説明

表示装置用ガラス基板および表示装置

【課題】
軽量であってかつ環境負荷を低減しつつ高い清澄性を有する表示装置用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】
ガラス原料バッチを溶融および清澄して、質量%表示で、SiO50〜70%、B5〜18%、Al10〜25%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO0〜10%、RO 5〜20%(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、R’O 0.20%以上2.0%以下(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を含むとともに、溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を合計で0.05〜1.5%含み、As、SbおよびPbOを実質的に含まないガラスを製造し、得られたガラスを薄板状に加工して、表示装置用ガラス基板を製造することを特徴とする表示装置用ガラス基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置用ガラス基板および表示装置に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンス表示
装置(ELD)およびフィールドエミッション表示装置(FED)などに用いられる表示
装置用ガラス基板および該ガラス基板を用いた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
薄膜トランジスタ駆動カラー液晶表示装置(TFT−LCD)を構成するガラス基板として、アルカリ成分含有ガラスを用いると、ガラス基板中のアルカリイオンが溶出してTFT特性を劣化させたり、ガラスの熱膨張係数が大きくなって熱処理時にガラス基板を破損したりする。このため、TFT−LCD用のガラス基板としては、一般に、アルカリ成分を含有しない無アルカリガラスが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、近年、液晶表示装置を初めとする表示装置は大型化の一途を辿っており、これに伴って、表示装置に用いられるガラス基板においても、例えば、ガラス基板中に残存する泡の量をより低減したり、ガラス基板の重量を軽減したりすることが求められるようになってきている。
【0005】
ガラス基板の製造過程において、ガラス基板中に泡などが残留しないようにすることを清澄処理といい、この清澄処理は、一般に、ガラス融液に清澄剤を添加することにより行われている。特に、液晶用ガラス基板の清澄剤としては、酸化ヒ素や酸化アンチモン等が好適に使用されており、これらの清澄剤においては、ガラスが低温から高温に達する際に、清澄剤を構成する金属の価数変動を伴うMO→MO+zO2↑という反応を生じ、この際に発生する酸素によって溶解による巻き込み泡を拡大して、浮上脱泡を行っている。
【0006】
しかし、清澄効果が高いことで知られる上記酸化ヒ素や酸化アンチモン等は環境に対する影響が懸念されることから、これらの使用量および排出量の削減が社会的な要請となってきている。
【0007】
このため、特許文献1においては、無アルカリアルミノボロシリケートガラス中にSnOを0.05〜2%含有させることにより、酸化ヒ素を用いることなく脱泡する方法が報告されるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−59741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、本発明者等が鋭意検討したところ、一般に、アクティブマトリクス型液晶表示装置に用いられる無アルカリアルミノボロシリケートガラスは粘性が高いため、特許文献1に記載の清澄方法では十分な清澄処理を行うことが困難であることが判明した。
【0010】
また、本発明者等が鋭意検討したところ、ガラス基板の軽量化のためにガラスの低密度化をすすめると、溶融ガラスの清澄がこれまで以上に困難になることが明らかになった。
【0011】
すなわち、本発明者等の検討によれば、ガラスを低密度化するためには、一般に酸化バリウム、酸化ストロンチウムなどの質量数が大きいアルカリ土類金属酸化物を、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどの質量数が小さいアルカリ土類金属酸化物に置換したり、または酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの網目形成酸化物に置換する方法
が有効であるが、これらの置換によって、SnO等の、溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物による清澄効果が低下してしまうことが判明した。これは、単に網目形成酸化物の増加により粘性が上昇するためだけではなく、上記置換によりガラスの塩基性度と酸化度が低下してしまうことが原因であると考えられる。
【0012】
上述した通り、価数変動する金属の酸化物による清澄作用は、初期溶解の終了したガラス融液中で高酸化数の金属が温度上昇とともに低価数に変化し、その際に酸素を放出することによって発現する。従ってその効果を得るためには、原料の初期溶解が終了してからガラス融液になるまでの間に、価数変動する金属の酸化物が十分に酸化された状態を維持していなければならない。
【0013】
しかし、価数変動する金属の酸化物は、ガラスの塩基性が高いほど酸化されやすい(すなわち、ガラスの塩基性が低いほど酸化されにくく、価数が低減し易い)という性質を有している。
【0014】
従って、軽量化のため酸化バリウム、酸化ストロンチウムなどの成分量を減らして、より塩基性度の低い酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの成分量を増やした溶融ガラスや、酸性から中性の酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の成分量を増やした溶融ガラス中では、ガラスの塩基性度が低くなってしまい、価数変動する金属の価数を維持す
ることが困難になって、十分な清澄性が得られなくなってしまう。
【0015】
価数変動する金属の酸化物において、その酸化を促進し、還元を抑制するためには、ガラス原料として酸化性の物質を用いること、具体的には原料の一部としてアルカリ土類金属の硝酸塩を使用することが考えられる。しかし、アルカリ土類金属の硝酸塩は、その分解温度が、例えば硝酸ストロンチウムで1100℃であるのに対して硝酸マグネシウムでは400℃であって、質量数の小さい金属元素の硝酸塩ほど分解温度が低いことから、硝酸塩として主に硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムを用いたガラスは、ガラス原料が溶解する極めて初期の段階で酸化能力を失ってしまう。加えて、バリウム、ストロンチウムの硝酸塩と比較してカルシウム、マグネシウムの硝酸塩は特に潮解しやすく、工業的に入手が容易な水和物は100℃以下の低温でも容易に液化してしまうため、原料中に多量に加えると、搬送ラインにおいて原料の固化や、設備への付着などを引き起こしやすく、安定した操業を行ない難い。
【0016】
従って、従来、ホウケイ酸ガラスからなる表示装置用基板においては、軽量であってかつ環境負荷を低減しつつ高い清澄性を有するものを得ることが極めて困難であるという課題を有していた。
【0017】
本発明は、このような事情の下で、軽量であってかつ環境負荷を低減しつつ高い清澄性を有する表示装置用ガラス基板および該ガラス基板を用いた表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、SiO、B、Al、RO(RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)およびR’O(R’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)を所定量含むとともに、溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を所定量含み、As、SbおよびPbOを実質的に含まないアルミノボロシリケートガラスからなる表示装置用ガラス基板によりその目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、
(1)質量%表示で、
SiO 50〜70%、
5〜18%、
Al 10〜25%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜20%、
SrO 0〜20%、
BaO 0〜10%、
RO 5〜20%
(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、
R’O 0.20%以上2.0%以下
(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)
を含むとともに、
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を合計で0.05〜1.5%含み、
As、SbおよびPbOを実質的に含まないガラスからなることを特徴とする表示装置用ガラス基板、
(2)質量%表示で、
SiO 55〜65%、
10〜14%、
Al 15〜19%、
MgO 1〜3%、
CaO 4〜7%、
SrO 1〜4%、
BaO 0〜2%
RO 5〜16%
(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、
R’O 0.20%以上2.0%以下
(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)
を含むとともに、
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を合計で0.1〜1.5%含み、
As、SbおよびPbOを実質的に含まないガラスからなる上記(1)に記載の表示装置用ガラス基板、
(3)R’Oの含有量が0.20%以上0.5%以下である上記(1)または(2)に記載の表示装置用ガラス基板、
(4)R’OとしてKOを含み、実質的にLiOおよびNaOを含まないガラスからなる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(5)溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物として酸化スズ、酸化鉄および酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種を含むガラスからなる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(6)ガラス中の酸化スズの含有量が0.01〜0.5%の範囲内にある上記(5)に記載の表示装置用ガラス基板、
(7)ガラス中の酸化鉄の含有量が0.05〜0.2%の範囲内にある上記(5)または(6)に記載の表示装置用ガラス基板、
(8)ガラス中の酸化セリウムの含有量が0〜1.2%の範囲内にある上記(5)〜(7)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(9)ガラス中における硫黄酸化物の含有量がSO換算で0質量%以上0.010質量%未満に制限されている上記(1)〜(8)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(10)ガラス中におけるハロゲン化物イオンの含有量が合計で0質量%以上0.05質量%未満に制限されている上記(1)〜(9)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(11)密度が2.49g/cm以下であるガラスからなる上記(1)〜(10)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(12)50℃から300℃までの線熱膨張係数が28×10-7〜39×10-7/℃であるガラスからなる上記(1)〜(11)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板、
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板を有することを特徴とする表示装置、および
(14)表示装置が液晶表示装置である上記(13)に記載の表示装置
を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルカリ金属酸化物および溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物をそれぞれ所定量含み、As、SbおよびPbOを実質的に含まない特定組成を有する特定のアルミノボロシリケートガラスを用いることにより、軽量であってかつ環境負荷を低減しつつ高い清澄性を有する表示装置用ガラス基板を提供することができ、また、該ガラス基板を用いた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先ず、本発明の表示装置用ガラス基板について説明する。
【0022】
本発明の表示装置用ガラス基板は、質量%表示で、
SiO 50〜70%、
5〜18%、
Al 10〜25%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜20%、
SrO 0〜20%、
BaO 0〜10%、
RO 5〜20%
(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、
R’O 0.20%以上2.0%以下
(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)
を含むとともに、
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を合計で0.05〜1.5%含み、
As、SbおよびPbOを実質的に含まないガラスからなることを特徴とするものである。
【0023】
以下、本発明の表示装置用ガラス基板を構成するガラスの組成について、詳細に説明するが、特記しない限り、%は質量%を意味するものとする。
【0024】
SiOはガラスの骨格をなす必須成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有している。その含有率が50%未満ではその効果が十分に得られず、70%を超えると、ガラスが失透を起こしやすくなり、成形が困難になるとともに、粘性が上昇してガラスの均質化が困難になる。したがって、SiOの含有率は、50〜70%であり、55〜65%が好ましく、57〜62%がより好ましい。
【0025】
はガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する必須成分である。その含有率が5%未満ではその効果が十分に得られず、18%を超えると、ガラスの耐酸性が低下するとともに、揮発が増加してガラスの均質化が困難になる。したがって、Bの含有率は5〜18%であり、10〜14%が好ましく、11〜13%がより好ましい。
【0026】
Alはガラスの骨格をなす必須成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有している。その含有率が10%未満では、その効果が十分に得られない。一方、含有率が25%を超えると、ガラスの粘性が上昇して溶解が困難になるとともに、耐酸性が低下する。したがって、Alの含有率は10〜25%であり、15〜19%
が好ましく、16〜18%がより好ましい。
【0027】
MgOおよびCaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する任意成分である。また、MgおよびCaは、アルカリ土類金属の中ではガラスの密度を上昇させる割合が小さいため、得られるガラスを軽量化しつつ溶解性を向上するためには有利な成分である。ただしその含有率がそれぞれ10%および20%を超えると、ガラスの化学的耐久性が低下する。したがって、MgOの含有率は0〜10%であり、0.5〜4%が好ましく、1〜3%がより好ましい。また、CaOの含有率は0〜20%であり、4〜7%が好ましく、5〜7%がより好ましい。
【0028】
SrOおよびBaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの溶解および清澄を促進する任意成分である。また、ガラス原料の酸化性を高めて清澄性を高める成分でもある。ただしその含有率がそれぞれ20%および10%を超えると、ガラスの化学的耐久性が低下する。したがって、SrOの含有率は0〜20%であり、1〜4%が好ましく、2〜3%がより好ましい。また、BaOの含有率は0〜10%であり、0〜6.5%が好ましく、0〜2%がより好ましく、0.5〜1%がさらに好ましい。
【0029】
ここで、RO(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)が5%未満ではガラスの粘性が高くなって溶解が困難になり、20%を超えると化学的耐久性が低下してしまう。このため、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計量であるROの含有量は5〜20%であり、5〜16%とすることが好ましく、8〜13%
とすることがより好ましい。
【0030】
特に軽量な基板を得るためには、MgO 1〜3%、CaO 4〜7%、SrO1〜4%、BaO 0〜2%を含み、ROの含有量が5〜16%であるガラスを用いることが好ましい。
【0031】
LiO、NaOおよびKOは、ガラスから溶出してTFT特性を劣化させたり、ガラスの熱膨張係数を大きくして熱処理時に基板を破損したりする成分であることから、これまで、表示装置用ガラス基板の構成成分としてはあまり用いられてこなかった。しかしながら、本発明のガラス基板においては、ガラス中に上記成分を敢えて特定量含有させることによって、TFT特性の劣化やガラスの熱膨張を一定範囲内に抑制しつつ、ガラスの塩基性度を高め、価数変動する金属の酸化を容易にして、清澄性を発揮させている。ここで、R’O(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)で表されるLiO、NaOおよびKOの合計含有量が0.20%未満では上記清澄効果が得られず、2.0%を超えると表示装置形成後にこれらの成分が溶出しやすくなり、液晶や導電膜を侵す可能性が高まってしまう。このため、R’Oは0.20%以上2.0%以下である。また、液晶用基板として好適な膨張係数を得るために、R’Oは0.20%以上0.5%以下が好ましく、0.22%以上0.35%以下がより好ましい。
【0032】
本発明のガラス基板は、R’OとしてKOを含むとともに、実質的にLiOおよびNaOを含まないガラスからなるものが好ましい。すなわち、R’Oとして、LiO、NaOおよびKOのうち、KOのみを含むものが好ましい。
【0033】
これは、LiO、NaOおよびKOの中では、塩基性の高いKOが清澄性の向上効果に最も優れているためである。また、アルカリ金属酸化物は、Bと結合してホウ酸アルカリとして揮発しやすく、特に、イオン半径の小さいLiやNaはガラス融液中での移動度が大きく融液表面から揮発しやすいことから、ガラス内部まで濃度勾配を形成してガラス表面に脈理を発生させやすい。これに対して、Kは、イオン半径が大きいためにガラス融液中での移動速度が小さく、上記のような問題を生じにくいため、この点においてもLiO、NaOおよびKOのうちKOのみを含むガラスの使用が好ましいといえる。
【0034】
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物は、ガラスの清澄のために必要な成分であり、0.05%未満ではその効果が得られず、1.5%を超えると失透や着色などの原因となることから、その合計含有量は0.05〜1.5%であり、0.1〜1.5%が好ましく、0.1〜1%がより好ましく、0.1〜0.5%がさらに好ましい。
【0035】
これら溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物としては、環境負荷が小さく、ガラスの清澄性に優れたものであれば特に制限されないが、例えば、酸化スズ、酸化鉄、酸化セリウム、酸化テルビウム、酸化モリブデンおよび酸化タングステンといった金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。上記金属酸化物のうち、有害性が少なく、LiO、NaO、KOといったアルカリ金属酸化物の共存下で特に優れた清澄効果を示す酸化スズ、酸化鉄および酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0036】
ただし、酸化スズはガラスを失透しやすくする成分であるため、清澄性を高めつつ失透を起こさせないためには、その含有量が0.01〜0.5%であることが好ましく、0.05〜0.3%であることがより好ましく、0.1〜0.2%であることがさらに好ましい。
【0037】
また、酸化鉄はガラスを着色させる成分であるため、清澄性を高めつつ表示装置として好適な透過率を得るためには、その含有量が0.05〜0.2%であることが好ましく、0.05〜0.15%であることがより好ましく、0.05〜0.10%であることがさらに好ましい。
【0038】
酸化セリウムは、その含有量が0〜1.2%であることが好ましく、0.01〜1.2%であることがより好ましく、0.05〜1.0%であることがさらに好ましく、0.3〜1.0%であることが特に好ましい。
【0039】
また、本発明のガラス基板を構成するガラスは、上記各成分の他、物性を調整する目的でその他の成分、例えば、亜鉛、リンなど任意の元素を合算で0.5%までガラス中に含有することができる。
【0040】
一方、硫酸塩などを起源とするSOも、溶融ガラス中で価数変化を伴う成分であり、溶融ガラス中でSO→SO+1/2Oという反応を生じるが、酸素を放出した後に残存するSOは、塩基性度の低いガラス融液への溶解度が非常に小さく、このため、清澄後のガラス融液に含まれるSO2は、微少な温度変化や槽壁への接触などのわずかな刺激でガス化して、新たな泡の発生源になる可能性がある。従って、本発明のガラス基板においては、ガラス中にSOおよびSOを実質的に含まないように制限することが好ましい。とりわけ、溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物としてSnOを用い、連続生産方式により溶融ガラスからガラス基板を作製する場合、ガラス中にSOを多量に含んだ泡が発生しやすいが、これは、SnOが清澄過程でOを放出してSnOを生成し、このSnOがガラス融液を成形に適した温度まで冷却する過程で強い還元剤として働き、ガラス中のSOをSOに還元することによると推測される。この時点で発生した泡は、ガラス融液の粘度が泡の浮上に十分な程度に低くないためガラス融液から除去されず、ガラス基板中に残留しやすい。このため、本発明のガラス基板を構成するガラスは、不純物として含む場合を除きガラス中にSOおよびSOを含まないように制限することが好ましく、ガラス作製時においても、原料バッチからSOおよびSO源となる硫酸塩は除くことが好ましい。具体的には、ガラス基板を構成するガラス中の硫黄酸化物の含有量がSO換算で0.010%未満であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましく、0.003%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また、As、SbおよびPbOは、溶融ガラス中で価数変動を伴う反応を生じ、ガラスを清澄する効果を有する物質であるが、これ等は環境負荷が大きい物質であることから、本発明のガラス基板においては、ガラス中にAs、SbおよびPbOを実質的に含まないように制限する。なお、本明細書において、As、SbおよびPbOを実質的に含まないとは、ガラス中におけるAs、SbおよびPbOの合計含有量が0.1%以下であることを意味する。
【0042】
また、フッ化物イオンや塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンを含むガラスを用い、連続生産方式により溶融ガラスからガラス基板を作製する場合、ガラス融液が炉の中で白金製の槽やスターラーと接触して泡発生の原因となる。これは、ハロゲン化物イオンがガラスと白金との濡れ性を低下させ、白金とガラスとの界面で前述のSOを発泡しやすく
するためであると推定される。従って、本発明のガラス基板を構成するガラスは、不純物として含む場合を除きガラス中にハロゲン化物イオンを含まないように制限することが好ましく、このため、ガラス作製時においても、原料バッチからハロゲン化物を除くことが好ましい。具体的には、ガラス基板を構成するガラス中のハロゲン化物イオンの合計量が
0.05%未満であることが好ましく、0.03%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明のガラス基板を構成するガラスは、密度が2.49g/cm以下であることが好ましく、2.46g/cm以下であることがより好ましく、2.43g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
また、本発明のガラス基板を構成するガラスは、50℃から300℃までの線熱膨張係数が28×10−7〜39×10−7/℃であることが好ましく、28×10−7〜37×10−7/℃であることがより好ましく、30×10−7〜35×10−7/℃であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明のガラス基板は、例えば、上記各成分に相当するガラス原料を秤量、調合して白金合金製の熔融容器に供給し、加熱、熔融した後、清澄、均質化して所望組成を有するガラスを作製し、その後、ダウンドロー法、フロート法、フュージョン法、ロールアウト法等の方法を用いて薄板状に加工することにより得ることができる。
【0046】
次に、本発明の表示装置について説明する。
【0047】
本発明の表示装置は、本発明の表示装置用ガラス基板を有することを特徴とするものである。
表示装置としては、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンス表示装置(ELD)およびフィールドエミッション表示装置(FED)など、特に液晶表示装置(LCD)を例示することができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜19、比較例1〜2(バッチ式によるガラス基板の製造例)
1.ガラスの作製
まず、表1および表2に示す実施例1〜19および比較例1〜2のガラス組成となるように、通常の工業用ガラス原料である、精製硅砂,酸化ホウ素、アルミナ、塩基性炭酸マグネシウム,炭酸カルシウム,硝酸ストロンチウムおよび硝酸バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムを用いて、ガラス原料バッチ(以下、バッチと呼ぶ)をそ
れぞれ調合した。なお、比較例2においては、Cl原料として塩化アンモニウム、SO原料として2水石膏を使用した。
【0049】
調合したバッチは、白金ルツボの中でそれぞれ熔融および清澄した。まず、このルツボを1550℃に設定した電気炉で2時間保持して原料を粗溶解し、その後、ルツボを1620℃に設定した電気炉に移し替え、温度を上昇させることによりガラス融液を清澄した。このルツボを炉外に取り出し、室温で放冷固化して各ガラス体を得、これ等のガラス体をルツボから取り出して徐冷操作を施した。徐冷操作は、このガラス体を800℃に設定した別の電気炉の中で30分保持した後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行なった。この徐冷操作を経たガラス体を試料ガラスとした。
【0050】
得られた各試料ガラスにおいて、密度、熱膨張係数、ガラス転移点および泡数を測定した結果を表1および表2に示す。なお、熱膨張係数、ガラス転移点および泡数は、以下の方法により測定したものである。
(熱膨張係数およびガラス転移点の測定)
上記各試料ガラスに対して通常のガラス加工技術を施して、φ5mm、長さ18mmの円柱形状のガラス試片をそれぞれ作成し、示差熱膨張計(理学株式会社製サーモフレックス TMA8140型)を用い、50℃から300℃までの熱膨張係数と、ガラス転移点を測定した。
(泡数の測定(清澄性の評価))
上記各試料ガラスを20倍の光学顕微鏡で観察し、残存する泡の数をカウントすることにより行った。ただし、ルツボ側面と接触する部分の泡はカウントから除外した。
上記各試料ガラスは、ルツボを用いた簡易な溶解処理により得られたものであるため、実際の生産ラインにおいて発生する泡の状態と比較して乖離する部分はあるが、清澄性の指標としては十分に利用できるものである。
【0051】
2.ガラス基板の製造
上記各試料ガラスを、ダウンドロー法により厚さ0.6mmの薄板状に加工して、各表示装置用ガラス基板を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1および表2より、実施例1〜19で得られたガラス基板を構成するガラスは、密度が2.37g/cm〜2.47g/cmと小さく、得られる表示装置用ガラス基板の重量を軽量化し得るものであることが分かる。また、ガラスの熱膨張係数も32.4×10−7/℃〜36.0×10−7/℃と低く、ガラス基板を熱処理する際に破損等を生じにくいため、高い歩留まりで表示装置を製造し得ることが分かる。さらに、基板を構成するガラス中にAs、SbおよびPbOを含まないため、環境負荷を低減したものであることが分かる。
【0055】
加えて、表1および表2より、実施例1〜19で得られたガラス基板を構成するガラスは、LiO、NaOおよびKOを合計で0.20〜1.40%含有し、溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物として、酸化スズ(SnO)、酸化鉄(Fe)および酸化セリウム(CeO)から選ばれる少なくとも1種を含有するものであり、ガラス中の泡数が0.7個/cm〜4.9個/cmであるものである。
【0056】
これに対して、比較例1で得られたガラスは、LiO、NaOおよびKOを含有せず、その泡数が7.9個/cmであるものである。特に実施例1〜2で得られたガラスは、比較例1で得られたガラスとの関係でKOの含有量以外の基本組成がほぼ共通するものであるが、その泡数が0.7個/cm〜1.4個/cmであることから、実施例1〜2で得られたガラスは、比較例1で得られたガラスよりも清澄性に優れたものであることが分かる。
【0057】
また、比較例2で得られたガラスは、酸化スズ(SnO)0.30%と酸化鉄(Fe)0.05%を含有するが、LiO、NaOおよびKOの合計含有量が0.18%であり、さらに、塩化物イオン(Cl)を0.49%、SOを0.30%を含有するものであって、その泡数が6.3個/cmであるものである。実施例1〜19で得られたガラスと比較例2で得られたガラスとを対比すると、実施例1〜19で得られたガラスは、その泡数が0.7個/cm〜4.9個/cmであることから、比較例2で得られたガラスよりも清澄性に優れたものであることが分かる。
【0058】
実施例20〜実施例22(連続式によるガラス基板の製造例)
表3に示す組成となるよう調合したガラス原料を、耐火煉瓦製の溶解槽と白金製の調整槽を備えた連続溶解装置を用いて、1580℃で溶解し、1650℃で清澄、1500℃で攪拌した後にダウンドロー法により厚さ0.6mmの薄板状に加工し、各表示装置用ガラス基板を得た。原料の調合に際しては、硫黄分、塩素分の少ない精製済みの工業原料を用い、炭酸カルシウムと置換する形で実施例21では2水石膏、実施例22は塩化カルシウムを添加することによりSO量、Cl量を調整した。SO、Clは製造したガラス基板をフッ酸で溶解し、SO、Clをその他の成分から化学的に分離して定量を行った。
【0059】
上記各ガラスにおいて、実施例1〜実施例19と同様の方法で泡数を測定した結果を、表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3より、実施例20で得られたガラス基板を構成するガラスは、その泡数が24×10−6個/cmであって、第7世代(1870×2200mm)以降の大型基板に十分に適用可能な高い泡品質を達成した。また、実施例21および実施例22で得られたガラス基板を構成するガラスは、SOを0.010%含んだり(実施例21)、Clを0.05%含む(実施例22)ものであるが、その泡数は120×10−6個/cm〜720×10−6個/cmであって、第6世代(1500×1850mm)以前の大型ガラスとして、十分に実用に供するものであった。
【0062】
上記実施例20で得られたガラス基板を用いて実際に液晶表示モジュールを作製して試験を行ったところ、従来の無アルカリガラスを用いたモジュールと比較してなんら問題を生じることはなく、本発明のガラス基板が従来の無アルカリガラスの代替として利用可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の表示装置用ガラス基板は、軽量であってかつ環境負荷を低減しつつ高い清澄性を有するものであるため、例えば、TFT−LCD等の表示装置に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料バッチを溶融および清澄して、質量%表示で、
SiO 50〜70%、
5〜18%、
Al 10〜25%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜20%、
SrO 0〜20%、
BaO 0〜10%、
RO 5〜20%
(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、
R’O 0.20%以上2.0%以下
(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)
を含むとともに、
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を合計で0.05〜1.5%含み、
As、SbおよびPbOを実質的に含まないガラスを製造し、得られたガラスを薄板状に加工して、表示装置用ガラス基板を製造することを特徴とする表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
質量%表示で、
SiO 55〜65%、
10〜14%、
Al 15〜19%、
MgO 1〜3%、
CaO 4〜7%、
SrO 1〜4%、
BaO 0〜2%、
RO 5〜16%
(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である)、
R’O 0.20%以上2.0%以下
(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種である)
を含むとともに、
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物を合計で0.1〜1.5%含み、
As、SbおよびPbOを実質的に含まないガラスからなる請求項1に記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
R’Oの含有量が0.20%以上0.5%以下である請求項1または請求項2に記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
R’OとしてKOを含み、実質的にLiOおよびNaOを含まないガラスからなる請求項1〜請求項3のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
溶融ガラス中で価数変動する金属の酸化物として酸化スズ、酸化鉄および酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種を含むガラスからなる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
ガラス中の酸化スズの含有量が0.01〜0.5%の範囲内にある請求項5に記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
ガラス中の酸化鉄の含有量が0.05〜0.2%の範囲内にある請求項5または請求項6に記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
ガラス中の酸化セリウムの含有量が0〜1.2%の範囲内にある請求項5〜請求項7のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
ガラス中における硫黄酸化物の含有量がSO換算で0質量%以上0.010質量%未満に制限されている請求項1〜請求項8のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
ガラス中におけるハロゲン化物イオンの含有量が合計で0質量%以上0.05質量%未満に制限されている請求項1〜請求項9のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
密度が2.49g/cm以下であるガラスからなる請求項1〜請求項10のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項12】
50℃から300℃までの線熱膨張係数が28×10-7〜39×10-7/℃であるガラスからなる請求項1〜請求項11のいずれかに記載の表示装置用ガラス基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載の方法により得られた表示装置用ガラス基板を有することを特徴とする表示装置。
【請求項14】
表示装置が液晶表示装置である請求項13に記載の表示装置。




【公開番号】特開2010−235444(P2010−235444A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148885(P2010−148885)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【分割の表示】特願2008−26871(P2008−26871)の分割
【原出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】