説明

衝撃吸収装具

【課題】高齢者のリハビリテーションや日常生活で発生する尻餅等によって発生する脊椎椎体圧迫骨折を適正に回避できる衝撃吸収装具を提供する。
【解決手段】人体の腰部から臀部を被覆する伸縮生地でなる帯状の支持体2と、支持体2に支持された衝撃吸収パッドPと、支持体2に設けられ、支持体2の腰部への巻付け状態を腹部側で保持する保持部4とを備え、衝撃吸収パッドPが、支持体2のうち尾骨から坐骨結節を覆う領域に支持され、少なくとも当該領域を上下に分割した複数の臀部パッド5,6で構成されるとともに、複数の臀部パッド5,6が人体の臀部に沿うように支持体2に絞り部21が設けられ、脊椎椎体圧迫骨折を防止するために使用される巻付け型の衝撃吸収装具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の腰部から臀部を被覆する伸縮生地でなる帯状の支持体と、前記支持体に支持された衝撃吸収パッドと、前記支持体の両端部に設けられ、前記支持体の腰部への巻付け状態を腹部側で保持する保持部とを備えている巻付け型の衝撃吸収装具に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の骨折の多くは、骨強度の低下が原因となり、軽微な外力によって発生する脆弱性骨折であり、大腿骨頚部、脊椎、上腕骨頚部、橈骨遠位端、骨盤、肋骨等が主な骨折部位となる。そして、無症候性の椎体変形が多い脊椎骨折を除いて、その殆どが転倒等による臨床骨折である。
【0003】
大腿骨頚部骨折は、加齢に伴って指数関数的に増加する傾向が見られ、高齢者の骨折のうち生命予後及び機能予後が最も不良な骨折である。安静によって健常な上肢や骨折していない下肢までもが弱くなり、動けなくなることで肺炎や床ずれなどの合併症も起こり易くなる。
【0004】
そのため、特許文献1には、大腿骨の骨折を予防する巻付け型の骨折予防装具が提案されている。図5に示すように、当該骨折予防装具10は、腰部に巻き付けられる腰部ベルト12と、該腰部ベルト12から垂下し、装着したときに内部に収納した衝撃吸収部材が大腿骨に相当する部位に当接する衝撃吸収部20と、該衝撃吸収部20を人体に密着させるための固定ベルト40a,40bとを有し、腰部ベルト12を腰に巻き付けその両端を固定し、固定ベルト40a,40bにより衝撃吸収部20を人体に密着させるように装着される。
【0005】
また、特許文献2には、上述した骨折予防装具が、衝撃吸収部を所望の位置に長時間保持する上で信頼性に欠けるという問題点、衝撃吸収部が歩行の邪魔になるという問題点を解消するための巻付け型の骨折予防用保護帯が提案されている。
【0006】
図6に示すように、当該骨折予防用保護帯は、大転子より臀部に至る部分を覆うように連続して形成した本体1と、本体1の大転子を覆う位置に設けた大転子パッド8,9と、本体1の後部に設けた臀部パッド13と、本体1の上部に取り付けた着脱手段17,18とを備え、本体1は周方向において腸骨の左右上前腸骨棘より後方に延び臀部までを覆い、上下方向において胴囲より大腿臀溝までを覆い、前面は開放されている。
【0007】
尚、図5,6に付された符号は先行技術文献で付された符号をそのまま用いており、後述する本発明の実施形態で示す符号とは対応するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−95827号公報
【特許文献2】特開2003−116896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
大腿骨頚部骨折の治療後を含め、何らかの疾患によって、高齢者が例えば1週間ベッドで安静を保つと、元のように動けるまでに多大な努力が必要となる。そのため、できるだけ早く離床して、歩行訓練等のリハビリテーションを開始する必要がある。
【0010】
しかし、歩行訓練等の最中に転倒すると、同様の臨床骨折を惹き起こす虞があるという不安感を持つ患者は、容易に且つ積極的にリハビリテーションを開始することができず、また、リハビリテーションの際にインストラクタが常に患者に付き添う場合には、インストラクタの労力も多大になるという問題もあった。
【0011】
そこで、患者がリハビリテーションを行なう際に、上述の骨折予防装具や骨折予防用保護帯を装着することが考えられる。これらは、下着型と比べて装脱が容易な巻付け型である点で優れている。
【0012】
しかし、上述の骨折予防装具を装着する場合には、臀部パッドを備えていないため、患者が尻餅をついたときに臀部に衝撃が加わり脊椎椎体圧迫骨折、特に腰椎圧迫骨折を誘起する虞があった。
【0013】
また、上述の骨折予防用保護帯を装着する場合には、患者が尻餅をついたときに、本体に設けた臀部パッドで臀部に加わる衝撃が吸収されることが期待されるが、臀部パッドが補助ベルトから暖簾のように垂下した平面状の本体に沿って配置された大きな一枚ものの臀部パッドであるため、常に安定して臀部に当接する保証がなく、装着した状態で捲れ易いという問題があった。
【0014】
また、患者の姿勢が立位から座位に急激に変わる場合等に、臀部パッドの下端が床面に当接すると、臀部パッドが臀部表面に沿って逃げて、患者の坐骨結節が直接に床面に打ち付けられる虞もあり、脊椎椎体圧迫骨折を誘起する虞を確実に解消できるものではなかった。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、高齢者のリハビリテーションや日常生活で発生する尻餅等によって発生する脊椎椎体圧迫骨折を適正に回避できる衝撃吸収装具を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明による衝撃吸収装具の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、人体の腰部から臀部を被覆する伸縮生地でなる帯状の支持体と、前記支持体に支持された衝撃吸収パッドと、前記支持体に設けられ、前記支持体の腰部への巻付け状態を腹部側で保持する保持部とを備えている巻付け型の衝撃吸収装具であって、前記衝撃吸収パッドが、前記支持体のうち尾骨から坐骨結節を覆う領域に支持され、少なくとも当該領域を上下に分割した複数の臀部パッドで構成されるとともに、複数の臀部パッドが人体の臀部に沿うように前記支持体に絞り部が設けられている点にある。
【0017】
伸縮生地でなる帯状の支持体が、人体の腰部から臀部を被覆するように巻き付けられ、その状態が保持部により腹部側で保持される。この状態で支持体の臀部側に支持された臀部パッドが尾骨から坐骨結節を覆う領域に密に当接する。尻餅をついても臀部へ作用する衝撃が衝撃吸収パッドである臀部パッドによって弱められ、脊椎椎体圧迫骨折に到るような衝撃が直接人体に加わるような事態が回避される。
【0018】
臀部パッドは、上下分割した複数の臀部パッドで構成され、支持体に設けた絞り部によって複数の臀部パッドが人体の臀部に沿うように配置されているため、立位、座位何れの姿勢をとっても、また、何れの姿勢に変化する場合であっても常に臀部に沿うようになる。例えば、立位から座位に姿勢変更する際でも、上下の臀部パッドの境界で容易に折れ曲がり、各面が安定的に臀部に相対するようになり、装着時の違和感が低減されるばかりでなく、臀部パッドが保護領域である尾骨から坐骨結節を覆う領域からずれることが無い。
【0019】
これに対して、一枚の大きな臀部パッドであれば、立位から座位に姿勢変更する際に、臀部パッドが柔軟に屈曲せずに展開方向に作用する反力によって違和感が生じたり、平坦な臀部パッドの下端が椅子や床に当接して上方にずれ、或は捲れ上がるような不都合が頻繁に発生する。そのため、尻餅をつくような場合にも同様の現象が生じて、適切に尾骨や坐骨結節に加わる衝撃を吸収できなくなる虞がある。
【0020】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記支持体の端部側に向けて下縁が上縁に次第に傾斜する傾斜部が設けられ、当該傾斜部を介して中央部より幅狭に形成された前記支持体の両端部に前記保持部が連設され、前記支持体の腰部への巻付け状態で、前記傾斜部により上前腸骨棘または下前腸骨棘の何れかの前部が被覆されるように構成され、脊椎椎体圧迫骨折を防止するために使用される点にある。
【0021】
上述の構成によれば、支持体を腰部へ巻き付けて保持部で保持された状態で、支持体の下縁側が傾斜部を介して保持部に引っ張られるように張力が作用するため、臀部パッドが体の外側に捲れ上がるようなことが無くなり、安定した保護姿勢を維持できる。
【0022】
また、骨盤には大腿や体幹の筋肉がついた突起部がいくつかあり、上前腸骨棘には縫工筋と大腿筋膜張筋が付着し、下前腸骨棘には大腿直筋が付着している。縫工筋は、股関節の屈曲・外転・外旋や膝関節の屈曲・内旋を行ない、大腿筋膜張筋・大腿直筋は、股関節の屈曲、膝関節の伸展を行なう筋肉で、何れも歩行に重要な筋肉となる。腰部の側方から前部が支持体の傾斜部により覆われると、上前腸骨棘または下前腸骨棘の何れかの前部側が被覆され、股関節がしっかりと締付け支持されるようになり、筋力が衰えた高齢者であっても歩行し易くなり、また、装着者に安心感を醸し出すことができるようになる。
【0023】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記支持体のうち左右の大転子を覆う領域であって、前記臀部パッドの両側方領域に、大転子パッドが前記衝撃吸収パッドとしてさらに支持され、前記支持体の両端部の上下方向幅が前記支持体の上縁から前記大転子パッドの上縁より下方側に及ぶ幅に形成され、前記保持部により前記支持体の端部同士が保持可能に構成されている点にある。
【0024】
臀部パッドの両側方領域で大転子を覆う領域に大転子パッドを備えることにより、転倒時の衝撃等による大腿骨頚部の骨折を効果的に予防できるようになる。そして、支持体の端部の上下方向幅が、支持体の上縁から大転子パッドの上縁より下方側に及ぶ幅に設定されているので、保持部により支持体の端部同士が保持された状態で、体表面に向く付勢力が大転子パッドに作用して大転子パッドが体に密接するため、歩行時のみならず転倒時であっても大転子パッドの位置ずれや体の外側への捲れ上がりを効果的に回避できる。
【0025】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記支持体の上縁と前記衝撃吸収パッドとの間に所定サイズの間隙部が形成され、当該間隙部に前記支持体を臀部に立体的に当接させる絞り部が設けられている点にある。
【0026】
帯状の支持体が平坦な伸縮生地であると、体の凹凸に関わらず密接可能になるが、部位により張力が大きく変化して着用感が悪く、衝撃吸収パッドに対する違和感も大きくなる。しかし、支持体の上縁と衝撃吸収パッドとの間に、絞り部を設けた所定サイズの間隙部を形成することにより、比較的小径の腰部から大径の臀部まで支持体を立体的に当接させた状態で比較的均等な張力で安定して巻き付けることができ、良好な着用感を得ることができる。また、着用者の姿勢の変更に伴ない、支持体の間隙部が衝撃吸収パッドの上下方向への多少の移動を許容する遊び領域として機能し、一層良好な装着感を得ることができるようになる。
【0027】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記臀部パッドが上下に分割された二枚の臀部パッドで構成され、上方の臀部パッドの上下幅が下方の臀部パッドの上下幅よりも長くなるように設定されている点にある。
【0028】
臀部から大腿部に繋がる臀溝部で大きく体表面の曲率が変化するが、下方の臀部パッドの上下幅が上方の臀部パッドの上下幅よりも短く設定されているので、下方の臀部パッドが当該曲率の変化する部位に当接されるようになる。立位から座位に姿勢変更する場合であっても、上方の臀部パッドと下方の臀部パッドの間が容易に折れ曲がり、下方の臀部パッドが体表面に沿って床との間に位置するようになる。従って、尻餅をつくような場合であっても、臀部パッドが体表面に沿って逃げることなく、上方の臀部パッドで主に尾骨周囲が保護され、下方の臀部パッドで主に坐骨結節が保護されるようになる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した通り、本発明によれば、高齢者のリハビリテーションや日常生活で発生する尻餅等によって発生する脊椎椎体圧迫骨折を適正に回避できる衝撃吸収装具を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による衝撃吸収装具の斜視図
【図2】本発明による衝撃吸収装具のパーツの説明図
【図3】本発明による衝撃吸収装具の装着状態の説明図であり、(a)は正面視の説明図、(b)は左側面視の説明図、(c)は背面視の説明図
【図4】本発明による衝撃吸収装具に備えた衝撃吸収パッドと骨盤付近の骨格との相対位置を示す説明図であり、(a)は正面視の説明図、(b)は背面視の説明図
【図5】従来の骨折予防装具の説明図
【図6】従来の骨折予防用保護帯の説明図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明による巻付け型の衝撃吸収装具を説明する。衝撃吸収装具は主に高齢者に装着され、リハビリテーションを行なうときや日常生活で尻餅をついたり転倒したりする際に、人体に加わる衝撃を吸収して、主に脊椎椎体圧迫骨折を防止するために使用される。
【0032】
図1に示すように、衝撃吸収装具1は、人体の腰部から臀部を被覆する伸縮生地でなる帯状の支持体2と、支持体2の上縁2cに縫着された弾性を有する補強ベルト3と、支持体2に支持された複数の衝撃吸収パッドPと、支持体2の両端部2a,2bに設けられ、支持体2の腰部への巻付け状態を腹部側で保持する保持部4とを備えている。
【0033】
衝撃吸収パッドPには、支持体2のうち尾骨から坐骨結節を覆う領域に支持され、当該領域を上下に分割した上方の臀部パッド5と下方の臀部パッド6、及び、支持体2のうち左右の大転子を覆う領域であって、上方の臀部パッド5の両側方領域に支持された大転子パッド7,8が含まれる。各衝撃吸収パッドPは、支持体2に支持体2と同様の伸縮生地で被覆されて、挟み込まれるように縫着されているが、支持体2に形成された開口を備えたポケットに衝撃吸収パッドPが挿入離脱自在に収容されるように構成してもよい。
【0034】
上下に分割された二枚の臀部パッド5,6のうち、上方の臀部パッド5の上下幅が下方の臀部パッド6の上下幅よりも長くなるように設定されている。尚、臀部パッドは、上下に二分割された構成に限らず、それ以上に分割されていてもよいが、上方の臀部パッドの上下幅が下方の臀部パッドの上下幅よりも長くなるように設定されていることが好ましい。
【0035】
支持体2を構成する伸縮生地は、強度やバックストレッチ性、通気性などの観点からパワーネットのような弾性糸混紡編物を好適に採用することができ、支持体2は経編機を用いた立体編物により一枚の生地で形成し、或は、適当な大きさに裁断した平坦な経編地でなるパーツを縫製や接着によりつなぎ合わせて形成することができる。肌触りを良好にするために、伸縮性を示すパイル地等を用いることも可能である。伸縮生地であればよく、その素材や製法が制限されるものではない。
【0036】
図2には、衝撃吸収装具1を構成するパーツが示されている。人体の背面に位置する背面支持部25と、左右の側面から正面に位置する側面支持部26,27とから支持体2が構成され、補強ベルト3、面ファスナーが縫着された左右の保持部4の各部品で、衝撃吸収装具1が構成される。
【0037】
背面支持部25には臀部パッド5,6が支持され、側面支持部26,27には大転子パッド7,8が支持されている。側面支持部26,27のうち背面支持部25との縫着部の上下位置には斜めにカットされた切断部d1,d2を備え、背面支持部25の上部には斜めにカットされた切断部d3を備えている。
【0038】
背面支持部25の両側で側面支持部26,27がそれぞれ縫着されることによってダーツが形成され、腰部から臀部にかけて丸みを持った立体形状が得られる。切断部d1と切断部d3の縫着部のダーツによって後述の絞り部23が形成され、断部d2と側面支持部26,27の下部との縫着部のダーツによって後述の絞り部21が形成されている。
【0039】
衝撃吸収パッドPは、シリコーンゲル等のゲル状材料、ポリウレタン樹脂を組成とした連通気泡の発泡体などの低反発フォーム材料、超低硬度ゴム材料等の材料を用いて、適当なサイズ及び厚みに形成されている。
【0040】
高齢者の転倒による骨折は、加齢に伴う骨強度の低下が原因であるが、骨の軟部組織による外力減衰能により衝撃が緩和される場合もあり、転倒の全てが骨折に直結するのではない。例えば、大転子部の軟部組織は外力の75%まで吸収するといわれている。衝撃吸収パッドPは、骨の軟部組織による外力減衰能をサポートすることにより骨折を回避するためのものである。
【0041】
例えば、体重50kgの女性が歩行状態から転倒した場合の衝撃加重は約640kgfとなる。論文「大腿骨頚部骨折とヒッププロテクターの予防効果」奥泉宏康等,老齢医学34(12)1668−1670,1999によれば、予防のための骨折強度は240kgf前後であると推定されているため、衝撃加重の70%程度の衝撃吸収率を示す素材を選択すればよい。
【0042】
本実施形態では、低反発フォーム材料が採用され、上方の臀部パッド5が横250mm×縦150mm、下方の臀部パッド6が横250mm×縦80mm、大転子パッド7,8が横150mm×縦150mmのサイズで、それぞれ厚みが10mm〜20mmの範囲に設定されている。各パッドのサイズはこれに限るものではなく、使用者の体形に合わせて適宜設定すればよい。
【0043】
支持体2の両端部2a,2bに連設された左右の保持部4には、一方の面に配列された複数の細かい鉤状の突起と、対向する他方の面に配列された複数の細かい輪が、お互いに係合し、離脱することで留め具となる面ファスナーが設けられている。尚、面ファスナーの具体的な構造は特に制限されるものではなく、鉤状の突起以外に粒状の突起やキノコ状の突起等様々な形態のものが選択可能である。
【0044】
支持体2を腰部から臀部にかけて巻き付けて、腹部側で面ファスナーを上下に重畳させることにより、人体の腰部から臀部を被覆した状態が保持される。
【0045】
図3には、衝撃吸収装具1が人体に装着された状態が示され、図3(a)には正面視の状態、図3(b)には側面視の状態、図3(c)には背面視の状態が示されている。
【0046】
図3(a)に示すように、支持体2の端部側に向けて下縁2dが上縁2cに次第に傾斜する傾斜部20が設けられ、当該傾斜部20を介して中央部より幅狭に形成された両端部2a,2bに保持部4が連設されている。支持体2の腰部への巻付け状態で、傾斜部20により上前腸骨棘または下前腸骨棘の何れかの前部が被覆されている。上前腸骨棘及び下前腸骨棘の前部が被覆されていることが好ましい。
【0047】
図3(b)に示すように、支持体2の両端部2a,2bが上縁2cから大転子パッド7,8の上縁7c,8cより下方側に及ぶ上下方向幅Wに形成され、同じ上下方向幅Wの保持部4により支持体2の端部2a,2b同士が保持されている。
【0048】
図3(c)に示すように、複数の臀部パッド5,6が人体の臀部に沿うように支持体2に絞り部21が設けられている。さらに、支持体2の上縁2cと衝撃吸収パッド5,7,8との間に所定サイズの間隙部22が形成され、当該間隙部22に支持体2を臀部に立体的に当接させる絞り部23が設けられている。
【0049】
支持体2が平坦な伸縮生地であると、体の凹凸に関わらず体表面に密接可能になるが、その部位により張力が大きく変化して着用感が悪く、衝撃吸収パッドに対する違和感も大きくなる。しかし、支持体2の上縁2cと衝撃吸収パッドとの間に、絞り部23を設けた所定サイズの間隙部22を形成することにより、比較的小径の腰部から大径の臀部まで支持体を体表面に沿って立体的に当接させた状態を実現しながらも、比較的均等な張力で安定して巻き付けることができ、良好な着用感を得ることができる。また、着用者の姿勢の変更に伴ない、支持体2の間隙部22が衝撃吸収パッドの上下方向への多少の移動を許容する遊び領域として機能し、一層良好な装着感を得ることができるようになる。
【0050】
図4(a)には、正面視で装着者の骨盤付近の骨格と衝撃吸収装具1に備えた衝撃吸収パッドとの相対位置が示され、図4(b)には背面視で、装着者の骨盤付近の骨格と衝撃吸収装具1に備えた衝撃吸収パッドとの相対位置が示されている。
【0051】
図4(a)に示すように、補強ベルト3が腸骨11の上縁部辺りに位置するように、人体に衝撃吸収装具1を装着した状態で、大転子10の側方から前後にかけた領域が大転子パッド7,8で覆われている。転倒等によって大転子10に加わる衝撃が大転子パッド7,8で吸収されることにより、大腿骨頚部の骨折が回避される。
【0052】
支持体2の下縁側2dが傾斜部20を介して保持部4に引っ張られるように張力が作用するため、大転子パッド7,8や臀部パッドが体の外側に捲れ上がるようなことが無くなり、安定した保護姿勢を維持できる。
【0053】
また、傾斜部20により上前腸骨棘12及び下前腸骨棘13の前部が被覆されているため、股関節がしっかりと締付け支持されるようになり、上前腸骨棘12に付着した縫工筋と大腿筋膜張筋、下前腸骨棘13に付着した大腿直筋が、傾斜部20を含む支持体2でサポートされていることと相俟って、筋力が衰えた高齢者であっても歩行し易くなり、また、装着者に安心感を醸し出すことができるようになる。
【0054】
さらに、支持体2の端部の上下方向幅(図3(b)のWを参照)が、支持体2の上縁2cから大転子パッド7,8の上縁より下方側に及ぶ幅に設定されているので、保持部4により支持体2の端部同士が保持された状態で、体表面に向く付勢力が大転子パッド7,8に作用して大転子パッド7,8が体に密接するため、歩行時のみならず転倒時であっても大転子パッド7,8の位置ずれや体の外側への捲れ上がりを効果的に回避できる。
【0055】
図4(b)に示すように、尾骨14から坐骨結節15を覆う上下方向領域、及び、坐骨から腸骨に及ぶ左右方向領域が臀部パッド5,6で覆われている。上下分割した二枚の臀部パッド5,6が、支持体2に設けた絞り部21によって臀部に沿うように配置されており、立位、座位何れの姿勢をとっても、また、何れの姿勢に変化する場合であっても常に臀部に沿うようになる。
【0056】
下方の臀部パッド6の上下幅が上方の臀部パッド5の上下幅よりも短く設定され、体表面の曲率が大きく変化する臀部から大腿部に繋がる臀溝部辺りに下方の臀部パッド6が当接し、立位から座位に姿勢変更され、或は尻餅をつく場合であっても、上方の臀部パッドと下方の臀部パッドの間が容易に折れ曲がり、下方の臀部パッドが体表面に沿って床との間に位置するようになる。つまり、臀部パッド6は、座位で床面側から坐骨結節15を覆うように配置されている。
【0057】
従って、臀部パッドが体表面に沿って逃げることなく、上方の臀部パッド5で主に尾骨14周囲が保護され、下方の臀部パッド6で主に坐骨結節15が保護されるようになるので、脊椎椎体、特に腰椎の圧迫骨折が効果的に防止できるようになる。
【0058】
上方の臀部パッド5と下方の臀部パッド6に分離した二片の臀部パッドを備えた本発明による衝撃吸収装具1と、上方の臀部パッド5と下方の臀部パッド6を一体化した一枚ものの臀部パッドを備えた比較用の衝撃吸収装具のそれぞれを、十数名の被験者が試着して着心地等の官能試験を行なった結果、装着感、歩行等の動きやすさ、立位と座位との間の姿勢変更の容易さのそれぞれの観点で、本発明による衝撃吸収装具1が比較用の衝撃吸収装具よりも良好であるとの結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明による巻付け型の衝撃吸収装具は、男女を問わず、高齢者のリハビリテーションや日常生活で、尻餅等の転倒によって発生する虞のある脊椎椎体や大腿骨頚部の臨床骨折を回避するために用いられる。
【符号の説明】
【0060】
1:衝撃吸収装具
2:支持部
2a:支持部の端部
2b:支持部の端部
2c:支持部の上縁
2d:支持部の下縁
3:補強ベルト
4:保持部
5,P:上方の臀部パッド(衝撃吸収パッド)
6,P:下方の臀部パッド(衝撃吸収パッド)
7,8,P:大転子パッド(衝撃吸収パッド)
20:傾斜部
21,23:絞り部(ダーツ)
22:間隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の腰部から臀部を被覆する伸縮生地でなる帯状の支持体と、前記支持体に支持された衝撃吸収パッドと、前記支持体に設けられ、前記支持体の腰部への巻付け状態を腹部側で保持する保持部とを備えている巻付け型の衝撃吸収装具であって、
前記衝撃吸収パッドが、前記支持体のうち尾骨から坐骨結節を覆う領域に支持され、少なくとも当該領域を上下に分割した複数の臀部パッドで構成されるとともに、複数の臀部パッドが人体の臀部に沿うように前記支持体に絞り部が設けられている衝撃吸収装具。
【請求項2】
前記支持体の端部側に向けて下縁が上縁に次第に傾斜する傾斜部が設けられ、当該傾斜部を介して中央部より幅狭に形成された前記支持体の両端部に前記保持部が連設され、前記支持体の腰部への巻付け状態で、前記傾斜部により上前腸骨棘または下前腸骨棘の何れかの前部が被覆されるように構成されている、脊椎椎体圧迫骨折を防止するために使用される請求項1記載の衝撃吸収装具。
【請求項3】
前記支持体のうち左右の大転子を覆う領域であって、前記臀部パッドの両側方領域に、大転子パッドが前記衝撃吸収パッドとしてさらに支持され、
前記支持体の両端部の上下方向幅が前記支持体の上縁から前記大転子パッドの上縁より下方側に及ぶ幅に形成され、前記保持部により前記支持体の端部同士が保持可能に構成されている請求項1または2記載の衝撃吸収装具。
【請求項4】
前記支持体の上縁と前記衝撃吸収パッドとの間に所定サイズの間隙部が形成され、当該間隙部に前記支持体を臀部に立体的に当接させる絞り部が設けられている請求項1から3の何れかに記載の衝撃吸収装具。
【請求項5】
前記臀部パッドが上下に分割された二枚の臀部パッドで構成され、上方の臀部パッドの上下幅が下方の臀部パッドの上下幅よりも長くなるように設定されている請求項1から4の何れかに記載の衝撃吸収装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−95878(P2012−95878A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247075(P2010−247075)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】