説明

衛生設備室の床構造

【課題】安価な材料で構成され、素材の熱変形・膨張・反りなどの影響を受けない衛生設備室の床構造を提供する。
【解決手段】衛生設備室の床構造において、上記衛生設備室自体の荷重及び室内に積載される荷重を支持する熱可塑性樹脂からなる床ベース部と、該床ベース部より熱膨張率低い部材からなり上記床ベース部の四周に該床ベース部の熱膨張収縮に影響されず滑動自在に載置されるフレームと、該フレーム上に四周が固定され、上記床ベース部上に該床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差に追従可能に敷設された表面側床と、上記フレーム上において上記表面側床上に立設され上記衛生設備室の壁面を構成する壁パネルとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浴室等の衛生設備室に使用される床パネルの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室等の衛生設備室の床構造に要求されるものとして、この床上にかかる荷重を支持できる構造上の強度、及び衛生設備室で使用された水が外部へ漏出することを防ぐ水密性が挙げられる。そして、使用者に心地よさを与える表面の意匠性や、長期の使用に耐える耐久性、更には、施工時の取り扱い易さの点で軽量であること等も求められる。
【0003】
これらの要件を満足するものとして、従来FRPが単一材料として用いられてきた。しかしながら、このFRPは、高度な複合材料であり、また成形に長時間を要し、また広い作業スペースを必要とすることから高価であり、現状では大幅なコストダウンは見込めない状況にある。
【0004】
また、環境保全のために産業廃棄物削減・再資源化が叫ばれている中、FRPは熱硬化性樹脂であり、さらにガラス繊維も配合されていることから、処分が困難であるという欠点がある。
【0005】
この点、熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂に比べて安価であり、また、加熱により溶融するため、処分が容易かつ再生樹脂として再利用が可能であるという長所がある。
【0006】
斯かる熱可塑性樹脂を用いた防水パンの構造として、外縁の一部または全周が縦壁を形成し、床板部分が傾斜した集水構造を有する箱状防水パンであって、基材が熱可塑性樹脂からなり、床板裏面にリブ状補強体が設けられたものや(例えば、特許文献1参照。)、熱可塑性樹脂からなる基材に、発泡樹脂材、金属材、木質材のいずれかで形成されている別部材の補強材が基材の裏面に付着されて成形されている防水パンの構造が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
しかしながら、従来の熱可塑性樹脂を衛生設備室の床構造に採用しようとするものでは、熱膨張率が大きいという熱可塑性樹脂の短所について何ら検討されていない。
【0008】
すなわち、FRPの線膨張率が2〜2.5×10−5/℃であるのに対し、熱可塑性樹脂では、ポリプロピレンやABSの線膨張率が11×10−5 /℃、ポリエチレンのそれは12×10−5 /℃、PVCでは15×10−5 /℃とかなり大きい値になっている。
【0009】
これらの材料を、例えば部材長1690mmの床に採用し、−10℃〜40℃(=Δ50℃)の温度変動幅がある環境におく場合について検討すると、FRPでは、最大寸法差=線膨張係数×部材長×温度変動=2×10−5/℃×1690×50℃=1.7mmとなり、許容限度内にあるといえる。
【0010】
これに対し、ポリプロピレンでは、最大寸法差=11×10−5/℃×1690×50℃=9.3mm、PVCでは、最大寸法差=15×10−5/℃×1690×50℃=12.7mmとかなり大きくなる。
【0011】
仮に熱可塑性樹脂で設計する場合、通常20℃近辺を基準温度として低温側と高温側にレンジを振り分け、実使用域での寸法変位の影響を少なくするよう計算される。しかし、熱変形以外にも単純な製品寸法公差等も加味されるので、膨張収縮変化のみで10mm近くもの値は設計上許容されない。これでは部屋内寸法などが変動し、各種部材の基準寸法を定めることができず、また、何とか収めたとしても、経時的に部材間の継ぎ目にクラックが入ったり、変形する可能性が非常に高くなるからである。
【特許文献1】特開平11−210039号公報
【特許文献2】特開2001−248198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、安価な材料で構成され、素材の熱変形・膨張・反りなどの影響を受けない衛生設備室の床構造を提供することを目的とするものである。そして、本発明の他の目的は、リサイクル可能な衛生設備室の床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る衛生設備室の床構造は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、衛生設備室の床構造において、上記衛生設備室自体の荷重及び室内に積載される荷重を支持する熱可塑性樹脂からなる床ベース部と、該床ベース部より熱膨張率の低い部材からなり上記床ベース部の四周に該床ベース部の熱膨張収縮に影響されず滑動自在に載置されるフレームと、該フレーム上に四周が固定され、上記床ベース部上に該床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差に追従可能に敷設された表面側床と、上記フレーム上において上記表面側床上に立設され上記衛生設備室の壁面を構成する壁パネルとを備える。
【0014】
好適には、請求項2に記載したように、前記フレームと前記床ベース部の該フレームに対向する側面との間に熱膨張収縮を吸収する緩衝帯を備えることにより上記床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差に追従可能とすることができる。
【0015】
また、より好適には、請求項3に記載したように、前記表面側床は、可撓性を有する部材により前記床ベース部の全長より長く形成され、該床ベース部より長い余裕部分は、前記フレーム近傍において屈曲部を形成し、上記床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差をその屈曲部分の開閉により吸収する緩衝帯を備える構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る衛生設備室の床構造によれば、安価な材料で構成され、素材の熱変形・膨張・反りなどの影響を受けない衛生設備室の床構造を得ることができる。また、本発明は、衛生設備室の床構造をリサイクル可能にすることができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る衛生設備室の床構造の第1の実施形態について、浴室の洗い場床を例にとって、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る衛生設備室の床構造の実施形態の全体的な概要を示す分解斜視図である。この実施形態に示された衛生設備室としての浴室の床は、入浴者が洗髪、洗体等を行う洗い場床1と、浴槽が載置される浴槽側床(図示せず)とから構成され、本実施形態に係る洗い場床1は、床ベース部3、フレーム10及び表面側床5から成る。
【0018】
床ベース部3は、略板状の基部3aと、この底部3aから上方へ突出した複数のリブ3bと、基部3a外縁部に設けられたフレーム載置部3cとから構成される。
【0019】
床ベース部3は、ポリプロピレン、ABS、ポリエチレン、PVC等の熱可塑性樹脂が加熱圧縮成形等により一体に形成されたものであり、したがって、その熱膨張率は比較的大きく、温度変化に対する膨張収縮は大きい。また、床ベース部3は、石油等から新たに生成されたものであってもよいが、廃プラスティック等から再生された再生樹脂であってもよい。また、使用されなくなったときに、資源として再利用可能なように、ガラス繊維等の補強剤は配合されない。
【0020】
基部3aは、浴室の壁パネル11(図2参照。)やその上に載置された天井パネル(図示せず)及び自身の重量、並びに洗い場を使用する入浴者の体重等のすべての荷重を支持し、下に位置する建築床へと伝達する。
【0021】
リブ3bは、基部3aを補強するものであり、縦横に格子状に配置されても、平行に配置されてもよい。また、後述する表面側床にかかる荷重を受けて基部3aに伝達する機能も果たし、そのためその上端は表面側床の水勾配に従って変化する。
【0022】
フレーム載置部3cは、図2に示すように、基部の外縁に、そこに載置されるフレーム10の上端が表面側床6と略同じレベルになるように、リブ3b上端より一段低い位置に設けられる。このフレーム載置部3cは、フレーム10及びその上に立設される壁パネル11の荷重を支持できる強度を有する一方、その表面は、ベース床3が温度変化に起因する膨張収縮により水平方向の相対位置が変位してもそれに追従しないよう平滑に仕上げられている。さらに潤滑油等が施されてもよい。
【0023】
なお、この床ベース部3に使用可能な素材は多岐にわたり、加熱圧縮成形ができ、ある程度の強度を有し、安価であれば、熱可塑性樹脂のみならず何でも利用可能である。例えば、住宅の解体時に発生する廃木材を中心とする建設廃木材や間伐材等から生産される木チップに接着剤等のバインダーを塗布して積層マット化したものを加熱圧縮成型により得られたものを使用することもできる。
【0024】
フレーム3は、例えば角形鋼管や低膨張率の樹脂部材等で長方形に組まれて形成され、熱膨張率は、ベース床3のそれに比べて小さい。
【0025】
床ベース部3は、熱可塑性樹脂等で形成されるので、その熱膨張率はかなり大きいといえる。したがって、例えば長期的には、夏季と冬季、短期的には寒い冬季に熱い湯を使う場合等、その寸法に相当な差が生じる。
【0026】
他の部材、例えば壁パネル11等の熱膨張率もこれと同等であれば問題はないが、通常は比較的小さいため、寸法の伸び縮みに差が生じ、これが原因で壁パネル間のジョイント部分に亀裂が生じかねない。そこで、熱膨張率が大きく異ならない、例えば金属製のフレームを設け、壁パネル11をその上に立設することにより、この問題を解決しようとするものである。
【0027】
表面側床5は、ポリプロピレンやポリエチレン等可撓性を有する汎用樹脂等で形成され、洗い場の床を形成する本体5aと、その周囲を囲繞する壁パネル載置部5b及び土手部5cとを備える。
【0028】
本体5aは、ベース床3のリブ3b上端間に架設固定されるので、入浴者の体重等ある程度の荷重に堪えられる強度を有し、また、その表面が仕上げ材に適さない、或いは特別な機能(例えば保温性)を必要とする場合等には、その上に更に仕上げ材12を敷設してもよい。
【0029】
本体5aには、最もレベルが高い外周部から、土手部5c中央に設けられた排水トラップ用開口7に向かって下る水勾配が設けられ、洗い場で使用された水は、このトラップ(図示せず)に導出され、ここを経由して外部に放出される。
【0030】
壁パネル載置部5bは、図2に示すように、本体5aの浴槽側床2に隣接する縁部以外の三方に、本体5aより一段高く形成され、この上に浴室の壁面を構成する壁パネル11が立設される。
【0031】
土手部3cは、ベース本体の浴槽側床2と隣接する縁部に、やはりベース本体3aより一段高く形成され、この上には浴槽側面を掩蔽するバスエプロン(図示せず)が載置される。
【0032】
表面側床5の外縁部は、図2に示すように、フレーム10上の移動不能に固定され、最外縁部はT字状に形成され、下側はフレーム10の背面に係止し、上側は壁パネル若しくは壁パネルを支える支柱(図示せず)に係止する。
【0033】
表面側床は、その水平方向の長さは縦横両方共床ベース部3よりも長く余裕を持って形成され、その長さの余裕分は、フレーム10に固定された部分とリブ3bに固定された部分との間で屈曲されて緩衝帯5dが形成される。この緩衝帯5dの開口は、床ベース部3aの熱膨張圧縮に追従して拡がり又は狭まって、床ベース部3aの熱膨張圧縮がフレーム10に影響を及ぼさないようになっている。
【0034】
本構成では、高価なFRPに代えて、安価な熱可塑性樹脂や可撓性を有する汎用樹脂で形成されるので、例えば金属製のフレーム10を追加して、なお安価な床構造とすることができる。
【0035】
本実施の形態に係る衛生設備室の床構造は、上記のように構成されており、以下その動作について説明する。
【0036】
温度が上昇すると、床構造1は全体的に図2に矢印イの方向に膨張するのであるが、床ベース部3の熱膨張率が他の部材のそれよりも大きいので、相対的には、床ベース部のみが矢印イ側へ膨張しているように見える。
【0037】
フレーム10は、この動きにより、矢印イ側へ引っ張られる力を受けるが、フレーム10の対向する辺では逆方向の力を受けて相殺されること、及びフレーム載置面3cが滑面に仕上げられているのいで、摩擦抵抗が小さく滑り易いことから、その位置を変えることはない。
【0038】
これに対し、表面側床5の端部は、床ベース部3の最外縁にリブ3bに固定されているので、温度上昇とともに矢印イ側に移動し、フレーム10との間隔が小さくなる。このとき、緩衝帯5dの上方に開いた開口が小さくなることにより表面側床5の膨張が吸収されるので、表面側床5の本体5aの端部がフレーム10に当接して、これを押し広げる方向の力を加えることはなく、また、この力により自らが座屈することもない。
【0039】
温度が下降すると、床ベース部3は逆に、相対的に矢印ロ側へ動くが、上述したようにフレーム10はこの動きに影響されることはなく、その位置を変えることはない。また、表面側床5では、本体5aがフレーム10から相対的に遠ざかり、緩衝帯5dの上方に開いた開口が大きくなるだけで、部材間に不要な力が働くことはない。
【0040】
本発明は、上述したように、素材の熱変形・膨張・反りなどの影響を受けない構成とすることで、強制的に変形を抑えるような強固な補強を施すこともなく、またガラス繊維添加などの素材改良を用いない汎用樹脂で浴室ユニットの床面を構成できるようにしたので、安価に製品を供給するとともにリサイクル性を高め、環境負荷を低減させることが可能となる。
【0041】
次に、本発明に係る衛生設備室の床構造の第2の実施形態について、図3を参照して説明する。本実施の形態に係る洗い場床1Aは、床ベース部3の基部3aが表面側床5の直下に配置され、リブ3bはこの基部3aから下方へ垂設される点で、第1の実施形態におけるものと基本的に相違し、他の構成は第1の実施形態と実質的に同じであり、同じ符号を付して説明を省略する。
【0042】
本実施形態に係る表面床5は、構造体たる基部3a上に全面的に敷設されるので、表面側床5の材料に面強度は必要なく、第1の実施形態で採用されるものの外、一般建築で用いられるクッションフロア材や軟質シート材のような樹脂化粧シート、及びその他水に強く、意匠性に優れ、浴室床の表面部の機能を満足させることができる性能を持った安価な仕上げ素材が用いられる。すなわち、汎用性・生産性の高い安価な素材を薄く使用できるばかりでなく、FRP等の樹脂一体物では得ることのできない、保温性や足ざわり、防音性能などを安価に付加することもできる。
【0043】
表面床5は、必ずしも可撓性を有するとは限らないので、第1の実施形態おけるような緩衝帯5dを設けることはできないので、これに代えて、裏面に多数のスリット5eを設け、このスリット5eの幅を拡大縮小させることにより、表面床5と床ベース部3との熱膨張収縮の差を吸収させている。
【0044】
また、表面床が柔軟な部材であれば、外縁においてフレーム10や壁パネル11を係止させる事ができないので、新たに壁パネル係止部材14が設けられる。そして、フレーム10と床ベース部3との熱膨張収縮の差は、壁パネル係止部材14と床ベース部3aとの間隙に施工されたシリコンコーキング等の弾性接着剤によって、吸収される。
【0045】
本実施形態においても、強制的に変形を抑えるような強固な補強を施すこともなく、その構成により、素材の熱変形・膨張・反りなどの影響を受けない衛生設備室の床構造を得ることができる。
【0046】
以上に説明した実施態様は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なものによって置換した実施態様を採用することが可能であるが、これらの実施態様も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る衛生設備室の床構造の第1の実施形態の概要を示す分解斜視図。
【図2】図1に示された衛生設備室の床構造の外縁部を含む縦断面図。
【図3】本発明に係る衛生設備室の床構造の第2の実施形態の概要を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0048】
1,1A 洗い場床
3 床ベース部
3a 基部
3b リブ
3c フレーム載置部
5 表面側床
5a 本体
5b 壁パネル載置部
5c 土手部
5d 緩衝帯
5e スリット
8 開口
10 フレーム
11 壁パネル
12 仕上げ材
13 弾性接着剤
14 壁パネル係止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生設備室の床構造において、
上記衛生設備室自体の荷重及び室内に積載される荷重を支持する熱可塑性樹脂からなる床ベース部と、
該床ベース部より熱膨張率の低い部材からなり上記床ベース部の四周に該床ベース部の熱膨張収縮に影響されず滑動自在に載置されるフレームと、
該フレーム上に四周が固定され、上記床ベース部上に該床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差に追従可能に敷設された表面側床と、
上記フレーム上において上記表面側床上に立設され上記衛生設備室の壁面を構成する壁パネルと、
を備えることを特徴とする衛生設備室の床構造。
【請求項2】
前記フレームと前記床ベース部の該フレームに対向する側面との間に熱膨張収縮を吸収する緩衝帯を備えることにより上記床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差に追従可能としたことを特徴とする請求項1記載の衛生設備室の床構造。
【請求項3】
前記表面側床は、可撓性を有する部材により前記床ベース部の全長より長く形成され、該床ベース部より長い余裕部分は、前記フレーム近傍において屈曲部を形成し、上記床ベース部及び上記フレーム間の熱膨張収縮差をその屈曲部分の開閉により吸収する緩衝帯を備えることを特徴とする請求項1記載の衛生設備室の床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−146429(P2007−146429A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340463(P2005−340463)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】