説明

表面処理アルミニウム材、樹脂被覆アルミニウム材、およびそれらの製造方法

【課題】 有害なクロムを使用しないと共に低コストであり、リン酸クロメート処理による場合と同等以上の耐食性および樹脂被覆密着性を有するアルミニウムまたはその合金材を提供する。
【解決手段】 リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜の上に、シランカップリング層を設けた複合皮膜とする。化成皮膜の付着量がジルコニウム量として3〜20mg/m2、かつ化成皮膜中のリンに対するジルコニウムのモル比が0.6〜1.2であり、前記化成皮膜の最表面におけるバナジウムのモル分率が 2〜50%であるのが好ましく、また、シランカップリング層が、官能基としてアミノ基を有し、Si量として1〜20mg/mの付着量であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れた表面処理アルミニウム材と、それら表面に被覆した樹脂被覆層との密着性に優れた樹脂被覆アルミニウム材に関する。より詳細には、化成皮膜成分に6価及び3価のクロムを含まず、食品容器、家電、建材等の用途に好適な表面処理アルミニウム材に関する。なお、本明細書において、アルミニウム材とは、工業用純アルミニウム材だけでなく種々のアルミニウム合金材を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
近年では、食品容器や家電、建材用の樹脂被覆材料としてアルミニウム材が広く採用されるようになってきた。これは、アルミニウムが他の金属材料に比べてリサイクル性が高く、加工性や美観性に優れるためである。
【0003】
樹脂被覆アルミニウム材の下地処理としては、従来からリン酸クロメート処理もしくはクロム酸クロメート処理が使用されてきた。このクロメート系表面処理液により形成されるクロメート化成皮膜は、皮膜単独の耐食性に優れており、また各種樹脂被覆を施した後の密着性や耐食性にも優れる特徴を有している。しかしながら、近年では環境保護の観点からクロメート処理の際のクロム含有排水が環境汚染につながること、また、排水処理にもコストを要する欠点があること、さらには、食品関係の用途においては、6価クロムが人体に有害であること等から、クロメート系処理液の使用を廃止する必要が生じてきた。
【0004】
6価クロムを含有しない処理液、すなわちノンクロメート処理液としては、これまでにも種々の検討が行われている。例えば、特許文献1(特開平7-48677号公報)により開示されるリン酸イオンとジルコニウム化合物を含みpH2〜4を有し、更に500ppm以下の酸化剤と、フッ酸又はフッ化物の少なくとも1種をフッ素として2000ppm以下を含有する処理液で表面処理を行う方法、また、特許文献2(特開2003-155577号公報)により開示されるジルコニウム化合物、リン酸化合物、フッ酸、過酸化水素、及びバナジウムイオンを含む酸性水溶液により処理する方法等が提案されている。
【0005】
このようなノンクロメート処理液を用いて処理を行うと、アルミニウム合金表面にジルコニウム酸化物を主成分とし、さらにアルミニウム酸化物およびリン酸ジルコニウムとを含む化成皮膜が形成される。
【0006】
しかしこれら処理法は処理液中に6価クロムを含まない利点があるものの、処理条件によって皮膜組成が影響を受けてしまい、クロメート処理法に比べて耐食性や樹脂被覆層との密着性が劣ること等により、限定された用途にしか利用できないという欠点を有している。
【0007】
さらには、水溶性樹脂を用いて耐食性及び密着性を付与することを目的とする表面処理方法としては、特許文献3(特開2003-313676号公報)により開示される水溶性チタン及び/又はジルコニウム化合物とタンニン物質を含有する表面処理用組成物が提案されている。上記公報の表面処理用組成物による処理法では、水溶性タンニン物質が密着性能の向上に寄与するものの、このような有機-無機複合皮膜を用いた場合でも、耐食性が不充分であり、特に加工部や傷部の耐食性はクロメート処理法に比べて劣る。また一般的に、密着性の向上に寄与する有機高分子物質は、処理液中で加水分解もしくは脱水縮合反応によるゲル化が進行しやすいため、処理液の管理手法が困難である。さらには、ゲル化した有機高分子物質がロールを介して板表面に転写されると、表面品質に欠陥をもたらすため、好ましくない。
【特許文献1】特開平7-48677号公報
【特許文献2】特開2003-155577号公報
【特許文献3】特開2003-313676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の有する前記課題に鑑みてなされたものであって、有害なクロムを使用しないと共に低コストであり、リン酸クロメート処理による場合と同等以上の耐食性および樹脂被覆密着性を有するアルミニウムまたはその合金材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を検討した結果、化成処理において、化成皮膜の形成過程でアルミニウム酸化物が不可避的に形成されること、また、そのアルミニウム酸化物量は、化成処理液を構成する液組成物およびそれら濃度の影響を受けること、さらには、化成皮膜の最表面に存在するアルミニウム酸化物量が多いほど、耐食性の低下に影響を及ぼすことを見出した。そして、バナジウム化合物を含む化成皮膜層とすることでアルミニウム酸化物の成長を抑制するため耐食性が向上すること、またこの化成皮膜の上に官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤を塗布した複合皮膜とすることで、バナジウムを含む化成皮膜層とアミノ基を有するシランカップリング剤が強固に結合し、樹脂被覆層との密着性に優れた表面処理アルミニウム材が得られることを見出した。
【0010】
具体的には、請求項1記載の発明は、リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜とその化成皮膜の上にシランカップリング層とからなる複合皮膜を有することを特徴とする表面処理アルミニウム材である。
【0011】
請求項2記載の発明は、リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜において、化成皮膜の付着量がジルコニウム量として3〜20mg/m2、かつ化成皮膜中のリンに対するジルコニウムのモル比が0.6〜1.2であり、前記化成皮膜の最表面におけるバナジウムのモル分率が 2〜50%であることを特徴とする請求項1記載の表面処理アルミニウム材である。
【0012】
請求項3記載の発明は、シランカップリング皮膜が、官能基としてアミノ基を有し、Si量として1〜20mg/mの付着量であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理アルミニウム材である。
【0013】
請求項4記載の発明は、アルミニウム材を、水溶性フルオロジルコニウム錯化合物、水溶性リン酸化合物、及び水溶性バナジウム化合物を含有したノンクロム金属表面処理剤を用いて処理することにより、リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜の上に、シランカップリング剤を塗布することによって複合皮膜を設けることを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法である。
【0014】
請求項5記載の発明は、水溶性バナジウム化合物が、バナジウムの酸化数として3〜5価である無機及び有機バナジウム化合物の群から選択される少なくとも1種の水溶性バナジウム化合物であることを特徴とする請求項4記載の表面処理アルミニウム材の製造方法である。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1〜3記載のアルミニウム材の表面に、合成樹脂フィルムが被覆されていることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材である。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項4〜5記載の工程の後、複合皮膜の表面に合成樹脂フィルムを被覆することを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材の製造方法である。
【0017】
なお、本発明において、最表面とはオージェ電子分光分析のデプスプロファイルにおいて、深さ方向分析の測定を開始してから3nmを越えない分析表面をいう。
【発明の効果】
【0018】
リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜の皮膜組成を規定することによって、優れた耐食性を付与することができる。次いで、後処理として塗布するシランカップリング剤の官能基および塗布量を規定することによって、樹脂被覆層との密着性を付与することができる。すなわち、従来技術では得られなかった極めて良好な表面処理アルミニウム材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
A.化成皮膜の形成
従来まで、アルミニウムまたはその合金表面に前述したリン酸ジルコニウム系ノンクロメート処理を施した場合、その化成皮膜の構造は、アルミニウム基材と化成皮膜の界面にアルミニウムのフッ化物、酸化物、オキシ水酸化物等からなるアルミニウム酸化皮膜が存在し、その上にジルコニウムのリン酸塩、水酸化物、酸化物及びそれらの水和物等からなる化成皮膜が形成されるといったモデルが提唱されてきた。
【0020】
発明者らはオージェ電子分光分析、二次イオン質量分析による解析機器を用い、従来法によって形成される化成処理皮膜の深さ方向の元素分析、いわゆるデプスプロファイルを詳細に調べた結果、化成皮膜及び酸化皮膜の主要成分は、深さ方向において均一な構造あるいはいくつかの物質からなる層状構造をとらず、深さ方向でそれら元素濃度が連続的に変化するといった、いわゆる傾斜構造を有していることを確認した。
【0021】
すなわち、アルミニウムまたはその合金表面に形成される化成皮膜は、それらアルミニウム基材素地から表層方向に向かうに従い、化成皮膜成分(ジルコニウムおよびリン)の増加に伴ってアルミニウム酸化皮膜成分が増加し、次いでアルミニウム基材成分の減少に伴ってアルミニウム酸化皮膜成分が極大値を示したのち減少するような傾斜構造を有しており、また化成皮膜の最表面では、化成皮膜成分と同時に、アルミニウム酸化皮膜成分の存在が確認された。
【0022】
しかし、化成皮膜表層に存在するアルミニウム酸化物は、化成皮膜の耐食性に影響を及ぼし、アルミニウム酸化物が多いほど耐食性は悪化する。したがって、良好な化成皮膜を得るためには、化成処理条件もしくは化成処理液組成物の濃度等を厳密に制御して行なう必要がある。従来までのジルコニウムまたはチタンもしくはこれらの混合物とリン酸塩とフッ化物を含む処理液にて処理する方法では、アルミニウム酸化物を抑制した化成皮膜を得ることは困難であった。
【0023】
ここで、発明者らはこのような傾斜構造及び皮膜組成、さらには化成皮膜の最表面に形成されるアルミニウム酸化物が、化成処理液を構成する液組成物およびそれらの濃度による影響を受けやすいことを見出した。つまり、水溶性ジルコニウムフルオロ錯体を主成分としてオルトリン酸化合物及びフッ素化合物、さらに水溶性バナジウム化合物からなる混合水溶液を用いてスプレー法にて化成処理を施すと、アルミニウムまたはその合金の表面に形成される固体-液体界面での化学反応が傾斜構造や皮膜組成に大きく影響し、皮膜中のリンに対するジルコニウムのモル比を任意に調整することが可能となる。
【0024】
さらに、前記処理液組成物による水溶性バナジウム化合物の添加により、化成皮膜最表面での化成皮膜成分に対するアルミニウム酸化物のモル分率を制御することが可能となる。ジルコニウム系処理による化成処理の場合、アルミニウム酸化物は、ジルコニウム系化成皮膜の生成過程におけるエッチング反応により、素地から溶出したアルミニウムイオンが処理液中のアニオンとともに不溶性の塩を形成することによって成長する。処理液にバナジウムなどの多価金属イオンが存在すると、それら金属イオンがジルコニウムイオン等のカチオンに代わって、PO4やF等のアニオンと結合し、アルミニウムイオンよりも優先的にアニオン(PO4やF等)と不溶性の塩を形成するため、アルミニウム酸化物の成長を抑制することが可能となり、耐食性に優れた化成皮膜を得ることができる。
【0025】
B.後処理;シランカップリング剤
前記化成皮膜形成後には、後処理としてシランカップリング剤を塗布する。本発明で用いるシランカップリング剤は、官能基としてアミノ基を有する、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、およびそれらからの誘導体より成るアミノ系シラン化合物のうちの一種以上から選択される。これらより選択されるシランカップリング剤は、化成皮膜と樹脂被覆層との双方に対して密着性が良好なため、後処理として前記記載のアミノ系シランカップリング剤を塗布することで、樹脂被覆層との密着性にも優れた複合皮膜を形成することができる。ここで、前記記載のアミノ系シランカップリング剤は、本発明によるバナジウムを含む化成皮膜層と強固に結合する。これは、化成皮膜の表層に取り込まれたバナジウムイオンが、その電子構造の3d軌道に空軌道を有しており、その空軌道とシランカップリング剤を構成するアミノ基との間に、配位結合が形成されるためである。したがって、本発明による複合皮膜においては、従来までの、バナジウムを含まないジルコニウム系化成皮膜に比べ、強固な結合が得られる。
【0026】
C.樹脂被覆アルミニウム材
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材は、上記複合皮膜が形成された表面処理アルミニウム材の表面に樹脂フィルムによる被覆膜を形成することによって製造される。樹脂フィルムとしては、アルミニウム基材に対して熱接着性を示すものであればよく、樹脂被覆アルミニウム材に要求される各種特性に応じて種々の特性を有する樹脂フィルムを選択することが可能である。このような樹脂フィルムの一例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン6、ナイロン11、ポリカーボネート、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂フィルムが好適に用いられる。熱可塑性樹脂フィルムを形成するには、アルミニウム基材を高周波誘導加熱、直火加熱等によって加熱し、これに熱可塑性樹脂フィルムを押圧する方法や、樹脂を押出コートによってアルミニウム基材表面に熱接着する方法等が用いられる。これらの方法は公知のものであり、目的、用途等に合わせて適宜選択することができる。なお、アルミニウム基材表面には、リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としたバナジウム化合物を含む化成皮膜の上に、シランカップリング層を設けた複合皮膜が形成されており、シランカップリング層に官能基として含まれるアミノ基が熱可塑性樹脂フィルムと強固な密着をなすため、従来までのような、熱可塑性フィルム表面又はアルミニウム化成処理表面に接着プライマーを設ける必要がない。
【0027】
D.表面処理アルミニウム材
以下、本発明の内容を詳細に説明する。本発明の表面処理アルミニウム材は、アルミニウムまたはその合金を化成処理し、表面に化成皮膜を形成することによって得られる。化成皮膜は、水溶性フルオロジルコニウム錯化合物、水溶性リン酸化合物、及び水溶性バナジウム化合物を含有したノンクロメート化成処理液を用いて、基材表面を化成処理することによって得られる。ここで、水溶性フルオロジルコニウム錯化合物としては、ジルコニウムフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化アンモニウム、ジルコニウムフッ化カリウム等が適用される。水溶性リン酸化合物としては、オルトリン酸化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、縮合リン酸化合物を用いるのが好ましい。また、水溶性バナジウム化合物としては、3〜5価のバナジウムイオンが好ましく、メタバナジン酸、オルトバナジン酸およびそれらナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、または硫酸バナジウム、硫酸バナジール、硝酸バナジウム、酢酸バナジウム等の無機バナジウム化合物や、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート等の有機バナジウム錯化合物より選択される。3〜5価のバナジウムイオンは、その電子構造の3d軌道に空軌道を有しているため、その空軌道とシランカップリング剤を構成するアミノ基との間に、より強固な結合が得られる。
【0028】
水溶性フルオロジルコニウム錯化合物、水溶性リン酸化合物、及び水溶性バナジウム化合物を含有したノンクロメート化成処理液によって形成される化成皮膜は、前述のように、ジルコニウム、リン、そしてバナジウムを含む複合化成皮膜であり、フルオロジルコニウム錯化合物およびリン酸化合物は基材表面に酸化物あるいはフッ化物の状態で析出し、さらに同時に析出したバナジウム化合物との間で形成される複合層である。また、バナジウムはアルミニウムイオンよりも優先的にアニオン(PO4やF等)と不溶性の塩を形成するため、アルミニウム酸化物の成長を抑制することが可能となる。さらに、バナジウムは基材であるアルミニウム合金との間で生じる酸化還元反応により、化成皮膜に生じた欠陥部を補修する機能を有することから、耐食性の向上に寄与する。
【0029】
本発明において、化成皮膜の付着量はジルコニウム量として3〜20mg/m2の場合が良く、より好ましくは8〜16mg/m2の範囲である。3mg/m2未満では化成皮膜層の皮膜厚さが薄いため、耐食性が充分でなくなると同時に、沸水黒変性や沸水溶出性といった化成皮膜性能の面で問題点が生じてしまう。また、20mg/m2を超える場合は化成皮膜が割れやすくなるため、耐食性が劣ってしまう。
【0030】
また、皮膜中のリンに対するジルコニウムのモル比は0.6〜1.2が良く、0.6未満では、沸水黒変性や沸水溶出性といった化成皮膜性能の面で劣り、1.2以上では、後処理として塗布するシランカップリング剤との密着性が低下してしまうため、好ましくない。なお、ジルコニウムやリン量は蛍光X線分析装置を用いて測定する。また、バナジウムの皮膜成分のモル分率は、オージェ電子分光分析におけるバナジウム強度から求めたモル分率をいう。
【0031】
さらに、化成皮膜の最表面では、水溶性バナジウム化合物に起因するバナジウムのモル分率が化成皮膜に対して、2〜50%となるように化成処理剤を調整する。処理剤中に存在するバナジウムは、アルミニウムイオンよりも優先的にアニオン(PO4やF等)と不溶性の塩を形成するため、塗膜性能に悪影響を及ぼすアルミニウム酸化物の成長を抑制することが可能となる。バナジウムのモル分率が2%未満では、アルミニウム酸化物の形成を充分抑制できず、また、化成皮膜の欠陥部に対する補修作用が得られないため、満足のゆく耐食性が得られない。一方、バナジウムのモル分率が50%以上となる場合には、バナジウム成分がジルコニウム皮膜の形成を阻害するため、好ましくない。通常、上述したバナジウムのモル分率を得るためには、化成処理液中にバナジウム金属濃度として、25〜500ppmとなるように処理液を調整することが好ましい。
【0032】
なお、上記化成処理液による化成処理方法としては、スプレー法、浸漬法等が挙げられるが、本発明においては、特に処理方法を制限する必要はない。また化成処理後の乾燥条件においても、特に制限されるものではないが、後処理としてシランカップリング剤を塗布することを考慮すると、最低限、化成処理板を乾燥し、水分を除去しておくことが好ましい。一般には、乾燥温度60〜150℃、乾燥時間2〜10秒の範囲内が好適である。
【0033】
また、本発明の表面処理アルミニウム材は、上記化成処理を施した後に、後処理としてシランカップリング剤を塗布する。用いるシランカップリング剤種は上述したアミノ系シランカップリング剤のうちの一種以上から選択される。シランカップリング剤は、水や溶剤等により、適宜希釈して用いることが出来る。また、シランカップリング剤の塗布方法としては、一般に、ロールコート法、バーコート法等が挙げられるが、特に塗布方法を制限するものではない。シランカップリング剤の塗布量は、乾燥後におけるシランカップリング層の付着量がSi換算で、すなわち、乾燥後におけるシランカップリング層中に存在するSi量として1〜20mg/mとなるようにする。このような塗布量とすることにより、良好な均一性をもった皮膜が形成される。更に、このような塗布量とすることにより、圧延目などによってアルミニウム基材表面に凹凸が存在していても、安定して良好な密着性が発揮される。上記シランカップリング層のSi量が1mg/m未満であると、酸性洗浄後のアルミニウム基材表面全体を被覆するシランカップリング皮膜を形成することができない。一方、上記シランカップリング層のSi量が20mg/mを超えると、シランカップリング皮膜で完全に被覆することが可能であるが、シランカップリング層内部で凝集破壊が生じるため、密着性の低下を招くことになる。また、塗布後の乾燥条件としては、80〜250℃、2〜10秒、より好ましくは、120〜180℃、4〜8秒施す。この乾燥を施すことによって、シランカップリング剤の脱水縮合反応を促進することが可能となり、より密着性に優れた複合皮膜を形成することが可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下に記載の例に限定されるものではない。
【0035】
本実施例では、アルミニウム材としてJIS−A3004合金について検討しており、以下の通り、鋳造・加工および調質を行なった。
A3004合金をDC鋳造法により鋳造し、均質化処理後、熱間圧延を行ない、焼鈍処理した後、冷間圧延により板厚を0.30mmとした。
【0036】
この合金板を、日本ペイント社製サーフクリーナーEC370の2質量%水溶液で60℃、5秒の脱脂処理を行ない、水洗後に、日本ペイント社製サーフクリーナー420N−2の3質量%水溶液で60℃、10秒のエッチング処理を行ない、水洗後、次いで2質量%硫酸酸性水溶液にて50℃、3秒のスマット処理を行ない、水洗後、化成処理を50℃、4秒行なった。化成処理は、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム;0.15質量%を主成分として、リン酸;0.15質量%、バナジン酸ナトリウム;0〜1000ppmとなるように調整された化成処理液を用い、上記合金板を化成処理した。化成処理方法としては、スプレー法を採用し、50℃、4秒の処理を施した。
【0037】
上記化成処理後、水洗、乾燥を行ない、後処理としてシランカップリング剤を塗布した塗布方法としては、バーコート方式を採用した。これら処理内容の詳細を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
上記処理により、複合皮膜を形成した後、樹脂フィルムに対する密着性試験を実施するために、膜厚15μmの帝人デュポン社製PET系フィルムを250℃にて熱圧着し、ラミネート被覆板を作成した。
【0040】
なお、化成処理板および樹脂被覆板の評価方法は以下の通りとした。
1) ジルコニウムおよびリン量
化成処理板の化成皮膜中のジルコニウム及びリン量を蛍光エックス線分析により測定した。リンに対するジルコニウムのモル比は、得られた皮膜量から算出した。
【0041】
2)アルミニウム酸化皮膜成分及び炭素モル分率
化成処理板の皮膜組成をオージェ電子分光分析により測定した。測定元素は皮膜等の主要構成元素であるアルミニウム、酸化アルミニウム、バナジウム、酸素、リン、ジルコニウムを対象に分析を行った。
アルミニウム酸化皮膜成分およびバナジウムの皮膜成分のモル分率は、オージェ電子分光分析において酸化したアルミニウムに起因したオージェ電子の強度およびバナジウム強度から求めたモル分率をいう。なお、アルミニウム酸化皮膜中のアルミニウム原子は+3価の状態で存在しており、金属アルミニウムとは異なるエネルギー準位を有していることから、それらを識別して検出することが可能である。
【0042】
3)耐食性
カッターを用いて樹脂被覆にアルミニウム基材まで到達する傷を入れ、0.5wt%食塩及び1%クエン酸の混合水溶液に70℃にて72時間浸漬後、傷部の腐食ないし樹脂被覆剥離幅を測定し、その幅で評価を行った。
剥離幅 0.3mm未満 ◎
剥離幅 0.3mm以上0.5mm未満 ○
剥離幅 0.5mm以上 ×
【0043】
4)剥離密着性(フェザリング性);
樹脂被覆板を缶蓋成形し、125℃にて30分のレトルト処理を施した。その後、タブを引っ張った後の開口部におけるフィルム残存幅を測定した。
残存幅 0.4mm未満 ◎
残存幅 0.4mm以上0.7mm未満 ○
残存幅 0.7mm以上 ×
【0044】
以上、実施例1〜9および比較例1〜7による化成皮膜の組成解析および密着性能評価結果を、表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例1〜9では、ジルコニウム皮膜量、Zr/Pモル比、バナジウムのモル分率、またSi量において、本発明による所望の複合化成皮膜が得られており、樹脂被覆性能に対しても良好な結果が得られた。
【0047】
一方、比較例1〜2に示した、化成処理液中にバナジウムを含まない場合、また、比較例3〜4に示したバナジウム添加量が少ない場合、さらには比較例5〜6に示したバナジウム添加量が多い場合では、化成皮膜中のバナジウムのモル分率が所望の範囲から逸脱しており、耐食性に劣る結果となった。比較例2、比較例4、比較例6に示すように、シランカップリング剤種としてアミノ系シラン以外のものを塗布した場合、密着性に劣る結果となった。比較例7に示すように、2価のバナジウムを使用した場合は、アミノ系シランを塗布しても、耐食性と密着性が劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜とその化成皮膜の上にシランカップリング層とからなる複合皮膜を有することを特徴とする表面処理アルミニウム材。
【請求項2】
リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜において、化成皮膜の付着量がジルコニウム量として3〜20mg/m2、かつ化成皮膜中のリンに対するジルコニウムのモル比が0.6〜1.2であり、前記化成皮膜の最表面におけるバナジウムのモル分率が 2〜50%であることを特徴とする請求項1記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項3】
シランカップリング皮膜が、官能基としてアミノ基を有し、Si量として1〜20mg/mの付着量であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理アルミニウム材。
【請求項4】
アルミニウム材を、水溶性フルオロジルコニウム錯化合物、水溶性リン酸化合物、及び水溶性バナジウム化合物を含有したノンクロム金属表面処理剤を用いて処理することにより、リン酸ジルコニウム化合物を主要成分としバナジウム化合物を含む化成皮膜の上に、シランカップリング剤を塗布することによって複合皮膜を設けることを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項5】
水溶性バナジウム化合物が、バナジウムの酸化数として3〜5価である無機及び有機バナジウム化合物の群から選択される少なくとも1種の水溶性バナジウム化合物であることを特徴とする請求項4記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3記載のアルミニウム材の表面に、合成樹脂フィルムが被覆されていることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材。
【請求項7】
請求項4〜5記載の工程の後、複合皮膜の表面に合成樹脂フィルムを被覆することを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材の製造方法。

【公開番号】特開2008−174798(P2008−174798A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9660(P2007−9660)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】