説明

衣類装着用衝撃吸収パッドおよびそれを装着した衣類

【課題】骨粗鬆症患者の骨折防護用、スポーツ競技者の身体保護用、要介護患者の怪我防止用として、十分な衝撃吸収性、軽量、高通気性、好着用感、フィット性、洗濯性等を同時に満たす衝撃吸収パッドとそれを装着した衣類の提供。
【解決手段】表裏二層の編地とモノフィラメントの連結糸から構成された立体編物からなり、(1)式の連結糸の曲げ剛性係数Bが0.002以上0.03以下、少なくとも片面の編地表面のモノフィラメント現出面積Aと片面の編地を形成する繊維の現出面積Bの比が0≦A/B≦2.0、14.7N/5cm幅当の縦方向及び/又は横方向の伸長率が5%以上150%以下、かつ連結糸の一部が編始め方向から見て、クロス構造、筋交構造、トラス構造の内何れかの形態である衣類装着用衝撃吸収パッド。 曲げ剛性係数B=D4×CO×WA×2/T (1) D:連結糸の直径(mm)、T:立体編物の厚み(mm)、CO:連結糸のコース数(本/2.54cm)、WA:連結糸のウエール数(本/2.54cm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類装着用衝撃吸収パッドおよびそれを装着した衣類に関し、さらに詳しくは、衝撃吸収性に優れ、軽量かつ高通気性で、衣類に装着した場合、ゴワゴワしたり、網目の凹凸感やチクチクする違和感がなく、良好に身体にフィットし、スポーツ競技用や介護用のサポーター、プロテクター等に有効に用いることのできる衣類装着用衝撃吸収パッドおよびそれを装着した衣類に関する。特に、下着等の衣類の適切な部位に装着することにより、骨粗鬆症患者等が転倒した際の骨折を未然に防止するための骨折防護用衝撃吸収材として、優れた衝撃吸収性を有し、蒸れ難く、良好な着用感を有し、又、洗濯性が良好で、衛生的に使用することができる衣類用衝撃吸収パッド、及びそれを装着した場合の着用感に優れた、パンツ等の衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老年者の間には骨粗鬆症により骨強度が低下し、転倒による骨折、特に大腿骨頚部骨折が増加している傾向がみられる。こうした骨折を未然に防止するための骨折防護用衣類として、特許文献1には、衝撃吸収性に優れ、軽量、柔軟なアクリル系共重合発泡体を、衝撃吸収パッドとして装着した衣類が知られている。しかしながら、特許文献1の衝撃吸収パッドは通気性がないため、長時間使用すると蒸れて不快になり易い。又、衝撃吸収するために一定以上の厚みが必要となるが、素材の伸びが不十分であるため、身体にフィットし難く、ゴワゴワした着用感や、運動追従性が改善されていないものであった。
【0003】
又、特許文献2には、衝撃吸収パッドに熱可塑性弾性樹脂からなる立体網状構造体を用いることにより、着用時の蒸れを防止した装着用衝撃吸収パッドが開示されている。しかしながら、特許文献2の衝撃吸収パッドは、立体網状構造体表面の凹凸が激しいため、身体に密着して使用する際に、凹凸による違和感を感じ易く、又、素材の伸びが不十分であるため、身体にフィットし難く、ゴワゴワした着用感が改善されていないものであった。
【0004】
又、従来より、表裏二層の編地とこれらをモノフィラメントで連結した立体編物は、優れた通気性、クッション性、及び衝撃吸収性を有することから、サポーターやプロテクター用途に広く応用されている。特許文献3には表裏のメッシュ組織を30デニール以上の連結糸により連結した立体編物からなり、空隙指数を適正値とすることにより、通気性が良好でクッション性、衝撃吸収性に優れ、又、三次元的に自在に変形できるため、収納時に嵩張らない緩衝材が記載されている。しかしながら、特許文献3の緩衝材は、立体編物表面のカバーファクター、及び編地表面へのモノフィラメントの現出面積が考慮されていないため、メッシュ網目の凹凸や飛び出したモノフィラメントにより、チクチクする違和感が生じ易く、身体に密着させて使用する際の着用感が不十分であった。又、立体編物の伸び、及び圧縮硬さの設計が適正でないため、十分な衝撃吸収性とゴワゴワしないフィット性に関して満足のいくものではなかった。
【0005】
又、特許文献4には、2本の連結糸が互いに斜めに逆方向に表裏の編目を連結した構造をとり、連結糸の総断面積を規定することにより適度な嵩高性と反発性を有しながら、通気性能を向上した立体編物からなる充填材が開示され、又、特許文献5には連結糸にポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いることにより、適度な弾性回復性、フィット性、形状追従性を持ち、人体に接する用途に用いる場合に最適とされる立体編物が開示されている。しかしながら、これらの立体編物は、いずれも衝撃吸収に対する編設計が十分考慮されておらず、又、編地表面へのモノフィラメントの現出面積やカバーファクターが考慮されていないため、肌に密着して使用する衝撃吸収パッドとしては、メッシュ編目の凹凸感や、モノフィラメントによるチクチクする違和感が十分改善されていないものであった。
【特許文献1】特開平9−268409号公報
【特許文献2】特開2004−149959号公報
【特許文献3】実開平1−149487号公報
【特許文献4】特開平02−74648号公報
【特許文献5】特開平11−269747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前記問題点を解決し、骨粗鬆症患者の転倒による骨折防護用やスポーツ競技者の身体保護用、要介護患者の転倒等による怪我防止用等として、1)十分な衝撃吸収性、2)軽量、3)高い通気性、4)凹凸感やチクチクする違和感が少ない着用感、5)ゴワゴワしないフィット性、6)洗濯性を同時に満足する衝撃吸収パッド、及びそれを装着した衣類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため、立体編物の構造設計及び物性を鋭意研究した結果、立体編物の表面のカバーファクター、厚みとモノフィラメントの直径・密度の関係、立体編物の伸度、モノフィラメントの表面への飛び出し状態を特殊形態とし、該立体編物を衝撃吸収パッドとしてパンツ等の衣類に装着することが最も効果的であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本願で特許請求される発明は以下の通りである。
(1)表裏二層の編地とこれらを連結するモノフィラメントの連結糸によって構成された立体編物であって、下記(1)式で示される連結糸の曲げ剛性係数Bが0.002以上、0.03以下、少なくとも片面の編地表面のモノフィラメント現出面積Aと片面の編地を形成する繊維の現出面積Bの比が0≦A/B≦2.0、14.7N/5cm幅当たりのタテ方向及び/又はヨコ方向の伸長率が5%以上、150%以下、かつ連結糸の一部が編み始め方向から見て、クロス構造、筋交構造およびトラス構造のうち何れかの形態である立体編物からなることを特徴とする衣類装着用衝撃吸収パッド。
曲げ剛性係数B=D×CO×WA×2/T ・・・(1)
但し、D:連結糸の直径(mm)、T:立体編物の厚み(mm)、CO:連結糸のコース数(本/2.54cm)、WA:連結糸のウエール数(本/2.54cm)
(2)下記(2)式で示される立体編物の少なくとも片面の編地の総カバーファクター(TCF)が500以上、1300以下であることを特徴とする(1)記載の衣類装着用衝撃吸収パッド。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)
+ウェールカバーファクター(WCF)・・・(2)
但し、
コースカバーファクター(CCF)=(立体編物のコース数;本/2.54cm)
×(片面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(立体編物のウェール数;本/2.54cm)
×(片面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
(3)立体編物の厚みが3mm以上、25mm以下、重量が250g/m以上1800g/m以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の衣類装着用衝撃吸収パッド。
(4)立体編物が2層以上積層されており、少なくとも1層の立体編物が(1)〜(3)のいずれかに記載の立体編物であることを特徴とする衣類装着用衝撃吸収パッド。
(5)立体編物の周囲の端部が縁部カバー材で覆われていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の衣類装着用衝撃吸収パッド。
(6)衣類の腰回りにおける前身頃、脇部、後身頃および臀部のいずれかの部位に、(1)〜(5)のいずれかに記載の衣類装着用衝撃吸収パッドを取り付けてなることを特徴とする衣類。
(7)前記衣類装着用衝撃吸収パッドが前記部位に着脱自在に取り付けされていることを特徴とする(6)記載の衣類。
(8)衣類がパンツである(6)または(7)に記載の衣類。
【発明の効果】
【0009】
本発明による衝撃吸収パッドは、下着等の衣類の適切な部位に装着して用いることにより、衝撃吸収性に優れ、軽量で蒸れ感のない、良好な着用感の衣類が得られる。特に、肌に密着する様に衝撃吸収パッドを衣類に装着した場合、ゴワゴワせずに身体の形状に立体編物が容易に追従し、かつ、網目の凹凸感や編地表面へのモノフィラメントの飛び出しによりチクチクする違和感がなく、優れた着用感を有するものとなる。又、洗濯性が良好で、乾きやすく、衛生的に使用することができる衣類用衝撃吸収パッド及び衣類となる。
【0010】
さらには、本発明の衝撃吸収パッドを装着した衣類を骨粗鬆症患者が着用する場合、就寝時にもパットを外さなくても快適であるため、夜間のトイレ時等の着用率が大幅に改善され、夜間転倒等の骨折予防効果に優れた衣類となる。さらに別の態様として、骨粗鬆症患者の転倒防止トレーニングや筋力強化トレーニング時等に有効に使用できる衣類となる。
【0011】
又、本発明の衣類は、ゴワゴワせずに身体の形状に追従してフィットするため、着用し易く、特に、介護者が非介護者にパンツを履かせる際の手間・負担が軽減されるものとなる。さらに衝撃吸収パッドを脱着自在にすることにより、この効果がさらに高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でいう立体編物とは、表裏2層の編地をモノフィラメントの連結糸で連結した、表層、連結層、裏層の少なくとも3層で形成される立体的な編地のことをいい、ダブルラッセル編機やダブル丸編機等、2列の針列を有する編機で形成される編地を指す。
【0013】
立体編物の連結糸に用いる繊維素材としては、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル系エラストマー繊維等、任意の合成繊維を用いることができるが、衝撃吸収性を付与するために連結糸にはモノフィラメントが用いられる。特に連結糸がポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントであると、立体編物の形態安定性がより向上し、長期使用による衝撃吸収性の低下の少ない立体編物となり好ましい。
【0014】
又、表裏の編地を形成する繊維素材としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維の任意の繊維を用いることができる。立体編物表面の肌触りをより良好にするには、表面の編地を構成する繊維に嵩高糸を用いることが好ましく、例えば、仮撚加工糸、ジェットスタッファー加工糸、押し込み加工糸、紡績糸、ループ状毛羽を有する流体噴射加工糸等、嵩高性が付与された糸が好ましい。又、綿、レーヨン等の吸湿性の高い繊維を用いると、蒸れ防止性を改善する上で好ましい。特に吸放湿性の高いキュプラレーヨンを用いると、蒸れ防止性がより良好となる。又、表裏の編地に用いる繊維は、柔らかい肌触りにするため、単糸繊度は1dex以上5dtex以下が好ましい。特に編機のゲージが粗く、太いモノフィラメントを使用する場合は、モノフィラメントの表面への飛び出しを十分被覆し、チクチク感のないソフトな肌触りにするため、前記単糸繊度が好ましい。
【0015】
本発明においては、立体編物の衝撃吸収性を十分なものとし、かつ着用時に硬くゴワゴワした着用感を防止するために、立体編物の厚みT(mm)、連結糸の直径D(mm)、連結糸のコース数CO(本/2.54cm)、およびウエール数WA(本/2.54cm)の関係である、下記(1)式で示される連結糸の曲げ剛性係数Bが0.002以上、0.03以下である立体編物でなければならない。
【0016】
曲げ剛性係数B=D×CO×WA×2/T ・・・(1)
ここで、曲げ剛性係数Bは、立体編物の剛性と衝撃吸収性に大きく関わる新たに発見した設計要因である。従来、立体編物の圧縮方向の硬さを設計する場合、単位面積当りの連結糸の本数と連結糸の繊度により設計するか、又は単位面積当りの連結糸の総断面積で設計するかによって立体編物の硬さが設計されていた。本発明者は、立体編物の連結糸の座屈現象に関してより詳細を検討した結果、立体編物の剛性と衝撃吸収性をより良好に設計するためには、曲げ剛性係数Bで示される連結糸の直径の4乗と厚みの2乗との関連で立体編物の連結糸構造を設計することが極めて重要であることを見出したものである。
【0017】
本曲げ剛性係数Bが0.002未満であると、立体編物の剛性が低すぎ、転倒等による力が加わった際の衝撃吸収性が低いものとなる。一方、曲げ剛性係数Bが0.03を超えると、剛性は高くなるものの衣類に装着して使用する際に硬くゴワゴワした着用感のものとなる。
【0018】
又、立体編物の衝撃吸収性を向上させ、かつ衝撃吸収性を長期に持続させるために、立体編物の連結糸の一部が、編み始め方向の断面から見て見掛け上、クロス構造、筋交構造、およびトラス構造の何れかの構造を形成していることが必要である。クロス構造とは、例えば図1に示すように表裏の編地1を連結する際に少なくとも2本の連結糸2が交差する状態、筋交構造とは、例えば図2に示すように表裏の編地1を略垂直に連結する2本の連結糸2の間で2本の連結糸が交差する状態、トラス構造とは、図3に示すように少なくとも2本の連結糸2と表裏の編地1が略三角形状を形成する状態のことをいう。
【0019】
連結糸のクロス構造、筋交構造、トラス構造は、1本の連結糸によって異なるコースにまたがって形成されていても良く、又、異なる2本以上の連結糸によって同一コース内、又は異なるコースにまたがって形成されていても良い。即ち、複数のコースの連結糸が編み始め方向の断面から見て、見掛け上、クロス構造、筋交構造、トラス構造をしていればよい。これらの構造を形成するために、表裏の編地を斜めに傾斜して連結する連結糸の本数は、全ての連結糸の5%以上、100%以下であることが好ましく、より好ましくは、10%以上、100以下である。連結糸の少なくとも一部がクロス構造、筋交構造、トラス構造であることにより、表裏の編地のせん断剛性が上がり、立体編物の衝撃吸収性が向上すると共に、衝撃吸収性の持続性も高いものとなる。
【0020】
本発明の衝撃吸収パッドは、立体編物が1枚で形成されていても良く、立体編物が複数枚積層されて形成されていても良いが、立体編物の枚数をできるだけ少なくして衝撃吸収性を高めるためには、曲げ剛性係数Bは、より好ましくは、0.005以上、0.03以下であり、更に好ましくは0.01以上、0.03以下である。尚、本発明でいう衝撃吸収パッドとは、衣類やサポーター、プロテクター等の衝撃吸収性能を必要とする部位(適宜な部位という)に部分的に取り付ける詰め物や当て物のことをいう。
【0021】
又、本発明の立体編物は身体に密着して使用する際に、立体編物表面へのモノフィラメントの飛び出しによりチクチクする違和感を防止するために、片面の編地表面のモノフィラメント現出面積Aと片面の編地を形成する繊維の現出面積Bの比は0≦A/B≦2.0であることが必要である。より好ましくは0≦A/B≦1.0、さらに好ましくは0≦A/B≦0.5で、0に近いほど良い。
【0022】
ここで、片面の編地表面のモノフィラメント現出面積Aと片面の編地を形成する繊維の現出面積Bの比とは、編地表面の単位面積中に見えるそれぞれの糸の面積比を意味し、立体編物において1cm角の編地表面の拡大写真(5〜50倍)を直角方向から撮影し、拡大写真中の編地表面に見えるモノフィラメント糸と片面の編地を形成する繊維(マルチフィラメント糸等)の面積比率を画像処理や、写真の重量換算等により計算するものである。
【0023】
尚、立体編物表面へのモノフィラメント現出面積を低く抑えるためには、片面の編地を形成する繊維が一つの針にかかる総繊度TD(dtex)と、連結糸のモノフィラメントの繊度MD(dtex)の関係であるTD/MDが0.8以上、13.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、13.0以下である。
【0024】
又、立体編物を衣類に装着して用いる場合、ゴワゴワすることなく身体にフィットし、又、身体の運動を妨げないために、立体編物の14.7N/5cm幅当たりのタテ方向及び/又はヨコ方向の伸長率が5%以上、150%以下であることが必要である。
【0025】
立体編物の伸長率が5%未満の場合は、立体編物を衣類に装着した際に身体にフィットせず、ゴワゴワした不快な着用感となり、又、運動時に身体の動きを阻害するものとなる。伸長率が150%を超える場合は、立体編物の厚み方向に力が加わる際に、立体編物の連結糸が倒れ易くなり衝撃吸収性が不十分なものとなる。より好ましい伸長率の範囲は7%以上、120%以下、更に好ましくは10%以上、100%以下である。
【0026】
立体編物のタテ方向及びヨコ方向の伸長率を適正な範囲とするには、立体編物の表裏の編組織および仕上げ加工方法が重要となる。表裏の編組織がメッシュ等の孔空き組織であれば1メッシュを構成する編目数(コース数)を2コース以上、12コース以下にすることが好ましく、仕上げ加工方法はタテ方向とヨコ方向の伸長率のバランスをとり、ヨコ方向を0〜70%幅出しし、かつ、タテ方向に−10〜20%のフィード率でヒートセットすることが好ましい。表裏の編組織が孔空きでない平坦な編組織であれば、全コースがニットループで形成される編組織や、ニットループ組織と挿入組織の複合組織等を用いることができる。この際はヒートセット仕上げする際に、ヨコ方向を−10〜30%幅出しし、タテ方向に−10〜20%のフィード率でヒートセットすることが好ましい。
【0027】
又、本発明に用いる立体編物は、身体に直接触れたり、下着等の織編物の素材を1枚介して身体に密着して用いられる場合等、立体編物表面のメッシュ形状や表面凹凸による違和感や、チクチクしたりガサガサする違和感を防止するため、立体編物の少なくとも片面の編地の総カバーファクター(TCF)が500以上、1300以下であることが好ましい。
ここで、総カバーファクター(TCF)とは、下記式で計算されるものである。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)+ウェールカバーファクター(WCF)
但し、コースカバーファクター(CCF)=(コース数;本/2.54cm)×(片面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(ウェール数;本/2.54cm)×(片面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
【0028】
尚、片面の編地を構成する糸条の太さとは、片面の編地の1つの編目を構成する全ての糸条のうち連結糸を除いた糸条の太さのことをいう。例えば連結糸を除く2枚の筬から同一の針に2本の糸が供給される場合は、2本の糸の太さを合計したものとなる。片面の編地を構成する糸条の太さが編目によって異なる場合は、先ず片面の編地2.54cm角(6.45cm2 )の面積中に存在する編目の総数(n)と、各編目を構成する糸条の太さ(D1、D2、D3、・・・、Dn;dtex)を測定し、次いで、各編目を構成する糸条の太さの合計(D1+ D2+D3+・・・Dn;dtex)を編目の総数(n)で割って、平均値を求める。
【0029】
総カバーファクターが500未満では、メッシュ形状や表面凹凸による違和感や、チクチクしたりガサガサする違和感が防止できない。又、総カバーファクターが1300を超える場合、立体編物の重量が重くなりすぎて着用感が悪くなると共に、洗濯後の乾燥性も悪くなる。
【0030】
立体編物の総カバーファクターを適正値にするには、立体編物を編成する編機のゲージ、表面の編地を構成する繊維の繊度、編組織、仕上加工時の幅出し、オーバーフィード率を十分考慮して、表層の立体編物を作製する必要がある。編機は9〜24ゲージものを用い、立体編物の表側の編地に用いる繊維の繊度を80〜1500dtexとし、仕上後の立体編物のコース数を10〜80コース/2.54cm、ウエール数を9〜60ウエール/2.54cmとすることが好ましい。前記設計要件を最適に組合わせて、適正な総カバーファクターの立体編物に仕上げることができる。
【0031】
本発明に用いられる立体編物は、生機を作製後、精錬やヒートセット、樹脂加工等を施して仕上げられ、更に所望のサイズに裁断されて、衝撃吸収パッドに形成される。裁断する方法としては、打ち抜き、レーザーカット、ヒートカット、振動溶着、鋏、回転刃による裁断等、任意の方法で裁断することが出来るが、カットした後の糸屑が落ちてこないようにするために、レーザーカット、ヒートカット等の様に立体編物端部が融着する裁断方法が好ましい。又、立体編物の周囲を振動溶着や超音波ウエルダー等により薄くすることにより、衣類に縫い付け易くすることができる。
【0032】
立体編物をカットした端部のモノフィラメントがチクチクすることのないようにするには、カット端部にウレタン系やシリコン系の柔軟性の高い樹脂を含浸したり、又、カットした周囲を縁部カバー材で覆って縫製することが好ましい。縁部カバー材で覆う際に用いる縁部カバー材は、突き刺し強度が1〜20Nの織編物であると、立体編物のカット端部のモノフィラメントの切れ端が、縁部カバー材を突き抜けて飛び出すのを防止できるため、好ましい。尚、縁部カバー材の突き刺し強度は、ミシン針(オルガン株式会社製TV×7#19)をテンシロンのチャックに取り付け、縁部カバー材を直径30mmの円形のピン枠に固定した状態で、ミシン針を50mm/minの速度で突き刺し、貫通時の最大応力を求める方法で測定されるものである。
【0033】
本発明の立体編物は、本発明の目的を損なわない範囲で、衝撃吸収性をより良好にするために、樹脂含浸されていても良い。又、立体編物は1枚で衝撃吸収パッドを形成していても良く、立体編物を複数枚積層して形成されていても良い。又、立体編物が衝撃吸収性能を有するその他のシート、例えば、ウレタン系、ポリエチレン系、シリコン系、アクリル系、ポリアミド系、エステル系、ゴム系、熱可塑性エラストマー等の樹脂シートやこれらの発泡体シート、立体網状構造体、不織布、立体織物等と積層されていても良い。
【0034】
立体編物同士や立体編物と他のシートとを積層する方法としては、接着剤により接着する方法や、他の織編物状のカバー材で全体をカバーして積層する方法、又、縫製により積層する方法、立体編物を重ねて周囲を縁部カバー材で覆って縫製する方法等、任意の方法で積層するこことができる。
【0035】
本発明に用いる立体編物は、厚みが3mm以上、25mm以下、重量が250g/m以上、1800g/m以下とすることが好ましく、立体編物の厚みが3mm未満、又は重量が250g/m未満の場合、衝撃吸収性が劣るものとなり、厚みが25mmを超える又は重量が1800g/mを超える場合は、ゴワゴワしたり、重くて不快な着用感のものとなる。又、立体編物同士を積層したり、立体編物と他の樹脂材料を積層する場合は、トータル8〜35mmの厚みとすることが、衝撃吸収性、ゴワゴワしない着用感、及び軽量感のいずれをも満たす上で好ましい。
【0036】
本発明の衝撃吸収パッドは、立体編物の表面がより柔らかい感触になるように、立体編物の表面に更に綿、アクリル繊維、毛、ポリエステル繊維、セルロース繊維等で編織された織編物や、該織編物が起毛された生地を、適宜、縫製や接着接着等により貼り合わせても良い。これにより立体編物の感触をより良好にし、さらに、運動時や高温・多湿時の発汗時の吸汗・速乾・べたつき防止作用を施すことが出きる。
【0037】
本発明の衝撃吸収パッドを取り付ける衣類は通気性のよい衣類であれば特に限定するものではなく、例えば、ブリーフ、ショーツ、猿股等の下着類、外着用、介護用ないしスポーツ用の各種シャツ、パンツ、スパッツ、ズボン類等が挙げられるが、衝撃吸収の目的から、特に、パンツが好ましい。尚、通気性については、JIS−L1018、フラジール形試験機によって測定される空気量が30cm/cm・s以上であることが好ましい。
【0038】
パッドの取り付け方法も特に限定しないが、パッドが、着用時や洗濯時にずれ難く、身体へのフィット性の向上させ、かつ運動追従性を良好にするために、パットの周囲を縫製により縫い付ける方法や、パット全体をキルト状に縫い合わせる方法で取り付けることが好ましい。衝撃吸収パッドと衣類に取り付ける面は、肌触りを良好にするために立体編物の編地の総カバーファクターとモノフィラメントの現出面積比を規定した面を肌側に取り付けることが好ましい。又この際、立体編物の編地の総カバーファクターとモノフィラメントの現出面積比を規定した面と肌の間に衣類等の生地が介されていてもよい。
【0039】
本発明の衝撃吸収パッドは通気性が高く柔軟であるため、これを装着した衣類は、就寝時にもパットを外さなくても快適であり、夜間にトイレ等へ行く場合に転倒しても保護できるものである。すなわち、夜間トイレ時等の着用率が大幅に改善されることにより、夜間転倒の骨折予防効果に優れる衣類となる。さらに別の態様として、骨粗鬆症患者の転倒防止トレーニングや筋力強化トレーニング時等に有効に使用できる衣類となる。
【0040】
また、衣類にポケットを作りその中に着脱自在で衝撃吸収パッドを出し入れできるようにしたり、衣類と立体編物からなる衝撃吸収パッドの接合面に面ファスナーを取り付け、脱着自在にすることも好ましい。衝撃吸収パッドを脱着自在にすることにより、介護者が非介護者にパンツを履かせる際の手間・負担が軽減されるものとなる。縫着取り付け、ポケット又は面ファスナー等を取り付ける面は衣類の外面に作成することが好ましいが、例えば衣類が外着である場合、ファッション性を考慮して内面に作成することも別の一態様として好ましい。内面に作成する場合は、縫着取り付け又はポケットを選択することが好ましいが、面ファスナー等を選択しても構わない。
【0041】
衝撃吸収パッドを取り付ける位置としては、大腿骨頚部を中心に前身頃、脇部、後身頃をカバーする部分の1個所から複数箇所に任意に取り付けられる。また、比較的皮下脂肪が薄く転倒等によって骨に強く衝撃がかかる所には、厚手でかつ衝撃吸収性の高い立体編物からなるパッドを使用し、また皮下脂肪が厚く衝撃が緩和され易い臀部等には着用性を重視した薄手の立体編物からなる衝撃吸収パッドや、その他の衝撃吸収パッドを取り付ける等、着用性と衝撃吸収性を重視して1つのパンツに2種以上の衝撃吸収パッドを組み合わせて使用しても良い。
【0042】
パッドの形状は特に限定するものではないが、長方形、正方形、円形、楕円形、菱型などの多角形や短冊状やドーナツ型の内部がくり抜いてある物、表面に任意の凹凸を付けた物等があげられる。また、衝撃吸収パッドの大きさは特に限定されるものではないが10cm〜1000cm、好ましくは50cm〜700cmである。
【0043】
また、衣類に用いられる生地も、素材、編織方法など特に限定されるものではないが、衝撃吸収パッドが身体からずれない様に密着固定し、又、運動を妨げないようにするために、ストレッチ性を有する織編物が好ましく、特に、ストレッチ性とストレッチバック性を兼ね備えた2wayトリコットやベアー天竺等のポリウレタン交編の編地が好ましく用いられる。
【0044】
また、本発明の衝撃吸収パッドを取り付ける衣類の別の態様としては、前記の衝撃吸収パッドを取り付ける位置に、衝撃吸収パッドを固定するために必要な最低限の布地以外は生地のないタイプの衣類であってもよく、該衣類に本発明の衝撃吸収パッドが取り付けられた衣類も本発明の衣類として好適である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、例中の各特性の評価および測定は下記の方法で行った。
(1)連結糸の曲げ剛性係数B
立体編物2.54cm角の中の連結糸のモノフィラメントを任意に10本切り取り、その断面写真又は側面写真を取り、直径D(mm)を求める。
立体編物の厚みT(mm)を、0.69kPaの圧力を掛けて、直径30mmの測定板で挟んだ状態で測定する。測定は5回行い平均値を求める。
連結糸のコース数CO(本/2.54cm)、ウエール数WA(本/2.54cm)を、2.54cm角の拡大鏡から測定する。例えば、連結糸が表裏の編目の全てに1本ずつ編み込まれている場合は、表裏面の編目のコース数とウエール数と同等となり、2本づつ編み込まれている場合は、表裏面の編目のコース数、ウエール数の2倍となる。連結糸が糸抜きされている場合は、糸抜きされているコース数とウエール数を引いた値となる。
下記式にて曲げ剛性係数Bを求める。
B=D×CO×WA×2/T
【0046】
(2)編地表面のモノフィラメントの現出面積Aと編地を形成する繊維の現出面積Bの比(A/B)
立体編物の編地表面に1cm角の線を引き、1cm角の部位の拡大写真(5〜50倍)を直角方向から撮影し、拡大写真中の編地表面に見えるモノフィラメント糸の面積A(拡大写真中に見えるモノフィラメントの面積の合計値)と、編地を形成する繊維の面積B(拡大写真中に見える編地を形成する繊維の面積の合計値)を、画像処理ソフトを用いて求める。求めたAとBの値から、比(A/B)を算出する。測定は立体編物の異なる部位で3回行い、平均値を求める。
尚、面積AとBの代わりに、写真又は写真のコピーを切り取ってモノフィラメント部の重量(Aに相当)及び編地を形成する繊維の重量(Bに相当)を測定し、A/Bを算出しても良い。
(3)立体編物の伸長率(%)
立体編物を12cm×5cm(幅)にカットして試験片を作製し、試験片の7cmの間隔に印を付ける。試験片はタテ方向(ウエール列に沿った方向)とヨコ方向(コース列に沿った方向)のものを採取する。試験片の一端をチャックに固定して吊るし、さらにもう一端に荷重14.7Nの荷重をチャックで固定して吊るす。5分後に印間の長さL1(cm)を測定し、次の式に従い伸長率I(%)を算出する。
I(%)=(L1−7)/7×100
【0047】
(4)立体編物の厚み(mm)
(株)尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージ(ピーコック)用い、立体編物に0.69kPaの圧力を掛けて、直径30mmの測定板で挟んだ状態で測定する。測定は5回行い平均値を求める。
(5)立体編物の重量(g/m
立体編物を10cm角切り取り、10cm角の重量W(g)を測定し、下記式にて重量(g/m)を算出する。なお、立体編物のサイズが10cm角に達しない場合は、立体編物の表面の面積を求めて公知の方法にて重量換算してもよい。
立体編物の重量(g/m)=W(g)×100
(6)衝撃吸収性
JIS T 8131安全帽に規定する装置を用い、防災頭巾の衝撃吸収性試験法に準じ、φ12.7mmの平面の衝撃面を有し重量が5Kgの円柱の衝撃ストライカーを、100mmの高さから落下させて衝撃値(ピーク値)(kN)を測定し、下記式にて衝撃吸収率(%)を算出する。
衝撃吸収率(%)=(1−衝撃値/29.4)×100
【0048】
(7)蒸れ感
衝撃吸収パッドを装着したパンツを、伸長172cm、体重65Kg、年齢33歳の男性が着用し(肌着は着用せず)、28℃、70%RHに温湿度調整された人工気候室に10分間入り、衝撃吸収パッド部の蒸れ感を以下の基準で官能評価する。
◎:全く蒸れない、○:殆ど蒸れない、△:やや蒸れる、×:非常に蒸れる
(8)凹凸やチクチクする違和感
衝撃吸収パッドを装着したパンツを、伸長172cm、体重65Kg、年齢33歳の男性が着用し(肌着は着用せず)、衝撃吸収パッド部の凹凸やチクチクする違和感、及びゴワゴワする違和感を以下の基準で官能評価する。さらに屈伸運動を行い、衝撃吸収パッド部のフィット性(運動追従性)を以下の基準で官能評価する。
<凹凸やチクチクする違和感>
◎:全く違和感がない、○:殆ど違和感がない、△:やや違和感がある、×:非常に違和感がある
<ゴワゴワ感>
◎:全くゴワゴワしない、○:殆どゴワゴワしない、△:ややゴワゴワする、×:非常<フィット性、運動追従性>
◎:非常にフィットする、○:ややフィットする、△:ややフィットしない、×:全くフィットしない
【0049】
[実施例1]
6枚筬を装備した18ゲージ、釜間12mmのダブルラッセル編機を用い、表面編地を形成する筬(L1、L2)及び裏面編地を形成する筬(L5、L6)から334dtex/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を、連結糸用の筬(L3、L4)から200dtexのナイロンモノフィラメントを、L1、L3、L5の筬に1イン1アウトの配列で、L2、L4、L6の筬に1アウト1インの配列で供給した。(編組織1)に示す編組織で、機上コース20コース/2.54cmの密度で生機を編成し、得られた生機を180℃×2分で幅出し乾熱ヒートセットを行い、28コース/2.54cm、14ウエール/2.54cm、厚さ8.0mm、通気度710cm/cm・sの立体編物を得た。この立体編物の特性を表1に示した。
【0050】
(編組織1)
L1:4644/4244/4644/4222/
2022/2422/2022/2444/
L2:2022/2422/2022/2444/
4644/4244/4644/4222/
L3:4242/810810/4242/4646/
6868/2020/6868/6464/
L4:6868/2020/6868/6464/
4242/810810/4242/4646/
L5:4446/4442/4446/4442/
2220/2224/2220/2224/
L6:2220/2224/2220/2224/
4446/4442/4446/4442/
得られた立体編物をタテ20cm、ヨコ15cm、4隅を半径10mmの円形状とした略長方形にレーザーカットした。該カット品の周囲を突き刺し強度が15Nのポリエステル織物からなる縁部カバー材で端部から1cm内側までカバーして縫製して、図4に示す衝撃吸収パッドを2枚得た。本衝撃吸収パッド単体の特性を表1に示すが、衝撃ストライカーが落下する際の衝撃がパッドの反対側に衝撃が伝わり難い、衝撃吸収率の高いものであった。又、容易に洗濯でき、速乾性に優れるものであった。
【0051】
本パッドの裏面を肌側にして左右の大腿骨頚部を保護するように、空気量が85cm/cm・sの綿ベアー天竺のパンツの内側にパッドの周囲を縫製して縫い付け、図5の模式図に示すパンツを得た。本パンツの特性を表1に示すが、身体の形状に追従してフィットするため、着用し易く、立体編物の凹凸感や、チクチクする違和感もなく、又、蒸れ難く良好な着用感を示した。又、ゴワゴワ感も無く体にフィットし、運動追従性も良好であった。
【0052】
[比較例1]
表面編地を形成する筬(L1、L2)及び裏面編地を形成する筬(L5、L6)から、110dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート原糸を供給した以外は実施例1と同様にして立体編物及び衝撃吸収パッドを得た。
【0053】
本パッドの裏面を肌側にして実施例1と同様にパンツの内側に縫いつけた。本パンツは、表1に示すようにモノフィラメントが表面に現出しているため、チクチクした違和感が激しく、着用感が不良であった。
[比較例2]
L3とL4の編組織を(編組織2)とした以外は実施例1と同様にして、衝撃吸収パッドを得た。本衝撃吸収パッドは、全ての着用感は良好であったが、立体編物の連結糸がクロス、筋交、トラス構造の何れの形態もしておらず、全て垂直に連結されているため、表1に示すように衝撃吸収率の低いものであった。
(編組織2)
L3:4646/4242/4646/4242/
2020/2424/2020/2424/
L4:2020/2424/2020/2424/
4646/4242/4646/4242/
[比較例3]
ダブルラッセル編機の釜間を18mmに変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ14.2mmの立体編物を得た。得られた立体編物を実施例1と同様に裁断して周囲に縁部カバー材を縫製し、衝撃吸収パッドを得た。本パッドは従来の編み設計の考え方である連結糸の単位面積当たり(2.54cm角)の総断面積(CO×WA×2×連結糸の断面積)においては実施例1と同様であるが、厚過ぎて連結糸の曲げ弾性係数が適正でないため、表1に示すように衝撃吸収率の低いものであった。
【0054】
[実施例2]
6枚筬を装備した14ゲージ、釜間14mmのダブルラッセル編機を用い、表面編地を形成する筬から(L1、L2)及び裏面編地を形成する筬(L5、L6)から1000dtex/144フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を、連結糸用の筬(L3、L4)から440dtexのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメントを、L1、L3、L5の筬に1イン1アウトの配列で、L2、L4、L6の筬に1アウト1インの配列で供給した。(編組織1)に示す編組織で、機上コース14コース/2.54cmの密度で生機を編成し、得られた生機を180℃×2分で幅出し乾熱ヒートセットを行い、15コース/2.54cm、14ウエール/2.54cm、厚さ10.2mm、空気量390cm/cm・sの立体編物を得た。この立体編物の特性を表1に示す。
【0055】
得られた立体編物を実施例1と同様に裁断して周囲に縁部カバー材を縫製し、衝撃吸収パッドを得た。本パッドの衝撃吸収率は、表1に示すように良好で、又、容易に洗濯でき、速乾性に優れるものであった。
本パッドの裏面を肌側にして実施例1と同様にしてパンツの内側に縫い付けた。本パンツは、表1に示すように立体編物の凹凸感や、チクチクする違和感もなく、又、蒸れ難く良好な着用感を示した。又、ゴワゴワ感も少なく体にフィットし、運動追従性も良好であった。
【0056】
[比較例4]
表面編地を形成する筬(L1、L2)及び裏面編地を形成する筬(L5、L6)から、280dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート原糸を供給した以外は実施例2と同様にして立体編物及び衝撃吸収パッドを得た。
本パッドの裏面を肌側にして実施例1と同様にパンツの内側に縫いつけた。本パンツはモノフィラメントが表面に現出しているため、表1に示すようにチクチクした違和感が激しく、着用感が不良であった。
【0057】
[実施例3]
6枚筬を装備した9ゲージ、釜間14mmのダブルラッセル編機を用い、表面編地を形成する筬から(L1、L2)から500dtex/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を、連結糸用の筬(L3、L4)から880dtexのポリブチレンテレフタレートモノフィラメントを、又、裏面の編地を形成する筬(L5、L6)から、500dtex/144フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を、L1、L3の筬に1イン1アウトの配列で、L2、L4の筬に1アウト1インの配列で、L5、L6の筬にオールインの配列で供給した。(編組織3)に示す編組織で、機上コース10コース/2.54cmの密度で生機を編成し、得られた生機を180℃×2分で幅出し乾熱ヒートセットを行い、12コース/2.54cm、9ウエール/2.54cm、厚さ10.0mm、空気量350cm/cm・sの立体編物を得た。この立体編物の特性を表1に示す。
(編組織3)
L1:2022/4644/
L2:4644/2022/
L3:2042/4624/
L4:4624/2042/
L5:2220/2224/
L6:4446/2220/
得られた立体編物を実施例1と同様に裁断して周囲に縁部カバー材を縫製し、衝撃吸収パッドを得た。本パッドは、表1に示すように衝撃吸収率の非常に高いものであった。
本パッドの裏面を肌側にして実施例1と同様にしてパンツの内側に縫い付けた。本パンツは、表1に示すように立体編物の凹凸感や、チクチクする違和感も少なく、蒸れ難くいものでであった。又、ゴワゴワ感が少なく身体にフィットし、運動追従性も良好であった。
【0058】
[比較例5]
表面編地を形成する筬(L1、L2)及び裏面編地を形成する筬(L5、L6)から、250dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を供給した以外は実施例3と同様にして立体編物及び衝撃吸収パッドを得た。
【0059】
本パッドの裏面を肌側にして実施例1と同様にパンツの内側に縫いつけた。本パンツは、表1に示すようにモノフィラメントが表面に現出しているため、チクチクした違和感が激しく、着用感が不良であった。
[比較例6]
実施例3においてL1、L2、L5、L6の編組織を(編組織4)に変更し、何れもオールインの配列に変更した。さらに、機上コースを14コース/2.54cmの密度で生機を編成し、得られた生機を180℃×2分で幅出し乾熱ヒートセットを行い、15コース/2.54cm、9ウエール/2.54cm、厚さ10.3mm、空気量240cm/cm・sの立体編物を得た。
得られた立体編物を実施例1と同様に裁断して周囲に縁部カバー材を縫製し、衝撃吸収パッドを得た。本パッドは衝撃吸収率の高いものであったが、裏面を肌側にして実施例1と同様にしてパンツの内側に縫い付けた。本パンツは、表1に示すようにゴワゴワ感が激しく、身体にフィット難いものであった。
(編組織4)
L1:2044/81066/
L2:2000/0222/
L5:2220/0002/
L6:6620/44810/
【0060】
[実施例4]
実施例1と同様のダブルラッセル編機を用い、表面編地を形成する筬(L1、L2)及び裏面編地を形成する筬(L5、L6)から334dtex/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を、連結糸用の筬(L3、L4)から200dtexのナイロンモノフィラメントを、L1、L3、L6の筬に2アウト2インの配列で、L2、L4、L5の筬に2イン2アウトの配列で供給した。(編組織1)に示す編組織で、機上コース20コース/2.54cmの密度で生機を編成し、得られた生機を180℃×2分で幅出し乾熱ヒートセットを行い、25コース/2.54cm、14.3ウエール/2.54cm、厚さ8.2mm、空気量770cm/cm・s以上の立体編物を得た。この立体編物の特性を表1に示す。
(編組織5)
L1:6466/81088/6466/81088/6466/81088/4644/
4644/2022/4644/2022/4644/2022/6466/
L2:4644/2022/4644/2022/4644/2022/6466/
6466/81088/6466/81088/6466/81088/4644/
L3:64810/64810/64810/64810/64810/64810/4646/
4620/4620/4620/4620/4620/4620/6464/
L4:4620/4620/4620/4620/4620/4620/6464/
64810/64810/64810/64810/64810/64810/4646/
L5:6646/66108/8846/66108/8846/66108/8864/
4464/4402/2264/4402/2264/4402/2246/
L6:4464/4402/2264/4402/2264/4402/2246/
6646/66108/8846/66108/8846/66108/8864/
得られた立体編物を実施例1と同様に裁断して周囲に縁部カバー材を縫製し、衝撃吸収パッドを得た。本パッドは、表1に示すように衝撃吸収率は良好で、又、容易に洗濯でき、速乾性に優れるものであった。
本パッドの裏面を肌側にして実施例1と同様にしてパンツの内側に縫い付けた。本パンツは、表1に示すように立体編物の凹凸感や、チクチクする違和感もなく、又、蒸れ難く良好な着用感を示した。又、ゴワゴワ感もなく体にフィットし、運動追従性も良好であった。
【0061】
[実施例5、6]
実施例1で得られた立体編物のカット品を実施例4では2層重ねて、実施例5では3層重ねて周囲を縁部カバー材で覆って縫製し衝撃吸収パッドを得た。表1に示すように、本パッドは、いずれも衝撃吸収率が高く、実施例1と同様にパンツの内側に縫い合わせたものは、厚いにも関らず柔らかいクッション性によりゴワゴワ感の少ないパンツであった。
[実施例7]
パンツの大腿骨頚部外側に、図6に示すようにポケット9及びポケット入り口カバー10を縫い付け、衝撃吸収パッド1を脱着可能にした綿ベア天竺のパンツ7に、実施例3で得られた衝撃吸収パッドを、裏面を肌側にして挿入して着用した結果、表1に示すように立体編物のメッシュ感や凹凸感がなく、良好な着用感のパンツとなった。又、本パンツは衝撃吸収パッドを装着する前に着用すると、非常に着用し易いものであった。又、衝撃吸収パッドを装着する前に着用した本パンツに対して、着用者自ら或いは第三者が、非常に容易に衝撃吸収パッドを取り付けることが可能であった。
【0062】
[実施例8]
実施例1で得られた衝撃吸収パッドの表面に熱可塑エラストマーの発泡体である朝日ラバー(株)製の商品名ハイストレッチフォーム、厚み8mm、見かけ密度0.24を重ねて接着剤で接着し積層衝撃吸収パッドを得た。実施例6に用いたパンツのポケットに、立体編物の裏面を肌側にして挿入して着用したが、熱可塑性エラストマー発泡体単独では蒸れ易くゴワゴワして身体にフィットし難いものであったが、立体編物と積層することでこれらが改善された。表1にこれらの結果を示す。
[実施例9]
実施例2で得られた衝撃吸収パッド3を、図7に示すように綿ベア天の編地のパンツ1の外側に、縫い付け部8により周囲を縫製して縫い合わせた。このパンツは、凹凸感やゴワゴワ感もなく身体にフィットし、良好な着用感を示すものであった。表1にこれらの結果を示す。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の衝撃吸収パッドは、衝撃吸収性に優れ軽量かつ通気性が良好で、衣類に装着した場合、ゴワゴワしたり網目の凹凸による違和感やモノフィラメントによりチクチクする違和感がなく良好に身体にフィットし、スポーツ競技用や介護用のサポーター、プロテクター等に有効に用いることができる。特に、下着等の衣類の適切な部位に装着することにより、骨粗鬆症患者等が転倒した際の骨折を未然に防止するための骨折防護用衝撃吸収材や衣類として、優れた衝撃吸収性と、蒸れ難く良好な着用感を有し、又、洗濯性、速乾性も良好で衛生的に使用できるものである。骨粗鬆症患者の使用においては、通常時、夜間時或いは転倒防止トレーニングや筋力強化トレーニング時等に有効に使用できる衣類である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】連結糸のクロス構造を示す断面図
【図2】連結糸の筋交構造を示す断面図
【図3】連結糸のトラス構造を示す断面図
【図4】衝撃吸収パッドの模式。
【図5】衝撃吸収パッドをパンツの内側に縫い付けたパンツの模式図
【図6】衝撃吸収パッドをポケットに挿入したパンツの模式図
【図7】衝撃吸収パッドをパンツの外側に縫い付けたパンツの模式図
【符号の説明】
【0066】
1・・・表裏編地
2・・・連結糸
3・・・衝撃吸収パッド
4・・・立体編物
5・・・縁部カバー材
6・・・縫製部
7・・・パンツ
8・・・衝撃吸収パッド周囲縫い付け部
9・・・ポケット
10・・ポケット入り口カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏二層の編地とこれらを連結するモノフィラメントの連結糸によって構成された立体編物であって、下記(1)式で示される連結糸の曲げ剛性係数Bが0.002以上、0.03以下、少なくとも片面の編地表面のモノフィラメント現出面積Aと片面の編地を形成する繊維の現出面積Bの比が0≦A/B≦2.0、14.7N/5cm幅当たりのタテ方向及び/又はヨコ方向の伸長率が5%以上、150%以下、かつ連結糸の一部が編み始め方向から見て、クロス構造、筋交構造およびトラス構造のうち何れかの形態である立体編物からなることを特徴とする衣類装着用衝撃吸収パッド。
曲げ剛性係数B=D×CO×WA×2/T ・・・(1)
但し、D:連結糸の直径(mm)、T:立体編物の厚み(mm)、CO:連結糸のコース数(本/2.54cm)、WA:連結糸のウエール数(本/2.54cm)
【請求項2】
下記(2)式で示される立体編物の少なくとも片面の編地の総カバーファクター(TCF)が500以上、1300以下であることを特徴とする請求項1記載の衣類装着用衝撃吸収パッド。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)
+ウェールカバーファクター(WCF)・・・(2)
但し、
コースカバーファクター(CCF)=(立体編物のコース数;本/2.54cm)
×(片面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(立体編物のウェール数;本/2.54cm)
×(片面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
【請求項3】
立体編物の厚みが3mm以上、25mm以下、重量が250g/m以上、1800g/m以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の衣類装着用衝撃吸収パッド。
【請求項4】
立体編物が2層以上積層されており、少なくとも1層の立体編物が請求項1〜3のいずれかに記載の立体編物であることを特徴とする衣類装着用衝撃吸収パッド。
【請求項5】
立体編物の周囲の端部が縁部カバー材で覆われていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の衣類装着用衝撃吸収パッド。
【請求項6】
衣類の腰回りにおける前身頃、脇部、後身頃および臀部のいずれかの部位に、請求項1〜5のいずれかに記載の衣類装着用衝撃吸収パッドを取り付けてなることを特徴とする衣類。
【請求項7】
前記衣類装着用衝撃吸収パッドが前記部位に着脱自在に取り付けされていることを特徴とする請求項6記載の衣類。
【請求項8】
衣類がパンツである請求項6または7に記載の衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−270394(P2007−270394A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98700(P2006−98700)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】