説明

衝撃吸収構造体およびその製造方法

【課題】衝撃吸収能力に優れた衝撃吸収構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】所定間隔離間させて対向配置された一対の平板状の面板19と、これら面板19間に配置され、各面板19に対して固定されたコア部材と、面板19間でかつコア部材の側方に、一方向に延在して配置され、該一方向における衝撃圧縮力によって逐次破壊が進行する複合材チューブ7とを備えた衝撃吸収構造体において、複合材チューブ7は、接着領域Aとなる一部分が面板19に対して固定されるとともに、非接着領域Bとなる残余部分が面板19に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、自動車等の航行体の構造体として用いられて好適な衝撃吸収構造体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機(例えば回転翼航空機であるヘリコプタ)、自動車等の航行体の構造体として、衝突時の衝撃吸収のために、衝撃吸収構造体が用いられる。例えば、回転翼航空機であるヘリコプタでは、下記特許文献1に示すように、不時着時における乗員の安全性確保のために、衝撃吸収構造体を備えた床下構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3486839号公報(図1等参照)
【0004】
特許文献1には、図7に示すように、対向する一対の面板101間に、コア部材103と共に複合材チューブ105を挟んだウェブが開示されている。衝撃圧縮荷重がウェブに負荷されると、複合材チューブ105の軸線方向に破壊が進行し、衝撃エネルギーが吸収されるようになっている。そして、同文献の複合材チューブの一端部の周壁にて、複数の開口を設けたり、複合材の層間結合を弱めたりすることによって一端部の破壊強度を低下させて、この一端部における初期破壊を促し、衝撃時の過大な初期反力を抑えるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示されたウェブは、一般にサンドイッチパネルと称されており、面板101とコア部材103とが接着剤によって結合されている。したがって、複合材チューブ105についても、コア部材103と共に、接着剤によって面板101に対して全体が固定されている。
このように複合材チューブ105の全体が面板101に対して固定されていると、衝撃力が加わった際であっても複合材チューブ105が面板101に拘束されてしまい、面板等の既存構造物の破壊に追随して複合材チューブ105も破壊してしまうため、衝撃エネルギーの吸収性能が低下する。仮に、逐次破壊が生じたとしても、面板101に対して全体が固定されているので、破壊したときの衝撃吸収部材の破片の多くが筒内部に入り込み、衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材の有効長さが短くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、衝撃吸収能力に優れた衝撃吸収構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の衝撃吸収構造体およびその製造方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる衝撃吸収構造体は、所定間隔離間させて対向配置された一対の平板状の面板と、これら面板間に配置され、各面板に対して固定されたコア部材と、前記面板間でかつ前記コア部材の側方に、一方向に延在して配置され、該一方向における衝撃圧縮力によって逐次破壊が進行する衝撃吸収部材とを備えた衝撃吸収構造体において、前記衝撃吸収部材は、一部分が前記面板に対して固定されるとともに、残余部分が前記面板に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
衝撃圧縮力が衝撃吸収構造体に加わると、衝撃吸収部材へと衝撃圧縮力が伝達され、この衝撃圧縮力によって衝撃吸収部材では逐次破壊が進行する。このとき、衝撃吸収部材の一部分は面板に固定されているが、残余部分が面板に対して相対移動可能となっているので、衝撃吸収部材の逐次破壊が面板との拘束によって妨げられずに進行する。このように、相対移動する残余部分にて衝撃吸収部材の逐次破壊が確保されるので、大きな変位にて逐次破壊が行われ、衝撃エネルギーが効果的に吸収される。
衝撃吸収部材が固定される一部分としては、例えば、全体の長さの15〜30%程度とされる。また、衝撃吸収部材が固定される一部分は、衝撃吸収部材の端部に設けることが好ましく、さらに好ましくは、逐次破壊の開始位置を衝撃圧縮力が作用する位置近傍とするため、衝撃圧縮力が作用する側とは反対側の端部に、固定される一部分を設けることが好ましい。例えば、航行体の外壁として衝撃吸収構造体を用いる場合には、航行体の内部側となる内側に、固定される一部分を設けることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の衝撃吸収構造体では、前記衝撃吸収部材は、前記一方向に軸線を有する筒形状とされていることを特徴とする。
【0010】
筒形状とすることにより、一箇所の破壊が全体の破壊となる座屈破壊を回避し、逐次破壊を好適に進行させることができる。筒形状の横断面としては、四角形が好ましいが、他の形状、例えば、円形、五角形以上の多角形であってもよい。また、横断面の一部が切り欠かれていても(例えばC字形状)、座屈破壊せずに逐次破壊が行われる形状であればよく、無端状の横断面に限定されるものではない。
衝撃吸収部材が筒形状とされている場合には、衝撃吸収部材が破壊されて破片が筒内部に入り込む。この破片が筒内部に蓄積されて詰まることによって剛性が増大し、この領域における衝撃吸収部材の圧縮変形が阻害されることになる。すなわち、破片が筒内部に入り込み圧縮変形が阻害される領域は、逐次破壊に寄与しないことになる。したがって、衝撃吸収部材を面板に対して固定する一部分の領域としては、破壊時に破片が内部に入り込み圧縮変形が阻害される程度の領域(逐次破壊に寄与しない領域)とするのが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の衝撃吸収構造体では、前記衝撃吸収部材は、樹脂と補強繊維との複合材料によって形成されていることを特徴とする。
【0012】
衝撃吸収部材として樹脂と補強繊維との複合材料を用いることによって、軽量化を図ることができる。
複合材料としては、好ましくは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられる。
複合材料に用いられる樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、または、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が必要に応じて用いられる。
複合材料に用いられる補強繊維としては、炭素繊維が好適に用いられ、これ以外には、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維等が用いられる。
【0013】
さらに、本発明の衝撃吸収構造体では、前記衝撃吸収部材の前記残余部分と、前記面板との間には、該衝撃吸収部材と該面板との接着を阻害する離型材が設けられていることを特徴とする。
【0014】
衝撃吸収部材と面板との接着を阻害する離型材を用いることにより、衝撃吸収部材と面板との相対移動を容易に実現することができる。
離型材としては、例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))フィルムを用いることができる。
なお、離型材は、さらに相対移動を確実にするために、コア部材との間にも設けることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の衝撃吸収構造体では、一対の前記面板のいずれか一方は、前記衝撃吸収部材の前記残余部分の一端が露出するように設けられていることを特徴とする。
【0016】
一対の面板のいずれか一方を、衝撃吸収部材の残余部分の一端が露出するように設け、衝撃吸収部材を配置している空間を閉空間としないことにより、面板が衝撃吸収部材の逐次破壊を阻害することを防ぐ。
【0017】
また、本発明の衝撃吸収構造体の製造方法は、所定間隔離間させて対向配置された一対の平板状の面板と、これら面板間に配置され、各面板に対して固定されたコア部材と、前記面板間でかつ前記コア部材の側方に、一方向に延在して配置され、該一方向における衝撃圧縮力によって逐次破壊が進行する衝撃吸収部材とを備えた衝撃吸収構造体の製造方法において、前記衝撃吸収部材の一部分と前記面板との間を接着剤によって固定し、前記衝撃吸収部材の残余部分と前記面板との間には、該衝撃吸収部材と該面板との接着を阻害する離型材を配置することを特徴とする。
【0018】
衝撃吸収部材の一部分には接着剤を適用し、衝撃吸収部材の残余部分には離型材を適用することとしたので、一部分が面板に対して固定され、残余部分が面板に対して相対移動可能とされた衝撃吸収部材を簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の衝撃吸収構造体によれば、衝撃吸収部材の残余部分が面板に対して相対移動可能となっているので、衝撃吸収部材の逐次破壊が面板との拘束によって妨げられずに進行する。これにより、大きな変位にて逐次破壊が行われ、衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0020】
本発明の衝撃吸収構造体の製造方法によれば、衝撃吸収部材の一部分には接着剤を適用し、衝撃吸収部材の残余部分には離型材を適用することとしたので、一部分が面板に対して固定され、残余部分が面板に対して相対移動可能とされた衝撃吸収部材を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかるヘリコプタの床下構造を示した斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる衝撃吸収構造体を示した部分断面斜視図である。
【図3】図2の衝撃吸収構造体の上端の要部を示した縦断面図である。
【図4】図2の衝撃吸収構造体の下端の要部を示した縦断面図である。
【図5】サンドイッチパネルの製造方法を示した分解斜視図である。
【図6】衝撃荷重が加わった場合の衝撃吸収過程について示したグラフである。
【図7】従来の衝撃吸収構造体を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の衝撃吸収構造体を適用したヘリコプタの床下構造の斜視図が示されている。
同図に示されているように、床下構造は、底面を構成する床下外板1上に、複数のフレーム3と複数のビーム5が固定された構成となっている。
フレーム3は、それぞれが所定間隔を有して平行に配置され、幅方向に延在した状態で設けられている。ビーム5は、それぞれが所定間隔を有して平行に配置され、フレーム3に対して略直交する長手方向に延在した状態で設けられている。
フレーム3及びビーム5は、衝撃吸収構造体となっている。具体的には、同図にて破線で示す各位置に、複合材チューブ(衝撃吸収部材)7が床下外板1に対して立設する方向に設けられている。なお、複合材チューブ7が示されていない他のフレーム3及びビーム5に対しても、同様な位置に複合材チューブ7が設けられる。また、同図に示した複合材チューブ7の位置は、あくまでも例示であって、それぞれのフレーム3及びビーム5に対してそれぞれ適切な位置に複合材チューブ7が設けられる。
【0023】
図2には、衝撃吸収構造体とされた図1のフレーム3又はビーム5の部分断面斜視図が示されている。
同図に示されているように、フレーム3又はビーム5の主要部となる立設壁部はサンドイッチパネル9となっている。このサンドイッチパネル9の下端は、横断面がT字形状とされたT形レール11によって片面側から支持された状態で、下方の床下外板1に対して固定されている。サンドイッチパネル9の上端は、横断面がL字形状とされたL形レール13によって両側から挟まれた状態で、上方の上部構造部材15に対して固定されている。
なお、サンドイッチパネル9の下端を固定するT形レール11に代えて、横断面がL字形状とされたL形レールを用いてもよい。
【0024】
サンドイッチパネル9は、平面状に延在するコア部材17と複合材チューブ7とを壁面を構成するように隣り合わせて配置し、これらを両面から面板19によって挟み込んだ構造となっている。すなわち、立設方向に直行する横方向に隣り合うコア部材17間に、複合材チューブ7が配置された構成となっている。
【0025】
面板19は、薄板状とされ、サンドイッチパネル9の強度を主として負担する。面板19の材料としては、複合材、樹脂、金属等の種々の材料を用いることができるが、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が好適に用いられる。
コア部材17は、強度確保および軽量化の観点から、好ましくは、ハニカム構造となっている。コア部材17の材料としては、複合材、樹脂、金属等の種々の材料を用いることができるが、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)が好適に用いられる。
【0026】
複合材チューブ7は、サンドイッチパネル9の立設方向に軸線を有するように配置されている。すなわち、床下外板1から衝撃力が加わったときに生じる圧縮方向に軸線を有するように配置されている。
複合材チューブ7は、衝撃力の圧縮方向(一方向)に軸線を有する筒形状となっている。筒形状の横断面としては、四角形が好ましいが、他の形状、例えば、円形、五角形以上の多角形であってもよい。
また、複合材チューブ7は、樹脂と補強繊維との複合材料によって形成されており、好ましくは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられる。
複合材料に用いられる樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、または、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が用途に応じて用いられる。
複合材料に用いられる補強繊維としては、炭素繊維が好適に用いられ、これ以外には、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維等が用いられる。
【0027】
図3には、サンドイッチパネル9の上端近傍の縦断面図が示されている。同図は、複合材チューブ7の位置にて切断した縦断面図となっている。同図に示されているように、複合材チューブ7の上端の一部分に対応する領域では、接着剤21によって、複合材チューブ7の上端と面板19とが固定された接着領域Aが形成されている。接着剤21としては、例えば、エポキシ系のフィルム接着剤が好適に用いられる。
一方、接着領域Aよりも下方(床下外板側)すなわち複合材チューブ7の残余部分に対応する領域では、離型フィルム(離型材)23によって、複合材チューブ7の残余部分と面板19との接着が阻害された非接着領域Bが形成されている。なお、後述するように、複合材チューブ7の残余部分は、隣接するコア部材17に対しても、離型フィルム23によって接着されていない。
【0028】
このように、複合材チューブ7は、面板19及びコア部材17に対して、上端の一部分のみが固定され他の残余部分については、これら面板19及びコア部材17に対して接着されずに相対移動可能とされている。
離型フィルム23としては、複合材チューブ7と面板19及びコア部材17との接着剤による接着が妨げられる材料が用いられ、例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))フィルムが好適に用いられる。FEPフィルムは、RICHMOND社からA5000 WHITEという商品名にて入手可能である。
【0029】
接着領域Aは、以下のように決定することができる。
複合材チューブ7は筒形状とされているので、複合材が破壊されると破片が筒内部7cに入り込む。この破片が筒内部7cに蓄積されて詰まることによって剛性が増大し、この領域における圧縮変形が阻害されることになる。すなわち、破片が筒内部7cに入り込み圧縮変形が阻害される領域は、逐次破壊に寄与しないことになる。したがって、接着領域Aとしては、破壊時に破片が筒内部7cに入り込み圧縮変形が阻害される程度の領域(逐次破壊に寄与しない領域)とするのが好ましい。これにより、逐次破壊時における変位量を可及的に大きくすることができる。
【0030】
図4には、サンドイッチパネル9の下端近傍の縦断面図が示されている。
同図に示されているように、複合材チューブ7の下端は、床下外板1及びT形レールから離間している。サンドイッチパネル9とT形レール11との接続は、固定位置33にて、ボルト等の固定手段によって一方の面板19aのみと行われる。
また、他方の面板19bは、一方の面板19aよりも下端が短くなっている。これにより、複合材チューブ7の下端の一部は、他方の面板19bによって覆われずに、露出している。このように、複合材チューブ7の下端を他方の面板19bによって覆わずに、複合材チューブ7を配置している空間を閉空間としないことにより、面板が複合材チューブ7の逐次破壊を阻害することを防ぐ。
【0031】
次に、図5を用いて、サンドイッチパネル9の製造方法について説明する。
先ず、下方に位置させた面板19Lの上に、複数のコア部材17を並べて載置する。面板19Lとコア部材17との間には、コア部材17に対応した形状のフィルム接着剤25が介挿されている。
複合材チューブ7には、その外周を覆うように離型フィルム23を巻回し、テープ(例えばPTFEテープ)26によって離型フィルム23を固定する。離型フィルム23は、複合材チューブ7の一端7aから、他端7bの手前の中途位置までにかけて配置されている。この離型フィルム23が設けられた領域が、非接着領域Bとなる。したがって、離型フィルム23が設けられていない他端7b側の一部分の領域が接着領域Aとなる。
このように離型フィルム23が巻回された複合材チューブ7を、コア部材17及びフィルム接着剤25に隣接させて配置する。この際に、複合材チューブ7の接着領域Aの下面と面板19Lとの間には、フィルム接着剤27を配置する。複合材チューブ7の接着領域Aの両側面とコア部材17との間には、それぞれ、複合材チューブ7側からフィルム接着剤29及び発泡接着剤31をこの順番に配置する。発泡接着剤31としては、エポキシ系発泡接着剤が好適に用いられる。
【0032】
そして、コア部材17の上面に、コア部材17に対応した形状のフィルム接着剤33を配置するとともに、複合材チューブ7の接着領域Aの上面にフィルム接着剤35を配置した後に、上方から面板19Uを載置する。
上記のように各部材を配置した後に、圧力を加えながら加熱することによって一体化させて、サンドイッチパネル9を完成させる。
【0033】
サンドイッチパネル9は、図2に示したように、下方がT形レール11によって床下外板1に対して固定され、上方が2本のL形レール13によって上部構造部材15に対して固定される。
【0034】
次に、図6を用いて、衝撃荷重が加わった場合の衝撃吸収の過程について説明する。同図において、横軸は変位を示し、具体的には、複合材チューブ7の軸線方向における圧縮変位を示す。縦軸は、衝撃吸収構造体に加わる荷重を示す。
同図に示されているように、衝撃荷重が加わると、急峻に荷重が立ち上がる(P1点参照)。その後、複合材チューブ7の非接着領域Bが床下外板側の先端から逐次破壊していくことにより、一定の荷重を受けながら変位が漸次増大する。この一定荷重を受けながらの変位の増大は、複合材チューブの非接着領域Bの全領域に対して逐次破壊が進行するまで継続する。衝撃エネルギーの吸収量は、同図における面積Sに比例するので、逐次破壊によって生じる変位量が大きいほどエネルギー吸収量が大きい。本実施形態の複合材チューブ7は、非接着領域Bによって逐次破壊時の変位量を増大させているので、大きなエネルギー吸収を得ることができる。
【0035】
これに対して、従来技術のように、非接着領域を設けずに複合材チューブの全領域が面板に対して接着されている場合には、面板によって複合材チューブが拘束されることになるので有効に逐次破壊が進行しない。このような現象が同図の破線で示されている。すなわち、衝撃荷重が加わると、即座に逐次破壊が進行しないので、衝撃荷重が大きく立ち上がる(P2点参照)。その後も、複合材チューブが面板に拘束されているので、逐次破壊が有効に進行せず、面板の破壊に追随して座屈破壊が発生して全体が破壊してしまい、荷重を殆ど負担することがない。このように、非接着領域を設けずに全領域が面板に対して固定された複合材チューブでは、同図において小さな面積しか得られず、大きな衝撃エネルギーを吸収することができない。
【0036】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
複合材チューブ7の一部分(接着領域A)を面板19に固定する一方で、残余部分(非接着領域B)を面板19に対して相対移動可能となるようにしたので、複合材チューブ7の逐次破壊を面板19との拘束によって妨げずに進行させることができる。このように、相対移動する残余部分にて複合材チューブ7の逐次破壊が確保されるので、大きな変位にて逐次破壊が行われることによって衝撃エネルギーが効果的に吸収される。
また、複合材チューブ7を筒形状としたので、座屈破壊させずに逐次破壊を好適に進行させることができる。
また、複合材チューブ7の一部分(接着領域A)にはフィルム接着剤27,29,35を適用し、衝撃吸収部材の残余部分(非接着領域B)には離型フィルム23を適用することとしたので、一部分が面板19に対して固定され、残余部分が面板19に対して相対移動可能とされた構成を簡便に製造することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、ヘリコプタの床下構造への衝撃吸収構造体の適用について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、固定翼航空機や自動車にも適用できる。
本実施形態では、離型材として離型フィルム23を用いることとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、複合材チューブ7を隣接する部材(面板19,コア部材17)との接着ないし結合を妨げるものであればよく、離型剤を塗布することとしても良い。
複合材チューブ7の横断面としては、本実施形態のように四角形が好ましいが、他の形状、例えば、円形、五角形以上の多角形であってもよい。また、横断面の一部が切り欠かれていても(例えばC字形状)、座屈せずに逐次破壊が行われる形状であればよく、無端状の横断面に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0038】
1 床下外板
3 フレーム
5 ビーム
7 複合材チューブ(衝撃吸収部材)
9 サンドイッチパネル
17 コア部材
19 面板
21 接着剤
23 離型フィルム
25,27,29 フィルム接着剤
26 テープ
A 接着領域(一部分)
B 非接着領域(残余部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔離間させて対向配置された一対の平板状の面板と、
これら面板間に配置され、各面板に対して固定されたコア部材と、
前記面板間でかつ前記コア部材の側方に、一方向に延在して配置され、該一方向における衝撃圧縮力によって逐次破壊が進行する衝撃吸収部材と、
を備えた衝撃吸収構造体において、
前記衝撃吸収部材は、一部分が前記面板に対して固定されるとともに、残余部分が前記面板に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材は、前記一方向に軸線を有する筒形状とされていることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材は、樹脂と補強繊維との複合材料によって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材の前記残余部分と、前記面板との間には、該衝撃吸収部材と該面板との接着を阻害する離型材が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の衝撃吸収構造体。
【請求項5】
一対の前記面板のいずれか一方は、前記衝撃吸収部材の前記残余部分の一端が露出するように設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の衝撃吸収構造体。
【請求項6】
所定間隔離間させて対向配置された一対の平板状の面板と、
これら面板間に配置され、各面板に対して固定されたコア部材と、
前記面板間でかつ前記コア部材の側方に、一方向に延在して配置され、該一方向における衝撃圧縮力によって逐次破壊が進行する衝撃吸収部材と
を備えた衝撃吸収構造体の製造方法において、
前記衝撃吸収部材の一部分と前記面板との間を接着剤によって固定し、
前記衝撃吸収部材の残余部分と前記面板との間には、該衝撃吸収部材と該面板との接着を阻害する離型材を配置することを特徴とする衝撃吸収構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−247789(P2010−247789A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102091(P2009−102091)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、(現)防衛省、「耐衝撃性構造(その1)の研究試作」試作研究請負契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】