説明

血漿中動態が改善されたグリピカン3抗体

【課題】 グリピカン3抗体の血漿中半減期を制御する方法、血漿中半減期が制御されたグリピカン3抗体を有効成分として含有する医薬組成物、並びに、当該グリピカン3抗体および当該グリピカン3抗体を有効成分として含む医薬組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 グリピカン3抗体の表面に露出するアミノ酸残基の改変により、グリピカン3抗体の血漿中半減期を制御する方法、アミノ酸残基の改変により血漿中半減期が制御されたグリピカン3抗体、当該抗体を有効成分として含む医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、日本特許出願第2007−256063号(2007年9月28日出願に基づく優先権を主張する。この出願の開示は、図面および表を含め、すべて参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、グリピカン3抗体の血漿中(血中)動態を改善する方法、血漿中動態が改善されたグリピカン3抗体を有効成分として含有する医薬組成物、および、その製造方法等に関する。
【背景技術】
【0003】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから、その医薬品としての使用が注目されている。複数ある抗体のアイソ型の中でもIgGアイソ型の治療用抗体は多数上市されており、現在もなお、数多くの治療用抗体が開発中である(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。グリピカン3抗体は肝癌、肺癌細胞等に対して細胞傷害活性を発揮することにより抗腫瘍効果を発揮することが知られている(特許文献1)。肝癌、卵巣癌、メラノーマ等に対して、グリピカン3抗体と細胞傷害物質とを結合した薬物結合抗体が抗腫瘍効果を発揮することもまた知られている(非特許文献4)。
【0004】
また、第二世代の治療用抗体の作製技術として、エフェクター機能等を増強させる技術も開発されている。例えば、IgGアイソ型の抗体(以下、IgG抗体と指称する。)のFc領域を構成するアミノ酸を別の異なるアミノ酸に置換するアミノ酸置換によって、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)活性や補体依存性細胞傷害活性(CDC)活性を増強させる技術が知られている(非特許文献5)。フコーストランスポーターが欠失したCHO細胞によって産生されたグリピカン3抗体は、グリピカン3抗体に結合する結合糖鎖中の分岐鎖にフコースが結合しておらず、当該グリピカン3抗体は、その結合糖鎖中の分岐鎖にフコースを含むグリピカン3抗体よりも、ADCC活性が有意に増大しており、治療用抗体としての抗腫瘍効果は高いものと考えられている(特許文献2)。
【0005】
さらに、このようなエフェクター機能等が増強される技術以外にも、抗体のFc領域を構成するアミノ酸に対してアミノ酸置換を施すことによって、抗体の血漿中半減期を増減する技術が報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。抗体の血漿中半減期を伸長する技術を治療用抗体に適用することによって、投与される治療用抗体の投与量の低減や投与間隔の延長が期待でき、さらに低コストであって利便性の高い治療用抗体を提供することが可能となる。
【0006】
具体的には、IgG抗体のサルベージレセプターとして知られている胎児性Fc受容体(neonatal Fc receptor)に対するIgG抗体の親和性が向上される効果をもたらすアミノ酸置換を、IgG抗体のFc領域を構成するアミノ酸に施すことによって、血漿中半減期を伸長することが可能である。また、抗体の定常領域を構成するCH1、CH2、CH3の各領域をシャッフリング(shuffling)することによって、血漿中半減期を伸長する技術も知られている(非特許文献8)。しかしながら、IgG抗体の定常領域のアミノ酸配列はヒトにおいて保存されているため、定常領域を構成するアミノ酸に対して導入する前記のような人工的なアミノ酸置換を有する抗体は、ヒト身体内で免疫原性(抗原性)を示すといった副作用をもたらす可能性がある。そのため、このようなアミノ酸置換を施すアミノ酸の数は少ない方が好ましい。
【0007】
IgG抗体の可変領域(V領域とも指称される)を構成するアミノ酸に対してアミノ酸置換を施す技術としては、ヒト化技術(非特許文献9)をはじめとして、結合活性を増強させるための相補性決定領域(CDR)を構成するアミノ酸のアミノ酸置換によるアフィニティーマチュレーション(affinity maturation)(非特許文献10)、フレームワーク領域(FR)を構成するアミノ酸のアミノ酸置換による物理化学的安定性の向上(非特許文献11)が報告されている。すなわち、定常領域(C領域とも指称される)を構成するアミノ酸のアミノ酸置換とは異なり、可変領域を構成するアミノ酸のアミノ酸置換は抗体の抗原に対する結合活性等の機能の増強や安定性等の特性の向上のために一般的に採用される手法である。ヒト化抗体のCDRを構成するアミノ酸配列は、ヒト以外の動物種のアミノ酸配列に由来するため、当該配列中のアミノ酸に人工的なアミノ酸置換を施すことによって免疫原性が生じるリスクはその他の領域の配列中のアミノ酸置換に比較して低いと考えられている。また、ヒト化抗体のFRを構成するアミノ酸配列に人工的なアミノ酸置換を施すことは、置換された結果得られるFRを構成するアミノ酸配列が、Kabat Database (http://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/kabat/) およびIMGT Database (http://imgt.cines.fr/)等で公開されている複数のヒト抗体のFRを構成するアミノ酸配列のいずれかと同じであれば、当該置換によって生じる免疫原性のリスクは小さいと考えられる。更に、Kabat DatabaseおよびIMGT Database等で公開されている複数のヒト抗体のFRを構成するアミノ酸配列から、置換された結果得られるFRを構成するアミノ酸配列と類似性の高いヒト抗体の配列を再度選択することにより、免疫原性を低下させることが可能である(特許文献3)。
【0008】
一方、上述したようにIgG抗体の血漿中半減期を向上させる方法は、定常領域の一部であるFc領域を構成するアミノ酸のアミノ酸置換によるものが知られているだけであり、そのアミノ酸置換による免疫原性のリスクが小さいと考えられる可変領域を構成するアミノ酸のアミノ酸置換によるIgG抗体の血漿中半減期を向上させる方法はこれまでに報告されていない。この理由としては、IgG抗体の血漿中半減期はIgG抗体のサルベージレセプターである胎児性Fc受容体への結合と抗原依存的な消失に大きく依存しており(非特許文献12)、可変領域の機能や特性は血漿中半減期に大きく影響しないと考えられてきたことが挙げられる。
【0009】
また、IgG抗体をスクシン化することによりIgG抗体をアニオン化し、その等電点(pI)を低下させる技術(非特許文献13)、あるいは、IgG抗体をポリアミンにより修飾することによりIgG抗体をカチオン化し、そのpIを上昇させる技術(非特許文献14)が報告されているが、いずれも修飾したIgG抗体の血漿中半減期が増大することはなく、そればかりか逆にその血漿中半減期は短縮した。すなわち、前記のようなIgG抗体の化学修飾によりそのpIを改変してIgG抗体の血漿中半減期を伸長することは実現できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2003/000883公報
【特許文献2】WO2006/067913公報
【特許文献3】WO1999/018212公報
【特許文献4】WO2004/035752公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Monoclonal antibody successes in the clinic, Nature Biotechnology (2005) 23, 1073-8
【非特許文献2】Pavlou AK, Belsey MJ., The therapeutic antibodies market to 2008., Eur J Pharm Biopharm. (2005) 59(3), 389-96
【非特許文献3】Janice M. Reichert and Viia E. Valge-Archer., Development trends for monoclonal antibody cancer therapeutics, Nat. Rev. Drug Disc. (2007) 6, 349-356
【非特許文献4】Albina Nesterova, Paul J. Carter and Leia M. Smith., Glypican Glypican-3 as a Novel Target for an Antibody 3 as a Novel Target for an Antibody-Drug Conjugate., AACR Abstract No. 656 (2007), Los Angeles, CA April1, 4-18
【非特許文献5】Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. (2005) 20(1), 17-29
【非特許文献6】Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N., An engineered human IgG1 antibody with longer serum half-life., J Immunol. (2006) 176(1), 346-56
【非特許文献7】Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. (1997) 15(7), 637-40
【非特許文献8】Zuckier LS, Chang CJ, Scharff MD, Morrison SL., Chimeric human-mouse IgG antibodies with shuffled constant region exons demonstrate that multiple domains contribute to in vivo half-life., Cancer Res. (1998) 58(17), 3905-8
【非特許文献9】Tsurushita N, Hinton PR, Kumar S., Design of humanized antibodies: from anti-Tac to Zenapax., Methods. (2005) 36(1), 69-83
【非特許文献10】Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R., A general method for greatly improving the affinity of antibodies by using combinatorial libraries., Proc Natl Acad Sci U S A. (2005) 102(24), 8466-71
【非特許文献11】Ewert S, Honegger A, Pluckthun A., Stability improvement of antibodies for extracellular and intracellular applications: CDR grafting to stable frameworks and structure-based framework engineering., Methods. (2004) 34(2), 184-99
【非特許文献12】Lobo ED, Hansen RJ, Balthasar JP., Antibody pharmacokinetics and pharmacodynamics., J Pharm Sci. (2004) 93(11) ,2645-68
【非特許文献13】Yamasaki Y, Sumimoto K, Nishikawa M, Yamashita F, Yamaoka K, Hashida M, Takakura Y., harmacokinetic analysis of in vivo disposition of succinylated proteins targeted to liver nonparenchymal cells via scavenger receptors: importance of molecular size and negative charge density for in vivo recognition by receptors., Pharmacol Exp Ther. (2002) 301(2), 467-77
【非特許文献14】Poduslo JF, Curran GL., polyamine modification increases the permeability of proteins at the blood-nerve and blood-brain barriers., Neurochem. (1996) 66(4) ,1599-609
【非特許文献15】Ghetie V, Ward ES., FcRn: the MHC class I-related receptor that is more than an IgG transporter. Immunol Today. (1997) 18(12) ,592-8
【非特許文献16】He XY, Xu Z, Melrose J, Mullowney A, Vasquez M, Queen C, Vexler V, Klingbeil C, Co MS, Berg EL. Humanization and pharmacokinetics of a monoclonal antibody with specificity for both E- and P-selectin. J Immunol. (1998) ,160(2) ,1029-35
【非特許文献17】Katayose Y, Kudo T, Suzuki M, Shinoda M, Saijyo S, Sakurai N, Saeki H, Fukuhara K, Imai K, Matsuno S. MUC1-specific targeting immunotherapy with bispecific antibodies: inhibition of xenografted human bile duct carcinoma growth. Cancer Res. (1996) 56(18), 4205-12
【非特許文献18】Binz HK, Amstutz P, Pluckthun A., Engineering novel binding proteins from nonimmunoglobulin domains., Nat Biotechnol. (2005) 23(10), 1257-68
【非特許文献19】Gobburu JV, Tenhoor C, Rogge MC, Frazier DE Jr, Thomas D, Benjamin C, Hess DM, Jusko WJ. Pharmacokinetics/dynamics of 5c8, a monoclonal antibody to CD154 (CD40 ligand) suppression of an immune response in monkeys. J Pharmacol Exp Ther. (1998) 286(2) ,925-30
【非特許文献20】Kashmiri SV, Shu L, Padlan EA, Milenic DE, Schlom J, Hand PH., Generation, characterization, and in vivo studies of humanized anticarcinoma antibody CC49., Hybridoma. (1995) 14(5), 461-73
【非特許文献21】Graves SS, Goshorn SC, Stone DM, Axworthy DB, Reno JM, Bottino B, Searle S, Henry A, Pedersen J, Rees AR, Libby RT., Molecular modeling and preclinical evaluation of the humanized NR-LU-13 antibody., Clin Cancer Res. (1999) 5(4) ,899-908
【非特許文献22】Couto JR, Blank EW, Peterson JA, Ceriani RL., Anti-BA46 monoclonal antibody Mc3: humanization using a novel positional consensus and in vivo and in vitro characterization., Cancer Res. (1995) 55(8), 1717-22
【非特許文献23】Adams CW, Allison DE, Flagella K, Presta L, Clarke J, Dybd al N, McKeever K, Sliwkowski MX. Humanization of a recombinant monoclonal antibody to produce a therapeutic HER dimerization inhibitor, pertuzumab., Cancer Immunol Immunother. (2006) 55(6), 717-27
【非特許文献24】W.Y.K. Hwang, J.C. Almagro, T.N. Buss, P. Tan and J. Foote, Use of human germline genes in a CDR homology-based approach to antibody humanization, Methods (2005) 36, 35-42
【非特許文献25】Ono K, Ohtomo T, Yoshida K, Yoshimura Y, Kawai S, Koishihara Y, Ozaki S, Kosaka M, Tsuchiya M., The humanized anti-HM1.24 antibody effectively kills multiple myeloma cells by human effector cell-mediated cytotoxicity., Mol Immunol. (1999) 36(6), 387-395
【非特許文献26】Dall'Acqua WF, Damschroder MM, Zhang J, Woods RM, Widjaja L, Yu J, Wu H.., Antibody humanization by framework shuffling., Methods. (2005) 36(1), 43-60
【非特許文献27】Vaisitti T, Deaglio S, Malavasi F., Cationization of monoclonal antibodies: another step towards the "magic bullet"?, J Biol Regul Homeost Agents. (2005) 19(3-4), 105-12
【非特許文献28】Pardridge WM, Buciak J, Yang J, Wu D. Enhanced endocytosis in cultured human breast carcinoma cells and in vivo biodistribution in rats of a humanized monoclonal antibody after cationization of the protein. J Pharmacol Exp Ther. (1998) 286(1), 548-54
【非特許文献29】LinksOber RJ, Radu CG, Ghetie V, Ward ES. Differences in promiscuity for antibody-FcRn interactions across species: implications for therapeutic antibodies. Int Immunol. (2001) 13(12), 1551-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、グリピカン3抗体の血漿中半減期を制御する方法、血漿中半減期が制御されたグリピカン3抗体及びこれを有効成分として含有する医薬組成物、並びにこれらのの製造方法を提供することにある。さらには、細胞傷害活性を有する抗体の血漿中半減期を制御することにより当該抗体の細胞傷害活性を制御する方法、細胞傷害活性が制御された抗体及びこれをを有効成分として含有する医薬組成物、並びに、これらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を制御する方法について、鋭意研究を行った。その結果、本発明者らはグリピカン3抗体を始めとする抗体の可変領域および定常領域を構成するアミノ酸残基のうち、当該抗体分子表面に露出するアミノ酸残基を改変し、抗体分子表面電荷をコントロールすることによってグリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を制御することができることを見いだした。具体的には、グリピカン3抗体を始めとする抗体の可変領域および定常領域を構成するアミノ酸配列中のアミノ酸残基のうち、抗体の抗原に対する結合活性等の抗体の有する機能や、その構造に影響を与えることなく、抗体分子表面の電荷を調節することによってグリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を制御することができる、特定のアミノ酸残基を同定した。さらに本発明者らは、このようにして血漿中半減期が制御されたグリピカン3抗体を始めとする抗体が、実際に抗原に対する結合活性を保持していることを確認した。さらに、本発明者らは、グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を制御することによって、グリピカン3抗体を始めとする細胞傷害活性を発揮する抗体が有する癌細胞に対する腫瘍増殖抑制効果が増大することを確認して本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、グリピカン3抗体を始めとする抗体の表面に露出するアミノ酸残基の改変により、当該抗体の血漿中半減期を制御する方法、アミノ酸残基の改変により血漿中半減期が制御されたグリピカン3抗体を始めとする抗体、当該抗体を有効成分として含む医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法に関する。より具体的には、
[1] 血漿中動態が制御されたグリピカン3抗体の製造方法であって、
(a)グリピカン3抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該グリピカン3抗体は、抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物からグリピカン3抗体を回収する、
の各段階を含む方法;
[2] 前記血漿中動態の制御が、血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランスのいずれかのパラメーターの伸張または減縮である[1]に記載の方法;
[3] アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による[1]に記載の方法;
[4] 前記グリピカン3抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基が、グリピカン3抗体中のFcRn結合領域以外の領域にある[1]に記載の方法;
[5] 前記FcRn結合領域が、Fc領域からなる[4]に記載の方法;
[6] 前記FcRn結合領域が、Kabat表記におけるEU番号250、253、310、311、314、428、435、436のアミノ酸残基を含む[4]に記載の方法;
[7] グリピカン3抗体がIgG抗体である[1]に記載の方法;
[8] その電荷が改変されるアミノ酸残基が、重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である[1]から[7]に記載の方法;
[9] 前記グリピカン3抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むグリピカン3抗体であって、アミノ酸残基の電荷の改変が、抗体のCDRまたはFR中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基から、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への置換であることを特徴とする[8]に記載の方法;
[10] 前記アミノ酸残基の電荷の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)43番目のアミノ酸残基であるQのKへの置換
(b)52番目のアミノ酸残基であるDのNへの置換、
(c)107番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(d)17番目のアミノ酸残基であるEのQへの置換、
(e)27番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
(f)105番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
であることを特徴とする[9]に記載の方法;
[11] 前記アミノ酸残基の電荷の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)62番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(d)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(e)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(f)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(g)24番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(h)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(i)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(j)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
(k)112番目のアミノ酸残基であるKのEへの置換、
であることを特徴とする[9]に記載の方法;
[12] さらに、以下の改変;
配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
を含むことを特徴とする[11]に記載の方法;
[13] 前記グリピカン3抗体が、そのFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である[9]から[12]に記載の方法;
[14] [1]から[13]に記載の方法により製造されるグリピカン3抗体;
[15] 血漿中動態が制御された抗体の製造方法であって、
(a)抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該抗体は、抗体のFcRn結合領域以外の定常領域にあるアミノ酸残基の電荷が改変されるように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収する、
の各段階を含む方法;
[16] 前記血漿中動態の制御が、血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランスのいずれかのパラメーターの伸張または減縮である[15]に記載の方法;
[17] アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による[15]に記載の方法;
[18] 抗体がIgG抗体である[17]に記載の方法;
[19] 抗体がIgG1である[18]に記載の方法;
[20] 前記アミノ酸残基の電荷の改変が、IgG1抗体の1又はそれ以上のアミノ酸残基の、IgG4抗体の対応する1又はそれ以上のアミノ酸残基への置換であることを特徴とする[17]に記載の方法;
[21] 前記FcRn結合領域が、Kabat表記におけるEU番号250、253、310、311、314、428、435、436のアミノ酸残基を含む[15]から[20]に記載の方法;
[22] 前記アミノ酸残基の電荷の改変が、配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
であることを特徴とする[20]に記載の方法;
[23] 抗体がグリピカン3抗体である[15]から[22]に記載の方法;
[24] ヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)及びヒト定常領域を含むグリピカン3抗体の安定化方法であって、
(a)グリピカン3抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該グリピカン3抗体は、少なくとも一つのアミノ酸残基の改変によりTm値の増大をもたらすように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収する、
の各段階を含む方法;
[25] アミノ酸残基が、その重鎖または軽鎖のFR1領域および/またはFR2領域に存在することを特徴とする[24]に記載の方法;
[26] 重鎖のFR2領域のアミノ酸残基をVH4サブクラスのFR2領域のアミノ酸残基に置換することを特徴とする[25]に記載の方法;
[27] 軽鎖のFR2領域のアミノ酸残基をVK3サブクラスのFR2領域のアミノ酸残基に置換することを特徴とする[25]に記載の方法;
[28] 前記アミノ酸残基の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つまたはそれ以上の置換;
(a)37番目のアミノ酸残基であるVのIへの置換、
(b)40番目のアミノ酸残基であるAのPへの置換、
(c)48番目のアミノ酸残基であるMのIへの置換、
(d)51番目のアミノ酸残基であるLのIへの置換、
および/又は
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(e)42番目のアミノ酸残基であるLのQへの置換、
(f)48番目のアミノ酸残基であるSのAへの置換、
(g)50番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
であることを特徴とする[24]から[27]に記載の方法;
[29] 細胞傷害活性が制御された抗体の製造方法であって;
(a)抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該抗体は、細胞傷害活性を有する抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収する、
の各段階を含む方法;
[30] アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による[29]に記載の方法;
[31] 前記抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基が、抗体中のFcRn結合領域以外の領域にある[29]に記載の方法;
[32] 前記FcRn結合領域が、Fc領域からなる[31]に記載の方法;
[33] 前記FcRn結合領域が、Kabat表記におけるEU番号250、253、310、311、314、428、435、436のアミノ酸残基を含む[31]に記載の方法;
[34] 抗体がIgG抗体である[29]に記載の方法;
[35] その電荷が改変されるアミノ酸残基が、定常領域のアミノ酸残基である[29]から[34]に記載の方法;
[36] その電荷が改変されるアミノ酸残基が、重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である[29]から[34]に記載の方法;
[37] 前記抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含む抗体であり、アミノ酸残基の電荷の改変が、抗体のCDRまたはFR中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への置換であることを特徴とする[36]に記載の方法;
[38] 前記アミノ酸残基の電荷の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)62番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(d)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(e)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(f)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(g)24番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(h)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(i)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(j)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
(k)112番目のアミノ酸残基であるKのEへの置換、
であることを特徴とする[37]に記載の方法;
[39] さらに、以下の改変;
配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
を含むことを特徴とする[38]に記載の方法;
[40] 前記抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含む抗体であり、アミノ酸残基の電荷の改変が、抗体の定常領域中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への置換であることを特徴とする[36]に記載の方法;
[41] 置換が、配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
であることを特徴とする[40]に記載の方法;
[42] 前記抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である[37]から[41]に記載の方法;
[43] [29]から[42]に記載の方法により製造される抗体;
[44] 抗体がグリピカン3抗体である[43]に記載の抗体;
[45] (1)配列番号1で表される重鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)62番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(d)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(e)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(f)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
が施された重鎖可変領域、および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(g)24番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(h)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(i)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(j)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
(k)112番目のアミノ酸残基であるKのEへの置換、
が施された軽鎖可変領域、
を含む抗体;
[46] 配列番号3で表される重鎖可変領域および配列番号9で表される軽鎖可変領域を含む[45]に記載の抗体;
[47] 配列番号5で表される重鎖可変領域および配列番号11で表される軽鎖可変領域を含む[45]に記載の抗体;
[48] 配列番号27で表される重鎖可変領域および配列番号28で表される軽鎖可変領域を含む[45]に記載の抗体;
[49] 配列番号27で表される重鎖可変領域および配列番号29で表される軽鎖可変領域を含む[45]に記載の抗体;
[50] ヒト抗体の定常領域を有する[45]から[49]に記載の抗体;
[51] 前記定常領域が配列番号32又は配列番号33で表わされる配列を含む[50]に記載の抗体;
[52] (1)配列番号1で表される重鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)43番目のアミノ酸残基であるQのKへの置換、
(b)52番目のアミノ酸残基であるDのNへの置換、
(c)107番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
が施された重鎖可変領域、および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(d)17番目のアミノ酸残基であるEのQへの置換、
(e)27番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
(f)105番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
が施された軽鎖可変領域、
を含む抗体;
[53] 配列番号4で表される重鎖可変領域および配列番号10で表される軽鎖可変領域を含む[52]に記載の抗体;
[54] 配列番号6で表される重鎖可変領域および配列番号12で表される軽鎖可変領域を含む[52]に記載の抗体;
[55] ヒト抗体の定常領域を有する[52]から[54]に記載の抗体;
[56] 配列番号31で表わされる重鎖定常領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
を有する抗体;
[57] 配列番号33で表わされる重鎖定常領域を含む抗体;
[58] 前記抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である[45]から[57]に記載の抗体;
[59] [45]から[58]に記載の抗体、および、医薬的に許容される担体を含む組成物;
[60] [45]から[58]に記載の抗体を有効成分として含む癌治療剤;
[61] 癌が肝癌である[60]に記載の癌治療剤;
[62] [45]から[58]に記載の抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸;
[63] [62に記載の核酸を保持する宿主細胞;
[64] 宿主細胞が、フコーストランスポーター欠損動物細胞、フコシルトランスフェラーゼ欠失動物細胞、又は、複合分岐糖鎖修飾改変動物細胞である[63]に記載の宿主細胞;
[65] [63]又は[64]に記載の宿主細胞を培養する工程、および細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む抗体の製造方法;
を、提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のDSC(示差走査熱量計)測定から得られたチャートである。
【図2】図2は、高pI等電点電気泳動におけるH0L0抗体およびHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の泳動像である。レーン1および4はpIマーカーの泳動像を示し、レーン2はH0L0抗体、レーン3はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の泳動像を示す。数字はpIマーカーの分子のpI値を示し、矢印は当該pI値のマーカー分子の泳動度を示す。
【図3】図3は、低pI等電点電気泳動におけるH0L0抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の泳動像である。レーン1および4はpIマーカーの泳動像を示し、レーン2はH0L0抗体、レーン3はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の泳動像を示す。数字はpIマーカーの分子のpI値を示し、矢印は当該pI値のマーカー分子の泳動度を示す。
【図4】図4は、H15L4抗体およびH0L0抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合親和性を示す図である。黒色菱形はH0L0抗体の結合親和性を示し、灰色四角はH15L4抗体の結合親和性を示す。
【図5】図5は、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびH0L0抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合親和性を示す図である。黒色菱形はH0L0抗体の結合親和性を示し、灰色四角はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の結合親和性を示す。
【図6】図6は、Hspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体およびH0L0抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合親和性を示す図である。黒色菱形はH0L0抗体の結合親和性を示し、灰色四角はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の結合親和性を示す。
【図7】図7は、H0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。図7Aは各被験抗体を5 mg/kgの投与量で当該モデルに投与したときのH0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。黒色菱形はベヒクルの投与効果を示し、黒色三角はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の投与効果、白抜き丸はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の投与効果、および黒色四角はH0L0抗体の投与効果を示す。図7Bは各被験抗体を1 mg/kgの投与量で当該モデルに投与したときのH0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。黒色菱形はベヒクルの投与効果を示し、黒色三角はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の投与効果、白抜き丸はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の投与効果、および黒色四角はH0L0抗体の投与効果を示す。
【図8】図8は、H0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗体血漿中濃度を示す。図8Aは各被験抗体を5 mg/kgの投与量で当該モデルに投与したときのH0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける投与された抗体の血漿中濃度を示す。黒色三角はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の血漿中濃度、白抜き丸はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の血漿中濃度、および黒色四角はH0L0抗体の血漿中濃度を示す。図8Bは各被験抗体を1 mg/kgの投与量で当該モデルに投与したときのH0L0抗体、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体およびHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。黒色三角はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体の血漿中濃度、白抜き丸はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の血漿中濃度、および黒色四角はH0L0抗体の血漿中濃度を示す。
【図9】図9はヒト肝癌細胞株Hep G2細胞に対する各被験抗体によるADCC活性を示す。黒色三角はHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体によるADCC活性、白抜き丸はHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体によるADCC活性、および黒色四角はH0L0抗体によるADCC活性を示す。
【図10】図10は、H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体およびpH7pL16抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合親和性を示す図である。黒色丸はH0L0抗体による結合活性、白抜き丸はHd1.8Ld1.6抗体による結合活性、黒色四角はpH7pL14抗体による結合活性、および白抜き四角はpH7pL16抗体による結合活性を示す。
【図11】図11は、H0L0抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のヒト肝癌移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を示す。*はH0L0抗体、白抜き丸はHd1.8Ld1.6抗体、黒色四角はpH7pL14抗体、及び、白抜き四角はpH7pL16抗体による各抗腫瘍効果を示す。
【図12】図12は、H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体及びpH7M85pL16のマウスにおける抗体血漿中濃度を示す。*はH0L0抗体、白抜き丸はHd1.8Ld1.6抗体、黒色四角はpH7pL14抗体、白抜き四角はpH7pL16抗体、及び黒色三角はpH7M85pL16のマウスにおける各抗体の血漿中濃度を示す。
【図13】図13は、ヒト肝癌細胞株Hep G2細胞に対するH0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体によるADCC活性を示す。黒色丸はH0L0抗体によるADCC活性、白抜き丸はHd1.8Ld1.6抗体によるADCC活性、黒色四角はpH7pL14抗体によるADCC活性、および白抜き四角はpH7pL16抗体によるADCC活性を示す。
【図14】図14は、H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体及びpH7M85pL16抗体を用いた競合ELISAによる抗原であるグリピカン3に対する結合親和性を示す図である。黒色三角はH0L0抗体による結合活性、黒色四角はH0M85L0抗体による結合活性、*はpH7pL16抗体による結合活性、および白抜き菱形はpH7M85pL16抗体による結合活性を示す。
【図15】図15は、ヒト肝癌細胞株Hep G2細胞に対するpH7pL16抗体及びpH7M85pL16抗体によるADCC活性を示す。白抜き四角はpH7pL16抗体によるADCC活性、黒色三角はpH7M85pL16抗体によるADCC活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中動態を制御する方法を提供する。本発明の方法の好ましい態様としては、グリピカン3抗体を始めとする抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷を改変することを含む方法である。即ち、グリピカン3抗体を始めとする抗体のアミノ酸残基の電荷を改変し、その等電点(pI)を変化させることにより、当該抗体の血漿中動態を制御することができる。血漿中動態が制御されたグリピカン3抗体を始めとする抗体は、制御されない抗体と比して、癌細胞に対するより優れた抗腫瘍活性を発揮することができる。
【0017】
複数ある抗体のアイソタイプのうち、IgG抗体はその分子量が十分大きいため、その主要な代謝経路は腎排泄による経路ではない。Fc領域をその分子の一部分として有するIgG抗体は、血管等の内皮細胞で発現している胎児性Fc受容体(FcRn)のサルベージ経路によりリサイクルされることによって、長い生体内半減期を有することが知られている。IgG抗体は主に内皮細胞における代謝経路により代謝されるものと考えられている(非特許文献16)。すなわち、内皮細胞に非特異的に取り込まれたIgG抗体がFcRnに結合することによってIgG抗体はリサイクルされる一方で、結合できなかったIgG抗体は代謝されると考えられている。FcRnへの結合性が低下するようにそのFc部分が改変されたIgG抗体の血漿中半減期は短くなる。逆にFcRnへの結合性を高めるためにIgG抗体のFc領域を構成するアミノ酸残基を改変することにより、IgG抗体の血漿中半減期は伸張され得る(非特許文献16及び非特許文献29)。前記のように、従来のIgG抗体の血漿中動態の制御方法は、Fc領域を構成するアミノ酸残基を改変することによるFcRnへの結合性の改変によって行われてきた。前記のアミノ酸残基として、具体的にはKabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH250、H253、H310、H311、H314、H428、H435、H436が挙げられる。その他、IgG抗体とFcRnとの相互作用に間接的に作用するアミノ酸残基であるH254、H255、H257、H288、H296、H307、H309、H315、H415、H433もその改変対象として挙げられていた。これらのアミノ酸残基は、例えば、配列番号30中の、130、133、190、191、194、308、315、316番目のアミノ酸残基、並びに134、135、137、168、176、187、189、195、295、313番目のアミノ酸残基、及び、配列番号31中の133、136、193、194、197、311、318、319番目のアミノ酸残基、並びに137、138、140、171、179、190、192、198、298、316番目のアミノ酸残基、にそれぞれ該当する。しかし、下記の実施例でも示すように、本発明においては、グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期は高い相関をもってpIに依存することが明らかとなった。すなわち、その改変が免疫原性の獲得をもたらす可能性があるFcRn結合領域を構成するアミノ酸残基、具体的には、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH250、H253、H310、H311、H314、H428、H435、H436やH254、H255、H257、H288、H296、H307、H309、H315、H415、H433等のアミノ酸残基を改変することなく、グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を制御することが可能であることが示された。また、前記のH250、H253、H310、H311、H314、H428、H435、H436やH254、H255、H257、H288、H296、H307、H309、H315、H415、H433等アミノ酸残基以外の改変が、PI値の低下という効果と共にFcRnへの結合性という観点からも効果をもたらすことは意外な驚くべき結果であった。
【0018】
特定の理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは現在のところ次のように考えている。内皮細胞への非特異的なIgG抗体の取込みの速度は、負電荷を帯びた細胞表面とIgG抗体の物理化学的なクーロン相互作用に依存すると考えられる。そのため、IgG抗体のpIを低下(上昇)させることでクーロン相互作用が低減(増大)することによって内皮細胞への非特異的な取り込みが減少(増大)する結果、内皮細胞における代謝を減少(増大)させることで血漿中動態を制御することができたと考えられる。なお、ここでいうクーロン相互作用の低減とは、斥力で表されるクーロン力の増大を意味する。抗体と内皮細胞の細胞表面負電荷とのクーロン相互作用は物理化学的な相互作用であることから、この相互作用は抗体を構成するアミノ酸配列自体に一義的に依存しないと考えられる。そのため、本発明で見出された血漿中動態の制御方法は、特定の抗体、又は、グリピカン3抗体にのみ適用されるものではなく、任意の抗体、又は、グリピカン3抗体に広く適用可能である。
【0019】
本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体としてIgG抗体を用いる場合、IgGタイプの抗体分子であればいかなるサブタイプでもよく、二重特異性のIgG抗体であってもよい。本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体が二重特異性抗体の場合は、当該抗体は当該抗体が結合する抗原(グリピカン3抗体の場合はグリピカン3分子)と当該抗原以外の抗原のエピトープに対して特異的に結合することもできる。例えば、当該抗原以外の抗原としては、NK細胞、細胞傷害性T細胞、LAK細胞等をリクルートするために、これらの細胞に特異的に結合する表面抗原を好適に利用することができる。腺癌関連抗原であるMUC1を認識する抗体MUSE11とLAK細胞表面抗原を認識する抗体OKT3から作製された二重特異性抗体を用いて、胆管癌に対してLAK細胞による細胞傷害活性が発揮されたことが示されている(非特許文献17)。前記MUC1を認識する抗体MUSE11に代えて、本発明が提供する血漿中動態が改善されたグリピカン3抗体を始めとする抗体が好適に使用され得る。また、本発明が提供する二重特異性のグリピカン3抗体を始めとする抗体としては、当該抗体が結合する抗原(グリピカン3抗体の場合にはグリピカン3分子)の異なるエピトープを認識する抗体も好適に利用され得る。また、抗体分子であっても、scFvやFabにように腎排泄がその主要な代謝経路である低分子抗体の場合は、前述のようにpIによってその抗体の血漿中動態は制御され得ない。しかし、本発明は腎排泄が主要な代謝経路ではないFc結合タンパク質である限りにおいては、いかなる抗体分子型でも適用可能である。例えば、scFv-Fc、dAb-Fc、Fc融合タンパク質等が挙げられる。これらの分子の主要な代謝経路は腎排泄による代謝によるものではないため、本発明で見出された方法によりpIを変化させることでこれらの分子の血漿中動態を制御することが可能である。本発明が適用できる抗体分子は、抗体様分子であってもよい。抗体様分子とは、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(非特許文献18)、例えば、DARPins、Affibody、Avimer等が挙げられる。
【0020】
本発明において「血漿中動態が制御された」とは、グリピカン3抗体を始めとする抗体を構成するアミノ酸の改変前と改変後における抗体の血漿中動態を比較して、血漿中動態が所望の方向に改変されていることを意味する。すなわち、グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を伸長することを所望する場合は、「血漿中動態の制御」とは、その抗体の血漿中半減期が伸長することをいう。グリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中半減期を短くすることを所望する場合は、「血漿中動態の制御」とは、その抗体の血漿中半減期を短縮することをいう。
【0021】
本発明においてグリピカン3抗体を始めとする抗体の血漿中動態が所望の方向に改変されているか否か、すなわち血漿中動態が所望するとおり制御されているか否かは、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等を用いた動態試験を実施することによって適宜評価され得る。また、本発明における「血漿中半減期の伸長」または「血漿中半減期の短縮」は、より具体的には、血漿中半減期というパラメーターの他に、平均血漿中滞留時間、または血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーターによっても把握され得る(「ファーマコキネティクス 演習による理解」(南山堂))。例えば、体内動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)に付属する手順書に従ってNoncompartmental解析が実施されることによって、本発明が提供する「血漿中動態の制御」がこれらのパラメーターを用いて適宜評価され得る。
【0022】
本発明において「表面に露出され得るアミノ酸残基」とは、通常、グリピカン3抗体を始めとする抗体を構成するポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基を指称する。「ポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基」とは、その側鎖が溶媒分子(通常は水分子であることが多い。)に接し得るアミノ酸残基をいい、必ずしもその側鎖の全てが溶媒分子に接する必要はなく、その側鎖の一部でも溶媒分子に接する場合には、そのアミノ酸残基は表面にあるアミノ酸残基であると規定される。市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、当業者はポリペプチドや抗体のホモロジーモデルを作製することができる。当該ホモロジーモデルに基づいて、グリピカン3抗体を始めとする抗体を構成するポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基が「ポリペプチドの表面にあるアミノ酸残基」として適切に選択され得る。
【0023】
本発明において「表面に露出され得るアミノ酸残基」は、特に制限されるものではないが、グリピカン3抗体を始めとする抗体中のFcRn結合領域の外にあるアミノ酸残基であることが好ましい。このFcRn結合領域とは、例えば、Fc領域が好適に挙げられるが、より具体的には、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH250、H253、H310、H311、H314、H428、H435、H436の一以上のアミノ酸残基から構成される領域が挙げられる。その他、IgG抗体とFcRnとの相互作用に間接的に作用するアミノ酸残基であるH254、H255、H257、H288、H296、H307、H309、H315、H415、H433もその改変対象として挙げられていた。これらのアミノ酸残基は、例えば、配列番号30中の、130、133、190、191、194、308、315、316番目のアミノ酸残基、並びに134、135、137、168、176、187、189、195、295、313番目のアミノ酸残基、及び、配列番号31中の133、136、193、194、197、311、318、319番目のアミノ酸残基、並びに137、138、140、171、179、190、192、198、298、316番目のアミノ酸残基、にそれぞれ該当する。
【0024】
本発明にしたがってグリピカン3抗体を始めとする抗体において電荷を改変すべきアミノ酸残基は、抗体の重鎖(H鎖とも指称される)可変領域または軽鎖(L鎖とも指称される)可変領域を構成するアミノ酸残基であることが好ましい。当該可変領域としては、具体的には、相補性決定領域(CDR)、フレームワーク領域(FR)が好適に挙げられる。
【0025】
当業者であれば、抗体可変領域における表面アミノ酸残基はホモロジーモデリング等により作製されたホモロジーモデルにより適宜選択することが可能である。すなわち、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH1、H3、H5、H8、H10、H12、H13、H15、H16、H19、H23、H25、H26、H39、H42、H43、H44、H46、H68、H71、H72、H73、H75、H76、H81、H82b、H83、H85、H86、H105、H108、H110、H112の中から、抗体可変領域における表面アミノ酸残基が適宜選択され得る。例えば、配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体の重鎖FRにおいては、1、3、5、8、10、12、13、15、16、19、23、25、26、39、42、43、44、46、69、72、73、74、76、77、82、85、87、89、90、107、110、112、114番目のアミノ酸残基が表面アミノ酸として例示され得るが、本発明はこれらに限定されることはない。また重鎖CDR中の表面アミノ酸残基は、同様のホモロジーモデルによって選択され得る。すなわち、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH97はほぼ全ての抗体で表面に露出されている。例えば、配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体の重鎖CDRにおける101番目のセリンが当該アミノ酸残基に相当するものである。配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体の重鎖CDRにおけるその他のアミノ酸残基としては52、54、62、63、65、66番目のアミノ酸残基が好適に挙げられる。
【0026】
軽鎖FRにおいては、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるL1、L3、L7、L8、L9、L11、L12、L16、L17、L18、L20、L22、L38、L39、L41、L42、L43、L45、L46、L49、L57、L60、L63、L65、L66、L68、L69、L70、L74、L76、L77、L79、L80、L81、L85、L100、L103、L105、L106、L107の中から抗体可変領域における表面アミノ酸残基が適宜選択され得る。例えば配列番号7で表されるヒト化グリピカン3抗体の、1、3、7、8、9、11、12、16、17、18、20、22、43、44、45、46、48、49、50、54、62、65、68、70、71、73、74、75、79、81、82、84、85、86、90、105、108、110、111、112が表面アミノ酸として例示することができるが、本発明はこれらに限定されることはない。また軽鎖CDR中の表面アミノ酸残基は、それにより重鎖CDR中の表面アミノ酸残基が決定されるホモロジーモデルと同様のホモロジーモデルによって選択され得る。配列番号7で表されるヒト化グリピカン3抗体の軽鎖CDRにおけるアミノ酸残基としては24、27、33、55、59番目のアミノ酸残基が好適に挙げられる。
【0027】
本発明が提供する方法におけるアミノ酸残基の「改変」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等をいうが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することを指す。即ち、本発明における「アミノ酸残基の電荷の改変」とは、好ましくはアミノ酸置換が挙げられる。
【0028】
本発明が提供するグリピカン3抗体に対して、上記「アミノ酸残基の電荷の改変」を行うために、例えば、配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する重鎖可変領域中の19、43、52、54、62、63、65、66、107番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。また、例えば、配列番号7で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する軽鎖可変領域中の17、24、27、33、55、59、79、82、105、112番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血漿中動態の制御効果が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように適宜改変され得る。
【0029】
アミノ酸の中には、電荷を帯びたアミノ酸が存在することが知られている。一般的に、正の電荷を帯びたアミノ酸(正電荷アミノ酸)としては、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)が知られている。負の電荷を帯びたアミノ酸(負電荷アミノ酸)としては、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)等が知られている。これら以外のアミノ酸は電荷を有さないアミノ酸として知られている。
【0030】
上記「改変されたアミノ酸残基」としては、好ましくは、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から適宜選択されるが、特にこれらのアミノ酸に制限されない。
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
【0031】
なお、元の(改変前の)アミノ酸残基が既に電荷を有する場合、電荷を有さないアミノ酸残基となるように改変することも本発明の好ましい態様の一つである。すなわち、本発明における改変としては、(1)電荷を有するアミノ酸から電荷を有さないアミノ酸への置換、(2)電荷を有するアミノ酸から当該アミノ酸とは反対の電荷を有するアミノ酸への置換、(3)電荷を有さないアミノ酸から電荷を有するアミノ酸への置換、が挙げられる。
【0032】
本発明においては、グリピカン3抗体を始めとする抗体の等電点(pI)が変化するように、抗体を構成するアミノ酸残基が改変されることが好ましい。また、改変されるアミノ酸残基が複数存在する場合には、改変に供されるアミノ酸残基の中に電荷を持たないアミノ酸残基が少数程度含まれ得る。
【0033】
本発明が提供するグリピカン3抗体における「アミノ酸残基の電荷の改変」の好適な例としては以下のものが挙げられる。pI値を増加させる改変としては、例えば、配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する重鎖可変領域中のQ43K、D52N、Q107Rの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列に改変される。また、例えば、配列番号7で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する軽鎖可変領域中のE17Q、Q27R、Q105Rの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号10又は配列番号12で表されるアミノ酸配列に改変される。一方、pI値を減少させる改変としては、配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する重鎖可変領域中のK19T、Q43E、G62E、K63S、K65Q、G66Dの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号3、配列番号5、配列番号27で表されるアミノ酸配列に改変される。また、例えば、配列番号7で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する軽鎖可変領域中のR24Q、Q27E、K79T、R82S、K112Eの少なくとも1つの置換を行うことができ、特に好ましくは配列番号9、配列番号11、配列番号28又は配列番号29で表されるアミノ酸配列に改変される。更に、pI値を減少させる改変としては、重鎖定常領域中においてKabatナンバリングに基づいて特定されるアミノ酸残基であるH268、H274、H355、H356、H358、H419の少なくとも一つの置換が挙げられる。これらの置換は、例えば、配列番号31で表される重鎖定常領域の、151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、等の一つ又はそれ以上の置換が好適な例として挙げられ得る。これらの置換の結果、ヒト抗体のIgG1の定常領域とIgG4の定常領域とのキメラ体が構築される。すなわち、当該置換によって、改変された抗体の免疫原性に影響を及ぼすことなく、所望のpIを有する抗体の作製が可能となる。
【0034】
本発明において改変に供されるアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、抗体の可変領域を改変する場合、抗原との結合活性を低下させないために、また免疫原性を上げないために、目的の制御された血漿中動態を達成するための必要最低限のアミノ酸残基が改変されることが好ましい。また、抗原との結合活性の増大をもたらすアミノ酸残基の改変や、免疫原性の低下をもたらすアミノ酸残基の改変を適宜組み合わせることもまた好適に実施され得る。
【0035】
抗体の抗原結合活性の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。一般的な教示書である「Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988」に前記の方法が記載されている。
【0036】
細胞に対する抗体の結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual.(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)中の359-420ページに記載されている方法が挙げられる。即ち、細胞を抗原とするELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価することができる。ELISAフォーマットにおいては、細胞への抗体の結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、各強制発現細胞を固定化したELISAプレートに被験抗体を加え、被験抗体を認識する酵素標識抗体を利用して、細胞に結合した抗体が検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗体の希釈系列を作成し、各強制発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、細胞に対する結合活性を比較することができる。
【0037】
ELISAプレート等の担体に結合していない、緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原と当該抗原に対する抗体との結合はFACSフォーマットにより測定することができる。このような測定に使用するフローサイトメーターとしては、例えば、FACSCantoTM II, FACSAriaTM, FACSArrayTM, FACSVantageTM SE, FACSCaliburTM (以上、BD Biosciences)や、EPICS ALTRA HyPerSort, Cytomics FC 500, EPICS XL-MCL ADC, EPICS XL ADC, Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(以上、Beckman Coulter)などが挙げられる。
【0038】
被検グリピカン3抗体の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、グリピカン3を発現する細胞と被検抗体とを反応させ、被検抗体を認識するFITC標識した二次抗体で細胞を染色した後、FACSCalibur(BD)により測定を行い、その蛍光強度をCELL QUEST Software(BD)を用いて解析する方法を挙げることができる。本方法によれば、グリピカン3を発現する細胞表面上のグリピカン3に対して結合した被検抗体を特異的に認識するFITC標識した二次抗体で染色後、FACSCaliburにより測定を行った場合において、その蛍光強度をCELL QUEST Softwareを用いて解析する方法によって得られるGeometric Meanの値(被検Geo-Mean値)を、対照抗体を用いて得られる対照Geo-Mean値と比較することによって判断することが出来る。Geo-Mean値 (Geometric Mean) を求める計算式は、CELL QUEST Software User' s Guide (BD biosciences社)に記載されている。
【0039】
また、抗体が投与されるヒトの体内における免疫原性を上げないために、改変されたアミノ酸配列がヒト配列(ヒト由来の天然の抗体に見いだされる配列)であることが好ましいが本発明はこれに限定されることはない。さらに、改変後に複数のFRの各々(FR1、FR2、FR3、FR4)がヒト配列になるように、等電点が変化するように導入した改変以外の箇所に変異が好適に導入され得る。このようにして各FRをヒト配列に置き換える方法は非特許文献25で報告されている。また、抗体の等電点を変化させるために、各FRの電荷が変化するように他のヒトFRに改変してもよい(例えば抗体の等電点が低下するようFR3を他のヒトFRと交換してもよい)。このようなヒト化方法は非特許文献26で報告されている。
【0040】
また、僅かな表面電荷の改変によっては目的とする制御された血漿中動態に到達しない場合に、表面電荷の改変と血漿中動態の評価を繰り返し行うことで、目的とする制御された血漿中動態を示す所望のグリピカン3抗体を始めとする抗体が好適に取得され得る。
【0041】
非特許文献16には、抗E, P-Selectin抗体のキメラ抗体(IgG4)であるchimeric EP5C7.g4とヒト化抗体(IgG4)であるHuEP5C7.g4のアカゲサルにおける血漿中動態を比較し、両者の血漿中動態は同等であることが示されている。また非特許文献19には、抗CD154抗体のキメラ型抗体であるch5d8とヒト化抗体であるHu5c8のカニクイサルにおける血漿中動態を比較し、両者の血漿中動態は同等であることが示されている。非特許文献20には、キメラ抗体のcCC49とヒト化抗体のHuCC49のマウスにおける血漿中動態が同等であることが示されている。また非特許文献21および非特許文献22には、マウスにおける評価において、マウス抗体とヒト化抗体の血漿中動態・分布が同等であることが示されており、マウスFcおよびヒトFcは共にマウスFcRnに交差することから、同キメラ抗体と同ヒト化抗体の血漿中動態・分布は同等であると考えられる。これらの例に示されているように、同じCDRをもつキメラ抗体とヒト化抗体の間で血漿中動態は同等である。すなわち、非特許文献7等に示される公知の方法によってヒト化した場合、キメラ抗体と比較して血漿中動態は同等であり、公知の方法では血漿中動態が制御されたヒト化抗体を作製することはできない。
【0042】
これに対し、本発明で見出された方法を用いれば、キメラグリピカン3抗体を始めとするキメラ抗体をヒト化する際に、当該キメラ抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基に改変を加えて当該キメラ抗体のpIが改変されることによって、当該キメラ抗体と比較して血漿中動態が制御された(すなわち、その血漿中半減期を伸長した、あるいは、その血漿中半減期を短縮した)ヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体が作製され得る。血漿中動態を制御するためのヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体の表面に露出され得るアミノ酸の改変は、抗体のヒト化と同時に実施されてもよく、あるいは、ヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体を出発材料として用いてその表面に露出され得るアミノ酸残基を改変することにより、ヒト化抗体のpIをさらに改変してもよい。
【0043】
非特許文献23には、同じヒト抗体のFR配列を用いてヒト化を行った3種類のヒト化抗体trastuzumab、bevacizumab、pertuzumabの血漿中動態はほぼ同等であることが記されている。すなわち、同じFR配列を用いてヒト化を行った場合、血漿中動態はほぼ同等である。本発明で見出された方法によれば、上述のようなヒト化の工程に加えて、グリピカン3抗体を始めとする抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基に改変を加えて抗体のpIを改変させることによって、グリピカン3抗体を始めとする抗体血漿中濃度を制御することが可能となる。
【0044】
また、本発明の方法は、ヒト抗体にも適用することができる。ヒト抗体ライブラリーやヒト抗体産生マウス等から作製されたヒトグリピカン3抗体を始めとするヒト抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基に改変を加えて、ヒト抗体のpIが改変されることにより、最初に作製されたヒト抗体の血漿中動態に比べてその血漿中動態が制御された(すなわち、その血漿中半減期を伸長した、あるいは、その血漿中動態を短縮した)ヒトグリピカン3抗体を始めとするヒト抗体が作製可能である。
【0045】
抗体が有するpI値が減少することにより、抗体の血漿中半減期が伸長する。それとは逆に抗体のpI値が増大することにより、血漿中半減期が短縮し、抗体の組織移行性が向上することが知られている(非特許文献27および28)。しかしながら、当該抗体は免疫原性が増加し、また、細胞内への内在化活性も増大することから、ADCCやCDC活性等のその活性の発揮に細胞内への内在化活性が阻害要因となる細胞傷害活性等の機構を通じて癌治療に対する効果を奏する抗体に適用するために、更なる改良が求められていた。すなわち、ADCCやCDC活性等のその活性の発揮に細胞内への内在化活性が阻害要因となる細胞傷害活性等の機構を通じて癌治療に対する効果を奏する抗体については、抗体のpI値の増加または減少のいずれが腫瘍抑制効果の増強をもたらすかは分かっていなかった。本発明においては、そのpI値が減少したヒト化グリピカン3抗体の改変抗体とそのpI値が増加したヒト化グリピカン3抗体の改変抗体を作製し、両者の抗腫瘍効果を比較検討することによって、いずれの改変が高い腫瘍抑制効果をもたらすかが検証された。その結果、驚くべきことに、pI値が減少したヒト化グリピカン3抗体が肝癌に対してより優れた効果を発揮することが示された。
【0046】
本発明における「グリピカン3抗体」には、上述のようにアミノ酸残基の電荷が改変されたグリピカン3抗体を初発材料に用いて、当該グリピカン3抗体を構成するアミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入等により、そのアミノ酸配列がさらに改変されたグリピカン3抗体が包含される。また、本発明における「グリピカン3抗体」には、アミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等により、アミノ酸配列が改変されたグリピカン3抗体を初発材料に用いて、当該グリピカン3抗体を構成するアミノ酸残基の電荷がさらに改変されたグリピカン3抗体もまた包含される。
【0047】
本発明が提供するグリピカン3抗体を始めとする抗体の特性の向上を目的とする改変の例示として、抗体の安定性を高めることを目的とする改変(以下、安定性の改変と指称する。)が好適にあげられる。水溶液中の抗体は天然状態と不活性な変性状態の二状態間で平衡化されている。天然状態の安定性は熱力学第二法則(ΔG = ΔH - TΔS)で表される様に、系のギブズ自由エネルギー変化ΔGおよびその内訳であるエンタルピー変化ΔH(ポリペプチド鎖中の疎水性相互作用や水素結合などの変化に起因)とエントロピー変化ΔS(溶媒和と立体構造の自由度の変化に起因)のバランスに依存する。正値のΔGはタンパク質の天然状態の方がタンパク質の変性状態よりも安定であることを意味し、ΔGがより大きな正値を示す場合にはタンパク質の天然状態の安定性がさらに増大する。タンパク質が変性するためにはこの安定化に寄与している力を壊す必要がある。たとえばタンパク質溶液を高温にさらすことによって立体構造の自由度が増大し、タンパク質の安定化に寄与する因子が弱められることによってタンパク質の熱変性が引きおこされるが、この場合−TΔS項が変性を支配することになる。タンパク質の熱変性によるアンフォールディングのΔHは、本明細書に記載された実施例において具体的に記載されるようにDSC(differential scanning calorimetry;示差走査熱量測定法)を用いて直接的に測定され得る。タンパク質の熱変性プロセスにおけるDSCカーブは変性中点(Tm)と呼ばれる被験タンパク質に固有である温度を挟んで吸熱ピークとなる。当該ピークを積分する事によって変性エンタルピー変化が得られる。一般的にTmの値は熱安定性の一つの指標である。DSCによってタンパク質が熱変性をおこす際の熱容量変化(ΔCp)も測定され得る。熱変性に付随して生じる熱容量変化は、主にタンパク質が天然状態で存在するときに分子表面に露出していないアミノ酸残基がタンパク質の変性に伴って溶媒分子に露出された結果水和することに起因する。
【0048】
前記のとおり、本発明が提供する方法におけるアミノ酸残基の「改変」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等をいうが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することをいう。即ち、本発明における抗体の安定性の改変のためには、好ましくはアミノ酸置換による改変が用いられる。グリピカン3抗体を始めとする抗体を構成するアミノ酸残基に対して安定性の改変が施された結果、抗体の前記Tm値が増大する。すなわち、グリピカン3抗体を始めとする抗体の安定性の改変が施された指標として前記Tm値が好適に使用される。
【0049】
本発明が提供するグリピカン3抗体は、上記「安定性の改変」を行うために、例えば、配列番号1で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する重鎖可変領域中の37、40、48、51番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が好適に改変される。また、例えば、配列番号7で表されるヒト化グリピカン3抗体を構成する軽鎖可変領域中の2、25、42、48、50、83、84番目のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基が好適に改変される。前記のアミノ酸残基のうち、当該安定性の改変が施されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、所望のTm値が得られていれば改変される必要はないが、適宜、改変に供したヒト化グリピカン3抗体のTm値と同程度か、またはそれ以上のTm値を有するように適宜改変され得る。
【0050】
安定性の改変は、改変に供するヒト化グリピカン3抗体を始めとする抗体を構成する各アミノ酸残基をランダムに改変することにより実施され得る。また、改変に供するヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体を構成するアミノ酸配列の一部を、Tm値が高い既存の抗体を構成するアミノ酸配列であって、かつ、当該改変に供するヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体のアミノ酸配列の一部と抗体の立体構造相関の観点から対応する配列に置換することによっても実施され得る。置換されるアミノ酸残基の位置は限定されるものではないが、FR中のアミノ酸残基が好適に改変され得る。また、CDR中のアミノ酸残基であっても抗原への結合活性の減縮を伴わない限り、適切に改変され得る。また、改変されるアミノ酸残基の数は特に限定されず、FRの特定のセグメントを所望のセグメントに置換することによっても実施される。当該セグメントはFRのうち、FR1、FR2、FR3、FR4の各セグメントのすべてを改変することもできるし、また、一またはそれ以上の各セグメントの改変の組合せによっても実施され得る。
【0051】
FRのセグメントを改変する場合には、重鎖または軽鎖のFR2が好適な例として挙げられ得る。例えば、配列番号1で表されるVH1bのサブクラスを有するヒト化グリピカン3抗体の重鎖のFR2をVH4のサブクラスへ改変するアミノ酸残基の改変、すなわち、37番目のバリンをイソロイシンに置換するV37I、同様にA40P、M48I、L51Iの改変が、好適な具体例として挙げられる。また、例えば、配列番号7で表されるVK2のサブクラスを有するヒト化グリピカン3抗体の軽鎖FR2領域のVK3のサブクラスへの改変、すなわち、L42Q、S48A、Q50Rの改変、さらにはFR1の生殖細胞系列の配列への改変に相当するV2Iの改変が、好適な具体例として挙げられる。
【0052】
グリピカン3抗体を始めとする抗体を構成するアミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/又は挿入、並びにヒト化、キメラ化等のアミノ酸配列の改変は、いずれも当業者に公知の方法により好適に行われ得る。同様に、本発明が提供するグリピカン3抗体を始めとする抗体を組換抗体として作製する際に、抗体の可変領域及び定常領域を構成するアミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入が好適に行われうる。
【0053】
本発明におけるグリピカン3抗体を始めとする抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体も好適に使用される。さらに、例えば、キメラ抗体、中でもヒト化抗体等のように、そのアミノ酸配列が置換された改変グリピカン3抗体を始めとする抗体も好適に使用され得る。また、各種分子が結合された抗体修飾物も好適に使用され得る。
【0054】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体である。例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域から構成される抗体が好適に例示され得る。キメラ抗体の作製方法は公知である。例えば、抗体可変領域をコードするDNAとヒト抗体定常領域をコードするDNAとをインフレームで融合した組換DNAが、通常用いられる発現ベクターに組み込まれる。当該ベクターが導入された宿主細胞を培養することによって、その培養液からキメラ抗体が適宜取得または単離され得る。
【0055】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス等から単離される抗体の相補性決定領域(CDR;complementary determining region)とヒト抗体のフレームワーク領域(FR;framework region)とが連結されている抗体である。ヒト化抗体をコードするDNA配列は、複数個のオリゴヌクレオチドを鋳型として用いたオーバーラップPCR反応により合成され得る。オーバーラップPCR反応の材料、その実施方法は、WO98/13388等に記載されている。本発明のヒト化抗体の可変領域をコードするDNAは、互いにオーバーラップするヌクレオチド配列を有するように作製した複数個のオリゴヌクレオチドからオーバーラップPCRによって得られ、これはヒト抗体定常領域をコードするDNAとインフレームでコドン配列が形成されるように連結される。前記の様に連結されたDNAは、次いで発現ベクターに当該DNAが発現する様に挿入されて、宿主に導入される。
【0056】
CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342, 877)。また、その一般的な遺伝子組換手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。これらの公知の方法を用いることによって、例えば、マウス抗体等の非ヒト動物から取得された抗体のCDRが決定された後に、当該CDRとヒト抗体のFRとが連結された組換抗体をコードするDNAが構築される。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要であれば、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸残基が適宜改変され得る(Sato et al., Cancer Res.(1993) 53, 851-6)。改変に供するFR中のアミノ酸残基としては、抗原に対して非共有結合により直接結合する残基(Amit et al., Science (1986) 233, 747-53)、CDR構造に影響または作用する残基(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196, 901-17)及びVH-VL(重鎖可変領域-軽鎖可変領域)相互作用に関連する残基(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0057】
当該DNAが挿入された通常使用される発現ベクターによって形質転換または形質導入された宿主細胞が産生する、当該DNAがコードするヒト化抗体は、当該宿主細胞を培養することによって、当該培養液から単離される。
【0058】
本発明が提供する抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である場合には、当該抗体の定常領域としてヒト抗体由来の定常領域が好適に使用される。例えば、本発明が提供するグリピカン3抗体がキメラグリピカン3抗体、ヒト化グリピカン3抗体またはヒトグリピカン3抗体である場合には、当該グリピカン3抗体の定常領域としてヒト抗体由来の定常領域が好適に使用される。例えば重鎖定常領域としては、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4が、軽鎖定常領域としては、Cκ、Cλがそれぞれ好適に使用され得る。また、グリピカン3抗体を始めとする抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体定常領域が適宜修飾され得る。本発明が提供するキメラグリピカン3抗体を始めとするキメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物から取得される抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域によって好適に構成される。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物から取得される抗体のCDRと、ヒト抗体のFRおよび定常領域によって好適に構成される。例えば、ヒト化グリピカン3抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物から取得されるグリピカン3抗体のCDRと、ヒト抗体のFR及び定常領域によって好適に構成される。また、ヒト抗体は、ヒトから取得される抗体のCDRと、ヒト抗体のFRおよび定常領域によって好適に構成される。例えば、ヒトグリピカン3抗体は、ヒトから取得されるグリピカン3抗体のCDRと、ヒト抗体のFR及び定常領域によって好適に構成される。ヒト抗体の定常領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプに対応する固有のアミノ酸配列から構成される。本発明が提供するヒト化グリピカン3抗体の定常領域として、いずれのアイソタイプに属する抗体の定常領域も好適に用いられる。好ましくは、ヒトIgGの定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体またはヒトグリピカン3抗体を始めとするヒト抗体のFRとして利用されるヒト抗体のFRも特に限定されるものではなく、いずれのアイソタイプに属する抗体のFRも好適に用いられる。
【0059】
免疫原性の低下を目的として、非特許文献25で記載される方法と類似の方法を用いることによってFRを構成するアミノ酸残基の全部または一部を生殖細胞系列の配列に置換することも適用され得る。生殖細胞系列の配列は免疫原性が低いであろうという合理的予測に基づいて、ヒト化抗体のFRを構成するアミノ酸配列が生殖細胞系列のアミノ酸配列とアラインメントすることにより比較される(Abhinandan K. R. and Martin C. R., J. Mol. Biol., (2007) 369, 852-862)。抗原に対する結合性を失わない範囲において、当該比較において異なるヒト化抗体のFRを構成するアミノ酸残基が、生殖細胞系列の配列におけるアミノ酸残基に置換され得る。具体的な例としては配列番号1に表される重鎖可変領域を構成するアミノ酸残基のうち、70番目のLをIに、87番目のTをRに、97番目のTをAに置換する改変等が挙げられる。また、配列番号7に表される軽鎖可変領域を構成するアミノ酸残基のうち、25番目のSをAに置換する改変等が挙げられる。
【0060】
本発明が提供する改変されたキメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体の可変領域及び定常領域は、抗原に対する結合特異性を示す限り、改変に供された抗体の可変領域及び/又は定常領域を構成する一またはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び/又は付加等が好適に施され得る。特に、本発明が提供する改変されたキメラグリピカン3抗体、ヒト化グリピカン3抗体及びヒトグリピカン3抗体の可変領域及び定常領域は、抗原であるグリピカン3分子に対する結合特異性を示す限り、改変に供されたグリピカン3抗体の可変領域及び/又は定常領域を構成する一またはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び/又は付加等が好適に施され得る。
【0061】
ヒト由来の配列を利用したキメラグリピカン3抗体、ヒト化グリピカン3抗体及びヒトグリピカン3抗体は、ヒト体内における免疫原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する治療用抗体として使用される場合に有用と考えられる。
【0062】
本発明の方法における変異導入前の抗体の重鎖又は軽鎖をコードする遺伝子の配列としては、既知の配列が用いられ得るし、その他には、当業者に公知の方法によって、抗体遺伝子の新規な配列が取得され得る。当該遺伝子は、例えば、抗体ライブラリーから好適に取得され得る。更に、当該遺伝子はモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのmRNAを鋳型として用いたRT-PCR法等の公知の手法を用いてクローニングすることによっても取得され得る。
【0063】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知である。また、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるため、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手または作製することができる。例えば、好適な抗体ライブラリーとして、Clackson et al., Nature (1991) 352, 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. (1991) 222, 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. (1993) 21, 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. (1994) 13, 3245-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology (1996) 14, 309-14、及び特表平20−504970号公報等の文献によって開示された抗体ファージライブラリーが例示される。その他、真核細胞においてライブラリーを作製する方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法が好適に用いられる。さらに、ヒト抗体ライブラリーを出発材料に用いて、パンニングによってヒト抗体を取得する技術が当業者において知られている。すなわち、ヒト抗体の重鎖および軽鎖の可変領域がインフレームで融合された一本鎖抗体(scFv)がファージディスプレイ法によってファージの表面に発現される。抗原に対して結合したファージを選択することによって、抗原に結合するscFvをコードする遺伝子が当該ファージから単離される。当該遺伝子の配列を同定することによって、抗原となるグリピカン3に結合するヒトグリピカン3抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAの配列が決定され得る。当該配列を有する抗体遺伝子は適宜発現ベクターに挿入され、後述するような適切な宿主細胞中で発現することによって、ヒトグリピカン3抗体が適宜取得される。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388に開示された方法が例示される。
【0064】
抗体を産生するハイブリドーマから当該抗体をコードする遺伝子を取得する方法、特に、抗グリピカン3モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから当該グリピカン3抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術が採用され得る。以下に詳述するが、簡単には、通常の免疫方法にしたがって所望の感作抗原であるグリピカン3によって動物が免疫された後に、当該動物より得られる免疫細胞が、通常の細胞融合法による公知の親細胞との細胞融合に供与される。通常のスクリーニング法にしたがって、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)がスクリーニングされ、選択されたハイブリドーマから取得されたmRNAを鋳型として用いてグリピカン3抗体の可変領域(V領域)のcDNAが逆転写酵素によって合成される。当該cDNAを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAとインフレームで融合することによってグリピカン3抗体遺伝子が好適に取得される。
【0065】
より具体的には、以下のような例示が好適に挙げられるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。本発明によって提供される抗体を得るために使用される感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原であってもよいし、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原であってもよい。例えば、グリピカン3の全長タンパク質、又はその部分ポリペプチドもしくはペプチドなどが好適に用いられ得る。配列番号13で表される可溶型GPC3コアポリペプチドはその好適な具定例として挙げられる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質もまた抗原として作用することが知られており、本発明のグリピカン3抗体が結合する抗原は上述の物質の態様に特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により好適に行われ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777等)等が好適に用いられ得る。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子に結合された当該抗原によって動物が好適に免疫され得る。また、感作抗原がグリピカン3のような細胞膜を貫通する分子である場合には、必要であれば、当該分子の細胞外領域のポリペプチド断片が感作抗原として好適に用いられる。もしくは、当該分子を細胞表面上に発現する細胞を感作抗原として好適に使用され得る。さらに、感作抗原が不溶性の分子である場合には、当該分子を他の水溶性分子と結合することによって可溶化し、当該可溶化した結合分子が感作抗原として好適に用いられる。
【0066】
グリピカン3抗体産生細胞を始めとする抗体産生細胞は、前記の適切な感作抗原を用いて動物が免疫されることによって好適に得られる。または、抗体を産生することができるリンパ球をin vitroで免疫することによって、グリピカン3抗体産生細胞を始めとする抗体産生細胞が取得され得る。免疫される動物としては、各種の脊椎動物、哺乳動物が使用され得る。特に、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が免疫される動物として一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物が例示される。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーをそのゲノム上に保持するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体が好適に得られる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. (1997) 15, 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球がin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞によって感作された後に、ヒトミエローマ細胞、例えばU266と細胞融合されることによって、当該抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体が好適に得られる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーをそのゲノム上に保持するトランスジェニック動物が所望の抗原で免疫されることによって(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)所望のヒトグリピカン3抗体を始めとするヒト抗体が好適に取得され得る。
【0067】
動物の免疫は、例えば、感作抗原がPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁され、必要であればアジュバントと混合することによって乳化された後、当該感作抗原が動物の腹腔内または皮下に注射することによって実施される。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントと混合した感作抗原が4〜21日毎に数回投与される。免疫された動物中における感作抗原に対する抗体の産生の確認は、感作抗原に対する当該動物の血清中の抗体力価を慣用の方法、例えば、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)、フローサイトメトリー(FACS)等の公知の分析法によって測定することにより実施され得る。
【0068】
ハイブリドーマは、所望の感作抗原で免疫された動物またはリンパ球より得られたグリピカン3抗体産生細胞を、細胞融合のために慣用される融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合することによって作製され得る(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, (1986) 59-103)。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に従って好適に行われ得る。前記の方法により作製されたハイブリドーマ細胞を培養・増殖することによって、当該ハイブリドーマによって産生されたグリピカン3に特異的に結合するモノクローナル抗体が取得される。免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)、フローサイトメトリー(FACS)等の公知の分析法によって、当該モノクローナル抗体のグリピカン3に対する結合特異性が適宜測定され得る。その後、必要であれば、所望の特異性、親和性または活性が測定されたグリピカン3抗体を産生するハイブリドーマが、限界希釈法等の手法により好適にサブクローニングされ、当該ハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体が単離され得る。
【0069】
続いて、選択された抗体をコードする遺伝子が上述のハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、当該遺伝子に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングされ得る。また、ハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から取得されたmRNAを鋳型として用いるRT-PCR法によってクローニングされ得る。免疫グロブリンは、その構造および機能の相違に基づいて、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、各クラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4;IgA1及びIgA2等)に分類される。本発明によって提供される抗体は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、いずれかのクラス及びサブクラスに特に限定されるものではないが、IgGクラスに属する抗体は特に好ましいものとして挙げられる。
【0070】
グリピカン3抗体を始めとする抗体の重鎖及び軽鎖を構成するアミノ酸配列をコードする遺伝子は、遺伝子工学的手法により適宜改変され得る。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体を構成するアミノ酸配列をコードする核酸残基を改変することによって、ヒトに対する異種免疫原性を低下させること等を目的とする人為的改変が施された遺伝子組換抗体、例えば、キメラグリピカン3抗体を始めとするキメラ抗体、ヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体等が適宜作製され得る。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス、由来の抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域から構成される抗体であり、例えば、マウスから由来する抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んだ組換ベクターを宿主に導入した後に発現することにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称されるが、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス等から単離されるグリピカン3抗体を始めとする抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region)とヒト抗体のフレームワーク領域とがインフレームでコドン配列が形成されるように連結された抗体である。このヒト化抗体をコードするDNA配列は、複数個のオリゴヌクレオチドを鋳型として用いたオーバーラップPCR反応により合成され得る。オーバーラップPCR反応の材料、その実施方法は、WO98/13388等に記載されている。
【0071】
本発明の遺伝子組換グリピカン3抗体を始めとする遺伝子組換抗体の可変領域をコードするDNAは、互いにオーバーラップするヌクレオチド配列を有するように作製した複数個のオリゴヌクレオチドからオーバーラップPCRによって得られ、これはヒト抗体定常領域をコードするDNAとインフレームでコドン配列が形成されるように連結される。前記の様に連結されたDNAは、次いで発現ベクターに当該DNAが発現する様に挿入されて、宿主に導入される。当該DNAによってコードされたグリピカン3抗体を始めとする抗体は、当該宿主を培養することによって発現する。発現したグリピカン3抗体を始めとする抗体は、当該宿主の培養液等から適宜精製する(EP239400; WO96/02576参照)ことによって得られる。CDRを介して連結されるヒト化グリピカン3抗体を始めとする抗体のFRは、相補性決定領域が抗原に対する良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が抗原に対する適切な抗原結合部位を形成するように選択された抗体の可変領域のFRを構成するアミノ酸残基が適宜置換することによって改変され得る(K. Sato et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0072】
上述のヒト化に係る改変以外に、例えば、グリピカン3抗体を始めとする抗体が認識する抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するための改変が実施され得る。本発明における改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により好適に行われ得る。一般に、その生物学的特性が改善された改変抗体を構成するアミノ酸配列は、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)の同一性及び/または類似性を、改変に供する抗体(すなわち、改変抗体の基礎とされた抗体)を構成するアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の同一性及び/または類似性とは、配列同一性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、改変抗体の基礎とされた抗体を構成するアミノ酸残基と同一(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基づいて同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合をいう。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニンのグループに分類され得る。
【0073】
また、抗体の機能の増強を目的とする改変として、例えばヒト化グリピカン3抗体を始めとする抗体が発揮する細胞傷害活性の向上も具体的一態様として好適に挙げられる。細胞傷害活性としては、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性などが好適な例として例示され得る。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞傷害活性をいう。一方ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性をいう。被験抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定され得る(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993) 等)。
【0074】
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製が実施される。
(1)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen)中で脾臓細胞が分離される。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5x106細胞/mlに調製することによって、エフェクター細胞が調製され得る。
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE)を10% FBS含有培地(Invitrogen)にて10倍希釈し、補体溶液が調製され得る。
(3)標的細胞の調製
被験抗体が結合する抗原タンパク質を発現する細胞を0.2 mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス)とともに、10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより当該標的細胞が放射性標識され得る。被験抗体が結合する抗原タンパク質を発現する細胞としては、被験抗体が結合する抗原タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された細胞、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、肝癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、及び大腸癌細胞等が利用され得る。放射性標識後、当該細胞を10% FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2x105細胞/mlに調製することによって、当該標的細胞が調製され得る。
【0075】
ADCC活性、又はCDC活性は下記に述べる方法により測定され得る。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson)に、標的細胞と、被験抗体を50 μlずつ加え、氷上にて15分間の反応が実施される。その後、エフェクター細胞100 μlが加えられた反応混合液は、炭酸ガスインキュベーター内で4時間インキュベートされる。被験抗体の終濃度は0まから10μg/mlの範囲内で適宜使用され得る。当該インキュベーションの後、100μlの上清が回収され、ガンマカウンター(COBRAII AUTO-GAMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company)で当該上清が有する放射活性が測定される。細胞傷害活性(%)は得られた放射活性の値を使用して(A-C) / (B-C) x 100の計算式に基づいて計算され得る。Aは各被検抗体の試料を用いた場合の放射活性(cpm)、Bは1% NP-40(nacalai tesque)を加えた試料を用いた場合の放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料を用いた場合の放射活性(cpm)を示す。
【0076】
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson)に、標的細胞と、被験抗体を50 μlずつが加えられ、氷上にて15分間の反応が実施される。その後、補体溶液100 μlが加えられた反応混合液は、炭酸ガスインキュベーター内で4時間インキュベートされる。被験抗体の終濃度は0から3 μg/mlの範囲内で適宜使用され得る。培養後、100 μlの上清が回収され、ガンマカウンターで当該上清が有する放射活性が測定される。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算され得る。
【0077】
一方、抗体コンジュゲートによる細胞傷害活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson)に、標的細胞と、被験抗体コンジュゲートを50 μlずつが加えられ、氷上にて15分間の反応が実施される。当該プレートは炭酸ガスインキュベーター内で1から4時間インキュベートされる。抗体の終濃度は0から3 μg/mlの範囲内で適宜使用され得る。培養後、100 μlの上清が回収され、ガンマカウンターで当該上清が有する放射活性が測定される。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算され得る。
【0078】
例えば、グリピカン3抗体を始めとする抗体の重鎖および軽鎖の可変領域は、上述のように、通常3つのCDRと4つのFRによって構成されている。本発明の好ましい態様において「改変」に供するアミノ酸残基としては、例えば、CDRあるいはFRを構成するアミノ酸残基の中から適宜選択され得る。CDRを構成するアミノ酸残基の改変が、当該改変に係るグリピカン3抗体を始めとする抗体の抗原に対する結合能の低下を引き起こす場合がある。従って、本発明において「改変」に供されるグリピカン3抗体を始めとする抗体を構成するアミノ酸残基は、特に限定されるものではないが、FRを構成するアミノ酸残基の中から適宜選択されることが好ましい。CDRに位置するアミノ酸残基の改変であっても、当該改変が改変に係るグリピカン3抗体を始めとする抗体の抗原に対する結合能の低下を引き起こさないことが確認される場合は、当該アミノ酸残基もまた適宜選択され得る。
【0079】
また、当業者であれば、抗体の可変領域のFRを構成するアミノ酸配列であって、ヒトもしくはマウス等の生物において実在する配列を、Kabat等の公共のデータベース等を利用して好適に取得することができる。
【0080】
本発明の好ましい態様においては、本発明の方法によって血漿中動態が制御されたヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体を提供する。当該ヒト化グリピカン3抗体を始めとするヒト化抗体は、例えば、ヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むヒト化抗体であって、CDRまたはFRにおいて抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基が元の抗体のCDRまたはFRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、同じ定常領域を有するキメラ抗体に比べて血漿中動態が制御されたヒト化抗体である。
【0081】
さらに本発明の好ましい態様においては、本発明の方法によって血漿中動態が制御されたヒトグリピカン3抗体を始めとするヒト抗体を提供する。当該ヒト抗体は、例えば、ヒト由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むヒト抗体であって、CDRまたはFRにおいて抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基が元の抗体のCDRまたはFRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、同じ定常領域を有するキメラ抗体に比べて血漿中動態が制御されたヒト抗体である。
【0082】
上記ヒト定常領域とは、好ましくは、野生型のヒトFc領域を含む領域をいうが、改変されたFcも好適に使用され得る。前記の「改変されたFc」としては、当該Fcを構成するアミノ酸残基が改変されたものも含まれ得るし、また、当該Fc部分に施された修飾が改変されたものも含まれ得る。当該Fc部分に付加された糖鎖修飾の様式を改変することが、前記の修飾の改変の具体例として好適に挙げられる。本明細書において、参考実施例として具体的に開示される「抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体」がそのような好適な具体例として挙げられる。
【0083】
「抗体Fc領域に結合したフコース含量が低下した抗体」とは、対照とする抗体と比較した場合に、結合しているフコース量が有意に少なく、好ましくは検出できない抗体をいう。通常は、抗体1分子を構成する2分子の重鎖のFc領域に存在する2箇所の糖鎖結合部位に結合したN-グリコシド結合糖鎖にフコースが付加される。本発明において「抗体Fc領域に結合したフコース含量が低下した抗体」とは、こうした通常の抗体を対照として比較した場合において、対照抗体が有する総糖鎖含量の50%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは0%以下のフコース含量を有する抗体をいう。フコース含量は、下記に参考実施例として具体的に示す解析方法を用いて測定することができる。当該フコース含量が低下した抗体の作製方法は、本願発明の参考実施例として記載するほか、例えば、フコシルトランスフェラーゼを欠失した動物細胞により作製する方法(Biotechnol Bioeng. (2004), 87(5), 614-22)、複合分岐糖鎖修飾が改変された動物細胞により作製する方法(Biotechnol Bioeng. (2006) 93(5), 851-61)等が好適にその例示として挙げられる得る。また、動物細胞以外の細胞を宿主細胞として作製する方法としては、植物細胞により作製する方法(Nature Biotechnology (2006) 24, 1591-7)または酵母細胞により作製する方法(Nature Biotechnology (2006) 24, 210-5)等も好適に挙げられ得る。
【0084】
本発明の製造方法の好ましい態様としては、血漿中動態が制御されたグリピカン3抗体を始めとする抗体の製造方法であって、(a)グリピカン3抗体を始めとする抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が変わるように、当該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を(a)において改変された核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物からグリピカン3抗体を始めとする抗体を回収することを含む方法である。
【0085】
本発明の上記方法において「核酸を改変する」とは、本発明における「改変」によって導入されるアミノ酸残基に対応するコドンとなるよう核酸配列を改変することをいう。より具体的には、改変前のアミノ酸残基に相当するコドンを、改変によって導入されるアミノ酸残基のコドンになるように、改変に供するコドンを構成する核酸を改変することを言う。通常、目的のアミノ酸残基をコードするコドンとなるように、コドンを構成する核酸の少なくとも1塩基を置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、改変に供するアミノ酸残基をコードするコドンは、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードするコドンによって置換される。このような核酸の改変は、当業者においては公知の技術、例えば、部位特異的変異誘発法、PCR変異導入法等を用いて、適宜実施することが可能である。
【0086】
また、本発明における核酸は、通常、適当なベクターへ保持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。当該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene)などが好ましいが、市販の種々のベクターが利用可能である。本発明のポリペプチドを生産するためにベクターが用いられる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されるものではなく、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol.(1988) 8, 466-472)などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により好適に行われ得る(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0087】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0088】
宿主細胞において発現したグリピカン3抗体を始めとする抗体を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルが目的の抗体に好適に組み込まれ得る。これらのシグナルは目的のグリピカン3抗体を始めとする抗体が結合する抗原に特有の内因性シグナル、または、異種シグナルが好適に利用され得る。
【0089】
上記製造方法におけるグリピカン3抗体を始めとする抗体の回収は、本発明の抗体が培地に分泌される場合は、培地の回収によって実施される。本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体が細胞内に産生される場合は、その細胞がまず溶解され、その後に当該抗体が回収される。
【0090】
組換細胞培養物から回収された本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体の精製のためには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法が好適に用いられ得る。
【0091】
また本発明は、本発明の方法によって血漿中動態が制御されたグリピカン3抗体を始めとする抗体(例えばIgG抗体)、および医薬的に許容される担体を含む組成物(薬剤)に関する。
【0092】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤をいう。
【0093】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法によって好適に製剤化され得る。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形として非経口的に使用され得る。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わされて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって、好適に製剤化され得る。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な用量が得られるように設定される。
【0094】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って好適に処方され得る。
【0095】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)が好適に併用され得る。
【0096】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールが好適に併用され得る。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤が好適に配合され得る。前記のように調製された注射液は通常、適切なアンプルに充填される。
【0097】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与され得る。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物として適宜調製され得る。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に適宜投与され得る。
【0098】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に適宜設定され得る。または、例えば、患者あたり0.001〜100000mgの投与量に設定または調製され得るが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0099】
また本発明は、本発明の方法によって血漿中動態が制御されたグリピカン3抗体を始めとする抗体(例えば、ヒト化グリピカン3抗体等)をコードする核酸を提供する。さらに当該核酸を担持するベクターもまた、本発明に包含される。
【0100】
さらに本発明は、前記核酸を含む宿主細胞を提供する。当該宿主細胞の種類は、特に制限されず、例えば、大腸菌等の細菌細胞や種々の動物細胞等が挙げられる。当該宿主細胞は、本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体の製造や発現のための産生系として好適に使用され得る。すなわち本発明は当該宿主細胞を用いたグリピカン3抗体を始めとする抗体の製造のために用いられる産生系を提供する。当該産生系としては、in vitroおよびin vivoの産生系が好適に用いられ得る。in vitroの産生系において使用される宿主細胞としては、真核細胞、及び原核細胞が好適に用いられる。
【0101】
宿主細胞として使用される真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291, 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が好適に例示される。本発明のグリピカン3抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞による大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が宿主細胞として好ましい。例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法を用いることによって、宿主細胞への組換ベクター等の導入が好適に実施される。
【0102】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞およびウキクサ(Lemna minor)がタンパク質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明のグリピカン3抗体が産生され得る。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いたタンパク質発現系が公知であり、本発明のグリピカン3抗体を産生する宿主細胞として利用され得る。
【0103】
原核細胞が使用される場合、細菌細胞を用いる産生系が好適に使用される。細菌細胞としては、前記の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌(B.subtilis)を用いた産生系が知られており、これらの細菌細胞はいずれも本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体の産生に好適に利用され得る。
【0104】
本発明の宿主細胞を用いてグリピカン3抗体を始めとする抗体を産生するために、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞の培養が行われ、当該培養においてグリピカン3抗体を始めとする抗体をコードするポリヌクレオチドが発現される。培養は、公知の方法に従って好適に行われ得る。例えば、動物細胞が宿主として用いられた場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMが好適に使用され得る。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に併用される。また、無血清培養により細胞が培養され得る。宿主細胞に依存するが、培養時にはpH約6〜8の条件下で好適に培養され得る。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行われ、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌が加えられる。
【0105】
一方、in vivoで本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体が産生される系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が好適に使用され得る。すなわち、これらの動物又は植物に本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体をコードするポリヌクレオチドが導入され、動物又は植物の体内で本発明の抗体が産生され、回収される。本発明における「宿主」には、これらの動物、植物が包含される。
【0106】
宿主として動物が使用される場合には、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系が利用可能である。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等が好適に用いられる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物が用いられる場合、トランスジェニック動物が用いられる。
【0107】
例えば、本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体をコードするポリヌクレオチドは、ヤギβカゼインのような、乳汁中に特異的に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製される。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片がヤギの胚へ注入され、当該胚が雌のヤギへ移植される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のグリピカン3抗体を始めとする抗体が得られる。当該トランスジェニックヤギから産生されるグリピカン3抗体を始めとする抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンが当該トランスジェニックヤギに好適に投与される(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0108】
また、本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体を産生する昆虫としては、例えばカイコが用いられ得る。カイコが用いられる場合、目的のグリピカン3抗体を始めとする抗体をコードするポリヌクレオチドをそのウイルスゲノム上に挿入したバキュロウィルスがカイコに対する感染において用いられる。当該感染されたカイコの体液から目的のグリピカン3抗体を始めとする抗体が得られる(Susumu et al., Nature (1985) 315, 592-4)。
【0109】
さらに、植物が本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体の産生に使用される場合には、植物としては例えばタバコが用いられ得る。タバコが用いられる場合には、目的とするグリピカン3抗体を始めとする抗体をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入した結果得られる組換ベクターがアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入され得る。当該バクテリアがタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に対する感染に用いられ(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-8)、感染されたタバコの葉より所望のグリピカン3抗体を始めとする抗体が得られる。また、同様のバクテリアはウキクサ(Lemna minor)に対する感染に用いられ、クローン化された感染ウキクサの細胞から所望のグリピカン3抗体を始めとする抗体が得られる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. (2006) 24(12), 1591-7)。
【0110】
このようにして得られた本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離され、実質的に純粋で均一な抗体として精製され得る。抗体の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法が好適に使用され得るが、これらに限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等が適宜選択、組み合わされて抗体が好適に分離、および精製され得る。
【0111】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行われることが可能である。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Pharmacia製)等が挙げられる。
【0112】
上述のように本発明の宿主細胞を培養し、当該細胞の培養物からグリピカン3抗体を始めとする抗体を回収する工程を含む、血漿中動態が制御された本発明のグリピカン3抗体を始めとする抗体の製造方法もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
【0113】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0114】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0115】
[実施例1]
(1)ヒト化H0L0抗体の点変異遺伝子の作製
WO2006/046751に開示されるヒト化GC33抗体のCDRを含むグリピカン3抗体をコードする遺伝子を出発材料として、各種の点変異遺伝子を作製した。改変部位を含む順鎖および逆鎖の配列に基づいて設計されたオリゴDNAが合成された。市販のQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて複数の点変異遺伝子が作製された。点変異遺伝子の作製は以下の条件に従ってPCR法によって実施された。10 ngの鋳型プラスミドと、10 pmolの順鎖および逆鎖の合成オリゴDNA、キットに添付された10x Buffer、dNTP mixおよびPfu turbo DNA polymeraseからなる反応混合物を、95℃にて30秒間加熱した後、95 ℃にて30秒、55 ℃にて1分、68 ℃にて4分から構成されるPCR反応サイクルが18回実施された。キットに添付されたDpnIが反応混合物に添加された後に37℃にて1時間の制限酵素による制限消化反応が継続された。当該反応液によってDH5αコンピテント細胞(TOYOBO)が形質転換された結果、形質転換体が得られた。当該形質転換体から単離されたプラスミドDNAの塩基配列の決定に基づいて、点変異が導入されたことが確認された点変異遺伝子は、動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクター中にクローン化された。改変遺伝子は以下に示す構成を有する改変により取得された。
【0116】
ヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の一過性発現はPolyethyleneimine(Polysciences Inc.)を用いた一過性発現により実施された。Trypsin EDTA(Invitrogen)にて剥離されたHEK293細胞が、10cm2培養ディッシュに6 x 106 cells/10mLとなるように播種された。翌日、手順書に従い、H鎖発現プラスミドDNAおよびL鎖発現プラスミドDNAに、SFMII培地およびPolyetyleneimineが混合された後、当該混合液は室温にて10分間静置された。混合液の全量は、HEK293細胞が前記記載の通り播種された培養ディッシュに滴下された。その約72時間後に回収された培養上清から、発現したヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の精製がrProteinA sepharoseTM Fast Flow(GE Healthcare)を用いて、その手順書に従い実施された。
【0117】
(1−1)ヒト化H0L0抗体のTm値の改変
熱変性中間温度(Tm)は、一定のプログラムされた加熱速度で被検試料溶液を加熱した後に得られるサーモグラム(Cp対T)における変性ピークの頂点として把握される。DSC測定用試料溶液の調製を以下の様に実施することによって、ヒト化H0L0抗体のTm値が測定された。まず、150 mmol/lの塩化ナトリウムを含む20 mol/lの酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)を透析外液に対して、透析膜に封入された50-100μg相当量の抗体溶液が一昼夜の間、透析に供された。その後、透析外液を用いてその抗体濃度が50-100μg/mlに調製された試料溶液がDSC測定用試料溶液として使用された。
【0118】
適切なDSC装置、例えばDSC-II(Calorimetry Sciences Corporation)が、この実験のために好適に使用される。前記方法により調製された試料溶液およびリファレンス溶液(透析外液)が十分に脱気された後に、それぞれの被験検体が熱量計セルに封入され40℃にて熱充分な平衡化が行われた。次にDSC走査が40℃〜100℃にて約1K/分の走査速度で行われた。当該測定の結果は、温度の関数としての変性ピークの頂点として表される。非特許文献(Rodolfoら、Immunology Letters (1999), 47-52)を参考にしたFabドメインのピークアサインが行われ、ヒト化H0L0抗体の熱変性中間温度が算出された。具体例としてHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のDSC(示差走査熱量計)測定から得られたチャートが図1に例示される。
【0119】
前記記載の方法による算出に基づいた配列番号1で表されるH鎖、および、配列番号7で表されるL鎖からなるヒト化H0L0抗体のTm値は76.6℃であるが、既存の抗体として例示されるSynagisおよびHerceptinのTm値はそれぞれ85.4℃および81.8℃と計測される。したがってヒト化H0L0抗体のTm値は既存の抗体のそれよりも低いことが示されたこととなる。
【0120】
そこで、そのTm値の向上を目的として、ヒト化H0L0抗体の改変抗体を作製した。配列番号1で表されるH0L0抗体のH鎖のFR2に対して、そのVH1bのサブクラスをVH4のサブクラスに改変するV37I、A40P、M48I、L51Iの改変が加えられたH15(配列番号2)が作製された。そのTm値は79.1℃に改善された。配列番号7で表されるH0L0抗体のL鎖のFR2をVK2からVK3のサブクラスに改変するL42Q、S48A、Q50Rの改変、および、FR1のV2を生殖細胞系列の配列であるIに置換するV2Iの改変が実施されたL4(配列番号8)が作製された。各抗体のTm値の測定は前記の記載の方法により実施された。その結果、H15L0及びH0L4のTm値はそれぞれ、79.2℃及び77.2℃と測定され、H0L0のTm値である76.6℃よりも改善された。この2つの改変体が組み合わされたH15L4抗体のTm値は80.5℃に改善された。
【0121】
(1−2)ヒト化H0L0抗体のpI値の改変
抗体が有するpI値が減少することにより、抗体の血漿中半減期が伸長する。それとは逆に抗体のpI値が増大することにより、抗体の組織移行性が改善される。癌治療に対する効果を奏する抗体のpI値の増加または減少のいずれかが、腫瘍抑制効果の増強をもたらすかは分かっていない。そこで、pI値が減少したヒト化H0L0抗体の改変抗体とpI値が増加したヒト化H0L0抗体の改変抗体を作製し、両者の抗腫瘍効果を比較検討することによって、いずれの改変が高い腫瘍抑制効果をもたらすかが検証された。
【0122】
各抗体のpI値は等電点電気泳動による分析に基づいて算出された。当該電気泳動は以下のとおり行われた。Phastsystem Cassette(AmerchamBioscience社製)を用いて以下の組成を有する膨潤液によって60分ほどPhast-Gel Dry IEF(AmerchamBioscience)ゲルが膨潤された。
(a)高pI用の膨潤液の組成:
1.5 mlの10% Glycerol
100μlのPharmalyte 8-10.5 for IEF(AmerchamBioscience)
(b)低pI用の膨潤液の組成:
1.5 mlの精製水
20μlのPharmalyte 8-10.5 for IEF(AmerchamBioscience)
80μlのPharmalyte 5-8 for IEF(AmerchamBioscience)
【0123】
約0.5μgの抗体が膨潤したゲルに供され、以下のプログラムにより制御されたPhastSystem(AmerchamBioscience)を用いることによって等電点電気泳動が行われた。サンプルは下記プログラムにおけるStep 2の段階でゲルに添加された。pIマーカーとして、Calibration Kit for pI(AmerchamBioscience)が使用された。
Step 1:2000 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、75 Vh
Step 2:200 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、15 Vh
Step 3:2000 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、410 Vh
【0124】
泳動後のゲルが20 % TCAによって固定化された後、Silver staining Kit, protein(AmerchamBioscience)を用い、キットに添付されている手順書に従って銀染色が行われた。染色後、pIマーカーが有する既知の等電点を基準にして被験試料である各抗体の等電点が算出された。図2および図3にそれぞれ高pI等電点電気泳動の泳動像および低pI等電点電気泳動の泳動像が示されている。
【0125】
(a)pI値が増加した改変
H15にQ43K、D52N、Q107Rの改変が更に施されたHspu2.2(Hu2.2)(配列番号6)が作製された。また、L4にE17Q、Q27R、Q105R、およびCDR2のS25を生殖細胞系列で多いAに置換したS25Aの改変が施されたLspu2.2(Lu2.2)(配列番号12)が作製された。Hspu2.2(Hu2.2)およびLspu2.2(Lu2.2)とからなる抗体であるHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のTm値は76.8℃と計測され、pI値は9.6と計測された。H0L0抗体のpI値は8.9であることから、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のpI値は0.7増大した。
【0126】
(b)pI値が減少した改変
H15にK19T、Q43E、K63S、K65Q、G66Dの改変が更に施されたHspd1.8(Hd1.8)(配列番号5)が作製された。L4にQ27Eの改変が施され、L4を構成するFR3の79-84の配列であるKISRVEがTISSLQに改変され、Lspu2.2(Lu2.2)に対する改変同様にS25Aの改変が施されたLspd1.6(Ld1.6)(配列番号11)が作製された。Hspd1.8(Hd1.8)およびLspd1.6(Ld1.6)からなる抗体であるHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)のpI値は7.4と計測された。H0L0抗体のpI値は8.9であることからHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のpI値は1.5減少した。
【0127】
(2)競合ELISAによるH0L0抗体の点変異改変抗体の結合活性の評価
(1)で精製されたH0L0抗体およびその点変異改変抗体の競合ELISAによる評価が行われた。1μg/mlとなるように調製された可溶型GPC3コアポリペプチド(配列番号13)が96穴プレートに1ウエル当たり100μl加えられた。当該プレートは4℃にて終夜静置され、可溶型GPC3コアポリペプチドが当該プレートに固相化された。当該プレートに固相化された可溶型GPC3コアポリペプチドはSkan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄され200μlのブロッキング緩衝液が加えられ4℃にて30分以上ブロックされた。当可溶型GPC3コアポリペプチドが固相化されブロックされたプレートは次にSkan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄された。その後、種々の濃度のH0L0抗体またはその点変異改変抗体と終濃度0.3μg/mlのビオチン化されたH0L0抗体がそれぞれ100μl混合された混合液200μlがプレート1ウエル当たり加えられた。H0L0抗体のビオチン化はBiotin Labelingキット(Roche)を用いてキットの手順書に従い実施された。当該プレートは室温にて1時間静置された後、Skan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。その1ウエル当たり基質緩衝液によって20,000倍に希釈された100μlの Goat anti streptabidin Alkaline phosphatase(ZYMED)が加えられた当該プレートは、室温にて1時間静置された後Skan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。基質緩衝液を用いて1 mg/mlとなるようにPhosphatase Substrate(Sigma)が調製され、1ウエル当たり100μl加えられ1時間静置された。Benchmark Plus(BIO-RAD)を用いて655 nmの対照吸光度を用いて、各ウエル中の反応液の405 nmにおける吸光度が測定された。
【0128】
図4で示されるように、H15L4抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。また、図5で示されるように、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。さらに、図6で示されるように、Hspd1.8Lspd1.6 (Hd1.8Ld1.6)抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。
【0129】
[参考実施例2]CHO細胞におけるフコーストランスポーター遺伝子の破壊
(1)ターゲッティングベクターの構築
(1−1) KO1ベクターの作製
pcDNA3.1/Hygro(インビトロジェン)よりHyg5-BHとHyg3-NTのプライマーでPCRすることによって、Hygromycin耐性遺伝子(Hygr)の開始コドンの5’側にBamH IサイトとTGCGCの配列を付加することで、フコーストランスポーター遺伝子の開始コドンの5’側と同じ配列にし、SV40 polyA付加シグナルまでの領域を含む3’側にはNot Iサイトを付加してHygrを抜き出した。
フォワードプライマー
Hyg5-BH 5’- GGATCCTGCGCATGAAAAAGCCTGAACTCACC -3’(配列番号14)
リバースプライマー
Hyg3-NT 5’- GCGGCCGCCTATTCCTTTGCCCTCGGACG -3’(配列番号15)
【0130】
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.1(以下、KO1ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクター(Yagi T, Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1990) 87, 9918-22,)に、フコーストランスポーターの5’側(配列番号16に示す塩基配列のNo.2,780のSmaIからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSac Iまで)、及びHygrフラグメントを各々挿入することで構築した。ベクターの特徴としては、Hygrにプロモーターが付加されていないことから、相同組み換えを起こしたときにフコーストランスポーターのプロモーターによって、Hygrが発現することとなる。しかしながら、相同組み換えによって1コピーのみベクターが細胞に導入されても、ハイグロマイシンBに対する耐性を獲得するほどHygrが発現するとは限らない。なお、KO1ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO1ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の41塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
【0131】
(1−2)pBSK-pgk-1-Hygrの作製
pKJ2ベクター(Popo H, Biochemical Genetics (1990) 28, 299-308,)よりマウスpgk-1遺伝子のプロモーターをEcoR I-Pst Iによって切り出し、pBluescript(ストラタジーン)のEcoR I-Pst IサイトにクローニングしてpBSK-pgk-1を作製した。HygrはpcDNA3.1/HygroよりHyg5-AVとHyg3-BHのプライマーでPCRすることによって、Hygrの5’側にEcoT22 IサイトとKozak配列を付加し、SV40 polyA付加シグナルまでの領域を含む3’側にはBamH Iサイトを付加してHygrを抜き出した。
フォワードプライマー
Hyg5-AV 5’- ATGCATGCCACCATGAAAAAGCCTGAACTCACC -3’(配列番号17)
リバースプライマー
Hyg3-BH 5’- GGATCCCAGGCTTTACACTTTATGCTTC -3’(配列番号18)
【0132】
このHygr(EcoT22 I-BamH I)フラグメントをpBSK-pgk-1のPst I-BamH Iサイトに挿入し、pBSK-pgk-1-Hygrを作製した。
【0133】
(1−3)KO2ベクターの作製
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.2(以下、KO2ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクターにフコーストランスポーターの5’側(配列番号16に示す塩基配列のNo.2,780のSma IからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSacIまで)、及びpgk-1- Hygrフラグメントを各々挿入することで構築した。KO1ベクターと異なり、KO2ベクターはHygrにpgk-1遺伝子のプロモーターが付加されていることから、相同組み換えによって1コピーのみベクターが細胞に導入されても、ハイグロマイシンBに対する耐性を獲得する。なお、KO2ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO2ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の46塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
【0134】
(1−4)pBSK-pgk-1-Purorの作製
pPURベクター(BD Biosciences)をPst IとBamH Iで切断し、切り出されたフラグメント(Puror)をpBSK-pgk-1のPst I-BamH Iサイトに挿入し、pBSK-pgk-1-Purorを作製した。
【0135】
(1−5)KO3ベクターの作製
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.3(以下、KO3ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクターにフコーストランスポーターの5’側(配列番号16に示す塩基配列のNo.2,780のSma IからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSac Iまで)、及びpgk-1- Purorフラグメントを各々挿入することで構築した。なお、pgk-1-Purorの3’末端には、以下に示すスクリーニング用のプライマーが結合する配列を予め付加しておいた。なお、KO3ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO3ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の46塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
リバースプライマー
RSGR-A 5’- GCTGTCTGGAGTACTGTGCATCTGC -3’(配列番号19)
以上の3種類のターゲッティングベクターを用いて、フコーストランスポーター遺伝子のノックアウトを試みた。
【0136】
(2)CHO細胞へのベクターの導入
CHO-S-SFMII HT- (インビトロジェン)にHT Supplement(100x)(インビトロジェン)とペニシリンストレプトマイシン(インビトロジェン)をCHO-S-SFMII HT-の容量に対して、それぞれ1/100 量を加えた。これを培養用の培地(以下、SFMII (+)と称する)としてCHO細胞のDXB11株を継代し、さらに遺伝子導入後の培養もこのSFMII(+)で行った。8 x 106個のCHO細胞を0.8 mlのダルベッコリン酸緩衝液(以下、PBSと略す。インビトロジェン)に懸濁した。細胞懸濁液に30μgのターゲッティングベクターを加え、Gene Pulser Cuvette(4 mm)(バイオラッド)に細胞懸濁液を移した。氷上で10分間放置した後に、GENE-PULSER II(バイオラッド)で1.5kV, 25μFDの条件で、エレクトロポレーション法によりベクターを細胞に導入した。ベクターを導入後、細胞を200 mlのSFMII(+)培地に懸濁して20枚の96穴平底プレート(イワキ)に100μl/ウェルで細胞を播きこんだ。プレートをCO2インキュベータ内で、24時間、37℃で培養した後、薬剤を添加した。
【0137】
(3)ノックアウトの第一段階
KO1ベクター、もしくはKO2ベクターをそれぞれCHO細胞に導入し、ベクター導入から24時間後にハイグロマイシンB (インビトロジェン)による選抜を行った。ハイグロマイシンBは0.3 mg/mlになるようにSFMII(+)に溶解し、100μl/ウェル添加した。
【0138】
(4)PCRによる相同組み換え体のスクリーニング
(4−1)PCR用のサンプルの調整
相同組み換え体はPCR法によってスクリーニングした。スクリーニングで用いるCHO細胞は96穴平底プレートで培養し、培養上清除去後に細胞溶解用の緩衝液を50μl/ウェル加えて55℃、2時間加温し、続いて95℃、15分加熱することで、プロティナーゼ Kを失活させてPCRの鋳型とした。細胞溶解用の緩衝液は、1ウェルあたり10 X LA 緩衝液II(タカラLA Taqに添付)5μl、10% NP-40 (ロッシュ)2.5μl、プロティナーゼ K (20mg/ml、タカラ)4μl、及び蒸留水(ナカライテスク)38.5μlで構成されている。
【0139】
(4−2)PCRの条件
PCR反応混合物は上記のPCRサンプル1μl、10 x LA緩衝液II 5μl、MgCl2 (25 mM) 5μl、dNTP(2.5 mM)5μl、プライマー(各10μM)2μl、LA Taq(5 IU/μl)0.5μl、及び蒸留水 29.5μl(全50μl)とした。KO1ベクターを導入した細胞のスクリーニングには、TP-F4とTHygro-R1、KO2ベクターを導入した細胞のスクリーニングには、TP-F4とTHygro-F1をPCRプライマーに用いた。
【0140】
KO1ベクターを導入した細胞のPCRは、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、及び60℃にて2分間の増幅サイクル40サイクル、並びに72℃にて7分の複加熱とした。KO2ベクターを導入した細胞のスクリーニングには95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、及び70℃にて3分間の増幅サイクル40サイクル、並びに70℃にて7分の複加熱とした。
【0141】
プライマーは以下の通りで、相同組み換えを起こした細胞のサンプルでは、KO1ベクターでは、約1.6 kb、KO2ベクターでは約2.0 kbのDNAが増幅される。プライマーはTP-F4がベクターの外側で、かつ5’側のフコーストランスポーターのゲノム領域に設定し、THygro-F1、及びTHygro-R1はベクター内のHygrの中に設定した。
フォワードプライマー(KO1, KO2)
TP-F4 5’- GGAATGCAGCTTCCTCAAGGGACTCGC -3’(配列番号20)
リバースプライマー(KO1)
THygro-R1 5’- TGCATCAGGTCGGAGACGCTGTCGAAC -3’(配列番号21)
リバースプライマー(KO2)
THygro-F1 5’- GCACTCGTCCGAGGGCAAAGGAATAGC -3’(配列番号22)
【0142】
(5)PCRスクリーニング結果
KO1ベクターを導入した細胞は918個を解析し、そのうち相同組み換え体と考えられる細胞は1個であった(相同組み換え効率は約0.1%)。また、KO2ベクターを導入した細胞は537個を解析し、そのうち相同組み換え体と考えられる細胞は17個であった(相同組み換え効率は約3.2%)。
【0143】
(6)サザンブロット解析
さらに、サザンブロット法によっても確認を行った。培養した細胞から定法に従ってゲノムDNAを10μg調整し、サザンブロットを行った。配列番号16に示す塩基配列のNo.2,113-No.2,500 の領域から、以下の二種類のプライマーを用いてPCR法により387 bpのプローブを調整し、これをサザンブロット法による確認に用いた。ゲノムDNAはBgl IIで切断した。
フォワードプライマー
Bgl-F:5’- TGTGCTGGGAATTGAACCCAGGAC -3’(配列番号23)
リバースプライマー
Bgl-R:5’- CTACTTGTCTGTGCTTTCTTCC -3’(配列番号24)
【0144】
Bgl IIによる切断によって、フコーストランスポーターの染色体からは約3.0 kb、KO1ベクターで相同組み換えを起こした染色体からは約4.6 kb、KO2ベクターで相同組み換えを起こした染色体からは約5.0 kbのバンドがそれぞれ出現する。KO1ベクター、及びKO2ベクターによって相同組み換えを起こした細胞のそれぞれ1、7種類を実験に用いた。KO1ベクターで唯一獲得された細胞は5C1と名付けたが、その後の解析により複数の細胞集団から構成されることが明らかになったので、限界希釈によってクローン化し、その後の実験に用いることにした。また、KO2ベクターで獲得された細胞の一つを6E2と名付けた。
【0145】
(7)ノックアウトの第二段階
KO1ベクター、及びKO2ベクターによって相同組み換えが成功した細胞に対し、3種類のベクターを用いて、フコーストランスポーター遺伝子が完全に欠損した細胞株の樹立を試みた。ベクターと細胞の組み合わせは、以下の通りである。方法1:KO2ベクターと5C1細胞(KO1)、方法2:KO2ベクターと6E2細胞(KO2)、方法3:KO3ベクターと6E2細胞(KO2)。ベクターをそれぞれの細胞に導入し、ベクター導入から24時間後にハイグロマイシンB、ピューロマイシン(ナカライテスク)による選抜を開始した。ハイグロマイシンBは方法1では最終濃度が1 mg/ml、方法2では最終濃度が7 mg/mlになるようにした。さらに方法3では、ハイグロマイシンBの最終濃度が0.15 mg/ml、ピューロマイシンの最終濃度が8μg/mlになるように添加した。
【0146】
(8)PCRによる相同組み換え体のスクリーニング
サンプルの調製は前述の通り。方法1に関するスクリーニングは、前述のKO1ベクター、及びKO2ベクターで相同組み換えを起こした細胞を検出するPCRを両方行った。方法2に関しては、下記のPCRプライマーを設計した。配列番号16に示す塩基配列のNo.3,924-3,950の領域にTPS-F1を、No.4,248-4,274にSHygro-R1を設定した。このPCRプライマーによって、KO2ベクターにより欠損するフコーストランスポーターの遺伝子領域の350 bpが増幅される。従って、方法2におけるPCRスクリーニングにおいては、350 bpが増幅されないものを、フコーストランスポーター遺伝子が完全に欠損した細胞とみなすことにした。PCRの条件は、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、70℃にて1分間の増幅サイクル35サイクル、並びに70℃にて7分の複加熱とした。
フォワードプライマー
TPS-F1:5’- CTCGACTCGTCCCTATTAGGCAACAGC -3’(配列番号25)
リバースプライマー
SHygro-R1:5’- TCAGAGGCAGTGGAGCCTCCAGTCAGC -3’(配列番号26)
【0147】
方法3に関しては、フォワードプライマーにTP-F4、リバースプライマーにRSGR-Aを用いた。PCRの条件は、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の増幅サイクル35サイクル、並びに72℃にて7分の複加熱とした。KO3ベクターによって相同組み換えを起こした細胞のサンプルでは、約1.6 kbのDNAが増幅される。このPCRでKO3ベクターによって相同組み換えを起こした細胞を検出するとともに、KO2ベクターでの相同組み換えが残っていることも確認した。
【0148】
(9)PCRスクリーニング結果
方法1では616個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は18個であった(相同組換効率は2.9%)。方法2では524個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は2個であった(相同組換効率は約0.4%)。さらに、方法3では382個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は7個であった(相同組換効率は約1.8%)。
【0149】
(10)サザンブロット解析
前述の方法に準じて解析を行った。その結果、解析できた細胞のうち、フコーストランスポーターの遺伝子が完全に欠損している細胞を1つ見出した。第一段階のノックアウトでは、PCRとサザンブロットの解析結果が一致したが、この第二段階のノックアウトでは、一致しなかった。
【0150】
(11)フコースの発現解析
さらに、PCRで相同組み換え体と判断された26の細胞におけるフコースの発現を解析した。5μg/mlのLens culinaris Agglutinin, FITC Conjugate(ベクターラボラトリー)、2.5% のFBS、0.02%のアジ化ナトリウムを含むPBS(以下、FACS溶解液と称する)100μlで1×106個の細胞を氷冷中で1時間染色した。その後、FACS溶解液で細胞を3回洗浄してFACSCalibur(ベクトンディッキンソン)で測定を行った。その結果、サザンブロット解析でフコーストランスポーターの遺伝子が完全に欠損していると判断された細胞であるFTP-KO株のみ、フコースの発現が低下していることが明らかになった。
【0151】
[参考実施例3] FTP-KO株由来の抗体産生細胞の樹立と当該細胞により産生された抗体の精製
SFMII (+)培地にハイグロマイシンBの最終濃度が1 mg/mlになるように調製し、実施例1で得られたフコーストランスポーター欠損株(FTP-KO細胞、クローン名 3F2)を継代した。8 x 106個の3F2を0.8 mlのダルベッコリン酸緩衝液に懸濁した。細胞懸濁液に25μgのヒト化グリピカン3抗体発現ベクターを加え、Gene Pulser Cuvetteに細胞懸濁液を移した。氷上で10分間放置した後に、GENE-PULSER IIで1.5 kV, 25μFDの条件で、エレクトロポレーション法によりベクターを細胞に導入した。ベクターを導入後、細胞をSFMII(+)培地40 mlに懸濁して96穴平底プレート(イワキ社)に100μl/ウェルで細胞を播きこんだ。プレートをCO2インキュベータ内で、24時間、37℃で培養した後、Geneticin(インビトロジェン)を終濃度0.5 mg/mlになるように添加した。薬剤に耐性になった細胞の抗体産生量を測定し、ヒト化グリピカン3抗体産生細胞株をそれぞれ樹立した。
【0152】
抗体発現株より培養上清が回収され、P-1ポンプ(Pharmacia)を用いてHitrap rProtein A (Pharmacia)カラムにアプライされた。カラムは結合バッファ(20 mM Sodium phosphate (pH 7.0))にて洗浄後、結合した抗体が溶出バッファ(0.1 M Glycin-HCl (pH 2.7))で溶出された。溶出液は直ちに中和バッファ(1M Tris-HCl(pH 9.0))で中和された。DC protein assay(BIO-RAD)により抗体の溶出画分が選択されプールした後、当該溶出画分はCentriprep-YM10(Millipore)にて2 ml程度まで濃縮された。次に、当該濃縮液は、150mM NaCl を含む20 mM 酢酸バッファ(pH 6.0)にて平衡化されたSuperdex200 26/60(Pharmacia)を用いたゲルろ過に供された。溶出液のモノマー画分のピークが回収され、当該画分がCentriprep-YM10にて濃縮された。当該濃縮液はMILLEX-GW 0.22μm Filter Unit(Millipore)を用いてろ過された後、4℃で保管された。精製された抗体の濃度は、280nmの波長で測定された吸光度に基づいて、モル吸光係数から換算して決定された。
【0153】
[参考実施例4] FTP-KO細胞により産生されたヒト化抗グリピカン3抗体に結合する糖鎖の解析
(1)2-アミノベンズアミド標識糖鎖(2-AB化糖鎖)の調製
本発明のFTP-KO細胞産生抗体、及び対照試料としてCHO細胞産生抗体に、N-Glycosidase F(Roche diagnostics)を作用させることによって、抗体に結合する糖鎖がタンパク質から遊離された(Weitzhandler M. et al., Journal of Pharmaceutical Sciences (1994) 83(12),,1670-5)。エタノールを用いた除タンパク質操作の後(Schenk B. et al., The Journal of Clinical Investigation (2001), 108(11), 1687-95)、遊離糖鎖が濃縮乾固され、次いで2-アミノピリジンによって蛍光標識が施された(Bigge J. C. et al., Analytical Biochemistry (1995) 230(2), 229-238)。得られた2-AB化糖鎖が、セルロースカートリッジを用いた固相抽出により脱試薬された後遠心分離により濃縮され、精製2-AB化糖鎖として以後の解析に供された。次に、β-Galactosidase(生化学工業)を精製2-AB化糖鎖に作用させることによって、アガラクトシル2-AB化糖鎖が調製された。
【0154】
(2)アガラクトシル2-AB化糖鎖の順相HPLCによる分析
前項の方法で、本発明のFTP-KO細胞産生抗体、及び対照試料としてCHO細胞産生抗体から遊離された糖鎖を出発材料として調製されたアガラクトシル2-AB化糖鎖は、アミドカラムTSKgel Amide-80(東ソー)による順相HPLCによって分析され、そのクロマトグラムが比較された。CHO細胞産生抗体においてはG(0)がその糖鎖の主成分として存在しており、フコースの付加されていないG(0)-Fucはピーク面積比からの算出に基づき全糖鎖中4%程度存在すると見積もられた。一方,FTP-KO細胞産生抗体においては、G(0)-Fucが主成分であり、いずれの産生株から産生された抗体においてもピーク面積比からの算出に基づけば全糖鎖中の90%以上がフコースの付加されていない糖鎖として存在していた。
【0155】
【表1】

【0156】
[実施例5]ヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の安定性発現株の樹立
実施例1で記載された方法で作製されたH0L0抗体の改変抗体であるHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体とHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体、またはその改変に供したH0L0抗体をコードする遺伝子が発現ベクターにクローン化された。クローン化に際しては、抗体を構成するH鎖およびL鎖をコードする各遺伝子が発現されるように、H鎖およびL鎖をコードする各遺伝子がそれぞれ別の発現ベクターに挿入された。前記のようにH鎖およびL鎖をコードする各遺伝子が所望の組合せとなるように選択された二種類の発現ベクターがPvuIにて切断された後に、参考実施例2で作製されたFTP-KO株中へエレクトロポレーションを用いて導入された。
【0157】
エレクトロポレーションによるH0L0抗体およびその改変抗体を安定的に生産する形質導入株の作製はGene PulserII(Bio Rad社製)を用いて実施された。所望のH鎖およびL鎖を構成する組合せをもたらすH鎖、L鎖発現プラスミドDNAの各々10μgとPBSに懸濁されたCHO細胞(1x107細胞/ml)0.75mlが混合され、混合液が氷上で10分間静置された。混合液がGene PulserII用キュベットに移された後に1.5kV、25μFDの容量にて電気パルスが付与された。パルス付与された混合液は室温にて10分間静置された後に、CHO-S-SFMII / 1% HT / 1% PS培地に懸濁された。96ウエル培養用プレートの各ウエルに同培地で調製された5、10、50倍での各希釈懸濁液100μlが分注された。当該プレートは5%のCO2濃度に維持されたCO2インキュベーター中で24時間インキュベートされた。その後、Geneticin(GIBCO)を最終濃度500μg/ml、Zeocin(Invitrogen)を最終濃度600μg/mlになるように各ウエルに添加された当該プレートは更に2週間インキュベートされた。GeneticinおよびZeocin耐性を示す形質導入細胞のコロニーが、500μg/ml Geneticin(GIBCO)および600μg/ml Zeocin(Invitrogen)を含む同培地で継代されることによりさらに選抜された。前記のように選抜された当該形質導入細胞の培養上清中の抗体濃度がBiacoreQ(BIACORE)を用いて評価されることによって、所望の抗体を高発現する形質導入株が樹立された。培養上清中の抗体濃度の測定はBiacoreQ(BIACORE)に添付された手順書に基づいて実施された。樹立された細胞株は、500μg/ml Geneticin(Invitrogen)及び600μg/ml Zeocin(Invitrogen)を含むCHO-S-SFMII培地(Invitrogen)中で培養され、適切な期間の培養により得られた培養上清が回収された。回収された培養上清は、rProteinA-Sepharoseカラム(GE Healthcare)を用いて精製された。精製された抗体は、Amicon Ultra-4(MILLIPORE)を用いて濃縮された後に、濃縮液がPD-10 Desaltingカラム(Amersham Biosciences)を用いて200mM NaClを含有する20mM酢酸バッファー(pH6.0)に置換された。精製された抗体はND-1000 Spectrophotometer(NanoDrop)又は分光光度計DU-600(BECKMAN)に供され、その280nmでの吸光度が測定された。当該測定値を用いたRACE法に基づく算出法によって、その抗体の濃度が算出された。
【0158】
[実施例6] in vivoモデルを用いたヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の薬効試験
(1)in vivoモデルへの移植に供する細胞株の維持
Hep G2細胞(ATCC)が用いられた。Hep G2細胞は10%FBS、1 mmol/l MEM Sodium Pyruvate(Invitrogen)、1 mmol/l MEM Non-Essential Amino Acid(Invitrogen)を含むMinimun Essential Medium Eagle培地(SIGMA)(以下、継代用培地という。)中で継代されて維持された。
【0159】
(2)Hep G2細胞移植マウスモデルの作製
Hep G2細胞の細胞懸濁液が継代用培地とMATRIGEL Matrix(BD Bioscience)を1:1で含む溶液を用いて5x107細胞/mlになるように調製された。細胞の移植前日に、あらかじめ抗アシアロGM1抗体(和光純薬、1バイアル中の内容物が5 mlの当該溶液によって溶解された。)100μlが腹腔内へ投与されたSCIDマウス(オス、5週齢)(日本クレア)の腹部皮下へ当該細胞懸濁液100μl(5x106細胞/マウス)が移植された。腫瘍体積は、
式:腫瘍体積=長径×短径×短径/2
を用いて算出され、腫瘍体積の平均が130-330 mm3になった時点でモデルが成立したものと判断された。
【0160】
(3)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hu2.2Lu2.2抗体、Hd1.8Ld1.6抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.5 mg/ml(5 mg/kg投与群)または0.1 mg/ml(1 mg/kg投与群)となるように調製された。
【0161】
(4)抗体を含む投与試料の投与
(2)で作製されたマウスモデルに対するHep G2細胞の移植後27日から週に1回ずつ、3週間の期間で、上記(3)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に1回ずつ、3週間の期間で、10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、5匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。投与とほぼ同時に、各群のうち3匹の個体から、各抗体のマウス血漿中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、二回目投与直前の二つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0162】
(5)各被験抗体の抗腫瘍効果の評価
ヒト肝癌移植マウスモデルにおける各被験抗体の抗腫瘍効果が、投与試料の投与の最終日から一週間後の腫瘍体積を測定することによって評価された。その結果、図7に示すとおり、Hspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体で薬効が強くなる傾向があり、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体で薬効が弱くなる傾向があった。
【0163】
(6)各被験抗体の血漿中濃度
マウス血漿中の被験抗体の濃度が実施例1に記載されたELISA法に準じた方法によって測定された。血漿中濃度として12.8、6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2μg/mlの検量線試料が調製された。検量線試料および所望の濃度になる様に適宜希釈されたマウス血漿被験試料がsoluble Glypican-3 core(中外製薬社製)を固相化したイムノプレート(Nunc−Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International))に分注され、当該プレートが室温で1時間静置された。その後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics)が順次分注され、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories)を基質として用いた発色反応が行われた。各ウエル中の反応液の呈色がマイクロプレートリーダーを用いて反応液の650nmの吸光度を測定することによって算出された。各検量線試料の吸光度から作成された検量線に基づいて、解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いてマウス血漿中の抗体濃度が算出された。
【0164】
投与30分および7日後のマウス血漿中濃度が図8に示されている。被験抗体のいずれの投与量でも、被験抗体のpIがより低下していれば、投与7日後のマウス血漿中の抗体濃度が高くなることが示された。
【0165】
[実施例7] ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のADCC活性
ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のADCC活性が以下のように測定された。
【0166】
(1)ヒトPBMC溶液の調製
1000単位/mlのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク)が予め200μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mlが採取された。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血が4等分され、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えられた。当該末梢血が分注された分離管が2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作がされた後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA)(以下10%FBS/D-MEMと称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞が洗浄された後、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が5x106/mlとなるように懸濁された。当該細胞懸濁液がヒトPBMC溶液として以後の実験に供された。
【0167】
(2)標的細胞の調製
Hep G2細胞がディッシュから剥離されて、1x104cells/ウエルとなるように96ウェルU底プレートに播種された。当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で一晩インキュベートされた。翌日、当該プレートの各ウェル中に5.55MBqのCr-51が加えられ、当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で3時間インキュベートされた。当該プレートの各ウエル中に存在するHep G2細胞が標的細胞として、以後のADCC活性の測定に際して用いられた。
【0168】
(3)クロム遊離試験(ADCC活性)
ADCC活性はクロムリリース法による特異的クロム遊離率にて評価される。(2)で調製された標的細胞が培地で洗浄され、各濃度(0、0.004、0.04、0.4、4、40 μg/ml)に調製されたH0L0抗体, Hu2.2Lu2.2抗体, Hd1.8Ld1.6抗体の各抗体100μlがそれぞれ添加された。当該プレートは、室温にて15分間反応された後に抗体溶液が除去された。次に、各ウエル中に継代用培地が各100μl添加された当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で1時間インキュベートされた。各ウエル中に(1)で調製されたヒトPBMC溶液各100μl(5x105 細胞/ウェル)が加えられた当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で4時間静置された後に、遠心分離操作された。当該プレートの各ウエル中の100μlの培養上清の放射活性がガンマカウンターを用いて測定された。下式:
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
に基づいて特異的クロム遊離率が求められた。
【0169】
上式において、Aは各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。また、Bは標的細胞に100μlの2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク)および50μlの10% FBS/D-MEM培地を添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に10% FBS/D-MEM培地を150 μl添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施され、各被験抗体のADCC活性が反映される前記試験における特異的クロム遊離率(%)の平均値および標準偏差が算出された。
【0170】
(4)各被験抗体のADCC活性の評価
各被験抗体を介してヒトPBMCが発揮するADCC活性が評価された結果、全ての被験抗体がADCC活性を有することが認められた。その結果が図9に示されている。各濃度での各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率の各被験抗体間での有意な差が認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、そのpIが改変された各被験抗体のADCC活性の間には差がないことが示された。
【0171】
[実施例8]点変異pI改変抗体の作製と当該抗体の特徴
(1)pI低下のための改変箇所の選定
Hd1.8Ld1.6抗体の腫瘍抑制効果をさらに向上するために、可変領域のpIの低下を可能とする改変箇所の検討が行われた。その結果、可変領域のpIの低下を可能とするアミノ酸残基が見出され、当該残基が表2(重鎖)及び表3(軽鎖)にまとめられている。それらの改変のうちpI低下の具体例として、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体が挙げられる。それぞれのpI改変抗体の作製は以下のように実施された。
【0172】
改変部位の作製はPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。改変部位を含む順鎖および逆鎖の配列に基づいて設計されたオリゴDNAが合成された。改変部位を含む逆鎖オリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターの順鎖オリゴDNA、改変部位を含む順鎖オリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターの逆鎖オリゴDNAをそれぞれ組み合わせ、PrimeSTAR(TAKARA)を用いてPCRを行うことによって、改変部位を含む断片を5末端側と3末端側の2つが作製された。その2つの断片をAssemble PCRによりつなぎ合わせることによって、各変異体が作製された。
【0173】
作製された変異体を動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクターに挿入され、得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。プラスミドDNAの塩基配列の決定に基づいて、点変異が導入されたことが確認された点変異遺伝子は、動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクター中にクローン化された。抗体の発現、精製等の方法は、実施例1記載の方法又はそれに順ずる方法を用いて実施された。
【0174】
Hd1.8を出発物質に用いてHd1.8のCDR1に存在するkabatナンバリングに基づく61番目のグルタミン(Q)がグルタミン酸(E)に置換されたpH7(配列番号27)が作製された。Ld1.6を出発物質に用いてLd1.6のCDR1に存在するkabatナンバリングに基づく24番目のアルギニン(R)がグルタミン(Q)に、FR2及びFR3に存在する37番目のグルタミン(Q)がロイシン(L)、43番目のアラニン(A)がセリン(S)、45番目のアルギニン(R)がグルタミン(Q)、74番目のスレオニン(T)がリジン(K)、77番目のセリン(S)がアルギニン(R)、78番目のロイシン(L)がバリン(V)、79番目のグルタミン(Q)がグルタミン酸(E)にそれぞれ置換されたpL14(配列番号28)が作製された。
【0175】
pL14を出発物質に用いてpL14のFR4に存在するkabatナンバリングに基づく104番目のロイシン(L)がバリン(V)、107番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)にそれぞれ置換されたpL16(配列番号29)が作製された。
【0176】
(2)点変異pI改変抗体のpI値の測定
実施例1に記載あるいは実施例1に準じた方法によりPhastGel IEF 4-6.5(GE Healthcase)を用いた泳動によりHd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のpI値が測定された。Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のpI値は、それぞれ、7.47、7.07及び6.52と測定され、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体のpI値はHd1.8Ld1.6抗体のpI値よりそれぞれ0.4、0.95減少したことが示された。
【0177】
(3)点変異pI改変抗体のTm値の測定
Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体から得られたFabのTm値が実施例1に記載の方法に準じて、VP-DSC(Micro Cal)を用いて測定された。この際、透析外液としてPBSが用いられた。また、DSC測定用試料溶液として抗体濃度が25-100μg/mlに調製された。20℃〜115℃にて約4K/分の走査速度となるよう設定されたDSC走査によって、リファレンス溶液(透析外液)およびDSC測定用試料溶液が測定された。Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のFab熱変性中間温度は、それぞれ77.5、78.0及び74.7℃と測定された。
【0178】
(4)競合ELISAによる点変異pI改変抗体の抗原に対する結合活性の評価
実施例1に記載された方法を用いて、抗原であるグリピカン3に対する各点変異pI改変抗体の結合活性が測定された(図10)。pH7pH14抗体及びpH7pL16抗体のグリピカン3に対する結合活性はH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。
【0179】
[実施例9]FTP-KO株を用いた各点変異pI改変抗体の調製
実施例8で作製された各点変異pI改変抗体をコードする遺伝子を含む発現ベクターを、参考実施例2で作製されたFTP-KO株にPolyethylenimine(Polysciences Inc.)を用いて発現ベクターを細胞内に取り込ませることによって、当該改変抗体が発現された。前記細胞の培養上清からrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当該改変抗体が精製された。精製された抗体溶液は実施例5に記載の方法で、調製され、その抗体濃度が測定された。
【0180】
[実施例10]in vivoモデルを用いたヒト化GC33抗体および各点変異pI改変抗体の薬効試験
(1)in vivoモデルへの移植に供する細胞株の維持
Hep G2細胞(ATCC)が用いられた。Hep G2細胞は10%FBS、1 mmol/l MEM Sodium Pyruvate(Invitrogen)、1 mmol/l MEM Non-Essential Amino Acid(Invitrogen)を含むMinimun Essential Medium Eagle培地(SIGMA)(以下、継代用培地という。)中で継代されて維持された。
【0181】
(2)Hep G2細胞移植マウスモデルの作製
Hep G2細胞の細胞懸濁液が継代用培地とMATRIGEL Matrix(BD Bioscience)を1:1で含む溶液を用いて5x107細胞/mlになるように調製された。細胞の移植前日に、あらかじめ抗アシアロGM1抗体(和光純薬、1バイアル中の内容物が5 mlの当該溶液によって溶解された。)100μlが腹腔内へ投与されたSCIDマウス(オス、5週齢)(日本クレア)の腹部皮下へ当該細胞懸濁液100μl(5x106細胞/マウス)が移植された。腫瘍体積は、
式:腫瘍体積=長径×短径×短径/2
を用いて算出され、腫瘍体積の平均が400 mm3になった時点でモデルが成立したものと判断された。
【0182】
(3)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.1 mg/ml(1 mg/kg投与群)となるように調製された。
【0183】
(4)抗体を含む投与試料の投与
(2)で作製されたマウスモデルに対するHep G2細胞の移植後34日から週に1回ずつ、5週間の期間で、上記(3)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。陰性対照として、生理食塩水が同様に週に1回ずつ、5週間の期間で、10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、5匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。投与とほぼ同時に、各群のうち3匹の個体から、各抗体のマウス血漿中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、三回目投与直前の二つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0184】
(5)各被験抗体の抗腫瘍効果の評価
ヒト肝癌移植マウスモデルにおける各被験抗体の抗腫瘍効果が、投与試料の投与の最終日から一週間後の腫瘍体積を測定することによって評価された。その結果、図11に示すとおり、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体では、H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体よりも薬効が強くなる傾向が認められた。
【0185】
[実施例11]in vivoモデルを用いたヒト化GC33抗体および各点変異抗体のPK試験
(1)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体、pH7M85pL16抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.5 mg/ml(5 mg/kg投与)となるように調製された。
【0186】
(2)抗体を含む投与試料の投与
C.B-17/Icr-scidマウスに、上記(1)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、3匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。各抗体のマウス血漿中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、2時間、8時間、24時間、72時間、168時間の七つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0187】
(3)各被験抗体の血漿中濃度
マウス血漿中の被験抗体の濃度が実施例6に記載されたELISA法に準じた方法によって測定された。血漿中濃度として12.8、6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2μg/mlの検量線試料が調製された。検量線試料および所望の濃度になる様に適宜希釈されたマウス血漿被験試料がsoluble Glypican-3 core(中外製薬社製)を固相化したイムノプレート(Nunc−Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International))に分注され、当該プレートが室温で1時間静置された。その後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics)が順次分注され、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories)を基質として用いた発色反応が行われた。各ウエル中の反応液の呈色がマイクロプレートリーダーを用いて反応液の650nmの吸光度を測定することによって算出された。各検量線試料の吸光度から作成された検量線に基づいて、解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いてマウス血漿中の抗体濃度が算出された。
【0188】
投与後のマウス血漿中濃度が図12に示されている。被験抗体のpIが低下していると、マウス血漿中の抗体濃度が高くなることが示された。
【0189】
[実施例12]ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のADCC活性
ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のADCC活性が以下のように測定された。
(1)ヒトPBMC溶液の調製
1000単位/mlのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク)が予め200μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mlが採取された。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血が4等分され、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えられた。当該末梢血が分注された分離管が2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作がされた後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA)(以下10%FBS/D-MEMと称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞が洗浄された後、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が5x106 細胞/ mlとなるように懸濁された。当該細胞懸濁液がヒトPBMC溶液として以後の実験に供された。
【0190】
(2)標的細胞の調製
Hep G2細胞がディッシュから剥離されて、1x104cells/ウエルとなるように96ウェルU底プレートに播種された。当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で一晩インキュベートされた。翌日、当該プレートの各ウェル中に5.55MBqのCr-51が加えられ、当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で3時間インキュベートされた。当該プレートの各ウエル中に存在するHep G2細胞が標的細胞として、以後のADCC活性の測定に際して用いられた。
【0191】
(3)クロム遊離試験(ADCC活性)
ADCC活性はクロムリリース法による特異的クロム遊離率にて評価される。(2)で調製された標的細胞が培地で洗浄され、各濃度(0、0.004、0.04、0.4、4、40 μg/ml)に調製されたH0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体の各抗体100μlがそれぞれ添加された。当該プレートは、室温にて15分間反応された後に抗体溶液が除去された。次に、各ウエル中に継代用培地が各100μl添加された当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で1時間インキュベートされた。各ウエル中に(1)で調製されたヒトPBMC溶液各100μl(5x105 細胞/ウェル)が加えられた当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で4時間静置された後に、遠心分離操作された。当該プレートの各ウエル中の100μlの培養上清の放射活性がガンマカウンターを用いて測定された。下式:
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
に基づいて特異的クロム遊離率が求められた。
上式において、Aは各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。また、Bは標的細胞に100μlの2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク)および50μlの10% FBS/D-MEM培地を添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に10% FBS/D-MEM培地を150 μl添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施され、各被験抗体のADCC活性が反映される前記試験における特異的クロム遊離率(%)の平均値および標準偏差が算出された。
【0192】
(4)各被験抗体のADCC活性の評価
各被験抗体を介してヒトPBMCが発揮するADCC活性が評価された結果、全ての被験抗体がADCC活性を有することが認められた。その結果が図13に示されている。各濃度での各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率は対照群のH0L0抗体と比較して有意な差が認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、そのpIが改変された各被験抗体のADCC活性には差がないことが示された。
【0193】
[実施例13]定常領域のpI値を低下させる改変体の作製と評価
(1)定常領域のpI値低下のための改変箇所の選定
配列番号31に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、EUナンバリングに基づく446番目のGlyおよび447番目のLysが欠損したIgG1定常領域をIgG1ΔGK(配列番号32)が提供される。これらのアミノ酸を両方欠損させることにより、初めて抗体の重鎖定常末端に由来するヘテロジェニティーを低減することが可能である。
【0194】
IgG1ΔGKの一部のアミノ酸残基をそのEUナンバリングで対応するヒトIgG4定常領域配列のアミノ酸残基に置換することによって、定常領域のpI値を下げる改変が行われた。具体的には、IgG1ΔGKのEUナンバーリングに基づく268番目のヒスチジン(H)がIgG4の配列であるグルタミン(Q)へ、274番目のリジン(K)がグルタミン(Q)へ、355番アルギニン(R)がグルタミン(Q)へ、356番アスパラギン酸(D)がグルタミン酸(E)へ、358番ロイシン(L)がメチオニン(M)へ、419番グルタミン(Q)がグルタミン酸(E)へ置換された。これらの変異はいずれもT-cellエピトープになりうる9〜12アミノ酸としてはヒト定常領域に由来する配列のみを用いていることから免疫原性リスクが低いと考えられる。これら6箇所の改変がIgG1ΔGKに導入されたM85(配列番号:33)が作製された。
【0195】
この定常領域M85と可変領域pH7及びH0と組み合わせることにより)pH7M85(配列番号:34)及びH0M85(配列番号:35)が作製された。H鎖としてH0M85またはpH7M85、L鎖としてL0またはpL16を用いたH0M85L0抗体およびpH7M85pL16抗体が作製された。また、実施例1及び実施例8で作製した定常領域がともにIgG1であるH0L0抗体及びpH7pL16抗体が作製された。H0M85L0,pH7M85pL16,H0L0,pH7pL16の発現と精製はFTP-KO株、又はHEK293細胞を用いて実施され、実施例1又は9に記載した方法で調製された。
【0196】
(2)定常領域pI改変抗体のpI値の測定
H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体、pH7M85pL16抗体のpI値が実施例1に準じた方法により、PhastGel IEF 4-6.5(GE Healthcase)を用いて実施例1と同等の泳動条件により測定された。H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体及びpH7M85pL16抗体のpI値はそれぞれ、8.85、8.16、6.52及び5.78と測定された。定常領域の改変が、抗体の免疫原性に影響することなく、更なるそのpI値の低下に寄与することが明らかとなった。
【0197】
(3)競合ELISAによる定常領域pI改変抗体の結合活性の評価
各定常領域pI改変抗体の抗原に対する結合活性が実施例1に記載された方法により測定された(図14)。H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体、pH7M85pL16抗体のグリピカン3に対する結合活性はほぼ同等であることが示された。
【0198】
[実施例14]定常領域pI改変抗体のヒト末梢単核球をエフェクター細胞として用いたADCC活性
実施例12に記載された方法に準じた方法によって、pH7pL16抗体とpH7M85pL16抗体によるADCC活性が測定された。その結果が図15に示されている。各濃度における各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率の被験抗体間での有意な差は認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、pH7pL16抗体とその定常領域が改変されたpH7M85pL16抗体のADCC活性には差がないことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿中動態が制御されたグリピカン3抗体の製造方法であって、
(a)グリピカン3抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該グリピカン3抗体は、抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物からグリピカン3抗体を回収する、
の各段階を含む方法。
【請求項2】
前記血漿中動態の制御が、血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランスのいずれかのパラメーターの伸張または減縮である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記グリピカン3抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基が、グリピカン3抗体中のFcRn結合領域以外の領域にある請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記FcRn結合領域が、Fc領域からなる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記FcRn結合領域が、Kabat表記におけるEU番号250、253、310、311、314、428、435、436のアミノ酸残基を含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
グリピカン3抗体がIgG抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
その電荷が改変されるアミノ酸残基が、重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である請求項1から7に記載の方法。
【請求項9】
前記グリピカン3抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むグリピカン3抗体であって、アミノ酸残基の電荷の改変が、抗体のCDRまたはFR中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基から、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への置換であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アミノ酸残基の電荷の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)43番目のアミノ酸残基であるQのKへの置換
(b)52番目のアミノ酸残基であるDのNへの置換、
(c)107番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(d)17番目のアミノ酸残基であるEのQへの置換、
(e)27番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
(f)105番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アミノ酸残基の電荷の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)62番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(d)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(e)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(f)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(g)24番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(h)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(i)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(j)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
(k)112番目のアミノ酸残基であるKのEへの置換、
であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
さらに、以下の改変;
配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
を含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記グリピカン3抗体が、そのFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である請求項9から12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13に記載の方法により製造されるグリピカン3抗体。
【請求項15】
血漿中動態が制御された抗体の製造方法であって、
(a)抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該抗体は、抗体のFcRn結合領域以外の定常領域にあるアミノ酸残基の電荷が改変されるように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収する、
の各段階を含む方法。
【請求項16】
前記血漿中動態の制御が、血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランスのいずれかのパラメーターの伸張または減縮である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による請求項15に記載の方法。
【請求項18】
抗体がIgG抗体である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗体がIgG1である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アミノ酸残基の電荷の改変が、IgG1抗体の1又はそれ以上のアミノ酸残基の、IgG4抗体の対応する1又はそれ以上のアミノ酸残基への置換であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記FcRn結合領域が、Kabat表記におけるEU番号250、253、310、311、314、428、435、436のアミノ酸残基を含む請求項15から20に記載の方法。
【請求項22】
前記アミノ酸残基の電荷の改変が、配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
抗体がグリピカン3抗体である請求項15から22に記載の方法。
【請求項24】
ヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)及びヒト定常領域を含むグリピカン3抗体の安定化方法であって、
(a)グリピカン3抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該グリピカン3抗体は、少なくとも一つのアミノ酸残基の改変によりTm値の増大をもたらすように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収する、
の各段階を含む方法。
【請求項25】
アミノ酸残基が、その重鎖または軽鎖のFR1領域および/またはFR2領域に存在することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
重鎖のFR2領域のアミノ酸残基をVH4サブクラスのFR2領域のアミノ酸残基に置換することを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
軽鎖のFR2領域のアミノ酸残基をVK3サブクラスのFR2領域のアミノ酸残基に置換することを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記アミノ酸残基の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つまたはそれ以上の置換;
(a)37番目のアミノ酸残基であるVのIへの置換、
(b)40番目のアミノ酸残基であるAのPへの置換、
(c)48番目のアミノ酸残基であるMのIへの置換、
(d)51番目のアミノ酸残基であるLのIへの置換、
および/又は
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域を構成するアミノ酸残基に対して以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(e)42番目のアミノ酸残基であるLのQへの置換、
(f)48番目のアミノ酸残基であるSのAへの置換、
(g)50番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
であることを特徴とする請求項24から27に記載の方法。
【請求項29】
細胞傷害活性が制御された抗体の製造方法であって;
(a)抗体をコードする核酸を保持する宿主細胞を、当該核酸が発現する条件下で培養し、ここで、当該抗体は、細胞傷害活性を有する抗体の表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように変更されたアミノ酸配列を有しており、そして
(b)当該宿主細胞の培養物から抗体を回収する、
の各段階を含む方法。
【請求項30】
アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体の表面に露出され得るアミノ酸残基が、抗体中のFcRn結合領域以外の領域にある請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記FcRn結合領域が、Fc領域からなる請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記FcRn結合領域が、Kabat表記におけるEU番号250、253、310、311、314、428、435、436のアミノ酸残基を含む請求項31に記載の方法。
【請求項34】
抗体がIgG抗体である請求項29に記載の方法。
【請求項35】
その電荷が改変されるアミノ酸残基が、定常領域のアミノ酸残基である請求項29から34に記載の方法。
【請求項36】
その電荷が改変されるアミノ酸残基が、重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である請求項29から34に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含む抗体であり、アミノ酸残基の電荷の改変が、抗体のCDRまたはFR中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への置換であることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記アミノ酸残基の電荷の改変が、
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)62番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(d)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(e)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(f)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(g)24番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(h)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(i)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(j)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
(k)112番目のアミノ酸残基であるKのEへの置換、
であることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
さらに、以下の改変;
配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
を含むことを特徴とする請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体がヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含む抗体であり、アミノ酸残基の電荷の改変が、抗体の定常領域中の抗体表面に露出され得る少なくとも一つのアミノ酸残基の、当該アミノ酸残基と異なる電荷を有するアミノ酸残基への置換であることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項41】
置換が、配列番号31で表わされる重鎖定常領域のうち以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
であることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である請求項37から41に記載の方法。
【請求項43】
請求項29から請求項42に記載の方法により製造される抗体。
【請求項44】
抗体がグリピカン3抗体である請求項43に記載の抗体。
【請求項45】
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)19番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(b)43番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(c)62番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(d)63番目のアミノ酸残基であるKのSへの置換、
(e)65番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(f)66番目のアミノ酸残基であるGのDへの置換、
が施された重鎖可変領域、および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(g)24番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(h)27番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
(i)79番目のアミノ酸残基であるKのTへの置換、
(j)82番目のアミノ酸残基であるRのSへの置換、
(k)112番目のアミノ酸残基であるKのEへの置換、
が施された軽鎖可変領域、
を含む抗体。
【請求項46】
配列番号3で表される重鎖可変領域および配列番号9で表される軽鎖可変領域を含む請求項45に記載の抗体。
【請求項47】
配列番号5で表される重鎖可変領域および配列番号11で表される軽鎖可変領域を含む請求項45に記載の抗体。
【請求項48】
配列番号27で表される重鎖可変領域および配列番号28で表される軽鎖可変領域を含む請求項45に記載の抗体。
【請求項49】
配列番号27で表される重鎖可変領域および配列番号29で表される軽鎖可変領域を含む請求項45に記載の抗体。
【請求項50】
ヒト抗体の定常領域を有する請求項45から請求項49に記載の抗体。
【請求項51】
前記定常領域が配列番号32又は配列番号33で表わされる配列を含む請求項50に記載の抗体。
【請求項52】
(1)配列番号1で表される重鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)43番目のアミノ酸残基であるQのKへの置換、
(b)52番目のアミノ酸残基であるDのNへの置換、
(c)107番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
が施された重鎖可変領域、および/又は、
(2)配列番号7で表される軽鎖可変領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(d)17番目のアミノ酸残基であるEのQへの置換、
(e)27番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
(f)105番目のアミノ酸残基であるQのRへの置換、
が施された軽鎖可変領域、
を含む抗体。
【請求項53】
配列番号4で表される重鎖可変領域および配列番号10で表される軽鎖可変領域を含む請求項52に記載の抗体。
【請求項54】
配列番号6で表される重鎖可変領域および配列番号12で表される軽鎖可変領域を含む請求項52に記載の抗体。
【請求項55】
ヒト抗体の定常領域を有する請求項52から請求項54に記載の抗体。
【請求項56】
配列番号31で表わされる重鎖定常領域のアミノ酸配列において以下のいずれか一つ又はそれ以上の置換;
(a)151番目のアミノ酸残基であるHのQへの置換、
(b)157番目のアミノ酸残基であるKのQへの置換、
(c)238番目のアミノ酸残基であるRのQへの置換、
(d)239番目のアミノ酸残基であるDのEへの置換、
(e)241番目のアミノ酸残基であるLのMへの置換、
(f)302番目のアミノ酸残基であるQのEへの置換、
を有する抗体。
【請求項57】
配列番号33で表わされる重鎖定常領域を含む抗体。
【請求項58】
前記抗体のFc領域に結合したフコース含量が低下した抗体である請求項45から57に記載の抗体。
【請求項59】
請求項45から58に記載の抗体、および、医薬的に許容される担体を含む組成物。
【請求項60】
請求項45から58に記載の抗体を有効成分として含む癌治療剤。
【請求項61】
癌が肝癌である請求項60に記載の癌治療剤。
【請求項62】
請求項45から請求項58に記載の抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸。
【請求項63】
請求項62に記載の核酸を保持する宿主細胞。
【請求項64】
宿主細胞が、フコーストランスポーター欠損動物細胞、フコシルトランスフェラーゼ欠失動物細胞、又は、複合分岐糖鎖修飾改変動物細胞である請求項63に記載の宿主細胞。
【請求項65】
請求項63又は64に記載の宿主細胞を培養する工程、および細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む抗体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−200768(P2010−200768A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132942(P2010−132942)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【分割の表示】特願2009−534190(P2009−534190)の分割
【原出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】