説明

衛星軌道データの圧縮方法、衛星軌道データの提供方法、衛星軌道データの展開方法、サーバ及び測位装置

【課題】長期予測エフェメリスのデータ量を削減すること。
【解決手段】測位システム1において、サーバシステム3は、外部システム2から受信した衛星予測暦を基に、連続する単位期間それぞれのGPS衛星SVの衛星軌道をケプラーの近似式で近似した衛星軌道パラメータの値を有してなる完全長期予測エフェメリスを生成する。そして、完全長期予測エフェメリスの各パラメータのうち、自パラメータ以外の他のパラメータの値と、自パラメータの当該単位期間の1つ前の単位期間の値とを用いて推定可能なパラメータ(推定対象パラメータ)については、当該推定対象パラメータの値を、推定値との差分値(推定値の誤差)に置き換えることで完全長期予測エフェメリスを圧縮する。そして、サーバシステム3は、完全長期予測エフェメリスを圧縮することで得られた圧縮長期予測エフェメリスを携帯型電話機4に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星軌道データの圧縮方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利用されている。GPSでは、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情報に基づいて求める測位演算を行うことで測位する。
【0003】
GPSによる測位では、GPS衛星から発信されるGPS衛星信号に重畳されているアルマナックやエフェメリスといった航法データに基づいて、GPS衛星の位置、速度、移動方向等の衛星情報を算出し、当該衛星情報及び時刻情報を用いて測位演算を行う。特にエフェメリスは、衛星を捕捉する際の有力な手掛かりとなるため、例えばエフェメリスを保持していない状態で測位を開始した場合には、初回測位時間(TTFF:Time To First Fix)が増大する。また、初回測位でない場合であっても、ある衛星を初めて捕捉する際には、その衛星のエフェメリスを保持しているか否かで捕捉時間が大きく変わる。
【0004】
非特許文献1には、少なくとも1日以上の長期間有効なエフェメリス(以下、「長期予測エフェメリス」(予測衛星軌道暦)と称す。)に関する技術が開示されている。
【非特許文献1】SiRF Technology、Global Locate、Nokia-Siemens、Motorola、Nokia、Alcatel-Lucent、RIM、AT&T、“A-GNSS, Orbit extension”、[Online]、3GPP TSG-GERAN Meeting #34 Shenzhen、China 14th to 18th May 2007、インターネット <URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_geran/TSG_GERAN/GERAN_34_Shenzhen/Docs/GP070866.zip>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示されている技術は、長期予測エフェメリスのデータ量を削減する技術である。具体的には、6時間ごとの各期間(以下、「単位期間」と称す。)それぞれの衛星軌道をケプラーの楕円軌道モデル式で表した場合に、そのモデル式に用いた係数(以下「衛星軌道パラメータ値」と称す。)をエフェメリスとする。6時間毎のデータであるため、衛星軌道パラメータ値の組を4組生成することで、1日分のデータとなる。
【0006】
この1日分のデータを長期予測エフェメリスとすると、1つ目の単位期間を基準として(以下、「基準単位期間」と称す。)、残りの3つの単位期間の衛星軌道パラメータ値を、それぞれ基準単位期間の衛星軌道パラメータ値からの差分(Delta)に置き換えることで、長期予測エフェメリス全体のデータ量を削減する。
【0007】
しかしながら、長期予測エフェメリスのデータ量を更に削減したいという要望がある。すなわち、想定されている長期予測エフェメリスの利用形態は、測位装置がサーバシステムからダウンロードして利用する形態である。従って、でき得る限り、長期予測エフェメリスのデータ量を少なくして、通信時間や通信量を減らしたいという要望がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、長期予測エフェメリスのデータ量を削減するための新たな手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の発明は、連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの第1単位期間に属する前記パラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値について、前記第1パラメータとは異なるパラメータの値及び前記第1単位期間とは異なる単位期間に属する前記第1パラメータの値の少なくとも何れかを用いて、推定値を算出することと、前記第1パラメータの値を、前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値に置き換えることと、を含む衛星軌道データの圧縮方法である。
【0010】
この第1の発明によれば、連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの第1単位期間に属するパラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値については、第1パラメータとは異なるパラメータの値及び第1単位期間とは異なる単位期間に属する第1パラメータの値の少なくとも何れかを用いて、推定値を算出する。そして、第1パラメータの値を、推定値と第1パラメータの値との差分値に置き換えることで、衛星軌道データを圧縮する。
【0011】
パラメータの元の値を、元の値と推定値との差分値と比較すると、差分値の方が値が格段に小さく、データ量を減らすことができる。このため、衛星軌道を近似するパラメータのうち、推定演算で推定可能なパラメータについて、元の値を推定値との差分値に置き換えて衛星軌道データを構成することで、データ量を大幅に削減することが可能となる。
【0012】
この場合、さらに第7の発明として、連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの前記パラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値について、推定値を算出することと、前記第1パラメータの値を、前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値に置き換えることと、を含む衛星軌道データの圧縮方法を構成することも可能である。
【0013】
また、第2の発明として、第1の発明の衛星軌道データの圧縮方法であって、前記第1単位期間に属する前記所定の演算で推定不可能な第2パラメータの値を、前記第1の単位期間に属する前記第2パラメータの値と前記第1の単位期間とは異なる単位期間に属する前記第2パラメータの値との差分値に置き換えることを含む衛星軌道データの圧縮方法を構成してもよい。
【0014】
この第2の発明によれば、第1単位期間に属する所定の演算で推定不可能な第2パラメータの値を、第1の単位期間に属する第2パラメータの値と第1の単位期間とは異なる単位期間に属する第2パラメータの値との差分値に置き換えることで、衛星軌道データのデータ量を削減することができる。
【0015】
この場合、第3の発明として、第1又は第2の発明の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データを測位装置に提供する提供方法を構成してもよい。
【0016】
また、第4の発明として、第1又は第2の発明の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データを元の衛星軌道データに戻す衛星軌道データの展開方法であって、前記圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データに含まれる前記パラメータのうち、前記第1パラメータの推定値を前記所定の演算で求めることと、前記推定値、及び、前記圧縮された衛星軌道データに含まれている前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値を用いて、前記第1パラメータの値を算出することと、を含む衛星軌道データの展開方法を構成してもよい。
【0017】
この第4の発明によれば、圧縮された衛星軌道データに含まれるパラメータのうち、第1パラメータの推定値を所定の演算で求める。そして、求めた推定値、及び、圧縮された衛星軌道データに含まれている差分値を用いて、第1パラメータの値を算出する。これにより、第1又は第2の発明の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データを展開することができる。
【0018】
また、第5の発明として、連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの第1単位期間に属する前記パラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値について、前記第1パラメータとは異なるパラメータの値及び前記第1単位期間とは異なる単位期間に属する前記第1パラメータの値の少なくとも何れかを用いて、推定値を算出する推定部と、前記第1パラメータの値を、前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値に置き換えることによって、前記衛星軌道データを圧縮する圧縮部と、前記圧縮された衛星軌道データを測位装置に提供する提供部と、を備えたサーバを構成してもよい。
【0019】
この第5の発明によれば、第1又は第2の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データを測位装置に提供するサーバを実現することができる。
【0020】
また、第6の発明として、第1又は第2に発明の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データに含まれる前記パラメータのうち、前記第1パラメータの推定値を前記所定の演算で求める推定部と、前記推定値、及び、前記圧縮された衛星軌道データに含まれている前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値を用いて、前記第1パラメータの値を算出する算出部と、前記算出された前記第1パラメータの値を用いて測位を行う測位部と、を備えた測位装置を構成してもよい。
【0021】
この第6の発明によれば、第4の発明の展開方法によって展開した衛星軌道データを用いて衛星を捕捉して測位する測位装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0023】
1.システム構成
図1は、本実施形態における測位システム1の概略構成を示す図である。測位システム1は、外部システム2と、サーバシステム3と、測位装置を備えた電子機器である携帯型電話機4と、複数のGPS衛星SV(SV1,SV2,SV3,SV4,・・・)とを備えて構成される。
【0024】
外部システム2は、GPS衛星SVから定期的に衛星信号を受信し、当該衛星信号に含まれる航法データ等に基づいて衛星予測暦を生成してサーバシステム3に提供するシステムである。外部システム2が提供する衛星予測暦は、各GPS衛星SVそれぞれについて、衛星位置を時系列に並べた離散的なデータ群であり、不連続な位置のデータである。外部システム2は、例えば衛星予測暦の提供を業務とする民間や公営の団体のコンピュータシステムに相当する。
【0025】
サーバシステム3は、衛星予測暦を外部システム2から取得し、当該衛星予測暦を用いて、全てのGPS衛星SVの予測されるエフェメリスであって、少なくとも1日分以上の例えば1週間といった長期間有効なエフェメリス(以下、本実施形態において「長期予測エフェメリス(予測衛星軌道暦)」と称す。)を生成・提供するサーバを備えたシステムである。
【0026】
本実施形態では、サーバシステム3は、衛星軌道パラメータの原数値が格納された完全な形態の長期予測エフェメリス(以下、「完全長期予測エフェメリス」と称す。)を基に、衛星軌道パラメータの圧縮値が格納された圧縮された形態の長期予測エフェメリス(以下、「圧縮長期予測エフェメリス」と称す。)を生成する。ここで、「原数値」とは、後述する圧縮値ではない、オリジナルの値という意味である。そして、生成した圧縮長期予測エフェメリスを、要求信号を受信した携帯型電話機4に送信する。
【0027】
携帯型電話機4は、ユーザが通話やメールの送受信等を行うための電子機器であり、通話やメールの送受信といった携帯型電話機としての本来の機能の他、位置を計測する機能(測位機能)を有している。携帯型電話機4は、ユーザ操作に従って、サーバシステム3に対して圧縮長期予測エフェメリスの要求信号を送信し、サーバシステム3から圧縮長期予測エフェメリスを受信する。そして、受信した圧縮長期予測エフェメリスを展開して完全長期予測エフェメリスを取得し、当該完全長期予測エフェメリスを用いてGPS衛星SVを捕捉することで測位する。
【0028】
2.サーバシステム
2−1.機能構成
図2は、サーバシステム3の機能構成を示すブロック図である。サーバシステム3は、CPU(Central Processing Unit)310と、操作部320と、通信部330と、ROM(Read Only Memory)340と、ハードディスク350と、RAM(Random Access Memory)360とを備え、各部がバス370で接続されたコンピュータシステムである。
【0029】
CPU310は、ROM340に記憶されているシステムプログラム等に従ってサーバシステム3の各部を統括的に制御するプロセッサである。本実施形態では、CPU310は、ROM340に記憶されている圧縮長期予測エフェメリス提供プログラム341に従って、携帯型電話機4に圧縮長期予測エフェメリスを提供する処理を行う。
【0030】
操作部320は、サーバシステム3の管理者による操作指示を受け付け、操作に応じた信号をCPU310に出力する入力装置である。この機能は、例えばキーボードやボタン、マウス等により実現される。
【0031】
通信部330は、システム内部で利用される各種データをインターネット等の通信ネットワークを介して外部システム2や携帯型電話機4とやり取りするための通信装置である。
【0032】
ROM340は、読み取り専用の不揮発性の記憶装置であり、CPU310がサーバシステム3を制御するためのシステムプログラムや、圧縮長期予測エフェメリスを携帯型電話機4に提供するためのプログラム、圧縮長期予測エフェメリスを生成するためのプログラム等の各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0033】
ハードディスク350は、磁気ヘッド等を用いてデータの読み書きを行う記憶装置であり、ROM340と同様、サーバシステム3が備える各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。
【0034】
RAM360は、読み書き可能な揮発性の記憶装置であり、CPU310により実行されるシステムプログラム、圧縮長期予測エフェメリス提供プログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0035】
2−2.データ構成
図3は、ROM340に格納されたデータの一例を示す図である。ROM340には、CPU310により読み出され、圧縮長期予測エフェメリス提供処理(図11参照)として実行される圧縮長期予測エフェメリス提供プログラム341が記憶されている。また、圧縮長期予測エフェメリス提供プログラム341には、圧縮長期予測エフェメリス生成処理(図12及び図13参照)として実行される圧縮長期予測エフェメリス生成プログラム3411がサブルーチンとして含まれている。
【0036】
圧縮長期予測エフェメリス提供処理とは、CPU310が、圧縮長期予測エフェメリスを生成する処理を定期的に行い、携帯型電話機4から圧縮長期予測エフェメリスの要求信号を受信した場合に、生成済みの圧縮長期予測エフェメリスを要求元の携帯型電話機4に送信する処理である。圧縮長期予測エフェメリス提供処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0037】
圧縮長期予測エフェメリス生成処理とは、CPU310が、圧縮長期予測エフェメリスを生成する処理である。すなわち、外部システム2から受信した衛星予測暦に記憶されている各GPS衛星SVの衛星位置に基づいて、ケプラーの楕円軌道モデルを基に各GPS衛星SVの6時間ごとの各単位期間における衛星軌道を算出し、衛星軌道パラメータの原数値を有してなる完全長期予測エフェメリスを生成する。そして、生成した完全長期予測エフェメリスを基に、衛星軌道パラメータの圧縮値を有してなる圧縮長期予測エフェメリスを生成する。
【0038】
本実施形態では、CPU310は、圧縮長期予測エフェメリスを4時間に1回生成する。具体的には、圧縮長期予測エフェメリスの生成日時を基準として1週間後までの期間を予測期間とし、当該1週間の期間を6時間毎に区切った28個分の各期間を単位期間とする。そして、この28個の単位期間分の予測エフェメリスでなる完全長期予測エフェメリス及び圧縮長期予測エフェメリスを生成する。
【0039】
図4は、ハードディスク350に格納されたデータの一例を示す図である。ハードディスク350には、衛星予測暦351と、完全長期予測エフェメリスデータ352と、圧縮長期予測エフェメリスデータ356とが記憶されている。
【0040】
図5は、衛星予測暦351のデータ構成の一例を示す図である。衛星予測暦351は、各GPS衛星SV1の1週間後までの衛星位置が、15分おきに記憶された離散的なデータである。衛星位置は、例えば地球基準座標系における3次元の座標値で表される。例えば、「2008年7月1日0時30分」におけるGPS衛星「SV2」の衛星位置は「(X32,Y32,Z32)」である。
【0041】
CPU310は、外部システム2から定期的に(例えば4時間に1回)送信されてくる衛星予測暦351で、ハードディスク350の衛星予測暦351を更新する。そして、圧縮長期予測エフェメリス生成処理において、各GPS衛星SVそれぞれについて、衛星予測暦351に記憶されている衛星位置を標本点として、ケプラーの近似モデルに基づいて当該GPS衛星の衛星軌道(衛星軌道パラメータの原数値)を算出する。
【0042】
図6は、完全長期予測エフェメリスデータ352のデータ構成の一例を示す図である。完全長期予測エフェメリスデータ352には、完全長期予測エフェメリスの生成日時353と対応付けて、第1〜第28単位期間の予測エフェメリス354−1〜354−28で構成される完全長期予測エフェメリス354が記憶されている。
【0043】
図7は、第1〜第28単位期間の予測エフェメリス354−1〜354−28のデータ構成の一例を示す図である。予測エフェメリス354−1〜354−28には、それぞれ、32個のGPS衛星SVそれぞれについて、ケプラーの衛星軌道パラメータの原数値(元の値)が記憶されている。例えば、GPS衛星「SV1」について算出された離心率の原数値は「e_1」である。
【0044】
図8は、圧縮長期予測エフェメリスデータ356のデータ構成の一例を示す図である。圧縮長期予測エフェメリスデータ356には、圧縮長期予測エフェメリスの生成日時357と対応付けて、第1単位期間の予測エフェメリス358−1と、第2〜第28単位期間の圧縮予測エフェメリス358−2〜358−28とで構成される圧縮長期予測エフェメリス358が記憶されている。すなわち、圧縮長期予測エフェメリス358は、第1単位期間のみが予測エフェメリスであり、残余の単位期間が予測エフェメリスのデータを圧縮した圧縮予測エフェメリスである。以下の説明では、第1単位期間のことを「基準単位期間」と称する。
【0045】
図9は、基準単位期間の予測エフェメリス358−1のデータ構成の一例を示す図である。予測エフェメリス358−1には、32個のGPS衛星SVそれぞれについて、ケプラーの衛星軌道パラメータの原数値が記憶されている。予測エフェメリス358−1のデータは、完全長期予測エフェメリス354に含まれる予測エフェメリス354−1のデータと変わらない。
【0046】
図10は、第2〜第28単位期間の圧縮予測エフェメリス358−2〜358−28のデータ構成の一例を示す図である。圧縮予測エフェメリス358−2〜358−28には、それぞれ、32個のGPS衛星SVそれぞれについて、ケプラーの衛星軌道パラメータの圧縮値が記憶されている。圧縮値は、当該衛星軌道パラメータが値を推定可能なパラメータであるか否かによって異なる。
【0047】
衛星軌道パラメータのうち、平均近点角「M0」、昇交点赤経「Ω0」、軌道傾斜角「i0」、0次のクロック補正係数「af0」及び1次のクロック補正係数「af1」は、所定の推定演算で推定することが可能である。これら5つのパラメータのことを「推定対象パラメータ」と称し、推定対象パラメータ以外のパラメータ(推定不可能なパラメータ)のことを「非推定対象パラメータ」と称する。
【0048】
具体的には、上述した5つの推定対象パラメータは、次式(1)〜(5)から推定することができる。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

但し、上付きの添え字の「e」は推定値であることを示し、上付きの添え字の「a」は原数値であることを示している。また、「t」は時刻を示し、「dt」は時刻差を示している。また、「μ」、「A」は定数である。
【0049】
式(1)〜(5)からわかるように、当該単位期間の推定対象パラメータの値は、当該単位期間の1つ前の単位期間の当該推定対象パラメータの推定値と、当該単位期間の1つ前の単位期間及び当該単位期間それぞれの非推定対象パラメータの原数値とを用いて算出することができる。完全長期予測エフェメリスには、全ての単位期間の全ての衛星軌道パラメータの原数値が記憶されているため、第2単位期間から推定演算を逐次行っていくことで、第28単位期間までの全ての推定対象パラメータの推定値を求めることができる。
【0050】
本実施形態では、推定対象パラメータについては、各単位期間それぞれについて、上述した手順で求めた推定値の原数値からの誤差を算出して、当該推定対象パラメータの圧縮値とする。具体的には、次式(6)〜(10)に従って、完全長期予測エフェメリスに含まれる推定対象パラメータの原数値と、推定対象パラメータの推定値との差分値を算出して圧縮値とする。
【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

但し、上付きの添え字の「e」は推定値であることを示し、上付きの添え字の「a」は原数値であることを示している。また、「_err」は、誤差であることを示している。
【0051】
尚、式(1)〜式(5)を用いて推定対象パラメータの値を推定するのはあくまでも一例であり、他にも何らかの演算で推定対象パラメータの値を推定することが可能であれば、当該演算によって推定対象パラメータの推定値を求め、その推定値と原数値との差分値を圧縮値とすることにしても構わない。
【0052】
一方、非推定対象パラメータについては、各単位期間それぞれについて、当該単位期間における非推定対象パラメータの原数値と、基準単位期間における非推定対象パラメータの原数値との差分値「δ」を算出して、当該非推定対象パラメータの圧縮値とする。
【0053】
例えば、図10において、非推定対象パラメータである近地点引数「ω」のGPS衛星「SV1」についての圧縮値は、差分値「δω_1」である。また、推定対象パラメータである平均近点角「M0」のGPS衛星「SV1」についての圧縮値は、誤差「M0_1_err」である。
【0054】
本願発明者は、非特許文献1に記載されている原数値同士の差分値よりも、原数値と推定値との差分値(推定値の誤差)の方が値が小さくなることを発見した。この発見に基づき、推定対象パラメータについては、当該単位期間の原数値と当該単位期間の推定値との差分値を圧縮値として圧縮長期予測エフェメリスを構成することで、データ量の削減を実現している。
【0055】
本願発明者が実験を行ったところ、1つの推定対象パラメータにつき、最低2ビットのデータ量の削減を行うことができることを確認した。この場合、5つの推定対象パラメータでは最低10ビットのデータ量の削減になるため、32衛星で28単位期間(=1週間)分の長期予測エフェメリスでは、最低でも10×32×28=8960ビット=1120バイトのデータ量の削減になる。
【0056】
2−3.処理の流れ
図11は、ROM340に記憶されている圧縮長期予測エフェメリス提供プログラム341がCPU310により読み出されて実行されることで、サーバシステム3において実行される圧縮長期予測エフェメリス提供処理の流れを示すフローチャートである。
【0057】
先ず、CPU310は、外部システム2から衛星予測暦351を受信したか否かを判定し(ステップA1)、受信しなかったと判定した場合は(ステップA1;No)、ステップA5へと処理を移行する。また、受信したと判定した場合は(ステップA1;Yes)、受信した衛星予測暦351をハードディスク350に更新記憶させる(ステップA3)。
【0058】
次いで、CPU310は、圧縮長期予測エフェメリスの生成時刻であるか否かを判定する(ステップA5)。本実施形態では、4時間に1回圧縮長期予測エフェメリスを生成するものとする。そして、まだ生成時刻ではないと判定した場合は(ステップA5;No)、CPU310は、ステップA9へと処理を移行する。
【0059】
また、圧縮長期予測エフェメリスの生成時刻であると判定した場合は(ステップA5;Yes)、CPU310は、ROM340に記憶されている圧縮長期予測エフェメリス生成プログラム3411を読み出して実行することで、圧縮長期予測エフェメリス生成処理を行う(ステップA7)。
【0060】
図12及び図13は、圧縮長期予測エフェメリス生成処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU310は、現在日時に基づいて、各単位期間を判定する(ステップB1)。具体的には、現在日時(生成日時)から1週間後までの6時間毎の各期間を単位期間と判定する。
【0061】
次いで、CPU310は、ハードディスク350に記憶されている衛星予測暦351から、ステップB1で判定した各単位期間それぞれの各時刻(衛星予測暦351に記憶されている15分おきの時刻であって、当該単位期間に含まれる時刻のことをいう。)における各GPS衛星SVの衛星位置を抽出する(ステップB3)。
【0062】
そして、CPU310は、ステップB1で判定した各単位期間について、ループAの処理を実行する(ステップB5〜B13)。ループAでは、CPU310は、各GPS衛星SVについて、ループBの処理を実行する(ステップB7〜B11)。
【0063】
ループBでは、CPU310は、当該単位期間の各時刻における当該GPS衛星SVの衛星位置を用いて、ケプラーの楕円軌道モデルに基づく衛星軌道を算出し、その衛星軌道パラメータ値を原数値とする(ステップB9)。尚、衛星軌道の具体的な算出方法については公知であるため、説明を省略する。そして、CPU310は、次のGPS衛星SVへと処理を移行する。
【0064】
全てのGPS衛星SVについてステップB9の処理を行った後、CPU310は、ループBの処理を終了する(ステップB11)。ループBの処理を終了した後、CPU310は、次の単位期間へと処理を移行する。そして、全ての単位期間についてステップB7〜B11の処理を行った後、CPU310は、ループAの処理を終了する(ステップB13)。
【0065】
ループAの処理を終了した後、CPU310は、求めた衛星軌道パラメータの原数値を統合して完全長期予測エフェメリス354を生成し、生成日時353と対応付けて、完全長期予測エフェメリスデータ352としてハードディスク350に更新記憶させる(ステップB15)。
【0066】
その後、CPU310は、基準単位期間以外の各単位期間について、ループCの処理を実行する(ステップB17〜B27)。ループCでは、CPU310は、各GPS衛星SVについて、ループDの処理を実行する(ステップB19〜B25)。
【0067】
ループDでは、CPU310は、各推定対象パラメータについて圧縮値を算出する(ステップB21)。すなわち、式(1)〜(5)に従って、当該単位期間の各推定対象パラメータの推定値を算出する。そして、式(6)〜(10)に従って、各推定対象パラメータの推定値の誤差を算出して圧縮値とする。
【0068】
次いで、CPU310は、各非推定対象パラメータについて圧縮値を算出する(ステップB23)。すなわち、ステップB15で生成した完全長期予測エフェメリス354に含まれる当該単位期間の非推定対象パラメータの原数値と、基準単位期間の非推定対象パラメータの原数値との差分を算出して圧縮値とする。
【0069】
そして、CPU310は、次のGPS衛星SVへと処理を移行する(ステップB25)。全てのGPS衛星SVについてステップB21及びB23の処理を行った後、CPU310は、ループDの処理を終了する(ステップB25)。
【0070】
ループDの処理を終了した後、CPU310は、次の単位期間へと処理を移行する。そして、基準単位期間以外の全ての単位期間についてステップB19〜B25の処理を行った後、CPU310は、ループCの処理を終了する(ステップB27)。
【0071】
ループCの処理を終了した後、CPU310は、求めた衛星軌道パラメータの圧縮値を統合して圧縮長期予測エフェメリス358を生成し、生成日時357と対応付けて、圧縮長期予測エフェメリスデータ356としてハードディスク350に更新記憶させる(ステップB29)。そして、CPU310は、圧縮長期予測エフェメリス生成処理を終了する。
【0072】
図11の圧縮長期予測エフェメリス提供処理に戻って、圧縮長期予測エフェメリス生成処理を行った後、CPU310は、携帯型電話機4から圧縮長期予測エフェメリスの要求信号を受信したか否かを判定する(ステップA9)。そして、受信しなかったと判定した場合は(ステップA9;No)、ステップA1に戻る。
【0073】
また、要求信号を受信したと判定した場合は(ステップA9;Yes)、CPU310は、ハードディスク350に記憶されている圧縮長期予測エフェメリスデータ356を要求元の携帯型電話機4に送信する(ステップA11)。そして、CPU310は、ステップA1に戻る。
【0074】
3.携帯型電話機
3−1.機能構成
図14は、携帯型電話機4の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機4は、GPSアンテナ405と、GPS受信部410と、ホストCPU420と、操作部430と、表示部440と、携帯電話用アンテナ450と、携帯電話用無線通信回路部460と、ROM470と、フラッシュROM480と、RAM490とを備えて構成される。
【0075】
GPSアンテナ405は、GPS衛星SVから発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部410に出力する。尚、GPS衛星信号は、衛星毎に異なる拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードで直接スペクトラム拡散方式により変調された1.57542[GHz]の通信信号である。PRNコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号である。
【0076】
GPS受信部410は、GPSアンテナ405から出力された信号に基づいて測位する測位回路であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックである。GPS受信部410は、RF(Radio Frequency)受信回路部411と、ベースバンド処理回路部413とを備えて構成される。尚、RF受信回路部411と、ベースバンド処理回路部413とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0077】
RF受信回路部411は、RF信号の処理回路ブロックであり、所定の局部発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ405から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートする。そして、IF信号を増幅等した後、A/D(Analog Digital)変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部413に出力する。
【0078】
ベースバンド処理回路部413は、RF受信回路部411から出力されたIF信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出する回路部である。ベースバンド処理回路部413は、プロセッサとしてのCPU415と、メモリとしてのROM417及びRAM419とを備えて構成される。CPU415は、ホストCPU420が圧縮長期予測エフェメリスを展開することで取得した完全長期予測エフェメリスを用いて、GPS衛星信号を捕捉・抽出する。
【0079】
ホストCPU420は、ROM470に記憶されている測位演算プログラムやシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機4の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCPU420は、ベースバンド処理回路部413によって捕捉・抽出されたGPS衛星信号からデータを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出して測位演算を行う。そして、測位演算により求めた測位位置をプロットしたナビゲーション画面を、表示部440に表示させる。
【0080】
操作部430は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたアイコンやボタンの信号をホストCPU420に出力する。この操作部430の操作により、通話要求やメールの送受信要求、GPSの起動要求等の各種指示入力がなされる。
【0081】
表示部440は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU420から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部440には、ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0082】
携帯電話用アンテナ450は、携帯型電話機4の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0083】
携帯電話用無線通信回路部460は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0084】
ROM470は、読み取り専用の不揮発性の記憶装置であり、ホストCPU420が携帯型電話機4を制御するためのシステムプログラムや、測位演算を実現するための測位演算プログラム、ナビゲーション機能を実現するためのナビゲーションプログラム等の各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0085】
フラッシュROM480は、読み書き可能な不揮発性の記憶装置であり、ROM470と同様に、ホストCPU420が携帯型電話機4を制御するための各種プログラムやデータ等を記憶している。フラッシュROM480に記憶されているデータは、携帯型電話機4の電源を切断しても失われない。
【0086】
RAM490は、読み書き可能な揮発性の記憶装置であり、ホストCPU420により実行されるシステムプログラム、測位演算プログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0087】
3−2.データ構成
図15は、ROM470に格納されたデータの一例を示す図である。ROM470には、ホストCPU420により読み出され、メイン処理(図18参照)として実行されるメインプログラム471が記憶されている。
【0088】
メイン処理とは、ホストCPU420が、携帯型電話機4の本来の機能である通話やメールの送受信のための処理を行う他、携帯型電話機4の位置を測定する処理(測位処理)、携帯型電話機4の電源投入後の初回の測位を高速化する処理等を行う処理である。メイン処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0089】
図16は、フラッシュROM480に格納されたデータの一例を示す図である。フラッシュROM480には、サーバシステム3から受信した圧縮長期予測エフェメリスデータ481と、圧縮長期予測エフェメリスデータを展開することで得られる完全長期予測エフェメリスデータ483とが記憶される。
【0090】
圧縮長期予測エフェメリスデータ481のデータ構成は、図8〜図10と同様である。また、完全長期予測エフェメリスデータ483のデータ構成は、図6及び図7と同様である。これらのデータは、メイン処理においてホストCPU420により更新される。
【0091】
図17は、RAM490に格納されるデータの一例を示す図である。RAM490には、測位処理により求められた測位位置491が記憶される。測位位置491は、メイン処理においてホストCPU420により更新される。
【0092】
3−3.処理の流れ
図18は、ROM470に記憶されているメインプログラム471がホストCPU420により読み出されて実行されることで、携帯型電話機4において実行されるメイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0093】
メイン処理は、ホストCPU420が、操作部430を介してユーザにより電源投入操作がなされたことを検出した場合に実行を開始する処理である。また、特に説明しないが、以下のメイン処理の実行中は、GPSアンテナ405によるRF信号の受信や、RF受信回路部411によるRF信号のIF信号へのダウンコンバージョンが行われ、IF信号がベースバンド処理回路部413に随時出力される状態にあるものとする。
【0094】
先ず、ホストCPU420は、操作部430を介してなされた指示操作を判定し(ステップC1)、指示操作が通話指示操作であると判定した場合は(ステップC1;通話指示操作)、通話処理を行う(ステップC3)。具体的には、携帯電話用無線通信回路部460に無線基地局との間の基地局通信を行わせ、携帯型電話機4と他機との間の通話を実現する。
【0095】
また、ステップC1において指示操作がメール送受信指示操作であると判定した場合は(ステップC1;メール送受信指示操作)、ホストCPU420は、メール送受信処理を行う(ステップC5)。具体的には、携帯電話用無線通信回路部460に基地局通信を行わせ、携帯型電話機4と他機との間のメールの送受信を実現する。
【0096】
また、ステップC1において指示操作が測位指示操作であると判定した場合は(ステップC1;測位指示操作)、ホストCPU420は、測位処理を行う(ステップC7)。具体的には、ホストCPU420は、ベースバンド処理回路部413のCPU415に、フラッシュROM480に記憶されている完全長期予測エフェメリス483を用いてGPS衛星信号の捕捉・抽出を行わせる。
【0097】
そして、ROM470から測位演算プログラムを読み出して実行し、CPU415により捕捉・抽出されたGPS衛星信号を利用した所定の測位演算を行うことで測位する。測位演算としては、例えば最小二乗法やカルマンフィルタを用いた測位演算等の公知の手法を適用することができる。そして、ホストCPU420は、測位演算により求めた測位位置491をRAM490に記憶させる。
【0098】
また、ステップC1において指示操作が初期測位高速化指示操作であると判定した場合は(ステップC1;初期測位高速化指示操作)、ホストCPU420は、初期測位高速化処理を行う(ステップC9)。
【0099】
図19は、初期測位高速化処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、ホストCPU420は、圧縮長期予測エフェメリスの要求信号をサーバシステム3に送信する(ステップD1)。そして、サーバシステム3から、圧縮長期予測エフェメリスデータ481を受信し、フラッシュROM480に更新記憶させる(ステップD3)。
【0100】
次いで、ホストCPU420は、長期予測エフェメリス展開処理を行う(ステップD5〜D9)。先ず、ステップD3において受信した圧縮長期予測エフェメリスデータ481の圧縮長期予測エフェメリスに含まれる各推定対象パラメータそれぞれについて、原数値と推定値との差分値(推定値の誤差)で表される圧縮値を展開し、各単位期間の各GPS衛星SVそれぞれについての当該推定対象パラメータの原数値を取得する(ステップD5)。
【0101】
より具体的には、ホストCPU420は、受信した圧縮長期予測エフェメリスに含まれている原数値及び圧縮値を用いて、式(1)〜(5)に従って各推定対象パラメータの推定値を算出する。そして、算出した推定対象パラメータの推定値と、圧縮長期予測エフェメリスに含まれている推定対象パラメータの圧縮値(推定値の誤差)とを用いて、式(6)〜(10)を用いて推定対象パラメータの原数値を算出する。
【0102】
また、ホストCPU420は、圧縮長期予測エフェメリスに含まれる各非推定対象パラメータそれぞれについて、基準単位期間の原数値との差分値で表される圧縮値を展開して、各単位期間の各GPS衛星SVそれぞれについての当該非推定対象パラメータの原数値を取得する(ステップD7)。
【0103】
そして、ホストCPU420は、求めた衛星軌道パラメータの原数値を統合し、完全長期予測エフェメリスとしてフラッシュROM480に更新記憶させる(ステップD9)。そして、ホストCPU420は、初期測位高速化処理を終了する。
【0104】
図18のメイン処理に戻って、ステップC3〜C9の何れかの処理を行った後、ホストCPU420は、操作部430を介してユーザにより電源切断指示操作がなされたか否かを判定し(ステップC11)、なされなかったと判定した場合は(ステップC11;No)、ステップC1に戻る。また、電源切断指示操作がなされたと判定した場合は(ステップC11;Yes)、メイン処理を終了する。
【0105】
4.作用効果
測位システム1において、サーバシステム3は、外部システム2から受信した衛星予測暦を基に、連続する単位期間それぞれのGPS衛星SVの衛星軌道をケプラーの近似式で近似した衛星軌道パラメータの値を有してなる完全長期予測エフェメリスを生成する。そして、完全長期予測エフェメリスの各パラメータのうち、自パラメータ以外の他のパラメータの値と、自パラメータの当該単位期間の1つ前の単位期間の値とを用いて推定可能なパラメータ(推定対象パラメータ)については、当該推定対象パラメータの値を、推定値との差分値(推定値の誤差)に置き換えることで完全長期予測エフェメリスを圧縮する。そして、サーバシステム3は、完全長期予測エフェメリスを圧縮することで得られた圧縮長期予測エフェメリスを携帯型電話機4に送信する。
【0106】
携帯型電話機4は、サーバシステム3から圧縮長期予測エフェメリスを受信する。そして、携帯型電話機4は、推定演算を行って推定対象パラメータそれぞれの推定値を求め、当該推定値と、圧縮長期予測エフェメリスに含まれている推定対象パラメータの圧縮値(推定値の誤差)とを用いて推定対象パラメータの原数値を算出することで、圧縮完全長期予測エフェメリスを展開する。そして、携帯型電話機4は、圧縮完全長期予測エフェメリスを展開することで得られた完全長期予測エフェメリスに含まれている衛星軌道パラメータの値を用いてGPS衛星SVを捕捉し、所定の測位演算を行うことで自機の位置を計測する。
【0107】
以上のように、衛星軌道パラメータのうちの推定対象パラメータについては、各単位期間の各GPS衛星それぞれについて、原数値を推定値の誤差(原数値と推定値との差分値)に置き換えることで、長期予測エフェメリス全体としてデータ量を削減することが可能となる。
【0108】
5.変形例
5−1.測位システム
上述した実施形態では、サーバシステム3と携帯型電話機4を備えた測位システム1を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な測位システムはこれに限られるわけではない。例えば、携帯型電話機4の代わりに、測位装置を備えたノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション装置等の電子機器に適用することも可能である。
【0109】
5−2.衛星測位システム
また、上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムであってもよい。
【0110】
5−3.処理の分化
ホストCPU420が行う処理の一部又は全部を、CPU415が行うことにしてもよい。例えば、CPU415が、サーバシステム3に圧縮長期予測エフェメリスを要求し、取得した圧縮長期予測エフェメリスを展開して完全長期予測エフェメリスを生成してGPS衛星信号を捕捉・抽出する。また、ホストCPU420が測位演算を実行するのではなく、CPU415が測位演算を実行する構成としてもよいことは勿論である。
【0111】
5−4.圧縮長期予測エフェメリスの生成・提供
上述した実施形態では、サーバシステム3が予め所定の時間間隔(例えば4時間に1回)で圧縮長期予測エフェメリスを生成しておき、携帯型電話機4から圧縮長期予測エフェメリスの要求を受けた場合に、圧縮長期予測エフェメリスを送信するものとして説明した。このような構成を採るのではなく、携帯型電話機4から圧縮長期予測エフェメリスの要求を受けたときに、圧縮長期予測エフェメリスを生成して携帯型電話機4に送信することにしてもよい。
【0112】
図20は、この場合にサーバシステム3のCPU310が実行する第2の圧縮長期予測エフェメリス提供処理の流れを示すフローチャートである。尚、図11の圧縮長期予測エフェメリス提供処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、圧縮長期予測エフェメリス提供処理とは異なる部分を中心に説明する。
【0113】
第2の圧縮長期予測エフェメリス提供処理では、携帯型電話機4から要求信号を受信した場合に(ステップE5;Yes)、CPU310は、圧縮長期予測エフェメリス生成処理を行って、圧縮長期予測エフェメリスを生成する(ステップA7)。圧縮長期予測エフェメリス生成処理は、図12及び図13で説明した通りである。そして、CPU310は、生成した圧縮長期予測エフェメリスデータ356を要求元の携帯型電話機4に送信して(ステップE9)、ステップA1に戻る。
【0114】
5−5.圧縮長期予測エフェメリスのデータ構成
上述した実施形態では、推定対象パラメータについては推定値の誤差、非推定対象パラメータについては原数値の差分をそれぞれ圧縮値として用いて圧縮長期予測エフェメリスを構成するものとして説明したが、非推定対象パラメータについては、圧縮値ではなく原数値を用いて圧縮長期予測エフェメリスを構成することとしてもよい。但し、この場合は、上述した実施形態と比べてデータ量は大きくなる。
【0115】
5−6.衛星軌道の近似モデル
上述した実施形態では、ケプラーの近似モデルを用いてGPS衛星の衛星軌道を算出するものとして説明したが、他にはラグランジュ(Lagrange)やネヴィル(Neville)、スプライン(Spline)等の近似モデルに基づいて算出することとしてもよい。すなわち、各GPS衛星それぞれについて、衛星予測暦に記憶されている衛星位置を標本点として、ラグランジュ法やネヴィル法、スプライン法等の補間技術を用いて補間多項式を求めることで、当該GPS衛星の衛星軌道を近似する。
【0116】
5−7.予測期間
上述した実施形態では、圧縮長期予測エフェメリスの生成日時を基準として1週間後までの期間を予測期間として圧縮長期予測エフェメリスを生成するものとして説明したが、予測期間は1週間よりも長い期間(例えば2週間)としてもよいし、1週間よりも短い期間(例えば3日)としてもよい。GPS衛星から送信される航法データとしてのエフェメリスは有効期間が一般に4時間程度であるが、長期予測エフェメリスは少なくともGPS衛星から送信される航法データとしてのエフェメリスよりも有効期間が長ければよい。
【0117】
5−8.単位期間
また、圧縮長期予測エフェメリスの予測期間を6時間ずつ区切って単位期間を構成するものとして説明したが、例えば4時間ずつ区切って単位期間を構成することとしてもよく、単位期間の長さは適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】測位システムの概略構成を示す図。
【図2】サーバシステムの機能構成を示すブロック図。
【図3】サーバシステムのROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図4】サーバシステムのハードディスクに格納されたデータの一例を示す図。
【図5】衛星予測暦のデータ構成の一例を示す図。
【図6】完全長期予測エフェメリスデータのデータ構成の一例を示す図。
【図7】第1〜第28単位期間の予測エフェメリスのデータ構成の一例を示す図。
【図8】圧縮長期予測エフェメリデータのデータ構成の一例を示す図。
【図9】基準単位期間の予測エフェメリスのデータ構成の一例を示す図。
【図10】第2〜第28単位期間の圧縮予測エフェメリスのデータ構成の一例を示す図。
【図11】圧縮長期予測エフェメリス提供処理の流れを示すフローチャート。
【図12】圧縮長期予測エフェメリス生成処理の流れを示すフローチャート。
【図13】圧縮長期予測エフェメリス生成処理の流れを示すフローチャート。
【図14】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図15】携帯型電話機のROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図16】携帯型電話機のフラッシュROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図17】携帯型電話機のRAMに格納されるデータの一例を示す図。
【図18】メイン処理の流れを示すフローチャート。
【図19】初期測位高速化処理の流れを示すフローチャート。
【図20】第2の圧縮長期予測エフェメリス提供処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0119】
1 測位システム 、 2 外部システム、 3 サーバシステム、
4 携帯型電話機、 310 CPU、 320 操作部、 330 通信部、
340 ROM、 350 ハードディスク、 360 RAM、 370 バス、
405 GPSアンテナ、 410 GPS受信部、 411 RF受信回路部、
413 ベースバンド処理回路部、 415 CPU、 417 ROM、
419 RAM、 420 ホストCPU、 430 操作部、 440 表示部、
450 携帯電話用アンテナ、 460 携帯電話用無線通信回路部、
470 ROM、 480 フラッシュROM、 490 RAM、 SV GPS衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの第1単位期間に属する前記パラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値について、前記第1パラメータとは異なるパラメータの値及び前記第1単位期間とは異なる単位期間に属する前記第1パラメータの値の少なくとも何れかを用いて、推定値を算出することと、
前記第1パラメータの値を、前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値に置き換えることと、
を含む衛星軌道データの圧縮方法。
【請求項2】
前記第1単位期間に属する前記所定の演算で推定不可能な第2パラメータの値を、前記第1の単位期間に属する前記第2パラメータの値と前記第1の単位期間とは異なる単位期間に属する前記第2パラメータの値との差分値に置き換えることを含む請求項1に記載の衛星軌道データの圧縮方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データを測位装置に提供する提供方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データの展開方法であって、
前記圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データに含まれる前記パラメータのうち、前記第1パラメータの推定値を前記所定の演算で求めることと、
前記推定値、及び、前記圧縮された衛星軌道データに含まれている前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値を用いて、前記第1パラメータの値を算出することと、
を含む衛星軌道データの展開方法。
【請求項5】
連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの第1単位期間に属する前記パラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値について、前記第1パラメータとは異なるパラメータの値及び前記第1単位期間とは異なる単位期間に属する前記第1パラメータの値の少なくとも何れかを用いて、推定値を算出する推定部と、
前記第1パラメータの値を、前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値に置き換えることによって、前記衛星軌道データを圧縮する圧縮部と、
前記圧縮された衛星軌道データを測位装置に提供する提供部と、
を備えたサーバ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の圧縮方法によって圧縮された衛星軌道データに含まれる前記パラメータのうち、前記第1パラメータの推定値を前記所定の演算で求める推定部と、
前記推定値、及び、前記圧縮された衛星軌道データに含まれている前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値を用いて、前記第1パラメータの値を算出する算出部と、
前記算出された前記第1パラメータの値を用いて測位を行う測位部と、
を備えた測位装置。
【請求項7】
連続する単位期間の衛星軌道を近似する近似式のパラメータの値を有する衛星軌道データの前記パラメータのうち、所定の演算で推定可能な第1パラメータの値について、推定値を算出することと、
前記第1パラメータの値を、前記推定値と前記第1パラメータの値との差分値に置き換えることと、
を含む衛星軌道データの圧縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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