説明

表面修飾無機ナノ粒子の製造方法

【課題】簡便かつ容易に表面が修飾剤で修飾された無機ナノ粒子を製造できる表面修飾無機ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子の表面を、前記表面修飾剤Aの一部又は全部に代えて前記表面修飾剤Aとは別の表面修飾剤Bで修飾する表面修飾無機ナノ粒子の製造方法であって、前記表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子、表面修飾剤B、及び、溶媒を含有する分散液をピンチコックされたキャピラリー流路に通液する工程を有する表面修飾無機ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ容易に表面が修飾剤で修飾された無機ナノ粒子を製造できる表面修飾無機ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が1〜100nm程度である無機ナノ粒子は、粒径が数百nm以上の粒子に比べて活性度及び反応性が飛躍的に向上し、電気的、磁気的、光学的、機械的特性が大きく変化するため、印刷材料、電子材料、化粧品材料、食品材料、医薬品材料等の分野において大きく期待されている。例えば、無機ナノ粒子の1つである半導体ナノ粒子は、バルク結晶における励起子ボーア半径と同等の粒子径を有する半導体の超微粒子(超微結晶)であり、量子閉じ込め効果の発現によって光学スペクトル、すなわち吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを粒子径によって調節することが可能である。すなわち、粒子径によって異なる波長の光を発し得る。このような半導体ナノ粒子は、in vitro並びにin vivoのシステムのマーカー等、種々の医療用用途への応用が検討されている。
【0003】
無機ナノ粒子は、一般に、コロイド化学的合成法や、レーザーエッチング、スパッタリング、ケミカルエッチング等のトップダウン製法により合成される。これらの方法により得られた無機ナノ粒子の表面は、一般的に界面活性剤及び/又は表面修飾剤で被覆され、安定化されている。高い量子効率を有し、かつ、粒子径分布が狭い量子ドットを得るための合成法は限定されており、これらの方法により得られるナノ粒子の表面は疎水性となる場合が多い。しかし、表面が疎水性であると、水系溶媒に対する分散安定性に劣ることから水系溶媒中での使用に制限があり、また、タンパク質、ウイルス、核酸等の生体関連物質を標的としたときに反応性が低下し高い感度で検出することが困難となるという問題があった。そのため、無機ナノ粒子の表面を親水化することが望まれていた。
【0004】
無機ナノ粒子の表面を親水化する方法としては、例えば、特許文献1に、無機ナノ粒子表面に対する結合基を有する部分、疎水性基を有する部分及び親水性基を有する部分が、この順番で結合された化合物を、該化合物自身のミセル能を利用して、無機ナノ粒子の表面に修飾する方法が開示されている。
また、特許文献2には、配位子の構造及び/又は希土類原子の種類を変更することにより、発光波長を変化させ、任意の波長の発色を得る方法が開示されている。
しかし、これらの方法では、無機ナノ粒子表面を親水性化するための処理が煩雑であるという問題があった。また、これらの方法で半導体ナノ粒子を製造すると、表面に被覆した化合物により半導体ナノ粒子の蛍光が消光されてしまい、生体関連物質、環境関連物質等の標的物質の高感度測定法に用いる分子認識発光性マーカー物質として充分に高輝度な蛍光が得られないことが多かった。
【0005】
これに対して特許文献3には、トリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO)で表面が修飾された半導体ナノ粒子を、トルエンやテトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒に溶解した後、該溶液を85℃に加温し、そこにエタノールに溶解させた半導体ナノ粒子に対する結合基を有する親水性化合物を滴下させながら12時間程度還流させることにより、親水性化合物で表面が修飾された半導体ナノ粒子を製造する方法が記載されている。特許文献3に記載された方法は、水系溶媒への分散性に優れる無機ナノ粒子の製造方法として画期的なものであった。しかしながら、特許文献3に記載された方法では、85℃、12時間の還流という、非常に長時間の工程が必須であった。より工業的に容易な表面修飾無機ナノ粒子の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−524147号公報
【特許文献2】特開2003−081986号公報
【特許文献3】特開2007−178239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡便かつ容易に表面が修飾剤で修飾された無機ナノ粒子を製造できる表面修飾無機ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子の表面を、前記表面修飾剤Aの一部又は全部に代えて前記表面修飾剤Aとは別の表面修飾剤Bで修飾する表面修飾無機ナノ粒子の製造方法であって、前記表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子、表面修飾剤B、及び、溶媒を含有する分散液をピンチコックされたキャピラリー流路に通液する工程を有する表面修飾無機ナノ粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子、表面修飾剤Aとは別の表面修飾剤B、及び、溶媒を含有する分散液をピンチコックされたキャピラリー流路に通液するだけで、表面修飾剤Aの一部又は全部に代えて表面修飾剤Bで修飾された表面修飾無機ナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
これは、ピンチコックされたキャピラリー流路を通液させる際のせん断応力によって無機ナノ粒子の表面に結合している表面修飾剤Aの一部又は全部が剥離し、その後に露出した活性な無機ナノ粒子の表面に剥離した表面修飾剤Aと添加された表面修飾剤Bとが競争的に改めて結合するためであると考えられる。
【0010】
本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法は、表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子、表面修飾剤B、及び、溶媒を含有する分散液をピンチコックされたキャピラリー流路に通液する工程を有する。
【0011】
上記無機ナノ粒子を構成する無機材料は、例えば、金属、金属酸化物、無機酸化物、半導体等が挙げられる。
上記金属は、例えば、Ni、Co、Al、Ag、Au、Cu、Fe、Pt、Pd、及び、これらの合金等が挙げられる。上記金属酸化物は、例えば、上記金属の酸化物が挙げられる。
上記無機酸化物は、例えば、SiO、SnO、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO、Al、ZrO、Nb、V、TiO、Sc、Y、La、Ga、GeO、Ta、HfO、Fe、Fe、SnをドープしたIn(ITO)、SbをドープしたSnO(ATO)、ZnをドープしたIn(IZO)、MgIn、CuAlO、AgInO、13族元素(B、Al、Ga、In、Tl)をドープしたZnO、17族元素(F、Cl、Br、I)をドープしたZnO、1族元素(Li、Na、K、Rb、Cs)をドープしたZnO、15族元素(N、P、As、Sb、Bi)をドープしたZnO等が挙げられる。
【0012】
上記半導体は、Si、Ge、SiC等のIV族半導体、CuCl等のI−VII族半導体、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe等のII−VI族半導体、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InP、InAs、InSb等のIII−V族半導体等が挙げられる。また、上記半導体は、CdSをコア−CdSeをシェル、CdSeをコア−CdSをシェル、CdSをコア−ZnSをシェル、CdSeをコア−ZnSをシェル、CdSeのナノ結晶をコア−ZnSをシェル、CdSeのナノ結晶をコア−ZnSeをシェル、Siをコア−SiOをシェルとするコア−シェル構造を有する半導体であってもよい。
上記無機ナノ粒子は、例えば、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、フラーレン、ボロンドープトカーボン、グラフェン等の炭素系ナノ粒子であってもよい。
上記無機ナノ粒子は、更に、これらの素材が層状に積層された多層粒子であってもよい。
【0013】
上記無機ナノ粒子の粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は1nm、好ましい上限は100nmである。上記無機ナノ粒子の粒子径が100nmよりも大きいと、ナノ粒子が数時間で沈降するようになり、分散性に問題が生じる。上記無機ナノ粒子の粒子径のより好ましい下限は2nm、より好ましい上限は20nmである。
上記無機ナノ粒子の形状は特に限定されない。例えば、球、ロッド、板、薄片、繊維、チューブ、トーラス、中空体、立方体、放射状体等が挙げられる。また、これらの少なくとも一種類以上の粒子が2〜50個程度凝集した2次粒子であってもよい。
【0014】
上記表面修飾剤は、無機ナノ粒子の凝集を防ぎ、溶媒中に均一に分散させる役割を有する。また、修飾の度合いによっては、凝集状態を制御し、所望の大きさの2次粒子を形成させる効果を発揮することもある。更に、その他の物質、化合物、基板、担体表面に吸着、反応、固定する効果を発揮することもある。
【0015】
上記表面修飾剤は、例えば、上記無機ナノ粒子と相互作用する官能基と、極性溶媒又は油性溶媒と相互作用する官能基とを有する化合物が挙げられる。極性溶媒と相互作用する官能基を有する表面修飾剤(以後、親水性表面修飾剤と呼ぶ)を用いれば、無機ナノ粒子に極性溶媒中での分散性を付与することができ、油性溶媒と相互作用する官能基を有する表面修飾剤(以後、疎水性表面修飾剤と呼ぶ)を用いれば、無機ナノ粒子に油性溶媒中での分散性を付与することができる。
【0016】
上記無機ナノ粒子と相互作用する官能基は、上記無機ナノ粒子の表面に化学吸着、物理吸着、水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等が可能な官能基であれば特に限定されない。なかでも上記無機ナノ粒子の表面への結合の容易さから、配位結合、共有結合が好ましい。
上記無機ナノ粒子と配位結合可能な官能基は特に限定されないが、例えば、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、アセチル基等が挙げられる。
上記無機ナノ粒子と共有結合可能な官能基は特に限定されないが、例えば、炭素−炭素二重結合(C=C)、アジ基(−N)等が挙げられる。
【0017】
上記極性溶媒と相互作用する官能基は、例えば、カルボキシル基又はその塩、水酸基、アミノ基、シアノ基、スルホン基、アミド基、イミド基又はその塩、硫酸エステル基又はその塩等、またこれらの官能基を含む糖、ペプチド等が挙げられる。具体的には、例えば、−NR、−NR’R、−NHR、−NH等のアミノ基や、−CR”R’R、−CR’R、−CR、−CHR、−CHR’R、−CHR、−CH、−SR、−SHが挙げられる。なお、上記R”、R’、Rは親水性の有機飽和化合物基を示す。
【0018】
上記親水性表面修飾剤は、例えば、2−メルカプトエタノール、4−メルカプト−1−ブタノール、3−メルカプト−2−ブタノール、1−メルカプト−2−プロパノール、3−メルカプト−1−プロパノール、3−メルカプトプロピオニック酸、メルカプトサクシニック酸、チオグリコーリック酸、カプトリル、1−チオグリコール、チオラクティック酸、2−メルカプトエタンスルホニック酸、3−メルカプトイソブチリック酸、チオマリック酸、3−メルカプトベンゾイック酸、2−メルカプトベンゾイルアルコール、2−メルカプトニコティック酸、6−メルカプトニコティック酸、2−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、4−メルカプトフェノール等が挙げられる。
上記親水性表面修飾剤は、例えば、下記一般式(1)で表される末端に炭素−炭素二重結合を有する官能基を含有する親水性化合物が挙げられる。
C=CH−(CHn−1−X (1)
式(1)中、Xは、親水性官能基を示し、nは、正の整数を示す。
【0019】
上記油性溶媒と相互作用する官能基は、例えば、アルキル基、フェニル基、複素環を含む官能基等が挙げられる。
【0020】
上記疎水性表面修飾剤は、例えば、オクチルアミン、ヘキセン、リモネン、ウンデセン酸メチル、オイエノール、ドデカンチオール等が挙げられる。上述のトリ−n−オクチルホスフィンオキシド(以下、TOPOと言う)も、疎水性表面修飾剤の1種である。
【0021】
上記表面修飾剤A、表面修飾剤Bは、これらの表面修飾剤の中から異なるものを選択して用いることができる。とりわけ、いずれかの一方を親水性表面修飾剤とし、他方を疎水性表面修飾剤とした場合には、本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法によって無機ナノ粒子の分散特性を著しく変化させることができる。例えば、上記表面修飾剤Aが疎水性表面修飾剤である場合には、表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子は油性溶媒に対して高い分散性を示す一方、極性溶媒に対しては安定して分散させることができない。そこで表面修飾剤Bとして親水性表面修飾剤を用いて本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法を適用すると、得られる表面修飾無機ナノ粒子は、親水性となり、極性溶媒に対する分散性が著しく改善されたものとなる。この場合、本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法の反応系には、両親媒性溶媒が添加される。
【0022】
上記両親媒性溶媒は、表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子を分散可能である溶媒であって、かつ表面修飾剤Bで修飾された無機ナノ粒子の分散性に優れる溶媒であれば、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の有機溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような両親媒性溶媒は、無機ナノ粒子表面の表面修飾剤Aに浸透し、表面修飾剤Bを無機ナノ粒子表面の近傍に存在せしめ、ピンチコックされたキャピラリー流路の通過により露出する無機ナノ粒子表面への表面修飾剤Bの結合を助ける。両親媒性溶媒は、また、TOPOのようにミセルを形成する系において、ミセルの内外を出入りして、ミセル内に表面修飾剤Bを移行させる役割を果す。
【0023】
上記表面修飾剤Bが親水性表面修飾剤である場合には、上記表面修飾剤Bで修飾された無機ナノ粒子の分散性が特に優れる溶媒は、表面修飾剤Bの水分散液中の電気泳動/レーザードップラー法により測定されたゼータ電位により安定pH領域を予見し、上記表面修飾剤Bで修飾された無機ナノ粒子の分散安定領域にあるようにpHを調整することにより調製することができる。
例えば、表面修飾剤BがN−[(S)−3−メルカプト−2−メチルプロピオニル]−L−プロリン(以下、慣用名に従い「カプトプリル」と呼ぶ)である場合、電気泳動/レーザードップラー法による測定結果からカプトプリルで修飾された無機ナノ粒子はpH9〜11の範囲でより安定に分散することが予測できる。
【0024】
上記分散液は、更に分散剤を含有してもよい。
上記分散剤は特に限定されず、例えば、コーティング作用を有する高分子化合物や、無機ナノ粒子表面の電価が等電点から外れるようにする低分子化合物が挙げられる。
上記コーティング作用を有する高分子化合物は、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、ゼラチン等が挙げられる。
上記無機ナノ粒子表面の電価が等電点から外れるようにする低分子化合物は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、塩酸、硫酸、炭酸等の酸又は塩基が挙げられる。
上記分散剤の配合量は、無機ナノ粒子の種類、粒子径、表面状態、濃度、温度により適宜決定することができる。
【0025】
上記分散液は、必要に応じて、バインダー、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、フリーラジカル捕捉剤、揮発成分除去剤、スリップ剤、重合阻害剤、光開始剤、光増感剤、消光剤、消泡剤、乳化剤、レオロジー調節添加剤(増粘剤)、難燃剤、防腐剤、タンパク質、ペプチド、核酸、リン酸塩等を含有してもよい。
【0026】
本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法では、上記表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子、表面修飾剤Aとは別の表面修飾剤B、及び、分散媒を含有する分散液をマイクロ流路に通液する。これにより、上記無機ナノ粒子上の表面修飾剤Aの一部又は全部が上記表面修飾剤Bに置き換えられる。また、ピンチコックされたキャピラリー流路を通液させることで、凝集した粒子の解砕も進むことから、粒子径の揃った表面修飾無機ナノ粒子を得ることもできる。
本明細書においてピンチコックされたキャピラリー流路とは、キャピラリー流路の途中に狭小部を設け、大きな圧力勾配が生じるようにした流路であって、該流路に通液させることで充分なせん断応力を試料に与えることができる流路を意味する。
【0027】
上記ピンチコックされたキャピラリー流路の最も狭い部分(即ち、ピンチコック部分)の幅は100μm未満であることが好ましい。上記ピンチコック部分の幅が100μm以上であると、充分なせん断応力がかからずに無機ナノ粒子の表面に結合している表面修飾剤Aが剥離しないことがある。上記ピンチコック部分の幅の下限は特に限定されないが、実質的には2nm程度が下限である。
【0028】
上記ピンチコックされたキャピラリー流路の上記ピンチコック部分の前後に接続されるキャピラリー流路部分の幅は特に限定されないが、0.5mm未満であることが好ましい。上記ピンチコックされたキャピラリー流路の上記ピンチコック部分の前後に接続されるキャピラリー流路部分の幅が0.5mm以上であると、上記ピンチコック部分の手前で液に滞留部分ができ、無機ナノ粒子表面の表面修飾剤Aが充分に表面修飾剤Bに置き換わらないことがある。また、一般にキャピラリー流路部分の幅が大きくなるにつれて、キャピラリー流路の耐圧が低くなる。キャピラリー流路部分の耐圧は40MPa以上あることが好ましい。
【0029】
上記分散液が通過する際のピンチコックされたキャピラリー流路の圧力の好ましい下限は、ゲージ圧力で1MPaである。ピンチコックされたキャピラリー流路のゲージ圧力が1MPa未満であると、充分なせん断応力を試料に与えることができずに、無機ナノ粒子表面の表面修飾剤Aが充分に表面修飾剤Bに置き換わらないことがある。上記ピンチコックされたキャピラリー流路のゲージ圧力のより好ましい下限は10MPa、より好ましい上限は1000MPaである。
【0030】
上記ピンチコック部分は、圧力に応答して流路幅を0nmを超えて100μm未満の範囲で自動的に調整する機構(以下、ピンチコック幅自動調整装置ともいう)を有することが好ましい。上記ピンチコック幅自動調整装置を有することで、無機ナノ粒子による目詰まりを防止できる。
上記ピンチコック幅自動調整装置による流路幅の自動調整の例を挙げると、1MPaの設定で5.2mL/min.の流量を流すとき、上記ピンチコック部分の幅は約64μmとなる。35MPaの設定で2.6mL/min.の流量を流すとき、上記ピンチコック部分の幅は約19μmとなる。
【0031】
上記ピンチコック幅自動調整装置は特に限定されず、図1に示すような外部から流路に力を加えることで流路幅を調整する装置、図2に示すような弁により流路幅を調整する装置等が挙げられる。弁座の構造としては、一般的なボール弁、ダイヤフラム弁、ニードル弁等、高圧バルブの当業者の公知の構造が利用できる。図2の(a)と(b)とでは、流れの向きが異なるが、いずれの装置もピンチコック幅自動調整装置として働く。上記ピンチコック幅自動調整装置には、圧力に応じてピンチコック幅を自動調整するサーボ機構が備えられていてもよい。上記ピンチコック幅自動調整装置のうち市販されているものとしては、例えば、AKICO社製「HPB−450」、TESCOM社製「26−1700シリーズ」等が挙げられる。
【0032】
本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法によれば、表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子の表面を原料として、表面修飾剤Aの一部又は全部を別の表面修飾剤Bで置換した表面修飾無機ナノ粒子を容易に製造することができる。特に、表面修飾剤Aが疎水性であり、かつ、表面修飾剤Bが親水性である場合のように、処理前後の親媒性が異なる場合において、その産業的利用価値が大きい。一般に、従来のコロイド化学的合成法により合成された無機ナノ粒子は、表面が疎水性表面修飾剤で修飾されており、水系媒体をはじめとする極性溶媒に安定して分散させることは難しいが、本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法によれば、コロイド化学的合成法により合成された無機ナノ粒子を原料にして、水系媒体に安定して分散できる親水性無機ナノ粒子をハイスループットかつ高収率で得ることができる。また、プラズマ還元により生産されたナノ粒子のように、明示的な表面修飾剤Aが存在しない原料に対しても、表面に溶媒和している溶媒分子を引き剥がし、表面修飾剤Bに置換することができる。無論、表面修飾剤Aと表面修飾剤Bとが共に疎水性もしくは共に親水性である場合においても、表面修飾剤の置換を行なうことができる。更には、凝集粒子の凝集を解き、ナノ粒子をひとつずつ分散させる効果もある。
【0033】
本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法により得られた表面修飾無機ナノ粒子は、例えば、被覆材料、接着剤、シール剤、コーティング剤、塗料、光成型品、接着フィルム、セルフサポーティングフィルム及び硬質フォームの製造用の硬化性材料、建築物、家具、電子部品、機械部品、中空ガラス製品、ジェットインク、導電性ペースト、導電性インク、導電性フィルム、太陽電池、医薬品等に広く用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ハイスループットかつ高収率に表面が修飾剤で修飾された無機ナノ粒子を製造できる表面修飾無機ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ピンチコック幅自動調整装置の一例を模式的に示す図である。
【図2】ピンチコック幅自動調整装置の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法にて用いる実験装置の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(1)無機ナノ粒子の作製
アルゴン雰囲気下、トリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO)(関東化学社製)7.5gに、ステアリン酸(関東化学社製)2.9g、n−テトラデシルホスホン酸(AVOCADO社製)620mg、及び、酸化カドミニウム(和光純薬工業社製)250mgを加え、370℃に加熱混合した。これを270℃まで自然冷却させた後、予めトリブチルフォスフィン(関東化学社製)2.5mLにセレン(STREM CHEMICAL社製)200mgを溶解させた溶液を加え、減圧乾燥し、TOPOで被覆されたCdSe微粒子を得た。
次いで、得られたCdSe微粒子に、TOPO15gを加えて加熱し、引き続き270℃でトリオクチルホスフィン(シグマアルドリッチ社製)10mLにジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(東京化成社製)1.1gを溶解した溶液を加え、表面にTOPOが固定された、CdSeのナノ結晶をコアとし、ZnSをシェルとする無機ナノ粒子(以下、TOPO修飾無機ナノ粒子ともいう)を得た。
なお、得られたTOPO修飾無機ナノ粒子は、トルエンやテトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒に分散可能であった。
【0038】
(2)マイクロ流路による表面修飾剤の置換
上記(1)で得られたTOPO修飾無機ナノ粒子5mgをTHF800μLに加えて分散させて、溶液1を調製した。
また、表面修飾剤Bとしてカプトプリル25mgをエタノール200μmに加えて溶解し、溶液2を調製した。
更に、精製水1mLに5Nの水酸化ナトリウム50μLを加えて、溶液3を調製した。
溶液3に溶液1と溶液2とを加えて混合し、分散液1を調製した。
【0039】
図3に示す実験装置において、AKICO社製「HPB−450」をマイクロ流路(ピンチコック幅自動調整装置)として、2.6mL/分の速度で分散液1を通液した。このときマイクロ流路内の圧力は35MPaであった。また、分散液1の温度は20℃であった。このとき、ピンチコック部分の幅は19μmを中心として圧力応答により自動調整されていた。
通液後の分散液をクロロホルム洗浄した後の粒径分布を、動的光散乱法による粒径測定装置(Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」)を用いて測定した。その結果、平均粒子径は27.2nm、粒子径の標準偏差σは0、CV値は0%、ピーク粒子径は15.7nmであった。
【0040】
通液後の分散液をクロロホルム洗浄した後、限外濾過膜(Millipore社製、「Amicon Ultra−4」)及びセファデックスカラム(Amersham Biosciences社製、「MicroSpin G−25Columns」)を用いて精製と濃縮とを行って、精製した無機ナノ粒子を得た。
得られた無機ナノ粒子について、ゼータ電位を、Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」を用いて電気泳動/レーザードップラー法により測定した。これにより、無機ナノ粒子の表面に修飾したカプトプリルのゼータ電位カーブと相互相関が高いゼータ電位カーブが見られた。
【0041】
(実施例2)
(1)無機ナノ粒子の作製
エタノール(7ml)にコール酸(818mg、2mmol)、炭酸銀(276mg、1mmol)、エタノールアミン(122mg、2mmol)及びオクチルアミン(259mg、2mmol)を加え、撹拌しながら1時間加熱還流して、赤茶色溶液を得た。
得られた赤茶色溶液を室温まで放冷し、アセトン(10ml)を添加し、静置した後、桐山ロートで濾過し、減圧下で乾燥させて、青色の銀ナノ粒子を得た。
得られた銀ナノ粒子は、ヘキサンに安定に分散し濃青色分散液となる。即ち、合成された銀ナノ粒子は、疎水性表面をもつ疎水性銀ナノ粒子であることを確認した。TEM写真観察より、得られた疎水性銀ナノ粒子は球状で平均粒子径は4.7±2.0nmであった。
【0042】
(2)マイクロ流路による表面修飾剤の置換
得られた疎水性銀ナノ粒子15mgを800μLのエタノールに分散させた。ここにエタノールに溶解させたカプトプリル(シグマアルドリッチ社製)25mgを加え、NaOH水溶液を加え、分散液2を調製した。
【0043】
図3に示す実験装置において、AKICO社製「HPB−450」をピンチコックされたキャピラリー流路(ピンチコック幅自動調整装置)として、2.6mL/分の速度で分散液2を通液した。このときピンチコックされたキャピラリー流路内の圧力は35MPaであった。全量の処理に要した時間は、約30分間であった。また、分散液2の温度は20℃であった。このとき、ピンチコック部分の幅は19μmを中心として圧力応答により自動調整されていた。
通液後の分散液をクロロホルム洗浄した後、限外濾過膜(Millipore社製、「Amicon Ultra−4」)及びセファデックスカラム(Amersham Biosciences社製、「MicroSpin G−25Columns」)を用いて精製と濃縮とを行って、精製した銀ナノ粒子を得た。収率は、45.4%であった。
【0044】
得られた銀ナノ粒子は、水に分散し、濃い赤ワイン色の分散液を与える。動的光散乱法による粒径測定装置(Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」)を用いて粒子径分布を測定した結果、平均粒子径は21.4nm、粒子径の標準偏差σは2.5、CV値は11.9%、ピーク粒子径は8.7nmであった。粒子径から、基本粒子が4個程度凝集した2次粒子となっていることが推定された。
得られた銀ナノ粒子について、ゼータ電位を、Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」を用いて、電気泳動/レーザードップラー法により測定した。銀ナノ粒子の表面に修飾したカプトプリルのゼータ電位カーブと相互相関が高いゼータ電位カーブがみられた。
【0045】
(参考例1)
実施例1と同様の方法により、TOPO修飾無機ナノ粒子を得た。
得られたTOPO修飾無機ナノ粒子20mgをTHF3.2mLに加えて分散させて分散液を調製した。
得られた分散液を85℃に加温し、そこにエタノールに溶解させたカプトプリル(シグマアルドリッチ社製)100mgを滴下させ、環流した。環流処理には85℃で12時間を要した。
後処理としてNaOH水溶液を加え、2時間、90℃で加熱してTHFを蒸発させて、無機ナノ粒子を得た。
【0046】
得られた未精製の無機ナノ粒子を、限外濾過(Millipore社製、「Amicon Ultra−4」)及びセファデックスカラム(Amersham Biosciences社製、「MicroSpin G−25Columns」)を用いて精製と濃縮とを行って、精製した無機ナノ粒子を得た。
得られた無機ナノ粒子について、ゼータ電位を、Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」を用いて、電気泳動/レーザードップラー法により測定した。銀ナノ粒子の表面に修飾したカプトプリルのゼータ電位カーブと相互相関が高いゼータ電位カーブがみられた。
【0047】
(参考例2)
実施例2と同様の方法により、青色の疎水性銀ナノ粒子を得た。
得られた疎水性銀ナノ粒子20mgをTHF3.2mLに加えて分散させて分散液を調製した。
得られた分散液を85℃に加温し、そこにエタノールに溶解させたカプトプリル(シグマアルドリッチ社製)100mgを滴下させ、環流した。環流処理には85℃で12時間を要した。
後処理としてNaOH水溶液を加え、2時間、90℃で加熱してTHFを蒸発させて、親水性銀ナノ粒子を得た。
【0048】
得られた未精製の無機ナノ粒子を、限外濾過膜(Millipore社製、「Amicon Ultra−4」)及びセファデックスカラム(Amersham Biosciences社製、「MicroSpin G−25Columns」)を用いて精製と濃縮とを行って、精製した親水性銀ナノ粒子を得た。収率は、19.2%であった。
得られた親水性銀ナノ粒子につき、ゼータ電位を、Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」を用いて、電気泳動/レーザードップラー法により測定した。銀ナノ粒子の表面に修飾したカプトプリルのゼータ電位カーブと相互相関が高いゼータ電位カーブがみられた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、簡便かつ容易に表面が修飾剤で修飾された無機ナノ粒子を製造できる表面修飾無機ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 粒子分散液用タンク
2 添加剤溶液用タンク
3 ポンプ
4 圧力ゲージ
5 ピンチコック幅自動調整装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子の表面を、前記表面修飾剤Aの一部又は全部に代えて前記表面修飾剤Aとは別の表面修飾剤Bで修飾する表面修飾無機ナノ粒子の製造方法であって、
前記表面修飾剤Aで修飾された無機ナノ粒子、表面修飾剤B、及び、溶媒を含有する分散液をピンチコックされたキャピラリー流路に通液する工程を有する
ことを特徴とする表面修飾無機ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
ピンチコックされたキャピラリー流路の最も狭い部分(ピンチコック部分)の幅が100μm未満であって、分散液が通過する際のピンチコックされたキャピラリー流路内のゲージ圧力を1MPa以上とすることを特徴とする請求項1記載の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
ピンチコックされたキャピラリー流路のピンチコック部分は、圧力に応答して流路幅を0nmを超えて100μm未満の範囲で自動的に調整する機構を有することを特徴とする請求項1又は2記載の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
表面修飾剤Aが疎水性表面修飾剤であり、表面修飾剤Bが親水性表面修飾剤であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
表面修飾剤Bが親水性表面修飾剤であって、表面修飾剤Bの水分散液中の電気泳動/レーザードップラー法により測定されたゼータ電位により表面修飾剤Bで修飾された表面修飾無機ナノ粒子が安定して分散するpH領域を予測し、該pH領域に調整された溶媒を用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の表面修飾無機ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−234367(P2010−234367A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53550(P2010−53550)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(502165942)
【Fターム(参考)】