説明

表裏判別装置及び光学物品測定装置

【課題】構造が簡単であり、正確に光学物品の表裏を判定できる表裏判別装置及び光学物品測定装置を提供する。
【解決手段】光学物品1の片面をセットするセット面が形成された基部21と、この基部21に形成され一端部がセット面に開口された吸引孔と、この吸引孔の他端部に連通される真空ポンプ24と、この真空ポンプ24で光学物品1の凹部を吸引する際の吸引孔及びチューブ22の内部圧力と光学物品1の凹部が設けられていない片面を吸引する際の吸引孔及びチューブ22の内部圧力とに基づいて閾値を設定し、この閾値を超えているか否かで光学物品1の表裏を判別する判別機構25とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面と裏面とがそれぞれ平面状に形成されるとともに表面又は裏面に互いに対向する一側辺から他側辺にかけて連続した凹部が形成された板状の光学物品の表裏を判定する表裏判別装置及びこの装置を備えた光学物品測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長板、その他の複屈折性を有する板状の光学物品の検査をする装置がある。
この装置は、基部に光学物品をセットし、その状態で検査用光を照射し、光学物品を透過した光で検査する。
検査対象である光学物品が複屈折性を有するので、セットした位置が正しくないと、光学特性の検査結果が誤ったもとのなる。そのため、光学物品を基部にセットする際に、作業員は、光学物品の表面又は裏面の光学有効領域から外れた位置に予め形成された直線状の溝を目印にする。
しかし、光学物品は透光性であるため、溝が手元側に位置するか先方に位置するかの判別は容易に行えるが、溝が表面に形成されているのか裏面に形成されているのか判別が簡単に行えず、検査を担当する作業員には熟練が必要とされている。
そこで、作業員の熟練度にかかわらず光学部材の表裏面が簡単に判別できる装置が望まれている。
【0003】
種々の被判別対象物の表裏面を判別する装置として特許文献1,2に記載されたものが知られている。
特許文献1に記載された従来例は、パレット上に配列されている片面に窪みが形成され他面が平面であるワークの表裏を判別する装置である。この装置は、ワークと接触する部分の幅がワークの窪みの幅よりも狭くされかつワークと接触する部分の中央部に吸着孔が形成されるとともに昇降自在に支持された吸着パッドと、この吸着パッドがワークを吸着したときの吸着圧力を検出する吸着圧力検出手段とを備えている。表裏判定に際して、吸着パッドが下降し、吸着パッドにワークの平面が対向している場合には、吸着パッドの吸引孔開口がワークの平面と密着して吸着圧力が大きくなり、吸着パッドにワークの凹み底面が対向している場合には吸引孔開口がワークの凹み底面と離れているので、吸着圧力が小さくなる。
【0004】
特許文献2に記載された従来例は、表面と裏面とにおいて密着性に差違のある被判別対象品の表裏判別装置である。この装置は、被判別対象品の片面を合わせてセットするベース面と、このベース面に開口した吸引スリットと、このスリットに接続された真空装置と、あらかじめ閾値を設定し、この閾値に対して真空装置を駆動してスリットから吸引される空気圧とを比較演算し、この空気圧が閾値を超えた場合又は超えない場合を基準として被判別対象品の表又は裏を判断する表裏判別回路とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−206260号公報
【特許文献2】実用新案登録第3156592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の従来例では、判別対象が片面の中央部分に凹みがあるワークに特化したものであり、凹みの中央部分の矩形状底面のサイズが底面に隣接する4つの側壁のサイズに比べて大きいものでないと表裏を判別できないという課題がある。
さらに、ワークの表裏判定のために、ワークに対して吸着パッドを約0.1mmの距離になるまで下降させる必要があるので、吸着パッドの位置決めのための複雑な制御機構が必要となる。吸着パッドにワークの凹み底面が対向している場合であっても、吸着パッドの下降量が大きいと吸引孔開口がワークの凹み底面と密着することになり、ワーク平面を吸着した場合と同じ大きな吸着圧力を検出してしまう。
【0007】
特許文献2の従来例では、表裏判別対象は長手方向の一端部に折り返しがあるとともに他端部に開口が形成された繊維製ストラップであり、この形態のストラップの表裏を判定するために吸引スリットの形状が複雑なものとなる。つまり、折り返しの長さは定まっていないので、その折り返しの長さに対応させるために、吸引スリットのベース部側の開口を長円状に形成しなければならない。
さらに、ストラップは繊維製であるため、ストラップの折り返しのない側の平面部が吸引スリットの開口を塞いだ状態でセットされた場合、このまま吸引スリットから吸引すると、繊維を通し外気が吸引されることになり、ストラップの折り返し部分が吸引スリットの開口を塞いだ場合の吸引力との差がでにくくなる。そのため、吸引力を制御する機構が複雑となる。
【0008】
本発明の目的は、構造が簡単であり、正確に光学物品の表裏を判定できる表裏判別装置及び光学物品測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[適用例1]
本適用例に係わる発明は、表面と裏面とがそれぞれ平面状に形成されるとともに表面又は裏面に互いに対向する一側辺から他辺側まで連続した凹部が形成された板状の光学物品の表裏を判定する装置であって、前記光学物品の表面と裏面との一方をセットするセット面が形成された基部と、この基部に形成され一端部が前記セット面に開口された吸引孔と、この吸引孔の他端部に連通される吸引装置と、この吸引装置で前記光学物品の凹部を吸引する際の前記吸引孔の内部圧力と前記光学物品の凹部が設けられていない片面を吸引する際の前記吸引孔の内部圧力とに基づいて閾値を設定し、この閾値を超えているか否かで光学物品の表裏を判別する判別機構とを備えたことを特徴とする表裏判別装置である。
この構成の本適用例では、基部のセット面に光学物品の片面をセットする。そして、吸引装置を駆動して吸引孔を吸引する。吸引孔の開口が光学物品の凹部が形成されていない平らな面に対向している場合には、吸引装置で吸引孔を吸引した際に、吸引孔の開口が光学物品の平らな面に密閉されることで、吸引孔の内部圧力(負圧)が大きなものとなる。逆に、吸引孔の開口が光学物品の凹部に対向している場合には、吸引装置で吸引孔を吸引した際に、セット面と凹部との間に外部に連通する隙間が生じるので、この隙間を通じて外部から吸引孔に空気が吸引されることになり、吸引孔の内部圧力(負圧)が小さなものとなる。光学物品の凹部を吸引する際の吸引孔の内部圧力と光学物品の凹部が設けられていない片面を吸引する際の吸引孔の内部圧力とに基づいて予め閾値を設定しておけば、この閾値を超えているか否かを判別機構で判断することで、光学物品の表裏を簡単かつ正確に判別することができる。
従って、本適用例では、基部のセット面に光学物品をセットするだけでよいから、基部と光学物品との間の複雑な位置決め作業が不要となる。しかも、表裏判定対象が光学物品であるため、凹部が設けられた片面を吸引する場合と凹部が設けられていない片面を吸引する場合とで吸引孔の内部圧力の差が大きくなるので、吸引装置の構造を簡易なものにできる。
【0010】
[適用例2]
本適用例に係わる発明は、前記判別機構は、前記吸引孔の内部圧力を検出する圧力センサーと、前記閾値を予め記憶するメモリーと、このメモリーで記憶された閾値と前記圧力センサーで検出された圧力値とを対比して圧力値が前記閾値を超えた場合には凹部が設けられていない片面と判断し前記閾値を超えていない場合には凹部が設けられた片面と判断する比較部とを備えたことを特徴とする表裏判別装置である。
この構成の本適用例では、実験等で予め閾値を求めておき、この閾値をメモリーに入力する。表裏判定では、基部のセット面に光学物品の片面をセットし、吸引装置を駆動して吸引孔を吸引すると、吸引孔の内部圧力の値が圧力センサーで検出され、この圧力センサーからの検出値が比較部に送られ、この比較部ではこの検出値とメモリーで記憶された閾値とを対比して表裏判定をする。
従って、本適用例では、予めメモリーに閾値を設定することで、光学物品の表裏判定を迅速かつ確実に行うことができる。
【0011】
[適用例3]
本適用例に係わる発明は、前記基部は前記光学物品の端面を位置決めする位置決め部を有することを特徴とする表裏判別装置である。
この構成の本適用例では、光学物品の端面を位置決め部に当接することで光学物品の位置決めがされる。そのため、その後に実施される表裏判定が正確に行える。
【0012】
[適用例4]
本適用例に係わる発明は、前記光学物品は複屈折性を有する平面矩形状の光学物品であり、前記凹部は前記光学物品の有効光学領域から外れた位置に予め形成された溝であることを特徴とする表裏判別装置である。
波長板、その他の平板状の光学物品では、製品に組み込む際のマーキングとして有効光学領域から外れた位置に溝が形成されることがある。
この構成の本適用例では、光学物品に予め設けられた溝を凹部として用いるので、表裏判定のために光学物品に凹部を特別に切削等で形成する必要がなく、光学物品の破損を防止できる。
【0013】
[適用例5]
本適用例に係わる発明は、複屈折性を有する平面矩形状の光学物品の光学特性を測定する光学物品測定装置であって、前述の構成の表裏判別装置と、この表裏判別装置に設けられた前記光学物品に検査用光を照射する光照射装置と、この光照射装置から照射されて前記光学物品を透過した検査用光を受光するとともに受光した光に基づいて光学特性を測定する測定装置とを備えたことを特徴とする光学物品測定装置である。
この構成の本適用例では、表裏判別装置の基部に光学物品をセットした状態で光学特性を測定する。そのため、光照射装置から検査用光を光学物品に照射し、光学物品を透過した検査用光を測定装置で受光するとともに受光した光に基づいて光学特性を測定する。
従って、光学物品の表裏判定と光学測定の測定とが一連の作業で行うことができるので、これらの作業の効率化を図ることができる。
【0014】
[適用例6]
本適用例に係わる発明は、前記測定装置は前記光学物品を透過した光を受光する受光部を備え、この受光部と前記光照射装置とが前記基部を挟んで配置され、前記基部には前記光学物品に照射される検査用光を透過する透過孔が設けられていることを特徴とする光学物品測定装置である。
この構成の本適用例では、基部に検査用光を透過する透過孔が設けられているから、基部のセット面に光学物品をセットした状態で、光学物品の光学特性の測定を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光学物品測定装置の正面図。
【図2】光学物品測定装置の一部を拡大した側面図。
【図3】基部の平面図。
【図4】基部の断面図。
【図5】判別機構のブロック図。
【図6】光学物品の表裏判定の態様を示す図。
【図7】光学物品の表裏判定の態様を示す図。
【図8】光学物品の表裏判定の態様を示す図。
【図9】光学物品の表裏判定の態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
図1及び図2は本実施形態にかかる光学物品測定装置の全体構成を示す。図1は光学物品測定装置の正面図であり、図2はその一部を拡大した側面図である。
図1及び図2において、光学物品測定装置は、筐体10と、この筐体10に設けられ光学物品1の表裏を判定する表裏判別装置20と、この表裏判別装置20に設けられた光学物品1に検査用光を照射する光照射装置30と、この光照射装置30から照射されて光学物品1を透過した検査用光に基づいて光学物品1の光学特性を測定する測定装置40とを備えた構造である。本実施形態では、光学物品の光学特性を測定する光学物品測定装置として既存のものを用い、この既存の装置に表裏判別装置20を加えた構造である。
【0017】
本実施形態で測定対象となる光学物品1は、複屈折性を有する平面矩形状の板材であり、例えば、水晶からなる1/2波長板、1/4波長板等の波長板である。この波長板は、例えば、0.5〜6.4mmの厚さ寸法を有する。
光学物品1は、平面矩形状に形成されるとともに表面又は裏面に互いに対向する長辺のうち一方から他方にかけて凹部1Aが直線状に形成されている(図6参照)。この凹部1Aは断面U字型や断面矩形状の溝であり、この溝は光学領域からはずれるように光学物品1の短辺側に近接し短辺と平行に設けられている。凹部1Aは光学物品1を製造する際に形成されるものであって、プロジェクター、光ピックアップ装置、レーザー加工装置、露光装置、等の光学系装置に組み込む際にマーキングとして用いられる。
【0018】
筐体10は、本体ケース11と、この本体ケース11の前面にそれぞれ突出して設けられた上部ケース12及び下部ケース13とを備え、下部ケース13は上面高さが高い高ケース14と低い低ケース15とを有する。
高ケース14の上方には上部ケース12が配置され、この上部ケース12と高ケース14との間にはテーブル16が本体ケース11から突出して設けられている。
このテーブル16の上には表裏判別装置20が設置されている。
【0019】
表裏判別装置20は、内部に吸引孔21Aが形成された基部21と、この基部21にチューブ22を介して接続される判別装置本体23とを備えている。
これらの判別装置本体23は本体ケース11の上面に配置されている。
基部21の具体的な構造が図3及び図4に示されている。図3は基部21の平面図である。図4は基部21の断面図である。
【0020】
図3において、基部21は、光学物品1の表裏いずれかの片面をセットするための平面状のセット面21Bが形成された基部本体210と、この基部本体210に隣接して設けられた位置決め部211とを有する。この位置決め部211は光学物品1の短辺を位置決めする短辺位置決め部2111と光学物品1の長辺を位置決めする長辺位置決め部2112とを有するものであり、これらの短辺位置決め部2111と長辺位置決め部2112とは互いに直交配置されている。
セット面21Bの位置決め部211に接する部分は直線状に形成され、セット面21Bから位置決め部211の切り立った側面は光学物品1の端部を位置決めするための位置決め面とされる。
【0021】
図4に示される通り、セット面21Bの位置決め部211に近接した部分に吸引孔21Aの一端が開口されている。この吸引孔21Aのセット面21Bへの開口はセット面21Bに凹部1Aを位置決め部211側に向けて光学物品1をセットした際に、凹部1Aの位置と一致する。この凹部1Aの幅寸法は開口とほぼ等しい。
吸引孔21Aはセット面21Bと直交する方向に延びる第一孔部21A1と、この第一孔部21A1から直角に折り曲げて形成された段付きの第二孔部21A2とを備え、この第二孔部21A2の端部はチューブ22の一端部に金具22Aを介して接続される。
基部本体210には第一孔部21A1と平行に透過孔21Cが貫通して形成されている。この透過孔21Cは光学物品1の光学特性の検査の際に光学物品1に照射されて透過した検査光Lが通る孔であり、そのセット面21B側の開口は光学物品1の光学領域に位置するようにされている。
基部本体210はテーブル16に設置された2本のピンに挿入、固定されている。このテーブル16の透過孔21Cに対応する部分には検査光Lを透過させる孔16Aが形成されている。
【0022】
図1及び図2に戻り、判別装置本体23は、吸引装置としての真空ポンプ24と、光学物品1の表裏を判別する判別機構25と、判別機構25で表裏が判別されて光学物品1が誤ってセットされた場合の異常を音声で報知するブザー26とを備えた構造である。
真空ポンプ24はチューブ22の他端部と接続される。基部21のセット面21Bに光学物品1の片面がセットされた際に真空ポンプ24からの吸引によってチューブ22の内部圧力及び吸引孔21Aの内部圧力が変化する。
判別機構25は、吸引孔の内部圧力を検出する圧力センサー27と、この圧力センサー27で検出した圧力値に基づいて表裏判定をする判定部28とを備えている。この判定部28は真空ポンプ24のケーシング24Aに収納されており、このケーシング24Aには判定部28の判定結果を表示する表示部24Bが設けられている。この表示部24Bは光学物品1が誤ってセットされた場合の異常を画面で表示する。
【0023】
図5には判別機構25のブロック図が示されている。
図5において、判定部28は、閾値を予め記憶するメモリー281と、このメモリー281で記憶された閾値と圧力センサー27で検出された圧力値とを対比して凹部1Aが設けられた片面か否かを判定する比較部282と、この比較部282で判定された結果をブザー26及び表示部24Bに出力する駆動部283とを備える。
メモリー281は入力部284から入力される閾値を記憶する。この閾値は光学物品1の凹部1Aを吸引する場合の圧力センサー27の圧力値と光学物品1の凹部1Aが形成されていない平面を吸引する場合の圧力センサー27の圧力値とを実験等で予め求めておく。
【0024】
本実施形態では、凹部1Aが上方に向いて光学物品1がセット面21Bにセットされた状態が正しい位置とする。凹部1Aが上方に向いている光学物品1は、セット面21Bに対向する面が凹部1Aのない平面であるため、真空ポンプ24を作動した時に吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力が負圧の大きな値X、例えば、−79MPa以上となる。これに対して、凹部1Aを吸引孔21Aの開口に向けて光学物品1をセット面21Bにセットし、真空ポンプ24を作動すると、外部の空気を凹部1Aとセット面21Bとの間の隙間を通じて吸引孔21A及びチューブ22に取り込むことになるので、吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力がXより負圧の低い値Y、例えば、−76MPaの前後の値となる。さらに、光学物品1をセット面21Bにセットしない状態で真空ポンプ24を作動すると、吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力がYより負圧の低い値Z、例えば、−36MPa以下となる。そのため、本実施形態では、メモリー281に入力する閾値をXとYとの間の適宜な数値、例えば、−78MPaとして設定する。
【0025】
この閾値は光学物品1の種類や大きさ等によって相違する。入力部284はキーボード等の適宜な手段を用いることができる。このキーボードは別途用いるパソコンのものでもよく、このパソコンからケーブルを介して装置に閾値を入力する。
比較部282は、メモリー281で記憶された閾値と圧力センサー27で検出された圧力値とを対比して圧力値が閾値を超えない場合には凹部1Aが設けられていない片面が基部21にセットされていると判断し閾値を超える場合には凹部1Aが設けられた片面と判断する。
【0026】
図1及び図2に戻り、光照射装置30は、上部ケース12の内部に設けられた半導体レーザー装置31と、この半導体レーザー装置31から照射された検査用光Lの光束を絞るピンホール32と、このピンホール32で絞られた検査用光Lを直線偏光にする偏光子33とを備えている。この偏光子33で偏光された検査用光Lは光学物品1の光学領域及び基部21に形成された透過孔21Cを通った後に測定装置40に送られる。
半導体レーザー装置31は、半導体レーザーにコリメートレンズが配置された構造である。
【0027】
測定装置40は、下部ケース13の内部に設けられた検光子41と、この検光子41を透過した検出光を受光する受光部42と、この受光部42で受光した信号を増幅するアンプ回路43と、このアンプ回路43からの信号を受けて光学物品1の位相差、透過率、楕円率等の光学特性を演算する制御部44とを備えている。この制御部44は、位相差測定、透過率測定、楕円率測定等の測定プログラムに基づいて演算処理する。制御部44で演算された結果は本体ケース11に設けられたタッチパネルのモニター46で表示される。このモニター46には位相差や楕円率等の測定値が常に表示される。
検光子41は下部ケース13に設けられたモーター45で常に回転された状態にある。
【0028】
次に、本実施形態の光学物品1の光学特性の測定方法を図6から図9に基づいて説明する。これらの図において、(A)は光学物品1が基部21にセットされた状態を示す平面図であり、(B)はその断面図である。
まず、測定装置の電源を投入し、モニター46を操作して測定プログラム、例えば、位相差、透過率、楕円率を選択する。位相差や楕円率の測定を選択した場合にはモーター45が回転を始める。
さらに、半導体レーザー装置31の電源を投入する。半導体レーザー装置31から照射される検査用光は基部21を通って測定装置40に送られる。測定装置40のモニター46には位相差、楕円率の測定値が常に表示される。これらの測定値はモーター45が1回転する毎に数値が書き換えられる。
【0029】
基部21のセット面21Bに作業員が光学物品1をセットする。その際、凹部1Aが光学物品1の先側にある状態、つまり、基部21の短辺位置決め部2111に凹部1Aが近接する位置になるように光学物品1をセット面21Bにセットする。
ここで、セットした光学物品1の表裏位置が表裏判別装置20によって正しいか否かの判定をする。そのため、表裏判別装置20の電源を投入する。すると、真空ポンプ24が作動し、吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力が低下する。圧力センサー27で内部圧力が検出され、その検出値が比較部282に送られる。比較部282ではメモリー281で記憶された閾値と検出値とを比較し、検出値が閾値以内か否かを判断する。
【0030】
図6に示される通り、凹部1Aが上方に向いている状態で光学物品1がセットされていれば、吸引孔21Aのセット面21Bに形成された開口は光学物品1の平面に閉塞されることになり、圧力センサー27で検出される負圧が大きなものになる。この値が閾値(−78MPa)より大きな負圧(−79MPa)となるので、比較部282では、正しい位置であると判定し、その信号を駆動部283に送る。駆動部283では表示部24Bに検出値を表示させるとともにブザー26には警報音を発生させる信号を送らない。
【0031】
図7に示される通り、凹部1Aが下方に向いている状態で光学物品1がセットされていれば、吸引孔21Aのセット面21Bに形成された開口は凹部1Aに対向することになり、真空ポンプ24を作動しても吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力が小さな負圧となる。この値が閾値(−78MPa)より小さな負圧(−76MPa)となるので、比較部282では、誤った位置であると判定し、その信号を駆動部283に送る。駆動部283では表示部24Bに検出値を表示させるとともにブザー26に警報音を発生させる信号を送る。これらの警報音等の情報を得た作業員は、光学物品1の表裏位置が誤りだったと気づくから、光学物品1をひっくりかえして再度作業を行う。
【0032】
図8及び図9に示される通り、凹部1Aが光学物品1の手元側にある状態、つまり、基部21の短辺位置決め部2111に凹部1Aが離れている位置になるように光学物品1をセット面21Bに作業員がセットすると、吸引孔21Aのセット面21Bに形成された開口は光学物品1の平面で閉塞される状態となり、図6に示さる状態と同じになる。しかし、これらの状態は前述の通り、作業員が目視で容易に把握できるものであるので、実際の作業にあたっては差し支えない。
【0033】
前述の表裏判定作業を行っている最中においても、半導体レーザー装置31から照射される検出用光は測定装置40に送られ続けているので、基部21にセットされている光学物品1の光学特性の測定値がモニター46に表示されていることになる。
前述の通り、ブザー26が鳴らない状態は、光学物品1がセット面21Bに正しい位置でセットされているので、作業員は、その位相差等の数値を確認し、光学物品1の良否を判定する。
これらの作業が終了したら、光学物品1を新しいものに取り替えて作業を続ける。
【0034】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)光学物品1の片面をセットするセット面21Bが形成された基部21と、この基部21に形成され一端部がセット面21Bに開口された吸引孔21Aと、この吸引孔21Aの他端部に連通される真空ポンプ24と、この真空ポンプ24で光学物品1の凹部1Aを吸引する際の吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力と光学物品1の凹部1Aが設けられていない片面を吸引する際の吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力とに基づいて閾値を設定し、この閾値を超えているか否かで光学物品1の表裏を判別する判別機構25とを備えて表裏判別装置20を構成した。そのため、光学物品1の凹部1Aを吸引する際の吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力と光学物品1の凹部1Aが設けられていない片面を吸引する際の吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力とに基づいて予め閾値を設定し、この閾値を超えているか否かを判別機構25で判断することで、光学物品1の表裏を簡単に判別することができる。この表裏判定のためには、基部21のセット面21Bに光学物品1をセットするだけでよいから、基部21と光学物品1との間の複雑な位置決め作業が不要となる。その上、表裏判定対象が光学物品1であるため、凹部1Aの有無により吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力の差が大きくなるので、真空ポンプ24の構造を簡易なものにできる。
【0035】
(2)判別機構25は、吸引孔21A及びチューブ22の内部圧力を検出する圧力センサー27と、閾値を予め記憶するメモリー281と、このメモリー281で記憶された閾値と圧力センサー27で検出された圧力値とを対比して圧力値が閾値を超えている場合には凹部1Aが設けられていない平らな片面と判断し閾値を超えていない場合には凹部1Aが設けられた片面と判断する比較部282とを備えた。従って、予めメモリー281に閾値を光学物品1の種類や大きさに応じて設定することで、光学物品1の表裏判定を迅速かつ確実に行うことができる。
【0036】
(3)基部21は光学物品1の端面を位置決めする位置決め部211を有する構成とした。そのため、光学物品1の端面を位置決め部211に当接させることで光学物品1の位置決めを容易に行うことができ、その結果、その後に実施される表裏判定が正確に行える。
(4)位置決め部211は光学物品1の短辺を位置決めする短辺位置決め部2111と光学物品1の長辺を位置決めする長辺位置決め部2112とを有する構成とした。そのため、平面矩形状の光学物品1の互いに直交する2方向を確実に位置決めすることができる。
【0037】
(5)光学物品1は光学有効領域外に溝からなる凹部1Aが予め形成された水晶製波長板である。この波長板には別の目的で予め溝が設けられており、この溝を本実施形態では凹部1Aとして用いるので、表裏判定のために光学物品1に凹部を特別に切削等で形成する必要がなく、作業上の手間をかけることがないとともに光学物品1の破損を防止できる。特に、Cタイプと称される1枚の波長板では、表裏の配置の相違によって測定値のばらつきが大きいから、このCタイプの波長板に本実施形態を用いることで優れた効果を有することができる。
【0038】
(6)前述の構成の表裏判別装置20と、この表裏判別装置20に設けられた光学物品1に検査用光を照射する光照射装置30と、この光照射装置30から照射されて光学物品1を透過した検査用光を受光するとともに受光した光に基づいて位相差、透過率、楕円率等の波長板の光学特性を測定する測定装置40とを備えて光学物品測定装置を構成した。そのため、光学物品1の表裏判定作業と光学特性の測定とが一連の作業で行うことができるので、作業の効率化を図ることができる。
【0039】
(7)測定装置40は光学物品1を透過した光を受光する受光部42を備え、この受光部42と光照射装置30とが基部21を挟んで配置されている。そして、基部21には光学物品1に照射される検査用光を透過する透過孔21Cが設けられている。そのため、基部21のセット面21Bに光学物品1をセットした状態で、光学物品1の光学特性の測定を実施することができるから、表裏判定と光学測定との作業を光学物品1を移動させることなく行えるので、測定作業の効率化を図ることができる。
【0040】
(8)光学物品1が誤ってセットされた場合の異常を音声で報知するブザー26を備えた。そのため、音声により異常を感知した作業員は表示部24Bを見ることなく、光学物品1のセット作業をやり直せるから、作業を迅速に実施できる。
(9)表裏判別装置20を既存の光学物品測定装置に後付したので、既存の光照射装置30及び測定装置40をそのまま利用することができるので、装置全体のコストを低いものにできる。
【0041】
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、前記実施形態では、光学物品測定装置に表裏判別装置20を組み込む構造としたが、本発明では、光学物品測定装置と表裏判別装置とを分けて構成してもよい。
【0042】
さらに、基部21に光学物品1の端面を位置決めする位置決め部211を必ずしも設けることを要せず、仮に、設ける場合であっても、光学物品1の短辺を位置決めする短辺位置決め部2111と光学物品1の長辺を位置決めする長辺位置決め部2112とのいずれか一方を設けるものであってもよい。
【0043】
また、表裏判定対象の光学物品を水晶製の波長板としたが、本発明では、水晶以外の材質からなる波長板にも適用することができ、しかも、波長板以外の光学物品、例えば、回折格子(グレーティング)、開口フィルター、防塵ガラス等も適用することができる。
さらに、本発明の光学物品1の凹部1Aを溝から形成されたもの以外、例えば、片面の端部に段差が形成されたものにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、凹部が形成された板状の光学物品の表裏を判定する装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…光学物品、1A…凹部、10…筐体、20…表裏判別装置、21…基部、21A…吸引孔、21B…セット面、21C…透過孔、211…位置決め部、24…真空ポンプ(吸引装置)、25…判別機構、27…圧力センサー、281…メモリー、282…比較部、30…光照射装置、40…測定装置、42…受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と裏面とがそれぞれ平面状に形成されるとともに表面又は裏面に互いに対向する一側辺から他辺側まで連続した凹部が形成された板状の光学物品の表裏を判定する装置であって、
前記光学物品の表面と裏面との一方をセットするセット面が形成された基部と、この基部に形成され一端部が前記セット面に開口された吸引孔と、この吸引孔の他端部に連通される吸引装置と、この吸引装置で前記光学物品の凹部を吸引する際の前記吸引孔の内部圧力と前記光学物品の凹部が設けられていない片面を吸引する際の前記吸引孔の内部圧力とに基づいて閾値を設定し、この閾値を超えているか否かで光学物品の表裏を判別する判別機構とを備えたことを特徴とする表裏判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載された表裏判別装置において、
前記判別機構は、前記吸引孔の内部圧力を検出する圧力センサーと、前記閾値を予め記憶するメモリーと、このメモリーで記憶された閾値と前記圧力センサーで検出された圧力値とを対比して圧力値が前記閾値を超えた場合には凹部が設けられていない片面と判断し前記閾値を超えていない場合には凹部が設けられた片面と判断する比較部とを備えたことを特徴とする表裏判別装置。
【請求項3】
請求項2に記載された表裏判別装置において、
前記基部は前記光学物品の端面を位置決めする位置決め部を有することを特徴とする表裏判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載された表裏判別装置において、
前記光学物品は複屈折性を有する平面矩形状の光学物品であり、前記凹部は前記光学物品の有効光学領域から外れた位置に予め形成された溝であることを特徴とする表裏判別装置。
【請求項5】
複屈折性を有する平面矩形状の光学物品の光学特性を測定する光学物品測定装置であって、
請求項4に記載された表裏判別装置と、この表裏判別装置に設けられた前記光学物品に検査用光を照射する光照射装置と、この光照射装置から照射されて前記光学物品を透過した検査用光を受光するとともに受光した光に基づいて光学特性を測定する測定装置とを備えたことを特徴とする光学物品測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載された光学物品測定装置において、
前記測定装置は前記光学物品を透過した光を受光する受光部を備え、この受光部と前記光照射装置とが前記基部を挟んで配置され、前記基部には前記光学物品に照射される検査用光を透過する透過孔が設けられていることを特徴とする光学物品測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−201607(P2011−201607A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67496(P2010−67496)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】