説明

衝撃吸収構造体とその製造方法

【課題】軟結合構造を介して結合された各弾性球状体の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる衝撃吸収構造体を提供すること。
【解決手段】外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体11を、互いに乖離する対向球面11c間に貫通空隙Kを確保した状態で、外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造12を介して平面状又は線状に集合させた衝撃吸収構造体(衝撃吸収部材)10において、前記軟結合構造12は、弾性球状体11の下端11aに、一面に設けた熱溶着層14aが熱溶着固定される下側布部材(第1連結シート)14と、弾性球状体11の上端11bに、一面に設けた熱溶着層15aが熱溶着固定される上側布部材15と、を備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟結合構造を介して複数の弾性球状体を結合した衝撃吸収構造体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡樹脂体からなるベース部材上に、複数の弾力性を有する球体状のセル構造体を並べ、この複数のセル構造体を、ベース部材ごとカバー材により覆うことで形成された衝撃吸収構造体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-296640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の衝撃吸収構造体にあっては、複数のセル構造体がベース部材上に載置されているのみであるため、カバー材の内側で自由に移動したり回転したりする。そのため、複数のセル構造体が密になった部分では通気性が低下するし、複数のセル構造体の間隔が開きすぎた部分では衝撃吸収性能の低下が懸念される。つまり、セル構造体の状態によって衝撃吸収性能や通気性にむらが生じてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、軟結合構造を介して結合された各弾性球状体の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる衝撃吸収構造体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、互いに乖離する対向球面間に貫通空隙を確保した状態で、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して平面状又は線状に集合させた衝撃吸収構造体において、
前記軟結合構造は、下側布部材と、上側布部材と、を備えている。
前記下側布部材は、前記弾性球状体の下端に、一面に設けた熱溶着層が熱溶着固定される。
前記上側布部材は、前記弾性球状体の上端に、一面に設けた熱溶着層が熱溶着固定される。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の衝撃吸収構造体にあっては、弾性球状体の下端が下側布部材の熱溶着層に熱溶着固定されることで、弾性球状体の下側布部材に対する位置や姿勢が固定される。また、弾性球状体の上端が上側布部材の熱溶着層に熱溶着固定されることで、弾性球状体の上側布部材に対する位置や姿勢が固定される。
このため、弾性球状体は、下側布部材と上側布部材の間で位置や姿勢が固定した状態で保持され、形状変化や外力の入力があっても軟結合構造を介して結合した各弾性球状体の位置や姿勢を安定させることができる。これにより、衝撃吸収構造体の全面に渡って品質を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】実施例1の衝撃吸収構造体を適用した保護帽子の外観斜視図である。
【図1B】実施例1の衝撃吸収構造体を適用した保護帽子の断面図である。
【図2】実施例1の衝撃吸収構造体を示す一部を破断した斜視図である。
【図3】実施例1の衝撃吸収構造体を示す平面図である。
【図4】弾性球状体を示す図であり、(a)は外観を示す斜視図であり、(b)は縦断面図である。
【図5】実施例1の衝撃吸収構造体の要部を拡大した断面図である。
【図6A】実施例1の衝撃吸収構造体の製造方法を示す図であり、(a)は弾性球状体載置工程を示し、(b)は下側布部材被覆工程を示し、(c)は第1プレス工程を示している。
【図6B】実施例1の衝撃吸収構造体の製造方法を示す図であり、(d)は台紙剥離工程を示し、(e)は上側布部材被覆工程を示している。
【図6C】実施例1の衝撃吸収構造体の製造方法を示す図であり、(f)は第2プレス工程を示し、(g)は布部材連結工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の衝撃吸収構造体とその製造方法を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の衝撃吸収構造体における構成を、「衝撃吸収構造体の適用例の構成」、「衝撃吸収構造体の弾性球状体の構成」、「衝撃吸収構造体の軟結合構造の構成」、「衝撃吸収構造体の製造方法」に分けて説明する。
【0011】
[衝撃吸収構造体の適用例の構成]
図1Aは、実施例1の衝撃吸収構造体を適用した保護帽子の外観斜視図である。図1Bは、実施例1の衝撃吸収構造体を適用した保護帽子の断面図である。図2は、実施例1の衝撃吸収構造体を示す一部を破断した斜視図である。図3は、実施例1の衝撃吸収構造体を示す平面図である。
【0012】
図1A及び図1Bに示す保護帽子1は、頭部に被ることで外部から加わる外力から頭部を保護するものである。この保護帽子1は、帽子本体2と、衝撃吸収部材(衝撃吸収構造体)10と、を備えている。
【0013】
前記帽子本体2は、通気性が良い布素材により形成され、頭頂部を覆う頂天部3と、頂天部3の周囲を取り囲んで頭側部を覆う側面部4と、側面部4の前額部4aから前方に突出した鍔部5と、有している。なお、鍔部5にはプラスチック製の芯材5aが内蔵されている。
そして、頂天部3の内側には、衝撃吸収部材10を収納可能な第1シートポケット6が設けられている。また、側面部4の内側には、衝撃吸収部材10を収納可能な第2シートポケット7が設けられている。
【0014】
前記第1シートポケット6は、頂天部3とほぼ同じ収納面積を有しており、頂天部3の全面を覆うポケット布6aと、頂天部3の周縁部に沿って設けられた開口部6bと、を有している。この開口部6bは衝撃吸収部材10を出し入れ可能な大きさに形成され、収納した衝撃吸収部材10の脱落を防止するための面ファスナー6cが取り付けられている。
【0015】
前記第2シートポケット7は、側面部4とほぼ同じ収納面積を有しており、頂天部3側が固定された環状のポケット布7aと、側面部4の下端部に固定され、頂天部3に向かって立ち上がった環状のすべり部7bと、を有している。そして、ポケット布7aとすべり部7bとの間が開口部7cとなっている。この開口部7cは衝撃吸収部材10を出し入れ可能な大きさに形成されている。また、ポケット布7aは、側面部4の周方向に沿って複数に区画されている。
【0016】
前記衝撃吸収部材10は、第1シートポケット6又は第2シートポケット7に収納され、外部から加わる外力の衝撃を吸収して頭部を保護するものである。この衝撃吸収部材10は、収納されるシートポケットの大きさに合わせた外形形状となっており、複数の弾性球状体11と、この弾性球状体11を平面状に集合させる軟結合構造12と、を備えている。
【0017】
[衝撃吸収構造体の弾性球状体の構成]
図4は、弾性球状体を示す図であり、(a)は外観を示す斜視図であり、(b)は縦断面図である。
【0018】
前記弾性球状体11は、外径形状がほぼ球状の中空球体に形成され、外部から加わる外力に大きさと方向に応じて弾性変形するものである。この弾性球状体11は、ここでは所定の温度(例えば140℃)に加熱すると溶融するポリプロピレン製の弾性素材により形成されている。また、この弾性球状体11は、下端11aに弾性球状体11の内部と外側を連通させる下側通気孔13aが形成され、上端11bに弾性球状体11の内部と外側を連通させる上側通気孔13bが形成されている。
この下側通気孔13aと上側通気孔13bとは互いに対向する位置に形成され、弾性球状体11の下端11aと上端11bとの間を貫通した状態となっている。
なお、この弾性球状体11は、この実施例1では、外殻の肉厚が約0.3mm、直径が約11mm、通気孔13a,13bの開口径がそれぞれ約6mmとなっている。
【0019】
[衝撃吸収構造体の軟結合構造の構成]
図5は、実施例1の衝撃吸収構造体の要部を拡大した断面図である。
前記軟結合構造12は、複数の弾性球状体11を連結し、互いに乖離する対向球面11c間に貫通空隙Kを確保した状態で、外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた状態で集合させるものである。
【0020】
この軟結合構造12は、第1連結シート(下側布部材)14と、第2連結シート(下側布部材)15と、連結手段16と、を備えている。
【0021】
前記第1連結シート(下側布部材)14は、通気性が良いポリエステル製の布素材により形成され、弾性球状体11の下端11aに接触し、下側通気孔13aに対向する一面に熱溶着層14aが設けられている。ここで「熱溶着層」とは、所定の温度(例えば140℃)に加熱することで溶融する熱可塑性樹脂層である。
そして、熱溶着層14aと下側通気孔13aの開口周縁が互いに溶解して一体化(図5におけるA部)することで、第1連結シート14に対して弾性球状体11が溶着固定される。
【0022】
前記第2連結シート(上側布部材)15は、通気性が良いポリエステル製の布素材により形成され、弾性球状体11の上端11bに接触し、上側通気孔13bに対向する一面に熱溶着層15aが設けられている。ここで「熱溶着層」とは、所定の温度(例えば140℃)に加熱することで溶融する熱可塑性樹脂層である。なお、第1連結シート14と第2連結シート15は同じ素材により形成される。
そして、熱溶着層15aと上側通気孔13bの開口周縁が互いに溶解して一体化(図5におけるB部)することで、第2連結シート15に対して弾性球状体11が溶着固定される。
【0023】
前記連結手段16は、第1連結シート14と第2連結シート15のそれぞれに固定された状態で集合した複数の弾性球状体11の周囲位置において、第1,第2連結シート14,15を連結するものである。ここでは、この連結手段16は、第1連結シート14の熱溶着層14aと第2連結シート15の熱溶着層15aとが互いに溶着した溶着部16aと、この溶着部16a上において第1,第2連結シート14,15を縫い合わせる縫合部16bと、を有している。
【0024】
[衝撃吸収構造体の製造方法]
次に、実施例1の衝撃吸収部材10の製造方法について説明する。
図6A〜図6Cは、それぞれ実施例1の衝撃吸収構造体の製造方法を示す図である。図6Aの(a)は弾性球状体載置工程を示し、(b)は下側布部材被覆工程を示し、(c)は第1プレス工程を示し、図6Bの(d)は台紙剥離工程を示し、(e)は上側布部材被覆工程を示し、図6Cの(f)は第2プレス工程を示し、(g)は布部材連結工程を示す。
【0025】
図6A(a)に示す弾性球状体載置工程では、弾性球状体11の配置パターンHをあらかじめ記載した台紙Dを作業台等の平らな場所に設置し、配置パターンHに合わせて弾性球状体11を台紙D上に載置する。このとき、台紙Dに対して各弾性球状体11の通気孔13a,13bが直交するように向きを合わせて載置する。すなわち、ここでは弾性球状体11の上側通気孔13bが台紙Dに対向する。また、隣接する弾性球状体11の間は、約1mmあけて配置する。この1mmあけた間隔により貫通空隙Kが確保される。
【0026】
図6A(b)に示す下側布材被覆工程では、台紙D上に載置された弾性球状体11上に、第1連結シート14を載置する。このとき、第1連結シート14の熱溶着層14aが弾性球状体11に接触するように向きを合わせて載置する。すなわちここでは、弾性球状体11の下側通気孔13aが第1連結シート14の熱溶着層14aに対向する。
【0027】
図6A(c)に示す第1プレス工程では、弾性球状体11上に載置した第1連結シート14を平型接着プレス機Pによって加熱しながら弾性球状体11に押し付け、熱溶着層14aを溶融させて弾性球状体11に溶着する。
このとき、加熱温度は140℃、加圧時間は4秒にセットする。これにより、熱溶着層14aだけでなく、図5に示すように、この熱溶着層14aに接触した弾性球状体11の下側通気孔13aの開口縁部が溶融する。このため第1連結シート14と弾性球状体11との溶着度合いが向上する。なお、加圧力は、平型接着プレス機Pの自重により弾性球状体11に作用する圧力とする。
【0028】
図6B(d)に示す台紙剥離工程では、第1連結シート14が溶着した弾性球状体11を引っくり返し、第1連結シート14を下側にしてから、弾性球状体11から台紙Dを剥がす。
【0029】
図6B(e)に示す上側布部材被覆工程では、第1連結シート14に固定された弾性球状体11上に、第2連結シート15を載置する。このとき、第2連結シート15の熱溶着層15aが弾性球状体11に接触するように向きを合わせて載置する。すなわちここでは、弾性球状体11の上側通気孔13bが第2連結シート15の熱溶着層15aに対向する。
【0030】
図6C(f)に示す第2プレス工程では、弾性球状体11上に載置した第2連結シート15を平型接着プレス機Pによって加熱しながら弾性球状体11に押し付け、熱溶着層15aを溶融させて弾性球状体11に溶着する。
このとき、加熱温度は140℃、加圧時間は4秒にセットする。これにより、熱溶着層15aだけでなく、図5に示すように、この熱溶着層15aに接触した弾性球状体11の上側通気孔13bの開口縁部が溶融する。このため第2連結シート15と弾性球状体11との溶着度合いが向上する。なお、加圧力は、平型接着プレス機Pの自重により弾性球状体11に作用する圧力とする。
【0031】
図6C(g)に示す布部材連結工程では、第1連結シート14と第2連結シート15のそれぞれに対して溶着固定された弾性球状体11の周囲位置を、図示しないアイロンにより加熱しながら加圧し、第1連結シート14の熱溶着層14aと第2連結シート15の熱溶着層15aを接着する。その後、接着した弾性球状体11の周りの第1連結シート14と第2連結シート15をミシンで縫い合わせ、その縫い目の周りの余分な第1,第2シート14,15を切り落とす。これにより、衝撃吸収部材10を製造する。
【0032】
次に、実施例1の衝撃吸収構造体における作用を、「弾性球状体の姿勢安定化作用」、「衝撃吸収性能確保作用」、「通気性能確保作用」、「形状自由度向上作用」、「製造方法における特徴的作用」に分けて説明する。
【0033】
[弾性球状体の姿勢安定化作用]
実施例1の衝撃吸収部材10の軟結合構造12は、弾性球状体11の下端11aに、一面に設けた熱溶着層14aが熱溶着固定される第1連結シート14と、弾性球状体11の上端11bに、一面に設けた熱溶着層15aが熱溶着固定される第2連結シート15と、を備えている。
【0034】
このため、弾性球状体11の下端11aが第1連結シート14の熱溶着層14aに熱溶着固定されることで、第1連結シート14に対する弾性球状体11の位置や姿勢が固定される。また、弾性球状体11の上端11bが第2連結シート15の熱溶着層15aに熱溶着固定されることで、第2連結シート15に対する弾性球状体11の位置や姿勢が固定される。これにより、第1,第2連結シート14,15が変形しても、弾性球状体11は第1,第2連結シート14,15に対して移動したり、回転することはない。
【0035】
この結果、弾性球状体11は、第1連結シート14と第2連結シート15の間で位置や姿勢が固定した状態で保持され、弾性球状体11の姿勢の安定化を図ることができる。
【0036】
特に、実施例1の衝撃吸収部材10では、弾性球状体11の下側通気孔13aが第1連結シート14に対向し、上側通気孔13bが第2連結シート15に対向している。そのため、下側通気孔13aの開口周縁や上側通気孔13bの開口周縁が各連結シート14,15にそれぞれ溶着する。これにより、対向球面11cに各連結シート14,15を溶着する場合よりも溶着面積を小さくすることができ、第1,第2連結シート14,15の溶着によるひずみを小さく抑えることができる。そして、第1,第2連結シート14,15のひずみを抑えることで、第1,第2連結シート14,15間に保持された複数の弾性球状体11をより整然と揃えることができて、姿勢の安定化をさらに図ることができる。
【0037】
また、実施例1の衝撃吸収部材10では、第1,第2連通シート14,15のそれぞれに固定された状態で集合した複数の弾性球状体11の周囲位置において、連結手段16を介してこの第1,第2連結シート14,15を連結している。
【0038】
そのため、第1,第2連結シート14,15同士が連結することで、この第1,第2連結シート14,15の相対的な位置がずれにくくなり、その間に保持された弾性球状体11の姿勢の安定化をさらに図ることができる。
【0039】
特に、ここでは、連結手段16が溶着部16aと縫合部16bを有しているため、溶着部16aのみの場合や、縫合部16bのみの場合よりも連結強度を高めることができ、第1,第2連結シート14,15の相対的な位置ずれをより効果的に防止することができる。
【0040】
[衝撃吸収性能確保作用]
実施例1の衝撃吸収部材10に外部から外力が入力すると、この外力の大きさと方向に応じて弾性球状体11が弾性変形し、外力による衝撃を吸収する。このとき、弾性球状体11は、外径形状がほぼ球状であるため、全方位からの衝撃吸収性能を発揮する。
【0041】
さらに、この弾性球状体11が第1,第2連結シート14,15に溶着され、移動したり、回転することはないため、入力した外力を受け止めて確実に変形することができ、衝撃吸収性能を確保することができる。すなわち、入力した外力によって弾性球状体11が第1,第2連結シート14,15に対して移動したり、回転したりすると、弾性球状体11が部分的に弾性変形しない場合があり、十分に衝撃を吸収することができない。
【0042】
これに対し、実施例1の衝撃吸収部材10では、外力の大きさと方向に応じて弾性球状体11が移動することなく確実に弾性変形して衝撃を吸収することができるため、衝撃吸収部材10の全面に渡って衝撃吸収性能を均一化することができる。
【0043】
さらに、軟結合構造12である第1連結シート14及び第2連結シート15は、弾性球状体11の弾性変形に追従して変形するため、弾性球状体11の弾性変形を阻害することはなく、衝撃吸収性能は確保される。
【0044】
[通気性能確保作用]
実施例1の衝撃吸収部材10では、弾性球状体11が下端11aと上端11bとの間を貫通し、貫通空隙Kを介して第1連結シート14から第2連結シート15へ通過する空気の流線と平行な通気流線を加える下側通気孔13a及び上側通気孔13bを有している。そして、下側通気孔13aの開口周縁を第1連結シート14に溶着し、上側通気孔13bを第2連結シート15に溶着している。つまり、弾性球状体11の下側通気孔13aが第1連結シート14に対向し、上側通気孔13bが第2連結シート15に対向した状態で、第1,第2連結シート14,15間に保持されている。
【0045】
そのため、第1連結シート14側から流れる空気は、第1連結シート14を通過した後、隣接する弾性球状体11の互いに乖離する対向球面11c間の貫通空隙Kを通過するか、あるいは、下側通気孔13aから弾性球状体11の内部に入り込んで上側通気孔13bから排出される。そして、第2連通シート15を通過して流れる。
【0046】
このとき、弾性球状体11が第1,第2連結シート14,15に溶着され、移動したり、回転することはないため、貫通空隙Kが確実に確保されると共に、下側通気孔13a及び上側通気孔13bの方向は規定される。そのため、弾性球状体11が第1連結シート14から第2連結シート15へと流れる空気の流れを阻害することはなく、衝撃吸収部材10の全面に渡って一定の通気性能を確保することができる。
【0047】
[形状自由度向上作用]
実施例1の衝撃吸収部材10では、複数の弾性球状体11を平面状に配置し、第1連結シート14と第2連結シート15によって挟んでいる。そのため、この弾性球状体11の配置パターンを任意の形状にすることで、衝撃吸収部材10の形状を自由に設定することができる。これにより、衝撃吸収部材10を四角型や丸型等形状自由度を向上することができる。
【0048】
特に、この実施例1の衝撃吸収部材10では、頂天部3に設けられた第1シートポケット6と、側面部4に設けられた第2シートポケット7との形状が異なっている。しかし、それぞれ形状に合わせて衝撃吸収部材10を形成することができ、頂天部3や側面部4の全面を衝撃吸収部材10でカバーすることができる。
【0049】
[製造方法における特徴的作用]
実施例1の衝撃吸収部材10を製造するには、第1プレス工程(図6A(c))において、台紙D上に載置された複数の弾性球状体11に第1連結シート14を加温しながら押圧して溶着し、その後、第2プレス工程(図6C(f))において、第1連結シート14上に固定された複数の弾性球状体11に第2連結シート15を加温しながら押圧して溶着する。
【0050】
このため、複数の弾性球状体11を第1連結シート14や第2連結シート15に一斉に溶着することができ、各弾性球状体11の姿勢や間隔がずれることなく、短時間で衝撃吸収部材10を製造することができる。
【0051】
さらに、実施例1では、第1,第2連結シート14,15に対して溶着固定されて集合した複数の弾性球状体11の周囲位置において、第1,第2連結シート14,15を連結する布部材連結工程(図6C(g))を備えている。
【0052】
そのため、第1,第2連結シート14,15同士が連結することで、この第1,第2連結シート14,15の相対的な位置がずれにくくなり、その間に保持された弾性球状体11の姿勢安定化をさらに図ることができる。
【0053】
特に、ここでは、布部材連結工程(図6C(g))が、第1連結シート14の熱溶着層14aと第2連結シート15の熱溶着層15aとを圧着すると共に、圧着箇所を縫い合わせている。そのため、第1,第2連結シート14,15同士の連結強度を高めると共に、連結しやすくなる。
【0054】
次に、効果を説明する。
実施例1の衝撃吸収部材(衝撃吸収構造体)10にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0055】
(1) 外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体11を、互いに乖離する対向球面11c間に貫通空隙Kを確保した状態で、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造12を介して平面状に集合させた衝撃吸収構造体10において、
前記軟結合構造12は、
前記弾性球状体11の下端11aに、一面に設けた熱溶着層14aが熱溶着固定される下側布部材(第1連結シート)14と、
前記弾性球状体11の上端11bに、一面に設けた熱溶着層15aが熱溶着固定される上側布部材(第2連結シート)15と、
を備えた構成とした。
このため、軟結合構造12を介して結合された各弾性球状体11の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる。
【0056】
(2) 前記軟結合構造12は、前記下側布部材14と前記上側布部材15のそれぞれに固定された状態で集合した複数の前記弾性球状体11の周囲位置において、前記下側布部材14と前記上側布部材15を連結する連結手段16を備えた構成とした。
このため、上記(1)に記載の効果に加え、下側布部材14と上側布部材15との相対的な位置ずれを抑制し、弾性球状体11の位置や姿勢をさらに安定させることができる。
【0057】
(3) 前記弾性球状体11は、前記下端11aと前記上端11bとの間を貫通し、前記貫通空隙Kを介して前記下側布部材14から前記上側布部材15へ通過する空気の流線と平行な通気流線を加える通気孔(下側通気孔13a,上側通気孔13b)を有し、
前記通気孔13a,13bの開口周縁を前記下側布部材14及び前記上側布部材15にそれぞれ溶着する構成とした。
このため、上記(1)又は(2)に記載の効果に加え、通気性能を確保することができる。
【0058】
(4) 外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体11を、互いに乖離する対向球面11c間に貫通空隙Kを確保した状態で、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造12を介して平面状に集合させる衝撃吸収構造体10の製造方法において、
前記弾性球状体11をあらかじめ記載した配置パターンに沿って台紙D上に載置する弾性球状体載置工程(図6A(a))と、
前記台紙D上に載置された弾性球状体11上に、熱溶着層14aが接触する状態で下側布部材(第1連結シート)14を被せる下側布部材被覆工程(図6A(b))と、
前記弾性球状体11を覆った前記下側布部材を、加温しながら前記弾性球状体に向けて押圧する第1プレス工程(図6A(c))と、
前記下側布部材14に溶着した前記弾性球状体11から、前記台紙Dを取り外す台紙剥離工程(図6B(d))と、
前記弾性球状体11の前記下側布部材14が溶着されていない側に、熱溶着層15aが接触する状態で上側布部材(第2連結シート)15を被せる上側布部材被覆工程(図6B(e))と、
前記弾性球状体11を覆った前記上側布部材15を、加温しながら前記弾性球状体11に向けて押圧する第2プレス工程(図6C(f))と、
を備えた構成とした。
このため、軟結合構造を介して結合された各弾性球状体の位置や姿勢を安定させ、全面に渡って品質を均一化することができる。
【0059】
(5) 前記下側布部材14及び前記上側布部材15に対して溶着固定されて集合した複数の前記弾性球状体11の周囲位置において、前記下側布部材14と前記上側布部材15を連結する布部材連結工程(図6C(g))を備えた構成とした。
このため、上記(4)に記載の効果に加え、下側布部材14と上側布部材15との相対的な位置ずれを抑制し、弾性球状体11の位置や姿勢をさらに安定させることができる。
【0060】
(6) 前記布部材連結工程(図6C(g))は、前記下側布部材14の熱溶着層14aと前記上側布部材15の熱溶着層15aとを圧着すると共に、圧着箇所を縫い合わせる構成とした。
このため、上記(5)に記載の効果に加え、下側布部材14と上側布部材15との連結強度を向上させることができる。
【0061】
以上、本発明の衝撃吸収構造体10及びその製造方法を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0062】
実施例1では、衝撃吸収部材10を保護帽子1の帽子本体2の内側に収納し、外部から加わる外力から頭部を保護するようにしているが、これに限らない。たとえば手足に装着するサポータに取り付け、肘や膝等を外力から保護してもよい。
【0063】
また、実施例1の衝撃吸収部材10は、複数の弾性球状体11を平面上の縦方向及び横方に配置して平面状にしているが、一列に並べて線状に配置してもよい。この場合、例えば保護帽子1の内側に沿ってらせん状に取り付けることで、保護帽子1に設けることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 保護帽子
6 第1シートポケット
7 第2シートポケット
10 衝撃吸収部材(衝撃吸収構造体)
11 弾性球状体
11a 下端
11b 上端
11c 対向球面
12 軟結合構造
13a 下側通気孔(通気孔)
13b 上側通気孔(通気孔)
14 第1連結シート(下側布部材)
14a 熱溶着層
15 第2連結シート(上側布部材)
15a 熱溶着層
16 連結手段
16a 溶着部
16b 縫合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、互いに乖離する対向球面間に貫通空隙を確保した状態で、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して平面状又は線状に集合させた衝撃吸収構造体において、
前記軟結合構造は、
前記弾性球状体の下端に、一面に設けた熱溶着層が熱溶着固定される下側布部材と、
前記弾性球状体の上端に、一面に設けた熱溶着層が熱溶着固定される上側布部材と、
を備えたことを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
請求項1に記載された衝撃吸収構造体において、
前記軟結合構造は、前記下側布部材と前記上側布部材のそれぞれに固定された状態で集合した複数の前記弾性球状体の周囲位置において、前記下側布部材と前記上側布部材を連結する連結手段を備えたことを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された衝撃吸収構造体において、
前記弾性球状体は、前記下端と前記上端との間を貫通し、前記貫通空隙を介して前記下側布部材から前記上側布部材へ通過する空気の流線と平行な通気流線を加える通気孔を有し、
前記通気孔の開口周縁を前記下側布部材及び前記上側布部材にそれぞれ溶着することを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項4】
外形形状が球状であり、外部から加わる外力の大きさと方向に応じて弾性変形する複数の弾性球状体を、互いに乖離する対向球面間に貫通空隙を確保した状態で、前記外力に従って変形可能なように剛性を低く抑えた軟結合構造を介して平面状又は線状に集合させる衝撃吸収構造体の製造方法において、
前記弾性球状体をあらかじめ記載した配置パターンに沿って台紙上に載置する弾性球状体載置工程と、
前記台紙上に載置された弾性球状体上に、熱溶着層が接触する状態で下側布部材を被せる下側布部材被覆工程と、
前記弾性球状体を覆った前記下側布部材を、加温しながら前記弾性球状体に向けて押圧する第1プレス工程と、
前記下側布部材に溶着した前記弾性球状体から、前記台紙を取り外す台紙剥離工程と、
前記弾性球状体の前記下側布部材が溶着されていない側に、熱溶着層が接触する状態で上側布部材を被せる上側布部材被覆工程と、
前記弾性球状体を覆った前記上側布部材を、加温しながら前記弾性球状体に向けて押圧する第2プレス工程と、
を備えたことを特徴とする衝撃吸収構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載された衝撃吸収構造体の製造方法において、
前記下側布部材及び前記上側布部材に対して溶着固定されて集合した複数の前記弾性球状体の周囲位置において、前記下側布部材と前記上側布部材を連結する布部材連結工程を備えたことを特徴とする衝撃吸収構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載された衝撃吸収構造体の製造方法において、
前記布部材連結工程は、前記下側布部材の熱溶着層と前記上側布部材の熱溶着層とを圧着すると共に、圧着箇所を縫い合わせることを特徴とする衝撃吸収構造体の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2013−57354(P2013−57354A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195648(P2011−195648)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(500125593)株式会社特殊衣料 (5)
【出願人】(591056927)一般財団法人日本自動車研究所 (26)
【Fターム(参考)】