説明

表面プラズモン放射光検出方法および装置、表面プラズモン放射光検出用試料セルおよびキット

【課題】表面プラズモン放射光検出を、極めて高感度に行う。
【解決手段】誘電体プレート11と該プレート11の一面の所定領域に設けられた金属膜12を備えたセンサチップ10を用意し、誘電体プレート11と金属膜12との界面に、全反射条件で励起光L0を入射させて金属膜12に表面プラズモンを誘起し、この表面プラズモンに起因して金属膜12上に生じる電場増強場内において、試料に含まれる蛍光標識が付与された被検出物質から生じる蛍光Lfが、金属膜12に新たな表面プラズモンを誘起し、この表面プラズモンからの放射光Leを誘電体プレート11の励起光を入射させた面側から検出する表面プラズモン放射光検出方法において、蛍光標識として、蛍光色素分子15を、蛍光色素分子15から生じる蛍光を透過すると共に、蛍光色素分子15が金属膜12に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料16により包含してなる消光防止性蛍光物質Fを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の特定物質を検出する表面プラズモン放射光検出方法および装置、表面プラズモン放射光検出用試料セルおよびキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオ測定等において、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する検出対象物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって検出対象物質の存在を確認する方法である。また、検出対象物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素分子で標識されて検出対象物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち検出対象物質の存在を確認することも広くなされている。
【0003】
また、このような蛍光検出法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献1などに提案されている。これは、プラズモン共鳴を生じさせるため、透明な支持体上の所定領域に金属膜を設けたセンサチップを備え、支持体と金属膜との界面に対して支持体の金属膜形成面と反対の面側から、全反射角以上の所定の角度で励起光を入射させ、この励起光の照射により金属膜に表面プラズモンが生じ、その電場増強作用によって、蛍光を増強させることによりS/Nを向上させるものである。
【0004】
しかしながら、蛍光信号を発する反応部と光検出器との間には一般に数百μm程度の距離があり、医療診断に応用される場合、一般にサンプルは血液や血清あるいは血漿のような体液中に存在する状態で供給されるため、その数百μm間に体液等の溶媒が存在することになる。サンプルが血清や血漿であれば、比較的透明で光吸収が少ないため信号の減衰は無視できるが、サンプルとして血液をそのまま使う場合は血液による光吸収のための信号の減衰が大きく検出が十分にできない。
【0005】
そのため、通常の蛍光測定においては、血液を遠心分離し赤血球などの着色成分を除去したり、血球フィルタを通して血清あるいは血漿状態にしたりするという前処理が行われている。しかしながら、この前処理を行うため手間が掛かると共に、血球フィルタなどの高価な分離フィルタを要するためコスト高となっていた。
【0006】
一方、特許文献2および非特許文献1には蛍光色素からの蛍光を検出するのではなく、該蛍光が金属膜に新たに表面プラズモンを誘起して生じる放射光をプリズム側から取り出す方法が提案されている。このような、蛍光が新たな表面プラズモンを誘起し、この新たな表面プラズモンから生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)を利用する検出方法を医療診断に応用すれば、蛍光が溶媒を通過する距離は数十nm程度とすることができるため、血液における光吸収をほぼ無視することができ、血液に前述の前処理を行うことなく測定が可能となる。
【0007】
ところが、表面プラズモン増強蛍光検出装置においては、非特許文献1に示されているように、試料中の蛍光色素と金属膜とが接近し過ぎていると、蛍光色素内で励起されたエネルギーが蛍光を発生させる前に金属膜へ遷移してしまい、蛍光が生じないという現象(いわゆる金属消光)が起こり得る。
【0008】
そこで、非特許文献2では、金属膜上にカルボキシメチルデキストラン(CMD)膜を作製して距離を離す方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【非特許文献1】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130
【非特許文献2】W.Knoll他、Analytical Chemistry(Anal.Chem.)76(2004) p.6765
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、金属膜上にCMD膜を形成する場合、金膜上にSAM(自己組織化膜)を付けてからさらにCMD膜を作製する必要があることから、金属消光を防止するための手立てに時間がかかり、またセンサ部の製造工程が複雑なものとなり実用的でないという問題がある。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、センサ部の製造工程を複雑化させることなく、高い感度で表面プラズモン放射光を検出することができる検出方法および装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、表面プラズモン放射光検出方法に用いられる試料セルおよびキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の表面プラズモン放射光検出方法は、誘電体プレートおよび該プレートの一面の所定領域に設けられた金属膜を備えたセンサチップを用意し、
前記誘電体プレートと前記金属膜との界面に、前記誘電体プレートの前記一面とは反対の面から全反射条件で励起光を照射して前記金属膜に表面プラズモンを誘起し、
前記表面プラズモンに起因して前記金属膜上に生じる電場増強場内において、前記試料に含まれる被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識から生じる蛍光が、前記金属膜に新たに表面プラズモンを誘起し、前記誘電体プレートの前記反対の面から出射される、前記新たに誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出方法において、
前記蛍光標識として、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる消光防止性蛍光物質を用いたことを特徴とする。
【0013】
なお、ここで「蛍光標識物質」は蛍光標識が付与された被検出物質であってもよいし、被検出物質と競合する、蛍光標識が付与された競合物質であってもよい。一般に、サンドイッチ法によるアッセイを行う場合には被検出物質に蛍光標識が付与され、競合法によるアッセイを行う場合には被検出物質と競合する競合物質に蛍光標識が付与される。本発明の蛍光検出方法は、サンドイッチ法、競合法のいずれの方法によるアッセイにも対応可能である。
【0014】
また、消光防止性蛍光物質の消光防止材料に含まれる蛍光色素分子の数は1個でもよいが、複数であることがより好ましい。なお、消光防止性蛍光物質が複数の蛍光色素分子を備えるものである場合には、少なくとも1つの蛍光色素分子が金属消光を防止する材料に包まれていればよく、他の蛍光色素分子の一部が消光防止材料の外部に露出していてもよい。
【0015】
本発明の表面プラズモン放射光検出装置は、誘電体プレートおよび該プレートの一面の所定領域に設けられた金属膜を備えたセンサチップと、
前記誘電体プレートと前記金属膜との界面に、前記誘電体プレートの前記試料保持面とは反対の面から、前記金属膜において表面プラズモン共鳴を生じる全反射条件で励起光を照射する励起光照射光学系と、
前記金属膜に試料を接触させた状態の前記センサチップへの、前記励起光の照射により生じた電場増強場内において、前記試料に含まれる被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識から生じる蛍光が、前記金属膜に新たに表面プラズモンを誘起し、前記誘電体プレートの前記反対の面から出射される、前記新たに誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出手段とを備え、
前記蛍光標識が、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる消光防止性蛍光物質であることを特徴とする。
【0016】
本発明の表面プラズモン放射光検出用試料セルは、被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識からの蛍光により誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出方法に使用される試料セルであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、
前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、
前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、
前記流路の前記注入口と前記空気孔との間の壁面の少なくとも一部に設けられた、所定の光を透過する誘電体プレート、および該プレートの試料接触面側の所定領域に設けられた金属膜からなるセンサチップ部と、
前記金属膜上に固定された、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質と、
前記流路内の前記センサチップ部より上流側に固定されてなる、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、または前記第1の結合物質と特異的に結合すると共に前記被検出物質と競合する第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質とを備えてなることを特徴とする。
【0017】
なお、本発明の試料セルは第2の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を備えている場合には、サンドイッチ法によるアッセイ、第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を備えている場合には競合法によるアッセイを行うのに好適なものとなる。
【0018】
本発明の表面プラズモン放射光検出用キットは、被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識からの蛍光により誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出方法に使用される表面プラズモン放射光検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、前記流路の前記注入口と前記空気孔との間の壁面の少なくとも一部に設けられた、所定の光を透過する誘電体プレート、および該プレートの試料接触面側の所定領域に設けられた金属膜からなるセンサチップ部と、前記金属膜上に固定された、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質とを備えた試料セル、および
表面プラズモン放射光検出測定を行うにあたり、前記液体試料と同時もしくは前記液体試料の流下後に前記流路内に流下するための、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、または前記第1の結合物質と特異的に結合すると共に前記被検出物質と競合する第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を含む標識用溶液を備えたことを特徴とする。
【0019】
なお、本発明の蛍光検出用キットは、標識用溶液に第2の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を備えている場合には、サンドイッチ法によるアッセイ、第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を備えている場合には競合法によるアッセイを行うのに好適なものとなる。
【0020】
なお、上記において、試料セルに備えられた消光防止性蛍光物質は、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなるものである。なお、消光防止性蛍光物質の消光防止材料に含まれる蛍光色素分子の数は1個でもよいが、複数であることがより好ましい。なお、消光防止性蛍光物質が複数の蛍光色素分子を備えるものである場合には、少なくとも1つの蛍光色素分子が消光防止材料に包まれていればよく、他の蛍光色素分子の一部が消光防止材料の外部に露出していてもよい。
【0021】
前記消光防止性蛍光物質の粒径は、5300nm以下であることが好ましく、70nm〜900nmであることがさらに好ましく、さらには130nm〜500nmであることが特に好ましい。なお、本明細書において、消光防止性蛍光物質の粒径は、その形状が略球状の粒子である場合にはその直径であり、球状でない粒子の場合にはその最大幅と最小幅の平均の長さで定義するものとする。
【0022】
また、誘電体プレートに設けられる前記金属膜は、励起光の照射により表面プラズモンを生じさせるものであればよく、金属薄膜により構成されていてもよいし、回折格子のように周期状の凹凸表面を有する金属微細構造体により構成されていてもよい。その材料としては、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とすることが望ましい。なおここで、「主成分」は、含量90質量%以上の成分と定義する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の表面プラズモン放射光検出方法および装置は、蛍光標識として、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる、消光防止性蛍光物質を用いているため、金属膜上に金属消光防止のための膜を設けなくても、金属膜と蛍光色素分子との距離をある程度離間させることができる。従来、金属消光防止のために必要であったCMD膜およびSAM膜を形成する手間をなくすことができ、センサ部の製造工程を複雑化させることなく、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止すると共に、安定して信号を検出することができる。
【0024】
本発明の表面プラズモン放射光検出用試料セルは、流路内の、センサチップ部より上流側に固定された、被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、または第1の結合物質と特異的に結合すると共に被検出物質と競合する第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を備えており、消光防止性蛍光物質は、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなるものであることから、金属膜上に金属消光防止のための膜を設けなくても、金属膜と蛍光色素分子との距離をある程度離間させることができる。従来、金属消光防止のために必要であったCMD膜およびSAM膜を形成する手間をなくすことができ、センサ部の製造工程を複雑化させることなく、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止すると共に、安定して信号を検出することができる。
【0025】
本発明の表面プラズモン放射光検出用キットは、液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に、流路内に流下される、被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質または第1の結合物質と特異的に結合すると共に被検出物質と競合する第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を含む標識用溶液を備えており、消光防止性蛍光物質は、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなるものであるから、金属膜上に金属消光防止のための膜を設けなくても、金属膜と蛍光色素分子との距離をある程度離間させることができる。従来、金属消光防止のために必要であったCMD膜およびSAM膜を形成する手間をなくすことができ、センサ部の製造工程を複雑化させることなく、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止すると共に、安定して信号を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
<第1の実施形態>
図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る表面プラズモン放射光検出方法およびそれに用いられる装置について説明する。図1は装置の全体図である。各図において説明の便宜上、各部の寸法は実際のものとは異ならせている。
【0027】
図1に示す表面プラズモン放射光検出装置1は、誘電体プレート11と、その一面の所定領域に設けられた金属膜12とを備えたセンサチップ10、励起光Loを誘電体プレート11と金属膜12との界面で全反射条件となる入射角度で、センサチップ10の金属膜形成面とは反対の面側から励起光Loを照射する励起光照射光学系20と、金属膜12に接触している試料中に蛍光標識が付与された被検出物質が存在する場合に、該蛍光標識が付与された被検出物質(実質的には蛍光標識F)から生じる蛍光Lfが金属膜12に新たに表面プラズモンを誘起し、この新たに誘起された表面プラズモンからの放射光Le(以下、単に放射光Leという)を検出する光検出器30とを備えている。光検出器30は、誘電体プレート11の励起光が入射する面と同じ面からの放射光Leを検出するように配置されている。光検出器30としては、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。
【0028】
励起光照射光学系20は、励起光Loを出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源21と、誘電体プレート11に一面が接触するように配置されたプリズム22とを備えている。プリズム22は、誘電体プレート11と金属膜12との界面で励起光Loが全反射するように誘電体プレート11内に励起光Loを導光するものである。なお、プリズム22と誘電体プレート11とは、屈折率マッチングオイルを介して接触されている。光源21は、プリズム22の他の一面からセンサチップ10の試料接触面10aで励起光Loが全反射角以上で、かつ金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせる特定の角度で入射するように配置されている。さらに、光源21とプリズム22との間に必要に応じて導光部材を配置してもよい。なお、励起光Loは、表面プラズモンを誘起するようにp偏光で界面に対して入射される。
なお、本実施形態においては、センサチップ10上に液体試料Sを保持する試料保持部13が備えられ、センサチップ10と試料保持部13により液体試料を保持可能な箱状セルが構成されている。
【0029】
センサチップ10は、ガラス板などの誘電体プレート11の一表面の所定領域に金属膜12が成膜されたものである。金属膜12は、所定領域に開口を有するマスクをプレート11の一表面に形成し、既知の蒸着法で成膜形成することができる。金属膜12の厚みは、金属膜12の材料と、励起光の波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることが望ましい。例えば、励起光として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0030】
表面プラズモン放射光検出装置の放射光検出の原理について説明する。
励起光照射光学系20により励起光Loが誘電体プレート11と金属膜12との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜上12の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜12中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜12表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。このとき、エバネッセント波Ewの滲み出し領域において蛍光標識Fが存在する場合、その蛍光標識Fが励起されて蛍光が発生する。このとき、エバネッセント波の染み出し領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強の効果により蛍光は増強されたものとなる。なお、エバネッセント波Ewの滲み出し領域外の蛍光標識Fは励起されず蛍光を発しない。金属膜12上で生じた蛍光Lfが、金属膜の表面プラズモンを新たに励起し、この表面プラズモンによりセンサチップ10の金属膜形成面と反対側のプリズム22から特定の角度で放射光Leが射出される。光検出器30は、蛍光標識Fから生じた蛍光が金属膜の表面プラズモンを新たに誘起し、この新たに誘起された表面プラズモンから生じるこの放射光Leを検出する。放射光Leは蛍光が金属膜の特定の波数の表面プラズモンと結合する際に生じるものであり、蛍光の波長に応じてその結合する波数は定まり、その波数に応じて放射光の出射角度が定まる。通常励起光Loの波長と蛍光の波長とは異なることから、する表面プラズモンは、励起光Loにより生じた表面プラズモンとは異なる波数のものとなり、励起光Loの入射角度とは異なる角度で放射光Leは射出される。
【0031】
本実施形態の表面プラズモン放射光検出方法では、被検出物質Aに、蛍光標識として消光防止性蛍光物質Fを付与してセンシングを行う。消光防止性蛍光物質Fは、蛍光色素分子15と、該蛍光色素分子15を内包する、該蛍光色素分子15から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料16とからなる。消光防止性蛍光物質Fは蛍光色素分子が消光防止材料で覆われているものであるため、金属膜上に金属消光防止のための膜を設けなくても、金属膜と蛍光色素分子との距離をある程度離間させることができ、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止することができる。
【0032】
また、ここでは、消光防止性蛍光物質Fは複数の蛍光色素分子15を内包するものであり、従来の蛍光色素分子15自体を標識として用いる場合と比較すると、発光する蛍光量を大幅に増加することができる。
【0033】
なお、消光防止性蛍光物質Fは粒径が、5300nm以下であることが好ましく、70nm〜900nmであることがさらに好ましく、さらには130nm〜500nmであることが特に好ましい。消光防止材料16としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、蛍光色素分子15を内包でき、かつ、該蛍光色素分子15からの蛍光を透過した外部に放出でき、蛍光色素分子15の金属消光を防止できるものであれば特に制限されない。
【0034】
蛍光により金属膜の表面プラズモンを励起させるためには、金属膜表面から5nm〜20nm程度の範囲で蛍光が生じることが望ましい。
【0035】
一方で、既述の通り、金属膜の極近傍に蛍光色素が存在する場合、金属へのエネルギー移動により消光を起こす。エネルギー移動の程度は、金属が半無限の厚さを持つ平面なら距離の3乗に反比例して、金属が無限に薄い平板なら距離の4乗に反比例して、また、金属が微粒子なら距離の6乗に反比例して小さくなる。従って、金属膜と、蛍光色素分子との間の距離は少なくとも数nm以上、より好ましくは10nm以上確保しておくことが望ましい。
蛍光標識として消光防止性蛍光物質Fを用いれば、蛍光色素分子は消光防止材料16で覆われていることから直接金属膜に触れることがなく、金属消光を防止するための既述の膜を設ける複雑な作業を行う必要がない。また、本実施形態では消光防止性蛍光物質中に複数の蛍光色素分子が内包されていることから、金属膜から10〜20nmの距離の範囲に複数の蛍光色素分子が存在する状態を容易に達成することができる。
【0036】
上記構成の表面プラズモン放射光検出装置1を用いた放射光検出方法によるセンシングについて説明する。
まず、センサチップ10の金属膜12上に検査対象となる試料Sを接触させる。ここでは、一例として、試料Sに含まれる被測定物質として抗原Aを検出する場合について説明する。金属膜12上には抗原Aと特異的に結合する第1の結合物質として1次抗体Bが修飾されている。試料保持部13中に試料Sが流され、次いで同様に抗原2と特異的に結合する第2の結合物質である2次抗体Bが表面に修飾された消光防止性蛍光物質Fが流される。この場合、金属膜12に表面修飾される1次抗体Bと蛍光標識に表面修飾される2次抗体Bとは、被検出物質である抗原Aに対して互いに別の部位に結合するものが用いられる。その後、誘電体プレート11の所定領域に向けて励起光照射光学系20により励起光Loが照射され、また光検出器30により放射光Leの検出がなされる。このとき、光検出器30によって所定の放射光Leが検出されたなら、上記2次抗体Bと抗原Aとの結合、すなわち試料中における抗原Aの存在を確認できることになる。
【0037】
なお、被検出物質(抗原A)の標識のタイミングは特に制限されず、被検出物質(抗原A)を第1の結合物質(1次抗体B)に結合させる前に、予め試料に蛍光標識を添加しておいてもよい。
【0038】
なお、消光防止性蛍光物質Fは、以下のようにして作製することができる。
まず、ポリスチレン粒子(Estapor社、φ500nm、10%solid、カルボキシル基、製品番号K1−050)を調液して0.1%solid in phosphate(ポリスチレン溶液:pH7.0)を作製する。
次に、蛍光色素(MolecularProbes社、BODIPY−FL−SE、製品番号D2184)0.3mgの酢酸エチル溶液(1mL)を作製する。
上記ポリスチレン溶液と蛍光色素溶液を混合し、エバポレートしながら含浸を行った後、遠心分離(15000rpm、4℃、20分を2回)を行い、上清を除去する。以上の工程により、金属消光を防止する機能を有するポリスチレンにより蛍光色素を内包してなる消光防止性蛍光物質Fを得ることができる。このような手順で、ポリスチレン粒子に蛍光色素を含浸させて作製された消光防止性蛍光物質Fの粒径はポリスチレン粒子の粒径と同一(上記例ではφ500nm)となる。
【0039】
<第2の実施形態>
第2の実施形態の蛍光検出方法および装置2を図2から図4を参照して説明する。ここでは、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付してある。
【0040】
図2に示す蛍光検出装置2は、該蛍光検出装置における蛍光検出方法に使用される本発明の一実施形態の試料セル50と、試料セル50の所定領域に励起光Loを照射させる励起光照射光学系20と、放射光Leを検出する光検出器30とを備えている。
【0041】
図3(A)は、試料セル50の構成を示す平面図、同図(B)は試料セル50の側断面図である。
試料セル50は、基台51と、該基台51上に液体試料Sを保持し、液体試料Sの流路52を形成するスペーサ53と、試料Sを注入する注入口54aおよび排出する排出口となる空気孔54bを備えたガラス板からなる上板54とを備えている。また、流路52下流の空気孔54bに接続する部分には廃液だめ56が形成されている。なお、本実施形態では、スペーサ53により構成された流路を上部に有する基台51は誘電体プレートで構成されており、センサチップ部の誘電体プレートを兼ねている。基台はセンサチップ部となる一部のみ誘電体プレートで構成されたものであってもよい。流路52の高さhは例えば、30μm程度である。
【0042】
試料セル50の基台51上には流路52上流側から、2次抗体B2が表面修飾された消光防止性蛍光物質Fを物理吸着させてある標識2次抗体吸着エリア57、1次抗体Bが固定された第1の測定エリア58、標識2次抗体と特異的に結合する1次抗体Bが固定された第2の測定エリア59が順に設けられている。この第1および第2の測定エリアがセンサチップ部に相当する。なお、図2中においては、試料が注入されて抗体が2次抗体と結合して流れた後の試料セル50を示しているために標識2次抗体吸着エリア56はもはや存在していない。
【0043】
第1の測定エリア58および第2の測定エリア59の、基台51上にはそれぞれ金属膜として、金(Au)膜58aおよび59aが形成されている。第1の測定エリア58のAu膜58a上にはさらに1次抗体Bが固定され、第2の測定エリア59のAu膜59a上にはさらに1次抗体Bが固定されている。互いに異なる1次抗体が設けられている以外は第1の測定エリア58と第2の測定エリア59は同一の構成である。なお、第2の測定エリア59に固定されている1次抗体Bは抗原Aとは結合せず、標識2次抗体Bと直接結合するものである。これにより、流路を流れた標識2次抗体の量、活性など反応に関する変動要因と励起光照射光学系20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因を検出し、較正に利用することができる。なお、第2の測定エリアには1次抗体Bではなく、既知量の標識物質が予め固定されていてもよい。標識物質は2次抗体により表面修飾された消光防止性蛍光物質と同種のものであってもよいし、波長、サイズの異なる消光防止性蛍光物質であってもよい。さらには金属微粒子などであってもよい。この場合、励起光照射光学系20、金膜58a、59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因のみを検出し、較正に利用することができる。第2の測定エリア59に標識2次抗体B、既知量の標識物質のどちらを固定するかは、較正目的・方法によって適宜定めればよい。
【0044】
試料セル50は、励起光照射光学系20および検出器30に相対的にX方向に移動可能とされており、第1の測定エリア57からの蛍光検出測定の後、第2の測定エリア58を蛍光検出領域に移動させて第2の測定エリア58からの蛍光検出を行うように構成されている。なお、ここでは測定エリアを2つ有するセンサ部を備えた例を挙げたが、測定エリアは1つのみとしてもよい。
【0045】
励起光照射光学系20は、励起光Loを出力する半導体レーザ(LD)からなる光源21と、誘電体プレート10に一面が接触するように配置されたプリズム22とに加え、光源21から出射された励起光Loを集光し、プリズム22の一面から入射させるレンズ24およびミラー25からなる導光部材と半導体レーザ光源21を駆動するドライバ28とを備えている。
【0046】
上記構成の表面プラズモン放射光検出装置2を用いた放射光検出方法の原理は第1の実施形態と同様であり、本実施形態においても蛍光標識として消光防止性蛍光物質を用いているから、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができ、簡易な方法で非常に精度の高い測定を行うことができる。
【0047】
さらに、この第2の実施形態の表面プラズモン放射光検出装置2および検出方法を利用した、センシングについて説明する。
被検出物質である抗原を含むか否かの検査対象である血液(全血)を試料セル61の注入口から注入し、アッセイを行う手順について図4を参照して説明する。
【0048】
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液Soに被検出物質である抗原が含まれている場合について説明する。
step2:血液Soは毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血液をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step3:流路52に染み出した血液Soと標識2次抗体Bが付与された消光防止性蛍光物質とが混ぜ合わされ、抗原Aが標識2次抗体Bと結合する。
step4-5:血液Soは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、標識2次抗体Bと結合した抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている1次抗体Bと結合し、抗原Aが1次抗体Bと2次抗体Bで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0049】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体と結合するまでのstep1からStep5の後、第1の測定エリア58からの放射光強度を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。その後、第2の測定エリア59からの放射光を検出できるように試料セル50をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの放射光強度を検出する。第2の測定エリア59からの信号は標識2次抗体の流下した量、活性などの反応条件を反映した信号であると考えられ、この信号をリファレンスとして、第1の測定エリアからの信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、既述の通り、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子)をあらかじめ固定した場合であっても、同様に、第2の測定エリア59からの信号をリファレンスとして第1の測定エリアからの信号を補正することができる。
【0050】
<第3の実施形態>
第3の実施形態の表面プラズモン放射光検出方法として、本発明の一実施形態の表面プラズモン放射光検出用キットを用いた方法について図5および6を参照して説明する。図5、6において、上述の試料セルと同一の要素には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0051】
図5(A)は放射光検出用キット60の試料セル61の構成を示す平面図、同図(B)は試料セルの即断面図、同図(C)は標識用溶液入りアンプル62を示す図である。
【0052】
放射光検出用キット60は、試料セル61と、表面プラズモン放射光検出測定を行うにあたり、液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に、試料セル61の流路内に流下される、抗原Aと特異的に結合する第2の結合物質として2次抗体B2が修飾された消光防止性蛍光物質Fを含む標識用溶液63とを備えている。
【0053】
試料セル61は、試料セル内に2次抗体で表面修飾した消光防止性蛍光物質を物理吸着した物理吸着エリアを備えない点でのみ上述の試料セル50と異なり、その他は試料セル50と略同一の構成である。
【0054】
表面プラズモン放射光検出装置としては図2に示した第2の実施形態のものを同様に用いることができ、本実施形態の放射光検出用キット60を用いれば、第2の実施形態の場合と同様に被検出物質に消光防止性蛍光物質による標識がなされるため、同様に精度の高い測定を行うことができる。
【0055】
さらに、この放射光検出用キット60を用いた場合の表面プラズモン放射光検出装置2におけるセンシングについて説明する。
被検出物質である抗原を含むか否かの検査対象である血液(全血)を試料セル61の注入口から注入し、アッセイを行う手順について図6を参照して説明する。
【0056】
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。
step2:血液Soが毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血液をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step3:血液Soは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、血液So中の抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている1次抗体Bと結合する。
step4:2次抗体Bが修飾された消光防止性蛍光物質Fを含む標識用溶液63を供給口54aから注入する。
step5:2次抗体Bが修飾された消光防止性蛍光物質Fが毛細管現象により流路52に染み出す。
step6:消光防止性蛍光物質Fは徐々に下流側に流れ、消光防止性蛍光物質Fに修飾されている2次抗体が抗原Aと結合し、抗原Aが1次抗体Bと2次抗体Bで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0057】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体および2次抗体と結合するまでのstep1からStep6の後、第1の測定エリア58からの放射光強度を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。その後、第2の測定エリア59からの放射光を検出できるように試料セル61をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの信号を検出する。第2の測定エリア59からの信号は標識2次抗体の流下した量、活性などの反応条件を反映した信号であると考えられ、この信号をリファレンスとして、第1の測定エリアからの信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子)をあらかじめ固定しておき、第2の測定エリア59からの信号をリファレンスとして第1の測定エリアからの信号を補正してもよい。
【0058】
消光防止性蛍光物質への2次抗体修飾方法および標識用溶液の作製方法の一例を説明する。
前述の手順で作製した消光防止性蛍光物質溶液(蛍光物質の直径500nm、励起波長502nm、蛍光波長510nm)に50mM MESバッファーおよび、5.0mg/mLの抗hCGモノクローナル抗体(Anti−hCG 5008 SP−5、Medix Biochemica社)溶液を加えて撹拌する。これにより消光防止性蛍光物質への抗体の修飾がなされる。
【0059】
次に、400mg/mLのWSC(品番01−62−0011、和光純薬)水溶液を加え室温で攪拌する。
さらに、2mol/L Glycine水溶液を添加し撹拌した後、遠心分離にて、粒子を沈降させる。
最後に、上清を取り除き、PBS(pH7.4)を加え、超音波洗浄機により消光防止性蛍光物質を再分散させる。さらに遠心分離を行い、上清を除いた後、1%BSAのPBS(pH7.4)溶液500μL加え、消光防止性蛍光物質を再分散させて標識用溶液とする。
【0060】
上述の各実施形態においては励起光Loとして、界面に所定の角度θで入射する平行光を入射するものとしたが、励起光としては、図7に模式的に示すような、角度θを中心に角度幅Δθを持つファンビーム(集束光)を用いてもよい。ファンビームの場合、プリズム122とプリズム上の金属膜112との界面に対して、角度θ−Δθ/2〜θ+Δθ/2の範囲の入射角度で入射することになり、この角度範囲内に共鳴角があれば、金属膜112に表面プラズモンを励起することができる。金属膜上への試料供給の前後において、金属膜上の媒質の屈折率が変化し、そのために表面プラズモンが生じる共鳴角が変化する。上述の実施形態のように平行光を励起光として用いる場合、共鳴角が変化するたびに平行光の入射角度を調整する必要がある。しかし、図7に示すような、界面に入射する入射角度に幅を持たせたファンビームを用いることにより、入射角度の調整をすることなく、共鳴角の変化に対応することができる。なお、ファンビームは入射角度による強度変化が少ないフラットな分布を持つものであることがより好ましい。
【0061】
また、上記各実施形態においては、全て非競合法であるサンドイッチ法によるアッセイについて説明したが、本発明の蛍光検出方法および装置、試料セルおよび測定キットはサンドイッチ法のみならず、競合法によるアッセイの場合にも適用することができる。
【0062】
図8を参照して、競合法について簡単に説明する。
図8(A)に示すように、被検出物質(例えば、抗原)Aと同一の免疫反応を示す第3の結合物質Cを消光防止性蛍光物質Fに修飾させておく。金属膜12上には、被検出物質Aおよび第3の結合物質Cといずれとも特異的に結合する第1の結合物質C(例えば、1次抗体)を固定化しておく。第3の結合物質C(例えば、2次抗体)が修飾された消光防止性蛍光物質Fを所定濃度で、被検出物質Aと混合し、金属膜12上に固定化された第1の結合物質Cに競合的に反応させる(抗原−抗体反応)。抗原と消光防止性蛍光物質との混合時における消光防止性蛍光物質の濃度は既知である。
【0063】
競合法では、図8(B)に示すように、被検出物質Aの濃度が高ければ、第1の結合物質Cと結合する第3の結合物質Cの量が少なく、すなわち金属膜12上の消光防止性蛍光物質Fの数が少なくなるため蛍光強度が小さくなり、一方、図8(C)に示すように、被検出物質Aの濃度が低ければ、第1の結合物質Cと結合する第3の結合物質Cの量が多く、すなわち金属膜上の消光防止性蛍光物質の数が多くなるため蛍光強度が大きくなる。競合法は被検出物質にエピトープが一つあれば測定が可能であることから、低分子量の物質の検出に適している。
【0064】
図9は、本発明の他の実施形態の試料セル50’を用いた競合法によるアッセイ手順を示す図である。試料セル50’は、第2の実施形態の蛍光検出装置2において、試料セル50に換えて用いることができる。試料セル50とは、流路内に備えられている抗体が異なり、本試料セル50’は競合法によるアッセイに適用されるものである。
【0065】
試料セル50’においては、基台51上には流路52上流側から、被検出物質である抗原Aとは結合せず、後述の1次抗体と特異的に結合する2次抗体C(第3の結合物質)が表面修飾された消光防止性蛍光物質Fを物理吸着させてある標識2次抗体吸着エリア57’、被検出物質である抗原Aおよび第2次抗体Cと特異的に結合する1次抗体C(第1の結合物質)が固定された第1の測定エリア58’、被検出物質である抗原Aとは結合せず標識2次抗体Cと特異的に結合する1次抗体Cが固定された第2の測定エリア59’が順に設けられている。
【0066】
試料セル50’においては、第1の測定エリア58’のAu膜58a上にさらに1次抗体Cが固定され、第2の測定エリア59’のAu膜59a上にさらに1次抗体Cとは異なる1次抗体Cが固定されている。互いに異なる1次抗体が設けられている点以外は第1の測定エリア58’と第2の測定エリア59’は同一の構成である。抗原Aと標識2次抗体Cとは、第1の測定エリア58’に固定されている1次抗体Cに競合的に結合するものである。第2の測定エリア59’に固定されている1次抗体Cは抗原Aとは結合せず、標識2次抗体Cと直接結合するものである。これにより、流路を流れた標識2次抗体の量、活性など反応に関する変動要因と励起光照射光学20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因を検出し、較正に利用することができる。なお、第2の測定エリアには1次抗体Cではなく、既知量の標識物質が予め固定されていてもよい。標識物質は2次抗体により表面修飾された消光防止性蛍光物質と同種のものであってもよいし、波長、サイズの異なる消光防止性蛍光物質であってもよい。この場合、励起光照射光学20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因のみを検出し、較正に利用することができる。第2の測定エリア59に標識2次抗体C、既知量の標識物質のどちらを固定するかは較正目的・方法によって適宜、選択することができる。
【0067】
被検出物質である抗原を含むか否かの検査対象である血液(全血)を試料セル50の注入口から注入し、アッセイを行う手順について説明する。
【0068】
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原が含まれている場合について説明する。
step2:全血液Soは毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血液をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step3:流路52に染み出した血液Sと標識2次抗体Cが付与された消光防止性蛍光物質Fとが混ぜ合わされ、血液Sは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れる。
step4−5:抗原Aと標識2次抗体Cとが競合して、第1の測定エリア58’上に固定されている1次抗体Cと結合する。第1の測定エリア58’上の1次抗体Cと結合しなかった標識2次抗体Cの一部は、第2の測定エリア59’上に固定されている1次抗体Cと結合する。
【0069】
このように、血液を注入口から注入し、測定エリア58’上の1次抗体Cに抗原Aおよび2次抗体Cが競合結合するまでのstep1からStep5の後、第1の測定エリア58’および第2の測定エリア59’からの放射光強度を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。
【0070】
本実施形態の試料セルを用いた蛍光検出方法においても蛍光標識として消光防止性蛍光物質を用いているから、上記各実施形態の場合と同様の効果を得ることができ、簡易な方法で精度の高い測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態による表面プラズモン放射光検出装置を示す概略構成図
【図2】本発明の第2実施形態による表面プラズモン放射光検出装置を示す概略構成図
【図3】本発明の1実施形態の試料セルを示す(A)平面図および(B)側断面図
【図4】本発明の第2実施形態の表面プラズモン放射光検出装置におけるアッセイ手順を示す図
【図5】本発明の1実施形態の蛍光検出用キットの(A)試料セルを示す平面図、(B)試料セルを示す側断面図および(C)標識用溶液を示す図
【図6】蛍光検出用キットを用いた場合のアッセイ手順を示す図
【図7】励起光照射光学系の他の例を示す図
【図8】競合法の原理を説明するための模式図
【図9】本発明の他の実施形態の試料セルを用いたアッセイ(競合法)手順を示す図
【符号の説明】
【0072】
1、2 表面プラズモン放射光検出装置
10 センサチップ
11 誘電体プレート
12 金属膜
15 蛍光色素分子
16 消光防止材料
20 励起光照射光学系
21 光源
22 プリズム
30 光検出器
50、61 試料セル
51 誘電体プレート
52 流路
53 スペーサ
54 上板
57 消光防止性蛍光物質吸着エリア
58、59 検出エリア
A 抗原(被検出物質)
1次抗体(第1の結合物質)
2次抗体(第2の結合物質)
F 消光防止性蛍光物質
Lo 励起光
Lf 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体プレートおよび該プレートの一面の所定領域に設けられた金属膜を備えたセンサチップを用意し、
該センサチップの前記金属膜に試料を接触させた状態で、前記誘電体プレートと前記金属膜との界面に、前記誘電体プレートの前記一面とは反対の面から全反射条件で励起光を照射して前記金属膜に表面プラズモンを誘起し、
前記表面プラズモンに起因して前記金属膜上に生じる電場増強場内において、前記試料に含まれる被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識から生じる蛍光が前記金属膜に新たに表面プラズモンを誘起し、前記誘電体プレートの前記反対の面から出射される、前記新たに誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出方法において、
前記蛍光標識として、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる消光防止性蛍光物質を用いたことを特徴とする表面プラズモン放射光検出方法。
【請求項2】
誘電体プレートおよび該プレートの一面の所定領域に設けられた金属膜を備えたセンサチップと、
前記誘電体プレートと前記金属膜との界面に、前記誘電体プレートの前記試料保持面とは反対の面から、前記金属膜において表面プラズモン共鳴を生じる全反射条件で励起光を照射する励起光照射光学系と、
前記金属膜に試料を接触させた状態の前記センサチップへの、前記励起光の照射により生じた電場増強場内において、前記試料に含まれる被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識から生じる蛍光が、前記金属膜に新たに表面プラズモンを誘起し、前記誘電体プレートの前記反対の面から出射される、前記新たに誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出手段とを備え、
前記蛍光標識が、蛍光色素分子を、該蛍光色素分子から生じる蛍光を透過すると共に、該蛍光色素分子が前記金属膜に近接した場合に生じる金属消光を防止する消光防止材料により包含してなる消光防止性蛍光物質であることを特徴とする表面プラズモン放射光検出装置。
【請求項3】
被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識からの蛍光により誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出方法に使用される試料セルであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、
前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、
前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、
前記流路の前記注入口と前記空気孔との間の壁面の少なくとも一部に設けられた、所定の光を透過する誘電体プレート、および該プレートの試料接触面側の所定領域に設けられた金属膜からなるセンサチップ部と、
前記金属膜上に固定されてなる、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質と、
前記流路内の前記センサチップ部より上流側に固定されてなる、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、または前記第1の結合物質と特異的に結合すると共に前記被検出物質と競合する第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質とを備えてなることを特徴とする表面プラズモン放射光検出用試料セル。
【請求項4】
被検出物質の量に応じた量の蛍光標識物質の蛍光標識からの蛍光により誘起された表面プラズモンからの放射光を検出する表面プラズモン放射光検出方法に使用される表面プラズモン放射光検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、前記流路の前記注入口と前記空気孔との間の壁面の少なくとも一部に設けられた、所定の光を透過する誘電体プレート、および該プレートの試料接触面側の所定領域に設けられた金属膜からなるセンサチップ部と、前記金属膜上に固定された、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質とを備えた試料セル、および
表面プラズモン放射光検出測定を行うにあたり、前記液体試料と同時もしくは前記液体試料の流下後に前記流路内に流下するための、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、または前記第1の結合物質と特異的に結合すると共に前記被検出物質と競合する第3の結合物質が修飾された消光防止性蛍光物質を含む標識用溶液を備えたことを特徴とする表面プラズモン放射光検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−258034(P2009−258034A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109792(P2008−109792)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】