説明

衝撃吸収構造体

【課題】
自動車衝突時に乗員の下肢部を保護するために車体パネルとフロアカーペットの間に配設される衝撃吸収構造体において、性能調整を容易な工法で提供することが可能であり、かつ取付作業も容易な構成である衝撃吸収構造体を提供する。
【解決手段】
自動車の足下において車体パネルの車室側に設置され、発泡体から成るベース部と、ベース部に対して相対的に容易に衝撃に対して変形する衝撃吸収部とを有する衝撃吸収構造体による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の乗員の足下において車体パネルの車室側に設置される衝撃吸収構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、フロアパネル上に内装材としてフロアカーペットを敷設することにより、意匠性が高められ、また、防音性能等も改善されている。そしてこのフロアカーペットとフロアパネルとの間に、車両正面衝突時において前席乗員等の下肢部を保護するため、衝撃吸収構造体を設置することが提案されている。
【0003】
その例として、特許文献1では車体に凹部を形成し、その凹部に衝撃を吸収緩和するためのエネルギ吸収体を設けている。これにより自動車の衝突時に、エネルギ吸収体が衝撃を吸収緩和することで乗員の足の負担が軽減されるとしている。
【0004】
また特許文献2では、ダッシュパネルと空間を確保してブラケットを位置させ、さらにブラケットの車室側の面にフットレスト本体を載置している。そして衝撃時には、フットレスト本体が車室内側に押し出され、これに伴い乗員の足も共に押し出されることで、その足に怪我を負う危険性を低減するとしている。
【特許文献1】特開平10-329762号
【特許文献2】特開2004-338624号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のエネルギ吸収体として用いられる発泡成形体では、一般に衝撃吸収態様は発泡倍率に依存する。発泡倍率が低い成形体、すなわち硬質な成形体の場合、圧縮-荷重曲線は急な右上がりの曲線となる。そして、エネルギ吸収体が硬質であるために、圧縮しながら衝撃を吸収するエネルギ吸収体が求められる衝撃吸収量に達する前に、乗員の足が耐えることが可能な限界負荷に達することが起こり得る。
【0006】
このような事態を避けるべく、発泡倍率が高い成形体、すなわち軟質な成形体を用いた場合、衝撃の緩和効果は良好といえるが、より厚みを必要とする。しかしながら、車体に配置可能な厚みは制限されているため、許容される厚みにおける圧縮-荷重曲線は緩やかな右上がりの曲線となるこの場合、エネルギ吸収体が求められる衝撃吸収量に達する前に、底づき状態となり、結果として充分な衝撃を吸収することができず、乗員の足へ負荷がかけられる。これら課題を解決するため、発泡体に対してリブを形成することや、開口を形成することで性能を調整することが挙げられるが、リブの本数および寸法の変更に伴う成形型の調整による型費用の増加や工数の増加が課題として挙げられる。
【0007】
特許文献2記載のフットレスト装置では、パネルとブラケット間に空間があることにより、乗員の足裏とパネル間の距離を効果的に衝撃吸収のために利用することができない。またフットレスト本体の縁付近に乗員が足を乗せた場合に、フットレスト本体がぐらつくという事態も起こり得る。すなわち、フットレスト本体とブラケットの係合についても課題となり得る。この課題を解消するためにフットレスト本体のスタッド数とブラケットの差し込み孔を増やすことが考えられるが、これらの数を増やすことによって取付作業が困難となり、その作業が煩雑化されることも課題となりえる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、性能調整を容易な工法で提供することが可能であり、かつ取付作業も容易な構成である衝撃吸収構造体である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、自動車の乗員の足下において車体パネルの車室側に設置される発泡体からなる衝撃吸収構造体であって、衝撃吸収部と、衝撃吸収部を嵌め込むことが可能なベース部とから成り、衝撃吸収部はベース部に対して相対的に容易に変形する構成とした衝撃吸収構造体を提供する。ここで衝撃吸収部は、ベース部に対して軟質なものとすること、又は、ベース部と同硬度とし、衝撃吸収部に対して脆弱部等を形成することで、ベース部に対して相対的に変形および破断しやすい構成とすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、初期衝撃に対して速やかに衝撃を吸収し、また、中期、後期の衝撃に対しても衝撃吸収性能を損なうことなく、衝撃吸収することで、乗員の下肢部を保護することが可能であり、フットレストとしての剛性確保と、衝撃吸収の相反する性能の両立が可能となる。
【0011】
また、ベース部と衝撃吸収部の少なくとも2部材で構成されることにより、衝撃吸収部を車体形状に依存しない形状とすれば車体レイアウトが近い車両に流用が可能なため、この形状を標準設計化することで衝撃吸収性能の安定化と生産コストの削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例を配設した車両の要部断面図である。
【図2】本発明の実施例の斜視図である。
【図3】本発明の実施例の衝撃吸収部の斜視図である。
【図4】本発明の実施例の衝撃吸収部の斜視図である。
【図5】本発明のベース部の斜視図である。
【図6】本発明の実施例の潰れ量と反力との関係を示すグラフである。
【図7】従来の衝撃吸収体の潰れ量と反力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)衝撃吸収構造体の構成:
(2)衝撃吸収構造体の作用、効果:
【0014】
(1)衝撃吸収構造体の構成:
図1は、本発明の衝撃吸収構造体(10)が設置された乗用自動車のフロア要部の断面図である。自動車の前座席に座る乗員の足下では、金属製のフロアパネル(40)が略水平に配置され、このフロアパネル(40)の前縁から金属製のトーボード(50)が斜めに立ち上がり、このトーボード(50)の前縁から金属製のダッシュパネルが鉛直に近い角度で斜めに立ち上がっている。
【0015】
自動車の前面衝突時、車両前面に対して後方へ強い衝撃が加わる。それによりトーボード(50)はフロアパネル(40)となす室内側の角度を小さくなるように立ち上がる変形をする。そこで、運転席や助手席の乗員足元付近において、フロアパネル(40)とトーボード(50)の連続部に衝撃吸収構造体(10)を設置し、乗員足元への負担を軽減させる。
【0016】
本実施形態における衝撃吸収構造体(10)は、衝撃吸収部(20)とベース部(30)とを個別に形成し、両者を別工程で嵌合させることによって構成される。特に、衝撃吸収部(20)の取付部(21)をベース部(30)の受入部(31)に嵌め込むことによって形成される。
【0017】
衝撃吸収部(20)とベース部(30)の材質はそれぞれ、衝撃を吸収する観点から発泡させた材料が用いられ、合成樹脂を有する樹脂成形材料を発泡させた材質が挙げられる。発泡させる樹脂成形材料としては、成形の容易性から熱可塑性樹脂を有する樹脂成形材料が好ましい。熱可塑性樹脂には、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0018】
ここで衝撃吸収部(20)の発泡倍率は、例えば10倍〜50倍とすることができ、衝撃吸収部(20)の密度は0.05〜0.1g/cm3とすることができる。但し、後述するベース部(30)と同硬度とする場合には、圧縮変形や破断の起点となる薄肉部、脆弱部や開口を形成することで、破断が容易となる構成とする。ここで、脆弱部の例としては、後述する取付部(21)に対して開口や切欠を形成する等して、応力を集中させる形状が挙げられる。開口や切欠といった脆弱部は、成形型の可動方向に沿った向きに形成することが望ましい。
【0019】
図3、図4に掲載されているように、衝撃吸収部(20)は、衝撃吸収部(20)とベース部(30)を嵌合した際に露出する部位である足載面(24)と、衝撃吸収部(20)とベース部(30)とを嵌合した際にベース部(30)の受入部(凹部)(31)内に配置されることで、外見から確認できない部位となる取付部(21)とを有する形状に形成されている。
【0020】
足載面(24)は衝撃吸収部(20)とベース部(30)を嵌合した際に、乗員が足を載せる部位となる略平坦な面である。取付部(21)は足載面(24)の裏面側から、略十字状に膨出した形状であり、衝撃吸収部(20)とベース部(30)とを組付けた際、ベース部(30)の受入部(31)内に配置されるため、外見からは確認できない状態となる。また、本実施形態では取付部(21)に脆弱部となる開口(23)を形成している。この開口(23)の大きさを調整することで、容易に衝撃吸収性能を調整することが可能となる。本実施形態の取付部(21)は略十字状の膨出部を用いている。このように足載面(24)の長手方向に沿った方向と、それと直交する方向にそれぞれ膨出した形状とすることで、衝撃吸収部(20)をベース部(30)に嵌合した際に、ぐらつかずに安定した状態を保つことができる。しかしながらこの十字形状に限定はせず、衝撃吸収部(20)をベース部(30)に嵌合した際に安定した状態とする形状であれば、例えば円筒状など、いかなる形状でもよい。
【0021】
取付部(21)には、ベース部(30)の底に向けて複数の突出部(22)が形成されている。本実施形態の突出部(22)は突出方向に垂直な断面が円形に形成されているが、矩形状、多角形状、等いかなる形状でもよく、また先端を鋭利な形状としてもよい。この突出部(22)がベース部(30)に形成された複数の取付孔(32)内に嵌合されることによって、衝撃吸収部(20)とベース部(30)との嵌合を安定させる。
【0022】
ベース部(30)は衝撃吸収部(20)を受入れる受入部(凹部)(31)と、車両パネル(40)に対して衝撃吸収構造体(10)を安定した状態を保つための支持部(33)を有する形状に形成される。
【0023】
ここで、衝撃吸収部(20)と同硬度以下となることを前提とし、ベース部(30)の発泡倍率は、例えば10倍〜30倍とすることができ、衝撃吸収部(20)の密度は0.03〜0.1g/cm3とすることができる。
【0024】
ベース部(30)には衝撃吸収部(20)を嵌め込むことが可能な凹部である受入部(31)が形成されている。そして受入部(31)の底には、複数の取付孔(32)が形成されており、上述したように、これら取付孔(32)内に衝撃吸収部(20)の突出部(22)が配置される。これにより、衝撃吸収部(20)がベース部(30)に対して安定した状態で嵌合される。また、突出部(22)の表面に凹凸を形成し、取付孔(32)内にも凹凸を形成し、突出部(22)と取付孔(32)間に引っ掛かりを持たせるよう形成することで、両者の嵌合をより強固なものにしてもよい。
【0025】
またベース部(30)には車体パネル(40)面に対して並行な面を有する支持部(33)が形成される。この支持部(33)の車体パネル(40)に面する面に接着剤を塗ることで衝撃吸収構造体(10)を車体へ固定することが可能となる。その他の固定方法として、ビス留めや、車体にスタッドボルトを設定し、それに対してクリップ止めするなどして、ベース部(30)を車体パネル(40)に対して安定させることが挙げられる。
【0026】
(2)衝撃吸収構造体の作用、効果:
ここで所望の反力、すなわち乗員下肢部が耐えることが可能な衝撃値F1に達するまでに得られる、本発明と従来の一体成形体の衝撃吸収量をそれぞれ模式的に示す。
【0027】
図6は本実施形態の衝撃時の圧縮量S(変位)に対する圧縮荷重Fを示した圧縮量-荷重曲線である。同図に示されるように、衝突直後は変位S2(S2<S1)に達するまでは荷重F1より低い荷重F2まで、少ない圧縮量で多くのエネルギーを吸収する挙動をとる。そして変位S2から変位S1にかけては、荷重を大きく上げることなく圧縮変形し続け、変位S1で所望の荷重F1に達した後に、底付き状態となる。
【0028】
このような結果が得られる理由は、衝突時には先ず、ベース部に対して相対的に容易に変形する衝撃吸収部(20)が圧縮変形を開始する。その後、衝撃吸収部(20)の圧縮変形が進行するに伴って、ベース部(30)も徐々に圧縮変形を開始し、反力を発生する。(圧縮量0とS2間)その後、衝撃吸収部(20)の破断が開始し、緩やかなに荷重を増加させる曲線を維持しながら、底付きへ向かう。このように本発明では、初期荷重に対して速やかに反力を発生し、また底付きが遅い衝撃吸収が行われる。また、圧縮量0とS2間およびS2とS1間を調節するためには、衝撃吸収部(20)、ベース部(30)の発泡倍率の変更といったことで対応可能であるため、成形型の変更が不要であり、型変更に伴う費用を伴わずに対応可能となる。
【0029】
一方、従来の単体の発泡体から成る衝撃吸収構造体による圧縮量-荷重曲線は図7に掲載のようになる。図7に掲載のAは低発泡度(高硬度)の発泡成形体の圧縮-荷重曲線である。この形態では、初期衝撃に対して変位S4(S4<S2)で反力F3(F2<F3)に達し、その後、圧縮量に対して荷重を緩やかに増加させ、変位S3(S3<S1)に達した際に反力がF1に達し、底付きとなる。ここで、図6に掲載の本発明における衝撃吸収量と、従来実施例Aにおける衝撃吸収量を比較して明らかなように、本発明は従来実施例Aに対して優れた衝撃吸収性能を有することがわかる。ここで従来実施例Aにおいて、性能を調整するためにはリブの設定や寸法の再検討が挙げられるが、これには費用や時間を要するため好ましくない。この性能調整の点においても、本発明の形態であれば、発泡倍率の変更等で対応可能であるため、優れている。
【0030】
図7に掲載のBは高発泡度(低硬度)の発泡成形体の圧縮-荷重曲線である。この形態では、衝突後に圧縮量に対して荷重を緩やかに増加させるが、圧縮量S1に達するまでに荷重はF1に達しないため、ストロークSに対して効果的に衝撃吸収することが出来ない。これでは、限られた圧縮量で効果的に衝撃吸収しているとは言えない。また、従来実施例Bの衝撃吸収量と本発明の衝撃吸収量を比較して明らかなように、本発明は従来実施例Bに対して優れた衝撃吸収性能を有することがわかる。ここで従来実施例Bにおいても、性能を調整するためにはリブの設定や寸法の再検討が挙げられるが、これには費用や時間を要するため好ましくない。この性能調整の点においても、本発明の形態であれば、発泡倍率の変更等で対応可能であるため、優れている。
【符号の説明】
【0031】
10:衝撃吸収構造体
20:衝撃吸収部
21:取付部
22:突出部
23:開口
24:足載面
30:ベース部
31:受入部
32:取付孔
33:支持部
40:フロアパネル
50:トーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体パネルの室内側に設置され、乗員の足が載置される衝撃吸収構造体であって、
前記車体パネルに沿う形状を有する発泡体から成るベース部と、
前記ベース部とは別体の発泡体からなり、乗員の足を載置可能な部位となる足載部を有し、前記ベース部に対して相対的に荷重に対し容易に変形する衝撃吸収部とを備え、
前記ベース部と前記衝撃吸収部とを嵌合することで構成されることを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
前記ベース部は前記車体パネルの室内側に凹部を有し、
前記衝撃吸収部は前記凹部内に嵌合される取付部を有することを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項3】
前記ベース部と前記衝撃吸収部は同じ材料、異なる発泡倍率からなり、
前記前記ベース部は前記衝撃吸収部に対して相対的に軟質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項4】
前記衝撃吸収部には圧縮変形および破断の起点となる脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の衝撃吸収構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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