説明

衛生マスク

【課題】 抗インフルエンザウイルス活性等の抗ウイルス活性が長時間持続しうる衛生マスクを提供する。
【解決手段】 この衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤と、炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩が付着せしめられている。微粒子状の抗ウイルス剤としては、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕した微粒子が用いられる。脂肪酸としては、粉末状のステアリン酸、液状のカプリル酸、液状の吉草酸又は液状のカプロン酸が用いられる。また、繊維基材としては不織布が用いられる。なお、抗ウイルス剤は、接着剤成分によって繊維基材に付着せしめられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を付着させた衛生マスクに関し、特に、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスを不活化させる機能を持つ抗インフルエンザウイルス剤を付着させた衛生マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、豚インフルエンザが世界的に流行している。豚インフルエンザは、鳥インフルエンザに比べて致死率は低いものの、妊婦、5歳以下又は60歳以上の人及び基礎疾患を有する人は、感染時に重症化する可能性が高く、感染予防が必須となっている。
【0003】
感染予防の一つとして、従来より、豚インフルエンザ等の新型インフルエンザに限らず旧型インフルエンザの場合でも、外出時に衛生マスクを着用することが推奨されている。衛生マスクとしては、ガーゼマスク及び不織布マスクがあるが、ガーゼマスクはマスク本体が目の粗いガーゼよりなるため、ここからインフルエンザウイルスが侵入し、感染予防の効果は低いと言われている。不織布マスクはマスク本体が目の細かい不織布よりなるため、ガーゼマスクに比べて感染予防の効果はあると言われているが、それでもなお、感染予防の効果が疑問視されている。
【0004】
そのため、マスク本体にインフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクが提案されている(特許文献1)。しかしながら、単にインフルエンザウイルスを捕捉しただけでは、マスク本体中でインフルエンザウイルスが増殖し、咳やくしゃみにより、却ってインフルエンザウイルスを周囲にまき散らすことになる。また、マスク本体を手で触ると、手にインフルエンザウイルスが付着して口から人体に侵入することになる。したがって、インフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクの効果も疑問視されている。
【0005】
このため、インフルエンザウイルス捕捉剤ではなく、インフルエンザウイルスを不活化させる抗インフルエンザウイルス剤を用いることも提案されている(特許文献2)。特許文献2は、抗インフルエンザウイルス剤として茶の抽出成分であるポリフェノールを用いたものである。そして、茶の抽出成分の水溶液を調製し、この水溶液に不織布を含浸して、不織布に茶の抽出成分を付着させた後、この不織布をマスク本体として使用したり、マスク本体に添着することが提案されている。
【0006】
近年、抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤として、金属酸化物の水和物よりなる微粒子が提案されている(特許文献3)。この微粒子はヒドロキシラジカルを発生し、このヒドロキシラジカルによってウイルスを不活化させるものである。しかしながら、このような微粒子は、茶の抽出成分のように水溶性でないため、不織布に付着させるには、接着剤成分を使用する必要がある。
【0007】
しかしながら、接着剤成分を使用して、微粒子状の抗ウイルス剤を付着させると、抗ウイルス活性が長時間持続しにくいという欠点があった。抗ウイルス活性が長時間持続しにくい理由は定かではないが、接着剤成分の皮膜によって微粒子の大部分が覆われてしまうからではないかと推定している。つまり、皮膜によって覆われていない部分(露出している部分)が、当初抗ウイルス活性を示すだけであり、覆われている部分(露出していない部分)の抗ウイルス活性が使用されていないのではないかと推定している。
【0008】
本発明者は、上記欠点を解決するために、マスク本体として使用されたり或いはマスク本体に添着される不織布等の繊維基材に、微粒子状の抗ウイルス剤を付着させても、抗ウイルス活性が長時間持続しうる衛生マスクを提案した(特許文献4)。すなわち、特許文献4に係る発明は、接着剤成分としてポリビニルアルコールを使用することにより、抗ウイルス活性を長時間持続させうるというものである。
【0009】
【特許文献1】特開平05−115572号公報(要約の項)
【特許文献2】特開平08−333271号公報(特許請求の範囲の項及び段落番号0026)
【特許文献3】特開2008−37814号公報(特許請求の範囲の項)
【特許文献4】特願2009−258446号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、特許文献4に係る発明をさらに改良することにあり、マスク本体等として使用される不織布等の繊維基材に付着せしめられた微粒子状の抗ウイルス剤が、その抗ウイルス活性をより長時間発揮しうる衛生マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、特許文献4記載の方法で抗ウイルス活性を検討していたところ、特定の添加剤をヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤と併用することにより、抗ウイルス活性がより長時間持続することを発見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤及び炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩を付着させたことを特徴とする衛生マスクに関するものである。
【0013】
本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤としては、特許文献3及び国際公開2005/013695に記載されているものが挙げられる。すなわち、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕して微粒子としたものである。微粒子の組成は、CaCO3、Ca(OH)2及びMg(OH)2を主成分とするものである。また、微粒子の平均粒子径は0.1〜60μm程度である。かかる抗ウイルス剤は、ヒドロキシラジカルを発生する。そして、ヒドロキシラジカルは、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスはもとより、旧型インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス及びレトロウイルス等のウイルスを不活化する。
【0014】
また、本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤と併せて、炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩(以下、脂肪酸又はその塩のことを「脂肪酸(塩)」と表記する。)を用いることによって、本発明ではヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。この理由は定かではないが、脂肪酸(塩)の皮膜によって、ヒドロキシラジカルの発生を阻害する水分がヒドロキシラジカル発生源に接触し難くなること、及びヒドロキシラジカルの放出が緩慢となり、ヒドロキシラジカルが長時間に亙って徐々に放出されることに起因しているのではないかと推定している。
【0015】
炭素数5〜18の脂肪酸(塩)としては、ステアリン酸(塩)、カプリル酸(塩)、吉草酸(塩)、カプロン酸(塩)、ラウリン酸(塩)、ミリスチン酸(塩)、オレイン酸(塩)又はリノール酸(塩)等が用いられる。炭素数5〜18の脂肪酸(塩)は、粉末状又は液状で用いられてもよいし、水又はアルコールに溶解させた溶液状で用いてもよい。本発明においては、特に粉末状のステアリン酸、液状のカプリル酸、液状の吉草酸又は液状のカプロン酸を用いるのが好ましい。
【0016】
本発明で用いる微粒子状の抗ウイルス剤は、繊維基材にたとえば接着剤成分によって付着せしめられる。接着剤成分としては、従来公知のものが用いられる。好ましい接着剤成分は、ポリビニルアルコール又はポリオレフィン樹脂である。
【0017】
接着剤成分であるポリビニルアルコールの重合度は250〜1000であるのが好ましい。この理由は、水溶液として取り扱いやすく、かつ接着作用を十分に発揮しうるからである。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%程度であるのが好ましい。特に、66〜99モル%が好ましく、より好ましくは90〜99モル%である。なお、ポリビニルアルコールは、一般的に水に溶解させたポリビニルアルコール水溶液の状態で接着剤として取り扱われる。
【0018】
接着剤成分であるポリオレフィン樹脂は、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂の形態で用いるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、日機装社製の「マイクロトラック粒度分布計 UPA150(MODEL No.9340)」を用いて求めたものである。数平均粒子径が大きすぎると、水系溶媒中に良好に分散しにくくなる傾向が生じる。
【0019】
本発明では、特に水系溶媒に分散しやすいポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。かかるポリオレフィン樹脂は本件出願人が開発したものであって、特許第3699935号公報に記載されているものであり、(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物と(A2)炭素数2〜6のアルケンを含むモノマーを共重合してなる共重合体からなるものである。(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。また、(A2)炭素数2〜6のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が用いられる。なお、(A1)及び(A2)の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のアクリル酸エステルを第三成分として共重合しても差し支えない。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル等の第三成分を共重合しても差し支えない。
【0020】
(A1)と(A2)の共重合比は、質量比で、(A1):(A2)=0.5〜20:99.5〜80程度である。また、第三成分を共重合するときは、全体の35質量%以下程度の量で共重合される。
【0021】
以上のような組成を持つポリオレフィン樹脂微粒子は、特許第3699935号公報に記載されているように、水系溶媒によく分散するものである。したがって、接着剤成分の一つであるポリオレフィン樹脂微粒子は、一般的に、水及び/又はアルコールに分散させた水系分散液の状態で接着剤として用いられる。
【0022】
本発明に用いる抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を繊維基材に付着させるには、たとえば、以下のような方法によるのが好ましい。まず、微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する。水系溶媒中にアルコールを併用するのは、繊維基材への浸透性を向上させるためである。アルコールとしては、エタノール等の低級アルコールが水よりも低い沸点を持っており、水と共に蒸発させうるので、好ましい。そして、この水性分散液に、ポリビニルアルコールが溶解しているポリビニルアルコール水溶液等の接着剤成分を含む水性接着剤液を添加混合した後、さらに炭素数5〜18の脂肪酸(塩)を添加混合する。炭素数5〜18の脂肪酸(塩)が粉末として取り扱われるときには、この粉末を添加混合すればよい。また、炭素数5〜18の脂肪酸(塩)が液状として取り扱われるときには、この液状物を添加混合すればよい。さらに、予め、脂肪酸(塩)を水及び/又はアルコールに溶解させて脂肪酸溶液の形で用いるときには、この脂肪酸溶液を添加混合すればよい。なお、アルコールとしては前記と同様の理由でエタノール等の低級アルコールを使用するのが好ましい。以上のようにして得られたスラリー液を、浸漬法、塗布法又は噴霧法等の従来公知の手段で、繊維基材に付与する。そして、乾燥して、スラリー液中の水及びアルコールを蒸発させると、微粒子状の抗ウイルス剤が、接着剤成分によって繊維基材に付着せしめられるのである。
【0023】
また、接着剤成分としてポリオレフィン樹脂を用いるときは、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂が水系溶媒に分散している水系分散液を、接着剤成分を含む水性接着剤液として用いればよい。この水系分散液も、水及びアルコールよりなる水系溶媒に、微粒子状のポリオレフィン樹脂を分散させて準備すればよい。アルコールを併用するのは、前記したのと同様の理由であり、かつ微粒子状のポリオレフィン樹脂の分散性を向上させるためである。また、使用するアルコールも、前記したのと同様の理由で、エタノール等の低級アルコールであるのが好ましい。
【0024】
微粒子状の抗ウイルス剤に対する脂肪酸(塩)の配合割合は、微粒子状の抗ウイルス剤100質量部に対して、脂肪酸(塩)が1〜80質量が好ましく、特に1〜40質量部が好ましい。
【0025】
繊維基材としては、不織布やガーゼ等の編織物が用いられる。不織布は、ガーゼ等の編織物に比べて目が細かいため、衛生マスクの素材として適している。不織布としては、短繊維不織布や長繊維不織布等の従来公知のものが用いられる。本発明では、抗ウイルス剤の接着性(抗ウイルス剤の付着量やその接着力)の向上を目的として、ポリオレフィン樹脂微粒子からなる接着剤を使用することがあるため、不織布としてもポリオレフィン系長繊維よりなる不織布を用いるのが好ましい。ポリオレフィン系長繊維としては、ポリプロピレン長繊維やポリエチレン長繊維を挙げることができる。しかしながら、このような単一成分の長繊維では、長繊維相互間が融着しすぎてフィルム状になり、通気性が悪くなるので、衛生マスクの素材として好適ではない。したがって、本発明でも、芯成分が高融点のポリエステルよりなり、鞘成分が低融点のポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンよりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維の場合は、鞘成分のみの融着によって長繊維相互間が結合するため、通気性を犠牲にせずに、形態安定性のよい不織布が得られるからである。
【0026】
衛生マスクのマスク本体は、従来より種々の態様のものが用いられている。たとえば、マスク本体の呼吸通過箇所に種々の繊維基材を何層も重ね、種々の機能を具備させたタイプのものがある。このようなタイプのものでは、何層も重ねた繊維基材のうち、少なくとも一層の繊維基材に抗ウイルス剤を付着させておけばよい。また、簡易に使用しうる衛生マスクの場合、マスク本体は不織布等を単層で用いたタイプのものもある。このようなタイプの場合には、単層の繊維基材に、抗ウイルス剤を付着させておけばよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、炭素数5〜18の脂肪酸(塩)と共に付着している。炭素数5〜18の脂肪酸(塩)は、微粒子状の抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。したがって、豚インフルエンザウイルス等のウイルスがマスク本体に付着しても、長時間に亙ってヒドロキシラジカルによるウイルスの不活化が可能となる。よって、本発明に係る衛生マスクは、抗ウイルス活性が長時間持続するという効果を奏する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤と炭素数5〜18の脂肪酸(塩)を併用すると、ヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになるとの知見に基づくものとして、理解されるべきである。
【0029】
実施例1
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)4.5gが水25.5gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール13.2gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)0.225gを水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液2.25gを前記水性分散液に添加し、十分に攪拌して混合した。その後、攪拌しながら、下記方法によって調製されたポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液(固形分濃度25質量%)2.7gをゆっくり添加混合した。さらにその後、ステアリン酸粉末0.45gを添加し攪拌して混合し、スラリー液を得た。このスラリー液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約9質量%であり、ポリビニルアルコールの濃度は約0.5質量%であり、ポリオレフィン樹脂微粒子の濃度は約1質量%であり、ステアリン酸の濃度は約1質量%である。
【0030】
[ポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液の調製]
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、100gのポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、商品名「ボンダイン HX−8290」)、有機溶媒として120gのエタノール、塩基性化合物として3.36gの85%水酸化カリウム及び170gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌し、ポリオレフィン樹脂微粒子を水中に浮遊させた。そして、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴に漬けて、回転速度300rpmを保ったまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した。最後に、300メッシュのステンレス製フィルター(平織組織で線径0.035m)を用いて加圧濾過(空気圧0.25MPa)した。得られたポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液は乳白色であり、微粒子の数平均粒子径は約0.06μmであった。
なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂は、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%より構成された共重合体であり、融点は81℃のものである。
【0031】
上記方法で得られたスラリー液を、スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名「エルベス SO503WDO」、目付50g/m2)上にバーコーターを用いて塗布した後、120℃で90秒間乾燥して、スパンボンド不織布に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片1を得た。ここで用いているスパンボンド不織布は、芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維で構成されたものであり、部分的にポリエチレンの融着によって生じた熱融着区域を持っているものである。なお、スパンボンド不織布に対する抗インフルエンザウイルス剤、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン樹脂微粒子及びステアリン酸の付着量は、合計約20g/m2であり、各々は以下のとおりであった。すなわち、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約15g/m2であり、ポリビニルアルコールの付着量は約0.75g/m2であり、ポリオレフィン樹脂微粒子の付着量は約2.25g/m2であり、ステアリン酸の付着量は約1.5g/m2であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対するステアリン酸の付着量は約10質量部である。
【0032】
実施例2
ステアリン酸粉末の添加量を0.225gに変更する他は、実施例1と同様の方法で試験片2を得た。試験片2において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約5質量部である。
【0033】
実施例3
ステアリン酸粉末の添加量を0.135gに変更する他は、実施例1と同様の方法で試験片3を得た。試験片3において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約3質量部である。
【0034】
実施例4
ステアリン酸粉末の添加量を0.045gに変更する他は、実施例1と同様の方法で試験片4を得た。試験片4において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約1質量部である。
【0035】
比較例1
ステアリン酸粉末を添加しない他は、実施例1と同様の方法で対照試験片を得た。対照試験片において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して0質量部である。
【0036】
[抗インフルエンザウイルス活性評価]
抗インフルエンザウイルス活性は炭酸ガスと接触すると低下していくことが知られているため、実施例1〜4及び比較例1で得られた試験片を所定時間炭酸ガスに接触させた後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。具体的には、二酸化炭素インキュベーター(31℃、二酸化炭素濃度20%に設定)内に、試験片を静置し、30分間隔で試験片を切り出した。そして、抗インフルエンザウイルス活性と試験片のpHとの間に相関関係があること、すなわち、抗インフルエンザウイルス活性があると試験片にチモールフタレイン指示薬を噴霧すると発色することが知られているため、切り出した試験片にチモールフタレイン指示薬を噴霧し、20分経過後の発色の有無を観察した。この結果を以下の基準で三段階で評価し、表1に示した。
○・・・発色あり
△・・・一部発色あり
×・・・発色なし
【0037】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
切出時間 試験片1 試験片2 試験片3 試験片4 対照試験片
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0分 ○ ○ ○ ○ ○
30分 ○ ○ ○ ○ ○
60分 ○ ○ ○ ○ ×
90分 ○ ○ ○ △ ×
120分 ○ ○ △ △ ×
150分 ○ △ △ × ×
180分 ○ △ △ × ×
210分 ○ △ × × ×
240分 ○ △ × × ×
270分 △ △ × × ×
300分 △ × × × ×
330分 △ × × × ×
360分 △ × × × ×
390分 △ × × × ×
420分 △ × × × ×
480分 △ × × × ×
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0038】
実施例5
ステアリン酸粉末に代えて、カプリル酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片5を得た。試験片5において、カプリル酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0039】
実施例6
ステアリン酸粉末に代えて、ラウリン酸粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片6を得た。試験片6において、ラウリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0040】
実施例7
ステアリン酸粉末に代えて、ミリスチン酸粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片7を得た。試験片7において、ミリスチン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0041】
実施例8
ステアリン酸粉末に代えて、パルミチン酸粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片8を得た。試験片8において、パルミチン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0042】
実施例9
ステアリン酸粉末に代えて、オレイン酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片9を得た。試験片9において、オレイン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0043】
実施例10
ステアリン酸粉末に代えて、リノール酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片10を得た。試験片10において、リノール酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0044】
実施例11
ステアリン酸粉末に代えて、ステアリン酸ナトリウム粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片11を得た。試験片11において、ステアリン酸ナトリウムの付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0045】
実施例12
ステアリン酸粉末に代えて、ステアリン酸溶液を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片12を得た。試験片12において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
実施例12で用いたステアリン酸溶液は、ステアリン酸粉末0.45gを8.5gのエタノールに溶解させたものであり、このステアリン酸溶液約9gを使用した。
【0046】
実施例13
ステアリン酸粉末に代えて、吉草酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片13を得た。試験片13において、吉草酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0047】
実施例14
ステアリン酸粉末に代えて、カプロン酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片14を得た。試験片14において、カプロン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0048】
試験片5〜14について、前記した[抗インフルエンザウイルス活性評価]を行い、その結果を表2に示した。
[表2]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試 験 片
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切出時間 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
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0分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 30分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 60分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 90分 ○ ○ ○ △ ○ ○ △ ○ ○ ○ 120分 ○ ○ △ △ ○ ○ × ○ ○ ○ 150分 ○ △ △ △ ○ ○ × △ ○ ○ 180分 ○ △ △ △ ○ ○ × △ ○ ○ 210分 ○ △ △ △ △ ○ × × ○ ○ 240分 ○ △ △ × △ △ × × ○ ○ 270分 ○ △ △ × △ △ × × ○ ○ 300分 ○ × △ × × × × × ○ ○ 330分 ○ × △ × × × × × ○ ○ 360分 ○ × △ × × × × × ○ ○ 390分 ○ × × × × × × × ○ ○ 420分 ○ × × × × × × × ○ ○ 480分 ○ × × × × × × × △ △ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0049】
実施例15
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)4.5gが水25.5gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール13.2gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。この水性分散液に、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体(楠本化成社製、商品名「ネオレッツ R−600」、固形分濃度33質量%)を6.35g添加し、十分に攪拌して混合した。その後、攪拌しながら、ステアリン酸粉末0.45gを添加し攪拌して混合し、スラリー液を得た。このスラリー液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約9質量%であり、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂の濃度は約4質量%であり、ステアリン酸の濃度は約1質量%である。
【0050】
このスラリー液を用いて、実施例1と同一の方法で試験片15を得た。この試験片15は、抗インフルエンザウイルス剤が接着剤成分であるポリエーテル型ポリウレタン樹脂によって、スパンボンド不織布に接着していた。また、ステアリン酸の付着量は、試験片1と同様に、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部であった。
【0051】
実施例16
ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体に代えて、架橋ポリメタクリル酸メチル樹脂水性分散体(積水化成品工業社製、商品名「テクポリマー XX−1872Z」、固形分濃度20質量%)を用いる他は、実施例15と同様にして試験片16を得た。試験片16のステアリン酸付着量も、試験片1と同様に、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部であった。
【0052】
試験片15及び16について、前記した[抗インフルエンザウイルス活性評価]を行い、その結果を表3に示した。
[表3]
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切出時間 試験片15 試験片16
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0分 ○ ○
30分 ○ ○
60分 ○ ○
90分 ○ ○
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【0053】
表1〜3の結果から分かるように、抗インフルエンザウイルス剤に炭素数5〜18の脂肪酸(塩)を含有させて得られた試験片1〜16は、それを含有させていない対照試験片に比べて、抗インフルエンザウイルス活性が長時間に亙って有効であることが分かる。特に、ステアリン酸粉末、カプリル酸、吉草酸又はカプロン酸を用いたものは、抗インフルエンザウイルス活性がより長期に亙って有効であることが分かる。したがって、かかる試験片を衛生マスクのマスク本体の呼吸通過箇所に適用すれば、インフルエンザの感染予防に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤及び炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩を付着させたことを特徴とする衛生マスク。
【請求項2】
抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項3】
脂肪酸が、ステアリン酸又はカプリル酸である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項4】
抗ウイルス剤が接着剤成分によって繊維基材に付着せしめられている請求項1記載の衛生マスク。
【請求項5】
接着剤成分がポリビニルアルコール及び/又はポリオレフィン樹脂である請求項4記載の衛生マスク。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂が、以下に示す(A1)及び(A2)を含むモノマーを共重合してなる共重合体である請求項5記載の衛生マスク。
(A1):不飽和カルボン酸又はその無水物
(A2):炭素数2〜6のアルケン
【請求項7】
繊維基材が不織布である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項8】
不織布の構成繊維が芯鞘型複合長繊維であって、芯成分がポリエステルであり、鞘成分がポリオレフィンである請求項7記載の衛生マスク。

【公開番号】特開2012−29956(P2012−29956A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173207(P2010−173207)
【出願日】平成22年7月31日(2010.7.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】