説明

衛星航法受信機

【課題】第1の変調コードの相関処理結果に基づいて、第2の変調コードの相関処理効率を向上させ、且つ、第1の変調コードの相関ピークを誤検出した場合であっても、第2の変調コードの相関ピークを確実に行うことができる衛星航法受信機を提供する。
【解決手段】第1の相関処理部4で検出した第1の変調コード(L1C/Aコード)のコード位相を用いて第2の変調コード(L2CMコード)の相関ピークを検出する際に、探索範囲分割部7が第2の変調コード(L2CMコード)の全コード長を複数のセルに分割する。次に、L2探索位相算出部8が第1の相関処理部4で検出したコード位相から第2の変調コード(L2CMコード)のコード位相の探索候補点を算出する。探索順序決定部8は、コード位相の探索候補点に基づいて分割されたセルの探索順序を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGNSS(Global Navigation Satellite System)の測位用信号を受信して測位を行う衛星航法受信機において、特に一方の信号の相関処理結果に基づいて、他方の信号の相関処理効率を向上させる衛星航法受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、GPS(Global Positioning System)は、L1とL2の2つの周波数の電波を放送している。L1には民生用CAコードと軍事用Pコードで変調されたL1C/Aが、L2にはPコードで変調されたL2P(Y)が存在する。また、米国はGPSをさらに高精度化するためにGPSの近代化政策を打ち出しており、L2にはL2Cと呼ばれる信号が追加され、近くL5と呼ばれる信号が追加される予定である。L2Cは、L2CMコードとL2CLコードという2種類の擬似雑音コードが時分割で乗ぜられており、L2CMコードの部分にはさらに航法データと呼ばれる衛星の軌道情報や時刻情報がBPSK(Bi-Phase Shift Keying)によって乗ぜられている。
【0003】
ところで、測位用衛星と受信機間の距離である擬似距離を求めるためには、測位用信号を逆拡散して擬似雑音コードの位相を知る必要がある。 前述のL2Cコードを逆拡散するためには、時分割されたL2CMとL2CLの部分を独立にサンプリングし、各々独立に相関を取る必要がある。この際、受信機の内臓時計と測位用衛星のシステム時計は同期が取れていないため、逆拡散できる真のコード位相を検出するには、L2CM、L2CLのコード長全域をスキャンして真のコード位相を探索する必要がある。
【0004】
一般に信号の逆拡散は、コード長が長くなるに従って相関処理の回数が多くなり、その処理に要する時間が増大する。従来、L1C/A用受信機では、L1C/Aコードのコード長が1023チップであるため、比較的短時間で信号の逆拡散を行うことができる。しかしながら、L2CMコード、L5コードのコード長はL1C/Aコードの10倍の10230チップ、L2CLコードのコード長はL1C/Aコードの750倍の767250チップである。そのため、L2CMやL2CLの相関処理に要する時間は、L1C/Aの相関処理に比べ、長時間を要する。
【0005】
この問題を解決するための手法の1つとして、特許文献1に記載されているような信号間の捕捉支援機能を用いた技術がある。
【0006】
特許文献1は、先に検出された短い繰返し周期の変調コードの相関ピーク情報に基づいて、長い繰返し周期の変調コードの相関ピークの探索範囲を、先に検出した相関ピークのごく近傍のみに限定する技術を開示している(例えば、特許文献1[0028])。この技術によれば、一方の変調コードの相関ピーク値を検出できれば、他方の変調コードの相関ピーク値の探索範囲を限定することが出来るため、両変調コードのコード長全域をスキャンする場合に比べ信号の逆拡散に要する処理時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0007】
また、信号間の捕捉支援機能としては、従来から、L1C/Aコードの相関ピークを検出した後、P(Y)コードの探索範囲を限定するという手法も広く用いられている(例えば、特許文献1の段落番号[0034])。
【0008】
このような信号間の捕捉支援機能を用いれば、コード長全域をスキャンする場合に比べ、信号の逆拡散に要する処理時間を大幅に短縮することが可能になる。
【特許文献1】特開2005−265476号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、クロスコリレーションなどの原因によりL1C/Aの相関ピークが誤って検出されることがある。このような場合、特許文献1に開示の技術では、いつまで経ってもL2Cの相関ピークが検出できない。 つまり、特許文献1では、L1C/Aの相関ピーク情報を用いて、L2CM、L2CLの相関ピークの探索範囲を限定しているため、L2CM、L2CLのコード長全域がスキャンされることはない。そのため、L1C/Aの相関ピークが誤検出された場合には、L2Cの相関ピークを求めることができない。
【0010】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、信号間の捕捉支援機能を使用して効率良く相関処理を行うことができるとともに、一方の信号の相関ピークを誤検出した場合であっても、常に、他方の信号の相関ピークを求めることができる衛星航法受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、第1の変調コードによってスペクトル拡散された第1の測位用信号を受信する第1の受信部と、前記第1の測位用信号と異なる変調コードでスペクトル拡散された第2の測位用信号を受信する第2の受信部と、受信した前記第1の測位用信号の相関処理を行う第1の相関処理部と、前記第1の相関処理部で検出したコード位相に基づいて、前記第2の測位用信号と前記第2の変調コードとの相関がピークとなるコード位相の候補点を算出する第2の変調コード探索位相算出部と、第2の変調コードの全コード長に相当する探索範囲をn(n:2以上の整数)個のセルに分割する探索範囲分割部と、前記コード位相の候補点に基づいて、前記分割されたセルの探索順序を決定する探索順序決定部と、受信した前記第2の測位用信号の相関処理を、前記探索順序決定部により決定された探索順序に従って行う第2の相関処理部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記探索範囲分割部は、セルのセル幅を前記コード位相の候補点に基づいてセル毎に異なるようにしてもよい。特に、前記探索範囲分割部が前記コード位相の候補点を含むセルを、前記コード位相の候補点を含まないセルより狭いセル幅とし、前記探索順序決定部が、前記コード位相の候補点を含むセルから探索が行われるように前記分割されたセルに探索順序を与えることにより、相関ピークが検出される可能性の高い探索範囲を優先的に探索することができるため、速度の高速化を図ることが可能になる。
【0013】
前記探索範囲分割部によるセル幅の決定手法としては、例えば、前記コード位相の候補点から離れるにつれて順にセル幅が広くなるように各セルの探索範囲を設定する手法がある。
【0014】
また、前記探索範囲分割部は、前記第1の相関処理部で検出したコード位相の信頼度に基づいて、分割セル数である前記nの値、或いは前記セルのセル幅を決定するようにしてもよい。なお、前記信頼度は、第1の測位用信号のS/N比や、第1の測位用信号に乗ぜられた航法メッセージの復調結果から算出することが可能である。
【0015】
また、前記探索範囲分割部は、衛星と受信機間に生じるドップラ周波数に基づいて、前記セルの境界位置、或いは前記セルのセル幅を決定するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明は、衛星と受信機間に生じるドップラ周波数に基づいて、前記第2の相関処理部で相関処理を行う際の探索方向を決定するコード探索方向決定部をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、前記第2の相関処理部は、前記第1の相関処理部でコード位相を検出した際の搬送波周波数情報を用いて、前記第2の測位用信号と前記第2の変調コードとのキャリア相関を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第2の変調コードの全コード長を複数のセルに分割するとともに、第1の変調コードで検出したコード位相から第2の変調コードのコード位相の候補点を算出し、該算出した第2の変調コードのコード位相の候補点に基づいて、探索するセルの優先順位付けを行うことにより、第2の変調コードのコード位相の検出確率の高いセルから優先的に相関処理を行うことが可能になる。また、仮に第1の変調コードに対する相関処理結果が誤っていたとしても、優先度順に残りのセルがサーチされるため、結果として第2の変調コードの全コード長に相当する探索範囲を探索することも可能となり、相関ピークが検出できないといった自体を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機について説明する。なお、本発明の実施の形態1では、L1C/A信号の相関処理結果を利用してL2C信号の逆拡散に要する処理時間を向上させる衛星航法受信機について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機は、アンテナ1と、L1用受信部2と、L2用受信部3と、L1C/A信号の相関処理を行う第1の相関処理部4と、L2C信号の相関処理を行う第2の相関処理部5と、L2探索周波数算出部6と、L2探索位相算出部7と、探索範囲分割部8と、探索順序決定部9とからなる。
【0021】
L1用受信部2(第1の受信部)は、アンテナ1を介して入力されたRF信号を適切な中間周波数(IF)信号にダウンコンバートするとともに、不要な信号や雑音を帯域制限フィルタによって排除し、GPSL1C/A信号を取り出す。L1用受信部2は、さらに取り出したGPSL1C/A信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングし、デジタル信号に変換後、第1の相関処理部4に出力する。
【0022】
第1の相関処理部は、L1C/A信号の相関処理を行うものであり、L1キャリア相関器41と、L1用局部発信器42と、L1コード相関器43と、L1コード発生器44と、L1相関ピーク検出部45とから構成される。
【0023】
L1キャリア相関器41は、サンプリングされた受信信号とL1用局部発振器42で発生された搬送波(キャリア)の相関を取り、受信信号をベースバンド周波数に変換する。通常、GPS受信信号はGPS衛星の運動によってドップラシフトを受けている。そのため、L1用局部発振器42は、前記中間周波数の±数kHzの範囲で周波数信号を発生させ、所定の周波数範囲毎にL1キャリア相関器41による相関処理を実行している。
【0024】
L1コード相関器43は、ベースバンド周波数に落とされた受信信号とL1コード発生器44で発生されたL1C/Aコードとの相関を取る。L1C/Aコードは、ビットレートが1.023Mbps、コード長が1023チップであり、その繰り返し周期は1msである。
【0025】
L1コード相関器43から出力される相関値はL1相関ピーク検出部45にて測定される。この相関値は、受信信号の周波数とL1用局部発振器42で発生されたキャリアの周波数が一致し且つ受信信号のL1C/Aコードの位相とL1コード発生器44で発生させたL1C/Aコードの位相が一致した時、すなわち逆拡散が成功した時に最大となる。
【0026】
相関ピークが検出されると、L1相関ピーク検出部45は、相関値が最大となった周波数をL2探索周波数算出部6に、相関値が最大となった位相をL2探索位相算出部7及び次段回路(図示せず)にそれぞれ出力する。なお、次段回路(図示せず)では検出されたコード位相に基づいて擬似距離が算出され、測位演算が実行される。
【0027】
一方、受信アンテナ1で受信されたGPS信号は、L2用受信部3にも入力される。L2用受信部3(第2の受信部)は、L1用受信部2と同様に、入力されたRF信号を適切な中間周波数(IF)信号にダウンコンバートするとともに、不要な信号や雑音を帯域制限フィルタによって排除し、GPSL2C信号を取り出す。また、L2用受信部3は、さらに取り出したGPSL2C信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングし、デジタル信号に変換後、第2の相関処理部5に出力する。
【0028】
第2の相関処理部は、L2C信号の相関処理を行うものであり、L2キャリア相関器51と、L2用局部発信器52と、L2コード相関器53と、L2コード発生器54と、L2相関ピーク検出部55とから構成される。
【0029】
L2キャリア相関器51は、サンプリングされた受信信号とL2用局部発振器52で発生された搬送波(キャリア)の相関を取り、受信信号をベースバンド周波数に変換する。
【0030】
ところで、同じ衛星から送信されたL1C/A信号、L2C信号の場合、GPS衛星の運動によってドップラシフトはL1C/A信号とL2C信号とで同様に生じる。そのため、L1C/A信号、L2C信号間で信号間支援を行う場合には、L1C/A信号の周波数1575.42MHzとL2C信号の周波数1227.60MHzの比である77:60を用いて、検出した信号の周波数から他方の信号の周波数を計算することができ、他方の信号の周波数探索範囲を絞ることが可能である。そこで、本発明では、L2探索周波数算出部6が、L1相関ピーク検出部45から出力された相関最大の際のL1周波数に60/77を乗じてL2の探索周波数を計算する。L2探索周波数算出部6で計算したL2探索周波数は、L2用局部発信器52に出力される。
【0031】
L2用局部発振器52は、L2探索周波数計算部6にて求めたL2探索周波数を発生し、L2キャリア相関器51による相関処理を行う。なお、L1C/A信号を捕捉した際のL1用局部発振器42の発生周波数は、周波数スキャン分解能の分だけ真の周波数とは異なっているため、L2探索において、前記L2探索周波数の周辺でこの誤差をカバーできる範囲をスキャンさせる。
【0032】
L2探索周波数計算部6で求められたL2探索周波数で、もしL2C信号の相関ピークが検出できない場合には、L1C/A信号を捕捉した際の周波数に誤りがある可能性があるため、再度、L1C/A信号に対する相関処理を実行したり、L1C/A信号からの支援情報を用いないでL2C信号の相関処理を実行する。
【0033】
L2コード相関器53は、ベースバンド周波数に落とされた受信信号とL2コード発生器54で発生されたL2Cコードとの相関を取る。ここで説明するL2C信号は、前述のようにL2CMとL2CLという2種類の擬似雑音コードにより時分割で符号変調されている。L2CMコードは、ビットレートが511.5kbps、コード長が10230チップであり、その繰り返し周期は20msである。L2CLコードは、ビットレートが511.5kbps、コード長が767250チップであり、その繰り返し周期は1500msである。これに対し、L1C/Aコードは、ビットレートが1.023Mbps、コード長が1023チップであり、その繰り返し周期は1msである。
【0034】
L1C/Aコード、L2CMコード、及びL2CLコードの送信位相は互いに同期している。そのため、例えばL1C/AコードとL2CMコードの場合には、L2CMコードが1周期送信される間にL1C/Aコードはちょうど20周期送信されることになる。
【0035】
以下に、L1C/Aコードの捕捉情報を利用して、L2CMコードの探索を行う場合を例に挙げて説明する。図2にL1C/AコードとL2CMコードの関係を示す。
【0036】
図2において、L2CMの相関が最大となる真のコード位相を"X3"とし、この点がL2CMコードの先頭から(2+a)[ms]に位置すると仮定する。L1C/Aは、コードの先頭からa[ms]の点において相関が最大となり、この点で捕捉される。L1C/AコードとL2CMコードは同期しているので、先に捕捉したL1C/Aを利用してL2CMを捕捉しようとする場合、L2CMの真のコード位相はL2CMコードの先頭から(N+a)[ms](N=0,1,2,・・・,19)の20ヶ所の候補点X1〜X20のいずれかの点にあるはずである。そこで、本発明では、探索位相算出部7が、L1相関ピーク検出部45から出力された相関最大の際のL1C/Aコード位相から、L2CMコードの探索候補点20ヶ所のコード位相を計算する。
【0037】
図3は、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の探索範囲分割部8及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための説明図である。
探索範囲分割部8は、L2CMコードの全コード長に相当する探索範囲20msをn個のセルに分割する。探索範囲分割部8の分割セル数は、少なくとも探索候補点の数より多くする。本実施例のL1C/Aの探索コード位相を用いてL2CMコードのコード位相を推定する場合には、20点の探索候補点が存在するため、探索範囲分割部8は、L2CMコードの全コード長に相当する探索範囲を20個より多い探索セルに分割する。図3においては探索範囲分割部8がL2CMコードの全コード長に相当する探索範囲20msを40個のセルに等分割している。各セルのセル幅は0.5msである。
【0038】
ところで、相関ピークとなるコード位相はL1C/Aコード捕捉時からL2CMコード探索時までの間にドップラの影響によって移動する。そのため、このコード位相の移動に対処するため、探索範囲分割部8は、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの探索候補点に基づいて、セルを分割する境界位置及びセル幅を制御するようにしてもよい。例えば、探索範囲分割部8は、L2CMコードの候補点がセルの中心にくるようにセルの分割境界を制御するとともに、セル幅をコード位相の移動をカバーできるセル幅に設定する。また、L1C/Aコード捕捉時からL2CMコード探索時までの間に移動するコード位相の移動量が予め予測できる場合には、探索位相算出部7により算出したL2CMコードの候補点を補正し、補正後の候補点に基づいて、探索範囲分割部8が分割処理を行うようにしてもよい。これにより、相関ピークとなるコード位相が移動したとしても、確実に相関ピークを求めることが可能になる。
【0039】
また、探索順序決定部9は、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの探索候補点に基づいて、前記分割したセルの探索順序を決定する。図3においては、図示する「L2CM探索範囲」のセル内に記載した数字が探索順序決定部9により決定されたセルの探索順序を示す。図3に示すように、探索順序決定部9は、L2CMコードの探索候補点が含まれるセルに"1"から"20"の探索順位を与え、探索候補点が含まれていないセルについては、"21"から"40"の探索順序を与えている。つまり、探索順序決定部9は、L2CMコードの探索候補点が含まれるセルが優先的に探索されるようにセルの探索順序を与えている。これにより、L2CMコードの探索候補点が含まれるセルから優先的に相関処理を行うことが可能になる。また、仮にL1C/Aに対する相関処理結果が誤っていたとしても、残りのセルがサーチされるため、結果としてL2CMコードの全コード長に相当する探索範囲20msを探索することも可能であり、相関ピークが検出できないといった自体を防ぐことも可能になる。
【0040】
なお、図3において、探索順位"1"から"20"、及び"21"から"40"の間の順位付け手法については、特に制約はなく、例えば、乱数を与えて決定してもよいし、L1C/Aのコード位相が検出されたタイミングから順番に"1"から"20"、或いは"21"から"40"の探索順位を与えるようにしてもよい。また、L1C/A信号に重畳された航法メッセージの復調が完了している場合には、航法メッセージとL2CMコードとが同期しているため、航法メッセージの開始タイミングからL2CMコードのコード位相の候補点を1点に絞ることができる。そのため、このような場合には、当該コード位相の候補点を含むセルを1番目に探索するセルに設定すればよい。
【0041】
探索範囲分割部8で分割したセル情報及び探索順序決定部9で決定した探索処理順序は、L2コード発生器54に出力される。
【0042】
L2CMコード相関器53は、ベースバンド周波数に落とされた受信信号とL2CMコード発生器54で発生されたL2CMコードとの相関を探索範囲分割部8で分割されたセルごとに行う。L2CMコード発生器54では、探索範囲分割部8で分割したセル情報及び探索順序決定部9で決定したセルの処理順序に従ってL2CMコードを発生させる。
【0043】
L2コード相関器53から出力される相関値はL2相関ピーク検出部55にて測定される。この相関値は、受信信号の周波数とL2用局部発振器52で発生されたキャリアの周波数が一致し、かつ受信信号のL2CMコードの位相とL2コード発生器54で発生されたL2CMコードの位相が一致した時、すなわち逆拡散が成功した時に最大となる。
【0044】
相関ピークが検出されると、L2相関ピーク検出部55は、相関値が最大となった位相を次段回路(図示せず)に出力する。なお、次段回路(図示せず)では検出されたコード位相を基に擬似距離が算出され、測位演算が実行される。
【0045】
次に、図3を用いて説明した探索範囲分割部8及び探索順序決定部9の処理の変形例について図4を用いて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の探索範囲分割部8及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための説明図である。
【0046】
図4に示すように、探索範囲分割部8は、L2CMコードの全コード長に相当する探索範囲20msを分割する際に、各セルのセル幅を変更する。セル幅は、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの探索候補点に基づいて決定される。図4に示す例では、探索範囲分割部8がL2CMコードの全コード長に相当する探索範囲20msを図3で示したように等分割するのではなく、異なる探索範囲を有する2種類のセルに分割している。セル幅は、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの候補点が含まれるセルの探索範囲が狭くなるように制御されており、ここでは、L2CMコードの候補点が含まれるセルの探索範囲を0.2ms、L2CMコードの候補点が含まれないセルの探索範囲を0.8msとしている。
【0047】
なお、ドップラの影響によって生じる相関ピークとなるコード位相の移動に対処するため、前述した図3と同様に、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの探索候補点に基づいて、セルを分割する境界位置及びセル幅を制御するようにしてもよい。また、L1C/Aコード捕捉時からL2CMコード探索時までの間に移動するコード位相の移動量が予め予測できる場合には、探索位相算出部7により算出したL2CMコードの候補点を補正し、補正後の候補点に基づいて、探索範囲分割部8が分割処理を行うようにしてもよい。
【0048】
探索順序決定部9は、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの探索候補に基づいて、L2CMコードの候補点を含むセルを最も優先度の高い探索セルとして設定する。図4の「L2CM探索範囲」のセル内に記載した数字が探索順序決定部9により決定されたセルの探索順序を示す。図4に示すように、探索順序決定部9は、L2CMコードの探索候補点が含まれる、セル幅の狭いセルに"1"から"20"の探索順位を与え、探索候補点が含まれていないセルについては、"21"から"40"の探索順序を与えている。これにより、L2CMコードの候補点が含まれるセルから優先的に相関処理を行うことができるとともに、当該セルの探索範囲が狭いため、当該セルの探索速度をより向上させることができる。また、仮にL1C/A信号に対する相関処理結果が誤っていたとしても、残りのセルがサーチされるため、結果としてL2CMコードの全コード長に相当する探索範囲20msを探索することも可能であり、相関ピークが検出できないといった自体を防ぐことも可能になる。
【0049】
探索範囲分割部8で分割したセル情報及び探索順序決定部9で決定した優先順位は、L2コード発生器54に出力される。以降、L2コード相関器53、L2コード発生器54、及びL2相関ピーク検出部55の処理については、前述と同様である。
【0050】
次に、図3、図4を用いて説明した探索範囲分割部8及び探索順序決定部9の処理の変形例について図5を用いて説明する。
図5は、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の探索範囲分割部8及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための説明図である。
【0051】
図5に示す例では、探索範囲分割部8は、コード位相の候補点からの時間すれ量に応じて、順にセル幅が広くなるようにセルの探索範囲を設定している。つまり、探索範囲分割部8は、L2CMコードの候補点が含まれるセルの探索範囲を最も狭く設定し、当該セル近傍から順にセルの探索範囲を順に広げていくようにしている。また、探索順序決定部9は、探索範囲の狭いセルから順に高い優先度を付与する。
【0052】
これにより、例えば、ドップラの影響によって相関ピークとなるコード位相がずれたとしても、探索範囲の狭い周縁のセルの探索によりコード位相の相関ピーク値を検出することができるため、L2CMコードの探索をより一層正確且つ高速に行うことが可能になる。
【0053】
もちろん、ドップラの影響によって生じる相関ピークとなるコード位相の移動に対処するため、前述した図3、図4と同様に、探索位相算出部7から出力されるL2CMコードの探索候補点に基づいて、セルを分割する境界位置及びセル幅を制御するようにしてもよい。また、L1C/Aコード捕捉時からL2CMコード探索時までの間に移動するコード位相の移動量が予め予測できる場合には、探索位相算出部7により算出したL2CMコードの候補点を補正し、補正後の候補点に基づいて、探索範囲分割部8が分割処理を行うようにしてもよい。
【0054】
また、探索範囲分割部7は、図3、図4、図5を用いて前述した処理に加え、第1の相関処理部4で検出したコード位相の正確性を評価し、算出されたコード位相の信頼度に基づいて、L2CMコードの探索範囲を分割する処理を行うようにしてもよい。コード位相の信頼度は、例えば、受信したL1C/A信号のS/N比、或いはL1C/A信号に乗ぜられた航法メッセージの復調結果などから評価することが可能である。例えば、探索範囲分割部7は第1の相関処理部4による相関ピーク検出の信頼度が高い場合には、L2CMコードの候補点が含まれるセルの探索範囲を狭く設定し、信頼度が低い場合には、L2CMコードの候補点が含まれるセルの探索範囲を狭めに設定するようにすればよい。これにより、効率よくL2CMコードの相関ピーク値を検出することができ、L2CMコードの探索速度をより一層向上させることが可能になる。
【0055】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2による衛星航法受信機について説明する。
図6は、本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の構成の一例を示すブロック図である。なお、ここでは本発明の実施の形態1による衛星航法受信機と同様、L1C/Aコードの捕捉情報を利用して、L2CMコードの探索を行う場合を例に挙げて説明する。
【0056】
図6に示すように、本発明の実施の形態2による衛星航法受信機は、前述した本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の構成に加え、コード探索方向決定部10をさらに備えたものである。
【0057】
コード探索方向決定部10は、衛星と受信機間に生じるドップラ周波数に基づいて、前記第2の相関処理部で相関処理を行う際のコード位相の探索方向を決定する。例えば、同じ衛星から送信されたL1C/A信号とL2C信号とを受信して相関をとる場合には、L1C/A信号とL2C信号とでGPS衛星の運動によるドップラシフトが同じように発生する。そこで、本発明では、コード探索方向決定部10が、第1の相関処理部4で得られたドップラシフト情報を元に相関処理を行う際のコード位相の探索方向を決定し、ドップラシフトによる相関ピーク値の検出誤りを低減させる。
【0058】
図7は、本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の第2の相関処理部5が行う処理を説明するための説明図である。
図7に示すように、コード位相がドップラシフトの影響により時間経過方向と反対向きに偏移する場合、コード探索方向決定部10は、コード位相の偏移方向と逆の向きにコード探索を行うようにL2コード発生器を制御する。
【0059】
これにより、探索対象となっているセルの探索処理中にコード位相が偏移して、当該探索セル外にコード位相が移動してしまうことを防止することができ、確実にL2CMコードの探索を行うことができる。
【0060】
次に、図7を用いて説明した本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の変形例について図8を用いて説明する。
図8は、本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の第2の相関処理部5及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための説明図である。
【0061】
図8の例では、コード探索方向決定部10による第2の相関処理部5の探索方向制御に加え、探索順序決定部9が、コード位相の偏移方向を考慮して探索を行うセルの順序を決定している。つまり、探索順序決定部9は、L2CMコードの候補点を含むセルを最も優先度の高い探索セルとして設定し、L2CMコードの候補点を含むセルから見てコード位相の偏移方向に存在するセル、すなわち図8の例では、2CMコードの候補点を含むセルの左側に位置するセルを、L2CMコードの候補点を含むセルの次に探索するセルとして設定する。
【0062】
これにより、コード位相の偏移を考慮した探索順序決定部9による優先順位付けを行うことができ、より効率的なコード探索を実現することが可能になる。
【0063】
なお、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機では、L1C/Aコードの捕捉情報を利用してL2CMコードの探索を行うものについて説明したが、本発明は、L1C/Aコードの捕捉情報を利用してL2CLコードの探索を行う場合や、L2CMコードの捕捉情報を利用してL2CLコードの探索を行う場合、L2CMコードの捕捉情報を利用してL1C/Aコードの探索を行う場合、L2CLコードの捕捉情報を利用してL1C/Aコードの探索を行う場合、L2CLコードの捕捉情報を利用してL2CMコードの探索を行う場合などにも同様に適用可能である。
【0064】
また、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機では、L1C/A信号とL2C信号の信号間支援について説明したが、もちろん、L1C/A信号、L2C信号、L5信号間の信号間支援を行う場合についても同様に本発明を適用可能である。なお、L5信号は、L1C/A信号、L2C信号と同期しており、L5コードは、そのコードビットレートが10.23Mbps、コード長が10230チップ、繰り返し周期が1msである。
【0065】
また、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機では、繰り返し周期の短いコードを捕捉した後、繰り返し周期の長いコードの探索を行うものについて説明したが、異なる変調コードの探索を同時並行的に行い、先に相関ピークが検出された信号の捕捉情報を利用して他方の信号の探索を行うようにしてもよい。
【0066】
つまり、本発明は、互いに同期する変調コードでスペクトル拡散された複数の信号の相関ピーク値を検出する際に、一方の信号の相関処理結果を利用して、他方の相関処理を支援する技術全般に利用可能である。もちろん、この処理はGPS信号のみに限られず、他のGNSS、例えばGALILEO、GLONASS等の信号を用いた信号間支援にも同様に適用可能である。もっとも、異なる衛星から送信される信号を用いて信号間支援を行う場合には衛星間に生じる伝搬遅延時間の差を考慮する必要があり、また、異なる測位システム(GNSS)を用いる場合には、各測位システムのシステム時刻の差をさらに考慮する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の構成の一例を示すブロック図。
【図2】L1C/AコードとL2CMコードの位相関係を説明するための説明図。
【図3】本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の探索範囲分割部8及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための第1の説明図。
【図4】本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の探索範囲分割部8及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための第2の説明図。
【図5】本発明の実施の形態1による衛星航法受信機の探索範囲分割部8及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための第3の説明図。
【図6】本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の構成の一例を示すブロック図。
【図7】本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の第2の相関処理部5が行う処理を説明するための説明図。
【図8】本発明の実施の形態2による衛星航法受信機の第2の相関処理部5及び探索順序決定部9が行う処理を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0068】
1 アンテナ
2 L1用受信部
3 L2用受信部
4 第1の相関処理部
5 第2の相関処理部
6 L2探索周波数算出部
7 L2探索位相算出部
8 探索範囲分割部
9 探索順序決定部
10 コード探索方向決定部
41 L1キャリア相関器
42 L1用局部発信器
43 L1コード相関器
44 L1コード発生器
45 L1相関ピーク検出部
51 L2キャリア相関器
52 L2用局部発信器
53 L2コード相関器
54 L2コード発生器
55 L2相関ピーク検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の変調コードによってスペクトル拡散された第1の測位用信号を受信する第1の受信部と、
前記第1の測位用信号と異なる変調コードでスペクトル拡散された第2の測位用信号を受信する第2の受信部と、
受信した前記第1の測位用信号の相関処理を行う第1の相関処理部と、
前記第1の相関処理部で検出したコード位相に基づいて、前記第2の測位用信号と前記第2の変調コードとの相関がピークとなるコード位相の候補点を算出する第2の変調コード探索位相算出部と、
第2の変調コードの全コード長に相当する探索範囲をn(n:2以上の整数)個のセルに分割する探索範囲分割部と、
前記コード位相の候補点に基づいて、前記分割されたセルの探索順序を決定する探索順序決定部と、
受信した前記第2の測位用信号の相関処理を、前記探索順序決定部により決定された探索順序に従って行う第2の相関処理部と、を備えることを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項2】
請求項1に記載の衛星航法受信機において、
前記探索範囲分割部は、前記コード位相の候補点に基づいて、前記セルのセル幅を決定することを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項3】
請求項2に記載の衛星航法受信機において、
前記探索範囲分割部は、前記コード位相の候補点を含むセルを、前記コード位相の候補点を含まないセルより狭いセル幅とし、
前記探索順序決定部は、前記コード位相の候補点を含むセルから探索が行われるように前記分割されたセルに探索順序を与えることを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項4】
請求項3に記載の衛星航法受信機において、
前記探索範囲分割部は、前記コード位相の候補点から離れるにつれて順にセル幅が広くなるように各セルの探索範囲を設定し、
前記探索順序決定部は、前記コード位相の候補点を含むセルから探索が行われるように前記分割されたセルに探索順序を与えることを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の衛星航法受信機において、
前記探索範囲分割部は、前記第1の相関処理部で検出したコード位相の信頼度に基づいて、前記セルのセル幅を決定することを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項6】
請求項5に記載の衛星航法受信機において、
前記信頼度は、第1の測位用信号のS/N比、或いは第1の測位用信号に乗ぜられた航法メッセージの復調結果から算出することを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の衛星航法受信機において、
前記探索範囲分割部は、衛星と受信機間に生じるドップラ周波数に基づいて、前記セルの境界位置を決定することを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の衛星航法受信機において、
前記探索範囲分割部は、衛星と受信機間に生じるドップラ周波数に基づいて、前記セルのセル幅を決定することを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の衛星航法受信機において、
衛星と受信機間に生じるドップラ周波数に基づいて、前記第2の相関処理部で相関処理を行う際の探索方向を決定するコード探索方向決定部をさらに備えることを特徴とする衛星航法受信機。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の衛星航法受信機において、
前記第2の相関処理部は、前記第1の相関処理部でコード位相を検出した際の搬送波周波数情報を用いて、前記第2の測位用信号と前記第2の変調コードとのキャリア相関を行うことを特徴とする衛星航法受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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