説明

表面処理方法

【課題】ポリエステル基板の表面を大気圧プラズマ処理により表面処理する際に、表面処理からの時間経過によって、基板表面にオリゴマーが泣き出しすることを防止することにより、基板と機能膜との密着性を向上させることができる高品質な表面処理を、効率よく連続的に行なうことができる表面処理方法を提供する。
【解決手段】前記基板に大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう大気圧プラズマ工程と、前記大気圧プラズマ工程の前に、前記基板の表面温度をガラス転移温度Tg超に加熱する加熱工程とを有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマを用いて基材の表面処理を行なう表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイなどの表示装置、光学素子、半導体装置、または薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタ、反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。
このような機能性フィルムは、一般に、ポリエステル等で形成された基板(基材、支持体)の表面に、塗布や、スパッタリング、プラズマCVD等の真空成膜法により、機能膜を形成することで製造されている。
【0003】
このような機能性フィルムは、例えば、液晶ディスプレイ等のように、長時間加熱される状況で使用されることがあるが、長時間加熱されると、機能膜が基板から剥がれるおそれがある。また、機能性フィルムの用途によっては、フッ素系の樹脂のように基板との密着性が良くない機能膜を基板上に形成する必要がある。
このように、基板と機能膜との密着性が問題となる場合に、密着性を向上させる方法として、機能膜を形成する前に、基板の表面を大気圧プラズマ処理により表面処理する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、結晶化度80%以下のポリエステル基板(支持体)を連続搬送しつつ、基板の少なくとも1面を、500〜800Torrの気圧下でガス中放電プラズマ処理する際、導入する不活性ガスの50圧力%以上をアルゴンガスとし、且つ50W・min/m以上500W・min/m未満で処理を施すことにより、表面処理を行なうことが記載されている。また、同文献には、プラズマ処理を行なう前に、基板の巻き癖を低減するために、基板を、ポリエステルのガラス転移温度Tg(K)の−30〜0%の温度範囲に加熱することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、対向する一対の電極の少なくとも一方の対向面に、比誘電率が10以上(25℃環境下)の固体誘電体を設置し、一方の電極と該固体誘電体又は該固体誘電体同士の間に基板(基材)を配置し、大気圧近傍の圧力下で、当該一対の電極間に、電界強度が1〜40kV/cmかつパルス幅が100〜800μsであるパルス化された電界を印加することにより発生させた放電プラズマによって基板表面を処理することにより、表面処理を行なうことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3765190号公報
【特許文献2】特許3288228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、本発明者らの検討によれば、ポリエステルを基板として用いる場合、基板表面に存在するオリゴマーが原因で、基板と機能膜との密着性が低下することがわかった。
これに対して、特許文献1および2のように、大気圧プラズマ処理による表面処理を行なうことにより、基板の表面に存在するオリゴマーを分解することができ、これにより、基板と機能膜との密着性を向上させることができる。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献2のように、単に大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう方法や、特許文献1のように、大気圧プラズマ処理の前に、ガラス転移温度Tg以下に加熱してから大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう方法では、処理時に基板表面に存在するオリゴマーは除去できるものの、経時により、基板表面近傍の内部に存在するオリゴマーが基板の表面に泣き出してしまうことがわかった。すなわち、大気圧プラズマ処理による表面処理で、基板と機能膜との密着性は、一時的に向上するものの、経時により、基板と機能膜との密着性が低下してしまう。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、ポリエステル基板の表面を大気圧プラズマ処理により表面処理する際に、表面処理からの時間経過によって、基板表面にオリゴマーが泣き出すことを防止することにより、基板と機能膜との密着性を向上させることができる高品質な表面処理を、効率よく連続的に行なうことができる表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、長尺なポリエステル基板を長手方向に搬送しつつ、前記基板に、大気圧プラズマ処理を行なう表面処理方法において、前記基板に大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう大気圧プラズマ工程と、前記大気圧プラズマ工程の前に、前記基板の少なくとも1方の面の表面温度をガラス転移温度Tg超に加熱する加熱工程とを有することを特徴とする表面処理方法を提供するものである。
【0011】
ここで、前記大気圧プラズマ工程の処理強度が3kJ/m以上、電力密度が40kV/cm以上であることが好ましい。
また、前記大気圧プラズマ工程において、電極対と電源との間に、インピーダンス整合回路とパルス制御素子とを配置して大気圧プラズマ処理を行なうことが好ましい。
さらに、前記パルス制御素子は、前記電源が電極間に電圧を印加した際に、その半周期中に、少なくとも1つの電圧パルスを生成し、この電圧パルスの生成によって、電極間に変位電流パルスを生じさせるものであることが好ましい。
また、前記パルス制御素子が少なくとも1つのチョークコイルを含むことが好ましい。
【0012】
また、前記加熱工程における前記基板の加熱時間が0.5〜300秒であることが好ましい。
また、前記加熱工程において、前記基板の表面温度をTg+0℃〜Tg+40℃に加熱することが好ましい。
また、前記加熱工程における前記基板の加熱方法が、加熱乾燥風の吹付けであることが好ましい。
あるいは、前記加熱工程における前記基板の加熱方法が、接触式の加熱ロールまたは非接触式のヒーターによるものであることが好ましい。
【0013】
また、前記大気圧プラズマ工程の後に、前記基板の冷却工程を有することが好ましい。
また、前記冷却工程における前記基板の冷却方法が、冷風の吹付けであることが好ましい。
あるいは、前記冷却工程における前記基板の冷却方法が、接触式の冷却ロールによるものであることが好ましい。
【0014】
また、前記大気圧プラズマ工程の後に、前記基板上に易接着層を形成するための塗布工程を有することが好ましい。
また、前記大気圧プラズマ工程において、プラズマ処理用のガスが、窒素ガスを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長尺なポリエステル基板を長手方向に搬送しつつ、基板に、大気圧プラズマ処理を行なう際に、大気圧プラズマ工程の前に、基板の少なくとも1方の面の表面温度をガラス転移温度Tg超に加熱する加熱工程を有することにより、大気圧プラズマ処理による表面処理から時間が経過しても、基板の表面にオリゴマーが泣き出すことを防止することができ、これにより、基板と機能膜との密着性を向上させることができる高品質な表面処理を、効率よく連続的に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の表面処理方法を実施する表面処理装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】図1に示す表面処理装置のプラズマ処理部を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の表面処理方法について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0018】
図1に、本発明の表面処理方法を実施する表面処理装置の一例を概念的に示す。
図1に示す表面処理装置10は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、基板Zの表面に、大気圧プラズマ処理による表面処理をすることができる装置である。
【0019】
また、表面処理装置10は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール14から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつ表面処理を行なって、表面処理をした基板Zをロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
また、表面処理装置10は、基板Zの搬送方向の下流側に、塗布部22が配置されており、表面処理後の基板Zに機能膜を形成するものである。
この表面処理装置10は、回転軸12と、熱処理手段16と、プラズマ処理部18と、塗布部22と、巻取り軸30とを有する。
【0020】
なお、本発明において、基板Zは、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムなどのポリエステルで形成された長尺なフィルム状物である。
【0021】
表面処理装置10においては、長尺な基板Zは、基板ロール14から供給され、所定の搬送経路を長手方向に搬送されつつ、熱処理手段16により熱処理され、プラズマ処理部18において、表面処理され、塗布部22において、機能膜を形成され、次いで、巻取り軸30に巻き取られる(ロール状に巻回される)。
【0022】
熱処理手段16は、表面処理装置10において、プラズマ処理部18による表面処理の前に、基板Zの表面を基板Z(ポリエステル)のガラス転移温度Tg超に加熱するものである。
図示例においては、熱処理手段16は、基板Zの両面に熱風を吹付けて、基板Zの表面をTg超の温度に加熱する。
熱処理手段16によって、加熱処理された基板Zは、プラズマ処理部18に送られる。
【0023】
基板Zを、後述する大気圧プラズマ処理によって表面処理する前に、ガラス転移温度Tg超に加熱することにより、基板Zの表面近傍の内部に存在するオリゴマー(以下、「内部オリゴマー」という)を、表面に泣き出させることができる。内部オリゴマーを基板Zの表面に泣き出しさせてから、大気圧プラズマ処理による表面処理を行なうことにより、表面処理からの時間経過によって、内部オリゴマーが基板Z表面に泣き出すことを防止でき、基板Zと機能膜との密着性が低下することを防止することができる。
この点に関しては、後に詳述する。
【0024】
ここで、熱処理手段16が、基板Zを加熱する時間は、0.5〜300秒間が好ましい。
加熱時間を0.5秒以上とすることにより、内部オリゴマーを、十分、表面に泣き出させることができ、乾燥手段52等の後工程での加熱によるオリゴマー泣き出しを抑制することができる。また、加熱時間を300秒以下とすることにより、熱により基板Zがダメージを受けることを防止することができ、ベースが伸びてしまうことを防げる。
【0025】
また、基板Zの加熱温度は、Tg+0℃〜Tg+40℃がより好ましい。基板Zの加熱温度をこの範囲とすることにより、より好適に内部オリゴマーを基板Z表面に泣き出させることができ、密着性の低下を抑制できる。
なお、基板Zの加熱温度は、ポリエステルの軟化点Ts未満である。
【0026】
また、図示例においては、熱処理手段16は、熱風を吹付けることにより基板Zを加熱するものとしたが、本発明は、これに限定はされず、種々の公知の加熱手段を用いることができ、好ましくは、接触式の加熱ロール、非接触のヒーターを用いることができる。
【0027】
熱処理手段16によって熱処理された基板Zは、プラズマ処理部18に搬送される。
プラズマ処理部18は、大気圧プラズマ処理により、熱処理された基板Zを表面処理する部位である。
図2は、表面処理装置10のプラズマ処理部18を概念的に示す図である。図2に示すように、プラズマ処理部18は、高電圧電極36と、グランド電極38と、電源40と、マッチング回路42とを有している。
【0028】
高電圧電極36およびグランド電極38は、大気圧プラズマを生成するための電極対34を成すものである。
高電圧電極36およびグランド電極38は、大気圧プラズマ処理装置等に利用される公知のもので、例えば、ステンレス製の板状の部材で、互いに対面する面を誘電体(絶縁体)で覆われている。
【0029】
高電圧電極36およびグランド電極38は、所定の経路を搬送される基板Zを挟むように所定距離離間して、基板Zに平行に配置される。また、高電圧電極36およびグランド電極38との間には、プラズマ処理用のガスG(以下、「プラズマガスG」という)がガス供給手段(図示せず)から供給される。すなわち、高電圧電極36およびグランド電極38との間が、プラズマが生成される空間である。
【0030】
表面処理装置10においては、高電圧電極36およびグランド電極38との間にプラズマガスGが供給され、プラズマ生成用の電力(プラスマ励起電力)が高電圧電極36およびグランド電極38との間に印加されて、両電極の間でプラズマが生成される。このプラズマによって、高電圧電極36およびグランド電極38との間を搬送される基板Zの表面が表面処理される。
【0031】
特許文献1および2のように、基板に、大気圧プラズマ処理による表面処理を行なうことにより、基板と、基板に形成した機能膜との密着性を向上させることができる。
しかしながら、単に、基板に、大気圧プラズマ処理による表面処理を行なうのみでは、必ずしも十分な密着性を得ることはできなかった。
【0032】
本発明者らの検討によれば、前述のとおり、ポリエステルを基板として用いる場合、基板表面に存在するオリゴマーが原因で、基板と機能膜との密着性が低下することがわかった。
また、特許文献2のように、単に大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう方法や、特許文献1のように、大気圧プラズマ処理の前に、ガラス転移温度Tg以下に加熱してから大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう方法では、大気圧プラズマ処理による表面処理によって、基板表面に存在するオリゴマーは分解することができるものの、表面処理からの時間経過に伴い、基板Z表面の内部に存在する内部オリゴマーが、基板Z表面に泣き出してくることがわかった。
そのため、表面処理を行なってから、基板Zの表面に機能膜を形成した場合でも、浮き出てきた内部オリゴマーの影響によって、基板Zと機能膜との密着性が、時間の経過と共に、低下してしまうことがわかった。
【0033】
これに対して、本発明の表面処理方法は、このように、長尺なポリエステル基板を長手方向に搬送しつつ、基板に大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう際に、表面処理の前に、Tg超に加熱することにより、内部オリゴマーを基板Zの表面に泣き出しさせる。
基板ZをTg超に加熱し、内部オリゴマーを基板Zの表面に泣き出させてから、表面処理を行なうことによって、元々、基板Zの表面に存在するオリゴマーのみならず、基板Zの表面に泣き出しした内部オリゴマーも分解することができる。すなわち、基板Zの表面近傍の内部に存在する内部オリゴマーの数を少なくすることができる。
基板Zと機能膜との密着性を阻害する基板Z表面のオリゴマーを分解することで、表面処理後の基板Zに機能膜を形成した際に、基板Zと機能膜との密着性を向上させることができる。
また、表面処理の前に基板ZをTg超に加熱することにより、表面処理から時間が経過しても、基板Zの表面に内部オリゴマーが浮き出てくることを抑制することができる。従って、この基板Zに機能膜を形成した場合に、時間経過によって泣き出してくる内部オリゴマーが原因で、基板Zと機能膜との密着性が低下することを防止することができる。
【0034】
ここで、プラズマガスGとしては、要求される表面処理に応じて、公知のガスを利用すればよい。例えば、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等を単体あるいは複数組み合わせて用いることができる。なお、コスト低減と処理性能の両立の実現等の理由により、窒素ガスを用いることが好ましい。
【0035】
電源40は、大気圧でプラズマを生成するために、電極対34(グランド電極38と高電圧電極36との間)に電圧を印可(プラズマ生成用の電力(プラズマ励起電力)を供給)する電源である。
本発明において、電源40には、特に限定はなく、大気圧プラズマで表面処理を行なう表面処理装置に利用される公知の電源が、各種、利用可能である。電源40としては、単一周波数の正弦波の電力を発振する電源が好ましく、また、周波数が1kHz以上の電源が好ましく、さらに好ましくは、10kHz以上、特に好ましくは、100kHz以上である。
【0036】
電源40は、マッチング回路42を介して、電極対34(グランド電極38および高電圧電極36)に接続される。なお、表面処理装置10においては、電源40とマッチング回路42とを有する電源回路は、グランド電極38側のマッチング回路42と電源40との間で、接地されている。
マッチング回路42は、電極対34から電源40に戻る電力の反射を減少させるために、電源40と電極対34とのインピーダンス整合を取るものである。
【0037】
図示例において、マッチング回路42は、電極対34と直列に接続されるマッチングコイル44と、電極対34と並列に接続されるコンデンサ(インピーダンス)46と、マッチングコイル44と共に、電極対34を挟むように直列に接続される、パルス制御素子としてのチョークコイル48とを有して構成される。
【0038】
大気圧プラズマでは、プラズマを発生させるために、電極対34間の距離を短くし、電極対34間に大きな大きな出力のプラズマ生成用電力を投入する必要がある。そのため、電極対34間でアーク放電などの異常放電が発生しやすくなり、異常放電により基板Zが損傷してしまうおそれがある。
これに対して、マッチング回路42によって、電極対34の間で発生させる大気圧プラズマの放電を安定化させることにより、基板Zが損傷することを防止できる。
【0039】
また、生産性向上のため、大気圧プラズマ処理の出力(放電強度、電力密度)を上げると、電極対34間でのプラズマの生成が不安定になり、アーク放電が発生しやすくなるが、マッチング回路42によって、電極対34間で発生させる大気圧プラズマの放電を安定化させることにより、安定して、グロー放電を発生させることができる。これにより、異常放電によって基板Zが損傷することを防止でき、高い生産性で高品質な表面処理を行なうことができる。
【0040】
ここで、大気圧プラズマ処理の出力として、放電強度は、3kJ/m以上、200kJ/m以下が好ましく、100kJ/m以下がより好ましい。また、電力密度は、40kV/cm以上、100kV/cm以下が好ましい。
大気圧プラズマ処理の出力をこの範囲とすることにより、より好適に、基板Zが損傷することを防止しつつ、高い生産性で高品質な表面処理を行なうことができる。
なお、電極における電圧の印加面積(/m)は、放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0041】
本発明において、パルス制御素子は、電極対34にプラズマを励起するための電圧を印加した際に、その半周期中に少なくとも1つのパルス電圧を生成して、電極対34の間に変位電流パルスを生じさせることにより、異常放電を抑制して、プラズマを安定させるものである。
パルス制御素子としては、具体的には、図2に示すような、マッチング回路42に組み込まれたチョークコイル48が好適に例示される。
【0042】
このようなパルス制御素子(パルス制御素子を組み込んだマッチング回路、および、電源とマッチング回路とを有する電源回路)に関しては、特表2007−520878号公報および特表2009−506496号公報に詳述されている。本発明の製造方法は、両公報に記載されるパスル制御素子および電源回路が、全て利用可能である。
また、本発明の製造方法においては、マッチング回路は、図示例や上記公報に記載される構成以外にも、公知のマッチング回路が、各種、利用可能である。
【0043】
また、プラズマ処理部18は、2つの平行平板を電極対34として用い、この電極対34間に基板Zを搬送しつつ、表面処理を行なうものであったが、本発明は、これに限定はされず、ドラムと平板とを電極対とし、ドラムの周面に巻き掛けつつ、表面処理を行なうものであっても良い。
【0044】
プラズマ処理部18において、表面処理された基板Zは、ガイドローラ32a、32bに案内されて、塗布部22に搬送される。
塗布部22は、表面処理された基板Zの表面に、塗布により易接着層を形成する部位である。
塗布部22は、塗布手段50(50aおよび50b)と、乾燥手段52と、ガイドローラ54とを有する。
【0045】
塗布手段50aは、搬送された基板Zの一方の面に、易接着層の塗料を塗布するものであり、長手方向を基板Zの搬送方向と垂直にして、基板Zに平行に配置されている。
塗布手段50aは、基板Zの表面に、易接着層の塗料を塗布するものである。塗布手段50aとしては、バーコート、ロールコート、ドクターナイフ等、種々の公知の塗布手段を用いることができる。図示例においては、塗布手段50aは、バーコートによって塗料を層状に塗布するものである。
この点に関しては、塗布手段50bも同様である。
【0046】
ガイドローラ54は、塗布手段50aの下流側で、塗布手段50aが塗料を塗布した面とは反対側の面に接触して、基板Zを所定の経路で搬送するものである。
塗布手段50bは、ガイドローラ54の下流側で、塗布手段50aが塗料を塗布した面とは反対側の面に、塗料を塗布するものであり、長手方向を基板Zの搬送方向と垂直にして、基板Zに平行に配置されている。
【0047】
乾燥手段52は、塗布手段50bの下流側で、塗布手段50aおよび50bにより、基板Zの両面に塗布された易接着層の塗料を乾燥させるためのものである。
乾燥手段52としては、加熱による乾燥手段等、種々の公知の乾燥手段を用いることができる。
【0048】
塗布手段50が塗布する易接着層の材料としては、親水性高分子化合物が好ましく用いられる。親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール誘導体(例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等)、天然高分子化合物(例えば、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム等)、親水性ポリエステル誘導体(例えば、部分的にスルホン化されたポリエチレンテレフタレート等)、親水性ポリビニル誘導体(例えば、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルインダゾール、ポリビニルピラゾール等)等が挙げられ、単独あるいは2種以上併用して用いられる。
【0049】
ここで、塗布部22によって、基板Zに形成される易接着層は、他の機材と貼合した際に、密着性を良くするためのものである。密着性を良くするためには、層の表面を粗面化するのが効果的である。そのため、易接着層には、1.0μm以下の微粒子が添加されていることが好ましい。
【0050】
易接着層に添加される微粒子としては、無機、有機の微粒子が使用できる。無機微粒子としては酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウム等が挙げられる。
また、有機微粒子としては、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、更にポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ弗化エチレン系樹脂等が使用できる。
これらの微粒子としては、好ましくはシリカなどの酸化珪素、例えば富士シリシア化学(株)製のサイリシアや日本シリカ(株)製のNipsil Eなどがある。
【0051】
塗布部22において、易接着層を形成された基板Zは、巻取り軸30に搬送され、巻取り軸30によってロール状に巻回され機能性フィルムロールとして、次の工程に供される。
【0052】
以下、表面処理装置10の作用を説明する。
前述のように、回転軸12に基板ロール14が装填されると、基板ロール14から基板Zが引き出されて、熱処理手段16、プラズマ処理部18、ガイドローラ32、および、塗布部22を経て、巻取り軸30に至る所定の搬送経路を挿通される。
【0053】
基板Zが挿通されたら、基板Zの搬送を開始し、熱処理手段16を駆動して、基板Zの熱処理を開始する。また、プラズマ処理部18においては、電極対34間にプラズマガスGを供給し、電源40を駆動して、基板Zの表面処理を開始する。さらに、塗布部22においては、基板Zへの易接着層の形成を開始する。
【0054】
ここで、前述のように、大気圧プラズマ処理による表面処理の前に、基板Zをガラス転移温度Tg以上に加熱して、基板Zの内部オリゴマーを泣き出しさせているので、プラズマ処理部18での表面処理により、元々、基板Zの表面に存在するオリゴマーのみならず、基板Zの表面に泣き出しした内部オリゴマーも分解することができる。これにより、表面処理から時間が経過しても、基板Zの表面に内部オリゴマーが泣き出してくることを抑制することができ、基板Zと易接着層(機能膜)との密着性が、時間経過と共に低下してしまうことを防止できる。
【0055】
図1に示す表面処理装置10においては、基板Zの両面をTg超に熱処理して、表面処理を行なうものであったが、本発明は、これに限定はされず、基板Zの1方の面をTg超に熱処理して、表面処理を行なうものであってもよい。
【0056】
また、表面処理装置10においては、プラズマ処理部18の下流には、塗布部22が配置されているが、本発明は、これに限定はされず、他の機能を有する部位が配置されてもよく、例えば、プラズマ処理部と塗布部との間に、基板Zを冷却する冷却手段を有してもよい。
基板Zは、熱処理手段によって、Tg超の温度に加熱されており、軟化しているので、搬送時の張力により、延伸して変形するおそれがある。そのため、プラズマ処理後の基板Zを冷却し、基板ZをTg以下の温度とすることにより、搬送時の張力により、延伸することを防止することができ、フィルムの形状変化を抑制できる。
【0057】
冷却手段としては、冷風を吹付ける冷却手段や、接触式の冷却ロール等の種々の公知の冷却手段を用いることができる。
【0058】
また、表面処理装置10においては、プラズマ処理部18の下流には、易接着層を形成するための塗布部22が配置されるのみであるが、本発明は、これに限定はされず、他の機能膜を形成するための部位、例えば、基板Z表面にハードコート層を形成するための部位が配置されていてもよい。
例えば、ハードコート層を形成する部位として、ハードコート層の材料を基板Zに塗布する塗布手段と、塗布した材料を乾燥させる乾燥手段と、紫外線を照射して、乾燥させた膜を硬化させる紫外線照射手段とを有していてもよい。
【0059】
また、表面処理装置10においては、塗布により、機能膜(易接着層)を形成する構成としたが、本発明は、これに限定はされず、スパッタリング、プラズマCVD等の真空成膜法により、機能膜を形成してもよい。また、これらの機能膜形成手段を複数有していてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0061】
[実施例1]
図1に示す表面処理装置10を用いて、基板Zの表面処理、および、機能膜の形成を行なった。
【0062】
基板Zは、幅1200mm、厚さ150μmのPETフィルム(富士フイルム社製 FQ150)を用いた。この基板Zのガラス転移温度は、80℃である。
なお、処理を行なう基板Zの長さは、3500mとした。
【0063】
(熱処理)
熱処理手段として、熱風吹付け装置(竹綱製作所製 TSK−81B)を用いた。熱風の温度は、85℃とし、搬送速度10m/minで、1mの間、すなわち、6秒間、基板Zに熱風を吹付けた。
【0064】
(表面処理)
大気圧プラズマ処理による表面処理には、プラズマガスGとして、窒素ガスに酸素ガスを1%混合したガスを用いた。また、電極対34の、基板Zの搬送方向の長さは1300mmとし、搬送速度は、10m/minとした。
また、大気圧プラズマ処理に用いる電源の周波数は、150kHzとし、電力密度は40kV/cm、放電強度は、4kJ/mとした。
また、マッチング回路42のマッチングコイル44として、2mHのコイルを用い、コンデンサ46として、30pFのコンデンサを用い、チョークコイルとして、1mHのチョークコイルを用いた。
【0065】
(易接着層)
塗布部22において、蒸留水(95%)と、ポリエステル樹脂(4%)と、架橋剤 日本触媒社製 エラストロン H−3(1%)とを混合した塗料を塗布バーにより塗布し、次いで、180℃に設定された乾燥手段で乾燥した。形成した易接着層の膜厚は、0.4μmである。
【0066】
ここで、本実施例では、易接着層を形成した基板Zに、さらに、ハードコート層を形成した。
すなわち、本実施例においては、機能膜として易接着層を塗布する塗布部22に加えて、ハードコート層を塗布する第2塗布部を、塗布部22の乾燥手段52の下流に設け、易接着層の上層にハードコート層を形成した。
ここで、第2塗布部は、ハードコート層の塗料を塗布手段により塗布し、乾燥手段により乾燥した後、紫外線を照射して、膜を硬化させて、ハードコート層を形成するものである。
【0067】
(ハードコート層)
第2塗布部において、光硬化性樹脂(日本化薬社製 DPCA20)(50wt%)と、メチルエチルケトン(49wt%)と、光重合開始剤(チバガイギー社製 イルガキュア)(1wt%)とを混合した塗料を塗布バーにより塗布し、次いで、80℃に設定された乾燥手段で乾燥した後、1200mJ/cmで紫外線を照射して膜厚5μmのハードコート層を形成し、機能性フィルムを作製した。
【0068】
[実施例2、3]
熱処理の温度を100℃とした以外(実施例2);
熱処理の温度を120℃とした以外(実施例3); は全て、前記実施例1と同様にして、表面処理装置にて処理を行ない、易接着層を形成した後、ハードコート層を形成して機能性フィルムを作製した。
【0069】
[比較例1、2]
熱処理の温度を70℃とした以外(比較例1);
熱処理を行なわなかった(基板の温度は25℃)以外(比較例2); は全て、実施例1と同様にして、表面処理装置にて処理を行ない、易接着層を形成した後、ハードコート層を形成して機能性フィルムを作製した。
【0070】
作製した各機能性フィルムについて、以下の密着性評価試験を行なった。
(密着性評価)
処理後の基板Z、すなわち、機能性フィルムの表面に、両面粘着テープ(日東電工社製 No.502)の片面を貼り付けて、50mm×300mmにカットし、両面テープを剥離して、基板Zと易接着層との密着性を測定した。両面テープの剥離には、インストロン型引張試験機を使用し、引張速度300mm/min、剥離角度180°で剥離を行なった。また、測定は、処理直後と、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下に1時間放置した後とで、それぞれ行なった。
基板Zと易接着層との剥離が、全くないものを「○」、剥離した部分の面積が1/2以上のものを「×」、ほぼ全面で剥離しているものを「××」とした。
評価結果を、下記表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1に示されるように、大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう前に、基板Zをガラス転移温度Tg超に加熱するという本発明の実施例は、いずれも、処理後1時間放置した後であっても、表面処理後に形成した易接着層と基板Zとの剥離が無く、易接着層と基板Zとの密着性を向上させることができた。
【0073】
これに対して、表面処理前に基板Zをガラス転移温度Tg以下に加熱した比較例1、および、表面処理前に加熱処理を行なわなかった比較例2は、いずれも、処理後1時間放置した後では、易接着層と基板Zとの間の剥離が起きた。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【符号の説明】
【0074】
10 表面処理装置
12 回転軸
14 基板ロール
16 熱処理手段
18 プラズマ処理部
22 塗布部
30 巻取り軸
32、54 ガイドローラ
34 電極対
36 高電圧電極
38 グランド電極
40 電源
42 マッチング回路
44 マッチングコイル
46 コンデンサ
48 チョークコイル
50 塗布手段
52 乾燥手段
Z 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺なポリエステル基板を長手方向に搬送しつつ、前記基板に、大気圧プラズマ処理を行なう表面処理方法において、
前記基板に大気圧プラズマ処理による表面処理を行なう大気圧プラズマ工程と、
前記大気圧プラズマ工程の前に、前記基板の少なくとも1方の面の表面温度をガラス転移温度Tg超に加熱する加熱工程とを有することを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記大気圧プラズマ工程の処理強度が3kJ/m以上、電力密度が40kV/cm以上である請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記大気圧プラズマ工程において、電極対と電源との間に、インピーダンス整合回路とパルス制御素子とを配置して大気圧プラズマ処理を行なう請求項1または2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記パルス制御素子は、前記電源が電極間に電圧を印加した際に、その半周期中に、少なくとも1つの電圧パルスを生成し、この電圧パルスの生成によって、電極間に変位電流パルスを生じさせるものである請求項3に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記パルス制御素子が少なくとも1つのチョークコイルを含む請求項3または4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記加熱工程における前記基板の加熱時間が0.5〜300秒である請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、前記基板の表面温度をTg+0℃〜Tg+40℃に加熱する請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記加熱工程における前記基板の加熱方法が、加熱乾燥風の吹付けである請求項1〜7のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記加熱工程における前記基板の加熱方法が、接触式の加熱ロールまたは非接触式のヒーターによるものである請求項1〜7のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記大気圧プラズマ工程の後に、前記基板の冷却工程を有する請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項11】
前記冷却工程における前記基板の冷却方法が、冷風の吹付けである請求項10に記載の表面処理方法。
【請求項12】
前記冷却工程における前記基板の冷却方法が、接触式の冷却ロールによるものである請求項10に記載の表面処理方法。
【請求項13】
前記大気圧プラズマ工程の後に、前記基板上に易接着層を形成するための塗布工程を有する請求項1〜12のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項14】
前記大気圧プラズマ工程において、プラズマ処理用のガスが、窒素ガスを含む請求項1〜13のいずれかに記載の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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