表土流出抑制方法
【課題】浸食性土壌の表面の浸食を有効に防止すると共に、環境および人体に対して与える影響を極めて小さくする。
【解決手段】浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法であって、食物繊維または増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物を溶質とする水溶液を作製する第1工程と、前記水溶液を前記浸食性土壌の表面に散布する第2工程と、を少なくとも含む。炭水化物の水溶液を用いるため、環境および人体へ与える影響を極めて小さくすることができる。また、
【解決手段】浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法であって、食物繊維または増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物を溶質とする水溶液を作製する第1工程と、前記水溶液を前記浸食性土壌の表面に散布する第2工程と、を少なくとも含む。炭水化物の水溶液を用いるため、環境および人体へ与える影響を極めて小さくすることができる。また、
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に、沖縄本島、久米島、石垣島などに分布する赤黄色土の「国頭マージ」や、主に、沖縄本島中南部、宮古島などに分布し泥岩を由来とする残積性未熟土の「ジャーガル」などは、他の土壌と比較して、水や風によって浸食されやすい特質がある。このような浸食され易い土壌を、本明細書では「浸食性土壌」と呼称する。このような浸食性土壌を主とする農地や造成工事現場では、降雨等によって表土流亡が生ずると共に、土の微粒子を大量に含んだいわゆる「赤水」が発生し、河川や海洋の汚染の原因となっている。このような環境汚染を防止するため、造成工事現場では、発生する赤水に対して許容されるSS(Suspended Solids:浮遊物質量)は、200ppm以下と定められている。しかし、最近では、施工後の現場環境が施工前の現場環境よりも悪くならないように、より厳しい基準を満たすことが求められている。具体的には、SSを25ppm以下に抑えることが求められている。
【0003】
上記のような赤水の発生を防止するために、従来から、赤水の発生源対策が施されている。例えば、造成工事現場では、雨が降る前に工事現場全体をブルーシート等で覆う手法、土壌団粒化剤を土壌表面に吹き付ける手法、アスファルト乳剤を土壌表面に吹き付ける手法などが採られている。また、土壌表面への種子吹き付け、砕石敷均し、流しコーラル、締め固めといった手法が採られることもある。
【0004】
特許文献1には、赤土に固化剤と土壌団粒化剤とを混合し、赤土を団粒化させることで、通気、透水性に優れた土壌構造を得る技術が開示されている。また、特許文献2には、浸食性土壌に平均粒径が0.4mm以下のカルボキシル基含有水溶性重合体粉末を添加混合し、その後、平均粒径が1mm以下の粉末状の石灰を添加混合することにより、土壌を団粒化させ、表土の流出を防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−256154号公報
【特許文献2】特開平7−097574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、赤水の発生を防止するために工事現場全体をブルーシート等で覆う手法では、ブルーシート等が風などの要因で捲れた場合は、全く効果を奏しないこととなる。また、工事を再開する場合は、覆ったブルーシート等を取り外さなければならず、手間を要してしまう。さらに、工事現場が広範囲におよぶ場合は時間と労力は倍加する。また、土壌団粒化剤を土壌表面に吹き付ける手法およびアスファルト乳剤を土壌表面に吹き付ける手法では、使用される資材が、環境を汚染したり人体に悪影響を及ぼしたりする恐れのある化学物質を含んでいる場合がある。このため、特に、保護すべき貴重な動植物が生息する山間部などで実施する場合は十分注意しなければならない。
【0006】
また、土壌表面への種子吹き付けでは、発芽して十分な効果が得られるまでに時間を要してしまう。また、砕石敷均しは、道路面には適切であるが、砕石を土壌表面に敷き詰めるため、切土や法面への適用は困難である。流しコーラルも砕石敷均し同様に、道路工事には適切であるが、切土や法面への適用は困難である。締め固めは、単に裸地面に対して圧力をかけて締めるのみであるため、降雨時には土壌表面が簡単に浸食されてしまう。
【0007】
また、特許文献1記載の技術は、赤土を土壌表面から取り出して固化剤と土壌団粒化剤を混合させ、団粒化させた後で元に戻す手順を踏むが、取り出した後に残された土壌表面については何ら考慮されていない。このため、赤土に固化剤と土壌団粒化剤とを混合させて元に戻すまでは、土壌表面は何ら処理されていないため、降雨等により、表土流出が生じてしまう。さらに、固化剤や土壌団粒化剤が化学物質を含んでいる場合は、環境や人体への影響も無視できない場合もある。また、特許文献2記載の技術は、カルボキシル基を含有した水溶性の重合体を使用するため、化学物質による環境への影響が懸念される。また、特許文献2には、半合成の水溶性重合体の例として、グアガムを用いた場合が記載されている。しかし、グアガムを用いた場合は、表土の流出防止のためには十分な効果が得られなかったことが明記されている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、浸食性土壌の表面の浸食を有効に防止すると共に、環境および人体に対して与える影響を極めて小さくすることができる表土流出抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成させるため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の表土流出抑制方法は、浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法であって、食物繊維または増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物を溶質とする水溶液を作製する第1工程と、前記水溶液を前記浸食性土壌の表面に散布する第2工程と、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0010】
このように、炭水化物の水溶液を用いるため、人体および環境へ与える影響を極めて小さくすることができる。また、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物の水溶液は、粘着性を有しているため、浸食性土壌の表面に散布すると、コーティング機能を発揮する。本発明は、このような上記水溶液の機能を利用し、上記水溶液を浸食性土壌の表面に散布することを特徴とする。これにより、浸食性土壌の表面が上記炭水化物の粘着性によって、コーティングを施した状態になる。この状態になると、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、水や風による表土の浸食や流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。
【0011】
(2)また、本発明の表土流出抑制方法において、前記第1工程では、前記水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下とすることを特徴としている。
【0012】
動粘度とは、液体が重力の作用で流動するときの抵抗の大小を示す尺度で、粘度をその液体の同一条件下(同一温度および同一圧力)における密度で除したときの商である。また、粘度とは液体に作用したせん断応力とせん断速度との比である。本発明では、第1工程において、水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下としている。このような数値範囲とすることにより、浸食性土壌の表面に散布した際、コーティング機能を十分に発揮させることができる。
【0013】
(3)また、本発明の表土流出抑制方法において、前記第1工程では、水1リットルに対してグアガムを5グラム溶かした水溶液、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよび粉飴を50グラム溶かした水溶液、または、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよびデキストリンを50グラム溶かした水溶液の、いずれかを作製することを特徴としている。
【0014】
第1工程において、水溶液をこのように作製することによって、浸食性土壌の表面に散布した際、コーティング機能を十分に発揮させることができる。
【0015】
また、本発明の表土流出抑制方法の他の一形態は、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌の表面を固化させて表土の流出を抑制する表土流出抑制方法であって、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物を水に溶かし、前記水溶液の濃度が0.2重量パーセント以上となるように調整する工程と、前記水溶液を前記微粒子粘性土壌の表面に散布する工程と、前記水溶液が散布された微粒子粘性土壌の表面を乾燥させる工程と、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0016】
食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物の水溶液は、粘着性を有しており、飴または水飴のようになる。本発明は、このような上記炭水化物の機能を利用して、微粒子粘性土壌の表面を固化させる。上記水溶液を散布した後、乾燥させると、土壌表面が上記炭水化物の粘着性によって固化し、コーティングを施した状態になる。この状態になると、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、表土の流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
また、上記炭水化物の水溶液を用いるので、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、上記水溶液を微粒子粘性土壌に散布して乾燥させることにより土壌表面を固化させることができるので、ブルーシートを用いる場合と比較して、手間および時間を少なくすることができる。また、水溶液を散布するための装置さえあれば本発明を実施することができるので、特殊な機材、大型機材を必要とせず、また、専門のオペレータを必要とせず、簡易に作業を行なうことが可能となる。
【0018】
また、本発明の表土流出抑制方法の他の一形態は、前記水溶液の濃度は、実質的に0.5重量パーセントであることを特徴としている。
【0019】
このように、水溶液の濃度は、実質的に0.5重量パーセントであるので、散布しやすくなると共に、土壌の表面を十分に固化させることが可能となる。
【0020】
また、本発明の表土流出抑制方法の他の一形態は、前記水溶液を前記微粒子粘性土壌の表面に散布する工程では、1平方メートルあたり実質的に3から5リットルの割合で散布することを特徴としている。
【0021】
このように、1平方メートルあたり実質的に3リットルの割合で散布するので、水溶液を土壌に十分にしみ込ませることができると共に、土壌表面を十分に固化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭水化物の水溶液を用いるため、人体および環境へ与える影響を極めて小さくすることができる。また、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物の水溶液は、粘着性を有しているため、浸食性土壌の表面に散布すると、コーティング機能を発揮する。本発明は、このような上記水溶液の機能を利用し、上記水溶液を浸食性土壌の表面に散布することを特徴とする。これにより、浸食性土壌の表面が上記炭水化物の粘着性によって、コーティングを施した状態になる。この状態になると、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、水や風による表土の浸食や流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。また、上記水溶液を浸食性土壌に散布することにより土壌表面をコーティングすることができるので、ブルーシートを用いる場合などと比較して、手間および時間を少なくすることができる。また、水溶液を散布するための装置さえあれば本発明を実施することができるので、特殊な機材、大型機材を必要とせず、また、専門のオペレータを必要とせず、簡易に作業を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、沖縄の赤黄色土や関東ローム層などに分布し、水や風により浸食され易い浸食性土壌である「赤土」を主とする造成工事現場において本発明を実施した場合を説明する。すなわち、切土、盛土直後の心土が露出した状態の造成法面を、本発明に係る表土流出抑制方法によってコーティングし、暫定的に手当てする。なお、浸食性土壌とは、浸食されやすい土壌を意味するものであり、上記「赤土」に限定されるわけではない。例えば、主に、沖縄本島、久米島、石垣島などに分布する赤黄色土の「国頭マージ」のみならず、主に、沖縄本島中南部、宮古島などに分布し泥岩を由来とする残積性未熟土の「ジャーガル」などの土壌も浸食性土壌に該当する。
【0024】
土壌表面のコーティングには、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物を水に溶かし、前記水溶液の濃度が0.2重量パーセント以上となるように調整する。より好ましくは、前記水溶液の濃度は0.5重量パーセントである。
【0025】
溶媒としては、水が好適であるが、揮発性の液体を用いても良い。揮発性の液体を用いることによって、土壌表面に散布した後の乾燥・固化を促進することが見込まれる。
【0026】
また、溶質としては、「食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物」であるが、具体的には、次のものが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いても良い。
【0027】
すなわち、タマリンドガム、キサンタンガム、カードラン、ガディガム、カラギナン、ユーケマ藻類、カラヤガム、カロブビーンガム、ジェランガム、ダンマル樹脂、トンガントガム、寒天、ガラクトマンナン(グアガム)、グルコマンナン(コンニャク)、ローカストビーンガム、アルギン酸、ポリウロニド、カルボキシルメチルセルロース、ポリデキストロース、コンドロイチン、デキストリン、マルチトール、ガラクツロナン、β−D−グルカン、キシラン、マンナンガラクタン、芳香族炭化水素(リグニン)、ポリグルコサミン、キトサン、コラーゲン、黒砂糖、和三盆糖、上白糖、三温糖、グラニュー糖、白ざら糖、中ざら糖、角砂糖、氷砂糖、粉糖、しょ糖型液糖、転化型液糖、氷糖蜜、粉飴、水飴、ブドウ糖、果糖、異性化糖、はちみつ、メープルシロップ等である。
【0028】
また、本発明では、これらの水溶液を微粒子粘性土壌の表面に散布し、その水溶液が散布された微粒子粘性土壌の表面を乾燥させる。
【0029】
本発明の効果を測定するために、フィールド実験およびハウス内実験を行なった。フィールド実験では、法面フィールドモデルを造り、本発明に係る水溶液を散布した。次に、自然の天候条件下に曝露し、効果を確認した。ハウス内実験では、(1)成分濃度比較実験として、ガラスハウス内で法面ハウスモデルを使用し、上記フィールド実験を補足するデータを収集した。また、成分の配合比率による効果の違いを確認する。また、(2)風化実験として、本発明に係る水溶液を散布した後、効果が持続する日数を確認した。
【0030】
(フィールド実験)
このフィールド実験では、バックホー(オペレータ有)、15リットル以上のバケツを3個、攪拌棒、噴霧器(散布装置)を2個、波板、水槽、サンプリング用広口ビン、ビニールテープを実験用資材として使用した。
【0031】
図1は、法面フィールドモデルのイメージを示す図である。この法面フィールドモデル1は、横幅が1.5m、高さが2.0m、斜面Sの面積が3.6m2に成形されている。また、法面フィールドモデル1の斜面S上に波板2を設け、実験区外の表面流出水が混入することを防いでいる。また、斜面S下方に水槽3を設置し、実験区内で発生する表面流出水をサンプリングする。なお、法面フィールドモデル1の造成にあたり、心土を露出させる程度に硬化した表面部分を削り、現地形を大きく変えないこととする。
【0032】
図2は、フィールド実験の実験区の設定例を示す図である。図2では、実験区として、無処理区、実験区1、実験区2、および実験区3の4区を設定した。また、水に溶かす炭水化物として、次の糖類A〜糖類Cを用いた。
糖類Aは、水に溶け、ヌルヌルした粘性を呈する。
糖類Bは、水に溶け、ベタベタした粘性を呈する。粘度は比較的高く、浸透圧は比較的低い。
糖類Cは、水に溶け、ベタベタした粘性を呈する。粘度は比較的低く、浸透圧は比較的高い。
【0033】
また、図2に示すように、実験区1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、実験区2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が20重量パーセントである水溶液を用いた。そして、実験区3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が20重量パーセントである水溶液を用いた。
【0034】
(ハウス内実験)
このハウス内実験では、衣装ケースを19個、降雨セット(ペットボトル、シャワー等)、サンプリング用広口ビンを実験用資材として使用した。
【0035】
(1)成分濃度比較実験
図3は、法面ハウスモデルのイメージを示す図である。この法面ハウスモデル5は、幅44cm、奥行きが30cm、高さが20cmであり、斜面の長さが28.3cmとなるように成形されている。また、斜面Tの面積は、約0.017m2の面積を有し、約0.018m3の体積を有している。このハウス内実験では、「コストをなるべく低く抑える」という観点から、効果を十分に発揮する必要最低の糖類の添加量を見出すことを主眼とする。
【0036】
図4は、ハウス内実験の実験区の設定例を示す図である。図4では、実験区として、無処理区、実験区1−1、1−2、2−1〜2−4、3−1〜3−4の11区を設定した。また、水に溶かす炭水化物として、フィールド実験と同様に、糖類A〜糖類Cを用いた。
【0037】
また、図4に示すように、実験区1−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、実験区1−2では、糖類Aの濃度が1.0重量パーセントである水溶液を用いた。また、実験区2−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が1.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区2−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が5.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区2−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が10.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区2−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が10.0重量パーセントである水溶液を用いた。また、実験区3−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が1.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区3−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が5.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区3−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が10.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区3−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が20.0重量パーセントである水溶液を用いた。
【0038】
(2)風化実験
本発明に係る水溶液を土壌表面に散布した後、効果がどのくらい持続するかを確認するために、風化実験を行なった。図5は、風化実験の実験区の設定例を示す図である。図5では、実験区として、実験区4−1〜4−4、5−1〜5−4の8区を設定した。また、水に溶かす炭水化物として、フィールド実験と同様に、糖類A〜糖類Cを用いた。ただし、糖類Bまたは糖類Cについては、図5中、☆で示したように、上記(1)成分濃度比較実験で得られた最も適切な濃度を適用した。
【0039】
図5に示すように、実験区4−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として3日間放置した。実験区4−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として7日間放置した。実験区4−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として14日間放置した。実験区4−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として30日間放置した。
【0040】
また、実験区5−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として3日間放置した。実験区5−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として7日間放置した。実験区5−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として14日間放置した。実験区5−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として30日間放置した。
【0041】
(ハウス内実験の結果)
実験手順は、法面ハウスモデルの表面に炭水化物水溶液を散布してコーティングを行ない、散布後、約半日間、表面を自然乾燥させる。次に、ペットボトルまたはシャワー等を用いて、120ml/h(2リットル/分)の水を法面ハウスモデルの表面に供給し、強雨を再現する。
【0042】
その結果、無処理区では、水によって表面が浸食され、表土流出が発生した。そして、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、赤土によって著しく濁った。一方、コーティング処理をした実験区では、水による表面の浸食は起こらず、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、濁らなかった。
【0043】
次に、法面ハウスモデルの表面に炭水化物水溶液を散布してコーティングを行ない、散布後、約半日間、表面を自然乾燥させる。次に、ペットボトルまたはシャワー等を用いて、720ml/h(12リットル/分)の水を法面ハウスモデルの表面に供給し、超強雨を再現する。
【0044】
その結果、無処理区では、水によって表面が浸食され、表土流出が発生した。そして、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、赤土によって著しく濁った。一方、コーティング処理をした実験区では、水圧により縁辺部の一部が崩れ、放流水に濁りが発生したものの、法面ハウスモデルの斜面上では水による浸食はほとんど発生していないことが確認された。
【0045】
次に、法面ハウスモデルの表面に炭水化物水溶液を散布してコーティングを行ない、散布後、約半日間、表面を自然乾燥させる。次に、ペットボトルまたはシャワー等を用いて、120ml/h(2リットル/分)の水を、1時間おきに法面ハウスモデルの表面に供給し、継続する強雨を再現する。
【0046】
その結果、無処理区では、水によって表面が浸食され、表土流出が発生した。そして、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、赤土によって著しく濁った。一方、コーティング処理をした実験区では、水圧により縁辺部の一部が崩れ、放流水に濁りが発生したものの、12回にも及び強雨状態を再現しても、濁りは悪化することが無いことが確認された。
【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、動粘度という概念を導入して散布する水溶液の性質を規定する。この「動粘度」とは、液体が重力の作用で流動するときの抵抗の大小を示す尺度であり、粘度をその液体の同一条件下(同一温度および同一圧力)における密度で除したときの商である。また、粘度とは液体に作用したせん断応力とせん断速度との比である。粘度係数と呼ばれることもある。第2の実施形態では、動粘度を規定することにより、水溶液を調整する。動粘度の測定方法は、下記の通りである。なお、試料は、グアガムを用いたが、これに限定されるわけではなく、他の多糖類を用いることも可能である。
【0048】
動粘度および粘度の計算式は、次の通りである。
動粘度(mm2/s;10−6m2/s)=粘度計定数×流出時間(s)、
粘度(Pa・s)=動粘度×密度(103kg/m3)
【0049】
まず、精製水100ml(0.1l)をマグネティックスターラーで攪拌しながら、以下の要領で試料をゆっくりと添加する。
(1)0.1%水溶液・・・試料0.1g(1.0×10−4kg)を計りとり、精製水に溶解させる。1種類の0.1%水溶液を調整し、その水溶液で動粘度を3回測定する。
(2)0.5%水溶液・・・試料0.5g(5.0×10−4kg)を計りとり、精製水に溶解させる。3つの容器に、この0.5%水溶液を調整し、各容器について1回ずつ、合計で動粘度を3回測定する。
(3)飽和的水溶液・・・試料用容器に試料2g(2.0×10−3kg)を計りとり、精製水に溶解させて不溶解物が生成し始めるまで試料を添加する。不溶解物が生成し始めたら、直ちに水溶液と容器の重量を計り、添加した試料重量を求める。3つの容器に、この飽和的水溶液を調整し、試料重量の平均値を求める。なお、この飽和的水溶液とは、溶媒に溶け得る最大量の溶質が溶けたという意味での飽和ではなく、粘性が極めて高くなって試料が非常に溶けにくい状態になっていることを意味するものである。
【0050】
上記のように、各水溶液を調整した後、30分間静置する。そして、粘度計によって、水溶液の粘度・動粘度を測定する。図6は、動粘度の測定結果を示す表である。図6によれば、0.1%水溶液の動粘度は、1.6mm2/s(1.6×10−6m2/s)〜8.0mm2/s(8.0×10−6m2/s)の間の値を取った。そして、平均動粘度は、2.1mm2/s(2.1×10−6m2/s)であった。また、0.5%水溶液の動粘度は、100.0mm2/s(100×10−6m2/s)〜500.0mm2/s(500.0×10−6m2/s)の間の値を取った。そして、平均動粘度は、135.0mm2/s(135.0×10−6m2/s)であった。さらに、上記飽和的水溶液の動粘度は、1600.0mm2/s(1600.0×10−6m2/s)〜8000.0mm2/s(8000.0×10−6m2/s)の間の値を取った。そして、平均動粘度は、1750.0mm2/s(1750.0×10−6m2/s)であった。
【0051】
このように、動粘度によって水溶液の性質を規定することによって、浸食性土壌の表面をコーティングする機能を発揮し得る水溶液を特定することが可能となる。本発明では、水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下としている。このような数値範囲とすることにより、浸食性土壌の表面に散布した際、コーティング機能を十分に発揮させることができる。
【0052】
次に、本発明の効果を実証するために行なったフィールド実験について説明する。
[実験区設定]
沖縄の赤黄色土の地域において、図1に示すような切土法面フィールドモデルを造成する。実験区外からの雨水や土が混入することを防止するため、図1と同様に波板を設ける。法面の表流水をサンプリングするために、図1と同様に、水槽を設置する。なお、図1とは異なり、この水槽には屋根を設けて、雨の直接的な浸入を防止し、法面の表流水のみをサンプリングできるようにした。また、切土法面フィールドモデルの造成によって発生した残土を積み上げて、仮置きを想定した盛土モデルを作成した。
【0053】
[水溶液の調整および法面のコーティング]
次に、濃度が異なる3種類の水溶液を調整する。第2の実施形態では、糖類Aとしてグアガム、糖類Bとして粉あめ、糖類Cとしてデキストリンを用いた。より具体的には、水1リットルに対してグアガムを5グラム溶かした水溶液1と、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよび粉飴を50グラム溶かした水溶液2と、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよびデキストリンを50グラム溶かした水溶液3を調整した。なお、水溶液1は、実質的にグアガム0.5重量パーセントの水溶液であり、水溶液2は、実質的にグアガム0.5重量パーセント、粉あめ5重量パーセント濃度の水溶液であり、水溶液3は、実質的にグアガム0.5重量パーセント、デキストリン5重量パーセントの水溶液である。
【0054】
上記のように調整した各水溶液を、各実験区の切土法面に散布する(法面のコーティング)。図7は、各実験区に散布された水溶液の種類を示す表である。実験区1では、糖類A(グアガム)の濃度が実質的に0.5重量パーセントである水溶液1を用い、実験区2では、糖類A(グアガム)の濃度が実質的に0.5重量パーセントであり、糖類B(粉あめ)の濃度が実質的に5重量パーセントである水溶液2を用いた。そして、実験区3では、糖類A(グアガム)の濃度が実質的に0.5重量パーセントであり、糖類C(デキストリン)の濃度が実質的に5重量パーセントである水溶液3を用いた。なお、これらの3種類の水溶液の動粘度は、概ね100.0mm2/s(100.0×10−6m2/s)〜500.0mm2/s(500.0×10−6m2/s)の値を取り、本発明で規定した動粘度の範囲である2mm2/s(2×10−6m2/s)以上2000mm2/s(2000×10−6m2/s)の範囲に入っている。
【0055】
[降雨実験1]
上記水溶液を各実験区に散布した翌日、各実験区に対して散水を行なう。散水量は3分間で18リットルである。この散水量は、360mm/h(0.36m/h)の降雨に相当する。
【0056】
[降雨実験1の結果]
図8は、降雨実験1の結果を示す図である。無処理区では、散水開始から大量の赤土流出が発生したため、30秒程度で散水を中止した。散水を途中で中止したにも関わらず、無処理区では、SS(Suspended Solids:浮遊物質量)が71,400(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が49,424度であり、蒸発残留物が70,800(mg/l:10−3kg/l)であった。実験区1では、SSが22(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が25度であり、蒸発残留物が250(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区1における抑制率は、SSについては99.97%であり、濁度については99.95%であり、蒸発残留物については99.65%であった。また、実験区2では、SSが11(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が15度であり、蒸発残留物が897(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区2における抑制率は、SSについては99.98%であり、濁度については99.97%であり、蒸発残留物については98.73%であった。そして、実験区3では、SSが4(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が9度であり、蒸発残留物が1670(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区3における抑制率は、SSについては99.99%であり、濁度については99.98%であり、蒸発残留物については97.64%であった。
【0057】
[降雨実験1の考察]
上記のように、無処理区と比較して、実験区1〜3において、非常に高い抑制効果が認められた。具体的には、SSについては99.9%以上、濁度については99.9%以上、蒸発残留物については97.6%以上の抑制率が得られた。また、糖類A(グアガム)と共に糖類B(粉あめ)と糖類C(デキストリン)を添加することによって、SSの抑制効果が高まる一方、蒸発残留物については、糖類A(グアガム)のみの場合に対して、相対的に多くなる結果が得られた。これにより、糖類B(粉あめ)と糖類C(デキストリン)は、糖類A(グアガム)と比較して、水に溶け出しやすいことが示唆される。
【0058】
[降雨実験2]
上記降雨実験1の翌日、各実験区に対して再び散水を行なう。散水量は6分間で36リットルである。2日間の散水量の合計は、54リットルとなる。
【0059】
[降雨実験2の結果]
図9は、降雨実験2の結果を示す図である。無処理区では、散水開始から大量の赤土流出が発生したため、3分で散水を中止した。散水を途中で中止したにも関わらず、無処理区では、SSが108,000(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が78,636度であり、蒸発残留物が109,000(mg/l:10−3kg/l)であった。実験区1では、SSが1940(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が969度であり、蒸発残留物が2140(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区1における抑制率は、SSについては98.20%であり、濁度については98.77%であり、蒸発残留物については98.04%であった。また、実験区2では、SSが1200(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が443度であり、蒸発残留物が1590(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区2における抑制率は、SSについては98.89%であり、濁度については99.44%であり、蒸発残留物については98.54%であった。そして、実験区3では、SSが36(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が70度であり、蒸発残留物が467(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区3における抑制率は、SSについては99.97%であり、濁度では99.91%であり、蒸発残留物では97.57%であった。
【0060】
[降雨実験2の考察]
降雨実験2では、降雨実験1に加えて更に過酷な条件を与えたため、各実験区でも赤土の流出がみられたものの、無処理区と比較すると、降雨実験2においても非常に高い抑制効果が認められた。具体的には、SSについては98.2%以上、濁度については98.8%以上、蒸発残留物については98.0%以上の抑制率が得られた。また、糖類B(粉あめ)と糖類C(デキストリン)の添加によって、抑制効果が高まる傾向が明らかに認められた。特に、粘性の高い糖類C(デキストリン)の抑制効果は顕著に現れた。
【0061】
[降雨実験3]
上記切土法面フィールドモデルに、水1リットルに対して糖類A(グアガム)を5グラム溶かした水溶液1を散布し、実際の台風に曝露してその抑制効果を検証した。図10は、降雨実験3の実験区を示す図である。降雨実験3では、台風曝露時に水溶液1を散布した後3日経過した3日経過区、以下同様に、5日経過区、9日経過区、16日経過区を設定した。なお、この台風は、平成18年の台風第3号であり、降雨量150mm(0.15m)/h、風速25mが記録されている。
【0062】
[降雨実験3の結果]
図11および図12は、降雨実験3の結果を示す図である。無処理区では、SSが33,300(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が30,500度であり、蒸発残留物が33,000(mg/l:10−3kg/l)であった。3日経過区では、SSが6(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が35度であり、蒸発残留物が773(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、3日経過区における抑制率は、SSについては99.98%であり、濁度については99.89%であり、蒸発残留物については97.66%であった。また、5日経過区2では、SSが2(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が25度であり、蒸発残留物が917(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、5日経過区における抑制率は、SSについては99.99%であり、濁度については99.92%であり、蒸発残留物については97.22%であった。9日経過区では、SSが1,700(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が1,060度であり、蒸発残留物が2,000(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、9日経過区における抑制率は、SSについては94.89%であり、濁度では96.52%であり、蒸発残留物では93.94%であった。そして、16日経過区では、SSが2,230(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が1,310度であり、蒸発残留物が2,580(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、16日経過区における抑制率は、SSについては93.30%であり、濁度では95.70%であり、蒸発残留物では92.18%であった。
【0063】
[降雨実験3の考察]
実際の台風の下でも、本発明は十分な効果が得られることが確認された。水溶液1を切土法面に散布してから5日以内の場合は、SSの上限基準値である25ppmをクリアしている。図11によれば、散布後9日以降はSS、濁度、蒸発残留物のそれぞれが増大しているが、実際の数値を見ると、散布後2週間以上経過した場合でも、SS、濁度、蒸発残留物のそれぞれについて、90%以上の抑制効果が認められた。
【0064】
[盛土モデルにおける降雨実験]
上記のように、切土法面フィールドモデルの造成によって発生した残土を積み上げて、仮置きを想定した盛土モデルを作成し、この盛土モデルに、水1リットルに対して糖類A(グアガム)を5グラム溶かした水溶液1を散布した。
【0065】
[盛土モデルにおける降雨実験の結果]
水溶液1を散布した翌日、ジェット状にして約100リットルの水を吹き付けても、表面の浸食は生じなかった。
【0066】
[盛土モデルにおける降雨実験の考察]
降雨実験1から3の場合のような切土法面では、水溶液を散布すると、あまり浸透せずに表流水となってしまうことが認められた。これに対し、盛土では、その表面が多孔質となっているため、多糖類のコーティングによって、その多孔質の構造が維持されるので、大量の水を吸収することができる。そのため、盛土モデルでは、降雨時(散水時)に、切土法面よりも表面浸食が起こりにくいことが認められた。本発明によれば、切土面のみならず、盛土、特に、填圧の弱い発生土の仮置き場における表土流出対策について効果を奏するものと期待される。
【0067】
次に、本発明の効果を実証するために行なったハウス実験(ハウス内での実験)について説明する。
[実験区設定]
浸食性土壌として、国頭マージを調達し、粗めのふるいにかけて粒径を整える。樹脂製の衣装ケース内に粒径を整えた国頭マージを入れて、傾斜45度の法面モデルを作製する。この際、土の表面に対して、軽く抑える程度の圧力を加える。
【0068】
[水溶液の調整および法面のコーティング]
次に、上記法面モデルに、水1リットルに対して糖類A(グアガム)を5グラム溶かした水溶液1を散布して表土のコーティングを行なう。同じ条件のモデルを2区設定する。
【0069】
[ハウス内における降雨実験]
上記のコーティングの2日後、各区に対してシャワー状の散水を行なう。散水量は合計で10リットルである。雨の強さに換算すると、120mm(0.12m)/hに相当する。単位面積あたりの総雨量は、250mm(0.25m)に相当する。この降雨実験では、一度に4リットル散水して、4リットル以降、1リットル散水するたびにサンプリングする降雨実験1−1と、初めから1リットル散水するたびにサンプリングする降雨実験1−2とを行なった。
【0070】
[ハウス内における降雨実験の結果]
図13から図16は、ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。無処理の場合は、いずれの降雨実験(1−1および1−2)においても、SSが79,900(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が14,100度であり、蒸発残留物が40,700(mg/l:10−3kg/l)であった。これに対し、降雨実験1−1において、最初の4リットル散水したときは、SSが380(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が182度であり、蒸発残留物が513(mg/l:10−3kg/l)であった。この場合、無処理区に対する抑制率は、SSについては99.52%であり、濁度については98.71%であり、蒸発残留物については98.74%であった。
【0071】
また、降雨実験1−1において、5リットル散水したときは、SSが566(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が221度であり、蒸発残留物が677(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.29%であり、濁度については98.43%であり、蒸発残留物については98.34%であった。また、降雨実験1−1において、6リットル散水したときは、SSが442(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が221度であり、蒸発残留物が563(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.45%であり、濁度については98.43%であり、蒸発残留物については98.62%であった。
【0072】
降雨実験1−1において、7リットル散水したときは、SSが618(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が284度であり、蒸発残留物が773(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.23%であり、濁度については97.99%であり、蒸発残留物については98.10%であった。また、降雨実験1−1において、8リットル散水したときは、SSが542(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が256度であり、蒸発残留物が667(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.32%であり、濁度については98.18%であり、蒸発残留物については98.36%であった。
【0073】
降雨実験1−1において、9リットル散水したときは、SSが412(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が240度であり、蒸発残留物が563(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.48%であり、濁度については98.30%であり、蒸発残留物については98.62%であった。また、降雨実験1−1において、10リットル散水したときは、SSが486(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が283度であり、蒸発残留物が630(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.39%であり、濁度については97.99%であり、蒸発残留物については98.45%であった。
【0074】
一方、降雨実験1−2において、1リットル散水したときは、SSが214(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が122度であり、蒸発残留物が353(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.73%であり、濁度については99.13%であり、蒸発残留物については99.13%であった。また、降雨実験1−2において、2リットル散水したときは、SSが560(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が272度であり、蒸発残留物が653(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.30%であり、濁度については98.07%であり、蒸発残留物については98.40%であった。
【0075】
降雨実験1−2において、3リットル散水したときは、SSが618(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が306度であり、蒸発残留物が823(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.23%であり、濁度については97.83%であり、蒸発残留物については97.98%であった。また、降雨実験1−2において、4リットル散水したときは、SSが582(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が281度であり、蒸発残留物が767(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.27%であり、濁度については98.01%であり、蒸発残留物については98.12%であった。
【0076】
降雨実験1−2において、5リットル散水したときは、SSが454(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が229度であり、蒸発残留物が610(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.43%であり、濁度については98.38%であり、蒸発残留物については98.50%であった。また、降雨実験1−2において、6リットル散水したときは、SSが670(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が300度であり、蒸発残留物が1,370(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.16%であり、濁度については97.87%であり、蒸発残留物については96.63%であった。
【0077】
降雨実験1−2において、7リットル散水したときは、SSが624(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が276度であり、蒸発残留物が723(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.22%であり、濁度については98.04%であり、蒸発残留物については98.22%であった。また、降雨実験1−2において、8リットル散水したときは、SSが740(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が327度であり、蒸発残留物が867(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.07%であり、濁度については97.68%であり、蒸発残留物については97.87%であった。
【0078】
降雨実験1−2において、9リットル散水したときは、SSが762(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が356度であり、蒸発残留物が940(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.05%であり、濁度については97.48%であり、蒸発残留物については97.69%であった。また、降雨実験1−2において、10リットル散水したときは、SSが624(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が232度であり、蒸発残留物が763(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.22%であり、濁度については98.35%であり、蒸発残留物については98.13%であった。
【0079】
[ハウス実験の考察]
ハウス実験では、土の表面にほとんど填圧をかけないで散水を行なったが、このような条件下でも、本発明には十分な表土流出抑制効果が認められた。散水を始めてから2リットル目から、サンプリングした水に赤土の色が付き始めるが、抑制率は90%以上を維持し、その後、10リットル目まで著しく悪化することは無かった。これにより、本発明は、十分な表土流出抑制効果を奏するものと認められる。
【0080】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、土壌表面が上記炭水化物の粘着性によって固化し、コーティングを施した状態になるので、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、表土の流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。また、上記炭水化物の水溶液を用いるので、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、上記水溶液を微粒子粘性土壌に散布して乾燥させることにより土壌表面を固化させることができるので、ブルーシートを用いる場合と比較して、手間、コストおよび時間を少なくすることができる。また、水溶液を散布するための装置さえあれば本発明を実施することができるので、特殊な機材、大型機材を必要とせず、また、専門のオペレータを必要とせず、簡易に作業を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】法面フィールドモデルのイメージを示す図である。
【図2】フィールド実験の実験区の設定例を示す図である。
【図3】法面ハウスモデルのイメージを示す図である。
【図4】ハウス内実験の実験区の設定例を示す図である。
【図5】風化実験の実験区の設定例を示す図である。
【図6】動粘度の測定結果を示す表である。
【図7】各実験区に散布された水溶液の種類を示す表である。
【図8】降雨実験1の結果を示す図である。
【図9】降雨実験2の結果を示す図である。
【図10】降雨実験3の実験区を示す図である。
【図11】降雨実験3の結果を示す図である。
【図12】降雨実験3の結果を示す図である。
【図13】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【図14】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【図15】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【図16】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 法面フィールドモデル
2 波板
3 水槽
5 法面ハウスモデル
S、T 斜面
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に、沖縄本島、久米島、石垣島などに分布する赤黄色土の「国頭マージ」や、主に、沖縄本島中南部、宮古島などに分布し泥岩を由来とする残積性未熟土の「ジャーガル」などは、他の土壌と比較して、水や風によって浸食されやすい特質がある。このような浸食され易い土壌を、本明細書では「浸食性土壌」と呼称する。このような浸食性土壌を主とする農地や造成工事現場では、降雨等によって表土流亡が生ずると共に、土の微粒子を大量に含んだいわゆる「赤水」が発生し、河川や海洋の汚染の原因となっている。このような環境汚染を防止するため、造成工事現場では、発生する赤水に対して許容されるSS(Suspended Solids:浮遊物質量)は、200ppm以下と定められている。しかし、最近では、施工後の現場環境が施工前の現場環境よりも悪くならないように、より厳しい基準を満たすことが求められている。具体的には、SSを25ppm以下に抑えることが求められている。
【0003】
上記のような赤水の発生を防止するために、従来から、赤水の発生源対策が施されている。例えば、造成工事現場では、雨が降る前に工事現場全体をブルーシート等で覆う手法、土壌団粒化剤を土壌表面に吹き付ける手法、アスファルト乳剤を土壌表面に吹き付ける手法などが採られている。また、土壌表面への種子吹き付け、砕石敷均し、流しコーラル、締め固めといった手法が採られることもある。
【0004】
特許文献1には、赤土に固化剤と土壌団粒化剤とを混合し、赤土を団粒化させることで、通気、透水性に優れた土壌構造を得る技術が開示されている。また、特許文献2には、浸食性土壌に平均粒径が0.4mm以下のカルボキシル基含有水溶性重合体粉末を添加混合し、その後、平均粒径が1mm以下の粉末状の石灰を添加混合することにより、土壌を団粒化させ、表土の流出を防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−256154号公報
【特許文献2】特開平7−097574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、赤水の発生を防止するために工事現場全体をブルーシート等で覆う手法では、ブルーシート等が風などの要因で捲れた場合は、全く効果を奏しないこととなる。また、工事を再開する場合は、覆ったブルーシート等を取り外さなければならず、手間を要してしまう。さらに、工事現場が広範囲におよぶ場合は時間と労力は倍加する。また、土壌団粒化剤を土壌表面に吹き付ける手法およびアスファルト乳剤を土壌表面に吹き付ける手法では、使用される資材が、環境を汚染したり人体に悪影響を及ぼしたりする恐れのある化学物質を含んでいる場合がある。このため、特に、保護すべき貴重な動植物が生息する山間部などで実施する場合は十分注意しなければならない。
【0006】
また、土壌表面への種子吹き付けでは、発芽して十分な効果が得られるまでに時間を要してしまう。また、砕石敷均しは、道路面には適切であるが、砕石を土壌表面に敷き詰めるため、切土や法面への適用は困難である。流しコーラルも砕石敷均し同様に、道路工事には適切であるが、切土や法面への適用は困難である。締め固めは、単に裸地面に対して圧力をかけて締めるのみであるため、降雨時には土壌表面が簡単に浸食されてしまう。
【0007】
また、特許文献1記載の技術は、赤土を土壌表面から取り出して固化剤と土壌団粒化剤を混合させ、団粒化させた後で元に戻す手順を踏むが、取り出した後に残された土壌表面については何ら考慮されていない。このため、赤土に固化剤と土壌団粒化剤とを混合させて元に戻すまでは、土壌表面は何ら処理されていないため、降雨等により、表土流出が生じてしまう。さらに、固化剤や土壌団粒化剤が化学物質を含んでいる場合は、環境や人体への影響も無視できない場合もある。また、特許文献2記載の技術は、カルボキシル基を含有した水溶性の重合体を使用するため、化学物質による環境への影響が懸念される。また、特許文献2には、半合成の水溶性重合体の例として、グアガムを用いた場合が記載されている。しかし、グアガムを用いた場合は、表土の流出防止のためには十分な効果が得られなかったことが明記されている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、浸食性土壌の表面の浸食を有効に防止すると共に、環境および人体に対して与える影響を極めて小さくすることができる表土流出抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成させるため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の表土流出抑制方法は、浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法であって、食物繊維または増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物を溶質とする水溶液を作製する第1工程と、前記水溶液を前記浸食性土壌の表面に散布する第2工程と、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0010】
このように、炭水化物の水溶液を用いるため、人体および環境へ与える影響を極めて小さくすることができる。また、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物の水溶液は、粘着性を有しているため、浸食性土壌の表面に散布すると、コーティング機能を発揮する。本発明は、このような上記水溶液の機能を利用し、上記水溶液を浸食性土壌の表面に散布することを特徴とする。これにより、浸食性土壌の表面が上記炭水化物の粘着性によって、コーティングを施した状態になる。この状態になると、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、水や風による表土の浸食や流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。
【0011】
(2)また、本発明の表土流出抑制方法において、前記第1工程では、前記水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下とすることを特徴としている。
【0012】
動粘度とは、液体が重力の作用で流動するときの抵抗の大小を示す尺度で、粘度をその液体の同一条件下(同一温度および同一圧力)における密度で除したときの商である。また、粘度とは液体に作用したせん断応力とせん断速度との比である。本発明では、第1工程において、水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下としている。このような数値範囲とすることにより、浸食性土壌の表面に散布した際、コーティング機能を十分に発揮させることができる。
【0013】
(3)また、本発明の表土流出抑制方法において、前記第1工程では、水1リットルに対してグアガムを5グラム溶かした水溶液、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよび粉飴を50グラム溶かした水溶液、または、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよびデキストリンを50グラム溶かした水溶液の、いずれかを作製することを特徴としている。
【0014】
第1工程において、水溶液をこのように作製することによって、浸食性土壌の表面に散布した際、コーティング機能を十分に発揮させることができる。
【0015】
また、本発明の表土流出抑制方法の他の一形態は、粘土粒子を体積比率で50%以上含有する微粒子粘性土壌の表面を固化させて表土の流出を抑制する表土流出抑制方法であって、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物を水に溶かし、前記水溶液の濃度が0.2重量パーセント以上となるように調整する工程と、前記水溶液を前記微粒子粘性土壌の表面に散布する工程と、前記水溶液が散布された微粒子粘性土壌の表面を乾燥させる工程と、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0016】
食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物の水溶液は、粘着性を有しており、飴または水飴のようになる。本発明は、このような上記炭水化物の機能を利用して、微粒子粘性土壌の表面を固化させる。上記水溶液を散布した後、乾燥させると、土壌表面が上記炭水化物の粘着性によって固化し、コーティングを施した状態になる。この状態になると、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、表土の流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
また、上記炭水化物の水溶液を用いるので、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、上記水溶液を微粒子粘性土壌に散布して乾燥させることにより土壌表面を固化させることができるので、ブルーシートを用いる場合と比較して、手間および時間を少なくすることができる。また、水溶液を散布するための装置さえあれば本発明を実施することができるので、特殊な機材、大型機材を必要とせず、また、専門のオペレータを必要とせず、簡易に作業を行なうことが可能となる。
【0018】
また、本発明の表土流出抑制方法の他の一形態は、前記水溶液の濃度は、実質的に0.5重量パーセントであることを特徴としている。
【0019】
このように、水溶液の濃度は、実質的に0.5重量パーセントであるので、散布しやすくなると共に、土壌の表面を十分に固化させることが可能となる。
【0020】
また、本発明の表土流出抑制方法の他の一形態は、前記水溶液を前記微粒子粘性土壌の表面に散布する工程では、1平方メートルあたり実質的に3から5リットルの割合で散布することを特徴としている。
【0021】
このように、1平方メートルあたり実質的に3リットルの割合で散布するので、水溶液を土壌に十分にしみ込ませることができると共に、土壌表面を十分に固化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭水化物の水溶液を用いるため、人体および環境へ与える影響を極めて小さくすることができる。また、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物の水溶液は、粘着性を有しているため、浸食性土壌の表面に散布すると、コーティング機能を発揮する。本発明は、このような上記水溶液の機能を利用し、上記水溶液を浸食性土壌の表面に散布することを特徴とする。これにより、浸食性土壌の表面が上記炭水化物の粘着性によって、コーティングを施した状態になる。この状態になると、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、水や風による表土の浸食や流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。また、上記水溶液を浸食性土壌に散布することにより土壌表面をコーティングすることができるので、ブルーシートを用いる場合などと比較して、手間および時間を少なくすることができる。また、水溶液を散布するための装置さえあれば本発明を実施することができるので、特殊な機材、大型機材を必要とせず、また、専門のオペレータを必要とせず、簡易に作業を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、沖縄の赤黄色土や関東ローム層などに分布し、水や風により浸食され易い浸食性土壌である「赤土」を主とする造成工事現場において本発明を実施した場合を説明する。すなわち、切土、盛土直後の心土が露出した状態の造成法面を、本発明に係る表土流出抑制方法によってコーティングし、暫定的に手当てする。なお、浸食性土壌とは、浸食されやすい土壌を意味するものであり、上記「赤土」に限定されるわけではない。例えば、主に、沖縄本島、久米島、石垣島などに分布する赤黄色土の「国頭マージ」のみならず、主に、沖縄本島中南部、宮古島などに分布し泥岩を由来とする残積性未熟土の「ジャーガル」などの土壌も浸食性土壌に該当する。
【0024】
土壌表面のコーティングには、食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物を水に溶かし、前記水溶液の濃度が0.2重量パーセント以上となるように調整する。より好ましくは、前記水溶液の濃度は0.5重量パーセントである。
【0025】
溶媒としては、水が好適であるが、揮発性の液体を用いても良い。揮発性の液体を用いることによって、土壌表面に散布した後の乾燥・固化を促進することが見込まれる。
【0026】
また、溶質としては、「食物繊維若しくは増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物、または粘性を有する少なくとも一種類の炭水化物」であるが、具体的には、次のものが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いても良い。
【0027】
すなわち、タマリンドガム、キサンタンガム、カードラン、ガディガム、カラギナン、ユーケマ藻類、カラヤガム、カロブビーンガム、ジェランガム、ダンマル樹脂、トンガントガム、寒天、ガラクトマンナン(グアガム)、グルコマンナン(コンニャク)、ローカストビーンガム、アルギン酸、ポリウロニド、カルボキシルメチルセルロース、ポリデキストロース、コンドロイチン、デキストリン、マルチトール、ガラクツロナン、β−D−グルカン、キシラン、マンナンガラクタン、芳香族炭化水素(リグニン)、ポリグルコサミン、キトサン、コラーゲン、黒砂糖、和三盆糖、上白糖、三温糖、グラニュー糖、白ざら糖、中ざら糖、角砂糖、氷砂糖、粉糖、しょ糖型液糖、転化型液糖、氷糖蜜、粉飴、水飴、ブドウ糖、果糖、異性化糖、はちみつ、メープルシロップ等である。
【0028】
また、本発明では、これらの水溶液を微粒子粘性土壌の表面に散布し、その水溶液が散布された微粒子粘性土壌の表面を乾燥させる。
【0029】
本発明の効果を測定するために、フィールド実験およびハウス内実験を行なった。フィールド実験では、法面フィールドモデルを造り、本発明に係る水溶液を散布した。次に、自然の天候条件下に曝露し、効果を確認した。ハウス内実験では、(1)成分濃度比較実験として、ガラスハウス内で法面ハウスモデルを使用し、上記フィールド実験を補足するデータを収集した。また、成分の配合比率による効果の違いを確認する。また、(2)風化実験として、本発明に係る水溶液を散布した後、効果が持続する日数を確認した。
【0030】
(フィールド実験)
このフィールド実験では、バックホー(オペレータ有)、15リットル以上のバケツを3個、攪拌棒、噴霧器(散布装置)を2個、波板、水槽、サンプリング用広口ビン、ビニールテープを実験用資材として使用した。
【0031】
図1は、法面フィールドモデルのイメージを示す図である。この法面フィールドモデル1は、横幅が1.5m、高さが2.0m、斜面Sの面積が3.6m2に成形されている。また、法面フィールドモデル1の斜面S上に波板2を設け、実験区外の表面流出水が混入することを防いでいる。また、斜面S下方に水槽3を設置し、実験区内で発生する表面流出水をサンプリングする。なお、法面フィールドモデル1の造成にあたり、心土を露出させる程度に硬化した表面部分を削り、現地形を大きく変えないこととする。
【0032】
図2は、フィールド実験の実験区の設定例を示す図である。図2では、実験区として、無処理区、実験区1、実験区2、および実験区3の4区を設定した。また、水に溶かす炭水化物として、次の糖類A〜糖類Cを用いた。
糖類Aは、水に溶け、ヌルヌルした粘性を呈する。
糖類Bは、水に溶け、ベタベタした粘性を呈する。粘度は比較的高く、浸透圧は比較的低い。
糖類Cは、水に溶け、ベタベタした粘性を呈する。粘度は比較的低く、浸透圧は比較的高い。
【0033】
また、図2に示すように、実験区1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、実験区2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が20重量パーセントである水溶液を用いた。そして、実験区3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が20重量パーセントである水溶液を用いた。
【0034】
(ハウス内実験)
このハウス内実験では、衣装ケースを19個、降雨セット(ペットボトル、シャワー等)、サンプリング用広口ビンを実験用資材として使用した。
【0035】
(1)成分濃度比較実験
図3は、法面ハウスモデルのイメージを示す図である。この法面ハウスモデル5は、幅44cm、奥行きが30cm、高さが20cmであり、斜面の長さが28.3cmとなるように成形されている。また、斜面Tの面積は、約0.017m2の面積を有し、約0.018m3の体積を有している。このハウス内実験では、「コストをなるべく低く抑える」という観点から、効果を十分に発揮する必要最低の糖類の添加量を見出すことを主眼とする。
【0036】
図4は、ハウス内実験の実験区の設定例を示す図である。図4では、実験区として、無処理区、実験区1−1、1−2、2−1〜2−4、3−1〜3−4の11区を設定した。また、水に溶かす炭水化物として、フィールド実験と同様に、糖類A〜糖類Cを用いた。
【0037】
また、図4に示すように、実験区1−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、実験区1−2では、糖類Aの濃度が1.0重量パーセントである水溶液を用いた。また、実験区2−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が1.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区2−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が5.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区2−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が10.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区2−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Bの濃度が10.0重量パーセントである水溶液を用いた。また、実験区3−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が1.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区3−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が5.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区3−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が10.0重量パーセントである水溶液を用い、実験区3−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類Cの濃度が20.0重量パーセントである水溶液を用いた。
【0038】
(2)風化実験
本発明に係る水溶液を土壌表面に散布した後、効果がどのくらい持続するかを確認するために、風化実験を行なった。図5は、風化実験の実験区の設定例を示す図である。図5では、実験区として、実験区4−1〜4−4、5−1〜5−4の8区を設定した。また、水に溶かす炭水化物として、フィールド実験と同様に、糖類A〜糖類Cを用いた。ただし、糖類Bまたは糖類Cについては、図5中、☆で示したように、上記(1)成分濃度比較実験で得られた最も適切な濃度を適用した。
【0039】
図5に示すように、実験区4−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として3日間放置した。実験区4−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として7日間放置した。実験区4−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として14日間放置した。実験区4−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントである水溶液を用い、設定条件として30日間放置した。
【0040】
また、実験区5−1では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として3日間放置した。実験区5−2では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として7日間放置した。実験区5−3では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として14日間放置した。実験区5−4では、糖類Aの濃度が0.5重量パーセントであり、糖類BまたはCの最適な濃度の水溶液を用い、設定条件として30日間放置した。
【0041】
(ハウス内実験の結果)
実験手順は、法面ハウスモデルの表面に炭水化物水溶液を散布してコーティングを行ない、散布後、約半日間、表面を自然乾燥させる。次に、ペットボトルまたはシャワー等を用いて、120ml/h(2リットル/分)の水を法面ハウスモデルの表面に供給し、強雨を再現する。
【0042】
その結果、無処理区では、水によって表面が浸食され、表土流出が発生した。そして、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、赤土によって著しく濁った。一方、コーティング処理をした実験区では、水による表面の浸食は起こらず、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、濁らなかった。
【0043】
次に、法面ハウスモデルの表面に炭水化物水溶液を散布してコーティングを行ない、散布後、約半日間、表面を自然乾燥させる。次に、ペットボトルまたはシャワー等を用いて、720ml/h(12リットル/分)の水を法面ハウスモデルの表面に供給し、超強雨を再現する。
【0044】
その結果、無処理区では、水によって表面が浸食され、表土流出が発生した。そして、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、赤土によって著しく濁った。一方、コーティング処理をした実験区では、水圧により縁辺部の一部が崩れ、放流水に濁りが発生したものの、法面ハウスモデルの斜面上では水による浸食はほとんど発生していないことが確認された。
【0045】
次に、法面ハウスモデルの表面に炭水化物水溶液を散布してコーティングを行ない、散布後、約半日間、表面を自然乾燥させる。次に、ペットボトルまたはシャワー等を用いて、120ml/h(2リットル/分)の水を、1時間おきに法面ハウスモデルの表面に供給し、継続する強雨を再現する。
【0046】
その結果、無処理区では、水によって表面が浸食され、表土流出が発生した。そして、法面ハウスモデルの斜面上を流れ落ちた水は、赤土によって著しく濁った。一方、コーティング処理をした実験区では、水圧により縁辺部の一部が崩れ、放流水に濁りが発生したものの、12回にも及び強雨状態を再現しても、濁りは悪化することが無いことが確認された。
【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、動粘度という概念を導入して散布する水溶液の性質を規定する。この「動粘度」とは、液体が重力の作用で流動するときの抵抗の大小を示す尺度であり、粘度をその液体の同一条件下(同一温度および同一圧力)における密度で除したときの商である。また、粘度とは液体に作用したせん断応力とせん断速度との比である。粘度係数と呼ばれることもある。第2の実施形態では、動粘度を規定することにより、水溶液を調整する。動粘度の測定方法は、下記の通りである。なお、試料は、グアガムを用いたが、これに限定されるわけではなく、他の多糖類を用いることも可能である。
【0048】
動粘度および粘度の計算式は、次の通りである。
動粘度(mm2/s;10−6m2/s)=粘度計定数×流出時間(s)、
粘度(Pa・s)=動粘度×密度(103kg/m3)
【0049】
まず、精製水100ml(0.1l)をマグネティックスターラーで攪拌しながら、以下の要領で試料をゆっくりと添加する。
(1)0.1%水溶液・・・試料0.1g(1.0×10−4kg)を計りとり、精製水に溶解させる。1種類の0.1%水溶液を調整し、その水溶液で動粘度を3回測定する。
(2)0.5%水溶液・・・試料0.5g(5.0×10−4kg)を計りとり、精製水に溶解させる。3つの容器に、この0.5%水溶液を調整し、各容器について1回ずつ、合計で動粘度を3回測定する。
(3)飽和的水溶液・・・試料用容器に試料2g(2.0×10−3kg)を計りとり、精製水に溶解させて不溶解物が生成し始めるまで試料を添加する。不溶解物が生成し始めたら、直ちに水溶液と容器の重量を計り、添加した試料重量を求める。3つの容器に、この飽和的水溶液を調整し、試料重量の平均値を求める。なお、この飽和的水溶液とは、溶媒に溶け得る最大量の溶質が溶けたという意味での飽和ではなく、粘性が極めて高くなって試料が非常に溶けにくい状態になっていることを意味するものである。
【0050】
上記のように、各水溶液を調整した後、30分間静置する。そして、粘度計によって、水溶液の粘度・動粘度を測定する。図6は、動粘度の測定結果を示す表である。図6によれば、0.1%水溶液の動粘度は、1.6mm2/s(1.6×10−6m2/s)〜8.0mm2/s(8.0×10−6m2/s)の間の値を取った。そして、平均動粘度は、2.1mm2/s(2.1×10−6m2/s)であった。また、0.5%水溶液の動粘度は、100.0mm2/s(100×10−6m2/s)〜500.0mm2/s(500.0×10−6m2/s)の間の値を取った。そして、平均動粘度は、135.0mm2/s(135.0×10−6m2/s)であった。さらに、上記飽和的水溶液の動粘度は、1600.0mm2/s(1600.0×10−6m2/s)〜8000.0mm2/s(8000.0×10−6m2/s)の間の値を取った。そして、平均動粘度は、1750.0mm2/s(1750.0×10−6m2/s)であった。
【0051】
このように、動粘度によって水溶液の性質を規定することによって、浸食性土壌の表面をコーティングする機能を発揮し得る水溶液を特定することが可能となる。本発明では、水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下としている。このような数値範囲とすることにより、浸食性土壌の表面に散布した際、コーティング機能を十分に発揮させることができる。
【0052】
次に、本発明の効果を実証するために行なったフィールド実験について説明する。
[実験区設定]
沖縄の赤黄色土の地域において、図1に示すような切土法面フィールドモデルを造成する。実験区外からの雨水や土が混入することを防止するため、図1と同様に波板を設ける。法面の表流水をサンプリングするために、図1と同様に、水槽を設置する。なお、図1とは異なり、この水槽には屋根を設けて、雨の直接的な浸入を防止し、法面の表流水のみをサンプリングできるようにした。また、切土法面フィールドモデルの造成によって発生した残土を積み上げて、仮置きを想定した盛土モデルを作成した。
【0053】
[水溶液の調整および法面のコーティング]
次に、濃度が異なる3種類の水溶液を調整する。第2の実施形態では、糖類Aとしてグアガム、糖類Bとして粉あめ、糖類Cとしてデキストリンを用いた。より具体的には、水1リットルに対してグアガムを5グラム溶かした水溶液1と、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよび粉飴を50グラム溶かした水溶液2と、水1リットルに対してグアガムを5グラムおよびデキストリンを50グラム溶かした水溶液3を調整した。なお、水溶液1は、実質的にグアガム0.5重量パーセントの水溶液であり、水溶液2は、実質的にグアガム0.5重量パーセント、粉あめ5重量パーセント濃度の水溶液であり、水溶液3は、実質的にグアガム0.5重量パーセント、デキストリン5重量パーセントの水溶液である。
【0054】
上記のように調整した各水溶液を、各実験区の切土法面に散布する(法面のコーティング)。図7は、各実験区に散布された水溶液の種類を示す表である。実験区1では、糖類A(グアガム)の濃度が実質的に0.5重量パーセントである水溶液1を用い、実験区2では、糖類A(グアガム)の濃度が実質的に0.5重量パーセントであり、糖類B(粉あめ)の濃度が実質的に5重量パーセントである水溶液2を用いた。そして、実験区3では、糖類A(グアガム)の濃度が実質的に0.5重量パーセントであり、糖類C(デキストリン)の濃度が実質的に5重量パーセントである水溶液3を用いた。なお、これらの3種類の水溶液の動粘度は、概ね100.0mm2/s(100.0×10−6m2/s)〜500.0mm2/s(500.0×10−6m2/s)の値を取り、本発明で規定した動粘度の範囲である2mm2/s(2×10−6m2/s)以上2000mm2/s(2000×10−6m2/s)の範囲に入っている。
【0055】
[降雨実験1]
上記水溶液を各実験区に散布した翌日、各実験区に対して散水を行なう。散水量は3分間で18リットルである。この散水量は、360mm/h(0.36m/h)の降雨に相当する。
【0056】
[降雨実験1の結果]
図8は、降雨実験1の結果を示す図である。無処理区では、散水開始から大量の赤土流出が発生したため、30秒程度で散水を中止した。散水を途中で中止したにも関わらず、無処理区では、SS(Suspended Solids:浮遊物質量)が71,400(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が49,424度であり、蒸発残留物が70,800(mg/l:10−3kg/l)であった。実験区1では、SSが22(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が25度であり、蒸発残留物が250(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区1における抑制率は、SSについては99.97%であり、濁度については99.95%であり、蒸発残留物については99.65%であった。また、実験区2では、SSが11(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が15度であり、蒸発残留物が897(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区2における抑制率は、SSについては99.98%であり、濁度については99.97%であり、蒸発残留物については98.73%であった。そして、実験区3では、SSが4(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が9度であり、蒸発残留物が1670(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区3における抑制率は、SSについては99.99%であり、濁度については99.98%であり、蒸発残留物については97.64%であった。
【0057】
[降雨実験1の考察]
上記のように、無処理区と比較して、実験区1〜3において、非常に高い抑制効果が認められた。具体的には、SSについては99.9%以上、濁度については99.9%以上、蒸発残留物については97.6%以上の抑制率が得られた。また、糖類A(グアガム)と共に糖類B(粉あめ)と糖類C(デキストリン)を添加することによって、SSの抑制効果が高まる一方、蒸発残留物については、糖類A(グアガム)のみの場合に対して、相対的に多くなる結果が得られた。これにより、糖類B(粉あめ)と糖類C(デキストリン)は、糖類A(グアガム)と比較して、水に溶け出しやすいことが示唆される。
【0058】
[降雨実験2]
上記降雨実験1の翌日、各実験区に対して再び散水を行なう。散水量は6分間で36リットルである。2日間の散水量の合計は、54リットルとなる。
【0059】
[降雨実験2の結果]
図9は、降雨実験2の結果を示す図である。無処理区では、散水開始から大量の赤土流出が発生したため、3分で散水を中止した。散水を途中で中止したにも関わらず、無処理区では、SSが108,000(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が78,636度であり、蒸発残留物が109,000(mg/l:10−3kg/l)であった。実験区1では、SSが1940(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が969度であり、蒸発残留物が2140(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区1における抑制率は、SSについては98.20%であり、濁度については98.77%であり、蒸発残留物については98.04%であった。また、実験区2では、SSが1200(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が443度であり、蒸発残留物が1590(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区2における抑制率は、SSについては98.89%であり、濁度については99.44%であり、蒸発残留物については98.54%であった。そして、実験区3では、SSが36(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が70度であり、蒸発残留物が467(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、実験区3における抑制率は、SSについては99.97%であり、濁度では99.91%であり、蒸発残留物では97.57%であった。
【0060】
[降雨実験2の考察]
降雨実験2では、降雨実験1に加えて更に過酷な条件を与えたため、各実験区でも赤土の流出がみられたものの、無処理区と比較すると、降雨実験2においても非常に高い抑制効果が認められた。具体的には、SSについては98.2%以上、濁度については98.8%以上、蒸発残留物については98.0%以上の抑制率が得られた。また、糖類B(粉あめ)と糖類C(デキストリン)の添加によって、抑制効果が高まる傾向が明らかに認められた。特に、粘性の高い糖類C(デキストリン)の抑制効果は顕著に現れた。
【0061】
[降雨実験3]
上記切土法面フィールドモデルに、水1リットルに対して糖類A(グアガム)を5グラム溶かした水溶液1を散布し、実際の台風に曝露してその抑制効果を検証した。図10は、降雨実験3の実験区を示す図である。降雨実験3では、台風曝露時に水溶液1を散布した後3日経過した3日経過区、以下同様に、5日経過区、9日経過区、16日経過区を設定した。なお、この台風は、平成18年の台風第3号であり、降雨量150mm(0.15m)/h、風速25mが記録されている。
【0062】
[降雨実験3の結果]
図11および図12は、降雨実験3の結果を示す図である。無処理区では、SSが33,300(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が30,500度であり、蒸発残留物が33,000(mg/l:10−3kg/l)であった。3日経過区では、SSが6(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が35度であり、蒸発残留物が773(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、3日経過区における抑制率は、SSについては99.98%であり、濁度については99.89%であり、蒸発残留物については97.66%であった。また、5日経過区2では、SSが2(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が25度であり、蒸発残留物が917(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、5日経過区における抑制率は、SSについては99.99%であり、濁度については99.92%であり、蒸発残留物については97.22%であった。9日経過区では、SSが1,700(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が1,060度であり、蒸発残留物が2,000(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、9日経過区における抑制率は、SSについては94.89%であり、濁度では96.52%であり、蒸発残留物では93.94%であった。そして、16日経過区では、SSが2,230(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が1,310度であり、蒸発残留物が2,580(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対して、16日経過区における抑制率は、SSについては93.30%であり、濁度では95.70%であり、蒸発残留物では92.18%であった。
【0063】
[降雨実験3の考察]
実際の台風の下でも、本発明は十分な効果が得られることが確認された。水溶液1を切土法面に散布してから5日以内の場合は、SSの上限基準値である25ppmをクリアしている。図11によれば、散布後9日以降はSS、濁度、蒸発残留物のそれぞれが増大しているが、実際の数値を見ると、散布後2週間以上経過した場合でも、SS、濁度、蒸発残留物のそれぞれについて、90%以上の抑制効果が認められた。
【0064】
[盛土モデルにおける降雨実験]
上記のように、切土法面フィールドモデルの造成によって発生した残土を積み上げて、仮置きを想定した盛土モデルを作成し、この盛土モデルに、水1リットルに対して糖類A(グアガム)を5グラム溶かした水溶液1を散布した。
【0065】
[盛土モデルにおける降雨実験の結果]
水溶液1を散布した翌日、ジェット状にして約100リットルの水を吹き付けても、表面の浸食は生じなかった。
【0066】
[盛土モデルにおける降雨実験の考察]
降雨実験1から3の場合のような切土法面では、水溶液を散布すると、あまり浸透せずに表流水となってしまうことが認められた。これに対し、盛土では、その表面が多孔質となっているため、多糖類のコーティングによって、その多孔質の構造が維持されるので、大量の水を吸収することができる。そのため、盛土モデルでは、降雨時(散水時)に、切土法面よりも表面浸食が起こりにくいことが認められた。本発明によれば、切土面のみならず、盛土、特に、填圧の弱い発生土の仮置き場における表土流出対策について効果を奏するものと期待される。
【0067】
次に、本発明の効果を実証するために行なったハウス実験(ハウス内での実験)について説明する。
[実験区設定]
浸食性土壌として、国頭マージを調達し、粗めのふるいにかけて粒径を整える。樹脂製の衣装ケース内に粒径を整えた国頭マージを入れて、傾斜45度の法面モデルを作製する。この際、土の表面に対して、軽く抑える程度の圧力を加える。
【0068】
[水溶液の調整および法面のコーティング]
次に、上記法面モデルに、水1リットルに対して糖類A(グアガム)を5グラム溶かした水溶液1を散布して表土のコーティングを行なう。同じ条件のモデルを2区設定する。
【0069】
[ハウス内における降雨実験]
上記のコーティングの2日後、各区に対してシャワー状の散水を行なう。散水量は合計で10リットルである。雨の強さに換算すると、120mm(0.12m)/hに相当する。単位面積あたりの総雨量は、250mm(0.25m)に相当する。この降雨実験では、一度に4リットル散水して、4リットル以降、1リットル散水するたびにサンプリングする降雨実験1−1と、初めから1リットル散水するたびにサンプリングする降雨実験1−2とを行なった。
【0070】
[ハウス内における降雨実験の結果]
図13から図16は、ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。無処理の場合は、いずれの降雨実験(1−1および1−2)においても、SSが79,900(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が14,100度であり、蒸発残留物が40,700(mg/l:10−3kg/l)であった。これに対し、降雨実験1−1において、最初の4リットル散水したときは、SSが380(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が182度であり、蒸発残留物が513(mg/l:10−3kg/l)であった。この場合、無処理区に対する抑制率は、SSについては99.52%であり、濁度については98.71%であり、蒸発残留物については98.74%であった。
【0071】
また、降雨実験1−1において、5リットル散水したときは、SSが566(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が221度であり、蒸発残留物が677(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.29%であり、濁度については98.43%であり、蒸発残留物については98.34%であった。また、降雨実験1−1において、6リットル散水したときは、SSが442(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が221度であり、蒸発残留物が563(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.45%であり、濁度については98.43%であり、蒸発残留物については98.62%であった。
【0072】
降雨実験1−1において、7リットル散水したときは、SSが618(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が284度であり、蒸発残留物が773(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.23%であり、濁度については97.99%であり、蒸発残留物については98.10%であった。また、降雨実験1−1において、8リットル散水したときは、SSが542(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が256度であり、蒸発残留物が667(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.32%であり、濁度については98.18%であり、蒸発残留物については98.36%であった。
【0073】
降雨実験1−1において、9リットル散水したときは、SSが412(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が240度であり、蒸発残留物が563(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.48%であり、濁度については98.30%であり、蒸発残留物については98.62%であった。また、降雨実験1−1において、10リットル散水したときは、SSが486(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が283度であり、蒸発残留物が630(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.39%であり、濁度については97.99%であり、蒸発残留物については98.45%であった。
【0074】
一方、降雨実験1−2において、1リットル散水したときは、SSが214(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が122度であり、蒸発残留物が353(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.73%であり、濁度については99.13%であり、蒸発残留物については99.13%であった。また、降雨実験1−2において、2リットル散水したときは、SSが560(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が272度であり、蒸発残留物が653(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.30%であり、濁度については98.07%であり、蒸発残留物については98.40%であった。
【0075】
降雨実験1−2において、3リットル散水したときは、SSが618(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が306度であり、蒸発残留物が823(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.23%であり、濁度については97.83%であり、蒸発残留物については97.98%であった。また、降雨実験1−2において、4リットル散水したときは、SSが582(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が281度であり、蒸発残留物が767(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.27%であり、濁度については98.01%であり、蒸発残留物については98.12%であった。
【0076】
降雨実験1−2において、5リットル散水したときは、SSが454(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が229度であり、蒸発残留物が610(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.43%であり、濁度については98.38%であり、蒸発残留物については98.50%であった。また、降雨実験1−2において、6リットル散水したときは、SSが670(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が300度であり、蒸発残留物が1,370(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.16%であり、濁度については97.87%であり、蒸発残留物については96.63%であった。
【0077】
降雨実験1−2において、7リットル散水したときは、SSが624(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が276度であり、蒸発残留物が723(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.22%であり、濁度については98.04%であり、蒸発残留物については98.22%であった。また、降雨実験1−2において、8リットル散水したときは、SSが740(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が327度であり、蒸発残留物が867(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.07%であり、濁度については97.68%であり、蒸発残留物については97.87%であった。
【0078】
降雨実験1−2において、9リットル散水したときは、SSが762(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が356度であり、蒸発残留物が940(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.05%であり、濁度については97.48%であり、蒸発残留物については97.69%であった。また、降雨実験1−2において、10リットル散水したときは、SSが624(mg/l:10−3kg/l)であり、濁度が232度であり、蒸発残留物が763(mg/l:10−3kg/l)であった。無処理区に対する抑制率は、SSについては99.22%であり、濁度については98.35%であり、蒸発残留物については98.13%であった。
【0079】
[ハウス実験の考察]
ハウス実験では、土の表面にほとんど填圧をかけないで散水を行なったが、このような条件下でも、本発明には十分な表土流出抑制効果が認められた。散水を始めてから2リットル目から、サンプリングした水に赤土の色が付き始めるが、抑制率は90%以上を維持し、その後、10リットル目まで著しく悪化することは無かった。これにより、本発明は、十分な表土流出抑制効果を奏するものと認められる。
【0080】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、土壌表面が上記炭水化物の粘着性によって固化し、コーティングを施した状態になるので、降雨等により土壌表面に水が流れても、水によって浸食されることが無い。その結果、表土の流出、赤水の発生を抑制することが可能となる。また、上記炭水化物の水溶液を用いるので、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、上記水溶液を微粒子粘性土壌に散布して乾燥させることにより土壌表面を固化させることができるので、ブルーシートを用いる場合と比較して、手間、コストおよび時間を少なくすることができる。また、水溶液を散布するための装置さえあれば本発明を実施することができるので、特殊な機材、大型機材を必要とせず、また、専門のオペレータを必要とせず、簡易に作業を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】法面フィールドモデルのイメージを示す図である。
【図2】フィールド実験の実験区の設定例を示す図である。
【図3】法面ハウスモデルのイメージを示す図である。
【図4】ハウス内実験の実験区の設定例を示す図である。
【図5】風化実験の実験区の設定例を示す図である。
【図6】動粘度の測定結果を示す表である。
【図7】各実験区に散布された水溶液の種類を示す表である。
【図8】降雨実験1の結果を示す図である。
【図9】降雨実験2の結果を示す図である。
【図10】降雨実験3の実験区を示す図である。
【図11】降雨実験3の結果を示す図である。
【図12】降雨実験3の結果を示す図である。
【図13】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【図14】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【図15】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【図16】ハウス実験における降雨実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 法面フィールドモデル
2 波板
3 水槽
5 法面ハウスモデル
S、T 斜面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法であって、
食物繊維または増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物を溶質とする水溶液を作製する第1工程と、
前記水溶液を前記浸食性土壌の表面に散布する第2工程と、を少なくとも含むことを特徴とする表土流出抑制方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下とすることを特徴とする請求項1記載の表土流出抑制方法。
【請求項3】
前記第1工程では、
水1リットルに対してグアガムを5グラム溶かした水溶液、
水1リットルに対してグアガムを5グラムおよび粉飴を50グラム溶かした水溶液、
または、
水1リットルに対してグアガムを5グラムおよびデキストリンを50グラム溶かした水溶液の、いずれかを作製することを特徴とする請求項1記載の表土流出抑制方法。
【請求項1】
浸食性土壌の表土流出を抑制する表土流出抑制方法であって、
食物繊維または増粘多糖類に分類される少なくとも一種類の炭水化物を溶質とする水溶液を作製する第1工程と、
前記水溶液を前記浸食性土壌の表面に散布する第2工程と、を少なくとも含むことを特徴とする表土流出抑制方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記水溶液の動粘度を2mm2/s(2×10−6m2/s)以上、2000mm2/s(2000×10−6m2/s)以下とすることを特徴とする請求項1記載の表土流出抑制方法。
【請求項3】
前記第1工程では、
水1リットルに対してグアガムを5グラム溶かした水溶液、
水1リットルに対してグアガムを5グラムおよび粉飴を50グラム溶かした水溶液、
または、
水1リットルに対してグアガムを5グラムおよびデキストリンを50グラム溶かした水溶液の、いずれかを作製することを特徴とする請求項1記載の表土流出抑制方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−204732(P2007−204732A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−347401(P2006−347401)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(304026009)株式会社オオバ (5)
【出願人】(595030826)株式会社EM研究機構 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347401(P2006−347401)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(304026009)株式会社オオバ (5)
【出願人】(595030826)株式会社EM研究機構 (7)
【Fターム(参考)】
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