説明

表示装置およびその製造方法

【課題】特性を低下させることなく、隣り合う有機EL素子の間での駆動電流のリークを抑えることが可能な表示装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に、複数の有機EL素子と、複数の有機EL素子の間の素子間領域に設けられた絶縁膜とを有し、絶縁膜は、隣り合う有機EL素子の間の位置に、溝を有する表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機EL(Electroluminescence)素子を有する表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、基板に第1電極,発光層を含む有機層および第2電極を順に積層した構成を有している。有機層の形成方法としては、例えば、蒸着マスクを用いて赤,緑および青の各色発光層を別々に蒸着する方法と、蒸着マスクを用いず、赤,緑および青の発光層を積層する方法とがある。高解像度、開口率向上が求められている表示装置では、今後、後者の方式が主流になると考えられる。
【0003】
複数の発光層を積層する方式では、有機層がすべての有機EL素子に共通に設けられているので、隣り合う有機EL素子の間での正孔注入層を介した駆動電流のリークが発生する。これにより、非発光画素が、発光画素からの影響で僅かに発光してしまい、混色や効率低下の原因となっている。これに対処するため、例えば特許文献1では、有機EL素子の間の領域に、逆テーパー形の隔壁を形成したのちに、正孔注入層を成膜することにより、正孔注入層を途切れさせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−4347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来方法では、正孔注入層を成膜したのち、熱処理を行って隔壁を順テーパー形に変形させるようにしていた。これは、隔壁上に第2電極を形成する際に第2電極が途切れないようにするためであった。しかし、蒸着工程の途中で熱処理をすると特性が悪化する可能性が高くなってしまうという問題があった。
【0006】
本開示の目的は、特性を低下させることなく、隣り合う有機EL素子の間での駆動電流のリークを抑えることが可能な表示装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による表示装置は、基板上に、複数の有機EL素子と、複数の有機EL素子の間の素子間領域に設けられた絶縁膜とを有し、絶縁膜は、隣り合う有機EL素子の間の位置に、溝を有するものである。
【0008】
本開示の表示装置では、複数の有機EL素子の間の素子間領域に絶縁膜が設けられており、この絶縁膜は、隣り合う有機EL素子の間の位置に、溝を有している。よって、有機層の中でも導電性の高い層、例えば正孔注入層または正孔輸送層の溝内における厚みが、溝外における厚みよりも薄くなり、その部分の抵抗が高くなる。従って、隣り合う有機EL素子の間での駆動電流のリークが抑えられる。
【0009】
本開示による表示装置の製造方法は、基板上に、複数の有機EL素子を形成する工程と、複数の有機EL素子の間の素子間領域に絶縁膜を形成する工程とを含み、絶縁膜を形成する工程において、絶縁膜の、隣り合う有機EL素子の間の位置に、溝を設けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の表示装置、または本開示の表示装置の製造方法によれば、複数の有機EL素子の間の素子間領域に絶縁膜を設け、この絶縁膜の、隣り合う有機EL素子の間の位置に、溝を設けるようにしたので、隣り合う有機EL素子の間での駆動電流のリークを抑えることが可能となる。また、従来のような熱処理は不要となり、特性の低下が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本開示の第1の実施の形態に係る表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線における断面図である。
【図5】図4に示した溝の近傍を拡大して表す断面図である。
【図6】溝の深さと、素子間領域のシート抵抗との関係を表す図である。
【図7】溝を設けた場合の隣接画素の輝度の測定結果を、溝を設けない場合と対比して表す図である。
【図8】図7に示したフローティングの場合とグランドの場合の輝度の差分を拡大して表す図である。
【図9】図1に示した表示装置の製造方法を工程順に表す断面図である。
【図10】図9に続く工程を表す断面図である。
【図11】図10に続く工程を表す断面図である。
【図12】図11に続く工程を表す断面図である。
【図13】図12に続く工程を表す断面図である。
【図14】図13に続く工程を表す断面図である。
【図15】図14に続く工程を表す断面図である。
【図16】本開示の第2の実施の形態に係る表示装置における表示領域の溝の近傍を拡大して表す断面図である。
【図17】図16に示した表示装置の製造方法を説明するための図である。
【図18】回転蒸着方式を説明するための図である。
【図19】ライン蒸着方式を説明するための図である。
【図20】図18に示したライン蒸着方式を基板移動方向およびこれに垂直な方向から見た構成を表す図である。
【図21】正孔注入層および正孔輸送層の溝内における厚みの第1のシミュレーション結果を表す図である。
【図22】正孔注入層および正孔輸送層の溝内における厚みの第2のシミュレーション結果を表す図である。
【図23】正孔注入層および正孔輸送層の溝内における厚みの第3のシミュレーション結果を表す図である。
【図24】本開示の第3の実施の形態に係る表示装置における表示領域の構成を表す平面図である。
【図25】図24に示した溝を設けた場合の第2電極の抵抗および表示状態を説明するための図である。
【図26】図3に示した溝を設けた場合の第2電極の抵抗および表示状態を説明するための図である。
【図27】図2に示した画素駆動回路において有機EL素子に流れる電流Idsを表す回路図である。
【図28】図24に示した溝どうしの列方向の間隔および第2電極の厚みを異ならせて、第2電極の抵抗およびドロップ電圧を調べたシミュレーションを説明するための図である。
【図29】第2電極の列方向抵抗および行方向抵抗のシミュレーション結果を表す図である。
【図30】第2電圧のドロップ電圧のシミュレーション結果を表す図である。
【図31】本開示の第4の実施の形態に係る表示装置における表示領域の構成を表す断面図である。
【図32】図31に示した溝の近傍を拡大して表す断面図である。
【図33】図31に示した溝の他の形状を表す断面図である。
【図34】本開示の第5の実施の形態に係る表示装置における表示領域の構成を表す断面図である。
【図35】図34に示した溝の近傍を拡大して表す断面図である。
【図36】図34に示した表示装置の製造方法を工程順に表す断面図である。
【図37】図36に続く工程を表す斜視図および断面図である。
【図38】図37に続く工程を表す断面図である。
【図39】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図40】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す正面図および背面図である。
【図41】適用例2の外観を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(絶縁膜の、隣り合う有機EL素子の間の位置に溝を設けた例)
2.第2の実施の形態(有機層を形成する工程において、基板上の溝および蒸発源の位置関係を規定した例)
3.第3の実施の形態(溝を、列方向に、複数の有機EL素子の各行ごとに設けた例)
4.第4の実施の形態(溝の幅を2段階にした例)
5.第5の実施の形態(溝の底面に導電膜を設けた例)
【0013】
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る表示装置の構成を表すものである。この表示装置は、デジタル一眼レフカメラのビューファインダやヘッドマウント形ディスプレイなどに用いられる小型・高精細有機EL表示装置であり、例えば、ガラスなどの基板11の上に、後述する複数の有機EL素子10R,10G,10Bがマトリクス状に配置されてなる表示領域110が設けられたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。
【0014】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。この画素駆動回路140は、後述する第1電極13の下層に設けられたアクティブ型の駆動回路である。画素駆動回路140は、例えば、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、キャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機EL素子10R(または10G,10B)とを有している。キャパシタCsの一方の電極は駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2の間に接続され、他方の電極は駆動トランジスタTr1および有機発光素子10R(または10G,10B)との間に接続されている。
【0015】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機EL素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0016】
図3は、図1に示した表示領域110の一部の平面構成を表したものである。基板11上には、複数の有機EL素子10R,10G,10Bが行列状に配置されている。各有機EL素子10R,10G,10Bは一方向に長い矩形形状を有しており、短辺に平行な行方向には、異なる色の有機EL素子10R,10G,10Bが順に配列されている。長辺に平行な列方向には、同一色の有機EL素子10R(または10G,10B)が配列されている。
【0017】
隣り合う三つの有機EL素子10R,10G,10Bは一つの画素10を構成しており、各有機EL素子10R,10G,10Bは一つの副画素を構成している。複数の有機EL素子10R,10G,10Bの行方向におけるピッチ(中心間距離)pは、例えば30μm以下である。具体的には、一つの画素10は例えば一辺が約10μmの正方形であり、複数の有機EL素子10R,10G,10Bのピッチpは例えば約3.3μmである。
【0018】
複数の有機EL素子10R,10G,10Bの間の素子間領域10Aには、絶縁膜20が設けられている。絶縁膜20は、隣り合う有機EL素子10R,10Gの間(または10G,10Bの間、または10B,10Rの間)の位置に、溝30を有している。これにより、この表示装置では、隣り合う有機EL素子10R,10Gの間(または10G,10Bの間、または10B,10Rの間)での駆動電流のリークを抑えることが可能となっている。
【0019】
溝30は、例えば、列方向に、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの複数の行にわたって、表示領域110の上端から下端まで、連続して設けられている。これにより、有機EL素子10R,10G,10Bの後述する第2電極15が、溝30により行方向では途切れてしまった場合でも、列方向では連続した共通電極として設けることが可能となる。溝30の詳細については後述する。
【0020】
図4は、図3のIV−IV線における断面構成を表したものである。基板11上には、上述した画素駆動回路140等を含む駆動回路層12が設けられている。基板11の駆動回路層12が設けられた面は、第1絶縁膜21によって全面にわたって被覆されている。第1絶縁膜21の上には、上述した複数の有機EL素子10R,10G,10Bが設けられているが、図4では有機EL素子10R,10Gのみを表している。複数の有機EL素子10R,10G,10Bの間の素子間領域10Aには、第1絶縁膜21上に第2絶縁膜22が設けられている。第1絶縁膜21および第2絶縁膜22が、図3における絶縁膜20を構成している。溝30は、第2絶縁膜22を貫通し、第1絶縁膜21の厚み方向の一部に設けられている。
【0021】
第1絶縁膜21は、駆動回路層12が設けられた基板11の表面を平坦化するためのものであり、例えば、厚みが100nmないし1000nmであり、酸化窒化ケイ素(SiON)または酸化ケイ素(SiO2またはSiO)により構成されている。第1絶縁膜21の構成材料をSiON,SiO2またはSiOなどのシリコン系材料とすることにより、第1絶縁膜21の厚み方向に深い溝30をエッチングにより容易に形成することが可能となる。第1絶縁膜21には、駆動回路層12の画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1との接続のためのコンタクトホール21Aが設けられている。コンタクトホール21Aには導電性金属よりなるプラグ21Bが設けられている。
【0022】
第2絶縁膜22は、第1電極13と第2電極15との絶縁性を確保すると共に発光領域を正確に所望の形状にするためのものである。第2絶縁膜22は、素子間領域10Aを超えて第1電極13の上面端部を被覆し、第1電極13の発光領域に対応して開口部22Aを有している。第2絶縁膜22は、例えば、厚みが100nmないし200nmであり、SiONにより構成されている。第2絶縁膜21の構成材料をSiONなどのシリコン系材料とすることにより、第2絶縁膜22の厚み方向に深い溝30をエッチングにより容易に形成することが可能となる。
【0023】
有機EL素子10R,10G,10Bは、第1絶縁膜21の上に設けられ、基板11の側から、第1電極13,発光層を含む有機層14、および第2電極15がこの順に積層されている。なお、図4では、有機EL素子10R,10Gのみを表しているが、有機EL素子10Bも同じ構成を有している。
【0024】
このような有機EL素子10R,10G,10Bは、保護膜16により被覆されている。更に、この保護膜16上には、接着層17を間にして、ガラスなどよりなる封止用基板40が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0025】
第1電極13は、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各々ごとに設けられている。第1電極13は、例えば、厚みが100nm程度であり、高反射率材料であるアルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を含む合金により構成されており、発光層で発生した光を第2電極15側から取り出すようになっている(トップエミッション)。第1電極13の厚みは、発光層で発生した光が透過されず、光取出し効率を維持することが可能な程度、例えば30nmないし200nmの範囲であることが好ましい。第1電極13の構成材料としては、アルミニウム(Al)またはその合金のほか、金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),クロム(Cr),銅(Cu),タングステン(W),モリブデン(Mo),チタン(Ti),タンタル(Ta)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金よりなる反射電極が挙げられる。
【0026】
また、第1電極20は、上述した反射電極の下地として、厚みが20nm程度であり、チタン(Ti),タングステン(W),銅(Cu),タンタル(Ta),モリブデン(Mo)などよりなる密着層(図示せず)を有していてもよい。この密着層は、第1電極20の厚みを薄くした場合にも反射率を高く維持するための反射補助層としての機能も有している。このような密着層を設けた場合には、第1電極20の厚みは15nm以上であれば足りる。
【0027】
更に、第1電極32は、密着層または反射補助層としてのチタン層と、アルミニウムまたはその合金などの上述した反射電極と、チタン層またはタンタル層との3層の積層構造を有していてもよい。あるいは、第1電極32は、上述した反射電極と、ITO(インジウム・スズ複合酸化物;Indium Tin Oxide),IZO(登録商標)(インジウム・亜鉛複合酸化物),またはSnO2などの透明電極との複合膜により構成されていてもよい。
【0028】
有機層14は、第1電極13および第2絶縁膜22の上に、複数の有機EL素子10R,10G,10Bに共通に設けられている。有機層14は、例えば図5に示したように、第1電極13の側から順に、正孔注入層14A,正孔輸送層14B,発光層14Cおよび電子輸送層14Dを積層した構成を有している。
【0029】
正孔注入層14Aは、正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層である。正孔注入層14Aは、例えば、厚みが2nmないし10nmであり、化1に示したヘキサトリルアザトリフェニレンにより構成されている。
【0030】
【化1】

【0031】
正孔輸送層14Bは、発光層14Cへの正孔注入効率を高めるためのものである。正孔輸送層14Bは、例えば、厚みが30nmであり、化2に示した材料により構成されている。
【0032】
【化2】

【0033】
発光層14Cは、例えば、第1電極13の側から順に、厚み10nmの赤色発光層、厚み10nmの発光分離層、厚み10nmの青色発光層、および厚み10nmの緑色発光層(いずれも図示せず)を順に積層した白色発光用のものである。赤色発光層は、電界をかけることにより、第1電極13から正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bを介して注入された正孔の一部と、第2電極15から電子輸送層14Dを介して注入された電子の一部とが再結合して、赤色の光を発生するものである。発光分離層は、赤色発光層への電子供給量を減らすためのものである。青色発光層は、電界をかけることにより、第1電極13から正孔注入層14A,正孔輸送層14Bおよび発光分離層を介して注入された正孔の一部と、第2電極15から電子輸送層14Dを介して注入された電子の一部とが再結合して、青色の光を発生するものである。緑色発光層は、電界をかけることにより、第1電極13から正孔注入層14A,正孔輸送層14Bおよび発光分離層を介して注入された正孔の一部と、第2電極15から電子輸送層14Dを介して注入された電子の一部とが再結合して、緑色の光を発生するものである。赤色発光層,緑色発光層および青色発光層は、第2絶縁膜22の開口部22Aに対応した領域で発光するようになっている。
【0034】
赤色発光層は、例えば、赤色発光材料,正孔輸送性材料,電子輸送性材料および両電荷輸送性材料のうち少なくとも1種を含んでいる。赤色発光材料は、蛍光性のものでも燐光性のものでもよい。具体的には、赤色発光層は、例えば、厚みが5nm程度であり、4,4−ビス(2,2−ジフェニルビニン)ビフェニル(DPVBi)に2,6−ビス[(4’−メトキシジフェニルアミノ)スチリル]−1,5−ジシアノナフタレン(BSN)を30重量%混合したものにより構成されている。
【0035】
発光分離層は、例えば、化3に示した材料により構成されている。
【0036】
【化3】

【0037】
緑色発光層は、例えば、緑色発光材料,正孔輸送性材料,電子輸送性材料および両電荷輸送性材料のうち少なくとも1種を含んでいる。緑色発光材料は、蛍光性のものでも燐光性のものでもよい。具体的には、緑色発光層は、例えば、厚みが10nm程度であり、DPVBiにクマリン6を5重量%混合したものにより構成されている。
【0038】
青色発光層は、例えば、青色発光材料,正孔輸送性材料,電子輸送性材料および両電荷輸送性材料のうち少なくとも1種とを含んでいる。青色発光材料は、蛍光性のものでも燐光性のものでもよい。具体的には、青色発光層は、例えば、厚みが30nm程度であり、DPVBiに4,4’−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%混合したものにより構成されている。
【0039】
電子輸送層14Dは、発光層14Cへの電子注入効率を高めるためのものである。電子輸送層14Dは、例えば、厚みが20nm程度であり、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3 )により構成されている。
【0040】
図4に示した第2電極15は、有機層14の上に、複数の有機EL素子10R,10G,10Bに共通に設けられている。第2電極は、例えば、第1電極13の側から順に、厚みが約0.3nmでありフッ化リチウム(LiF)よりなる第1層と、厚みが3nmでありカルシウム(Ca)よりなる第2層と、厚みが5nmでありMg−Ag合金よりなる第3層とを積層した構成を有している。第2電極15は、表示領域110の外側の領域で、図示しない補助配線に接続されている。その理由は、有機層14が複数の有機EL素子10R,10G,10Bに共通に設けられているので、各有機EL素子10R,10G,10Bごとに第2電極15と補助配線との接続をとることができないからである。
【0041】
図4に示した保護膜16は、例えば、厚みが0.5μmないし10μmであり、窒化ケイ素(SiN)により構成されている。図4に示した接着層17は、例えば紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂により構成されている。
【0042】
図4に示した封止用基板40は、有機EL素子10R,10G,10Bの第2電極15の側に位置しており、接着層17と共に有機EL素子10R,10G,10Bを封止するものである。封止用基板40は、例えば、有機EL素子10R,10G,10Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。
【0043】
封止用基板40には、例えば、カラーフィルタ41およびブラックマトリクスとしての遮光膜42が設けられている。カラーフィルタ41は、有機EL素子10R,10G,10Bで発生した白色光を,赤,緑または青の色光として取り出すためのものであり、赤色フィルタ41R,緑色フィルタ41Gおよび青色フィルタ(図示せず)を有している。赤色フィルタ41R,緑色フィルタ41Gおよび青色フィルタ(図示せず)は、有機EL素子10R,10G,10Bに対応して順に配置されている。赤色フィルタ41R,緑色フィルタ41Gおよび青色フィルタ(図示せず)は、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0044】
遮光膜42は、有機EL素子10R,10G,10B並びにその間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するためのものである。遮光膜42は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、クロムと酸化クロム(III)(Cr2 O3 )とを交互に積層したものが挙げられる。
【0045】
図3および図4に示した溝30は、上述したように素子間領域10Aでの駆動電流のリークを抑えるものである。すなわち、有機層14は、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの共通層として設けられている。また、図5に示した正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bは、有機層14の中でも比較的導電性が高い。そのため、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bは、隣接する有機EL素子10R,10G,10Bの第1電極13の間でリークパスを形成しやすい。そのため、例えば有機EL素子10Rを発光させると、隣接する有機EL素子10Gも発光してしまい、赤の単色の色度がずれてしまうことになる。
【0046】
このような素子間領域10Aのリーク電流による影響は、有機EL素子10R,10G,10Bが小さいほど顕著なものとなる。例えば、図3において、有機発光素子10Rの長辺と、隣接する有機発光素子10Gの長辺とに挟まれた矩形の領域10A1を流れるリーク電流ILを考える。この領域10A1の抵抗Rは、有機発光素子10R,10G間の距離と、有機発光素子10R,10Gの長辺の長さとの比によって定まり(シート抵抗)、有機EL素子10R,10G,10Bの大小にかかわらず同じである。また、有機EL素子10R,10G,10BのJV特性(Jは電流密度)は有機EL素子10R,10G,10Bの大小にかかわらず同じである。つまり、全面で100nit発光させるために必要な電圧Vは有機EL素子10R,10G,10Bの大小にかかわらず同じである。よって、リーク電流IL(=V/R)は、有機EL素子10R,10G,10Bの大小にかかわらず同じである。一方、発光に費やされる駆動電流I0は、有機EL素子10R,10G,10Bの大小によって一桁以上違ってくる。従って、発光に費やされる駆動電流I0に対するリーク電流ILの比は、有機EL素子10R,10G,10Bが小さくなるほど大きくなり、画質への影響も大きくなる。
【0047】
ここでは、素子間領域10Aに溝30を設けることにより、図5に示したように、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1を、溝30外における厚みt2の約10分の1程度まで薄くすることが可能である。よって、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における抵抗を高くし、素子間領域10Aにおける駆動電流のリークを抑えることが可能となる。これにより、発光に費やされる駆動電流I0に対するリーク電流ILの比が数%以下となり、リーク電流による画質への影響がほぼ視認できない程度まで抑えることが可能となる。
【0048】
溝30の幅wは、例えば、有機層14の総膜厚以下、具体的には10nmないし150nmであることが好ましい。これにより、図5に示したように、発光層14Cが溝30を跨いで連続することが可能となるので、電子輸送層14Dおよび第2電極15も溝30上で途切れることなく連続することが可能となる。よって、第2電極15が溝30によって切断されてしまうことを回避することが可能となり、溝30を列方向だけでなく行方向にも格子状に設けることが可能となる。
【0049】
図6は、溝30の深さdと、溝30を含めた素子間領域10Aのシート抵抗との関係を調べた結果を表したものである。なお、図6は、複数の有機EL素子10R,10G,10Bのピッチpが約3.3μmである場合の測定結果である。図6から分かるように、溝30の深さdが深いほどリーク電流を小さくすることが可能となっている。例えば、ピッチpが約3.3μmの場合に隣接する素子の発光をほぼ抑えるためには、2×12Ω□程度のシート抵抗相当値が必要であり、500nm以上の深さdが必要である。
【0050】
ここで、有機EL素子10R,10G,10Bのピッチと必要な抵抗値との関係について説明する。
【0051】
2つの異なるピッチで相似形の画素を考える。
それぞれ、
ピッチ:p、p´
発光面積:S 、S´
駆動電流:I0、I0´
リーク電流:IL、IL´
必要抵抗値:R、R ´
とする。
【0052】
ある輝度での電流密度は両者で同じなので、
0´=(S´ /S)I0
=(p´/p)20
【0053】
必要な駆動電流I0に対するリーク電流ILの比をr、r´とすると、
r´=rで、
L=rI0
L´=rI0´
【0054】
また、駆動電圧も両者で同一で、これをVとする。
R´=V/IL´
=(rI0R)/(rI0´)
=(I0R)/(p´/p)20
【0055】
従って、
R´/R=(p/p´)2
【0056】
図7は、一つの素子を発光させ、その素子の輝度に対する隣接する素子の輝度の比を測定した結果を表したものである。なお、実際に発光させている素子は、横軸の0.5〜1付近にあり、隣接する素子は、横軸の3.5〜4付近にある。図7(A)は溝を設けていない比較例1、図7(B)は溝30の深さdを300nmとした実施例1−1、図7(C)は溝30の深さdを700nmとした実施例1−2の測定結果である。また、図7(A)〜図7(C)において、実線は隣接する素子をフローティングとした場合、点線は隣接する素子をグランド(0V)とした場合の輝度を表し、両者の差分がリーク電流に相当する。図8は、この差分を拡大して表したものである。
【0057】
図7および図8から分かるように、溝30を設けた実施例1−1,1−2では、溝を設けていない比較例1に比べて隣接する素子の輝度比が低くなっていた。すなわち、画素間領域10Aに溝30を設けることにより、隣り合う有機EL素子10R,10G,10B間での駆動電流のリークを抑えることが可能となることが分かった。
【0058】
また、実施例1−1と実施例1−2とを比較すると、溝30の深さdが深いほど、隣接する素子の輝度比が低くなっていた。これは、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1が極めて薄くなり、その部分の抵抗が上がるので、溝30の深さdが深いほど、素子間領域10A全体の抵抗が上がることによるものであると考えられる。すなわち、溝30の深さdを深くするほど、隣り合う有機EL素子10R,10G,10B間での駆動電流のリークを抑えることが可能となることが分かった。
【0059】
この表示装置は、例えば次のようにして製造することができる。
【0060】
図9ないし図15は、この表示装置の製造方法を工程順に表したものである。まず、図9に示したように、上述した材料よりなる基板11の上に画素駆動回路140を含む駆動回路層12を形成する。次いで、例えばプラズマCVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)法により、例えばSiON膜,SiO2膜またはSiO膜を、例えば100nmないし1000nmの厚みで形成する。続いて、このSiON膜,SiO2膜またはSiO膜を、例えばフォトリソグラフィ法およびドライエッチングにより所定の形状に成形し、同じく図9に示したように、コンタクトホール21Aを有する第1絶縁膜21を形成する。そののち、同じく図9に示したように、第1絶縁膜21のコンタクトホール21Aに導電性金属よりなるプラグ21Bを埋め込む。
【0061】
続いて、第1絶縁膜21の上に、例えばスパッタリング法により、例えばチタン膜およびアルミニウム合金膜(図示せず)を形成する。そののち、このチタン膜およびアルミニウム合金膜を、例えばフォトリソグラフィ法およびドライエッチングにより所定の形状に成形し、同じく図10に示したように、複数の有機発光素子10R,10G,10Bの各々ごとに第1電極13を形成する。
【0062】
第1電極13を形成したのち、第1電極13上および第1絶縁膜21上に、例えばPECVD法により、SiON膜を例えば10nmないし200nmの厚みで成膜する。このSiON膜を、例えばフォトリソグラフィ法およびドライエッチングにより所定の形状に成形し、図11に示したように、開口部22Aを有する第2絶縁膜22を形成する。
【0063】
第2絶縁膜22を形成したのち、図12に示したように、例えばフォトリソグラフィ法およびドライエッチングにより、第2絶縁膜22および第1絶縁膜21に、溝30を設ける。なお、第1絶縁膜21内には、溝30のエッチングのためのストッパー層(図示せず)を設けておくことが可能である。
【0064】
溝30を設けたのち、図13に示したように、第1電極13および第2絶縁膜22の上に、例えば蒸着法により、有機層14の正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bを形成する。その際、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1は、溝30外における厚みt2の約10分の1程度まで薄くなる。よって、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における抵抗が高くなり、素子間領域10Aにおける駆動電流のリークが抑えられる。
【0065】
続いて、図14および図15に示したように、例えば蒸着法により、有機層14の発光層14Cおよび電子輸送層14Dを形成し、引き続き、例えば真空蒸着法により、第2電極15を形成する。このとき、溝30の幅wを、例えば、有機層14の総膜厚以下、具体的には10nmないし150nmとするようにしたので、発光層14Cが溝30を跨いで連続することが可能となる。よって、電子輸送層14Dおよび第2電極15も溝30上で途切れることなく連続することが可能となり、第2電極15が溝30によって切断されてしまうことを回避することが可能となる。以上により、図3および図4に示したような有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0066】
続いて、図4に示したように、例えばCVD法またはスパッタ法により、有機EL素子10R,10G,10Bの上に上述した材料よりなる保護膜16を形成する。
【0067】
また、同じく図4に示したように、例えば、上述した材料よりなる封止用基板40に、上述した材料よりなる遮光膜42を形成する。続いて、封止用基板40に赤色フィルタ41Rの材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタ41Rを形成する。続いて、赤色フィルタ41Rと同様にして、青色フィルタ(図示せず)および緑色フィルタ41Gを順次形成する。
【0068】
そののち、同じく図4に示したように、保護膜16の上に、接着層17を形成し、この接着層17を間にして封止用基板40を貼り合わせる。以上により、図1ないし図4に示した表示装置が完成する。
【0069】
この表示装置では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、各有機EL素子10R,10G,10Bに駆動電流Idsが注入されることにより、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、第2電極15,保護膜16,接着層17,カラーフィルタ41および封止用基板40を透過して(トップエミッション)取り出される。
【0070】
ここでは、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの間の素子間領域10Aに絶縁膜20(第1絶縁膜21および第2絶縁膜22)が設けられており、この絶縁膜20は、隣り合う有機EL素子10R,10Gの間(または10G,10Bの間、または10B,10Rの間)の位置に、溝30を有している。よって、有機層14の中でも導電性の高い層、例えば正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1が、溝30外における厚みt2よりも薄くなり、その部分の抵抗が高くなる。従って、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの間での駆動電流のリークが抑えられる。
【0071】
このように本実施の形態の表示装置では、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの間の素子間領域10Aに絶縁膜20(第1絶縁膜21および第2絶縁膜22)を設け、この絶縁膜20の、隣り合う有機EL素子10R,10Gの間(または10G,10Bの間、または10B,10Rの間)の位置に、溝30を設けるようにしたので、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの間での駆動電流のリークを抑えることが可能となる。また、従来のように蒸着工程の途中で逆テーパ形の隔壁を熱処理して順テーパに変更することは不要となり、特性の低下が回避される。
【0072】
なお、上記実施の形態では、絶縁膜20として第1絶縁膜21および第2絶縁膜22を積層するようにした場合について説明したが、第2絶縁膜22を省略し、絶縁膜20として第1絶縁膜21のみを設けることも可能である。
【0073】
(第2の実施の形態)
図16は、本開示の第2の実施の形態に係る表示装置における表示領域110の溝30の近傍の断面構成を拡大して表したものである。本実施の形態では、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1が、溝30が深くなるほど薄くなっている。これにより、本実施の形態では、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの抵抗を更に高くし、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの間での駆動電流のリークを更に抑えることが可能となっている。このことを除いては、本実施の形態の表示装置は、上記第1の実施の形態と同一の構成、作用および効果を有している。
【0074】
この表示装置は、例えば、次のようにして製造することができる。なお、第1の実施の形態と製造工程が重複する部分については、図9ないし図15を参照して説明する。
【0075】
まず、図9に示したように、第1の実施の形態と同様にして、基板11の上に画素駆動回路140を含む駆動回路層12および第1絶縁膜21を形成する。
【0076】
次いで、図10に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第1絶縁膜21の上に、複数の有機発光素子10R,10G,10Bの各々ごとに第1電極13を形成する。
【0077】
続いて、図11に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第2絶縁膜22を形成する。
【0078】
そののち、図12に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第2絶縁膜22および第1絶縁膜21に、溝30を設ける。
【0079】
溝30を設けたのち、図13ないし図15に示したように、第1電極13および第2絶縁膜22の上に、例えば蒸着法により、有機層14の正孔注入層14A,正孔輸送層14B,発光層14Cおよび電子輸送層14Dを形成する。
【0080】
有機層14を形成する工程では、図17に示したように、基板11上の溝30および蒸発源50の位置関係が、数1を満たしていることが好ましい。このようにすることにより、図16に示したように、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1が、溝30が深くなるほど薄くなるようにすることが可能となる。なお、ここでの基板11とは、基板11自体ではなく、蒸着時における基板11の表面、具体的には第2絶縁膜22の表面である。
【0081】
(数1)
X/Y>w/d
(式中、Xは溝30の入口の端から蒸発源50までのオフセット距離、Yは基板11と蒸発源50との距離、wは溝30の幅、dは溝30の深さをそれぞれ表す。)
【0082】
なお、数1は、図17において、tanθ>tanα、すなわちθ>αであることを表している。ここでθは、蒸発源50から基板11に引いた垂線と、蒸発源50および溝30の入口を結ぶ直線とのなす角度である。αは溝30の壁面と、溝30の入口と底面とを結ぶ直線とのなす角度である。
【0083】
蒸着法としては、例えば、回転蒸着方式、またはライン蒸着方式を用いることが可能である。回転蒸着方式は、例えば図18に示したように、セル型の蒸発源50を用い、蒸発源50の上方で基板11を回転させながら成膜を行う方式である。このとき、基板11上の溝30および蒸発源50の位置関係が、数1を満たすように蒸発源50を配置する。また、基板11が一回転する期間のうちの少なくとも一部で数1を満たしていれば、上述した正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの薄膜化の効果を得ることが可能となる。
【0084】
回転蒸着方式では、蒸発源の坩堝(図示せず)に材料を投入し、ヒーターにより坩堝を加熱することで材料を蒸発させる。坩堝の材質はPBN,アルミナなどのセラミクス、Taなどが望ましい。蒸発した分子は、蒸発源50の指向性(n値)に従って直線的に飛行し、基板11上に堆積する。ここでn値とは中心の蒸気密度A0に対する任意の位置での蒸気密度Aの比(A/A0)を表したものであり、cosnθで近似したときの値である。
【0085】
ライン蒸着方式は、例えば図19および図20に示したように、長尺状の蒸発源50を用い、蒸発源50と蒸着対象となる基板11とを矢印A11の方向に相対移動させながら成膜を行う方式である。ライン状の蒸発源50には長手方向に沿って複数の開口51が設けられており、各開口51から蒸発材料が噴出される。基板移動方向A11に設けられた制限板52により搬送方向の成膜幅53が規定される。このとき、基板11上の溝30および蒸発源50の位置関係が、数1を満たすように蒸発源50を配置する。また、基板11が蒸発源50を通過している期間のうちの少なくとも一部で数1を満たしていれば、上述した正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの薄膜化の効果を得ることが可能となる。
【0086】
更に、有機層14のうち正孔注入層14Aまたは正孔輸送層14Bを形成する工程において、数1を満たしていることが好ましい。正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bは、有機層14の中でも比較的導電性が高く、隣接する有機EL素子10R,10G,10Bの間でリークパスを形成しやすいからである。
【0087】
有機層14を形成したのち、図14および図15に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第2電極15を形成する。これにより、図3および図4に示したような有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0088】
続いて、図4に示したように、第1の実施の形態と同様にして、有機EL素子10R,10G,10Bの上に上述した材料よりなる保護膜16および接着層17を形成し、カラーフィルタ41および遮光膜42を設けた封止用基板40を貼り合わせる。以上により、図1ないし図4に示した表示装置が完成する。
【0089】
図21は、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内の厚み分布の第1のシミュレーション結果である。シミュレーション条件としては、溝30の幅wを0.4μm、深さdを3.0μmとし、溝30の入口の端から蒸発源50までのオフセット距離Xを200mm、基板11と蒸発源50との距離Yを600mmとし、蒸発源50の指向性n値を2とした回転蒸着方式(図18参照。)を想定した。正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30外における厚み(目標厚み)は10nmとした。
【0090】
図21から分かるように、基板11上の溝30および蒸発源50の位置関係は数1を満たし、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1は、溝30の深さd1=1.2μmまでは一定の厚みであり、それ以上の深さ(図21の点線で囲まれた部分)では溝30が深くなるほど薄くなっていた(図21において点線で囲まれた部分)。
【0091】
図22は、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内の厚み分布の第2のシミュレーション結果である。シミュレーション条件としては、溝30の幅wを0.6μm、深さdを2.0μmとし、搬送方向成膜幅53を200mm、基板11と蒸発源50との距離Yを100mmとし、蒸発源50の指向性n値を10としたライン蒸着(図19および図20参照。)を想定した。正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30外における厚み(目標厚み)は10nmとした。
【0092】
図22から分かるように、基板11上の溝30および蒸発源50の位置関係は数1を満たし、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1は、溝30の深さd1=0.6μmまでは一定の厚みであり、それ以上の深さ(図22において点線で囲まれた部分)では溝30が深くなるほど薄くなっていた。
【0093】
図23は、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内の厚み分布の第3のシミュレーション結果である。シミュレーション条件としては、溝30の幅wを0.6μm、深さdを1.5μmとし、溝30の入口の端から蒸発源50までのオフセット距離Xを150mm、基板11と蒸発源50との距離Yを500mmとし、蒸発源50の指向性n値を2とした回転蒸着(図18参照。)を想定した。正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30外における厚み(目標厚み)は10nmとした。
【0094】
図23から分かるように、基板11上の溝30および蒸発源50の位置関係は数1を満たさず、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1は、溝30の深さが深くなっても一定の厚みとなっていた。ただし、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1は、溝30外における厚みt2の約10分の1程度まで薄くなっており、溝30による薄膜化の効果は得られていた。
【0095】
すなわち、有機層14を成膜する工程において数1を満たすようにすれば、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1を更に薄くして抵抗を更に高くし、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの間での駆動電流のリークを更に抑えることが可能となることが分かった。
【0096】
(第3の実施の形態)
図24は、本開示の第3の実施の形態に係る表示装置における表示領域の一部の平面構成を表したものである。本実施の形態は、溝30を、列方向に、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けることにより、第2電極15の電圧降下を抑え、画質を向上させるようにしたものである。このことを除いては、本実施の形態の表示装置は、上記第1または第2の実施の形態と同様の構成、作用および効果を有し、同様にして製造することができる。
【0097】
溝30は、例えば、隣接する有機EL素子10R,10G,10Bの列間の領域に、有機EL素子10R,10G,10Bの長辺とほぼ同じ長さに設けられている。溝30どうしの間には、列方向に間隔Lがあけられている。
【0098】
図25は、本実施の形態における第2電極15の等価回路を表すと共に、この等価回路に重ねて、右上の領域AWに白、それ以外の領域AGにグレーを表示した場合の表示状態を表している。本実施の形態の第2電極15の等価回路は、抵抗素子を列方向および行方向の両方に格子状に接続したものとなっている。そのため、白表示領域AWの電圧降下ΔV1は、グレー表示領域AGの電圧降下ΔV2にほぼ等しくなる(ΔV1≒ΔV2)。よって、むらのないグレーが表示される。
【0099】
一方、図26は、第1の実施の形態における第2電極15の等価回路を表すと共に、この等価回路に重ねて、右上の領域AWに白、それ以外の領域AGにグレーを表示した場合の表示状態を表している。第1の実施の形態の第2電極15の等価回路は、抵抗素子を列方向のみに接続したものとなっており、行方向には接続されていない。そのため、白表示領域AWの電圧降下ΔV1は、グレー表示領域AGの電圧降下ΔV2よりも大きくなる(ΔV1>ΔV2)。そのため、白表示領域AWの上下で有機EL素子10R,10G,10Bに流れる電流Ids(図27参照。)が低下し、白表示領域AWに対して縦方向に暗いクロストークCTが発生する。このクロストークCTと正常なグレー表示領域AGとの輝度差は約10%である。なお、電流Idsは、数2で与えられる。
【0100】
【数2】

【0101】
図28および図29は、溝30どうしの列方向の間隔L(図24参照。)および第2電極15のMg−Ag合金層の厚みを変化させた場合の、第2電極15の列方向の抵抗R1および行方向の抵抗R2のシミュレーション結果を表したものである。
【0102】
図29から分かるように、溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けた本実施の形態では、溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの複数の行にわたって連続して設けた第1の実施の形態に比べて、第2電極15の行方向の抵抗R2が著しく低減されていた。すなわち、溝30を、列方向に、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けることにより、第2電極15の行方向の抵抗R2を低くすることが可能となることが分かった。
【0103】
また、溝30どうしの列方向の間隔Lを1.0μmとした場合と、2.4μmとした場合とを比較すると、2.4μmとした場合のほうが、第2電極15の行方向の抵抗R2が高くなっていた。すなわち、溝30どうしの列方向の間隔Lを広くしたほうが、第2電極15の行方向の抵抗R2を低くすることが可能となることが分かった。
【0104】
図30は、図28と同様にして溝30どうしの列方向の間隔L(図24参照。)および第2電極15のMg−Ag合金層の厚みを変化させた場合の、ドロップ電圧のシミュレーション結果を表したものである。シミュレーション条件としては、表示領域110の全面の電流値を15mAとし、表示領域110を25分割した2ブロック分のみ点灯することを想定した。よって、流す電流は15mA/25*2=1.2mAとなる。ドロップ電圧は、電流を流した列の電圧V1と、電流を流していない列の電圧V2との差(V1−V2)である。また、図30においては、クロストークが見た目上問題ない程度となる基準値を20mVとした。
【0105】
図30から分かるように、溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けた本実施の形態では、溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの複数の行にわたって連続して設けた第1の実施の形態に比べて、ドロップ電圧が著しく小さくなっていた。すなわち、溝30を、列方向に、複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けることにより、ドロップ電圧を小さくし、画質低下を抑えることが可能となることが分かった。
【0106】
また、溝30どうしの列方向の間隔Lを1.0μmとした場合、2.15μmとした場合、および2.4μmとした場合を比較すると、間隔Lを広くしたほうがドロップ電圧が低くなっていた。溝30どうしの列方向の間隔Lを1.0μmとした場合には、クロストークが基準値以下となるには、第2電極15のMg−Ag合金層の厚みは4.6nm以上必要であった。一方、溝30どうしの列方向の間隔Lを2.15μmとした場合、および2.4μmとした場合には、第2電極15のMg−Ag合金層の厚みを4.0nmとしたときにもクロストークは基準値以下となっていた。すなわち、溝30どうしの列方向の間隔Lを広くしたほうが、ドロップ電圧を小さくして画質を良くすることが可能となることが分かった。
【0107】
(第4の実施の形態)
図31は、本開示の第4の実施の形態に係る表示装置における表示領域の一部の断面構成を表したものである。本実施の形態の表示装置は、溝30が、第1絶縁膜21の第1溝31と、第2絶縁膜の第2溝32との二段階になっていることを除いては、上記第1ないし第3の実施の形態と同様の構成、作用および効果を有し、同様にして製造することができる。
【0108】
第1絶縁膜21は、第1の実施の形態と同様に、例えば、厚みが100nmないし1000nmであり、酸化窒化ケイ素(SiON)または酸化ケイ素(SiO2またはSiOにより構成されている。
【0109】
本実施の形態では、第2絶縁膜22は、高温成膜のSiO2により構成されていることが好ましい。その理由としては、SiO2の膜密度があがることにより、第1絶縁膜21と比較してエッチング時のレートが遅くなり、庇部32Aが形成されるからである。ここにいう高温成膜とは、具体的には400℃〜500℃程度で成膜されていることである。ちなみに第1絶縁膜21のSiO2は、例えば250℃〜350℃で成膜されている。
【0110】
第2溝32の幅w2は、第1溝31の幅w1よりも狭くなっている。換言すれば、第2溝32の周囲には、第1溝31の中央に向けて張り出した庇部32Aが設けられている。これにより、図32に示したように、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bは第2溝32の内部には付着しているが、第2溝32と第1溝31との境目で完全に切断される。よって、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの間での駆動電流のリークを抑えることが可能となる。また、第1の実施の形態では、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みt1を十分に小さくするために第2溝32を数百μmの深さdに設ける必要があったが、本実施の形態では、そのような必要はなくなる。
【0111】
第2溝32の幅w2は、例えば、有機層14の総膜厚以下、具体的には10nmないし150nmであることが好ましい。これにより、図32に示したように、発光層14Cが第2溝32を跨いで連続することが可能となるので、電子輸送層14Dおよび第2電極15も溝30上で途切れることなく連続することが可能となる。よって、第2電極15が溝30によって切断されてしまうことを回避することが可能となり、溝30を列方向だけでなく行方向にも格子状に設けることが可能となる。
【0112】
この表示装置は、例えば、次のようにして製造することができる。なお、第1の実施の形態と製造工程が重複する部分については、図9ないし図15を参照して説明する。
【0113】
まず、図9に示したように、第1の実施の形態と同様にして、基板11の上に画素駆動回路140を含む駆動回路層12と、SiONまたはSiO2よりなる第1絶縁膜21を形成する。
【0114】
次いで、図10に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第1絶縁膜21の上に、複数の有機発光素子10R,10G,10Bの各々ごとに第1電極13を形成する。
【0115】
続いて、図11に示したように、第1の実施の形態と同様にして、例えば高温成膜のSiO2よりなる第2絶縁膜22を形成する。
【0116】
そののち、例えばフォトリソグラフィ法およびドライエッチングにより、第2絶縁膜22を貫通する第2溝32を設け、更に第1絶縁膜21に第1溝31を設ける。
【0117】
第2溝32を設けたのち、更に、第1溝31および第2溝32のウェットエッチングを行う。ウェットエッチングに使用する薬液として、フッ化水素酸を用いることが好ましい。これにより、ウェットエッチング速度の速い第1絶縁膜21では第1溝31の幅w1が広くなると同時に、ウェットエッチング速度の遅い第2絶縁膜22では第2溝32の幅w2が第1溝31の幅w1よりも狭くなる。第2溝32の周囲には、第1溝31の中央に向けて張り出した庇部32Aが形成される。
【0118】
溝30の平面形状については、第1の実施の形態のように溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの複数の行にわたって連続して設けることも可能である。また、第3の実施の形態のように溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けることも可能である。
【0119】
このように第1溝31および第2溝32を有する階段状の溝30を設けたのち、図13ないし図15に示したように、第1または第2の実施の形態と同様にして、第1電極13および第2絶縁膜22の上に、例えば蒸着法により、有機層14の正孔注入層14A,正孔輸送層14B,発光層14Cおよび電子輸送層14Dを形成する。
【0120】
有機層14を形成したのち、図14および図15に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第2電極15を形成する。これにより、図3および図4に示したような有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0121】
続いて、図4に示したように、第1の実施の形態と同様にして、有機EL素子10R,10G,10Bの上に上述した材料よりなる保護膜16および接着層17を形成し、カラーフィルタ41および遮光膜42を設けた封止用基板40を貼り合わせる。以上により、図1ないし図4に示した表示装置が完成する。
【0122】
なお、上記実施の形態では、第2溝32の側面が垂直面である場合について説明したが、第2溝32の側面は、図33に示したような逆テーパ形状(第2溝32が深くなるにつれて第2溝32の幅が広くなる)とすることも可能である。
【0123】
(第5の実施の形態)
図34は、本開示の第5の実施の形態に係る表示装置における表示領域の一部の断面構成を表したものである。図35は、図34に示した溝30の近傍を拡大して表したものである。本実施の形態は、溝30の底面に導電膜60が設けられており、この導電膜60が所定の電位に接続されていることにより、隣り合う有機EL素子10R,10G,10Bの間での駆動電流のリークをほぼ完全に抑えるようにしたものである。また、本実施の形態では、第2絶縁膜22を省略し、絶縁膜20として第1絶縁膜21のみを設けている。これらのことを除いては、本実施の形態の表示装置は、第1ないし第3の実施の形態と同様の構成、作用および効果を有している。
【0124】
導電膜60は、上述したように所定の電位、例えばグランド電位または第2電極15の電位(カソード電位)に接続されている。これにより、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bを伝搬するリーク電流は導電膜60に短絡され、隣り合う有機EL素子10R,10G,10B間でのリーク電流がほぼ完全に抑制される。なお、第2電極15は、表示領域110の外側の領域で、図示しない補助配線に接続されている。その理由は、有機層14が複数の有機EL素子10R,10G,10Bに共通に設けられているので、各有機EL素子10R,10G,10Bごとに第2電極15と補助配線との接続をとることができないからである。
【0125】
導電膜60は、例えば窒化チタン(TiN)などの導電材料により構成されている。導電膜60は、駆動回路層12の画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1または書き込みトランジスタTr2への光の入射を遮る遮光層であることが好ましい。
【0126】
溝30の平面形状については、第1の実施の形態のように溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの複数の行にわたって連続して設けることも可能である。また、第3の実施の形態のように溝30を複数の有機EL素子10R,10G,10Bの各行ごとに設けることも可能である。
【0127】
この表示装置は、例えば、次のようにして製造することができる。なお、第1の実施の形態と製造工程が重複する部分については、図9ないし図15を参照して説明する。
【0128】
まず、図36(A)に示したように、図9に示した工程により、第1の実施の形態と同様にして、基板11の上に画素駆動回路140を含む駆動回路層12を形成する。
【0129】
次いで、図36(B)に示したように、駆動回路層12の上に層間絶縁膜61を設け、この層間絶縁膜61の上に、上述した材料よりなる導電膜60を形成する。
【0130】
続いて、図36(C)に示したように、層間絶縁膜61および導電膜60の上に、図9に示した工程により、第1の実施の形態と同様にして、コンタクトホール21Aを有する第1絶縁膜21を形成する。そののち、同じく図36(C)に示したように、コンタクトホール21A内にプラグ21Bを形成する。
【0131】
第1絶縁膜21を形成したのち、図36(D)に示したように、図10に示した工程により、第1の実施の形態と同様にして、第1絶縁膜21の上に、複数の有機発光素子10R,10G,10Bの各々ごとに第1電極13を形成する。
【0132】
第1電極13を形成したのち、図37に示したように、フォトリソグラフィ法およびエッチングにより、第1絶縁膜21に、溝30を設ける。このとき、溝30の底面が導電膜60に到達するようにする。
【0133】
溝30を設けたのち、図38に示したように、図13ないし図15に示した工程により、第1または第2の実施の形態と同様にして、第1電極13および第2絶縁膜22の上に、例えば蒸着法により、有機層14の正孔注入層14A,正孔輸送層14B,発光層14Cおよび電子輸送層14Dを形成する。
【0134】
有機層14を形成したのち、図14および図15に示したように、第1の実施の形態と同様にして、第2電極15を形成する。これにより、図3および図4に示したような有機EL素子10R,10G,10Bが形成される。
【0135】
続いて、図4に示したように、第1の実施の形態と同様にして、有機EL素子10R,10G,10Bの上に上述した材料よりなる保護膜16および接着層17を形成し、カラーフィルタ41および遮光膜42を設けた封止用基板40を貼り合わせる。以上により、図1ないし図4に示した表示装置が完成する。
【0136】
(モジュールおよび適用例)
以下、上述した実施の形態で説明した表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0137】
(モジュール)
上記実施の形態の表示装置は、例えば、図39に示したようなモジュールとして、後述する適用例1,2などの電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、封止用基板40から露出した領域310を設け、この露出した領域310に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)320が設けられていてもよい。
【0138】
(適用例1)
図40は、上記実施の形態の表示装置が適用される撮像装置(レンズ交換式一眼レフレックスタイプのデジタルカメラ)の外観を表したものである。この撮像装置は、例えば、カメラ本体部(カメラボディ)411の正面右側に交換式の撮影レンズユニット(交換レンズ)412を有し、正面左側に撮影者が把持するためのグリップ部413を有している。カメラ本体部411の背面略中央にはモニタ414が設けられている。モニタ414の上部には、ビューファインダ(接眼窓)415が設けられている。撮影者は、ビューファインダ415を除くことによって、撮影レンズユニット412から導かれた被写体の光像を視認して構図決定を行うことが可能である。このビューファインダ415は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0139】
(適用例2)
図41は、上記実施の形態の表示装置が適用されるヘッドマウントディスプレイの外観を表したものである。このヘッドマウントディスプレイは、例えば、眼鏡形の表示部421の両側に、使用者の頭部に装着するための耳掛け部422を有しており、その表示部421は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0140】
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの溝30内における厚みを薄くすることにより有機発光素子10R,10G,10Bの間でのリーク電流を抑えるようにした場合について説明した。しかしながら、正孔注入層14Aまたは正孔輸送層14Bの溝30内における厚みを薄くすれば足りる。また、有機層14の中では正孔注入層14Aの導電性が特に高いので、少なくとも正孔注入層14Aの溝30内における厚みを薄くすれば、有機発光素子10R,10G,10Bの間でのリーク電流を低減することが可能である。また、正孔輸送層14Bを省略した場合には、正孔注入層14Aの溝30内における厚みを薄くすることによって、有機発光素子10R,10G,10Bの間でのリーク電流を低減することが可能である。
【0141】
また、上記実施の形態では、発光層で発生した光を第2電極15側から取り出す場合(トップエミッション)を例として説明したが、発光層で発生した光を第1電極13側から取り出すことも可能である(ボトムエミッション)。その場合には、第1電極13は、ITO,IZO(登録商標),またはSnO2などの透明電極により構成され、第2電極15は、金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),クロム(Cr),銅(Cu),タングステン(W),アルミニウム(Al),モリブデン(Mo)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金よりなる反射電極により構成されている。また、第2電極15は、上述した反射電極と透明電極との複合膜により構成されていてもよい。また、ボトムエミッションの場合には、カラーフィルタ41および遮光膜42は基板11上、例えば駆動回路層12と第1絶縁膜21との間に設けることが可能である。
【0142】
また、例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0143】
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
基板上に、複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子の間の素子間領域に設けられた絶縁膜とを有し、
前記絶縁膜は、隣り合う前記有機EL素子の間の位置に、溝を有する
表示装置。
(2)
前記有機EL素子は、
前記複数の有機EL素子の各々ごとに設けられた第1電極と、
前記第1電極および前記絶縁膜の上に、前記複数の有機EL素子に共通に設けられ、正孔注入層または正孔輸送層、および発光層を含む有機層と、
前記有機層の上に、前記複数の有機EL素子に共通に設けられた第2電極と
を有し、
前記正孔注入層または前記正孔輸送層の前記溝内における厚みは、前記溝外における厚みよりも薄くなっている
前記(1)記載の表示装置。
(3)
前記正孔注入層または前記正孔輸送層の前記溝内における厚みは、前記溝が深くなるほど薄くなっている
前記(2)記載の表示装置。
(4)
前記複数の有機EL素子は一方向に長い矩形形状を有すると共に、短辺に平行な行方向および長辺に平行な列方向に配列されており、
前記溝は、前記列方向に、前記複数の有機EL素子の複数の行にわたって連続して設けられている
前記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の表示装置。
(5)
前記複数の有機EL素子は矩形形状を有すると共に、短辺に平行な行方向および長辺に平行な列方向に配列されており、
前記溝は、前記列方向に、前記複数の有機EL素子の各行ごとに設けられている
前記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の表示装置。
(6)
前記複数の有機EL素子の前記行方向におけるピッチは30μm以下である
前記(4)または(5)記載の表示装置。
(7)
前記絶縁膜は、前記基板および前記複数の有機EL素子の間に設けられた第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上の前記素子間領域に設けられた第2絶縁膜とを有し、
前記溝は、前記第1絶縁膜に設けられた第1溝と、前記第2絶縁膜に設けられ、前記第1溝に連通すると共に前記第1溝よりも幅の狭い第2溝とを有する
前記(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の表示装置。
(8)
前記溝の底面に導電膜を有し、前記導電膜は所定の電位に接続されている
前記(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の表示装置。
(9)
前記所定の電位は、グランド電位または前記第2電極の電位である
前記(8)記載の表示装置。
(10)
前記基板と前記複数の有機EL素子および前記絶縁膜との間に、トランジスタを含む駆動回路を備え、
前記導電膜は、前記トランジスタへの光の入射を遮る遮光層である
前記(8)または(9)記載の表示装置。
(11)
前記発光層は白色光を発生する白色発光層であり、
前記有機EL素子は、前記白色光を赤色光,緑色光または青色光として取り出すカラーフィルタを備えた
前記(1)ないし(10)のいずれか1項に記載の表示装置。
(12)
基板上に、複数の有機EL素子を形成する工程と、前記複数の有機EL素子の間の素子間領域に絶縁膜を形成する工程とを含み、
前記絶縁膜を形成する工程において、前記絶縁膜の、隣り合う前記有機EL素子の間の位置に、溝を設ける
表示装置の製造方法。
(13)
前記複数の有機EL素子を形成する工程は、
前記複数の有機EL素子の各々ごとに第1電極を形成する工程と、
前記第1電極および前記絶縁膜の上に、前記複数の有機EL素子に共通に、正孔注入層または正孔輸送層、および発光層を含む有機層を形成する工程と、
前記有機層の上に、前記複数の有機EL素子に共通に、第2電極を形成する工程と
を含み、
前記有機層を形成する工程を、前記絶縁膜に溝を設けたのちに行う
前記(12)記載の表示装置の製造方法。
(14)
前記有機層を形成する工程において、数1を満たす
前記(13)記載の表示装置の製造方法。
(数1)
X/Y>w/d
(式中、Xは前記溝の入口の端から蒸発源までのオフセット距離、Yは前記基板と前記蒸発源との距離、wは前記溝の幅、dは前記溝の深さをそれぞれ表す。)
(15)
前記有機層を形成する工程において、前記蒸着法は前記基板を回転させながら成膜を行う回転蒸着方式であり、前記基板が一回転する期間のうちの少なくとも一部で数1を満たす
前記(14)記載の表示装置の製造方法。
(16)
前記有機層を形成する工程において、前記蒸着法は前記蒸発源と前記基板とを一方向に相対移動させながら成膜を行うライン蒸着方式であり、前記基板が前記蒸発源を通過している期間の少なくとも一部で数1を満たす
前記(14)記載の表示装置の製造方法。
(17)
前記有機層のうち前記正孔注入層または前記正孔輸送層を形成する工程において、数1を満たす
前記(14)ないし(16)のいずれか1項に記載の表示装置の製造方法。
【符号の説明】
【0144】
10R,10G,10B…有機EL素子、11…基板、13…第1電極、14…有機層、15…第2電極、16…保護膜、17…接着層、21…第1絶縁膜、22…第2絶縁膜、30…溝、40…封止用基板、41…カラーフィルタ、42…遮光膜、110…表示領域、120…信号線駆動回路、130…走査線駆動回路、140…画素駆動回路、Tr1,Tr2…トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子の間の素子間領域に設けられた絶縁膜とを有し、
前記絶縁膜は、隣り合う前記有機EL素子の間の位置に、溝を有する
表示装置。
【請求項2】
前記有機EL素子は、
前記複数の有機EL素子の各々ごとに設けられた第1電極と、
前記第1電極および前記絶縁膜の上に、前記複数の有機EL素子に共通に設けられ、正孔注入層または正孔輸送層、および発光層を含む有機層と、
前記有機層の上に、前記複数の有機EL素子に共通に設けられた第2電極と
を有し、
前記正孔注入層または前記正孔輸送層の前記溝内における厚みは、前記溝外における厚みよりも薄くなっている
請求項1記載の表示装置。
【請求項3】
前記正孔注入層または前記正孔輸送層の前記溝内における厚みは、前記溝が深くなるほど薄くなっている
請求項2記載の表示装置。
【請求項4】
前記複数の有機EL素子は一方向に長い矩形形状を有すると共に、短辺に平行な行方向および長辺に平行な列方向に配列されており、
前記溝は、前記列方向に、前記複数の有機EL素子の複数の行にわたって連続して設けられている
請求項1記載の表示装置。
【請求項5】
前記複数の有機EL素子は矩形形状を有すると共に、短辺に平行な行方向および長辺に平行な列方向に配列されており、
前記溝は、前記列方向に、前記複数の有機EL素子の各行ごとに設けられている
請求項1記載の表示装置。
【請求項6】
前記複数の有機EL素子の前記行方向におけるピッチは30μm以下である
請求項4記載の表示装置。
【請求項7】
前記絶縁膜は、前記基板および前記複数の有機EL素子の間に設けられた第1絶縁膜と、前記第1絶縁膜上の前記素子間領域に設けられた第2絶縁膜とを有し、
前記溝は、前記第1絶縁膜に設けられた第1溝と、前記第2絶縁膜に設けられ、前記第1溝に連通すると共に前記第1溝よりも幅の狭い第2溝とを有する
請求項1記載の表示装置。
【請求項8】
前記溝の底面に導電膜を有し、前記導電膜は所定の電位に接続されている
請求項1記載の表示装置。
【請求項9】
前記所定の電位は、グランド電位または前記第2電極の電位である
請求項8記載の表示装置。
【請求項10】
前記基板と前記複数の有機EL素子および前記絶縁膜との間に、トランジスタを含む駆動回路を備え、
前記導電膜は、前記トランジスタへの光の入射を遮る遮光層である
請求項8記載の表示装置。
【請求項11】
前記発光層は白色光を発生する白色発光層であり、
前記有機EL素子は、前記白色光を赤色光,緑色光または青色光として取り出すカラーフィルタを備えた
請求項1記載の表示装置。
【請求項12】
基板上に、複数の有機EL素子を形成する工程と、前記複数の有機EL素子の間の素子間領域に絶縁膜を形成する工程とを含み、
前記絶縁膜を形成する工程において、前記絶縁膜の、隣り合う前記有機EL素子の間の位置に、溝を設ける
表示装置の製造方法。
【請求項13】
前記複数の有機EL素子を形成する工程は、
前記複数の有機EL素子の各々ごとに第1電極を形成する工程と、
前記第1電極および前記絶縁膜の上に、前記複数の有機EL素子に共通に、正孔注入層または正孔輸送層、および発光層を含む有機層を形成する工程と、
前記有機層の上に、前記複数の有機EL素子に共通に、第2電極を形成する工程と
を含み、
前記有機層を形成する工程を、前記絶縁膜に溝を設けたのちに行う
請求項12記載の表示装置の製造方法。
【請求項14】
前記有機層を形成する工程において、数1を満たす
請求項13記載の表示装置の製造方法。
(数1)
X/Y>w/d
(式中、Xは前記溝の入口の端から蒸発源までのオフセット距離、Yは前記基板と前記蒸発源との距離、wは前記溝の幅、dは前記溝の深さをそれぞれ表す。)
【請求項15】
前記有機層を形成する工程において、前記蒸着法は前記基板を回転させながら成膜を行う回転蒸着方式であり、前記基板が一回転する期間のうちの少なくとも一部で数1を満たす
請求項14記載の表示装置の製造方法。
【請求項16】
前記有機層を形成する工程において、前記蒸着法は前記蒸発源と前記基板とを一方向に相対移動させながら成膜を行うライン蒸着方式であり、前記基板が前記蒸発源を通過している期間の少なくとも一部で数1を満たす
請求項14記載の表示装置の製造方法。
【請求項17】
前記有機層のうち前記正孔注入層または前記正孔輸送層を形成する工程において、数1を満たす
請求項14記載の表示装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate


【公開番号】特開2012−216338(P2012−216338A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79619(P2011−79619)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】