,75/319/EEC及び89/381EEC)。
【0005】
ヨーロッパのレベルでは、エンベロープのあるウィルスまたはエンベロープのないウィルスに対していくつかの処理を施すようにCPMP基準(CPMP/BWT268/95及び269/95)が要求している。
【0006】
凝固因子の調製に際して、(乾式または湿式)加熱または低温殺菌による不活性化処理がA型肝炎ウィルスに対して有効であることは公知である。しかし、その他のエンベロープのないウィルス、特にパルボウィルスに対しては必ずしも有効ではない。
【0007】
他方、(溶剤−清浄剤の添加による)化学的不活性化処理がエンベロープのあるウィルスに対して有効であることも公知である。しかし、この処理はエンベロープのないウィルスに対しては無効である。
【0008】
例えばβ−プロピオラクトンのような化学的物質を利用することも公知である。この方法は、エンベロープのないウィルスの処理には有効であるが、処理されるプロテインを変性させるという欠点がある。
【0009】
pHを4以下に調整することによる長時間処理、またはプロテアーゼの添加が、例えばパルボウィルスのようなエンベロープのないウィルスの活性化を可能にすることも公知である。しかも、このような処理は、処理されるプロテインの配座(コンフォーメーション)や構造を変化させる。
【0010】
従って、血液製剤のウィルス不活性化に利用できる公知の物理化学的処理は、ほとんど例外なく、毒性が高いか、処理されるプロテインの配座を著しく変化させるか、あるいは、エンベロープのないウィルス、特にパルボウィルスの処理に効果を発揮できない。
【0011】
パルボウィルスは、ヒトを含めて多くの動物に感染する小型のエンベロープのないDNAウィルスである(Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.1−30,“Disinfection,Sterilization and Preservation”,Fourth Edition,Seymour S.Block,Ed.Lea & Febiger,Philadelphia−London)。パルボウィルスは風土性であり、多様な疾病の原因となり、病状は宿主の発育状態に応じて異なる。
【0012】
ヒトに特有の病源として判明しているのは、パルボウィルスB19だけである。マウスのパルボウィルスH1もヒトに感染する可能性がある。
【0013】
健常なヒトがパルボウィルスB19に感染した場合、症候が全く現われないか、または良性腫瘍が発現する(例:幼児の伝染性紅斑(cinquieme maladie chezl’enfant))。
【0014】
他方、免疫不全患者または血液障害患者の場合には慢性貧血の原因となったり、一過性形成不全に陥り、溶血性貧血の原因となったりする。
【0015】
胎盤を通過すれば、子宮内死の原因となる。パルボウィルスB19はヒト造血細胞の赤血球系に対して顕著な走性を示す。
【0016】
最近の疫学的調査によれば、フランスにおいて成人の50〜60%と1〜15才の未成年者の36%が血清学的に陽性のパルボウィルスを持っている。
【0017】
複数バッチの精製因子VIII濃縮液中で遺伝子増幅(PCR)を行うことにより、採用するウィルス不活性化方法に関係なく、ウィルスDNAのプロセスが立証された。
【0018】
このことは、1988年以来フランスで使用されている、エンベロープのあるウィルス(HIV,HBV,HCV)で汚染されていない高純度因子VIII濃縮液(FVIII THPSD)を誕生以来投与されている未成年の血友病患者の85%において、臨床的徴候ではなく、B19+を血清学的に検出することによって立証された(Y.Lauriau et al.,1ercongres de la Societe Francaise de Transfusion[1st conference of the French Transfusion Company](1994))。
【0019】
この観察結果から明らかなように、血液製剤からパルボウィルス、特にパルボウィルスB19を排除する新しいウィルス不活性化方法がない限り、汚染の可能性は高い。
【0020】
パルボウィルスは高温においても極めて耐性が高い。その赤血球凝集性と感染性は、クロロホルムや各種酸のような化学物質による処理にも影響を受けず、RNase,DNase,パパインまたはトリプシンを利用した酵素消化にも耐える。
【0021】
国際特許出願WO95/00631(特許文献1)はUVA照射によって光活性化可能で、血液製剤中に存在するウィルスに対して毒性を示す物質を血液製剤に添加してウィルスを不活性化する方法を開示している。この方法は、血液製剤からこの毒性試薬を分離することによって、血液製剤がこの毒性試薬に汚染されるのを防ぐ工程を含む。
【0022】
毒性試薬としてはプソラレンが代表的である。
【0023】
しかし、この方法に伴う欠点として、処理された血液製剤からこれらの光活性化可能な物質が完全に除去されるとの保証はなく、もしこれが残留しておれば、処理された血液製剤を変性及び/または不活性化するおそれがあり、たとえ少量ずつでもこれを繰り返し注射すれば、ヒトまたは動物に毒性による身体障害を発生させることになる。
【0024】
紫外線照射によって一度に多数の製剤を殺菌できることも公知である。特に文献“Sterilization by Ultraviolet Irradiation”(chapter31,IL SHECHMEISTER)(非特許文献1)から、紫外線照射がウィルス、マイコプラズマ、細菌、かびのような汚染物を破壊できることは公知である。このような照射は、特に気体や液体のような媒質中で利用することができることは公知である。
【0025】
ルチンなどのような抗酸化剤の存在下において、または不存在下において、血液製剤にCタイプ紫外線を照射し、エンベロープのないウィルス、特にパルボウィルスを不活性化する方法もChin S.et al.の文献(Blood,volume 86,No.11,December 1995,p.4331−4336)(非特許文献2)から公知である。
【0026】
また、公知のウィルス不活性化方法は、血液製剤の完全性及び活性(特に因子VIIIのような凝固因子の立体配座)に、従って製剤の活性に影響を及ぼす可能性がある。
【0027】
さらにまた、公知のウィルス不活性化方法は、再現性またはモニタリングに問題があるため、有効性の確認が困難な場合が多い。即ち、特に乾式加熱によって処理する際に湿度をモニターしなければならない場合、いくつかの処理パラメータは、変更せざるを得ないかまたは容易に維持することができない。しかも、処理の各工程を制御することは困難である。
【特許文献1】国際特許出願WO95/00631
【非特許文献1】“Sterilization by Ultraviolet Irradiation”(chapter31,IL SHECHMEISTER
【非特許文献2】Chin S.et al.の文献(Blood,volume 86,No.11,December 1995,p.4331−4336)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
この発明の目的は、公知技術の欠点を残すことなく、簡単、迅速、低コスト、高再現性で、血液製剤中に存在する汚染物質を不活性化する新しい方法及び装置を提供することにある。
【0029】
この発明の他の目的は、血液製剤、特に因子VIII,因子IX,フォン・ウィルブラント因子、フィブロネクチン、フィブリノーゲンなどのような凝固因子の完全性を維持するウィルス不活性化方法を開発することにある。
【0030】
この発明のさらに他の目的は、容易に実施でき、医薬品製造基準(GMP)及びヨーロッパ基準(CPMP)に合致する方法及び装置を提供することにある。
【0031】
この発明のさらなる目的は、エンベロープのない、好ましくは一本鎖のウィルス、例えばパルボウィルス、特にパルボウィルスB19及びH1の不活性化を可能にする、血液製剤のウィルス不活性化方法及び装置を提供することにある。本発明はまた、血液製剤の活性に影響を及ぼすことなく、前記汚染物質、特にエンベロープのないウィルス、例えば、パルボウィルス、特にパルボウィルスB19及びH1を含まない血液製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
この発明は、血液製剤中に存在するパルボウィルス、特にパルボウィルスB19及びH1を不活性化する方法に係わり、この方法では前記血液製剤にCタイプ紫外線を1回または2回以上照射する。
【0033】
“血液製剤”とは、ヒトまたは動物の身体から直接的にまたは合成工程を経て得られる液状または固形のあらゆる血液製剤、例えば、全血、血液細胞成分、血液派生物質、例えば、血清または血漿、及び血中プロテイン成分、即ち凝固因子(因子VIII,因子IX,フォン・ウィルブラント因子など)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、免疫グロブリン、アルブミンなどのほか、生物工学によって得られる組換えプロテインまたは合成ペプロチドのようなプロテイン成分を意味するものとする。
【0034】
インターフェロン、インターロイキン、またはこれらの分子のレセプターのような特異的な血液細胞系によって形成され、天然に、または合成工程を経て得られる因子、例えば、組換えDNA技術によって得られる組換えペチドまたはプロテインも血液製剤である。この発明の方法は、血液製剤中に存在する可能性がある他の汚染物質、例えば、エンベロープのないウィルス(HAV)、エンベロープのあるウィルス(HIV,B,C,D,E及びG型肝炎ウィルスなど)、細菌類などの不活性化をも可能にする。
【0035】
この発明の方法は、汚染物質、特にウィルス性汚染物質を不活性化するための、当業者には公知の1つまたは2つ以上の処理方法、特に物理的または化学的ウィルス不活性化処理と組合わせることができる。これらの補足的処理は、1回または2回以上の乾式または湿式加熱処理、化学的成分、特に溶剤−清浄剤または紫外線下で活性化する物質の添加、1回または2回以上の低温殺菌処理、γ線やX線などのような特定放射線による1回または2回以上の照射、及びこれらの処理方法の組合わせから成るグループから選択される。血液製剤に添加できる活性物質の例として、遊離基に対して保護機能を果す物質(ビタミンCなど)やプロテインのアルキル化現象を起こさせるβ−プロピオラクトンを挙げることができる。このような物質は毒性現象を起こしたり、処理される血液製剤を変性させない投与量で使用しなければならない。ただし、エンベロープのないウィルスを不活性化したり、遊離基から保護したりするためには、このような物質を添加しなくても、この発明に従って使用される線量なら照射だけで充分である。
【0036】
本発明のウィルス不活性化方法は、全血から血液派生物質を単離または分離する一般的な方法と組合わせることができる。
【0037】
この単離または分離方法としては、全血の各種成分を互いに分離することを可能にする1回または2回以上の濾過、沈澱またはクロマトグラフィー分離処理を利用することができる。
【0038】
この発明では、UVC線の大部分が250〜270nm、好ましくは254nmの波長で、即ち、核酸の吸収に好ましい波長域で照射され、血液製剤が受ける照射線量は、10〜2000ジュール/m、好ましくは230〜400ジュール/mである。
【0039】
この発明の方法においては、処理される血液製剤中に存在するペプチドまたはプロテインの構造を破壊することなく、血液製剤に照射される線量が汚染物質の核酸に対して本質的に作用するように照射線量及び波長を選択する。
【0040】
予想外のことであるが、従来なら血液製剤の処理は薄層(“単分子層”またはいわゆる積層)の状態でのみ可能であったが、実は薄層の状態でなくても可能であるとの所見を得た。即ち、もはや処理量を制限する要因は全くない。薄層状態にない血液製剤を処理することによって、薄層状態で処理する場合に固相/液相界面に発生する破壊現象を回避できるから、この性質は極めて有益である。しかも、薄層状態で処理しないことで、多量の血液製剤を処理することができ、処理される血液製剤の加熱及びシャリングを回避できる(BAILEY,Bioch.Fond,McGraw−Hill)。
【0041】
UVC線の放射波長及び照射線量は当業者なら、処理すべき血液製剤の量と種類とに応じて調整することができる。処理すべき血液製剤が受ける照射線量が高ければ高いほど、存在する汚染物質の不活性化効果も高くなる。しかし、血液製剤の変性現象を軽減するため、当業者ならUVC放射波長の照射量を調整することにより、前記血液製剤の変性と活性損を軽減するであろう。この調整は、ヨーロッパCPMP基準(CPMP/BWP268/95及び269/95)に従って行われる。
【0042】
照射線量を制限して前記製剤の活性損を10〜15%、好ましくは5%以下に抑制しながら、完全なウィルス不活性化を達成することができる(即ち、もはや検出閾値以上のウィルスを検出することはできない)。
【0043】
この発明では、血液製剤中に存在するパルボウィルス、特にパルボウィルスB19及びH1を、この発明の方法を活用することで不活性化する装置についても言及する。
【0044】
この装置は、本質的にはCタイプ紫外線放射源、即ち、その波長が処理すべきウィルスの核酸による紫外線吸収に最適な230〜270nm、好ましくは約254nmである紫外線放射源に係わる。この装置において、放射線が処理すべき血液製剤に向けられる。
【0045】
この装置では、処理すべき血液製剤に10〜2000ジュール/mの線量、好ましくは230〜400ジュール/mの線量を照射することができる。
【0046】
この発明では、上記不活性化装置を含む製造設備についても言及する。
【0047】
この製造設備は、全血から血液派生物質の単離または分離を可能にする装置をも含む。
【0048】
製造設備に含まれるこれらの装置としては、処理すべき血液製剤を沈澱、遠心分離/デカンテーション、濾過、濃縮または透析する手段等が考えられ、これらの装置は、当業者ならば血液製剤の種類に応じて調整することができる。
【0049】
Cタイプ紫外線の照射を受ける血液製剤は、Cタイプ紫外線の放射波長域をほとんど吸収しない石英管またはポリマー材からなる管に収容するのが好ましい。
【0050】
製造設備は、紫外線の作用下に発生する可能性がある遊離基から保護する物質を血液製剤に添加するための装置をも含むことができる。このような保護剤としては、アスコルビン酸ナトリウム、グルタチオンのようなビタミンのほか、当業者にとって公知のその他の物質(SOD)を挙げることができる。製造設備はさらに、処理すべき血液製剤中に存在する汚染物質を不活性化できる種々の化学物質を血液製剤に添加するための装置をも含むことができる。添加される物質は、紫外線の作用下で活性化し、この発明の方法と組合わせることで前記血液製剤中に存在する他の汚染物質に対する相乗効果を発揮できる物質であればよい。ただし、特に薄層状態の血液製剤に応用される不透過UV線の場合とは異なり、この発明では、薄層を利用したり、ウィルス不活性化のために有毒添加物を添加しなくても血液製剤を処理することができる。
【0051】
この発明は、この発明の方法によって得られる、ウィルス性汚染物質を含まない、特にエンベロープのない一本鎖または二本鎖DNAまたはRNAウィルス、具体的にはパルボウィルスB19及び/またはH1を含まない血液製剤にも係わり、特に、その活性の85%以上、好ましくは95%以上を維持できることを特徴とする凝固因子のような血液派生物質にも係わる。効果損の測定は、当業者に公知の方法で行われる。
【0052】
この発明は、前記血液製剤を含む医薬品用及び/または化粧品用組成物(例えば生物接着剤)にも係わる。この発明の実施形態を添付の図面に沿って以下に詳述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図1〜3には、この発明で使用する血液製剤製造設備を示した。
【0054】
この設備1は、因子VIIIまたはフィブリノーゲンのような血液製剤の沈澱、遠心分離/デカンテーション、濾過及び透析に使用され、処理すべき血液製剤に応じて当業者が適応させることができる装置(2,3)を含む。
【0055】
製造設備は、物理的処理によって前記血液製剤のウィルス不活性化を行うこの発明を実施するための装置4をも含む。
【0056】
この発明で使用する血液製剤は、ポンプによって装置4と対向する石英管6に送入される。
【0057】
装置4は、放射の90%以上が230〜270nmで、好ましくは約254nmの波長で行われるUVランプ7、好ましくは消毒用UV管形ランプを含む。このランプは、円筒形などの反射チェンバ8内に設けられ、反射チェンバ8はその焦点に配置された石英管6に向かってUV線を送る。
【0058】
この発明で使用する装置では、石英管6内を循環する血液製剤とUVランプ7との接触はあり得ない。
【0059】
バッフルまたは窒素添加などのような乱流システムを利用することによって、石英管6内の流れを均質化することができる。
【0060】
製造設備は、ポンプ5、及び処理すべき血液製剤の流量を制御し、UVランプ7の前を通過する血液製剤の通過時間を変化させることを可能にする流量計11をも含む。
【0061】
さらに、石英管6とUVランプ7との間に1つまたは2つ以上のスクリーン9を設けることができる。スクリーンを適当に選択することにより、処理すべき血液製剤への照射線量を変え、特定の放射波長を選択することができる。使用するUVランプの選択(出力の異なるランプを使用できる)、使用するスクリーンの選択、及びランプの前を通過する血液製剤の速度の調整によって、処理すべき血液製剤への照射線量を変えることもできる。これらの調整は、当業者なら、処理すべき血液製剤の量及び種類に応じて行うことができる。
【0062】
UVランプとは反対の側に、石英管6を照射するCタイプ紫外線量を(従って、血液製剤が受ける照射線量を)制御するシステム10を配置する。
【0063】
この制御システム10は、図示のように、好ましくは石英管6の両側に、必要ならスクリーン9の両側に配置されて、処理すべき血液製剤の種類及びUVランプ7からの照射線量に応じて当業者が血液製剤の流量を調整できるようにする1つまたは2つ以上のセンサー12から成る。
【0064】
血液製剤の滞留時間を調整することにより、照射線量を一定に維持することができる。管の直径は、処理量と消毒ランプの出力及び長さとに応じて選択すればよい。装置内の温度と流体(液体製剤)内の温度は、いずれも制御され、記録される。
【0065】
この発明で使用する装置及び設備は、血液製剤温度の制御手段、例えば冷凍装置やファンのような冷却手段をも含むことができる。
【0066】
これらの設備及び装置に使用される種々の材料は、医薬製造基準(GMP)を満たし、現場で衛生的に処理できる本質的に使い捨ての物質、例えばステンレススチール316Lやテフロン(登録商標)などであることが好ましい。
【0067】
Cタイプ紫外線によるウィルス不活性化装置は、血液製剤の処理及び分離工程の下流、例えば、血液製剤の殺菌濾過工程の手前、または限外濾過工程の後方に配置することが好ましい。この発明で使用する装置は、簡単かつ小型の携帯可能な装置であるから、血液製剤の製造、精製または分離設備に大がかりな変更を加えることなく、あらゆる種類の血液製剤のウィルス不活性化に使用できる。
【0068】
この発明で使用する装置及び設備は、単一ブロックとして、または直列または並列に配置されたポータブル・モジュールとして構成することができる。処理すべき血液製剤が受ける照射線量は極めて低く、10〜2000ジュール/m、好ましくは230〜400ジュール/m程度である。意外にも、このような照射線量で所要のウィルス不活性化を達成できる。
【0069】
紫外線ランプの出力は、処理される血液製剤の完全性を保持できるように、4〜132ワット、好ましくは8〜60ワットの範囲に設定する。なお、この発明の方法を利用すれば、血液製剤(特に凝固因子、フィブリノーゲンまたは免疫グロブリン)の活性が著しい影響を受けることはない(活性の低下は、平均して5%以下)。
【0070】
この発明で使用する設備のUVランプは、商品名SPAのタイプ、特にAQUAFIN VALENCIA社(California,USA)の製品であることが好ましい。
【0071】
下記の例では、パルボウィルス及びその他のエンベロープのないウィルスに感染している血液製剤サンプルから得られた種々のウィルス不活性化測定値を示す。
【実施例】
【0072】
1.材料及び方法
ヒトのパルボウィルスを使用することによって起こる問題及びこれらのパルボウィルス、特にパルボウィルスB19をインビトロ培養することに伴う問題を考慮して、形状及びサイズが極めて似ているマウスのパルボウィルスMVMpを、パルボウィルスB19の不活性化方法開発のモデルとして使用する。マウスのパルボウィルスMVMpを選択した理由は、このタイプのパルボウィルスが紫外線照射または温度変更による不活性化に対してパルボウィルスB19よりも感度が低いことにある。
【0073】
試験は、エンベロープのないRNAウィルスの不活性化との比較において行う。
【0074】
EMCウィルス(脳心筋炎ウィルス)はピコルナウィルス群に属し、その不活性化はエンベロープのないRNAウィルスのモデルとして検討されている。EMCウィルスは、ヒトにおけるA型肝炎ウィルスによる汚染のモデルとして利用できるマウスのウィルスである。10pfu(プラーク形成単位)/mlのEMCと1010pfu/mlのMVMpとを種々の血液製剤サンプル(低温沈澱物、因子VIIIまたは免疫グロブリン)に接種する。
【0075】
2.活性ウィルスのタイター
ヨーロッパ共同体の勧告(EEC Regulatory Document not for guidance,Biologicals 1991,19,p.251)に従ってウィルス減少指数を測定し、対数減少の形で表わした。タイターの測定は、Tattersall P.が記述している方法(J.Virol.,10,pp.586−590(1972))及びRussell S.J.et al.が記述している方法(J.Virol.,66,pp.2821−2828(1992))に従って行うことができる。
【0076】
パルボウィルスに感染した細胞系として、NB324/kヒト細胞系(Tottersall et al.,によって記述)及びL929系(A9 ATCC CCL 1.4系のクローン929)を選択した。
【0077】
滴定は、放射性標識プローブを利用して感染中心のin situハイブリッド形成法によって行うことができる。検出は、ニトロセルロース・フィルターで行われる。ウィルスタイターの測定は、溶菌プラークまたは限界希釈法(TCID50−sperman−Karber法)によって行われる。
【0078】
この発明の方法で処理される血液製剤は、血漿の低温沈澱物、あらかじめ溶剤/清浄剤で処理されているか、あるいは処理されていない因子VIII,フィブリノーゲン及び免疫グロブリンである。
【0079】
3.結果
この発明の方法(各工程)及びそれを実施するための装置は、ヨーロッパの関係機関が要求する実施条件(CPMP/BWP/268/95及びCPMP/BWP/269/95−それぞれ1996年8月14日及び9月13日から発効(参考のためこの明細書中に引用))に合致する。これらの機関の勧告(§5.2.1(1)CPMP/BWP/269/95)通り、この発明の方法及びそれを実施するための装置は、エンベロープのないウィルス、特にパルボウィルスに対する有効処理工程を少なくとも1つ含んでいる(§5.2.2(iii))。この発明は、特に不活性化条件、即ち、5〜9対数減少(Annex I CPMP/BWP/268/95参照)を満たしている。即ち、接種されたウィルスを残らず排除することができる。事実、発明者は、処理後、検出閾値以上のウィルス増殖を観察できなかった。
【0080】
図4に示すように、紫外線照射量を増大させると、因子VIIIのような血液派生物質の不活性化が促進される。しかし、意外な所見として、Cタイプ紫外線を照射することにより、因子VIIIを含む溶液に接種されたパルボウィルスを、血液派生物質の活性をほとんど損なうことなく低い照射線量で不活性化できる(図5参照)。
【0081】
下に掲げる表1には、免疫グロブリンを含む組成物に接種されたウィルスの対数減少(log10)を示す。この対数減少値は、前記免疫グロブリンが受けるCタイプ紫外線照射量の増加に対応させて示してある。
【0082】
【表1】

【0083】
溶液中の免疫グロブリン濃度は、2mg/mlである。
他の処理ずみ血液製剤でも同様の結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】この発明に係る方法を実施するための装置の例を略示する斜視図である。
【図2】この発明に係る方法を実施するための装置の例を略示する斜視図である。
【図3】その装置の細部を略示する斜視図である。
【図4】因子VIIIが受ける紫外線照射線量を増加させながら、発色性媒質中で測定した因子VIII活性の保持%を示すグラフである。
【図5】紫外線照射線量を増加させながら、処理される因子VIII溶液に接種されたパルボウィルスMVMpを滴定した結果を示すグラフである。照射線量は、照射された線量であり、この測定結果を対数値で表わしてある。
【符号の説明】
【0085】
6 石英管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液製剤にCタイプ紫外線を1回以上照射して前記血液製剤中に存在するウィルスを不活性化する方法において、
前記血液製剤に前記Cタイプ紫外線を照射するために石英管または前記Cタイプ紫外線を吸収しないポリマー材から成る管の中で前記血液製剤を循環させることと、
乱流システムにより前記管内を循環する前記血液製剤の流れを均質化することによって、前記管では、薄層状態にない前記血液製剤を処理し、前記血液製剤が薄層状態である場合に前記管の固相/液相界面に発生する破壊現象を回避することとを特徴とする前記ウィルスを不活性化する方法。
【請求項2】
前記乱流システムが、バッフルおよび窒素添加のいずれかである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液製剤が血清、血漿及び血中プロテイン成分から成るグループから選択されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記血中プロテイン成分が凝固因子であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記凝固因子が、因子VIII,因子IX,フォン・ウィルブラント因子、フィブリノーゲン、フィブロネクチンから成るグループから選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血中プロテイン成分が免疫グロブリン、アルブミンから成るグループから選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記Cタイプ紫外線の照射が250〜270nmで行われることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記Cタイプ紫外線の照射が254nmを含む波長で行われることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
1つ以上の物理的および化学的いずれかのウィルス不活性化処理と組合わせることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記物理的ウィルス不活性化処理に1回以上の加熱工程が含まれることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
全血から前記血液製剤を単離または分離する方法と組合わせることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−77707(P2009−77707A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207608(P2008−207608)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【分割の表示】特願平9−506100の分割
【原出願日】平成8年7月15日(1996.7.15)
【出願人】(509017332)サルトリアス ステディム バイオテック ジーエムビーエイチ (1)
【Fターム(参考)】