説明

表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体、その製造方法およびその用途

【課題】 防錆剤、紫外線吸収剤としての有用性が期待される層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を剥離剤を用いることなく微細化してナノ体化し、上記層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の特性をさらに有用に発揮させる。
【解決手段】 層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を、水酸基を有する極性有機溶媒中に分解させ、その分散液に超音波を照射して、剥離剤を用いることなく、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を微細化して、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体を得る。
上記表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体を含有させて紫外線吸収剤や防錆剤を構成し、その優れた紫外線吸収特性や防錆性付与特性を発揮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
厚みがナノメーター(nm)サイズのシート状ないしは薄片状のナノ体は、従来のミクロンサイズの板状ないしは薄片状のフィラーに比べて、厚みが桁外れに薄いことから、従来のミクロンサイズのフィラーの特性に加えて、これまでにはない新たな特性が期待される。
【0003】
ところで、層状構造を有する金属アルキルリン酸エステル複合体は、アルキルリン酸エステルと水溶性金属塩とを反応させることによって得られ、バイオセラミックスやその他の機能性複合材料として期待されている。
【0004】
特に、金属部分がチタンで構成される層状チタニウムアルキルリン酸エステル複合体については、本出願人の出願に係る特許文献1に開示があり、防錆剤、脱臭剤、紫外線吸収剤などの用途に有用であることが示されている。しかしながら、この特許文献1には、層状チタニウムアルキルリン酸エステル複合体のナノ体化に関する開示がない。
【0005】
また、金属酸化物ナノシートとして知られるチタニアナノシートについては、特許文献2に層状チタン酸化物をアミン化合物によりコロイド化処理することによって製造する方法が開示されている。しかしながら、この特許文献2に記載の層状チタン酸化物は、上記特許文献1に記載のような層状構造を有する金属アルキルリン酸エステル複合体とは異なる物質である。
【0006】
さらに、上記特許文献1に記載の層状構造を有する金属アルキルリン酸エステルとは異なる構造の層状化合物である2価金属および3価金属の層状複水酸化物について、特許文献3に、層間に予め芳香族アミノカルボン酸のアニオンを内包させ、その後、アルコールなどの極性溶媒で剥離させてナノシート化する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−99533号公報
【特許文献2】特開平9−25123号公報
【特許文献3】特開2004−189671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2〜3に開示のように、層状化合物を層間剥離し、ナノシート化する研究は従来からも行われているが、いまだ、簡単でかつ短時間で層間剥離させる方法は見出されていない。しかも、従来は、特許文献2〜3に記載のように剥離させるためだけの目的でアミン化合物や芳香族アミノカルボン酸を剥離剤として使用しているため、それらの剥離剤が層間剥離後に不純物として残り、得られたナノシートを使用した組成物の耐水性低下やその他の特性低下を引き起こすおそれがある。特に得られたナノシートを単離せずに、ゾル状態で使用した場合には、その剥離剤に基づく悪影響がより顕著に現われる。
【0009】
特に特許文献1に記載のような防錆剤、紫外線吸収剤としての有用性が期待される層状構造を有する金属アルキルリン酸エステル複合体や層状構造を有する金属アリールリン酸エステル複合体(本書では、この両者をあわせて「層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体」という)については、いまだ層間剥離によるナノ体化は行なわれていない。
【0010】
従って、本発明は、この層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を剥離剤を用いることなく微細化してナノ体化し、上記層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の特性をさらに有用に発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を、水酸基を有する極性有機溶媒中に分散させ、その分散液に超音波を照射するときは、剥離剤を用いることなく、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を微細化して、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体を得ることができ、しかも、上記金属リン酸塩ナノ体が優れた紫外線吸収特性や防錆性付与特性などを有していることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0012】
すなわち、本発明者らは、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を水酸基を有する極性有機溶媒中に分散させると、その溶媒成分が層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の層間にインターカレートすることによって、層間を膨潤させ、その状態で超音波を照射すると、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体が剥離剤を要することなく短時間でかつ効率よく微細化して、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体が得られることを見出したのである。
【0013】
上記層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の微細化は、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の層間剥離によるものと推定される。
【0014】
そして、得られた表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体は、厚みがナノメーター(nm)オーダーで、ナノシートと呼び得るような厚みの薄いシート状ないしは薄片状の微小体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体は、ナノ体化する前の層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の有する紫外線吸収特性、防錆性付与特性を保持していて、優れた紫外線吸収特性、防錆性付与特性を有している。
【0016】
しかも、本発明の金属リン酸塩ナノ体は、表面がアルキル基またはアリール基で修飾されているので、金属石鹸、シリコーンオイル、シランカップリング剤などによる表面処理を要することなく、疎水性を有していて、化粧品、塗料、樹脂、トナーなどに使用されるオイル、有機樹脂用モノマー、有機ポリマーなどの各種媒体への分散性が優れている。そのため、本発明の金属リン酸塩ナノ体は、上記化粧品、塗料、トナーなどの配合剤、フィラーなどとして使用され、紫外線吸収作用の付与、樹脂の機械的強度の向上、金属への防錆性付与などに優れた特性を発揮する。
【0017】
また、本発明の表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体は、その原料の層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体より微小であるため、上記層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体より少ない使用量で優れた紫外線吸収特性や防錆性付与特性を発揮する。
【0018】
さらに、本発明の表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体は、その製造にあたって、アミン化合物や芳香族アミノカルボン酸などの剥離剤を必要としないので、それらの剥離剤による悪影響がない。
【0019】
また、本発明の表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体の製造にあたっては、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を水酸基を有する極性有機溶媒の分散液とした状態で超音波を照射することにより、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体のナノ体化を短時間で効率よく行えるので、上記表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体の製造に当たっては、その原料として層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を使用するので、まず、その層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の製造方法について説明し、その後、ナノ体化について説明する。
【0021】
層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の製造方法
上記層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体は、アルキルリン酸エステルまたはアリールリン酸エステルと可溶性金属化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0022】
上記反応に用いる可溶性金属化合物としては、例えば、チタン、鉄、亜鉛、セリウム、ジルコニウム、カルシウム、マグネシウム、スズ、アルミニウムなどの硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩またはアルコキシド化合物などを用いることができる。
【0023】
また、上記反応に用いるアルキルリン酸エステルとしては、例えば、モノアルキルリン酸エステルが好ましいが、該モノアルキルリン酸エステルとジアルキルリン酸エステルとの混合物でもよい。そして、そのアルキル基に関しては、構成炭素数が2から20までの範囲にあるものが好ましく、その種類としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、エチルヘキシル基などの脂肪族アルキル基が好ましく、さらに、二重結合や三重結合などの不飽和結合、エポキシ基、ケトン基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、アミノ基などの官能基を有していてもよい。また、アリールリン酸エステルとしては、例えば、モノアリールリン酸エステルが好ましいが、該モノアリールリン酸エステルとジアリールリン酸エステルとの混合物でもよい。そして、そのアリール基としては、構成炭素数が6から20までの範囲にあるものが好ましく、その種類としては、例えば、フェニル基、ベンジル基などのベンゼン環を有する芳香族化合物に基づくものが好ましく、また、このアリールリン酸エステルに関しても、前記アルキルリン酸エステルの場合と同様に、二重結合や三重結合などの不飽和結合、エポキシ基、ケトン基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0024】
この層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体は、無定型リン酸金属塩層と、その無定型リン酸金属塩層とリン酸基を共有しているアルキルリン酸エステルまたはアリールリン酸エステルの2分子層とが交互に重なった層状構造を主要構造としており、各層はおおよそ0.5〜3nmの幅で規則的に配列していると考えられる。例えば、鉄フェニルリン酸エステル複合体の構造の要部を模式的に示すと、図1に示すように、無定型リン酸鉄塩層と、その無定型リン酸鉄塩層とリン酸基を共有しているフェニルリン酸エステルの2分子層とが交互に重なって構成された層状構造を主要構造としているものと考えられる。
【0025】
上記アルキルリン酸エステルまたはアリールリン酸エステルと可溶性金属化合物との反応にあたっては、湿式法、すなわち、水や有機溶媒中でアルキルリン酸エステルまたはアリールリン酸エステルと可溶性金属化合物とを混合攪拌して反応させる方法を採用することができる。
【0026】
このようにして生成させた層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体は、通常、濾過、洗浄および乾燥することにより粉体状態で得られる。例えば、これに属する層状チタニウムアルキルリン酸エステル複合体は、前記特許文献1に記載の方法により合成することができ、この層状チタニウムアルキルリン酸エステル複合体は、次の一般式で表される。
【0027】
(C2n+1OPO2+xTi・yH
(ただし、n:1〜20の範囲にある自然数、x:0以上2未満の実数、y:0以上の実数)
【0028】
この層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の生成は、粉末X線回析、赤外吸収スペクトル、電子顕微鏡などによって確認することができる。特に、粉末X線回析では、層状構造に特徴的な層間距離に相当する低角度(2θ:Cu−Kα)でのピークが確認することができる。この層間距離に相当するピークは、使用する金属種とアルキルリン酸エステルまたはアリールリン酸エステルの種類とにより異なるが、通常2θ=10°以下に現れる場合が多い。例えば、鉄エチルリン酸エステル複合体では、2θ=8.5°付近に、チタニアエチルリン酸エステル複合体は、2θ=6.1°付近に、チタニアオクチルリン酸エステル複合体は、2θ=3.8°付近に、それぞれの層間距離に相当するピークを確認することができる。
【0029】
本発明の表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体の製造方法
上記のようにして得られた層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体は、水酸基を有する極性有機溶媒中に攪拌分散させると白濁したスラリー化状態になる。その後、さらに攪拌を続けていると、時間経過とともに次第に透明性が向上する。これはナノ体化が進行していることによるものと考えられる。そして、このナノ体化は、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の層間剥離によるものと考えられる。
【0030】
上記水酸基を有する極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、オクタノールなどの構成炭素数が1〜8のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの構成炭素数が2〜4のグリコール類などを用いることができ、それらの混合溶媒も用いることができる。また、工業的に入手可能な水酸基を有する極性有機溶媒は、少量の水を含有している場合があるが、そのまま使用することが可能であり、さらに必要に応じて上記の極性有機溶媒に水を混合して用いることができる。そして、この水酸基を有する極性有機溶媒としては、特にエタノール、プロパノール、ブタノールなどの構成炭素数が2〜4のアルコール類が好ましい。
【0031】
超音波処理について
上記のように、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を水酸基を有する極性有機溶媒中に攪拌分散させておくことにより、徐々にナノ体化が進んでいくが、ただ単に分散させておくだけでは材料や条件にもよるが、通常、一週間以上の期間を必要とする。そのため、本発明者らは、より効率的なナノ体化について研究を行った結果、超音波処理が有効であることを見出し、短時間でかつ効率的にナノ体化することに到達し、本発明を完成したのである。
【0032】
すなわち、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の水酸基を有する極性有機溶媒分散液に、超音波を照射すると、複合体の種類や超音波の発振周波数、出力などにもよるが、数時間以内に初期の白濁状態から透明性が向上し始め、層間剥離によると考えられるナノ体化が効率よく進行していくことが確認される。
【0033】
これは、超音波を照射することにより、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の層間に存在するアルキル基部分またはアリール基部分に向けて溶媒成分が迅速に浸透し、層間剥離が促進されることによるものと考えられる。
【0034】
層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の水酸基を有する極性有機溶媒中の濃度は、0.001質量%から30質量%程度までナノ体化を進行させることが可能であるが、通常、10質量%を超えるとナノ体化した後の分散液の粘度が高く、工業的に作業性が悪くなるため、10質量%以下が好ましく、特に5質量%以下が好ましい。また、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の濃度が低くなりすぎると、ナノ体の生産性が悪くなるので、0.01質量%以上が好ましく、特に0.05質量%以上が好ましい。
【0035】
本発明において、ナノ体化を進行させるために用いる超音波は、一般に工業用洗浄機、メガネ洗浄機、医療用の診断装置、魚群探知機、タンク液面計など、種々の分野、用途に使用されている。特に、超音波洗浄においては、キャビテーション(洗浄液中に極めて小さな気泡や空洞が急速に形成されたり、激しく崩壊する現象)を利用して、工業用部材などの洗浄に活用されている。
【0036】
この超音波は、出力と発振周波数により特徴付けられる。出力としては、メガネ洗浄機などの小型の超音波洗浄機に使用されている20W程度から工業用の大型超音波洗浄機に使用されている2500W程度までが使用に適しているが、出力が小さければ、そのぶん、ナノ体化の進行が遅くなるので、100W以上が好ましく、300W以上がより好ましく、600W以上がさらに好ましい。また、出力が大きくなると、層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の層間剥離によると推定されるナノ体化以外にも、基材自体の破砕が生じ、目的とする表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸ナノ体の生成率が低下するおそれがあるので、2000W以下が好ましく、1500W以下がより好ましく、1000W以下がさらに好ましい。
【0037】
また、超音波の発振周波数は、高くなるに従い、気泡の数が増加するが、個々の気泡が放出するエネルギーは小さくなる。そのため、高い発振周波数で処理する方が、処理対象物の受けるダメージを少なくすることができ、本発明では、得られるナノ体の骨格へのダメージを少なくすることができる発信周波数として10kHz以上が好ましく、20kHz以上がより好ましい。また、発振周波数が高くなりすぎると、個々の気泡の放出エネルギーが小さくなりすぎるため、ナノ体化が効率よく進まなくなるおそれがあるので、3000kHz以下が好ましく、2000kHz以下がより好ましく、1000kHz以下がさらに好ましい。
【0038】
超音波照射を行うと、照射時間の経過とともに分散液の温度が上昇するため、通常は使用する極性有機溶媒の沸点以下の温度になるように、被処理中の分散液の入った容器を恒温冷却層に浸すなどの外部冷却あるいは投げ込み式冷却器などを被処理中の分散液中に入れるなどの内部冷却を行うことが必要である。このように、超音波処理は、冷却しつつ温度の上昇を抑制しながら行うことになるが、その際の温度としては、使用する極性有機溶媒の種類によるが、50℃以下が好ましく、0℃〜40℃がより好ましい。
【0039】
超音波処理時間は、処理する層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の種類や量、超音波の出力、発振周波数などによっても異なるが、通常、30分〜48時間の範囲内、特に1時間以上、とりわけ3時間以上で、特に36時間以下、とりわけ24時間以下で行うことが生産性や得られるナノ体の歩留り上から好ましい。
【0040】
表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体の確認
表面がアルキル基またはアリールで修飾された金属リン酸塩ナノ体の生成の確認は、その分散液の目視による透明性評価や微小体であることを示すチンダル現象によって確認することができる。上記チンダル現象による確認にあたっては、上記金属リン酸塩ナノ体の分散液20mlを50mlのガラス製シャーレに入れ、側面から可視光(波長650nmの赤色レーザーポインター使用)を照射し光路が光るチンダル現象を観察することによって行われる。
【実施例】
【0041】
つぎに実施例をあげて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。また、実施例に先立ち、実施例で製造する本発明の金属リン酸塩ナノ体の原料となる層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体の合成例を示す。なお、以下において、水溶液や分散液の濃度を示す%はいずれも質量%である。
【0042】
合成例1 鉄フェニルリン酸エステル複合体の合成
フェニルリン酸エステルを純水に溶解し、濃度が0.122モル/リットルのフェニルリン酸エステル水溶液を調製した。次に、このフェニルリン酸エステル水溶液50ml(フェニルリン酸エステルの含有量:6.1ミリモル)に、濃度が0.360モル/リットルの塩化第二鉄(FeCl・6HO)水溶液50ml(塩化第二鉄の含有量:18ミリモル)を攪拌しながら滴下した。生成した白色沈澱を室温で1時間熟成し、濾過、水洗を行った後、60°の乾燥機中で24時間乾燥した。得られた乾燥物は、非常に粉砕性が良好であって、容易に粉末状になった。
【0043】
上記のようにして得られた粉末は、粉末エックス線回折により、2θ=5.8°付近に非常にシャープなピークが認められ、層状化合物の特徴を有していることから、生成物が層状構造を有する鉄フェニルリン酸エステル複合体(以下、これを「FePP」と表記する)であることが確認された。
【0044】
得られたFePPは、示差熱分析で80℃付近および300℃付近に質量減少が観察され、同時にDTA曲線にそれぞれ吸熱ピーク、発熱ピークが認められることから、これらの質量減少やピークの出現は、結合水の脱離およびフェニル基の燃焼によるものと考えられる。
【0045】
また、このFePPは、蛍光エックス線分析により、鉄とリンの存在が確認され、CHN元素分析より、炭素と水素の存在が確認された。
【0046】
さらに、上記元素分析より確認されたモル比は、フェニル基/P=0.8、Fe/P=0.5となるため、このFePPは、以下のような構造と推定される。
【0047】
Fe(OH)(COPOH)1.6(HPO0.4
【0048】
合成例2 鉄オクチルリン酸エステル複合体の合成
米国特許第3,146,255号明細書に記載の方法で合成したモノオクチルリン酸エステルと、塩化第二鉄(FeCl・6HO、分子量270.3)を用いて、合成例1の場合と同様の条件で複合体を生成させた。
【0049】
すなわち、濃度が0.122モル/リットルのモノオクチルリン酸エステル水溶液50ml(モノオクチルリン酸エステルの含有量:6.1ミリモル)に、濃度が0.360モル/リットルの塩化第二鉄水溶液50ml(塩化第二鉄の含有量:18ミリモル)を攪拌しながら滴下し、生成した白色沈澱を室温で1時間熟成し、濾過、水洗を行った。得られた乾燥物は、非常に粉砕性が良好であって、容易に粉末状になった。
【0050】
上記のようにして得られた粉末は、粉末X線回折により、2θ=3.3°付近にシャープなピークが認められ、層状化合物の特徴を有していることから、生成物は層状構造を有する鉄オクチルリン酸エステル複合体(以下、これを「FeOP」と表記する)であることが確認された。
【0051】
得られたFeOPは、示差熱分析で110℃付近および260℃付近に質量減少が観察され、同時にDTA曲線にそれぞれ吸熱ピーク、発熱ピークが認められることから、これらの質量減少やピークの出現は、結合水の脱離およびオクチル基の燃焼によるものと考えられる。
【0052】
また、このFeOPは、蛍光エックス線分析により、鉄とリンの存在が確認され、CHN元素分析より、炭素と水素の存在が確認された。
【0053】
さらに、上記元素分析より確認されたモル比は、オクチル基/P=1.0、Fe/P=0.5となるため、このFeOPは、以下のような構造と推定される。
【0054】
Fe(OH)(C17OPOH)
【0055】
合成例3 鉄エチルリン酸エステル複合体の合成
合成例2のモノオクチルリン酸エステルに代えて、市販のエチルリン酸エステル(JP−502:城北化学工業製、モノ−ジ混合体:平均分子量140.0)を用いて、合成例2とほぼ同様の条件で複合体を生成させた。
【0056】
すなわち、濃度が2モル/リットルのエチルリン酸エステル水溶液100ml(エチルリン酸エステルの含有量:200ミリモル)に、濃度が0.5モル/リットルの塩化第二鉄水溶液100ml(塩化第二鉄の含有量:50ミリモル)を攪拌しながら滴下し、生成した白色沈澱を室温で1時間熟成し、濾過、水洗を行った。得られた乾燥物は、非常に粉砕性が良好であって、容易に粉末状になった。
【0057】
上記のようにして得られた粉末は、粉末エックス線回折により、2θ=8.5°付近にシャープなピークが認められ、層状化合物の特徴を有していることから、生成物は層状構造を有する鉄エチルリン酸エステル複合体(以下、これを「FeEP」と表記する)であることが確認された。
【0058】
得られたFeEPは、示差熱分析で120℃付近および270℃付近に質量減少が観察され、同時にDTA曲線にそれぞれ吸熱ピーク、発熱ピークが認められることから、これらの質量減少やピークの出現は、結合水の脱離およびエチル基の燃焼によるものと考えられる。
【0059】
また、このFeEPは、蛍光エックス線分析により、鉄とリンの存在が確認され、CHN元素分析より、炭素と水素の存在が確認された。
【0060】
さらに、上記元素分析より確認されたモル比は、エチル基/P=1.0、Fe/P=0.5となるため、このFeEPは、以下のような構造と推定される。
【0061】
Fe(OH)(COPOH)
【0062】
合成例4 チタニウムエチルリン酸エステル複合体の合成
市販のエチルリン酸エステル(JP−502:城北化学工業製、モノ−ジ混合体:平均分子量140.0)の14.0g(100ミリモル)を純水100mlに溶解したエチルリン酸エステル水溶液(エチルリン酸エステルの含有量:100ミリモル)に、攪拌しながら、硫酸第二チタン[Ti(SO・6HO、分子量347.8]の8.7g(25ミリモル)を純水20mlに溶解した硫酸第二チタン水溶液(硫酸第二チタンの含有量:25ミリモル)を滴下した。
【0063】
生成した白色沈澱を室温で1時間熟成し、濾過、水洗を行った後、60℃の乾燥機中で24時間乾燥した。得られた乾燥物は、非常に粉砕性が良好であって、容易に粉末状になった。
【0064】
上記のようにして得られた粉末は、粉末エックス線回折により、2θ=6.1°付近に非常にシャープなピークが認められ、層状化合物の特徴を有していることから、生成物は層状構造を有するチタニウムエチルリン酸エステル複合体(以下、これを「TiEP」と表記する)であることが確認された。
【0065】
得られたTiEPは、示差熱分析で100℃付近および270℃付近に質量減少が観察され、同時にDTA曲線にそれぞれ吸熱ピーク、発熱ピークが認められることから、これらの質量減少やピークの出現は、結合水の脱離およびエチル基の燃焼によるものと考えられる。
【0066】
また、このTiEPは、蛍光エックス線分析により、チタンとリンの存在が確認され、CHN元素分析より、炭素と水素の存在が確認された。
【0067】
さらに、上記元素分析より確認されたモル比は、エチル基/P=1.0、Ti/P=0.5となるため、このTiEPは、以下のような構造と推定される。
【0068】
Ti(COPO
【0069】
合成例5 セリウムエチルリン酸エステル複合体の合成
合成例4の硫酸第二チタンに代えて、硝酸セリウムアンモニウム[Ce(NH(NO、分子量548.2]を用い、合成例4と同様の方法で複合体を生成させた。
【0070】
すなわち、市販のエチルリン酸エステル(JP−502:城北化学工業製、モノ−ジ混合体:平均分子量140.0)の14.0g(100ミリモル)を純水100mlに溶解したエチルリン酸エステル水溶液(エチルリン酸エステルの含有量:100ミリモル)に、攪拌しながら、硝酸セリウムアンモニウム[Ce(NH(NO、分子量548.2]の13.7g(25ミリモル)を純水50mlに溶解した硝酸セリウムアンモニウム水溶液(硝酸セリウムアンモニウムの含有量:25ミリモル)を滴下した。
【0071】
生成した黄色沈澱を室温で1時間熟成し、濾過、水洗を行った後、60℃の乾燥機中で24時間乾燥した。得られた乾燥物は、非常に粉砕性が良好であって、容易に粉末状になった。
【0072】
上記のようにして得られた粉末は、薄黄色で、粉末エックス線回折により、2θ=6.8°付近にピークが認められ、層状化合物の特徴を有していることから、生成物は層状構造を有するセリウムエチルリン酸エステル複合体(以下、これを「CeEP」と表記する)であることが確認された。
【0073】
得られたCeEPは、示差熱分析で100℃付近および270℃付近に質量減少が観察され、同時にDTA曲線にそれぞれ吸熱ピーク、発熱ピークが認められることから、これらの質量減少やピークの出現は、結合水の脱離およびエチル基の燃焼によるものと考えられる。
【0074】
また、このCeEPは、蛍光エックス線分析により、セリウムとリンの存在が確認され、CHN元素分析より、炭素と水素の存在が確認された。
【0075】
さらに、上記元素分析より確認されたモル比は、エチル基/P=1.0、Ce/P=0.5となるため、このCeEPは、以下のような構造と推定される。
【0076】
Ce(COPO
【0077】
合成例6 亜鉛エチルリン酸エステル複合体の合成
合成例3の硫酸第二チタンに代えて、酢酸亜鉛[Zn(CHCOO)・2HO、分子量219.5]を用い、合成例4と同様の方法で複合体を生成させた。
【0078】
すなわち、市販のエチルリン酸エステル(JP−502:城北化学工業製、モノ−ジ混合体:平均分子量140.0)の14.0g(100ミリモル)を純水100mlに溶解したエチルリン酸エステル水溶液(エチルリン酸エステルの含有量:100ミリモル)に、攪拌しながら、酢酸亜鉛[Zn(CHCOO)、分子量219.5]の5.5g(25ミリモル)を純水50mlに溶解した酢酸亜鉛水溶液(酢酸亜鉛の含有量:25ミリモル)を滴下した。
【0079】
生成した白色沈澱を室温で1時間熟成し、濾過、水洗を行った後、60℃の乾燥機中で24時間乾燥した。得られた乾燥物は、非常に粉砕性が良好であって、容易に粉末状になった。
【0080】
上記のようにして得られた粉末は、白色で、粉末エックス回折により、2θ=8.7°付近に非常にシャープなピークが認められ、層状化合物の特徴を有していることから、生成物は層状構造を有する亜鉛エチルリン酸エステル複合体(以下、これを「ZnEP」と表記する)であることが確認された。
【0081】
得られたZnEPは、示差熱分析で120℃付近および270℃付近に質量減少が観察され、同時にDTA曲線にそれぞれ吸熱ピーク、発熱ピークが認められることから、これらの質量減少やピークの出現は、結合水の脱離およびエチル基の燃焼によるものと考えられる。
【0082】
また、このZnEPは、蛍光エックス線分析により、亜鉛とリンの存在が確認され、CHN元素分析より、炭素と水素の存在が確認された。
【0083】
さらに、上記元素分析より確認されたモル比は、エチル基/P=1.0、Zn/P=1.0となるため、このZnEPは、以下のような構造と推定される。
【0084】
Zn(OH)(COPOH)
【0085】
つぎに、上記のようにして得られた層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を用いて、以下の実施例1〜11に示すように、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体を製造し、その特性を調べた。
【0086】
実施例1 表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体の製造
200mlのガラス製三角フラスコに、エタノール100gを入れ、そこに合成例1で合成したFePP(すなわち、層状構造を有する鉄フェニルエステル複合体)を0.1g入れ、このFePPの分散液に水を張った超音波洗浄機中で出力180W、発振周波数40kHzの超音波を照射した。
【0087】
FePPの分散液は、超音波の照射前は、若干黄色味を帯びた白濁したスラリー状であったが、照射時間の経過に伴なって、透明性が次第に向上し、18時間経時後には薄黄色透明の溶液状態になった。なお、超音波照射中は、分散液の温度が上昇するので、適宜氷で冷却しながら、20℃以下の温度に保った。
【0088】
上記薄黄色液の分散液は、FePPが層間剥離し、表面にフェニル基が存在するシート状のリン酸鉄ナノ体が、エタノール中でコロイド溶液として分散していると考えられる。
【0089】
なお、上記の分散液20mlを50mlのガラス製シャーレに入れ、側面から可視光(波長650nmの赤色レーザーポインター使用)を照射すると、光路が光るチンダル現象を示し、ナノ体がコロイド状態であることが分かった。
【0090】
表1にFePPの分散液の超音波の照射時間の増加に伴なう透明性の変化を示す。すなわち、目視によりFePPの分散液の超音波の照射時間の増加に伴なう濁りの減少を観察し、それを透明性の変化として評価した。評価基準は以下の通りである。
【0091】
評価基準:
−−−:濁りが非常に多く、不透明である。
−−:濁りが多く、不透明である。
−:濁りがわずかに認められるが、ほぼ透明に近い。
+:濁りが認められず、透明である。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示すように、超音波の照射時間の増加に伴ないFePPの分散液の白濁度が減少し、照射時間が12時間を経過すると、濁りがほとんどなくなって透明に近い状態になり、18時間照射後には、前記のように、ほぼ薄黄色の透明な溶液状態になった。
【0094】
また、得られた表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体(以下、これを「NFePP」と表記する)の分散液の時間経過に伴なう安定性の変化を表2に示す。すなわち、目視によりNFePPの分散液の時間経過に伴なう濁りの発生・増加を観察し、それを安定性の変化として評価した。評価基準は以下の通りである。
【0095】
評価基準:
A:濁りが認められず、透明である。
B:濁りがわずかに認められるがほぼ透明に近い。
BB:濁りが多く、不透明である。
BBB:濁りが非常に多く、不透明である。
【0096】
【表2】

【0097】
表2に示すように、NFePPの分散液(すなわち、表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体のエタノール分散液)は、生成直後も90日経過後も透明性にほとんど変化がなく、長期安定性に優れていた。
【0098】
比較例1
エタノールに代えてアセトンを用いた以外は、実施例1と同様の条件下で超音波照射による鉄フェニルリン酸エステル複合体のナノ体化を試みたが、超音波(出力180W、発振周波数40kHz)を36時間照射しても鉄フェニルリン酸エステル複合体の分散液は白濁したままで、ナノ体化は生じなかった。
【0099】
実施例2〜11
つぎに、上記実施例1に準じ、合成例1〜6で得られた層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体に超音波を照射して表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体を製造した。その際の条件およびナノ体化の状況を表3に実施例1および比較例1の場合とあわせて示す。
【0100】
表3には、原料として上記金属リン酸塩ナノ体の製造にあたって使用した層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を示し、溶媒の種類として使用した水酸基を有する極性有機溶媒を示し、分散濃度として層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体を極性有機溶媒に分散させたときの分散液の濃度を示し、超音波照射として超音波(実施例1〜10は出力180W、発振周波数40kHzの超音波、実施例11は出力500W、発振周波数40kHz)の照射時間を示し、かつナノ体化の有無を示すが、スペース上の関係で原料としての層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体は前記のように略号化して示す。その略号と層状構造を有する金属アルキルまたはアリールリン酸エステル複合体との関係を再度示すと以下の通りである。
【0101】
FePP:鉄フェニルリン酸エステル複合体(合成例1)
FeOP:鉄オクチルリン酸エステル複合体(合成例2)
FeEP:鉄エチルリン酸エステル複合体(合成例3)
TiEP:チタニウムエチルリン酸エステル複合体(合成例4)
CeEP:セリウムエチルリン酸エステル複合体(合成例5)
ZnEP:亜鉛エチルリン酸エステル複合体(合成例6)
【0102】
また、ナノ体化の確認は、分散液の目視による透明性評価(分散液が透明であれば、ナノ体が生起していると評価)によって行った。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示すように、水酸基を有する極性有機溶媒を用いた実施例1〜11では、いずれも、ナノ体化が進行して、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体が得られたが、極性を有していても水酸基を有しないアセトンを用いた比較例1ではナノ体化が進行しなかった。
【0105】
なお、実施例1で得られたナノ体は前記のように「表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体」であるが、実施例2および実施例8で得られたナノ体は「表面がオクチル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体」であり、実施例3および実施例9〜11で得られたナノ体は「表面がエチル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体」で、実施例4で得られたナノ体は「表面がエチル基で修飾されたリン酸チタンナノ体」であり、実施例5で得られたナノ体は「表面がエチル基で修飾されたリン酸セリウムナノ体」であり、実施例6で得られたナノ体は「表面がエチル基で修飾されたリン酸亜鉛ナノ体」であり、実施例7で得られたナノ体は実施例1の場合と同様に「表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体」である。
【0106】
実施例12 紫外線吸収剤への応用
実施例1の表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体の0.1%(1000ppm)エタノール分散液を、空間部の厚さが1cmの石英製セルに入れ、紫外可視分光光度計(日本分光社製V−560)により、波長250〜600nmの領域における吸光度を測定した。その結果を図2に示す。
【0107】
図2に示すように、実施例1の表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体を含有する組成物は、紫外領域(波長350nm以下)での吸光度が高く、紫外線遮蔽作用を有しているにもかかわらず、可視領域では吸光度が低く、透過性が優れていて、紫外線吸収剤として有用であることを示していた。
【0108】
実施例13 防錆剤への応用
実施例1で得られた表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体の分散液を、軟鋼板SPCC−SBにバーコーター#30で塗装し、10分間室温で乾燥し、その上に2層目を塗り重ねた。同様の操作を10回くり返した後、室温で1日乾燥し、ついで、100℃で10分間低温焼き付けした。膜厚は約0.1μmであった。
【0109】
この塗板の横および裏面を市販の防錆塗料で塗装し、エッジシールした後、塩水噴霧試験器に入れ、1時間後の表面の錆の状態を観察した。その結果、錆やふくれの発生がまったくなく、薄膜でも優れた防錆性を有していて、実施例1の表面がフェニル基で修飾されたリン酸鉄ナノ体が防錆剤として有用であることを示していた。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】鉄フェニルリン酸エステル複合体の構造の要部を模式的に示す図である。
【図2】実施例1の表面がフェニル基で修飾されたリン酸ナノ体を含む組成物の波長250〜600nmの領域における吸光度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する金属アルキルリン酸エステル複合体または金属アリールリン酸エステル複合体を水酸基を有する極性有機溶媒中で超音波処理して得られたことを特徴とする、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体。
【請求項2】
金属成分が、チタン、鉄、亜鉛またはセリウムである請求項1記載の金属リン酸塩ナノ体。
【請求項3】
アルキルが、構成炭素数が2から20の範囲にある脂肪族系炭化水素で構成されている請求項1または2記載の金属リン酸塩ナノ体。
【請求項4】
アリールが、構成炭素数が6から20の範囲にある芳香族系炭化水素で構成されている請求項1または2記載の金属リン酸塩ナノ体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属リン酸塩ナノ体の製造方法であって、層状構造を有する金属アルキルリン酸エステル複合体または金属アリールリン酸エステル複合体の水酸基を有する極性有機溶媒分散液に、超音波を照射することを特徴とする、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体の製造方法。
【請求項6】
層状構造を有する金属アルキルリン酸エステル複合体または金属アリールリン酸エステル複合体を0.01〜10質量%の濃度で水酸基を有する極性有機溶媒に分散し、超音波出力が20W〜2500Wおよび発振周波数が10kHz以上の超音波で30分間以上照射する請求項5記載の金属リン酸塩ナノ体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属リン酸塩ナノ体が水酸基を有する極性有機溶媒中に分散していることを特徴とする、表面がアルキル基またはアリール基で修飾された金属リン酸塩ナノ体の水酸基を有する極性有機溶媒分散液。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属リン酸塩ナノ体を含有することを特徴とする紫外線吸収剤。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属リン酸塩ナノ体を含有することを特徴とする防錆剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−222591(P2008−222591A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60066(P2007−60066)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】