説明

表現型を保持したまま軟骨細胞を増殖する方法

本発明は、1または複数のサイトカインを含む無血清規定増殖培地中で、低接着条件下にて集団を培養して増殖させる間、表現型を維持したまま増殖軟骨細胞の軟骨細胞集団を増殖させる方法を提供する。前記方法は、さらに、ランダムに組織化された培養新軟骨組織を生じる多孔ポリカーボネート基材を使用することにより、その後の細胞外マトリックス産生段階における拡散の問題を解決する。このようにして増殖および培養された軟骨細胞を多様な医学用途に使用して、外傷または疾患により損傷を受けた軟骨組織を修復することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、2004年10月1日出願の米国特許出願第10/956,971号の一部継続出願である。
【0002】
連邦研究開発支援に関する記述
本発明に係る研究の一部は、NISTの支援によるATP Award 70NANB1H3027により援助されたものである。政府は、本発明の、使用料無償の、無償非独占的実施権に関して一定の権利を有する。
【0003】
配列表の参照
本開示の一部である配列表は、本発明のヌクレオチド配列、および/またはアミノ酸配列を含む、米国特許商標局PatentIn Version 3.4 ソフトウエアで作成されたコンピュータファイル「10500−0063_ST25.txt」を含む。配列表の主題は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0004】
アメリカ合衆国だけでも、何百万もの人々が、通常の関節機能を制限し、生活の質の低下をもたらす有痛性の炎症性関節炎または変形性関節炎を患っている。変形性関節炎の主因は、軟骨マトリックスの破壊である。軟骨は、関節の末端を覆う平滑で柔軟な結合組織であり、骨を保護し、苦痛なく容易に関節を動かすことができるように機能する。外傷による損傷または疾患による関節部の関節軟骨の減少により、最終的に「骨と骨との接触」に起因する関節硬化、および軟骨下骨における神経末端の有痛性の露出が引き起こされる。
【0005】
哺乳類においては、軟骨は、関節部の関節表面、ならびに耳、鼻、咽頭、気管、気管支、心臓弁構造などを含む他の関節関連構造のような、様々な器官およびシステムの構造に寄与している。哺乳類には、繊維軟骨、弾性軟骨、硝子軟骨など、異なった種類の軟骨が存在する。繊維軟骨はI型コラーゲンを豊富に含み、椎間板および靭帯に含まれる。弾性軟骨はエラスチン繊維を含み、耳介および喉頭蓋に含まれる。硝子軟骨は半透明の透き通った軟骨組織であり、気管および気管支の軟骨性壁、肋軟骨および成長板、ならびに鼻、咽頭、可動関節の軟骨に含まれ、I型コラーゲンもエラスチンも含まない。圧縮力に対する特有の耐性を与える、軟骨特異的コラーゲン(II型、VI型、IX型、およびXI型)と凝集プロテオグリカン(アグリカン)との特徴的な組み合わせを有する硝子軟骨は、関節軟骨と呼ばれる。
【0006】
関節軟骨の損傷により関節表面が破壊され、この破壊の進行性の変形により、しばしば症候性の関節痛、障害、および機能低下または機能障害が引き起こされる。関節表面の欠陥は、炎症プロセス、腫瘍、外傷後事象および変形事象などを含む、様々な病因の結果である場合がある。成人の関節軟骨は、他の大部分の組織と異なり、自身を修復することができないという重大な欠点を有する。大部分において血液供給が不足しているため、関節軟骨の欠陥を修復するよう作用し得る軟骨前駆細胞をリクルートする組織の能力が制限されている。その結果、進行性変形性疾患に進行した関節軟骨の欠陥には、痛みを取り除き、正常な関節機能を回復するための全関節形成術が必要とされる。
【0007】
関節軟骨の組織工学による成長は、現在、全関節形成術において使用されている金属系材料および高分子系材料の必要性を猶予または低減する可能性のある、生物学的解決法となっている。外傷または疾患により損傷された関節軟骨を修復もしくは再生するために、様々な生物学的アプローチが試みられてきた(Hunziker、2003)。これらのアプローチの大多数は、細胞に基づく治療と生体分解性高分子を組み合わせて、膝に移植することができる三次元構築物を開発するものである。しかし、これらの実験的治療は硝子軟骨の長期的修復をもたらしていない(Buckwatler他、1990;Hunziker、2002)。
【0008】
軟骨修復に関してFDAの承認を得た技術の一つは、軟骨細胞自家移植術(Autologous Chondrocyte Implantation)(Carticel、Genzyme Surgery)である。この手術においては、患者の関節軟骨から得た小さな組織生検を研究室に持ち込み、後に第二の外科的手術において患者に再移植するため、研究室で軟骨細胞(軟骨の細胞)を単離して、生体外(ex vivo)で増殖させる。この方法の主要な制限は、生検で得られるドナー細胞の数が比較的少ないこと、および成人関節軟骨に由来する軟骨細胞が増殖後に軟骨マトリックスを産生する能力には限界があることである。
【0009】
組織工学による成功した軟骨修復アプローチは、効率的で、かつ再現可能で拡張可能であり、増殖した軟骨細胞が移植用の機能的軟骨を合成する能力を保持するプロセスで増殖させることができる細胞を使用する必要がある。現在、軟骨細胞の増殖に関して最も広く使用されている技術は、単層培養である(米国特許第4,356,261号)。しかし、血清含有培地を使用した単層培養で成長させた軟骨細胞は、軟骨細胞が球状の形状を失い細長い線維芽細胞の形態を獲得する脱分化のプロセスを経る。天然の軟骨細胞の形状の喪失に関連した生物化学的変化としては、軟骨特異的コラーゲンおよび軟骨特異的プロテオグリカンの合成の停止、その後のI型コラーゲンおよびIII型コラーゲンの合成の開始、および低分子の非凝集プロテオグリカンの合成の増大が挙げられる。
【0010】
in vitroでの連続増殖中の軟骨細胞の表現型の喪失は、関節軟骨修復の整形生物学的アプローチ(orthobiologic approach)を商業化することの主要な制限となる。脱分化に対抗するため、軟骨細胞は従来、アガロース(Benya and Shafer、1982)もしくはアルギン酸塩(Hauselmann他、1994、1996)などのハイドロゲル、ペレット培養(pellet culture)(Mackay他、1998;Jakob他、2001;Barbero 他、2004)、または三次元の足場(scaffold)(Vacanti他、1998)などの三次元環境中に懸濁されてきた。軟骨細胞は、増殖後に三次元懸濁培養で維持された場合、天然の丸い形態の外観を良好に保持し、硝子軟骨に特徴的な巨大分子を合成することが報告されている。しかし、このような培養軟骨細胞の多くは、依然としてI型コラーゲンおよび低分子のプロテオグリカンを産出し、「不完全」に回復した軟骨表現型を備える。さらに、三次元ハイドロゲル由来の残留物のキャリーオーバーの可能性により、調節経路が複雑になることがある。例えば、アルギン酸は炎症を誘導することが報告され、in vivoで使用した場合、細胞傷害性である恐れがある。in vitroでの増殖中に軟骨表現型を保持するための理論的方法は、軟骨細胞が、本来、胚発生の間にさらされるin vivoの微小環境を再現することであろう。したがって、ヒアルロン酸、II型コラーゲン、VI型コラーゲン、または凝集プロテオグリカンなどのマトリックスは特に血清由来因子の非存在下で、軟骨細胞の増殖および成長のための優れた基材としての機能を果たすことがある。胚発生の間、間葉前駆細胞の凝集および増殖により、軟骨形成として知られているプロセスを介して軟骨原基が形成される。軟骨テンプレートのさらなる分化により、関節部の関節軟骨および骨組織が形成されることとなる。軟骨形成においては、細胞外マトリックス、成長因子および分化因子、これらのアンタゴニスト、ならびにN−カドヘリン、1A型骨形成タンパク質受容体(BMPR−1A)および1B型骨形成タンパク質受容体(BMPR−1B)を含む特異的細胞表面膜受容体などの多くの因子が重要な役割を果たしていると信じられている。細胞外マトリックスの重要な構成要素であるヒアルロン酸(HA)は、軟骨発生および組織の恒常性維持において重要な役割を果たす。HAは、細胞外マトリックスの直鎖状のグリコサミノグリカンであり、(β,1−4)D−グルクロン酸−(β,1−3)−N−アセチル−D−グルコサミンの繰り返し単位からなり、、硫酸化されていない(Laurent、1970)。HAは、体組織において広範に分布し、胚発生、細胞移動を支持するマトリックスを一時的に提供することによる創傷治癒および腫瘍増殖、接着、増殖ならびに分化などの多数の生物学的プロセスにおいて、重要な役割を果たすことが示されてきた(Laurent and Fraser、1992)。天然の状態では、HAは、通常1×10ダルトンを超える高分子量ポリマーとして存在する。しかし、形態形成、炎症および組織修復の間に、タンパク分解による切断によって、より低分子量の形態のものが生成される。中間的な分子量(200,000〜400,000)を有するヒアルロン酸は、軟骨前駆細胞の分化を促進し(Kujawa他、1986Aおよび1986B)、一方、分子量が小さいHAは血管新生を促進することが報告されている(West他、1985)。このような発見により、外傷または疾患により破壊された組織を再生する手段として、組織工学によって作製された軟骨および骨組織の成長用のHAに基づく足場の商業的開発がもたらされてきた(Campoccia他、1998、米国特許第6,251,876号;同5,676,964号;同5,658,582号)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様では、in vitroで軟骨組織を産生する方法であって、軟骨細胞集団をドナー組織から単離すること、ならびに該軟骨細胞集団が少なくとも3.8回倍加した後に、少なくとも50%の軟骨細胞が丸い形態および硝子軟骨の遺伝子発現を保持するよう、該軟骨細胞集団を増殖培地中で、低接着条件下にて基材上で増殖させることを含む方法を提供する。低接着条件下での細胞集団の増殖としては、HA修飾基材、低接着材料のコーティングを有する基材、または溶液中に低接着剤を含む増殖培地を用いた未修飾基材の一つを使用することによって確立された条件を用いて、細胞集団を増殖させることが挙げられる。前記低接着剤は、例えば、ヒアルロン酸(HA)である。ある実施形態では、前記増殖培地は無血清培地であり、所望によってはある量のTGF−βを含む。例示的実施形態では、前記増殖培地は10ng/mlのTGF−βを含む。別の実施形態では、前記増殖培地はさらにFGFを含み、例示の実施形態では、100ng/mlのFGFを含み、所望によっては200ng/mlまでのFGFを含む。別の実施形態では、前記増殖培地はさらにL−グルタミンおよびビタミンCを含む。別の実施形態では、前記方法は、増殖させた前記軟骨細胞集団を、軟骨修復が必要な対象に注入することをさらに含む。別の実施形態では、前記方法は、細胞外マトリックスを産生するために、複数の貫通孔を有するポリカーボネート基材上の組織産生培地中に前記軟骨細胞集団を播種して、ランダムに組織化した細胞を特徴とする培養軟骨組織を産生することをさらに含み、前記孔は、少なくとも1ミクロンから約12ミクロンの内径を有する。
【0012】
別の態様では、本発明の方法はin vitroで軟骨組織を産生する方法であって、軟骨細胞集団をドナー組織から単離すること、該軟骨細胞集団を増殖培地中で増殖させること、および少なくとも1ミクロンから約12ミクロンの内径の複数の貫通孔を有するポリカーボネート基材上の組織産生培地中に前記軟骨細胞集団を播種して細胞外マトリックスを産生し、ランダムに組織化した細胞を特徴とする培養軟骨組織を産生することを含む方法を提供する。前記方法のある実施形態では、前記軟骨細胞集団が少なくとも3.8回倍加した後に、少なくとも50%の軟骨細胞が丸い形態および硝子軟骨の遺伝子発現を保持している。前記方法の別の実施形態では、前記軟骨細胞集団の増殖には、増殖の間、低細胞接着条件を提供することが含まれる。ある実施形態では、前記増殖培地は無血清培地であり、例示的実施形態ではTGF−βを含む。前記軟骨細胞集団には、例えば、滑液嚢軟骨細胞、骨膜軟骨細胞、若年または成人の関節軟骨細胞が含まれる。ある実施形態では、前記組織産生培地はTGF−βを、例えば培地1mlあたり10ngの量で含む。ある実施形態では、前記軟骨細胞集団の増殖には、凍結保存期間により任意に分離される、一次細胞増殖と二次細胞増殖が含まれる。ある実施形態では、前記方法は、前記軟骨細胞集団をポリカーボネート基材上に播種して細胞外マトリックスを産出した後に、組織産生培地中で軟骨細胞集団をTGF−βに約7日間接触させることをさらに含む。別の実施形態では、前記方法は、前記軟骨細胞集団を組織産生培地中で約45日〜約65日間の培養期間、維持することをさらに含む。組織産生培地中での軟骨細胞集団の維持としては、例えば、軟骨細胞集団を、組織産生培地中で、所定の酸素レベルおよび二酸化炭素レベルで維持することが挙げられる。
【0013】
別の態様では、本発明は、複数の貫通孔を有するポリカーボネート基材を含む組織培養装置を提供し、前記孔は、内径が少なくとも1ミクロンから約12ミクロンであることを特徴とする。例示的実施形態では、前記組織培養装置は、有孔ポリカーボネート膜である。ある実施形態では、前記有孔ポリカーボネート膜は、約10ミクロンの厚さである。別の実施形態では、前記有孔ポリカーボネート膜の孔は、およそ3ミクロンで分布する内径を特徴とする。別の実施形態では、前記組織培養装置は、前記ポリカーボネート基材の外周を形成する側壁をさらに含み、所定の形状を有する外周が培養組織の形状として選択される。前記側壁は、例えば、生体適合性ポリマーから作製され、ある実施形態では半透性であり、別の実施形態では不透過性である。前記生体適合性ポリマーは、例えば、ポリスチレンであってもよい。
【0014】
別の実施態様では、本発明は、多数の貫通孔を有し、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有するポリカーボネート基材、および該ポリカーボネート基材の外周を形成する側壁であって、所定の形状を有する外周が培養組織の形状として選択される側壁、を含む組織培養インサート(tissue culture insert)を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、天然の表現型および天然レベルの硝子軟骨遺伝子の発現を示す増殖した軟骨細胞集団、ならびに複数の貫通孔を有するポリカーボネート膜であって、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有するポリカーボネート膜を含む、細胞培養物を提供する。前記軟骨細胞は、例えば、ヒト軟骨細胞であり、滑液嚢軟骨細胞もしくは骨膜軟骨細胞、若年もしくは成人の関節軟骨細胞、または免疫介在性の異種移植拒絶に耐性を示す遺伝子導入軟骨細胞であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】血清含有培地中において、軟骨細胞分化能が継代数に応じて減少することを示すグラフである。4つの異なる基本培地処方を用いて、血清含有培地中で、若年ドナーの関節軟骨細胞を第3継代まで増殖させた。S−GAG、硫酸化グリコサミノグリカン;DNA、デオキシリボ核酸。DMEM、ダルベッコ変法イーグル培地;LG、低グルコース;HL−1、Cambrex社、HL−1(商標)完全無血清培地(Complete Serum−free Medium)(現在は、Lonza Walkersville,Inc.、メリーランド州、ウォーカーズビルより、HL−1(商標)無血清ハイブリドーマ培地として入手可能)。
【図2】TurleyおよびRoth(Turley and Roth、1979)により最初に記載された、ポリスチレン表面に共有結合によりHAを接着させるために用いられる化学的手法を示す。HSO、亜硫酸水素塩イオン;NHOH、液体アンモニア;HO、水;HA、ヒアルロン酸;EDC、3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩。
【図3】ヒアルロン酸ナトリウム基材上でサイトカインの媒介により軟骨細胞を増殖させ、続いて新軟骨を成長させる本発明の方法を図解したものである。UnTx、未修飾組織培養プラスチック;HATx、HA修飾組織培養プラスチック;NCアッセイ、新軟骨機能アッセイ。
【図4】塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)およびビタミンCを含む無血清規定培地中で、HA修飾ポリスチレン上で増殖させた軟骨細胞から産生されたNC移植片の、新たに分離した軟骨細胞と比較した生化学的組成を示す。
【図5A】共有結合で結合したヒアルロン酸ナトリウムの、軟骨細胞形態に対する効果を示す。図5Aは、HA修飾ポリスチレン上で、変異型線維芽細胞増殖因子2(vFGF2)、TGFβ、およびビタミンCを含む無血清規定培地を用いて、10日間、増殖培養した後の軟骨細胞の形態的外観を示す。
【図5B】共有結合で結合したヒアルロン酸ナトリウムの、軟骨細胞形態に対する効果を示す。図5Bは、未修飾ポリスチレン上で、Aで特定される条件を用いて成長させた、同様の軟骨細胞の形態的外観を示す。
【図6】変異型線維芽細胞増殖因子2(vFGF2)、トランスフォーミング増殖因子ベータ−2(2ng/mL)(ProChon Ltd.)、およびTGFβ−2(10ng/mL)を含むHL−1(商標)完全無血清培地中で、HA修飾ポリスチレン上で増殖させた第2継代の軟骨細胞(P2)から産生した新軟骨の顕微鏡写真である。
【図7】HA修飾ポリスチレン上で増殖された軟骨細胞から新たに合成されたNCマトリックスの、未修飾ポリスチレン上で増殖されたコントロール細胞に対する生化学的組成を示すグラフである。S−GAG、硫酸化グリコサミノグリカン;DNA、デオキシリボ核酸;UnTx、未修飾組織培養プラスチック;HATx、HA修飾組織培養プラスチック。*は、HA修飾基材の非存在下で増殖させた細胞由来の細胞から産生された移植片に対する有意性(P<0.05)を示す。
【図8】図8Aおよび図8Bは、14ヶ月齢のドナーから回収した軟骨細胞の、新たに分離した未継代の細胞(P0)および第2継代の細胞(P2)について得られた遺伝子発現プロファイルの解析を示す。半定量的遺伝子発現解析は、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)を用いて行った。MW、分子量マーカー;GAP、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素;AGG、アグリカンコアタンパク質;COL 1A1、I型コラーゲン;COL 2A1、IIA型コラーゲン;COL 9A1、IX型コラーゲン;COL 11A1、XI型コラーゲン;SOX9、軟骨特異的転写因子。
【図9】図9Aおよび図9Bは、本発明に記載の方法で3.8回の集団倍加によって増殖(パネルA)、または10%血清およびアスコルビン酸(50μg/mL)を含むHL−1完全無血清培地で4.2回の集団倍加によって増殖させた(パネルB)、若年ドナー由来の関節軟骨細胞について得られた遺伝子発現プロファイル解析を示す。NCAD、N−カドヘリン。
【図10】図10A、図10Bおよび図10Cは、それぞれ、HA修飾ポリスチレン基材(図10A)、未修飾ポリスチレン基材上のHA補充合成増殖培地(図10B)、およびCorning社製、超低接着ポリスチレン基材材料(図10C)の3つの異なる低接着条件の一つを用いた増殖培養中の軟骨細胞の顕微鏡写真である。
【図11】軟骨細胞を培養により増殖し、続いてポリカーボネートインサート上で成長させた新軟骨組織によるプロテオグリカン合成速度を示すグラフである。
【図12】増殖の間、低接着条件下で維持した軟骨細胞を用いて産生された新軟骨組織の顕微鏡写真である。
【図13】bFGF、TGF−β、およびビタミンCを含む合成無血清培地中で、5.8回の集団倍加で累積的に増殖させ、2回の継代によってHA修飾ポリスチレン上で増殖した成人軟骨細胞から産出された新軟骨組織移植片の生化学的組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
略語および定義
用語「軟骨細胞」は、in vivoで正常な軟骨組織の成長を引き起こす軟骨特異的細胞を指し、これらの細胞は、軟骨の支持マトリックス(主にコラーゲンおよびプロテオグリカンからなる)を合成および堆積する。
【0018】
用語「表現型」は、いかなるレベル(物理学的レベル、形態学的レベル、生化学的レベル、分子レベル)であれ、観察可能な細胞または組織の特徴を指す。
【0019】
用語「新軟骨」は、ex vivoで成長し、以下の性質のうち1または複数の性質によって特徴づけられる軟骨を指す:ミード酸(Mead Acid)に富むがリノール酸またはアラキドン酸を実質的に欠く膜リン脂質を含むこと;内皮細胞、骨細胞および滑膜細胞を実質的に含まず、硫酸化グリコサミノグリカン(S−GAG)含有量が、DNA1μgあたり少なくとも40μgであること;実質的にI型コラーゲン、III型コラーゲンおよびX型コラーゲンを含まないこと;バイグリカンを実質的に含まないマトリックスを含むこと;明白な軟骨細胞成熟帯中に、単独にではなく、ランダムに配置された多層の細胞を有すること;高分子量のアグリカンに富むこと、または実質的に連続的な不溶性グリコサミノグリカンおよびコラーゲンに富む硝子質細胞外マトリックスで取り囲まれた多層の細胞を有すること。
【0020】
用語「ヒアルロン酸基材」は、大部分が、例えば雄鶏のとさかまたは細菌発酵のいずれかから精製されたヒアルロン酸ナトリウムなどの、天然または合成の高純度のヒアルロン酸からなるヒアルロン酸混合物を含む基材を指す。ヒアルロン酸は、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖単位の繰り返しからなる多糖である。市販のHAは、通常HAのナトリウム塩の形態である。
【0021】
用語「サイトカイン」は、自身の機能を変化させる目的(オートクリン効果)、または隣接細胞の機能を変化させる目的(パラクリン効果)のいずれかの目的で、1つの細胞から分泌される比較的低分子量の薬理学的に活性のある無数のタンパク質を指す。個々のサイトカインが、多数の生物学的活性を有する場合がある。異なったサイトカインが、重複した活性を有する場合もある。
【0022】
用語「FGF」は、現在、22のメンバーに達する(ヒトでは、FGF−1〜14およびFGF−16〜23)、繊維芽細胞増殖因子の関連タンパク質を示す。「FGF−2」は、繊維芽細胞増殖因子(FGF)の塩基性フォームを指す。FGFは、通常、ヘパラン硫酸プロテオグリカンに対して高い親和性を有し;FGFとヘパリンの相互作用は、それぞれのFGF受容体の活性化のために必要であるようだ(Ornitz and Itoh、2001)。4つのFGFR(FGFR1〜4)が存在しており、それぞれが多くのスプライスバリアントを有する。「活性型の」FGFポリペプチドは、いずれかのFGFポリペプチドの保存領域の少なくとも一部に対しても有意(70%以上)な相同性を有し、相同体の少なくとも1つと同様の活性を有するポリペプチドである。活性の程度は、相同体の少なくとも1つよりも大きくても、小さくてもよい。多くの場合、およそ28個の高度に保存されたアミノ酸残基と6個の同一のアミノ酸残基を含む内部コア領域を同定することができ、このうちの10個が、習慣的にFGFRと相互作用する(Ornitz、2000、およびPlotnikov他、2000)。
【0023】
用語「FGF様活性」は、少なくとも1種の細胞型に対し、同族のFGF分子と少なくとも1つの面において同様にに作用するポリペプチドなどの分子の活性を指す。例えば、FGF様活性を有する分子は、本発明の方法において軟骨細胞を増殖させる間、FGFの代わりに用いることができる。
【0024】
用語「TGF−β」は、トランスフォーミング増殖因子ファミリーの関連タンパク質を示す。TGF−βタンパク質は、C末端ポリペプチドの相同性、およびTGF−β受容体に結合した後の、Similar to Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質を介したシグナル伝達によって認識可能である。例には、TGF−β−1〜3、骨形成タンパク質(BMP)が含まれる。「活性型」TGF−βポリペプチドは、TGF−βポリペプチドの保存領域の少なくとも一部に対して有意(70%以上)な相同性を示し、相同体の少なくとも1つと同様の活性を有するポリペプチドである。活性の程度は、相同体の少なくとも1つよりも大きくても、小さくてもよい。
【0025】
用語「TGF−β様活性」は、同族のTGF−β分子と同様に少なくとも1種の細胞型に作用する分子(例えば、ポリペプチドなど)の活性を指す。例えば、SMADタンパク質を介してシグナルを伝達する分子は、該分子がTGF−β受容体と結合するか否かにかかわらず、TGF−β様活性を有する。TGF−β分子は、コラーゲン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、テネイシン、トロンボスポンジン、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子−1、およびメタロプロテアーゼ−1タンパク質の組織阻害物質の合成を刺激する。組換えラクトフェリンなどのTGF−β様活性を有する分子は、本発明の方法において軟骨細胞を増殖させる間、TGF−βの代わりに用いることができる。
【0026】
用語「低細胞接着」は、組織基材上に播種された大部分の細胞が該組織基材上に接着しない、軟骨細胞の培養条件の特徴を指す。
【0027】
本発明を実施する様々な方法の限定されない例として、以下の実施形態が挙げられる。
【0028】
全ての実施形態において、細胞の接着および伸展を制限する低接着条件下で、解離軟骨細胞または解離軟骨前駆細胞を成長させることによってex vivoで増殖する間、天然の軟骨細胞の表現型を維持することが基本的な原理である。本明細書に記載の低接着条件としては、これらに限定されないが、特定の基材表面の使用が挙げられ、増殖プロセスにおいて、軟骨細胞の形態、表現型および機能の維持が支持されることが分かっている。これらから形成される軟骨組織は、生体適合性があり、かつ医学用途での使用に対して安全である。低接着基材の使用により、天然の関節軟骨をより厳密に模倣する微小環境がもたらされ、天然の丸い形態が保持され、増殖した細胞が細胞周期を外れると硝子軟骨の遺伝子発現が生じる。適した低接着条件の1つの例は、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムの共有結合接着により表面を修飾したポリスチレン基材の使用などの、HA修飾基材の使用である。軟骨細胞は、ヒアルロン酸に対する細胞表面の糖タンパク質受容体(CD44)を介して固定化HAに接着し、正常で健康な関節軟骨に通常見られる大型のプロテオグリカン凝集体を構築するのにHA基材を利用することができる。
【0029】
高分子量HA(>400,000MW)は、分化した細胞機能の消失を防ぎつつ、細胞総収量を増やすためのin vitro増殖培養のために、基材として、または溶液中で使用することができる。例えば、合成培地中、HA修飾基材上で低密度で軟骨細胞の増殖を開始すると、顕著に軟骨細胞数が増加する。同様に、溶液中でHAを使用した条件、または、例えばCorning社製の超低接着コーティングを有するポリスチレン基材を使用した条件などの、他の低接着条件下で増殖させた軟骨細胞は、本明細書の他の部分で見出され記載されるように、表現型および形態を維持した増殖集団を産生する。さらに、この方法により増殖させた軟骨細胞は新軟骨組織を産生する天然の軟骨細胞分化能を保持し、これらの細胞、またはそれらから産生された新軟骨は、臨床用途に使用することができる。
【0030】
したがって、本開示は、増殖プロセスにおいて軟骨細胞が丸いままであり緩く接着したままとなるよう、低接着条件下で軟骨細胞を産生する方法を提供する。やがて軟骨細胞が凝縮し、組織凝集体または組織集団を形成することが観察される。この特有の軟骨細胞増殖方法により、細胞が増殖後に機能的活性を保持することが可能になる。本発明はまた、軟骨細胞増殖のためのキットも提供する。したがって、この方法は、関節軟骨修復に対する、細胞に基づく以前のアプローチで同定された課題の対処につながる。
【0031】
したがって、本発明のある実施形態は、単離した軟骨細胞を、例えば、本明細書に記載されるようなHAの共有結合接着によって修飾した基材上、または増殖培地中で可溶性のHAを溶液中で使用した未修飾基材上、またはCorning社、Nunc社およびCellSeed社から入手可能なものなどの市販の低細胞接着組成物上など、低接着条件下で増殖させる方法である。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態では、in vitroで、基材上で軟骨細胞を連続的に増殖させるための新規の方法が提供される。前記方法は、軟骨細胞を単離するステップ;サイトカインを含む無血清培地中で、細胞接着を減少させるよう修飾された基材上などの低接着条件下で前記軟骨細胞を成長させるステップ;および、その後増殖させた軟骨細胞を使用して硝子様軟骨組織を産出するステップを含む。増殖させた前記細胞集団はまた、移植に十分適しており、特に注入(injection)による移植に適している。
【0033】
好ましい方法では、軟骨細胞は、その後のプレーティングのため、新生児、幼児、または思春期前のドナーなどの、未成熟ドナー由来の軟骨から単離される。軟骨細胞は、連続酵素消化技術(Adkisson他、2001)などの、当技術分野で既知の方法により単離することができる。単離された軟骨細胞は、その後、複数の可能な低接着条件のうちの1つの条件下で、基材上に播種される。好ましい低接着条件としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムが共有結合により接着されたポリスチレン基材の使用、Corning社、Nunc社およびCellSeed社(Hydrocellプレート)から入手可能なプレートなどの超低接着プレートの使用、可溶性HAを含む無血清増殖培地の存在下での組織培養処理済みポリスチレンの使用、および、フォスファチジコリンなどのHA以外の低接着剤を含む無血清増殖培地の存在下での組織培養処理済みポリスチレンの使用が挙げられる。
【0034】
軟骨細胞は、鳥類軟骨細胞であっても哺乳類軟骨細胞であってもよく、好ましくはヒト軟骨細胞である。軟骨細胞は免疫介在性の異種移植拒絶を妨げるよう遺伝子操作した遺伝子導入動物(Sandrin他、1995;Sandrin他、1996、およびOsman他、1997)由来であってもよい。軟骨細胞は、硝子軟骨、弾性軟骨、または繊維軟骨などの、いずれの組織からも得ることができる。
【0035】
細胞を三次元の足場上に播種することなどの、当技術分野で既知の他の軟骨細胞増殖方法とは対照的に、分化した軟骨形態を保持するために、増殖中にヒアルロン酸ナトリウム以外の外来性の材料は必要としない。本発明の増殖方法では、軟骨細胞を、適切な組織培養表面と直接接触させて播種する。足場材料は不要であるが、例えば、ポリスチレンマイクロキャリアビーズなどの場合は、足場材料を使用してもよい。
【0036】
例示的実施形態では、増殖培養は、例えば新生児、幼児、または思春期前などの未成熟軟骨細胞をドナーの関節軟骨から単離し、最初にヒアルロン酸ナトリウムの共有結合による接着を介して、または十分に細胞接着または細胞伸展を低減するほかの化学材料によるコーティングで、または溶解したHAもしくはフォスファチジコリンなどの他の低接着剤を含む無血清増殖培地を使用して修飾された組織培養基材上に解離した細胞をプレーティングすることにより産生される。細胞接着およびその後の伸展の低減は、出発集団中の大部分の細胞が基材に接着していないことが観察されれば十分である。
【0037】
その後、単離された軟骨細胞は、適切な培地中の組織培養容器に直接播種される。通常、血清を含有する基本培地が使用されるが、血清は細胞の脱分化を促進することが観察されているので(例えば、実施例1、図1を参照)、いずれの血清含有培地も合成無血清増殖培地と交換される。「合成」とは、化学組成が既知である無血清培地を指す。本明細書では、前記用語は増殖に使用される増殖培地の特徴および使用される組織産生培地の特徴を指す。
【0038】
増殖に適した基材は、未処理のポリスチレン、組織培養処理済みのポリスチレン、または共有結合でヒアルロン酸を接着して修飾することが可能なポリカーボネートなどの任意の組織培養プラスチックである。HAで修飾された基材を用いて低接着条件が確立された方法の実施形態に対して、適切な基材としての唯一の要件は、ヒアルロン酸もしくはHA生合成の天然の構成要素であるN−アセチルグルコサミン、または細胞接着および細胞伸展を制限する他のポリマーでの修飾に適していることである。好ましくは、ヒアルロン酸またはN−アセチルグルコサミンは共有結合で接着されている。ただし、ポリスチレン基材への直接の接着を除き、共有結合は多くの場合必ずしも必要ではない。。
【0039】
HAで基材を共有結合修飾することにより、基材が水性培地に可溶性ではなくなり、それにより、二次元培養において、無血清増殖培地中で軟骨細胞をサイトカインを介して増殖させる間、天然の軟骨細胞の表現型が維持される。ヒアルロン酸は微小環境を再現するが、未修飾の組織培養プラスチック(ポリスチレン)は再現しない。しかし、例えば、組換えリンクタンパク質など、アグリカンの集合を促進する他のいかなる分子も使用することができる。
【0040】
架橋剤(Pierce,Rockford,III.「架橋剤」;product literature 2004)
2以上の分子の架橋とは、共有結合によりそれらを連結することである。架橋剤、架橋試薬などは、1級アミン、スルフヒドリル、カルボキシルなどの特定の官能基と反応する部分を有する。最も一般的に用いられる架橋剤には、ホモ二官能性とヘテロ二官能性の二つの型があるが、架橋試薬は2以上の反応性基(例えば、三官能性の架橋剤)を有しうる。ホモ二官能性リンカーは2つの同じ反応性基を有し、ヘテロ二官能性架橋剤は2つの異なった反応性基を有する。ホモ二官能性架橋剤は、「一段階」架橋に使用される。ヘテロ二官能性架橋剤を利用するために、「連続段階」架橋方法が使用される。最も一般的に使用される架橋剤は化学反応性基を有するが、光反応性基を有する架橋剤を使用することもできる。光反応性基の利点は、化学反応性基を用いた場合には形成されない、複合体を形成することができることであるが、光反応性基の効率は低い場合があり、ほとんどの場合10%であり、場合によっては最大70%である。
【0041】
一般的なヘテロ二官能性架橋剤としては、アミン反応性スクシンイミジルエステルを一端に有し、スルフヒドリル反応性基を他端に有するものが挙げられる。他の例には、「長さゼロの(zero−length)」架橋剤でありカルボン酸塩と1級アミンを直結させる、カルボジイミドがある。
【0042】
架橋剤の選択は、架橋される分子の標的官能基、および適用に対する応答適合性に基づいている。以下の特徴:化学的特異性、スペーサーアームの長さ、試薬の溶解性(および細胞の場合は、膜透過性)、ホモ二官能性もしくはヘテロ二官能性のどちらが適切または望ましいか、化学反応性基または光反応性基、架橋後に切断可能な連結が望まれるか、ならびに試薬が標識(例えば、放射標識)と結合可能かどうか、もまた考慮される。現在、300以上の架橋剤が入手可能であり、HAが細胞と相互作用する能力を著しく変化させずに様々な基材にHAを化学的に架橋させるために、多数のアプローチを使用することができることを当業者は理解しており、HAが三次元空間において自由に接近できるよう長さの長いスペーサーアームを有する試薬を開発する場合には特にそうである。
【0043】
最も重要な疑問は、恐らく、どのような官能基が連結に利用可能であるかということであろう。例えば、リジン残基またはN末端アミノ酸のみが利用可能な場合は、論理的な選択はNHS−エステルホモ二官能架橋剤である。一方の分子がリジン残基を有し、もう一方の分子がスルフヒドリルを有する場合、マレイミドNHS−エステル架橋剤が適している。両方の分子でリジン残基のみが有効である場合は、リジン残基を介して一方の分子にスルフヒドリルを導入して修飾することにより、連続的連結が可能となるであろう。両方の分子が遊離スルフヒドリルを有する場合、ホモ二官能スルフヒドリル反応性架橋剤が適している。カルボキシル基およびアミンが有効な場合は、カルボジイミドが良好に機能する。さらに、反応しやすい基がない場合は、光反応性架橋剤を使用することができる。リジン残基が分子の機能性に重要である場合は、スルフヒドリル、カルボキシルを介した連結に作用する架橋剤、または非特異的な架橋剤を使用することができる。表1は、いくつかのクラスの反応性架橋基、およびこれらの官能基の標的を記載したものである。
【表1】

【0044】
スペーサーアームの長さは、架橋の成功において重要な役割を果たすことがあり、通常実験的に決定することが必要である。通常、短いスペーサーアーム(4〜8A)が最初に使用され、次に架橋の成功が評価される。架橋が十分でない場合は、長いスペーサーアームを有する架橋剤が検討されることがある。ある例では、例えば、HA基材とともに軟骨細胞培養物を完全な状態で遊離したい場合には、切断可能な架橋試薬が望ましい。表2は、適用可能な複剤(double−agent)の架橋剤の拡張リストである。表3は、適用可能な単剤の架橋剤の拡張リストである。
【表2】



【表3】





【0045】
過ヨウ素酸ナトリウムを使用して、グリコサミノグリカンと利用可能な1級アミンを含む種々の構造との架橋のための反応性アルデヒド基を、安定なシッフ塩基の形成によって生じさせることができる。コンドロイチン硫酸、デキストランおよびヒアルロン酸ナトリウムなどのグリコサミノグリカンは、このような方法を用いて修飾されてきた。ごく最近には、Liu他、2003に骨組織修復に有用な組織工学的足場(Healos(登録商標))の形成のためのヒアルロン酸−ポリアルデヒドの調製が記載されている(Liu他、2003)。
【0046】
このようにして、活性化ヒアルロン酸−ポリアルデヒドは、ヒアルロン酸ナトリウムを過ヨウ素化ナトリウムで酸化し、続いて十分に透析することにより調製される。ヒアルロン酸ポリマー上の反応性アルデヒド基(ホルミル基)の密度は、反応時間を変化させることにより制御することができ、ビシンコニン酸法の改良法を用いて定量的にモニターすることができる(Hermanson GT Bioconjugate Techniques,San Diego,Academic Press,Inc.,1996,p622)。したがって、ヒアルロン酸ナトリウムをポリスチレン表面に架橋するための代替法としては、第一のステップで形成されたスルホンアミドと、過ヨウ素酸酸化HAの反応性アルデヒドとの間のシッフ塩基形成が挙げられる。凍結乾燥したHAポリアルデヒドは4℃(暗所保存)で安定である。ポリアルデヒド水溶液を修飾ポリスチレン表面に添加し、所望の架橋の程度に応じて、室温または37℃のいずれかで反応させる。その後、未反応材料をアスピレーションで除去し、細胞を播種する前に蒸留水および培地中でプレートを十分に洗浄する。
【0047】
本発明の方法のための組織からの細胞の単離においては、細胞全収量および細胞生存率を最適化するよう、酵素消化中、注意する必要がある。従来、軟骨細胞は、非特異的プロテアーゼ、続いてコラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼを用いた連続酵素消化により軟骨組織から単離されてきた。残念ながら、研究目的で使用されるタンパク質分解酵素調製物の大部分には、顕著なレベルのエンドトキシン、および細胞膜タンパク質を損傷する場合がある種々の望ましくないタンパク質分解活性が含まれており、細胞死をもたらす。
【0048】
Liberase(商標) Blendzyme調製物は、酵素活性および酵素純度が特徴付けられたタンパク質分解酵素に対する需要の増加に対処するため、Roche Diagnostics Corporation(インディア州、インディアナポリス)により開発された。調節の観点から、これらの酵素は、組織工学による医療用品の製造において使用される好ましい材料である。Blendzyme2は、コラゲナーゼと中性タンパク質分解酵素活性との組み合わせを含み、関節軟骨由来の初代軟骨細胞の回収に良好に機能する。軟骨細胞を培養基材から遊離する場合は、前記酵素のレベルを少なくすることが好ましい。
【0049】
Blendzymeは、精製コラゲナーゼIおよび精製コラゲナーゼII、ならびに中性タンパク質分解酵素の混合物である。コラゲナーゼは、クロストリジウム・ヒストリチクム(Clostridium histolyticum)の発酵物から精製される。現在、4つの処方が入手可能である。Blendzyme1は、バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)の発酵物から精製された中性タンパク質分解酵素であるディスパーゼを含む。Blendzyme2、3および4は、バチルス・サーモプロテオリティカス(Bacillus thermoproteolyticus)の発酵物から精製された中性タンパク質分解酵素であるサーモリシンを含む。これらの構成成分をBlendzyme調製物用に精製および混合する方法は、米国特許第5,753,485号および同5,830,741号に記載されている。Blendzyme混合物の使用は、表4に記載の基準を用いて最適化することができる。
【表4】

【0050】
Blendzymeは好ましい。しかし、キレート剤を使用する方法などの、安全に細胞を遊離する、酵素を使用したおよび酵素を使用しない、いずれの方法も使用することができる。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびエチレン−ビス(オキシビスエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)は、単独または組み合わせで使用することができる、このような一般的な試薬のうちの2つである。
【0051】
本発明の例示的な実施形態では、軟骨細胞は、新生児、幼児、または思春期前のドナーなどの未成熟ドナーから単離され、ヒアルロン酸ナトリウムの共有結合接着によって共有結合修飾されたポリスチレンなどの基材表面材料上、または本明細書の他の部分で記載されるような他の適切な接着条件下にて基材上で増殖される。増殖させた細胞は、次に合成無血清組織産生培地中で成長させ、軟骨修復用の新軟骨が産生される。(本明細書の他の部分で説明するように、「合成」培地は、増殖用、組織産生用を問わず、化学組成が既知である無血清培地である。)もしくは、得られた増殖細胞集団を、例えば、注入による将来の移植のために凍結してもよく、増殖の第2段階の前に、凍結保存ステップで凍結してもよい。2段階の増殖を経た細胞集団はまた、組織成長および細胞外マトリックス産生のための適切な培養条件下で播種する前に、第2の凍結保存ステップで凍結してもよい。
【0052】
軟骨前駆幹細胞
本発明の方法に適した他の細胞としては、胎盤から単離された細胞(Kogler他、2004)、骨髄間葉系間質細胞(Mackay他、1998;Kavalkovick他、2002)、脂肪間質細胞(Huang他、2004)、滑膜(DeBari他、2004)、および骨膜(DeBari他、2001)が挙げられる。
【0053】
無血清組織産生培地はまた、ビタミンC、アスコルビン酸塩、外来性のオートクリン成長因子、または以下に記載のような条件成長培地を含んでいてもよい。本発明の方法にしたがって細胞を培養した場合、ビタミンC(アスコルビン酸)の存在が好ましい。ビタミンCは、遊離酸または塩として、いずれの活性な形態で供給されてもよい。例えば、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、およびL−アスコルビン酸2−リン酸またはこれらのエステル化誘導体が挙げられる。使用される濃度は、細胞の供給源に応じて実験的に決定することができるが、アスコルビン酸ナトリウムとして供給される場合は、通常、5.6×10−4g/Lから0.1g/Lの範囲の濃度である。同様に、無血清組織産生培地は、デキサメタゾン、またはその塩誘導体を含んでいてもよい。デキサメタゾンはSOX9の発現を促進し、恐らく増殖した細胞による軟骨マトリックス産生能を増大させるであろう(Sekiya他、2001;Malpeli他、2004)。
【0054】
培養細胞は、培養細胞を加湿雰囲気において37℃で2〜10%のCO、好ましくは5%のCOを加えて成長させるなど、適切な培養条件下で成長させることができる。
【0055】
倍加時間
プレーティングの初期濃度、増殖培地の品質、細胞に固有の遺伝的要因、温度、HAの品質およびHAの基材への適用などを含む種々の要因に応じて、特定の細胞群に対する倍加時間は変化することがある。本発明に記載のように維持した軟骨細胞について観察された倍加時間は、3×10/cmの濃度でプレーティングした場合、通常、3〜4日である。増殖培養の時間が14〜17日まで増えると、4〜6回もの軟骨細胞集団の倍加を実現することができる。一方、血清を補充した培地中で成長させた同じ細胞は、接触阻害により制限され、集団倍加が2回より大きくなることはない。本発明で使用される好ましい合成増殖培地は、インスリン−トランスフェリン−セレニウム−複合体を唯一のタンパク質の供給源として含む独自の処方である、HL−1である(HL−1(商標)、Lonzo Walkersville,Inc.、(以前はCambrex)、メリーランド州、ウォーカーズビル))。サイトカインを含む無血清増殖培地は、最初の播種後、3から4日ごとに完全にまたは部分的に交換される。
【0056】
最適な培地の選択は、細胞のタイプに依存し;細胞培養に使用される培地は、通常、好ましい選択肢を示す。好ましい培養培地の例には、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、イーグル最少必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、Click培地、LeibovitzのL−15培地、McCoy 5A培地、グラスゴー最少必須培地(GMEM)、NCTC109培地、ウィリアムE培地、RPMI−1640、199培地、ハムF12培地およびSFM(Gibco)が含まれる。
【0057】
軟骨細胞以外の特定の細胞タイプ/株に対して特別に開発された培地は、特に、軟骨細胞の脱分化を誘導することが報告されている上皮増殖因子を含む場合は(Yoon他、2002)、本発明の実施に有用ではないことがある。
【0058】
ある場合には、ウシ血清アルブミンを含む種々のアルブミンなどの、細胞を支持するためのタンパク質を添加してもよい。所望の場合は、前記培地には、培地に加えてバッファー(例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BSE)、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−トリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS−Tris)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(EPPSまたはHEPPS)、グリシン、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルフォリノ)−プロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタン−スルホン酸)(PIPES)、重炭酸ナトリウム、3−(N−トリス(ヒドロキシメチル)−メチル−アミノ)−2−ヒドロキシ−プロパンスルホン酸)TAPSO、(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−グリシン(トリシン)、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(トリス)など)などを、培養物のアシドーシスを制限する試薬をさらに補充してもよい。頻繁に培地を交換、および供給するCO濃度(多くの場合、およそ5%)を頻繁に変更して、アシドーシスを制御することもできる。
【0059】
研究室での特定の実施例において使用される種々の材料の供給源は、以下のようである。
【0060】
材料 L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、およびグルコース(1.0g/リットル[LG]または4.5g/リットル[HG]のいずれか)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、ウシ胎仔血清(FBS)ならびに抗生物質(100倍)(ペニシリンGナトリウム(10,000単位)および硫酸ストレプトマイシン(生理食塩中、25mg/ml)は、Life Technologies,Inc(ニューヨーク州、グランドアイランド)から入手した。
【0061】
プロナーゼ−E(ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来、XIV型)、ヒアルロニダーゼ(VIII型、ウシ精巣)、N−トリス[ヒドロキシメチル]メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、およびMILLEX−GSシリンジ滅菌フィルターは、Sigma Chemical Company(ミズーリ州、セントルイス)から入手した。
【0062】
コラゲナーゼ(CLS4)は、Worthington Biochemicals(ニュージャージー州、フリーホルド)から購入した。細胞培養ディッシュ(直径35mm、直径100mm、12および24ウェルクラスター)、およびボトルトップ滅菌フィルターユニット(CA型)は、Costar Corporation(マサチューセッツ州、ケンブリッジ)から入手した。
【0063】
ウシ血清アルブミン(第V画分、脂肪酸を含まない)は、Calbiochem(カリフォルニア州、サンディエゴ)から入手した。HL−1(商標)完全無血清培地(Complete Serum−free Medium)は、Cambrex(現在は、Lonza Walkersville,Inc)から入手した。
【0064】
別の好ましい実施形態では、生体外での軟骨細胞の増殖は、軟骨修復のためのものである。この実施形態では、損傷部位周辺の非損傷軟骨領域から軟骨を除去し、コラゲナーゼで消化する。得られた軟骨細胞を本発明の修飾基材上で増殖させ、その後、軟骨欠損部位に注入または移植する。同様に、骨髄間質繊維芽細胞を骨欠損に隣接した正常領域から単離し、記載したように生体外で増殖させ、骨欠損部位に投与することができる。
【0065】
血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、および骨形成タンパク質を含む発明(米国特許第6,617,161号)の軟骨細胞増殖物は、軟骨の構築および修復のために重要な構成要素である2つの主要な軟骨特異的表現型マーカーであるII型コラーゲンおよびプロテオグリカンアグリカンを欠く。これらの分子の発現の中断は、細胞の表現型が脱分化していることを示す。Yoon他、2000は、最近、EGFが天然の軟骨細胞の表現型の喪失を促進することを実証した。
【0066】
未修飾のポリスチレン上で培養した軟骨細胞は、繊維芽細胞の外観を示し、天然の丸い形態と比較して、細長い細胞形状を示す。処置した細胞の潜在的機能的特性の確立には、増殖させた軟骨細胞集団において表現型マーカーを特徴付けることが必要である。食品医薬品局(FDA)/生物製剤評価研究センター(CBER)は、関節表面の修復のための生体外での関節軟骨の増殖に関するプロトコルが、増殖した細胞集団が天然の軟骨細胞に非常に類似していることを証明することを要求している。これは、増殖プロトコルの終わりに、または新軟骨を産生した後に、分子的方法(例えば、ノーザンブロット、RT−PCR)および生化学的方法(例えば、免疫沈降:アフィニティクロマトグラフィー)、または免疫細胞化学的方法(例えば、ELISAまたは免疫蛍光標式細胞分取(FACS))などのいずれかの最適な方法により、アグリカンコアタンパクおよびII型コラーゲンのmRNA発現レベルを計測することにより評価することができる。標的タンパク質を検出するプロトコルが好ましい。
【0067】
増殖、分化能、または得られた再生組織の品質を改善するいずれの生物活性分子も、本発明に従って用いることができる。
【0068】
HA修飾基材などの低接着条件下で細胞を増殖させると、核酸の細胞へのトランスフェクション効率もまた改善する。通常、核酸のトランスファーは単層増殖の間に実行され、活発な有糸分裂にある細胞はDNAトランスフェクションにより適している。したがって、本発明の技術に従って、組織工学技術を遺伝子治療と組み合わせて適用することができる。例えば、抗生物質、サイトカインおよび炎症性薬剤などの種々の生体化合物および化学化合物に対する耐性を与えるベクター、または特定の成長因子またはマトリックス成分の過剰発現をもたらすベクターを細胞にトランスフェクトすることができる。
【0069】
移植
本発明の増殖プロセスから単離された解離細胞は、通常、足場の支持なしで成長して、軟骨修復のための三次元組織を作製する(米国特許第6,235,316号)。しかし、この方法によって増殖させた細胞は適切な生分解性の高分子マトリックスまたはハイドロゲルと組み合わせて移植して、新たな軟骨組織を形成することができる。使用することができるマトリックスには、その中に細胞が懸濁されたフィブリンまたはアルギン酸などの材料で形成された高分子ハイドロゲル、および約40〜200ミクロンの間隙を有する繊維状マトリックスの二つの形態がある。好ましい高分子マトリックスは、ポリ酪酸−グリコール酸コポリマー(米国特許第5,716,404号)などの、移植後約1から2ヶ月で分解するものである。マトリックスには移植に先だって播種してもよく、移植して、血管新生させてから細胞を播種してもよい(例えば、Cima他、1991;Vacanti他、1988;およびVacanti他、1988参照)。
【0070】
移植された組織の血管新生を促進、および/または繊維性組織の内方成長を抑制する生理活性分子などの他の材料をマトリックスと共に移植して、より正常な組織の発生を促進することができる。
【実施例】
【0071】
実施例1:血清含有培地中での連続増殖による軟骨細胞表現型の喪失
組織供給源を問わず、軟骨細胞は、in vitroでの連続増殖とともに軟骨特異的巨大分子を合成する能力を急速に失う(Homicz他、2002;Mandl他、2002)。若年軟骨細胞は、成人関節軟骨細胞よりはマトリックス巨大分子を合成する能力を保持していると考えられているが、未成熟関節軟骨由来の軟骨細胞を用いて以下の実験を行い、軟骨細胞マトリックス合成への連続増殖の影響を決定した。血清の軟骨細胞分化への悪影響を実証するために、種々の血清含有培地を評価した。
【0072】
新生児から3歳までの範囲の年齢の死体の関節軟骨から、16の異なったドナー細胞集団を単離した。示した量のウシ胎仔血清を含む4つの異なった基本培地処方:10%DMEM/LG、10%DMEM/LGからDMEM/LGへ、10%DMEM/HG、および5%HL−1からHL−1へ、を使用した。3×10/cmの細胞を含むT−75フラスコを播種し、1週間に2回、成長培地を完全に交換して21日間培養した。培養物から酵素解離により軟骨細胞を遊離させ、Guava Personal Cell Analysis system(Guava Technologies,Inc、カリフォルニア州、ヘイワード)を使用した蛍光検出により総細胞数および生存率を測定した。続いて、解離した細胞(1×10個の生存細胞)を、HL−1完全無血清培地(以前は、Cambrexから入手可能。現在は、メリーランド州、ウォーカーズビル、Lonza Walkersville,Inc.より入手可能である、HL−1(商標)無血清ハイブリドーマ培地)を用いて48穴プレートに播種して、Adkisson他、2001に記載されるように新軟骨を産生させた。生化学的組成分析のために、培養45日目に培養物を回収した。
【0073】
図1は、血清含有培地中での連続増殖に応じた軟骨細胞分化能の喪失を示すグラフである。グループのうちの2グループを、最大2.8回細胞倍加するまで(ほぼ8倍の総細胞数)、2回の継代によって増殖させた。若年関節軟骨細胞の軟骨性プロテオグリカン産生能の顕著な減少が観察された。データから全体としての回帰直線をプロットし、同じ個体由来の増殖させていない軟骨細胞と比較して、ほぼ3回の集団倍加後の軟骨細胞マトリックス合成において70%を超える減少が示された。
【0074】
成人関節軟骨細胞で起こっていると報告されていることと同様に、これらのデータは、5〜10%(v/v)の範囲のウシ胎仔血清を含む種々の成長培地中で維持した場合、単層培養で連続増殖させた後に、若年組織ドナー由来の軟骨細胞がマトリックスプロテオグリカンを集合させる能力を急速に失うことを説明している。したがって、ドナーの年齢とは対照的に、血清由来因子は、主に単層培養中に軟骨細胞がin vitroで脱分化する程度を決定し、新軟骨マトリックス形成能の顕著な減少をもたらす。
【0075】
実施例2:ポリスチレン表面上へのヒアルロン酸ナトリウムの共有結合による固定方法
天然の軟骨細胞表現型を失わずにin vitroで軟骨細胞が増殖できる効率を改善するため、高分子量ヒアルロン酸ナトリウムを共有結合でポリスチレンに接着させて作製した修飾基材上で、若年軟骨細胞を成長させた。未修飾組織培養プラスチックとは対照的に、固定されたヒアルロン酸ナトリウムは、天然の関節軟骨の微小環境をより厳密に模倣する微小環境を提供するであろうと仮定された。ポリスチレンをヒアルロン酸ナトリウムで化学的に修飾する以下の方法は、TurleyおよびRoth(Turley and Roth、1979)により最初に記載された方法を改良したものである。
【0076】
図2では、未使用のポリスチレンプレートを、37℃で2時間、硫酸で処理した。硫酸を除去し、これらのプレートを脱イオン蒸留水で十分に洗浄した後、含水水酸化アンモニウムの添加(室温で24時間)により反応性スルホンアミドを生じさせた。塩基を除去し、プレートを再度、水で十分洗浄した。最後に、高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(HyluMed、医薬グレード、Genzyme Advanced Biomaterials、マサチューセッツ州、ケンブリッジ;水1mLあたり5mg)の水溶液を、3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)塩酸塩を用いて(37℃で48時間)、反応性スルホンアミドと架橋した。このプロセスを図2に示す。増殖培養を開始する前に、ヒアルロン酸/EDC溶液をアスピレーションにより除去し、組織培養プレートを脱イオン蒸留水で十分に洗浄し、HL−1完全無血清培地(Cambrex)で2回洗浄した。
【0077】
実施例3:無血清培地中、HAコーティングプラスチック上での連続増殖により保持された軟骨細胞表現型
6週齢の対象由来の軟骨細胞を、実施例2に示した方法で修飾したプレートを使用して、2回継代した。増殖させた軟骨細胞の分化能を、酵素による解離後、細胞総数および生存率を測定して評価した。lsto Technologies,Incで開発された独自の無血清分化培地を使用して、軟骨細胞分化を刺激した。Martin他(米国許第6,582,960号)に記載される方法などの他の方法とは対照的に、この培地は、軟骨細胞分化能を促進するTGFβもデキサメタゾンも含んでおらず、組換えヒトインスリン(Serologicals Corporation、マサチューセッツ州、ミルフォード)がこの処方中の唯一のタンパク質成分である。
【0078】
図3は、ヒアルロン酸ナトリウムの共有結合による接着が増殖中の軟骨細胞表現型維持のための基材として機能する、サイトカイン媒介性軟骨細胞増殖プロセスの略図である。初代軟骨細胞を単離、洗浄し、3×10細胞/cmの最終密度で、100ng/mLのFGF−2および20ng/mLのTGFβならびにビタミンCを含むHL−1完全無血清培地中に再懸濁する。コントロールプレートおよびHA処理プレートを、増殖の14から17日間後に、実施例7に記載するようにBlendzyme2を使用して回収した。解離した細胞の一定分量を分化培地にプレーティングし、一方で、新軟骨形成能を評価し、残った細胞は連続増殖させた。28から45日に、新軟骨マトリックスのプロテオグリカン、DNAおよびコラーゲンの総含有量を測定するために新軟骨を分化培地から回収した。これらの値は、増殖させていない軟骨細胞から同じ方法を用いて調製した新軟骨から得られた値と比較した。軟骨細胞数の累計増加は、85倍または6.5回の集団倍加であった。
【0079】
図4は、新たに分離した未継代の細胞(P0)および第2継代の細胞(P2)から産生された移植片について収集した生化学的組成データを示す。新軟骨移植片は、新たに分離した未継代の細胞およびP2までの各連続継代の細胞を用いて、未処理の48ウェルプレート中で、1ウェルあたり1×10個の細胞密度で開始した。グリコサミノグリカン(S−GAG/DNA/日)およびコラーゲン(ヒドロキシプロリン/DNA/日)の合成速度を、それぞれ左側の軸および右側の軸にプロットする。データは4回または5回の反復の平均を示す。+/−標準偏差。各増殖の概算の集団倍加は、培養14日目および17日目において、第1継代の細胞P1とP2で、それぞれ2.25および4.25であった。
【0080】
FGFおよびTGFβを含む無血清規定培地中、HA修飾ポリスチレン上で増殖させた若年ドナー軟骨細胞は、新たに単離した軟骨細胞と比較して、分化能の減少が最小限であった。図4に示すように、P1およびP2新軟骨のプロテオグリカン含有量は、初代培養の含有量の78〜88%の範囲内であり、このことは、増殖条件の結果として、細胞外マトリックス合成速度にほとんど変化が起こらなかったことを示す。10%ウシ胎仔血清中での軟骨細胞増殖(実施例1のデータを参照)とは対照的に、これらのレベルは、種々の血清含有培地中で増殖させた細胞に対して、総マトリックス算出量が3から4倍増加していることを示す。実際、合成培地中、HA修飾プラスチック上で増殖させた若年ドナー軟骨細胞から産生された新軟骨移植片は、ex vivoでピンセットで容易に移植できるほど強固な組織ディスクを産生することが分かった。
【0081】
別の実験において、HA修飾プラスチック上で増殖させた軟骨細胞の成長(分化アッセイ)は、未修飾組織培養プラスチック上での成長と比較して、総マトリックス産生量(硫酸化プロテオグリカンとコラーゲンの両方)の25%の増加であった。これらのデータは、新軟骨形成への軟骨分化の前に培養表面へHAを固定することにより、軟骨の細胞外マトリックス産生が増大することを示し、Kujawa他(1986)の初期の研究を支持する。Kujawaらの研究とは対象的に、本研究ではHAポリマーのサイズに依存しないことが示される。
【0082】
効率的で、再現性があり、正常な軟骨細胞表現型を維持することになる軟骨細胞増殖のin vitro条件の確立という最終目的とともに、本実施例は、共有結合でヒアルロン酸ナトリウムを接着して修飾したプラスチック表面が増殖中の軟骨細胞の伸展を制限し、増殖した軟骨細胞の機能的特性が保持することを示す。
【0083】
実施例4:共有結合で結合したヒアルロン酸ナトリウム上で増殖させた軟骨細胞は、丸い形状および天然の機能を維持する。
本実施例は、規定培地中、HA修飾基材上で培養した軟骨細胞は、丸い細胞形状および機能を保持することにより天然の軟骨細胞表現型を維持することになることを示すものである。
【0084】
最初に未修飾プラスチック上でサイトカインの存在下で増殖させた5歳齢由来のヒトP1軟骨細胞をこのプロット実験に使用して、固定化HAが、丸い軟骨細胞形態および酵素による解離後の細胞機能特性の両方を回復することができるかを決定した。直径35mmのポリスチレンディッシュを、上述のように共有結合でHAナトリウムを接着して修飾した。初代細胞を増殖させたものから2×10個の軟骨細胞を回収し、次に、2ng/mLのTGFβ−2および10ng/mLの種々のヒトFGF−2(ProChon,Ltd.、レホヴォト、イスラエル)ならびにビタミンCを含むHL−1完全無血清培地(Cambrex)中でさらに増殖させるため、HA修飾ポリスチレン表面および未修飾ポリスチレン表面上に播種した。培養物は、Guava ViaCount(登録商標)を使用した生存率の計測および評価のため、10日目に回収した。培養10日目に、2.5回の集団倍加を達成した。
【0085】
図5Aは、HA修飾ポリスチレン上でサイトカインの存在下で増殖させた、軟骨細胞の島または軟骨細胞凝集体由来の軟骨細胞を示す。該軟骨細胞は丸い形態の外観を維持しているようである。このような軟骨細胞凝集の形成は、骨発生中にin vivoで通常起こる間葉組織の凝集(Singley and Solursh、1981)を連想させるものである。軟骨細胞凝集が比較的不透明であることは、軟骨細胞が活発に細胞外マトリックス成分を合成し続けていることを示唆する。このように、HA修飾表面上で成長した軟骨細胞は、丸い形態、軟骨細胞表現型の特徴が保持された細胞集団を形成した。
【0086】
一方、未修飾プレート上で同一の条件下で増殖させた同じ細胞は、平坦で石畳状の外観を示した(図5B)。これらの培養物では、軟骨細胞の増殖能は、接触阻害により制限されているようであった。
【0087】
これらの各グループに由来の軟骨細胞を、続いて、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼにより解離して継代し、48ウェル(未修飾)培養ディッシュに播種して(1ウェルあたり1×10個)、P2細胞が新軟骨マトリックスを合成する能力について測定した。三次元足場またはペレット培養を用いないでマトリックスの産生を最適化するための化学的限定条件(実施例3参照)を用いて、軟骨細胞を45日間成長させ、この時点で生化学的組成分析のために細胞を回収した。図6は、培養10日目に得られた新軟骨の顕微鏡写真を示し、HA修飾ポリスチレン上で増殖させた培養物から回収したP2細胞は丸い形態の外観を示している。この方法で増殖し、分化培養した軟骨細胞は、新たに分離した軟骨細胞に特徴的な丸い形態の外観を示した。図7は、HA修飾プラスチック上で増殖させた軟骨細胞から得られた新たに合成されたNCマトリックスの生化学的組成と、未修飾ポリスチレン上で増殖させた同じ細胞から得られた新たに合成されたNCマトリックスの生化学的組成を比較したものである。
【0088】
共有結合で結合したHAを含む基材は、新軟骨組織形成中に天然の軟骨細胞形態(丸い表現型)を維持しているようであり、より重要なことに、増殖した細胞において、初代培養集団のレベルに達するほどのレベルまで(およそ1.75から2μgのS−GAG/μg DNA/日)、軟骨細胞の細胞外マトリックス合成を回復しているようである。
【0089】
実施例5:分子レベルでの軟骨細胞表現型の特徴付け
HA修飾ポリスチレン上で増殖された細胞における天然の軟骨細胞表現型の維持について、遺伝子発現解析により分子レベルで確認した。スケールアップ実験において、各継代で回収した軟骨細胞をRNA単離に使用し、軟骨特異的細胞外マトリックス巨大分子、および軟骨転写因子であるSOX9のセットに相当する相対mRNAレベルを、半定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を用いて分析した。
【0090】
図8Aおよび図8Bは、上記実施例4で使用した細胞から回収したP0軟骨細胞およびP2軟骨細胞から得られた代表的な遺伝子発現プロファイルを示す。P2細胞は、全部で6.5回の集団倍加を経ていることに留意されたい。新たに分離した軟骨細胞(上のパネル)、および6.5回の集団倍加後の同じ細胞(下のパネル)の遺伝子発現パターンにおいて識別可能な差異は観察されなかった。SOX9およびB7−H1のmRNAレベルは連続増殖後に変化しないままであった。B7−H1は、in vitroおよびin vivoにおいて軟骨細胞の免疫特権状態を維持すると考えられているアロ反応性の、推定上の負の制御因子である(Adkisson et al.、未発表所見)。
【0091】
P2細胞は、従来の研究では軟骨特異的遺伝子の発現の重要な変化が生じると記載されていた(Dell’Accio et al.、2001)時期である6.5回の累積集団倍加を経てはいるが、これらの細胞は、実質的にP0細胞と同じ遺伝子発現パターンを維持していた。P2軟骨細胞におけるSOX9遺伝子の発現レベルにほとんど変化がないことから、コラーゲンおよびアグリカンコアタンパク質の合成を制御する遺伝子の発現が、発現レベルにおいてほとんど変化していないことが期待された。この仮説を、アグリカンコアタンパク質およびII、IX、XI型コラーゲン、ならびに繊維軟骨の形成に関連しているI型コラーゲンをコードするmRNAの遺伝子発現プロファイル分析により確認した。10%FBSおよびビタミンCを含むHL−1培地中で連続増殖させた同じ軟骨細胞集団において、アグリカンコアタンパク質およびII型コラーゲンの遺伝子発現レベルの顕著な減少が観察されたことに注目すべきである(図9Aおよび図9B)。実施例1に示すように、血清含有培地中で増殖させた軟骨細胞は、新軟骨マトリックスを合成、集合させる機能的能力もまた失う。
【0092】
本実施例は、ヒアルロン酸修飾基材上での軟骨細胞の増殖は、軟骨細胞の細胞形状の形態分析および遺伝子発現プロファイルにより実証されたような、天然の表現型を維持することになる好ましい微小環境に相当することを示した。一方、血清含有培地中で増殖された軟骨細胞は、軟骨形成および軟骨修復に重要な巨大分子であるアグリカンコアタンパク質およびII型コラーゲンのmRNA発現レベルにおいて顕著な変化を示した。
【0093】
実施例6:天然の軟骨細胞表現型の維持を支持する代替低接着条件を用いた軟骨細胞の増殖
先の実施例4および5は、修飾ポリスチレン表面が、足場非依存的増殖、すなわち低接着条件下で、軟骨細胞の増殖を支持するという特有の能力を実証するものである。低接着条件下で維持された軟骨細胞は、ex vivoで天然の丸い形態の外観および人工組織を合成する能力を保持したまま、十分に成長する。表現型の保持の確認は、生化学的レベルおよび分子レベルの両方で実証された。
【0094】
本実施例では、ex vivoでの増殖において軟骨細胞の接着および伸展を制限し、それにより、増殖プロセスにおいて、細胞の表現型および硝子軟骨遺伝子の発現が維持されるという同じ結果を得るために異なった方法を用いることができることを実証することが目的であった。比較のために、3つの異なった条件:グループA、共有結合HA、グループB、組織培養処理済みプラスチック製品を用いて、1mg/mLで増殖培地に添加した可溶性HA;グループC、Corning社により製造された超低接着プレート、を用いた。若年関節軟骨細胞を、3×10細胞/cmの密度で、先の実施例で明示したHL−1補充培地を含むT−75組織培養フラスコにプレーティングした。3から4日ごとに新鮮な培地を補充または交換して、増殖培養物を21日間維持した。次に、増殖させた細胞集団を、Liberase(商標)Blendzyme2を用いて、回収のために解離し、この時点で凍結保存前の各々の条件のため、生存細胞数を確定した。調べた3つの条件の各々から得られた軟骨細胞は3から4回の集団倍加を経たことが分かった。これらの第1継代細胞を続いて使用して、48ウェルプレート中に新軟骨ディスクを産生した。得られた新軟骨ディスクを、生化学的分析のため、培養40日から45日の間に回収した。各低接着条件で成長した細胞の形態的外観を顕微鏡でモニターし、得られた新軟骨の生化学的組成を、標準的なアッセイを用いて評価した。
【0095】
図10は、回収前に100倍で撮像した培養−増殖軟骨細胞の形態的外観を比較したものである。矢印は、各増殖条件で観察された浮遊集団を示す。各条件で培養されたほぼ全ての細胞において、丸い形態の外観が維持され、基材上に接着および伸展していないことが観察された。A)ポリスチレンプラスチックを共有結合でHAを接着して修飾した。B)可溶性HAを増殖培地に添加した−未修飾の通常の組織培養プラスチック。C)超低接着プレート(Corning社から入手)を増殖基材として使用した。それぞれの場合において、同様の細胞の丸い形態および集団化が観察された。
【0096】
図11は、各増殖条件で得られた細胞を用いて産生された新軟骨の3重重複サンプルについてプロテオグリカン合成速度を比較したものである。データはDNA含有量および培養日数に対して正規化した。各増殖軟骨細胞集団について、同等のマトリックスプロテオグリカン産生速度が観察され、培養1日あたり、1マイクログラムのDNAあたり、平均で1.24から1.37マイクログラムの範囲のS−GAGであった。続いて新軟骨の産生に使用された軟骨細胞集団において、統計的に有意なプロテオグリカン合成速度の差異は観察されなかった。
【0097】
これらのデータは、種々の方法を使用して、ex vivoでの増殖において十分に軟骨細胞の接着および伸展を制限することができることを示し、各方法において、増殖された細胞集団は、ex vivoでの増殖において天然の軟骨細胞の形態的外観を維持している。本明細書の他で示したように、これらの軟骨細胞は分裂促進因子を除去した場合に十分な細胞外マトリックスを合成する能力を保持しているので、増殖中の細胞形態の維持は重要である。
【0098】
上記で用いた各方法により、機能的能力を保持した増殖軟骨細胞が等しく生じることをさらに実証するために、定量的リアルタイムPCRを用いて、通常関節軟骨細胞で発現される特定の遺伝子グループの遺伝子発現レベルを評価した。脱分化した軟骨細胞で遺伝子発現の顕著な増加を示すことが報告されているI型コラーゲンもまた、上記グループBおよびグループC(それぞれ、通常の組織培養プラスチックと組み合わせた可溶性HA、および超低接着プレート(ULA))で特定される条件を用いて成長させた細胞により産生した新軟骨の硝子特性を確認するために測定した。第2継代(P2)において6回以上の集団倍加を経た細胞からex vivoで生じた新軟骨からRNAを単離した。表5は2ヶ月齢のドナーから回収した関節軟骨細胞に対する、遺伝子発現の相対レベルを示す。Col2A1、アグリカンコアタンパク質、SOX9およびCol1A1の相対的遺伝子発現はハウスキーピング遺伝子であるGAPDH(GAP)の発現に対して正規化する。
【0099】
【表5】

【0100】
定量的リアルタイムPCRにより測定された遺伝子プロファイル分析により、ex vivoでの新軟骨成長に先だって浮遊状態で軟骨細胞を維持する低接着条件を使用してex vivoで増殖させた軟骨細胞集団の硝子質の性質が確認される。培養容器に対して低接着または超低接着のいずれかに軟骨細胞を維持するために使用される記載した条件は、組織工学による新軟骨を産生する能力を保持した子孫をもたらすことに成功した(図12)。関節軟骨細胞から特徴的に発現する各遺伝子(Col21Aおよびアグリカンコアタンパク質)は、出発細胞集団のレベルとほぼ同じレベルまで発現しており、実際のところ、出発細胞集団のレベルと比較して、幾分レベルが大きかった。重要なことに、各新軟骨産物について測定した軟骨特異的転写因子(SOX9)のレベルは、同じドナーから回収された新たに分離した軟骨細胞からほとんど変化を示さなかった。各P2細胞集団から生じた新軟骨について測定した、通常は繊維芽細胞のマーカーであるCol1A1遺伝子の発現は、新たに分離した軟骨細胞で測定されたレベルからほとんど変化を示さなかった。さらに、新軟骨に含まれる軟骨細胞によるCol1A1遺伝子の発現は、新たに分離した軟骨細胞について測定されたものの12から16%であり、明らかに繊維芽細胞と区別することができる。これらのデータは、培養容器に対して低接着または超低接着のいずれかに軟骨細胞を維持する条件下でex vivoで増殖させた軟骨細胞では天然の表現型が維持され、結果として、軟骨細胞形態および硝子軟骨の遺伝子発現が保持されるという結論を支持する証拠を提供するものである。
【0101】
実施例7
軟骨細胞の単離
他に記載のない限り、軟骨細胞は以前記載されたような連続酵素消化(米国特許第6,235,316号)により、示した供給源から単離した。つまり、刻んだ関節軟骨を、37℃で20分間、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces Griseus)由来のタンパク質分解酵素に接触させ、2000ユニットのCLSコラゲナーゼ(Worthington、ニュージャージー州、レークウッド)および1200ユニットのVIII型ヒアルロニダーゼ(Sigma)、ゲンタマイシン(50μg/mL)およびアスコルビン酸(50μg/mL)を含むHL−1培地(15mL)中で、一晩(16〜18時間)消化した。次の朝、軟骨細胞懸濁液を穏やかに滴定し、臨床遠心機で500μgで8分間沈殿させた。
【0102】
増殖培養からの軟骨細胞の回収には、それぞれ低濃度のコラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ(60/50ユニット/mL)を利用した。ストレプトマイセス・グリセウス由来のタンパク質分解酵素は、この単離工程に必要ではない。その後の増殖培養または分化培養において細胞を使用する前に、Guava Personal Cell Analysis System(Guava Technologies、 Inc、カリフォルニア州、ヘイワード)および蛍光検出を用いて、生存率および総細胞数を測定した。実施例6で示した実験で、Roche Diagnostics Corporationインディア州、インディアナポリス)製のLiberase Enzymesを利用した。若年ドナー軟骨から軟骨細胞を単離するために用いたBlendzyme2の濃度は、経験的に、1g(体積5mL)の組織あたり6.38Wunschユニットと定めた。この調製物の中性タンパク質分解酵素活性は、1gの組織あたり1.4ユニットのサーモリシンである。増殖培養物の解離のためのBlendzyme2の最終濃度は、1mLあたり0.2Wunschユニットであった。組織の消化には完了まで8〜10時間を要し、増殖培養物の解離は3〜4時間で完了した。
【0103】
細胞培養
軟骨細胞培養物を、5%のCOを補って、加湿環境下にて37℃で維持した。実施例に示す培地としては、2mMのL−グルタミン(Sigma)および50mg/mLのゲンタマイシンを補充した、高グルコース処方および低グルコース処方の両方のDMEMが挙げられる。HL−1完全無血清培地は、Cambrex Bio Science社(現在は、Lonza Walkersville,Inc.、メリーランド州、ウォーカーズビル)より入手した。HL−1培地は、1mLあたり30μg以下のタンパク質を含む合成完全無血清培地である。HL−1の構成成分には、改変DMEM/F12塩基、HEPESバッファー、既知の量のインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、独自のレベルのジヒドロテストステロン、エタノールアミン、種々の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸、および安定化タンパク質が含まれる。HL−1培地は、ウシ血清アルブミンまたは他の未確定のタンパク質混合物を含まない。種々のハイブリドーマおよびリンパ系由来の他の特定の分化細胞の無血清での成長を支持するように、HL−1は処方されたものである。
【0104】
軟骨細胞増殖培養は、ゲンタマイシン(50μg/mL)、アスコルビン酸(50μg/mL)、ならびに示した濃度の組換えヒトTGF−β1またはTGF−β3(10〜20ng/mL)および組換えヒトFGF−2(100ng/mL)を含むHL−1培地中に樹立した。これらのサイトカインはR&D Systems(ミネソタ州、ミネアポリス)から入手した。ProChon,Ltd(レホヴォト、イスラエル)から入手したFGF−2の変種型を、実施例4に記載のように使用した。
【0105】
生化学的分析および遺伝子発現プロファイル分析のための新軟骨のin vitroでの産生は、lsto Technologies,Incで開発された独自の処方(培地A)を用いて最適化した。この培地はまた、1×インスリン、トランスフェリン、Sigmaから入手可能な亜セレン酸混合物(品番I−3146)以外の付加的なタンパク質供給源を含んでいないか、または組換えヒトインスリン(Serologicals Corporation)のみを含む合成培地である。細胞をCorning製の48ウェル組織培養プレート(未処理、または示されるようにHA処理したもののいずれか)中に、1ウェルあたり1×10個プレーティングした。培地を1週間に2回交換し、他に示さない限り、45日目に新たに合成された新軟骨を回収した。若年ドナー軟骨由来の新たに分離した軟骨細胞に対するプロテオグリカン合成速度は、通常、1日あたり、1μgのDNAあたり2μg以上のS−GAGであった。
【0106】
血清含有培地中での軟骨細胞の増殖
新たに分離した軟骨細胞を、アスコルビン酸およびゲンタマイシンを含む表示した培地中に、0.5から3×10/cmの最終密度で、Corning製のT−75フラスコを用いて播種した。培養物を、1週間に2回、培地を完全交換して、21日間維持した。培養21日目に、上述のコラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ混合物を用いて、軟骨細胞を酵素により解離した(5〜8時間)。Guava ViaCount(登録商標)蛍光細胞計測溶液およびGuava Personal Cell Analysis Systemを用いて、細胞総数および生存率を測定した。Guava ViaCount(登録商標)溶液は、該試薬中のDNA結合色素の組み合わせのディファレンシャルな浸透性に基づいて、生存細胞と非生存細胞を区別する。
【0107】
組織培養ポリスチレンの誘導体化
グリコサミノグリカンヒアルロン酸を、ポリスチレン培養ディッシュ(Corning製、6ウェルプレートおよび直径100mmディッシュ)またはCorning製のT75およびT150フラスコに、実施例2で明示した工程を用いて、共有結合により結合させた。つまり、各ディッシュを濃硫酸で、37℃、2時間処理し、脱イオン蒸留水で十分に洗浄し、次に、含水水酸化アンモニウム(30%、v/v)で、室温で24時間処理した。(プラスチック表面上の)反応性ポリスルホンアミドを、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド水溶液(25mg/mL、Sigma)を用いて、ヒアルロン酸ナトリウム(5mg/mL;Hylumed Medical、Genzyme;マサチューセッツ州、ケンブリッジ)と架橋した。プレートを、37℃、48時間、加湿雰囲気中に置いた。誘導体化されていないHAをアスピレーションにより除去し、プレートを脱イオン蒸留水で十分に洗浄し、続いて、HL−1で2回洗浄した。
【0108】
軟骨細胞表現型の評価−生化学的分析
新たに合成された新軟骨マトリックスのプロテオグリカンおよびコラーゲンの総含有量を測定することにより、増殖させた軟骨細胞の分化能を評価した。以前記載されたように(Farndale and Murray、1986;Stegemann and Stalder、1967)、パパインで消化後の確立された分光測定法を用いて、硫酸化グリコサミノグリカン、ヒドロキシプロリンおよびデオキシリボ核酸の含有量を測定した。
【0109】
軟骨細胞表現型の評価−形態的分析
最初に、新たに分離した軟骨細胞を、示したサイトカイン、アスコルビン酸およびゲンタマイシンを含むHL−1完全無血清培地中で、未修飾の培養プラスチック上で増殖させた(実施例4のみ)。等容量の完全補充培地を3日目に添加し、回収まで3から4日ごとに50%の培地を交換した。上述のコラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ混合物を用いて軟骨細胞を解離し、続いて、誘導体化で上述したように共有結合でHAナトリウムを接着して修飾した35mmポリスチレンディッシュに移した。これらの細胞を10日目まで増殖し、この時点で細胞を解離して、上述のようにGuava ViaCount(登録商標)試薬を用いて生存率を特徴付けた。形態的特徴付けは、Nikon CoolPix995カメラを備えたNikonのTMS光学顕微鏡を用いて行った。
【0110】
軟骨細胞表現型の評価−遺伝子発現分析
軟骨細胞由来の新軟骨を、示したように回収して、Qbiogene RNApro Solution(Qbiogene Inc、カリフォルニア州、カールズバッド)、およびRNeasy Mini Kit(Qiagen Inc、カリフォルニア州、バレンシア)カラム精製により、細胞ペレットから全RNA抽出した。RNA特異的プライマーを含む25μLの反応混合物中の0.5μgのRNAおよびEZ rTth RNA PCR Kit(Perkin Elmer/Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスタシティー)を用いて、半定量的RT−PCRを行った。全ての実験は、個々のドナーについて3回行った。
【0111】
PCRに用いたプライマーセットは、LaserGene PrimerSelect Software(DNAStar Inc.、米国ウィスコンシン州、マディソン)を用いて選択した。全てのPCRプライマーは、所与のプライマーにより増幅されるPCR産物が興味のある遺伝子に特異的となるように設計された。ヒトコラーゲン1A1、2A1、9A1、11A1、アグリカンコアタンパク質、N−カドヘリン、SOX−9、B7−H1、およびGAPDHに対する以下のオリゴヌクレオチドプライマーペアは、Sigma Genosys(テキサス州、ウッドランド)で合成された。プライマーペアを表6にリストした。
【表6】

【0112】
半定量的PCRは、1μLのThermophilusポリメラーゼ(2.5U/μL)、各0.75μLの10mM dNTP、5μLの5×EZ RT−PCRバッファー、2.5μLのMn(OAc)、および2μLの上流、下流プライマーの5μMストック(0.4μMの最終濃度)を含む全容量25μL中の、0.5μgの全RNAを用いて行った。バッファー中の最終Mn(OAc)濃度は2.5mMであった。前記溶液を94℃で1分間変性し、プログラム可能サーモサイクラー(I−cycler、Bio−Rad Labs Inc.、カリフォルニア州、ヘラクレス)を用いて、変性、94℃、1分間、逆転写反応、58℃、30分間、変性、94℃、1分間、次に、94℃、45秒間の変性、58℃、10秒間のアニーリングおよび伸長を全42サイクルのPCRサイクルの条件で、RT−PCR増幅した。58℃で8分間の最終伸長を行ない、その後、反応産物を−80℃で保存した。PCR産物は、エチジウムブロマイドを含む0.5%アガロースゲル上での電気泳動により分離した。ゲルは80Vでおよそ90分泳動し、UV光の下、写真撮影した。再現性を確認するため、各実験は、最低でも3回行った。
【0113】
統計
Graph Pad Softwar(カリフォルニア州、サンディエゴ)製のPrism software(バージョン3.0)を用いて、グラフデータを作成した。データは、3から5回の反復実験の平均+/−SDとして示した。グループ間の有意性は、一式のPrismの統計パッケージを用いて決定した。
【0114】
ヒアルロン酸で修飾した基材上で増殖させた成人軟骨細胞は、マトリックス形成能の促進を示す。
本実施例は、合成無血清培地中、HA修飾基材上で増殖させた成人軟骨細胞では、増殖した細胞のマトリックス形成が、4倍を上回って顕著に増大したことを実証するものである。
【0115】
47歳の男性の関節軟骨由来の軟骨細胞を、100ng/mLのFGF−2および20ng/mLのTGF−β1、50μg/mLのゲンタマイシンならびに50μg/mLのアスコルビン酸を含むHL−1完全無血清培地中で増殖させた。200万個の細胞を、共有結合でヒアルロン酸ナトリウムを接着して修飾した直径100mmのプレートに播種した。増殖培養を、上記のように(各継代において)、合計17日間維持した。続いて、コラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼの組み合わせを用いて培養表面から軟骨細胞を遊離し、HL−1培地で洗浄し、Guava ViaCount(登録商標)試薬を用いて細胞総数および細胞生存率を測定した。
【0116】
第1継代の細胞の一部を、上述のように分化(組織産生)培養中に入れ、初代細胞から産生した新軟骨と比較したマトリックス形成能を測定した(図11)。第2継代を連続増殖するため、2枚の追加の直径100mmプレートを用意し(プレートあたり200万個の細胞)、同じ方法を用いて、これらの増殖した細胞のマトリックス形成能をアッセイした。これらの条件下で、第1継代および第2継代は、それぞれ3回および2.7回の細胞倍加を示し、培養34日目に、ほぼ64倍の累積増殖となった。新たに単離した細胞および増殖させた細胞の両方から(45日目に)産生された、新たに合成された新軟骨マトリックスの生化学的組成を図13に示す。軟骨細胞は、グレードIの変形性関節炎を示す47歳の男性から単離した。デキサメタゾン(10−8M;Sigma)またはデキサメタゾンとFGF−2(10ng/mL)の組み合わせのいずれかを示したようにさらに含む、ビタミンC(培地A)を含む分化(組織産生)培地は、ビタミンCのみを含む培地A中で維持された細胞と比較して、プロテオグリカンの合成をさらに誘導する。標準的なアッセイにより、ビタミンCを含む培地A中でのマトリックス形成を、さらにデキサメタゾン21−リン酸塩(10−8M;Sigma)またはデキサメタゾンとFGF−2(10ng/mL)との組み合わせをさらに補充した培地A中で成長させた他の2つのグループの細胞(初代培養のみ)と比較した。(Dexa、デキサメタゾン21−リン酸塩;bFGF、組換えヒト塩基性繊維芽細胞増殖因子−2;*は有意性(P<0.05)を示す)
【0117】
各増殖細胞集団は、同じドナー由来の新たに単離した細胞と比べて4倍を上回るレベルの硫酸化グリコサミノグリカンを含む新軟骨を産生した(図13)。増殖細胞中のプロテオグリカンの合成レベルは、デキサメタゾン単独または塩基性FGFとデキサメタゾンとの組み合わせを含む培地A中で維持された初代細胞のレベルと区別できなかった。これらのデータは、HA修飾基材上の成人軟骨細胞の増殖により、成人軟骨細胞の完全な分化能が維持されることを示す。
【0118】
本方法の代替的な実施形態には、増殖および細胞外マトリックス産生中の組織培養プロセスにおける若干の変更が含まれ、このことは、増殖した軟骨細胞集団による表現型保持を容易にすることが分かっている。本明細書に記載の代替的な実施形態は、すべて、少なくとも1つの初期増殖段階、およびそれに続く細胞外マトリックスを産生し最終組織産物を回収する期間については同様である。1または複数の増殖期間が含まれ、凍結保存段階を包含していてもよい。例えば、所望によっては、凍結保存期間が第1の増殖段階に続き、その後、第1の増殖を経た細胞集団を解凍し、第2の増殖段階のための増殖条件に戻す。2段階の増殖を経た増殖細胞集団は、所望によっては、第2の凍結保存期間を経るか、または組織成長および細胞外マトリックス産生のための適切な条件下で組織培養基材上に播種して新軟骨を形成させる。別の実施形態では、増殖させた細胞集団は、組織修復のために対象中に移植される状態になっている。例示的な実施形態では、増殖させた細胞集団は、ある期間凍結保存下で維持され、後に移植のために回収される。増殖させた集団は、例えば、軟骨修復を必要とする対象の関節中に増殖させた細胞集団を直接注入することによる、注入による移植によく適している。つまり、増殖させた細胞集団は対象中への移植に適しており、その後のECM産生のための細胞培養期間を必要としない。
【0119】
本明細書の他の部分で記載の方法と同様、軟骨細胞は、これに限定されないが、関節軟骨などの、若年または成人のいずれかから単離された軟骨性の組織から選択される。軟骨前駆体細胞の他の適した供給源としては、これらに限定されないが、間葉幹細胞、軟骨組織細胞、臍帯幹細胞、骨髄間質細胞、脂肪間質細胞または骨髄もしくは滑膜由来の軟骨形成前駆細胞、および免疫介在性の異種移植拒絶に耐性を示す遺伝子導入軟骨細胞が挙げられる。
【0120】
本明細書で記載されるように、約14日から21日続く初期の軟骨細胞増殖段階は、軟骨細胞の組織培養基材への接着を制限または防止する低接着条件下で行われる。例えば、これは、本明細書の他の部分で記載のようにHA修飾基材を用いて、溶解したHAを含む増殖培地の存在下で未修飾基材を用いて、または市販の低接着材料のコーティングが付された他の基材を使用して行われる。別の実施形態では、本方法は、HA以外の別の溶解した低接着添加剤を含む増殖培地の存在下で、未修飾培地を使用することを意図するものである。基材に関しては、低接着基材は、適切な材料からなるか、または基材上に播種された単離細胞の大部分が基材に接着しないよう、表面コーティングが付された任意の基材である。このような低接着基材により、本明細書で記載される他の低接着条件と同様に、増殖を経た軟骨細胞によるコロニー(クラスター)形成および表現型の保持がもたらされることが示された。コートされた基材に関しては、適切な低接着コーティングとしては、軟骨細胞の初期集団の増殖の間、軟骨細胞の接着を制限し、それによって分化を制限もしくは防止して軟骨細胞による表現型の保持をもたらす、本明細書または他の部分で記載されるような任意のコーティング材料が挙げられる。低細胞接着条件には、しばしば文献などで、「超低細胞接着(ultra low cell attachment)」および「ULA」と呼ばれる、例えば、Corning,Inc.(米国、マサチューセッツ州、アクトン)製の「超低接着」表面を有する製品、Nalge Nunc International(ニューヨーク州、ロチェスター)製の表面コーティングを有する相当品およびCellSeed(日本)製の製品などの、市販の製品および材料を用いて確立される条件が包含される。
【0121】
さらに、細胞を水浴するために無血清増殖培地(SFM、Gibco)を用いる。SFM培地には、TGFβ、FGF、L−グルタミンおよびビタミンCが、それぞれ、10ng/mL、100ng/mL、4mMおよび10μg/mLの溶液濃度で添加される。補充されたSFMを3から4日の一定間隔で置き換えるか、またはさらにTGFβ、FGF、L−グルタミンおよびビタミンCを補充して、上に示した最終溶液濃度を維持する。
【0122】
およそ培養21日目に、増殖させた細胞を、例えば、Roche Diagnostics Corporation、Roche Applied Science(インディア州、インディアナポリス)から入手可能なLiberase(商標)Blendzyme2などの精製コラゲナーゼを用いて酵素解離により回収し、凍結保存を行う。この増殖アプローチによって、本明細書の他の部分で記載の方法と同様、伸展した形態ではない丸い形態、およびmRNAレベルの測定によって決定されるようなI型コラーゲンの低発現によって、表現型の保持が実証される。具体的には、軟骨細胞集団が少なくとも3.8回倍加した後、少なくとも50%の軟骨細胞が丸い形態および硝子軟骨の遺伝子発現を保持する。現在利用できる方法を用いて、該増殖は、相当な部分の細胞が表現型の喪失を示すまで、8から10回もの倍加によって維持することができる。しかし、他の成長因子の発見および開発状況、ならびに改善された材料および方法の利用可能性によって、本明細書の他の部分で記載のように、少なくとも50%の細胞が細胞の形態および硝子軟骨の遺伝子発現で決定される表現型を保持しながら、細胞が8から10回の倍加を上回って増殖する可能性があることが分かるであろう。
【0123】
凍結保存のために、回収された増殖軟骨細胞集団を、Cryostor(商標)などの適切な市販の凍結保護物質中に懸濁して、1ミリリットルの懸濁液あたり約1.7×10細胞未満の密度を有する細胞懸濁液を作製する。適切な培養時間の後、各凍結バイアルが1.7×10個の細胞を含むよう、1ミリリットルの分割量の細胞懸濁液を凍結バイアルに移す。凍結バイアルを凍結し、後の回収、解凍、および注入による移植、もしくは細胞外マトリックス産生のため、または、低接着条件およびTGFβ、FGF、L−グルタミンおよびビタミンCを上記で説明した濃度で上述のように補充したSFMを用いた同様の増殖段階の繰り返しによる2回目の増殖のため、−150℃で凍結貯蔵を行う。例えば、当該方法の例示的な実施形態には、一次細胞増殖、それに続く第1期間の凍結保存、その後の二次細胞増殖、および最後に細胞外マトリックス産生を開始する前の第2期間の凍結保存が含まれる。しかし、商業規模の製造においては、第1継代における中間の停止段階(凍結保存)は所望によっては除外される。
【0124】
例示した実施形態では、初期の増殖および凍結保存段階は、1回であるかそれぞれ2回であるかを問わず、その後に、本明細書で記載されるようなトランスウェル(transwell)装置中での細胞外マトリックス産生が続く。トランスウェル装置は、標準的な組織培養基材が使用される場合に作り出される拡散障壁により生じる問題を解決するために開発された。具体的には、軟骨細胞の初期集団からの組織の成長に伴って細胞外マトリックス自身が拡散障壁を作り出し、細胞外マトリックスが細胞の周囲に蓄積する。細胞外マトリックスは、細胞の生存および成長にとって重大な意味を持つ細胞内外への分子の移動に対する拡散障壁である。さらに、通常使用される不透過性の組織培養基材は、細胞表面積のおよそ半分、つまり該基材に接触する細胞表面、にわたる障壁を作り出すことによって拡散の問題を悪化させる。本明細書は、拡散障壁の問題を最小限に抑える、新たな軟骨細胞培養アプローチを記載するものである。発明者らは、適切な組織産生培地の水浴溶液中で、浸透性の、複数の貫通孔を有する未修飾ポリカーボネート膜上で軟骨細胞を培養することに成功した。マトリックス産生に関しては、任意の一般に市販されている表面未修飾ポリカーボネート基材が、軟骨伝導基材同様に著しく良く機能することが明らかとなった。
【0125】
ある実施形態では、ポリカーボネート基材は、10ミクロンの厚さの膜である。ポリカーボネート組織培養基材の孔は、内径が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンであることを特徴とする。例示的実施形態では、孔の集団は、中央値がおよそ3ミクロンの正規分布を有する内径を特徴とし、1ミクロン未満の内径を有する孔はほとんど存在しない。基材表面全域の孔の密度は、約2×10/cmである。予想外に、他の開示(例えば、米国特許第5,326,357号)とは対照的に、約1ミクロン未満の内径の孔を有する基材の使用は、他の不浸透性基材により生じる拡散障壁の問題を克服するには不十分であり、細胞死をもたらす可能性があることが観察された。研究者間の結果の差異は、種類(材料および孔の密度または孔の総面積)および使用される多孔質基材処理の手順の差異と関連するかもしれない。もしくは、特定の理論に拘束されることなく、1ミクロンを超える孔径は、若年軟骨細胞の拡散条件を満たすために必要とされるのかもしれない。若年軟骨細胞は、成人軟骨細胞と比べて、細胞外マトリックスが顕著に速い速度で産生されることが示されている。何れの場合でも、発明者らは、本明細書で記載の方法にしたがって増殖させ、その後、少なくとも1ミクロンの内径の孔を市販の孔密度で有する有孔ポリカーボネート基材上で、組織産生培地中で維持した軟骨細胞集団は、例えば、米国特許第6,235,316号にさらに詳細に記載のように、表現型を保持するとともに顕微鏡観察下でランダムな細胞組織化が示されることが観察される。ランダムな細胞組織化は、顕微鏡観察下で決定される明確な表面領域、中間領域、および深部領域を有する層状組織を産生する他の方法(例えば、米国特許第5,326,357号)とは対照をなす。
【0126】
例示的実施形態では、細胞外マトリックス産生のため、透過性ポリカーボネート基材がトランスウェル構造で使用される。基材を、例えば6ウェルプレートなどのマルチウェルプレートのウェルに設置し、増殖させた軟骨集団由来の細胞ウェル中の該基材上に播種する。例えば、細胞を約1×10細胞/cmの密度で播種する。細胞外マトリックス産生は、少なくとも約45日間、通常は60〜65日間にわたり、所定の無血清培養期間行われ、その後には培養した組織は、回収、包装および最終的に移植される状態になっている。細胞外マトリックス産生期間の最初の7日間、混入物への暴露を最小限に抑える適切な条件下で、細胞をトランスウェルプレート中で維持する。適した合成組織産生培地をウェルに補充し、手動での供給により、または自動装置法を用いて、定期的にリフレッシュする。この初期の7日間の期間、組織産生培地は、任意の量、好ましくは溶液1mLあたり約10ngの濃度で溶解したTGF−βを含む。
【0127】
初期の7日間の細胞外マトリックス産生の後、透過性ポリカーボネート基材上で培養中の、細胞外マトリックス産生中の細胞を、基材とともに、所定の形および選択された寸法のポリスチレンまたは同様の培養ウェルに移植する。その後、それぞれが透過性ポリカーボネート基材上に播種された細胞を含む複数の培養ウェルを、TGF−βを添加していない無血清組織産生培地中で、調節された温度(37℃)および雰囲気(空気中10% CO)で、少なくとも45日間の所定の培養期間の残りの期間、維持する。
【0128】
細胞外マトリックス産生期間の後に得られる軟骨性組織移植片(新軟骨)の形および寸法は、ウェルの側壁が細胞移動の障壁を形成することにより組織の増殖が制限されるので、培養ウェルの形および寸法によって決定される。培養ウェルは、ポリスチレンなどの適した材料から製造することができるか、または細胞に対して移動障壁を形成するが、気体や溶液中の細胞補充物などの特定の栄養分は障壁を通過することができる、他の材料から製造することができる。ウェルの側壁を形成する材料は、選択された細胞栄養分は通過するが、他の役に立たないまたは恐らく有害な分子の通過を妨げるという能力から選択することができる。さらに、培養ウェルは、培養された組織産物および移植片ニーズの意図する幾何学的特徴によって決定されるような、種々の異なった形およびサイズに構成することができる。
【0129】
図10を参照すると、図10A、10Bおよび10Cの3つのパネルはそれぞれ、3つの低細胞接着条件:HA修飾ポリスチレン基材(図10A)、増殖培地中の溶解したHAと組み合わせた未修飾ポリスチレン基材(図10B)、市販の超低接着基材(図10C)を使用した条件、のいずれか1つの条件下で増殖された細胞の顕微鏡写真である。増殖中の細胞の接着および伸展を制御した使用した3つの低接着増殖条件について、丸い軟骨細胞の外観およびクラスター形成(矢印)が観察された。
【0130】
図12は、低接着条件下で、3から4回の集団倍加によって増殖させた軟骨細胞から産生した新軟骨の組織学的外観を示す顕微鏡写真である。次に、増殖した集団を、内径3ミクロンの孔を特徴とする有孔ポリカーボネート膜に移植した。顕微鏡写真により、軟骨細胞が大量の細胞外マトリックスを産生したこと、およびさらに、細胞が新たに産生されたマトリックス内でランダムに組織化することが示される。
【0131】
他の実施形態
本発明の範囲を逸脱することなく上記構成に種々の変更を加えることができるので、上記記載に含まれまたは添付の図面に示される全ての内容は、例示として解釈され、限定する意味ではないことが意図される。実際に、本明細書で示し記載したものに加えて、前述の記載により、本発明の発見の趣旨および範囲から逸脱しない本発明の種々の変更が、当業者に明らかになるだろう。このような変更が、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることも意図される。
【0132】
引用文献
本出願中の、全ての文献、特許、特許出願および他の引用文献は、それぞれ個別の文献、特許、特許出願または他の引用文献が全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれていると具体的に個別に示されている場合と同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれている。本明細書での文献の引用は、これが本発明に対する先行技術であることを承認するものであるとみなすべきではない。
【0133】
引用文献
米国特許文献
6235316B1 2001年5月22日 Adkisson 424/548
6582960 2003年6月24日 Martin et al. 435/377
6617161 2003年9月9日 Luyten et al. 435/375
6645764B1 2003年11月11日 Adkisson 435/375
5830741 1998年11月3日 Dwulet et al. 435/220
5716404 1998年2月10日 Vacanti et al. 623/8
5753485 1998年5月19日 Dwulet et al. 435/220
4356261 1982年10月26日 Kuettner 435/68
2003/0215426A1 2003年11月20日 French et al. 424/93.7
【0134】
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【0135】
Sequence CWU 1
22 1 23 ONA Artificial AGC1-2S primer, Aggrecan core, GenBank ID No. NM_01135 1 gaaacttcag accatgacaa etc 23 2 21 DNA Artificial AGC1-2AS primer, Aggrecan core, GenBank ID No. NM_01135 2 accagcagca ctacctcctt c 21 3 20 DNA Artificial B7-H1-1S primer, B7-H1, GenBank ID No. NM_014143 3 gctcttggtg ctggctggtc 204 23 DNA Artificial B7-H1-1 AS primer, B7-H1, GenBank ID No. NM.0141434 tcagatatac taggtgtagg gaa 23 5 24 DNA Artificial B7-1- 6S primer, B7-1, GenBank ID No. NM_005191 5 gccatcaaca caacagtttc ccaa 24 6 25 DNA Artificial B7-1-6AS primer, B7-1 (CD80), GenBank ID No. NM_005191 6 cagggcgtac actttccctt ctcaa 25 7 23 DNA Artificial B7-2-6S primer, B7-2, GenBank ID No. NM_006889 7 ctctctggtg ctgctcctct gaa 23 8 27 DNA Artificial B7-1-6AS primer, B7-2 (CD86), GenBank ID No. NM_006889 8 ctgtgggctt tttgtgatgg atgatac 27 9 20 DNA Artificial Col1A1-3S primer, CoIIAI , GenBank ID No. NMJ300088 9 cgagggccaa gacgaagaca 20 10 22 DNA Artificial Col1A1-3AS primer, CoIIAI, GenBank ID No. NM_Q00088 10 cttggtcggt gggtgactct ga 22 11 26 DNA Artificial Col2A1-8S primer, Col2A1, GenBank ID No. NM_033150 11 caccctgagt ggaagagtgg agctac 26 12 23 DNA Artificial Col2A1-8AS primer, Col2A1, GenBank ID No. NM_033150 12 cagtgttggg agccagattg tea 23 13 27 DNA Artificial Col9A1-5S primer, Col9A1 , GenBank ID No. X54412 13 aagcacaact cagtgcccca acaaaac 27 14 20 DNA Artificial Col9A1-6AS primer, Col9A1 , GenBank ID No. X54412 14 atcccatcac ggccatcaca 20 15 27 DNA Artificial Col11A1-2S primer, CoH 1A1, GenBank ID No. J04177 15 aagcacaact cagtgcccca acaaaac 27 16 24 DNA Artificial C0IIIAI- 2AS primer, CoM 1A1, GenBank ID No. J04177 16 ctacccgatg ccacttcccg tcag 24 17 21 DNA Artificial GAPDH-1S primer, GAPDH, GenBank ID No. NM_002046 17 gcaaattcca tggcaccgtc a 21 18 20 DNA Artificial GAPDH-1AS primer, GAPDH, GenBank ID No. NM_002046 18 caggggtgct aagcagttgg 20 19 26 DNA Artificial NCAD-1S primer, N-cadherin, GenBank ID No. BC036470 19 ggaaaagtgg caagtggcag taaaat 26 20 26 DNA Artificial NCAD-1AS primer, N- cadherin, GenBank ID No. BC036470 20 ccgagatggg gttgataatg aagata 26 21 23 DNA Artificial SOX9-1S primer, SOX-9, GenBank ID No. Z46629 21 gtcaacggct ccagcaagaa caa 23 22 19 DNA Artificial SOX9-1AS primer, SOX-9, GenBank ID No. Z46629 22 gctccgcctc ctccacgaa 19

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroで軟骨組織を産生する方法であって、
ドナー組織から軟骨細胞集団を単離すること;および
前記軟骨細胞集団が少なくとも3.8回倍加した後に少なくとも50%の軟骨細胞が丸い形態および硝子軟骨の遺伝子発現を保持するよう、前記軟骨細胞集団を、増殖培地中、低接着条件下で基材上で増殖させること
を含む方法。
【請求項2】
前記低接着条件下での細胞集団の増殖が、HA修飾基材、低接着材料のコーティングを有する基材、溶液中に低接着剤を含む増殖培地を用いた未修飾基材からなる群の1つを用いて確立された条件を用いて前記細胞集団を増殖させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低接着条件下での細胞集団の増殖が、前記基材への接着を制限するよう修飾された基材を用いて前記細胞集団を増殖させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記低接着条件下での細胞集団の増殖が、未修飾基材および溶液中にHAを含む増殖培地を用いて前記細胞集団を増殖させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖培地が、無血清培地を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記増殖培地が、TGF−βをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増殖培地が、10ng/mLのTGF−βを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記増殖培地が、FGFをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記増殖培地が、100〜200ng/mLのFGFを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記増殖培地が、L−グルタミンおよびビタミンCをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記増殖させた軟骨細胞集団を、軟骨修復を必要とする対象に注入することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
軟骨細胞集団をポリカーボネート基材上の組織産生培地中に播種して細胞外マトリックスを産生することをさらに含み、該基材が複数の貫通孔を有し、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有し、これにより細胞のランダムな組織化を特徴とする培養軟骨性組織を産生する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
in vitroで軟骨組織を産生する方法であって、
ドナー組織から軟骨細胞集団を単離すること;
前記軟骨細胞集団を増殖培地中で増殖させること;
前記軟骨細胞集団をポリカーボネート基材上の組織産生培地中に播種して細胞外マトリックスを産生することであって、該基材が複数の貫通孔を有し、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有すること、
を含み、これにより細胞のランダムな組織化を特徴とする培養軟骨性組織を産生する方法。
【請求項14】
前記軟骨細胞集団を少なくとも3.8回倍加した後、少なくとも50%の軟骨細胞が丸い形態および硝子軟骨の遺伝子発現を保持している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記軟骨細胞集団の増殖が、増殖中に低細胞接着条件を提供することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記増殖培地が、無血清培地である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記組織産生培地が、TGF−βを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記軟骨細胞集団が、滑膜嚢軟骨細胞または骨膜軟骨細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記軟骨細胞集団が、若年関節軟骨を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記軟骨細胞集団が、成人関節軟骨を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記組織産生培地が、TGF−βを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
TGF−βを、1mLの培地あたり10ngの量で前記組織産生培地に添加することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記軟骨細胞集団の増殖が、
一次細胞増殖;および
二次細胞増殖
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記軟骨細胞集団をポリカーボネート基材上に播種して細胞外マトリックスを産生した後、前記組織産生培地中で、約7日間の期間、該軟骨細胞集団をTGF−βに曝すことをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞集団を、約45日から約65日間の培養期間、前記組織産生培地中で維持することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記組織産生培地中での前記軟骨細胞集団の維持が、所定の酸素および二酸化炭素レベルで、該組織産生培地中で該軟骨細胞集団を維持することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
複数の貫通孔を有するポリカーボネート基材を含み、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有する、組織培養装置。
【請求項28】
有孔ポリカーボネート膜を含む、請求項27に記載の組織培養装置。
【請求項29】
前記有孔ポリカーボネート膜が、約10ミクロンの厚さを有する、請求項28に記載の組織培養装置。
【請求項30】
前記有孔ポリカーボネート膜の複数の孔が、3ミクロン周辺に分布する内径を特徴とする、請求項28に記載の組織培養装置。
【請求項31】
前記ポリカーボネート基材の外周を形成する側壁をさらに含み、所定の形状を有する外周が培養組織の形状として選択される、請求項28に記載の組織培養装置。
【請求項32】
前記側壁が、生体適合性ポリマーを含む、請求項31に記載の組織培養装置。
【請求項33】
前記生体適合性ポリマーが半透性である、請求項32に記載の組織培養装置。
【請求項34】
前記生体適合性ポリマーが不透過性である、請求項32に記載の組織培養装置。
【請求項35】
前記生体適合性ポリマーがポリスチレンである、請求項32に記載の組織培養装置。
【請求項36】
複数の貫通孔を有し、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有するポリカーボネート基材、および該ポリカーボネート基材の外周を形成する側壁であって、所定の形状を有する外周が培養組織の形状として選択される側壁、を含む組織培養インサートを含む、組織培養装置。
【請求項37】
天然の表現型および天然レベルの硝子軟骨遺伝子の発現を示す増殖した軟骨細胞集団、ならびに複数の貫通孔を有するポリカーボネート膜であって、該孔が少なくとも約1ミクロンから約12ミクロンの内径を有するポリカーボネート膜を含む、細胞培養物。
【請求項38】
前記軟骨細胞が、ヒト軟骨細胞を含む、請求項37に記載の細胞培養物。
【請求項39】
前記軟骨細胞が、滑液嚢軟骨細胞または骨膜軟骨細胞を含む、請求項37に記載の細胞培養物。
【請求項40】
前記軟骨細胞が、成人関節軟骨細胞を含む、請求項37に記載の細胞培養物。
【請求項41】
前記軟骨細胞が、若年関節軟骨細胞を含む、請求項37に記載の細胞培養物。
【請求項42】
前記軟骨細胞が、免疫介在性の異種移植拒絶に耐性を示す遺伝子導入軟骨細胞を含む、請求項37に記載の細胞培養物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−539905(P2010−539905A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526037(P2010−526037)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/077161
【国際公開番号】WO2009/039469
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(510079444)イスト テクノロジーズ インク (1)
【Fターム(参考)】