説明

表面が抗菌性を有する医療用具

【課題】表面が抗菌性を確実に発揮する医療用具を提供する。
【解決手段】基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された抗菌層と、を備え、前記抗菌層が、分子内にチオール基を複数有する化合物と、分子内にチオール基と結合する官能基を有する抗菌性化合物と、を反応させて架橋構造を形成することによって得られることを特徴とする表面が抗菌性を有する医療用具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が抗菌性を有する医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具を体内に挿入・留置して治療や診断を行うことが多くなっているが、それに伴い、医療用具による感染症の問題が懸念されている。このため、このような問題を防止するために、抗菌性を有する化合物を基材表面に被覆する方法が開発され実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高分子材料からなる基材を、膨潤する溶媒に浸漬して膨潤させ、該溶媒に抗菌性物質を含有させることによって、基材に抗菌性物質が含浸した医療用具が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、アルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの共重合体からなる基材を、抗菌性物質を溶解した溶液に浸漬した後、乾燥させることによって得られる、基材表面が抗菌性物質で被覆された医療用具が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法では、抗菌性物質は、単に基材表面に付着している状態であり、抗菌性物質が基材から剥離するリスクが高い。
【0006】
そこで、基材に抗菌性物質を固定化する方法として、特許文献3には、酸無水物基を有するポリマー、ビニールラクタム化合物のポリマー、および活性水素を2個以上有する化合物から形成された架橋被膜を表面に有する基材に、抗菌性物質がイオン結合した医療器具の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、表面電荷を有する基材に、抗菌性を有する親水性有機化合物を被覆させた医療器具が開示されている。特許文献3および4に記載の方法では、基材と抗菌性物質とが、イオン結合しているため、ある程度、抗菌性物質を基材に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−308676号公報
【特許文献2】特開2008−266225号公報
【特許文献3】特開2003−299726号公報
【特許文献4】特開2008−233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3および4に記載の方法では、抗菌性物質は、イオン結合により基材に固定化されているため、例えば、溶媒や体内動態などの環境変化により剥離することが懸念され、いまだ満足するものは得られていなかった。
【0009】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、表面が抗菌性を確実に発揮する医療用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、(1)基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された抗菌層と、を備え、前記抗菌層が、分子内にチオール基を複数有する化合物と、分子内にチオール基と結合する官能基を有する抗菌性化合物と、を反応させて架橋構造を形成することによって得られることを特徴とする表面が抗菌性を有する医療用具である。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明は、(2)前記チオール基と結合する官能基が、チオール基、アルケニル基、アクリル基またはメタクリル基である、上記(1)に記載の医療用具である。
【0012】
さらに、上記目的を達成するための本発明は、(3)前記抗菌性化合物が、チオール基と結合する官能基を有するビグアナイド誘導体である、上記(1)または(2)に記載の医療用具である。
【0013】
さらにまた、上記目的を達成するための本発明は、(4)前記抗菌層が、分子内にチオール基を複数有する化合物と、分子内にチオール基と結合する官能基を有する抗菌性化合物と、を溶媒に溶解させた1液からなる混合溶液を前記基材層にコーティングした後、前記チオール基と前記チオール基と結合する官能基とを反応させることによって得られる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医療用具である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用具は、表面が抗菌性を確実に発揮する。また、本発明の医療用具によれば、種々の基材と抗菌層とを、簡便な手法で強固に固定化することにより、使用時の優れた抗菌性を永続的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の表面が抗菌性を有する医療用具(以下、単に医療用具とも略記する)の実施形態の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。
【図1B】本実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された抗菌層と、を備え、前記抗菌層が、分子内にチオール基(−SH:メルカプト基・スルフヒドリル基・水硫基と呼称することもある)を複数有する化合物(以下、単に「チオール化合物」ともいう)と、分子内にチオール基と結合する官能基(以下、単に「反応性官能基」ともいう)を有する抗菌性化合物(以下、単に「抗菌性化合物」ともいう)とを反応させて架橋構造を形成することによって得られることを特徴とする表面が抗菌性を有する医療用具を提供する。本発明は、チオール化合物のチオール基を抗菌性化合物の反応性官能基(例えば、チオール基、アルケニル基、アクリル基、メタクリル基等)と反応させて架橋構造を形成させ、当該チオール化合物中の残存チオール基を介してチオール化合物を基材層に結合させることにより、抗菌層を基材層に強固に固定化することができる。すなわち、本発明の医療用具では、チオール化合物のチオール基を介して、基材層と抗菌層とが強固に固定化できる。これにより、使用時の優れた抗菌性を永続的に発揮することが可能である。
【0017】
特に反応性官能基がチオール基、アルケニル基、アクリル基またはメタクリル基である抗菌性化合物を使用する場合には、これらの反応性官能基は反応性が低く、加熱、紫外線照射、プラズマ照射等の特定の処理によってはじめて反応性を示すため、抗菌性化合物は溶液状態での安定性に優れる。このため、抗菌層の形成操作毎に抗菌性化合物の溶液を調製する必要はなく、操作の容易さ、大量生産等の産業上の観点から好ましい。また、抗菌性化合物の反応性官能基としてのチオール基、アルケニル基、アクリル基、メタクリル基は水分の影響を受けにくい。このため、水分を含む溶媒を使用して、抗菌性化合物の溶液を調製し、この溶液で抗菌層を形成しても、形成された抗菌層は基材層に強固に担持(固定化)できる。ゆえに、本発明により形成された抗菌層の基材表面からの溶出・剥離を効果的に抑制・防止できる。また、抗菌層の形成工程時の溶媒の選択や管理を自由に行え、また、抗菌層の形成工程時の湿度をはじめとする諸条件をも自由に設定できる。
【0018】
上記に加えて、本発明の医療用具によると、抗菌層は、チオール化合物と抗菌性化合物とを溶媒に溶解させた1液からなる混合溶液を基材層にコーティングした後、チオール基と反応性官能基とを反応させることによって、1回の工程で作製できる。また、特に抗菌性化合物が反応性官能基としてチオール基、アルケニル基、アクリル基またはメタクリル基を有する場合には、これらの反応性官能基は、加熱、紫外線照射、プラズマ照射等の処理によって高い反応性を示すため、その作製時間を短縮できる。
【0019】
以下、添付した図面を参照して本発明の医療用具の実施形態を説明する。
【0020】
図1Aは、本発明の実施形態の表面が抗菌性を有する医療用具(以下、単に「医療用具」ともいう)の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。図1Bは、本実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。図1Aおよび図1Bに示されるように、本実施形態の医療用具10では、基材層1と、基材層1の少なくとも一部を覆う(図中では、図面内の基材層の全体を被覆した例を示す)抗菌層2と、を備え、抗菌層2が分子内に複数のチオール基を有するチオール化合物と、分子内にチオール基と結合する反応性官能基を有する抗菌性化合物とを反応させて架橋構造を形成することによって得られることを特徴とするものである。ここで、抗菌層2は、架橋構造中に残存するチオール化合物のチオール基を介して基材層1と結合している。なかでも、抗菌層2が、チオール化合物と抗菌性化合物とを溶媒に溶解させた混合溶液を基材層1にコーティングした後、チオール基と反応性官能基とを反応させることで得られるものが好ましい。
【0021】
以下、本実施形態の医療用具を各構成部材ごとに詳しく説明する。
【0022】
(1)基材層1
本実施形態の医療用具10を構成する基材層1は、いずれの材料から構成されてもよく、その材料は特に制限されない。具体的には、基材層1を構成(形成)する材料は、金属材料、高分子材料、およびガラスなどが挙げられる。ここで、基材層1は、基材層1全体(全部)が上記いずれかの材料で構成(形成)されても、または、図1Bに示されるように、上記いずれかの材料で構成(形成)された基材層コア部1aの表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆(コーティング)して、表面層1bを構成(形成)した構造を有していてもよい。後者の場合の例としては、樹脂材料等で形成された基材層コア部1aの表面に金属材料が適当な方法(メッキ、金属蒸着、スパッタ等従来公知の方法)で被覆(コーティング)されて、表面層1bを形成してなるもの;金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部1aの表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟な高分子材料が適当な方法(浸漬(デッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆(コーティング)あるいは基材層コア部1aの補強材料と表面層1bの高分子材料とが複合化(適当な反応処理)されて、表面層1bを形成してなるものなどが挙げられる。よって、基材層コア部1aが、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。また、基材層コア部1aと表面層1bとの間に、さらに別のミドル層(図示せず)が形成されていてもよい。さらに、表面層1bに関しても異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。
【0023】
上記基材層1を構成(形成)する材料のうち、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の用途に一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル−チタン(Ni−Ti)合金、ニッケル−コバルト(Ni−Co)合金、コバルト−クロム(Co−Cr)合金、亜鉛−タングステン(Zn−W)合金等の各種合金、各種セラミックス材料などの無機材料、さらには金属−セラミックス複合体などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記金属材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材として最適な金属材料を適宜選択すればよい。
【0024】
また、高分子材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の用途に一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、
ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66(いずれも登録商標)などのポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記高分子材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。
【0025】
また、基材層コア部1aおよび表面層1bを構成する材料は、特に制限されず、具体的には、上記基材層1の材料と同様の材料が使用できる。
【0026】
また、上記基材層の形状は、特に制限されることはなく、シート状、線状(ワイヤ)、管状など使用態様により適宜選択される。
【0027】
また、上記ミドル層(図示せず)に用いることができる材料としては、特に制限されるものではなく、基材層コア部1aと表面層1bとの結合機能を十分に発現し得る材料を適宜選択すればよい。例えば、上記基材層1の材料と同様の材料が使用できるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0028】
(2)抗菌層2
本実施形態の医療用具を構成する抗菌層2は、基材層1の少なくとも一部に担持され(図1中では、図面内の基材層の全体に担持された例を示す)、反応性官能基を有する抗菌性化合物および分子内に複数のチオール基を有するチオール化合物を含むものである。ここで、抗菌層2は、チオール化合物のチオール基と抗菌性化合物の反応性官能基とを反応させて架橋構造を形成することによって得られ、この際、架橋構造中に残存するチオール化合物中のチオール基が基材層1に結合している。これにより、抗菌層2は、基材層1の少なくとも一部を被覆する(図中では、図面内の基材層の全体を被覆した例を示す)。
【0029】
本実施形態の医療用具を構成する抗菌層2の厚さとしては、特に制限されないが、抗菌層2が基材層1に強固に固定化され、かつ使用時の優れた抗菌性、または必要であれば、抗菌性を永続的に発揮することができるだけの厚さを有することが好ましい。このような観点から、抗菌層の厚さ(未膨潤時の抗菌層の厚さ)は、0.1〜5μm、好ましくは0.5〜5μmの範囲とするのが望ましい。このような厚みであれば、均一な被膜を容易に形成でき、表面の抗菌性、または必要であれば抗菌維持性を十分発揮できる。よって、本発明の医療用具は、本発明の医療用具を生体内の血管等に挿入する際など、血管等と該医療用具とが接触した部位の感染を抑制し、また、抗菌層が強固に固定化されているため、医療用具と血管等の接触により抗菌層が剥離することがなく、抗菌性が維持される。
【0030】
抗菌層2の形成方法は、特に制限されないが、チオール化合物と抗菌性化合物とを溶媒に溶解させた1液からなる混合溶液を基材層にコーティングした後、チオール基と反応性官能基とを反応させる方法が好ましい。
【0031】
ここで、抗菌層2が、基材層1表面の少なくとも一部に担持されているとしたのは、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具において、必ずしもこれらの医療用具の全ての表面(表面全体)が抗菌性を有する必要はなく、表面が抗菌性を有することが求められる表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)のみに抗菌層2が担持されていればよいためである。なお、ここでいう「担持」とは、抗菌層2が基材層1表面から容易に遊離しない状態に固定化された状態である。
【0032】
チオール化合物は、分子内にチオール基を複数有する化合物であれば特に限定されないが、抗菌性化合物と反応して架橋構造を形成した際に、残存するチオール基が基材層1に結合しやすいよう、チオール化合物の最表面に残存するチオール基が露出しやすい構造を有していることが望ましい。かかる観点から、チオール化合物としては、1分子内にチオール基を2個以上有する化合物であればよいが、1分子内にチオール基を、2〜10個、より好ましくは3〜6個有するチオール化合物が好ましく使用される。
【0033】
かかる観点から、上記チオール化合物としては、特に制限されることはなく、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば1,2−エタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、1,5−ジメルカプトナフタレン、2,6−ジメルカプトプリン、4,4'−ビフェニルジチオール、4,4'−チオビスベンゼンチオール、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)等の分子内にチオール基を2つ有する化合物、1,3,5−ベンゼントリチオール、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)、トリアジントリチオール、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMMP)等の分子内にチオール基を3つ有する化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等の分子内にチオール基を4つ有する化合物、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等の分子内にチオール基を6つ有する化合物、およびそれらの誘導体や重合体などを好適に例示できる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。抗菌性化合物と反応して架橋構造を形成した際に、残存するチオール基が基材層1に結合しやすいよう、最表面に残存チオール基が露出しやすい構造を有し、分子骨格が安定で、基材層1表面との親和性がよい点を考慮すると、チオール基を2〜10個有する化合物である、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)が好ましく、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)がより好ましい。なお、本実施形態では、上記に例示したチオール化合物に何ら制限されるものではなく、本発明の作用効果を有効に発現し得るものであれば、他のチオール化合物も利用可能である。
【0034】
本発明に係る抗菌性化合物は、分子内にチオール基と結合する官能基(反応性官能基)を有する。ここで、抗菌性化合物の反応性官能基は、チオール化合物のチオール基と反応できるものであれば特に制限されない。例えば、チオール基(−SH)、アルケニル基、アクリル基(CH2=CH−COO−)、メタクリル基(CH2=C(CH3)−COO−)などが好ましい。これらの反応性官能基は、溶媒中での安定性に優れ、チオール化合物と混合したのみではチオール基と反応せず、加熱処理、紫外線処理、プラズマ処理等の特定の処理によってはじめてチオール化合物のチオール基と反応する。このため、チオール化合物と抗菌性化合物とを溶媒に溶解させた1液の状態での保存が可能であり、抗菌層の形成操作毎にチオール化合物と抗菌性化合物とを含む溶液を調製する必要がないため、産業上の観点から非常に好ましい。また、上記反応性官能基は、加熱処理、紫外線処理、プラズマ処理等の処理により高い反応性を示すため、チオール化合物と効率よく反応し、強固に結合できる。なお、上記反応性官能基は、抗菌性化合物中、1種単独で存在していても、または2種以上が混合して存在していてもよい。上記反応性官能基のうち、アルケニル基は、チオール化合物のチオール基と反応できるものであれば特に制限されないが、炭素原子数2〜10のアルケニル基が好ましく、炭素原子数2〜8のアルケニル基がより好ましい。具体的には、アルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基などが挙げられる。
【0035】
また、抗菌性化合物としては、上記反応性官能基を有し、かつ表面に抗菌性を発揮させうるものであれば特に制限されず、形成される医療用具の使用目的、抗菌性物質の抗菌スペクトル、安全性等を考慮して適宜選択することができる。
【0036】
本発明の抗菌性化合物としては、例えば、ビグアナイドの骨格を分子内に少なくとも1つ有するビグアナイド誘導体が好ましい。すなわち、本発明の抗菌性化合物は、反応性官能基を有するビグアナイド誘導体であるのが好ましい。なお、本明細書中、「反応性官能基を有するビグアナイド誘導体」のことを、「ビグアナイド誘導体」とも称し、「反応性官能基を有するビグアナイド誘導体」のビグアナイド骨格部分のことを「ビグアナイド部分(骨格)」と称する。ビグアナイド(Biguanide、「イミドジカルボンイミド酸ジアミド」とも称される。)とは、NH2C(=NH)NH−C(=NH)NH2で表され、グアニジン(NH2C(=NH)NH2)2分子が、窒素原子1個を共有して連なった構造である。本発明において、抗菌性化合物(ビグアナイド誘導体)中、ビグアナイド部分(骨格)は、1種単独で存在していても、または2種以上が混合して存在していてもよい。本発明の抗菌性化合物において、ビグアナイド部分(骨格)となりうる化合物(以下、「ビグアナイド系化合物」とも称する。)としては、例えば、ビグアナイド、フェンホルミン(phenformin)、ブホルミン(buformin)、メトホルミン(metformin)、プログアニル(proguanil)、クロルヘキシジン(chlorhexidine)、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩もしくはグルコン酸塩)などが挙げられる。これらのうち、ビグアナイド部分(骨格)としては、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアナイドであるのがより好ましい。これらの抗菌性化合物を含む抗菌層は、優れた抗菌性を発揮できる。
【0037】
また、本発明の抗菌性化合物であるビグアナイド誘導体は、分子内に反応性官能基を少なくとも1つ有する。本発明のビグアナイド誘導体中に存在する反応性官能基の数は、特に制限されないが、1分子中、1〜20個であるのが好ましく、1〜10個であるのがより好ましく、1〜5個であるのがさらに好ましい。上記範囲にすることで、抗菌性化合物とチオール化合物とが強固に固定され、かつ得られた抗菌層が、優れた抗菌性を発揮できる。なお、反応性官能基は、ビグアナイド誘導体のどの部位に存在しているかは特に制限されず、たとえば、ビグアナイド誘導体のアミン部分に、反応性官能基を導入することで、ビグアナイド誘導体の分子内に反応性官能基を導入することができる。
【0038】
このような反応性官能基を有する抗菌性化合物は、チオール化合物のチオール基と反応でき、かつ抗菌性を発揮できるものであれば、特に制限されない。具体的には、(1)チオール基を有するビグアナイド、フェンホルミン、ブホルミン、メトホルミン、プログアニル、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩もしくはグルコン酸塩)、(2)アルケニル基を有するビグアナイド、フェンホルミン、ブホルミン、メトホルミン、プログアニル、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩もしくはグルコン酸塩)、(3)(メタ)アクリル基を有するビグアナイド、フェンホルミン、ブホルミン、メトホルミン、プログアニル、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアナイドまたはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩もしくはグルコン酸塩)、などが挙げられる。これらのうち、特に、チオール基を有する塩酸クロルヘキシジン(3−メルカプトプロピオン酸修飾体)、アクリル基を有するクロルヘキシジン(アクリル酸修飾体)、アクリル基を有するポリヘキサメチレンビグアナイド(アクリル酸修飾体)が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味する。
【0039】
本発明で用いられる抗菌性化合物は、市販のものを入手してもよいし、公知の方法で合成してもよい。たとえば、反応性官能基を有するビグアナイド誘導体は、入手が容易なビグアナイド系化合物から、公知の方法を用いて、種々の官能基を導入してもよい。たとえば、反応性官能基を有する化合物に、アミンと反応しうる基を導入し、この化合物と、ビグアナイド系化合物とを反応させることで、反応性官能基を有するビグアナイド誘導体を得ることができる。
【0040】
ビグアナイド系化合物に、チオール基を反応性官能基として導入するには、たとえば、チオール基を有するカルボン酸化合物(たとえば、メルカプトプロピオン酸)を、塩化チオニルで酸塩化物とし、該酸塩化物と、ビグアナイド誘導体部分(骨格)となりうる化合物と、を反応させることで、チオール基を有するビグアナイド誘導体を得ることができる。また、チオール基を有するカルボン酸化合物を酸塩化物化する際は、チオール基をトリチル基(−CPh3)や、トリメチルシリル基(−OSi(CH33)などで保護するのが好ましい。
【0041】
当該反応は、まず、チオール基を有するカルボン酸化合物に、チオール基の保護基であるトリチル基などを導入して、チオール保護カルボン酸化合物を得た後、該チオール保護カルボン酸化合物に、塩化チオニルを添加し、0〜80℃で0.5〜24時間反応させることでチオール保護カルボン酸化合物の酸塩化物が得られる。次に、溶剤に溶解したビグアナイド系化合物に、溶剤に溶解した酸塩化物を0〜20℃で滴下し、15分〜5時間撹拌した後、アルカリを添加して反応を停止させ、その後、酸で脱保護を行い、チオール基を有するビグアナイド誘導体を得る。このとき、反応に用いられる原料の混合比は、特に制限されず、反応性に応じて適宜調整されうる。特に、チオール保護カルボン酸化合物の酸塩化物と、ビグアナイド系化合物との混合比は、後に得られるチオール基を有するビグアナイド誘導体中に、チオール基をいくつ導入するかにより適宜調整されうる。また、このとき用いられる溶剤は、反応に影響を与えなければ特に制限されず、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化物、ブタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジオキサン、DMSO、アセトニトリルなどを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。溶媒の使用量については、反応が安全にかつ安定に実施できる量であればよい。
【0042】
チオール基を有するカルボン酸化合物としては、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトブタン酸、2−メルカプトイソ酪酸、3−メルカプトイソ酪酸、3−メルカプト−3−メチル酪酸、2−メルカプト吉草酸、3−メルカプトイソ吉草酸、4−メルカプト吉草酸、3−フェニル−3メルカプトプロピオン酸などが挙げられる。
【0043】
また、チオール基を有するスルホン酸化合物を用いても、塩化チオニルでスルホン酸塩化物とし、該スルホン酸塩化物と、ビグアナイド系化合物と、を反応させることで、上記チオール基を有するカルボン酸化合物と同様、チオール基を有するビグアナイド誘導体を得ることができる。チオール基を有するスルホン酸化合物としては、2−メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトプロパンスルホン酸、3−メルカプトプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0044】
また、チオール基を有するアルコールを用いた場合、アルコールを酸化してカルボン酸とすることで、上記チオール基を有するカルボン酸として用いることができる。チオール基を有するアルコールとしては、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、3−メルカプト−2−プロパノール、4−メルカプト−1−ブタノール、4−メルカプト−2−ブタノール、4−メルカプト−3−ブタノール、1−メルカプト−1,1−メタンジオール、1−メルカプト−1,1−エタンジオール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(α−チオグリセロール)、2−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプト−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプト−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1−メルカプト−2,2−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0045】
チオール基を有するスルホン酸化合物、チオール基を有するアルコール等を原料としてビグアナイド誘導体を得る場合も、反応は、特に制限されず、上記チオール基を有するカルボン酸化合物と同様の条件で行うことができる。
【0046】
ビグアナイド系化合物に、アルケニル基を反応性官能基として導入するには、アリルクロライド等のアルケニル基を有する化合物と、ビグアナイド誘導体部分(骨格)となりうる化合物と、を反応させることによりアルケニル基を有するビグアナイド誘導体を得ることができる。
【0047】
また、ビグアナイド系化合物に、(メタ)アクリル酸を反応性官能基として導入するには、(メタ)アクリル酸を塩化チオニルで酸塩化物とし、酸塩化物と、ビグアナイド誘導体部分(骨格)となりうる化合物と、を反応させることで、(メタ)アクリル酸基を有するビグアナイド誘導体を得ることができる。
【0048】
ここで、抗菌層2の形成方法は、特に制限されないが、チオール化合物と抗菌性化合物とを溶媒に溶解させた1液からなる混合溶液を基材層にコーティングした後、チオール基と反応性官能基とを反応させる方法が好ましい。
【0049】
ここで、チオール化合物と抗菌性化合物との混合比は、チオール化合物のチオール基と抗菌性化合物の反応性官能基が結合して、架橋構造を形成し、また、基材層にチオール化合物を介して固定化できる割合であれば、特に限定されない。また、チオール化合物と抗菌性化合物との混合比は、チオール化合物の分子内のチオール基の数や反応させる抗菌性化合物の反応性官能基の量によっても異なる。通常、チオール化合物を、抗菌性化合物100重量部に対して、好ましくは50〜100,000重量部、より好ましくは90〜100,00重量部混合する。このような混合比であれば、抗菌層の架橋剤としても働くチオール化合物の添加量を最適化することができ、抗菌層の架橋密度の上昇を抑制し、抗菌性(場合によっては、さらに抗菌維持性(耐久性))を高めることができ、使用時の優れた抗菌性(場合によっては、さらに抗菌維持性)をより長期間有効に保持することができる。なお、チオール化合物の添加量が抗菌性化合物に対して50重量部未満である場合には、チオール化合物を介した基材層と抗菌層との結合(固定化)や十分な架橋構造の形成が不十分となるおそれがある。一方、チオール化合物の添加量が抗菌性化合物に対して100,000重量部を超える場合には、抗菌層の架橋密度の上昇により抗菌性(場合によっては、さらに表面抗菌維持性)が低下するおそれがある。
【0050】
また、混合溶液の調製に使用される溶媒としては、チオール化合物および抗菌性化合物を溶解できる溶媒であれば、特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化物、ブタン、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジオキサンなどを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0051】
混合溶液中の濃度(溶媒に対するチオール化合物および抗菌性化合物の合計の添加量)は、所望の厚みの抗菌層の得やすさ、操作性(例えば、コーティングのしやすさ)などの観点から、好ましくは0.05〜200mg/mL、より好ましくは0.1〜100mg/mLである。混合溶液中の濃度が上記範囲にあれば、1回のコーティングで所望の厚みの均一な抗菌層を容易に得ることができ、生産効率の点で好ましい。このため、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の医療用具の細く狭い内面であっても、素早くかつ容易に、所望の厚みの均一な抗菌層で被覆できる。ただし、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0052】
上記混合溶液を基材層にコーティング(被覆)する手法としては、特に制限されるものではなく、浸漬法(ディッピング法)、塗布・印刷法、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。
【0053】
なお、混合溶液中に基材層を浸漬して、該混合溶液(コーティング溶液)を基材層にコーティングする場合、基材層を混合溶液中に浸漬した状態で、系内を減圧にして脱泡させてもよい。特にカテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の医療用具の場合には、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させて、抗菌層の形成を促進できる。
【0054】
また、基材層の一部にのみ抗菌層を形成させる場合には、基材層の一部のみを混合溶液中に浸漬して、該混合溶液(コーティング溶液)を基材層の一部にコーティングした後、加熱操作等により反応させることで、基材層の所望の表面部位に、抗菌性化合物とチオール化合物とが架橋構造をなした抗菌層を形成することができる。
【0055】
基材層の一部のみを混合溶液中に浸漬するのが困難な場合には、予め抗菌層を形成する必要のない基材層の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材層を混合溶液中に浸漬して、該混合溶液を基材層にコーティングした後、抗菌層を形成する必要のない基材層の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱操作等により反応させることで、基材層の所望の表面部位に抗菌層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、抗菌層を形成することができる。例えば、基材層の一部のみを混合溶液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、塗布法や噴霧法など)を適用してもよい。なお、医療用具の構造上、円筒状の用具の外表面と内表面の双方が、抗菌性を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0056】
また、チオール化合物のチオール基と抗菌性化合物の反応性官能基とを反応させる手法としては、特に制限されるものではなく、例えば、加熱処理、光照射、紫外線(UV)照射、電子線照射、放射線照射、プラズマ照射など、従来公知の方法を適用することができる。特に、本発明に係る抗菌性化合物が反応性官能基としてチオール基、アルケニル基、アクリル基またはメタクリル基を有する場合には、これらの反応性官能基は、単に溶液の形態では反応性が低いものの、加熱、紫外線照射、プラズマ照射等の処理により高い反応性を発揮できる。このため、本発明に係る方法によると、比較的緩やかな条件で反応を行うことができる;反応時間を短縮できる;チオール化合物と抗菌性化合物との強固な結合が可能であり、しっかりした架橋構造を形成できる、などの利点がある。
【0057】
上記反応方法のうち、例えば、加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)としては、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)と同時に、架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が進行(促進)し得るものであれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50〜150℃、特に好ましくは60〜130℃である。また、加熱時間は、好ましくは15分以上7時間未満、より好ましくは30分〜6時間、特に好ましくは1〜5時間である。このような反応条件であれば、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)、および架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が速やかに進行(促進)できる。
【0058】
加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。また、抗菌性化合物の反応性官能基とチオール基との反応を促進することができるように、トリアルキルアミン系化合物やピリジン等の3級アミン系化合物などの反応触媒を、混合溶液に適時適量添加して用いてもよい。加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
【0059】
また、紫外線(UV)照射による場合の、UV照射条件(反応条件)もまた、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)と同時に、架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が進行(促進)し得るものであれば、特に制限されるものではない。UV照射時の温度は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜35℃である。また、UV照射時間は、好ましくは1〜60分、より好ましくは5〜30分である。このような反応条件であれば、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)、および架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が速やかに進行(促進)できる。また、UV照射時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下、加圧下または減圧下のいずれで行ってもよいが、通常、常圧(大気圧)下である。
【0060】
さらに、プラズマ照射による場合の、プラズマ照射条件(反応条件)もまた、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)と同時に、架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が進行(促進)し得るものであれば、特に制限されるものではない。プラズマ照射時の温度は、好ましくは5〜35℃、より好ましくは15〜30℃である。また、プラズマ照射時間は、好ましくは10分以下、より好ましくは0.1秒〜5分、さらにより好ましくは1秒〜3分である。このような反応条件であれば、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)、および架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が速やかに進行(促進)できる。また、プラズマ照射時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下、加圧下または減圧下のいずれで行ってもよいが、自由な角度からプラズマガスの照射ができ、真空装置が必要なく装置が小型化でき、省スペース、低コストでのシステム構成が実現でき、経済的にも優れることから、大気圧下で行うのが好ましい。また、プラズマ照射ノズルをガイドワイヤなどの被処理物を中心にその周りを一回転させながらプラズマガスを照射することで、被処理物の全周をムラなく均一にプラズマ処理することもできる。
【0061】
プラズマ処理に用いることのできるイオン化ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気および水素等が挙げられる。この際、上記イオン化ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。なお、上記イオン化ガスは、酸素または窒素を含有してもよい。この際のイオン化ガス中の酸素または窒素の含有量は、特に制限されず、適宜選択されうる。また、印加電流やガス流量等のプラズマ処理条件は、被処理物の面積、さらには使用するプラズマ照射装置やイオン化ガス種に応じて適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。
【0062】
プラズマ処理に用いることのできるプラズマ照射装置(システム)としては、特に制限されるものではなく、例えば、ガス分子を導入し、これを励起してプラズマを発生するプラズマ発生管と、このプラズマ発生管の中のガス分子を励起する電極とを有し、プラズマ発生管の一端からプラズマを放出するような構成のプラズマ照射装置(システム)などが例示できるが、こうした構成(システム)に何ら制限されるものではない。例えば、既に市販されているものから、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等への照射に適しているイオン化ガスプラズマ照射装置(システム)、特に大気圧でのプラズマ照射装置(システム)を用いることができる。具体的には、TRI−STAR TECHNOLOGIES製のプラズマ照射装置:DURADYNE(商品名又は商標名)、DIENER ELECTRONIC製のプラズマ照射装置:PLASMABEAMなどを利用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0063】
また、上記UV照射またはイオン化ガスプラズマ照射によりチオール化合物のチオール基と抗菌性化合物の反応性官能基とを反応させる場合には、当該UV照射またはイオン化ガスプラズマ照射後に、加熱処理等をしてもよい。これにより、チオール化合物のチオール基と抗菌性化合物の反応性官能基との反応を促進することが可能である。このため、上記加熱処理等によって、チオール化合物を抗菌性化合物と強固に結合させることができ、しっかりした架橋構造を形成することができる。ここで、加熱処理条件(反応条件)としては、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)と同時に、架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が進行(促進)し得るものであれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50〜150℃、特に好ましくは60〜130℃である。また、加熱時間は、好ましくは15分以上7時間未満、より好ましくは30分〜6時間、特に好ましくは1〜5.5時間である。このような反応条件であれば、反応性官能基とチオール基との反応(による架橋構造の形成)、および架橋構造内(チオール化合物内)の残存チオール基と基材層表面との反応が速やかに進行(促進)できる。また、加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
【0064】
または、チオール化合物および抗菌性化合物の混合溶液のコーティング(被覆)工程前に、予め基材層表面にイオン化ガスプラズマを照射してもよい。イオン化ガスプラズマ照射は、基材層の材質にかかわらず、行われうるが、特に基材層が高分子材料もしくはガラスで形成される、または表面が高分子材料もしくはガラスで被覆されてなる場合に、基材層表面にイオン化ガスプラズマを照射することが好ましい。これにより、基材層表面が改質、活性化されて、基材層表面にカルボキシル基、ヒドロキシル基、パーオキサイド等の官能基が導入される。これにより、上記混合溶液に対する濡れ性が高まり、基材層表面に抗菌層を均一に塗布することができるとともに、基材層表面の上記官能基とチオール化合物のチオール基とが反応することによって、抗菌層をチオール化合物を介して基材層表面に簡便な手法で強固に固定化できる。また、イオン化ガスプラズマ処理は、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具の細く狭い内表面であっても、所望のプラズマ処理を施すことが可能である。なお、基材層表面にイオン化ガスプラズマ照射する前に、予め適切な方法で基材層表面を洗浄しておくことが好ましい。
【0065】
ここで、基材層表面のイオン化ガスプラズマ処理条件は、特に制限されない。例えば、圧力条件は、減圧下、大気圧下のいずれでも可能であるが、自由な角度からプラズマガスの照射ができ、真空装置が必要なく装置が小型化でき、省スペース、低コストでのシステム構成が実現でき、経済的にも優れることから、大気圧下で行うのが好ましい。また、プラズマ照射ノズルをガイドワイヤなどの被処理物を中心にその周りを一回転させながらプラズマガスを照射することで、被処理物の全周をムラなく均一にプラズマ処理することもできる。
【0066】
イオン化ガスプラズマ処理での照射時間は、10分以下、好ましくは0.1秒〜5分、さらに好ましくは1秒〜3分の範囲である。このようなイオン化ガスプラズマ照射時間であれば、基材層表面の濡れ性(改質、活性化)を十分に高められ、抗菌層の薄い被膜を形成できる。また、基材層表面が適度に活性化され、チオール化合物中の残存チオール基と基材層表面との反応が速やかに進行(促進)できる。
【0067】
イオン化ガスプラズマ処理での照射時の温度は、特に制限されないが、少なくとも基材層表面が高分子材料やガラスで形成されてなる基材層の場合には、基材層表面の高分子材料やガラスの融点より低い温度で、基材層が変形しない温度範囲であることが好ましい。このため、常温のほか、加熱または冷却して高温または低温にしてもよい。経済的な観点からは、加熱装置や冷却装置が不要な温度(5〜35℃)がよい。
【0068】
また、印加電流やガス流量等のイオン化ガスプラズマ処理条件は、被処理物の面積、さらには使用するプラズマ照射装置やイオン化ガス種に応じて適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。
【0069】
イオン化ガスプラズマ処理に用いることのできるプラズマ照射装置(システム)としては、特に制限されるものではなく、例えば、ガス分子を導入し、これを励起してプラズマを発生するプラズマ発生管と、このプラズマ発生管の中のガス分子を励起する電極とを有し、プラズマ発生管の一端からプラズマを放出するような構成のプラズマ照射装置(システム)などが例示できるが、こうした構成(システム)に何ら制限されるものではない。例えば、既に市販されているものから、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等への照射に適しているイオン化ガスプラズマ照射装置(システム)、特に大気圧でのプラズマ照射装置(システム)を用いることができる。具体的には、TRI−STAR TECHNOLOGIES製のプラズマ照射装置:DURADYNE(商品名又は商標名)、DIENER ELECTRONIC製のプラズマ照射装置:PLASMABEAMなどを利用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0070】
イオン化ガスプラズマ処理に用いることのできるイオン化ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気および水素等が挙げられる。この際、上記イオン化ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。
【0071】
ここで、上記イオン化ガスは、酸素を含有してもよい。特に高分子材料やガラスからなる基材層の場合には、基材層表面に酸素を含有するイオン化ガスプラズマを照射することによって、基材層表面が改質、活性化されて、基材層表面にカルボキシル基、ヒドロキシル基、パーオキサイド等の官能基が多く導入される。これにより、上記混合溶液に対する濡れ性が高まり、基材層表面に抗菌層を均一に塗布することができるとともに、基材層表面の上記官能基とチオール化合物中の残存チオール基とが反応することによって、抗菌層をチオール化合物を介して基材層表面に簡便な手法でより強固に固定化できる。ここで、イオン化ガス中の酸素の含有量は、上記したような効果を奏する量であれば特に制限されない。
【0072】
または、上記イオン化ガスは、窒素を含有してもよい。特に高分子材料やガラスからなる基材層の場合には、基材層表面に窒素を含有するイオン化ガスプラズマを照射することによって、基材層表面が改質、活性化されて、基材層表面にカルボキシル基、ヒドロキシル基、パーオキサイド等の官能基が導入される。これにより、上記混合溶液に対する濡れ性が高まり、基材層表面に抗菌層を均一に塗布することができるとともに、基材層表面の上記官能基とチオール化合物中の残存チオール基とが反応することによって、基材層表面に抗菌層を強固に固定化することができる。そして、イオン化ガスに窒素を含有させることで、基材層表面に上記官能基に加えてアミノ基を導入することができる。これにより、アミノ基とチオール化合物中の残存チオール基の間に水素結合や極性相互作用が働き、抗菌層が基材層表面により安定的に保持されるため、チオール化合物とパーオキサイド等の官能基との反応が促進され、基材層表面に抗菌層をより効率的に固定化することができる。ここで、イオン化ガス中の窒素の含有量は、上記したような効果を奏する量であれば特に制限されない。
【0073】
また、上記イオン化ガスプラズマ照射後、加熱処理等をしてもよい。これにより、基材層表面とチオール化合物中の残存チオール基の反応を促進することが可能である。このため、上記加熱処理等によって、抗菌層を基材層表面により強固に固定化することができる。
【0074】
このようにして抗菌層を形成させた後には、余剰の抗菌性化合物、チオール化合物等を、適用な溶剤で洗浄し、抗菌層が直接基材層に強固に固定化されてなる(反応性官能基とチオール基との反応による)架橋構造体のみを残存させることも可能である。
【0075】
こうして形成された抗菌層を構成する架橋構造体は、患者の体温(30〜40℃)において吸水し、抗菌性、または必要であれば抗菌維持性を発現するものである。
【0076】
本発明の表面が抗菌性を有する医療用具としては、上記実施形態のいずれにおいても、体液や血液などと接触して用いる器具のことであり、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が抗菌性を確実に発揮することが可能なものである。具体的には、血管内で使用されるガイドワイヤやカテーテル等が挙げられるが、その他にも以下の医療用具が示される。
【0077】
(1)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0078】
(2)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0079】
(3)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0080】
(4)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0081】
(5)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど。
【0082】
(6)人工気管、人工気管支など。
【0083】
(7)体外循環治療用の医療器(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
【実施例】
【0084】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0085】
(実施例1)
3−メルカプトプロピオン酸 5.3g(50mmol、東京化成製)とトリフェニルメタノール14.3g(55mmol、東京化成製)の氷酢酸50ml溶液に、室温で三フッ化ホウ素エーテル錯体7.8g(55mmol、東京化成製)を加え、70℃で加熱した。1時間後、減圧下にて酢酸を留去し、残渣をDMF−水混合溶液から再結晶化させS−トリチル−3−メルカプトプロピオン酸を得た(収率35%、融点219−221℃)。S−トリチル−3−メルカプトプロピオン酸に塩化チオニル10mlを加え、還流下1時間反応させた。室温まで冷却した後、減圧下、残存塩化チオニルを留去し、S−トリチル−3−メルカプトプロピオン酸クロライドを得た(収率定量的)。
【0086】
次に、0℃に冷却した塩酸クロルヘキシジン578mg(1.0mmol、東京化成製)とトリエチルアミン304mg(3mmol、東京化成製)の塩化メチレン溶液10mlに、上記で合成したS−トリチル−3−メルカプトプロピオン酸クロライド367mg(1.0mmol)の塩化メチレン溶液(2ml)を滴下して、室温で1時間反応させた。飽和重曹水を加えて反応を停止させ、塩化メチレンで抽出し、抽出液を蒸発乾固した。残渣に塩酸−酢酸溶液(10%)5mlを加え90℃で2時間反応させ、室温まで冷却した後、減圧下溶媒を留去し、塩酸クロルヘキシジンの3−メルカプトプロピオン酸修飾体を得た(収率定量的)。
【0087】
トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基3個)250mgおよび塩酸クロルヘキシジンの3−メルカプトプロピオン酸修飾体 250mgを含むアセトン溶液25mLにポリエチレン製プレート(30×100mm、0.3mm厚)を15秒間浸漬し、アルゴンイオン化ガスプラズマ(TRI−STAR TECHNOLOGIES製のプラズマ照射装置:DURADYNE)を25℃で25秒間照射した後、80℃のオーブン中で3時間反応させることで、ポリエチレン製プレート上に抗菌層(厚み:1μm)を形成させ、試料サンプルとした。また、ポリエチレン製プレートをコントロールサンプルとした。
【0088】
得られた試料サンプル(プレート)を3cm角に切り出したものを3枚用意し、JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」5.2 プラスチック製品などの試験方法(フィルム密着法)に基づき、代表的な細菌の一つである緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275)に対する抗菌評価(コントロールに対する対数菌濃度差)を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2)
0℃に冷却したクロルヘキシジン578mg(1.0mmol、東京化成製)とトリエチルアミン304mg(3mmol、東京化成製)の塩化メチレン溶液10mlに、アクリル酸クロライド90.5mg(1.0mmol)の塩化メチレン溶液(2ml)を滴下して、室温で1時間反応させた。飽和重曹水を加えて反応を停止させ、塩化メチレンで抽出し、抽出液を蒸発乾固し、クロルヘキシジンのアクリル酸修飾体を得た(収率定量的)。
【0090】
トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基3個)250mgおよびクロルヘキシジンのアクリル酸修飾体 250mgを含むアセトン溶液25mLにポリエチレン製プレート(30×100mm、0.3mm厚)を浸漬し、UVを25℃で10分間照射した後、80℃のオーブン中で3時間反応させることで、ポリエチレン製プレート上に抗菌層(厚み:1μm)を形成させ、試料サンプルとした。また、ポリエチレン製プレートをコントロールサンプルとした。
【0091】
実施例1と同様の方法で抗菌評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例3)
0℃に冷却したポリヘキサメチレンビグアナイド256mg(モノマー1.0mmol相当、Cosmocil CQ、アーチケミカルズ社製)とトリエチルアミン304mg(3mmol、東京化成製)の塩化メチレン溶液10mlに、アクリル酸クロライド9.0mg(0.1mmol)の塩化メチレン溶液(2ml)を滴下して、室温で1時間反応させた。飽和重曹水を加えて反応を停止させ、塩化メチレンで抽出し、抽出液を蒸発乾固し、ポリヘキサメチレンビグアナイドのアクリル酸修飾体を得た(収率定量的)。
【0093】
トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基3個)250mgおよびポリヘキサメチレンビグアナイドのアクリル酸修飾体 250mgを含むアセトン溶液25mLにポリエチレン製プレート(30×100mm、0.3mm厚)を浸漬し、UVを25℃で10分間照射した後、80℃のオーブン中で3時間反応させることで、ポリエチレン製プレート上に抗菌層(厚み:1μm)を形成させ、試料サンプルとした。また、ポリエチレン製プレートをコントロールサンプルとした。
【0094】
実施例1と同様の方法で抗菌評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1)
トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)250mgのみを含むアセトン溶液25mLを用い実施例1と同様に試料サンプルを作成し測定した。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例4)
ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基6個)250mgおよび実施例1と同様の方法で合成した塩酸クロルヘキシジンの3−メルカプトプロピオン酸修飾体 250mgを含むアセトン溶液25mLにSUS304製プレート(30×100mm、0.1mm厚)を浸漬し、120℃のオーブン中で3時間反応させることで、SUS304製プレート上に抗菌層(厚み:1μm)を形成させ、試料サンプルとした。また、SUS304製プレートをコントロールサンプルとした。
【0097】
実施例1と同様の方法で抗菌評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例2)
ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)250mgのみを含むアセトン溶液25mLを用い実施例4と同様に試料サンプルを作成し測定した。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例5)
テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基2個)250mgおよび実施例1と同様の方法で合成した塩酸クロルヘキシジンの3−メルカプトプロピオン酸修飾体 250mgを含むアセトン溶液25mLにSUS304製プレート(30×100mm、0.1mm厚)を浸漬し、120℃のオーブン中で3時間反応させることで、SUS304製プレート上に抗菌層(厚み:1μm)を形成させ、試料サンプルとした。また、SUS304製プレートをコントロールサンプルとした。
実施例1と同様の方法で抗菌評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例3)
テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)250mgのみを含むアセトン溶液25mLを用い実施例5と同様に試料サンプルを作成し測定した。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
コントロールフィルムに対する対数菌濃度差は実施例1〜5で作製した試料サンプルでは−2以下であり優れた抗菌性を示した。一方、比較例1〜3で作製した試料サンプルでは、コントロールフィルムに対する対数菌濃度差は0であり、抗菌性を示さなかった。
【符号の説明】
【0103】
1 基材層、
1a 基材層コア部、
1b 表面層、
2 抗菌層、
10 医療用具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の少なくとも一部に担持された抗菌層と、を備え、
前記抗菌層が、分子内にチオール基を複数有する化合物と、分子内にチオール基と結合する官能基を有する抗菌性化合物と、を反応させて架橋構造を形成することによって得られることを特徴とする表面が抗菌性を有する医療用具。
【請求項2】
前記チオール基と結合する官能基が、チオール基、アルケニル基、アクリル基またはメタクリル基である、請求項1に記載の医療用具。
【請求項3】
前記抗菌性化合物が、チオール基と結合する官能基を有するビグアナイド誘導体である請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記抗菌層が、分子内にチオール基を複数有する化合物と、分子内にチオール基と結合する官能基を有する抗菌性化合物と、を溶媒に溶解させた1液からなる混合溶液を前記基材層にコーティングした後、前記チオール基と前記チオール基と結合する官能基とを反応させることによって得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用具。

【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2013−48833(P2013−48833A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189732(P2011−189732)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】