説明

表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法

【課題】表示画素の画素形成領域の略全域に膜厚が均一な発光機能層(有機EL層)が形成された表示装置の製造装置、及び、当該表示装置を実現するための製造方法を提供する。
【解決手段】各表示画素(各色画素)を構成する有機EL層(正孔輸送層又は電子輸送性発光層)の形成工程において、正孔輸送層又は電子輸送性発光層を構成する材料を含む有機溶液を各表示画素(色画素)の形成領域に塗布し、当該有機溶液を乾燥させて正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を定着させる工程と、その後、各表示画素の形成領域に上記有機溶液の溶媒を塗布して、一旦定着した正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を再溶解(又は、再分散)させた後、再度乾燥させて正孔輸送層又は電子輸送性発光層を形成する工程と、が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法に関し、特に、発光機能材料からなる液状材料を塗布することにより発光機能層(有機EL層)が形成された発光素子を有する表示画素を、複数配列した表示パネルを備えた表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや映像機器、携帯情報機器等のモニタ、ディスプレイとして多用されている液晶表示装置(LCD)に続く次世代の表示デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略記する)や発光ダイオード(LED)等のような自発光素子を2次元配列した発光素子型の表示パネルを備えたディスプレイ(表示装置)の本格的な実用化、普及に向けた研究開発が盛んに行われている。
【0003】
特に、アクティブマトリックス駆動方式を適用した発光素子型ディスプレイにおいては、液晶表示装置に比較して、表示応答速度が速く、視野角依存性もなく、また、高輝度・高コントラスト化、表示画質の高精細化等が可能であるとともに、液晶表示装置のようにバックライトを必要としないので、一層の薄型軽量化が可能であるという極めて優位な特徴を有している。
【0004】
ここで、発光素子型ディスプレイに適用される自発光素子の一例として、周知の有機EL素子の基本構造について簡単に説明する。
図6は、有機EL素子の基本構造を示す概略断面図である。
図6に示すように、有機EL素子は、概略、ガラス基板等の絶縁性基板111の一面側(図面上方側)に、アノード(陽極)電極112、有機化合物等(有機材料)からなる有機EL層(発光機能層)113、及び、カソード(陰極)電極114を順次積層した構成を有している。有機EL層113は、例えば、正孔輸送材料(正孔注入層形成材料)からなる正孔輸送層(正孔注入層)113aと、電子輸送性発光材料からなる電子輸送性発光層(発光層)113bとを積層して構成されている。
【0005】
このような素子構造を有する有機EL素子においては、図6に示すように、直流電圧源115からアノード電極112に正電圧、カソード電極114に負電圧を印加することにより、正孔輸送層113aに注入されたホールと電子輸送性発光層113bに注入された電子が有機EL層113内で再結合する際に生じるエネルギーに基づいて光(励起光)hνが放射される。このとき、光hνの発光強度は、アノード電極112とカソード電極114間に流れる電流量に応じて制御される。
【0006】
ここで、アノード電極112及びカソード電極114のいずれか一方を光透過性を有する電極材料を用いて形成し、他方を遮光性及び反射特性を有する電極材料を用いて形成することにより、図6に示したように、絶縁性基板111を介して光hνを放射するボトムエミッション型の発光構造を有する有機EL素子や、絶縁性基板111を介さずに上面のカソード電極114を介して光hνを放射するトップエミッション型の発光構造を有する有機EL素子を実現することができる。
【0007】
ところで、上述したような有機EL素子の有機EL層113(正孔輸送層113a及び電子輸送性発光層113b)を構成する正孔輸送材料や電子輸送性発光材料としては、低分子系や高分子系の種々の有機材料が知られている。
ここで、低分子系の有機材料の場合、一般に、有機EL層における発光効率は比較的高いものの、製造プロセスにおいて蒸着法を適用する必要があるため、画素形成領域のアノード電極上にのみ当該低分子系の有機膜を選択的に薄膜形成する際に、上記アノード電極以外の領域への低分子材料の蒸着を防止するためのマスクを用いる必要があり、当該マスクの表面にも低分子材料が付着することになるため、製造時の材料ロスが大きいうえ、製造プロセスが非効率的であるという問題を有している。
【0008】
一方、高分子系の有機材料を適用した場合には、有機EL層における発光効率は上記低分子系の有機材料を適用した場合に比較して低くなるものの、湿式成膜法としてインクジェット法(液滴吐出法)やノズルプリント法(液流吐出法)等を適用することができるので、画素形成領域(アノード電極上)、又は、当該領域を含む特定の領域にのみ選択的に上記有機材料の溶液を塗布して、効率的かつ良好に有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)の薄膜を形成することができるという製造プロセス上の利点を有している。
【0009】
このような高分子系の有機材料からなる有機EL層を備えた有機EL素子の製造プロセスにおいては、概略、ガラス基板等の絶縁性基板(パネル基板)上の、各表示画素が形成される領域(画素形成領域)ごとにアノード電極(陽極)を形成した後、隣接する表示画素との境界領域に絶縁性の樹脂材料等からなる隔壁(バンク)を形成して、当該隔壁に囲まれた領域に、インクジェット装置やノズルプリンティング装置を用いて、当該領域に高分子系の有機材料からなる正孔輸送材料を溶媒に分散、又は、溶解させた液状材料を塗布した後、加熱乾燥処理を行うことにより、図6に示した正孔輸送層113aを形成する工程と、高分子系の有機材料からなる電子輸送性発光材料を溶媒に分散、又は、溶解させた液状材料を塗布した後、加熱乾燥処理を行うことにより、図6に示した電子輸送性発光層113bを形成する工程を順次施すことにより、有機EL層113が形成される。
【0010】
すなわち、インクジェット法やノズルプリント法等の湿式成膜法を適用した製造方法においては、絶縁性基板上に突出して連続的に形成された隔壁により、各画素形成領域を画定するとともに、高分子系有機材料からなる液状材料を塗布する際に、隣接する画素形成領域に異なる色の発光材料が混入して表示画素間で発光色の混合(混色)等が生じる現象を防止することができる。
【0011】
このような隔壁を備えた有機EL素子(表示パネル)の構成や、有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)を形成するためにインクジェット法やノズルプリント法を適用した製造方法については、例えば、特許文献1等に詳しく説明されている。なお、高分子系の有機材料からなる有機EL層を備えた有機EL素子の製造プロセスについては、上述したインクジェット法やノズルプリント法を適用する場合の他に、活版印刷やスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等の種々の印刷技術を適用した手法も提案されている。
【0012】
【特許文献1】特開2001−76881号公報 (第4頁〜第7頁、図1〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述したようなインクジェット法やノズルプリント法等の湿式成膜法を適用した有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)の製造方法においては、各表示画素(画素形成領域)間の境界領域に突出して設けられた隔壁表面の特性(撥水性)や、有機材料からなる液状材料(塗布液)の溶媒成分に起因する表面張力や凝集力、液状材料を塗布した後の乾燥方法等に起因して、例えば図7に示すように、アノード電極112と隔壁121との周縁部に液状材料が凝集しやすく、隔壁121の側面に沿って塗布液LQDの液面端部が迫り上がり、厚く塗布されるのに対して、アノード電極112の中央部近傍上の液状材料は薄く塗布されることになるため、画素形成領域内に形成される有機EL層の膜厚が不均一になるという問題を有していた。なお、図7は、従来技術における有機EL素子の製造プロセスの問題点を説明するための概略図である。
【0014】
このように、画素形成領域内に形成される有機EL層の膜厚が不均一になることにより、発光動作時における発光開始電圧や、有機EL層から放射される光hνの波長(すなわち、画像表示時の色度)が設計値からずれて、所望の表示画質が得られなくなるとともに、有機EL層の膜厚の薄い領域に過大な発光駆動電流が流れることになるため、表示パネル(画素形成領域)に占める発光領域の割合(いわゆる、開口率)の低下や有機EL層(有機EL素子)の劣化が著しくなり表示パネルの信頼性や寿命が低下するという問題を有していた。
【0015】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み、表示画素の画素形成領域の略全域に膜厚が均一な発光機能層(有機EL層)が形成された表示パネルを備えた表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、電荷輸送層を有する発光素子を有する表示画素を備えた表示装置の製造方法において、
隔壁に囲まれた前記表示画素の形成領域に電荷輸送性材料を含む溶液を塗布し、乾燥させて当該電荷輸送性材料を薄膜状に定着させる材料定着工程と、
前記画素形成領域に、前記定着させた電荷輸送性材料を再溶解又は再分散させる液材を塗布して当該電荷輸送性材料からなる前記電荷輸送層を形成する電荷輸送層形成工程と、
を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の表示装置の製造方法において、前記電荷輸送層形成工程において前記電荷輸送性材料を再溶解又は再分散させる液材は、前記材料定着工程において前記電荷輸送性材料を含む溶液中の溶媒と同じ材料の溶媒を含むことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の表示装置の製造方法において、前記隔壁に囲まれた領域に、同一発光色の前記発光素子からなる複数の前記表示画素の前記画素形成領域が含まれていることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記材料定着工程における前記電荷輸送性材料を含む溶液を塗布する処理と、前記電荷輸送層形成工程における前記電荷輸送性材料を再溶解させる溶液を塗布する処理は、前記隔壁に囲まれた領域の複数の前記画素形成領域に対して、ノズルプリント法を用いて前記溶液を連続的に塗布することを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の表示装置の製造方法において、前記電荷輸送性材料は高分子系の有機材料からなり、前記発光素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする。
請求項6記載の発明に係る表示装置の製造装置は、隔壁に囲まれた表示画素の形成領域に電荷輸送性材料を含む溶液が塗布されて薄膜状に定着された当該電荷輸送性材料を再溶解又は再分散させる液材を、定着された当該電荷輸送性材料に塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法においては、発光素子を有する各表示画素の画素形成領域にわたり膜厚が改善された発光機能層(電荷輸送層)が形成された表示パネルを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る表示装置及びその製造方法について、実施の形態を示して詳しく説明する。ここで、以下に示す実施形態においては、表示画素を構成する発光素子として、上述した高分子系の有機材料からなる有機EL層を備えた有機EL素子を適用した場合について説明する。
【0022】
(表示パネル)
まず、本発明に係る表示装置に適用される表示パネル及び表示画素について説明する。
図1は、本発明に係る表示装置に適用される表示パネルの画素配列状態の一例を示す要部概略平面図である。ここで、図1(a)は、表示パネルの平面図であり、図1(b)は、図1(a)における表示パネルのA−A断面図である。なお、図1(a)に示す平面図においては、説明の都合上、表示パネルを視野側から見た場合の、各表示画素(色画素)に設けられる画素電極と、各表示画素の形成領域を画定する隔壁(バンク)のみを示し、また、画素電極及び隔壁の配置を明瞭にするために、便宜的にハッチングを施して示した。
【0023】
本発明に係る表示装置(表示パネル)は、図1に示すように、ガラス基板等の絶縁性基板からなるパネル基板PSBの一面側に、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色からなる色画素PXr、PXg、PXbが図面横方向に順次繰り返し複数(3の倍数)配列されるとともに、図面縦方向に同一色の色画素PXr、PXg、PXbが複数配列されている。ここでは、隣接する3色の色画素PXr、PXg、PXbを一組として一の表示画素PIXが構成されている。
【0024】
また、表示パネル10は、図1(a)、(b)に示すように、パネル基板PSBの一面側から突出し、柵状又は格子状の平面パターンを有して連続的に配設された隔壁(バンク)11により、パネル基板PSBの一面側に2次元配列された複数の表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)のうち、図1(a)の図面縦方向に配列された同一色の複数の色画素PXr、又は、PXg、PXbの形成領域を含む領域(後述する画素形成領域Apxに相当する)が画定される。また、当該領域に含まれる各色画素PXr、又は、PXg、PXbの形成領域には、各々画素電極12が形成されている。
【0025】
また、各表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)は、従来技術に示した有機EL素子の基本構造(図6参照)と同様に、図1(b)に示すように、パネル基板PSBの一面側に突出して配設された隔壁11により画定された各画素形成領域に、画素電極(例えばアノード電極)12、有機EL層(正孔輸送層13a及び電子輸送性発光層13b;発光機能層)及び対向電極(例えばカソード電極)14を順次積層した素子構造を有している。ここで、対向電極14は、パネル基板PSBに2次元配列される各表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)に対して共通の単一の電極層として設けられている。さらに、これらの素子構造を有する表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)が配列されたパネル基板PSBは、例えば保護絶縁膜や封止樹脂層15を介して封止基板16が接合されている。
【0026】
<表示装置の製造方法>
図2及び図3は、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図である。ここでは、図1に示した、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の色画素PXr、PXg、PXbを一組とする表示画素PIXを備えたカラー表示パネルを、ノズルプリント法を用いて製造する場合について説明する。また、図4は、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の有機EL層の形成工程を説明するための要部概略断面図である。
【0027】
本実施形態に係る表示装置の製造方法は、まず、図2(a)に示すように、ガラス基板等の絶縁性基板からなるパネル基板PSBの一面側(図面上方側)にマトリクス状に配置された各画素形成領域Apxごとに、光透過性を有する金属層と錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)又はカドミウム−錫酸化物(CTO)等の透明電極層からなる画素電極(例えばアノード電極)12を形成した後、図2(b)に示すように、隣接する画素形成領域Apxとの境界領域(画素電極12間の領域)に、例えばシリコン窒化膜等の絶縁性材料からなる層間絶縁膜11aを形成し、さらに、当該層間絶縁膜11a上に、例えばポリイミド(PI)等の絶縁性の樹脂材料からなる隔壁(バンク)11bを形成する(領域画定工程)。このように、層間絶縁膜11aは、各画素電極12の中央部が開口されるとともに、画素電極12の周縁部、つまり画素電極12の四方を重なるように囲んでいるが、各画素電極12の中央部が開口されていれば、画素電極12のうちの対向する二辺の周縁部のみ重なるように囲んでもよい。
【0028】
ここで、層間絶縁膜11a及び隔壁11bに囲まれた画素形成領域Apxには、上記画素電極12が露出している。なお、本実施形態においては、画素形成領域Apxとなるパネル基板PSB上に画素電極12のみが形成された構成を示すが、当該画素電極12の各々に接続され、後述する有機EL層13(正孔輸送層13a及び電子輸送性発光層13b)に供給する発光駆動電流を制御する駆動制御素子(例えば薄膜トランジスタ)が画素電極12に接続されているものであってもよい。
【0029】
次いで、パネル基板PSBの表面を純水やアルコールで洗浄した後、図2(c)に示すように、周知のノズルプリンティング装置を適用して、各画素形成領域Apxに対応して位置合わせされた各インクノズルIHAから有機化合物を含む正孔輸送材料(電荷輸送性材料;例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS))を溶剤(例えば水、エタノール、エチレングリコール等、好ましくは水100〜80wt%、エタノール0〜20wt%)に加えてなる有機溶液HMCを、液流状にして吐出させ、各画素形成領域Apxの画素電極12上に連続的に塗布する。その後、パネル基板PSBを所定の温度に加熱して、上記有機溶液HMCの溶媒(上記溶剤)を蒸発させて、各画素形成領域Apxの画素電極12上に正孔輸送材料膜13a’を薄膜状に定着させる(材料定着工程)。正孔輸送材料膜13a’は、微視的には、図7と同様に層間絶縁膜11a及び隔壁11bに沿った周縁部が中央部に対して厚く堆積されている。なお、有機溶液は、正孔輸送材料が溶媒に完全に溶解したものに限らず多少分散しているものであってもよい。つまり、ここでいう溶媒は、溶質である電荷輸送性材料を少なくとも一部を溶解又は分散するものであって、溶質を完全に溶解しないものも含む。
【0030】
次いで、図2(d)に示すように、上述した有機溶液HMCの塗布工程と同様に、各画素形成領域Apxに対応して位置合わせされたノズルプリンティング装置の各インクノズルIHBから上記有機溶液HMCに用いた溶媒(例えば水、エタノール、エチレングリコール等、好ましくは水100〜80wt%、エタノール0〜20wt%)HSLを、液流状にして吐出させ、各画素形成領域Apxの画素電極12表面に定着させた正孔輸送材料膜13a’上に連続的に塗布する。このとき、溶剤HSLは、一旦定着した正孔輸送材料膜13a’の少なくとも一部を再び溶解する。その後、パネル基板PSBを所定の温度に加熱して、上記溶媒HSLを蒸発させて正孔輸送材料を乾燥させ、図2(e)に示すように、各画素形成領域Apxの画素電極12上に正孔輸送層(電荷輸送層)13aを形成する(電荷輸送層形成工程)。このとき、正孔輸送層13aは、正孔輸送材料膜13a’に比べて表面が平滑になっている。
【0031】
なお、上述した正孔輸送層13aを形成する工程において、各画素形成領域Apxの画素電極12上に有機溶液HMCを塗布する工程(図2(c))に先立って、純水やアルコールによる洗浄処理の後、例えば画素形成領域Apx内(画素電極12表面)に正孔輸送材料の少なくとも一部(例えばPEDOT)を薄く塗布して親液化するようにするものであってもよい。
【0032】
また、各画素形成領域Apxに有機溶液HMCを塗布する工程(図2(c))に先立って、例えば酸素ガス雰囲気で上記パネル基板PSB表面に紫外線を照射することにより、活性酸素ラジカルを発生させて、画素電極12表面を親液化し、その後、パネル基板PSBに対して、例えばフッ化炭素(CF)等のフッ化物ガス雰囲気で紫外線を照射することにより、層間絶縁膜11a及び隔壁11b表面にのみフッ素を結合させて選択的に撥液化する(CFプラズマ洗浄処理)とともに、画素電極12表面の親液性を保持した親疎水パターンを形成してもよい。
【0033】
これによれば、上述した正孔輸送材料を含む有機溶液HMC及び後述する電子輸送性発光材料を含む有機溶液EMCの塗布工程において、仮に当該有機溶液HMC、EMCの液滴が層間絶縁膜11aや隔壁11b上に着滴した場合であっても、当該表面が撥液性を有していることによりはじかれるので、親液性を有する各画素形成領域Apx内(画素電極12上)に重点的に塗布されることになる。
【0034】
次いで、図3(f)に示すように、ノズルプリンティング装置を適用して、パネル基板PSB上に隣接して配列される赤(R)、緑(G)、青(B)の各色画素PXr、PXg、PXbの形成領域(画素形成領域Apx)に対応して位置合わせされた各インクノズルIEAから、赤(R)、緑(G)、青(B)の各発光色に対応した有機高分子系の電子輸送性発光材料(電荷輸送性材料;例えば、上述したポリフェニレンビニレン等の共役二重結合ポリマー)を水溶性または親油性の溶剤(例えば水、エタノール、エチレングリコールやトルエン、キシレン等)に加えてなる有機溶液EMCを、液流状にして同時に吐出させ、上述した工程において各画素形成領域Apxの画素電極12上に形成された正孔輸送層13a上に連続的に塗布する。その後、パネル基板PSBを所定の温度に加熱して、上記有機溶液EMCの溶媒(上記有機溶剤)を蒸発させて、各画素形成領域Apxの正孔輸送層13a上に電子輸送性発光材料膜13b’を薄膜状に定着させる(材料定着工程)。
【0035】
次いで、図3(g)に示すように、上述した有機溶液EMCの塗布工程と同様に、各画素形成領域Apxに対応して位置合わせされたノズルプリンティング装置の各インクノズルIEBから上記有機溶液EMCの溶媒(例えば水、エタノール、エチレングリコールやトルエン、キシレン等)ESLを、液流状にして吐出させ、各画素形成領域Apxの正孔輸送層13a表面に定着させた電子輸送性発光材料膜13b’上に連続的に塗布する。このとき、溶剤ESLは、一旦定着した電子輸送性発光材料膜13b’の少なくとも一部を再び溶解する。その後、パネル基板PSBを所定の温度に加熱して、上記溶媒ESLを蒸発させて電子輸送性発光材料を乾燥させ、図3(h)に示すように、各画素形成領域Apxの正孔輸送層13a上に電子輸送性発光層(電荷輸送層)13bを形成する(電荷輸送層形成工程)。このとき、電子輸送性発光材料膜13bは、電子輸送性発光材料膜13b’に比べて表面が平滑になっている。
【0036】
なお、図3(f)に示した有機溶液EMCの塗布工程においては、パネル基板PSB上に隣接して配列される赤(R)、緑(G)、青(B)の各色画素PXr、PXg、PXbの形成領域(画素形成領域Apx)に対して、個別のインクノズルIEAから赤(R)、緑(G)、青(B)の各発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液EMCを同時に塗布する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、表示画素PIXを構成する各色の色画素PXr、PXg、PXbのうち、同一色となる複数の色画素の各形成領域(例えば、赤(R)色の色画素PXrの形成領域)に対して、当該発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液EMCを同時に塗布するものであってもよい。
【0037】
また、正孔輸送層13a及び電子輸送性発光層13bを形成するいずれの工程においても、有機溶液HMC、EMCの塗布、乾燥後、当該溶液の溶媒HSL、ESLを塗布する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、正孔輸送層13a及び電子輸送性発光層13bのうちいずれか一方の形成工程においてのみ、上記製造方法を適用するものであってもよい。特に、正孔輸送層13aのみに有機溶液HMCの塗布、乾燥後、当該溶液の溶媒HSLを塗布するだけでもよい。
【0038】
次いで、図3(i)に示すように、少なくとも上述した正孔輸送層13a及び電子輸送性発光層13bからなる有機EL層を介して、各画素電極12に対向して設けられ、ITO等の透明電極材料からなる対向電極(例えばカソード電極)14を、各画素形成領域Apxに共通して一体的に形成した後、対向電極14を含むパネル基板PSB上に、保護絶縁膜や封止樹脂層15を形成し、さらに封止基板16を接合することにより、図1(b)に示したような有機EL素子からなる表示画素PIXが2次元配列された表示パネル10が完成する。
【0039】
このように、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法においては、各表示画素(各色画素)を構成する有機EL層(正孔輸送層又は電子輸送性発光層)の形成工程において、正孔輸送層又は電子輸送性発光層を構成する材料を含む有機溶液を各表示画素(色画素)の形成領域に塗布し、当該有機溶液を乾燥させて正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を定着させる工程と、その後、各表示画素の形成領域に上記有機溶液の溶媒を塗布して、一旦定着した正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を再溶解(又は、再分散)させた後、再度乾燥させて正孔輸送層又は電子輸送性発光層を形成する工程と、が実行される。
【0040】
ここで、本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法における効果について、実験データを示して具体的に検証する。なお、ここでは、正孔輸送層を形成する場合についてのみ説明するが、電子輸送性発光層を形成する場合も同等の効果が得られることはいうまでもない。
【0041】
図4は、本実施形態に係る有機EL層(正孔輸送層)の形成工程における膜表面の状態を示す概念図であり、図5は、本実施形態に係る有機EL層(正孔輸送層)の形成工程における効果を実証するための実験データの一例である。ここで、図5は、少なくとも表面がITO等の透明電極材料からなる画素電極、絶縁材料からなる層間絶縁膜及び隔壁が形成されたパネル基板の表面に、上述した正孔輸送材料を含む有機溶液を塗布した後、乾燥処理を施して正孔輸送材料を定着させる製造方法(便宜的に「従来方法」と記す)と、有機溶液を塗布し、乾燥処理を施した後、さらに溶媒(水)を塗布し、乾燥処理を施して正孔輸送材料を定着させる製造方法(本実施形態に係る方法)と、により形成された各正孔輸送層の表面状態(表面高さ)を計測した実験データであって、図5(a)は、層間絶縁膜及び隔壁により画定された画素形成領域の全域(層間絶縁膜及び隔壁を含む)における表面状態を示すものであり、図5(b)は、図5(a)の画素形成領域(画素電極上)の表面状態の一部(図中、Rprで表記した円内部分)を拡大したものである。
【0042】
また、図5は、正孔輸送材料として上述したPEDOT/PSSを、溶媒として水を適用している。また、図1におけるA−A線方向を幅方向(表示画素PIXの短手方向)と規定すると、パネル基板PSB上の構成として、層間絶縁膜11a及び隔壁11bにより画定される画素形成領域Apxに形成されたITOからなる画素電極12の露出部(開口部)を幅W1を55μm、長さL1を375μmに設定し、シリコン窒化膜からなる層間絶縁膜11aを幅W2を115μm、縦方向の間隔L2を135μm、高さH2を200nmに設定し、ポリイミドからなる隔壁11bを幅W3を75μm、高さH3を4μmに設定した場合の実験データである。
【0043】
図4(a)に示すように、層間絶縁膜11a及び隔壁11bにより囲まれた領域(画素形成領域Apx)に正孔輸送材料(PEDOT/PSS)を含む有機溶液HMCをインクノズルから液流状にして吐出し、画素電極12上に塗布すると、上述した従来技術に示した場合(図7参照)と同様に、層間絶縁膜11a及び隔壁11bに対する有機溶液HMCの濡れ性が良いために、層間絶縁膜11a及び隔壁11bの側面に沿って有機溶液HMCの液面端部が迫り上がる現象が生じる。
【0044】
この状態でパネル基板PSBを加熱して有機溶液HMCの溶媒を蒸発させ、正孔輸送材料を画素電極12上に定着させると、図4(b)に示すように、画素電極12と層間絶縁膜11a及び隔壁11bの境界近傍に正孔輸送材料が凝集して膜厚が厚くなり、一方、画素電極12中央部付近では正孔輸送材料が散逸して膜厚が薄くなるため、画素電極12上に薄膜状に定着された正孔輸送材料(便宜的に「材料膜13x」と記す)の膜厚は著しく不均一になる。
【0045】
そこで、本実施形態においては、図4(c)に示すように、上記有機溶液HMCを構成する溶媒(水)HSLを、層間絶縁膜11a及び隔壁11bにより画定された画素形成領域Apxから溢れ出ない程度にインクノズルから液流状にして滴量吐出し、画素電極12表面に定着された材料膜13x上に塗布することにより、当該材料膜(正孔輸送材料)13xの少なくとも表層部が溶媒HSLに再溶解又は再分散する。再溶解又は再分散した際の正孔輸送材料の濃度は、有機溶液HMCの濃度より薄くなり、濡れ性が有機溶液HMCのときと変わる。
【0046】
これにより、画素形成領域Apx内(画素電極12上)の略全域で液面が略均一になるように正孔輸送材料が拡散し、上述したような層間絶縁膜11a及び隔壁11bの撥液性や有機溶液の表面張力、凝集力等に起因する液面端部の迫り上がりが緩和される。この状態でパネル基板PSBを加熱して有機溶液の溶媒を蒸発させ、正孔輸送材料を画素電極12上に再定着させると、図4(d)に示すように、画素電極12上に膜厚が略均一な正孔輸送層13aが形成される。
【0047】
このような一連の有機EL層(正孔輸送層13a)の形成工程によれば、図5に示すように、有機溶液HMCの塗布後、乾燥処理を施して正孔輸送材料を定着させて正孔輸送層13aを形成する従来方法に比較して、溶媒による正孔輸送材料の再溶解を行う本実施形態に係る方法の方が、当該正孔輸送層13aの膜厚の均一性が向上することが判明した。
【0048】
図5において、太い実線は正孔輸送材料を含む有機溶液が塗布される基板側の表面状態(表面高さ)を示し、細い実線は本実施形態に係る方法(有機溶液の塗布、乾燥後、溶媒を再塗布、乾燥処理)により形成された正孔輸送層の表面状態を示し、また、細い点線は従来方法(有機溶液の塗布後、乾燥処理)により形成された正孔輸送層の表面状態を示す。
【0049】
すなわち、図5(a)、(b)に示すように、従来方法(細い点線)においては、層間絶縁膜11a及び隔壁11b側面における有機溶液HMCの液面端部の迫り上がりが認められ、画素形成領域Apx内に形成された正孔輸送層13aの最薄部を基準にした場合の膜厚の変動が5%以内の領域の比率は72%であったのに対して、溶媒を再塗布させる本実施形態に係る方法(細い実線)においては、上記比率が85%まで改善されるとともに、画素形成領域Apxの全域において、膜厚が薄く形成されることが判明した。
【0050】
したがって、本実施形態によれば、層間絶縁膜11a及び隔壁11bにより画定された画素形成領域内(画素電極上)に膜厚が薄くかつ略均一な有機EL層(正孔輸送層13a)を形成することができるので、発光動作時における発光開始電圧や、有機EL層から放射される光hνの波長(色度)の設計値からのずれを抑制して、所望の表示画質を得ることできるとともに、表示パネルの開口率の低下や有機EL素子の劣化を抑制して、信頼性や寿命に優れた表示パネルを実現することができる。
【0051】
なお、上述した実施形態に示した有機EL層の形成工程においては、正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を含む有機溶液を画素形成領域に塗布、乾燥した後、当該有機溶液を構成する溶媒を再塗布する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば最初に塗布した有機溶液よりも濃度が1/10以下の低い有機溶液や、当該有機溶液の可溶液等のように、画素形成領域(画素電極上)に定着した正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を再溶解又は再分散する効果を有する液体を再塗布するものであってもよい。
【0052】
また、上述した実施形態においては、正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を含む有機溶液をパネル基板上の画素形成領域に塗布する方法としてノズルプリント法を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、インクジェット法やさらに他の塗布方法(印刷技術)を適用するものであってもよいことはいうまでもない。
【0053】
また、上記実施形態では、有機EL層13が正孔輸送層13a及び電子輸送性発光層13bを有していたが、これに限らず正孔輸送兼電子輸送性発光層のみでもよく、正孔輸送性発光層及び電子輸送層でもよく、また間に適宜電荷輸送層が介在してもよく、その他の電荷輸送層の組合せであってもよい。
また、上記実施形態では、画素電極12をアノードとしたが、これに限らずカソードとしてもよい。このとき、有機EL層13は、画素電極12に接する電荷輸送層が電子輸送性の層であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る表示装置に適用される表示パネルの画素配列状態の一例を示す要部概略平面図である。
【図2】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その1)である。
【図3】本実施形態に係る表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その2)である。
【図4】本実施形態に係る有機EL層(正孔輸送層)の形成工程における膜表面の状態を示す概念図である。
【図5】本実施形態に係る有機EL層(正孔輸送層)の形成工程における効果を実証するための実験データの一例である。
【図6】有機EL素子の基本構造を示す概略断面図である。
【図7】従来技術における有機EL素子の製造プロセスの問題点を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0055】
10 表示パネル
11a 層間絶縁膜
11b 隔壁
12 画素電極
13a 正孔輸送層
13b 電子輸送性発光層
13x 材料膜
14 対向電極
PSB パネル基板
PIX 表示画素
Apx 画素形成領域
HMC、EMC 有機溶液
HSL、ESL 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送層を有する発光素子を有する表示画素を備えた表示装置の製造方法において、
隔壁に囲まれた前記表示画素の形成領域に電荷輸送性材料を含む溶液を塗布し、乾燥させて当該電荷輸送性材料を薄膜状に定着させる材料定着工程と、
前記画素形成領域に、前記定着させた電荷輸送性材料を再溶解又は再分散させる液材を塗布して当該電荷輸送性材料からなる前記電荷輸送層を形成する電荷輸送層形成工程と、
を含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記電荷輸送層形成工程において前記電荷輸送性材料を再溶解又は再分散させる液材は、前記材料定着工程において前記電荷輸送性材料を含む溶液中の溶媒と同じ材料の溶媒を含むことを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記隔壁に囲まれた領域に、同一発光色の前記発光素子からなる複数の前記表示画素の前記画素形成領域が含まれていることを特徴とする請求項1又は2記載の表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記材料定着工程における前記電荷輸送性材料を含む溶液を塗布する処理と、前記電荷輸送層形成工程における前記電荷輸送性材料を再溶解させる溶液を塗布する処理は、前記隔壁に囲まれた領域の複数の前記画素形成領域に対して、ノズルプリント法を用いて前記溶液を連続的に塗布することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記電荷輸送性材料は高分子系の有機材料からなり、前記発光素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示装置の製造方法。
【請求項6】
隔壁に囲まれた表示画素の形成領域に電荷輸送性材料を含む溶液が塗布されて薄膜状に定着された当該電荷輸送性材料を再溶解又は再分散させる液材を、定着された当該電荷輸送性材料に塗布することを特徴とする表示装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−179798(P2007−179798A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374987(P2005−374987)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】