説明

血清タンパク質の浸出を減少させる組成物

【課題】アトピー性皮膚炎、アトピー性湿疹、皮膚掻痒症、アトピー性鼻炎、アトピー性洪班又は紅皮症、接触性皮膚炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患などの症状を改善する化粧料組成物の提供。
【解決手段】ジパルミトイルホスファチジルコリン及び/又はジパルミトイルホスファチジルイノシトールなどの二重飽和リン脂質と、塩化カルシウムなどのカルシウムイオンと、及びクエン酸などのカルボキシル基を含有する有機酸とを含む化粧料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、血清タンパク質の浸出を減少させる組成物に関し、より詳細には、血清タンパク質(serum−proteins)の皮膚及び粘膜からの浸出現象を減少させることにより、アトピー性皮膚炎、アトピー性湿疹、皮膚掻痒症、アトピー性鼻炎、アトピー性洪班又は紅皮症、接触性皮膚炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患などの症状を改善する発明である。
【背景技術】
【0002】
アトピー性疾患に対する学問的な理解と症状の緩和及び治療を目的に、免疫学及び細胞学の発達に伴い、生体の免疫調節機構又は細胞信号伝達機構を理解し、これを用いた方法により、多くの研究が行われている。その一方で、一部の科学者は、現代文明の発達による変化、すなわち、食生活の変化や汚染物質の露出に注目して研究を行ってきた。
【0003】
このような様々な分野のアトピー性疾患に関する研究から共通してわかるのは、アトピー性疾患の発生原因が、免疫学的なものなのか、西欧化した飲食によるものなのか、化学物質への露出によるものなのかにかかわらず、アトピー性疾患の皮膚や粘膜から血清タンパク質が浸出するという事実である。しかしながら、アトピー性疾患の発生により、血清タンパク質が皮膚や粘膜から浸出するのか、それとも血清タンパク質が浸出してアトピー性疾患が発生するのか、確実に結論を引き出せるような研究は未だにないのが現状である。
【0004】
上皮又は粘膜における血清タンパク質の浸出は、そのほとんどが血清アルブミン(serum−albumin)を基準タンパク質(marker)として観察されてきた。皮膚疾患において血清アルブミンの浸出程度は、疾患の重症度との相関関係があることが知られている。血清タンパク質の皮膚への浸出が深刻な場合は、血液の低アルブミン症(hypoalbuminemia)を誘発する(Worm et al.,1981.Br.J.Dermatol.104:389−396と、Worm and Rossing,1980.J.Invest.Dermatol.75:302−305)。アレルギー性喘息(allergic asthma)及び鼻炎を有する患者の場合、腸内壁において、深刻なアルブミンの損失を誘発するリンパ管拡張症(intestinal lymphangiectasia)の症状も見られた(Esenberh,1976.Ann.Allergy,36:342−350)。子供にとって、アトピー性皮膚疾患によるアルブミンの損失は、成長の阻害も誘発し(Abrahamov,1986.Eur.J.Pediatr.145:223−226)、更に、低アルブミン症と共に、頻尿(oiguria)と肢端チアノーゼも伴う(Capulong et al.1996.Pediatr.Allergy Immunol.7:100−102)。アトピー性湿疹の場合や接触性皮膚炎の場合も、患部におけるアルブミンの流出程度は、症状の深刻性との相関があることが報告されている(David et al.,1990.Br.J.Dermatol.122:485−489と、Wijsbek et al.,1991.Int.J.Microcirc.Clin.Exp.10:193−204)。
【0005】
喘息及び慢性閉塞性肺疾患の症状も、患者の痰からアルブミンを含む血清タンパク質の流出が報告されており(Schoonbrood et al.1994.Am.J.Respir.Crit.Care Med.150:1519−1527と、Anderson&Persson 1988.Agents Actions Suppl.23:239−260)、慢性咳の場合は、好酸球増多症(eosinophilia)の症状がなくても、アルブミンの浸出が生じることが報告されている(Pizzichini et al.,1999.Can.Respir.J.6:323−330)。
【0006】
化学物質による血清タンパク質の浸出は、サリチル酸メチル、フェノール、クロトンオイル、ベンザルコニウムなどの物質(Patrick et al.1985.Toxicol.Appl.Pharmacol.81:476−490)や、トルエン、m−キシレン、シクロヘキサンなどによって誘発される(Iyadomi et al.,1998.Ind.Health 36:40−51)。2,4−ジニトロフルオロベンゼンは、皮膚刺激性試験を行うための動物モデルに用いられ、この物質も血清タンパク質の浸出を引き起こす(Nakamura et al.,2001.Toxical.Pathol.29:200−207)。全ての有機溶媒性物質が血清タンパク質の浸出を誘発するのではなく、浸出程度も化学物質によって異なることが報告されている。血清タンパク質の浸出は、芳香環を有する化学物質により誘発されやすくなり、アセトンのような有機溶剤は、血清タンパク質の浸出に対する影響がほとんどない。
【0007】
西欧化した食生活をアトピー性疾患の発生原因とみなす研究(Weiland et al.,1999.Lancet 353:2040−2041と、von Mutis et al.,1998.Lancet 351:862−866と、Dunder et al.,2001.Allergy 56:425−428)は、人々の摂取する脂質成分及び含量の変化に注目している。この研究は、1970年代に入り、過度に摂取されている植物油の主成分である不飽和脂肪酸及びトランスオイルにより、代謝の不均衡が誘発され、これがアトピー性疾患の増加につながるというものである。
【0008】
人間を含む哺乳動物の肺は、他の臓器や器官とは異なり、はるかに高い二重飽和脂肪酸を有するリン脂質が多く、特に、肺の表面に存在するサーファクタントとしては、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoylphosphatidylcholine、DPPC)の含量が非常に高い。この成分は、肺において表面張力を下げる役割を果たすものとして知られている。肺の表面においてサーファクタントによる表面張力の減少は、肺に息を吸い込むときに呼吸をしやすくするばかりでなく、息を深く吐いたとき、肺胞壁が互いにくっついたり、その構造が崩れることを防止する。肺に存在するサーファクタントの脂質成分は、約90%がリン脂質(この成分の約70%は二重飽和リン脂質)、約10%が中性脂肪(中性脂肪のほとんどはコレステロール)からなっている(Reviews:Jon Goerke 1998.Biochem.Biophy.Acta.1408:79−89と、Veldhuizen et al.,1998.Biochim.Biophys.Acta.90−108)。
【0009】
上述の内容に加えて更に考慮すべき科学的結果は、肺のサーファクタントの脂質が合成されるマクロ的な経路である。1つの重要な点は、人間の肺に存在するコレステロールのほとんどが、血液から供給されなければならないことである。肺で合成されるコレステロールは、1%程度に過ぎず、残りは、血液から供給されなければならないということである(Hass and Longmore,1979.Biochim.Biophys.Acta 573:166−174)。肺のサーファクタントのほとんどを構成しているリン脂質の場合、タイプIIの上皮細胞(epithelial cell TypeII)で合成されて分泌されるが、リン脂質を構成している脂肪酸のほとんどは、血液のVLDL(very low density lipoprotein)から供給されることが知られている(Rama et al.,1997.J.Clin.Invest.99:2020−2029)。
【0010】
SP−A(Surfactant Protein A)は、肺のサーファクタントとして存在する主なタンパク質であって、30余年間研究が重ねられてきたタンパク質である。SP−Aは、肺胞に存在するタイプIIの上皮細胞で合成されて分泌されるばかりでなく、小腸の表面、耳のエウスタキー管(Eustachian tube)、涙などでも見つかっている。分子量は約700KDa(ゲル濾過分析による大きさ)で、32KDaの分子量を有する18の同一単位が集まって固有の機能を果たす成熟タンパク質を形成する。このタンパク質の生物学的機能は様々であるとされており、2つのグループに大別することができる。第一に、SP−Aは、呼吸中に肺に入ってくるバクテリアやウイルス、その他のイエダニや花粉などに結合して肺を保護する免疫学的な機能があり、第二に、肺のサーファクタントの恒常性(homeostasis)の維持に関与する機能がある(Tino and Wright 1998.Biochim.Biophys.Acta.1408:241−263と、Haagsman,Biochim.Biophys.Acta.1408:264−277と、Crouch&Wright,2001.Annu.Rev.Physiol.63:521−524と、Haagsman and Diemel,2001 Compar.Biochem.Physiol.129:191−108)。
【非特許文献1】Worm et al.,1981.Br.J.Dermatol.104:389−396
【非特許文献2】Worm and Rossing,1980.J.Invest.Dermatol.75:302−305
【非特許文献3】Esenberh,1976.Ann.Allergy,36:342−350
【非特許文献4】Abrahamov,1986.Eur.J.Pediatr.145:223−226
【非特許文献5】Capulong et al.1996.Pediatr.Allergy Immunol.7:100−102
【非特許文献6】David et al.,1990.Br.J.Dermatol.122:485−489
【非特許文献7】Wijsbek et al.,1991.Int.J.Microcirc.Clin.Exp.10:193−204
【非特許文献8】Schoonbrood et al.1994.Am.J.Respir.Crit.Care Med.150:1519−1527
【非特許文献9】Anderson&Persson 1988.Agents Actions Suppl.23:239−260
【非特許文献10】Pizzichini et al.,1999.Can.Respir.J.6:323−330
【非特許文献11】Patrick et al.1985.Toxicol.Appl.Pharmacol.81:476−490
【非特許文献12】Iyadomi et al.,1998.Ind.Health 36:40−51
【非特許文献13】Nakamura et al.,2001.Toxical.Pathol.29:200−207
【非特許文献14】Weiland et al.,1999.Lancet 353:2040−2041
【非特許文献15】von Mutis et al.,1998.Lancet 351:862−866
【非特許文献16】Dunder et al.,2001.Allergy 56:425−428
【非特許文献17】Reviews:Jon Goerke 1998.Biochem.Biophy.Acta.1408:79−89
【非特許文献18】Veldhuizen et al.,1998.Biochim.Biophys.Acta.90−108
【非特許文献19】Hass and Longmore,1979.Biochim.Biophys.Acta 573:166−174
【非特許文献20】Rama et al.,1997.J.Clin.Invest.99:2020−2029
【非特許文献21】Tino and Wright 1998.Biochim.Biophys.Acta.1408:241−263
【非特許文献22】Haagsman,Biochim.Biophys.Acta.1408:264−277
【非特許文献23】Crouch&Wright,2001.Annu.Rev.Physiol.63:521−524
【非特許文献24】Haagsman and Diemel,2001 Compar.Biochem.Physiol.129:191−108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、血清タンパク質の浸出に関する疾患を治療・予防及び/又は緩和させる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成すべく、本発明は、有効成分として、二重飽和リン脂質を含む血清タンパク質の浸出に関する疾患の治療又は緩和用の組成物を提供する。
【0013】
本発明の前記二重飽和リン脂質は、動物から抽出されたものが好ましく、牛又は豚から抽出されたものが更に好ましく、これらの肺洗浄液又は肺組織破砕物から抽出されたものが最も好ましい。
【0014】
また、本発明の前記二重飽和リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン及び/又はジパルミトイルホスファチジルイノシトールであることが好ましい。
【0015】
更に、本発明の組成物は、カルシウム及びカルボキシル基を含む有機酸を更に含むことが好ましく、前記カルボキシル基を含む有機酸は、代謝可能な有機酸、すなわち、例えば、乳酸、コハク酸、フマル酸、又はクエン酸を含むものの、これに限定されない有機酸であることが最も好ましい。また、本発明の組成物は、必要に応じて、添加剤、例えば、グリセロールを更に含むことができる。本発明の組成物において、前記二重飽和リン脂質は、1mg/ml〜700mg/mlの範囲の濃度で存在することが好ましい。1mg/ml未満の濃度では治療又は緩和効果が微弱であり、700mg/ml以上では懸濁液の高粘度により均質化が不可能なため、使用が困難なことから、前記濃度の範囲が最も好ましい。
【0016】
また、本発明は、本発明の組成物を含有する皮膚疾患治療剤組成物を提供する。更に、本発明は、本発明の組成物を含有する化粧料組成物を提供する。
【0017】
本発明の前記血清タンパク質の浸出に関する疾患は、アトピー性皮膚炎、アトピー性湿疹、皮膚掻痒症、アトピー性鼻炎、アトピー性洪班又は紅皮症、接触性皮膚炎、喘息、又は慢性閉塞性肺疾患であることを含むものの、これに限定されない。
【0018】
以下、本発明を説明する。
本発明は、植物抽出油に多く存在する不飽和脂肪酸及びトランスオイルの過度な摂取による内皮・上皮バリア(endothelial−epithelial barrier)の機能低下により、皮膚や粘膜から血清タンパク質が浸出する現象を、アトピー性疾患の共通モデルとして用いた。ラットの肺に植物抽出油を投与して人為的に血清タンパク質の浸出を誘発し、生体で完全に代謝される安全な生体成分を用いて血清タンパク質の浸出を減少又は抑制可能であることを見出した。そして、アトピー性疾患を有する患者の患部(皮膚)においても効果的に作用することを見出した。
【0019】
本発明では、健康な動物の肺洗浄液又は肺破砕液において、SP−Aタンパク質が2価の陽イオンにより凝集現象を起こすとき、動物の肺に存在する理想的なリン脂質成分と共に、独特の沈殿層を形成することを見出した。更に、この沈殿層から人間に免疫反応を誘発し得るサーファクタントタンパク質(特に、有機溶媒の溶解性タンパク質のSP−B及びSP−C)、疏水性ペプチド、並びに、コレステロール及び不飽和リン脂質を除去した後、健康な生体の有する理想的な組み合わせの二重飽和リン脂質分画を正常に得る方法を含んでいる。しかも、SP−Aタンパク質は、2価の陽イオンが存在しないときに非特異的な疏水性性質(non−specific hydrophobic interaction)が強くなるという発見に基づき、二重飽和リン脂質分画を成分とする組成物を、アトピー性疾患の皮膚や粘膜に血清タンパク質の浸出阻害のために適用するとき、一定濃度のカルシウムイオンが要求されるばかりでなく、同時に、二重飽和リン脂質が特定濃度のカルシウムイオンにより凝集しないようにするための方法であって、細胞内で代謝され得るカルボキシル基を有する物質、すなわち、クエン酸(citrate又はcitric acid)を組成物に追加することも、重要な要素である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明の実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の権利範囲は、下記の実施例に限定されない。
【実施例】
【0021】
実施例1:豚の肺洗浄液から二重飽和リン脂質分画を抽出する方法
(1)肺洗浄液を得る方法
健康な豚から摘出した肺を、5mMの塩化カルシウム(CaCl)を含有する食塩水を器官に投与して内部洗浄した。洗浄は、常温にて圧力ポンプを用いて、片側の肺に約0.6リットルの溶液を投入した後、流出する洗浄液を採取した。肺の片側につき15リットルずつ洗浄する。採取した肺洗浄液(bronchial alveolar lavage)は、直ちに冷水槽(ice−water bath)に移して冷却させた。
【0022】
(2)肺洗浄液からSP−Aの凝集現象を用いたサーファクタントの沈殿物を得る方法
カルシウムイオン(5mM)を含有している前記肺洗浄液を、氷水槽に1時間放置すると、SP−Aタンパク質がサーファクタントの脂質と凝集する現象が見られた。この溶液を低速(low−acceleration)回転機能を有する遠心分離機(ハンイル社製、韓国)で遠心分離を行った。4,500gの遠心分離力により、4℃にて35分間、遠心分離を行った。遠心分離後の沈殿物は、独特の3層を有する。少量の最下層は、細胞及び変性タンパク質であり、最多量の中間層及び少量の最上層は、サーファクタント及びサーファクタントタンパク質の複合成分である。沈殿物の中間層及び最上層を別途に採取し、二重飽和リン脂質分画の抽出に用いた。
【0023】
(3)1次有機溶媒の抽出
上記の得られたサーファクタントタンパク質及びサーファクタント脂質の複合体の容積の2倍の蒸溜水を加えて懸濁させた。クロロホルム及びメタノール(容積比2:1)の混合溶媒を同じ容積で試料に加えた後、30分間、30℃にて振盪した。試料を1,000gの遠心分離力により、15分間遠心分離した後、有機溶媒層を抽出した。
【0024】
(4)シリカカラムクロマトグラフィーを用いた二重飽和リン脂質分画の抽出
1次有機溶媒の抽出試料を蒸発器(evaporator)を用いて溶媒を蒸発させた後、クロロホルムで再溶解した。この試料をシリカ(Merck社製、230−400メッシュ)で満たした、直径:高さ比が1:5のカラムに適用させた。試料から、コレステロール及び有機溶媒に溶解しているサーファクタントタンパク質を除去し、二重飽和リン脂質を得るために意図された溶媒は、次の順で使用された。シリカカラムを純粋なクロロホルムで洗浄した後、純粋なクロロホルム−純粋なアセトン−純粋なクロロホルム−クロロホルム:メタノール(容積比9:1)の混合溶媒−クロロホルム:メタノール(容積比4:1)の混合溶媒−クロロホルム:メタノール:水(容積比8:6:1)の混合溶媒の順で使用された。有機溶媒の溶解性サーファクタントタンパク質及び疏水性ペプチドは、純粋なアセトン−純粋なクロロホルム溶媒で溶出し、この発明に必要な成分である二重飽和リン脂質分画は、最終溶媒として溶出した。得られた分画の各リン脂質成分は、基準脂質(シグマ会社から入手)を用いて、2D−TLC(2次元薄層クロマトグラフィー)を用いて確認した(図1)。抽出された二重飽和リン脂質分画の主成分は、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びジパルミトイルホスファチジルイノシトールであった。
【0025】
(5)抽出された二重飽和リン脂質分画の後処理
カラムから抽出された最終試料は、3層のワットマンNo.1紙フィルタを通過させた後、蒸発器を用いて溶媒を除去した。溶媒を除去した試料に純粋なエタノールを添加した後、PVDF(polyvinylidene fluoride、2μmの孔径、ミリポア製品)フィルタを用いて濾過した。エタノールは、蒸発器を用いて再蒸発させた。エタノールによる洗浄作業を2回にわたって行った。微量残存するエタノールは、凍結乾燥器(freeze−drier)を用いて除去した。得られた二重飽和リン脂質分画の粉末形態は、窒素で充填された密閉保管容器に入れ、−70℃にて保管した。
【0026】
実施例2:牛の肺洗浄液から二重飽和リン脂質分画を抽出する方法
使用された動物を豚から牛に変更したことを除き、実施例1に記載された(1)〜(5)の過程を経て、牛の肺洗浄液から二重飽和リン脂質分画を得た。
【0027】
実施例3:健康な豚の肺組織破砕物から二重飽和リン脂質分画を得る方法
(1)動物の肺組織の1次破砕
健康な豚から摘出した肺組織150gを、約2cm×2cmの大きさに切る。切られた肺組織片に、3mMの2価の陽イオン(塩化カルシウム)を含有する冷却食塩水700mlを添加した後、金属刃付きの混合器(metal−blade blander)で破砕する。破砕は、20秒ずつ、合計6回の低速回転を行い、昇温を防止するため、冷水槽を用いて頻繁に冷却させた。初期破砕は、完全な破砕を行わず、肺組織の大きさが豆粒大になるようにした。
【0028】
(2)1次破砕液からサーファクタント脂質の損失なく血液を除去する方法
上記1次破砕液を冷水槽にて1時間放置し、広い表面積を有する破砕組織から血清を浸出しやすくし、同時に、サーファクタント成分は、2価の陽イオン(カルシウムイオン、3mM)により凝集現象を起こせるようにした。1時間放置した破砕液は、低速回転機能の遠心分離機を用いて、4,500gの遠心分離力により、4℃にて40分間、遠心分離を行った。遠心分離後、沈殿層及び浮遊物(完全に破砕していない一部の肺組織は空気を含むため、沈殿せずに浮遊する)を除く血清を含有する溶液は除去した。
【0029】
(3)肺組織の2次破砕及びサーファクタントの沈殿方法
血清を除去した1次肺組織破砕物に、5mMの2価の陽イオン(カルシウムイオン)の濃度を含有する500mlの75mM塩化ナトリウム溶液(生理食塩水の1/2の濃度)を加えた後、金属刃付きの混合器で組織をきれいに破砕した。この過程は、肺のタイプIIの上皮細胞の内側に存在するサーファクタントの貯蔵所(reservoir)としての役割を果たすマルチラメラ構造物を得やすくするため、低張液(hypotonic solution)を使用した。破砕の過程で昇温しないように、高速回転による破砕を40秒ずつ6回〜8回行いながら、冷水槽を用いて頻繁に冷却させた。2次破砕を経た試料は、4℃にて1時間放置し、SP−Aによるサーファクタントの凝集現象を起こすようにした。低速回転機能の遠心分離機を用いて、4,500gの遠心分離力により、4℃にて40分間、遠心分離を行った。遠心分離後、試料は、色及び質感が完全に異なる2つの沈殿層を形成する。沈殿層中に上層を別途に取り出して、二重飽和リン脂質を抽出するための有機溶媒の抽出過程を経た。残る少量の下層に、再び5mMのカルシウムイオンを含有する食塩水を加えて再懸濁させた後、同じ方法で遠心分離を行うと、混ざっていた一部のサーファクタント脂質が再度分離層を形成した。この上層の沈殿層を、以前に得られた試料と合わせて有機溶媒の抽出過程を経た。
【0030】
(4)二重飽和リン脂質分画を得る方法
上記実施例1で記述した(3)、(4)、(5)と同様の方法を用いて、肺組織破砕物から二重飽和リン脂質分画を得た。
【0031】
実施例4:健康な牛の肺組織破砕物から二重飽和リン脂質分画を得る方法
使用された動物を豚から牛に変更したことを除き、実施例3と同様の過程を経て、牛の肺組織破砕物から二重飽和リン脂質分画を得た。
【0032】
実験例1:動物実験
1−1.動物の肺における血清タンパク質の浸出の誘発
トウモロコシ油(シグマ社から入手)及び食塩水は、オートクレーブを用いて、それぞれ別途に滅菌した。500μl(マイクロリットル)のトウモロコシ油及び1,500μlの食塩水を混合した後、激しく振盪させて均質な懸濁液にした。血清タンパク質の浸出を誘発するため、この懸濁液を成長したSDラット(Sprague−Dawley rat)の肺に気管支内投与(intratracheal administration)した。プラセボ効果の対照群のラットは、滅菌した食塩水のみを気管支内投与した。実験群のラットは、2週間後にケタミン(Ketamine、有限洋行製品)麻酔剤を用いて睡眠麻酔を行った後、二酸化炭素を用いて安楽死させた。実験動物の死後、直ちに肺を摘出し、合計50mlの食塩水(3mMの塩化カルシウムを含有)で肺を洗浄し、肺洗浄液を動物個体ごとに採取した。
【0033】
1−2.血清タンパク質の浸出阻害効果に関する実験及び使用された組成物の構成
上述した方法により、血清タンパク質の浸出を動物に誘発させた後、1週間後に実施例1〜4から得られた二重飽和リン脂質分画を含有する組成物を気管支内投与した。実験動物からの肺の摘出及び肺の洗浄は、組成物を投与した時点から1週間後に行った。
使用された組成物は、30mg/mlの二重飽和リン脂質分画、1.5mMの塩化カルシウム、7.5mMのクエン酸(citrate trisodium salt)、125mMの塩化ナトリウムの濃度になるように蒸溜水に混合し、溶液のpHは6.0にした。動物への投与前に激しく振盪させて均質な懸濁液にして使用した。
【0034】
1−3.血清タンパク質の浸出誘発及び浸出阻害に関する分析
(1)それぞれの実験動物群からの分析試料の用意
各実験動物群から得られた肺洗浄液は、低速回転機能の遠心分離機を用いて、4,500gの遠心分離力により、4℃にて30分間、遠心分離を行った。得られた沈殿物から、2価の陽イオン(カルシウムイオン)の存在下、SP−Aにより凝集したサーファクタントの層のみを別途に採取した。採取した沈殿物の約3倍の容積の食塩水(3mMの塩化カルシウムを含有)を加えて再懸濁させた。この懸濁液は、同じ遠心分離力により遠心分離して沈殿させた。このような沈殿物の洗浄過程を更に2回繰り返して沈殿物を洗浄した。最終沈殿物の懸濁液を1mlの小型遠心分離管に分けて、各沈殿物の容積が200μlになるように分けた。
【0035】
上記の洗浄されたサーファクタントの沈殿物200μlに、10mMのEDTA(ethylenediamineteteraacetic acid)を含有する10mlのトリス緩衝液(pH7.4,10mM Tris−HCl,140mM NaCl)を加えて懸濁させた。この溶液に界面活性剤(detergent)のCHAPS(Amresco製品、USA)を添加して懸濁液を溶解させた。CHAPSの基準溶液は、10%(約162mMの濃度)を使用し、最終的に使用したCHAPSの使用濃度は、65mMであった。
【0036】
(2)分析
上記過程により用意されたそれぞれの試料(2ml)から1mlを取り、Sephacry S−400HR(1.5cm×20cm、Amersham Bioscience製品)樹脂で満たされたクロマトグラフィーカラムに適用し、タンパク質溶出パターンを分析した。クロマトグラフィーの作業には、GradiFrac(Pharmacia製品)を用いた。このとき、使用された緩衝液は、5mMのEDTA、1mMのCHAPS及び140mMのNaClを含有する10mMのトリス緩衝液(pH7.4)を使用した。カラムから溶出したタンパク質の紫外線吸光グラフから、分子量700kDa部位のSP−Aを含有するタンパク質のピークと、分子量70kDa部位のアルブミンを含有するタンパク質のピークとの大きさ(量)を比較することにより、血清タンパク質の浸出程度と浸出阻害程度をそれぞれ測定した(図2参照)。
【0037】
1−4.動物実験の結果
血清タンパク質の浸出を誘発した実験ラットから得られた試料、組成物の投与により浸出を抑制させた実験ラットの試料、食塩水のみを投与した実験ラットから得られた試料、並びに、未処理の正常ラットから得られたタンパク質溶出パターングラフから、分子量700KDa部位のタンパク質のピークと、分子量70KDa部位のタンパク質のピークとの比、すなわち、2つのピークの大きさ(量)の比を、(表1)にまとめた。
【0038】
【表1】

【0039】
上記(表1)に示す結果から、健康な動物の肺から抽出した二重飽和リン脂質分画を主成分とする組成物は、血清タンパク質の浸出を減少させることを確認した。1回だけの気管支内投与により、アルブミンを含有するピークの大きさが血清タンパク質の浸出誘発ラットに比べて約50%減少している。この減少量は、所定の基準から得られた数値であり、実際の減少量はこれよりはるかに大きい。その理由は、正常ラットから肺洗浄液を得ると、平均して2ml〜3ml(沈殿物の容積/匹)の範囲で得られることが一般的であり、血清タンパク質の浸出誘発ラットからは個体ごとに大きな変異があるとしても、正常ラットの3倍〜5倍程度多い沈殿物が得られる。しかし、本発明の組成物による血清タンパク質の浸出を抑制したラットからは、正常ラットの沈殿物の量とほぼ同じか、多くても約2倍の容積の沈殿物が得られる。すなわち、本発明の組成物は、血清タンパク質の浸出誘発ラットに比べて、その沈殿物の絶対的な量が明確に減少したことがわかる。しかし、このような沈殿物の量の絶対的な違いは、実験温度、肺組織の柔軟性、実験者の器用さなどによって異なり得ることから、それを数値化してはいない。すなわち、図2及び(表1)に示されている血清タンパク質の減少は、タンパク質の全量を示すのではなく、SP−Aを含有するピークと、アルブミンを含有するピークとの相対的な比較値のみを提示している。仮に、本発明の組成物によって減少したアルブミンを含有するピークの総量(図2(2)のB参照)を考慮する場合、その減少の程度は、非常に顕著な効果があることがわかる。
【0040】
生体が肺の表面に有する最も理想的な二重飽和リン脂質組成は、肺洗浄液から正常に抽出した二重飽和リン脂質分画が最も効果的でなければならないが、得られた実験結果を見ると、血液を除去した肺組織破砕物から得られた二重飽和リン脂質分画も、同じ比率の血清タンパク質の浸出阻害を見せた。
【0041】
実験例2:アトピー性皮膚疾患を有する志願者に対する実験
2−1.皮膚に使用した組成物及び適用方法
(1)組成物
動物の肺を破砕した後、2価の陽イオン(カルシウムイオン)によるサーファクタントの凝集現象を用いた抽出方法によって得られた二重飽和リン脂質分画(この成分は、抽出過程で0.2μmの孔径のPVDF(polyvinylidenefluoride filter、0.2μmの孔径、ミリポア製品)フィルタで濾過した後、凍結乾燥した状態)に蒸溜水を加えた後、高温高圧滅菌を行った。塩化カルシウム溶液、クエン酸(citrate trisodium salt)溶液及びグリセロールも、それぞれ別途に加圧滅菌を行った。滅菌した成分を無菌状態で蒸溜水に混合し、15mg/mlの二重飽和リン脂質、1.5mMのカルシウムイオン、7.5mMのクエン酸(citrate trisodium salt)、10%(容積/容積比)のグリセロールの濃度になるようにした。pHは6.0にした。グリセロールは、二重飽和リン脂質が、皮膚に塗布する際にもみ込む物理的な力によって二重飽和リン脂質が広がりやすくなるように、溶液に粘度を与えるため、全濃度10%になるように添加した。混合成分を激しく振盪させて均質な懸濁液にして適用した。
【0042】
(2)適用方法
皮膚への適用は、約2cm×2cmの患部の表面に一滴(約30μl)をたらして溶液が完全に染み込むまで塗り込んだ。1日2回以上の皮膚への塗布を推奨した。この組成物の使用中は、芳香環を有する化合物を含有する香りの強い化粧品や石鹸の使用を自制するように推奨した。
【0043】
2−2−1.1次志願者に対する実験結果(肉眼観察)
アトピー性皮膚疾患を有する8名(5歳〜40歳、平均年齢33歳、男4名、女4名)の志願者に対し、15の部位に対してテストを行った。組成物の皮膚への適用期間は2週間〜4週間であった。テスト志願者全員に、患部と患部周辺との境目が区別できない程度にアトピー性皮膚炎症状の改善が見られることがわかった。
【0044】
アトピー性皮膚疾患による浸出物が乾燥して形成されるウロコ模様(skin crust)は、適用2日後から皮膚の表面に再形成されていないことを確認した。アトピー性洪班を有する志願者の場合、1週間後、患部と患部周辺との色差が区別できない程度に症状が見られなくなった。皮膚潰瘍を伴った場合は、3.5週間後(約25日経過)、傷が完全に回復していることを確認した(図3参照)。
【0045】
2−2−2.2次志願者に対する実験結果(肉眼観察)
アトピー性皮膚疾患を有する27名(0.8歳〜42歳、平均年齢23.4歳、男13名、女14名)の志願者に皮膚適用テストを行った。
【0046】
組成物の適用期間は2週間〜5週間であった。適用期間中、志願者5名を除く25名に、患部と周辺皮膚との境目が区別できない程度に症状の改善が見られた。症状の改善が見られなかった2名の患者は、それぞれ顔と背中に重度のにきび症状があり、アトピー性皮膚疾患とにきびの症状が複合的に発生していた。症状改善度の低い3名の志願者は、長期間のアトピー性皮膚疾患の産物として非常に厚く形成された角質化を起こしていた。症状の改善が見られた25名中3名の志願者は、組成物の適用期間中に深刻な皮膚への感染が観察され、皮膚科での坑菌治療を併行していた。この部分に対する結果の写真は、図4〜図7に示している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
上記の構成からわかるように、本発明の二重飽和リン脂質を含む組成物は、血清タンパク質の浸出により誘発されるアトピー性疾患などの治療又は緩和に有効であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、二重飽和リン脂質をTLCで確認した写真である。同図の*印は、二重飽和リン脂質分画を示している。
【図2】図2は、ラットの肺に血清タンパク質の浸出を誘発した後、組成物による抑制後、正常な状態のタンパク質溶出パターンの分析結果を示す図である。同図において、(1)はラットの肺に血清タンパク質を誘発した結果、(2)は血清タンパク質の浸出を誘発したラットに組成物を投与した結果、(3)は対照群のラットの状態を示している。図中の「A」はSP−A(約700KDa)を含有するタンパク質のピーク、「B」は血清アルブミン(約70KDa)を含有するタンパク質のピークを示している。これら2つのピークの大きさを比較し、浸出抑制効果を観察した。
【図3】図3は、組成物のアトピー性皮膚疾患への適用(2週間〜4週間)後の結果を示す図である。左側の写真は組成物適用前であり、右側の写真は組成物適用後である。適用期間は2週間〜4週間であり、一番上はアトピー性湿疹患者、上から2番目の手の甲を撮ったものは皮膚潰瘍を含むアトピー性皮膚炎患者、上から3番目はアトピー性洪班患者、一番下はアトピー性皮膚炎患者の写真である。
【図4】図4は、組成物の適用前と適用後の結果を示す図である。6歳女児の背中に発生したアトピー性皮膚疾患に組成物を適用する前(左)と4週間適用後(右)の写真である。
【図5】図5は、組成物の適用前と適用後の結果を示す図である。6歳女児の膝の裏側に発生した皮膚潰瘍を含むアトピー性皮膚炎に組成物を適用する前(左)と5週間適用後(右)の写真である。
【図6】図6は、組成物の適用前と適用後の結果を示す図である。16歳女性の膝の裏側に発生した典型的なアトピー性皮膚疾患に組成物を適用する前(左)と3週間適用後(右)の写真である。
【図7】図7は、組成物の適用前と適用後の結果を示す図である。生後10ヶ月の女児の顔に発生した初期のアトピー性皮膚疾患に組成物を適用する前(左)と3週間適用後(右)の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重飽和リン脂質と、カルシウムイオンと、及びカルボキシル基を含有する有機酸とを含むことを特徴とする、化粧料組成物。
【請求項2】
前記二重飽和リン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン及び/又はジパルミトイルホスファチジルイノシトールであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記二重飽和リン脂質が、1mg/ml〜700mg/mlの範囲の濃度で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−188434(P2012−188434A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109765(P2012−109765)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2007−557929(P2007−557929)の分割
【原出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(507287308)
【出願人】(507287319)ケーティー アンド ジー コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】