表示体及びラベル付き物品
【課題】従来に比較してより高い偽造防止効果を達成できる表示体と、この表示体をラベルとして貼り付けた物品を提供すること。
【解決手段】一方の主面に凹凸を備えるレリーフ構造形成層からなる表示体であって、前記一方の主面が複数種類の領域に区分されており、そのうち一部の領域(第1界面部)は法線方向に回折光を発生しない領域であるのに対し、一部の他の領域(第2界面部)は可視光を散乱する領域であり、第1界面部には、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置されており、第2界面部には、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置されている。このため、主面の法線方向から観察した場合、低反射・低散乱の第1界面部と高散乱の第2界面部とで明るさが異なり、可視画像が観察できる。また、斜め方向から観察した場合、別の画像が観察できる。
【解決手段】一方の主面に凹凸を備えるレリーフ構造形成層からなる表示体であって、前記一方の主面が複数種類の領域に区分されており、そのうち一部の領域(第1界面部)は法線方向に回折光を発生しない領域であるのに対し、一部の他の領域(第2界面部)は可視光を散乱する領域であり、第1界面部には、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置されており、第2界面部には、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置されている。このため、主面の法線方向から観察した場合、低反射・低散乱の第1界面部と高散乱の第2界面部とで明るさが異なり、可視画像が観察できる。また、斜め方向から観察した場合、別の画像が観察できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる光学的作用を発揮する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる光学的作用を発揮する表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができ、さらには、フルカラーの写真のような表示像を得ることも可能である。また、回折格子が表示する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
この表示体では、レリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び2には、回折格子を形成するために、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光することが記載されている。また、非特許文献1には、二光束干渉を利用して回折格子を形成することが記載されている。これから分かるように、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難であり、それゆえ、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造も困難であった。
【0005】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、レリーフ型回折格子を含んだ表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【0006】
また、微細な凹凸構造により光の散乱性を制御することで画像を表示する表示体が知られている(例えば特許文献3)。光散乱に基づいて表示されるパターン(以下、「光散乱パターン」と称する)は、通常、表示体の基材上に凹凸構造を加工することで形成される。その加工方法として、(1)エッチングによる方法や、(2)表面を薬品等で荒らす方法、(3)微細な砂状の粒を加工面に吹き付けるサンドブラストによる方法、(4)先端に鋭利な構造を有する装置で加工面をブラッシングするヘアライン加工、あるいは(5)電子ビーム(Electron Beam、以下、EBという)描画装置により表面全体に亘って連続的に凹凸を形成する方法等がある。このような方法により加工された光散乱パターンの表面では、光が散乱することで、白色や灰色の表示が可能となる。
【0007】
EB描画装置を用いれば、微小な凹凸構造を精密に加工することができる。そのため、基材上に形成する凹凸構造の配置密度や形状、個数等を任意に制御し、基材表面にパターニングすることができ、散乱の度合い、すなわち散乱光の光量を制御することが可能である。
【0008】
例えば特許文献3には、微小な凹凸構造を多数表面に配置した光学シートに関する発明がなされ、凹凸構造の配置密度や形状、個数等を調整することにより、
(1)光散乱パターンによる文字や絵柄の表示
(2)精巧で多彩な表現
(3)デザインの自由度のより一層の向上化
を実現している。
【0009】
また、特許文献4では、凹凸構造の形状を規定することによって、散乱光の方向性を制御することが可能な異方性散乱構造の提案がなされている。
【0010】
これらの光散乱構造は単独で用いられたり、レリーフ型の回折格子パターンが形成された表示体に組み合わされて用いられることで、偽造防止効果を発揮するものとして利用されているが、光散乱構造は上述のように複数の方法によって実現することが可能であるので、十分な偽造防止効果を発揮しているとは言えなかった。
【0011】
また、虹色の光を分光する回折格子を利用した表示体及び、白色の光を呈する散乱光を利用した表示体では、所謂「黒色」の表現が不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【特許文献3】特開2002−333854号公報
【特許文献4】特開2008−107472号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を達成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、請求項1に係る発明は、一方の主面に凹凸を備えるレリーフ構造形成層からなる表示体であって、
前記一方の主面が複数種類の領域に区分されており、
これら複数種類の領域のうち一部の領域(第1界面部)は前記一方の主面の法線方向に回折光を発生しない領域であるのに対し、少なくとも一部の他の領域(第2界面部)は可視光を散乱する領域であり、
前記第1界面部には、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置されており、
前記第2界面部には、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置されており、
これら第1界面部と第2界面部の配列によって可視画像を構成していることを特徴とする表示体である。
【0016】
本発明に係る第1界面部は、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置された領域である。後述するように微小の中心間距離で複数の凸部または凹部が
配置された場合には、前記主面の法線方向に可視光の回折光が発生することがない。このため、この領域においては反射が低減され、また、光散乱も低減される。そして、その結果、黒色を表示する。他方、第2界面部は、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置された領域である。そして、この領域に入射した可視光は、直線状の前記凸部または前記凹部によって散乱されるため、第2界面部は第1界面部に比較して高散乱性を示し、その散乱光は前記主面の法線方向から観察することが可能である。そして、これら第1界面部と第2界面部とが配列されているため、前記主面の法線方向から観察した場合、低反射・低散乱の第1界面部と高散乱の第2界面部とで明るさが異なり、全体として可視画像を構成するのである。また、これら第1界面部及び第2界面部の存在しない領域との対比によって可視画像を構成することもできる。
【0017】
他方、第1界面部は前記主面の斜め方向に回折光を発生する。このため、斜め方向から観察した場合には、主面の法線方向から観察した場合の可視画像とは異なる画像状態が観察できる。そして、このため、より高い偽造防止効果を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によると、より高い偽造防止効果を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図
【図2】図1に示す表示体のII−II’線に沿った断面図
【図3】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図4】図3に示す構造の平面図
【図5】回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図
【図6】他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図
【図7】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図8】図7に示す構造の平面図
【図9】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な凸部及び凹部の一例を示す斜視図
【図10】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図11】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な凸部の一例を示す斜視図
【図12】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図13】第1界面部が形成された画素の面積を変化させた様子を示す平面図
【図14】第2界面部が形成された画素の面積を変化させた様子を示す平面図
【図15】第1界面部及び第2界面部の配置例を示す説明図
【図16】第1界面部及び第2界面部の配置例を示す説明図
【図17】第1界面部及び第2界面部の配置例を示す説明図
【図18】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図
【図19】図18に示すラベル付き物品のIII−III’線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II’線に沿った断面図である。この表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。この例においては、光透過層11がレリーフ構造形成層である。図2に示す例では、光透過層11側を前面側(観察者側)とし且つ反射層13側を背面側としている。
【0022】
そして、光透過層11の主面、すなわち、光透過層11と反射層13との界面は、複数の領域に区分されており、その一部の領域は第1界面部IF1、他の一部の領域は第2界面部IF2である。これら第1界面部IF1及び第2界面部IF2は、いずれも微小な凹凸が形成された領域であり、後述するように、第1界面部IF1の凹凸と第2界面部IF2の凹凸とは、その構造や性質が異なる。
【0023】
光透過層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸構造及び/又は凹構造が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸構造及び/又は凹構造が設けられた光透過層11を転写成形することができる。
【0024】
図2には、一例として、光透過性基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。光透過性樹脂層112は、光透過性基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0025】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0026】
この表示体10は、接着剤層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凸構造及び/又は凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0027】
光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、接着層は、光透過層11上に形成する。この場合、光透過層11と反射層13との界面ではなく、反射層13と外界との界面が界面部IF1乃至IF2を含む。
【0028】
樹脂層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、反射層13を樹脂層によって被覆することで、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸構造及び/又は凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0029】
(第1界面部の説明)
本発明に係る第1界面部IF1について説明するにあたり、まず、回折格子の中心間距離及び波長と、回折光の発生の有無との関係について説明する。
【0030】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0031】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)DLの射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式から算出することができる。
【0032】
d=mλ/(sinα−sinβ)
この等式において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光RL、即ち、透過光又は正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0033】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0034】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。
【0035】
従って、格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0036】
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、法線方向から観察する観察者は、回折光を観察することができない。
【0037】
また、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより大きい場合と、より小さい場合とで、1次回折光DLについて次のような相違が存在する。
【0038】
すなわち、図5は、格子定数dが波長λと比較してより大きい回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す原理図である。図6は、格子定数dが波長λと比較してより大きい回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す原理図である。図5及び図6において、GRは回折格子が形成された界面を示し、NLは界面GRの法線を示し、ILは照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示し、DLは1次回折光を示している。
【0039】
上記等式から明らかなように、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図5に示すように正の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。
【0040】
これに対し、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、界面GRに対
して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図6に示すように負の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。例えば、角度αが50°であり、格子定数dが330nmである場合を考えると、回折格子は、波長λが540nmの1次回折光を約60°の射出角βで射出する。
【0041】
以上の説明を整理すると、まず、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、この回折格子は法線方向に回折光を発生する。これに対し、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、この回折格子は法線方向に回折光を生じることがなく、負の角度範囲に1次回折光DLを射出する。
【0042】
次に、第1界面部IF1の構造と光学的性質について説明する。
【0043】
第1界面部IF1には、可視光の最短波長未満の中心間距離で配置された複数のドット状の凸部PRが設けられている。
【0044】
このため、第1界面部IF1は法線方向に可視光の回折光を生じることがなく、負の角度範囲に1次回折光DLを射出する。それゆえ、法線方向から観察した場合、第1界面部IF1は回折による分光色を表示しない。つまり、第1界面部IF1は暗灰色又は黒色印刷層の如く視認される。
【0045】
従って、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、第1界面部IF1は暗く見える。典型的には、第1界面部IF1は暗灰色又は黒色に見える。なお、ここで、「暗灰色」とは、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、第1界面部IF1は、例えば暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0046】
第1界面部では、複数の凸部又は凹部の中心間距離が小さくなるのに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、中心間距離が大きくなるのに伴って、やや輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるような構造となる。
【0047】
一般に、物品を観察する場合、特には光反射能及び光散乱能が小さい光吸収性の物品を観察する場合、正反射光を知覚できるように物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、図5を参照しながら説明した構成を用いた場合、そのこと自体を観察者が知らないとしても、観察者は比較的高い確率で回折光を知覚する。これに対し、図6を参照しながら説明した構成を用いた場合、そのことを知らない観察者は、多くの場合、回折光を知覚できない。それゆえ、この表示体10は、第1界面部IF1が回折光を表示し得ることを悟られ難い。
【0048】
なお、第1界面部IF1に設けられる凸部または凹部は、前記法線方向に向かってその断面積が漸増または漸減する形状であることが望ましい。
【0049】
このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離は可視光の最短波長と比較してより短いから、光学的には、第1界面部IF1は、表示体10の厚さ方向に連続的に変化した屈折率を有している場合と等価である。そのため、第1界面部IF1の反射率は小さい。そして、このため、法線方向から観察した場合の色彩は、一層黒色に近づく。また、負の角度範囲に射出する前記1次回折光の輝度も低下するから、この角度から観察した場合にも、その色彩は暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0050】
凸部または凹部が前記法線方向に向かってその断面積が漸増または漸減する形状である場合、これら凸部又は凹部の高さや深さが大きい方がその反射率が小さくなり、より黒い表示が可能となり、高さや深さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には高さや深さは中心間距離の1/2以上とすることが望ましい。具体的には、例えば中心間距離が400nmであった場合、高さ又は深さを200nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、400nm以上の高さ又は深さとすることでより黒い表示が可能となる。中心間距離と比較してはるかに高い構造や深い構造にすると十分な黒さが得られ、且つ高精度な製造技術が必要となることから、より一層偽造防止効果を向上させることができる。もっとも、せいぜい1μm以下である。ここで、本発明における凸部の高さ又は凹部の深さとは、凸部又は凹部の頂部から底部までの高低差を意味する。
【0051】
図3は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部IF1に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図4は、図3に示す構造の平面図である。なお、図3には、透明層11側から見た界面部IF1を描いている。
【0052】
第1界面部IF1には、可視光の最短波長未満の中心間距離で配置された複数の凸部PRが設けられている。図3に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列しているが、凸部PRはそれとは異なる方向に交差するような格子状配列であっても良い。いずれの場合も、凸部PRはドット状である。
【0053】
また、第1界面部IF1において、各凸部PRはその側面がテーパを有する形状(テーパ形状)を有しており、したがって、その断面積が漸増または漸減する構造を有しているが、それら凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
【0054】
テーパ形状は、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。テーパ形状は、第1界面部IF1の光反射率を小さくするのに役立つ。加えて、テーパ形状は、原版からの光透過層11の取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。
【0055】
第1界面部IF1において、複数の凸部PRは、その配置に対応して溝(即ち、格子線)を格子状に配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。
【0056】
次に、図7は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部IF1に採用可能な構造であって、図3の構造とは異なり非格子状に配置されている非格子状第1界面部を表す斜視図である。ここで、非格子状に配置とは、周期的な配列規則を伴わずに不規則に配置された状態を意味する。図8は図7に示す構造の平面図である。なお、図7には、レリーフ構造形成層11側から見た第1界面部IF1を描いている。
【0057】
図7に示すように、第1界面部IF1には、非格子状に配置された複数の凸部PRが設けられており、凸部PRの中心間距離が可視光の最短波長未満となるように配置される。ここでの中心間距離とは、第1界面部IF1内において隣接して配置されている凸部PR間の距離の平均値を意味するものである。このように不規則に配置された凸部PRから構成される第1界面部IF1は、図3で示した第1界面部IF1とは異なり、1次回折光DLは観察されにくく、例えば、表示体10を法線方向から観察した場合、暗灰色又は黒色印刷層の如く視認される。
【0058】
なお、前記凸部や凹部の中心間距離としては、100nm以上であることが望ましい。
100nmよりも短いと、原版の作製やスタンパからの複製が技術的により高度なものとなる。
【0059】
(第2界面部の説明)
次に、第2界面部IF2について説明する。
【0060】
第2界面部IF2は界面部IF1と同様に断面が凹凸形状であるレリーフ構造体であるが、その凸部や凹部の中心間距離は典型的には可視波長よりきわめて大きく、少なくとも最大可視波長(700nm)の10倍以上である。このような中心間距離の大きい凸部や凹部によっては光の回折による回折光は生じにくく、主に光散乱特性のみが光学特性として発揮される。
【0061】
そして、第2界面部IF2の凸部や凹部は、各々方向(方位角)がほぼ揃っている直線状の構造を呈している。第2界面部IF2に設けられる個々の構造は典型的には、図9のような長辺及び短辺を有する矩形状の凸部もしくは凹部であり、第2界面部IF2には図10のように、このような構造が複数形成されている。このため、界面部IF1における凸部や凹部の中心間距離と区別して、隣接して配置されている矩形状の凸部もしくは凹部の間の距離を配置間隔と呼び、その平均を平均配置間隔と呼ぶ。
【0062】
第2界面部IF2に対し法線方向より光を照射した場合、第2界面部IF2は複数設けられた直線状の凸部や凹部の長辺方向に対して垂直な面内には広い射出角範囲で散乱光を射出する。一方、直線状の凸部や凹部の長辺方向に並行であり、且つ、界面部IF2の主面に垂直な面内には狭い射出角範囲で散乱光を射出する。以下、光散乱領域が一定の光強度以上の散乱光を射出する角度範囲の大きさを、用語「光散乱能」で表現する。例えば、用語「光散乱能」を用いた場合、先の説明は、「直線状の凸部及び/又は凹部の長辺方向の光分解能は低く、これに垂直な方向では高い光散乱能を示す」と換言することができる。また、観察する方向に応じて十分に異なる光散乱能が得られる構造を「異方性光散乱構造」と呼ぶこととする。
【0063】
一般的な白色照明光の照明下において光散乱能が高くなる観察条件で第2界面部IF2を目視観察すると、第2界面部IF2は白色もしくは白色よりやや明度の低い灰白色に知覚され、光散乱能が低くなる観察条件下においては散乱光が届かず、第2界面部IF2は素材に応じた色がそのまま知覚される。例えば、第2界面部IF2に設けられた構造に、銀やアルミニウムなどの銀色の反射層が被覆されている場合、銀色の金属光沢がそのまま知覚される。いいかえると、反射層から反射される色よりも明度が低い色は表現することができない。
【0064】
なお、ここで「白色」は表示体10に法線方向から光を照射し、観察者に到達する散乱光の明度が90%以上となるような状態を指し、「灰白色」は明度が75%以上となるような状態を意味する。
【0065】
ここで、直線状の凸部や凹部の長辺の長さは、例えば、10μm以上、且つ、100μm以下が望ましい。また、直線状の凸部や凹部の短辺の長さは、1μm以上、且つ、10μm未満が望ましい。照明条件や観察位置に応じて光散乱能を変化させるためには長辺の長さと短辺の長さの差が大きいほうが望ましく、長辺と短辺の長さの差は10倍以上あるとなお良い。
【0066】
また、第2界面部の凸部又は凹部と第1界面部に設けられる凸部又は凹部とは、同一の工程でスタンパ等の押圧によって形成することが簡便であることから、これら両界面部の凸部の高さや凹部の深さは同程度であることが望ましい。前述のように、第1界面部凸部
の高さや凹部の深さはせいぜい1μmであることから、第2界面部の凸部の高さや凹部の深さも1μm以下でよい。
【0067】
また、界面部IF2に設けられる構造としては、図11のように断面形状が矩形ではないもの、図12のように、複数の形状が組み合わされたような構造であっても光散乱特性を発揮することができる。
【0068】
また、これら凸部や凹部は、10μm以上、且つ、100μm以下の平均間隔で形成されていることが望ましい。10μmより小さいと、複数の凸部又は凹部が回折格子のように機能し、散乱光だけでなく、回折光を射出するようになる。それによって十分な光散乱能が得られず、且つ、虹色に光ってしまい従来の回折格子パターンと類似した視覚効果となってしまう。一方で、100μmを超える平均間隔であると、十分な光散乱能を得るためには例えば100μmを超えるような高い凸部または深い凹部を作製する必要があり、EB描画装置では作製が困難となる。
【0069】
また、第2界面部IF2に設けられる構造としては、長辺や短辺の長さ、構造の高さや深さが各々異なる構造が、様々な配置間隔で配置されていることがより望ましい。設けられる構造の長辺や短辺の長さや構造の高さや深さ、配置間隔に統一性,規則性がみられないほうが、第2界面部IF2を巨視的に観察した際に粗面となり、より光を散乱させる効果が高くなる。
【0070】
ここで、第2界面部IF2の異方性光散乱構造が、偽造防止が必要な媒体に貼付されるなどして使用された場合、光散乱能が高い観察条件で見られる色と、光散乱能が低い観察条件において見られる色とに差があることから、通常の印刷物に用いられるインキでは実現が困難な視覚効果を実現し、偽造防止機能を発揮する。
【0071】
しかし、このような散乱構造だけでは観察条件の変化に伴う視覚効果(観察される色)の変化がさほど大きくなく、十分な偽造防止効果を発揮することは難しい。
【0072】
なお、第2界面部に設けられる直線状の凸部や凹部は第2界面部の領域内の概ね40%〜60%程度の面積を占めるように作製すると良い。面内に凹凸構造が50%存在する場合が定点に対する光散乱能がもっとも高くなる。占有比率が高くなる、もしくは低くなるのに伴って光散乱能は低下する傾向を示す。そのため照明条件や観察位置に応じて光散乱能を大きく変化させ、明暗の差を明確に表現するためには直線状の凸部又は凹部は第2界面部の面内の50%の占有面積で形成されていることが望ましく、占有面積が40%〜60%程度であれば十分な効果が見込まれる。
【0073】
(微小な領域に形成された第1界面部と第2界面部とによって実現される視覚効果)
ここで、図1の本発明の一態様に係る表示体に示した第1界面部IF1と第2界面部IF2によって実現される視覚効果について説明する。
【0074】
第1界面部IF1及び第2界面部IF2はそれぞれ微小な領域に形成されており、肉眼で巨視的に観察した際にはそれぞれの領域の区別は困難である。この表示体10に対し主面の法線方向より光を照射し、地点Aから表示体10を観察した場合、第1界面部IF1は反射防止効果を呈するので第1界面部IF1から観察者の方向に対して到達する光はまったくないかあってもごくわずかである。一方、第2界面部IF2にはX方向に長い矩形の凹凸構造が多数設けられているので、地点Aにいる観察者に対しては高い光散乱能によって、観察者は白色もしくは灰白色の光を知覚することができる。表示体10の表面が第1界面部IF1及び第2界面部IF2に領域分割されているため、第2界面部から観察者に到達する散乱光の光量は第2界面部のみが表示体上に設けられている場合と比較してやや低下するが、それでも観察者は白色もしくは白色に近い灰白色を知覚することができる。
【0075】
また、この表示体10に対し主面の法線方向より光を照射し、地点Aと90°方位が変わった地点Bから表示体10を観察した場合は、第1界面部IF1は地点Aで観察した時と同様に反射防止効果を呈するので観察者の方向に対して射出される光はないかごくわずかであり、黒色もしくは暗灰色に見える。そして、第2界面部IF2は光散乱能が低くなる観察条件となるので、散乱光はほとんど到達しない。よって、地点Bで観察者が知覚する色は黒色と反射層の色が混ざった暗灰色となる。この効果は観察者が地点Aと地点Bの異なる位置から表示体10を観察した場合にも、照明光の位置が90°変わった場合にも見ることができる。
【0076】
このように表示体10は、複数の第1界面部IF1と第2界面部IF2によって観察条件に応じて白色(もしくは灰白色)と黒色(もしくは暗灰色)の色変化を呈する。照明光、もしくは観察者の位置が90°変化することで白色(もしくは灰白色)と黒色(もしくは暗灰色)に色変化する構造はこれまでになく、高い偽造防止効果を発揮する。
【0077】
(各界面部の配列)
ところで、これら第1界面部と第2界面部とは、表示体の一方の主面に次のように配列することが望ましい。
【0078】
すなわち、前記一方の主面を二次元的に配列された多数の画素に区分し、これら多数の画素のうち複数の画素を前記第1界面部に対応させ、他の複数の画素を前記第2界面部に対応してさせる。前述のように、第1界面部の視覚効果と第2界面部の視覚効果とは異なるから、これら視覚効果の相違に基づいて、全体として可視画像を表現することができる。
【0079】
なお、表示体上の第1界面部及び第2界面部のいずれもが形成されていない領域は、例えば平坦面、回折格子形成層、ホログラム形成層、印刷形成面等とすることができる。また、それらは省略することができる。
【0080】
図13及び図14のように、第1界面部IF1及び第2界面部IF2をそれぞれ画素として表示体上に設け、各々の画素の大きさを変化させると、第1界面部IF1による反射防止効果の度合いと、第2界面部IF2による光散乱効果の度合いをそれぞれ任意に制御することができる。第1界面部IF1は、画素の面積を大きくすることでその部分の反射防止効果を高くすることができ、より暗い黒色を表示できる。画素の面積を小さくすることでその部分の反射防止効果は低くなる。第2界面部IF2は、画素の面積を大きくすることでその部分の光散乱能が高くなり、より明るい白色を表示できる。画素の面積を小さくすることでその部分の光散乱能は低くなる。
【0081】
また、画素構造にすることで容易に絵柄,文字,記号等の画像を表示させることができる。
【0082】
微細な画素構造によって、第1界面部IF1と第2界面部IF2とで別々の画像を形成し、各画素を周期性を伴って整然配置することで、地点A及び地点Bから表示体を観察した際にそれぞれ別々の画像を観察することも可能となる。
【0083】
図15のように、市松模様状に第1界面部IF1と第2界面部IF2を交互に隣接配置し、表示体の主面の法線方向より光を照射した場合、地点Aでは表示体上に設けられた第2界面部IF2によって観察者に散乱光が到達し、表示体表面が白く光って見える。一方
、地点Bから表示体を観察した際には、第2界面部IF2からの散乱光はほとんど到達せず第1界面部IF1によって構成された画像(ここではアルファベットの「S」)が黒色で表示される。第1界面部IF1の画素群と第2界面部IF2の画素群の配置規則としては、交互に隣接配置された市松模様にとどまらず、図16のようなストライプ状の配置によるもの、図17のような第1界面部IF1と第2界面部IF2とで出現規則が異なるような配置であっても良い。なお、図15においては、第1界面部IF1の画素を黒色の矩形で示し、第2界面部IF2の画素を灰色の矩形で示し、内部に構成された個々の凸部又は凹部は省略した。なお、第2界面部IF2の内部にはX方向に長い矩形の構造が複数形成されているものとする。また、これら画素の大きさをさらに小さくすることでより解像度の高い画像を表示することが可能となる。
【0084】
第1界面部の画素形状としては、一辺1μm以上、且つ、300μm以下の矩形の内部に包含されるような形状であることが望ましい。第1界面部に構成される凸部や凹部から成る構造の中心間距離は可視光の最短波長より小さく、概ね0.1〜0.5μm程度である。このような中心間距離で凸部または凹部が複数個連続的に配置されることで十分な反射防止効果を発揮するためには、一方向に対し少なくとも10個程度の凸部又は凹部が並ぶことが望ましい。そのため、第1界面部の面積としては一辺1μm以上の矩形を内包する程度の大きさがあったほうが良い。また、第1界面部が一辺300μmの矩形を超えるような面積である場合、画素形状が知覚されてしまい、品質の悪い画像表示となってしまう。高精細な画像を表示するには一般的な人間の眼の分解能よりも小さくなる、一辺が300μm以下の矩形に収まるような画素によって画像を構成するのが良い。
【0085】
第2界面部の画素形状としては、一辺30μm以上、且つ、300μm以下の矩形の内部に内包されるような形状であることが望ましい。第2界面部に形成される複数の直線状の凸部や凹部によって十分な光散乱能が得るためには、直線状の凸部や凹部の長辺の長さは、例えば、10μm以上、且つ、100μm以下とすると良い。また、短辺の長さは、例えば、1μm以上、且つ、10μm未満とすると良い。また、これらの構造の平均配置間隔は、例えば、10μm以上、且つ、100μm以下の範囲内とすると良い。よって、画素形状としては一辺30μm以上の矩形の内部に内包されるような形状であることが望ましい。
【0086】
(表示体の使用方法)
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその外の物品に貼り付けて使用することができる。表示体10は微細な凹凸構造により光反射防止機能を備えた画像を有することから偽造又は模造が困難であり、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0087】
図18は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図19は、図18に示すラベル付き物品のIII−III’線に沿った断面図である。
【0088】
図18及び図19には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0089】
この印刷物100は、微細な凹凸構造から成る表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0090】
なお、図18及び図19には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0091】
また、図18及び図19に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0092】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0093】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
10…表示体、11…光透過層、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、13…反射層、20…基材、30…ICチップ、40…印刷層、100…印刷物
GR…回折格子、IF1…第1界面部、IF2…第2界面部、PR…凸部、QR…凸部、SR…凹部、DL…1次回折光、IL…照明光、NL…法線、RL…正反射光
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偽造防止効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる光学的作用を発揮する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる光学的作用を発揮する表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができ、さらには、フルカラーの写真のような表示像を得ることも可能である。また、回折格子が表示する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
この表示体では、レリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び2には、回折格子を形成するために、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光することが記載されている。また、非特許文献1には、二光束干渉を利用して回折格子を形成することが記載されている。これから分かるように、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難であり、それゆえ、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造も困難であった。
【0005】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、レリーフ型回折格子を含んだ表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【0006】
また、微細な凹凸構造により光の散乱性を制御することで画像を表示する表示体が知られている(例えば特許文献3)。光散乱に基づいて表示されるパターン(以下、「光散乱パターン」と称する)は、通常、表示体の基材上に凹凸構造を加工することで形成される。その加工方法として、(1)エッチングによる方法や、(2)表面を薬品等で荒らす方法、(3)微細な砂状の粒を加工面に吹き付けるサンドブラストによる方法、(4)先端に鋭利な構造を有する装置で加工面をブラッシングするヘアライン加工、あるいは(5)電子ビーム(Electron Beam、以下、EBという)描画装置により表面全体に亘って連続的に凹凸を形成する方法等がある。このような方法により加工された光散乱パターンの表面では、光が散乱することで、白色や灰色の表示が可能となる。
【0007】
EB描画装置を用いれば、微小な凹凸構造を精密に加工することができる。そのため、基材上に形成する凹凸構造の配置密度や形状、個数等を任意に制御し、基材表面にパターニングすることができ、散乱の度合い、すなわち散乱光の光量を制御することが可能である。
【0008】
例えば特許文献3には、微小な凹凸構造を多数表面に配置した光学シートに関する発明がなされ、凹凸構造の配置密度や形状、個数等を調整することにより、
(1)光散乱パターンによる文字や絵柄の表示
(2)精巧で多彩な表現
(3)デザインの自由度のより一層の向上化
を実現している。
【0009】
また、特許文献4では、凹凸構造の形状を規定することによって、散乱光の方向性を制御することが可能な異方性散乱構造の提案がなされている。
【0010】
これらの光散乱構造は単独で用いられたり、レリーフ型の回折格子パターンが形成された表示体に組み合わされて用いられることで、偽造防止効果を発揮するものとして利用されているが、光散乱構造は上述のように複数の方法によって実現することが可能であるので、十分な偽造防止効果を発揮しているとは言えなかった。
【0011】
また、虹色の光を分光する回折格子を利用した表示体及び、白色の光を呈する散乱光を利用した表示体では、所謂「黒色」の表現が不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【特許文献3】特開2002−333854号公報
【特許文献4】特開2008−107472号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を達成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、請求項1に係る発明は、一方の主面に凹凸を備えるレリーフ構造形成層からなる表示体であって、
前記一方の主面が複数種類の領域に区分されており、
これら複数種類の領域のうち一部の領域(第1界面部)は前記一方の主面の法線方向に回折光を発生しない領域であるのに対し、少なくとも一部の他の領域(第2界面部)は可視光を散乱する領域であり、
前記第1界面部には、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置されており、
前記第2界面部には、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置されており、
これら第1界面部と第2界面部の配列によって可視画像を構成していることを特徴とする表示体である。
【0016】
本発明に係る第1界面部は、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置された領域である。後述するように微小の中心間距離で複数の凸部または凹部が
配置された場合には、前記主面の法線方向に可視光の回折光が発生することがない。このため、この領域においては反射が低減され、また、光散乱も低減される。そして、その結果、黒色を表示する。他方、第2界面部は、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置された領域である。そして、この領域に入射した可視光は、直線状の前記凸部または前記凹部によって散乱されるため、第2界面部は第1界面部に比較して高散乱性を示し、その散乱光は前記主面の法線方向から観察することが可能である。そして、これら第1界面部と第2界面部とが配列されているため、前記主面の法線方向から観察した場合、低反射・低散乱の第1界面部と高散乱の第2界面部とで明るさが異なり、全体として可視画像を構成するのである。また、これら第1界面部及び第2界面部の存在しない領域との対比によって可視画像を構成することもできる。
【0017】
他方、第1界面部は前記主面の斜め方向に回折光を発生する。このため、斜め方向から観察した場合には、主面の法線方向から観察した場合の可視画像とは異なる画像状態が観察できる。そして、このため、より高い偽造防止効果を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によると、より高い偽造防止効果を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図
【図2】図1に示す表示体のII−II’線に沿った断面図
【図3】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図4】図3に示す構造の平面図
【図5】回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図
【図6】他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図
【図7】図1及び図2に示す表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図8】図7に示す構造の平面図
【図9】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な凸部及び凹部の一例を示す斜視図
【図10】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図11】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な凸部の一例を示す斜視図
【図12】図1及び図2に示す表示体の第2界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図
【図13】第1界面部が形成された画素の面積を変化させた様子を示す平面図
【図14】第2界面部が形成された画素の面積を変化させた様子を示す平面図
【図15】第1界面部及び第2界面部の配置例を示す説明図
【図16】第1界面部及び第2界面部の配置例を示す説明図
【図17】第1界面部及び第2界面部の配置例を示す説明図
【図18】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図
【図19】図18に示すラベル付き物品のIII−III’線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II’線に沿った断面図である。この表示体10は、光透過層11と反射層13との積層体を含んでいる。この例においては、光透過層11がレリーフ構造形成層である。図2に示す例では、光透過層11側を前面側(観察者側)とし且つ反射層13側を背面側としている。
【0022】
そして、光透過層11の主面、すなわち、光透過層11と反射層13との界面は、複数の領域に区分されており、その一部の領域は第1界面部IF1、他の一部の領域は第2界面部IF2である。これら第1界面部IF1及び第2界面部IF2は、いずれも微小な凹凸が形成された領域であり、後述するように、第1界面部IF1の凹凸と第2界面部IF2の凹凸とは、その構造や性質が異なる。
【0023】
光透過層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂などの光透過性を有する樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、例えば、表示体の凸構造及び/又は凹構造が形成された金属製のスタンパから、一方の主面に凸構造及び/又は凹構造が設けられた光透過層11を転写成形することができる。
【0024】
図2には、一例として、光透過性基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成された光透過層11を描いている。光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。光透過性樹脂層112は、光透過性基材111上に形成された層である。図2に示す光透過層11は、例えば、光透過性基材111上に熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させることにより得られる。
【0025】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層11と接触しているものの屈折率は、光透過層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0026】
この表示体10は、接着剤層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。接着剤層は、例えば、反射層13を被覆するように設ける。表示体10が光透過層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、通常、反射層13の表面の形状は、光透過層11と反射層13との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けると、反射層13の表面が露出するのを防止できるため、先の界面の凸構造及び/又は凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0027】
光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、接着層は、光透過層11上に形成する。この場合、光透過層11と反射層13との界面ではなく、反射層13と外界との界面が界面部IF1乃至IF2を含む。
【0028】
樹脂層は、光透過層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、光透過層11側を背面側とし且つ反射層13側を前面側とする場合、反射層13を樹脂層によって被覆することで、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸構造及び/又は凹構造の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0029】
(第1界面部の説明)
本発明に係る第1界面部IF1について説明するにあたり、まず、回折格子の中心間距離及び波長と、回折光の発生の有無との関係について説明する。
【0030】
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0031】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)DLの射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式から算出することができる。
【0032】
d=mλ/(sinα−sinβ)
この等式において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光RL、即ち、透過光又は正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0033】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0034】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。
【0035】
従って、格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0036】
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、法線方向から観察する観察者は、回折光を観察することができない。
【0037】
また、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより大きい場合と、より小さい場合とで、1次回折光DLについて次のような相違が存在する。
【0038】
すなわち、図5は、格子定数dが波長λと比較してより大きい回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す原理図である。図6は、格子定数dが波長λと比較してより大きい回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す原理図である。図5及び図6において、GRは回折格子が形成された界面を示し、NLは界面GRの法線を示し、ILは照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示し、DLは1次回折光を示している。
【0039】
上記等式から明らかなように、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図5に示すように正の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。
【0040】
これに対し、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、界面GRに対
して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子は、図6に示すように負の角度範囲内の射出角βで1次回折光DLを射出する。例えば、角度αが50°であり、格子定数dが330nmである場合を考えると、回折格子は、波長λが540nmの1次回折光を約60°の射出角βで射出する。
【0041】
以上の説明を整理すると、まず、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、この回折格子は法線方向に回折光を発生する。これに対し、回折格子の格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、この回折格子は法線方向に回折光を生じることがなく、負の角度範囲に1次回折光DLを射出する。
【0042】
次に、第1界面部IF1の構造と光学的性質について説明する。
【0043】
第1界面部IF1には、可視光の最短波長未満の中心間距離で配置された複数のドット状の凸部PRが設けられている。
【0044】
このため、第1界面部IF1は法線方向に可視光の回折光を生じることがなく、負の角度範囲に1次回折光DLを射出する。それゆえ、法線方向から観察した場合、第1界面部IF1は回折による分光色を表示しない。つまり、第1界面部IF1は暗灰色又は黒色印刷層の如く視認される。
【0045】
従って、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、第1界面部IF1は暗く見える。典型的には、第1界面部IF1は暗灰色又は黒色に見える。なお、ここで、「暗灰色」とは、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、第1界面部IF1は、例えば暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0046】
第1界面部では、複数の凸部又は凹部の中心間距離が小さくなるのに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、中心間距離が大きくなるのに伴って、やや輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるような構造となる。
【0047】
一般に、物品を観察する場合、特には光反射能及び光散乱能が小さい光吸収性の物品を観察する場合、正反射光を知覚できるように物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、図5を参照しながら説明した構成を用いた場合、そのこと自体を観察者が知らないとしても、観察者は比較的高い確率で回折光を知覚する。これに対し、図6を参照しながら説明した構成を用いた場合、そのことを知らない観察者は、多くの場合、回折光を知覚できない。それゆえ、この表示体10は、第1界面部IF1が回折光を表示し得ることを悟られ難い。
【0048】
なお、第1界面部IF1に設けられる凸部または凹部は、前記法線方向に向かってその断面積が漸増または漸減する形状であることが望ましい。
【0049】
このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離は可視光の最短波長と比較してより短いから、光学的には、第1界面部IF1は、表示体10の厚さ方向に連続的に変化した屈折率を有している場合と等価である。そのため、第1界面部IF1の反射率は小さい。そして、このため、法線方向から観察した場合の色彩は、一層黒色に近づく。また、負の角度範囲に射出する前記1次回折光の輝度も低下するから、この角度から観察した場合にも、その色彩は暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0050】
凸部または凹部が前記法線方向に向かってその断面積が漸増または漸減する形状である場合、これら凸部又は凹部の高さや深さが大きい方がその反射率が小さくなり、より黒い表示が可能となり、高さや深さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には高さや深さは中心間距離の1/2以上とすることが望ましい。具体的には、例えば中心間距離が400nmであった場合、高さ又は深さを200nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、400nm以上の高さ又は深さとすることでより黒い表示が可能となる。中心間距離と比較してはるかに高い構造や深い構造にすると十分な黒さが得られ、且つ高精度な製造技術が必要となることから、より一層偽造防止効果を向上させることができる。もっとも、せいぜい1μm以下である。ここで、本発明における凸部の高さ又は凹部の深さとは、凸部又は凹部の頂部から底部までの高低差を意味する。
【0051】
図3は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部IF1に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図4は、図3に示す構造の平面図である。なお、図3には、透明層11側から見た界面部IF1を描いている。
【0052】
第1界面部IF1には、可視光の最短波長未満の中心間距離で配置された複数の凸部PRが設けられている。図3に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列しているが、凸部PRはそれとは異なる方向に交差するような格子状配列であっても良い。いずれの場合も、凸部PRはドット状である。
【0053】
また、第1界面部IF1において、各凸部PRはその側面がテーパを有する形状(テーパ形状)を有しており、したがって、その断面積が漸増または漸減する構造を有しているが、それら凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
【0054】
テーパ形状は、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。テーパ形状は、第1界面部IF1の光反射率を小さくするのに役立つ。加えて、テーパ形状は、原版からの光透過層11の取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。
【0055】
第1界面部IF1において、複数の凸部PRは、その配置に対応して溝(即ち、格子線)を格子状に配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。
【0056】
次に、図7は、図1及び図2に示す表示体の第1界面部IF1に採用可能な構造であって、図3の構造とは異なり非格子状に配置されている非格子状第1界面部を表す斜視図である。ここで、非格子状に配置とは、周期的な配列規則を伴わずに不規則に配置された状態を意味する。図8は図7に示す構造の平面図である。なお、図7には、レリーフ構造形成層11側から見た第1界面部IF1を描いている。
【0057】
図7に示すように、第1界面部IF1には、非格子状に配置された複数の凸部PRが設けられており、凸部PRの中心間距離が可視光の最短波長未満となるように配置される。ここでの中心間距離とは、第1界面部IF1内において隣接して配置されている凸部PR間の距離の平均値を意味するものである。このように不規則に配置された凸部PRから構成される第1界面部IF1は、図3で示した第1界面部IF1とは異なり、1次回折光DLは観察されにくく、例えば、表示体10を法線方向から観察した場合、暗灰色又は黒色印刷層の如く視認される。
【0058】
なお、前記凸部や凹部の中心間距離としては、100nm以上であることが望ましい。
100nmよりも短いと、原版の作製やスタンパからの複製が技術的により高度なものとなる。
【0059】
(第2界面部の説明)
次に、第2界面部IF2について説明する。
【0060】
第2界面部IF2は界面部IF1と同様に断面が凹凸形状であるレリーフ構造体であるが、その凸部や凹部の中心間距離は典型的には可視波長よりきわめて大きく、少なくとも最大可視波長(700nm)の10倍以上である。このような中心間距離の大きい凸部や凹部によっては光の回折による回折光は生じにくく、主に光散乱特性のみが光学特性として発揮される。
【0061】
そして、第2界面部IF2の凸部や凹部は、各々方向(方位角)がほぼ揃っている直線状の構造を呈している。第2界面部IF2に設けられる個々の構造は典型的には、図9のような長辺及び短辺を有する矩形状の凸部もしくは凹部であり、第2界面部IF2には図10のように、このような構造が複数形成されている。このため、界面部IF1における凸部や凹部の中心間距離と区別して、隣接して配置されている矩形状の凸部もしくは凹部の間の距離を配置間隔と呼び、その平均を平均配置間隔と呼ぶ。
【0062】
第2界面部IF2に対し法線方向より光を照射した場合、第2界面部IF2は複数設けられた直線状の凸部や凹部の長辺方向に対して垂直な面内には広い射出角範囲で散乱光を射出する。一方、直線状の凸部や凹部の長辺方向に並行であり、且つ、界面部IF2の主面に垂直な面内には狭い射出角範囲で散乱光を射出する。以下、光散乱領域が一定の光強度以上の散乱光を射出する角度範囲の大きさを、用語「光散乱能」で表現する。例えば、用語「光散乱能」を用いた場合、先の説明は、「直線状の凸部及び/又は凹部の長辺方向の光分解能は低く、これに垂直な方向では高い光散乱能を示す」と換言することができる。また、観察する方向に応じて十分に異なる光散乱能が得られる構造を「異方性光散乱構造」と呼ぶこととする。
【0063】
一般的な白色照明光の照明下において光散乱能が高くなる観察条件で第2界面部IF2を目視観察すると、第2界面部IF2は白色もしくは白色よりやや明度の低い灰白色に知覚され、光散乱能が低くなる観察条件下においては散乱光が届かず、第2界面部IF2は素材に応じた色がそのまま知覚される。例えば、第2界面部IF2に設けられた構造に、銀やアルミニウムなどの銀色の反射層が被覆されている場合、銀色の金属光沢がそのまま知覚される。いいかえると、反射層から反射される色よりも明度が低い色は表現することができない。
【0064】
なお、ここで「白色」は表示体10に法線方向から光を照射し、観察者に到達する散乱光の明度が90%以上となるような状態を指し、「灰白色」は明度が75%以上となるような状態を意味する。
【0065】
ここで、直線状の凸部や凹部の長辺の長さは、例えば、10μm以上、且つ、100μm以下が望ましい。また、直線状の凸部や凹部の短辺の長さは、1μm以上、且つ、10μm未満が望ましい。照明条件や観察位置に応じて光散乱能を変化させるためには長辺の長さと短辺の長さの差が大きいほうが望ましく、長辺と短辺の長さの差は10倍以上あるとなお良い。
【0066】
また、第2界面部の凸部又は凹部と第1界面部に設けられる凸部又は凹部とは、同一の工程でスタンパ等の押圧によって形成することが簡便であることから、これら両界面部の凸部の高さや凹部の深さは同程度であることが望ましい。前述のように、第1界面部凸部
の高さや凹部の深さはせいぜい1μmであることから、第2界面部の凸部の高さや凹部の深さも1μm以下でよい。
【0067】
また、界面部IF2に設けられる構造としては、図11のように断面形状が矩形ではないもの、図12のように、複数の形状が組み合わされたような構造であっても光散乱特性を発揮することができる。
【0068】
また、これら凸部や凹部は、10μm以上、且つ、100μm以下の平均間隔で形成されていることが望ましい。10μmより小さいと、複数の凸部又は凹部が回折格子のように機能し、散乱光だけでなく、回折光を射出するようになる。それによって十分な光散乱能が得られず、且つ、虹色に光ってしまい従来の回折格子パターンと類似した視覚効果となってしまう。一方で、100μmを超える平均間隔であると、十分な光散乱能を得るためには例えば100μmを超えるような高い凸部または深い凹部を作製する必要があり、EB描画装置では作製が困難となる。
【0069】
また、第2界面部IF2に設けられる構造としては、長辺や短辺の長さ、構造の高さや深さが各々異なる構造が、様々な配置間隔で配置されていることがより望ましい。設けられる構造の長辺や短辺の長さや構造の高さや深さ、配置間隔に統一性,規則性がみられないほうが、第2界面部IF2を巨視的に観察した際に粗面となり、より光を散乱させる効果が高くなる。
【0070】
ここで、第2界面部IF2の異方性光散乱構造が、偽造防止が必要な媒体に貼付されるなどして使用された場合、光散乱能が高い観察条件で見られる色と、光散乱能が低い観察条件において見られる色とに差があることから、通常の印刷物に用いられるインキでは実現が困難な視覚効果を実現し、偽造防止機能を発揮する。
【0071】
しかし、このような散乱構造だけでは観察条件の変化に伴う視覚効果(観察される色)の変化がさほど大きくなく、十分な偽造防止効果を発揮することは難しい。
【0072】
なお、第2界面部に設けられる直線状の凸部や凹部は第2界面部の領域内の概ね40%〜60%程度の面積を占めるように作製すると良い。面内に凹凸構造が50%存在する場合が定点に対する光散乱能がもっとも高くなる。占有比率が高くなる、もしくは低くなるのに伴って光散乱能は低下する傾向を示す。そのため照明条件や観察位置に応じて光散乱能を大きく変化させ、明暗の差を明確に表現するためには直線状の凸部又は凹部は第2界面部の面内の50%の占有面積で形成されていることが望ましく、占有面積が40%〜60%程度であれば十分な効果が見込まれる。
【0073】
(微小な領域に形成された第1界面部と第2界面部とによって実現される視覚効果)
ここで、図1の本発明の一態様に係る表示体に示した第1界面部IF1と第2界面部IF2によって実現される視覚効果について説明する。
【0074】
第1界面部IF1及び第2界面部IF2はそれぞれ微小な領域に形成されており、肉眼で巨視的に観察した際にはそれぞれの領域の区別は困難である。この表示体10に対し主面の法線方向より光を照射し、地点Aから表示体10を観察した場合、第1界面部IF1は反射防止効果を呈するので第1界面部IF1から観察者の方向に対して到達する光はまったくないかあってもごくわずかである。一方、第2界面部IF2にはX方向に長い矩形の凹凸構造が多数設けられているので、地点Aにいる観察者に対しては高い光散乱能によって、観察者は白色もしくは灰白色の光を知覚することができる。表示体10の表面が第1界面部IF1及び第2界面部IF2に領域分割されているため、第2界面部から観察者に到達する散乱光の光量は第2界面部のみが表示体上に設けられている場合と比較してやや低下するが、それでも観察者は白色もしくは白色に近い灰白色を知覚することができる。
【0075】
また、この表示体10に対し主面の法線方向より光を照射し、地点Aと90°方位が変わった地点Bから表示体10を観察した場合は、第1界面部IF1は地点Aで観察した時と同様に反射防止効果を呈するので観察者の方向に対して射出される光はないかごくわずかであり、黒色もしくは暗灰色に見える。そして、第2界面部IF2は光散乱能が低くなる観察条件となるので、散乱光はほとんど到達しない。よって、地点Bで観察者が知覚する色は黒色と反射層の色が混ざった暗灰色となる。この効果は観察者が地点Aと地点Bの異なる位置から表示体10を観察した場合にも、照明光の位置が90°変わった場合にも見ることができる。
【0076】
このように表示体10は、複数の第1界面部IF1と第2界面部IF2によって観察条件に応じて白色(もしくは灰白色)と黒色(もしくは暗灰色)の色変化を呈する。照明光、もしくは観察者の位置が90°変化することで白色(もしくは灰白色)と黒色(もしくは暗灰色)に色変化する構造はこれまでになく、高い偽造防止効果を発揮する。
【0077】
(各界面部の配列)
ところで、これら第1界面部と第2界面部とは、表示体の一方の主面に次のように配列することが望ましい。
【0078】
すなわち、前記一方の主面を二次元的に配列された多数の画素に区分し、これら多数の画素のうち複数の画素を前記第1界面部に対応させ、他の複数の画素を前記第2界面部に対応してさせる。前述のように、第1界面部の視覚効果と第2界面部の視覚効果とは異なるから、これら視覚効果の相違に基づいて、全体として可視画像を表現することができる。
【0079】
なお、表示体上の第1界面部及び第2界面部のいずれもが形成されていない領域は、例えば平坦面、回折格子形成層、ホログラム形成層、印刷形成面等とすることができる。また、それらは省略することができる。
【0080】
図13及び図14のように、第1界面部IF1及び第2界面部IF2をそれぞれ画素として表示体上に設け、各々の画素の大きさを変化させると、第1界面部IF1による反射防止効果の度合いと、第2界面部IF2による光散乱効果の度合いをそれぞれ任意に制御することができる。第1界面部IF1は、画素の面積を大きくすることでその部分の反射防止効果を高くすることができ、より暗い黒色を表示できる。画素の面積を小さくすることでその部分の反射防止効果は低くなる。第2界面部IF2は、画素の面積を大きくすることでその部分の光散乱能が高くなり、より明るい白色を表示できる。画素の面積を小さくすることでその部分の光散乱能は低くなる。
【0081】
また、画素構造にすることで容易に絵柄,文字,記号等の画像を表示させることができる。
【0082】
微細な画素構造によって、第1界面部IF1と第2界面部IF2とで別々の画像を形成し、各画素を周期性を伴って整然配置することで、地点A及び地点Bから表示体を観察した際にそれぞれ別々の画像を観察することも可能となる。
【0083】
図15のように、市松模様状に第1界面部IF1と第2界面部IF2を交互に隣接配置し、表示体の主面の法線方向より光を照射した場合、地点Aでは表示体上に設けられた第2界面部IF2によって観察者に散乱光が到達し、表示体表面が白く光って見える。一方
、地点Bから表示体を観察した際には、第2界面部IF2からの散乱光はほとんど到達せず第1界面部IF1によって構成された画像(ここではアルファベットの「S」)が黒色で表示される。第1界面部IF1の画素群と第2界面部IF2の画素群の配置規則としては、交互に隣接配置された市松模様にとどまらず、図16のようなストライプ状の配置によるもの、図17のような第1界面部IF1と第2界面部IF2とで出現規則が異なるような配置であっても良い。なお、図15においては、第1界面部IF1の画素を黒色の矩形で示し、第2界面部IF2の画素を灰色の矩形で示し、内部に構成された個々の凸部又は凹部は省略した。なお、第2界面部IF2の内部にはX方向に長い矩形の構造が複数形成されているものとする。また、これら画素の大きさをさらに小さくすることでより解像度の高い画像を表示することが可能となる。
【0084】
第1界面部の画素形状としては、一辺1μm以上、且つ、300μm以下の矩形の内部に包含されるような形状であることが望ましい。第1界面部に構成される凸部や凹部から成る構造の中心間距離は可視光の最短波長より小さく、概ね0.1〜0.5μm程度である。このような中心間距離で凸部または凹部が複数個連続的に配置されることで十分な反射防止効果を発揮するためには、一方向に対し少なくとも10個程度の凸部又は凹部が並ぶことが望ましい。そのため、第1界面部の面積としては一辺1μm以上の矩形を内包する程度の大きさがあったほうが良い。また、第1界面部が一辺300μmの矩形を超えるような面積である場合、画素形状が知覚されてしまい、品質の悪い画像表示となってしまう。高精細な画像を表示するには一般的な人間の眼の分解能よりも小さくなる、一辺が300μm以下の矩形に収まるような画素によって画像を構成するのが良い。
【0085】
第2界面部の画素形状としては、一辺30μm以上、且つ、300μm以下の矩形の内部に内包されるような形状であることが望ましい。第2界面部に形成される複数の直線状の凸部や凹部によって十分な光散乱能が得るためには、直線状の凸部や凹部の長辺の長さは、例えば、10μm以上、且つ、100μm以下とすると良い。また、短辺の長さは、例えば、1μm以上、且つ、10μm未満とすると良い。また、これらの構造の平均配置間隔は、例えば、10μm以上、且つ、100μm以下の範囲内とすると良い。よって、画素形状としては一辺30μm以上の矩形の内部に内包されるような形状であることが望ましい。
【0086】
(表示体の使用方法)
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその外の物品に貼り付けて使用することができる。表示体10は微細な凹凸構造により光反射防止機能を備えた画像を有することから偽造又は模造が困難であり、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0087】
図18は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図19は、図18に示すラベル付き物品のIII−III’線に沿った断面図である。
【0088】
図18及び図19には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材20を含んでいる。基材20は、例えば、プラスチックからなる。基材20の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材20上には、印刷層40が形成されている。基材20の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0089】
この印刷物100は、微細な凹凸構造から成る表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0090】
なお、図18及び図19には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0091】
また、図18及び図19に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0092】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0093】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
10…表示体、11…光透過層、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、13…反射層、20…基材、30…ICチップ、40…印刷層、100…印刷物
GR…回折格子、IF1…第1界面部、IF2…第2界面部、PR…凸部、QR…凸部、SR…凹部、DL…1次回折光、IL…照明光、NL…法線、RL…正反射光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面に凹凸を備えるレリーフ構造形成層からなる表示体であって、
前記一方の主面が複数種類の領域に区分されており、
これら複数種類の領域のうち一部の領域(第1界面部)は前記一方の主面の法線方向に回折光を発生しない領域であるのに対し、少なくとも一部の他の領域(第2界面部)は可視光を散乱する領域であり、
前記第1界面部には、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置されており、
前記第2界面部には、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置されており、
これら第1界面部と第2界面部の配列によって可視画像を構成していることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記一方の主面が二次元的に配列された多数の画素に区分されており、
これら多数の画素のうち複数の画素が前記第1界面部に対応しており、他の複数の画素が前記第2界面部に対応していることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記第1界面部に対応する複数の画素(第1画素群)と、前記第2界面部に対応する複数の画素(第2画素群)が周期性を伴って整然配置されていることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1画素がそれぞれ一辺1μm以上、且つ、300μm以下の矩形に包含される領域に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の表示体。
【請求項5】
前記第2画素がそれぞれ一辺30μm以上、且つ、300μm以下の矩形に包含される領域に形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記第1界面部に設けられた複数の凸部または凹部の中心間距離が100nm以上、且つ、可視光の最短波長未満であり、凸部の高さまたは凹部の深さが中心間距離の1/2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
前記第2界面部に設けられた凸部または凹部が10μm以上、且つ、100μm以下の平均間隔で形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表示体。
【請求項8】
前記第2界面部に設けられた直線状の凸部または凹部が矩形であり、長辺の長さが10μm以上、且つ、100μm以下であり、短辺の長さが1μm以上、且つ、10μm未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の表示体。
【請求項9】
前記第2界面部に設けられた直線状の凸部又は凹部が矩形であり、長辺が短辺の10倍以上の平均長さを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の表示体。
【請求項10】
前記第2界面部の領域内に40%以上、且つ、60%以下の面積比で直線状の凸部又は凹部が形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の表示体。
【請求項11】
前記凸部または凹部の少なくとも一部が反射層により被覆されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の表示体。
【請求項12】
前記凸部又は凹部の少なくとも一部を被膜した反射層と、前記凸部又は凹部を被覆する樹脂層とを順次具備することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の表示体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の表示体と、この表示体をラベルとして支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。
【請求項1】
一方の主面に凹凸を備えるレリーフ構造形成層からなる表示体であって、
前記一方の主面が複数種類の領域に区分されており、
これら複数種類の領域のうち一部の領域(第1界面部)は前記一方の主面の法線方向に回折光を発生しない領域であるのに対し、少なくとも一部の他の領域(第2界面部)は可視光を散乱する領域であり、
前記第1界面部には、複数の凸部または凹部が可視光の最短波長未満の中心間距離で配置されており、
前記第2界面部には、方向がほぼ揃った直線状の凸部または凹部が複数配置されており、
これら第1界面部と第2界面部の配列によって可視画像を構成していることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記一方の主面が二次元的に配列された多数の画素に区分されており、
これら多数の画素のうち複数の画素が前記第1界面部に対応しており、他の複数の画素が前記第2界面部に対応していることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記第1界面部に対応する複数の画素(第1画素群)と、前記第2界面部に対応する複数の画素(第2画素群)が周期性を伴って整然配置されていることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1画素がそれぞれ一辺1μm以上、且つ、300μm以下の矩形に包含される領域に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の表示体。
【請求項5】
前記第2画素がそれぞれ一辺30μm以上、且つ、300μm以下の矩形に包含される領域に形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の表示体。
【請求項6】
前記第1界面部に設けられた複数の凸部または凹部の中心間距離が100nm以上、且つ、可視光の最短波長未満であり、凸部の高さまたは凹部の深さが中心間距離の1/2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表示体。
【請求項7】
前記第2界面部に設けられた凸部または凹部が10μm以上、且つ、100μm以下の平均間隔で形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表示体。
【請求項8】
前記第2界面部に設けられた直線状の凸部または凹部が矩形であり、長辺の長さが10μm以上、且つ、100μm以下であり、短辺の長さが1μm以上、且つ、10μm未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の表示体。
【請求項9】
前記第2界面部に設けられた直線状の凸部又は凹部が矩形であり、長辺が短辺の10倍以上の平均長さを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の表示体。
【請求項10】
前記第2界面部の領域内に40%以上、且つ、60%以下の面積比で直線状の凸部又は凹部が形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の表示体。
【請求項11】
前記凸部または凹部の少なくとも一部が反射層により被覆されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の表示体。
【請求項12】
前記凸部又は凹部の少なくとも一部を被膜した反射層と、前記凸部又は凹部を被覆する樹脂層とを順次具備することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の表示体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の表示体と、この表示体をラベルとして支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−204348(P2010−204348A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49129(P2009−49129)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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