説明

表示装置およびその製造方法

【課題】小型化・省スペース化を図ることが可能な表示装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】発色体として赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とを配列した表示部を有し、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とは、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部をXY方向に配列して形成された基板と、上記基板の凸部または凹部に倣うように、高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した積層体とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置およびその製造方法に関し、さらに詳細には、構造色を用いた表示装置およびその製造方法に関する。
【0002】
なお、「構造色」とは、それ自体には色がないものであるが、光の波長あるいはそれ以下の微細構造をもつことにより、光の反射、干渉、屈折、回折、散乱などの作用が関係して当該構造が呈する発色を意味する。
【0003】
本明細書においては、こうした構造色を発色する構造を備えた発色体を「構造色発色体」と適宜に称することとする。
【0004】
なお、構造色発色体としては、例えば、特許文献1として提示する本願発明者等の発明に係る特開2003−53875号公報に開示されたものや、特許文献2として提示する本願発明者等の発明に係る特開2005−153192号公報に開示されたものがある。
【0005】
また、本発明における表示装置は、例えば、電子情報通信におけるディスプレイたる画像表示装置として用いたり、あるいは、所謂、電子ペーパー(電子ペーパーは、10分の数ミリ程度の厚さしかなく、電気的な手段でデータの表示・消去が可能なディスプレイである。)やポスターのような紙媒体などに代えて用いることができるものである。
【背景技術】
【0006】
一般に、電子情報通信における主要なディスプレイは、ブラウン管(以下、「CRT」(CRT:Cathode Ray Tube)と称する。)を用いたディスプレイ(以下、「CRTディスプレイ」と称する。)と液晶を用いたディスプレイ(以下、「液晶ディスプレイ」と称する。)とに大別される。
【0007】
しかしながら、CRTディスプレイは、ブラウン管を用いるという構造から原理的に薄くすることができないため、小型化・省スペース化には不利があるという問題点があった。
【0008】
一方、液晶ディスプレイに関しては、液晶はそれ自体では発光せずにシャッターの役割を果たすだけであるため、その構造上バックライトが必要であり、製造コストの上昇を招来するという問題点があった。
【0009】
また、液晶ディスプレイをカラー化する場合には、カラーフィルタを用いるので光利用効率が著しく低下するという問題点があった(カラーフィルタを用いる場合には、光がカラーフィルタを透過する際に、その2/3程度が吸収されてしまうものであった。)。
【0010】
さらに、発光源については、CRTディスプレイにおいては電子ビーム源であり、液晶ディスプレイにおいてバックライトであるが、これら電子ビーム源あるいはバックライトはともに消費電力の抑制には限界があるという問題点があった。
【0011】
なお、消費電力を鑑みると、近年脚光を浴びているプラズマディスプレイではその抑制はより一層困難であり、消費電力の増大を避けることができないという問題点があった。
【特許文献1】特開2003−53875号公報
【特許文献2】特開2005−153192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小型化・省スペース化を図ることが可能な表示装置およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0013】
また、本発明の目的とするところは、製造コストの上昇を抑制することが可能な表示装置およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0014】
さらに、本発明の目的とするところは、光利用効率に優れた表示装置およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0015】
さらにまた、本発明の目的とするところは、消費電力を抑制することが可能な表示装置およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明による表示装置およびその製造方法は、発色体として構造色発色体を用いるようにしたものである。
【0017】
即ち、本発明による表示装置は、従来の表示装置とは異なり、発色体として蛍光体やカラーフィルタを用いることなしに、外部からの入射光の干渉などにより構造色を発色する構造色発色体を用いるようにしたものであり、その構造色発色体としては、特許文献2に開示された構成を備えた構造色発色体を用いるようにしたものである。
【0018】
このため、本発明による表示装置は、従来のCRTディスプレイとは異なり電子ビーム源も蛍光体も必要としないので構成要素が少なく簡便である。
【0019】
また、本発明による表示装置は、液晶ディスプレイとは異なりカラーフィルタによる光の吸収がないので光利用効率が高く、消費電力を抑制することができるようになる。即ち、本発明による表示装置のように、発色体として構造色発光体を用いる場合には、構造色発光体の発光の源は外部光の反射であり、液晶ディスプレイにおけるようなカラーフィルタによる光の吸収が介在しないため、バックライトを著しく省略することができる(例えば、暗い場所を除き、通常の室内照明がある場所ならばバックライトは不要である。)。
【0020】
さらに、本発明による表示装置は、構造色発色体として特許文献2に開示された構成を備えた構造色発色体を用いるものであるため、上記したようにカラーフィルタによる吸収がないばかりではなく、高反射率を有する点においても光利用効率を向上することができ、このため消費電力も一層抑制することができるようになる。
【0021】
さらにまた、構造色発色体を用いた本発明による表示装置においては、干渉色でありながら混色を生じずに単色が保証されるようになり、かつ、広い角度で単一の色を発色することができる。
【0022】
また、構造色発色体を用いた本発明による表示装置においては、構造色発色体自体は蝶の鱗粉同様に軽く薄くコンパクトであることから、全体構成を極めて小型化することができ、従来の表示装置と比較すると大幅な省スペース化を図ることができる。即ち、構造発色体自体の厚さは、例えば、1μm程度まで薄くすることが可能であり、きわめてコンパクトにすることができる。
【0023】
さらに、本発明による表示装置は、発色体として構造色発色体を用いているため、化学変化による経時劣化がないという優れた特性も備えている。
【0024】

なお、特許文献1や特許文献2に開示された構造色発色体を除く従来の構造色発色体(以下、単に「従来の構造色発色体」と適宜に称する。)においては、構造色発色体を見る人間(以下、「観者」と適宜に称する。)が当該構造色発色体を見る際の角度によって色が変わる、即ち、視野角依存性があるということが指摘されていた。
【0025】
なぜならば、色素を用いずに発色する構造色発色体においては、その発色が光の干渉や散乱などによるため、シャボン玉と同様に原理的に虹色干渉を生じることになるからである。
【0026】
こうした理由から、従来の構造色発色体はディスプレイには全く適さないものと認識されてきた。つまり、従来の構造色発色体を表示装置に応用するに際しては、上記した通り干渉による不具合(視野角依存性および異なる色の混ざり合い)が障碍となるものであった。
【0027】
ところが、自然に存在する構造色発色体の一例であるモルフォ蝶の鱗粉については、青色の発色が高い反射率を持ちつつ、しかも干渉の原理に矛盾して視野角依存性がなく、観者がどこから見ても青く視認できるという特性を備えている。
【0028】
このモルフォ蝶の鱗粉における構造色の発色の原理は、図1に示すように、本願発明者等によって科学的に解明されるとともに実験的に証明され(「A.Saito,S.Yoshioka,S.Kinoshita,Proc.SPIE Vol.5526B, (2004) 188−194.」(以下、「論文1」と適宜に称する。)、特許文献1ならびに特許文献2として特許出願されている。なお、図1(A)における「SEM Side View」は、実際のモルフォ蝶の翅の一部領域の横断面の走査型電子顕微鏡写真を示し、図1(A)における「SEM Top View」は、実際のモルフォ蝶の翅の一部領域の平面視における走査型電子顕微鏡写真を示している。また、図1(C)は、図1(E)におけるガラス(Glass)基板のへいめん視における走査型電子顕微鏡写真を示している。また、図1(E)の左側に位置する図は、図1(E)に示す構造色発色体による青色発色を示す説明図である。
【0029】
即ち、本願発明者等の研究は、モルフォ蝶の鱗粉の青色発色が多層膜干渉によるものであることを明らかにするとともに、モルフォ蝶の鱗粉が、
(1)高い反射率
(2)広い視野角での色不変性
(3)干渉防止
の全てを満たす理由は、モルフォ蝶の鱗粉が
(1)微細構造による回折広がり(広い視野角)
(2)微細構造の高い密度と1次元異方性による高反射率
(3)乱雑さによる虹色干渉防止
という特性を備えていることに由来するものであることを明らかにした(図1(A)(B)参照)。
【0030】
こうしたモルフォ蝶の鱗粉の特性を利用した構造色発色体の作製の原理および手法が論文1、特許文献1ならびに特許文献2に示されている。
【0031】
上記した特許文献2に開示されたモルフォ蝶の鱗粉の特性を利用した構造色発色体の作製の手法は、モルフォ蝶の鱗粉を模擬するものであり、電子ビームリソグラフィとエッチングとにより基板表面に微細な凹凸を高密度かつ乱雑に形成し(図1(C))、当該凹凸を形成された基板表面に高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層と交互に積層することにより(図1(D))、構造色発色体を形成するものである(図1(E))。
【0032】
こうした論文1、特許文献1ならびに特許文献2に示された構造色発色体の作製の要諦は、基板上に高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とを交互に積層して多層膜成膜を行う際に、「広い視野角の回折を生じる微細構造」を「高密度」かつ「乱雑」に配列することにある。これにより、モルフォ蝶の鱗粉と同様な特性を備えた所望の色の発色を実現することができる。
【0033】
つまり、論文1、特許文献1ならびに特許文献2に示された構造色発色体の作製の手法を用いることにより、
(1)高い反射率
(2)広い視野角での色不変性
(3)干渉防止
の全てを満たす構造色発色体を実現することができた。
【0034】
従って、論文1、特許文献1あるいは特許文献2に開示された構造色発色体を用いることにより、従来の色素や単純な多層膜干渉では得られなかったモルフォ蝶の色合いと同様な発色が実現されるようになった。
【0035】

本発明のうち請求項1に記載の発明は、発色体として赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とを配列した表示部を有し、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とは、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部をXY方向に配列して形成された基板と、上記基板の凸部または凹部に倣うように、高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した積層体とを有して構成されるようにしたものである。
【0036】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、発色体として赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とを配列した表示部と、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とに対して選択的に外部照明を照射させる液晶パネルと、上記液晶パネルを制御する制御手段とを有し、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とは、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部をXY方向に配列して形成された基板と、上記基板の凸部または凹部に倣うように、高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した積層体とを有して構成され、上記制御手段により上記液晶を制御して上記表示部に画像を表示させるようにしたものである。
【0037】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、上記凸部または凹部は、X方向に互いに同一の幅を有するとともに、Y方向に該幅よりも長くかつ該幅の2倍以下の偏差をもつ統計分布をなす長さを有するようにしたものである。
【0038】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2または3のいずれか1項に記載の発明において、上記高屈折率層の厚さは30〜120nmであり、上記低屈折率層の厚さは60〜300nmであるようにしたものである。
【0039】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、発色体として構造色発色体を備えた表示装置の製造方法において、基板の表面に赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とをそれぞれ作製するための凸部および凹部であって、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部を、XY方向に配列して形成する第1のステップと、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とにそれぞれ対応する高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した多層膜構造を備えた積層体を形成するためのマスクを用いて、多層膜蒸着により上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とをそれぞれ構成する上記凸部または凹部に倣うように上記積層体を形成し、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とをそれぞれ形成する第2のステップとを有するようにしたものである。
【0040】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、発色体として構造色発色体を備えた表示装置の製造方法において、基板の表面に赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とをそれぞれ作製するための凸部および凹部であって、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部を、XY方向に配列して形成する第1のステップと、上記第1のステップで上記表面に凸部および凹部を形成された基板を用いて、ナノインプリント技術により該凸部および凹部を複数の樹脂板にインプリントして複製し、上記複製した複数枚の樹脂板を貼り合わせて基板パターンを作製する第2のステップと、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とにそれぞれ対応する高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した多層膜構造を備えた積層体を形成するためのマスクを用いて、多層膜蒸着により上記基板パターンにおける上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とをそれぞれ構成する上記凸部または凹部に倣うように上記積層体を形成し、上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とをそれぞれ形成する第3のステップとを有するようにしたものである。
【0041】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項6に記載の発明において、さらに、上記第3のステップにより形成された上記第1の構造色発色体と上記第2の構造色発色体と上記第3の構造色発色体とに対して選択的に外部照明を照射させる液晶パネルを配置する第4のステップを有するようにしたものである。
【0042】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項5、6または7のいずれか1項に記載の表示装置の製造方法において、上記凸部または凹部は、X方向に互いに同一の幅を有するとともに、Y方向に該幅よりも長くかつ該幅の2倍以下の偏差をもつ統計分布をなす長さを有するようにしたものである。
【0043】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項5、6、7または8のいずれか1項に記載の発明において、上記高屈折率層の厚さは30〜120nmであり、上記低屈折率層の厚さは60〜300nmであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、小型化・省スペース化を図ることが可能となり、また、製造コストの上昇を抑制することが可能となり、また、光利用効率を向上することができ、また、消費電力を抑制することが可能となるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による表示装置およびその製造方法の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0046】

ここで、表示装置においては、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)を発色することが必要であるが、赤色と緑色と青色とをそれぞれ発色する構造色発色体は、特許文献2に開示された構造色発色体の作製方法により作製する。なお、所望の発色を得るには、基板上に形成される高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とを、所望の発色に合わせて適宜に設計すればよい。以下、本発明による表示装置に用いる構造色発色体の作製の手法について説明する。
【0047】
本発明による表示装置に用いる構造色発色体を製作する工程は、以下の2工程で構成される。
【0048】
第1工程:表面に微細凹凸パターンを備えた基板の加工(図1(C)参照)
第2工程:第1工程で基板表面に作製した微細凹凸パターン上への高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層膜の成膜(図1(D)参照)。
【0049】
ここで、上記した第1工程による微細凹凸パターンは、図1(B)に示されているように、「高い光利用効率」と「干渉による混色の防止」と「広い有効角」との全てに影響する。また、上記した第2工程による多層膜の成膜は、発色の波長を決める部分であり、従来の構造色発色体における多層膜と同様に形成すればよい。
【0050】

ここで、上記した第1工程および第2工程よりなる本発明による表示装置に用いる構造色発色体を製作する手法について、図2(a)(b)(図2(a)は第1工程および第2工程の説明図であり、また、図2(b)は図2(a)におけるB矢視(平面視)方向における基板表面の走査型電子顕微鏡写真である。)を参照しながら説明する。
【0051】
まず、第1工程においては、基板10の表面に、X方向の幅dが780nm以下でY方向に比べて均一であり、Y方向の長さが不定であり、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の平面視方形の凸部または凹部を、XY方向に多数配列して形成する。即ち、第1工程においては、多数の長方形がXY2次元面内に乱数配置された擬1次元的パターンが形成されることになる。
【0052】
なお、基板10としては、積層体12(後述する。)を所定の配列で固定できるものであればよく、特に限定されものではない。例えば、積層体12が無機質誘電体薄膜(後述する。)からなる場合には、基板10をガラス基板とすることにより構造色発色体20(後述する。)を完全に固体無機材料で構成することができるようになる。
【0053】
こうした基板10は、具体的には、所定の厚さ(例えば、厚さ1.1mm)の石英ガラス基板やSi基板を用いることができる。
【0054】
こうした第1工程における処理は、例えば、基板10の表面を電子ビームフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて凹凸に加工することにより行えばよい。この凹凸は、X方向に一様な幅dを備えるとともに、Y方向はdを下限とするばらつきを有するように形成する。従って、平面視ではX方向の長さがdで種々のアスペクト比を有する縦長の四辺形がY方向を向いて多数配列していることになる。図2(a)において、幅が2dをなす凹凸が存在するのは、この断面において隣接する凸部同士あるいは凹部同士が連なっていることを示している。この凸部同士あるいは凹部同士の連なりは3個以上でもよいことは勿論であり、その際には、基板10には幅が3d以上をなす凹凸が存在することになる。
【0055】
なお、凸部ならびに凹部のY方向長さおよび配列は電子ビーム描画にて制御することができ、凸部ならびに凹部の高さ(深さ)はエッチング時間等のエッチング条件にて制御することができる。第1工程で用いるエッチングは、ドライエッチングが好ましい。
【0056】
次に、第2工程においては、凸部ならびに凹部が形成された基板10の表面に倣うように、厚さt1の高い屈折率を有する高屈折率層12aと厚さt2の低い屈折率を有する低屈折率層12bとをZ方向に交互に成膜して、高屈折率層12aと低屈折率層12bとがZ方向に交互に積層された積層体12を形成する。
【0057】
こうした第2工程における処理は、例えば、高屈折率層12aと低屈折率層12bとを交互に電子ビーム蒸着し、最上層を高屈折率層12aとすればよい。
【0058】

ここで、高屈折率層12aと低屈折率層12bとが基板10の表面に倣うように積層されるとは、積層体12のうち基板10の凸部(または凹部)上に設けられた部分は、その最上面も凸部(または凹部)になることを意味する。
【0059】
こうして形成された構造色発色体20は、高屈折率層12aと低屈折率層12bとが交互に積層された積層体12を有するので、入射光が積層体12の各層の高屈折率層12aで反射し、その反射光のうち高屈折率層12aおよび低屈折率層12bの各屈折率および厚さによって定まる特定波長の光が、干渉によって強められたり打ち消し合ったりする。即ち、高屈折率層12aの屈折率をn1、厚さをt1、低屈折率層12bの屈折率をn2、厚さをt2とするとき
波長λ=2(n1×t1+n2×t2) ・・・ 式1
で定まる波長λの光が選択的に強められる。
【0060】
従って、高屈折率層12aの屈折率n1および厚さt1ならびに低屈折率層12bの屈折率をn2および厚さをt2を、赤色、緑色または青色の波長をそれぞれ選択的に強めるように設定すれば、構造色発色体20として、赤色を発色する構造色発色体、緑色を発色する構造色発色体または青色を発色する構造色発色体をそれぞれ作製することができる。
【0061】
しかも、積層体12の最上面のX方向の凹凸の間隔が780nm以下(例えば、300nmである。)、即ち、大部分の可視光の波長より小さく、かつ、Y方向に比べて均一に形成されているので、強められた反射光が回折効果によって空間的に広がるとともに、光波動場の膜内への侵入を制限する効果により高い反射率が得られることになる。
【0062】
また、2次元全方位の乱反射による反射率低下を防止するために、構造色発色体20の上記した多数の凸部ならびに凹部は、X方向に互いに同一の幅dとし、Y方向長さがX方向の幅dより大きくかつX方向幅dの2倍以下の偏差をもつ統計分布をなすように設計することにより、配列に一次元の規則性をもたせるのが好ましい。具体的には、Y方向の長さは、例えば、2.0μmを中心とする標準偏差0.5μmの正規分布をなすように乱数で決定すればよい
こうした一次元異方性により、反射光が2次元全方位の乱反射により散乱することを防ぎ、反射率低下を防止するとともに反射光を空間的に集中して反射強度を高くすることができるようになる。
【0063】
また、構造色発色体20の上記した多数の凸部または凹部の高さまたは深さが10nmよりも小さいと、積層体12の最上面のレベルが近似的に同じになって回折効果による光の広がりが得られないので、構造色発色体20の凸部または凹部のZ方向の寸法(高さまたは深さ)を10nm以上、例えば、340nmとする。なお、構造色発色体20の凸部または凹部のZ方向の寸法(高さまたは深さ)の上限は限定されないが、例えば、1μm以下とすることが好ましい。
【0064】
次に、屈折率と波長との関係を示す式1で定まる波長が可視光の範囲となるように、積層体12を構成する高屈折率層12aの厚さt1を、例えば、30〜120nm(例えば、50nmである。)に設定し、積層体12を構成する低屈折率層12bの厚さt2を、例えば、60〜300nm(例えば、80nmである。)に設定するのが好ましい。
【0065】
また、積層体12を構成する高屈折率層12aと低屈折率層12bとの各層の光学距離を同等にするために、高屈折率層12aの厚さt1よりも低屈折率層12bの厚さt2を厚くするように設定することが好ましい。
【0066】
ここで、高屈折率層12aならびに低屈折率層12bを構成する材料としては、例えば、Al、SiO、SiO、SnO、Sb、PbCl、PbO、Ta、TiO、TiO、HfO、ZrO、CeO、CeF、ZnS、MgO、NaF、MgFなどの無機質誘電体薄膜のうちから選択した1種以上からなるものを用いることができ、このように積層体12を無機質で構成することにより耐熱性および耐光性を向上することができ、また、屈折率の範囲も広げることができる。
【0067】
上記した各材料のなかで屈折率比を大きくして反射率を高めるためには、高屈折率層12aとして、例えば、TiO、Ta、HfO、ZnS、CeO、PbO、Sbなどを用い、一方、低屈折率層12bとして、例えば、SiO、MgFなどを用いるような組み合わせが好ましい。
【0068】
また、高屈折率層12aならびに低屈折率層12bを構成する材料としては、例えば、PMMA、CR−39、MMA、ポリアリルメタクリレート、ポリジアリルフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルナフタレンなどの合成樹脂のうちから選ばれる1種以上であってもよい。
【0069】
さらに、基板10と積層体12との間に光吸収体を形成してもよく、このようにすると、特定波長の光のみを吸収することができるので、色合いを変化させることができる。
【0070】
さらにまた、その光吸収体をアルミニウム、金、銅、クロムなどからなる金属薄膜により構成すると、反射光に光沢を加えることができるようになる。
【0071】

次に、上記した構成を備えた構造色発色体20を青色を発色する構造色発色体として構成する際に、構造色発色体20の凸部または凹部に関しては、例えば、X方向の幅dを青色の波長よりも小さい300nmとして、Y方向長さがX方向の幅dより大きくかつX方向の幅dの2倍以下の偏差をもつ統計分布のもとに、短辺300nmの異方性を持った長方形を乱雑に配置するようにし、凸部または凹部のZ方向の寸法(高さまたは深さ)は青色の光が垂直入反射を妨げられて広い角度で散るような深さである110nmとする。
【0072】
図3は本願発明者等による反射率の角度分布測定の結果を示すグラフであり、垂直入射光に対する各波長の反射率の角度依存性を示している。なお、図3において、左図は従来より周知の従来の連続多層膜に関する測定結果を示し、中央図はモルフォ蝶の翅に関する測定結果を示し、右図は上記した本発明による青色を発色する構造色発色体20に関する測定結果を示している。また、図3における縦軸は、左図、中央図および右図において共通である。
【0073】
従来より周知の従来の連続多層膜(図3の左図)との比較すると、モルフォ蝶の翅(図3の中央図)ならびに本発明による青色を発色する構造色発色体20(図3の右図)においては、垂直方向に対して±30〜40°程度青色が変わらないという特徴が示されている。
【0074】
即ち、本発明による青色を発色する構造色発色体は、モルフォ蝶の翅と同様な特性、即ち、広い角度範囲で青く輝き、高い反射率をもち、1次元異方性をもち、色が混ざらないという特性を備えている。
【0075】

次に、図4(a)(b)を参照しながら、基板10の表面に形成する凸部と凹部とのパターンについて検討するために行った実験結果について説明する。
【0076】
図4(a)の左図は、基板表面に完全に1次元(縞状)で幅のランダムな凹凸(以下、「1次元型」と適宜に称する。)を形成した場合の走査型顕微鏡写真を示し、図4(a)の右図は、基板表面に2次元(ピクセル状)でランダムな凹凸(以下、「2次元型」と適宜に称する。)を形成した場合の走査型顕微鏡写真を示し、図4(a)の中央図は、基板表面に上記した構造色発色体20において採用した1軸方向に長い方形で配列のランダムな凹凸(以下、「モルフォ型」と適宜に称する。)を形成した場合の走査型顕微鏡写真を示しており、これら3種類の凹凸を形成するようにして多層膜を成膜した構造色発色体を作製し、フラッシュなしとフラッシュありとで撮影した。図4(b)上図はフラッシュなしの撮影結果を示し、図4(b)下図はフラッシュありの撮影結果を示している。
【0077】
図4(a)(b)に示されているように、2次元型では全体に光が散って強度が極端に弱く、また、1次元型では干渉の虹色が残ってしまう上に光の角度依存性が急峻すぎ、少し角度がずれると反射率が急減する。この傾向は、フラッシュのような強い光を照射すると顕著に観察される。一方、モルフォ型では、青色の広い角度依存性と高い反射率が再現できた。
【0078】
また詳細な説明は省略するが、広い角度で高反射率の青色を生じる条件は、パターン間隔、深さともに100nmレベルで影響していた。なお、論文1に示すように、本願発明者等は光ファイバによる反射率プロファイルの角度依存性の測定を行っており、その結果も上記の結果に対応している(論文1参照)。
【0079】

なお、上記においては、構造色発色体20として青色を発色する構造色発色体を中心に説明したが、構造色発色体20として赤色を発色する構造色発色体および緑色を発色する構造色発色体をそれぞれ作製するに際しては、上記において説明した青色を発色する構造色発色体を規定するパラメータを長波長(赤色、緑色)に変換して設計すればよい。
【0080】
こうした設計を行うことにより、青色を発色する構造色発色体30(図5の右図参照)に加えて、赤色を発色する構造色発色体40(図5の左図参照)および緑色を発色する構造色発色体50(図5の中央図参照)を作製することができる。
【0081】
具体的には、青色を発色する構造色発色体30は、例えば、高屈折率層がTiO(約50nm厚)、低屈折率層がSiO(約75nm厚)であり、これら高屈折率層と低屈折率層とを各6層程度積層して積層体を構成すればよい。また、基板の表面に形成する凸部と凹部とについては、例えば、Z方向の高低差約110nm、平面視における長方形は幅dが300nmであり300nm×2μm(なお、長辺は乱雑さを含み、標準偏差0.5μm程度である。)の大きさを持つようにすればよい。
【0082】
また、赤色を発色する構造色発色体40は、例えば、高屈折率層がTiO(約80nm厚)、低屈折率層がSiO(約110nm厚)であり、これら高屈折率層と低屈折率層とを各6層程度積層して積層体を構成すればよい。また、基板の表面に形成する凸部と凹部とについては、例えば、Z方向の高低差約160nm、平面視における長方形は幅dが450nmであり450nm×3μm(なお、長辺は乱雑さを含み、標準偏差0.7μm程度である。)の大きさを持つようにすればよい。
【0083】
また、緑色を発色する構造色発色体500は、例えば、高屈折率層がTa(約65nm厚)、低屈折率層がSiO(約90nm厚)であり、これら高屈折率層と低屈折率層とを各8層程度積層して積層体を構成すればよい。また、基板の表面に形成する凸部と凹部とについては、例えば、Z方向の高低差約130nm、平面視における長方形は幅dが380nmであり380nm×2.5μm(なお、長辺は乱雑さを含み、標準偏差0.6μm程度である。)の大きさを持つようにすればよい。
【0084】

そして、本発明による表示装置は、上記した青色を発色する構造色発色体(以下、「青色発色構造色発色体」と適宜に称する。)30と赤色を発色する構造色発色体(以下、「赤色発色構造色発色体」と適宜に称する。)40と緑色を発色する構造色発色体(以下、「緑色発色構造色発色体」と適宜に称する。)50とをそれぞれ小さな画素にして配列することにより作製する。
【0085】
即ち、図6に示すように、青色発色構造色発色体30により青色画素32を構成し、赤色発色構造色発色体40により赤色画素42を構成し、緑色発色構造色発色体50により緑色画素52を構成し、それぞれ構成された青色画素32、赤色画素42および緑色画素52を適宜に配列することにより表示装置60が作製される。
【0086】
なお、青色画素32、赤色画素42および緑色画素52の配列については、画像が変化しないポスターのような表示装置の場合には、当該画像を描画するように青色画素32、赤色画素42および緑色画素52を配列すればよい。
【0087】
一方、電子情報通信におけるディスプレイのように静止画や動画を表示する表示装置の場合には、従来より公知の液晶ディスプレイのカラーフィルタと同様に青色画素32、赤色画素42および緑色画素52を配列し、従来より公知の液晶ディスプレイと同様に液晶パネルをオンオフ動作させればよい。
【0088】

次に、表示装置60を作製するには、青色画素32、赤色画素42および緑色画素52を広い面積で並べる必要があるが、図7および図8を参照しながらこの手法について説明する。
【0089】
即ち、本発明による表示装置の製造方法においては、石英ガラスまたはSiなどより構成される基板10の所定の大きさ(例えば、1〜200mmである。)を備えた表面10aに、青色発色構造色発色体30と赤色発色構造色発色体40と緑色発色構造色発色体50とをそれぞれ作製するための凸部および凹部をそれぞれ形成する(図7のステップ1)。この際に、青色発色構造色発色体30と赤色発色構造色発色体40と緑色発色構造色発色体50とによりそれぞれ構成されることになる青色画素32と赤色画素42と緑色画素52とが、表示装置により静止画や動画を表示させる場合には液晶ディスプレイの各画素の配列と同様となるように配列し、また、表示装置により変化しないある特定の画像のみを表示させる場合には当該画像を形成するように配列する。
【0090】
なお、青色画素32、赤色画素42ならびに緑色画素52の各ドットサイズは、光学特性が保てる程度に大きく、かつ、解像度が良いためには小さい方が望ましい。具体的には、直径10μm以上であることが好ましく、屋外の大画面用の表示装置の場合には1mm程度でもよく、最大10mm程度がよい。
【0091】
次に、ステップ1で表面10aに凸部および凹部を形成された基板10を用いて、ナノインプリント技術により当該凸部および凹部を複数の樹脂板72にインプリントして複製し(図8参照)、これら複数枚(例えば、10〜300枚である。)の樹脂板72をXY平面において貼り合わせて基板パターン70を作製する(図7のステップ2)。なお、基板パターン70は、作製する表示装置の大きさに合わせて形成すればよく、例えば、腕時計ほどの大きさである15mm×20mmから大型ディスプレイの3m×4mなどのように適宜の大きさに設定する。
【0092】
また、上記したナノインプリントにおいては、樹脂板72の材料として、例えば、PMMA、ポリカーボネート、ポリ乳酸、光硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂などを用いる。また、樹脂板72の厚さは、基板10の表面10aに形成された凸部および凹部を複製できる程度に厚ければよく、例えば、1μm以上あればよい。なお、樹脂の均一性や硬化の効率、ナノインプリント後における積層体12を構成する高屈折率層12aと低屈折率層12bとの成膜の利便性を考慮すると、厚さは1mm以内であることが好ましい。
【0093】
次に、青色発色構造色発色体30と赤色発色構造色発色体40と緑色発色構造色発色体50とにそれぞれ対応する積層体12を形成するための各マスク80を用いて、多層膜蒸着により基板パターンにおける青色発色構造色発色体30と赤色発色構造色発色体40と緑色発色構造色発色体50とをそれぞれ構成する基板10の表面10a上に積層体12を形成し(図7のステップ3)、表示装置の表示部90を形成する(図7のステップ4)。
【0094】
ここで、マスク80は、青色発色構造色発色体30を作製する際に用いるものと、赤色発色構造色発色体40を作製する際に用いるものと、緑色発色構造色発色体50を作製する際に用いるものとの3種類を準備しておく。そして、これらの各マスク80には、青色発色構造色発色体30と赤色発色構造色発色体40と緑色発色構造色発色体50とのそれぞれの積層体12のみをそれぞれ形成するための蒸着物質が通過可能な貫通孔のみがそれぞれ形成されており、対応するマスク80を用いて貫通孔から蒸着物質を貫通させて、基板パターンの表面10aに成膜して積層体12を形成する。
【0095】
従って、このステップ3は、基板パターンに青色発色構造色発色体30と赤色発色構造色発色体40と緑色発色構造色発色体50とを形成するために、マスク80を代えながら3回多層膜蒸着処理を行うことになる。
【0096】
画像が変化しないポスターのような表示装置は、上記したステップ1〜ステップ4の処理により製造することができる。
【0097】
一方、静止画や動画を表示させる表示装置は、表示部90の青色発色構造色発色体30、赤色発色構造色発色体40ならびに緑色発色構造色発色体50によりそれぞれ形成される青色画素32、赤色画素42ならびに緑色画素52の配列に対応する配列を備え、オンオフ制御によりこれら青色画素32、赤色画素42ならびに緑色画素52の配列に対して外部照明を選択的に照射させる液晶パネル100と、液晶パネル100のオンオフを制御するパーソナルコンピューターなどの制御手段(図示せず。)を配置し、液晶パネル100のオンオフを制御して外部照明の青色画素32、赤色画素42ならびに緑色画素52への照射を適宜に遮断することにより、静止画または動画を得ることができる(図7のステップ5)。即ち、表示部90により静止画や動画を表示する場合には、表示部90の青色画素32、赤色画素42ならびに緑色画素52の配列に対応した配列を備えた液晶パネルのオンオフを制御することで、カラーテレビジョンと同じ原理で画像を形成することができる。
【0098】
なお、図7の最下図は、表示部90と液晶パネル100とにより得られる動画の一例を示している。
【0099】

以上において説明した本発明による表示装置は、以下の(1)〜(3)に示すような特長を備えるものである。
【0100】
(1)高反射率(60%以上)であるため、カラーであっても光利用効率が高い。
【0101】
(2)干渉に基づきながら広い角度で色が変わらず(即ち、視野角依存性がなく)、有効角が広い。
【0102】
(3)干渉に基づきながら異なる色の虹色干渉がなく、鮮明な赤色、緑色および青色を得られる。
【0103】
また、本発明による表示装置は、外部光の反射による発色を利用するため、消費電力が低いという特長も備えている。即ち、およそ日中に限らず室内でも明るいところであるならば「定常バックライト光源」を低減でき、消費電力を節約することができるからである。現行のカラー液晶ディスプレイにおいては、光フィルタを使用するため吸収が大きく、光利用効率が低い問題は深刻である。本発明による表示装置は、光吸収の根源であるカラーフィルタを用いなくてよい。
【0104】
さらに、本発明による表示装置が用いる構造色発色体は、薄くかつ軽量であり、厚さは1μmのオーダーまで薄くすることができ、装置全体のコンパクト化を図ることができる。
【0105】
さらにまた、本発明による表示装置が用いる構造色発色体は、色あせ(経時劣化)がない。即ち、構造色発色体は、化学変化が主因の色あせとは無縁であり、およそ構造さえ保持されていれば発色は保たれる。このため長時間直射日光にさらされるポスターなどに本発明による表示装置を用いると、極めて効果的である。
【0106】
また、本発明による表示装置が用いる構造色発色体は色素を用いないため、省素材化を図ることができるとともにエコロジカルであり、環境対策にとって有利である。
【0107】
さらに、本発明による表示装置の製造方法によれば、高いスループットで表示装置を製造することができるようになる。
【0108】

なお、上記した実施の形態においては示した各種の数値は例示に過ぎないものであり、設計に応じて適宜に変更してもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、電子情報通信におけるディスプレイたる画像表示装置として用いたり、あるいは、電子ペーパーまたはポスターのような紙媒体などに代えて用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、モルフォ蝶の鱗粉における構造色の発色の原理の説明図および当該鱗粉を模擬した構造色発色体の説明図である。
【図2】図2は、本発明による表示装置の製造方法の説明図であり、図2(a)は、第1工程および第2工程の説明図であり、図2(b)は、図2(a)におけるB矢視(平面視)方向における基板表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、本願発明者等による反射率の角度分布測定の結果を示すグラフであり、垂直入射光に対する各波長の反射率の角度依存性を示している。
【図4】図4は、基板の主面に形成する凸部と凹部とのパターンに関する実験結果の説明図であり、図4(a)の左図は完全に1次元(縞状)で幅のランダムな凹凸を形成した場合の走査型顕微鏡写真を示し、図4(a)の右図は2次元(ピクセル状)でランダムな凹凸を形成した場合の走査型顕微鏡写真を示し、図4(a)の中央図は本発明による構造色発色体において採用した1軸方向に長い方形で配列のランダムな凹凸を形成した場合の走査型顕微鏡写真を示し、図4(b)上図はフラッシュなしの撮影結果を示し、図4(b)下図はフラッシュありの撮影結果を示す。
【図5】図5は、本発明による構造色発色体を示す説明図であり、図5の左図は赤色を発色する構造色発色体を示し、図5の中央図は緑色を発色する構造色発色体を示し、図5の右図は青色を発色する構造色発色体を示す。
【図6】図6は、本発明による表示装置の製造方法の概念説明図である。
【図7】図7は、本発明による表示装置の製造方法の説明図である。
【図8】図8は、本発明による表示装置の製造方法におけるナノインプリント技術の説明図である。
【符号の説明】
【0111】
10 基板
10a 表面
12 積層体
12a 高屈折率層
12b 低屈折率層
20 構造色発色体
30 青色発色構造色発色体
32 青色画素
40 赤色発色構造色発色体
42 赤色画素
50 緑色発色構造色発色体
52 緑色画素
60 表示装置
70 基板パターン
72 樹脂板
80 マスク
90 表示部
100 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色体として赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とを配列した表示部を有し、
前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とは、
X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部をXY方向に配列して形成された基板と、
前記基板の凸部または凹部に倣うように、高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した積層体と
を有して構成される
ことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
発色体として赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とを配列した表示部と、
前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とに対して選択的に外部照明を照射させる液晶パネルと、
前記液晶パネルを制御する制御手段と
を有し、
前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とは、
X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部をXY方向に配列して形成された基板と、
前記基板の凸部または凹部に倣うように、高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した積層体と
を有して構成され、
前記制御手段により前記液晶を制御して前記表示部に画像を表示させる
ことを特徴とする表示装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の表示装置において、
前記凸部または凹部は、X方向に互いに同一の幅を有するとともに、Y方向に該幅よりも長くかつ該幅の2倍以下の偏差をもつ統計分布をなす長さを有する
ことを特徴とする表示装置。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の表示装置において、
前記高屈折率層の厚さは30〜120nmであり、
前記低屈折率層の厚さは60〜300nmである
ことを特徴とする表示装置。
【請求項5】
発色体として構造色発色体を備えた表示装置の製造方法において、
基板の表面に赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とをそれぞれ作製するための凸部および凹部であって、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部を、XY方向に配列して形成する第1のステップと、
前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とにそれぞれ対応する高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した多層膜構造を備えた積層体を形成するためのマスクを用いて、多層膜蒸着により前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とをそれぞれ構成する前記凸部または凹部に倣うように前記積層体を形成し、前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とをそれぞれ形成する第2のステップと
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項6】
発色体として構造色発色体を備えた表示装置の製造方法において、
基板の表面に赤色を発色する第1の構造色発色体と緑色を発色する第2の構造色発色体と青色を発色する第3の構造色発色体とをそれぞれ作製するための凸部および凹部であって、X方向の幅が780nm以下でY方向に比べて均一、Y方向の長さが不定、Z方向の高さまたは深さが10nm以上の多数の平面視方形の凸部または凹部を、XY方向に配列して形成する第1のステップと、
前記第1のステップで前記表面に凸部および凹部を形成された基板を用いて、ナノインプリント技術により該凸部および凹部を複数の樹脂板にインプリントして複製し、前記複製した複数枚の樹脂板を貼り合わせて基板パターンを作製する第2のステップと、
前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とにそれぞれ対応する高い屈折率を有する高屈折率層と低い屈折率を有する低屈折率層とをZ方向に交互に積層して形成した多層膜構造を備えた積層体を形成するためのマスクを用いて、多層膜蒸着により前記基板パターンにおける前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とをそれぞれ構成する前記凸部または凹部に倣うように前記積層体を形成し、前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とをそれぞれ形成する第3のステップと
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の表示装置の製造方法において、さらに、
前記第3のステップにより形成された前記第1の構造色発色体と前記第2の構造色発色体と前記第3の構造色発色体とに対して選択的に外部照明を照射させる液晶パネルを配置する第4のステップ
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項8】
請求項5、6または7のいずれか1項に記載の表示装置の製造方法において、
前記凸部または凹部は、X方向に互いに同一の幅を有するとともに、Y方向に該幅よりも長くかつ該幅の2倍以下の偏差をもつ統計分布をなす長さを有する
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項9】
請求項5、6、7または8のいずれか1項に記載の表示装置の製造方法において、
前記高屈折率層の厚さは30〜120nmであり、
前記低屈折率層の厚さは60〜300nmである
ことを特徴とする表示装置の製造方法。

【図3】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−225935(P2007−225935A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47529(P2006−47529)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】