説明

血漿分離膜

【課題】特に血漿分離の適用に有用な、新規の中空繊維膜および係る膜を生産する方法を提供する。
【解決手段】非対称性の中空繊維膜を製造するための方法であって、ポリマー溶液を中空繊維スピニングノズルの外側環スリットをとおして押出すことと、同時に、中心流体を中空繊維スピニングノズルの内側孔をとおして沈澱バスに押出すことと、を含み、前記ポリマー溶液が10〜26wt−%のポリスルホン、ポリエーテルスルホンまたはポリアリルエーテルスルホン、8〜15wt−%のポリビニルピロリドン、55〜75wt−%のN−アルキル−2−ピロリドンおよび3〜9wt−%の水を含有し、前記中心流体が70〜90wt−%のN−アルキル−2−ピロリドンおよび10〜30wt−%の水を含有し、前記沈澱バスが0〜20wt−%のN−アルキル−2−ピロリドンおよび80〜100wt−%の水を含有する方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、非対称性の中空繊維膜を製造するための方法に関する(他の適用のなかでも特に血漿分離に適切であるが、特定の技術的な適用にも効果的に使用できる)。さらに本発明は、本発明の方法によって製造できる係る膜に及び血漿分離、血漿濾過、ミクロ濾過、血漿処理または細胞濾過の適用に対する係る膜の使用に関する。
【0002】
血漿分離またはアフェレーシスは、ドナーまたは患者の血液が血漿(即ち、血液中の細胞のない成分)および血液細胞に分離される医療技術である。血漿分離は、幾つかの理由で実施されえる。
【0003】
治療的な血漿分離交換法(plasmapheresis)において、患者の血液の分離血漿は、廃棄され、代替の溶液で又はドナーの血漿で置換され、患者に再注入される。このアプローチは、幾つかの疾患および障害の治療に有用である。例えば、免疫学的な疾患において、血漿分離交換法は、抗体, 抗原, 免疫複合体または免疫グロブリンの交換に有用である。非免疫学的な疾患において、血漿分離交換法によって、代謝物、デグラデーション産物、同様に、内因性および外因性のトキシンを枯渇させることが許容される。
【0004】
治療的な血漿分離交換法(血漿分画)のバリアントにおいて、患者の血液の分離血漿は、更なる高分子および低分子の血漿画分への分離の第二の段階をうける。高分子の画分は廃棄され、血液の血漿および細胞の成分の低分子画分は患者に再注入される。
【0005】
特定の適用(血漿供与と称される)において、健康なドナーから分離した血液血漿は、治療的な血漿交換法に又は薬学的な目的での血漿成分の単離に使用される。
【0006】
全血の血漿および細胞の成分への分離は、遠心分離で又は血液を血漿分離膜を通すことで達成しえる。血漿分離交換法の開発中に、非連続的な遠心分離が最初に使用され、これは次に連続的な遠心分離システムに置き換えられた(70sの最初)。
【0007】
遠心分離技術は、速く費用効果が高いとの利点を有している。しかしながら、それらは、しばしば分離血漿において残存している細胞の不純物または細胞片から影響をうける。70sの終わりに、最初の膜システムが血漿分離交換法に導入されて遠心分離システムの不利な点が克服されている。
【0008】
関連はしているが、血漿分離膜の要求性は、透析膜の要求性とはまったく別である。血漿分離は濾過による分離の効果を使用し、他方で透析はむしろ浸透および拡散を使用する。
【0009】
幾つかの血漿分離膜の必須な設計基準は、壁ずり速度、膜間圧力の低下および血漿濾過速度(plasma filtration rate)である。
【0010】
中空繊維膜システムにおける壁ずり速度は、次の式で計算される:
【数1】

【0011】
式中のNは、血流QBが分布する内側半径 rを有している中空繊維の数である。血漿部分(plasma portion)の減少によって、血流は中空繊維の長さを横切り変化する。この事項を、壁ずり速度の計算に考慮しなければならない。
【0012】
膜間圧力(TMP)は、膜の二つの側の間の圧力の差として規定されるもう一つの重要なパラメータである。膜間圧力は、膜分離の推進力である。通常、膜間圧力における増加によって、膜を横切る流動性(flux)が増加する。圧縮性フィルターケーキが膜の表面に存在する場合、この一般化の例外が生じる。膜間圧力は、次の式で計算される:
【数2】

【0013】
式中のPBiは血液の入口での圧力であり、PBOは血液の出口での圧力であり、PFは膜の濾過側(血漿側)での圧力である。
【0014】
ふるい係数は、どの程度の化合物が濾過プロセスにより排除されるかを決定する。ふるい係数は、濾過物における化合物の濃度と血液中のこの化合物の濃度との比として規定される。「0」のふるい係数は、化合物が膜を通過できないことを意味する。「1」のふるい係数は、100%の化合物が膜を通過できることを意味する。血漿分離膜の設計に関して、全スペクトルの血漿タンパク質が濾過膜を通過でき、他方で細胞の成分は完全に保持されることが望まれる。
【0015】
血漿分離交換法のための血漿分離膜の要求性は、次の特性にまとめることができる:
・ 全スペクトルの血漿タンパク質およびリポタンパク質に対する高い透過性または高いふるい係数;
・ 高い濾過性能を達成するための膜の高い表面空隙率および全空隙率;
・ 親水性、自発的に湿潤性の膜構造;
・ 長期の安定な濾過のための低い汚れ特性;
・ 低いタンパク質吸着;
・ 血液に接触する滑らかな表面;
・ 血液の処理の間の溶血が低い又は無い傾向;
・ 全処理期間での定常的なふるい特性および濾過挙動;
・ 高い生体適合性, 無補体活性化、低い血栓形成性;
・ 機械的な安定性;
・ 蒸気、ガンマ照射および/またはETOでの滅菌適性;
・ 低量の抽出物。
【発明の概要】
【0016】
本発明の課題は、特に前述の特性に関し、従来技術の膜に対して改善された特性を有している特に血漿分離の適用に有用な、新規の中空繊維膜および係る膜を生産する方法を提供することである。
【0017】
この課題および他の課題は、本発明の方法で取得可能な又は取得された膜によって解決される。
【0018】
従って、本発明によって以下が提供される
非対称性の中空繊維膜を製造するための方法であって、ポリマー溶液を中空繊維スピニングノズルの外側環スリットを通して押出すことと、同時に、中心流体を中空繊維スピニングノズルの内側孔を通して沈澱バスに押出すことと、を含み、前記ポリマー溶液が10〜26wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)、8〜15wt−%のポリビニルピロリドン(PVP)、55〜75wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および3〜9wt−%の水を含有し、前記中心流体が70〜90wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および10〜30wt−%の水を含有し、および前記沈澱バスが0〜20wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および80〜100wt−%の水を含有する方法。
【0019】
幾つかの従来技術の膜が(本発明によって生産された膜と比較して)一つ又は幾つかの特性に関して等しい又は類似する特性を示しえるとしても、本発明により生産された非対称性の中空繊維膜が分離膜(特に、血漿分離交換法のための血漿分離膜)に望まれる特性の組み合わせにおいて優れている。
【0020】
本発明により生産された非対称性の中空繊維膜は、高いふるい係数が反映された全スペクトルの血漿タンパク質およびリポタンパク質に高い透過性を呈する。好ましくは、全ての血漿タンパク質に関して本発明の非対称性の中空繊維膜のふるい係数は、>0,90であり、より好ましくは>0,95である。
【0021】
本発明により生産された非対称性の中空繊維膜は、高い濾過性能を達成する膜の高い表面空隙率および全空隙率を呈する。さらに、長期の安定な濾過のため、親水性,自発的に湿潤性,低い汚れ特性,および低い蛋白吸着性を有する。本発明により生産された非対称性の中空繊維膜は、さらに血液の処理の間の溶血を避ける又は最小化する血液に接触する滑らかな表面を有する。その膜は、全処理期間で定常的なふるい特性および濾過挙動を示す。さらに、高い生体適合性を有し、補体の活性化がなく、低い血栓形成性を呈する。膜の機械的な安定性は、優れており、蒸気、ガンマ照射および/またはETOで滅菌可能である。
【0022】
本発明の方法において、ポリマー溶液が10〜26wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)を含有することが必要である〔ポリアリルエーテルスルホン(PAES)の使用が最も好適〕。ポリマー溶液は、さらに8〜15wt−%のポリビニルピロリドン(PVP)、55〜75wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および3〜9wt−%の水を含有する。
【0023】
ポリマー溶液に10wt−%未満のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)を用いることは、本発明による膜と比較して、膜が非常に脆弱になる。同時に、望まれる膜特性の組み合わせは、もはや達成できない。そして、26wt−%を超えるポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)を用いることは、ポリマー溶液の高すぎる粘性が原因で、ポリマー溶液を調製すること、および中空繊維膜のスピニングを行うことが困難となる。
【0024】
ポリマー溶液に8wt−%未満のポリビニルピロリドン(PVP)を用いることは、必要とされる親水性(自発的に湿潤性の形態)および所望の膜の全体構造は生じない。そして、15wt−%を超えるポリビニルピロリドン(PVP)を用いることは、極度に高い粘性のポリマー溶液を生じ、中空繊維膜のスピニングが複雑になる。同時に、抽出物の量は、非常に増加する。これに加えて、非常に高い量のPVPによって、機械的な特性はより低くなる。
【0025】
ポリマー溶液に55wt−%未満のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を用いることは、極度に高い溶液粘性により、ポリマー溶液を膜に形成する処理が困難となる。また、75wt−%を超えるN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を用いることは、低い溶液粘性となる。かかる溶液に存在するポリマーは、血漿分離の目的に理想的な微孔性膜を提供しない。
【0026】
本発明の方法の一態様において、ポリマー溶液は、15〜21wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)、10〜12,5wt−% ポリビニルピロリドン(PVP)および60〜70wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を含有する。
【0027】
本発明の方法の別の態様において、ポリマー溶液は、17〜19wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)、10,75〜11,75wt−% ポリビニルピロリドン(PVP)および63〜66,5wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を含有する。
【0028】
本発明の方法の別の態様において、ポリマー溶液は、4〜8wt−%の水を含有する。本発明の方法のなお別の態様において、ポリマー溶液は、5〜7wt−%の水を含有する。本発明の方法のなお別の態様において、ポリマー溶液は、約6wt−%の水を含有する。
【0029】
本発明の方法において、中心流体が70〜90wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および 10〜30wt−%の水を含有することが必要とされる。
【0030】
中心流体に70wt−%未満のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を用いることは、膜が(i)非常に密接する(即ち、膜の選択性の孔サイズが非常に小さいので、大多数の血漿タンパク質が膜構造を通過することを許容しない)、または(ii)溶血の増加(容認できない)を生じる高い表面粗さをとる。90wt−%を超えるN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を用いることは、膜が粗い表面となり、血液処理の間の溶血の原因となる。
【0031】
本発明の方法の一態様において、中心流体が73〜87wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および23〜27wt−%の水を含有する。
【0032】
本発明の方法の別の態様において、中心流体が75〜85wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および15〜25wt−%の水を含有する。
【0033】
本発明の方法において、沈澱バスが0〜20wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および80〜100wt−%の水を含有することが必要とされる。沈澱バスに20wt−%を超えるN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を用いることは、膜が膜形成の間に不安定となる。
【0034】
本発明の方法の一態様において、沈澱バスが0〜10wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および90〜100wt−%の水を含有する。
【0035】
本発明の方法の別の態様において、沈澱バスが0〜5wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および95〜100wt−%の水を含有する。
【0036】
本発明の方法の別の態様において、沈澱バスは、純水からなる。この関連において、「純水からなる」という表現は、沈澱バスが、少なくともスピニング作業の開始時にNAPなしで純水からなることを意味し、さらに沈澱バスに導入される任意の新鮮な液体も純水からなることを意味する。しかしながら、ポリマー溶液からのスピニング作業の間に、中心流体NAPは、沈澱バスに導入され、沈澱バスに溶解され、そこにある程度残存することも明らかである。沈澱バスのサイズおよびリフレッシュ速度(即ち、新鮮な純水をバスに導入する速度)および操作の時間に応じて、NAP濃度は沈澱バスにおいて10wt−%にまで上昇しえる。
【0037】
本発明の方法の別の態様において、スピニングノズルから押出されるポリマー溶液は、蒸気および湿った空気が混合された雰囲気に暴露される。スピニングノズルから押出されるポリマー溶液を覆っている蒸気および湿った空気の混合物の雰囲気〔本明細書中で水蒸気ともいわれる〕は、中空繊維の外側から膜(ポリマーの沈澱物)を安定化し、同時に膜の外側に非常に開放された構造を提供する。中空繊維膜の外側の表面の係る構造は、水を蒸気および湿った空気の混合物の雰囲気からポリマー溶液層の最初の〜15μmへと、内側からの沈澱がこの層に達する直前に、浸透させることによって、中空繊維膜壁の外側部分でのみ、スピニングポリマー溶液組成物を修飾することによって達成される。浸透は、0,5秒未満で生じる。その沈澱条件によって、所望の膜構造の達成が許容される。
【0038】
技術的に、スピニングノズルを離れる繊維を覆う水蒸気の雰囲気を提供するための次の三つの選択肢がある:
(A) 熱いウォーターバスによって産生される水蒸気を用い、沈澱バスの表面の僅か数センチうえにスピニングダイを有させる、
(B) スピニングシャフト(即ち、スピニングダイを離れる繊維を囲む小さい金属またはプラスチックのハウジング、このハウジングはそれぞれスピニングダイまたはスピニングヘッドから沈澱バスの表面に近距離までとどき、スピニングダイから沈澱バスに移動する繊維の周囲で特定の体積に部分的に濃縮された蒸気をえる)を用いる、或いは
(C) 外部の供給源から供給される蒸気を用いる〔任意で、選択肢(B)に記載されるスピニングシャフトと組み合わせる〕。
【0039】
従って、本発明の方法の別の態様において、蒸気および/または湿った空気は、外部の供給源から提供され、スピニングノズルから押出されるポリマー溶液の周囲の雰囲気に導入される。
【0040】
さらに、本発明の方法の別の態様において、スピニングノズルまたはスピニングヘッドから伸展し、沈澱バスの表面上の特定の距離で終わる(開口部)スピニングシャフトが提供される(ここで、スピニングシャフトは、その長さに沿って、スピニングノズルから押出され、沈澱バスへと移動するポリマー溶液を囲む)。
【0041】
本発明の方法の別の態様において、スピニングシャフトは、円柱形または矩形を有する。
【0042】
本発明の方法の別の態様において、スピニングシャフトは、1〜20cm、好ましくは3〜13cm、最も好ましくは5〜7cmの長さを有する。
【0043】
本発明の方法の別の態様において、蒸気および湿った空気の混合物の温度は、少なくとも15℃、好ましくは少なくとも30℃、および多くとも75℃、好ましくは多くとも60℃である。
【0044】
本発明の方法の別の態様において、蒸気および湿った空気の混合物の雰囲気の湿度は、60および100%の間である。
【0045】
本発明の方法の別の態様において、蒸気および湿った空気の混合物の雰囲気は、0,5および5%の間の含有量で溶媒に含まれる。かかる溶媒の雰囲気における含有量は、繊維形成の間に、沈澱バスにおける溶媒の蒸発から又はポリマー溶液における溶媒の蒸発から提供されてもよい。
【0046】
本発明の方法において、ポリマー溶液における、中心流体における及び沈澱バスにおける(存在する場合)N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)は、同じか又は異なっていてもよい。しかしながら、最も好ましくは三つ全ての溶液で同じである。
【0047】
好ましくは、N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N−オクチル−2−ピロリドン(NOP)又はその混合物からなる群から選択され、それでN−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、最も好適である。
【0048】
本発明の方法の別の態様において、ポリマー溶液中のポリビニルピロリドン(PVP)は、少なくとも二つのホモポリマーのポリビニルピロリドンのブレンドからなる。このうち一つのホモポリマーのポリビニルピロリドン(=低分子量PVP)は約10.000g/モル〜100.000g/モル、好ましくは約30.000g/モル〜60.000g/モルの平均相対分子量を有し、もう一つのホモポリマーのポリビニルピロリドン(=高分子量PVP)は約500.000g/モル〜2000.000g/モル、好ましくは約800.000g/モル〜2.000.000g/モルの平均相対分子量を有する。ポリマー溶液におけるポリビニルピロリドン(PVP)が、前述のタイプの二つのみのポリビニルピロリドンのホモポリマーのブレンドからなることがなおより好適である。
【0049】
異なる平均相対分子量の二つのポリビニルピロリドンのホモポリマーを用いることによって、所望の親水性、構造および形態の膜が生じる。理論に縛られることなく、生産処理の間に、高分子量のPVPが中空繊維膜に導入され、他方で大多数の低分子量のPVPが洗浄除去されることが想定された。
【0050】
本発明の一態様において、ポリマー溶液の全重量に基づいて、ポリマー溶液における低分子量のPVPは5.7〜11.7wt−%の量で存在し、高分子量のPVPは2.3〜4.3wt−%の量で存在する。別の態様において、ポリマー溶液の全重量に基づいて、低分子量のPVPは7.1〜8.9wt−%の量で存在し、高分子量のPVPは2.9〜3.6wt−%の量で存在する。さらなる態様において、ポリマー溶液の全重量に基づいて、低分子量のPVPは約3,25wt−%の量で存在し、高分子量のPVPは約8,0wt−%の量で存在する。しかしながら、PVPの総量は、上記に示す範囲内であるべきである。高分子量PVPの濃度が非常に低い場合、膜の親水性の度合は十分ではないかもしれない。高分子量PVPの濃度が非常に高い場合、ポリマー溶液の粘性は非常に高く重大な処理上の問題の原因となるかもしれない。低分子量PVPの濃度が非常に低い場合、膜構造を開放する代わりにセル構造の閉鎖に至る。低分子量PVPの濃度が非常に高い場合、徹底的な洗浄で低分子量のPVPを除去する必要があるだろう。低分子量のPVPの非常に多くが膜産物に残存する場合、膜は血液処理に使用できないだろう(というのも、抽出可能なPVPが血液または血漿に混入するだろうからである)。
【0051】
本発明の別の態様において、沈澱バス(PB)は、30〜100℃、好ましくは40〜90℃、最も好ましくは50〜80℃の範囲の温度を有する。この態様の沈澱バスの温度が非常に低い場合、膜の沈澱は非常に緩徐であろう(これによって外側に非常に高密度な構造を生じえる)。この態様の沈澱バスの温度が非常に高い場合、繊維は沈澱処理の間に不安定になる。
【0052】
本発明の方法の別の態様において、中空繊維スピニングノズル〔ダイ; スピナレット(spinneret)〕は、10〜90℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜60℃の範囲、最も好ましくは約50℃の温度に保持される。中空繊維スピニングノズルの温度が非常に低い場合、スピニングダイの圧力低下は増加する。ダイ温度がより低い場合、圧力低下は指数関数的に増加する。高度の圧力低下は不安定なスピニング状態を生じる〔即ち、粗い外側表面、寸法のバリエーションの増加など〕。中空繊維スピニングノズルの温度が非常に高い場合、ダイからのポリマー流出の速度は非常に速いだろう。これによって、不安定なスピニング状態を生じるだろう。
【0053】
本発明の方法の別の態様において、中空繊維スピニングノズル (ダイ; スピナレット)の放出出口と沈澱バスの表面との間の距離(間隙)は、0.5〜20cm、好ましくは1〜15cm、より好ましくは5〜10cm、最も好ましくは7〜9cmの範囲である。中空繊維スピニングノズルの放出出口と沈澱バスの表面との間の距離が非常に低い場合、所望の産物特性は達成されない(例えば、開放した滑らかな外側表面と組み合わせた膜壁の開放構造)。中空繊維スピニングノズルの放出出口と沈澱バスの表面との間の距離が高すぎる場合、スピニングは困難または不可能となる。前記距離が所与の限界を超えて増加する場合、繊維の安定性は提供されない。
【0054】
本発明の方法の別の態様において、中空繊維膜のスピニング速度は、1〜40m/min、好ましくは3〜40m/min、より好ましくは5〜20m/minの範囲、最も好ましくは約13m/minである。中空繊維膜のスピニング速度が非常に低い場合、スピニング状態は不安定となり、所望の膜の寸法が達成できない。中空繊維膜のスピニング速度が非常に高い場合、蒸気または湿った空気の環境におかれた繊維に関する滞留時間が減少する(これによって横断面に極度に高密度な層が生じる)。これらの高密度の層によって、全ての血漿タンパク質に対して十分に高いふるい係数は許容されない。
【0055】
本発明の方法の別の態様において、ポリマー溶液は、30.000〜100.000mPa×s(センチポイズ)の粘性を有する(室温で測定)。粘性が30.000mPa×s(センチポイズ)より低い場合、沈澱バスにおける繊維の安定性は提供されない(これによって、スピニング処理の間に繊維の破壊を生じる)。粘性が100.000mPa×s(センチポイズ)より高い場合、溶液の取扱い(即ち、溶液調製および溶液のポンピング)が困難になる、またスピニングダイにおける圧力低下が非常に高くなる。
【0056】
また、本発明は、本発明の方法によって取得可能な又は取得される中空繊維膜を包含する。
【0057】
本発明の一態様において、中空繊維膜は、>0.90(好ましくは>0.95)の総血漿タンパク質ふるい係数で特徴づけられる。血漿分離膜として使用される場合、総血漿タンパク質に関する高いふるい係数が膜に必須である。血漿分離において、分離血漿画分中の総血漿タンパク質を有すること、他方で血液細胞および細胞片のような、より大きな血液の血球成分が膜に保持されることが望まれる。
【0058】
血漿分離の適用に関して、中空繊維膜が100〜500μm、好ましくは150〜450μm、より好ましくは200〜400μmの範囲の内径を有することが好適である。低い内径は、不利である。というのも、非常に高い壁ずり速度を生じ、繊維において又は全濾過モジュールにおいて圧力低下が増えるからである。他方で、内径が非常に高い場合、低い膜間圧力(TMP)により溶血の危険が増加する非常に低いずり速度を生じる。
【0059】
さらに、血漿分離の適用に関して、中空繊維膜が20〜150μm、好ましくは30〜125μm、より好ましくは40 〜100μmの範囲の壁厚を有することが好適である。低い壁厚は、生産の間および血漿分離モジュール自身を使用する間の繊維の機械的な特性が減少するため不利である。高い壁厚は、相反転処理を行うために時間インターバルの増加が要求されるという理由で不利であり、不安定な処理状態および不安定な膜を結果としてもたらす。
【0060】
さらに、血漿分離の適用に関して、中空繊維膜が0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.7μm、より好ましくは0.1〜0.4μmの範囲の膜の選択性の分離層の平均孔径を有することが好適である。選択性の分離層の低い平均孔径は、多孔性の構造を通した総血漿タンパク質の不完全な通過のために不利である。
【0061】
本発明の別の態様において、中空繊維膜は、膜の内壁表面(管腔表面)と膜の外壁表面との間の特定の距離で孔サイズが、最小であり、それぞれ内壁表面および外壁表面に向かい増加する孔サイズ分布で特徴づけられる。
【0062】
微孔性膜(特に、血漿分離膜)を製造するための本発明の方法は、拡散誘導性相分離(DIPS)処理である。係る血漿分離膜の選択性の孔の平均直径は、0.1〜0.4μmの範囲である。「選択性」の孔サイズ領域に隣接する多孔性の構造は、数μmまでのより大きな孔を有する。その構造の選択性の層に隣り合うそのようなより大きな孔を達成するために、相分離処理を緩徐に実施して最初に約0.1μm以上の孔サイズの生産を許容するか又は膜壁の片側で蒸気を用いる。緩徐な相分離処理を許容させるために、ポリマーに対する溶媒、我々のケースにおいて、NAP(N−アルキル−2−ピロリドン)、好ましくはNMP(N−メチル−2−ピロリドン)、の量は、中心流体において十分に高くなければならない。
【0063】
本発明の主要な発見の一つは、中心流体におけるNAPの量の増加によって内層での孔サイズの増加が導かれることである。さらに、NAPの量を中心流体において例えば60wt−%又はそれ未満から約68wt−%まで増加させることによって、中空繊維膜の内側表面の粗さの増加が導かれることが見出された。驚くことに、中心流体中のNAPの量を増加させることによって、粗さの減少が再び導かれる。それから、約90wt−%の特定の濃度のNAPを超えると、粗さが再び極度に増加する。これは通常当業者が予測しない現象である。従って、中心流体において70〜90wt−%の間のNAPの狭い濃度範囲領域において、滑らかな表面が達成できる(図1を参照されたい)。
【0064】
孔サイズおよび表面粗さは、本発明の分離膜の二つの必須のパラメータである。十分に大きい孔サイズは、必要とされる血漿タンパク質通過(高いふるい係数)の達成に重要である。また、孔サイズ分布の幅は、全ての血漿タンパク質をこの膜に通過させる主要なものである。しかしながら、より大きな孔サイズを達成するために中心流体におけるNAP濃度を増加させることによって、相分離処理の遅延(沈澱が遅れると膜構造形成が遅れる)が導かれる(これによって膜の安定性の減少が生じる)。さらに、内膜表面の粗さは、溶血を最小化する又は回避するために可能な限り低く維持すべきである。本発明の試みは、次の事項の調整を許容する生産領域を発見することであった、
(i) 全ての血漿タンパク質が通過することを許容させる形態を発生させるための中心流体における十分に高濃度のNAP、
(ii) 溶血がないか又は減少する許容される粗さ、
(iii) 外側に及び横断面に十分な開放構造をえるための沈澱バスの組成および沈澱バスのうえの蒸気または湿った空気雰囲気、
(iv) 安定なスピニング状態。
【0065】
本発明の発明者は、所望の特性プロフィールを充足する血漿分離膜の生産を許容する処理経路を同定した。
【0066】
本発明による血漿分離膜を生産するための好適な処理条件の例は、表1に提示される。ポリマー溶液はスピニングダイを通してポンプされ、液体の中空繊維が形成される。中心流体におけるNMP濃度によって、膜の内側に微孔性の開放構造が導かれる。最小の孔(選択性層)は、血液接触表面ではなく、むしろ膜の横断面のどこかである。沈澱バスの組成物と共にスピニングノズルから押出されるポリマー溶液を囲っている水蒸気の雰囲気によって、非常に開いている外側および全体(横断面)構造が導かれる。全体構造および膜の外側での孔は、より大きい(図2を参照されたい)。本発明の試みは、スピニング状態を調整して膜のプロフィール(即ち、生体適合性, 溶血性および高いふるい係数および時間に対する高い濾過比)を充足することであった。
【表1】

【0067】
材料および方法
粘性の測定
本発明のポリマー溶液に関して「粘性」の用語は、他で指摘しない限り、動粘性を意味する。ポリマー溶液の動粘性の単位は、センチポイズ(cp)またはmPa×sで与えられる。ポリマー溶液の粘性を測定するために、Rheometric Scientific社からの市販のレオメータ(SR 2000)を使用した。ポリマー溶液は、二つの温度制御プレートの間に配置された。測定は、22℃で実施された。全ての他の測定条件は、製造者の指示に従った。
【0068】
膜バンドルの調製
a) ハンドバンドル(hand bundles)の調製:
スピニング処理後の膜バンドルの調製は、性能試験(総タンパク質ふるい係数の測定および膜の溶血特性の決定)に適切な様式で繊維バンドルを調製するために必要である。第一の処理工程は、端に近い繊維をフィラメントで固定することである。繊維バンドルは、滅菌チューブに移され、滅菌された。滅菌後、繊維バンドルは23cmの規定の長さに切断された。次の処理工程は、繊維の端を閉鎖することからなる。光学的な制御によって、全ての繊維が良好に閉鎖されることが保証される。それから、繊維バンドルの端は、ポッティングキャップに移された。ポッティングキャップは、機械的に固定された。そして、ポッティングチューブは、ポッティングキャップにおかれた。その後、ポッティングは、ポリウレタンでなされた。ポッティング後、少なくとも一日ポリウレタンが硬化できることが保証されなければならない。次の処理工程において、ポッティングされた膜バンドルは規定の長さに切断された。最後の処理工程は、繊維バンドルの光学的な制御からなる。この処理工程の間、切断の質(切断が滑らかであるか又はナイフにダメージがあるか)およびポッティングの質、スピニング処理の開放された繊維の数がポッティングされた繊維で減少したか又はポリウレタンが存在しない目に見える欠陥品(voids)がないか、が制御された。光学的な制御後、膜バンドルは、異なる性能試験に使用する前に乾燥貯蔵された。
【0069】
b) ミニモジュールの調製:
ミニモジュール、即ちハウジングにおける繊維バンドル、は、ハンドバンドルの調製と類似する処理で調製された。ミニモジュールは、繊維の保護を保証するために必要とされる。生体適合性試験として非常に清潔な製造法が、ヒト血漿で行われる。ミニモジュールの製造は、ハンドバンドルの調製と次の点で異なっている、
i) 繊維バンドルは、20cmの規定の長さに切断される、
ii) 繊維バンドルは、繊維が閉鎖される前にハウジングに移される、および
iii) ミニモジュールは、ポッティング処理前に一晩減圧乾燥器におかれる。
【0070】
総タンパク質ふるい係数
膜の総タンパク質ふるい係数は、規定の条件([QBを調整することによる]ずり速度,TMP)で規定のヘマトクリットでウシ血液を膜バンドルを通してポンプすること、および供給材料(feed)における、未透過物(retentate)における、および濾過物における、総タンパク質の濃度を決定することによって決定される。濾過物における総タンパク質の濃度がゼロである場合、0%のふるい係数が取得される。濾過物における総タンパク質の濃度は、供給材料および未透過物におけるタンパク質の濃度が等しい場合、100%のふるい係数がえられる。サンプリングは、定常的なTMPが調整された後の最初の10分間に行われる。検査は、単一流路様式(single-pass modus)で行われる。ウシ血液は、繊維バンドルに進入する前に熱交換体で37℃に温められる。未透過物および供給材料のサンプルは、総タンパク質の濃度を決定する前に遠心分離される。総タンパク質の決定は、測光法でなされた。検査を、総タンパク質ふるい係数の長期の安定性を決定するために修飾してもよい。この場合において、定常的なTMPが長期の時間スケジュールに適用される。
【0071】
溶血検査
溶血検査は、前に記載されたふるい係数検査と類似する様式で行われた。適用される膜間圧力は、30〜150mmHgの範囲である。サンプリングの前に、平衡した状況を保証するために少なくとも10分間待機する。検査後、プールサンプルが、遠心分離された;未透過サンプルが、遊離ヘモグロビンの決定のためにとられた。遊離ヘモグロビンの決定は、測光法でなされた。濾過物中の遊離ヘモグロビンの値は、膜で発生した遊離ヘモグロビンの含有量をえるためにプールサンプルの値で調整された。並行して、標準曲線が作られ、測定された光学濃度と遊離ヘモグロビンの含有量との間の相関が得られた。標準曲線は、1mLのウシ血液を直接的に最初に9mLの蒸留水で希釈されて調製された。遠心分離後、1mLの上清が得られ9mLの等張食塩液(isotonic sodium chloride solution)で希釈された。これは1%標準を表す。この1%標準から開始し、0,05〜1%の範囲の一連のさらなる濃度が希釈により作られた。これらの濃度を用いて、標準曲線が対応する光学濃度を測定することによって作られた。産生された血漿画分における0.2未満のヘモグロビンのレベルは、「非」または「低」溶血性として特徴づけられる。0.2を超える濃度は、視覚的(色変化)に溶血性と同定できる。詳細な測定は、測光で行われた。
【0072】
生体適合性検査
次の二つの方法が使用されて、膜の生体適合性の特性が特徴づけられる:
a) 血栓形成性:
トロンビン抗トロンビンIII(TAT)のレベルが、測定された。血小板豊富血漿(PRP;platelet rich plasma)の通過の後、血小板計数が血栓形成性のマーカーとして、膜に沿って、膜を通して、およびプールにおいて行われた。実験は再循環する様式で行われた(というのも、高い容量の血漿が、「単一流路様式」の検査に必要とされるからである)。
【0073】
b) 補体活性化:
補体活性化、末端の補体複合体(TCC)により発生されるものとして、は、ミニモジュールをとおした新鮮なヒト血漿の通過の前後で測定された。さらに、濾過におけるTCCの産生が測定された。実験は再循環する様式で行われた(というのも、高い容量の血漿が、「単一流路様式」の検査に必要とされるからである)。補体活性化の測定の詳細は、Deppischら(Deppisch, R., et al., Fluid Phase Generation of Terminal Complement Complex as a Novel Index of Biocompatibility. Kidney International, 1990. 37: p. 696-706)に記載される。
【0074】
補体活性化は、細胞の活性化のみならず、血漿画分の活性化にも関連する。血漿分離および引き続く処理(例えば、吸着)の場合において、二重濾過補体活性化が主要な問題となる。補体活性化が増加する場合において(即ち、TCCの産生)、活性化した血漿は患者に重篤な健康上の問題の原因となる可能性がある(患者に再注入される場合)。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【0076】
[例]
例1
ポリマー溶液は、18.0wt−% ポリエーテルスルホン (PES;BASF Ultrason6020)、3.25wt−%低分子量ポリビニルピロリドン(PVP;BASFK30)および8.0wt−% 高分子量ポリビニルピロリドン(PVP; BASF K85またはK90)および6.0wt−%水を70.75wt−%N−メチルピロリドン(NMP)に溶解することによって調製された。室温でのポリマー溶液の粘性は、61810mPa×sであった。
【0077】
溶液を調製するために、NMPおよび水を、センターネックにフィンガーパドルアジテーターを有する三つのネックフラスコに配置した。それから、PVPをNMPに添加し、均質な透明な溶液が形成されるまで50℃で撹拌した。最終的に、ポリエーテルスルホン(PES)を添加した。混合物を、透明な高い粘稠性の溶液がえられるまで50℃で撹拌した。温かい溶液を20℃に冷却し、脱気した。溶液を完全に脱気するために、高度に粘稠なポリマー溶液を、安定なステンレス・スチール容器に移した。容器を密接に閉鎖し、減圧を容器に適用した。溶液を、50mmHgで6時間脱気した。この脱気処理の間、容器を移動して、容器中でポリマー溶液の表面をより大きくし、薄いフィルム厚を作り、脱気処理を改善した。
【0078】
膜を形成させるために、ポリマー溶液を、50℃に温め、スピニングダイから沈澱バスへと通過させた。中心流体として、25.0wt−%水および75.0wt.−%NMPの混合物を使用した。ダイの温度は、45℃であった。中空繊維膜は、13m/minのスピニング速度で形成された。ダイを離れる液体毛細管は、85℃の温度を有している温められたバス(沈澱バス)を通過した。温められたウォーターバスにより作られた蒸気が、繊維を囲んだ。ダイの出口および沈澱バスの間の距離は、5cmであった。形成された中空繊維膜は、65℃の温度を有している5つの異なるウォーターバスをとおしてガイドされた。最終的に、膜を巻き取り機器に巻きつけた。繊維を、バンドルに移し、水で75℃にて洗浄し、NMPおよび水溶性ポリマーの残りの微量残留物(traces)を除去した。
【0079】
生じた中空繊維膜は、328μmの内径、426μmの外径および完全に非対称性の膜構造を有していた。測定された総タンパク質ふるい係数は、30,70および110mmHgの膜間圧力(TMP)で100%であった(平均血流QB:4.1 ml/min,平均ずり速度:260 1/s)。修正された濾過値としての遊離ヘモグロビンの度合(方法の記載を参照されたい)は、30,70および 110mmHgの検査値に対し、0.2の溶血を開始する境界未満であった。
【0080】
膜の内側表面および横断面の走査電子顕微鏡像は、図3に示される。膜壁は、全体的にスポンジ様構造を有している非対称性構造を示す。内側表面は、相対的に滑らかな表面を示す。
【0081】
例2
例2において、例1と同じ組成のポリマー溶液および沈澱バスが使用された。室温でのポリマー溶液の粘性は、62500mPa×sであった。中心流体として、20.0wt.−%の水および80.0wt.−%のNMPの混合物を使用した。膜形成処理は例1と同じであった、但し、ダイの温度は50℃あった、ダイおよび沈澱バスの間の距離は4cmあった、沈澱バスの温度は50℃であった。
【0082】
生じた中空繊維膜は、320μmの内径、420μmの外径および完全に非対称性の膜構造を有していた。総タンパク質ふるい係数は、50mmHgの膜間圧力(TMP)で100%であった(平均血流 QB:3.1ml/min、平均ずり速度:255 1/s)。修正された濾過値としての遊離ヘモグロビンの度合は、50mmHgの検査値に対し、0.2の溶血を開始する境界未満であった。
【0083】
内側表面の走査電子顕微鏡写真は、図4に示される。内側表面は、非常に滑らかな表面を示す。
【0084】
例3
例3において、例1と同じ組成のポリマー溶液および沈澱バスが使用された。室温でのポリマー溶液の粘性は、62500mPa×sであった。中心流体として、22,0wt.−%の水および78,0wt.−%のNMPの混合物を使用した。膜形成処理は例1と同じであった、但し、ダイの温度は50℃あった、ダイおよび沈澱バスの間の距離は8cmあった、沈澱バスの温度は50℃であった。さらに、例1および2に加えて、スピニングダイを離れる液体繊維は、ダイの出口から沈澱バスの表面のうえの約2cmの距離に6cm長伸展しているスピニングシャフトを通過した。スピニングダイの出口から沈澱バスに移動する際に、スピニングシャフトは繊維を囲む蒸気または湿った空気で条件づけられた雰囲気の空間に備えられた。蒸気または湿った空気は、沈澱バスからの水の蒸発により発生させた。この例において、付加的な蒸気は、外部の供給源から供給されなかった。
【0085】
生じた中空繊維膜は、318μmの内径、422μmの外径および完全に非対称性の膜構造を有していた。総タンパク質ふるい係数は、50,100および150mmHgの膜間圧力(TMP)で100%であった(平均血流 QB:3,0 ml/min,平均ずり速度:250 1/s)。さらに、総タンパク質ふるい係数の長期安定性は、50mmHgのTMPで決定された。総タンパク質ふるい係数は、15分間後に100%および60分間後に95%であった。修正された濾過値としての遊離ヘモグロビンの度合(方法の記載を比較されたい)は、30mmHgの検査値に対し、溶血を開始する0.2の境界未満であった。
【0086】
血栓形成性の測定が行われた。そして、生産された膜は、優れた血栓形成性の特性を示した(データ示さず)。
【0087】
例4
例4において、例1と同じ組成のポリマー溶液および沈澱バスが使用された。室温でのポリマー溶液の粘性は、51400mPa×sであった。中心流体として、22,0wt.−%の水および78,0wt.−%のNMPの混合物を使用した。膜形成処理は例1と同じであった、但し、ダイの温度は55℃あった、ダイおよび沈澱バスの間の距離は4cmあった、沈澱バスの温度は80℃であった。さらに、例1および2に加えて、ダイを離れる液体毛細管は、2cmの長さを有しているスピニングシャフトを沈澱バスへと通過した。
【0088】
生じた中空繊維膜は、319μmの内径、417μmの外径および完全に非対称性の膜構造を有していた。総タンパク質ふるい係数は、50mmHgの膜間圧力(TMP)で97%および100mmHgの膜間圧力(TMP)で100%であった(平均血流 QB:3.2ml/min、平均ずり速度:265 1/s)。修正された濾過値としての遊離ヘモグロビンの度合(方法の記載を比較されたい)は、50および100mmHgの検査値に対し、0.2の溶血を開始する境界未満であった。
【0089】
内側表面の走査電子顕微鏡写真は、図5に示される。内側表面は、非常に滑らかな表面を示す。
【0090】
補体活性化は、マイクロモジュールで、プラズマファン(Plasmaphan)(登録商標)およびキュプロファン(Cuprophan)(登録商標)膜(Membrana, Germany)と比較して測定された。図6は、結果を示している。例4で生産された膜のTCC値は、プラズマファン(登録商標)およびキュプロファン(登録商標)膜と比較して、非常に低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称性の中空繊維膜を製造するための方法であって、
ポリマー溶液を中空繊維スピニングノズルの外側環スリットをとおして押出すことと、同時に、中心流体を中空繊維スピニングノズルの内側孔をとおして沈澱バスに押出すことと、を含み、
前記ポリマー溶液が10〜26wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)、8〜15wt−%のポリビニルピロリドン(PVP)、55〜75wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および3〜9wt−%の水を含有し、
前記中心流体が70〜90wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および10〜30wt−%の水を含有し、かつ
前記沈澱バスが0〜20wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および80〜100wt−%の水を含有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ポリマー溶液は、15〜21wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)、10〜12,5wt−%ポリビニルピロリドン(PVP)および60〜70wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)、好ましくは17〜19wt−%のポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)またはポリアリルエーテルスルホン(PAES)、10,75〜11,75wt−%ポリビニルピロリドン(PVP)および63〜66,5wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)を含む方法。
【請求項3】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記ポリマー溶液は、4〜8wt−%の水、好ましくは5〜7wt−%の水を含む方法。
【請求項4】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記中心流体は、73〜87wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および23〜27wt−%の水、好ましくは75〜85wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および15〜25wt−%の水を含む方法。
【請求項5】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記沈澱バス(PB)は、0〜10wt−%N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および90〜100wt−%の水、好ましくは0〜5wt−%のN−アルキル−2−ピロリドン(NAP)および95〜100wt−%の水を含み、最も好ましくは前記沈澱バス(PB)は純水からなる方法。
【請求項6】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記ポリマー溶液における、前記中心流体における及び前記沈澱バスにおける(存在する場合)N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)は、同じ又は異なり、最も好ましくは同じであり、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N−オクチル−2−ピロリドン(NOP)又はその混合物からなる群から選択される方法。
【請求項7】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記ポリマー溶液における、前記中心流体における及び前記沈澱バスにおける(存在する場合)N−アルキル−2−ピロリドン(NAP)は、同じ且つN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である方法。
【請求項8】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記ポリマー溶液中のポリビニルピロリドン(PVP)は、少なくとも二つのホモポリマーのポリビニルピロリドンのブレンドからなり、このうち一つのホモポリマーのポリビニルピロリドン(=低分子量PVP)は約10.000g/モル〜100.000g/モル、好ましくは約30,000g/モル〜60.000g/モルの平均相対分子量を有し、もう一つのホモポリマーのポリビニルピロリドン(=高分子量PVP)は約500.000g/モル〜2.000.000g/モル、好ましくは約800.000g/モル〜2.000.000g/モルの平均相対分子量を有する方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、前記ポリマー溶液において、全重量に基づき、前記低分子量PVPは5.7〜11.7wt−%の量で存在し、前記高分子量PVPは2.3〜4.3wt−%の量で存在し、好ましくは前記低分子量PVPは7.1〜8.9wt−%の量で存在し、前記高分子量PVPは2.9〜3.6wt−%の量で存在し、最も好ましくは前記低分子量PVPは約3.25wt−%の量で存在し、前記高分子量PVPは約8.0wt−%の量で存在する方法。
【請求項10】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記沈澱バス(PB)は、30〜100℃、好ましくは40〜90℃、最も好ましくは50〜80℃の範囲の温度を有する方法。
【請求項11】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記中空繊維スピニングノズル〔スピナレット〕は、10〜90℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜60℃の範囲、最も好ましくは約50℃の温度に保持される方法。
【請求項12】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記中空繊維スピニングノズル(スピナレット)の放出出口と沈澱バスの表面との間の距離は、0.5〜20cm、好ましくは1〜15cm、より好ましくは5〜10cm、最も好ましくは7〜9cmの範囲である方法。
【請求項13】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記中空繊維膜のスピニング速度は、1〜40m/min、好ましくは3〜40m/min、より好ましくは5〜20m/minの範囲、最も好ましくは約13m/minである方法。
【請求項14】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記ポリマー溶液は、室温測定で30.000〜100.000mPa×s(センチポイズ)の粘性を有する方法。
【請求項15】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、前記スピニングノズルから押出されるポリマー溶液は、蒸気および湿った空気が混合された雰囲気に暴露される方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記蒸気および湿った空気の混合物の温度は、少なくとも15℃、好ましくは少なくとも30℃、および多くとも75℃、好ましくは多くとも60℃である方法。
【請求項17】
請求項15および16の何れか一項に記載の方法であって、前記蒸気および湿った空気の混合物の雰囲気の湿度は、60および100%の間である方法。
【請求項18】
請求項15〜17の何れか一項に記載の方法であって、前記蒸気および湿った空気の混合物の雰囲気は、0,5および5%の間の含有量で溶媒に含まれる方法。
【請求項19】
請求項15〜17の何れか一項に記載の方法であって、前記蒸気および/または湿った空気は、外部の供給源から提供され、スピニングノズルから押出されるポリマー溶液の周囲の雰囲気に導入される方法。
【請求項20】
先行する請求項の何れか一項に記載の方法であって、スピニングノズルまたはスピニングヘッドから伸展し、沈澱バスの表面上の特定の距離で終わる(開口部)スピニングシャフトが提供され、前記スピニングシャフトは、その長さに沿って、スピニングノズルから押出され、沈澱バスへと移動するポリマー溶液を囲む方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記スピニングシャフトは、円柱形または矩形を有する方法。
【請求項22】
請求項20および21の何れか一項に記載の方法であって、前記スピニングシャフトは、1〜20cm、好ましくは3〜13cm、最も好ましくは5〜7cmの長さを有する方法。
【請求項23】
請求項1〜 22の何れか一項に記載の方法によってえられる中空繊維膜。
【請求項24】
請求項23に記載の中空繊維膜であって、>0.90、好ましくは>0.95の総血漿タンパク質ふるい係数で特徴づけられる中空繊維膜。
【請求項25】
請求項23および24の何れか一項に記載の中空繊維膜であって、100〜500μm、好ましくは150〜450μm、より好ましくは200〜400μmの範囲の内径で特徴づけられる中空繊維膜。
【請求項26】
請求項23〜25の何れか一項に記載の中空繊維膜であって、20〜150μm、好ましくは30〜125μm、より好ましくは40〜100μmの範囲の壁厚で特徴づけられる中空繊維膜。
【請求項27】
請求項23〜26の何れか一項に記載の中空繊維膜であって、前記膜における選択性の分離層の平均孔径が0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.7μm、より好ましくは0.1〜0.4μmの範囲で特徴づけられる中空繊維膜。
【請求項28】
請求項23〜27の何れか一項に記載の中空繊維膜であって、膜の内壁表面(管腔表面)と膜の外壁表面との間の特定の距離で孔サイズが、最小であり、それぞれ内壁表面および外壁表面に向かい増加する孔サイズ分布で特徴づけられる中空繊維膜。
【請求項29】
血漿分離、血漿濾過、ミクロ濾過、血漿処理または細胞濾過のための請求項23〜28の何れか一項に記載の中空繊維膜の又は請求項1〜21の何れか一項に記載の方法によって調製された中空繊維膜の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−210624(P2012−210624A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−111771(P2012−111771)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【分割の表示】特願2009−517156(P2009−517156)の分割
【原出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(501473877)ガンブロ・ルンディア・エービー (49)
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
【Fターム(参考)】