説明

血管病変モデル

【課題】
本発明は、生体における実際の病変部に近似しており、血管拡張術の訓練に好適に使用することができる血管病変モデルを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の血管病変モデルは、硬さが異なる複数の小病変部から形成されていることを特徴とする。
本発明の血管病変モデルにおいて、上記複数の小病変部は、上記血管病変モデルの中心軸方向に沿って延在している第一小病変部と第二小病変部とを含んでおり、
上記第一小病変部は、上記第二小病変部に包囲されていることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管病変モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、狭窄又は閉塞した血管を拡張させることにより、血流を回復させる血管拡張術又は血管形成術(以下、まとめて単に血管拡張術ともいう)が知られている。
【0003】
血管拡張術の一つとして知られている経皮的冠動脈形成術(以下、単にPTCAともいう)では、例えば、次のようにして血流を回復させる。
まず、ガイディングカテーテルの先端部を冠動脈口に固定する。
次に、ガイディングカテーテルの内腔にガイドワイヤを挿入していき、冠動脈の狭窄又は閉塞した病変部までガイドワイヤを進める。
そして、病変部にガイドワイヤを通過させ、病変部を通過したガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテルを病変部まで進める。
最後に、バルーンを拡張させることにより血管壁を押し広げて血流を回復させる。
【0004】
このように、血管拡張術では、病変部にガイドワイヤを通過させることが手術の成否を大きく左右することとなるものの、病変部は硬さの異なる種々の層から形成されており、ガイドワイヤを通過させることができるか否かは手技者の技量によるところが大きい。特に、慢性完全閉塞病変(以下、単にCTOともいう)の場合には、使用するガイドワイヤの選択はもちろんのこと、ガイドワイヤの回転操作等の手技に極めて高度な技術が必要とされる。
【0005】
そのため、手技者の技術を向上させることを目的として、実際の病変部を模した血管病変モデルが種々提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ポリスチレン等のポリマーを円筒状の模擬血管内に充填してなる血管病変モデルが開示されている。
この血管病変モデルは、冠動脈粥腫切除術等の訓練に使用できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−178809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の血管病変モデルは、単一層のポリマーから形成されているため硬さが一様であり、上述した実際の病変部に充分に近似しているとはいえないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、硬さの異なる複数の小病変部から病変モデルを形成することにより、実際の病変部に近似させることができることを見出した。
本発明者らが係る知見に基づいてさらに検討を続けた結果、実際の病変部に近似しており、血管拡張術の訓練に好適に使用することができる本発明の血管病変モデルを完成させた。
【0010】
即ち、本発明の血管病変モデルは、硬さが異なる複数の小病変部から形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の血管病変モデルは、実際の病変部に近似しており、血管拡張術の訓練に好適に使用することができる。
本発明の血管病変モデルの構成及び効果について、以下に図面を用いて詳しく説明する。
【0012】
図1(a)は、模擬血管に収容された本発明の一の実施形態に係る血管病変モデルを模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す血管病変モデルを、その中心軸方向に沿って垂直に切断した断面を模式的に示す垂直断面図である。
図1(c)は、図1(a)に示す血管病変モデルを第一端面側(左端面側)からみた第一端面図であり、図1(d)は、図1(a)に示す血管病変モデルを第二端面側(右端面側)からみた第二端面図である。
【0013】
図1(a)、図1(b)、図1(c)及び図1(d)に示す本発明の血管病変モデル1は、硬さの異なる複数の小病変部である、第一小病変部2aと第二小病変部2bと第三小病変部2cとから形成されている。
なお、図1(a)、図1(b)、図1(c)及び図1(d)では、3個の小病変部(第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2c)から形成されている血管病変モデルを例示しているが、小病変部の個数は複数であればよく、3個に限定されるものではない。
また、第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cは、管状の模擬血管3の内腔を塞いでいるが、模擬血管3は設けられていなくともよい。
【0014】
係る構成を有する本発明の血管病変モデル1では、例えば、第一小病変部2aの硬さを最も柔らかくすることにより軟質病変部を模すことが可能であり、第二小病変部2bの硬さを中程度とすることにより中度病変部を模すことが可能であり、第三小病変部2cの硬さを最も硬くすることにより繊維質病変部を模すことが可能である。
そのため、本発明の血管病変モデル1は、実際の病変部に近似している。
【0015】
本発明の血管病変モデル1は、例えば、血管拡張術の訓練に使用することにより手技者の技術を向上させることができる。
このことについて、以下に説明する。
【0016】
はじめに、実際の手技において、より硬い中度病変部や繊維質病変部にガイドワイヤが迷入した場合には、ガイドワイヤを通過させるために、手技者はガイドワイヤの近位部を回転させたり押し引きしたりする等、複雑な操作を行う必要がある。
【0017】
ここで、本発明の血管病変モデル1を訓練に使用した場合、ガイドワイヤは、最も柔らかい第一小病変部2aから内部に進入することが多い。
しかし、ガイドワイヤの先端柔軟性等の性質の違いや、手技者によるガイドワイヤの操作方法の違いにより、第一小病変部2aのみをガイドワイヤが通過する場合もあるし、途中で湾曲して第二小病変部2bや第三小病変部2cにガイドワイヤが迷入してしまうこともある。
第二小病変部2bや第三小病変部2cにガイドワイヤが迷入した場合、第二小病変部2b及び第三小病変部2cはより硬いので、ガイドワイヤを通過させるためには、手技者が複雑な操作を行う必要がある。
このような状況は上述した実際の手技でも起こりうるため、本発明の血管病変モデル1を血管拡張術の訓練に使用した場合には、手技者の技術を向上させることが可能である。
【0018】
本発明の血管病変モデルにおいて、上記複数の小病変部は、上記血管病変モデルの中心軸方向に沿って延在している第一小病変部と第二小病変部とを含んでおり、上記第一小病変部は、上記第二小病変部に包囲されていることが望ましい。
なお、本明細書において、「血管病変モデルの中心軸」とは、本発明に係る血管病変モデルが模擬血管に収容された場合において、模擬血管の略中心を通って一方の端面側から他方の端面側まで挿通する仮想の軸のことをいうものとする。
【0019】
本発明の血管病変モデルにおいて、上記複数の小病変部は、透明材料から形成されており、上記複数の小病変部のうちで、少なくとも一つの小病変部が着色されていることが望ましい。
【0020】
本発明の血管病変モデルにおいて、上記複数の小病変部は、ゲルから形成されていることが望ましい。
【0021】
本発明の血管病変モデルにおいて、上記ゲルは、多糖類を含む材料から形成されていることが望ましい。
【0022】
本発明の血管病変モデルにおいて、上記ゲルは、アガロースを含む材料から形成されていることが望ましい。
【0023】
本発明の血管病変モデルにおいては、上記複数の小病変部を収容する模擬血管と、
上記模擬血管の第一端面側と第二端面側のうちの少なくとも一の端面側に配設されており、上記模擬血管の内腔壁から上記血管病変モデルの中心軸に向かって突出している停止部材とをさらに有しており、
上記停止部材は、上記複数の小病変部のうちで、少なくとも一つの小病変部に当接していることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(a)は、模擬血管に収容された本発明の一の実施形態に係る血管病変モデルを模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す血管病変モデルを、その中心軸方向に沿って垂直に切断した断面を模式的に示す垂直断面図である。図1(c)は、図1(a)に示す血管病変モデルを第一端面側(左端面側)からみた第一端面図であり、図1(d)は、図1(a)に示す血管病変モデルを第二端面側(右端面側)からみた第二端面図である。
【図2】図2(a)は、模擬血管に収容された本発明の別の実施形態に係る血管病変モデルを、その中心軸方向に沿って垂直に切断した断面を模式的に示す垂直断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示す血管病変モデルを第一端面側(左端面側)からみた第一端面図であり、図2(c)は、図2(a)に示す血管病変モデルを第二端面側(右端面側)からみた第二端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一実施形態)
以下、本発明の血管病変モデルの一実施形態である第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態の血管病変モデルは、上述した本発明の血管病変モデルと同様の構成を有しているため、以下の説明では、図1(a)、図1(b)、図1(c)及び図1(d)を参照しながら説明する。
なお、本発明の血管病変モデルに係る説明と重複する事項については、説明を省略する。
【0026】
図1(a)、図1(b)、図1(c)及び図1(d)に示す本実施形態の血管病変モデル1は、互いに硬さの異なる円柱状の第一小病変部2aと第二小病変部2bと第三小病変部2cとから形成されている。
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cは、管状の模擬血管3の内部に収容されている。
【0027】
第一小病変部2aは円柱状であり、血管病変モデル1の中心軸L方向に沿って延在している。なお、血管病変モデル1の中心軸Lは、既に述べたとおり仮想の軸である。
【0028】
第二小病変部2bは、その内径が第一小病変部2aの外径と略同一である円筒状であり、血管病変モデル1の中心軸L方向に沿って延在している。
第二小病変部2bの内部には、第一小病変部2aが収容されており、第一小病変部2aは第二小病変部2bに包囲されている。
【0029】
第三小病変部2cは、その内径が第二小病変部2bの外径と略同一である円筒状であり、血管病変モデル1の中心軸L方向に沿って延在している。
第三小病変部2cの内部には、第一小病変部2a及び第二小病変部2bが収容されており、第一小病変部2a及び第二小病変部2bは第三小病変部2cに包囲されている。
また、第三小病変部2cの外周面は、模擬血管3の内腔壁に接している。
【0030】
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cは、透明材料から形成されていることが望ましい。
具体的には、第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cは、透明材料であるゲルから形成されていることがより望ましい。
【0031】
上記ゲルの材料としては、例えば、アガロース、デンプン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン化セルロース等を挙げることができる。
これらのなかでは、多糖類を含む材料(アガロース、デンプン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン化セルロース)であることがより望ましい。
特に、上記ゲルの材料としては、アガロースを含む材料であることがさらに望ましい。
上記ゲルは、水や生理食塩水等の溶媒を上記ゲルの材料に適量吸収させることにより調製することができる。
【0032】
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cがゲルから形成されている場合、第一小病変部2aの硬さは、5000〜6000gf/cmであり、第二小病変部2bの硬さは、7000〜8000gf/cmであり、第三小病変部2cの硬さは、9000〜10000gf/cmであることが望ましい。
ゲルから形成された第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cの硬さが上記範囲内にあると、第一小病変部2aが軟質病変部に近似し、第二小病変部2bが中度病変部に近似し、第三小病変部2cが繊維質病変部に近似することとなり、血管病変モデル1を血管拡張術の訓練に特に好適に使用することができる。
なお、本明細書において、ゲルの硬さ(gf/cm)は、JIS K 6503により測定した値を示すものとする。
【0033】
ゲル以外の透明材料としては、例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックの共重合体、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンの共重合体、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレンの共重合体、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンの共重合体からなる群から選択される1種または2種以上の共重合体の混合物からなるポリマーと、上記ポリマーを軟化させる軟化剤とを含有するものが挙げられる。
上記軟化剤としては、ゴム配合油を好適に使用することができ、特にプロセスオイルを好適に使用することができる。プロセスオイルとしては、特に限定されず、パラフィン系、ナフテン系および芳香族系のうちの何れを用いてもよく、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他、シリコーン粘土、ゴム粘土、樹脂粘土又は油粘土等であってもよい。
【0034】
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cのうちで、少なくとも一つの小病変部は着色されていることが望ましい。
例えば、第一小病変部2aが赤や青等の顔料や染料等により着色されており、第二小病変部2b及び第三小病変部2cが着色されていない実施形態であってもよく、第一小病変部2a及び第二小病変部2bが着色されており、第三小病変部2cが着色されていない実施形態であってもよく、第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cがすべて着色されている実施形態であってもよい。
また、二つ以上の小病変部が着色されている場合には、互いに同じ色で着色されていてもよいし、互いに異なる色で着色されていてもよい。
【0035】
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cを収容する模擬血管3は、必ずしも設けられている必要はないが、模擬血管3が設けられている場合には、実際の病変部により近似させることができる。
【0036】
模擬血管3の材質としては、例えば、シリコーンエラストマー、シリコーンゲルのようなシリコーンゴム、ポリウレタンエラストマー、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂のような熱硬化性樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンのような熱可塑性樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの材料から形成された模擬血管3は、透明性に優れ、しかも実際の血管(例えば、冠動脈)に柔軟性等の性質が近似する。
これらの材料の中では、特に、シリコーンゴムを用いるのが好ましい。
【0037】
模擬血管3における第一端面3a側と第二端面3b側のうちの第二端面3b側には、停止部材4が配設されている。
停止部材4は、その外径が模擬血管3の内径と略同一であり、その内径が第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cからなる複数の小病変部の外径より若干小さいリング状である。
模擬血管3の内腔壁に固定された停止部材4は、模擬血管3の内腔壁から血管病変モデル1の中心軸Lに向かって突出しており、第三小病変部2cに当接している。
なお、停止部材4は、複数の小病変部のうちで、少なくとも一つの小病変部に当接していればよく、例えば、第二小病変部2bや第三小病変部2cに当接していてもよい。
また、停止部材4の材質としては、例えば、ポリエチレン等のポリマーであってもよいし、ステンレス等の金属であってもよい。
また、停止部材4は、第一端面3a側のみに配設されていてもよいし、第一端面3a側及び第二端面3b側に配設されていてもよい。停止部材4は配設されていることが好ましいが、配設されていなくともよい。
【0038】
本実施形態の血管病変モデルは、例えば、以下のようにして製造することができる。
なお、ここでは、小病変部の材料としてアガロースゲルを使用する場合について説明する。
【0039】
(1)第一小病変部の作製
硬化後の第一小病変部の硬さが所望の硬さとなるように、所定量の溶媒(水等)と所定量のアガロース粉末とを混合し、加熱しながら均一に撹拌することによりアガロースを溶媒に分散させた混合物を調製する。この際、混合物には、所望の顔料や染料等を加えることにより混合物を着色してもよい。
上記混合物を円柱状の内腔を有する金型に流し込み、冷却することにより円柱状の第一小病変部を作製する。
【0040】
(2)第二小病変部の作製
硬化後の硬さが第一小病変部と異なるように溶媒量及びアガロース粉末量を変更すること以外は、工程(1)と同様の工程を経ることにより混合物を調製する。別途、工程(1)で使用した金型よりも内腔が大きい金型を準備する。
工程(1)で作製した第一小病変部を予め金型内に設置しておき、第一小病変部の外周を包囲するように上記混合物を金型内に流し込む。
その後、金型を冷却することにより、第一小病変部と第一小病変部を包囲している第二小病変部とからなる中間体を作製する。
【0041】
(3)第三小病変部の作製
硬化後の硬さが第一小病変部及び第二小病変部と異なるように溶媒量及びアガロース粉末量を変更すること以外は、工程(1)と同様の工程を経ることにより混合物を調製する。別途、工程(2)で使用した金型よりも内腔が大きい金型を準備する。
工程(2)で作製した中間体を予め金型内に設置しておき、中間体の外周を包囲するように上記混合物を金型内に流し込む。
その後、金型を冷却することにより、第一小病変部と、第一小病変部を包囲している第二小病変部と、第二小病変部を包囲している第三小病変部とからなる本実施形態の血管病変モデルを製造する。
【0042】
製造した血管病変モデルは、血管病変モデルの外径と内径が略同一である管状の模擬血管内に挿入してもよい。
また、必要に応じて、模擬血管の第二端面側及び/又は第二端面側に停止部材を配設してもよい。
【0043】
以下、第一実施形態の血管病変モデルの効果を列挙する。
【0044】
(1)本実施形態の血管病変モデルは、硬さが異なる第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部から形成されており、血管病変モデルの中心軸方向に沿って延在している第一小病変部が第二小病変部に包囲されているため、生体における実際の病変部により近似しており、血管拡張術の訓練に使用した場合には、手技者の技術向上に充分に寄与することができる。
【0045】
(2)第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部が透明材料から形成されている場合には、血管拡張術の訓練を外部から観察しやすい。
特に、少なくとも一つの小病変部が着色されている場合には、血管拡張術の訓練を外部からより観察しやすい。
【0046】
(3)第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部がゲルから形成されている場合には、水等の溶媒の添加によって硬さを容易に変化させることができるので、硬さの設計の自由度が高くなり、生体における実際の病変部によく近似させることができる。
ゲルが多糖類を含む材料から形成されている場合には、溶媒の添加による硬さの調整が特に容易であり、係る効果を好適に享受することができる。なかでも、ゲルがアガロースを含む材料から形成されていると、係る効果をより好適に享受することができる。
【0047】
(4)模擬血管の内側方向に突出している停止部材が形成されているので、第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部に対して中心軸方向に沿って押込力や引張力が加わった場合であっても、第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部が停止部材で停止し、初期位置から位置ずれしにくい。
【0048】
(第二実施形態)
以下、本発明の血管病変モデルの一実施形態である第二実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態の血管病変モデルは、複数の小病変部の第一端面と第二端面のうちの少なくとも一つの端面に上記端面を覆っている円錐状のキャップ部材が形成されていること以外は、本発明の第一実施形態で説明した血管病変モデルと同様の構成を有している。
従って、本発明の第一実施形態の血管病変モデルについての説明と重複する事項については、説明を省略する。
【0049】
図2(a)は、模擬血管に収容された本発明の別の実施形態に係る血管病変モデルを、その中心軸方向に沿って垂直に切断した断面を模式的に示す垂直断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示す血管病変モデルを第一端面側(左端面側)からみた第一端面図であり、図2(c)は、図2(a)に示す血管病変モデルを第二端面側(右端面側)からみた第二端面図である。
【0050】
図2(a)及び図2(b)に示す本実施形態の血管病変モデル1は、硬さの異なる円柱状の第一小病変部2aと第二小病変部2bと第三小病変部2cとから形成されており、第一小病変部2aと第二小病変部2bと第三小病変部2cとは、管状の模擬血管3の内部に収容されている。
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cの詳細な構成については、第一実施形態の血管病変モデルと同様である。
【0051】
第一小病変部2a、第二小病変部2b及び第三小病変部2cの第一端面2dと第二端面2eのうちの少なくとも一つの端面には、上記端面を覆っている円錐状のキャップ部材5が形成されている。図2(a)及び図2(b)に示す例では、第一端面2dを第一キャップ部材5aが覆っており、第二端面2eを第二キャップ部材5bが覆っている。
【0052】
より具体的に説明すると、第一キャップ部材5aの頂点は、第一小病変部2aの第一端面2dに当接しており、第一キャップ部材5aの底面は、血管病変モデル1の第一端面を形成している。第一キャップ部材5aと複数の小病変部との隙間は、第一隙間部材6aにより充填されている。
【0053】
第二キャップ部材5bの頂点は、第一小病変部2aの第二端面2eに当接しており、第二キャップ部材5bの底面は、血管病変モデル1の第二端面を形成している。
第二キャップ部材5bと複数の小病変部との隙間は、第二隙間部材6bにより充填されている。
【0054】
第一キャップ部材5a、第二キャップ部材5b、第一隙間部材6a及び第二隙間部材6bの材料は、第一実施形態の血管病変モデルにおける小病変部の材料と同様である。
【0055】
第一キャップ部材5a及び第二キャップ部材5bの硬さは、第一小病変部2a、第二小病変部2b、第三小病変部2c、第一キャップ部材5a、第二キャップ部材5b、第一隙間部材6a及び第二隙間部材6bのなかでは最も硬い。
例えば、第一キャップ部材5a及び第二キャップ部材5bの硬さは、10000gf/cmを超えることが望ましい。
【0056】
本実施形態の血管病変モデルにおいても、第一実施形態の血管病変モデルと同様に、少なくとも一つの小病変部が着色されていることが望ましい。
また、模擬血管の第一端面側と第二端面側のうちの少なくとも一の端面側に配設された停止部材をさらに有していてもよい。
【0057】
本実施形態の血管病変モデルは、第一実施形態の血管病変モデルの製造方法における工程(3)を経た後、下記工程(4)を引き続き行うことにより製造することができる。
【0058】
(4)第一キャップ部材及び第二キャップ部材の作製
第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部の第一端面に、硬化後に第一隙間部材となる混合物を充填し、別途作製した円錐状の第一キャップ部材を嵌め込む。
同様にして、第一小病変部、第二小病変部及び第三小病変部の第二端面に、硬化後に第二隙間部材となる混合物を充填し、別途作製した円錐状の第二キャップ部材を嵌め込む。
その後、冷却することにより、本実施形態の血管病変モデルを製造することができる。
なお、第一キャップ部材及び第二キャップ部材は、第一実施形態の工程(1)で説明した混合物を所定形状の金型に流し込んだ後、冷却することにより作製することができるが、硬化後の硬さが最も硬くなるように溶媒量とアガロース粉末量とを変更した混合物を使用する。
また、硬化後に第一隙間部材となる混合物、及び、硬化後に第二隙間部材となる混合物については、第一実施形態の工程(1)で説明した混合物と同様の組成の混合物を使用することができる。
【0059】
以下、第二実施形態の血管病変モデルの効果を列挙する。
本実施形態の血管病変モデルでも、上述した第一実施形態の効果(1)〜(4)を発揮することができる。
また、以下の効果(5)についても発揮することができる。
【0060】
(5)複数の小病変部等のなかで最も硬い第一キャップ部材及び第二キャップ部材が、複数の小病変部の第一端面及び第二端面を覆っている。係る血管病変モデルは、生体における実際のCTO病変部に特によく近似しているため、本実施形態の血管病変モデルはCTO病変部に対する血管拡張術の訓練に好適に使用することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
本発明の血管病変モデルにおいて、各々の小病変部の形状は、上述した円柱状又は円筒状のように、血管病変モデルの中心軸に沿って延在している形状であってもよいし、円柱状又は円筒状であって、血管病変モデルの中心軸から外側(模擬血管側)に向かって分岐した側枝を一個又は複数個有する形状であってもよい。
また、各々の小病変部の形状は、図1(b)及び図2(a)に示すように第一端面側から第二端面側に向かって直線状に延在していてもよいし、第一端面側から第二端面側に向かって蛇行していてもよい。
その他、複数の小病変部の内部に、略球状の硬質部や軟質部が点在していてもよい。
これらの形状の小病変部を有する血管病変モデルは、生体における実際の病変部に特によく近似することとなるので好ましい。
【0062】
本発明の血管病変モデルにおいて、複数の小病変部の第一端面の形状は、図1(a)、図1(b)及び図2(a)に示すように平坦であってもよいし、第一端面の中央部分が凹状に陥没していてもよい。同様に、複数の小病変部の第二端面の形状は、平坦であっても、第二端面の中央部分が凹状に陥没していてもよい。
このような形状の小病変部を有する場合には、生体における実際の病変部に特によく近似することとなるので好ましい。
【0063】
本発明の血管病変モデルにおいて、複数の小病変部の第一端面及び/又は第二端面には、内部に向かって進展するスリットが形成されていてもよい。係るスリットは、CTO病変部におけるマイクロチャンネルを模しており、このような血管病変モデルは、生体における実際のCTO病変部に特によく近似しているため、CTO病変部に対する血管拡張術の訓練に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 血管病変モデル
2a 第一小病変部
2b 第二小病変部
2c 第三小病変部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬さが異なる複数の小病変部から形成されていることを特徴とする血管病変モデル。
【請求項2】
前記複数の小病変部は、前記血管病変モデルの中心軸方向に沿って延在している第一小病変部と第二小病変部とを含んでおり、
前記第一小病変部は、前記第二小病変部に包囲されている請求項1に記載の血管病変モデル。
【請求項3】
前記複数の小病変部は、透明材料から形成されており、
前記複数の小病変部のうちで、少なくとも一つの小病変部が着色されている請求項1又は2に記載の血管病変モデル。
【請求項4】
前記複数の小病変部は、ゲルから形成されている請求項3に記載の血管病変モデル。
【請求項5】
前記ゲルは、多糖類を含む材料から形成されている請求項4に記載の血管病変モデル。
【請求項6】
前記ゲルは、アガロースを含む材料から形成されている請求項5に記載の血管病変モデル。
【請求項7】
前記複数の小病変部を収容する模擬血管と、
前記模擬血管の第一端面側と第二端面側のうちの少なくとも一の端面側に配設されており、前記模擬血管の内腔壁から前記血管病変モデルの中心軸に向かって突出している停止部材とをさらに有しており、
前記停止部材は、前記複数の小病変部のうちで、少なくとも一つの小病変部に当接している請求項1〜6のいずれかに記載の血管病変モデル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−189909(P2012−189909A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54773(P2011−54773)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】