説明

衛星航法装置

【課題】衛星航法装置において、キャリアスムージングに用いられる測定コード位相および測定搬送波位相変化量から電離層遅延を除去し、測定コード位相と搬送波位相変化量の間のオフセットを平滑化する時定数を長くして擬似距離の精度を上げること。
【解決手段】L1周波数とL2周波数の2つの周波数にてコード位相と搬送波位相変化量をそれぞれ測定する。コード位相と搬送波位相変化量のそれぞれを電離層フリー線形結合して、電離層遅延を除去したコード位相の真値と搬送波位相の変化量の真値を求め、コード位相の真値と搬送波位相の変化量の真値を用いてキャリアスムージングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国のGPSやその他の衛星航法システムの信号を受信し、現在時刻や利用者の現在位置を計算する衛星航法装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米国のGPS(Global Positioning system)に代表される衛星航法システムでは、衛星信号の変調コードのコード位相の測定値を基にして利用者の位置を計算する。この方法は周知であるので説明は省略する。このコード位相の測定精度を向上させる手法の一つに、キャリアスムージングと呼ばれる手法がある。
【0003】
図4は、キャリアスムージング手法の概念を説明する図である。GPSの変調コードである擬似雑音符号(PNコード)はビットレートが1.023Mbps、繰り返し周期が1msなので、利用者受信機でたとえば1ms毎にコード位相を測定すると、衛星と利用者間の距離が変化しない場合は1ms毎に常に同じ位相が測定される。しかし、GPS衛星は周回衛星であるので、衛星と利用者間の距離は刻々と変化する。この場合、1ms毎に測定される測定コード位相は、衛星と利用者間の距離の変化量と同じだけ変化する。図4に示す測定コード位相r(t)は、現実には雑音が乗るので、ギザギザの線で表現している。
【0004】
次に、GPS信号の搬送波位相について考察する。例えば、利用者受信機でGPS信号を5MHzの中間周波にダウンコンバートして、この中間周波の搬送波位相を1ms毎に測定すると、衛星と利用者間の距離が変化しない場合は1ms毎に常に5000サイクルずつ進んで測定される。しかし、衛星と利用者間の距離が変化すると、1ms毎に測定される搬送波位相は、基準時点の搬送波位相に「5000サイクル」+「衛星と利用者間の距離の1ms間の変化量」となる。この5000サイクル分は、常に差し引いて考察する。図4に示される搬送波位相絶対量p(t)は、搬送波の波長は約0.19mであり、コードのビット長300mに比べて非常に短いので雑音の影響は極めて小さく、滑らかな線(ほぼ、直線)で表現している。
【0005】
ところで、GPSのコードには時刻情報が乗せられているので衛星と利用者間の距離の絶対量を求めることができる。一方、搬送波には時刻情報がないので衛星と利用者間の距離の絶対量を求めることは非常に困難である。したがって、現実的には、ある時点の搬送波位相を基準としてそこからの位相の変化量だけを測定する。この搬送波位相変化量である搬送波位相測定値p′(t)も図4に示しており、搬送波位相測定値p′(t)は搬送波位相絶対量p(t)と並行になる。
【0006】
このように、受信機で測定されるコード位相と搬送波位相は、いずれも衛星と利用者間の距離の変化に伴って同じように変化する。したがって、測定コード位相r(t)と搬送波位相変化量p′(t)の間のオフセットs(t)は、コード位相に雑音が乗っていることによって変動はするものの、平均的には一定値となる。
s(t)=r(t)−p′(t)
【0007】
そこで、このオフセットs(t)を平滑化して平滑化オフセットss(t)とし、搬送波位相変化量p′(t)に加えると、雑音による誤差の抑えられた平滑化コード位相rs(t)を得ることができる。
rs(t)=ss(t)+p′(t)
【0008】
平滑化の方法は、たとえば上記の各パラメータを離散的に測定する場合は次の式で実現できる。
ss(k)={1−1/(1+T)}ss(k−1)+s(k)/(1+T)
ここで、 s(k):k番目のオフセット値
ss(k):k番目の平滑化されたオフセット値
T:平滑化時定数
【0009】
以上がキャリアスムージング手法の概要であり、白色雑音とマルチパスによるコード位相の誤差を抑えるために広く利用されている。コード位相の単なる平滑化では利用者が移動体の場合、加速、減速、進行方向の変更などの際に測位位置の追従遅れが生じるが、キャリアスムージングではオフセットを平滑化するので原理的に追従遅れが生じないという利点がある。キャリアスムージングに関する技術文献としては、非特許文献1がある。
【0010】
また、GPS衛星からの信号は地上の利用者に届くまでに電離層を通過する。電離層のプラズマ中を通過する際に信号が遅延するので、遅延したコード位相に基づいて利用者の位置を計算すると誤差を生じる。この電離層遅延を除去する手法の一つに、以下に述べるような電離層フリー線形結合と呼ばれる手法がある。
【0011】
GPS信号の電離層遅延d(t)は次の式で表される。
d(t)=k(t)/f2
ここで、 k(t):比例定数
f:搬送波周波数
【0012】
この式から、電離層遅延は周波数の自乗に反比例することがわかる。したがって、例えば、GPSのL1周波数(f1=1575.42MHz)とL2周波数(f2=1227.60MHz)の2つの周波数でコード位相を測定し、それぞれr1(t)、r2(t)とすると、r1(t)、r2(t)を用いて以下のように電離層遅延の除去されたコード位相真値r(t)を求めることができる。
r1(t)=r(t)+k(t)/(f1)2
r2(t)=r(t)+k(t)/(f2)2
∴r(t)={r2(t)−γ・r1(t)}/(1−γ)
ここで、r(t):コード位相真値
r1(t):L1の測定コード位相
r2(t):L2の測定コード位相
γ:(f1/f2)2
k(t):比例定数
【0013】
比例定数k(t)は電離層の場所や時刻によって変化するが、同一の衛星から送信された2つの周波数でそれぞれコード位相を同時に測定すれば比例定数k(t)は共通なので、以上のように比例定数k(t)をキャンセルすることができる。以上が電離層フリー線形結合の概要である。電離層フリー線形結合に関する技術文献としては、非特許文献2がある。
【0014】
GPSでは軍用の信号はL1とL2の2つの周波数で放送されているので軍関係者は電離層フリー線形結合の手法を実施できるが、民生用の信号はL1周波数でしか放送されていなかったので、民間は電離層フリー線形結合を実施できなかった。しかし、2005年9月に打ち上げられたブロック■R−M衛星以降、今後は民生用の信号がL1とL2の2
つの周波数で放送されるようになるので、民間でも電離層フリー線形結合を行うことができるようになる。
【非特許文献1】Bradford W.Parkinson、James J. Spilker Jr.、Global Positioning System:Theory and Applications、Vol.1、American Institute of Aeronautics and Astronautics、Inc.、1996、pp.287−289
【非特許文献2】Bradford W.Parkinson、James J.Spilker Jr.、Global Positioning System:Theory and Applications、Vol.1、American Institute of Aeronautics and Astronautics、Inc.、1996、pp.169−170
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来のキャリアスムージングには、キャリアスムージングに用いられる測定コード位相および搬送波位相変化量には、現実には電離層遅延が生じていることにより、次のような欠点がある。これを図5を用いて説明する。
【0016】
例として、L1周波数で測定される測定コード位相をr1(t)、搬送波位相絶対量をp1(t)で示す。なお、搬送波位相絶対量p1(t)は、現実には測定することができない。電離層の電子密度の日変化や、GPS衛星の移動に伴って衛星からの電波が電離層を通過する場所が変わることによって遅延量d1(t)は刻々変化する。
【0017】
コード位相と搬送波位相とに同じ電離層遅延が生じるならば、測定コード位相と搬送波位相絶対量のオフセットは一定値を中心として変動するだけなので、キャリアスムージングにおいてこのオフセットを平滑化する時定数を長くして擬似距離の精度を上げることができる。
【0018】
しかし、コード位相と搬送波位相に生じる電離層遅延は大きさは同じだが符号が逆である。すなわちコード位相は遅れ、搬送波位相は進む。これは、コード位相には群遅延が、搬送波位相には位相遅延が影響するためである。
【0019】
したがって、測定コード位相r1(t)と測定搬送波位相変化量p1′(t)の間のオフセットs(t)は電離層遅延の変化した分の2倍、刻々その大きさが変わってゆく。
【0020】
キャリアスムージングにおいては、このオフセットs(t)の変化に追従できなければ平滑化された平滑化コード位相が真のコード位相と異なる値に収束してしまうので、平滑化する時定数をむやみに長くすることはできない。したがってキャリアスムージングによる擬似距離精度の改善は限定的なものになっている。
【0021】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、キャリアスムージングに用いられる測定コード位相および測定搬送波位相変化量から電離層遅延を除去し、測定コード位相と測定搬送波位相変化量の間のオフセットを平滑化する時定数を長くして擬似距離の精度を上げることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1に記載の衛星航法装置は、衛星から放送される複数の周波数の航法信号を受信する衛星航法装置であって、
前記衛星からの第1の周波数の搬送波に重畳された第1変調コードの位相を測定する第1コード位相測定手段と、
前記衛星からの第2の周波数の搬送波に重畳された第2変調コードの位相を測定する第2コード位相測定手段と、
ある基準時刻からの第1の周波数の搬送波の第1搬送波位相変化量を測定する第1搬送波位相変化量測定手段と、
前記基準時刻からの第2の周波数の搬送波の第2搬送波位相変化量を測定する第2搬送波位相変化量測定手段と、
前記第1変調コードの位相と前記第2変調コードの位相とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の変調コードの位相を計算するコード位相用電離層フリー線形結合手段と、
前記第1搬送波位相変化量と前記第2搬送波位相変化量とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の搬送波位相変化量を計算する搬送波位相用電離層フリー線形結合手段と、
前記真の変調コードの位相と真の搬送波位相変化量とから、キャリアスムージングの手法によって平滑化された変調コードの平滑化コード位相を計算するキャリアスムージング手段とを備えたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項1に記載の衛星航法装置において、前記コード位相用電離層フリー線形結合手段における真の変調コードの位相を次の計算式により、
r(t)={r2(t)−γ・r1(t)}/(1−γ)
前記搬送波位相用電離層フリー線形結合手段における真の搬送波位相変化量を次の計算式により、
p′(t)={p2′(t)−γ・p1′(t)}/(1−γ)
それぞれ求める。
ここで、r(t):真の変調コードの位相
r1(t):第1変調コードの位相
r2(t):第2変調コードの位相
γ:(f1/f2)2 、f1:第1の周波数、f2:第2の周波数
p′(t)=真の搬送波位相変化量
p1′(t)=第1搬送波位相変化量
p2′(t)=第2搬送波位相変化量
【0024】
また、請求項1に記載の衛星航法装置において、前記キャリアスムージングの手法は、
まず、真の変調コードの位相であるr(t)と真の搬送波位相変化量であるp′(t)との間のオフセットであるs(t)を次の計算式
s(t)=r(t)−p′(t)
により求め、
次に、オフセットであるs(t)を平滑化して平滑化オフセットss(t)とし、真の搬送波位相変化量であるp′(t)を加えて、平滑化された変調コードの位相である平滑化変調コード位相rs(t)を次の計算式
rs(t)=ss(t)+p′(t)
により求める。
【0025】
また、その衛星航法装置において、前記平滑化の手法は、前記オフセットs(t)を離散的に測定した値をs(k)とし、平滑化された平滑化オフセットss(k)を次の計算式
ss(k)={1−1/(1+T)}・ss(k−1)+s(k)/(1+T)
により求める。
ここで、s(k):k番目のオフセット値
ss(k):k番目の平滑化されたオフセット値
T:平滑化時定数
【0026】
請求項2に記載の衛星航法装置は、衛星から放送される複数の周波数の航法信号を受信する衛星航法装置であって、
前記衛星からの第1の周波数の搬送波に重畳された第1変調コードの位相を測定して第1コード疑似距離を計算する第1コード疑似距離計算手段と、
前記衛星からの第2の周波数の搬送波に重畳された第2変調コードの位相を測定して第2コード疑似距離を計算する第2コード疑似距離計算手段と、
ある基準時刻からの第1の周波数の搬送波の第1搬送波位相変化量を測定して第1搬送波疑似距離変化量を計算する第1搬送波疑似距離変化量計算手段と、
前記基準時刻からの第2の周波数の搬送波の第2搬送波位相変化量を測定して第2搬送波疑似距離変化量を計算する第2搬送波疑似距離変化量計算手段と、
前記第1コード疑似距離と前記第2コード疑似距離とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真のコード疑似距離を計算するコード疑似距離用電離層フリー線形結合手段と、
前記第1搬送波疑似距離変化量と前記第2搬送波疑似距離変化量とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の搬送波疑似距離変化量を計算する搬送波疑似距離変化量用電離層フリー線形結合手段と、
前記真のコード疑似距離と前記真の搬送波疑似距離変化量とから、キャリアスムージングの手法によって平滑化されたコード疑似距離を計算するコード疑似距離スムージング手段とを備えたことを特徴とする。
【0027】
また、請求項2に記載の衛星航法装置において、前記コード疑似距離用電離層フリー線形結合手段における真のコード疑似距離を次の計算式により、
pr(t)={pr2(t)−γ・pr1(t)}/(1−γ)
前記搬送波疑似距離変化量用電離層フリー線形結合手段における真の搬送波疑似距離変化量を次の計算式により、
pp′(t)={pp2′(t)−γ・pp1′(t)}/(1−γ)
それぞれ求める。
ここで、pr(t):真のコード疑似距離
pr1(t):第1コード疑似距離
pr2(t):第2コード疑似距離
γ:(f1/f2)2 、f1:第1の周波数、f2:第2の周波数
pp′(t):真の搬送波疑似距離変化量
pp1′(t):第1搬送波疑似距離変化量
pp2′(t):第2搬送波疑似距離変化量
【0028】
また、請求項2に記載の衛星航法装置において、前記キャリアスムージングの手法は、
まず、真のコード疑似距離pr(t)と真の搬送波疑似距離変化量pp′(t)との間のオフセットであるps(t)を次の計算式
ps(t)=pr(t)−pp′(t)
により求め、
次に、オフセットであるps(t)を平滑化して平滑化オフセットpss(t)とし、真の搬送波疑似距離変化量pp′(t)を加えて、平滑化されたコード疑似距離である平滑化コード疑似距離prs(t)を次の計算式
prs(t)=pss(t)+pp′(t)
により求める。
【0029】
また、その衛星航法装置において、前記平滑化の手法は、前記オフセットps(t)を離散的に測定した値をps(k)とし、平滑化された平滑化オフセットpss(k)を次の計算式
pss(k)={1−1/(1+T)}・pss(k−1)+ps(k)/(1+T)
により求める。
ここで、ps(k):k番目のオフセット値
pss(k):k番目の平滑化されたオフセット値
T:平滑化時定数
【発明の効果】
【0030】
本発明の衛星航法装置によれば、第1周波数(例、L1周波数)と第2周波数(例、L2周波数)の2つの周波数にてコード位相と搬送波位相変化量をそれぞれ測定し、コード位相と搬送波位相変化量のそれぞれを電離層フリー線形結合して、電離層遅延を除去したコード位相の真値と搬送波位相の変化量の真値を求め、コード位相の真値と搬送波位相の変化量の真値を用いてキャリアスムージングを行うことで、測定コード位相および測定搬送波位相変化量から電離層遅延を除去し、コード位相と搬送波位相のオフセットを平滑化する時定数を長くして擬似距離の精度を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための第1の実施形態について図1〜図3を用いて説明する。この第1の実施形態における衛星航法装置は、同じ人工衛星から送信されてくる第1周波数(例、L1周波数)と第2周波数(例、L2周波数)の2つの周波数にて第1、第2のコード位相r1(t)、r2(t)と第1、第2の搬送波位相変化量p1′(t)、p2′(t)を測定する手段と、2つのコード位相と2つの搬送波位相変化量のそれぞれを電離層フリー線形結合し、電離層遅延を除去したコード位相の真値r(t)と搬送波位相変化量の真値p′(t)を求める手段と、コード位相の真値r(t)と搬送波位相の変化量の真値p′(t)を用いてキャリアスムージングを行う手段とを備えている。
【0032】
搬送波位相については、キャリアスムージング開始時点の位相を基準とした相対的な変化量しか測定できないので、この相対的な変化量に電離層フリー線形結合を施しても、キャリアスムージング開始時点の位相を基準とした相対的な変化量p′(t)しか求められない。しかし、こうして求められた相対的な変化量p′(t)は搬送波位相の絶対量の真値p(t)と並行であるから、この相対的な変化量p′(t)を用いてキャリアスムージングを行えば、電離層遅延を含まない真値でキャリアスムージングを行うことと等価になる。したがって、キャリアスムージングにこのように電離層フリー線形結合を施すことにより、コード位相と搬送波位相のオフセットを平滑化する時定数をたとえば30分や1時間程度に長くして擬似距離の精度を向上している。
【0033】
なお、2つのコード位相r1(t)、r2(t)は、同期していること、及びコード生成式とビットレートが予め分かっており、コード位相を時刻の次元に換算可能であることが満たされていれば、同じコードでも異なるコードでも良い。また、2つの搬送波位相については、時刻に換算した量として取り扱うので、2つの周波数は異なった周波数でよい。このことから、第1の実施形態では、2つのコード位相及び2つの搬送波位相は、ともに時刻の次元で取り扱っていることに注意されたい。
【0034】
図1において、まず、受信アンテナ1でGPS信号を受信する。L1周波数受信部は1575.42MHzのGPSのL1信号を数MHzの中間周波数(例えば、5MHz)に変換するダウンコンバータである。
【0035】
次に、コード追尾部3でL1信号に関して受信信号のPNコードを逆拡散し、最大相関を得られるコード位相を追尾する。この追尾には通常ディレイ・ロック・ループが用いられる。そして、第1コード位相測定手段であるコード位相測定部4で、追尾している第1変調コード位相であるコード位相r1(t)を測定する。
【0036】
搬送波追尾部5でL1信号に関して受信信号の搬送波の位相を追尾する。この追尾には通常フェイズ・ロック・ループが用いられる。そして、第1搬送波位相変化量測定手段である搬送波位相変化量測定部6で、キャリアスムージング開始時点の搬送波位相を基準とし、現在までの第1搬送波位相変化量である搬送波位相変化量p1′(t)を測定する。
【0037】
一方、受信アンテナ1で受信したGPS信号はL2周波数受信部7にも入力される。L2周波数受信部7は、1227.60MHzのGPSのL2信号を数MHzの中間周波数(例えば、5MHz)に変換するダウンコンバータである。以降、コード位相r2(t)、搬送波位相変化量p2′(t)を測定するまでの処理は、コード追尾部8、コード位相測定部9、搬送波追尾部10、搬送波位相変化量測定部11によって、L1周波数の場合と同様に行われる。
【0038】
これらコード位相r1(t)、r2(t)及び搬送波位相変化量p1′(t)、p2′(t)は、図2に示されるように測定される。コード位相r1(t)と搬送波位相変化量p1′(t)は、L1信号の電離層での遅延を受けて、真の変調コードの位相r(t)や真の搬送波位相絶対量p(t)から上及び下に、電離層遅延量d1(t)(=k(t)/(f1)2)だけ、それぞれずれる。また、コード位相r2(t)と搬送波位相変化量p2′(t)は、L2信号の電離層での遅延を受けて、真の変調コードの位相r(t)や真の搬送波位相絶対量p(t)から上及び下に、電離層遅延量d2(t)(=k(t)/(f2)2)だけ、それぞれずれる。
【0039】
次に、コード位相用の電離層フリー線形結合部12で、コード位相r1(t)、r2(t)を用いて以下のように電離層遅延の除去されたコード位相真値r(t)を求める。
r1(t)=r(t)−k(t)/(f1)2
r2(t)=r(t)−k(t)/(f2)2
∴r(t)={r2(t)−γ・r1(t)}/(1−γ)
ここで、r(t):真の変調コードの位相
r1(t):第1変調コードの位相
r2(t):第2変調コードの位相
γ:(f1/f2)2 、f1:L1の周波数、f2:L2の周波数
【0040】
また、搬送波位相用の電離層フリー線形結合部13で、搬送波位相の変化量p1′(t)、p2′(t)を用いて、以下のようにして、電離層遅延の除去された搬送波位相の変化量真値p′(t)を求める。図3の搬送波位相の絶対量と測定値に電離層フリー線形結合を適用する概念図を参照する。
搬送波については電離層遅延の符号が逆なので搬送波位相は次式のようになる。
p1(t)=p(t)−k(t)/(f1)2
p2(t)=p(t)−k(t)/(f2)2
ここで、p(t)=搬送波位相絶対量の真値
p1(t)=L1信号の搬送波位相絶対量
p2(t)=L2信号の搬送波位相絶対量
f1:第1の周波数、f2:第2の周波数
【0041】
この衛星航法装置で測定される搬送波位相はキャリアスムージング開始時点を起点とした搬送波位相の変化量であって、搬送波位相絶対量p1(t)、p2(t)といった位相絶対量は求められない。そこで、搬送波位相測定値を搬送波位相絶対量と一定のオフセットa1、a2を持った第1、第2搬送波位相変化量p1′(t)、p2′(t)とおく。
p1′(t)=p1(t)+a1
p2′(t)=p2(t)+a2
【0042】
そして、キャリアスムージング開始時(t=0)の搬送波位相測定値を、p1′(0)=0、p2′(0)=0、とおくと、
a1=−p1(0)
a2=−p2(0)
となるから、搬送波位相測定値(即ち、搬送波位相変化量)は次式のようになる。
p1′(t)=p(t)−k(t)/(f1)2 −{p(0)−k(0)/(f1)2
p2′(t)=p(t)−k(t)/(f2)2 −{p(0)−k(0)/(f2)2
【0043】
この搬送波位相測定値p1′(t)、p2′(t)から、比例定数k(t)を消去する電離層フリー線形結合を行うと、
p(t)−p(0)={p2′(t)−γ・p1′(t)}/(1−γ)
= p′(t)
これにより、搬送波位相変化量の真値p′(t)を、初めて求めることができる。
【0044】
この真の搬送波位相変化量p′(t)は、搬送波位相絶対量の真値p(t)と並行であるから、この真の搬送波位相変化量p′(t)を用いてキャリアスムージングを行えば、電離層遅延を含まない真値でキャリアスムージングを行うことと等価になる。
【0045】
次に、加算器14で、次式のようにコード位相真値r(t)と搬送波位相変化量の真値p′(t)の間のオフセットs(t)を求める。
s(t)=r(t)−p′(t)
【0046】
次に、平滑化部15で、オフセットs(t)を平滑化して平滑化オフセットss(t)を求める。平滑化の方法は、例えば各パラメータを離散的に測定する場合は次の式で実現できる。
ss(k)={1−1/(1+T)}・ss(k−1)+s(k)/(1+T)
ここで、 s(k):k番目のオフセット値
ss(k):k番目の平滑化されたオフセット値
T:平滑化時定数
【0047】
次に、加算器16で、次式のように、雑音による誤差の抑えられたコード位相rs(t)を得る。
rs(t)=ss(t)+p′(t)
【0048】
以上の処理を複数の信号処理チャネルによって複数の衛星信号に対して行い、得られた複数の衛星信号毎のコード位相rs(t)を用いて、測位計算部17にて利用者の位置を求める。
【0049】
以上説明した第1の実施形態ではコード位相と搬送波位相変化量を用いているが、以下に述べるように、本発明の第2の実施の形態として、コード擬似距離と搬送波擬似距離変化量を用いた衛星航法装置においても、第1の実施の形態と同様の、作用及び効果を得ることができる。
【0050】
コード疑似距離は、コード位相を時刻tsに換算し、コード位相の測定時刻trとの差tpに光速を乗じることで、距離に換算した量である。第1の実施の形態におけるコード位相を時刻に換算した量は時刻tsに相当する。コード疑似距離にはコード位相の測定時刻trが入っているため、キャリアスムージングにおいてはコード位相と搬送波位相変化量の間のオフセットが変わるが、このオフセットが変わってもキャリアスムージングの効果は変わらない。また、電離層フリー線形結合においてもコード疑似距離を用いることはL1信号とL2信号それぞれのコード位相に測定時刻trという定数が入ることであり、結果として定数trの入った真のコード位相すなわち真のコード疑似距離が求められる。したがって、コード位相に代えて、コード疑似距離を用いても同様の効果が得られる。
【0051】
また、搬送波疑似距離変化量は、時間の次元である搬送波位相変化量に光速を乗じることで距離に換算した量である。このように、搬送波疑似距離変化量は距離の次元であるから、同じく距離の次元であるコード疑似距離とペアで使うことでキャリアスムージングが成立する。更に、光速という定数を乗じただけであるから、電離層フリー線形結合もまた成立する。したがって、搬送波位相変化量に代えて、搬送波疑似距離変化量を用いても同様の効果が得られる。
【0052】
さて、本発明の第2の実施の形態における処理を説明する。GPSのコードには時刻情報が乗せられているので、利用者の受信機で測定したコード位相は、信号が衛星から送信された時刻を表すことになる。測定したコード位相に相当する送信時刻をts、この測定を行った時刻を受信時刻trとすると、次の式によって衛星から利用者受信機まで信号が到達するのに要した時間tpを求めることができる。
tp=tr−ts
【0053】
この時間tpに光速cを乗ずることにより、衛星から利用者受信機までの距離prを求めることができる。
pr=c・tp
【0054】
ここで、送信時刻tsはGPS衛星内蔵の時計でカウントされ、受信時刻trは利用者受信機内蔵の時計でカウントされる。GPS衛星内蔵の時計と利用者受信機内蔵の時計は一般に同期していないので、距離prには両者の時刻オフセットの分だけ距離オフセットが乗る。このため衛星航法においては、距離prは擬似距離と呼ばれている。利用者の位置を計算する際には、この距離オフセットも未知数の一つとして連立方程式を解くので、距離オフセットが乗っていても問題とはならない。
【0055】
以下、変調コードの位相から求めた擬似距離をコード擬似距離と呼び、搬送波位相変化量から求めた擬似距離の変化量を搬送波擬似距離変化量と呼ぶ。擬似距離prを求める式からわかるように、コード位相とコード擬似距離は線形の関係にある。搬送波位相変化量と搬送波擬似距離変化量も同様である。したがって、第1の実施の形態で述べたキャリアスムージングおよび電離層フリー線形結合の手法はいずれも、コード擬似距離と搬送波擬似距離変化量を用いても成立するので、これらを用いても本発明の意図する効果を得ることができる。
【0056】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態のコード位相と搬送波位相変化量とに代えて、コード疑似距離と搬送波疑似距離変化量とが対応するように構成される。具体的には、次のように構成される。
【0057】
まず、衛星航法装置は、衛星から放送される複数の周波数の航法信号を受信する。第1コード疑似距離計算手段は、衛星からの第1の周波数の搬送波に重畳された第1変調コードの位相を測定して第1コード疑似距離を計算し、第2コード疑似距離計算手段は、衛星からの第2の周波数の搬送波に重畳された第2変調コードの位相を測定して第2コード疑似距離を計算する。第1搬送波疑似距離変化量計算手段は、ある基準時刻からの第1の周波数の搬送波の第1搬送波位相変化量を測定して第1搬送波疑似距離変化量を計算し、第2搬送波疑似距離変化量計算手段は、基準時刻からの第2の周波数の搬送波の第2搬送波位相変化量を測定して第2搬送波疑似距離変化量を計算する。
コード疑似距離用電離層フリー線形結合手段によって、第1コード疑似距離と第2コード疑似距離とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真のコード疑似距離を計算し、搬送波疑似距離変化量用電離層フリー線形結合手段は、第1搬送波疑似距離変化量と第2搬送波疑似距離変化量とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の搬送波疑似距離変化量を計算する
そして、コード疑似距離スムージング手段によって、真のコード疑似距離と真の搬送波疑似距離変化量とから、キャリアスムージングの手法によって平滑化されたコード疑似距離を計算する。
【0058】
また、コード疑似距離用電離層フリー線形結合手段における真のコード疑似距離を次の計算式により、
pr(t)={pr2(t)−γ・pr1(t)}/(1−γ)
搬送波疑似距離変化量用電離層フリー線形結合手段における真の搬送波疑似距離変化量を次の計算式により、
pp′(t)={pp2′(t)−γ・pp1′(t)}/(1−γ)
それぞれ求める。ここで、pr(t):真のコード疑似距離、pr1(t):第1コード疑似距離、pr2(t):第2コード疑似距離、γ:(f1/f2)2 、f1:第1の周波数、f2:第2の周波数、pp′(t):真の搬送波疑似距離変化量、pp1′(t):第1搬送波疑似距離変化量、pp2′(t):第2搬送波疑似距離変化量、である。
【0059】
また、キャリアスムージングの手法は、 まず、真のコード疑似距離pr(t)と真の搬送波疑似距離変化量pp′(t)との間のオフセットであるps(t)を次の計算式、ps(t)=pr(t)−pp′(t)、により求める。次に、オフセットであるps(t)を平滑化して平滑化オフセットpss(t)とし、真の搬送波疑似距離変化量pp′(t)を加えて、平滑化されたコード疑似距離である平滑化コード疑似距離prs(t)を次の計算式、prs(t)=pss(t)+pp′(t)、により求める。
【0060】
また、平滑化の手法は、オフセットps(t)を離散的に測定した値をps(k)とし、平滑化された平滑化オフセットpss(k)を次の計算式
pss(k)={1−1/(1+T)}・pss(k−1)+ps(k)/(1+T)
により求める。ここで、ps(k):k番目のオフセット値、pss(k):k番目の平滑化されたオフセット値、T:平滑化時定数、である。
【0061】
以上説明した実施形態では、GPSのL1信号(f1周波数)とL2信号(f2周波数)とを用いているが、本発明に用いる2つの周波数はGPSのL1周波数とL2周波数に限られず、将来打ち上げられる衛星から放送が計画されているL5周波数(1176.45MHz)を利用して、L1信号ととL5信号あるいはL2信号とL5信号の組合せでも本発明の意図する効果を得ることができる。
【0062】
さらに、欧州で計画中の衛星航法システムであるガリレオ(Galileo)システムから放送が計画されているL1信号、E5信号、E6信号(周波数)、我が国で計画中の準天頂衛星システムから放送が計画されているL1信号、L2信号、L5信号(周波数)に適用しても本発明の意図する効果が得られることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】発明を実施するための最良の形態を示す全体構成図
【図2】キャリアスムージング手法にて電離層遅延を除去する概念図
【図3】搬送波位相の絶対量と測定値に電離層フリー線形結合を適用する概念図
【図4】キャリアスムージング手法の概念図
【図5】キャリアスムージング手法への電離層遅延の影響を示す図
【符号の説明】
【0064】
1……アンテナ、2……L1周波数受信部、3……コード追尾部、4……コード位相測定部、5……搬送波追尾部、6……搬送波位相変化量測定部、7……L2周波数受信部、8……コード追尾部、9……コード位相測定部、10……搬送波追尾部、11……搬送波位相変化量測定部、12……電離層フリー線形結合部、13……電離層フリー線形結合部、14……加算器、15……平滑化部、16……加算器、17……測位計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星から放送される複数の周波数の航法信号を受信する衛星航法装置であって、
前記衛星からの第1の周波数の搬送波に重畳された第1変調コードの位相を測定する第1コード位相測定手段と、
前記衛星からの第2の周波数の搬送波に重畳された第2変調コードの位相を測定する第2コード位相測定手段と、
ある基準時刻からの第1の周波数の搬送波の第1搬送波位相変化量を測定する第1搬送波位相変化量測定手段と、
前記基準時刻からの第2の周波数の搬送波の第2搬送波位相変化量を測定する第2搬送波位相変化量測定手段と、
前記第1変調コードの位相と前記第2変調コードの位相とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の変調コードの位相を計算するコード位相用電離層フリー線形結合手段と、
前記第1搬送波位相変化量と前記第2搬送波位相変化量とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の搬送波位相変化量を計算する搬送波位相用電離層フリー線形結合手段と、
前記真の変調コードの位相と真の搬送波位相変化量とから、キャリアスムージングの手法によって平滑化された変調コードの平滑化コード位相を計算するキャリアスムージング手段とを備えたことを特徴とする、衛星航法装置。
【請求項2】
衛星から放送される複数の周波数の航法信号を受信する衛星航法装置であって、
前記衛星からの第1の周波数の搬送波に重畳された第1変調コードの位相を測定して第1コード疑似距離を計算する第1コード疑似距離計算手段と、
前記衛星からの第2の周波数の搬送波に重畳された第2変調コードの位相を測定して第2コード疑似距離を計算する第2コード疑似距離計算手段と、
ある基準時刻からの第1の周波数の搬送波の第1搬送波位相変化量を測定して第1搬送波疑似距離変化量を計算する第1搬送波疑似距離変化量計算手段と、
前記基準時刻からの第2の周波数の搬送波の第2搬送波位相変化量を測定して第2搬送波疑似距離変化量を計算する第2搬送波疑似距離変化量計算手段と、
前記第1コード疑似距離と前記第2コード疑似距離とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真のコード疑似距離を計算するコード疑似距離用電離層フリー線形結合手段と、
前記第1搬送波疑似距離変化量と前記第2搬送波疑似距離変化量とから、電離層フリー線形結合の手法によって電離層遅延を除去した真の搬送波疑似距離変化量を計算する搬送波疑似距離変化量用電離層フリー線形結合手段と、
前記真のコード疑似距離と前記真の搬送波疑似距離変化量とから、キャリアスムージングの手法によって平滑化されたコード疑似距離を計算するコード疑似距離スムージング手段とを備えたことを特徴とする、衛星航法装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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