説明

表示装置

【課題】有機EL素子を用いた表示装置において、有機化合物層よりも高い屈折率の透明層を伝播する伝播光を効率的に外部に取り出しながら、表示装置として問題となる表示像のにじみを低減する。
【解決手段】画素8内に異なる発光色を発光する複数の副画素を有し、各副画素が有機EL素子を備えた表示装置において、有機EL素子の光出射側に、有機EL素子の有機化合物層4よりも屈折率の高い高屈折率透明層6を有し、さらに、該高屈折率透明層6の光出射側であって副画素の外周に光取り出し構造物7を有し、画素8内の隣り合う二つの副画素の反射電極2の間隔よりも、隣り合う二つの画素8に含まれる最近接の副画素の反射電極2の間隔を広く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子を備えた表示装置に関するものであり、特に、1画素が異なる色を発光する複数の副画素からなる、フルカラー表示の表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数ボルト程度の低駆動電圧で自己発光する有機発光素子が注目を集めている。有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、面発光特性、軽量、視認性といった優れた特徴を活かし薄型ディスプレイや照明器具、ヘッドマウントディスプレイ、また電子写真方式プリンタのプリントヘッド用光源など発光装置としての実用化が進みつつある。
【0003】
有機EL素子は、有機材料からなる発光層やその他の機能分離された複数の有機材料からなる層を陽極及び陰極で挟んだ構造を有しており、少なくとも一方の光出射側の電極は透明である。この積層構造ゆえに、発光層の屈折率や光出射側の媒質、最終的な光の放出が行われる空気の屈折率で決定される各界面における臨界角以上の方向に進行する光は、全反射を受けて素子内部に伝播光として閉じ込められる。伝播光は素子内部の有機化合物層及び金属電極により吸収され、外部に取り出されなくなり、光取り出し効率が低下する。
【0004】
光取り出し効率改善を目的として、伝播光を外部に取り出すために、光出射側の表面に微細凹凸構造或いはレンズ構造など、光の進行方向を変化させ全反射条件を破る方法が多く提案されている。特に、改善効果が高い方法として、透明電極の光出射側に接して屈折率が発光層と同等以上の透明層を設け、更に、この透明層の光出射側もしくは内部に光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域を設ける方法が提示されている(特許文献1参照)。
【0005】
この方法は、古典的なスネルの法則によれば発光層で発光した光の約80%を占める発光層内の伝播光を、発光層よりも高屈折率である高屈折率透明層に引き込むことで、透明層内の伝播光に変換する。その伝播光を透明層の表面もしくは内部の光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって外部に取り出せるようにしている。
【0006】
しかしながら、こうした高屈折率透明層内に光を伝播させる方法にはディスプレイなど表示装置に適用する場合に特有の課題が生じる。高屈折率透明層に導かれ光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって最終的に空気に出射する光は本来であれば全反射されていた臨界角以上の角度で進行する光を含む。従って、高屈折率透明層の厚さに起因した視差により実際の発光点とは異なる位置からの発光と認識されるため表示像のにじみの問題が発生する。これに対しては、高屈折率透明層ではないものの、光が伝播する基板の厚みを画素サイズの一定割合以下に抑える方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
更に、高屈折率透明層に導かれた光が反射・散乱角に乱れを生じさせる領域に入射した際に、必ずしも一回の入射で空気側に取り出されるわけではない。反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって進行方向を変えた光であっても、高屈折率透明層と空気界面の臨界角以上の角度に進む光は再度、全反射を受けて高屈折率透明層内を伝播する。この結果、光は高屈折率透明層内を横方向に伝播し、いずれ全反射条件が破れた発光点とは離れた位置で空気側に出射することになるため、やはり、表示像のにじみの問題が発生する。特に透明層の屈折率が高いほど、高角度成分の光が多いため反射・散乱角に乱れを生じさせる領域に入射する回数が減少、空気側に取り出されるまでの横方向の導波距離が長くなり、問題が顕著になる。
【0008】
一方これを抑制する為に副画素間に光の導波を抑制する手段を設けた場合、光取り出し効率そのものが低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−296429号公報
【特許文献2】特開2005−322490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機EL素子を用いた表示装置において有機化合物層よりも高い屈折率の透明層を伝播する伝播光を効率的に外部に取り出し、表示像のにじみを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、有機EL素子を用いた表示装置において、透明層を横方向に伝搬する光が、反射・散乱角に乱れを生じさせる領域と反射層との反射を繰り返すことにより生じ、画像のボケ、滲みとなることに着目し、本発明を達成した。
【0012】
即ち本発明は、異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、
前記副画素がそれぞれ、反射電極である第1電極と、第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子を備えた表示装置であって、
前記有機EL素子の光出射側に、前記有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を有し、
前記高屈折率透明層の光出射側に光取り出し構造物を有し、
前記高屈折率透明層の上に設けられた光取り出し構造物が各副画素の外周部を取り囲んで設けられ、
前記画素内の隣り合う二つの副画素の反射電極の間隔よりも、隣り合う二つの画素に含まれる最近接の副画素の反射電極の間隔が広いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光取り出し効率を向上させつつ表示像のにじみが低減された表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の表示装置と該表示装置に用いられる有機EL素子の好ましい実施形態の構成を模式的に示す断面模式図である。
【図2】本発明の表示装置における光取り出し構造物の平面配置と断面を示す模式図である。
【図3】本発明の表示装置の画素内の副画素間領域において隣り合う副画素に向かう光の反射の様子を示す模式図である。
【図4】本発明の表示装置の画素間の副画素間領域において隣り合う副画素に向かう光の反射の様子を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例1の表示装置の反射電極と光取り出し構造物の平面配置を模式的に示す図である。
【図6】本発明の比較例1の表示装置の反射電極と光取り出し構造物の平面配置を模式的に示す図である。
【図7】本発明の表示装置において、副画素をデルタ配置した場合の平面レイアウトを示す模式図である。
【図8】3λ/4干渉条件における透明層内の有機EL素子の放射強度分布を示す図である。
【図9】隣り合う画素への伝播光の伝播を抑制するための条件の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の表示装置は、互いに異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、各副画素がそれぞれ有機EL素子を備えている。有機EL素子は、第1電極上に発光領域を備えた発光層を含むいくつかの有機化合物層と第2電極とを有している。そして有機EL素子は、該第1電極と第2電極間に電圧を印加して有機化合物層に注入された正孔と電子が再結合する際に生じるエネルギーを利用して発光する素子である。本発明において第1電極は反射電極であり、第2電極は透明電極である。また、第1電極と第2電極の一方は陽極、他方は陰極である。本発明の表示装置は、第1電極として反射電極を支持基板上に形成し、透明電極側から発光を取り出す。本発明の表示装置は、有機EL素子内で発光した光を効果的に外部に取り出すために、透明電極に隣接して有機化合物層よりも高い屈折率を有する高屈折率透明層が設けられている。更に、高屈折率透明層に隣接して光を取り出すための光取り出し構造物が配置されている。係る構成により、発光層からの光は大部分が全反射せずに光取り出し構造物まで達し、効果的に外へ取り出されることになる。
【0016】
本発明においては表示上のにじみという問題を低減するために、画素内での反射電極の間隔よりも、画素間領域での反射電極の間隔を広く設定する。それによって、画素間領域で混色することによる表示像のにじみを抑制することが本発明の特徴である。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(a)は本発明の表示装置の一実施形態の断面模式図である。本例では、紙面左右方向に3つの青、緑、赤の光の三原色をそれぞれ発光する副画素で1つの画素8が構成されている。尚、図1(a)の構成では、画素間のクロストーク、ショート、電極配線の断線などの回避、又は電極間を絶縁して発光領域を限定するために、隔壁3を設けているが、なくても構わない。また、本発明の表示装置では副画素の発光領域は後述する支持基板1側に形成された、パターニングされた反射電極2の面積で決まる。隔壁3を設けた場合には、隔壁3の開口部をもって発光領域が規定され、本発明において副画素領域とは係る発光領域をもって規定する。
【0018】
各副画素は、それぞれの発光色を発光する有機EL素子からなる。図1(a)においては、支持基板1上にそれぞれ第1電極として反射電極2を有し、該反射電極2上に有機化合物層4を備え、さらに光出射側に第2電極として透明電極5を備えている。有機化合物層4はそれぞれ、副画素の発光色に応じた発光を行う発光層を備えている。透明電極5は表示領域全体にわたって連続して形成されており、その光出射側(支持基板1とは反対側)に、有機化合物層4よりも屈折率の高い高屈折率透明層6を有している。そしてさらに、高屈折率透明層6の光出射側に光取り出し構造物7を備えている。
【0019】
各副画素に用いられる有機EL素子の断面構造の構成例を図1(b)に示す。支持基板1上に設けられた第1電極として反射電極2及び透明電極11と、第2電極としての透明電極5との間に、発光層を含むいくつかの有機化合物層があり、発光効率、駆動寿命、光学干渉などの観点から様々な積層構成があることはよく知られている。尚、図1(a)では第1電極として反射電極2のみを示したが、図1(b)の構成では第1電極を反射電極2と透明電極11とで構成しており、本発明では反射性を有する電極構成であればいずれの構成でも構わない。
【0020】
図1(b)の例では、有機化合物層4として、正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16を設けた構成を示す。本発明は、各層に含まれる材料には限定されない。例えば、発光層14を構成する材料は、蛍光材料、燐光材料のいずれでもよく、ホスト材料、発光材料の他に、少なくとも一種類以上の化合物が素子性能向上のために含まれていてもよい。また、正孔輸送層13は電子ブロック層として機能してもよく、電子輸送層15は正孔ブロック層として機能してもよい。
【0021】
有機化合物層4のうち、発光層14の発光位置と反射電極2の反射面との間の膜厚を調節することで、発光層14内部の放射分布を制御することができる。表示装置としては特に正面方向の輝度が高くなるように各有機化合物層の膜厚を設定することで、光学干渉により発光色も制御され、より高効率に正面方向に光が放出されるようになる。より具体的には、発光層14の発光位置から透明電極11と反射電極2の界面までの光学距離を発光波長のn/4(n=1、3、5、・・・)に調整することで、発光層14から光取り出し方向に向けた正面輝度をより高めることができる。尚、有機化合物層4全体としては、通常、150nm乃至350nmである。
【0022】
光取り出し効率を高めるためには反射電極2の反射率はより高い方が好ましい。例えば、反射電極2の材料としては、アルミニウム(Al)電極よりも銀(Ag)電極の方が好ましい。更に反射率を高める手段として誘電多層膜ミラーのように屈折率の異なる層を積層する手法を用いてもよい。
【0023】
図1の例では第2電極に透明電極5を用いることで素子内に発光が閉じ込められなくなり、この透明電極5の光出射側に高屈折率透明層6を設けることで、閉じ込め及び全反射することなく、光取り出し構造物7へ光が取り出されてくる。即ち、高屈折率透明層6と空気或いは別の媒体などとの間で起こる全反射を光取り出し構造物7を設けることで回避し、効果的に内部の光を外部に取り出すことができる。このようにして、有機EL素子の光取り出し効率は通常20%程度と言われるものが飛躍的に向上する。
【0024】
また第2電極の透明電極5に代わって半透明電極を用いてもよい。その場合は第2電極の反射率が上昇し、光学共振器としての特性が発現してくる。しかしながら発光層14からの高角度放射光成分は、程度は少なくても発生している。ゆえに、透明電極5に比べて光取り出し効率の増加は小さいが効果はあるといえる。第2電極が透明かどうかそのものに特に限定されるものではない。
【0025】
高屈折率透明層6は水蒸気や酸素などのガスの侵入に対するバリア層として用いてもよい。バリア層として機能するには用いる材料にもよるが、数μm程度の膜厚であればよい。好ましい膜厚は光取り出し構造物7のサイズにもよるため、規定する必要はない。高屈折率透明層6の膜厚が大きいと該高屈折率透明層6中を長距離伝播し易くなり、隣の画素4上の光取り出し構造物7から光が取り出されやすくなるので好ましくない。高屈折率透明層6の膜厚は、光取り出し効率の向上という点では、好ましくは0.5μm以上10.0μm以下である。
【0026】
有機化合物層4の屈折率は材料によっても変化するが、概ね青の発光領域で1.6乃至2.0、緑では1.5乃至1.9、赤では1.5乃至1.8程度である。従って高屈折率透明層6は、青、緑、赤の各発光領域それぞれで少なくとも有機EL素子に用いる有機化合物層4よりも高い屈折率であればよい。
【0027】
また、高屈折率透明層6としては、酸化チタンや酸化ジルコニウム、酸化亜鉛などが挙げられる。しかしながらこれらの材料を加工するとなると困難である。本発明において高屈折率透明層6は窒化ケイ素膜(SiNx)などが好ましい。窒化ケイ素膜(SiNx)の元素組成及び元素組成比は特に限定されるものではなく、窒素、ケイ素を主成分としてその他の元素が混合されていてもよい。窒化ケイ素膜を得る成膜プロセスとしてはCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。窒化ケイ素膜は成膜条件、例えば基板温度や成膜速度などによっても、光学定数は変化するが、本発明においては有機化合物層4よりも高い屈折率を有する透明層であればよい。高屈折率透明層6の光透過率は、可視光域で85%以上が好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0028】
本発明に係る光取り出し構造物7は高屈折率透明層6を直接加工して形成され、高屈折率透明層6と光取り出し構造物7の間には屈折率の差を無くすことが好ましい。
【0029】
光取り出し構造物7はピラミッド型や円錐型、メサ型等のプリズムやレンズ、或いは回折格子等が用いられる。より好ましくは、図2に示す様に、三角の断面構造を持つ取り出し構造が、副画素を囲む様に配置されると良い。特に頂角が120°乃至140°程度の三角形の断面の光取り出し構造物は、取り出された光が正面に向かうことが見出されており、素子の正面輝度を向上させるために、より有効である。尚、図2及び後述する図3,図4においては、便宜上、反射電極2よりも光出射側に形成された透明電極11、有機化合物層4、透明電極5、高屈折率透明層6を透明層9として示す。
【0030】
本発明において、光取り出し構造物7は、副画素の外周部を取り囲んで設けられる。好ましくは、副画素の反射電極2の端部と、光取り出し構造物7の最外周部とが、平面上で一致するように構成する。
【0031】
該光取り出し構造物7の製造方法については、特に限定するものではないが、例えばフォトリソグラフィによってSiNxなどの膜上にレジストパターンを形成後、ドライエッチを行って所望の構造に形成してもよい。ナノインプリントによって所望のモールドのパターンをSiN上に転写した後、ドライエッチによってSiNxを加工してもよい。
【0032】
副画素間領域上に光取り出し構造物7が設けられていると、該副画素間領域に、該副画素間領域に隣り合う副画素の発光が侵入し取り出されることになる。しかしながら、画素8内の光取り出し構造物7によって起こる混色、例えば、青、緑、赤の間での混色は階調制御された色同士の加法混色なので、所望の色度を得るための制御に対して影響は与えない。むしろ隣り合う副画素へ伝播した光を取り出すことができるため、取り出し効率が向上するという利点がある。
【0033】
一方、画素間領域上に設けられた光取り出し構造物7からは、それぞれ別の階調制御された副画素の発光が混ざり合うことになる。例えば互いに異なる画素8に含まれ、画素間領域を挟んで隣り合う赤色副画素と青色副画素の混色は、それぞれの副画素の階調制御が取り出したい発光色に合わせたものにならないため、全く意図しない加法混色された光として取り出される。
【0034】
本発明においては、ここで、画素8内の副画素間、つまり隣り合う二つの副画素の反射電極2の間隔よりも、隣り合う二つの画素にそれぞれ含まれる最近接の副画素の反射電極2の間隔が広く構成されている。このような構成とすることで、画像のボケ、滲みを抑制しながら取り出し効率の改善を図ることができる。
【0035】
これについて図3,図4を用いて詳しく説明する。図3,図4はそれぞれ、図1(a)中のA部分、B部分の拡大模式図であり、隣り合う副画素間で光が伝播する様子を模式的に示した図である。
【0036】
図3のように同一画素内の隣り合う副画素間においては反射電極2の間隔を狭く設定する。この場合には、隣の副画素へ進んだ光の殆どは、反射電極2と光取り出し構造物7との間の透明層9内で反射を繰り返しながら進んだ後に外部に取り出される。よってこのような構造の場合、隣に位置する副画素の光取り出し構造物7を用いて発光した光を取り出すことができ、取り出し効率を高めることができる。また、上記のように副画素間の間隔が狭いのは画素内であることから、画像のボケや滲みの要因とならない。
【0037】
一方、図4のように、隣り合う画素にそれぞれ含まれ、互いに隣り合う副画素については、反射電極2の間隔を広く設定する。この場合には、隣の画素の副画素に伝播した光は、副画素間領域で反射電極2がないため、ほとんどの光が支持基板1側へ導かれ、外部に取り出されない。これにより当該画素で発した光が、隣の画素で取り出されることがなく、画像のボケや滲みを抑制できる。
【0038】
つまり、画素内で隣の副画素に伝播する光はできるだけ光出射側に反射するように、反射電極2のない領域を狭くし、画素外に伝播した光は、画素間領域で光出射側に反射しないように反射電極2のない領域を広くした構成となっている。
【0039】
次に、光取り出し構造を画素周辺部に配置する効果について述べる。前述した通り、副画素内で発光した光の内、透明層と空気の界面で全反射される光は、反射電極2と空気界面との反射を繰り返し、副画素端部へ進む。副画素端部へ進んだ光は、副画素端部に配置された光取り出し構造物7と下部に配置された反射電極2により、複数回反射により角度変換され外部に取り出される。つまり、光取り出し構造物7で角度変換をするには、反射電極2が必要であり、光取り出し構造物7の下部に配置されている必要がある。
【0040】
一方、光取り出し構造物7で取り出されなかった光は、反射電極2がある場合には、空気界面との反射を繰り返し、隣接画素で取り出されることになる。よって隣接画素への光伝搬を抑制する為には、画素間領域に反射電極2が形成されないのが良い。
【0041】
つまり隣接画素への光漏れを防止しつつ、光取り出し効率を向上させるには、光取り出し構造物7の外周端部と、反射電極2の外周端部が平面配置において、略一致する様に配置することが好ましい。
【0042】
尚、このような効果はストライプ状の画素配置以外にも、図7の様なデルタ配置や、4色の画素配置等の画素配置にも適用でき、画素配置に制限はない。
【0043】
次に、透明層9(透明電極11、有機化合物4、透明電極5、高屈折率透明層6)の厚さと副画素間の間隔(隣り合う反射電極2の間隔)について述べる。
【0044】
前述のように光取り出し構造物7と反射電極2との反射を繰り返して伝播光が進む場合、反射電極2と光取り出し構造物7との間の膜厚、つまり透明層9の膜厚が厚い程、1回の往復で進む距離が長くなる。よって透明層9の膜厚が厚い場合には、画素間領域の副画素間の間隔も広く設定すると良い。
【0045】
一般に、有機EL素子の正面の放射強度が極大となる干渉条件として、発光領域と反射電極2の光学膜厚がλ/4(λ:発光波長)の奇数倍とすることが知られている。これらの干渉条件に応じて透明層9内における有機EL素子の放射強度分布が変化することが知られている。例えば発光領域と反射層の干渉条件を3λ/4とした場合、図8の様な放射強度分布となる。即ち、正面方向に一次極大があると共に高角側60°近傍にも放射強度の極大がある。この放射光が主に伝播成分となるため、隣り合う画素からの伝播光の取り出しを抑制するためには、少なくともこの角度で反射を繰り返す光の伝播を抑制する必要がある。
【0046】
図9に示す通り、隣り合う画素間での光の伝播を抑制するためには、次の条件が好ましい。有機EL素子の透明層9内における放射強度分布において、正面放射(基板法線方向)以外の放射強度の極大が現れる方向と基板法線とのなす角度をθ、反射電極2から高屈折率透明層6の光出射面との距離をd、隣り合う反射電極間の間隔をWとすると、
tanθ<W/2d
となるようにd、Wを設定するとよい。尚、図9においては便宜上、透明層9上に形成される光取り出し構造物7の図示を省略している。また、高屈折率透明層6と光取り出し構造物7とが一体で形成されている場合には、光取り出し構造物7の光出射面の最も支持基板1に近い位置が高屈折率透明層6の光出射面に相当する。
【0047】
副画素の開口形状(隔壁3の開口形状)は長方形に限定されるものではなく、円形であってもよい。例えば光が3次元に等方的に放射されるので、円形の開口に対して光取り出し構造物7が有効に配置できる。
【0048】
尚、本発明の表示装置を駆動するための回路、配線、及び用いるTFTの配置や特性は特に規定するものではなく、必要な性能を得るために所望の設計を施し具備してもよい。
【0049】
また、本発明の表示装置では光取り出し構造物は素子内部に閉じ込められる光を外に取り出すためのものであり、該光取り出し構造物上を更にガラスキャップや板ガラスなどの封止ガラスで封止してもよい。該封止ガラス上には色度の改善のためのカラーフィルタや、外光反射低減のために円偏光板を具備してもよい。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
実施例1として、図1(b)の断面構造の有機EL素子を持ち、図1(a)に示すように副画素が隔壁3で分断され、図5に示すように副画素及び画素が配置された構成の表示装置を、以下に示す方法で作製した。尚、図5中、21R,21G,21Bはそれぞれ青色副画素、緑色副画素、赤色副画素の開口部(発光領域)であり、副画素それぞれが有機EL素子により構成されている。また、2R,2G,2Bは青色副画素、緑色副画素、赤色副画素の反射電極、8a,8bはそれぞれ画素である。
【0051】
先ず、支持体としてのガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路(不図示)を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜(不図示)を形成して支持基板1とした。次に、支持基板1上に、反射電極2として、スパッタリングによりAg合金を約150nmの膜厚で形成した。Ag合金からなる反射電極2は、可視光の波長域(λ=380nm乃至780nm)で分光反射率80%以上の高反射膜である。さらにスパッタリングにより透明電極11として厚さ50nmのITO(Indium Tin Oxide)を成膜した。この後、隔壁3としてポリイミド系樹脂をスピンコートし、フォトリソグラフィによって所望の各副画素に開口部21R,21G,21Bを設けた。
【0052】
このあと、各有機化合物層4を順次、真空蒸着法により成膜して積層した。厚さは200nmであった。本表示装置では各発光色において、発光層14から反射電極2までの光学膜厚が、各発光色波長の3/4に相当するように正孔輸送層13の膜厚を変えた。青色は蛍光材料を、緑色及び赤色に関してはより高い内部量子効率が期待できる燐光材料を発光層の発光ドーパンとして用いた。各副画素の有機化合物層のうち最も屈折率の高い層の屈折率は、青色副画素が1.86、緑色副画素が1.80、赤色副画素が1.78であった。
【0053】
次に透明電極5として、厚さ50nmのIZO(Indium Zinc Oxide)をスパッタリングにより4μm成膜した。その後、高屈折率透明層6としてCVD法により窒化ケイ素(SiN)膜を成膜した。このSiN膜の屈折率は450nmで1.89、520nmで1.88、620nmで1.86であった。よって、いずれの副画素においても有機化合物層4よりも屈折率が高かった。
【0054】
このSiN膜上にヘキサメチルジシラザンをスピンコートして表面を改質した後、フォトレジストのAZ1500をスピンコートし、約2.5μmの膜厚を得た。図5の光取り出し構造物7に相当するフォトマスクでマスクアライナーMPA−600FAにより露光を行った。次いで、AZ312MIF現像液によって現像し、レジストパターンを得た。これを120℃で3分間のポストベークを行い、レジスト形状をリフローさせた。これを四フッ化炭素と酸素によるドライエッチによりレジストパターンごとSiNをエッチングすることで各副画素を囲むよう光取り出し構造物7にSiN膜を加工した。この時、有機化合物層4よりも屈折率の高い高屈折率透明層6の膜厚は1.0μm、光取り出し構造物7の高さは2.3μm、幅は10μmで頂角は約130°、断面は二等辺三角形に近い形状であった。
【0055】
ここで光取り出し構造物7の平面配置は、図5の通りである。即ち、画素内の副画素間では、光取り出し構造物7の外側まで、反射電極2が形成されており、画素間における副画素間では、反射電極2の外周端と光取り出し構造物7の外周端が一致する様に配置されている。
【0056】
ところで、副画素と副画素の間の領域上に光取り出し構造物7が設けられていると、隣の副画素の色が互いに侵入し取り出されることになる。しかし、画素領域内の光取り出し構造物によって起こる混色、例えば、赤、緑、青の間での混色は階調制御された色同士の加法混色なので、所望の色度を得るための制御に対して影響はない。
【0057】
一方、画素間領域上に設けられた光取り出し構造物からは、それぞれ別の階調制御された副画素間の色が混ざり合うことになる。たとえば第一の画素領域内にある赤の副画素と第一の画素の隣にある第二の画素領域内にある青の副画素が隣り合った場合の混色は、階調制御が同期していないため、まったく意図しない加法混色された光として取り出されてくる。
【0058】
図5のような画素レイアウトにおいて、例えば、画素8aと画素8bについて考える。画素8aに属する赤、緑、青の各副画素に対応する反射電極は2R,2G,2Bである。画素内に対応する反射電極2Rと2Gの間、2Gと2Bの間は、反射電極が、光取り出し構造物7の外側まで形成されており、反射電極間の間隔は2μmに設定した。一方、画素8bに属する赤、緑、青の各副画素に対応する反射電極2Rと、画素8aに対応する反射電極2Bの間では、光取り出し構造物7の端部と、反射電極の端部が一致する様に形成されている。これらの間隔は、画素内の各副画素に対応する反射電極間よりも広く設定し、本実施例では、15μmとした。
【0059】
本例における透明層9(透明電極11、有化合物層4、透明電極10、高屈折率透明層6)の膜厚dはITO膜+有機化合物層+IZO膜+高屈折率透明層=50nm+200nm+50nm+1.0μmで、合計1.3μmであった。θは60°であった。よって、tanθは1.73であり、Wは15μmであるから、W/2d=5.8であり、tanθ<W/2dの関係を満たしている。
【0060】
以上のように作製した表示装置のにじみ程度を確認するために、青空を背景に人物の画像を表示し皮膚などの白色系の部位の輪郭部の発光色を確認した。本実施例によって得られた表示像の人物の輪郭部にはにじみにゆらいする発光色の変化はみられなかった。
【0061】
(比較例1)
図6に示すように、反射電極の端部が全て光取り出し構造物7の外周部よりも外側になるようにし、反射電極間の間隔を全て2μmとする以外は実施例1と同様にして表示装置を作製した。
【0062】
このように作製した有機EL表示装置のにじみ程度を確認するために、青空を背景に人物の画像を表示し皮膚などの白色系の部位の輪郭部の発光色を確認した。本実施例によって得られた表示像の人物の輪郭部にはにじみにゆらいする発光色の変化はみられ、青紫色のにじみが輪郭部に視認された。
【符号の説明】
【0063】
2,2R,2G,2B:反射電極、4:有機化合物層、6:高屈折率透明層、7:光取り出し構造物、8,8a,8b:画素、14:発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、
前記副画素がそれぞれ、反射電極である第1電極と、第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子を備えた表示装置であって、
前記有機EL素子の光出射側に、前記有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を有し、
前記高屈折率透明層の光出射側に光取り出し構造物を有し、
前記高屈折率透明層の上に設けられた光取り出し構造物が各副画素の外周部を取り囲んで設けられ、
前記画素内の隣り合う二つの副画素の反射電極の間隔よりも、隣り合う二つの画素に含まれる最近接の副画素の反射電極の間隔が広いことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記反射電極から前記高屈折率透明層の光出射面までの距離をd、隣り合う二つの画素に含まれる最近接の副画素の反射電極の間隔をW、前記有機EL素子の前記反射電極から前記高屈折率透明層の光出射面までの透明層内における放射強度分布において、基板法線方向を除く放射強度の極大が現れる方向の基板法線からの角度をθとした時、tanθ<W/2dの関係を満たす請求項1に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−73887(P2013−73887A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214141(P2011−214141)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】