説明

血管の画像診断を使用する心臓血管疾患の初期の検出用の装置及び方法

本発明は,動脈(27)に超音波信号を指向させる超音波信号源(32);動脈(27)から反射した,または,動脈(27)を通過した超音波信号(36)を受け取る超音波信号レシーバー(34);動脈ディスプレースメントデータ(42)を抽出するために超音波信号レシーバー(34)によって受け取られた信号(40)を分析するための手段;血圧データ(48)を得るための手段;前記血圧データ(48)を使用して,前記動脈ディスプレースメントデータ(46)を調整するための信号処理手段(44);及び,前記調整された動脈ディスプレースメントデータ(51)を分析して動脈の機能(28)を特徴づける手段を含む心血管疾病の初期の検出用に血管の性質を決定するための装置(10)及び方法(24)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,初期の心臓血管疾患の検出のための方法及び装置に広く関する。本発明は,特に,動脈の画像診断技術を利用する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓血管疾患(CVD)は西欧における疾病及び死の主要な原因であり,これは他の病気よりも若死をもたらす。驚くことではないが,CVDの治療は全ての健康管理システムに対し最も高いコスト負担を示す。従って,CVDの検出,治療及び予防の助けとなる,より早くより信頼できる診断テストの開発に対するすさまじい社会的且つ政治的圧力がある。
【0003】
血管の構造及び機能の変化は,CVDの進行における初期の指標であることが知られている。このことにより,初期の疾病を分析し,かつ疾病の退行を引き起こす様々な治療に対する反応を追跡するために,血管の機能試験を使用することが提案される。
【0004】
冠状動脈疾病の診断及び管理の基礎であった冠血管造影法及び負荷試験は,管腔が狭くなることの検出に依存するが,初期の疾病では血管拡張を引き起こすので,初期の無症状性疾病を分析するのには有効ではない。血管造影法は初期の傷害を識別するために使用されてもよいが,血管内の超音波が行われなければ,直接血管壁が評価されない。これは侵襲性であり,高価である。様々な侵襲性の技術が,冠状動脈疾病を有する患者の内皮の機能を検討するために使用された。しかしながら,これらは,続いてのフォローアップにあまり適せず,侵襲性であり,著しい悪影響の可能性を有する。
【0005】
最も広く使用されている非侵襲性の試験は上腕動脈反応性(brachial artery reactivity)である(セレルメジャーDS他(Celermajer DS et al.) ランセット(Lancet) 1992; 340: 1111-5)。しかしながら,この方法を使用する際,血流を媒介とした血管拡張の測定は,技術的に難しい。一部には,絶食の状態,タバコ,カフェイン及び血管に作用する薬の負荷を含む多くの急性の刺激によって結果が影響を受けるため,正常範囲が大きな標準偏差を示すからである。残念ながら,動脈の疾病及び危険因子の両方の存在が,結果に影響を及ぼす。
【0006】
開発されている別の技術は圧平トノメトリー(applanation tonometry)である(ヘイワードCS他(Hayward CS et al.) ハイパーテンション(Hypertension), 2002; 40: e8-e9)。この非侵襲性の臨床ツールは,全身の動脈の変化を反映する,動脈幹全体の弾性特性を測定する。圧平トノメトリーは,動脈壁に対して配置された経皮適用微圧計を先端に付けたプローブを使用する。動脈を曲げるまたは圧平化する十分な圧力がある場合,瞬間の動脈圧に近い信号を生じさせる。その後,該信号はデジタル化され,PC上に再構築される。この適用が最も実現可能なのは,例えば,頚動脈のような脂肪組織と筋肉に埋め込まれ,同じ支持構造を持っておらず,従って,移動及び微妙な圧力変化を受ける,中心に近い方の血管に対してではなく,最小の軟部組織カバー(soft tissue cover)及びそれを支える深層の骨のような表面を備えた橈骨動脈のような遠位の血管に対してである。中央の大動脈の圧力が血管が近いために頚動脈の圧力と等しいと仮定されている一方,頚動脈のトノメトリーは技術的に難しく,テスト再テスト変動(test-retest variability)が生じる。橈骨の技術はこれらの問題による制限が少ないが,中央の波形を再構築するトランスファーファンクションの使用が,高齢者あるいは女性において特に問題になるかもしれない。一層の制限は,そのデータを最も使用しそうな専門医がその技術に慣れていないということである。圧平トノメトリーはいずれも技術の理解を損なってきた専門家設備及び熟練を要求する。
【0007】
別の非侵襲性の方法は総動脈コンプライアンス (TAC)(例えば,セガース他(Segers et al.) アン バイオメド エンジニアリング(Ann Biomed Eng) 1999; 27: 480-5)である。TACは,2要素ウィンドケッセルモデル(two-element Windkessel model),即ち,全身の動脈幹全体の膨張圧の増加に対する全身の動脈床の容積の増加に由来した,脈圧法に基づく全身の膨張性を測定する。コンプライアンスは,高血圧症及びアテローム性動脈硬化の血管疾病のような状態で生じるように,大きな動脈の弾性機能の喪失により下がる。TACを測定するためにいくつかのアプローチが使用された。そのような技術の一つは,三つの別々の測定,即ち圧力用トノメトリー,オリフィス(orifice)領域のための2Dエコー及び血流用のドプラから数学的に導かれるTAC値(mls/mmHg)と共に,心拍血液量及び動脈圧の同時測定を要求する。
【0008】
血管壁ディスプレースメント(vascular wall displacement)の全身性でない直接測定の必要性が認識され,Mモード(ギャンブル他(Gamble et al.) ストローク(Stroke) 1994 ; 25 (1) : 11-16)及び高周波信号(ホークス他(Hoeks et al.), ウルトラサウンドメディカルバイオロジー(Ultrasound Med Biol) 1990; 16 (2): 121-8)を使用する技術が調査された。しかしながら,これらの技術の両方とも,臨床的に使用する時に,非常に複雑で,二次元画像への依存性が高いことが示された。
【0009】
別の方法,ドプラ超音波心臓検診は,心臓及び動脈の中を流れる血液のベロシティ及び方向の評価に伝統的に使用されている。最近の技術的な開発は,壁フィルタ及び規模の縮小を可能にし,これにより低ベロシティの評価組織から来る高い振幅信号を可能にした。カラードプラ画像診断(TDI)は,トランスデューサーへの心筋のベロシティを色にコード化した形式で心筋の画像に表示する技術である。有利なことに,この技術は,単一の視界の中で心筋または血管のいくつかの壁の迅速な同時の視覚化を可能にする。しかしながら,この方法は(i)局所の血管の挙動を評価せず,むしろ全身的な測定であり,また(ii)膨脹性または血圧の影響ファクターを考慮しない。
【0010】
直接または局所的な血管の弾力性を評価し,動脈疾患の早期検出を可能にし,治療及び予防医薬の結果をモニターするツールを提供する,単純且つ正確な手段の開発に対する要求が存在する。
【0011】
発明の目的
従って,本発明の目的は,先行技術の問題の一つ以上を解決するか,または有用な商業的代案を提供するために画像ドプラを使用する装置及び方法を提供することにある。
【0012】
発明の要約
本発明によると,下記の工程を含む心臓血管疾患の初期の検出のための動脈の性質を決定する方法が提供される:
(i)動脈のカラー組織ドプラ画像診断からのベロシティディスプレースメントデータ(velocity displacement data)を得ること;
(ii) 該ベロシティディスプレースメントデータを処理して動脈ディスプレースメントデータを発生させること;
(iii)前記動脈ディスプレースメントデータを血圧データを使用して調整すること;
(iv)前記調整された動脈ディスプレースメントデータを分析して動脈の機能を特徴づけること。
【0013】
好ましくは,ベロシティディスプレースメントデータを処理する工程は時間に関してベロシティディスプレースメントデータを積分することを含む。
【0014】
より好ましくは,ベロシティディスプレースメントデータを処理する工程は,時間に関してのベロシティディスプレースメントデータの積分のために読み取り可能なスプレッドシートを使用することを含む。
【0015】
適切には,動脈ディスプレースメントデータを調整する工程は平均及び心拡張期の腕のカフ血圧データを使用することを含む。
【0016】
より適切には,動脈ディスプレースメントデータを調整する工程は水銀圧力計によって得られる平均及び心拡張期の腕のカフ血圧データを使用することを含む。
【0017】
一つの実施形態では,調整された動脈ディスプレースメントデータを分析する工程が局所の弾性データを発生させることを含む。
【0018】
好ましくは,局所の弾性データを発生させる工程は,カフ血圧から得られた脈圧の対数で観察されたディスプレースメントデータを割ることにより,観察された動脈ディスプレースメントデータを圧力について修正することを含む。
【0019】
別の実施形態では,調整された動脈ディスプレースメントデータを分析する工程が中央の血圧データを発生させることを含む。
【0020】
好ましくは,中央の血圧データを発生させる工程は,カフ血圧から得られた平均及び心拡張期血圧から調整された動脈ディスプレースメントデータを補正し,時間に圧力を反映させることを含む。
【0021】
本発明の第2の態様によると,
動脈に超音波信号を指向させる超音波信号源;
動脈から反射した,または,動脈を通過した超音波信号を受け取る超音波信号レシーバー;
動脈ディスプレースメントデータを抽出するために超音波信号レシーバーによって受け取られた信号を分析するための手段;
血圧データを得るための手段;
前記血圧データを使用して,前記動脈ディスプレースメントデータを調整するための信号処理手段;及び
前記調整された動脈ディスプレースメントデータを分析して動脈の機能を特徴づける手段
を含む心血管疾病の初期の検出のために血管の性質を決定するための装置が提供される。
【0022】
好ましくは,超音波信号レシーバーによって受け取られた信号を分析するための手段は,時間に関してベロシティディスプレースメントデータを積分するための手段を含む。
【0023】
適切には,血圧データを得るための手段は,心拡張期と中間の腕のカフ血圧データを測定するための手段を含む。
【0024】
より適切には,血圧データを得るための手段は,心拡張期の及び平均の腕のカフ血圧データを測定するための水銀圧力計を含む。
【0025】
好ましくは,信号処理手段は,血圧データに関して動脈ディスプレースメントデータを調整するための手段を含む。
【0026】
一つの実施形態では,調整された動脈ディスプレースメントデータを分析するための手段は,局所の弾性データの形態の血管機能データを発生させる手段を含む。
【0027】
好ましくは,局所の弾性データを発生させる手段は,カフ血圧の対数で動脈ディスプレースメントデータを割ることにより,圧力調整ディスプレースメントデータを補正するための手段を含む。
【0028】
別の実施形態では,調整された動脈ディスプレースメントデータを分析するための手段が,中央の血圧データの形態の血管機能データを発生させる手段を含む。
【0029】
好ましくは,中央の血圧データを発生させる手段は,時間に血圧を反映させる補正曲線を発生させるための手段を含む。
【0030】
本発明がより容易に理解され,実際的な効果が得られるように,本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して記載するが,これは例にすぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1を参照して,特徴的な血管機能を生じさせる方法10を広く記載する。動脈のカラー組織ドプラ画像診断から組織ベロシティデータ12を得る最初の工程に続いて,該ベロシティデータ12からの「観察された」動脈ディスプレースメントデータ13の続いての抽出が行われる。カフ血圧(BP)データ15が得られ,動脈ディスプレースメントデータ13の調節14に使用される。好ましくは,使用される血圧データ15は腕の心拡張期及び平均カフ血圧である。
【0032】
本発明の方法10は,局所の動脈の弾性及び中央の血圧の両方の血管機能特性を測定する手段を提供する。
【0033】
調整されたディスプレースメントデータ14は分析され,補正されたディスプレースメントデータ16を生じ,それらは次には局所の弾性データ18を発生させる。「補正されたディスプレースメント」は,局所の弾性の音の近似を意味する。補正されたディスプレースメントデータ16は,カフ血圧測定から得られた脈圧,即ちカフBP15の対数で観察されたディスプレースメントデータを割ることにより生じ,これにより圧力を調整されたディスプレースメント値が得られる。脈圧の対数は,脈圧の非線形の性質について調節するために使用される。これはソフトウェアに基づいた読み取り可能なスプレッドシートを使用して,便利に実行してもよい。
【0034】
別の実施形態では,調整されたディスプレースメントデータ14が補正され20,中央の血圧データ22を発生させてもよい。使用に際し,カフ血圧測定から得られた平均及び心拡張期血圧,即ちカフBP15から調整された動脈ディスプレースメントデータ14を補正することにより,時間に対して圧力を反映する補正された曲線が得られる。上記に関しては,これは,ソフトウェアに基づいた読み取り可能なスプレッドシートを使用して,便利に実行してもよい。
【0035】
図2は早期検出用CVD装置24を示す。使用に際しては,局部の動脈の弾性の基準として波形ベロシティデータ28を測定するために,装置24を患者26に接続する。特に,動脈が心収縮中に拡張し及び心拡張中に収縮するにつれ,平滑筋層から派生したベロシティは動脈の弾性28の基準である動脈ディスプレースメントを計算するために使用される。組織ドプラ画像形成あるいは動脈のベロシティディスプレースメントデータ38は,超音波信号源32を使用して,患者の動脈27に超音波信号30を指向させることにより得られる。超音波信号レシーバー34は,患者の頚動脈27から反射されるか頚動脈を通して送信される超音波36を受け取る。
【0036】
超音波信号レシーバー34によって受け取られた信号36を,動脈のベロシティディスプレースメントデータ38を抽出するために分析する。動脈の組織ドプラ画像診断(TDI)の方法は組織によって生じた低ベロシティ高振幅信号を測定するために使用される。動脈ディスプレースメントデータ38は,超音波システム(AWMプリセット; ATL5000,フィリップス (Philips)/ATL ボセル(Bothell) ワシントン(WA),米国)においてプログラム可能な組織に特有のプリセットを使用して得られ,フレームレート,画像サイズ,前また後処理値が決定される。患者の頚動脈27の十分な領域,通常分岐から2〜10cmが見られる場合,その領域を2Dにズームし,その後同様のカラードプラズームボックスを,外膜及びそれを囲む組織の外端がカバーされるように,患者の動脈27上に重ねる。カラーゲインは100%にセットされ,焦点は患者の動脈27の遠位(後)の壁,あるいは該壁の近傍にセットされ,可能な最も高いフレームレートが達成される(通常毎秒140〜200フレーム)。動脈ディスプレースメントデータ画像38は,3〜5の心臓周期からなるデジタルシネループとして得られ,オフライン分析のために3.5インチの光ディスクに格納される。前部,側部及び後部のうち最良の品質の画像が,画像獲得に使用するために選ばれる。
【0037】
動脈のベロシティディスプレースメントデータ38は,時間に関してベロシティを積分するソフトウェアプログラム40を使用してオフラインで調整される。適切なソフトウェアプログラム40(例えば,アルテリアルウォールモーション (Arterial Wall Motion) v2.0(AWM),フィリップス/ATL,ボセル ワシントン,米国)は,心臓周期上のカラードプラセクター全体の動脈壁ベロシティをプロットし,図3に示されるように,中心圧力波形あるいは調整された動脈のベロシティディスプレースメントデータ42を再構築し,これにより時間に対する動脈ディスプレースメント(μm)のための動脈ドプラベロシティデータ(TDIから得られた)38からの定量測定を生じさせる。その後,これらの調整された動脈のベロシティディスプレースメントデータ42は,さらなるソフトウェア分析用の読み取り可能なスプレッドシートのフォーマットで,例えば,csvまたはxlsのファイルフォーマットとしてエキスポートすることができる。
【0038】
好ましい実施形態では,調整された動脈のベロシティディスプレースメントデータ42が,マットラブ(MatLab)(例えば,サムディ(Samtdi) v1.0 SG カーリー(Carlier))の中に記載されたソフトウェア・プログラム44カスタムにインポートされる。
【0039】
一つの実施形態では,血圧データ46は,水銀圧力計48あるいは当該分野で公知の任意の圧力読み取り装置を使用して,患者26から得られる。好ましくは,得られた血圧データ46は平均(2×心拡張期BP+心収縮期BP/3)と心拡張期の腕のカフ血圧である。
【0040】
調整されたベロシティディスプレースメントデータ42は,ソフトウェア44を使用して,カフ血圧データ46に関して補正され49,その結果得られる動脈ディスプレースメント波形データ50は,血圧48について補正される。有意義なことに,この目的のためのカラードプラの使用に影響を与えた唯一の過去の研究は,明らかに膨脹性に影響を及ぼすカフ血圧について考慮も補正もしなかった。
【0041】
別の実施形態では,調整されたベロシティディスプレースメントデータ42は,局所の動脈の弾性28の値を生じさせるためのソフトウェア44及びドプラと圧力のデータを使用する他の血流力学的手段を使用して修正される51。修正は,カフBPから得られた脈圧の対数で観察されたディスプレースメントデータを割ることにより行われる。
【0042】
図3は,生の組織ドプラ(左下),各心臓周期の個々のディスプレースメント曲線(上)及び平均ディスプレースメント曲線(右下)を伴う分析された動脈のカラードプラからの出力を示す。
【0043】
注目すべきことは,得られた動脈ディスプレースメントデータ28(図4)は,全身の血圧を反映するのではなく,トノメトリーによって得られたものと類似しており,ベロシティ波形データ28が,有利に血管壁の局所の挙動を反映することである。更に,この新しい動脈の画像診断方法10により,橈骨のトノメトリーで要求される橈骨−大動脈トランスファーファンクションを使用する必要がなくなる。
【0044】
動脈ディスプレースメントデータ28が,既知の試験によっては提供されないが,むしろ内皮の機能及び全身の(即ち,局所のではない)コンプライアンスを反映する,弾性血管に関する新しい情報を提供することが理解されるであろう。
【0045】
有利なことに,この新規な超音波に基づいた方法10は,動脈に興味のある心臓病学者及び内科医によく知られており,既に広く使用されているTDI画像データ38の獲得のための既存の超音波ドプラ装置32,34上にソフトウェアとして容易にロードすることができる。分析ソフトウェア40,44は,オフライン分析用のPCの上に容易にロードしてもよい。
【0046】
下記の実施例により,本発明の装置及び方法は,心血管疾病の進行の指標として動脈の膨脹性を評価する手段を提供する。
【0047】
実施例1:異なる程度の動脈の疾病を有するグループを識別する能力
異なる程度の動脈の疾病を有するグループを識別する能力を,様々な危険因子を持っている220人を超える患者に関する研究で実証した。健常者を,複雑でない糖尿病(軽度の糖尿病,goodDM),DM及び併発症(重度の糖尿病(badDM)),高血圧症及び既知の冠状動脈疾患(CAD)を有する者と比較した。図5に示すように,動脈の疾病の深刻度が増加するにつれて,頚動脈の膨脹性も増加した。これは,ディスプレースメントが,疾病の深刻度が増すにつれて増加した血管サイズ並びにパルス圧について修正された後でさえ,そのまま残る。従って,頚動脈のTDIが,カフBPを使用して補正された時,それが増加した血管の損傷の関数として増加する膨脹性を検出するので,無症状性の動脈の疾病に有効な試験を提供することが容易にわかる。
【0048】
実施例2:動脈の膨脹性の評価についての既存の技術との比較
1.総動脈コンプライアンス(TAC)
動脈の膨脹性を測定するために,種々の試験が知られている。この脈圧法10がコンプライアンスに重要な影響がある心拍血液量を組込むことができるので,総動脈コンプライアンス(TAC)は最も適切であると広く考えられている。特に,本発明の発明者によって使用されるコンプライアンス法は,橈骨の脈でのトノメトリー測定,中心血圧を得るためのトランスファー関数及び心拍出量のドプラ測定の使用から導かれる。
【0049】
本発明の発明者は,種々の群で使用されたコンプライアンス測定を本発明のコンプライアンス法10と比較した。二つの動脈機能測定から予想されるように,コンプライアンスと膨脹性の間で広い相関性(r=0.52及びp<0.001)が見出された。図6は,2人の患者に関する研究を例証する:図6A(左側)は低いBPで高度にコンプライアンスな動脈及び高いディスプレースメント(450ミクロン)を有する。また,対照的に,図6B(右側)は,高いBPでもより減少したコンプライアンス及びより少ないディスプレースメント(349ミクロン)を有する患者を示す。有意義なことに,頚動脈の膨脹性は,頚動脈の挙動,特に高血圧症の中で破損されるかもしれない大きな,そして,主として弾性の動脈だけを測定する。しかしながら,動脈ディスプレースメント(図5を参照)とは対照的に,深刻な疾病を有する患者においてコンプライアンスが異常であると見出される一方(図7を参照),コンプライアンスは正常と異常の区別がより少ないことを示す。
【0050】
2. 頚動脈内中膜厚(IMT)
内中膜厚(IMT)測定は,内膜(動脈アテローム)及び中膜(高血圧の疾病)の両方を含む動脈が厚くなることの直接の解剖的測定である。進行する疾病を持つ患者のIMTとサブグループの対応が,図8に示される。IMTの増加は,より低い動脈ディスプレースメントに相当する。測定間の相関性は低く,例えば0.11である。これは,異なる態様の動脈疾病が測定されていることを示す。
【0051】
3. 腕の反応性
腕の反応性の測定は動脈が充血に応じて拡大するという能力の測定である。このプロセスは内皮からの一酸化窒素の放出により媒介され,食事,ストレスなどを含む多くの急性の現象によって影響を受ける。従って,観察はこれらの変化を反映する結果となるかもしれない。有意義なことに,このプロセスは,予期される動脈の損傷の程度の増加に基づいて変化しない(図9を参照)。
【0052】
方法バリデーション研究
本発明の有効性を実証するために,本発明の発明者はバリデーション研究を行なった。図10は,健常者におけるトノメトリーを使用する中心収縮期血圧とTDIとの差を例証する。収縮期血圧(X軸)の範囲に対する差の平均(Y軸)は,2mmHgであった。これにより,カフBPを使用して補正されると,頚動脈のTDIを使用して,中央のBPに近づけることができることが実証された。
【0053】
従って,本発明が(i)TDIを使用する弾性測定が病理学的に異常であり,(ii)弾性測定が血管の物理的性質に相当し,そして(iii)治療による弾性測定が変化することを実証する方法及び装置を提供することが容易に理解されるであろう。
【0054】
この新規な方法は,危険がある者の血管の疾病の初期の診断を促進する際に使用するのに適する,有効な,容易に実行される血管の機能障害を評価する画像診断技術を提供することが理解されるであろう。さらに,この方法は患者の治療に対する反応を追跡するのに適する。
【0055】
詳細にここに記述された実施形態に本発明が制限されておらず,発明の広い精神及び範囲と矛盾しない限り,種々の他の実施形態が予期され得ることは,当業者により理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】動脈の機能のデータの生成のための工程を示す本発明の方法の図である。
【図2】図1の動脈の画像診断方法を使用して,心臓血管疾患の初期の検出を行うための装置の概略図である。
【図3】生の組織ドプラ(左下),各心臓周期の個々のディスプレースメント曲線(上)及び中間のディスプレースメント曲線(右下)を用いた,分析された動脈のカラードプラからの出力を示す。
【図4】生のディスプレースメント曲線(左上),生の頚動脈のトノメトリー(左下),及び補正されたディスプレースメント曲線及びトノメトリーの比較(右)を含むサムディ分析プログラムからの出力を示す。
【図5】患者の研究における動脈の疾病増加の程度により,圧力について修正された動脈ディスプレースメントが減少することを示す。
【図6】研究における2人の患者間のディスプレースメントの比較である;一人は低血圧で高い動脈ディスプレースメントを有する(左);もう一人ははるかに高い血圧でより低いディスプレースメントを有する(右)。
【図7】動脈の疾病進行に伴う,総動脈コンプライアンスとディスプレースメントの同じ負の相関関係を示す。
【図8】図7に関する研究の頚動脈の内中膜厚とディスプレースメントの負の相関関係を示す;動脈疾病によりIMTが増加するにつれ,ディスプレースメントは減少する。
【図9】動脈疾病の進行に対する,上腕動脈反応性との関係,あるいは動脈が充血に応じて膨張する能力との関係を示す。
【図10】頚動脈のトノメトリーから得られた圧力と収縮期血圧についての補正されたTDIの間の強い相関性及び差を示すブランドアルトマン(Bland-Altman)プロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む心臓血管疾患の初期の検出のための動脈の性質を決定する方法であって:
(i)動脈のカラードプラ画像診断からのベロシティディスプレースメントデータを得ること;
(ii)該ベロシティディスプレースメントデータを処理して動脈ディスプレースメントデータを発生させること;
(iii)前記動脈ディスプレースメントデータを血圧データを使用して調整すること;及び
(iv)前記調整された動脈ディスプレースメントデータを分析して動脈の機能を特徴づけることを含む方法。
【請求項2】
前記ベロシティディスプレースメントデータを処理する工程が,時間に関してベロシティディスプレースメントデータを積分することを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ベロシティディスプレースメントデータを処理する工程が,時間に関してのベロシティディスプレースメントデータの積分のために読み取り可能なスプレッドシートを使用することを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記動脈ディスプレースメントデータを調整する工程が,前記動脈ディスプレースメントデータをカフ血圧で割って補正されたディスプレースメントデータを得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記調整されたディスプレースメントデータを分析する工程が,カフ血圧の対数で前記ディスプレースメントデータを割ることにより,前記動脈ディスプレースメントデータを修正することにより,局所の弾性データを発生させることを含む請求項1記載の方法。
【請求項6】
動脈に超音波信号を指向させる超音波信号源;
動脈から反射した,または,動脈を通過した超音波信号を受け取る超音波信号レシーバー;
動脈ディスプレースメントデータを抽出するために超音波信号レシーバーによって受け取られた信号を分析するための手段;
血圧データを得るための手段;
前記血圧データを使用して,前記動脈ディスプレースメントデータを調整するための信号処理手段;及び
前記調整された動脈ディスプレースメントデータを分析して動脈の機能を特徴づける手段
を含む心血管疾病の初期の検出のために血管の性質を決定するための装置。
【請求項7】
前記超音波信号レシーバーによって受け取られた信号を分析するための手段が,時間に関してベロシティディスプレースメントデータを積分するための手段を含む請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記血圧データを得るための手段は,心拡張期と中間の腕のカフ血圧データを測定するための手段を含む請求項6記載の装置。
【請求項9】
前記血圧データを得るための手段が,心拡張期の,及び,平均の腕のカフ血圧データを測定するための水銀圧力計を含む請求項6記載の装置。
【請求項10】
前記調整された動脈ディスプレースメントデータを分析するための手段は,局所の弾性データの形態の血管機能データを発生させる手段を含む請求項6記載の装置。
【請求項11】
前記局所の弾性データを発生させる手段は,カフ血圧の対数で動脈ディスプレースメントデータを割ることにより,圧力調整ディスプレースメントデータを補正するための手段を含む請求項6記載の装置。
【請求項12】
本質的に添付の図面及び/または実施例を参照してここに記載されたように,心血管疾患の早期検出のための局所血管の弾性を調べるための方法。
【請求項13】
本質的に添付の図面及び/または実施例を参照してここに記載されたように,心血管疾患の早期検出のための局所血管の弾性を調べるための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−501030(P2007−501030A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522182(P2006−522182)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/AU2004/001041
【国際公開番号】WO2005/011503
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(500020760)ザ・ユニバーシティ・オブ・クイーンズランド (20)
【Fターム(参考)】