説明

表示装置及び表示装置の駆動方法

【課題】 安定した電位制御が可能で、輝度低下及びムラ等の画素部の信頼性向上を可能にする装置及び駆動方法を提供する。
【解決手段】 発光装置において、画素部10は、第1基板11及び第2基板12を備え、第1基板11上に間隙を空けて第1電極13及び第2電極14が設けられ、第1基板11と第2基板12とが離間対向するように隔壁電極16に保持されている構造を有する。第1基板11及び第2基板12の間には、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を注入する発光層16が設けられている。電極間に印加する駆動電圧の極性を周期的に反転させる際に、画像データでの階調で発光層15に印加される電圧より高い電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学発光を用いた表示装置及び表示装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)表示装置は、フルカラー表示及び薄型化が可能であるため、ディスプレイへの応用が期待されている。しかしながら、有機EL表示装置は、電荷が注入されることに起因する種々の欠点を有している。例えば、有機EL表示装置は、直流電圧が印加されて駆動されるため、片方の電極に不純物が蓄積することで装置の寿命が短くなるといった問題がある。このような欠点を解決するものとして、電圧を印加することで化学反応を誘発し、これにより化学発光する電気化学発光(Electrochemiluminescence、以下ECLと称す)を用いた表示装置が開発されている。ECL表示装置では、直流だけでなく、交流駆動も可能なため、上記のような問題を回避することができる。
【0003】
ECL表示装置は、流動性のある液体により発光層が構成されるので、発光層が固体である有機EL表示装置と比較して、電気化学発光物質が循環しやすい。従って、焼付き等の固定点不良が起こりにくく、一般的に信頼性が高い。また、ECL装置は、電気化学発光を示す発光材料を含む溶液及びその溶液に電圧を印加する電極等による単層構造で構成され、有機EL表示装置のように、電極上に電荷輸送層を積層させる必要がない。このため、低コストで生産することができる。さらに、ECL表示装置は、電気化学反応に基づく原理から低電圧で駆動させることができる。
【0004】
通常の表示装置では、2つの電極に電位差を印加することで光学特性が制御される。一方、ECL表示装置の発光では、電気化学反応が利用されることから、発光材料の酸化還元電位を正確に電極に印加して制御する必要がある。2電極系では、電極間にある電位差を印加する場合、個々の電極電位を直接測定することは困難である。このため、正確に各電極に電位を印加するためには、基準となる一定の電極反応を示す参照電極を設け、この参照電極と各電極との電位差を測定することで各電極の電位を制御することが必要である。
【0005】
特許文献1には、電気化学発光物質の溶液、溶液に電位を印加する電極、及び基準となる参照電極を備えた電気化学発光セルが開示されている。しかし、駆動方法に関して具体的に記述されていない。
【特許文献1】特開平10−135540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の表示装置においては、電圧の極性反転時に輝度の低下及びムラ等が生じる問題があり、安定した電位制御が可能で、素子の信頼性が高い表示装置及びその駆動方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、安定した電位制御が可能で、輝度低下、ムラ等の阻止の信頼向上を可能にする表示装置及び表示装置の駆動方法を提供することにある。
【0008】
本発明によれば、
第1の基板と、
前記第1の基板上に離間して設けられる第1及び第2の電極と、
前記第1の基板に対向して設けられる第2の基板と、
前記第1の基板及び前記第2の基板を略平行に保持し、第1及び第2の電極に対して基準の電位を与える隔壁電極と、
前記第1の基板、前記第2の基板及び隔壁電極に囲まれる空間に設けられ、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を含む発光層と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する少なくとも一部の極性を周期的に反転させる駆動電圧を発生させ、前記駆動電圧の極性の反転時には、画像データの階調に応じた電圧より高い前記駆動電圧を発生させる電圧源と、
を備えることを特徴とする表示装置が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
第1の基板と、
前記第1の基板上に離間して設けられる第1及び第2の電極と、
前記第1の基板に対向して設けられる第2の基板と、
前記第1の基板及び前記第2の基板を略平行に保持し、第1及び第2の電極に対して基準の電位を与える隔壁電極と、
前記第1の基板、前記第2の基板、及び隔壁電極に囲まれる空間に設けられ、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を含む発光層と、から構成される画素部を有する表示部であって、
前記画素部は、マトリックス状に配列され、行毎に配線される複数の走査線及び列毎に配線される複数の信号線で接続され、前記走査線及び前記信号線の交点に対応して設けられ、前記発光層の発光により表示を行う表示部と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する少なくとも一部の極性を周期的に反転させる駆動電圧を発生させ、前記駆動電圧の極性の反転時には、画像データの階調に応じて印加される電圧より高い前記駆動電圧を発生させる電圧源を有する走査線駆動回路であって、
前記複数の走査線が接続され、入力される画像信号に基づいて前期画素部の行毎に順次駆動電圧を印加する走査線駆動回路と、
前記複数の信号線が接続され、入力される前記画像信号に基づいて前期表示素子を列毎に駆動制御する画素駆動回路と、
を具備したことを特徴とする表示装置が提供される。
【0010】
更に、この発明によれば、
第1の基板と、
前記第1の基板上に離間して設けられる第1及び第2の電極と、
前記第1の基板に対向して設けられる第2の基板と、
前記第1の基板及び前記第2の基板を略平行に保持し、第1及び第2の電極に対して基準の電位を与える隔壁電極と、
前記第1の基板、前記第2の基板、及び隔壁電極に囲まれる空間に設けられ、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を含む発光層と、から構成される表示装置であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する少なくとも一部の極性を周期的に反転させる駆動電圧を発生させ、前記駆動電圧の極性の反転時には、画像データの階調に応じた電圧より高い前記駆動電圧を印加して前記発光層を発光させることを特徴とする表示装置の駆動方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表示装置及びその駆動方法においては、印加する電圧の少なくとも一部の極性を周期的に反転させる。この極性反転時に、画像データでの階調で発光層に印加される電圧より高い電圧が印加されることで、安定した電位制御が可能で、輝度低下、ムラ等の素子の信頼性向上が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の一実施の形態に係る表示装置及びその駆動方法を説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る表示装置の概略構成を示している。表示装置は、表示部1を備え、この表示部1には、基板11上に複数の画素部10がマトリックス状に配列されている。表示部1には、マトリックス配列の画素部10の行毎に各走査線が接続配線され、この複数の走査線が走査線駆動回路2に接続されている。この走査線駆動回路2は、各画素部10を駆動する為の駆動電圧を発生させる電圧源2Aを有し、走査線駆動回路2に画像信号が入力されると、この画像信号に応じて走査線に順次駆動電圧が印加されて各行の画素部10が選択される。また、表示部1には、マトリックス配列の画素部10の列毎に各信号線が接続配線され、この複数の信号線が画素駆動回路3に接続されている。この画素駆動回路3に画像信号が入力されると、この画像信号に応じて信号線毎に画素部10が駆動制御される。従って、走査線駆動回路2及び画素駆動回路3に画像信号が入力されると、この画像信号に応じて個々の画素部10が駆動されて発光される。
【0014】
図2は、図1に示した画素部10を概略的に示している。画素部10は、第1基板11を備え、第1基板11上に間隙を空けて第1電極13及び第2電極14が設けられている。この第1電極13及び第2電極14は、同一の大きさ、即ち、同一のディメンションを有するように形成されている。また、画素部10は、第1基板11に対向して配置される第2基板12及び隔壁電極16を備え、この隔壁電極16で第1基板11と第2基板12とが離間して平行に保持されている。この隔壁電極16は、第1電極13及び第2電極14に対する電位の基準を与える電気化学反応に直接関与しない参照電極として設けられている。この参照電極は、接地されて電位が常に一定に保たれている。また、この参照電極は、電解液等に対して安定な材料、例えば、銀/塩化銀(Ag/AgCl)で形成されている。
【0015】
第1基板11、第2基板12、及び隔壁電極16に囲まれる空間には、発光層15として発光材料及び電解質を含む溶液が封入されている。この発光材料には、電気化学発光(ECL)を示す材料、即ち、電圧を印加されて電気化学的酸化、或いは、還元反応を起こして励起され、失活する際に発光する性質を有する材料が含まれている。また、この発光層15には、隔壁電極16を参照電極として機能させる為の塩化物イオン(Cl)が含まれている。
【0016】
発光層15においては、図3に示されるように、第1電極13及び第2電極14間への電圧の印加により、ECL材料は、一方の電極(陽極)付近で酸化されて酸化種、即ち、カチオンラジカルが生成される。また、他方の電極(陰極)付近で還元されて還元種、即ち、アニオンラジカルが生成される。このカチオンラジカル及びアニオンラジカルは、溶液中を移動し、両者が会合してECL材料の励起状態が生成される。ECL材料は、この励起状態から失活する際に発光する。この現象を利用して、画像信号に基づいて駆動される画素部10を発光させることができる。一般に、ECL材料を含む溶液に電圧を印加して発光する表示装置では、印加する電圧は、直流電圧及び交流電圧のどちらでも可能である。直流電圧で駆動される場合には、図3に示されるように、例えば、第1電極13でカチオンラジカルが生成されると、このカチオンラジカルは、第2電極14へ向けて移動する。この時、アニオンラジカルが第2電極14で生成され、第1電極13に向けて移動する。この移動中に、カチオンラジカル及びアニオンラジカルが会合して発光が起こる。交流駆動の場合には、各電極にカチオンラジカルとアニオンラジカルとが交互に発生されるため、各電極付近で反応が起こる。
【0017】
以上のように、極性反転を行わない場合、即ち、直流電圧で駆動する場合においても、発光表示が可能である。しかし、ECL材料に含まれるイオン性不純物が一方の電極に蓄積して画素部10の信頼性が低下する。一方、通常の周波数が短い交流電圧で駆動する場合には、図4に示すように、例えば、第1電極13の電位が電圧V1及び電圧V2の値で周期的に反転される場合、ECL材料がアニオンラジカルから元に戻る逆反応及びECL材料がカチオンラジカルから元に戻る逆反応が一部で起こることになる。これにより、反応効率が低下する。また、電気2重層コンデンサの充電にも電力を要するので、消費電力の増大につながる。そこで、図1に示される表示装置では、第1電極13及び第2電極14間に擬似直流電圧(周波数の長い交流電圧)を印加させて、発光層15のECL材料を発光させる。この場合、図3に示されるように、直流駆動と略同様の挙動をするが、アニオンラジカル及びカチオンラジカルが生成される電極が周期的に入れ替わることになる。
【0018】
尚、発光層15においては、ECL材料の酸化反応及び還元反応が容易に起こるようにする為にECL材料と共に支持塩を含むことが好ましい。
【0019】
次に、図5A〜図7Cを参照して図2に示される画素部10を駆動する方法を説明する。前述したように、図2に示される画素部10では、第1電極13及び第2電極14間に擬似直流電圧を印加している。この電圧の少なくとも1部の極性が周期的に反転され、この極性反転時には、画像データの階調に応じて印加される電圧、即ち、所望の発光を得る為に印加される電圧より絶対値が大きい電圧が発光層15に印加される。図5Aには、第1電極13に印加される従来の矩形の駆動電圧が示されている。図5B及び図5Cには、図5Aに示される駆動電圧が印加された場合の第1電極13の電流値及び画素部10の発光輝度との関係を概略的に示されている。第2電極14の隔壁電極16に対する電位は、図示しないが、画素部10の発光状態中では、第1電極13と逆極性の電位になる。例えば、図5Aに示されるように、第1電極13の電位がV1及びV2となるように周期的に印加し、この電位を逆極性の電圧を第2電極14に印加する。ここで、V1は、ECL材料が酸化されてカチオンラジカルが生成される正の値の酸化電位であり、V2は、ECL材料が還元されてアニオンラジカルが生成される負の還元電位である。このような駆動電圧を第1電極13及び第2電極14間に印加すると、第1電極13及び第2電極14付近でECL材料のアニオンラジカル及びカチオンラジカルが交互に生成される。そして、このアニオンラジカルとカチオンラジカルとが会合すると、励起状態のECL材料が生成され、このECL材料の失活過程において発光が起こる。画素部10は、駆動電圧を印加しなければ非発光状態となる。しかしながら、図5Cに示すように、駆動電圧を印加する場合には、極性反転直後に不安定状態による光量の変動が起きて一瞬輝度が低下する。この輝度の低下を防止する為に、図1に示される走査線駆動回路は、更に、極性反転時に従来の駆動電圧より高い電圧を極性反転時に印加する為の補助電圧源2Aを備えている。この補助電圧源2Aは、図6に示すような補助電圧を発生させる。これにより、図7Aに示されるように、駆動電圧が還元電位V2から酸化電位V1に極性反転された直後には、駆動電圧が酸化電位V1より大きな値となり、また、駆動電圧が酸化電位V1から還元電位V2に極性反転された直後には、還元電位V2より小さな値となる駆動電圧が電極間に印加されることになる。図7B及び図7Cには、図7Aに示される駆動電圧を印加した場合における第2電極14の電流値及び画素部10の発光輝度との関係が概略的に示されている。このような駆動電圧が印加されて画素部10が駆動される(オーバードライブ駆動)と、光量の変動が減り、図7Cに示されるように、輝度の低下が防止される。極性を反転させる周期は、30ミリ秒〜3分とすればよい。また、極性反転は、走査線毎にランダムに切り替える、或いは、走査線毎に駆動電圧の位相をずらして行われる。これにより、表示部1に生じる細かいちらつき所謂フリッカを防止することができる。
【0020】
図1に示される表示装置において階調表示は、例えば以下のように実施される。即ち、図1に示される表示装置では、発光層15に印加させる電圧による変調及び発光回数による変調を組み合わせることで多階調表示される。図8には、ECL材料を含む発光層15に印加される印加電圧と発光輝度との関係が示されている。図8に示されるように、電圧変調法による多階調表示には、画素部10の輝度−電圧特性の立ち上がりが急峻ではなく、ある程度の勾配を有していることが必要である。しかし、この電圧変調法のみでは、例えば128階調表示を実現しようとすると電圧調整が困難であるため、発光回数による変調方法を組み合わせることによって多階調で画像が表示される。このような多階調表示では、最小輝度を階調レベル1とし、順次輝度が2倍ずつ増加した階調レベルが電圧変調で作られる。具体的には、電圧変調により階調レベル1、2、4、8、16が作られ、この階調レベルにおいては、それぞれの発光回数が複数回、例えば、2回に制限されている。アクティブマトリクス型の表示装置では、図9に示すように、表示部1の画素部10毎にキャパシタ5及びTFT6を含む回路を備え、走査線及び信号線を介してオン/オフのデータ及び階調データがキャパシタ5に記憶され、その階調データに従って表示部1の画素部10が夫々発光される。従って、一回のデータ書き込みで画素部10の発光回数を制御することができる。
【0021】
これらの階調レベルを実現する具体的な電圧値は、発光層15に含まれるECL材料により異なっている。そして、上述した階調レベル16での表示に対応した電圧の印加を前提として発光回数が4、8、16回に変更されて階調レベル32、64、128が実現される。発光回数の制御のみで多階調表示される場合には、1フレーム内の時間に128階調に対応するパルスを印加する必要があり、発光回数の制御のみで多階調表示を実現するのは、困難である。しかし、上述したような電圧及び発光回数の制御による階調表示においては、1フレーム内の時間(16.7msec)における最大の発光回数は38回になり、発光回数のみで階調表示させる場合に比べて発光に要する時間が短縮される。
【0022】
前述した画像データの階調に応じて印加される電圧とは、この各階調レベルに応じて印加される電圧を指している。
【0023】
次に、図2に示される画素部10の各構成の材料について説明する。観測面が第1基板11側である場合には、第1基板11は、可視光領域で吸収が少ない材料で形成されることが好ましい。このような材料には、例えば、ガラス、或いは、プラスチック(PET、PEN、PES、PC)等が挙げられる。
【0024】
第1基板11上に設けられる第1電極13及び第2電極14は、透明な電極材料で形成されることが好ましい。このような透明な電極材料としては、金属酸化物半導体では、遷移金属の酸化物、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、亜鉛、錫、インジウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンの酸化物、SrTiO、CaTiO、BaTiO、MgTiO、SrNbのようなペロブスカイト、これらの複合酸化物又は酸化物混合物、或いは、GaN等が挙げられる。また、第2基板12側を観測面とする場合には、第1電極13及び第2電極14は、透明である必要がなく、Al及びAg等で形成されることが出来る。第1電極13と第2電極14は、開口率を上げるために大きい方が好ましく、また、同じ材料で、同じ大きさに形成されることが好ましい。
【0025】
表示面ではないが、第2基板12には、第1基板11と同じ材料で形成されることができる。また、観測面が第2基板12側である場合には、第2基板12は、可視光領域で吸収が少ない材料で形成されることが好ましい。
【0026】
発光層15に含まれるECL材料としては、多環芳香族化合物であるナフタセン誘導体(ルブレン、5,12−ジフェニルナフタセン)、アントラセン誘導体(9,10−ジフェニルアントラセン)、ペンタセン誘導体(6,10−ジフェニルペンタセン)、ペリフランテン誘導体(ジベンゾテトラ(メチルフェニル)ペリフランテン)等、或いは、π電子共役高分子であるポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等、或いは、ヘテロ芳香族化合物であるクマリン等、或いは、キレート金属錯体であるRu(bpy)2+等、或いは、有機金属化合物であるトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム等、或いは、キレートランタノイド錯体などが挙げられる。
【0027】
発光層15に注入される溶液には、ECL材料の酸化・還元反応を容易に生じさせる為の支持塩が含まれることが好ましい。また、支持塩を含む場合には、この支持塩をイオンに解離させる為の溶媒(液体電解質用)、或いは、この溶媒で膨潤したゲル状の高分子(固体電解質用)が含まれることが好ましい。
【0028】
この支持塩としては、Tetrabutylammonium perchlorate、ヘキサフルオロりん酸カリウム、トリフッ化メタンスルホン酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロほう酸テトラ−n−ブチルアンモニウム、tripropyl amine、及びtetra-n-butylammonium fluoroborate等が挙げられる。
【0029】
また、溶媒としては、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、o−ジクロロベンゼン、グリセリン、水、エチルアルコール、プロピルアルコール、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、NMP、2−メチルテトラヒドロフラン、トルエン、テトラヒドロフラン、ベンゾニトリル、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、アセトン、ニトロベンゼン、1,3−ジオキソラン、フラン、及びベンゾトリフルオリド等が挙げられる。
【0030】
また、ゲル状の高分子としては、ポリアクリルニトリル(PAN)、フッ化ビニリデン(VDF)と6フッ化プロピレン(HFP)の共重合体、及びポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。
【0031】
この発光層15の形成方法は、上述の溶媒に支持塩及びECL材料を溶解させれば良く、第1電極13及び第2電極14が設けられた第1基板11と第2基板12との間に注入すれば良い。また、発光層15には、隔壁電極16を参照電極として機能させる為の塩化物イオン(Cl)が含まれる。隔壁電極16は、第1基板11上に、銀ペーストをスクリーン印刷等の塗布法で形成される。
【0032】
図10には、実施の形態に係る表示装置の画素部10の変形例が概略的に示されている。この画素部10では、図10に示されるように、第1電極23が第1基板11上に、第2電極24が第2基板12上に対向して設けられている。この電極の設置場所以外の構成は、上述した実施の形態と同一である。このような構成を有する画素部10では、表示面側となる基板及び電極は、光透過性の材料で形成され、好ましくは、可視光領域で吸収が少ない材料で形成されると良い。
【0033】
以上のように、本実施の形態に係る表示装置では、擬似直流電圧(周波数の長い交流電圧)で駆動される。この駆動電流の極性反転時には、画像データの階調に応じて印加される電圧より絶対値が大きい電圧が発光層15に印加されることで、輝度低下及びムラ等を抑えることができる。
【0034】
次に、発明者が実際に上述した実施の形態に係る表示装置を作製した実施例を説明する。
【0035】
(実施例1)
2.5インチ四方の表示装置を、以下のように作製している。実施例1では、各画素部10を図2に示される画素部10と同じ構成とし、1つの画素部10のサイズが100μm四方になるように作製している。発光層15には、単色で発光するECL材料を含む溶媒が注入されている。
【0036】
第1基板11として厚さ1.1mmのガラスからなる基板を用い、膜厚1000ÅのITO膜をスパッタにより形成し、パターニングして第1電極13及び第2電極14としている。また、第2基板12としてガラス基板を用いている。第1基板11上に高さが20μmの隔壁電極16として銀ペーストをスクリーン印刷で形成し、第1基板11と第2基板12との間を20μmのギャップを有するように対向配置し、注入口を残して基板周囲に封止接着剤であるエポキシ樹脂で固めて画素部10を作製している。
【0037】
10mM(mMは、10−3mol/lを表わす)のLiCFSOと90mMのTBAP(テトラブチルアンモニウムパークロレート)及び1mMの塩化カリウム(塩化物イオン)を支持塩として、また、10mMのrubureneをECL材料として、o−DCB(オルトジクロロベンゼン)/AN(アセトニトリル)(3/1)溶媒に溶解させている。そして、この溶媒を画素部10に注入し、発光層15としている。
【0038】
第1電極13及び第2電極14間に図6Aに示されるような擬似直流電圧を印加し、隔壁電極16を参照電極として機能させると、黄色の発光が観測され、電位の反動なく安定した動作が得られた。
【0039】
(比較例1)
実施例1との比較例として、2.5インチ四方の表示装置を、以下のように作製している。
【0040】
比較例1では、図11に示されるように画素部10を1つの画素部10のサイズが100μm四方になるように作製している。発光層35には、単色で発光するECL材料を含む溶媒が注入されている。
【0041】
比較例1では、図11に示されるように、第1基板31として厚さ1.1mmのガラスからなる基板を用い、この第1基板31上に膜厚1000ÅのITO膜をスパッタにより形成し、パターニングして第1電極33及び第2電極34としている。この第1電極33及び第2電極34は、櫛形に形成されて互いに噛み合うように配置されている。また、第1基板31上に膜厚1000ÅのAg膜をスパッタにより形成し、パターニングして20μm四方の参照電極36としている。第2基板32として、ガラス基板を用い、第1基板33と第2基板34との間を2μmのギャップを有するようにスペーサ37で保持し、第1電極33及び第2電極34を貼り合わせて表示装置を作製している。
【0042】
この画素部10の第1電極33及び第2電極34間に交流電圧を印加すると、黄色の発光が観測された。しかし、この比較例では、10%の輝度の変動が観測された。
【0043】
(実施例2)
2.5インチ四方の表示装置を、以下のように作製している。実施例2では、各画素部10を図10に示される画素部10と同じ構成とし、1つの画素部10のサイズが100μm四方になるように作製している。発光層15には、単色で発光するECL材料を含む溶媒が注入されている。
【0044】
第1基板11として厚さ1.1mmのガラスからなる基板を用い、膜厚1000ÅのITO膜をスパッタにより形成し、パターニングして第1電極23としている。同様に、第2基板12として厚さ1.1mmのガラスからなる基板を用い、膜厚1000ÅのITO膜をスパッタにより形成し、パターニングして第2電極24としている。第1基板11上に高さが20μmの隔壁電極16として銀ペーストをスクリーン印刷で形成し、第1電極23と第2電極24との間を10μmのギャップを有するように対向配置し、注入口を残して基板周囲に封止接着剤であるエポキシ樹脂で固めて画素部10を作製している。
【0045】
10mMのLiCFSOと90mMのTBAP(テトラブチルアンモニウムパークロレート)及び1Mの塩化カリウム(塩化物イオン)を支持塩として、また、10mMのrubureneをECL材料として、o−DCB(オルトジクロロベンゼン)/AN(アセトニトリル)(3/1)溶媒に溶解させている。そして、この溶媒を画素部10に注入し、発光層15としている。
【0046】
第1電極23及び第2電極24間に図6Aに示されるような擬似直流電圧を印加し、隔壁電極26を参照電極として機能させると、黄色の発光が観測され、電位の反動なく安定した動作が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る表示装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1に示した画素部を概略的に示す断面図である。
【図3】図2に示した第1電極及び第2電極に直流、交流、或いは、擬似交流電圧を印加した場合における電気化学発光反応が起こる様子を概略的に示す模式図である。
【図4】図2に示した画素部において、アニオンラジカル及びカチオンラジカルが生成、或いは、消滅する電位と電流との関係を示すグラフである。
【図5A】図2に示した画素部に印加される従来用いられてきた駆動電圧を概略的に示すグラフである。
【図5B】図2に示した画素部に図5Aに示した駆動電圧を印加した場合における第1電極に流れる電流値の時間変化を概略的に示すグラフである。
【図5C】図2に示した画素部に図5Aに示した駆動電圧を印加した場合における表示装置の輝度の時間変化を概略的に示すグラフである。
【図6】図1に示した電源部における補助電圧を概略的に示すグラフである。
【図7A】図1に示した画素部に印加される駆動電圧を概略的に示すグラフである。
【図7B】図2に示した画素部に図7Aに示した駆動電圧を印加した場合における第1電極に流れる電流値の時間変化を概略的に示すグラフである。
【図7C】図2に示した画素部に図7Aに示した駆動電圧を印加した場合における表示装置の輝度の時間変化を概略的に示すグラフである。
【図8】ECL材料に印加される電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【図9】図1に示される画素部の駆動回路の構成を示す概略図である。
【図10】図2に示した画素部の変形例を概略的に示す断面図である。
【図11】比較例に係る画素部を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1…表示部、2…走査線駆動回路、2A…電圧源、3…画素駆動回路、5…キャパシタ、6…TFT、10…画素部、11,31…基板、12,32…第2基板、13,23,33…第1電極、14,24,34…第2電極、15,35…発光層、16,…隔壁電極、36…参照電極、37…スペーサ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板上に離間して設けられる第1及び第2の電極と、
前記第1の基板に対向して設けられる第2の基板と、
前記第1の基板及び前記第2の基板を略平行に保持し、第1及び第2の電極に対して基準の電位を与える隔壁電極と、
前記第1の基板、前記第2の基板及び隔壁電極に囲まれる空間に設けられ、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を含む発光層と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する少なくとも一部の極性を周期的に反転させる駆動電圧を発生させ、前記駆動電圧の極性の反転時には、画像データの階調に応じた電圧より高い前記駆動電圧を発生させる電圧源と、
を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
第1の基板と、
前記第1の基板上に離間して設けられる第1及び第2の電極と、
前記第1の基板に対向して設けられる第2の基板と、
前記第1の基板及び前記第2の基板を略平行に保持し、第1及び第2の電極に対して基準の電位を与える隔壁電極と、
前記第1の基板、前記第2の基板、及び隔壁電極に囲まれる空間に設けられ、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を含む発光層と、から構成される画素部を有する表示部であって、
前記画素部は、マトリックス状に配列され、行毎に配線される複数の走査線及び列毎に配線される複数の信号線で接続され、前記走査線及び前記信号線の交点に対応して設けられ、前記発光層の発光により表示を行う表示部と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する少なくとも一部の極性を周期的に反転させる駆動電圧を発生させ、前記駆動電圧の極性の反転時には、画像データの階調に応じて印加される電圧より高い前記駆動電圧を発生させる電圧源を有する走査線駆動回路であって、
前記複数の走査線が接続され、入力される画像信号に基づいて前期画素部の行毎に順次駆動電圧を印加する走査線駆動回路と、
前記複数の信号線が接続され、入力される前記画像信号に基づいて前期表示素子を列毎に駆動制御する画素駆動回路と、
を具備したことを特徴とする表示装置。
【請求項3】
前記第2の電極は、前記第2の基板上に設けられることを特徴とする請求項1、或いは請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記電圧源は、前記駆動電圧の極性反転の周期が30ミリ秒乃至3分であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の表示装置。
【請求項5】
前記電圧源は、前記駆動電圧の極性反転する時期が前記走査線毎に異なることを特徴とする請求項2乃至請求項3いずれかに記載の表示装置。
【請求項6】
第1の基板と、
前記第1の基板上に離間して設けられる第1及び第2の電極と、
前記第1の基板に対向して設けられる第2の基板と、
前記第1の基板及び前記第2の基板を略平行に保持し、第1及び第2の電極に対して基準の電位を与える隔壁電極と、
前記第1の基板、前記第2の基板、及び隔壁電極に囲まれる空間に設けられ、電気化学的な酸化反応、或いは、還元反応を経て発光する発光材料を含む発光層と、から構成される表示装置であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する少なくとも一部の極性を周期的に反転させる駆動電圧を発生させ、前記駆動電圧の極性の反転時には、画像データの階調に応じた電圧より高い前記駆動電圧を印加して前記発光層を発光させることを特徴とする表示装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−60893(P2010−60893A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227002(P2008−227002)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】