説明

表面に官能基を有する磁性微小球体

【課題】 所望の磁性粒子を包含した樹脂粒子において取り扱いが容易で表面積が大きく、水分散系で使用しても沈降しづらく、かつ緻密な樹脂表面にカルボキシル基等の官能基を有する磁性微小球体を提供すること。
【解決手段】 少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5乃至1,000μmの球状粒子であって、該粒子表面に、ハロゲン化カルボニル基、又は、ハロゲン化カルボニル基から変換される官能基を有することを特徴とする微小球体、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性微小球体に関し、さらに詳しくは、粒子の表面にカルボキシル基などの官能基を多く有する磁性樹脂粒子に関する。この磁性樹脂粒子は、診断薬担体、細胞分離担体、細胞培養担体、核酸分離精製担体、蛋白分離精製担体、固定化酵素担体、ドラッグデリバリー担体、マイクロ流路中での反応媒体、磁性トナー、磁性インク、磁性塗料などに有用な粒子である。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性粒子を包含した樹脂粒子は重合性単量体中に親油化処理した磁性粒子を分散し、これを懸濁重合法(例えば、特許文献1参照)もしくは乳化重合法(例えば、特許文献2参照)等により製造されてきた。さらに、粒子表面に有用なカルボキシル基を導入する方法が開示されている(特許文献3参照)。
しかし、これらの方法はいずれも重合性単量体を出発原料に用いるため、添加した磁性粒子が重合反応を阻害する。このため磁性粒子含有量が制限されたり、生成する磁性樹脂粒子のサイズも概ね1μm以下と小さくなる場合が多い。したがって、磁性粒子の含有量にかかわらず1μm以上好ましくは5μm以上の取り扱いが容易で表面積の大きな磁性樹脂粒子を効率よく製造することが求められている。また、これらの粒子は単量体を重合したままの状態であり、熱可塑性樹脂等で溶融成型した樹脂に比べて緻密度が低く強酸や強アルカリの分散媒体中で溶媒が浸潤しやすい。また、使用される樹脂種として(メタ)アクリル酸エステル、スチレン又はスチレン誘導体を重合したものが多く、磁性粒子を包含していない状態でも比重が1より大きい。したがって磁性粒子を包含させた樹脂粒子はさらに重く、水系の分散媒中で使用する場合、沈降し易い等の不都合が生じる場合が多い。特に粒子径が5μm以上では沈降しやすくなる。
【0003】
これに対して本発明者らは相溶性のない2種類の熱可塑性樹脂を溶融分相させることで0.1〜1,000μm、好ましくは5〜500μmからなる球状の樹脂粒子を効率よく製造する方法(溶融分相法)を開発し(特許文献4)、種々の熱可塑性樹脂からなる微小球体の製造を可能にした。また、この方法を基にこれらの微小球体中に磁性粒子等の無機材料を包含させた複合微小球体の製造方法を開発し(特許文献5)、さらに、密度制御された磁性樹脂微小球体の開発に成功した(特許文献6)。しかしながらこれらの微小球体表面は原料樹脂の特性がそのまま反映されたものであり、表面に有用な官能基を多く保有するものではなかった。そこで、本発明者らは種々検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−221302号公報
【特許文献2】特公平3−57921号公報
【特許文献3】特開平10−8771号公報
【特許文献4】特開昭61−9433号公報
【特許文献5】特開2001−114901号公報
【特許文献6】国際公開第04/067609号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は所望の磁性粒子を包含した樹脂粒子において取り扱いが容易で表面積が大きく、水分散系で使用しても沈降しづらく、かつ緻密な樹脂表面にカルボキシル基等の官能基を有する磁性微小球体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の<1>及び<9>により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<8>及び<10>〜<12>とともに以下に示す。
<1> 少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5乃至1,000μmの球状粒子であって、該粒子表面に、ハロゲン化カルボニル基、又は、ハロゲン化カルボニル基から変換される官能基を有することを特徴とする微小球体、
<2> 該粒子表面に有する官能基が、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及び、−SH基よりなる群から選ばれた1種を末端に有する基である上記<1>に記載の微小球体、
<3> 平均粒子径が10乃至100μmである上記<1>又は<2>に記載の微小球体、
<4> 密度が1.0乃至1.5g/ccである上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の微小球体、
<5> 磁性材料が軟磁性材料である上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の微小球体、
<6> 磁性材料が超常磁性体である上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の微小球体、
<7> 軟磁性材料がマンガンジンクフェライト及び/又はニッケルジンクフェライトである上記<5>に記載の微小球体、
<8> 磁性材料の含有量が15乃至50重量%である上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載の微小球体、
<9> 少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5乃至1,000μmの球状粒子を、二ハロゲン化オキザリルを含む気相又は液相中撹拌下で活性放射線に暴露することにより、該粒子表面にハロゲン化カルボニル基を導入する工程を含む上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載の微小球体の製造方法、
<10> ハロゲン化カルボニル基を導入した球状粒子を反応性化合物に接触させる工程を含む上記<9>に記載の微小球体の製造方法、
<11> 活性放射線が紫外線である上記<9>又は<10>に記載の微小球体の製造方法、
<12> 球状粒子が溶融分相法で製造される上記<9>〜<11>のいずれか1つに記載の微小球体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、取り扱いが容易で表面積が大きく、水分散系で使用しても沈降しづらく、また、簡便な手法で粒子表面に種々の官能基を導入できるため、種々の担体、媒体、トナー、インク、塗料等の様々な分野に新規な材料として応用可能な微小球体、及び、その製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の微小球体は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5μm乃至1,000μmの球状粒子であって、該粒子表面に、ハロゲン化カルボニル基、又は、ハロゲン化カルボニル基から変換される官能基を有することを特徴とする。
以下に、本発明の微小球体、及び、その製造方法について詳細に説明する。
【0009】
<樹脂粒子表面へのハロゲン化カルボニル基の導入>
本発明の微小球体の樹脂粒子表面に存在する官能基は、ハロゲン化カルボニル基、又は、ハロゲン化カルボニル基から変換される官能基である。ハロゲン化カルボニル基としては、コスト、及び、その反応性と安定性の釣り合いの面から、塩化カルボニル基、及び、臭化カルボニル基が好ましく、塩化カルボニル基が特に好ましい。
ハロゲン化カルボニル基を樹脂粒子表面に導入する方法としては、種々公知の方法が採用される。特に以下に述べる活性放射線照射下で生じるラジカル反応を利用する方法が利便性の点で好ましい。例えば、ハロゲン化カルボニル基を導入しようとする球状粒子を、二ハロゲン化オキザリルを含む気相又は液相中撹拌下で活性線に暴露することで、樹脂球状粒子表面にハロゲン化カルボニル基を導入する工程を含む製造方法により、ハロゲン化カルボニル基を樹脂粒子表面に導入した微小球体を得ることができる。球状粒子を撹拌下におくことで、粒子表面に均一に官能基を導入することができ好ましい。二ハロゲン化オキザリルとしては、コスト、反応条件、安定性、及び、取り扱いの面から二塩化オキザリル、及び、二臭化オキザリルが好ましく、二塩化オキザリルが特に好ましい。また、二塩化オキザリル及び二臭化オキザリルは常温で液体であり、そのまま反応処理容器に導入することで液相での処理が可能であり好ましい。
撹拌手段としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、横型の管状反応容器中で容器に回転運動を与えるなどの方法が採用できる。
【0010】
活性放射線としては、二ハロゲン化オキザリルが反応を起こす限り特に限定されないが、例えば、γ線,β線,X線などの電子線や放射線や紫外線等が挙げられる。その中でも、紫外線を用いることが使用場所の制限を受けず、小型化でき、安全性からも好ましく、水銀ランプから発生する紫外線を利用することがより好ましい。
微小球体表面のハロゲン化カルボキシル基の導入量を測定する方法としては、例えば、水やメタノール等の溶媒中に微小球体を添加、撹拌し、得られる酸性液を滴定することにより求めることができる。また、微小球体の表面積を公知の方法により求めることで、上記滴定結果と併せ、微小球体表面の単位面積当たりのハロゲン化カルボキシル基量を求めることもできる。
【0011】
以下、本発明の理解を容易にするために、一実施形態として、二塩化オキザリルの光化学反応による、C−Hのクロロカルボニル化反応を用いた例を示す。この反応は、光化学的に発生する、反応性活性種(ラジカル種)を経る反応であり、化学量論的には式(1)に示すとおりである。
【0012】
【化1】

ここで、Rは微小球体表面の炭素原子残基を示す。
【0013】
<塩化カルボニル基から変換される官能基の導入>
さらにこれに所望の官能基を導入することのできる反応性化合物を接触・反応させることで、前記ハロゲン化カルボニル基を所望の官能基に変換することができる。
該官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、−SH基、スルホン酸基、及び、グリシジル基よりなる群から選ばれた1種を末端に有する基であることが好ましく、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及び、−SH基よりなる群から選ばれた1種を末端に有する基であることがより好ましい。上記官能基であると、微小球体の親水性が増加し、また、更なる官能基変換も容易であり好ましい。これらの官能基は樹脂粒子の用途に応じて選択される。
反応性化合物としては、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等のアミン類や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール等のグリコール類や、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール等のジチオール類や、ジエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミン等の異種の官能基を有する化合物、イセチオン酸、グリシドール等が好ましく挙げられる。本発明は必ずしも例示した上記化合物ばかりでなく、ハロゲン化カルボニル基と反応する化合物ならば、いずれの化合物も使用することが可能である。
また、反応性化合物により変換した官能基は、公知の方法によりさらに他の所望の官能基に変換してもよい。
【0014】
官能基を変換する反応は、有機溶媒中で実施することが好ましい。有機溶媒としては、変換反応に不活性な溶媒の使用が好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の石油系炭化水素溶媒や塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等の溶剤中に所望の官能基を有する化合物を溶解して、改質されて酸クロライド残基を有する高分子材料表面に浸漬することで処理することができる。またこの時に脱ハロゲン化水素のためにトリエチルアミンやピリジン等の三級アミン類や水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコキシド等のアルカリ性試薬を共存させて反応させた後水洗して副成物を除去しても良い。
また、本反応は所望の官能基を導入することのできる反応性化合物を、ガス状として導入した気相中でも達成できる。このような化合物としては沸点が低く蒸気圧が比較的高いものか、又は、加熱することで容易にガス状にできるものであれば可能であり洗浄等の処理を必要としないなどの利点を有する。このような化合物の中でもガス状にして気相中で反応可能なものとしてはエチレンジアミン等の化合物が使用できる。
【0015】
<熱可塑性樹脂>
磁性材料を包含する樹脂材料として、本発明に用いることのできる熱可塑性樹脂は、本発明の趣旨を満たす限り特に制限はないが、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂を用いた場合、その比重が0.83〜0.95と小さいため、磁性粒子添加後も粒子全体の比重を比較的小さく抑えることが可能となり好ましい。ポリオレフィン系樹脂としてはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリ(1−ブテン)、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリふっ化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、アクリル酸メチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル・スチレンコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン・アクリル酸コポリマー、エチレン・プロピレンコポリマー、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー)、熱可塑性弾性体(例えばスチレン・ブタジエンブロックポリマー等の付加重合体)等が好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0016】
<磁性材料>
本発明に用いることのできる磁性粒子としては、目的とする複合微小球体のサイズより小さい粒子であればいかなるものも使用できる。磁性粒子を球状微小樹脂粒子に包含させる目的の一つは外部磁界により、本発明の微小球体を各種化学環境下の微小領域で駆動し、分散、分離、回収、撹拌、混合、流速制御、バルブ操作などの単位操作を行うことにある。このような目的に使用される磁性粒子には、自発磁化を有する強磁性材料を用いる必要がある。ここで、強磁性材料とは、フェロ磁性、フェリ磁性など自発磁化を有する磁性材料である。このような材料は金属、合金、金属間化合物、酸化物、金属化合物など多岐にわたる。また、本発明の微小球体の利用形態によっては残留磁化の少ない磁性材料が求められる。そのような用途には一般的に軟磁性を示す磁性材料(以下、単に「軟磁性材料」とも言う。)が好適である。また、強磁性材料をナノオーダーのサイズにした超常磁性材料もさらに好ましい。
磁性材料の充填量は、微小球体全体の総重量に対し1〜50重量%が好ましく、15〜50重量%がより好ましく、15〜25重量%が更に好ましい。上記範囲であると、磁性材料が熱可塑性樹脂中に十分包含され、また、微小粒子の磁気応答性も良好であることから好ましい。
【0017】
金属材料としては遷移金属のFe、Ni、Coが代表的であるが、これらの金属との合金として、Fe−V、Fe−Cr、Fe−Ni、Fe−Co、Ni−Co、Ni−Cu、Ni−Zn、Ni−V、Ni−Cr、Ni−Mn、Co−Cr、Co−Mn、50Ni50Co−V、50Ni50Co−Cr系なども使用できる。これらのうち、飽和磁気モーメントの大きいFeや、Niを含む系が好ましく、Fe−Ni系が特に好ましい。飽和磁気モーメントの大きい材料を用いた場合、少ない充填量で上記目的を達成し、本発明の規定する密度の複合粒子が得られやすい。他の金属材料としては、希土類のGdおよびその合金が挙げられる。
【0018】
金属間化合物としては、ZrFe2、HfFe2、FeBe2の他、REFe2、(RE=Sc、Y、Ce、Sn、Gd、Dy、Ho、Er、Tm)、GdCo2などが挙げられる。また、RECo5(RE=Y、La、Ce、Sm)、Sm2Co17、Gd217、さらに、Ni3Mn、FeCa、FeNi、Ni3Fe、CrPt3、MnPt3、FePd、FePd3、Fe3Pt、FePt、CoPt、CoPt3、Ni3Ptなどが挙げられる。
【0019】
一方、酸化物としてはスピネル型、ガーネット型、ペロブスカイト型、マグネトプランバイト型などの結晶構造を有する磁性酸化物が使用できる。
スピネル型の例として、MFe24(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、Li0.5Fe0.5)、FeMn24、FeCo24、NiCo24、γ−Fe23、などが挙げられる。γ−Fe23は、マグヘマイトと呼ばれる酸化鉄である。これは顔料として知られているα−Fe23(べんがら)とは異なり、比較的低密度(約3.6g/cm3)で飽和磁気モーメントの大きい材料として知られており、本発明の充填剤として特に好ましい。これらはいずれも軟磁性材料として知られているが、それらの中でも特にM=(Mn,Zn)、(Ni,Zn)、すなわちマンガンジンクフェライト、ニッケルジンクフェライト等は残留磁化が少なく、磁性樹脂粒子の磁場による回収・分散操作特性が良好となり好ましい。
【0020】
ガーネット型酸化物としては、希土類鉄ガーネットが使用できる。一般式 R3Fe512で表現したとき、R=Y、Sm、Zn、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luにおいてフェリ磁性を示すことが知られている。このうち、Y、Sm、Yb、Luなどが飽和磁化が大きい点で好ましい。中でも、Yは密度が低く(5.17g/cm3)特に好ましい。
【0021】
マグネトプランバイト型の酸化物としては、MFe1219(M=Ba、Sr、Ca、Pb、Ag0.5La0.5、Ni0.5La0.5)、M2BaFe1627(M=Mn、Fe、Ni、Fe0.5Zn0.5、Mn0.5Zn0.5)、M2Ba3Fe2441(M=Co、Ni、Cu、Mg、Co0.75Fe0.25)、M2Ba2Fe1222(M=Mn、Co、Ni、Mg、Zn、Fe0.25Zn0.75)などが挙げられる。
ペロブスカイト型の酸化物としてはRFeO3(R=希土類イオン)が挙げられる。
【0022】
他方、金属化合物としては、ホウ化物(Co3B、CoB、Fe3B、MnB、FeBなど)、Al化合物(Fe3Al、Cu2MnAlなど)、炭化物(Fe3C、Fe2C、Mn3ZnC、Co2Mn2Cなど)、珪化物(Fe3Si、Fe5Si3、Co2MnSiなど)、窒化物(Mn4N、Fe4N、Fe8N、Fe3NiN、Fe3PtN、Fe20.75、Mn40.750.25、Mn40.50.5、Fe41-xxなど)の他、リン化物、ヒ素化合物、Sb化合物、Bi化合物、硫化物、Se化合物、Te化合物、ハロゲン化合物、希土類元素なども使用できる。
その他の磁性材料は、近角聰信著「強磁性体の物理」裳華房(S58.4第4版)に記載されている。
一方、超常磁性体としては強磁性材料を数nmから数十nmサイズの粒子として得られるものであればいかなるものも使用できる。特に、マグネタイト等のナノ粒子が好ましい。
【0023】
<微小球体>
本発明の微小球体は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5乃至1,000μmの球状粒子であって、該粒子表面に、ハロゲン化カルボニル基、又は、ハロゲン化カルボニル基から変換される官能基を有することを特徴とする。
本発明の微小球体の大きさは、製法上の観点から、用いた球状粒子(平均粒子径:0.5乃至1,000μm)の大きさを反映する。本発明の微小球体は、該粒子表面に官能基を導入した分だけ球状粒子よりも大きくなるが、概ね平均粒子径が0.5乃至1,000μmの範囲であることが好ましく、10乃至100μmの範囲がより好ましい。本発明の微小球体は、その用途に応じてその粒子径を選ぶことができる。
本発明の微小球体の密度は、0.9乃至1.5g/ccであり、1.0乃至1.5g/ccが好ましい。密度が上記範囲内であると、水系分散媒中で沈降しにくくなり好ましい。磁性材料や、その他充填剤等の含有量や、用いる熱可塑性樹脂の選択等により、密度を上記範囲に調整することができる。
【0024】
本発明の微小球体は、磁性材料以外の充填剤を含有していてもよい。磁性材料以外の充填剤としては、例えば、酸化チタン(チタンホワイト)、酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、酸化セレン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミン酸ストロンチウム等が挙げられる。
これら充填剤は、必要に応じて、機能が異なる、又は、機能が同一である2種以上の充填剤を併用することができる。また、これら充填剤は、球状粒子の内部に含有させることが好ましいが、基材球状粒子表面に局在させてもよく、一部が球状粒子の表面に露出していてもよい。また、充填剤に予め表面処理を行っておき、球状粒子への内包や局在を容易にしても良い。
【0025】
本発明の微小粒子、及び、本発明に用いることのできる球状粒子の形状は、製法上の観点から、真球状または略球状(以下、単に「略球状」という。)とする。「略球状」とは、真球状、球形に近い形状、多少回転楕円体に近い形状をも含み、形状係数SF1が100〜140の範囲のものをいうが、好ましくは真球状(形状係数SF1では100〜138)である。形状係数SF1は、形状係数の平均値であり、次の方法で算出する。スライドグラス上に散布した粒子の光学顕微鏡像を、ビデオカメラを通じてルーゼックス画像解析装置に取り込み、50個以上の粒子について求めた絶対最大長及び投影面積から、下記式によりSF1を求め、平均値を得たものである。
SF1=(ML)2/A×(π/4)×100
なお、式中、MLは粒子の絶対最大長を示し、Aは粒子の投影面積を示す。
【0026】
<微小球体の製造方法>
本発明の微小球体は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5μm乃至1,000μmの球状粒子を、二ハロゲン化オキザリルを含む気相又は液相中撹拌下で活性放射線に暴露することにより、該粒子表面にハロゲン化カルボニル基を導入する工程を含む製造方法により製造されるのが好ましい。
また、上記工程で得られた球状粒子のハロゲン化カルボニル基を他の官能基に変換するため、該球状粒子を反応性化合物に接触させる工程を更に含む製造方法により、本発明の微小球体が製造されることがより好ましい。
なお、上記の各工程はいずれも公知の手段及び方法が利用できるが、前記で述べた手段及び方法を用いるのが好ましい。
【0027】
また、本発明で用いる球状粒子の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、特開2001−114901号公報に記載された溶融分相法が、球状粒子を容易、かつ低コストで製造できる点から好ましく挙げられる。
前記溶融分相法とは、以下の(1)〜(4)の工程を含む方法である。すなわち、
(1)熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の充填剤から実質的になる熱可塑性樹脂組成物を、この組成物と相溶性のない分散媒と共に、この組成物の融点以上の温度に加熱して混合し、微粒子に分散する工程、
(2)得られた熱可塑性樹脂組成物の微粒子をその融点以下の温度に冷却して、平均粒径が約0.01μm以上であって約1,000μm以下である略球状の球状粒子を分散媒に分散した混合物とする工程、
(3)該樹脂組成物に対して貧溶媒であって、分散媒に対して良溶媒である展開溶媒とこの混合物を混合して、該球状粒子を懸濁液とする工程、及び、
(4)この懸濁液から目的とする略球状の球状粒子を分離する工程、
を含む方法である。
【0028】
前記溶融分相法で用いる分散媒は、前記の工程(1)の分散工程において、熱可塑性樹脂組成物を微粒子に分散させるための連続相を形成し、熱可塑性樹脂と相溶性を有しない。相溶性を有しないとは、加熱温度において、1重量%以上の溶解度を有しないことをいう。分散媒は、好ましくは熱可塑性樹脂に対して、相溶性を有さず、好ましくは貧溶剤であることが望ましい。ここで、貧溶媒とは、所定温度における熱可塑性樹脂溶液に添加するとその熱可塑性樹脂の溶解度が減少するような溶媒をいう。前記溶融分相法で用いる分散媒は、2以上の分散媒の混合物であっても良く、熱可塑性樹脂組成物に対して、室温から工程(1)の加熱温度の範囲にわたり、貧溶媒であることが望ましい。前記溶融分相法で用いる分散媒は、熱可塑性樹脂組成物に対して、容量で、0.5倍以上5以下使用される。
【0029】
前記溶融分相法で用いる分散媒の好ましい例は、ポリアルキレンオキサイド類、例えばポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びその誘導体(アセタール化体等)、ポリブテン、ワックス、天然ゴム、合成ゴム、例えばポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、石油樹脂等であり、これらを単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。ポリアルキレンオキサイド類は、異なった重合度のものが市販されており、これらの成分を適宜組み合わせることにより、工程(1)の分散温度において分散媒が所望の粘弾性を有するように調節することができる。
【0030】
前記溶融分相法において、熱可塑性樹脂組成物の融点は、示差走査熱量測定(DSC)法により測定した融点をいう。熱可塑性樹脂及び無機充填剤から実質的になる熱可塑性樹脂組成物の融点は、熱可塑性樹脂の融点で近似することができる。種々の熱可塑性樹脂の融点は、ハンドブック類、製造メーカーの技術資料等に記載されている(例えば、実用プラスチック辞典、材料編、増補改訂、320ページ、表1−4(1993年、産業調査会発行)。例えば、ナイロン12の融点は、約180℃である。前記溶融分相法において、熱可塑性樹脂の融点は30℃以上300℃以下であることが好ましい。工程(1)の微粒子分散工程の温度は、使用する熱可塑性樹脂の融点よりも、10℃ないし200℃高い温度に加熱し、好ましくは20℃ないし150℃高い温度に加熱し、混合することが好ましい。加熱温度が低すぎると、熱可塑性樹脂組成物は微粒子に分散されにくく、絡まった繊維状になりやすい。加熱温度が高すぎると、熱分解等が起こるために好ましくない。
【0031】
前記溶融分相法おいて、工程(1)で分散媒中に樹脂組成物を、微粒子に分散するための方法・装置は特に限定されない。例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等によって分散することができる。溶融分相法による造粒方法では、湿式撹拌造粒に属すると考えられ、微粒子を分裂する力である、撹拌による剪断力と、微粒子を保持する力である、組成物の粘弾性及び界面張力とのバランスにより、粒子サイズが決定されると考えられる。均一な粒子サイズ分布を得るためには、撹拌による剪断力と組成物の粘弾性を均一にすることが好ましく、このためには、密閉型の分散機を用いて、かつその分散機内部の温度分布を均一にすることが好ましい。
【0032】
前記溶融分相法において、工程(2)の後に、熱可塑性樹脂組成物と分散媒の混合物を、融点以下に冷却した後、該組成物の貧溶媒でかつ分散媒の良溶媒である展開溶媒とこの混合物を混合して、球状粒子の懸濁液としても良い。この場合、該混合物を冷却した後、クラッシャー等で粉砕したり、ペレタイザーでペレット化したり、押出機、ロール等でシート状に成形してから展開溶媒中に浸漬してもよい。
【0033】
前記溶融分相法で用いる展開溶媒としては、水、有機溶媒及びこれらの混合物を用いることができる。分散媒として、ポリアルキレンオキシド類を用いると、水を展開溶剤として使用することができる。球状粒子の懸濁液から目的とする球状粒子を、遠心分離、濾過、又はこれらの方法を組み合わせて分離することができる。分離した球状粒子は、必要に応じて、乾燥してから使用する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例における形態に限定されるものではない。
以下の実施例における表面に官能基を有する磁性微小球体の評価法は、以下の方法によった。
【0035】
<平均粒子径>
樹脂粒子サンプルの光学顕微鏡写真を撮影し、100〜150個の粒子を無作為に抽出し、ノギスを用いて粒子径を測定し、頻度グラフの中央値を以って平均粒子径とした。
【0036】
<比重>
ヘリウム置換ピクノメーターを用いて10回測定し、最後の3回の測定値の平均値をもってサンプルの比重(密度)とした。
【0037】
<表面のハロゲン化カルボニル基の有無判定>
ラジカル反応により生成した微小球体表面上のハロゲン化カルボニル基を一定量の純水と反応させ、生成した塩酸水溶液中の水素イオン濃度がpHの値で4以下の場合を官能基導入有りとした。
【0038】
<磁気応答性>
0.1gのサンプルを10ccのポリ容器中5ccの水に分散し、永久磁石を用いて容器の外から磁場(約50kA/m)を印加して磁性樹脂粒子を1箇所に集めた際、数秒以内に応答した場合を良好とした。
【0039】
ただし、比重及び磁気応答性は、微小球体表面にハロゲン化カルボニル基を有する場合、ハロゲン化カルボニル基と水が反応し、カルボキシル基となった微小球体を測定した。
【0040】
(実施例1)
比重0.91のポリプロピレン850gにあらかじめ親油化処理をしたマンガンジンクフェライトを微小球体全体の総重量に対し5、10、15、20、25、30、50重量%となるように加え、さらにポリエチレングリコール1,000gを出発原料にもちいて溶融分相法によりマンガンジンクフェライト含有ポリプロピレン微小球体を得た。次に5.0gの乾燥した微小球体を石英ガラス製管状反応容器に装填し、2mLの二塩化オキザリルを加えて紫外線照射装置にセットした。ついで20分間紫外線を照射した。この間、約50Hzの速度で反応容器を回転することで撹拌した。反応終了後、50〜100℃の温度で約10分間窒素ガスによりパージし、残留二塩化オキザリルを除去した。得られたサンプルの平均粒子径、比重、官能基の有無、磁気応答性を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例2)
実施例1において二塩化オキザリルを液相に代えて、二塩化オキザリル分圧100mmHg、アルゴンキャリヤーガス分圧660mmHgの気相で反応容器に導入した以外は同条件で処理した結果、官能基の導入率は減少したが、いずれもpHは4以下であり気相反応も有効であることがわかった。
【0043】
(実施例3)
実施例1で得られた各微小球体1.0gを、イオン交換水100mlに加え、10分間室温で撹拌した。その後、微小粒子を濾過し、真空乾燥器中で減圧下乾燥した。得られた微小球体を反射FT−IRにより表面の赤外分光吸収スペクトルを測定した結果、いずれも塩化カルボニル基の特性吸収が消失し、カルボキシル基と同定される特性吸収を得た。また、比重及び磁気応答性については、それぞれ実施例1の結果と同様であった。
【0044】
(実施例4)
実施例1で得られた各微小球体1.0gを、1%のエチレンジアミンを含むベンゼン溶液100mlに加え、10分間室温で撹拌した。その後、微小粒子を濾過し、真空乾燥器中で減圧下ベンゼンとエチレンジアミンを留去した。得られた微小球体を反射FT−IRにより表面の赤外分光吸収スペクトルを測定した結果、いずれも塩化カルボニル基の特性吸収が消失し、アミノ基と同定されるブロードな特性吸収、及び、アミド結合のカルボニル基の伸縮振動に基づく特性吸収を得た。また、比重及び磁気応答性については、それぞれ実施例1の結果と同様であった。
【0045】
(実施例5)
実施例1で得られた各微小球体1.0gを、1%のエチレングリコールと等量のトリエチルアミンとを含むベンゼン溶液100mlに加え、10分間室温で撹拌した。その後、微小粒子を濾過及び水洗した後、真空乾燥器中で乾燥した。得られた微小球体を反射FT−IRにより表面の赤外分光吸収スペクトルを測定した結果、いずれも塩化カルボニル基の特性吸収が消失し、水酸基と同定されるブロードな特性吸収、及び、エステル結合のカルボニル基の伸縮振動に基づく特性吸収を得た。また、比重及び磁気応答性については、それぞれ実施例1の結果と同様であった。
【0046】
(実施例6)
実施例1で得られた各微小球体1.0gを、1%の1,2−エタンジチオールと等量のトリエチルアミンとを含むベンゼン溶液100mlに加え、10分間室温で撹拌した。その後、微小粒子を濾過及び水洗した後、真空乾燥器中で乾燥した。得られた微小球体を反射FT−IRにより表面の赤外分光吸収スペクトルを測定した結果、いずれも塩化カルボニル基の特性吸収が消失し、−SH基と同定される特性吸収、及び、チオールエステル結合のカルボニル基の伸縮振動に基づく特性吸収を得た。また、比重及び磁気応答性については、それぞれ実施例1の結果と同様であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、
密度が0.9乃至1.5g/ccであり、
平均粒子径が0.5乃至1,000μmの球状粒子であって、
該粒子表面に、ハロゲン化カルボニル基、又は、ハロゲン化カルボニル基から変換される官能基を有することを特徴とする
微小球体。
【請求項2】
該粒子表面に有する官能基が、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及び、−SH基よりなる群から選ばれた1種を末端に有する基である請求項1に記載の微小球体。
【請求項3】
平均粒子径が10乃至100μmである請求項1又は2に記載の微小球体。
【請求項4】
密度が1.0乃至1.5g/ccである請求項1乃至3のいずれか1つに記載の微小球体。
【請求項5】
磁性材料が軟磁性材料である請求項1乃至4のいずれか1つに記載の微小球体。
【請求項6】
磁性材料が超常磁性体である請求項1乃至5のいずれか1つに記載の微小球体。
【請求項7】
軟磁性材料がマンガンジンクフェライト及び/又はニッケルジンクフェライトである請求項5に記載の微小球体。
【請求項8】
磁性材料の含有量が15乃至50重量%である請求項1乃至7のいずれか1つに記載の微小球体。
【請求項9】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の磁性材料を含み、密度が0.9乃至1.5g/ccであり、平均粒子径が0.5μm乃至1,000μmの球状粒子を、二ハロゲン化オキザリルを含む気相又は液相中撹拌下で活性放射線に暴露することにより、該粒子表面にハロゲン化カルボニル基を導入する工程
を含む請求項1乃至8のいずれか1つに記載の微小球体の製造方法。
【請求項10】
ハロゲン化カルボニル基を導入した球状粒子を反応性化合物に接触させる工程を含む請求項9に記載の微小球体の製造方法。
【請求項11】
活性放射線が紫外線である請求項9又は10に記載の微小球体の製造方法。
【請求項12】
球状粒子が溶融分相法で製造される請求項9乃至11のいずれか1つに記載の微小球体の製造方法。

【公開番号】特開2006−265451(P2006−265451A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88363(P2005−88363)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】