説明

衛星によるデータ収集システム

【課題】GPS付き携帯電話クラスの小型軽量な小型端末機能を持つセンサからの発信信号により、早急かつ確実な衛星によるデータ収集を可能とするシステムを提供する。
【解決手段】衛星12に受信性能の優れた大型反射鏡アンテナ13を搭載し、海洋、山岳等に配置される各種環境観測センサ11からの観測データの効率的収集を可能とするシステムである。環境観測センサ11は、所定の環境データ観測機能のほか、GPS付き携帯端末と同じ大きさ及び送受信機能を具備しており、環境観測データを環境観測センサの配備される位置情報に対応したデータとして取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星によるデータ収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳や海洋等からの環境観測データ収集は、これまで、海洋の場合について言えば、海洋に置かれた大型のブイなどに設置された各種センサからの発信信号によりデータ収集を行っていた。このようなデータ収集を実現する既存システムとして、衛星を用いたデータ収集システムがある(特許文献1)。このデータ収集システムではブイに設置されたセンサからの発信信号を衛星で中継して地上局に伝送する。地上局では、衛星からのデータを受信してデータ収集を行い、収集したデータの解析/分析を行う。
【0003】
しかし、これまでの衛星によるデータ収集では、衛星アンテナのカバーするエリアからの信号検出ができるのみで、センサを搭載したブイの位置は特定できないという短所があった。また、衛星の受信能力が不十分で、大きな送信電力がブイ側に必要であり、システム構築上の障害となるとともに、ブイの大型化によりコスト高となっていた。
【0004】
これらの理由により、衛星を利用したこれまでのデータ収集システムは改善すべき課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−21778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、これまでのデータ収集システムの欠点を改善すべく、一般に流布しつつあるGPS付き携帯電話クラスの小型軽量な小型端末機能を持つセンサからの発信信号により、早急かつ確実な衛星によるデータ収集システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は衛星通信回線を利用したセンサ情報収集システムであって、衛星に受信感度の大きい大型反射鏡アンテナを搭載し、GPS付き携帯電話(GPS付き携帯端末)クラスの大きさ及び送信能力を有する小型端末の機能を持つセンサからのセンサ信号の受信を可能とし、センサネットワーク構築の成立性、利便性、低コスト化を大幅に向上させたものであり、以下の構成、機能を含む。
【0008】
a.衛星に搭載した大型反射鏡アンテナにより、GPS付き携帯電話クラスの小型端末の機能(送受信機能)及び温度、圧力等の所定の環境データ観測機能を持つセンサからのセンサ信号が受信可能であること。
b.センサ信号はGPS機能により得られたセンサの位置情報を含むこと。
c.センサ信号はGPS機能により得られたセンサのGPS時刻を含むこと。
d.センサ信号の受理等の状況を通知するセンサへの逆方向通信回線を含むこと。
e.センサへの逆方向通信には、センサからの間欠的送信を指定する発信タイミング情報を含むこと。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、GPS付き携帯電話クラスと同程度の大きさ及び送受信機能と所定の環境データ観測機能を持つ端末として機能する小型軽量なセンサからの発信により、センサの製作、設置に関する負担を大幅に軽減化すると共に、センサの高精度位置情報により、早急かつ確実な衛星によるデータ収集システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態によるデータ収集システムの構成を説明するための図である。
【図2】図1の静止衛星に搭載される、本発明の実施の形態による大型反射鏡アンテナの一例を示した図である。
【図3】GPS付き携帯電話クラスの大きさ及び送受信能力を有する小型端末としての機能を持つ地球環境観測センサの実施の形態を示した図である。
【図4】図3に示された地球環境観測センサの概略構成の一例を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態において地球環境観測センサと静止衛星との間でやり取りされるセンサ信号、センサ信号確達信号のデータ構造の例を示した図である。
【図6】サービス事業者が、本発明の実施の形態によるデータ収集システムにより得られた観測データをユーザに提供するサービスを展開する場合について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るデータ収集システムは、衛星に搭載した受信性能の優れた大型反射鏡アンテナにより、海洋、山岳等に配備された地球環境観測センサからのセンサ信号を受信する。衛星は受信したセンサ信号を地上局に送信する。地上局では、受信信号に含まれる地球環境観測データのほか、GPS測位による地球環境観測センサの位置情報、取得GPS時刻等の情報に基づき、有用性が高く、効率的な観測データを収集する。すなわち、環境観測データが地球環境観測センサの配備される位置情報及び取得時刻情報に対応したデータとして取得される。
【0012】
なお、センサ信号として、例えば従来の406MHz帯の信号を使用することは必須ではなく、衛星移動体通信に割り当てられている周波数帯の利用が可能である。センサ信号の送信は、衛星から地球環境観測センサに向けて送信されるセンサ信号確達信号により地球環境観測センサに対して指示するタイミングで間欠的に行うことができるので、多数の地球環境観測センサが存在していても情報が輻輳(衝突)することはないように制御される。このような制御は、地上局の制御部からの指示を衛星で中継しセンサ確達信号として地球観測センサに送信することで実行される。
【0013】
本発明は、海洋、山岳等に配備されGPS付き携帯電話(携帯端末)クラスの大きさ及び送信電力並びに受信機能を持つGPS付き小型端末(携帯端末)としての機能を持つ地球環境観測センサからのセンサ信号(観測信号)を受信するために、衛星に大型反射鏡アンテナを搭載したデータ収集システムであり、以下の構成要件を備える。
【0014】
(1)衛星にセンサ信号の受信性能向上のための、大型反射鏡アンテナを備える。
【0015】
大型反射鏡アンテナは、数m級のものではなく、10m以上、好ましくは10〜30m級の大型反射鏡を備える。このような大型反射鏡は、衛星と共にロケットにより打ち上げられ、ロケットへの収納時は、衛星と共にフェアリング内に収まるように折り畳んで収納され、宇宙空間の所定軌道に到達後、軌道上で所望の形状(パラボラ)に展開される。展開後、大型反射鏡アンテナは、地球環境観測センサが存在する地球上の所望の領域を指向するようにされる。
【0016】
(2)海洋、山岳に配備される地球環境観測センサは、これを搭載するためのブイとしてこれまでのような大型のものを必要とせず、GPS付き携帯電話クラスの小型端末程度の大きさと送信電力及び温度、圧力等の所定の環境データ観測機能を有する。
【0017】
(3)地球環境観測センサは、小型端末と同様の通信機能のほか、GPS受信機能、測位機能、GPS補強信号受信機能を有する。
【0018】
(4)地球環境観測センサから送信されるセンサ信号はアップリンク回線により大型反射鏡アンテナで受信されこれを搭載した衛星を経由して地上局で受信・収集される。なお、衛星と地球環境観測センサとの間の通信は、センサ信号を受信したことを示すセンサ信号確達情報を含む信号を逆方向の回線(ダウンリンク回線)により、地球環境観測センサに送信する機能を含む。このセンサ信号確達情報は、衛星におけるセンサ信号受信完了を報知する情報のほか、地球環境観測センサに対する送信タイミングの指示情報などを含む。
【0019】
以下に本発明の実施の形態を理論面と実際面について説明する。
【0020】
[理論面での説明]
海洋、山岳に配備された地球環境観測センサからのセンサ信号が衛星で受信される信号レベルSは、下記の式(1)で表すことができる。
【0021】
S=P・G・Gs・{(λ/4)・π・L} (1)
式(1)において、Pは地球環境観測センサの送信電力、Gは地球環境観測センサ側のアンテナ利得である。Lはセンサ信号の伝搬距離、λはセンサ信号の送信信号波長、Gsは衛星のアンテナ利得である。
【0022】
地球環境観測センサ側を軽量化するために、送信電力P及びアンテナ利得Gを小さくすると、同一受信電力を得るためには、衛星側のアンテナ利得Gsを大幅に向上させる必要がある。一般衛星のアンテナ利得はアンテナ開口径の2乗に比例し、アンテナ利得増加のためには大型アンテナを搭載することが必要である。
【0023】
大型反射鏡アンテナは、衛星の打ち上げ時には、反射鏡を折り畳み状態にしてロケットのフェアリングに収納し、折り畳み状態の反射鏡を衛星軌道上で展開する形式が一般的である。反射鏡には、展開に適したメッシュタイプを用いる。これまでのデータ収集システムでは、その構築時に衛星に搭載する大型反射鏡の実現性が確立されておらず、(1)式のアンテナ利得Gsが小さいものであったために、地球環境観測センサの送信系を大型化せざるを得ない状況にあった。
【0024】
センサ信号による情報収集の確実性を高めるには、地球環境観測センサの位置特定が重要である。本実施の形態によるデータ収集システムでは、地球環境観測センサから発信するセンサ信号には、GPSによる測位情報(地球環境観測センサの位置情報)や時刻情報(データ取得時刻)等が含まれる。これにより、地球環境観測センサの位置計測は約1〜5mのオーダーで可能となり、地上局での地球環境監視情報と地理的情報との対応付けが可能となる。
【0025】
これまでのデータ収集方式ではGPSによる測位情報がなく、計測された位置に大きな誤差があり収集されたデータの解析/分析を困難なものとしていた。これに対し、場所が既知であるGPSモニタ局からの情報に基づき、測位精度を向上させるためにGPS補強信号を利用することが知られている。そこで、本実施の形態によるデータ収集システムにおける地球環境観測センサは、このGPS補強信号を利用して高精度の測位情報を得ることができるようにしている。
【0026】
さらに、GPS補強信号を重畳することのできる、後述するセンサ信号確達信号を用いることにより、衛星でのセンサ信号の受理確認を地球環境観測センサ側に送信したり、地球環境観測センサ側にセンサ信号発信のタイミングを指定したりすることができるため、効率的、高信頼性のデータ収集ネットワークを構築できる。
【0027】
[実際面での説明]
図1に本発明の実施の形態によるデータ収集システムの概略構成を示す。本データ収集システムは、地球環境観測センサ11、静止衛星12、静止衛星12に搭載される大型反射鏡アンテナ13(図2)、地球環境観測地上局14、GPS管制局15から構成されている。図1では、地球環境観測センサ11を1個のみ示しているが、1個以上の地球環境観測センサが海洋や山岳に配備される。海洋に配備する場合には、ブイ等に設置されるが、これまでのような大型のブイを必要としない。
【0028】
地球環境観測センサ11で計測され送信された、温度、その他の計測情報を含むセンサ信号、その他の地球環境観測センサからのセンサ信号は、静止衛星12に搭載された大型反射鏡アンテナ13で逐次受信され、静止衛星12経由でまとめて地球環境観測地上局14に送信される。地球環境観測地上局14では受信したセンサ信号を処理して観測データを作成する。この観測データは、天気予報、災害予測、その他の各種サービス提供に利用される。GPS管制局15はGPS信号を送信する。
【0029】
図3にGPS付き携帯電話クラスの大きさ及び送受信能力を有する小型端末としての機能を持つ地球環境観測センサの実施の形態を示す。本地球環境観測センサ20は、携帯電話機として提供されているものと同様の機器で実現することができる。それゆえ、地球環境観測センサ20と静止衛星26との間でやり取りされるセンサ信号、センサ信号確達信号はそれぞれ図5に示すデータ構造を持つ。
【0030】
図5(a)に示すように、センサ信号は、プレアンブルと、ターミナルID(Identification Data)と、GPSによる位置情報や時刻情報と、温度、その他の計測情報と、ポストアンブルと、からなるデータ構造を持つ。
【0031】
一方、図5(b)に示すように、センサ信号確達信号は、プレアンブルと、ターミナルIDと、測位精度向上のためのGPS補強信号と、暗号化されたセンサ信号確達情報と、ポストアンブルと、からなるデータ構造を持つ。前述したように、センサ信号確達情報は、衛星におけるセンサ信号受信を知らせるほか、地球環境観測センサに対する送信タイミングの指示情報などを含む。なお、センサ信号確達情報だけでなく、図5(a)、(b)の各情報も必要に応じて暗号化されても良いことは言うまでも無い。
【0032】
図4は図3に示された地球環境観測センサ20の概略構成の一例を示す。地球環境観測センサ20は、センサ部21、送受信部22、アンテナ部23、分岐部24のほか、バッテリー(図示省略)を内蔵する。送受信部22は、GPS信号受信部22−1、センサ信号送信部22−2、確達信号受信部22−3からなる。センサ部21は、計測機能だけでなく、GPS信号、確達信号の解読機能、計測情報を送信に必要な形式に変換、構成する機能、送受信部22を制御する機能、バッテリーセービング機能等を有する。
【0033】
図6は、サービス事業者が、本データ収集システムにより得られた観測データをユーザに提供するサービスを展開する場合について説明するための図である。
【0034】
インフラ提供事業者31は、衛星の発注、維持管理、運用を行うインフラを提供し、サービス提供事業者32は、このインフラに基づきセンサ情報収集を行う。GPS補強信号生成事業者33は、サービス提供事業者32に対してGPS補強信号の生成、発信、管理を行う。ユーザ34は、サービス提供事業者32から地球環境観測データの提供サービスを受けるために、サービス提供事業者32に対し、本機能を有する自分のIDを登録し、サービス料を支払う。サービス提供事業者32はこれを管理する。
【符号の説明】
【0035】
11、20 地球環境観測センサ
12 静止衛星
14 地球環境観測地上局
15 GPS管制局
21 センサ部
22 送受信部
23 アンテナ部
24 分岐部
31 インフラ提供事業者
32 サービス提供事業者
33 GPS補強信号生成事業者
34 ユーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS付き携帯端末と同じGPS付き端末機能を有すると共に所定の環境データ観測機能を有し、観測した環境データを含む信号をセンサ信号として送信する環境観測センサと、
10mを超える反射鏡アンテナによる送受信機能を備え、前記環境観測センサと地球局との間で通信を行なう衛星と、
前記衛星を経由して送られてくる1つ以上の前記環境観測センサからの環境データを収集する地球局と、を含む衛星によるデータ収集システム。
【請求項2】
前記反射鏡アンテナは折り畳み式であることを特徴とする請求項1に記載の衛星によるデータ収集システム。
【請求項3】
前記センサ信号にはGPS受信に基づく測位情報及びGPS時刻が載せられることを特徴とする請求項1又は2に記載の衛星によるデータ収集システム。
【請求項4】
前記衛星から前記環境観測センサに対してセンサ信号確達信号が送信され、該センサ信号確達信号は、前記環境観測センサからのセンサ信号の受信完了を報知する情報を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の衛星によるデータ収集システム。
【請求項5】
前記センサ信号確達信号は更に、前記環境観測センサにおけるセンサ信号の送信タイミングを指示する情報を含むことを特徴とする請求項4に記載の衛星によるデータ収集システム。
【請求項6】
前記センサ信号確達信号は更に、測位精度向上のためのGPS補強信号を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の衛星によるデータ収集システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−221206(P2012−221206A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86005(P2011−86005)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301072650)NEC東芝スペースシステム株式会社 (62)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】